• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 一部無効 2項進歩性 無効とする。(申立て全部成立) A23L
管理番号 1133237
審判番号 無効2003-35247  
総通号数 77 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1996-06-04 
種別 無効の審決 
審判請求日 2003-06-16 
確定日 2006-04-04 
事件の表示 上記当事者間の特許第2662538号「生海苔の異物分離除去装置」の特許無効審判事件についてされた平成16年 4月 6日付け審決に対し、東京高等裁判所において審決取消の判決(平成16年(行ケ)第0214号平成17年 2月28日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 特許第2662538号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯・本件発明
本件特許第2662538号に係る出願は、平成6年11月24日に出願され、平成9年6月20日にその発明について特許の設定登録がなされ(請求項の数は4である。)、その後、平成15年6月16日に、本件特許を請求項1に関して無効にすることについての審判が請求されたものである。
請求人により無効が請求された本件特許の請求項1に係る発明は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものと認める。
「【請求項1】 筒状混合液タンクの底部周端縁に環状枠板部の外周縁を連設し、この環状枠板部の内周縁内に第一回転板を略面一の状態で僅かなクリアランスを介して内嵌めし、この第一回転板を軸心を中心として適宜駆動手段によって回転可能とするとともに前記タンクの底隅部に異物排出口を設けたことを特徴とする生海苔の異物分離除去装置。」(以下、「本件発明」という。)

2.請求人の主張
これに対して、請求人は、証拠方法として以下のものを提出し、本件発明は、本件出願前に頒布された刊行物である甲第3号証に記載された発明と同一であるか、これに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、したがって、本件発明に係る特許は、特許法第29条第1項第3号又は同条第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第123条第1項第2号の規定により、無効とすべきであると主張している。

甲第1号証 :特許第2662538号公報(本件特許公報)
甲第2号証 :特開平6-121660号公報(本件特許公報中に記載された従来技術)
甲第3号証 :特開昭51-82458号公報
甲第4号証 :能登谷正浩著「ベルソーブックス012 海苔という生き物」成山堂書店
甲第5号証 :日刊工業社「マグローヒル科学技術用語大辞典」1123ページ
甲第6号証 :遠藤順一著「紙」(http://www02.so-net.ne.jp/~ueno/endo/99_03_JE.html)
甲第7号証 :特開平3-183459号公報
甲第8号証 :特開平5-41965号公報
甲第9号証 :特開平8-51963号公報
甲第10号証 :特開平8-112081号公報
甲第11号証 :国際特許分類表(A23L1/337 103)
甲第12号証 :国際特許分類表(B01D35/02)
甲第13号証 :無効2001-35017号審決
甲第14号証 :特許第2617861号公報
甲第15号証 :特開昭58-6215号公報
甲第16号証 :無効2001-35017号審判事件における平成13年7月16日付け無効理由通知書
甲第17号証 :平成2年審判第14730号審決
甲第18号証 :平成9年審判第15947号審決

3.甲第3号証の記載事項
請求人が提出した甲第3号証には、以下の事項が記載されている。

