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審決分類 審判 全部無効 特29条の2  G09F
管理番号 1134292
審判番号 無効2005-80280  
総通号数 77 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2002-10-18 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-09-22 
確定日 2006-04-03 
事件の表示 上記当事者間の特許第3641220号発明「映像表示機器用前面板」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3641220号の請求項1乃至2に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1 本件発明
本件特許第3641220号は、平成13年4月3日に特許出願され、平成17年1月28日に特許権の設定登録がなされ、その後、平成17年9月22日付けで特許無効審判が請求されたものであって、その請求項1乃至2に係る発明(以下、「本件発明1」及び「本件発明2」という。)は、特許明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1乃至2に記載された次のとおりのものである。

【請求項1】
「下記一般式(1)
【化1】

(式中、R1およびR2は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基を表し、R3およびR4は、それぞれ独立して、水素原子または置換基を表し、L1およびL2は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい芳香族環を表す。)
または下記一般式(2)
【化2】

(式中、R5およびR6は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基を表し、R7〜R9は、それぞれ独立して、水素原子または置換基を表し、Z1およびZ2は、それぞれ独立して、5員環を形成するための2価の基を表し、L3およびL4は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい芳香族環を表し、X-は対陰イオンを表す。)で示される化合物を含有する層が、ガラス板に積層されてなることを特徴とする映像表示機器用前面板。」

【請求項2】
「下記一般式(1)

(式中、R1およびR2は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基を表し、R3およびR4は、それぞれ独立して、水素原子または置換基を表し、L1およびL2は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい芳香族環を表す。)
または下記一般式(2)

(式中、R5およびR6は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基を表し、R7〜R9は、それぞれ独立して、水素原子または置換基を表し、Z1およびZ2は、それぞれ独立して、5員環を形成するための2価の基を表し、L3およびL4は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい芳香族環を表し、X-は対陰イオンを表す。)で示される化合物を含有する樹脂板からなることを特徴とする映像表示機器用前面板。」

2 請求人の主張
これに対して、請求人は、本件特許の請求項1乃至2に係る発明は、本件特許の出願前である平成13年2月2日に出願され、平成14年8月14日に特開2002-228829号公報(甲第1号証)として公開された出願(特願2001-27450号)の明細書に記載の発明と同一、及び、本件特許の出願前である平成12年11月13日に出願され、平成14年5月22日に特開2002-148430号公報(甲第2号証)として公開された出願(特願2000-344956号)の明細書に記載の発明と同一であるから、本件特許の請求項1乃至2に係る発明の特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたと主張し、証拠方法として、甲第1号証(特開2002-228829号公報)、及び甲第2号証(特開2002-148430号公報)を提出している。

3 被請求人の主張
被請求人に対し、平成17年10月20日付けの請求書副本の送達通知において、60日間の期間を指定して答弁の機会を与えたが、答弁書の提出がなされなかった。

4 甲第1号証乃至甲第2号証の記載
(1)甲第1号証
甲第1号証(以下「先願明細書1」という)には、以下の点(1-イ)〜(1-ヌ)が記載されている。
(1-イ)「【特許請求の範囲】【請求項1】下記一般式(I)で表される化合物を含有することを特徴とする光学フィルター。
【化1】

(式中、R1は水素原子又は有機基を表し、R2は置換基を有することのできる飽和又は不飽和アルキル基あるいは置換基を有することのできるアリール基を表し、R3は水素原子、不飽和結合を有することのできるアルキル基、アリール基、アルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基又はシアノ基を表し、nは0〜4の数を表す)」(公報【特許請求の範囲】【請求項1】)

(1-ロ)「【0006】【課題を解決するための手段】本発明者等は、検討を重ねた結果、特定のスクアリリウム化合物を使用してなる光学フィルターが、特定の波長にシャープな吸収を有することで画像表示装置の画像特性を著しく改善し得ることを見出し、本発明に到達した。」(公報【0006】段落)

