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審決分類 審判 訂正 2項進歩性 訂正しない C23G
審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正しない C23G
管理番号 1134208
審判番号 訂正2004-39205  
総通号数 77 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1994-12-01 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2004-08-26 
確定日 2006-04-05 
事件の表示 特許第2680930号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の概要
本件特許は、平成4年11月30日(優先日:1991年12月2日 米国)に特願平5-510280として出願され、平成9年8月1日に特許第2680930号として登録され、その後、特許異議申立て(平成10年異議第72526号)の手続中、平成11年10月20日付けの訂正請求で明細書が訂正された後、平成11年11月12日付けで「訂正を認める。特許第2680930号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。」との決定がなされた。
その後、平成12年12月21日に無効審判請求がなされ(無効2000-35690)、平成14年4月10日付けで審決がなされたところ、東京高等裁判所に出訴され(平成14年(行ケ)第262号)、平成16年4月8日に判決がなされたところ、最高裁判所に上告受理申し立てされ(平成16年(行ヒ)第241号)、その審決取消訴訟が継続中の平成16年8月26日に、本件訂正審判請求がなされた。
続いて、平成16年12月1日付けで第1回目の訂正拒絶理由が通知され、これに対して平成17年4月12日付けで意見書が提出され、次いで、平成17年7月27日付けで第2回目の訂正拒絶理由が通知され、これに対して平成17年9月20日付けで意見書及び補正書が提出された。

II.審判請求書の補正について
(II-1)補正事項
平成17年9月20日付け手続補正書(訂正請求書)による審判請求書の補正の内容は、次のとおりのものである。
(1)訂正審判請求書に添付した訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1中の「有機又は炭化水素クリーニング液中のに導入する工程」を、「有機溶剤又は炭化水素溶剤のみからなる有機又は炭化水素クリーニング液の中に導入する工程」と補正する。
(2)訂正審判請求書に添付した訂正明細書の特許請求の範囲の請求項2、3、6及び7を削除する。

(II-2)補正の適否についての判断
上記補正事項(1)に係る特許請求の範囲の請求項1におけるクリーニング液組成の特定、及び、補正事項(2)に係る請求項の削除は、新たな訂正事項を追加するものであり、請求書の要旨を変更するものである。
なお、請求人は、当該手続補正書(訂正請求書)中で、上記補正事項(1)及び(2)は、特許請求の範囲の減縮を目的とすると主張しているが、これにより上記補正が訂正請求書の要旨を変更しないとすることはできない。
以上のとおりであるから、上記補正は、特許法第131条の2第1項の規定により、認めることができない。

III.請求の要旨
上記II項に記載したとおり、平成17年9月20日付け補正書による審判請求書の補正は認められず、したがって、本件審判請求の要旨は、当初の審判請求書に記載のとおり、特許第2680930号の明細書を当該審判請求書に添付した明細書のとおり、即ち、以下の訂正事項(A)及び(B)のとおり訂正することを求めるものである。

(A)特許請求の範囲の請求項1中の「少なくとも2モル%の」を削除して、請求項1を次のとおりに訂正する。
「【請求項1】次の:
(a)部品を、該部品から残留汚れまたは表面汚染物を実質的に除去するのに十分な溶解力を有する有機又は炭化水素クリーニング液の中に導入する工程;
(b)前記部品を前記有機又は炭化水素クリーニング液から取り出し、そして該有機又は炭化水素クリーニング液を含有するクリーニング区画とは別のリンス区画中に含有される液体ヒドロフルオロカーボンを基剤とするリンス溶剤中に曝すことにより前記部品をリンスする工程であって、前記の液体ヒドロフルオロカーボンを基剤とするリンス溶剤が前記有機又は炭化水素クリーニング液を前記部品から除去する工程;この際、前記の液体ヒドロフロオロカーボンを基剤とするリンス溶剤が、少なくとも25℃から120℃の沸点範囲で該有機クリーニング溶剤が相分離を起こすことなく該リンス溶剤と混和する混和性を有し、該部品の表面の該残留汚れまたは汚染物に対して該有機クリーニング液よりも低い溶解性を有し、該ヒドロフルオロカーボンが、水素、炭素、及びフッ素から成り、場合により、酸素、硫黄、窒素、およびリン原子から成る群から選ばれる官能基を含むものである;
(c)工程(a)及び(b)の間、燃焼抑制被覆を該クリーニング区画及びリンス区画の上に形成する工程であって、前記燃焼抑制被覆が実質的に純粋なヒドロフルオロカーボン蒸気から本質的になる工程;及び
(d)前記部品を乾燥する工程;
を含んでなる、部品から残留汚れまたは表面汚染物を除去するための非水系クリーニング法であって、クロロフルオロカーボンまたはヒドロクロロフルオロカーボンを使用しないで行なわれる方法。」と訂正する。

(B)特許請求の範囲の請求項1〜10から請求項8及び9を削除し、以下の項数を繰り上げ、残った請求項を請求項1〜8とする。

IV.訂正の適否の判断
(IV-1)訂正の目的、訂正の範囲、実質的拡張・変更の有無について
上記訂正事項(A)により、訂正前の請求項1中の「少なくとも2モル%のリンス溶剤が、少なくとも25℃から120℃の沸点範囲で該有機クリーニング溶剤が相分離を起こすことなく該リンス溶剤と混和する混和性を有し」が、訂正後は「少なくとも25℃から120℃の沸点範囲で該有機クリーニング溶剤が相分離を起こすことなく該リンス溶剤と混和する混和性を有し」となり、その結果、訂正前のリンス溶剤は、全て混和する場合と、部分的にしか混和しない場合とが含まれていたところ、本訂正により、全て混和する場合のみに限定されることとなった。よって、当該訂正事項(A)は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、願書に添付した明細書には、「図2では、クリーニングタンク15中の有機クリーニング液はフルオロカーボン系溶剤と混合されている場合がある。・・・このクリーニング液混合物は有機炭化水素とフルオロカーボン系溶剤の間の相の均一性を確保するために界面活性剤添加物を必要とする場合も必要としない場合もある。」(特許掲載公報第16欄第49行〜第17欄第11行参照。)との記載が、図2(同公報第15頁参照。)と共になされており、したがって、願書に添付した明細書及び図面には、有機クリーニング溶剤が相分離を起こすことなく該リンス溶剤と混和する混和性を有することが記載されているといえる。したがって、本訂正事項Aは、願書に添付した明細書又は図面に記載した範囲内の訂正である。
一方、上記訂正事項(B)は、訂正前の特許請求の範囲から上記各請求項を削除するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、上記訂正事項(A)及び(B)は、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものということはできない。

