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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1133467
審判番号 不服2003-18256  
総通号数 77 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1997-05-13 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-09-18 
確定日 2006-03-23 
事件の表示 平成 7年特許願第284775号「ライン型カラー記録装置における記録位置補正方法およびライン型カラー記録装置」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 5月13日出願公開、特開平 9-123482〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・本願発明の認定
本願は、平成7年11月1日の出願であって、平成15年8月8日付けで拒絶の査定がされたため、これを不服として同年9月18日付けで本件審判請求がされたものである。当審においてこれを審理した結果、平成17年11月25日付けで明細書に記載不備がある旨の拒絶理由を通知したところ、請求人は平成18年1月5日付けで意見書及び手続補正書を提出した。
したがって、本願の請求項2に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成18年1月5日付けで補正された明細書の特許請求の範囲【請求項2】に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。
「インクを吐出する多数の吐出口を有し複数の色に対応して設けられた複数のライン型記録ヘッドユニットを、該ライン型記録ヘッドユニットの長手方向が被記録媒体の搬送方向と交差する方向となるようかつ該ライン型記録ヘッドユニット各々を該被記録媒体の搬送方向に並べて配置したライン型カラー記録装置であって、複数の前記ライン型記録ヘッドユニット間の記録位置を補正する際に、1つの前記ライン型記録ヘッドユニット内において、記録を行うべき位置になるように前記吐出口の記録タイミングを複数の記録位置ずれデータに基づいて導かれた補正関数により記録位置のずれに応じて遅くする部分と早くする部分が存在するよう該吐出口による記録位置をそれぞれ補正できる記録位置補正手段を設けたライン型カラー記録装置。」

第2 当審の判断
1.引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された特開平4-193542号公報(以下「引用例」という。)には、以下のア〜クの記載が図示とともにある。なお、摘記に当たっては、改行及び一字空白を省略することがある。
ア.「記録媒体の記録域の全幅にわたって複数の吐出口を備えたフルラインタイプの記録ヘッドを有するインクジェット記録装置において、
前記記録ヘッドによる記録済の記録媒体上の画像を示すデータである記録データが与えられると、該記録データに基き前記記録ヘッドの反りの補正量を計算し、該補正量に応じて以後の前記記録ヘッドの吐出タイミングを制御する制御手段を備えたことを特徴とするインクジェット記録装置。」(1頁左下欄5〜14行)
イ.「複数のフルラインタイプの記録ヘッドを有し、制御手段が各記録ヘッド毎にそれぞれ吐出タイミングを制御するものである請求項1または2記載のインクジェット記録装置。」(1頁左下欄19行〜右下欄2行)
ウ.「記録ヘッドをマルチノズル化し、記録紙と同一幅に長尺化したフルラインタイプの長尺ヘッドとした場合、・・・記録ヘッドが長尺ヘッドであるために、記録ヘッドのベースとなるプレートが製造時に反りを生じ、また、記録ヘッド交換で本体にセットする際にも反りが発生してしまう。このため、出力画像が歪み、特にフルカラーのものでは色ずれなどが生じ、画像品位を低下させる原因になっていた。本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、長尺ヘッドの反りによる出力画像の歪や色ずれ等がないインクジェット記録装置を提供することを目的とする。」(2頁右下欄9行〜3頁竿右欄5行)
エ.「記録ヘッドが反っていると、該記録ヘッドによる記録済の記録媒体上の画像は前記記録ヘッドの反りに応じて歪む。制御手段は、記録データにより示される前記画像の歪に基き記録ヘッドの反りの補正量を計算し、該補正量に応じて以後の記録ヘッドの吐出タイミングを制御するもので、以後、記録ヘッドの反りにより生じる画像の歪みがなくなる。」(3頁右上欄11〜18行)
オ.「第1図に示す本実施例のインクジェット記録装置10は、フルマルチタイプの熱を利用して気泡を発生させ、インクを吐出させる記録ヘッドによって多色の記録が可能なものであり、イエロー、シアン、マゼンタ、ブラックの各色のインクにそれぞれ対応する4個の記録ヘッドlが、ヘッド取付枠2に一括して取り付けられ、後述する搬送ベルト3に対向するよう設けられている。」(3頁左下欄6〜13行)
カ.「記録媒体は、一対のレジストローラ4によって吸入されて搬送ベルト3上に載せられ、図示矢印F方向に搬送され、記録ヘッド1からのインク吐出によって記録され、ストッカ7上に排出されるようになっている。」(4頁左上欄13〜17行)
キ.「制御装置12は、数値化された記録データに基き、印字領域L内における各部位の理想位置までの補正量k,y,m,cをそれぞれ計算し、各補正量k,y,m,cを記憶する。以後の記録においては、前記制御装置12は、各補正量k,y,m,cによりそれぞれ記録位置を補正しながら各記録ヘッド1の吐出タイミングを制御して記録を行なう。」(4頁右下欄16行〜5頁左上欄3行)
ク.「本実施例では、画像読取装置を用いて画像パターンを読み取り、印字領域内の各部位について補正量を求めるようにしているが、最大補正量、すなわち実際の画像パターンが理想の画像パターンから最も離れた部位の補正量のみを記録データとしてまず求め、各記録ヘッドの反りは例えば円弧形状をしているものとみなして計算するようにしてもよい。」(5頁左上欄4〜11行)

