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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C04B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C04B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C04B
審判 全部申し立て 発明同一  C04B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C04B
管理番号 1134362
異議申立番号 異議2003-73798  
総通号数 77 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2000-09-12 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-12-27 
確定日 2006-01-18 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3456915号「半導体製造装置用部材」の請求項1ないし5に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3456915号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3456915号の請求項1ないし5に係る発明は、平成11年2月23日に特許出願され、平成15年8月1日にその特許権の設定登録がされ、その後、京セラ株式会社(以下、「申立人」という。)より特許異議の申立てがされ、申立人より平成16年6月30日付けで上申書が提出され、取消しの理由が通知され、その指定期間内である平成17年1月7日に訂正請求がされ、申立人に審尋がされ、回答書が提出されたものである。

2.訂正の適否について
(1)訂正の内容
本件訂正請求は、本件特許明細書を訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正することを求めるものであり、訂正の内容は次のとおりである。
ア.訂正事項a
特許請求の範囲の請求項1の記載について、「腐食性ガスを用いて処理を行う半導体製造装置に使用される半導体製造装置用部材であって、気孔率が10%以下で、かつ表面粗さRaが3〜500μmであるセラミックス焼結体からなることを特徴とする半導体製造装置用部材。」とあるのを、「腐食性ガスを用いて処理を行う半導体製造装置に使用される半導体製造装置用部材であって、気孔率が3〜10%(気孔率10%を除く)で、かつ表面粗さRaが3〜500μm(表面粗さRa3μmを除く)であるセラミックス焼結体からなり、前記セラミックス焼結体の主要構成相は、アルミナ、窒化アルミニウム、およびイットリウム-アルミニウム-ガーネットから選択されたものであることを特徴とする半導体製造装置用部材。」と訂正する。
イ.訂正事項b
特許請求の範囲の請求項2の記載について、「その中で腐食性ガスを用いて処理を行う半導体製造用処理容器の一部または全部として使用される半導体製造装置用部材であって、気孔率が10%以下で、かつ少なくとも腐食性ガスに曝される表面の表面粗さRaが3〜500μmであるセラミックス焼結体からなることを特徴とする半導体製造装置用部材。」とあるのを、「その中で腐食性ガスを用いて処理を行う半導体製造用処理容器の一部または全部として使用される半導体製造装置用部材であって、気孔率が3〜10%で、かつ少なくとも腐食性ガスに曝される表面の表面粗さRaが3〜500μm(表面粗さRa3μmを除く)であるセラミックス焼結体からなり、前記セラミックス焼結体の主要構成相は、アルミナ、窒化アルミニウム、およびイットリウム-アルミニウム-ガーネットから選択されたものであることを特徴とする半導体製造装置用部材。」と訂正する。
ウ.訂正事項c
特許請求の範囲の請求項5の記載について、「腐食性ガスを用いて処理を行う半導体製造装置に使用される半導体製造装置用部材であって、気孔率が10%以下、かつ表面粗さRaが3〜500μmである、イットリウム-アルミニウム-ガーネット焼結体であり、部材中のSiO2量が0.15重量%を超え、10重量%以下であることを特徴とする半導体製造装置用部材。」とあるのを、「腐食性ガスを用いて処理を行う半導体製造装置に使用される半導体製造装置用部材であって、気孔率が3〜10%、かつ表面粗さRaが3〜500μmである、イットリウム-アルミニウム-ガーネット焼結体であり、部材中のSiO2量が0.15重量%を超え、10重量%以下であることを特徴とする半導体製造装置用部材。」と訂正する。
エ.訂正事項d
明細書の段落【0018】の記載について、「本発明はこのような知見に基づいてなされたものであり、第1発明は、腐食性ガスを用いて処理を行う半導体製造装置に使用される半導体製造装置用部材であって、気孔率が10%以下で、かつ表面粗さRaが3〜500μmであるセラミックス焼結体からなることを特徴とする半導体製造装置用部材を提供する。」とあるのを、「本発明はこのような知見に基づいてなされたものであり、第1発明は、腐食性ガスを用いて処理を行う半導体製造装置に使用される半導体製造装置用部材であって、気孔率が3〜10%(気孔率10%を除く)で、かつ表面粗さRaが3〜500μm(表面粗さRa3μmを除く)であるセラミックス焼結体からなり、前記セラミックス焼結体の主要構成相は、アルミナ、窒化アルミニウム、およびイットリウム-アルミニウム-ガーネットから選択されたものであることを特徴とする半導体製造装置用部材を提供する。」と訂正する。
オ.訂正事項e
明細書の段落【0019】の記載について、「第2発明は、その中で腐食性ガスを用いて処理を行う半導体製造用処理容器の一部または全部として使用される半導体製造装置用部材であって、気孔率が10%以下で、かつ少なくとも腐食性ガスに曝される表面の表面粗さRaが3〜500μmであるセラミックス焼結体からなることを特徴とする半導体製造装置用部材を提供する。」とあるのを、「第2発明は、その中で腐食性ガスを用いて処理を行う半導体製造用処理容器の一部または全部として使用される半導体製造装置用部材であって、気孔率が3〜10%で、かつ少なくとも腐食性ガスに曝される表面の表面粗さRaが3〜500μm(表面粗さRa3μmを除く)であるセラミックス焼結体からなり、前記セラミックス焼結体の主要構成相は、アルミナ、窒化アルミニウム、およびイットリウム-アルミニウム-ガーネットから選択されたものであることを特徴とする半導体製造装置用部材を提供する。」と訂正する。
カ.訂正事項f
明細書の段落【0022】の記載について、「第5発明は、腐食性ガスを用いて処理を行う半導体製造装置に使用される半導体製造装置用部材であって、気孔率が10%以下、かつ表面粗さRaが3〜500μmである、イットリウム-アルミニウム-ガーネット焼結体であり、部材中のSiO2量が0.15重量%を超え、10重量%以下であることを特徴とする半導体製造装置用部材を提供する。」とあるのを、「第5発明は、腐食性ガスを用いて処理を行う半導体製造装置に使用される半導体製造装置用部材であって、気孔率が3〜10%、かつ表面粗さRaが3〜500μmである、イットリウム-アルミニウム-ガーネット焼結体であり、部材中のSiO2量が0.15重量%を超え、10重量%以下であることを特徴とする半導体製造装置用部材を提供する。」と訂正する。
(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
ア.訂正事項aないしcは、特許請求の範囲の記載を訂正するものであって、気孔率の範囲の「10%以下」を、「3〜10%」とする訂正は、段落【0026】の「気孔率が3%以上であることが好ましい」との記載を根拠に減縮するものであり、「セラミックス焼結体からなる」を、「セラミックス焼結体からなり、前記セラミックス焼結体の主要構成相は、アルミナ、窒化アルミニウム、およびイットリウム-アルミニウム-ガーネットから選択されたものである」とする訂正は、段落【0029】、【0055】の表1【0070】の表3の記載等を根拠に減縮するものであり、「(気孔率10%を除く)」、「(表面粗さRa3μmを除く)」とする訂正は、引用例等との一致部分を除くものを包含するものである。
それ故、訂正事項aないしcは、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当するし、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
イ.訂正事項dないしfは、訂正事項aないしcの訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と整合しなくなる明細書の記載を整合させるためのものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当するし、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
(3)むすび
以上のとおりであるから、上記訂正請求は、特許法等の一部を改正する法律(平成15年法律第47号)附則第2条第12項の規定により、なお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第120条の4第2項及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議申立てについての判断
(1)本件発明
上記のとおり訂正が認められるから、本件の請求項1ないし5に係る発明(以下、「本件発明1ないし5」という。)は、上記訂正明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】腐食性ガスを用いて処理を行う半導体製造装置に使用される半導体製造装置用部材であって、気孔率が3〜10%(気孔率10%を除く)で、かつ表面粗さRaが3〜500μm(表面粗さRa3μmを除く)であるセラミックス焼結体からなり、前記セラミックス焼結体の主要構成相は、アルミナ、窒化アルミニウム、およびイットリウム-アルミニウム-ガーネットから選択されたものであることを特徴とする半導体製造装置用部材。
【請求項2】その中で腐食性ガスを用いて処理を行う半導体製造用処理容器の一部または全部として使用される半導体製造装置用部材であって、気孔率が3〜10%で、かつ少なくとも腐食性ガスに曝される表面の表面粗さRaが3〜500μm(表面粗さRa3μmを除く)であるセラミックス焼結体からなり、前記セラミックス焼結体の主要構成相は、アルミナ、窒化アルミニウム、およびイットリウム-アルミニウム-ガーネットから選択されたものであることを特徴とする半導体製造装置用部材。
【請求項3】曲率半径R1が300mm以上の第1の球面部と、この第1の部分の端部に連続し、かつ曲率半径R2が10mm以上の第2の球面部とからなる曲面形状部を主体とし、前記第1の球面部および第2の球面部のいずれか一方が他方に内接しており、この曲面形状部の肉厚が5〜15mmの範囲にあることを特徴とする請求項2に記載の半導体製造装置用部材。
【請求項4】前記セラミックス焼結体の主要構成相がイットリウム-アルミニウム-ガーネット焼結体であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の半導体製造装置用部材。
【請求項5】腐食性ガスを用いて処理を行う半導体製造装置に使用される半導体製造装置用部材であって、気孔率が3〜10%、かつ表面粗さRaが3〜500μmである、イットリウム-アルミニウム-ガーネット焼結体であり、部材中のSiO2量が0.15重量%を超え、10重量%以下であることを特徴とする半導体製造装置用部材。」
(2)取消しの理由の概要
[理由1]
本件特許明細書には、記載不備があるから、訂正前の本件の請求項1ないし5の発明に係る特許は、特許法第36条第4項乃至第6項の規定に違反してされたものである。

[理由2]
訂正前の請求項1ないし2に係る発明は、先願明細書1に、また、同請求項1に係る発明は、先願明細書2に記載された発明と同一であるから、訂正前の請求項1あるいは2に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである
[先願明細書]
先願明細書1:特願平10-240887号の願書に最初に添付した明細書及び図面(特開2000-72529号公報、甲第5号証)
先願明細書2:特願平10-255162号の願書に最初に添付した明細書(特開2000-91171号公報、参考資料3)