(IV-2)独立特許要件について
(a)引用刊行物
別途本件特許に係る無効審判事件(無効2000-35690)についての審決取消訴訟(平成14年(行ケ)第262号)の手続中に、証拠として提示された下記の刊行物には、以下の記載がある。

刊行物1.特公平3-55189号公報(訴訟甲第5号証)
刊行物2.特開平4-28798号公報(訴訟甲第7号証)
刊行物3.特開平3-252500号公報(訴訟甲第20号証)
刊行物4.特開平1-132787号公報(訴訟甲第21号証)
刊行物5.特開平1-132694号公報(訴訟甲第22号証)
刊行物6.特開平2-191581号公報(訴訟甲第4号証)
刊行物7.「特定フロン・クロロカーボン代替品開発の現状とその方向」化学工業日報社(1990年12月19日)第54〜55頁(訴訟甲第8号証)
刊行物8.「フッ素化合物の最先端応用技術」株式会社シーエムシー(昭和56年4月24日)第228〜229頁(訴訟甲第9号証)
刊行物9.「オゾン層破壊物質使用削減マニュアル」オゾン層保護対策産業協議会発行(1991年7月1日)第85〜87頁(訴訟甲第10号証)

(1)刊行物1(特公平3-55189号公報)
(1-1)「1 沸点20〜50℃の範囲のクロロフルオロハイドロカーボンの飽和蒸気域中に複数の槽を設置し、
(a)複数の槽の中の少なくとも一つに前記クロロフルオロハイドロカーボンと相溶性を有し且つ非共沸性で前記クロロフルオロハイドロカーボンより50℃以上高い沸点を有する有機溶剤と前記クロロフルオロハイドロカーボンとの混合溶剤を収容し、前記クロロフルオロハイドロカーボンの沸点より高く前記有機溶剤の沸点より30℃以上低い範囲の任意の温度に保持して混合溶剤中のクロロフルオロハイドロカーボンの蒸発と飽和蒸気域のクロロフルオロハイドロカーボンの吸収により混合溶剤中の有機溶剤とクロロフルオロハイドロカーボンとの混合比を平衡に保ち、
(b)複数の槽の中の少なくとも一つに実質的に前記クロロフルオロハイドロカーボンよりなる液を収容し加熱し沸騰状態に保持してクロロフルオロハイドロカーボンの飽和蒸気域を維持し、
(c)被洗浄物をまず前記混合溶剤中に浸漬し、
(d)ついで被洗浄物を沸騰状態に保持された前記クロロフルオロハイドロカーボン液中に浸漬することを特徴とする洗浄方法。」(特許請求の範囲1)
(1-2)「この発明は洗浄方法及び洗浄装置、特に金属、電子材料等に付着した油分その他の汚れを効率的に溶剤で洗浄する方法及び装置に関するものである。」(第3欄第20〜23行)
(1-3)「金属、電子材料等に付着した油分その他の汚れは炭化水素系の溶剤で洗浄することができるが、炭化水素系の溶剤は引火の危険が大きく、且つ一般に毒性を有する。」(第3欄第25〜28行)
(1-4)「非毒性、非引火性の溶剤としてはトリクロロトリフルオロエタン(フロン113)などのクロロフルオロハイドロカーボン類が知られており、極めて良好な特性を有するため溶剤として多用されているが、汚れの中には高沸点の溶剤を高温で使用する以外の方法では除去困難なものがある。」(第3欄第31〜36行)
(1-5)「本発明は、高温での洗浄力は大きいが毒性、引火性がある高沸点溶剤と、沸点以下の温度でしか使用できないため相対的に洗浄力は劣るが、非毒性、非引火性である沸点20〜50℃の範囲のクロロフルオロハイドロカーボンの両者の特性を生かし、その欠点を補った洗浄方法及び洗浄装置を提供することを目的とする。」(第3欄第42行〜第4欄第4行)
(1-6)「クロロフルオロハイドロカーボンの飽和蒸気域中に3つ以上の槽を設置し、前記の如く少なくとも一つを混合溶剤槽、また少なくとも一つを沸騰状態に保持されたクロロフルオロハイドロカーボン槽とするほか、さらに少なくとも一つの槽に沸点以下の温度に保持された実質的にクロロフルオロハイドロカーボンよりなる液を収容し、被洗浄物をまず混合溶剤中に、ついで沸騰状態に保持されたクロロフルオロハイドロカーボン液中に浸漬したのち、さらに沸点以下の温度に保持されたクロロフルオロハイドロカーボン液中に浸漬し、飽和蒸気域で蒸気洗浄するようにすればなお好ましく、一層すぐれた洗浄効果と、高沸点有機溶剤の気化・拡散の高度の抑制とを達成できる。」(第4欄第第31行〜第5欄第1行)
(1-7)第1図について「第1槽31は、沸点20〜50℃の範囲のクロロフルオロハイドロカーボン(以下第1溶剤と略記する)と相溶性を有し且つ非共沸性で第1溶剤より50℃以上高い沸点を有する有機溶剤(以下第2溶剤と略記する)と第1溶剤との混合溶剤を収容する槽であり、その混合溶剤を第1溶剤の沸点より高く第2溶剤の沸点より30℃以上低い範囲の任意の温度に保持し得る加熱器5と攪拌機6を備えている。
