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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C03B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C03B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C03B
管理番号 1134361
異議申立番号 異議2003-73768  
総通号数 77 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1997-08-05 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-12-27 
確定日 2006-01-18 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3450112号「石英ガラス製治具の表面処理方法及び表面処理された治具」の請求項1〜6に係る発明の特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3450112号の請求項1〜3に係る発明の特許を維持する。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第3450112号は、平成8年1月24日に出願され、平成15年7月11日に特許の設定登録がなされたものであって、その特許につき、山口昭一(以下、「異議申立人」という)より特許異議の申立がなされ、その特許異議申立の理由と証拠に基づき、取消理由を通知したところ、権利者より平成16年12月20日付けで訂正請求書及び特許異議意見書が提出され、その後、当該訂正請求書及び特許異議意見書を異議申立人に送付したところ異議申立人から回答書が提出されたものである。

II.訂正の適否
II-1.訂正事項
平成16年12月20日付け訂正請求は、本件明細書につき、訂正請求書に添付された訂正明細書に記載されるとおりの、次の〈イ〉〜〈ホ〉の訂正を求めるものである。
以下、訂正前の明細書を「特許明細書」といい、訂正請求書に添付された訂正明細書を「訂正明細書」という。
〈イ〉特許明細書の特許請求の範囲における、
「【請求項1】製作時および/または半導体ウエハーの熱処理時に生じた石英ガラス製治具の表面に存在する異物及び/またはマイクロクラックを、物理的な方法で凹凸処理することにより除去することを特徴とする石英ガラス製治具の表面処理方法。
【請求項2】物理的な方法がサンドブラストである請求項1に記載の石英ガラス製治具の表面処理方法。
【請求項3】サンドブラストに使用する砥粒が、珪素、珪素の化合物、炭素、炭素の化合物、ボロン、ボロンの化合物であって、砥粒中に粒径が5μm以上500μm以下の粒子が、80wt%以上であることを特徴とする請求項2に記載の石英ガラス製治具の表面処理方法。
【請求項4】物理的な方法で石英ガラス製治具の表面に凹凸処理を行った後に、さらに化学的エッチング処理を施すことを特徴とする石英ガラス製治具の表面処理方法。
【請求項5】石英ガラス製治具の表面に化学的なエッチング処理を施した後に、さらに熱による表面溶融処理を行うことを特徴とする請求項4に記載の石英ガラス製治具の表面処理方法。
【請求項6】固定砥粒による研削加工または半導体ウエハーの気相成長膜生成処理に伴う反応生成物により、石英ガラス製治具の表面に生じた異物及び/またはマイクロクラックを、サンドブラストとその後の化学的なエッチング処理により除去した後に、半導体ウエハーの処理に用いられることを特徴とする石英ガラス製治具。」を、
「【請求項1】製作時及び/または半導体ウエハーの熱処理時に生じた石英ガラス製治具の表面に存在する異物及び/またはマイクロクラックを、サンドブラストで凹凸処理することにより除去した後、さらに化学的エッチング処理を施す表面処理方法であって、サンドブラストに使用する砥粒が、珪素、珪素の化合物、炭素、炭素の化合物、ボロン、ボロンの化合物であり、砥粒中に粒径が5μm以上500μm以下の粒子が、80wt%以上であることを特徴とする石英ガラス製治具の表面処理方法。
【請求項2】石英ガラス製治具の表面に化学的なエッチング処理を施した後に、さらに熱による表面溶融処理を行う請求項1に記載の石英ガラス製治具の表面処理方法。
【請求項3】固定砥粒による研削加工または半導体ウエハーの気相成長膜生成処理に伴う反応生成物により、石英ガラス製治具の表面に生じた異物及び/またはマイクロクラックを、サンドブラストとその後の化学的なエッチング処理により除去した後に、半導体ウエハーの処理に用いられることを特徴とする石英ガラス製治具。」に訂正する。
〈ロ〉特許明細書の段落0008における記載を、
「【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本発明の処理治具の表面処理方法は、製作時及び/または半導体ウエハーの熱処理時に生じた石英ガラス製治具の表面に存在する異物及び/またはマイクロクラックを、サンドブラストで凹凸処理することにより除去した後、さらに化学的エッチング処理を施す表面処理方法であって、サンドブラストに使用する砥粒が、珪素、珪素の化合物、炭素、炭素の化合物、ボロン、ボロンの化合物 であり、砥粒中に粒径が5μm以上500μm以下の粒子が、80wt%以上であることを特徴とする。石英ガラス製治具の表面に化学的エッチング処理を施した後に、さらに熱による表面熔融処理を行うことが好ましい。
本発明の石英ガラス製治具は、固定砥粒による研削加工または半導体ウエハーの気相成長膜生成処理に伴う反応生成物により、石英ガラス製治具の表面に生じた異物及び/またはマイクロクラックを、サンドブラストとその後の化学的なエッチング処理により除去した後に、半導体ウエハーの処理に用いられることを特徴とする。」に訂正する。
〈ハ〉特許明細書の段落0009における、
「本発明の石英ガラス製治具の物理的な表面処理方法としては、・・・。」を、
「本発明の、石英ガラス製治具の表面に形成・付着したマイクロクラックや異物を除去するための物理的な表面処理方法としては、・・・。」に訂正する。
〈ニ〉特許明細書の段落0012における、
「また、本発明では、上記物理的な方法により、凹凸処理を行った処理用治具には、・・・、鋭角な凹凸部をある程度平滑化することが好ましい。」を、
「また、本発明では、上記物理的な方法により、凹凸処理を行った処理治具には、・・・、鋭角な凹凸部をある程度平滑化する。」に訂正する。
〈ホ〉特許明細書の段落0028における、
「・・・。その後、20℃のフッ化水素溶液8%による10分間のエッチング表面処理を行った。・・・。」を、
「・・・。その後、20℃、8%のフッ化水素溶液による10分間のエッチング表面処理を行った。・・・。」に訂正する。