(A)「(1)密接したほぼ円形の間隙又は同心円状に配置されたいくつかの間隙によって特に高濃度の繊維物質から望ましくない不純物を分離する方法において、スクリーンへの注入物が各スクリーン間隙に到着した瞬間に流れ中に取り付けられた静止部材又は可動部材によって適度の強さ及び構造の攪乱が与えられて、みぞの中を通過する繊維に高度の流動性が付与されることを特徴とする方法。(2)特許請求の範囲第(1)項に記載の方法に従って、粒子濃度の高い材料から望ましくない不純物を分離する篩い分け装置であって、供給入口に続く少なくとも一つの円形スクリーン間隙を有し、前記の少なくとも一つの間隙が2つの回転壁部によって形成され、前記壁部が回転時に相互に位置を変え、篩い分けを行うべき材料のための第一室の中間部にスクリーン間隙が設けられ、入口部は前記第一室に向けられており、第一室はスクリーン間隙が受容しない物質を受け取ってこれを廃棄物出口から排出し、前記スクリーン間隙の後方に位置し前記間隙を通り抜けた物質を受け入れて合格品出口を介して取り出すよう構成した第二室を有することを特徴とする装置。」(特許請求の範囲第1、2項)
(B)「(6)第一室の側部が円形周縁部を有し、この延伸部によって間隙の一方境界部分が形成されていることを特徴とする前記特許請求の範囲の何れかに記載の篩い分け装置。(7)前記側部の延伸部と回転環状部材全体又はその一部を構成する側部によって間隙が形成されることを特徴とする特許請求の範囲第(6)項に記載の篩い分け装置」(特許請求の範囲第6、7項)
(C)「本発明はパルプ等の繊維懸濁液のような異なる物質を連続的に篩い分けることができる装置に関する。この種の篩い分けを行う目的は、例えば懸濁液を連続的に処理するに好適な粒径より大きな粒径の粒子の如き夾雑物を懸濁液から分離することである。」(2頁右下欄2〜7行)
(D)「例えば製紙技術において篩い分けを行うために通常用いられている方法は、篩い分けプレートや篩い分けシリンダー等の形のスクリーンを用いる方法である。用いる懸濁液の濃度が高すぎる場合には、異なる大きさの障害物に遭遇した後においてはこれらのスクリーンは容易に完全な目詰まりを起こす性質がある。そうなった後においては、最早篩い分け機能を発揮しない。」(2頁右下欄11〜18行)
(E)「上記の公知の装置は、単に懸濁液よりも重い粒子又は夾雑物を遠心分離するものに過ぎず、篩い分けを行う機能はない。更に、スウェーデン特許第343,093号明細書は、中間部に篩い分け間隙を有する同心円リングから成る篩い分け装置を開示している。回転リングと静止リングとが交互に配設されている。斯くして、篩い分け間隙を画定する面が相対的に動くことになり、従って篩い分け間隙が詰まる危険性が減少する。然し乍ら、先行技術による篩い分け装置の欠点を取り除くよう設計されたこの装置の場合、回転リングは相互に固定連結されているから格間隙毎に回転速度を設定することが困難であり、従って好ましくない篩い分け状態になる。本発明の目的は、混濁液の篩い分けを行なって所定粒径の粒子の分離を行なうことができる装置及び方法を提供することである。」(3頁左上欄8行〜右上欄4行)
(F)「本発明による篩い分け装置は、直接に作用する唯一つの篩い分け手段即ち篩い分け間隙を有する。この間隙は繊維フロックの形成による目詰まりを起こさない。高濃度の繊維懸濁液中では、繊維は大きさと密度の異なった凝集性のフロックを形成する。このような懸濁液に攪乱エネルギーを与えると攪乱の強さ及び拡がりに応じて繊維フロックは崩壊し、或る速度に達すると再びフロック化する。より大きな攪乱エネルギーを与えると、崩壊と再形成サイクルの速度が増し且つフロックの寸法は小さくなる。この現象はパルプの流動化と呼ばれ、動的状態が形成され、攪乱エネルギーを絶えず供給することにより保持されるものである。攪乱エネルギーの供給を中断すると流動度は速やかに低下し、繊維濃度が高ければ高いほど流動度の低下は著しい。入り口から間隙にゆくに従って、篩い分け装置に供給される懸濁液は漸次流動化される。攪乱を生じさせるスクリーン・ディスク上の翼によって、流動化が最も必要な実際の篩い分け領域の直前で最も大きな流動化効果が得られる。粒子が流動化されるから、通常は強い相互作用を及ぼし合う懸濁液中の粒子が相互に無関係に受け入れられるか或いは受け入れを拒絶される。従って、この篩い分け装置は、ほぼ円形の干渉間隔又は同心円状に配列した数カ所の間隙を利用することにより、スクリーンに流入する懸濁液が各スクリーン間隙に達した瞬間に高度に流動化されて繊維が間隙を通過できる程度にまで流動化させ、特に繊維濃度が高い物質から好ましくない不純物を分離するために用いることができる。静止部材又は可動によって流体中に適当な強度及び形状を持つ攪乱を供給することにより流動化を起こすことができる。」(3頁右上欄7行〜右下欄1行)