第2層32は、実質的に第1溶剤よりなる液を収容する槽であり、それを沸騰状態に保持し得る加熱器5を備えている。」(第5欄第16〜27行)
(1-8)「第2図の場合、第2槽32、第3槽33及び第4槽34はいずれも実質的に第1溶剤よりなる液を収容する槽であって、第2槽及び第3槽は第1溶剤の沸点温度に、第4槽は第1溶剤の沸点以下の温度に保持されている。
このように実質的に第1溶剤よりなる液を収容する槽32、33、34を設けた場合には、第3槽33の液面が第2槽32の液面より高くなるよう、さらに第4槽34の液面が第3槽33の液面より高くなるように設置し、第4槽34をオーバーフローした液が第3槽33に流入し、さらに第3槽33をオーバーフローした液が第2槽32に流入するように配置するとよい。」(第6欄第9〜21行)
(1-9)「第1槽の温度を選定することにより、第1槽における溶剤混合比率を任意の値に長時間安定して維持することが可能となり、安定した洗浄を行うことができる。」(第7欄第12〜15行)
(1-10)「第1槽の混合溶剤から蒸発した第2溶剤蒸気は直ちに低温の第1溶剤の飽和蒸気域4に接触し、液化して大部分が第1槽に還流し・・・。このようにして、毒性、引火性がある第2溶剤を高温で使用した場合でも、溶剤を収容した槽からその溶剤が蒸発して大気中に拡散するのを防止でき、運転中の引火の危険や、作業環境における毒性の問題が避けられる。」(第7欄第20〜29行)
(1-11)「被洗浄物に付着していた汚れは第1槽の混合溶剤で殆ど完全に溶解除去される。必要ならば混合溶剤槽を2槽以上設けてもよい。」(第8欄第2〜4行)
(1-12)「第1槽から引き上げられた被洗浄物に付着した第2溶剤は第2槽中の第1溶剤液により濯がれるので、第2溶剤が被洗浄物に付着したままの状態で外部に取り出され、そこで蒸発して大気中に拡散するのを防止でき、運転中の引火の危険や作業環境における毒性の問題が避けられる。
この濯ぎを完全に行うため、第2図に示すように被洗浄物をまず第1槽31の混合溶剤中に、ついで第2槽32及び第3槽33の沸騰状態に保持された第1溶剤液中に順次浸漬した後、さらに第4槽34中の沸点以下の温度に保持された第1溶剤液中に浸漬し、被洗浄物の温度を第1溶剤の沸点以下の温度に冷却した後、被洗浄物を飽和蒸気域に保持して蒸気洗浄を行うようにすればなお好ましい。」(第8欄第6〜20行)
(1-13)「本発明で使用する第1溶剤としてはトリクロロフルオロメタン(フロン11)、1,1,2-トリクロロ1,2,2-トリフルオロエタン(フロン113)、1,1-ジクロロ2,2,2-トリフルオロエタン(フロン123)、1,2-ジクロロ1,1-ジフルオロエタン(フロン123b)及び1,1-ジクロロ2-フルオロエタン(フロン141b)などがある。」(第8欄第42行〜第9欄第5行)
(1-14)「第2溶剤としては、ミネラルスピリット、ケロシンなどの脂肪族炭化水素溶剤、ブチルアルコール、アミルアルコール、ヘキサノールなどのアルコール類、ブチルエーテル、セロソルブ、カルビトールなどのエーテル及びエーテルアルコール類、ジイソプロピルケトン、メチルアミルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、酢酸ブチル、酢酸アミル、セロソルブアセテートなどのエステル類、トルエン、キシレン、クレゾールなどの芳香族、ジペンテン、テレビン油などのテルペン類などを挙げることができる。」(第9欄第11〜21行)
(1-15)「実施例1 沸点20〜50℃の範囲のクロロフルオロハイドロカーボンとしてフロン113(沸点47.6℃)を使用し、第1槽の設定温度を変更することにより第1槽中のフロン113と第2溶剤の比率を任意に設定できることを確認するため、次の実験を行った。
第2溶剤として安息香酸イソアミル(沸点262℃)を使用し、フロン113との混合溶剤・・を第2図に示した装置の第1槽31に収容し、フロン113を第2槽32に収容して沸騰させ、第3槽及び第4槽にはフロン113を収容して沸点温度以下に維持し、第1槽の温度を60℃〜100℃の範囲で設定温度を変更して第1槽中の濃度が平衡に達した後の組成を求めた。」と記載され、当該「第1表」には、第1層の設定温度が60、70、80、90及び100℃であったことが記載され、また例えば、60℃での平衡後のフロン濃度が54.9%であったことが示されている。そして「実施例2」では、実施例1と同じ第1溶剤及び第2溶剤を使用して洗浄試験を行ったことが記載され、80℃で良好な洗浄結果が得られたことが示されている。(第9欄第30行〜第11欄第14行)

