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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41J 審判 査定不服 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41J 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41J 審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41J 審判 査定不服 4項(5項) 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41J 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41J |
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管理番号 | 1133874 |
審判番号 | 不服2003-17185 |
総通号数 | 77 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1996-04-09 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2003-09-04 |
確定日 | 2006-03-30 |
事件の表示 | 平成 6年特許願第233108号「印刷方法及び画像印刷装置」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年 4月 9日出願公開、特開平 8- 90824〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は平成6年9月28日の出願であって、平成15年8月1日付けで拒絶の査定がされたため、これを不服として同年9月4日付けで本件審判請求がされるとともに、同年10月6日付けで明細書についての手続補正(以下「第2補正」という。)がされた。 当審においてこれを審理した結果、平成17年10月25日付けで第2補正を却下するとともに、同日付けで拒絶の理由を通知したところ、請求人は同年12月27日付けで意見書を提出するとともに手続補正(平成6年改正前特許法17条の2第1項4号の規定に基づく手続補正であり、以下「第3補正」という。)をした。 第2 補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成17年12月27日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1.補正内容 第3補正は特許請求の範囲を補正するものであり、補正後の【請求項1】の記載は次のとおりである(下線部が第3補正による補正箇所)。 「画像信号に基づき、主走査方向にnドット配列し、前記主走査方向と直交する副走査方向にmドット配列することでn×mドットの画素を形成し、記録媒体を前記副走査方向に移動させながら前記記録媒体上に印刷手段により前記画素を印刷すると共に、前記画素内に印刷されたドット数により前記画像信号の階調表現を行う印刷方法において、 前記画素内において、前記画像信号の階調レベルに応じて、前記画素を構成するために印刷されるドットの順を設定する工程と、 前記主走査方向に配列されたドット列を時分割して印刷すると共に、前記各画素内において前記主走査方向に配列されたドットの印刷タイミングをずらすように設定する印刷タイミング設定工程と、 前記印刷手段の駆動に同期して前記記録媒体を前記副走査方向に移動させる工程と、 前記画素を構成するために印刷されるドットの順を設定する工程で設定されたドットの印刷順と前記印刷タイミング設定工程で設定された印刷タイミングに基づき、前記副走査方向に移動される前記記録媒体上に、前記副走査方向に沿ってドット毎に印刷を行う印刷工程とを備えてなる印刷方法。」 以下では、「前記画素内において、前記画像信号の階調レベルに応じて、前記画素を構成するために印刷されるドットの順を設定する工程」を補正事項1と、「前記主走査方向に配列されたドット列を時分割して印刷すると共に、前記各画素内において前記主走査方向に配列されたドットの印刷タイミングをずらすように設定する印刷タイミング設定工程」を補正事項2と、「前記画素を構成するために印刷されるドットの順を設定する工程で設定されたドットの印刷順と前記印刷タイミング設定工程で設定された印刷タイミングに基づき、前記副走査方向に移動される前記記録媒体上に、前記副走査方向に沿ってドット毎に印刷を行う印刷工程」を補正事項3ということにする。 2.