II-2.訂正の適否の判断
上記〈イ〉の訂正は、具体的には、
〈イ-1〉特許明細書の請求項3において、直接及び間接的に請求項1及び2を引用する請求項3の記載を、過不足なく、独立形式で表現する方法に改め、
〈イ-2〉特許明細書の請求項3において、その表面処理方法における凹凸処理の工程の後、「さらに化学的エッチング処理を施す」との工程を付加し、
〈イ-3〉特許明細書の請求項1、2及び4を削除し、
〈イ-4〉特許明細書の請求項3において、その請求項番号を3から1に改め、
〈イ-5〉特許明細書の請求項5において、その請求項番号5を2に改め、その「行うことを特徴とする請求項4に記載の石英ガラス製治具の表面処理方法」を「行う請求項1に記載の石英ガラス製治具の表面処理方法」改め、
〈イ-6〉特許明細書の請求項6において、その請求項番号6を3に改めるものである。
上記〈ロ〉〜〈ホ〉の訂正は上記したとおりである。
II-2-1.訂正の目的の適否
上記〈イ-1〉の訂正は表現方法を改めるだけのものであり、その訂正は特許請求の範囲の明りょうでない記載の釈明を目的としたものに該当する。
上記〈イ-2〉の訂正は化学的エッチング処理の工程を付加するものであるから、その訂正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
上記〈イ-3〉の訂正は請求項を削除するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
上記〈イ-4〉〜〈イ-6〉の訂正は、上記請求項の削除に伴って、請求項番号を揃え、又は、引用する請求項番号を整合させるものであり、これらの訂正は特許請求の範囲の明りょうでない記載の釈明を目的としたものに該当する。
上記〈ロ〉〜〈ホ〉の訂正は、上記請求項の訂正により不明瞭ないしは不一致となった発明の詳細な説明の記載を当該請求項の記載に整合させ、ないしは、発明の詳細な説明の記載を明確化するものであり、これらの訂正は明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
II-2-2.新規事項の有無
上記〈イ-1〉及び〈イ-2〉の訂正事項は、特許明細書の請求項1〜4、又は、段落0007、0008、0010、0012及び0013の記載から自明なものとして導き出し得るものであり、また、上記〈イ-3〉〜〈イ-6〉の訂正事項は、請求項の削除又は記載方法を明瞭化するだけのものであるから特許明細書の記載から自明なものとして導き出し得るものである。
上記〈ロ〉〜〈ホ〉の訂正事項は、発明の詳細な説明の記載を当該請求項の記載に整合させ、ないしは、発明の詳細な説明の記載を明確化するだけのものであり、特許明細書の記載から自明なものとして導き出し得るものである。
II-2-3.拡張・変更の存否
上記〈イ-1〉〜〈ホ〉の訂正は、発明の目的の範囲内で請求項に記載される発明を限定し、又は、明細書の記載を明瞭化するだけのものであり、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものには該当しない。
II-2-4.訂正の適否の結論
よって、上記訂正請求は、特許法第120条の4第2項、及び、同条第3項において準用する特許法第126条第2項及び3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

III.本件発明
特許明細書についての平成16年12月20日付け訂正請求は前記したとおり容認されたものであり、したがって、訂正後の本件特許第3450112号の請求項1〜3に係る発明(以下、必要に応じて、それぞれ、「本件発明1」〜「本件発明3」という)は、本件明細書の特許請求の範囲に記載される次のとおりのものである。
【請求項1】製作時及び/または半導体ウエハーの熱処理時に生じた石英ガラス製治具の表面に存在する異物及び/またはマイクロクラックを、サンドブラストで凹凸処理することにより除去した後、さらに化学的エッチング処理を施す表面処理方法であって、サンドブラストに使用する砥粒が、珪素、珪素の化合物、炭素、炭素の化合物、ボロン、ボロンの化合物であり、砥粒中に粒径が5μm以上500μm以下の粒子が、80wt%以上であることを特徴とする石英ガラス製治具の表面処理方法。
【請求項2】石英ガラス製治具の表面に化学的なエッチング処理を施した後に、さらに熱による表面溶融処理を行う請求項1に記載の石英ガラス製治具の表面処理方法。
【請求項3】固定砥粒による研削加工または半導体ウエハーの気相成長膜生成処理に伴う反応生成物により、石英ガラス製治具の表面に生じた異物及び/またはマイクロクラックを、サンドブラストとその後の化学的なエッチング処理により除去した後に、半導体ウエハーの処理に用いられることを特徴とする石英ガラス製治具。

IV.特許異議申立の概要
異議申立人は、以下の証拠を提示し、次のように主張する。
【理由-1】特許明細書の請求項1〜6に係る発明(訂正後の本件発明1〜3)の特許は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。
【理由-2】特許明細書の本件請求項4に係る発明(訂正により削除)は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定に該当する。
【理由-3】特許明細書の請求項1〜6に係る発明は、甲第1〜11号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
なお、特許異議申立書においては特許法第29条第1項の規定に違反する旨の主張もなされるが、そのための必要な証拠が明示されないので、申し立ての理由については上記のとおりとした。
したがって、特許明細書の請求項1〜6に係る発明の特許は取り消されるべきものである。
甲第1号証:特開平7-267679号公報
甲第2号証:特開平3-187954号公報
甲第3号証:久本方著、「工業技術全書 ガラスの精密加工」、昭和30
年3月15日、(株)誠文堂、第81〜83及び98頁
甲第4号証:特開昭54-69120号公報
甲第5号証:特開昭57-144666号公報
甲第6号証:実願昭59-173701号(実開昭61-88233号)
のマイクロフィルム
甲第7号証:特開平1-170019号公報
甲第8号証:窯業協会誌、第86巻、第12号、1978年、坂田浩伸著
、「ガラス表面処理における最近の進歩-機械的及び光学的
性質の改良-」、第19〜27頁
甲第9号証:特開平5-170572号公報
甲第10号証:特開平1-219043号公報
甲第11号証:表面、第27巻、第11号、1989年、大場洋一著、「ガ
ラス表面の洗浄設計」、第901〜927頁
参考資料1:特開平8-104541号公報