(G)「第1図において、参照符号1及び2は夫々、適宜な方法によって相互に結合され、図示した配置におかれているハウジング部分である。ハウジング部分1の上部には入口3が設けられ、本明細書において注入物と呼ぶ篩い分けを施されるべき物資は上記の入口3を介して供給される。上記のハウジング1には更に、入口3と連通している円形室4が設けられている。室4の下部は、篩い分け間隙a、b及びcを形成する部材5、6、7及び8によって画定されている(第1図参照)。部材5は基本的には軸9上に置いたディスクである。このディスク状部材5の周りには環状部材6、7及び8が同心円状に配置されており、これらの部材はアーム10、11及び12を介して互いに独立に軸9上に支持されている。この軸並びに各環状部材6、7及び8の軸受けスリーブには、例えば第1図及び第2図の場合にはモータに連結されたベルト・プーリーの形で示す或る種の駆動手段を設ける。室4は出口13を有し、この出口を介してスクリーンを通過しなかった物質即ち本明細書においては廃棄物と呼ぶ物質が排出又は廃棄される。本明細書中には記載しないけれども、入口を通る供給及び出口を介する廃棄物排出を適宜に行なう。ハウジング部分2は部材5、6、7及び8とともに第2の室15を形成し、この室には出口14が設けられており、この出口14を介してスクリーンを通過した本明細書中で合格品と呼ぶ物質が排出又は廃棄される。第1図に示すように、外側部材8は室4の周縁境界部分ともなっている。従って、この部材8は適当な部材(図示せず)によってハウジング部分1及び2を密閉している。」(3頁右下欄19行〜4頁右上欄11行)
(H)「第2図に、本発明のもう一つの実施例を示す。この篩い分け装置は、上述の実施例と同様に、端部にベルト・プーリーを設けた軸9上に固定された中央ディスク型部材を有する。環状部材16がアーム17を介して軸9の上方延伸部及びディスク5に固着されている。環状部材18がアーム19を介して軸9の周りに回転自在に支持された軸受部材20に連結されている。ハウジング部分20の外方に延伸している前記軸受部材20の端部にはベルト・プーリーが配設されている。従って、ディスク6と環状部材16との中間及び各環状部材16及び18の中間には篩い分け間隔が形成される。第3図にも示す如く、この実施例の場合には入口3は室4の接線方向に位置している。第3図は、第二の実施例の場合のアーム17がどのように延伸しているのかを説明する図である。勿論、この実施例の場合にも、最も外側の環状部材は室の周壁の一部になっており、第1図の場合と同様に回転自在な部材にしてアーム19に連結することもできる。」(4頁右上欄12行〜左下欄11行)
(I)「次に、上記の実施例に例示した篩い分け装置の機能について簡単に説明する。注入方法についての詳細な説明は省略するが、注入物は入口3を介して篩い分け装置内に供給される。回転部材5乃至8又は回転部材5、16及び18によって、環流されつつある注入物は室4の周縁部から回転部材と共に室4の他の部分に進む。スクリーンの間隙よりも寸法が小さな粒子は間隙を通り抜けて第二の室15に入る。連続的に環流を続けると、間隙を通り抜けることができない大きな粒子は第一の室4に集められて、廃棄物として出口13から排出される。密度の高い粒子も遠心作用によって同様に室4内で凝縮されて、廃棄物出口13から排出される。間隙を通って室15に流入した物質は慣性力によって回転運動を続けながら合格品として出口14から流出する。…例えば懸濁液が高濃度の繊維パルプである場合に、篩い分けを行うべきこの懸濁液は回転部材から供給されるエネルギー及び回転部材に取り付けられたアームによって篩い分け時に流動化する。勿論、これらのアームはシャベル、翼等の形状にすることができ、或いは個々の回転部材に別の翼を取り付けることもできる。」(4頁左下欄末行〜5頁左上欄4行) (J)「懸濁液中の粒子と繊維間で起こる相互作用及びフロック化が減少する機構になっているから、機械的又はその他の相互作用に及ぼす粒子を高濃度で含有する懸濁液の場合においても粒子は1個ずつ通過を許されるか或いは拒絶されることになる。容易に理解できるように,粒子間の相互作用がない場合にも本発明によるスクリーンを用いることができ,その場合には公知のスクリーン・プレートの場合には例えば孔の間又はスロット間の架橋に起因して起こる実効篩い分け手段(即ち間隙)が詰まる危険性を取り除くことができるとともに,最適流動化を保持し篩い分け効率を高めることができる。第一回目の試行によって実効間隙を通過できなかった粒子は幾つかの間隙の上を通り越して,最終的に拒絶されて廃棄物出口13に移動するまでに何回かの試行を繰り返すことになる。この繰り返し試行は,回転部材によって懸濁液中に惹き起こされる攪乱によるものである。これを考え合わせ,廃棄物流が小ないことをも考えると,本来通過すべき粒子が拒絶されてしまう可能性が 極めて小さいという利益がある。スクリーンの実効間隙は任意に設定することができ、この間隙の幅以上の寸法の粒子の通過を妨げる手段が画定されるから、全く自由に任意の寸法の粒子を除去することができる。」(5頁左上欄14行〜5頁右上欄18行)