(2)刊行物2(特開平4-28798号公報)
欧州特許出願公開第431458号明細書(訴訟甲第6号証)の対応特許であり、以下の記載がある。
(2-1)「一般式CnFmH2n+2-m(式中、4≦n≦6及び6≦m≦12である)で表わされるフッ化脂肪族炭化水素を有効成分として含有する洗浄剤組成物。」(特許請求の範囲1)
(2-2)「本発明は・・・IC部品、精密機械部品などに付着したフラックス、油脂類、塵埃などの除去に適した洗浄剤組成物に関する。」(第1頁右下欄第15〜18行)
(2-3)「従来から、IC部品、精密機械部品などを製造する際、組み立て行程で付着したフラックス、塵埃などを除去するために、通常有機溶剤を用いる洗浄が行なわれている。有機溶剤としては、1,1,2-トリクロロ-1,2,2-トリフルオロエタン(R-113という)が広く使われている。R-113は、不燃性で毒性が低く、安定性に優れている。しかも適度な溶解性を有しているので、各種の汚れのみを選択的に溶解し、金属、プラスチック、エラストマーなどを侵すことはない。プリント基板上のフラックス洗浄を行なう場合、被洗物類は、一般に、金属、プラスチック、エラストマーなどからなる複合部品が多い。従って、この点からもR-113が有利である。
しかるに、最近、R-113が成層圏のオゾンを破壊し、ひいては皮膚癌の発生をひき起こす原因となる疑いがあることから、その使用が規制されつつある。」(第2頁左上欄第2行〜右上欄第1行)
(2-4)「本発明者は、上記従来技術の現状に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、特定のフッ化脂肪族炭化水素が、1)分子中に塩素を含有しないので、オゾンを破壊する恐れがまったく無く、2)フラックス、油脂類、塵埃などの洗浄効果に優れ、3)従来使用されていたR-113と同様の適度な溶解力を持つので、各種の汚れのみを選択的に溶解除去し、金属、プラスチック、エラストマーなどからなる複合部品を侵さないことを見出し、本発明を完成した。」(第2頁右上欄第3〜12行)
(2-5)「上記フッ化脂肪族炭化水素としては、具体的には、C4F6H4、C4F8H2、C5F7H5、C5F8H4、C5F9H3、C5F10H2、C6F9H5、C6F12H2等で表わされる化合物を例示することができ、好ましい具体例としては、1,1,2,3,4,4,-ヘキサフルオロブタン・・・、1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6-ドデカフルオロヘキサン・・・等を挙げることができる。」(第2頁左下欄第5行〜右下欄第15行)
(2-6)「本発明の組成物には、フラックスの溶解力を向上させるために、炭化水素類、アルコール類、エステル類、ケトン類などの有機溶剤から選ばれる少なくとも一種を併用しても良い。有機溶剤の配合量は、特に制限されないが、通常洗浄剤組成物全量の30重量%程度を超えない範囲、好ましくは2〜10重量%程度、さらに好ましくは3〜8重量%程度とすれば良い。」(第3頁左上欄第2〜9行)(2-7)「炭化水素類としては、特に制限されないが、例えば、ヘキサン、ヘプタン・・・などが好ましい。アルコール類としては、特に制限されないが、炭素数1〜5程度の鎖状飽和アルコール類が好ましく・・・エステル類としては、特に制限されないが、炭素数1〜5程度の脂肪酸と炭素数1〜6程度の低級アルコールのエステルが好ましく・・・ケトン類としては、特に制限されないが、一般式R-CO-R’(式中、RおよびR’は炭素数1〜4程度の飽和炭化水素基を示す)で表わされるものが好ましく・・・などが特に好ましい。」(第3頁左上欄第12行〜左下欄第13行)
(2-8)「本発明組成物を用いてフラックス、油脂類などの洗浄、塵埃除去などを行なうに際しては、通常の洗浄方法が採用できる。具体的には、手拭き、浸漬、スプレー、揺動、超音波洗浄、蒸気洗浄などの方法を挙げることができる。」(第3頁右下欄第4〜8行)
(2-9)「本発明の洗浄組成物は、オゾンを破壊する恐れがまったく無く、しかもフラックス洗浄効果に優れている。また、従来使用されていたR-113と同様の適度な溶解力を持つので、各種の汚れ(フラックス、油脂類、塵埃など)のみを選択的に溶解除去し、金属、プラスチック、エラストマーなどからなる複合部品を侵すことがない。」(第3頁右下欄第10〜16行)

(3)刊行物3(特開平3-252500号公報)
(3-1)「下記一般式で表されるフッ化炭化水素を主成分とするフラックス洗浄剤であって、アルコール類、ケトン類、エステル類、塩素化炭化水素類のうち少なくとも一種類を10〜50wt%含有することを特徴とするフラックス洗浄剤。
CHxF3-x(CF2)nCHyF3-y(但し、nは3或は4、xは0〜3の整数、yは0〜3の整数、またx、yは同時に0となることはない。)」(特許請求の範囲)
(3-2)「本発明は、電子部品のはんだ付けの際に使用されるフラックスを除去するのに好適なフラックス洗浄剤に関する。」(第1頁左下欄第16〜18行)
(3-3)「本発明者等は、フラックスの溶解除去性に優れたF-113(注:1,1,2-トリクロロ-1,2,2-トリフルオロエタン)系溶剤に代わり得て、しかもオゾン層破壊の懸念のないフラックス洗浄剤を得べく、鋭意研究した結果、特定の分子構造を有するフッ化炭化水素がこれに該当することを発見した。
本発明は上記の発見に基づいてなされたもので、フラックス洗浄剤としてF-113系溶剤に比べて同等、或はそれ以上の性能を有し、しかもオゾン層を破壊する心配のないフラックス洗浄剤を提供することを目的とする。」(第2頁右上欄第3〜12行)
(3-4)「フッ化炭化水素としては、例えば1H-パーフルオロペンタン・・、1H-パーフルオロヘキサン・・、1H,5H-パーフルオロペンタン・・、1H,6H-パーフルオロヘキサン、1H,1H,5H-パーフルオロペンタン・・等があげられる。」(第2頁左下欄第5〜13行)
(3-5)「フッ化炭化水素と混合されるアルコール類、ケトン類等の溶剤としては、種々あるが特にアルコール類においてはメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ケトン類においてはアセトン、エステル類においては、酢酸エチル、塩素化炭化水素においては塩化メチレンが好ましい。」(第2頁左下欄第18行〜右下欄第4行)
(3-6)「フッ化炭化水素と混合される上記溶剤の洗浄剤中の割合は、10〜50wt%である。上記溶剤の割合が10wt%未満では洗浄能力が不足し、50wt%を越えると、選択的溶解性が低下する。」(第2頁右下欄第5〜8行)

(4)刊行物4(特開平1-132787号公報)
(4-1)「1,2-ジフルオロエタンを有効成分として含有する脱脂洗浄剤。」(特許請求の範囲1)
(4-2)「本発明は従来使用されていたR113(注:1,1,2-トリクロロ-1,2,2-トリフルオロエタン)が種々の利点を持つにもかかわらず、成層圏のオゾンを破壊し、ひいては皮膚ガンの発生をひき起す原因となる疑いがあることからそれに対応すべくR113と同様な種々の利点を有し、同等の洗浄が行なえる新規の脱脂洗浄剤を提供することを目的とするものである。」(第1頁右下欄第15行〜第2頁左上欄第1行)
(4-3)「本発明の脱脂洗浄剤には、各種の目的に応じてその他の各種成分を含有させることができる。例えば、溶解力を高めるために、炭化水素類、アルコール類、ケトン類、塩素化炭化水素類又はエステル類等の有機溶剤から選ばれる少なくとも1種を含有させることができる。これらの有機溶剤の脱脂洗浄剤中の含有割合は、0〜50重量%・・である。」(第2頁左上欄第11〜19行)
(4-4)「炭化水素類としては炭素数1〜15の直鎖又は環状の飽和又は不飽和炭化水素類が好ましく・・・等である。アルコール類としては、炭素数1〜17の鎖状又は環状の飽和又は不飽和アルコール類が好ましく・・・等である。ケトン類としては・・・等である。塩素化炭化水素類としては・・・等である。エステル類としては、次の一般式で示されるものが好ましく・・・等である。」(第2頁右上欄第3行〜第3頁右下欄第5行)