[理由3]
(i)訂正前の請求項1ないし2に係る発明は、引用例1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。
(ii)訂正前の請求項1ないし5に係る発明は、引用例1ないし6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
[引用例]
引用例1:特開平11-21662号公報〔参考資料1〕
引用例2:特開平6-196421号公報〔参考資料2〕
引用例3:特開平10-163180号公報〔甲第1号証〕
引用例4:特開平10-45467号公報〔甲第2号証〕
引用例5:特開平6-135786号公報〔甲第3号証〕
引用例6:特開平10-258227号公報〔甲第4号証〕

(3)異議申立ての理由の概要
取消しの理由の概要と同旨である。

(4)引用例等の記載事項
先願明細書1(特開2000-72529号公報)には、次の事項が記載されている。
「プラズマ処理装置の反応室内で用いられ、平均結晶粒径が18〜45μm、表面粗さがRaで0.8〜3.0μm、かさ密度が3.90g/cm3以上の緻密質アルミナ焼結体であることを特徴とする耐プラズマ部材。」(特許請求の範囲の請求項1)
「また、アルミナ焼結体の表面粗さはRaで0.8〜3.0μmとする。表面粗さがRaで0.8μmより小さい場合は熱サイクルに伴って発生する熱応力を緩和することができず付着膜は容易に剥離する。
即ち、プラズマエッチング装置は、放電と被処理体としての半導体ウェーハの交換を繰り返して運転される。また、ウェーハのレジスト膜や側壁保護膜を守るために半導体ウェーハは常に冷却されている。従って、装置内の半導体ウェーハ周辺の部材は、放電とそれに伴うイオン衝撃による加熱、放電停止、ウェーハの移動及び載置による温度降下といった熱サイクルを繰返し受けるものである。こうした熱サイクルによる応力を緩和し、ポリマー付着膜の剥離を防ぐにはアルミナ焼結体の表面粗さの下限をRaで0.8μmとすることが必要である。」(段落【0019】〜【0020】)
「また、アルミナ焼結体は、緻密質でないと強度が低下しエッチングの際のイオン衝撃によりアルミナ粒子の脱落が生じたりするので、アルミナ焼結体のかさ密度は3.90g/cm3以上であることが必要である。」(段落【0024】)

先願明細書2(特開2000-91171号公報)には、次の事項が記載されている。
「上記の工程では、一般に、ウェハ100枚以上が装填されたボートをヒーターを備えた反応炉に入れて各処理を行うバッチ処理が採られているが、このような処理では、反応炉の位置によって温度差があったり、原料ガスの濃度が不均一になる等の問題がある。このため、温度や原料ガスの濃度等の処理条件が反応炉内の他の箇所の処理条件と異なるおそれのある箇所に、製品ウェハとしては用いないダミーウェハを設置して、各ダミーウェハ上に積層された薄膜の厚みや成分等が同じであるか否かによって、処理条件の均一性を評価している。また、このダミーウェハは、エッチング処理装置におけるプラズマ処理条件を検討したり、装置内に発生したパーティクルを除去したりするためにも使用される。このような目的で用いられるダミーウェハは、高温下で反復して使用されたり、また、ダミーウェハ上に形成された被膜を除去することによって反復使用を可能にするために酸で繰り返し処理される。」(段落【0003】)
「本発明のダミーウエハは、厚みが、0.5〜1.0mm、直径が、75〜500mm、表面粗さ(Ra)が、0.01〜10μmになるように、反応焼結法により得られた窒素含有炭化ケイ素焼結体を、放電加工、研磨加工、洗浄等の処理を施すことが好適である。」(段落【0065】)
【表1】の抜粋
炭化ケイ素焼結体の諸特性
気孔率 実施例1;0.89、実施例2;0.93(段落【0078】)

引用例1(特開平11-21662号公報)には、次の事項が記載されている。
「【発明の属する技術分野】
本発明は、LCD(液晶表示装置)、PDP(プラズマディスプレイパネル)、タッチパネル、パネルヒーター等の装置に組み込まれるITO(インジウムスズオキサイド)、Cr、SiO2等の膜を有する基板の製造や半導体の製造に不可欠な、CVD法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等を用いた成膜装置に用い、成膜対象物以外にターゲット材料が付着するのを防止する防着板に関する。」(段落【0001】)
「【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明の目的は、ターゲット材料が強固に付着し、脱落せず、不純物が製品の膜を汚染せず、かつあらゆる成膜装置に適用できる防着板を提供することにある。」(段落【0007】)
「また、本発明の防着板は、その空隙率が1〜20%であることが必要である。空隙率が1%未満の場合は、熱膨張係数が上記の範囲内であっても、膜のアンカー効果は少ない。すなわちターゲット材料と防着板との界面強度が弱いために、場合によっては防着板からの膜剥離を生じてしまうこともある。逆に20%を超える場合は、アンカー効果が強く膜の保持力は十分であるが、防着板からの脱ガスによる真空度低下及び不純物成分発生による基板等の混濁、防着板の大型・複雑形状化に伴う材料強度維持困難などの問題が生じるため好ましくない。より好ましい防着板の空隙率は2〜15%であり、特に好ましくは3〜10%である。」(段落【0014】)
「実施例1
出発原料として天然鉱物であるαスポジューメン(Li2O:7.5重量%、Al2O3:25.0重量%、SiO2:62.5重量%、その他:5.0重量%)を15重量%、αウォラストナイト(CaO:42.7重量%、SiO2:53.4重量%、その他:3.9重量%)を85重量%用い、水を溶媒にしたボールミルにて平均粒度2.5μmに湿式粉砕した。このスラリーに結合剤として2重量%のPVAを加え、スプレードライヤーにて造粒した後、型に入れ1トン/cm2で成形体を作製し、5℃/分の速度で1140℃まで昇温し1時間保持後炉冷した。
この焼結体の熱膨張係数は室温〜500℃で6.5〜9.5×10-6/℃、空隙率は18.7%、表面は焼き放しで面粗さはRmax=11.6μmであった。粉末X線回折装置(リント:リガク(株))により主結晶相を確認したところ、αウォラストナイトとスポジューメンは相転移したβスポジューメンであった。」(段落【0026】〜【0027】)
「実施例6
母材として空隙率約10%の市販のアルミナを用いた以外は、実施例1と同様にして防着板を製造した。」(段落【0035】)
【表1】の抜粋
実施例6:化学組成;アルミナ、空隙率%;10、面粗さRmax;15.3(段落【0046】)

引用例2(特開平6-196421号公報)には、次の事項が記載されている。
「【従来の技術】
電子サイクロトロン共鳴(以下ECRという)を利用したプラズマ装置は、低いガス圧で電離度が高いプラズマを生成でき、イオンエネルギの広範な選択が可能であり、イオンの指向性及び均一性に優れる等の利点を有していることから、高集積半導体素子の製造における薄膜形成またはエッチング等のプロセスには欠かせないものとして研究,開発が行われている。」(段落【0002】)
「【発明が解決しようとする課題】
ところでECRプラズマ装置では、試料表面を加工するのと並行してプラズマ中のイオン及び試料が反応してその生成物が試料室の壁面に堆積し、これが剥離して微小異物であるパーティクルとなって試料上に落下し、試料の加工不良を引き起こす。これに対して従来の装置では、前述した防着板の表面の凹凸に生成物を強固に付着させることにより、生成物の剥離を防止してパーティクルの発生を抑制している。」(段落【0007】)
「【作用】
第1の発明のプラズマ装置は、プラズマ生成室に堆積物をその内面に付着させる粗面加工されたベルジャを配設してあるため、堆積物を付着し、付着した堆積物がベルジャから剥離することを防止してパーティクルの発生を抑制する。また第2の発明のプラズマ装置は、プラズマ生成室内に配設されたベルジャ及び試料室内に配設された防着板を加温する手段を備えるため、プラズマ処理の開始前から終了後のまでの間ベルジャ及び防着板を加温することによって、プラズマ処理の開始時及び終了時にあってはこれらの温度変化を緩和して堆積物の剥離を防止し、またプラズマ処理時にあっては堆積物の付着を抑制する。更に第3の発明のプラズマ装置は、第1の発明に係る粗面加工されたベルジャと第2の発明に係るベルジャ及び防着板を加温する手段とを備えるため、前記両作用を営んで更にパーティクルの発生を抑制する。
【実施例】
以下本発明をその実施例を示す図面に基づいて具体的に説明する。図1は本発明に係るECRプラズマ装置の例を示す模式的断面図であり、図中1は円筒状のプラズマ生成室である。プラズマ生成室1の下方には試料室3が連接されており、プラズマ生成室1の上部壁中央にはここを封止する石英ガラスのマイクロ波導入窓1aが、また試料室3との間を仕切る下部壁中央には前記マイクロ波導入窓1aと対向する位置に円形のプラズマ引出窓1bがそれぞれ備えられている。プラズマ生成室1内には、その上部壁から側壁にわたって石英ガラス容器の内面をフロスト処理して粗面加工されたベルジャ4が配設されており、またプラズマ生成室1の外側にはこれを加温する上部加温壁6が周設されている。上部加温壁6は2重構造となっており、上端に接続された供給管6a及び排出管6bから温流体を給排してプラズマ生成室1の外面及びベルジャ4を加温すべくなされている。」(段落【0013】〜【0014】)
「このような装置にて試料S表面を加工する場合は、供給管6a,7a及び排出管6b,7bから温流体を上部加温壁6及び下部加温壁7内に循環させて、ベルジャ4及び防着板5を所定温度に加温した後、排気管11からの吸引にて所要の真空度に設定したプラズマ生成室1及び試料室3にガス供給管9より反応ガスを供給し、励磁コイル12にて磁界を形成しつつプラズマ生成室1内にマイクロ波を導入してプラズマを生成し、生成したプラズマを励磁コイル12にて形成される発散磁界によって試料室3内の載置台8上の試料S周辺に導き、試料S表面に成膜及びエッチング等の処理を施す。
図2は本発明に係るベルジャの表面の粗さを測定した結果を示すグラフであり、その表面を段差計にて測定したものである。図2から明らかな如く本発明に係るフロスト処理したベルジャの表面粗さは、前述した従来の処理していないベルジャの場合の0〜0.6kÅ(図7参照)と比べて±80kÅと大幅に粗くなっており、また大きな凹凸及びその間にある細かい凹凸が共に密に存在している。従ってフロスト処理したベルジャ4は、プラズマ生成室1で生じる生成物をこの表面の凹凸に強固に付着させることができるため、付着した生成物の剥離を防止してパーティクルの発生を抑制する。」(段落【0018】〜【0019】、図1、図2参照)