補正目的違反 補正事項2に対応する第3補正前(第2補正は却下されたから、平成14年12月13日付け手続補正(以下「第1補正」という。)後である。)の記載は、「前記主走査方向に配列されたドット列を時分割して印刷すると共に、前記各画素内において前記主走査方向に配列されたドットの印刷順番をずらすように設定する印刷順番設定工程」である。 補正事項2では、「前記各画素内において前記主走査方向に配列されたドットの印刷タイミングをずらすように設定する」のであるが、他方「前記主走査方向に配列されたドット列を時分割して印刷する」のであり、時分割であれば主走査方向に配列されたドットの印刷タイミングは自然にずれるから、各画素内で時分割駆動であることを限定するにすぎない。 これに対し、補正前では、時分割駆動以外に「前記各画素内において前記主走査方向に配列されたドットの印刷順番をずらすように設定する」との限定があり、この意味は必ずしも明確ではないけれども、各画素内でのドット配列順番とドット印刷順番をずらすことを意味すると解するのが相当である。 そうすると、補正事項2は、ドット配列順番とドット印刷順番をずらす旨の限定をなくするものである(それと同時に、後記4.及び第3で述べるように、実質的には補正前ではn≧3であったのが、補正後ではn≧2と拡張していることも見過ごせない。)から、特許請求の範囲の減縮を目的としたものではない。また、補正事項2が、請求項削除、誤記の訂正又は明りょうでない記載の釈明を目的としたものと認めることもできない。 したがって、補正事項2を含む第3補正は、平成6年改正前特許法17条の2第3項の規定に違反している。 3.新規事項追加 願書に最初に添付した明細書(以下、添付図面を含めて「当初明細書」という。)には、「画素35の主走査方向Xに配設されるドットが図2の画素35内に示す順番で印刷され、かつ1画素35を上記主走査方向X、及び副走査方向Yに4×4で配列する16個のドットで形成し、・・・画像信号の色度の増加に伴い、図3の画素35内に示した順番に各ドットを印刷することにより階調レベルの可変設定を実現するように構成される。」(段落【0029】)との記載があり、これが補正事項1の根拠である旨請求人は主張している。 なるほど、ここには「順番で印刷」及び「順番に各ドットを印刷」との文言はあるが、【図2】と【図3】を比較すれば明らかなように、各ドット位置に付された番号は【図2】と【図3】で異なっている。当初明細書には上記記載に続けて「図3に示すように階調0の場合は印刷するドットは無く、階調1の場合は順番1のドットを印刷し、階調2の場合は順番1、及び順番2のドットを印刷し、階調3の場合は順番1、順番2、及び順番3のドットを印刷し、・・・階調16の場合は全ドットを印刷することにより、階調0乃至階調16の17段階の階調レベルを表示可能であり、3色では17×17×17=4913の階調レベルを表示可能である。」(段落【0030】)との記載があり、この記載及び【図3】を総合すれば、「n×mドットの画素」の例として「4×4ドットの画素」としたとき、ドット数により階調表現を行うためには、1〜15ドット(階調1〜階調15)の選択方法は多数ある(階調kに対しては16Ckある。)ところ、【図3】に示された番号の小さい順に選択ドットを割り当てることが記載されているのであって、このことを段落【0029】では「順番に各ドットを印刷」と表現している。【図9】も「n×mドット」を「6×3ドット」としたときの、同様の割り当てルールを示したものである。ところが、同段落の「順番で印刷」は、これとは異なる意味であり、現実に印刷される順番を意味しているから、印刷順番は「印刷タイミング設定工程」で定まるのであり、それとは別の「画素を構成するために印刷されるドットの順を設定する工程」が記載されているわけではない。 補正事項1だけならば、「階調レベルに応じて」との文言もあることから、段落【0030】及び【図3】から理解できるように、階調に対する選択ドットの割り当てルールの趣旨であると解する余地がないわけではない。しかし、補正事項3によれば、補正事項1の「印刷されるドットの順を設定する工程」で設定されるものは「ドットの印刷順」であるから、補正事項1と補正事項3を総合すれば、階調に対する選択ドットの割り当てルールの趣旨であると理解することはできない。 そして、【図3】に示される1〜16のドットは、「6,15,2,9,12,3,14,7,10,1,16,5,8,13,4,11」の順に印刷されることが明らかであるから、「画素を構成するために印刷されるドットの印刷順を設定する工程」が当初明細書に記載されていないことは明らかであり、同工程は当初明細書の記載から自明な事項でもない。 したがって、補正事項1,3を含む第3補正は当初明細書に記載した事項の範囲内においてされたものではないから、平成6年改正前特許法17条の2第2項で準用する同法17条2項の規定に違反している。 