V.証拠の記載内容
V-A.甲第1号証(特開平7-267679号公報)には、以下のことが記載される。
(A-1)「【産業上の利用分野】本発明は、石英ガラスの表面、特に半導体の製造用石英ガラス治具の表面に凹凸のある粗面を形成するための石英ガラス表面処理液、及びそれを使用した表面処理方法に関する。」(段落0001)
(A-2)「【従来の技術】石英ガラスは、高純度で溶融温度が高く、しかも耐化学薬品性に優れているところから熱処理治具として、特に半導体製造用治具として用いられてきた。しかしながら、石英ガラスからなる半導体製造用治具は、その使用目的により、例えば赤外線等の輻射線が炉芯管やボート保持具内を伝搬しその端部のシール部材や連結用の有機物材料を劣化させたり(特開昭63ー58822号公報)、また、LPCVD(Low Pressure Chemical vapor Deposition)法によるポリシリコン膜の成長時に炉芯管内表面にも堆積が起こり、それがウエハの熱処理時に剥離して汚染したり(実開昭61ー88233号公報)、あるいは前記処理時にボートにウエハを癒着させたり(特開平1ー170019号公報)する等の不都合があり、その不都合を解決するため、石英ガラス表面に凹凸を設けることが行われている。前記凹凸の形成にはサンドブラスト法が一般的に採用され、化学的エッチング処理による形成は特開平1ー170019号公報等にその可能性が示唆されているにとどまる。」(段落0002)
(A-3)「ところが、上記サンドブラスト法による凹凸の形成は、その凹凸が浅いといっても機械的に表面を破壊するため、凹凸面の下にマイクロクラックを持った層が形成されその深さが100μmにも達することがある。このように深いクラックが発生するとその中にシリコンウエーハを汚染する物質が取り込まれたり、あるいは前記クラックが破壊開始クラックとなり製品の強度劣化をもたらす。そのため通常行われているサンドブラスト法では凹凸を形成した後、フッ化水素の水溶液であるフッ化水素酸、いわゆるフッ酸でエッチング処理して、マイクロクラックの除去を行っている。しかしながら、深いマイクロクラックをフッ酸で除去すると治具の寸法精度に狂が生じたり、あるいは形成した凸面が少なくなって所期の目的を達成できなくなるという欠点があった。そのため、従来法は、なるべくクラックが深くならないようにサンドブラストをかけて、クラックが多く、汚染の大きい層を取り除く程度にフッ酸エッチング処理を行い、次いで腐食性のない洗浄液や純水で十分洗浄していた。こうした処理方法によっても、サンドブラスト法で凹凸を形成した石英ガラス治具にはそのマイクロクラック内に不純物が残存したり、あるいは機械的強度が低下したりして、近年、高純度化が一段と進み、かつその生産性が要求されるようになった半導体工業において満足のいく石英ガラス治具を提供するものではなかった。」(段落0003)

V-B.甲第2号証(特開平3-187954号公報)には、以下のことが記載される。
(B-1)「表面粗さRaが0.5〜20μmの石英基材と、この石英基材上に形成された炭化珪素層及び/又は窒化珪素層とを具備することを特徴とする耐火材料。」(特許請求の範囲第1項)
(B-2)「前記石英基材の表面処理の手段としては、例えばフロスト処理,サンドブラスト処理,平面研削等が挙げられる。」(第2頁左下欄第3〜5行)

V-C.甲第3号証(前記「工業技術全書 ガラスの精密加工」)には、以下のことが記載される。
(C-1)「砂吹き加工法(サンドブラスチング)
砂吹き加工法は1870年英国において摺りガラスの製造法として発明されたものであり,現在も摺りガラスの製造はもちろんガラスの模様入れや印刻用等のガラス加工に広く用いられている方法である.この方法は粒度の揃った珪砂(海砂)をガラス面に吹き付け,その噴射砂のもっている衝撃力を応用してガラス面を摺りガラス仕上げするものである.」(第81頁第17行〜第82頁第3行)

V-D.甲第4号証(特開昭54-69120号公報)には、以下のことが記載される。
(D-1)「押圧成形された前面ガラスの外表面を粗面化した後、前記前面ガラスの外表面を食刻溶液に浸漬することにより、前記前面ガラスの外表面を微細かつ滑らかな凹凸を有する面に仕上げることを特徴とする受像管の製造方法。」(特許請求の範囲)
(D-2)「従来、受像管の前面ガラスの外表面を押圧成形後、研磨もしくはサンドブラストして粗面化する方法があった。この方法によると多数の鋭いキズが表面に存在しており、埃、油脂、塵等が附着し易く、洗浄によってもこの汚れを簡単に除去しにくかった。また、鋭いキズのためクラックが成長し易く強度が低下することもしばしばあった。」(第1頁右下欄第6〜12行)
(D-3)「本発明は上記従来の欠点をことごとく除去、改良したもので、押圧成形したパネル前面ガラスの外表面を機械的または化学的に粗面化した後、弗化水素酸溶液に浸漬することにより、上記粗面を微細かつ滑らかな凹凸を有する面に仕上げるものであり、これによって汚れがつきにくく、外表面が損傷されにくく、ガラスの強度低下がなく、工程が簡単な優れた受像管の製造方法を提供するものである。」(第2頁左欄第11〜19行)
(D-4)「〈実施例1〉押圧成形された前面ガラス12の画像部外表面をまず荒摺研磨する。この荒摺研磨は#500〜#2500程度のアランダム,硅砂,カーボランダム等の研磨砂を用いて、・・・。・・・。その後荒摺研磨した前面ガラス12を水洗乾燥後、荒摺研磨表面14を弗化水素酸を含む溶液に浸漬し、キズ16が完全に消滅するまで、研磨面14の層を1〜20μm程度腐食する。」(第2頁右上欄第11行〜左下欄第3行)

V-E.甲第5号証(特開昭57-144666号公報)には、以下のことが記載される。
(E-1)「すなわち機械的な摺り加工の代表的な方法は、ブラスト法であるが、その方法は金剛砂やカーボンランダムなどをガラス表面に高速で衝突させ、表面に微細な凹凸を形成して加工する。」(第1頁右下欄第12〜16行)

V-F.甲第6号証〔前記実願昭59-173701号(実開昭61-88233号)〕には、以下のことが記載される。
(F-1)「上記手段のように石英製炉芯管内面を凹凸面にすることにより、この凹凸面にポリシリコンのような比熱や熱膨張係数の異なる異物が膜状に付着して温度変化で凹凸面に応力が作用しても、この応力は凹凸面の凹凸により分散化されて応力の集中がなくなり、石英製炉芯管にクラックが入る率が大幅に少なくなって、上記目的を達成される。」(第5頁第10〜17行)
(F-2)「この凹凸面(12)はエッチングやサンドブラスト法などで形成され、」(第6頁第5〜6行)

V-G.甲第7号証(特開平1-170019号公報)には、以下のことが記載される。
(G-1)「・・・、上記石英ボートの溝表面に、その頂点が上記シリコンウェーハ表面と点接触する凸部を多数形成し、この状態でシリコンウェーハを溝部に挿入して、石英ボート上にシリコンウェーハを立設させたことを特徴とする不純物拡散方法。」(特許請求の範囲)
(G-2)「第6図に示すように、本実施例のサンドブラスト法は、粒径10μm程度の石英粉末7を、ノズル8によって支持部材6c上部に吹き付けるものである。すなわち、・・・。すると、石英粉末7によって支持部材6c上部及び溝部6f表面に深さ10〜20μm程度の圧痕が生じ、多数の凸部6gが形成されるのである。」(第4頁左上欄第3〜13行)