(1-ハ)「【0009】上記一般式(I)において、R1で表される有機基としては、メチル、エチル、プロピル、・・・(省略)・・・等のアルキル基、ビニル、1-メチルエテニル、2-メチルエテニル、プロペニル、・・・(省略)・・・等のアルケニル基、・・・(省略)・・・、ベンジル、フェネチル、2-フェニルプロパン-2-イル、・・・(省略)・・・等のアリールアルキル基等、・・・(省略)・・・が挙げられ、更にこれらの基は、アルコキシ基、アルケニル基、ニトロ基、シアノ基、ハロゲン原子等で置換されていてもよい。」(公報【0009】段落)

(1-ニ)「【0034】・・・(省略)・・・上記スクアリリウム色素を用いて光学フィルターを製造する方法は、特に限定されるものではなく、例えば、透明支持体又は任意の各層に含有させる方法、透明支持体又は任意の各層にコーティングする方法、各層間のバインダー(接着剤)に混入させる方法あるいは別にフィルター層を設ける方法等が挙げられる。」(公報【0034】段落)

(1-ホ)「【0036】上記透明支持体の材料としては、例えば、ガラス等の無機材料;あるいは、例えば、ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース(TAC)、プロピオニルセルロース、ブチリルセルロース、アセチルプロピオニルセルロース、ニトロセルロース等のセルロースエステル;ポリアミド;ポリカーボネート;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ-1,4-シクロヘキサンジメチレンテレフタレート、ポリエチレン-1,2-ジフェノキシエタン-4,4'-ジカルボキシレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル;ポリスチレン;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン;ポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂;ポリカーボネート;ポリスルホン;ポリエーテルスルホン;ポリエーテルケトン;ポリエーテルイミド;ポリオキシエチレン等の高分子材料が挙げられる。」(公報【0036】段落)

(1-ヘ)「【0050】本発明の光学フィルターは、液晶表示装置(LCD)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、エレクトロルミネッセンスディスプレイ(ELD)や陰極管表示装置(CRT)のような画像表示装置に適用する。・・・(省略)・・・プラズマディスプレイパネルのような画像表示装置では、光学フィルターをディスプレイの前面に配置する。光学フィルターをディスプレイの表面に直接貼り付けることができる。また、ディスプレイの前に前面板が設けられている場合は、前面板の表側(外側)又は裏側(ディスプレイ側)に光学フィルターを貼り付けることもできる。」(公報【0050】段落)

(1-ト)「【0057】〔実施例2〕下記の配合をプラストミルで260℃、5分間溶融混練した。混練後直径6mmのノズルから押出し水冷却ペレタイザーで色素含有ペレットを得た。このペレットを電気プレスを用いて250℃で0.25mm厚の薄板に成形した。」(公報【0057】段落)

(1-チ)「【0059】(配合)
ユーピロンS-3000 100g
(三菱瓦斯化学(株)製;ポリカーボネート樹脂)
スクアリリウム化合物No.2 0.01g 」(公報【0059】段落)

(1-リ)「【0060】〔実施例3〕下記の配合にてバインダー組成物を作成し、これを易密着処理した188μm厚のポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムにバーコーター#9を塗布し、80℃、30秒乾燥した。その後、このフィルムを0.9mm厚アルカリガラス板に100℃で熱圧着し、ガラス板とPETフィルムの間のバインダー層に光吸収性色素を含有するPET保護ガラス板を作成した。」(公報【0060】段落)

(1-ヌ)「【0063】【発明の効果】本発明は、特定波長においてシャープな吸収(λmax560〜620nm、半値巾50nm以下)を有することから、特にプラズマディスプレイ(PDP)用途に好適な光学フィルターを提供するものである。」(公報【0063】段落)

上記(1-イ)〜(1-ヌ)の記載より、先願明細書1には、次の発明(以下、「先願発明1」という。)が記載されている。
「下記一般式(I)