(K)「第14図に示す実施例は、ハウジング部分201を注入物入口と組み合わせたものである。リング形状のスクリーン・ディスク202が、第二のハウジング部分203上に付設されている。両ハウジング部分の中間に回転ディスク204が取り付けられている。ディスクは、軸206上に支持されたシリンダー205内に固定されている。」(8頁左上欄1行〜右上欄1行)
(L)最初の「スクリーンの一実施例の軸方向断面図」(第1図)、上記(H)の「第二の実施例の軸方向断面図」(第2図)、その「III-III線に沿って切断した断面図」(第3図)、「スクリーンの一部断面図及びその他の形状の実施例」(第4〜6図)、「本発明の一実施例全体の鉛直断面図」(第8図)、「更に別の実施例の断面図」(第14図)。

4.一致点及び相違点
まず、本件発明と甲第3号証に記載された発明(以下「引用発明」という。)とを比較すると、後者の「円形周縁部」、「ディスク5、環状部材16、18からなる回転部材」、「スクリーン(篩い分け)間隙」、「廃棄物出口13」、「廃棄物(夾雑物)」及び「篩い分け装置」は、各々、前者の「環状枠板部」、「第一回転板」、「クリアランス」、「異物排出口」、「異物」及び「分離除去装置」に相当すると認められる。
また、後者の「室4(ハウジング部分1)」及び「パルプ等の繊維混濁液のような異なる物質」と、前者の「混合液タンク」及び「生海苔の混合液」とは、いずれも、各々「本体」及び「混合液」に相当すると認められる。
したがって、本件発明と引用発明とは、本体の底部周端縁に環状枠板部を設け、この環状枠板部の内周縁内に第一回転板を略面一の状態で僅かなクリアランスを介して内嵌めし、この第一回転板を軸心を中心として適宜駆動手段によって回転可能とするとともに前記本体に異物排出口を設けたことを特徴とする混合液の異物分離除去装置である点で一致するが、以下の(a)及び(b)の点で一応相違している。
(a)本体が、前者では、筒状混合液タンクであり、異物排出口がその底隅部に設けられているのに対し、後者では、室(ハウジング)であり、異物排出口はその側部に設けられている点
(b)異物分離除去の対象となる混合液が、前者では「生海苔の混合液」であるのに対し、後者では「パルプ等の繊維懸濁液のような異なる物質」である点

5.当審の判断
請求人は、本件発明が、引用発明と同一であるか、又はそれに基づいて当業者が容易に発明することができたものであると主張している(審判請求書16頁18行〜21頁24行)。そこで、上記4.の相違点について検討する。

(1)相違点(a)について
請求人は、引用発明について、ハウジング部分1で形成される室4は、本件発明の筒状混合液タンクに相当すると主張している(審判請求書11頁下から9行〜12頁8行)。それに対して、被請求人は、引用発明には「タンク」はないと主張し、そのハウジング部分(室)の空間は浅く、本件発明のように混合液を溜めて回転させることが十分にできるものではないと主張する(答弁書1頁右欄下から2行〜2頁左欄9行)。
そこでこの点について検討する。
一般に「タンク」とは、「液体や気体をたくわえておく容器。水槽、油槽(オイルタンク)、ガスタンクなど。」(「日本国語大辞典」第2版、小学館、2001.8.20の「タンク」の欄)や「液体や気体を貯蔵するための容器」(「世界科学大事典」講談社、昭52.3.20の「タンク」の欄)と解される。
そして、本件特許明細書には、「この発明に係る生海苔の異物分離除去装置は上記のように構成されているため、第一回転板を回転させると混合液に渦が形成されるため生海苔よりも比重の大きい異物は遠心力によって第一回転板と前記環状枠板部とのクリアランスよりも環状枠板部側、即ち、タンクの底隅部に集積する結果、生海苔のみが水とともに前記クリアランスを通過して下方に流れるものである。」(段落【0009】)という記載がある。
本件特許明細書の上記記載及び「タンク」についての一般的な意味からすれば、本件発明の「筒状混合液タンク」は、混合液を貯蔵するための筒状の容器であり、その中に混合液を充たせば、回転板の回転により生じる遠心力により、混合液中の異物が液中を外方へ移動して底隅部に集積し得ること(その程度の液位の液を保持し得るものであること)、及び、貯蔵し得る混合液の液位の上限ないし下限については特に規定されていないことに照らすと、それは、混合液を貯蔵し得る空間があるものであればよいものと認めることができる。