(5)刊行物5(特開平1-132694号公報)
(5-1)「1,2-ジフルオロエタンを有効成分として含有するフラックス洗浄剤。」(特許請求の範囲1)
(5-2)「本発明は従来使用されていたR113(注:1,1,2-トリクロロ-1,2,2-トリフルオロエタン)が種々の利点を持つにもかかわらず、成層圏のオゾンを破壊し、ひいては皮膚ガンの発生をひき起す原因となる疑いがあることからそれに対応すべくR113と同様な種々の利点を有し、同等の洗浄が行なえる新規のフラックス洗浄剤を提供することを目的とするものである。」(第1頁右下欄第15行〜第2頁左上欄第1行)
(5-3)「本発明のフラックス洗浄剤には、各種の目的に応じてその他の各種成分を含有させることができる。例えば、溶解力を高めるためには、炭化水素類、アルコール類、ケトン類又は塩素化炭化水素類等の有機溶剤から選ばれる少なくとも1種を含有させることができる。これらの有機溶剤のフラックス洗浄剤中の含有割合は、0〜50重量%・・である。」(第2頁左上欄第11〜19行)
(5-4)「炭化水素類としては炭素数1〜15の直鎖又は環状の飽和又は不飽和炭化水素類が好ましく・・・等である。アルコール類としては、炭素数1〜17の鎖状又は環状の飽和又は不飽和アルコール類が好ましく・・・等である。ケトン類としては・・・等である。塩素化炭化水素類としては・・・等である。」(第2頁右上欄第3行〜第3頁右上欄第3行)

(6)刊行物6(特開平2-191581号公報)
(6-1)「(1) 容器(12)中の水素含有、易燃性の液体有機溶剤(21)との接触により部品を洗浄し乾燥する方法であって、溶剤表面が、有機溶剤に熱移動する高フッ素化有機化合物に富んだ蒸気層(26)によりおおわれていること、および、洗浄されるべき部品を液体有機溶剤と接触させ、それから除去し、高フッ素化化合物に富んだ蒸気層中で蒸気-すすぎ、または乾燥し、次に洗浄環境から除去することを特徴とする方法。
(2) 有機溶剤が低級脂肪族(C1〜C5)アルコールであることを特徴とする上記(1)の方法。
(3) 部品が電気または電子部品であり、高フッ素化化合物が30℃〜100℃で沸騰するペルフルオロアルカン、ペルフルオロ-脂環式化合物、ペルフルオロ-アミンおよびペルフルオロ-エーテルから選ばれることを特徴とする上記(1)または(2)の方法。
(4) 高フッ素化化合物がペルフルオロ(アルキル-またはポリアルキル-シクロヘキサン)であることを特徴とする上記(3)の方法。
(5) 有機溶剤が、高フッ素化化合物を該溶剤中の該化合物の飽和溶解度に至るまで含有することを特徴とする、上記(1)、(2)または(3)の方法。」(特許請求の範囲(1)〜(5))
(6-2)「本発明は、塩素または臭素を含有しない高フツ素化有機化合物(HFO)を、高フツ素化合物よりも高い溶解力を有する溶剤(通常は極性有機溶剤)とともに用いる、特に電子集成装置および部品のための洗浄および乾燥の代わるべき方法を提供する。」(第2頁左下欄第16行〜右下欄第1行)
(6-3)「「HFO」は、主として炭素とフツ素原子を含有するが、酸素または窒素原子とともに、または、それなしに少量割合の水素原子を含有しうる有機化合物を意味するものとする。」(第2頁右下欄第13〜16行)
(6-4)「好ましい有機溶剤は、1〜5個の炭素原子を含有する低級脂肪族アルコール(例えば、エタノール、イソプロパノール)であるが、ケトン、ニトリルおよびニトロアルカンのような他の官能性溶剤も用いることができる。」(第3頁左上欄第11〜15行)
(6-5)「有機溶剤は、高フツ素化化合物を有機溶剤中のその化合物の飽和濃度(飽和溶解度)まで含有することができることを理解されたい。」(第3頁左上欄第15〜18行)
(6-6)「電子部品洗浄のために好ましいHFOは、ペルフルオロ-n-アルカン、ペルフルオロ-脂環式化合物、ペルフルオロ-アミンおよびペルフルオロ-エーテルであり、好ましくは+30℃と+100℃の間の沸点範囲を有する。他の洗浄または脱脂作用においては、これらの温度は超過し、代表的には100゜〜250℃であつてよい。しかしながら、このようなHFO化合物は、完全にフツ素化される必要はない。該化合物は、最も好ましくは、ペルフルオロ(アルキル-またはポリアルキル-シクロアルカン)である。
特に適当な水素含有フツ素化有機化合物は、下記を含む;
沸 点
ペルフルオロ-1-ヒドロ-n-へプタン 45℃
ペルフルオロ-1-ヒドロ-n-へキサン 70℃
ペルフルオロ-1,3-ジヒドロ-シクロヘキサン 78℃ 」(第3頁左上欄第19行〜右上欄第18行)
(6-7)「損失を避けるために、既知の冷却/凝縮/再循環手段により溶剤およびフツ素化化合物を分離し、維持することが必要である。
したがつて、別の面では、本発明は、高フツ素化化合物溜め、高フツ素化化合物を加熱し、溜めから蒸発させる手段、高フツ素化化合物蒸気を洗浄部屋に誘導し、該部屋中の有機液体をおおうための手段、洗浄されるべき部品を該部屋に導入し取出すための手段、および高フツ素化化合物と有機溶剤を凝縮し、それぞれの溜めに再循環するための手段より成る、部品を洗浄し乾燥するための装置を提供する。
加熱手段は、電気素子または加熱コイルであるのが好ましい。
高フツ化化合物蒸気は、有機液体を直接加熱する洗浄部屋に通すのが好ましい。
凝縮手段は、好ましくは、冷却コイルである。」(第3頁左下欄第1〜17行)
(6-8)「下記の説明において、パーフルオロ化合物というのは、上に規定したような高フツ素化有機化合物への言及を含むものと理解されたい。」(第3頁右下欄第9〜11行)
(6-9)「本発明の実施において、いずれの高フツ素化化合物、特に、適当な沸点を有するいずれのペルフルオロカーボン有機化合物(pfc)も、非-易燃性蒸気層として適当であるであろう。これらは、一般に、分子中にフツ素と炭素のみを含む化合物、または酸素または窒素のようなヘテロ原子を含むものである。したがつて、ペルフルオロ化エーテルおよびアミンも使用できる。」(第6頁右下欄第1〜8行)
(6-10)「ペルフルオロカーボンの乏しい溶解力と、上記例の蒸気凝縮工程における有効なすすぎを与える必要性の故に、ペルフルオロカーボンは、選ばれた有機溶剤に最大の溶解性を示すものが好ましい。しかしながら、液相においては、有機溶剤とpfcは、下記の理由のために出来るだけ混和しないままであるのが望ましい:
1.有機溶剤の廃棄にともなう高価なpfcの損失を避けるために、二つの液体の可能な限り完全な分離を促進すること、
2.pfcと混合した有機溶剤は、溶解する汚れの濃度を増加させるので、pfcに溶解する汚れを最小にすること。」(第6頁右下欄第8〜20行)
(6-11)「代表的な適当なペルフルオロ化合物/有機溶剤の対は、下記第2表の例1〜5に示す。」と記載され、
そして当該「第2表」には、ペルフルオロカーボン/易燃性溶剤の対として、
1.ペルフルオロ(メチルシクロヘキサン)(沸点76℃)/エチルアルコール(沸点78℃)、2.ペルフルオロ(メチルシクロヘキサン)(沸点76℃)/イソプロピルアルコール(沸点82℃)、3.ペルフルオロ(ジメチルシクロヘキサン)(沸点100℃)/n-プロピルアルコール(沸点97℃)、4.ペルフルオロ(n-ヘキサン)(沸点75℃)/n-プロピルアルコール(沸点97℃)、5.ペルフルオロ(メチルシクロペンタン)(沸点47℃)/n-プロピルアルコール(沸点97℃)、の例が示されている。(第7頁左上欄第1〜19行)
(6-12)「相溶性は温度の関数であるから、有効な洗浄と両立して最小のペルフルオロカーボンの沸点が選ばれ、それは通常、温度とともによくなる。一般に、40℃〜100℃範囲のペルフルオロカーボンの沸点が最も広く有用である。連続的な溶剤の蒸留が必要である場合は、溶剤の沸点に近い沸点を有するこれらのペルフルオロカーボンが最も有用である。」(第7頁右上欄第7〜14行)
(6-13)「第3表は、ペルフルオロメチルシクロヘキサン(PP2)とイソプロピルアルコールが、下記の理由により特に有用な対であることを示す。」と記載され、当該「第3表」には、「特徴」が「PP2中のアルコールの0.4%溶解度」であることの「利益」として、「分離後、ボイラーに戻る液体は、実質的にペルフルオロカーボンである。」と記載されている。(第7頁右上欄第14行〜左下欄末行)