引用例3(特開平10-163180号公報)には、次の事項が記載されている。
「【請求項1】
被加工物に処理を施して電子デバイスを製造するための電子デバイスの製造装置であって、内部の雰囲気を上記被加工物を処理するための雰囲気に保持できるように構成されたチャンバーと、上記チャンバー内に配設され、上記被加工物を設置するための被加工物設置部と、上記チャンバーの天井部の内面に形成され、上記被加工物を処理する際に発生した生成物の付着を強化する機能を有し、かつその機能を天井部のクリーニング後にも維持できる平均表面粗さRaに仕上げられた微少凹凸部とを備えていることを特徴とする電子デバイスの製造装置。
【請求項2】
請求項1記載の電子デバイスの製造装置において、上記天井部は、石英ガラスにより構成されており、上記微少凹凸部の平均表面粗さRaは、0.2〜5μmであることを特徴とする電子デバイスの製造装置。」(特許請求の範囲の請求項1〜2)
「【発明の属する技術分野】
本発明は、チャンバ内でドライエッチング,スパッタリング,CVD等の処理を行うようにした電子デバイスの装置及び電子デバイスの製造方法に関するものである。」(段落【0001】)
「ここで、本実施形態の特徴は、石英天板10の表面が平滑でなく、わざと微少な凹凸を生ぜしめている点、言い換えると表面粗さを大きくしている点である。すなわち、一般的に用いられている石英天板の表面は、非常に平滑であるつまり表面粗さがきわめて小さいのに対し、本実施形態では、石英天板10のチャンバー内に露出している表面を粗くする処理を施している。このような粗い表面を形成するための処理としては、例えばサンドブラストや、粗い砥粒を使用した研削などがある。そして、このような表面処理により、石英天板10の下面に微少凹凸部を形成し、この微少凹凸部によって石英天板10にデポ物21の付着を強化する機能を与えている。また、このような機能が石英天板10のクリーニング後にも安定して維持されるようにしている。以下、これらの機能に関して行った実験結果について説明する。」(段落【0045】)
「平滑な表面を有する天板を装着したドライエッチング装置では、石英天板の下面において、デポ物の一部が塊状に脱落してパーティクルとなってチャンバー内に浮遊することから、ウエハに付着する異物の数が多い。それに対し、本実施形態によると、チャンバー1内に設置される石英天板10の表面が粗く仕上げられていることから、石英天板10の表面とデポ物21との密着性を高く維持することができる。したがって、第1に、生じた生成物を石英天板10の表面にデポ物21として付着させる機能が高いので、その分、チャンバー1内に浮遊するパーティクルの数を抑制することができる。第2に、いったん石英天板10の表面に形成されたデポ物21が塊状に脱落する抑制することができるので、チャンバー1内に浮遊するパーティクルの数をさらに低減することができる。よって、よりクリーンなドライエッチングプロセスを実現することが可能となる。
なお、石英天板10の表面粗さを粗くすることによって、石英天板の10の表面積が増大するので、その結果、生成物を付着する面積が増大することによっても、チャンバー1内に浮遊するパーティクルを低減する効果が生じているものと思われる。」(段落【0050】〜【0051】)
「[上記実験を総合して得られた微少凹凸部の最適な表面粗さ]
以上の結果を総合すると、石英天板の最適な表面粗さは、最大表面粗さRmaxよりも平均表面粗さRaがどの範囲にあるかに強く依存している。そして、使用中におけるデポ物の付着強化機能とクリーニング後におけるこの機能の低下の防止という2つ観点から見て、石英天板の平均表面粗さRaが0.2〜5μmの範囲にあることが好ましく、さらに平均表面粗さRaが1〜2μmの範囲にあることがもっとも好ましい。」(段落【0059】)

引用例4(特開平10-45467号公報)には、次の事項が記載されている。
「フッ素系腐食ガス或いはそのプラズマに曝される部位が,周期律表3a族金属と、Al及び/又はSiを含む複合酸化物からなることを特徴とする耐食性部材。」(特許請求の範囲の請求項1)
「【発明の属する技術分野】
本発明は、特にフッ素系腐食性ガスおよびフッ素系プラズマに対して高い耐食性を有する、プラズマ処理装置や半導体製造用又は液晶用プラズマプロセス装置の内の内壁材や治具等、放電管、メタルハライド等のランプ等の放電壁として使用される耐食性部材に関するものである。」(段落【0001】)
「また、複合酸化物としては、上記の少なくとも2種の金属元素を含むガラス、セラミック焼結体の他、単結晶であってもよいが、セラミック焼結体の場合には、粒界に析出した粒界相の耐食性が主結晶粒子より著しく劣る場合、粒界相が選択的に腐食され、脱粒、パーティクル発生の原因となる。そのため、フッ素に腐食されやすいSi、Ge、Mo、Wの粒界中の含有量は全量中1重量%以下に抑えることが好ましい。これらのフッ素に腐食されやすい元素が主結晶粒子内に固溶して粒界に存在しない場合はこの限りでない。
複合酸化物は、望ましくは、結晶質を主体とすることがよく、特にYAG(3Y2O3・5Al2O3)などのガーネット型結晶、YAM(2Y2O3・Al2O3)などの単斜晶型結晶、YAP(Y2O3・Al2O3)などのペロブスカイト型結晶、モノシリケート(Y2O3・SiO2)、ダイシリケート(Y2O3・2SiO2)などのシリケート化合物を主体とするものが優れた耐食性を有する点で望ましい。これらの中でもガーネット型結晶、ダイシリケート型結晶が焼結性と製造コストが安価である点で最も望ましい。」(段落【0015】〜【0016】)
「【実施例】
各種酸化物粉末を用いて、表1〜表3に記載の各種の材料を作製した。表1中、試料No.1〜5は、表1の希土類酸化物とSiO2及び/またはAl2O3との混合物を2000℃で溶融した後、急冷してガラス化したものである。試料No.6、7はY2O3とSiO2を所定の割合で混合した成形体を1300〜1600℃で焼成したものである。試料No.8〜13は、Y2O3とAl2O3との混合物からなる成形体を1600〜1900℃の酸化性又は真空雰囲気で焼成したものである。試料No.14、15は表1の希土類酸化物とAl2O3との混合物からなる成形体を1400〜1750℃で焼成したものである。試料No.16、17は、Sc2O3とAl2O3をターゲットとしてスパッタ法によって作製したものである。なお、焼結体はいずれも相対密度95%以上まで緻密化した。」(段落【0019】)

(段落【0022】)

引用例5(特開平6-135786号公報)には、次の事項が記載されている。
「【従来の技術】
セラミック部材は、各種の方面において使用されているが、半導体製造プロセスにおいては、従来、石英ガラスまたは炭化珪素の部材が多用されてきた。半導体製造では汚染問題が重要課題であって、従来の部材を形成する石英ガラスや炭化珪素は高純度であり、半導体シリコンウェハと同一元素のSi、C、Oが主成分であり、シリコンの汚染が少ないとされているためである。しかし、最近になって、プラズマ励起CVD、プラズマ励起エッチング等半導体製造プロセス技術の低温化の進歩により、従来の高温操作とは異なり、セラミック部材からの不純物放出による汚染度が少なくなった工程において、上記石英ガラス等以外の、アルミナ等の一般的な無機酸化物セラミックスの使用が急増している。また、従来から半導体製造プロセスでも室温付近で使用される搬送部材としては、通常の無機酸化物セラミックスが、その高い剛性、低比重、耐摩粍性、耐薬品性、耐酸化性等の機能を利用して多用されてきている。
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、通常のセラミックスを機構部材として使用するためには高い精度が必要で、焼成したままで使用する場合もあるが、ダイヤモンドグラインダー等で研削加工して使用することが増えてきている。このような研削加工したセラミック部材を使用した場合、半導体製造プロセスの低温操作工程においても、条件によっては汚染問題が発生し、例えば、セラミック部材からのガス放出、接触物が摩耗されて生じたパーティクル発生、セラミック部材からの微量汚染物の放出等の汚染問題が増大して問題なっている。本発明は、特に、一般的なセラミックスから形成されたセラミック部材を用いた場合の上記問題を解決し、半導体製造装置で使用しても汚染源を構成しないセラミック部材の提供を目的とする。」(段落【0002】〜【0003】)
「本発明の半導体製造装置用セラミック部材は、上記した研磨方法として、特殊な化学研磨を適用して得ることができる。本発明のセラミック部材は、アルミナ、ジルコニア等の公知のセラミックスの緻密質多結晶焼結体を原材料として、目的の部材形状に形成して用いることができる。半導体製造装置用部材としては、通常、アルミナが一般的であり、特に、機械的強度や汚染の問題等から気孔率が約3%以下のアルミナ質緻密質多結晶が好ましい。」(段落【0014】)
「【実施例】
以下、本発明を実施例に基づき、更に詳細に説明する。但し、本発明は下記実施例により制限されるものでない。なお、下記実施例において、特に断らない限りは、重量基準で記載する。
実施例1及び比較例1
フランジ外径240mmφ、半球部内径190mmφ、高さ120mm、肉厚2mmの透光性アルミナセラミックス質ベルジャーを化学研磨した。加熱炉は、内径500mmφ、加熱長500mmの炉であり、最高温度は1200℃に設定してある。ホウ酸ナトリウム粉50部をアセトン100部中に分散しスリップ状とし、この中に上記セラミックベルジャーを浸漬させた。その後、直にセラミックベルジャーを空中に取り出し室温にてアセトンを蒸発させ、セラミックベルジャー表面にホウ酸ナトリウム粉が約1mmの厚さで、ほぼ均一に被覆させた。得られたホウ酸ナトリウム被覆ベルジャーをアルミナ質の治具で保持し、上記炉内に挿入し、30分間で1200℃に温度上昇させて加熱した。また、昇温中800℃から治具を1回/分で回転させ、1200℃で10分保持した後、同等の冷却速度で冷却した。セラミックベルジャー全体がほぼ室温になったところで、炉および治具より取り外した。次いで、上記のセラミックベルジャーを、60℃の5%の塩酸水溶液中に投入し、12時間浸漬し、ホウ酸ナトリウムを溶解した。」(段落【0020】)