V-H.甲第8号証(前記「ガラス表面処理における最近の進歩-機械的及び光学的性質の改良-」)には、以下のことが記載される。
(H-1)「フッ酸あるいはフツ硫酸によりガラスを表面より数十〜数百μm浸食除去すると強度は著しく増大する.これは浸食の際に,酸が表面のマイクロクラック中に侵入して,クラックの幅を広げると同時にクラック先端の曲率半径を増大させて(round out)応力集中係数を減ずるからである.」(第583頁左欄第15〜20行)

V-I.甲第9号証(特開平5-170572号公報)
(I-1)「まず一次加工として、石英ガラスの表面を砥石で研磨する。一次加工後の石英ガラスは、表面粗さが大きく透明度が低いものであるので、通常はバーナーを用いて二次加工を行なう。つまり、一次加工後の石英ガラスの表面にバーナーの炎を当てながらその表面に沿って移動させ、石英ガラスの表面のみを溶融・凝固させて平滑化するものである。二次加工により石英ガラスの表面粗さが小さくなるため、つやおよび透明度が増加する。なお、これらの加工はいずれも手作業で行なう。」(段落0003)

V-J.甲第10号証(特開平1-219043号公報)には、以下のことが記載される。
(J-1)「透明ガラス基板12は、その片面にサンドブラストにより微細均一な凹凸を形成したものである。サンドブラストは、要求される凹凸の程度により300#〜2000#程度の粒度の研磨材(例えばカーボランダム、アランダム、ガーネット、チルドスチール等)の中から任意の粒度並びに材質のものを選んで使用する。」(第2頁右下欄第第3〜9行)

V-K.甲第11号証(前記「ガラス表面の洗浄設計」)には、ガラス表面の洗浄設計と題し、以下のことが記載される。
(K-1)「3.1.3.湿式洗浄における機械的作用
湿式洗浄法においては,洗浄液の洗浄効果を高めるために,次のような機械的な作用を併用することが多い。
1)拭き取り,ラビング;ティシュペーパーやブラシでガラス表面をこする
2)流体噴射;空気,窒素などのガス,水や有機溶剤などの液体,時には炭酸カルシウムやタルクのような固体の微粒子を,ガラスの表面に噴射する(最近,氷の微粒子を用いる方法が提案された)
3)超音波照射;超音波,一般には20〜80KHz,特殊なものでは0.8MHzの超音波振動を加えて,超音波の加速度効果やキャビテーション(空洞)効果によって汚れの除去を促進する。
ガラス表面に付着させたアルミナ粒子の除去効果に及ぼす機械力についての実験結果を表8に示した。」(第906頁左欄第9行〜右欄第14行)

VI.当審の判断
VI-1.理由-3について
VI-1-1.本件発明1
訂正明細書の段落0007によれば、本件発明1は、「製作時及び/又は半導体ウエハーの熱処理時に生じた石英ガラス製治具の表面に存在する異物及び/またはマイクロクラックを除去するとともに石英製治具の表面をクリーンで強度低下の要因のない状態にする」ことを少なくともその発明の目的とするものである。
そして、訂正明細書の記載には、「このとき、サンドブラスト加工の衝撃により危険の少ない微細なマイクロクラックを生じることがあるが、」(段落0010)、「また、本発明では、上記物理的な方法により、凹凸処理を行った処理治具には、物理的な処理による非常に微細なマイクロクラックやパーティクルになり易い鋭角な凹凸が新たに残存する場合があるので、それらの表面にさらに化学的なエッチングをして、マイクロクラックを完全に除去するとともに、鋭角な凹凸部をある程度平滑化する。」(段落0012)及び「これらの異物13やマイクロクラック12に対し、サンドブラスト等の物理的な方法によって、ウエハーボート4の表面に凹凸処理を行うことにより、異物13とマイクロクラック12を同時に除去することができ、図5に示すような微細な凹凸の表面状態が得られる。この表面処理後に、さらに、従来知られた酸等による化学的なエッチングを施すことにより、ウエハーボートの表面に施された凹凸面が平滑になり、新品と同様の表面強度が得られる。」(段落0021)と記載され、このように、石英ガラス製治具にサンドブラスト処理を施すことによりその表面の異物やマイクロクラックを除去できるが、そこに新たな微細なマイクロクラックや凹凸が生成するので、化学的エッチング処理を施して当該マイクロクラックや当該凹凸を消去することが示されている。
以上の記載と本件発明1の特定事項によれば、本件発明1は、「石英ガラス製治具の表面に生じた異物及び/またはマイクロクラック」を「サンドブラストで処理した後、さらに化学的エッチング処理を施す」ことにより、その余の特定事項と相俟って、石英ガラス製治具の表面から異物やマイクロクラックを除去するだけでなく、新たに生じた微細なマイクロクラックや凹凸を消去することから、その表面が平滑で清浄な石英ガラス治具を得ることができたものであり、このことによって、はじめて上記の発明の目的を達成することができたというものである。
(なお、以上のことは、本件発明3においても同様にあてはまる。)
これに対して、甲第1号証には、その前記(A-2)及び(A-3)によれば、「石英ガラスからなる半導体製造用治具につき、そこに堆積するポリシリコン膜が後に剥離して汚染する等の不具合を防止するために、予め、サンドブラスト法により当該治具の表面に凹凸を形成すること、及び、当該サンドブラストによりマイクロクラックが発生するのでサンドブラスト後にフッ酸でエッチング処理を施す」こと等が記載され、このように、甲第1号証では、石英ガラス製治具を「サンドブラストで処理した後、さらに化学的エッチング処理を施す」ことが実質上示されるものの、その技術的手段は、石英ガラス製治具に凹凸を形成するために実施されるだけであって、予めそこに存在する異物及び/又はマイクロクラックを除去するものではなく、したがって、「石英ガラス製治具の表面に生じた異物及び/またはマイクロクラック」に適用するものではない(なお、この点で、本件発明1は甲第1号証に記載された発明ではないことはいうまでもない。)。
以下、同様に、甲第2〜11号証の記載を順次みる。
甲第2号証には、その前記(B-1)及び(B-2)によれば、石英基材の上に炭化珪素層又は窒化珪素層を設けるに当り、その石英基材の表面をサンドブラストすること等が記載されるものであり、そこでは、本件発明1のように「サンドブラストで処理した後、さらに化学的エッチング処理を施す」との手段を「石英ガラス製治具の表面に生じた異物及び/またはマイクロクラック」に適用することにつき、示唆ないしは教示するものは何もない。
甲第3号証には、その前記(C-1)によれば、サンドブラスチングが磨りガラスの製造、ガラスの模様入れや印刻用等に広く用いられていること等が記載されているものの、そこでは、「サンドブラストで処理した後、さらに化学的エッチング処理を施す」との手段を「石英ガラス製治具の表面に生じた異物及び/またはマイクロクラック」に適用することにつき、示唆ないしは教示するものは何もない。
甲第4号証には、その前記(D-1)〜(D-4)によれば、受像管の前面ガラスの外表面をサンドブラストして粗面化する方法では多数の鋭いキズが表面に存在するようになること、又は、受像管の前面ガラスの外表面をサンドブラストして粗面化した後に弗化水素酸溶液に浸漬することにより、上記粗面を微細かつ滑らかな凹凸を有する面に仕上げること等が記載される。しかし、甲第4号証に記載の発明は、ガラス表面を凹凸化することを意図するものであって、「サンドブラストで処理した後、さらに化学的エッチング処理を施す」との手段を「石英ガラス製治具の表面に生じた異物及び/またはマイクロクラック」に適用することについては示唆ないしは教示するものは何もないものである。
甲第5号証には、その前記(E-1)によれば、機械的摺り加工であるブラスト法によりガラス表面に微細な凹凸を形成すること等が記載される。甲第6号証には、その前記(F-1)及び(F-2)によれば、異物の付着により石英製炉芯管にクラックが入ることを抑制するために、同炉芯管にサンドブラスト法などで凹凸を形成すること等が記載される。甲第7号証には、その前記(G-1)及び(G-2)によれば、粒径10μm程度の石英粉末を用いるサンドブラスト法により石英ボートの溝に凸部を多数形成すること等が記載される。甲第8号証には、その前記(H-1)によれば、ガラス表面をフッ酸あるいはフツ硫酸により浸食すると酸が表面のマイクロクラック中に侵入してその強度は著しく増大する等が記載される。甲第9号証には、その前記(I-1)によれば、砥石で研磨する一次加工後の石英ガラスは表面粗さが大きく透明度が低いものであるので通常はバーナーを用いて二次加工を行なうこと等が記載される。甲第10号証には、その前記(J-1)によれば、300#〜2000#程度の粒度の研磨材(例えばカーボランダム、アランダム、ガーネット、チルドスチール等)を用いるサンドブラストにより透明ガラス基板に微視的な凹凸を形成すること等が記載される。甲第11号証には、その前記(K-1)によれば、ガラス表面の湿式洗浄においては炭酸カルシウムやタルクのような固体の微粒子をガラスの表面に噴射する機械的手段が併用されること等が記載されている。
しかし、甲第5〜11号証では、本件発明1のように「サンドブラストで処理した後、さらに化学的エッチング処理を施す」との手段を「石英ガラス製治具の表面に生じた異物及び/またはマイクロクラック」に適用することにつき、示唆ないしは教示するものは何もない。
そして、「サンドブラストで処理した後、さらに化学的エッチング処理を施す」との手段を、「石英ガラス製治具の表面に生じた異物及び/またはマイクロクラック」に適用することにつき、他に、具体的に証拠が提示されるものでもなく、また、そのようにするための動機付けもない。
そうであれば、甲第1〜11号証に記載の発明からは、「サンドブラストで処理した後、さらに化学的エッチング処理を施す」ことを、「石英ガラス製治具の表面に生じた異物及び/またはマイクロクラック」に適用することが直ちに想到できるとはいえない。
したがって、本件発明1は甲第1〜11号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