(7)刊行物7(上記「特定フロン・クロロカーボン代替品開発の現状とその方向」)
(7-1)「湿式の洗浄方法としては2-18表に示すようなものがあげられ、この中のいずれかを単独で用いるか、何種類かを組み合わせて使用している。どの方式が良いかは被洗物の性質、被洗物の汚れの程度、清浄要求度などにより決まる。清浄度がどの程度必要であるかは、最終製品への影響で評価されており、各製品により異なる。ある程度の油が落ちれば、商品として問題を生じない程度のものであれば、蒸気槽1槽で足りる場合もあれば、LSI部品の仕上げ工程のように、各種方式を複合させて5槽以上の洗浄機を用いる場合もある。
しかし最も汎用的には3槽式洗浄機が用いられており、その構造を2-18図に示す。1槽目は予備洗浄槽であり、大部分の汚れをここで落とす。一般的には、超音波発振器を設置し、超音波により液振動を起こさせ、汚れ成分中への溶剤の浸透を物理的に促進させる。2槽目は被洗物のすすぎ洗浄と、3槽目の蒸気洗浄のための被洗物の冷却を目的とした洗浄槽である。3槽目は蒸気槽であり、溶剤蒸気による仕上げ洗浄と同時に乾燥も行う。蒸気槽では、被洗物表面に溶剤蒸気を凝縮液化させ、仕上げの洗浄を行い、同時に溶剤蒸気のもつ熱により被洗物の乾燥をも行う。蒸気槽にて発生した溶剤蒸気は、洗浄機の上部に設置された凝縮器にて液化回収され、水分離器にて遊離水を分離し、2槽目に回収再利用される。」
そして、上記2-18図「3槽式蒸気洗浄槽」(第54頁)には、「予備洗浄」、「すすぎ洗浄 冷浴」、「仕上げ洗浄 乾燥」の3槽からなる、3槽式の蒸気洗浄槽が図示されている。(第54頁「4 洗浄システム」の欄。)

(8)刊行物8(上記「フッ素化合物の最先端応用技術」)
(8-1)「表4-40に各種洗浄方法と特徴を示した。洗浄を効果的に、経済的にすすめるためには洗浄剤の選定とともに適切な洗浄方法をとる必要がある。各種の洗浄方法は単独よりも組み合わせて用いる方が好ましい。」(第229頁「3.7.2 洗浄方法」の欄)
(8-2)「洗浄装置は、まず被洗浄物の形状、大きさ、処理量、ヨゴレの質、量などにより決められる。熱容量の小さい被洗浄物で、蒸気洗浄だけでは効果の小さいときは、スプレー洗浄を蒸気洗浄の前におこなえば効果的である。図4-29は3槽式の洗浄装置の概略図である。単槽式や2槽式で不十分なときは、3槽式やさらに多槽式が使われ、場合によってはスプレーとの組み合わせも用いられる。」
そして、上記の図4-29「フロン洗浄装置の概略図」には、「第1槽」、「第2槽」及び「第3槽」よりなる、3槽式洗浄装置が図示されている。(第229頁「3.7.3 洗浄装置」の欄)