3.独立特許要件欠如その1 第3補正が、特許請求の範囲の減縮(平成6年改正前特許法17条の2第3項2号該当)を補正目的の1つとしていることは明らかである。そこで、第3補正後の請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるかどうか検討する。 補正発明を特定する【請求項1】は、補正事項1及び補正事項3を含んでおり、これらを文言どおり解釈すれば、補正事項1は「前記画素内において、前記画像信号の階調レベルに応じて、前記画素を構成するために印刷されるドットの印刷順を設定する工程」である。 しかし、「画素内において、画像信号の階調レベルに応じて、前記画素を構成するために印刷されるドットの印刷順」を、印刷タイミングの設定とは別に、どのように設定するのかについて、補正後の発明の詳細な説明には何の記載もないから、発明の詳細な説明が当業者が補正発明を容易に実施できる程度に記載したと認めることはできない(平成6年改正前特許法36条4項違反)。 仮に、補正事項1が階調に対する選択ドットの割り当てルールの趣旨であり、同じく補正事項3の「前記画素を構成するために印刷されるドットの順を設定する工程で設定されたドットの印刷順」が「上記割り当てルールにより前記画素を構成するために割り当てられたドット」の趣旨であるとすれば、【請求項1】の記載は著しく不明確であり、「特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載した」に該当しない(平成6年改正前特許法36条5項違反)といわなければならない。 いずれにせよ、第3補正後の明細書には、平成6年改正前特許法36条4項又は5項に規定する要件を満たさない重大な記載不備があるため、補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができない。 すなわち、第3補正は、平成6年改正前特許法17条の2第4項で読み替えて準用する同法126条3項の規定に違反している。 4.独立特許要件欠如その2 (1)補正発明の認定 補正後の明細書には上記のとおりの記載不備がある。そのため、以下では、補正事項1が階調に対する選択ドットの割り当てルールの趣旨であり、同じく補正事項3の「前記画素を構成するために印刷されるドットの順を設定する工程で設定されたドットの印刷順」が「上記割り当てルールにより前記画素を構成するために割り当てられたドット」の趣旨であるとした場合の判断を行う。 そこで、【請求項1】の文言の表現を改め、補正発明を次のように認定する。 「画像信号に基づき、主走査方向にnドット配列し、前記主走査方向と直交する副走査方向にmドット配列することでn×mドットの画素を形成し、記録媒体を前記副走査方向に移動させながら前記記録媒体上に印刷手段により前記画素を印刷すると共に、前記画素内に印刷されたドット数により前記画像信号の階調表現を行う印刷方法において、 前記画素内において、n×mドットに1〜n×mの番号を付し、前記画像信号の階調レベルの数値以下の番号のドットを、前記画素を構成するために印刷されるドットとして割り当てる工程と、 前記主走査方向に配列されたドット列を時分割して印刷すると共に、前記各画素内において前記主走査方向に配列されたドットの印刷タイミングをずらすように設定する印刷タイミング設定工程と、 前記印刷手段の駆動に同期して前記記録媒体を前記副走査方向に移動させる工程と、 前記画素を構成するために印刷されるドットとして割り当てる工程で割り当てられたドットと前記印刷タイミング設定工程で設定された印刷タイミングに基づき、前記副走査方向に移動される前記記録媒体上に、前記副走査方向に沿ってドット毎に印刷を行う印刷工程とを備えてなる印刷方法。」 (2)引用刊行物の記載事項 当審における拒絶の理由に引用した特開平4-173264号公報(以下「引用例」という。)には、以下のア〜オの記載が図示とともにある。 ア.「第3図(a)の平面図に示すように、対向する2列の電極群10a,10bからなる電極ヘッド10を転写フィルム3に圧接し、電極と転写フィルムとを一定速度で相対移動させながら電極群10a,10b間に電流を流すことにより、順次矢印の方向へ印字していく。・・・電極群10a,l0bを図のように接触させて両者間に電流を流すことにより抵抗層1が発熱して色材層2の色材が加熱され、受像紙へ移行して転写・記録が行われる。」(1頁右下欄10行〜2頁左上欄7行) イ.「本発明は、少なくとも抵抗層と熱移行性の色材層を有する熱転写フィルムの抵抗層に、主走査方向に配列された複数の電極群からなる記録ヘッドを圧接しながら、対向する電極に電圧を印加して抵抗層に通電し、抵抗層を加熱して色材層中に含まれる色材を移行させて転写記録する熱転写記録装置において、前記電極群を複数ブロックに分割し、各ブロック内の各一対の対向電極に副走査方向1ライン幅当たり複数個の駆動パルスで通電して1画素を形成するようにしたことを特徴とする。」