VI-1-2.本件発明2及び3
本件発明2は本件発明1の特定事項を全て引用するものであり、また、本件発明は、前記した「石英ガラス製治具の表面に生じた異物及び/またはマイクロクラック」を「サンドブラストで処理した後、さらに化学的エッチング処理を施す」との特定事項を、実質上、具備するものであり、したがって、VI-1-1.で説示した理由と同じ理由により、本件発明2及び3は甲第1〜11号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

VI-2.理由-1について
特許異議申立書における異議申立人の主張は、ガラスの技術分野においてはサンドブラストで石英ガラス表面に凹凸を形成するとマイクロクラックが生成されるというのが技術常識であるところ、特許明細書(訂正明細書でも同じ)の実施例1及び2ではサンドブラスト処理でマイクロクラックをおおよそ除去できた又は完全に除去できたとするものであって、この実施例の記載は技術常識に反するということに基づくものである。
以下に検討する。
VI-1-1.の前段で説示したとおり、本件発明1においては、石英ガラス製治具にサンドブラスト処理を施すことによりその表面の異物やマイクロクラックを除去できるが、そこに新たな微細なマイクロクラックや凹凸が生成するので、化学的エッチング処理を施して当該微細なマイクロクラックや当該凹凸を消去するというものである(以上のことは、本件発明2及び3においても同様である)。
このように、本件発明1〜3では、マイクロクラックをサンドブラスト処理することにより除去することができるものの、当該処理により新たな微細なマイクロクラックが生ずるというものである。
そして、訂正明細書の実施例においては、単にマイクロクラックが除去できることが記載されるだけであり、新たな微細なマイクロクラックが除去できたとは記載されないものである。
また、訂正明細書の実施例においては、サンドブラスト処理することによって新たに微細なマイクロクラックが生じていることを否定するものでもない。
してみれば、訂正明細書の実施例1及び2における記載が、特許異議申立人のいう技術常識に反するとはいえない。
したがって、訂正明細書の実施例1及び2における記載が技術常識に反することに基づいて、訂正明細書の発明の詳細な説明の項においては当業者がその実施ができる程度に本件発明1〜3が明確かつ十分に記載されていない、ということはできない。

VI-3.理由2
前記訂正請求により、特許明細書の請求項4は削除され、その結果、取り消すべき請求項がもはや存在しないことになったものであるから、この理由についてはこれ以上審及しない。