(9)刊行物9(上記「オゾン層破壊物質使用削減マニュアル」)
(9-1)「被洗浄物を超音波浸漬槽→冷浴槽→蒸気槽へと移動するとき、図7-6に示すように蒸気槽内で移動する。」(第87頁iv)欄)
そして上記の図7-6「蒸気槽内における被洗浄物の槽間移動及びシャワー又はスプレー作業」には、超音波浸漬槽、冷浴槽及び蒸気槽の3槽よりなり、槽上部が蒸気層で覆われた洗浄槽が図示されている。

(b)対比・判断
訂正後の請求項1に係る発明について
訂正後の請求項1に係る発明(以下「訂正発明1」という。)と、刊行物1に記載されたものとを対比すると、刊行物1には、クロロフルオロハイドロカーボン(以下「CFHC」と略することがある。)の飽和蒸気域中に複数の槽を設置し、複数の槽の中の少なくとも一つに前記CFHCと相溶性を有し且つ非共沸性で前記CFHCより高い沸点を有する有機溶剤と前記CFHCとの混合溶剤を収容し、複数の槽の中の少なくとも一つに実質的に前記CFHCよりなる液を収容するとともに、CFHCの飽和蒸気域を維持し、被洗浄物をまず前記混合溶剤中に浸漬し、ついで前記CFHC液中に浸漬する洗浄方法(摘記1-1)が記載されている。また他に、クリーニングとリンスとを別槽で行うと共に、槽上部に蒸気域を形成することは、刊行物1のほか、刊行物6〜9に示されるとおり、本件優先権主張日前周知の事項である。
そして、刊行物1の「被洗浄物」は訂正発明1の「部品」に相当し、刊行物1の「混合溶剤」はその機能面から見て訂正発明1の「クリーニング液」に相当し、刊行物1のCFHC液はその機能面から見て訂正発明1の「リンス溶剤」に相当し、刊行物1の「飽和蒸気域」は訂正発明1の「燃焼抑制被覆」に相当する。また両者は非水系クリーニング法である点で一致している。
また、刊行物1には、上記の有機溶剤として、ミネラルスピリット、ケロシンなどの脂肪族炭化水素溶剤、ブチルアルコール、アミルアルコール、ヘキサノールなどのアルコール類、ブチルエーテル、セロソルブ、カルビトールなどのエーテル及びエーテルアルコール類、ジイソプロピルケトン、メチルアミルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、酢酸ブチル、酢酸アミル、セロソルブアセテートなどのエステル類、トルエン、キシレン、クレゾールなどの芳香族、ジペンテン、テレビン油などのテルペン類などを挙げることができることが記載されており(摘記1-14)、これらは訂正発明1の「有機又は炭化水素」に相当する。そして刊行物1には、金属、電子材料等に付着した油分その他の汚れは炭化水素系の溶剤で洗浄することができること(摘記1-3)、及び、被洗浄物に付着していた汚れは第1槽の混合溶剤で殆ど完全に溶解除去されること(摘記1-11)が記載されていることからみて、刊行物1には、「部品から残留汚れまたは表面汚染物を実質的に除去するのに十分な溶解力を有する有機又は炭化水素クリーニング液」が記載されているといえる。
また、刊行物1には、第1槽から引き上げられた被洗浄物に付着した第2溶剤は第2槽中の第1溶剤液により濯がれること(摘記1-12)が記載されていることからみて、刊行物1には、訂正発明1で「リンス溶剤が前記有機又は炭化水素クリーニング液を前記部品から除去する」とした点が記載されているといえる。
また、刊行物1には、CFHCと相溶性を有し且つ非共沸性の有機溶剤と前記CFHCとの混合溶剤(摘記1-1、1-7)が記載されると共に、フロン113と安息香酸イソアミルとの混合溶剤を第1槽に収容し、60〜100℃の温度範囲で平衡状態の確認を行い(第1表)、洗浄を行ったことが具体例として記載されている(摘記1-15)ので、訂正発明1の「リンス溶剤が、少なくとも25℃から120℃の沸点範囲で該有機クリーニング溶剤が相分離を起こすことなく該リンス溶剤と混和する混和性を有し」とした点は、刊行物1の上記記載と重複し、一致している。そして、訂正発明1のヒドロフルオロカーボン、及び刊行物1に記載されたクロロフルオロハイドロカーボンは、いずれもハロカーボンの一種である。なお、訂正明細書に記載された「ヒドロクロロフルオロカーボン」と、刊行物1に記載された「クロロフルオロハイドロカーボン」とは呼称が相違するが同じ化合物を意味する。
また、刊行物1には、非毒性、非引火性の溶剤としてはトリクロロトリフルオロエタン(フロン113)などのクロロフルオロハイドロカーボン類が知られており、極めて良好な特性を有するための溶剤として多用されているが、汚れの中には高沸点の溶剤を高温で使用する以外の方法では除去困難なものがあること(摘記1-4)、及び、高温での洗浄力は大きいが毒性、引火性がある高沸点溶剤と、沸点以下の温度でしか使用できないため相対的に洗浄力は劣るが、非毒性、非引火性である沸点20〜50℃の範囲のクロロフルオロハイドロカーボンの両者の特性を生かし、その欠点を補った洗浄方法及び洗浄装置を提供することを目的とすること(摘記1-5)が記載されているので、刊行物1には、リンス溶剤について「部品の表面の該残留汚れまたは汚染物に対して該有機クリーニング液よりも低い溶解性を有」する点が記載されているといえる。