これに対し、甲第3号証の第1図、第2図、第4ないし第6図、第14図に図示された室4等及び第8図に図示された注入室104は、その図面自体からみて、液体を貯蔵することができる程度の深さをもった筒状のタンクであることは否定し得ないところである。
また、甲第3号証には、次のとおりの記載がある。
(i)「本発明による篩い分け装置は、直接に作用する唯一つの篩い分け手段即ち篩い分け間隙を有する。この間隙は繊維フロックの形成による目詰まりを起こさない。高濃度の繊維懸濁液中では、繊維は大きさと密度の異なった凝集性のフロックを形成する。このような懸濁液に攪乱エネルギーを与えると攪乱の強さ及び拡がりに応じて繊維フロックは崩壊し、或る速度に達すると再びフロック化する。」(3頁右上欄7〜15行)
(ii)「入口から間隙にゆくに従って、篩い分け装置に供給される懸濁液は漸次流動化される。攪乱を生じさせるスクリーン・ディスク上の翼によって、流動化が最も必要な実際の篩い分け領域の直前で最も大きな流動化効果が得られる。粒子が流動化されるから、通常は強い相互作用を及ぼし合う懸濁液中の粒子が相互に無関係に受け入れられるか或いは受け入れを拒絶される。従って、この篩い分け装置は、ほぼ円形の干渉間隙又は同心円状に配列した数個所の間隙を利用することにより、スクリーンに流入する懸濁液が各スクリーン間隙に達した瞬間に高度に流動化されて繊維が間隙を通過できる程度にまで流動化させ、特に繊維濃度が高い物質から好ましくない不純物を分離するために用いることができる。」(3頁左下欄4〜18行)
(iii)「室4は出口13を有し、この出口を介してスクリーンを通過しなかった物質即ち本明細書においては廃棄物と呼ぶ物質が排出又は廃棄される。」(4頁左上欄18〜20行)
(iv)「容易に理解できるように、粒子間の相互作用がない場合にも本発明によるスクリーンを用いることができ、その場合には公知のスクリーン・プレートの場合には例えば孔の間又はスロット間の架橋に起因して起こる実効篩い分け手段(即ち間隙)が詰まる危険性を取り除くことができるとともに、最適流動化を保持し篩い分け効率を高めることができる。第一回目の試行によって実効間隙を通過できなかった粒子は幾つかの間隙の上を通り越して、最終的に拒絶されて廃棄物出口13に移動するまでに何回かの試行を繰り返すことになる。この繰り返し試行は、回転部材によって懸濁液中に惹き起こされる攪乱によるものである。これを考え合わせ、廃棄物流が小ないことをも考えると、本来通過すべき粒子が拒絶されてしまう可能性が 極めて小さいという利益がある。」(5頁左上欄19行〜右上欄14行)
これらの記載によれば、引用発明は、粒子間の相互作用のある高濃度の繊維懸濁液と相互作用のない繊維懸濁液の2種類の懸濁液のいずれについても有効な異物分離装置であること、引用発明においては、第一回目の試行によって実効間隙を通過できなかった粒子は、回転部材によって懸濁液中に惹き起こされる撹乱により、幾つかの間隙の上を通り越して、最終的に拒絶されて廃棄物の出口13に移動するまでに何回かの試行を繰り返すこと、及び、このように、実効間隙を通過できなかった粒子は、最終的に出口13に移動するまでは、懸濁液中に惹き起こされる撹乱による影響を受けながら、室4内に存在し続けるものであり、その間、当該室内に懸濁液が実質的に貯留されていることが認められる。
以上からすれば、甲第3号証においては、引用発明の室4(注入室104)に投入される懸濁液については、深い液位のものを投入するとの明示的な記載はないものの、極めて浅い液位のものに限定されるとの明示的な記載もなく、むしろ室4内に投入される懸濁液は、その濃度や種類に応じて適宜の量が投入されるものであることが窺われるところである。
このことと、引用発明の室4は、上記のとおり、甲第3号証の図面自体から理解し得る構造として、液体を貯蔵することができる程度の深さをもった筒状の空間であることからすれば、本件発明の「混合液タンク」に相当することを否定すべき理由はないというべきである。
また、「異物排出口」が設けられる位置については、本件発明と引用発明のいずれにおいても、タンク外周部に「異物排出口」が配されているのであり(甲第3号証の第3図参照)、この点において実質的な差異があるものとはいえない。
したがって、(a)の点は、本件発明と引用発明との実質的な相違点とは認められない。

(2)相違点(b)について