(式中、R1は水素原子又は有機基を表し、R2は置換基を有することのできる飽和又は不飽和アルキル基あるいは置換基を有することのできるアリール基を表し、R3は水素原子、不飽和結合を有することのできるアルキル基、アリール基、アルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基又はシアノ基を表し、nは0〜4の数を表す)、
で示される化合物を含有する層が、ガラスである透明支持体に積層されてなる、
または、上記一般式(I)
で示される化合物を含有する樹脂の透明支持体からなる、
プラズマディスプレイパネルの前面に配置される光学フィルター。」

(2)甲第2号証
甲第2号証(以下「先願明細書2」という)には、以下の点(2-イ)〜(2-ヲ)が記載されている。
(2-イ)「【特許請求の範囲】【請求項1】下記一般式(I)で表される化合物を含有することを特徴とする光学フィルター。
【化1】

(式中、R1、R2は各々独立に炭素数1〜4のアルキル基を表し、あるいはR1、R2は一緒になって酸素、硫黄、窒素原子を含んでもよい3〜6員環を形成することができ、Yは各々独立に有機基を表し、Xは水素原子又はハロゲン原子を表し、Anm-はm価のアニオンを表し、mは1又は2の整数を表し、pは電荷を中性に保つ係数を表す)」(公報【特許請求の範囲】【請求項1】)

(2-ロ)「【0005】従って、本発明の目的は、特定波長においてシャープな吸収(λmax560〜620nm、半値巾50nm以下)を有する画像表示装置用の光学フィルターを提供することである。」(公報【0005】段落)

(2-ハ)「【0006】【課題を解決するための手段】本発明者等は、検討を重ねた結果、特定のシアニン色素を使用してなる光学フィルターが、特定の波長にシャープな吸収を有することで画像表示装置の画像特性を著しく改善し得ることを見出し、本発明に到達した。」(公報【0006】段落)

(2-ニ)「【0009】・・・(省略)・・・Yで表される有機基としては特に制限を受けず、例えば、メチル、エチル、プロピル、・・・(省略)・・・等のアルキル基、ビニル、1-メチルエテニル、2-メチルエテニル、・・・(省略)・・・等のアルケニル基、・・・(省略)・・・、ベンジル、フェネチル、2-フェニルプロパン-2-イル、・・・(省略)・・・等のアリールアルキル基等、・・・(省略)・・・が挙げられ、更にこれらの基は、アルコキシ基、アルケニル基、ニトロ基、シアノ基、ハロゲン原子等で置換されていてもよい。・・・(省略)・・・」(公報【0009】段落)

(2-ホ)「【0032】・・・(省略)・・・上記シアニン色素を用いて光学フィルターを製造する方法は、特に限定されるものではなく、例えば、透明支持体又は任意の各層に含有させる方法、透明支持体又は任意の各層にコーティングする方法、各層間のバインダー(接着剤)に混入させる方法あるいは別にフィルター層を設ける方法等が挙げられる。」(公報【0032】段落)

(2-ヘ)「【0034】上記透明支持体の材料としては、例えば、ガラス等の無機材料;あるいは、例えば、ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース(TAC)、プロピオニルセルロース、ブチリルセルロース、アセチルプロピオニルセルロース、ニトロセルロース等のセルロースエステル;ポリアミド;ポリカーボネート;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ-1,4-シクロヘキサンジメチレンテレフタレート、ポリエチレン-1,2-ジフェノキシエタン-4,4' -ジカルボキシレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル;ポリスチレン;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン;ポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂;ポリカーボネート;ポリスルホン;ポリエーテルスルホン;ポリエーテルケトン;ポリエーテルイミド;ポリオキシエチレン等の高分子材料が挙げられる。」(公報【0034】段落)

(2-ト)「【0048】本発明の光学フィルターは、液晶表示装置(LCD)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、エレクトロルミネッセンスディスプレイ(ELD)や陰極管表示装置(CRT)のような画像表示装置に適用する。・・・(省略)・・・プラズマディスプレイパネルのような画像表示装置では、光学フィルターをディスプレイの前面に配置する。光学フィルターをディスプレイの表面に直接貼り付けることができる。また、ディスプレイの前に前面板が設けられている場合は、前面板の表側(外側)又は裏側(ディスプレイ側)に光学フィルターを貼り付けることもできる。」(公報【0048】段落)