してみると、刊行物1には訂正発明1の特定事項について、
「次の:
(a) 部品を、該部品から残留汚れまたは表面汚染物を実質的に除去するのに十分な溶解力を有する有機又は炭化水素クリーニング液の中に導入する工程;
(b) 前記部品を前記有機又は炭化水素クリーニング液から取り出し、そして該有機又は炭化水素クリーニング液を含有するクリーニング区画とは別のリンス区画中に含有される液体ハロカーボンを基剤とするリンス溶剤中に曝すことにより前記部品をリンスする工程であって、前記の液体ハロカーボンを基剤とするリンス溶剤が前記有機又は炭化水素クリーニング液を前記部品から除去する工程;この際、前記の液体ハロカーボンを基剤とするリンス溶剤が、少なくとも25℃から120℃の沸点範囲で該有機クリーニング溶剤が相分離を起こすことなく該リンス溶剤と混和する混和性を有し、該部品の表面の該残留汚れまたは汚染物に対して該有機クリーニング液よりも低い溶解性を有し、
(c) 工程(a)及び(b)の間、燃焼抑制被覆を該クリーニング区画及びリンス区画の上に形成する工程であって、前記燃焼抑制被覆が実質的に純粋なハロカーボン蒸気から本質的になる工程;及び
(d) 前記部品を乾燥する工程;
を含んでなる、部品から残留汚れまたは表面汚染物を除去するための非水系クリーニング法で、行なわれる方法。」が記載されており、この点で訂正発明1は刊行物1に記載されたものと一致し、そして一方、
(イ)上記ハロカーボンが、訂正発明1ではヒドロフルオロカーボンであって、該ヒドロフルオロカーボンが、“水素、炭素、及びフッ素から成り、場合により、酸素、硫黄、窒素、およびリン原子から成る群から選ばれる官能基を含む”ものであるのに対して、刊行物1ではクロロフルオロハイドロカーボンである点、及び、
(ロ)訂正発明1では、“クロロフルオロカーボンまたはヒドロクロロフルオロカーボン(以下これらを「フロン化合物」と略称することがある。)を使用しない”と特定しているのに対して、刊行物1ではクロロフルオロハイドロカーボン(即ち、ヒドロクロロフルオロカーボン)を使用している点、
の各点で相違している。

そこで、これら相違点(イ)及び(ロ)について、以下検討する。
相違点(イ)及び(ロ)について
刊行物3には、フラックス洗浄剤に含まれる従前のフロン化合物に代えて、一般式CHnF3-n(CF2)nCHyF3-yで表されるフッ化炭化水素(ヒドロフルオロカーボン)を用いること(摘記3-1、3-3、3-4)、フロン化合物のF-113系溶剤に比べて同等、或はそれ以上の性能を有すること(摘記3-3)、及び、アルコール類、ケトン類、エステル類、塩素化炭化水素類のうち少なくとも一種類を10〜50wt%含有すること(摘記3-1、3-5、3-6)が記載され、刊行物4には、脱脂洗浄剤に含まれる従前のフロン化合物R113に代えて、ヒドロフルオロカーボンの1,2-ジフルオロエタンを用いること(摘記4-1)、R113と同様な種々の利点を有し、同等の洗浄が行なえること(摘記4-2)、及び、炭化水素類、アルコール類、ケトン類、塩素化炭化水素類又はエステル類等の有機溶剤から選ばれる少なくとも1種を含有させることができること(摘記4-3、4-4)が記載され、また、刊行物5には、フラックス洗浄剤に含まれる従前のフロン化合物R113に代えて、ヒドロフルオロカーボンの1,2-ジフルオロエタンを用いること(摘記5-1)、R113と同様な種々の利点を有し、同等の洗浄が行なえること(摘記5-2)、及び、炭化水素類、アルコール類、ケトン類、塩素化炭化水素類又はエステル類等の有機溶剤から選ばれる少なくとも1種を含有させることができること(摘記5-3、5-4)が記載されて、これら刊行物3〜5には、クリーニング液に含まれる、クロロフルオロハイドロカーボン等の従前のフロン化合物に変えて、これと同じくハロカーボンに属するヒドロフルオロカーボンを用い得ること、及び、当該ヒドロフルオロカーボンが、炭化水素類、アルコール類、ケトン類、塩素化炭化水素類又はエステル類等の有機溶剤と相溶する混和性を有することが記載されている。
そうすると、これら刊行物3〜5の記載に基づけば、刊行物1に記載されたクロロフルオロハイドロカーボンに代えて、これと同じくハロカーボン化合物であるヒドロフルオロカーボンを用いることに格別の困難性があるということはできず、また、その場合に、クロロフルオロカーボンまたはヒドロクロロフルオロカーボンを使用しないものとなることは明らかである。
そしてなおかつ、ヒドロフルオロカーボンなる化合物が、水素、炭素、及びフッ素から成る化合物であることは、その化合物の組成から明らかである。
また、クロロフルオロカーボンまたはヒドロクロロフルオロカーボン等のフロン化合物によるオゾン層破壊等の有害性は、刊行物3〜6に示されるとおり本件優先権主張日当時周知の事項であり、したがって、フロン系化合物を使用せず、これに代えてオゾン層非破壊性のヒドロフルオロカーボンを用いたことによる訂正発明1の効果は、当業者が予期し得ない程の格別の効果ということはできない。
以上のとおりであるから、上記相違点(イ)及び(ロ)の各点には格別の困難性があるとすることはできず、したがって、訂正発明1は、刊行物1、3〜9に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができた発明であり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

V.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正事項(A)を含む本件訂正は、平成6年改正前特許法第126条第3項の規定に違反し、したがって、本件訂正は認められない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-11-04 
結審通知日 2005-11-09 
審決日 2005-11-24 
出願番号 特願平5-510280
審決分類 P 1 41・ 856- Z (C23G)
P 1 41・ 121- Z (C23G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 諸岡 健一  
特許庁審判長 池田 正人
特許庁審判官 城所 宏
市川 裕司
登録日 1997-08-01 
登録番号 特許第2680930号(P2680930)
発明の名称 多成分溶剤クリーニング系  
代理人 栗田 忠彦  
代理人 社本 一夫  
代理人 中田 隆  

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