(2頁左下欄10〜19行) ウ.「第1図は本発明による時分割駆動方法を説明するための図で、1ラインを複数ブロックに分割した時の1ブロックについての4分割駆動を説明するものであり、第2図は本発明により得られる印字ドットを示す図で、1つのブロックにおける各画素のドット形成を示している。」(2頁右下欄9〜14行) エ.「本実施例においては、幅の狭い駆動パルスP11,P21,P31,P41,P12,P22,P32,P42・・・・・・を順次印加して4分割駆動し、P11〜P16の6個の駆動パルスで第1画素E1、P21〜P26の6個の駆動パルスで第2画素E2、P31〜P36の6個の駆動パルスで第3画素E3、P41〜P46の6個の駆動パルスで第4画素E4をそれぞれ印字する。・・・第2図に示すように第1画素E1はドットD11〜D16、第2画素E2はドットD21〜D26、第3画素E3はドットD31〜D36、第4画素E4はドットD41〜D46が印字されることになる。」(2頁右下欄15行〜3頁左上欄9行) オ.「本発明においては、階調は各駆動パルスの幅あるいは各画素の駆動パルスの個数、すなわち各画素のドット数を変えるか、あるいはこれら両者の併用によって行うことができる。」(3頁左上欄15〜18行) (3)引用例記載の発明の認定 引用例では、1画素が主走査方向に1個のドット、副走査方向(主走査方向と直交する方向である。)に複数個(実施例では6個であり、以下ではm個ということにする。)のドットで形成されており、記載オによれば、複数個(m個)のうち実際に印字されるドット数のみで階調を表現することも記載されている。 記載アの「矢印の方向」とは副走査方向のことであり、記載アには「電極と転写フィルムとを一定速度で相対移動」とある以上、固定された電極に対して転写フィルムが副走査方向に移動する場合を含んでいる。その場合、転写フィルムだけでなく、受像紙も副走査方向に移動すると解するのが自然である。 引用例記載の「ブロック」は、主走査方向に連続して配される数個の電極のことであり、印字の際には、ブロック内の電極は時分割で駆動される。そのことを、ドットの観点から表現すれば、主走査方向のドットを複数ブロックに分割し、ブロック内のドットを時分割で記録するといえる。 したがって、記載ア〜オを含む引用例の全記載及び図示によれば、引用例には次のような発明が記載されていると認めることができる。 「主走査方向に1ドット、前記主走査方向と直交する副走査方向にmドット配列することでmドットの画素を形成して、転写フィルム及び受像紙を副走査方向に移動することにより受像紙に転写記録する方法であって、 階調に応じて、mドットのうち印字すべきドット数を決定し、 主走査方向のドットを複数ブロックに分割し、ブロック内のドットを時分割で記録する方法。」(以下「引用発明」という。) (4)補正発明と引用発明との一致点及び相違点の認定 引用発明の「受像紙」及び「階調に応じて、mドットのうち印字すべきドット数を決定」は、補正発明の「記録媒体」及び「画素内に印刷されたドット数により前記画像信号の階調表現を行う」に相当し、引用発明が「画像信号に基づき、記録媒体を前記副走査方向に移動させながら前記記録媒体上に印刷手段により前記画素を印刷すると共に、前記画素内に印刷されたドット数により前記画像信号の階調表現を行う印刷方法」であることは明らかである。 引用発明では受像紙を副走査方向に移動するのであるが、この移動が印刷手段の駆動に同期していることは明らかであり、したがって引用発明は「前記印刷手段の駆動に同期して前記記録媒体を前記副走査方向に移動させる工程」を備えると認める。 補正発明の「前記画素内において、n×mドットに1〜n×mの番号を付し、前記画像信号の階調レベルの数値以下の番号のドットを、前記画素を構成するために印刷されるドットとして割り当てる工程」については、「前記画素内において、階調レベルに応じて前記画素を構成するために印刷されるドットとして割り当てる工程」の限度で引用発明は備えている。 引用発明では、「ブロック内のドットを時分割で記録」しており、これは「主走査方向に配列されたドット列を時分割して印刷する」ことにほかならず、引用発明は「主走査方向に配列されたドット列を時分割して印刷すると共に、前記主走査方向に配列されたドットの印刷タイミングをずらすように設定する印刷タイミング設定工程」を備えている。 そして、引用発明が「前記画素を構成するために印刷されるドットとして割り当てる工程で割り当てられたドットと前記印刷タイミング設定工程で設定された印刷タイミングに基づき、前記副走査方向に移動される前記記録媒体上に、前記副走査方向に沿ってドット毎に印刷を行う印刷工程」を備えることも明らかである。 