請求人は、引用発明の「パルプ等の繊維混濁液のような異なる物質」と、本件発明の「生海苔混合液」とは、繊維懸濁液という点で同一であり、更に、異物分離除去という点で同じ技術分野に属し、その転用はきわめて容易であると主張している。(審判請求書第16頁16行〜21頁24行)。
それに対し、被請求人は、引用発明の対象物である「繊維」は線状であるが、本件発明の対象物である生海苔は平面的であり、隙間を通過する際に、生海苔の場合はそのままの形でも塞いでしまうが、「繊維」の場合はそれが絡み合うか否かが問題となるという点で相違し、技術内容が異なるから、「繊維」の場合の知見は、本件発明に達するのに参考にならないと主張する(答弁書2頁左欄10〜22行)。
そこでこの点について検討する。
引用発明は、混合液から異物を分離する装置であるという点で、本件発明の生海苔混合液から異物を分離する装置と共通性を有するものである。また、引用発明は、パルプ等の繊維懸濁液を対象とするものであるが、前記のとおり粒子間の相互作用のある高濃度の繊維懸濁液と相互作用のない繊維懸濁液の2種類の懸濁液のいずれについても有効な異物分離装置である。そして、海苔の異物分離装置における本件出願時の技術水準を示すものとして甲第2号証に示された技術があり、同号証においては、生海苔を細かく切断して、これを水と混合させて生海苔混合液とすることが従来から行われていること、及び、生海苔の厚みより僅かに大きい孔幅の多数の細長い分離孔21(スリット)を設け、生海苔混合液中の生海苔のみを同分離孔を通過させて、異物を分離する異物分離装置が開示されているのであって(甲第2号証の段落【0002】、【0004】、【0005】、図1、図4、図5及び図7参照)、生海苔混合液中の細かく切断された生海苔が狭いスリットを通過し得ることは、本件出願時において当業者に周知の技術事項であるということができる(甲第2号証のほかに、生海苔混合液がスリット(濾流部240)を通過し、ゴミを分離するとの技術を開示するものとして、特開平5-41965(甲第8号証)がある)。したがって、パルプ等の繊維懸濁液と生海苔混合液とは、請求人が主張するように、前者のパルプの繊維の形状は線状又は紐状であり、後者の生海苔の形状は平面的であるとしても、後者は、上記のとおり、細かく切断されて生海苔混合液となるものであり、いずれも狭いスリットを通過し得るという点でその懸濁液(混合液)の性状には共通性がみられるところである。
また、甲第3号証においては、「スクリーンの実効間隙は任意に設定することができ、この間隙の幅以上の寸法の粒子の通過を妨げる手段が画定されるから、全く自由に任意の寸法の粒子を除去することができる。」(甲第3号証5頁右上欄15〜18行)と記載されていることから明らかなように、引用発明を海苔の異物分離機として使用しようとすれば、生海苔に合わせて実効間隙を設定することになることは、当業者が容易に想到し得るところである。
以上からすれば、生海苔混合液の異物分離装置の当業者は、繊維懸濁液からスリットを利用して繊維を通過させ異物を分離する装置である引用発明を、生海苔混合液の異物分離装置に使用することを容易に想到し得るものであって、これを阻害する理由も見当たらない。

(3)総合的判断
以上のように、本件発明は、引用発明から容易に想到しうるものであるから、その効果は、引用発明から当業者であれば予測しうる程度のものにすぎない。
以上を総合すると、本件発明は、請求人の提出した甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.むすび
以上のとおりであるから、本件の請求項1に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-03-10 
結審通知日 2005-04-20 
審決日 2004-04-06 
出願番号 特願平6-315896
審決分類 P 1 122・ 121- Z (A23L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 河野 直樹  
特許庁審判長 鵜飼 健
特許庁審判官 佐伯 裕子
種村 慈樹
田中 久直
長井 啓子
登録日 1997-06-20 
登録番号 特許第2662538号(P2662538)
発明の名称 生海苔の異物分離除去装置  
代理人 竹中 一宣  
代理人 松本 直樹  
代理人 小南 明也  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