2.引用例記載の発明の認定
引用例の記載オによれば、記載イの「複数のフルラインタイプの記録ヘッド」としては、吐出すべきインク色を異ならせたものが想定されており、その場合の「インクジェット記録装置」は「ライン型カラー記録装置」である。
したがって、記載ア〜キを含む引用例の全記載及び図示によれば、引用例には次のような「ライン型カラー記録装置」が記載されていると認めることができる。
「記録媒体の記録域の全幅にわたって複数の吐出口を備えた複数のフルラインタイプの記録ヘッドを有するライン型カラー記録装置において、
前記記録ヘッドによる記録済の記録媒体上の画像を示すデータである記録データが与えられると、該記録データに基き前記記録ヘッドの反りの補正量を計算し、該補正量に応じて以後の前記記録ヘッドの吐出タイミングを制御する制御手段を備えたライン型カラー記録装置。」(以下「引用発明」という。)

3.本願発明と引用発明との一致点及び相違点の認定
引用発明の「記録媒体の記録域の全幅にわたって複数の吐出口を備えた複数のフルラインタイプの記録ヘッド」が「複数の色に対応」することは明らかであるから、これは本願発明の「インクを吐出する多数の吐出口を有し複数の色に対応して設けられた複数のライン型記録ヘッドユニット」に相当する。
引用発明において、フルラインタイプの記録ヘッド(ライン型記録ヘッドユニット)と記録媒体搬送方向の配置関係が、「ライン型記録ヘッドユニットの長手方向が被記録媒体の搬送方向と交差する方向となるようかつ該ライン型記録ヘッドユニット各々を該被記録媒体の搬送方向に並べて配置した」に該当することは自明である(記載カ並びに第1図及び第4図参照。)。
引用例の記載キによれば、引用発明の「反りの補正量」は「記録データ」に基づいて計算された「各部位の理想位置までの補正量」であり、理想位置とは本願発明の「記録を行うべき位置」にほかならない。また、引用発明の「記録データ」は1つの「フルラインタイプの記録ヘッド」につき複数ある。したがって、引用発明には「記録位置補正手段」が備わっており、「複数の前記ライン型記録ヘッドユニット間の記録位置を補正する際に、1つの前記ライン型記録ヘッドユニット内において、記録を行うべき位置になるように前記吐出口の記録タイミングを複数の記録位置ずれデータに応じて、該吐出口による記録位置を補正できる」点で、本願発明と引用発明の「記録位置補正手段」は一致する。
したがって、本願発明と引用発明とは、
「インクを吐出する多数の吐出口を有し複数の色に対応して設けられた複数のライン型記録ヘッドユニットを、該ライン型記録ヘッドユニットの長手方向が被記録媒体の搬送方向と交差する方向となるようかつ該ライン型記録ヘッドユニット各々を該被記録媒体の搬送方向に並べて配置したライン型カラー記録装置であって、複数の前記ライン型記録ヘッドユニット間の記録位置を補正する際に、1つの前記ライン型記録ヘッドユニット内において、記録を行うべき位置になるように前記吐出口の記録タイミングを複数の記録位置ずれデータに基づいて、該吐出口による記録位置を補正できる記録位置補正手段を設けたライン型カラー記録装置。」である点で一致し、以下の各点で相違する。
〈相違点1〉記録タイミングを補正するに当たり、本願発明では「複数の記録位置ずれデータに基づいて導かれた補正関数により」行っているのに対し、引用発明ではそのようにしていない点。なお、「関数」とはある集合から別の集合(別の集合の要素は実数)への写像であり、引用発明においても、吐出口に番号を付せば、その番号からなる集合から補正量からなる別の集合への写像が定義されているといえるから、「補正関数」を用いた点では一致する。しかし、本願の補正関数は、「複数の記録位置ずれデータに基づいて導かれた」ものであり、数式で表されるものと解すべきであるから、その意味において相違するということである。
〈相違点2〉記録タイミングを補正するに当たり、本願発明では「記録位置のずれに応じて遅くする部分と早くする部分が存在するよう該吐出口による記録位置をそれぞれ補正できる」としているのに対し、引用発明ではその点明らかでない点。