(2-チ)「【0054】〔実施例2〕下記の配合をプラストミルで260℃、5分間溶融混練した。混練後、直径6mmのノズルから押出し水冷却ペレタイザーで色素含有ペレットを得た。このペレットを電気プレスを用いて250℃で0.25mm厚の薄板に成形した。これを上記U-3010で測定したところ、λmaxが586mで半値巾が38nmであり、光学フィルターとして好適である。」(公報【0054】段落)

(2-リ)「【0055】(配合)
ユーピロンS-3000 100g
(三菱瓦斯化学(株)製;ポリカーボネート樹脂)
化合物No.2-ClO4塩 0.01g 」(公報【0055】段落)

(2-ヌ)「【0058】〔実施例3〕下記の配合にてバインダー組成物を作成し、これを易密着処理した188μm厚のポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムにバーコーター#9を塗布し、80℃、30秒乾燥した。その後、このフィルムを0.9mm厚アルカリガラス板に100℃で熱圧着し、ガラス板とPETフィルムの間のバインダー層に光吸収性色素を含有するPET保護ガラス板を作成した。これを上記U-3010で測定したところ、λmaxが585nmで半値巾が36nmであり、光学フィルターとして好適である。」(公報【0058】段落)

(2-ル)「【0062】〔実施例4〜17〕化合物No.1、2及び4〜15のClO4塩を用いて実施例3と同様のPET保護ガラス板を作成し、これを上記U-3010で測定したところ、いずれもλmaxが560〜620nmに含まれ、かつ半値巾が40nm以下であり、光学フィルターとして好適である。」(公報【0062】段落)

(2-ヲ)「【0064】【発明の効果】本発明は、特定のシアニン色素を使用してなる、特にプラズマディスプレイ(PDP)用途に好適な光学フィルターを提供するものである。」(公報【0064】段落)
上記(2-イ)〜(2-ヲ)の記載より、先願明細書2には、次の発明(以下、「先願発明2」という。)が記載されている。
「下記一般式(I)

(式中、R1、R2は各々独立に炭素数1〜4のアルキル基を表し、あるいはR1、R2は一緒になって酸素、硫黄、窒素原子を含んでもよい3〜6員環を形成することができ、Yは各々独立に有機基を表し、Xは水素原子又はハロゲン原子を表し、Anm-はm価のアニオンを表し、mは1又は2の整数を表し、pは電荷を中性に保つ係数を表す)、
で示される化合物を含有する層が、ガラスである透明支持体に積層されてなる、
または、上記一般式(I)
で示される化合物を含有する樹脂の透明支持体からなる、
プラズマディスプレイパネルの前面に配置される光学フィルター。」

5 対比・判断
(1)本件発明1について
A)先願明細書1について
先願発明1の「化合物を含有する層が、ガラスである透明支持体に積層されてなる、プラズマディスプレイパネルの前面に配置される光学フィルター」が、本件発明1の「化合物を含有する層が、ガラス板に積層されてなることを特徴とする映像表示機器用前面板」に相当することは明白である。
そこで、該「化合物」について、先願発明1の「一般式(1)」と本件発明1の「一般式(1)」とを比較する。まず、先願発明1の「R1」(「水素原子又は有機基」)が本件発明1の「R1」及び「R2」(「置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基」)に相当することは、先願明細書1の記載から明白である。また、先願発明1の「R2」(「置換基を有することのできる飽和又は不飽和アルキル基あるいは置換基を有することのできるアリール基」)が本件発明1の「R3」及び「R4」(「水素原子または置換基」)に相当することも明白である。
そこで、先願発明1において、本件発明1の「L1」及び「L2」(「置換基を有していてもよい芳香族環」)に対応している部分は、n個の「R3」で置換されているベンゼン環であるが、その「R3」は「水素原子、不飽和結合を有することのできるアルキル基、アリール基、アルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基又はシアノ基」すなわち置換基であり、またベンゼン環は、芳香族環の一種であり、この点においても先願発明1の「一般式(1)」と本件発明1の「一般式(1)」とは一致している。
また、その余の部分においても、先願発明1の「一般式(1)」と本件発明1の「一般式(1)」とが一致していることは明白である。