引用例6(特開平10-258227号公報)には、次の事項が記載されている。
「図12の多半径ドームシーリングは二つの半径を持ち、頂部の半径Rは15インチ(37.5cm)で、コーナーの半径rは2.5インチ(6.25cm)である。もう一つの実施例において、頂部の半径Rは13インチ(32.5cm)であり、一方コーナーの半径rは4インチ(10cm)である。注目するべきこととして、ウェーハの直径が大きくなるにつれて、より大きいチャンバサイズを収容するため、頂部の半径Rを大きくし、一方でrをほぼそのままとし、ウェーハのサイズとチャンバのサイズが大きくなるにつれて、多半径ドーム形シーリングのプロフィルを比較的平坦にすることができる。
本発明の一態様によれば、ウェーハ16の周辺の縁(エッジ)とウェーハ表面の面が交わるドーム12の内面の間には、約10cm(4インチ)のスペース、すなわち水平距離がある。これにより、実質的にエッジ効果のないウェーハの均一なプラズマ処理が保証される。用途によって、このスペースは、8cmから15cmまでの範囲とすることができるが、必ずしもこれに限定はしない。」(段落【0020】〜【0021】)

(5)対比・判断
本件発明の実施の形態について明細書には、次のように記載されている。「【発明の実施の形態】
以下、本発明について具体的に説明する。本発明の半導体製造装置用部材は、気孔率が10%以下(審決註「3〜10%」の意)で、かつ表面粗さRaが3〜500μmであるセラミックス焼結体からなるものであり、優れた耐食性を維持しつつ、パーティクルの発生が従来のものよりも少ない、半導体製造装置用部材として好ましい特性を有する。
このように、セラミックス焼結体の表面粗さRaを3μmより大きくすることにより、部材表面の凹凸が、表面に生成するハロゲン化膜や析出物に対するアンカー効果をもたらすため、ハロゲン化膜および析出物が剥離し難くなり、パーティクルの発生が低減される。すなわち、表面粗さRaが3μmより大きいことにより表面積が増加し、ハロゲン化膜や析出物を保持する部位が増加するため、これらが剥離し難くなる。また、Raが500μmを超えると、アンカー効果は十分であるが、エッチング速度が大きくなり、耐食性が多少低下するため好ましくない。
なお、Raを上記範囲にする方法としては、ブラストを始めとする各種加工処理が挙げられるが、最も好ましいのは焼結体焼き放し面で上記範囲にする場合である。焼き放しで上記範囲にならない場合は、成形体の段階で加工処理を施して、焼結後に上記範囲になるようにすればよい。焼き放し面が好ましい理由は、焼結体に加工処理して上記範囲にした場合、焼結体表面にマイクロクラックが誘起され、このクラックにプラズマ処理の際の電界が集中し、耐食性が低下するためである。したがって、焼結体加工で上記範囲のRaを得ようとする場合は、加工後に焼結体を加熱しクラックを閉塞させる、あるいは鈍化させるなどの熱処理を行うことが好ましい。
焼結体の表面粗さのみならず、部材を構成するセラミックス焼結体表面の気孔も上記アンカー効果に寄与する。すなわち、焼結体の表面に気孔が多めに存在することにより、ハロゲン化膜および析出物が気孔に食い込むようにして保持され、これらが剥離し難くなってパーティクルの発生が低減される。このようにアンカー効果に寄与するためには、焼結体の気孔率が3%以上であることが好ましい。
このようなアンカー効果は、気孔率が大きくなるほど増大するが、気孔率が10%を超えると、粒子同士のネック部での結びつきが弱くなり、粒子の脱落によりパーティクルの発生がかえって増大するばかりか、耐食性も低下する。したがって、焼結体の気孔率を10%以下(3〜10%)とする。
ところで、一般にプラズマエッチングによる耐食性は、表面の一部をポリイミドテープ、テフロンテープ等でマスキングした小片サンプルに上方からプラズマを照射し、エッチング後にマスキングを剥がし、生じた段差や面粗さなどの測定によってエッチング速度として評価される。こういった評価の場合、表面粗さRaが上記範囲ではRaが1μm以下の部材よりも耐食性が若干低下することは事実であり、また、気孔率を増加させることによって耐食性が若干低下することも事実である。しかしながら、このように表面粗さや気孔率を低下させても部材の寿命の点で問題になるほどには耐食性は低下せず、むしろこのような試験では評価することができないハロゲン化物膜や析出物の剥離によるパーティクルの発生を抑制することが重要なのである。本発明は、このように耐食性を多少犠牲にして、パーティクル発生の低減という半導体製造過程における大きな問題点の解決を図るものであり、総合的に見て大きな利点を有するものである。」(段落【0023】〜【0028】、【0055】【表1】参照)
上記の記載を参酌すると、本件発明は、表面粗さや気孔率を低下させても部材の寿命の点で問題になるほどには耐食性は低下しないことを知見し、その許容される範囲内でアンカー効果に寄与する表面粗さ及び気孔率(特に気孔率)を規定して、パーティクル発生の低減と長期間に亘る連続運転という課題の解決を図ろうとするものといえる。

ア.特許法第36条違反(理由1)について
申立人は、「本件明細書の【表1】(段落【0055】参照)では、本発明の実施例として気孔率が4.3〜8.8%、表面粗さRaが3.2〜6.7μmのものしか示されていない。気孔率については、【表1】では比較例として0.3〜1.4%のものが示されていることからすれば本来下限値が設定されるべきものであるにも関わらず請求項1あるいは2では気孔率の下限値がないので発明を特定するために必要と認める事項のすべてが記載されているものとはいえず、表面粗さRaについても、実施例として6.7μmが最大値となっており、比較例では0.8μm以下のものしか示されておらず、請求項1あるいは2の上限値である500μmの数値限定を示す根拠となる値が明確に示されておらず権利範囲が不明確である」(異議申立書第11頁下から9行〜第12頁第4行参照)旨主張している。
その点を検討すると、訂正請求により、段落【0026】の記載を根拠にして、本件発明1および2の気孔率は「3〜10%」と訂正されたので、「気孔率の下限値がない」点は解消された。また、「表面粗さRaの上限値である500μmの数値限定を示す根拠となる値」については、段落【0024】に、500μmを超えるとエッチング速度が大きくなることが示されており、表面粗さRaの上限値である500μmを示す根拠は明確に示されているといえる。
したがって、本件特許明細書には、記載不備があるとの上記主張は採用できない。

イ.特許法第29条の2違反(理由2)について
(i)先願明細書1に記載された発明について
本件発明1と先願明細書1に記載された発明とを対比する。
先願明細書1には、「プラズマ処理装置の反応室内で用いられ、平均結晶粒径が18〜45μm、表面粗さがRaで0.8〜3.0μm、かさ密度が3.90g/cm3以上の緻密質アルミナ焼結体であることを特徴とする耐プラズマ部材。」(特許請求の範囲の請求項1参照)と記載されている。
かさ密度が3.90g/cm3以上のアルミナ焼結体は、アルミナの理論密度を3.99g/cm3とした場合、アルミナ焼結体の相対密度は97.7%以上となることから、気孔率は2.3%以下となる。
それ故、本件発明1では、気孔率が3〜10%(気孔率10%を除く)、表面粗さRaが3〜500μm(表面粗さRa3μmを除く)であるのに対して、先願明細書1に記載された発明では、気孔率が2.3%以下、表面粗さRaが0.8〜3.0μmである点で少なくとも相違する。
同様に、本件発明2と先願明細書1に記載された発明とを対比すると、本件発明2では、気孔率が3〜10%、表面粗さRaが3〜500μm(表面粗さRa3μmを除く)点で少なくとも相違する。
したがって、本件発明1ないし2は、先願明細書1に記載された発明と同一ではない。

(ii)先願明細書2に記載された発明について
本件発明1と先願明細書2に記載された発明とを対比する。
先願明細書2には、「本発明のダミーウエハは、厚みが、0.5〜1.0mm、直径が、75〜500mm、表面粗さ(Ra)が、0.01〜10μmになるように、反応焼結法により得られた窒素含有炭化ケイ素焼結体を、放電加工、研磨加工、洗浄等の処理を施すことが好適である。」(段落【0065】参照)、【表1】に炭化ケイ素焼結体の気孔率が実施例1では、0.89%、実施例2では、0.93%(段落【0078】参照)のものが記載されている。
それ故、本件発明1では、気孔率が3〜10%(気孔率10%を除く)、であるのに対して、先願明細書2に記載された発明では、気孔率が0.93%以下である点で少なくとも相違する。
したがって、本件発明1は、先願明細書2に記載された発明と同一ではない。

ウ.特許法第29条第1項第3号、第2項違反(理由3)について
(i)特許法第29条第1項第3号について
[本件発明1について]
本件発明1と引用例1に記載された発明とを対比する。
本件発明1は、「腐食性ガスを用いて処理を行う半導体製造装置に使用される半導体製造装置用部材であって、気孔率が3〜10%(気孔率10%を除く)で、かつ表面粗さRaが3〜500μm(表面粗さRa3μmを除く)であるセラミックス焼結体からなり、前記セラミックス焼結体の主要構成相は、アルミナ、窒化アルミニウム、およびイットリウム-アルミニウム-ガーネットから選択されたものであることを特徴とする半導体製造装置用部材。」であり、「腐食性ガス雰囲気に対して十分な耐食性を有するとともに、パーティクルの発生が少ない半導体製造装置用部材を提供することを目的とする。」(段落【0014】参照)ものである。
これに対して、引用例1には、「【発明の属する技術分野】本発明は、LCD(液晶表示装置)、PDP(プラズマディスプレイパネル)、タッチパネル、パネルヒーター等の装置に組み込まれるITO(インジウムスズオキサイド)、Cr、SiO2等の膜を有する基板の製造や半導体の製造に不可欠な、CVD法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等を用いた成膜装置に用い、成膜対象物以外にターゲット材料が付着するのを防止する防着板に関する。」(段落【0001】参照)、「【発明が解決しようとする課題】従って、本発明の目的は、ターゲット材料が強固に付着し、脱落せず、不純物が製品の膜を汚染せず、かつあらゆる成膜装置に適用できる防着板を提供することにある。」(段落【0007】参照)」と記載されており、本件発明1は、「腐食性ガスを用いて処理を行う半導体製造装置に使用される半導体製造装置用部材」と腐食性ガス環境下で使用するものであるのに対して、引用例1に記載された発明は、「成膜対象物以外にターゲット材料が付着するのを防止する防着板」と腐食性ガス環境下での使用を全く想定するものでない点で相違する。
したがって、本件発明1は、引用例1に記載された発明ではない。