4.相違点についての判断及び本願発明の進歩性の判断
以下、本審決では「発明を特定するための事項」という意味で「構成」との用語を用いることがある。
(1)相違点1について
引用例の記載クには、「各記録ヘッドの反りは例えば円弧形状をしているものとみなして計算する」と記載されており、これは円弧形状の数式を求めておき、その数式に基づいて吐出口毎の補正量を計算するということであるから、数式(補正関数)を用いること自体は、既に引用例に記載されている。もっとも、引用例の記載クには「最大補正量、すなわち実際の画像パターンが理想の画像パターンから最も離れた部位の補正量のみを記録データとしてまず求め」とあるから、円弧形状の数式は「複数の記録位置ずれデータに基づいて導かれた」ものではない。しかし、より正確な形状を得ようとすれば、「最大補正量」だけでなく、その他のデータも用いて、実際の「記録ヘッドの反り」により近い数式を得ることは設計事項というよりない。
そればかりか、原査定の拒絶の理由に引用された特開平3-2188842号公報に、「ヘッドが斜めに置かれた場合も同様」(3頁右上欄8行)、「記録ヘッドが斜めに置かれたり、ゆがんで置かれたりした場合でも、自動的にそのゆがみ分を補正し、ゆがみのない画像が出力される。」(4頁右上欄16〜19行)及び「製造時やヘッド交換時のヘッドのセット(ヘッドが斜めに置かれたり、湾曲したりした場合)」(5頁右上欄13〜15行)と記載されているように、ライン型記録ヘッドユニットは誤って斜めに配置されることもあり、その場合「最大補正量」だけでは、「各部位の理想位置までの補正量」を計算できる数式を得ることができないことは明白である。そうである以上、数式(補正関数)を「複数の記録位置ずれデータに基づいて導」くことも設計事項といわなければならない。
以上のとおり、相違点1に係る本願発明の構成を採用することは設計事項である。

(2)相違点2について
まず、本願発明の「それぞれ」の意味について検討する。この意味は構文上必ずしも明確ではないけれども、次の3つの解釈が可能であり、これ以外の解釈は考えられない。
第1解釈:「1つのライン型記録ヘッドユニット内のそれぞれの吐出口のそれぞれ」との意味である。
第2解釈:「複数のライン型記録ヘッドユニットのそれぞれ」との意味である。
第3解釈:「遅くする部分と早くする部分のそれぞれ」との意味である。