VII. まとめ
特許異議申立の理由及び証拠によっては、訂正後の本件請求項1〜3に係る発明の特許を取り消すことができない。
また、他に訂正後の本件請求項1〜3に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
石英ガラス製治具の表面処理方法及び表面処理された治具
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】製作時及び/または半導体ウエハーの熱処理時に生じた石英ガラス製治具の表面に存在する異物及び/またはマイクロクラックを、サンドブラストで凹凸処理することにより除去した後、さらに化学的エッチング処理を施す表面処理方法であって、サンドブラストに使用する砥粒が、珪素、珪素の化合物、炭素、炭素の化合物、ボロン、ボロンの化合物であり、砥粒中に粒径が5μm以上500μm以下の粒子が、80wt%以上であることを特徴とする石英ガラス製治具の表面処理方法。
【請求項2】石英ガラス製治具の表面に化学的なエッチング処理を施した後に、さらに熱による表面溶融処理を行う請求項1に記載の石英ガラス製治具の表面処理方法。
【請求項3】固定砥粒による研削加工または半導体ウエハーの気相成長膜生成処理に伴う反応生成物により、石英ガラス製治具の表面に生じた異物及び/またはマイクロクラックを、サンドブラストとその後の化学的なエッチング処理により除去した後に、半導体ウエハーの処理に用いられることを特徴とする石英ガラス製治具。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、半導体ウエハーの気相成長膜生成処理(以下、CVD処理という)や、拡散等の熱処理や洗浄、ハンドリングに使用されるウエハーボートや角槽等の石英ガラス製治具の表面処理方法と及びその表面処理された治具に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、半導体ウエハーのCVD処理や、拡散等の熱処理、洗浄、ハンドリング等の処理には、高純度で耐熱性のある石英ガラス製治具が使用されている。これらの半導体ウエハーの処理に用いられる石英ガラス製の治具(以下、処理治具という。)は、主にバーナー等による熱加工とウエハーボート等の溝加工のように、製作過程で固定砥粒を有するブレード等を用いた研削加工を組み合わせて行うが、例えば、メタルボンドのダイヤモンド砥粒ブレード等を用いた研削加工では、砥粒による微細研削により被処理体の表面に無数のマイクロクラックが発生する。これらのマイクロクラックは、応力集中源となり易いため、熱歪やウエハー処理時の機械的な負荷に対する処理治具の強度を低下させる原因になっていた。
【0003】
また、マイクロクラックは、そのクラック界面に研削時の切り粉や切削油等の汚れを溜めやすく、半導体ウエハーの処理時に処理治具から、汚染物が遊離し、半導体ウエハーを汚染することがあった。さらに、研削加工時に砥粒やボンド(結合剤)、切り粉などが加工面に、加工圧によりめり込み、異物として残留することもあり、同様に半導体ウエハーの処理時に、半導体ウエハーを汚染することがあった。
【0004】
一方、これらの処理治具は、半導体ウエハーへのCVD処理等にも使用されるが、これらの熱処理時に処理治具が反応ガスと接して、ポリシリコン膜や酸化珪素膜などの反応生成物がその表面に異物として付着することがある。これを放置すると前記異物がさらに成長堆積し、異物と石英ガラスとの熱膨張率や比熱等の物性の違いにより、異物の膜やこれに接する石英ガラスの表面にクラックを生じて強度を低下させたり、剥離してパーティクルとなって被処理物のウエハーに付着し汚染し、ひいては製造歩留りを低下させることになる。このため、従来は強酸若しくはガス等による化学的なエッチング処理でこれを取り除いていた。
【0005】
またこのような異物は、処理治具に一体状に付着するため、処理治具を常温に戻すときや洗浄時の温度変化の際に、異物と石英ガラスとの熱膨張率や比熱等の物性の違いにより、異物の下面を中心に処理治具にマイクロクラックが生じる。
【0006】
しかし、従来の化学的エッチング処理では、前記マイクロクラックや異物を完全に除去するには長時間の処理を必要とし、エッチングによる消耗で処理治具全体の寸法形状が変わってしまうことから、実際には異物やマイクロクラックを完全に除去することは難しく、処理治具を数回の熱処理に使用すると、マイクロクラック内や異物上に、異物が形成若しくは堆積したり、既存のマイクロクラックの先端がより深く大きく成長し、異物や処理治具表面が剥離し、やはりパーティクルが発生する。また、熱処理の回数をさらに重ねると、処理治具がひび割れしたり、最悪の場合は破損するに至る。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、こうした従来技術の実状に鑑み、製作時及び/または熱処理時に生じる処理治具表面の異物を完全に除去するとともに、危険なマイクロクラックを除去して、処理治具の表面をクリーンで強度低下の要因の無い状態にすることにより、半導体ウエハーの汚染を防止し、処理治具の耐久性を向上させることのできる表面処理方法及びその処理を施した処理治具を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明の処理治具の表面処理方法は、製作時及び/または半導体ウエハーの熱処理時に生じた石英ガラス製治具の表面に存在する異物及び/またはマイクロクラックを、サンドブラストで凹凸処理することにより除去した後、さらに化学的エッチング処理を施す表面処理方法であって、サンドブラストに使用する砥粒が、珪素、珪素の化合物、炭素、炭素の化合物、ボロン、ボロンの化合物?であり、砥粒中に粒径が5μm以上500μm以下の粒子が、80wt%以上であることを特徴とする。石英ガラス製治具の表面に化学的なエッチング処理を施した後に、さらに熱による表面溶融処理を行うことが好ましい。
本発明の石英ガラス製治具は、固定砥粒による研削加工または半導体ウエハーの気相成長膜生成処理に伴う反応生成物により、石英ガラス製治具の表面に生じた異物及び/またはマイクロクラックを、サンドブラストとその後の化学的なエッチング処理により除去した後に、半導体ウエハーの処理に用いられることを特徴とする。
【0009】
本発明の、石英ガラス製治具の表面に形成・付着したマイクロクラックや異物を除去するための物理的な表面処理方法としては、処理治具の表面に凹凸処理を行うことができる方法であれば、サンドブラスト、遊離砥粒研磨、超音波研磨、テープラッピングなど、どのような方法を用いてもよいが、処理すべき箇所を選択して部分的に処理ができること、複雑な形状の治具表面への処理の容易さの点から、サンドブラストによる方法が好ましい。
【0010】