[本件発明2について]
本件発明2と引用例1に記載された発明とを対比する。
本件発明2では、「その中で腐食性ガスを用いて処理を行う半導体製造用処理容器の一部または全部として使用される半導体製造装置用部材」と腐食性ガス環境下で使用するものであるのに対して、引用例1に記載された発明は、「成膜対象物以外にターゲット材料が付着するのを防止する防着板」と腐食性ガス環境下での使用を全く想定するものでない点で相違する。
したがって、本件発明2は、引用例1に記載された発明ではない。

(ii)特許法第29条第2項について
[本件発明1について]
本件発明1と引用例4に記載された発明とを対比する。
引用例4には、次の記載がある。
「【発明の属する技術分野】本発明は、特にフッ素系腐食性ガスおよびフッ素系プラズマに対して高い耐食性を有する、プラズマ処理装置や半導体製造用又は液晶用プラズマプロセス装置の内の内壁材や治具等、放電管、メタルハライド等のランプ等の放電壁として使用される耐食性部材に関するものである。」(段落【0001】)、「複合酸化物は、望ましくは、結晶質を主体とすることがよく、特にYAG(3Y2O3・5Al2O3)などのガーネット型結晶を主体とするものが優れた耐食性を有する点で望ましい。」(段落【0016】参照)、
「【実施例】各種酸化物粉末を用いて、各種の材料を作製した。表1中、試料No.8〜13は、Y2O3とAl2O3との混合物からなる成形体を1600〜1900℃の酸化性又は真空雰囲気で焼成したものである。なお、焼結体はいずれも相対密度95%以上まで緻密化した。」(段落【0019】)、表1の試料10、11には、Y3Al5O12(YAG)焼結体が、同試料22〜25には、Al2O3焼結体、AlN焼結体が記載されている。
それ故、引用例4には、「腐食性ガスを用いて処理を行う半導体製造装置に使用される半導体製造装置用部材であって、セラミックス焼結体からなり、前記セラミックス焼結体の主要構成相は、アルミナ、窒化アルミニウム、およびイットリウム-アルミニウム-ガーネットから選択されたものであることを特徴とする半導体製造装置用部材。」が記載されている点で本件発明1と一致するが、本件発明1では、該焼結体の気孔率が3〜10%(気孔率10%を除く)で、かつ表面粗さRaが3〜500μm(表面粗さRa3μmを除く)とするのに対して、引用例4には、焼結体はいずれも相対密度95%以上まで緻密化したと、気孔率を5%以下とすることが示唆されているが、表面粗さRaについては記載されていない点で相違する。
その相違する点について検討する。
引用例1には、気孔率及び表面粗さRaについて、一部本件発明1の数値範囲を包含する記載があるとしても、引用例1記載の発明は、前述のように腐食性ガスを扱うものではないから、本件発明1のような腐食性ガスを用いて処理を行う半導体製造装置に使用される半導体製造装置用部材に、引用例1記載の気孔率及び表面粗さRaの中で、本件発明1で規定する数値範囲を選択し適用するようにすることが当業者に容易になし得る事項とはいえないし、また、引用例2記載の発明では、ベルジャの表面の凹凸を±80kÅ(8μm)とすることは記載されている(段落【0019】参照)ものの、該ベルジャで唯一例示されているのは石英ガラスであり(段落【0014】参照)、気孔率は0%に近いと推認されるし、引用例3、5、6にも表面粗さRaについては本件発明1を満たすものはあるとしても、緻密な焼結体を指向するもので、気孔率を含めて本件発明1の数値範囲を同時に満たすものは見あたらない。
そして、本件発明1では、上記の相違点を採用することにより、「処理容器内面からのハロゲン化物および析出物の脱落にともなうパーティクルの発生を抑制し、半導体製造装置を長期間に亘って連続運転することが可能となる。」(段落【0036】等参照)という効果を奏することは格別なものである。
したがって、本件発明1は、引用例1ないし6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

[本件発明2について]
本件発明2は、本件発明1の「腐食性ガスを用いて処理を行う半導体製造装置に使用される半導体製造装置用部材」をさらに限定して「その中で腐食性ガスを用いて処理を行う半導体製造用処理容器の一部または全部として使用される半導体製造装置用部材」とするものあるから、本件発明1と同じことがいえる。
したがって、本件発明2は、引用例1ないし6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

[本件発明3について]
本件発明3は、先行する本件発明2を引用して、さらに半導体製造装置用部材の形状を規定するものであるから、本件発明2と同じことがいえる。
したがって、本件発明3は、引用例1ないし6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

[本件発明4について]
本件発明4は、先行する本件発明1ないし3を引用して、さらにセラミック焼結体の主要構成相をイットリウム-アルミニウム-ガーネット焼結体に限定するものであるから、本件発明1ないし3と同じことがいえる。
したがって、本件発明4は、引用例1ないし6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