したがって、本件発明1は、先願明細書1に記載された発明と同一であり、しかも、本件発明1の発明者が先願明細書1に記載された発明の発明者と同一であるとも、また、本件の出願時に、その出願人が先願明細書1に係る出願の出願人と同一であるとも認められないので、本件発明1は、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。

B)先願明細書2について
先願発明2の「化合物を含有する層が、ガラスである透明支持体に積層されてなる、プラズマディスプレイパネルの前面に配置される光学フィルター」が、本件発明1の「化合物を含有する層が、ガラス板に積層されてなることを特徴とする映像表示機器用前面板」に相当することは明白である。
そこで、該「化合物」について、先願発明2の「一般式(1)」と本件発明1の「一般式(2)」とを比較する。まず、先願発明2の「Y」(「有機基」)が本件発明1の「R5」及び「R6」(「置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基」)に相当することは、先願明細書2の記載から明白である。次に、先願発明2の「X」(「水素原子又はハロゲン原子」)が本件発明1の「R8」(「水素原子または置換基」)に相当することも明白である。次に、先願発明2の「pAnm-」(「Anm-はm価のアニオンを表し、mは1又は2の整数を表し、pは電荷を中性に保つ係数を表す」)が本件発明1の「X-」(「対陰イオン」)に相当することも明白である。次に、先願発明2において、本件発明1の「R7」及び「R9」(「水素原子または置換基」)に対応している部分は、水素原子であり、この点においても先願発明1の「一般式(1)」と本件発明1の「一般式(2)」とは一致している。
そして、先願発明2において、本件発明1の「L3」及び「L4」(「置換基を有していてもよい芳香族環」)に対応している部分は、ニトロ基を有するベンゼン環であるが、ニトロ基は置換基の一種であり、またベンゼン環は、芳香族環の一種であって、この点においても先願発明1の「一般式(1)」と本件発明1の「一般式(2)」とは一致している。
さらに、先願発明2において、本件発明1の「Z1」及び「Z2」(「5員環を形成するための2価の基」)に対応している部分は、『-C(R1)(R2)-』であるが、『-C(R1)(R2)-』は2価の基であり、また、先願発明2の「一般式(1)」中で5員環の一部分を形成しているものであって、この点においても先願発明1の「一般式(1)」と本件発明1の「一般式(2)」とは一致している。
また、その余の部分においても、先願発明2の「一般式(1)」と本件発明1の「一般式(2)」とが一致していることは明白である。

したがって、本件発明1は、先願明細書2に記載された発明と同一であり、しかも、本件発明1の発明者が先願明細書2に記載された発明の発明者と同一であるとも、また、本件の出願時に、その出願人が先願明細書2に係る出願の出願人と同一であるとも認められないので、本件発明1は、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。

(2)本件発明2について
A)先願明細書1について
先願発明1の「化合物を含有する樹脂の透明支持体からなる、プラズマディスプレイパネルの前面に配置される光学フィルター」が、本件発明2の「化合物を含有する樹脂板からなることを特徴とする映像表示機器用前面板」に相当することは明白である。
そこで、該「化合物」について、先願発明1の「一般式(1)」と本件発明2の「一般式(1)」とを比較する。まず、先願発明1の「R1」(「水素原子又は有機基」)が本件発明2の「R1」及び「R2」(「置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基」)に相当することは、先願明細書1の記載から明白である。また、先願発明1の「R2」(「置換基を有することのできる飽和又は不飽和アルキル基あるいは置換基を有することのできるアリール基」)が本件発明2の「R3」及び「R4」(「水素原子または置換基」)に相当することも明白である。
そこで、先願発明1において、本件発明2の「L1」及び「L2」(「置換基を有していてもよい芳香族環」)に対応している部分は、n個の「R3」で置換されているベンゼン環であるが、その「R3」は「水素原子、不飽和結合を有することのできるアルキル基、アリール基、アルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基又はシアノ基」すなわち置換基であり、またベンゼン環は、芳香族環の一種であり、この点においても先願発明1の「一般式(1)」と本件発明2の「一般式(1)」とは一致している。
また、その余の部分においても、先願発明1の「一般式(1)」と本件発明2の「一般式(1)」とが一致していることは明白である。