第1解釈又は第2解釈であるとすると、「それぞれ」との文言があることによって、本願発明と引用発明との相違点は生じない。第3解釈であるとすると、「遅くする部分」及び「早くする部分」が存すれば、当然そのそれぞれについて吐出口による記録位置を補正できるから、「遅くする部分」及び「早くする部分」が存するかどうかにつけ加えるべき相違点はない。そのため、「遅くする部分」及び「早くする部分」が存するように構成することの容易性について検討すれば十分である。
ところで、本願発明の「遅くする部分と早くする部分が存在するよう」との文言についても、「遅くする部分」と「早くする部分」が必ず存在しなければならないとの趣旨なのか、それとも補正関数によっては、両者のうち一方だけが存在することもあるが、両方が存在することを許容する趣旨なのか明確ではない。
「遅くする部分と早くする部分が存在するよう」との文言は、願書に最初に添付した明細書の特許請求の範囲には存在せず、平成15年7月22日付け手続補正により加入されたものであるが、その際出願人(請求人)は、補正の根拠につき「図4(d)から図4(e)に示す状態にするためには、図中の左端でライン41のデータを図中上方に、右端ではライン41のデータを図中下方にそれぞれずらす必要があり、これは記録タイミングを正規の位置に対して遅くする部分と早くする部分が存在するように記録ヘッドによる記録位置を補正できることを端的に表していると考えられます。従って願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内であると考えます。」(平成15年7月22日付け意見書1頁37〜42行)と述べている。なるほど、添付図面の【図4】(d)には、2つの記録位置21及び41が途中で交差する様子が図示されており、左端側及び右端側の一方を「遅くする部分」とするならば他方を「早くする部分」としなければならないことは理解できる。しかし、2つの記録位置21及び41が途中で交差するとは限らず、実際【図4】(b)には、記録位置41が記録位置21の上側に位置する様子が図示されており、このような場合には「遅くする部分」と「早くする部分」の一方だけが存在し、他方は存在しないようにしなければならない。そして、記録位置の関係が【図4】(b)のようになるのか、【図4】(d)のようになるのかについては、予め判明していることではないから、「補正関数により記録位置のずれに応じて遅くする部分と早くする部分が存在するよう該吐出口による記録位置をそれぞれ補正できる」とは、末尾に「補正できる」との文言があることに照らしても、「遅くする部分と早くする部分が存在する」ことを許容するとの趣旨、換言すれば「補正関数」が正の補正量と負の補正量を持つことを許容するとの趣旨に解さなければならない。
引用発明は、「長尺ヘッドの反りによる出力画像の歪や色ずれ等」(記載ウ)を防止するものであり、記録ヘッド(ライン型記録ヘッドユニット)の両端が理想位置に配置されておれば、引用例第4図に見られるように、理想位置に対して一方側に反るだけであり、「遅くする部分」と「早くする部分」の両方が存在することはないであろう。
しかし、(1)で述べたように、ライン型記録ヘッドユニットが斜めに配されることは十分想定されるものであり、斜めに配された場合少なくともその一端は理想位置とは異なる。一端が理想位置と異なるのであれば、両端が異なることも当然想定でき、両端が理想位置の反対側にずれて配置され、ライン型記録ヘッドユニットが理想位置と交差することが当然あり得る。仮に、一端だけは正確に理想位置に位置決めできるとしても、他端が理想位置とずれており、かつ反っているならば、ライン型記録ヘッドユニットが理想位置と交差することは十分想定できる。
ところで、引用発明では、すべての吐出口による記録位置を理想位置にするように補正しなければならないことはいうまでもない。そして、ライン型記録ヘッドユニットが理想位置と交差する場合には、交差点を境にして、その片側を「遅くする部分」と「早くする部分」の一方となるように記録タイミングを補正し、他側を「遅くする部分」と「早くする部分」の他方となるように記録タイミングを補正しなければならないことは当然である。そうである以上、引用発明において「遅くする部分と早くする部分が存在する」ことを許容すること、すなわち相違点2に係る本願発明の構成を採用することも設計事項というべきである。

(3)本願発明の進歩性の判断
相違点1,2に係る本願発明の構成を採用することはいずれも設計事項であり、これら構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。
したがって、本願発明は引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

第3 むすび
本願発明が特許を受けることができない以上、本願の請求項1に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-01-20 
結審通知日 2006-01-24 
審決日 2006-02-07 
出願番号 特願平7-284775
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 後藤 時男  
特許庁審判長 津田 俊明
特許庁審判官 藤本 義仁
番場 得造
発明の名称 ライン型カラー記録装置における記録位置補正方法およびライン型カラー記録装置  
代理人 永野 大介  
代理人 内藤 浩樹  
代理人 岩橋 文雄  

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