[本件発明5について]
本件発明5は、実質的に本件発明1と発明を特定する事項が共通し、さらに、イットリウム-アルミニウム-ガーネット焼結体のSiO2の量を0.15重量%を超え、10重量%以下と規定するものであるから、本件発明1と同じことがいえる。
したがって、本件発明5は、引用例1ないし6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(6)むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては本件発明1ないし5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
半導体製造装置用部材
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】腐食性ガスを用いて処理を行う半導体製造装置に使用される半導体製造装置用部材であって、気孔率が3〜10%(気孔率10%を除く)で、かつ表面粗さRaが3〜500μm(表面粗さRa3μmを除く)であるセラミックス焼結体からなり、前記セラミックス焼結体の主要構成相は、アルミナ、窒化アルミニウム、およびイットリウム-アルミニウム-ガーネットから選択されたものであることを特徴とする半導体製造装置用部材。
【請求項2】その中で腐食性ガスを用いて処理を行う半導体製造用処理容器の一部または全部として使用される半導体製造装置用部材であって、気孔率が3〜10%で、かつ少なくとも腐食性ガスに曝される表面の表面粗さRaが3〜500μm(表面粗さRa3μmを除く)であるセラミックス焼結体からなり、前記セラミックス焼結体の主要構成相は、アルミナ、窒化アルミニウム、およびイットリウム-アルミニウム-ガーネットから選択されたものであることを特徴とする半導体製造装置用部材。
【請求項3】曲率半径R1が300mm以上の第1の球面部と、この第1の部分の端部に連続し、かつ曲率半径R2が10mm以上の第2の球面部とからなる曲面形状部を主体とし、前記第1の球面部および第2の球面部のいずれか一方が他方に内接しており、この曲面形状部の肉厚が5〜15mmの範囲にあることを特徴とする請求項2に記載の半導体製造装置用部材。
【請求項4】前記セラミックス焼結体の主要構成相がイットリウム-アルミニウム-ガーネット焼結体であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の半導体製造装置用部材。
【請求項5】腐食性ガスを用いて処理を行う半導体製造装置に使用される半導体製造装置用部材であって、気孔率が3〜10%、かつ表面粗さRaが3〜500μmである、イットリウム-アルミニウム-ガーネット焼結体であり、部材中のSiO2量が0.15重量%を超え、10重量%以下であることを特徴とする半導体製造装置用部材。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ハロゲン系ガスなどから高周波やマイクロ波により発生させたプラズマなどの腐食性ガスにより、半導体ウェハに対して所定の処理を行う半導体製造装置に用いられる、半導体製造装置用部材に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、半導体製造プロセスにおいて、ハロゲン系ガスなどの雰囲気中に、高周波やマイクロ波を導入して発生するプラズマなどの腐食性ガスの使用が増加している。このような腐食性ガスは反応性が高く、腐食性ガスを用いて所定の処理を行う半導体製造装置における、腐食性ガスに曝される部分の部材には、ある程度の部材寿命を確保するため、高い耐食性が要求される。このような高い耐食性が要求される部材の代表的なものとして、ベルジャー等の処理容器、静電チャック、サセプター、クランプリング等が挙げられる。
【0003】
一方、半導体製造過程では、半導体ウェハへのパーティクル汚染という別な問題が存在し、半導体製造装置の部材には、高い耐食性と同時に、部材からのパーティクルが少ないといったことも要求されている。
【0004】
従来は、このような部材として、石英やステンレス鋼が用いられてきたが、上記腐蝕ガスに対する耐食性が不十分であるため部材寿命が短いという問題点を有している。
【0005】
そのため、石英やステンレス鋼に代わる耐食性の優れた部材として、アルミナや窒化アルミニウム、イットリウム-アルミニウム-ガーネット等のセラミックス焼結体が用いられつつある。
【0006】
半導体製造装置の運転中、ハロゲン化ガスのプラズマ等の腐食性ガスに曝された部材の表面部分では、部材と腐食性ガスとが反応してハロゲン化物となるため、部材表面にハロゲン化物の膜が形成される。このハロゲン化物は腐食性ガスに対して安定であるため、部材の腐食速度を低下させる働きがある。
【0007】
部材が石英などの場合は、表面に形成されたハロゲン化物の沸点が低く、速やかに揮発してしまうため、腐食が高速で進行してしまうが、アルミナや窒化アルミニウム、イットリウム-アルミニウム-ガーネット等のセラミックス焼結体では、部材表面に形成されるハロゲン化物の沸点が高く、この膜が腐食の進行を遅らせるため、石英などと比較して高い耐食性を有する。
【0008】
部材表面のハロゲン化物膜は、上述したように、腐食性ガスに対する反応性は低いが、それでも徐々に腐食は進行し、揮発性物質にまで分解され、表面から取り去られる。そして、新たな部材表面がむき出しとなり、そこが腐食性ガスと反応して、再びハロゲン化物膜が形成される。この一連の腐食メカニズムのうちで、腐食速度の律速段階となるのが、ハロゲン化物と腐食性ガスの反応速度である。したがって、生成するハロゲン化物膜の腐食性ガスとの反応性が低いものが耐食性に優れているということになる。
【0009】
一方、特開平10-45461号公報、特開平10-45467号公報、特開平10-236871号公報には、イットリウム-アルミニウム-ガーネット焼結体が優れた耐食性を有すること、およびよりよい耐食性を得るために、気孔率を3%以下、表面粗さRaを1μm以下にすることが開示されている。
【0010】
イットリウム-アルミニウム-ガーネットが耐食性に優れていることは、従来から知られているが、上記技術ではイットリウム-アルミニウム-ガーネット等において、上述したように、気孔率や表面粗さを小さくすることにより、特にフッ化物系ガスのプラズマに対する耐食性が高いものが得られるとしている。
【0011】
上記公報において、気孔率や面粗さを小さくするのは、面粗さRaが大きいとプラズマに曝される接触面積が増大し、凹凸の凸部にプラズマが集中し、また気孔率が大きいと気孔部分が選択的に腐食されることなどにより耐食性が低下するためとしている。このため、上記特開平10-45461号公報および特開平10-236871号公報では、Raが1μmの範囲内でも、特に鏡面処理によってRaを著しく小さくしたものがより良好な耐食性を示すことが記載されている。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、半導体製造装置の運転中、その中で使用されている部材の表面部分は、時間の経過とともに、前述した腐食性ガスと反応して形成されたハロゲン化物やウェハのエッチング処理等により蒸発した物質によって形成される析出物で覆われていくが、これらのハロゲン化膜や析出物は、ある程度の厚さにまで成長すると剥離しやすくなり、半導体製品に悪影響を与えるパーティクル発生の原因となる。特に、上述のように表面粗さRaが小さい場合にはこのような剥離が生じやすくなる。このため、高耐食性であると同時に、パーティクルの発生が少ない部材が求められている。
【0013】
また元来、セラミックス焼結体は、僅かな温度差で亀裂が発生するといういわゆる耐熱衝撃性の低い材料のため、プラズマ雰囲気が形成される処理容器のような温度差が発生する用途に適用することは困難である。
【0014】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであって、腐食性ガス雰囲気に対して十分な耐食性を有するとともに、パーティクルの発生が少ない半導体製造装置用部材を提供することを目的とする。また、このようなことに加え、熱衝撃に強い半導体製造装置用部材を提供することを目的とする。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、半導体製造装置用部材をセラミックス焼結体で構成するとともに、焼結体の気孔率の許容範囲をある程度大きくし、かつ面粗さを粗くすることにより、ハロゲン系ガスのプラズマ等の腐食ガスに対して十分な耐食性を維持しつつ、パーティクルが発生しにくくなることを知見した。そして、このような効果は、半導体製造装置用部材の中でも、特にその中で腐食ガスを用いて処理を行う半導体製造用処理容器の一部または全部として使用される場合に顕著であることを知見した。
【0016】
また、このような面粗さを維持しつつ、セラミックス焼結体としてイットリウム-アルミニウム-ガーネットを用いた場合に、このようなパーティクルの発生が少なくなり、特に、焼結体中のSiO2の量をある程度多くすることによりパーティクル抑制効果を一層高めることができることを知見した。
【0017】
さらに、セラミックス焼結体は一般的に耐熱衝撃性が低いが、部材の形状を工夫することで部材内に発生する熱応力を小さくすることができ、半導体製造装置用部材、特に処理容器用部材として十分な耐熱衝撃性が得られることを知見した。
【0018】
本発明はこのような知見に基づいてなされたものであり、第1発明は、腐食性ガスを用いて処理を行う半導体製造装置に使用される半導体製造装置用部材であって、気孔率が3〜10%(気孔率10%を除く)で、かつ表面粗さRaが3〜500μm(表面粗さRa3μmを除く)であるセラミックス焼結体からなり、前記セラミックス焼結体の主要構成相は、アルミナ、窒化アルミニウム、およびイットリウム-アルミニウム-ガーネットから選択されたものであることを特徴とする半導体製造装置用部材を提供する。
【0019】
第2発明は、その中で腐食性ガスを用いて処理を行う半導体製造用処理容器の一部または全部として使用される半導体製造装置用部材であって、気孔率が3〜10%で、かつ少なくとも腐食性ガスに曝される表面の表面粗さRaが3〜500μm(表面粗さRa3μmを除く)であるセラミックス焼結体からなり、前記セラミックス焼結体の主要構成相は、アルミナ、窒化アルミニウム、およびイットリウム-アルミニウム-ガーネットから選択されたものであることを特徴とする半導体製造装置用部材を提供する。
【0020】
第3発明は、第2発明において、曲率半径R1が300mm以上の第1の球面部と、この第1の部分の端部に連続し、かつ曲率半径R2が10mm以上の第2の球面部とからなる曲面形状部を主体とし、前記第1の球面部および第2の球面部のいずれか一方が他方に内接しており、この曲面形状部の肉厚が5〜15mmの範囲にあることを特徴とする半導体製造装置用部材を提供する。
【0021】
第4発明は、第1発明ないし第3発明のいずれかにおいて、前記セラミックス焼結体の主要構成相がイットリウム-アルミニウム-ガーネット焼結体であることを特徴とする半導体製造装置用部材を提供する。
【0022】
第5発明は、腐食性ガスを用いて処理を行う半導体製造装置に使用される半導体製造装置用部材であって、気孔率が3〜10%、かつ表面粗さRaが3〜500μmである、イットリウム-アルミニウム-ガーネット焼結体であり、部材中のSiO2量が0.15重量%を超え、10重量%以下であることを特徴とする半導体製造装置用部材を提供する。
【0023】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明の半導体製造装置用部材は、気孔率が10%以下で、かつ表面粗さRaが3〜500μmであるセラミックス焼結体からなるものであり、優れた耐食性を維持しつつ、パーティクルの発生が従来のものよりも少ない、半導体製造装置用部材として好ましい特性を有する。
【0024】
このように、セラミックス焼結体の表面粗さRaを3μmより大きくすることにより、部材表面の凹凸が、表面に生成するハロゲン化膜や析出物に対するアンカー効果をもたらすため、ハロゲン化膜および析出物が剥離し難くなり、パーティクルの発生が低減される。すなわち、表面粗さRaが3μmより大きいことにより表面積が増加し、ハロゲン化膜や析出物を保持する部位が増加するため、これらが剥離し難くなる。また、Raが500μmを超えると、アンカー効果は十分であるが、エッチング速度が大きくなり、耐食性が多少低下するため好ましくない。
【0025】
なお、Raを上記範囲にする方法としては、ブラストを始めとする各種加工処理が挙げられるが、最も好ましいのは焼結体焼き放し面で上記範囲にする場合である。焼き放しで上記範囲にならない場合は、成形体の段階で加工処理を施して、焼結後に上記範囲になるようにすればよい。焼き放し面が好ましい理由は、焼結体に加工処理して上記範囲にした場合、焼結体表面にマイクロクラックが誘起され、このクラックにプラズマ処理の際の電界が集中し、耐食性が低下するためである。したがって、焼結体加工で上記範囲のRaを得ようとする場合は、加工後に焼結体を加熱しクラックを閉塞させる、あるいは鈍化させるなどの熱処理を行うことが好ましい。
【0026】
焼結体の表面粗さのみならず、部材を構成するセラミックス焼結体表面の気孔も上記アンカー効果に寄与する。すなわち、焼結体の表面に気孔が多めに存在することにより、ハロゲン化膜および析出物が気孔に食い込むようにして保持され、これらが剥離し難くなってパーティクルの発生が低減される。このようにアンカー効果に寄与するためには、焼結体の気孔率が3%以上であることが好ましい。
【0027】
このようなアンカー効果は、気孔率が大きくなるほど増大するが、気孔率が10%を超えると、粒子同士のネック部での結びつきが弱くなり、粒子の脱落によりパーティクルの発生がかえって増大するばかりか、耐食性も低下する。したがって、焼結体の気孔率を10%以下とする。
【0028】
ところで、一般にプラズマエッチングによる耐食性は、表面の一部をポリイミドテープ、テフロンテープ等でマスキングした小片サンプルに上方からプラズマを照射し、エッチング後にマスキングを剥がし、生じた段差や面粗さなどの測定によってエッチング速度として評価される。こういった評価の場合、表面粗さRaが上記範囲ではRaが1μm以下の部材よりも耐食性が若干低下することは事実であり、また、気孔率を増加させることによって耐食性が若干低下することも事実である。しかしながら、このように表面粗さや気孔率を低下させても部材の寿命の点で問題になるほどには耐食性は低下せず、むしろこのような試験では評価することができないハロゲン化物膜や析出物の剥離によるパーティクルの発生を抑制することが重要なのである。本発明は、このように耐食性を多少犠牲にして、パーティクル発生の低減という半導体製造過程における大きな問題点の解決を図るものであり、総合的に見て大きな利点を有するものである。
【0029】
本発明の部材を構成するセラミックス焼結体としては、通常この分野で使用されているものを適用することができるが、ハロゲン系ガスなどのプラズマのような腐食性ガスに耐食性が高いAl2O3、AlN、Si3N4、SiC、イットリウム-アルミニウム-ガーネット(YAG)等が好適である。
【0030】
この中でもイットリウム-アルミニウム-ガーネットが特に好ましい。イットリウム-アルミニウム-ガーネット焼結体は、他のセラミックス焼結体と比較して特にパーティクルが少ないからである。これは、イットリウム-アルミニウム-ガーネットが腐食性ガスと反応して形成されたハロゲン化物が、他のセラミックス焼結体、例えばアルミナや窒化アルミニウムに形成されるハロゲン化物と比較して、腐食性ガスに対し、より安定であるためである。すなわち、前述したような、まず表面がハロゲン化膜に覆われ、それが腐食されてむき出しとなった部材表面に、再びハロゲン化物膜が形成されるという一連のサイクルがゆっくりであり、よってハロゲン化物膜が剥離してパーティクルを発生させる速度もゆっくりとしたものとなるからである。
【0031】
イットリウム-アルミニウム-ガーネット焼結体は、通常、焼結助剤としてSiO2等を添加し、焼結体の緻密化を図っているが、本発明のように焼結体の気孔率を10%以下の範囲で若干高めに設定する場合には、緻密化のための焼結助剤は本来不要である。しかし、焼結助剤を全く添加せずに、気孔率を10%の範囲内で若干高くしようとすると、粒子間のネック部分での結合が弱く、半導体製造装置用部材に用いると、腐食性ガスに曝されているときに、ネック部分が破壊されやすくなり、結果として脱粒によるパーティクルの発生が増加する。
【0032】
これに対して、SiO2を0.15重量%を超え10重量%以下の範囲で添加すると、焼結は液相焼結で進み、焼結体粒子は粒界部に残存した、イットリア-アルミナ-シリカ系ガラス相により、互いに強固に結びつけられるため、脱粒によるパーティクルの発生は大きく低下するのである。したがって、イットリウム-アルミニウム-ガーネット焼結体中のSiO2は、0.15重量%を超え10重量%以下の範囲であることが好ましい。
【0033】
このようなSiO2を0.15重量%を超え10重量%以下の範囲で添加したイットリウム-アルミニウム-ガーネット焼結体は、SiO2を0.15重量%以下としたものよりも耐食性が若干低下するのは事実である。しかし、SiO2を添加することにより粒界部分に存在することとなるイットリア-アルミナ-シリカ系ガラスは、イットリウム-アルミニウム-ガーネット粒子よりも若干劣るものの、比較的高い耐食性を有するため、部材寿命の点で問題になるほどには耐食性が低下しない。したがって、上述したようにSiO2を0.15重量%を超え10重量%以下の範囲で添加することにより、問題が生じない範囲で耐食性を多少犠牲にしつつも、半導体製造にとってより大きな問題であるパーティクルの発生をより一層低減することが可能となる。
【0034】
一方、イットリウム-アルミニウム-ガーネット焼結体中のSiO2の添加量を増加させてゆくと、粒界相であるイットリア-アルミナ-シリカ系ガラスのシリカの割合が大きくなり、イットリア-アルミニウム-シリカ系ガラスの耐食性が低下することにより、部材の耐食性が悪化し、SiO2の添加量が10重量%を超えると、耐食性が半導体製造装置部材として要求されるレベルを満たすことが困難となる。したがって、SiO2を添加する場合には、その添加量を10重量%以下とする。
【0035】
本発明が適用可能な半導体製造装置用部材としては、ベルジャー等の処理容器、静電チャック、サセプター、クランプリング等を挙げることができるが、本発明は、特に、処理容器に好適である。
【0036】
すなわち、気孔率が10%以下で、かつ少なくとも腐食性ガスに曝される表面の表面粗さRaが上記範囲のセラミックス焼結体により処理容器用部材を構成することにより、処理容器内面からのハロゲン化物および析出物の脱落にともなうパーティクルの発生を抑制し、半導体製造装置を長期間に亘って連続運転することが可能となる。この場合に、この処理容器用部材は、処理容器の全部を構成するものであってもよいし、処理容器の一部を構成するものであってもよい。
【0037】
処理容器の場合、その内面は下向きまたは垂直であるため、ハロゲン系のプラズマにより部材内面に生じるハロゲン化物膜、あるいは析出物は、運転の期間中常に膜の自重を受けることになる。このため他の部材に比較して、ハロゲン化物膜あるいは析出物がどれだけ強固に付着しているかがより重要な問題となる。
【0038】
すなわち、従来技術のようにRaが小さい部材で処理容器を構成した場合、ハロゲン化物膜や析出物が強固に付着しないため、運転中に膜ごと脱落して大量のパーティクルが発生する危険性が大きく、その結果、連続運転が難しいため生産性が大きく低下する原因となる。
【0039】
このように本発明を処理容器部材に適用する場合には、曲面形状部を主体とすることが好ましい。その理由としては、上述したようにセラミックス焼結体は一般的に耐熱衝撃性が低いため、例えば処理容器部材形状がシャープなエッジを有するような場合、熱応力がエッジ部に集中し、そこから破壊が生じる可能性が高いからである。このような熱応力破壊を回避するには、処理容器部材が曲面形状部を主体とし、その形状が曲率半径が300mm以上(曲率半径が無限大の場合、すなわち平面の場合も含む)の第1の球面部と、曲率半径が10mm以上の第2の球面部とからなり、これら第1の球面部および第2の球面部のいずれか一方が他方に内接していることが望ましい。
【0040】
具体的には、図1に示すように、処理容器部材1における第1の球面部2の曲率半径R1を300mm以上(無限大も含む)、第2の球面部3の曲率半径R2を10mm以上にし、これら球面部2,3のいずれか一方が他方に内接していることが望ましい。
【0041】
R1を300mm以上としたのは、300mm未満の場合、応力集中が生じやすい傾向があり、曲面にした効果が少なくなるからである。また、R2を10mm以上としたのは、10mm未満の場合、やはり応力集中が生じやすくなるためである。R2が10mm未満にした際に生じる応力集中は、特にR1が無限大の時に顕著である。第1の球面部および第2の球面部のいずれか一方が他方に内接していることとしたのは、このようにすることによりシャープなエッジが生じないからである。
【0042】
また、この曲面部分の肉厚は5〜15mmであることが好ましい。5mm未満の場合、耐熱衝撃性の観点からは望ましいが、セラミックス焼結体の機械的強度は必ずしも大きくないので、部材としての構造健全性に問題が残る。特に大型の処理容器部材の場合にはある程度の肉厚を有していないと強度不足が問題となるし、また熱膨張係数が比較的大きいため、温度差によって生じる固定部分などの熱応力が破壊の原因となる危険が大きいからである。一方、15mmを超える場合は、逆に機械的強度は十分であるが厚肉になっただけ耐熱衝撃性が低下し、熱応力による破壊が生じ易くなるためやはり好ましくない。
【0043】
次に、処理容器用部材としての適用例について説明する。
図2は本発明の部材が適用された誘導結合型プラズマエッチング装置を示す断面図である。図中参照符号10が本発明を適用した処理容器用部材である。この処理容器用部材10はドーム状をなし、その下に金属製の下部チャンバー11が処理容器用部材10に密着するように設けられており、これらによりチャンバー12が構成されている。下部チャンバー11内の上部には支持テーブル13が配置され、その上に静電チャック14が設けられており、静電チャック14上に半導体ウェハ15が載置される。静電チャック14の電極には直流電源16が接続されており、これにより半導体ウェハ15を静電吸着する。また、支持テーブル13にはRF電源17が接続されている。一方、下部チャンバー11の底部には真空ポンプ18が接続されており、チャンバー11内を真空排気可能となっている。また、下部チャンバー11の上部には半導体ウェハの上方にエッチングガス例えばCF4ガスを供給するガス供給ノズル19が設けられている。処理容器用部材10の周囲には誘導コイル20が設けられており、この誘導コイル20にはRF電源21から例えば400kHzの高周波が印加される。
【0044】
このようなエッチング装置においては、真空ポンプ18によりチャンバー12内を所定の真空度まで排気し、静電チャック14により半導体ウェハ15を静電吸着した後、ノズル19からエッチングガスとして例えばCF4ガスを供給しつつ、RF電源21からコイル20に給電することにより、半導体ウェハ15の上方部分にエッチングガスのプラズマが形成され、半導体ウェハ15が所定のパターンにエッチングされる。なお、高周波電源17から支持テーブル13に給電することにより、エッチングの異方性を高めることができる。
【0045】
このようなエッチング処理の際、処理容器用部材10の内面はプラズマアタックを受けるとともに、フッ化物膜等が付着する。しかしながら、処理容器用部材10は上述した本発明の部材で構成されているため、プラズマに対する耐食性が高いとともに、付着物が落下しにくい。
【0046】
本発明の処理容器用部材は、図2のような装置に限らず、図3に示すエッチング装置にも適用可能である。図3中、図2と同じものには同じ符号を付して説明を省略する。ここでは、処理容器用部材10の天壁中央部に、上方に延びるセラミック製のサブチャンバー22が設けられている。このサブチャンバー22の上部にはガス導入部25が設けられており、このガス導入部23からエッチングガスがサブチャンバー22へ導入される。サブチャンバー22の周囲には誘導コイル24が巻回されており、この誘導コイル24にはRF電源25から高周波が供給される。したがって、エッチングガスをガス導入部23からサブチャンバー22に導入するとともに、誘導コイル24に高周波を供給することにより、サブチャンバー22内でエッチングガスのプラズマが形成され、そのプラズマが半導体ウェハ15に供給されてエッチングされる。
【0047】
なお、本発明を処理容器用部材に適用する場合、その処理容器としては、上記エッチング用のものに限らず、CVD成膜等、腐食性ガスを用いる処理に用いられるものであればよい。
【0048】
【実施例】
以下、本発明の実施例について説明する。
(第1の実施例)
ここでは、半導体製造装置運転時のパーティクル発生量と、腐食性ガスによる腐食量から、半導体製造装置用部材としての評価を行った。
原料である複数種のセラミック粉末に、それぞれイオン交換水および分散剤を加え、ポットミル中で混合した。これにより形成されたスラリーをスプレードライヤーにて乾燥・造粒し、CIP成形にてクランプリング形状の成形体とした。この成形体を処理容器に対応した形状に加工し、1400〜1700℃で焼成し、試験用クランプリングとした。作製されたクランプリングを、平行平板型RIEエッチング装置に取り付け、試験運転を行った。試験運転では、エッチングガスとして、CF4およびO2を4:1の割合でチャンバー内に導入し、高周波により腐食性ガスであるプラズマを発生させた。100時間の連続運転後、6インチウェハ上のパーティクル数、クランプリングの腐食性ガスによる腐食量を調べることにより、半導体製造装置用部材としての評価を行った。その結果を表1に示す。
【0049】
実施例1,2は、気孔率が3%より大きく10%以下であり、かつ面粗さRaが3〜500μmであるイットリウム-アルミニウム-ガーネット(YAG)焼結体を主要構成相とする部材である。これらは、適度な面粗さと表面気孔の存在により、アンカー効果が発揮され、生成したハロゲン化膜、析出物の剥離が生じにくいため、パーティクルの発生が少なく、半導体製造装置用部材として優れた性質を有することが確認された。また、YAG焼結体の高い耐食性のため、他の材料よりもパーティクルの発生が少なく、半導体製造装置用部材として特に優れていることが確認された。
【0050】
実施例3,4は、気孔率が3%より大きく10%以下であり、かつ面粗さRaが3〜500μmであるアルミナ99.99%焼結体を主要構成相とする部材である。これらは、耐食性が実施例1,2よりも若干劣るものの、適度な面粗さと表面気孔の存在により、アンカー効果が発揮され、生成したハロゲン化膜、析出物の剥離が生じにくいため、パーティクルの発生が少なかった。
【0051】
実施例5,6は、気孔率が3%より大きく10%以下であり、かつ面粗さRaが3〜500μmであるアルミナ99.5%焼結体を主要構成相とする部材である。これらは、耐食性が実施例3,4よりもさらに劣るものの、適度な面粗さと表面気孔の存在により、アンカー効果が発揮され、生成したハロゲン化膜、析出物の剥離が生じにくいため、パーティクルの発生が少なく、その点では半導体製造装置用部材として好ましいものであった。
【0052】
比較例1,2,4,5,7,8は、面粗さが1μm以下である、YAG焼結体、アルミナ99.99%焼結体、アルミナ99.5%焼結体を主要構成相とする部材である。これらは、面粗さが小さすぎるため、有効なアンカー効果が発揮されず、生成したハロゲン化物膜、析出物の剥離が多く生じたため、パーティクルの発生数が多く、半導体製造装置部材としては好ましくないことが示された。
【0053】
比較例3,6,9は、気孔率が10%を超える、YAG焼結体、アルミナ99.99%焼結体、アルミナ99.5%焼結体を主要構成相とする部材である。これらは、気孔率が高すぎるため粒子同士の結びつきが弱く、脱粒が著しく、パーティクルの発生が多く耐食性も低い結果となり、半導体製造装置部材として好ましくないことが確認された。
【0054】
このように、気孔率が10%以下であり、かつ表面粗さRaが3〜500μmであるセラミックス焼結体を主要構成相とする部材は、パーティクルの発生が少ないため、半導体製造装置用部材として優れた特性を有することが判明した。また、主要構成相がYAG焼結体である部材は、特にパーティクルの発生が少なく、かつ高い耐食性を有しており、半導体製造装置用部材として特に優れていることが確認された。
【0055】
【表1】