したがって、本件発明2は、先願明細書1に記載された発明と同一であり、しかも、本件発明2の発明者が先願明細書1に記載された発明の発明者と同一であるとも、また、本件の出願時に、その出願人が先願明細書1に係る出願の出願人と同一であるとも認められないので、本件発明2は、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。

B)先願明細書2について
先願発明2の「化合物を含有する樹脂の透明支持体からなる、プラズマディスプレイパネルの前面に配置される光学フィルター」が、本件発明2の「化合物を含有する樹脂板からなることを特徴とする映像表示機器用前面板」に相当することは明白である。
そこで、該「化合物」について、先願発明2の「一般式(1)」と本件発明2の「一般式(2)」とを比較する。まず、先願発明2の「Y」(「有機基」)が本件発明2の「R5」及び「R6」(「置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基」)に相当することは、先願明細書2の記載から明白である。次に、先願発明2の「X」(「水素原子又はハロゲン原子」)が本件発明2の「R8」(「水素原子または置換基」)に相当することも明白である。次に、先願発明2の「pAnm-」(「Anm-はm価のアニオンを表し、mは1又は2の整数を表し、pは電荷を中性に保つ係数を表す」)が本件発明2の「X-」(「対陰イオン」)に相当することも明白である。次に、先願発明2において、本件発明2の「R7」及び「R9」(「水素原子または置換基」)に対応している部分は、水素原子であり、この点においても先願発明1の「一般式(1)」と本件発明2の「一般式(2)」とは一致している。
そして、先願発明2において、本件発明2の「L3」及び「L4」(「置換基を有していてもよい芳香族環」)に対応している部分は、ニトロ基を有するベンゼン環であるが、ニトロ基は置換基の一種であり、またベンゼン環は、芳香族環の一種であって、この点においても先願発明1の「一般式(1)」と本件発明2の「一般式(2)」とは一致している。
さらに、先願発明2において、本件発明2の「Z1」及び「Z2」(「5員環を形成するための2価の基」)に対応している部分は、『-C(R1)(R2)-』であるが、『-C(R1)(R2)-』は2価の基であり、また、先願発明2の「一般式(1)」中で5員環の一部分を形成しているものであって、この点においても先願発明1の「一般式(1)」と本件発明2の「一般式(2)」とは一致している。
また、その余の部分においても、先願発明2の「一般式(1)」と本件発明2の「一般式(2)」とが一致していることは明白である。

したがって、本件発明2は、先願明細書2に記載された発明と同一であり、しかも、本件発明2の発明者が先願明細書2に記載された発明の発明者と同一であるとも、また、本件の出願時に、その出願人が先願明細書2に係る出願の出願人と同一であるとも認められないので、本件発明2は、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。

6 むすび
以上のとおりであるから、本件の請求項1乃至2に係る発明についての特許は、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-02-03 
結審通知日 2006-02-07 
審決日 2006-02-20 
出願番号 特願2001-104303(P2001-104303)
審決分類 P 1 113・ 16- Z (G09F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 星野 浩一  
特許庁審判長 末政 清滋
特許庁審判官 前川 慎喜
秋月 美紀子
登録日 2005-01-28 
登録番号 特許第3641220号(P3641220)
発明の名称 映像表示機器用前面板  
代理人 久保山 隆  
代理人 久保山 隆  
代理人 羽鳥 修  

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