補正発明では、nが2以上であることの直接的限定はないけれども、「各画素内において前記主走査方向に配列されたドットの印刷タイミングをずらす」とある以上、n≧2であることは自明であり、この点は補正発明と引用発明との相違点となる。 したがって、補正発明と引用発明とは、 「画像信号に基づき、主走査方向と直交する副走査方向にmドット配列することで複数ドットの画素を形成し、記録媒体を前記副走査方向に移動させながら前記記録媒体上に印刷手段により前記画素を印刷すると共に、前記画素内に印刷されたドット数により前記画像信号の階調表現を行う印刷方法において、 前記画素内において、前記画像信号の階調レベルに応じて、前記画素を構成するために印刷されるドットとして割り当てる工程と、 前記主走査方向に配列されたドット列を時分割して印刷すると共に、前記主走査方向に配列されたドットの印刷タイミングをずらすように設定する印刷タイミング設定工程と、 前記印刷手段の駆動に同期して前記記録媒体を前記副走査方向に移動させる工程と、 前記画素を構成するために印刷されるドットとして割り当てる工程で割り当てられたドットと前記印刷タイミング設定工程で設定された印刷タイミングに基づき、前記副走査方向に移動される前記記録媒体上に、前記副走査方向に沿ってドット毎に印刷を行う印刷工程とを備えてなる印刷方法。」である点で一致し、以下の各点で相違する。 〈相違点1〉1画素を形成する複数ドットにつき、補正発明では「主走査方向にnドット配列し」たn×mドットである(n≧2)であるのに対し、引用発明では、主走査方向に1ドットのmドットである点。 〈相違点2〉複数ドットからなる1画素内でのドット割り当て工程につき、補正発明が「前記画素内において、n×mドットに1〜n×mの番号を付し、前記画像信号の階調レベルの数値以下の番号のドットを、前記画素を構成するために印刷されるドットとして割り当てる工程」と限定するのに対し、引用発明ではどのようにして割り当てるのか不明である点。 〈相違点3〉印刷タイミング設定工程につき、補正発明では「前記各画素内において前記主走査方向に配列されたドットの印刷タイミングをずらすように設定する」としているのに対し、引用発明では「各画素内において主走査方向に配列されたドット」は1つしかなく、当然補正発明のようには設定していない点。 (5)相違点についての判断 〈相違点1について〉 本願出願当時、1画素を複数ドットで形成し、ドット数で階調表現を行うに当たり、その複数ドットを主走査方向と副走査方向ともに複数とすることは、例えば特開平4-287480号公報(以下「周知例1」という。)又は特開平4-332665号公報(以下「周知例2」という。)に見られるように周知である。 そして、この周知技術を引用発明に採用できない理由はなく、採用することにより、相違点1に係る補正発明の構成に至ることは設計事項というべきである。 〈相違点2について〉 本願出願当時、1画素を複数ドットで形成し、ドット数で階調表現を行うに当たり、複数ドット(M個とする)に1〜Mの番号を割り振り、階調数以下の番号が割り振られたドットを選択することは前掲周知例1,2に記載されているように周知であり、このことは相違点1とは直接関係がない。相違点1に係る補正発明の構成を採用した場合には、1画素はn×mドットで形成されるから、割り振られる番号は1〜n×mとなる(周知例1,2でもそうなっている。)。 したがって、この周知技術を採用して、相違点2に係る補正発明の構成に至ることも設計事項というべきである。 〈相違点3について〉 引用発明では、主走査方向のドットを複数ブロックに分割し、ブロック内のドットを時分割で記録している。ところで、相違点1に係る補正発明の構成を採用することは設計事項であるところ、ブロック内のドットを1つの画素に割り当てることが最も自然であり、そのことを妨げる理由はない。そして、ブロック内のドットを1つの画素に割り当てれば、各画素内において主走査方向に配列されたドットの印刷タイミングは自然にずれる、すなわち相違点3に係る補正発明の構成に至る。 したがって、相違点1に係る補正発明の構成に至ることは、せいぜい当業者にとって想到容易である。 (6)補正発明の独立特許要件の判断 相違点1〜相違点3に係る補正発明の構成を採用することは、設計事項であるか当業者にとって想到容易であり、これら構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。 したがって、補正発明は引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許出願の際独立して特許を受けることができない。すなわち、第3補正は、平成6年改正前特許法17条の2第4項で読み替えて準用する同法126条3項の規定に違反している。 [補正の却下の決定のむすび] 以上のとおり、第3補正は平成6年改正前特許法17条の2第2項で準用する同法17条2項、同法17条の2第3項及び同条4項で読み替えて準用する同法126条3項の規定に違反しているから、同法159条1項で読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下されなければならない。 よって、補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本件審判請求についての判断 1.請求項1の記載及び本願発明の認定 第2補正及び第3補正は当審において却下されたから、本願の特許請求の範囲【請求項1】の記載は第1補正により補正された次のとおりのものであり(手続補正書によれば、請求項1全体に下線が付され、すなわち全文が補正されている。)、請求項1に係る発明を以下「本願発明」という。 「主走査方向にnドット配列し、前記主走査方向と直交する副走査方向にmドット配列することでn×mドットの画素を形成し、前記画素内に印刷されたドット数により階調表現を行う印刷方法において、 前記主走査方向に配列されたドット列を時分割して印刷すると共に、前記各画素内において前記主走査方向に配列されたドットの印刷順番をずらすように設定する印刷順番設定工程と、 前記印刷順番設定工程で設定された印刷順番に基づき、前記副走査方向に沿ってドット毎に印刷を行う印刷工程とを備えてなる印刷方法。」 2.新規事項追加 「各画素内において前記主走査方向に配列されたドットの印刷順番をずらすように設定する印刷順番設定工程」について検討する。 当初明細書には、「印刷順番をずらす」はおろか「印刷順番」との文言記載はなく、「印刷順番をずらす」と同視できるような文言も見あたらない。「各画素内において前記主走査方向に配列されたドットの印刷順番をずらす」とは、必ずしも明確とはいえないけれども、「配列されたドットの」との修飾語があることを考慮すると、ドットの配列順番と印刷順番を異ならせるとの意味に解するのが相当である。 当初明細書には、n=4の実施例(【図2】,【図3】)とn=6の実施例(【図8】,【図9】)が記載されており、n=4の実施例では1画素内の4つのドットに対して、2番目,3番目,1番目,4番目の順(又はその逆順)で印刷すること、n=6の実施例では1画素内の6つのドットに対して、1番目,4番目,2番目,5番目,3番目,6番目の順(又はその逆順)で印刷することがそれぞれ記載されており、これらの印刷順番が「各画素内において前記主走査方向に配列されたドットの印刷順番をずらす」ことの1例であることは認める。 当初明細書には「主走査方向に配列されたドットの該主走査方向に互いに隣合うドットの印刷するタイミングをずらすように設定するタイミング設定工程」(【請求項1】他)との記載はあるけれども、ドット配列順番と印刷順番を一致させても、隣接するドットを同時に印刷しなければ、主走査方向に互いに隣合うドットの印刷するタイミングをずらすことになるから、「印刷順番をずらす」こととは別のことがらである。 当初明細書には、「隣接したドット数が増加しても印刷ヘッドの蓄熱の影響、或いは隣接部でのインク同士の結合の影響が抑えられる。」(段落【0039】,段落【0070】)との記載があるけれども、この作用効果は、「互いに隣合うドットの印刷するタイミングをずらす」ことによる作用効果であり、「印刷順番をずらす」ことによる作用効果ではない。 そうすると、当初明細書には、「印刷順番をずらす」ことの技術的意義は何も記載されておらず、わずかに「印刷順番をずらす」ことの例に該当する、n=4として1画素内の4つのドットに対して、2番目,3番目,1番目,4番目の順(又はその逆順)で印刷するとの実施例及びn=6として1画素内の6つのドットに対して、1番目,4番目,2番目,5番目,3番目,6番目の順(又はその逆順)で印刷するとの実施例が記載されているだけであるから、これら実施例そのものに限定するのならいざ知らず、発明の構成として「印刷順番をずらす」ことが当初明細書に記載されていると認めることはできず、自明の事項でもない。 すなわち、第1補正は、当初明細書に記載した事項の範囲内においてされたものではないから、平成6年改正前特許法17条の2第2項で準用する同法17条2項に規定する要件を満たしていない。 2.記載不備 1.でも述べたとおり、「各画素内において前記主走査方向に配列されたドットの印刷順番をずらす」とは、明確ではない(後記3.ではドットの配列順番と印刷順番を異ならせるとの意味に解する。)。また、その意味が明確であるとしても、「各画素内において前記主走査方向に配列されたドットの印刷順番をずらす」ことの目的及び作用効果が発明の詳細な説明に記載されていない。 