【0056】
(第2の実施例)
気孔率が10%以下であり、かつ面粗さRaが1μmより大きい条件を満たすYAG焼結体中のSiO2量を変化させた場合について、半導体製造装置用部材としての評価を、第1の実施例と同様に、100時間の連続運転後、6インチウェハ上のパーティクル数、クランプリングの腐食性ガスによる腐食量を調べることにより行った。
【0057】
第1の実施例と同様に、気孔率が3%より大きく10%以下であり、かつ面粗さRaが1μmより大きいYAG焼結体を主要構成相とする部材からなるクランプリングを作製した。同様に、作製されたクランプリングを、平行平板型RIEエッチング装置に取り付け、エッチングガスとして、CF4およびO2を4:1の割合でチャンバー内に導入し、高周波により腐食性ガスであるプラズマを発生させ、100時間の連続運転後、6インチウェハ上のパーティクル数、クランプリングの腐食性ガスによる腐食量を調べることにより、半導体製造装置用部材としての評価を行った。その結果を表2に示す。
【0058】
試験例1,2は、YAG焼結体のSiO2量が0.15重量%以下であるため、腐食速度は低かったものの、パーティクル発生数が若干多くなり、半導体製造装置用部材として多少劣っていることが確認された。
【0059】
試験例3〜7は、YAG焼結体中のSiO2量が0.15%を超え10重量%以下であるため、イットリア-アルミナ-シリカ系ガラス相により焼結体の粒子は強く結合しており、パーティクル発生数が少なく、かつ腐食速度も小さく、半導体製造装置用部材として極めて好ましい特性を有することが確認された。
【0060】
試験例8〜11は、SiO2量が10重量%以上であるため、パーティクル発生数は少なかったものの、腐食速度が大きくなり、半導体製造装置用部材として多少劣っていることが確認された。
【0061】
【表2】