本発明で使用される、サンドブラストによる表面処理方法では、粒径が5μm以上で500μm以下の粒子が、80wt%以上を占める珪素、珪素の化合物、炭素、炭素の化合物、ボロン、ボロンの化合物等の石英ガラスと同等またはそれ以上の硬質微粉末が使用され、通常、3kg/cm2程度の空気または窒素圧力で、異物やマイクロクラックのある面に向けてアルミナノズル等を介して噴射させて、処理治具の表面に凹凸処理を行う。
このとき、サンドブラスト加工の衝撃により危険の少ない微細なマイクロクラックを生じることがあるが、特にサンドブラストの硬質微粉末の砥粒中に粒径が500μmより大きい粒子が多く含まれると、大粒径の粉末の衝突衝撃により、新たな深いマイクロクラックが再度生じて、表面処理の効果を低下させ、また、サンドブラストの硬質粉末の砥粒中に、5μm未満の超微粒子が多く含まれると、微粒子がサンドブラスト面に凝集付着し、他の粒子のブラストの効果を阻害し、凹凸処理の不均一や効率を低下させるので望ましくない。
よって、上記微粉末には、実用的には、粒径が5μm以上で、500μm以下の粒子が、80wt%以上占める必要がある。
【0011】
サンドブラストに使用される噴射器具としては、通常知られた金属表面処理用のサンドブラスタを用いることができる。
サンドブラスト等の物理的な方法によれば、異物やマイクロクラックの発生した処理治具の表面を、選択して部分的に行うことができるので、短時間で無駄なく処理することができる。
【0012】
また、本発明では、上記物理的な方法により、凹凸処理を行った処理治具には、物理的な処理による非常に微細なマイクロクラックやパーティクルになり易い鋭角な凹凸が新たに残存する場合があるので、それらの表面にさらに化学的なエッチングをして、マイクロクラックを完全に除去するとともに、鋭角な凹凸部をある程度平滑化する。
【0013】
ただし、この場合は、表面除去時の極微細なマイクロクラックであるので、製作時や使用時の異物やマイクロクラックを完全に除去するための強酸による無理な長時間のエッチング処理(例えば、50%フッ化水素酸にて、3〜4時間)は必要がなく、20%以下程度のフッ化水素酸またはフッ化アンモニウムを含む酸で20℃で30分程度の処理で良い。このとき、余り弱酸であったり、あるいは短時間であったりすると、微細なマイクロクラックが除去しきれないため、実用的には2%〜10%程度のフッ化水素酸、またはフッ化アンモニウムを含む酸液で20℃で5分以上の処理が望ましい。これにより、凹凸処理された処理治具の凹凸面は、マイクロクラックと鋭角な凹凸面が除去、平滑化され、処理治具の強度の低下や新たなパーティクルの発生が効果的に防止される。
【0014】
さらに、化学的なエッチング前のサンドブラスト時の微粉末は、例えば二酸化珪素、珪素等の粉末であると、化学的なエッチングの際に石英ガラスと同様にエッチング除去できるので、化学的なエッチングで残留粉末の除去が完全に出来るので望ましい。また、このとき残留微粉末の粒度が500μmより大きな粒子が多くあると、エッチング除去に余計な時間がかかり、5μmより小さいと急激に化学反応を起こし、加熱したり突然泡を吹いたり(突沸)するので、実用的にはエッチングによりサンドブラストの残留物を除去する場合には、エッチング可能な微粉末を5μm以上500μm以下の粒子が80wt%以上になり、相対的に5μm未満や500μmより大きな粒子を少なくなるように調整したものが望ましい。
【0015】
また、前記エッチング処理の後に、さらに酸素-水素、酸素-プロパン等のガスバーナーのような火炎加熱手段により表面溶融処理を施すことにより、凹凸面がさらに平滑化されるので、より望ましい。ただし、この表面溶融処理はエッチング処理前に行うと、表面だけが溶融し、その内部にマイクロクラックが残留することになるのでエッチング処理の後であることが必要である。
【0016】
本発明の石英ガラス製治具の表面処理方法が適用できる処理治具としては、ウエハー積載ボート(以下、ウエハーボートという。)、ボート受台、プロセスチューブ、ハンドリング治具、カンチレバー、断熱キャップ、バブラー、洗浄用液槽が挙げられる。また、本発明の処理方法は、上記異物の他、処理治具の製造時やウエハー熱処理時に表面に生ずる失透、白濁、及びいわゆる点状の着色異物の除去にも適用できる。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を、例示した図1〜図6に基づき、洗浄用液槽及びウエハーボートを例にして詳細に説明する。
図1は半導体ウエハーの洗浄処理を行う液槽であって、その表面処理前における固定砥粒による研削加工直後の斜視図であり、図2は、表面処理前における図1の液槽のA部の肉厚断面の部分断面拡大図であり、図3は、本発明の表面処理後の図2と同様な図である。また、図4は、熱処理後の半導体ウエハーを載置したウエハーボートの斜視図であり、図5は、本発明の方法で表面処理を行った図4のウエハーボートのB部の部分拡大断面図であり、図6は、図5と同様の図で、本発明の方法で表面処理を行う前のウエハーボートの部分拡大断面図である。
【0018】
まず、洗浄用液槽を例にして説明すると、洗浄用液槽1は、ブレードの固定砥粒により内外面の肉厚が一定になるように研削加工されており、液槽の内外表面には、この研削加工による研削液を含んだ無数のマイクロクラック2が発生している。さらに、この表面には、砥粒や砥粒のボンド剤等の異物3の残留が認められる(図1、図2参照)。これを放置すると、マイクロクラック2により強度が低下しているため、液槽に薬液を入れるとその重量で底部が破損する可能性がある。
【0019】
これらのマイクロクラック2や異物3に対して、サンドブラスト等の物理的な手段によって、洗浄用液槽内の表面に凹凸処理を行い、マイクロクラック2と異物3を同時に除去する。この表面処理後に、さらに酸による化学的エッチング処理を行い、さらに酸素-水素火炎ガスバーナーにより、表面溶融処理を施すことにより、洗浄用液槽の表面に施された凹凸が平滑になり、薬液の重量にも耐えられる強度が得られる(図3参照)。
【0020】
次に、図4〜図6に基づきウエハーボートを例にして説明すると、ウエハーボート4には、各受入れ溝5に半導体ウエハー6が載置されている。熱処理を終えたウエハーボート6には、図6に示すように、熱処理時のガスに接する箇所にポリシリコン膜等の反応生成物が異物13として付着し、また、異物13の下面を中心にウエハーボート4の表面には、無数のマイクロクラック12が生じる。
【0021】
これらの異物13やマイクロクラック12に対し、サンドブラスト等の物理的な方法によって、ウエハーボート4の表面に凹凸処理を行うことにより、異物13とマイクロクラック12を同時に除去することができ、図5に示すような微細な凹凸の表面状態が得られる。この表面処理後に、さらに、従来知られた酸等による化学的なエッチングを施すことにより、ウエハーボートの表面に施された凹凸面が平滑になり、新品と同様の表面強度が得られる。