したがって、本願は、明細書の記載が平成6年改正前特許法36条4項及び5項に規定する要件を満たしていない。 3.進歩性欠如 (1)本願発明と引用発明との一致点及び相違点の認定 引用発明では「主走査方向のドットを複数ブロックに分割し、ブロック内のドットを時分割で記録する」から、「主走査方向に配列されたドット列を時分割して印刷する印刷順番設定工程」を備えるといえ、その限度で引用発明が「前記印刷順番設定工程で設定された印刷順番に基づき、前記副走査方向に沿ってドット毎に印刷を行う印刷工程とを備え」ることは自明である。なお、本願発明においてnが複数である旨の直接的限定はないが、「各画素内において前記主走査方向に配列されたドットの印刷順番をずらす」とある以上、n≧3であることは自明であり(n=2であれば、印刷順番をずらすことはできない。)、この点は本願発明と引用発明との相違点となる。 したがって、本願発明と引用発明とは、 「主走査方向と直交する副走査方向にmドット配列することで複数ドットの画素を形成し、前記画素内に印刷されたドット数により階調表現を行う印刷方法において、 前記主走査方向に配列されたドット列を時分割して印刷する印刷順番設定工程と、 前記印刷順番設定工程で設定された印刷順番に基づき、前記副走査方向に沿ってドット毎に印刷を行う印刷工程とを備えてなる印刷方法。」である点で一致し、以下の各点で相違する。 〈相違点1’〉1画素を形成する複数ドットにつき、本願発明では「主走査方向にnドット配列し」たn×mドットである(n≧3)であるのに対し、引用発明では、主走査方向に1ドットのmドットである点。 〈相違点4〉印刷順番設定工程につき、本願発明が「前記各画素内において前記主走査方向に配列されたドットの印刷順番をずらすように設定する」としている、すなわち、各画素内においてドットの配列順番と印刷順番を異ならせているのに対し、引用発明では「各画素内において主走査方向に配列されたドット」は1つしかなく、当然本願発明のようには設定していない点。 (2)相違点についての判断 〈相違点1’について〉 相違点1については、「第2[理由]4(5)」で述べたとおりであり、その際主走査方向のドット数nを3以上とすることも設計事項である(周知例1,2でも3以上である。)。 したがって、相違点1’に係る本願発明の構成を採用することは設計事項である。 〈相違点4について〉 本願出願当時、主走査方向のドットを時分割で印刷する場合(引用発明もそうである)に、ドット配列順番と印刷順番を異ならせることは、例えば特開昭58-38065号公報、特開昭61-112471号公報、特開昭62-3565号公報、特開平2-14161号公報、又は特開平2-25344号公報に見られるように周知である。 引用発明において、この周知技術を採用することに困難性はなく、相違点1’のとおり1画素を形成する主走査方向のドット数を3以上とした場合には、各画素内において主走査方向に配列されたドットの印刷順番をずらすことになる。 したがって、相違点4に係る本願発明の構成を採用することも当業者にとって想到容易といわなければならない。 (3)本願発明の進歩性の判断 相違点1’,4に係る本願発明の構成を採用することは設計事項であるか当業者にとって想到容易であり、これら構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。 したがって、本願発明は引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 第4 むすび 以上述べたとおり、第3補正は却下されなければならず、本願については平成6年改正前特許法17条の2第2項で準用する同法17条2項に規定する要件を満たさない補正がされており、本願の明細書は同法36条4項及び5項に規定する要件を満たしておらず、さらに本願発明が特許を受けることができない以上、本願の請求項2に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2006-01-24 |
結審通知日 | 2006-01-31 |
審決日 | 2006-02-13 |
出願番号 | 特願平6-233108 |
審決分類 |
P
1
8・
532-
WZ
(B41J)
P 1 8・ 55- WZ (B41J) P 1 8・ 561- WZ (B41J) P 1 8・ 575- WZ (B41J) P 1 8・ 121- WZ (B41J) P 1 8・ 534- WZ (B41J) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 立澤 正樹 |
特許庁審判長 |
津田 俊明 |
特許庁審判官 |
番場 得造 藤井 勲 |
発明の名称 | 印刷方法及び画像印刷装置 |
代理人 | 小池 晃 |
代理人 | 伊賀 誠司 |
代理人 | 田村 榮一 |