【0062】
このように、気孔率が10%以下であり、かつ表面粗さRaが1μmより大きく、しかもSiO2量が0.15重量%を超え10重量%以下であるYAG焼結体を主要構成相とする部材は、良好なアンカー効果を保持しつつ、かつ粒子の脱落が生じ難いためパーティクルの発生を特に有効に防止することができ、また良好な耐食性を有するため、半導体製造装置用部材として特に有効であることが確認された。
【0063】
(第3の実施例)
ここでは、半導体製造装置用部材として、図1に示すような処理容器用部材を製造した。材料として、アルミナ99.5%、アルミナ99.99%、窒化アルミニウム、YAGを選択し、それぞれについて評価を行った。
【0064】
処理容器用部材の製造に際しては、まず、各セラミックス粉末に対し、酸化珪素を内割で0.2重量%、イオン交換水、分散剤を加え、ポットミル中で混合した。これにより形成されたスラリーをスプレードライヤーにて乾燥・造粒し、CIP成形にて成形体を作製した。次に、この成形体を処理容器用部材形状に加工した後焼成し、図1のR1=300mm、R2=20mm、t=7mmの処理容器用部材を得た。これらの気孔率はいずれも10%以下であった。このような処理容器用部材製造の際、成形体段階での内面加工、および焼結後のブラスト処理により種々の内面の面粗さを有する処理容器用部材を製造した。
【0065】
これらの処理容器部材を組み込んだ図2に示す装置を用い、ガス供給ノズル19からCF4およびO2を4:1の割合でチャンバー内に導入し、RF電源21から誘導コイル20に400kHzの高周波を印加してプラズマを形成し、支持テーブル13にRF電源17から13.56MHzの高周波を印加しながらエッチング処理を行い、本発明の処理容器部材の評価を行った。
【0066】
表3に用いた材料、表面粗さ、処理容器部材としての評価結果を示す。処理容器部材としての評価は、連続運転性によって行った。連続運転性の評価基準は、500hrを超えて膜の脱落の生じないものを○(良好)とし、500hrに至らず膜の脱落の生じたものは×(不可)とした。
【0067】
表3に示すように、容器内面に相当する部分の面粗さRaが3〜500μmである実施例7〜14は、いずれの材料においても、連続運転中、500hr経過前には膜の脱落は生じず、良好な連続運転性を示した。
【0068】
一方、面粗さRaが1μm以下である比較例10〜17は、いずれの材料においても、試験運転中、500hr経過以前に膜の脱落が生じ、連続運転性に問題があることが確認された。
【0069】
このように、気孔率が10%以下であり、腐食性ガスに曝される表面の表面粗さRaが3〜500μmであるセラミックス焼結体は、Raが1μm以下のものに比較して、処理容器用部材として好ましい特性を有することが確認された。
【0070】
【表3】

【0071】
(第4の実施例)
ここでは、気孔率が10%以下であり、腐食性ガスに曝される表面の表面粗さRaが1μmより大きいセラミックス焼結体で構成された処理容器部材の形状を変化させて、上で説明したような製造方法で処理容器用部材を製造した。このような処理容器用部材を組み込んだ図2に示す装置を用い、ガス供給ノズル19からCF4およびO2を4:1の割合でチャンバー内に導入し、RF電源21から誘導コイル20に400kHzの高周波を印加してプラズマを形成し、支持テーブル13にRF電源17から13.56MHzの高周波を印加しながらエッチング処理を行い、各処理容器部材の評価を行った。
【0072】
表4に処理容器用部材の形状、および処理容器部材としての評価結果を示す。処理容器用部材としての評価は亀裂の有無(耐熱衝撃性)によって行った。
【0073】
試験例12〜20は、R1が300mm以上、R2が10mm以上、肉厚が5〜15mmの条件を満たすものであり、いずれの材料においても、運転中の亀裂の発生はなく、処理容器部材の形状として好ましいことが確認された。
【0074】
試験例21,24,27,30は、R2が10mm以下であったため、試験運転中の部材の温度上昇により、部材強度を超える熱応力がR2部分に集中し、亀裂が発生した。
【0075】
試験例23,26,29,32は、肉厚が5mmより小さかったため、試験運転中の部材の温度上昇による熱応力に耐えられず、亀裂が発生した。
【0076】
試験例22,25,28,31は、肉厚が15mmを超えていたため、試験運転中の部材の温度上昇による熱衝撃により、亀裂が発生した。
【0077】
このように、本発明を処理容器部材に適用する場合に、処理容器部材をR1が300mm以上、R2が10mm以上、肉厚が5〜15mmの条件を満たす形状とすることにより、ハロゲン化物膜や析出物の脱落に伴うパーティクルの発生が抑制されるのみならず、亀裂も生じ難くなることが確認された。
【0078】
【表4】

【0079】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、半導体製造装置用部材をセラミックス焼結体で構成するとともに、焼結体の気孔率10%以下、かつ表面粗さRaを3〜500μmとすることにより、ハロゲン系ガスのプラズマ等の腐食ガスに対して十分な耐食性を維持しつつ、パーティクルが発生しにくくすることができる。そして、このような効果は、半導体製造装置用部材の中でも、特にその中で腐蝕ガスを用いて処理を行う半導体製造用処理容器の一部または全部として使用される場合に顕著である。
【0080】
また、このような面粗さを維持しつつ、セラミックス焼結体としてイットリウム-アルミニウム-ガーネットを用いた場合に、このようなパーティクルの発生が少なくなり、特に、焼結体中のSiO2の量を0.15重量%を超え10重量%以下とすることによりパーティクル抑制効果を一層高めることができる。
【0081】
さらに、セラミックス焼結体は一般的に耐熱衝撃性が低いが、処理容器用部材として適用する場合に、曲率半径R1が300mm以上の第1の球面部と、この第1の部分の端部に連続し、かつ曲率半径R2が10mm以上の第2の球面部とからなる曲面形状部を主体とし、前記第1の球面部および第2の球面部のいずれか一方が他方に内接しており、この曲面形状部の肉厚が5〜15mmの範囲となるように部材の形状を工夫することで部材内に発生する熱応力を小さくすることができ、半導体製造装置用部材、特に処理容器用部材として十分な耐熱衝撃性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明を適用した処理容器用部材の一例を示す断面図。
【図2】
本発明を適用した処理容器用部材を用いたプラズマエッチング装置の一例を示す図。
【図3】
本発明を適用した処理容器用部材を用いたプラズマエッチング装置の他の例を示す図。
【符号の説明】
1,10;処理容器用部材
2;第1の球面部
3:第2の球面部
12;チャンバー
13;支持テーブル
14;静電チャック
15;半導体ウェハ
19;ガス供給ノズル
20,24;誘導コイル
17,21,25;高周波電源
23;ガス導入部
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-12-26 
出願番号 特願平11-44282
審決分類 P 1 651・ 121- YA (C04B)
P 1 651・ 113- YA (C04B)
P 1 651・ 161- YA (C04B)
P 1 651・ 537- YA (C04B)
P 1 651・ 536- YA (C04B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 三崎 仁  
特許庁審判長 板橋 一隆
特許庁審判官 佐藤 修
増田 亮子
登録日 2003-08-01 
登録番号 特許第3456915号(P3456915)
権利者 株式会社日本セラテック 太平洋セメント株式会社
発明の名称 半導体製造装置用部材  
代理人 高山 宏志  
代理人 高山 宏志  
代理人 高山 宏志  

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