【0022】
本発明の表面処理方法では、熱処理によって処理治具の表面に発生した異物やマイクロクラックは、サンドブラスト等の物理的な方法で、凹凸処理を行うことにより根こそぎ除去するため処理残しがない。またこの方法による表面処理は、従来のような化学的なエッチングの方法と異なり、処理治具を全体的に処理するのではなく、異物等が発生した部分を選択して行うことができるので、不必要な部分までエッチングするという無駄は生じない。
【0023】
なお、上記表面の凹凸処理により、処理治具の表面は部分的にわずかに削られるが、それでも治具の寿命は、従来のように、熱処理の回数に比例して成長するマイクロクラックによる損壊を受ける場合と比較して、問題にならない程長くなる。また、上記処理治具表面の凹凸処理を行った後に、さらに化学的なエッチングを行えば、凹凸面が平滑化され、新品と同様の強度性が得られる。
【0024】
【実施例】
[実施例1]
図1に示す、ダイヤモンド砥粒(粒度#120)のメタルボンド系砥石と軽油のクーラントにて外内周を研削加工した直径400mm、高さ400mm、肉厚5mmの洗浄液槽1を、従来と同様に5%フッ化水素溶液にて30分間のエッチング処理を施した後に、篩いを用いて10μm未満と500μm以上の粒子を除き、10〜500μmの範囲の粒子が82wt%で平均粒径が20μmとした石英ガラス粉を、空気圧3kg/cm2で噴射し、万遍なく40分間サンドブラスト処理を行い、異物とマイクロクラックをおおよそ除去した後、5%フッ化水素溶液にて30分間のエッチング処理を行った。
【0025】
次いで、内外表面を酸素-水素火炎ガスバーナーにより、表面溶融処理を行ったところ、マイクロクラックや異物の見られない平滑な表面を持った洗浄液槽が得られた。
得られた洗浄液槽に25リットルの過酸化水素水液を投入し、この洗浄液中で半導体ウエハーの洗浄を15分間行ったところ、ウエハー表面のパーティクルが洗浄前よりも減少した。また液を一旦抜いて洗浄液の量を増やして47リットルの過酸化水素水液を投入しても破損は発生しなかった。
【0026】
[比較例1]
実施例1と同様な図1に示す、直径400mm、高さ400mm、肉厚5mmの洗浄液槽1の外内周を、粒度#120のメタルボンド系砥石と軽油のクーラントにて外内周を研削加工した後、洗浄液槽1を観察したところ、表面に無数のマイクロクラックと砥粒の残留物が観察された。これに、従来と同様の5%フッ化水素溶液にて30分間のエッチング処理を施したが、マイクロクラックと異物の残留が見られた。
【0027】
次いで、洗浄液として25リットルの過酸化水素水液を投入し、この洗浄液中で半導体ウエハーの洗浄を15分間行ったところ、ウエハー表面に洗浄前よりもパーティクルの増加が見られ、汚染されてしまった。
また、液を一旦抜いて洗浄液の量を増やして47リットルの過酸化水素水液を投入したところ、底部と側部のつなぎ部にて破損し洗浄液が外部に漏れ出した。
【0028】
[実施例2]
図4に示すウエハーボート4に、外径150mmの半導体ウエハーを収納し、シランガス内で900℃で4時間のCVD処理を行った。この熱処理によってウエハーボートの表面に生じた異物(ポリシリコン)とマイクロクラックに対して、篩いを用いて10μm未満と500μm以上の粒子を除き、10〜500μmの範囲の粒子が90wt%で平均粒径が150μmとした炭化珪素粉を、空気圧2kg/cm2で噴射し、万遍なく10分間サンドブラスト処理を行ったところ、異物とマイクロクラックを完全に除去できた。その後、20℃、8%のフッ化水素溶液による10分間のエッチング表面処理を行った。
この表面処理と前記熱処理を繰り返した結果、ウエハーボートは約110回の熱処理に耐えることができた。
【0029】
[比較例2]
比較のため、上記同様のウエハーボートを使用して半導体ウエハーの熱処理を行い、熱処理後の表面処理を、各10%のフッ化水素溶液と硝酸液を1:1で混合した20℃の混酸液による10分間の従来の化学的エッチングを行ったところ、処理残しの異物とマイクロクラックが見られた。
この従来の化学的エッチングと、前記熱処理を繰り返した結果、約15回の熱処理後には、半導体ウエハー上に堆積した異物からと思われるパーティクルの付着汚染が確認された。さらに、60回目の熱処理でウエハーボートにひび割れが生じ、次の利用に供することができなくなった。
【0030】
【発明の効果】
本発明の石英ガラス製治具の表面処理方法によれば、処理治具の表面処理を完全に行うことができるので、異物による半導体ウエハーの汚染を防止できる。また、使用時の熱処理によって生じるマイクロクラックの成長を防止でき、加工時のマイクロクラックも除去できるので、処理治具の強度と寿命を大幅に延ばすことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】半導体ウエハーの洗浄処理を行う液槽の表面処理前の固定砥粒による研削加工直後の斜視図である。
【図2】本発明の表面処理前における図1のA部の肉厚断面の容器内側表面の部分拡大断面図である。
【図3】本発明の表面処理後の図1のA部の肉厚断面の容器内側表面の部分拡大断面図である。
【図4】ウエハーボートの斜視図である。
【図5】本発明の表面処理後における、図4のB部の長手方向にその径を通る垂線で切断した部分拡大断面図である。
【図6】本発明の表面処理前における、図4のB部の長手方向にその径を通る垂線で切断した部分拡大断面図である。
【符号の説明】
1 洗浄用液槽
2,12 マイクロクラック
3,13 異物
4 ウエハーボート
5 受入れ溝
6 半導体ウエハー
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-12-22 
出願番号 特願平8-9715
審決分類 P 1 651・ 121- YA (C03B)
P 1 651・ 113- YA (C03B)
P 1 651・ 536- YA (C03B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 深草 祐一  
特許庁審判長 多喜 鉄雄
特許庁審判官 野田 直人
板橋 一隆
登録日 2003-07-11 
登録番号 特許第3450112号(P3450112)
権利者 信越石英株式会社 株式会社福井信越石英
発明の名称 石英ガラス製治具の表面処理方法及び表面処理された治具  
代理人 荒井 鐘司  
代理人 嶋崎 英一郎  
代理人 荒井 鐘司  
代理人 嶋崎 英一郎  
代理人 河野 尚孝  
代理人 河野 尚孝  
代理人 嶋崎 英一郎  
代理人 荒井 鐘司  
代理人 河野 尚孝  

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