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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B29C
管理番号 1134371
異議申立番号 異議2001-73462  
総通号数 77 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2000-04-18 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-12-20 
確定日 2006-03-13 
異議申立件数
事件の表示 特許第3179756号「射出装置」の請求項1ないし2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3179756号の請求項1ないし2に係る特許を取り消す。 
理由 1.経緯
特許出願 平成10年10月1日
特許設定登録 平成13年4月13日
特許異議の申立て
申立人 松野 洋子 平成13年12月20日
申立人 唐沢 拓磨 平成13年12月25日
取消理由通知 平成15年1月10日付
訂正請求及び特許異議意見書 平成15年3月20日
訂正拒絶理由通知 平成16年2月17日付
特許異議意見書 平成16年4月21日

2.訂正の適否
(1)訂正の内容
本件訂正請求には、次の訂正事項1が含まれる。
訂正事項1
特許請求の範囲の【請求項1】を次のとおり訂正する。
【請求項1】 (a)シリンダ部と、
(b)該シリンダ部の後端に取り付けられた固定プレートと、
(c)該固定プレートに対して移動自在に配設された可動プレートと、
(d)前記シリンダ部内において回転自在に、かつ、進退自在に配設され、後端が前記可動プレートに対して回転自在に取り付けられた射出部材と、
(e)前記固定プレートと可動プレートとの間に配設され、前記可動プレートに取り付けられた駆動手段によって発生させられた回転力を推力に変換し、前記可動プレートを進退させる変換手段と、
(f)前記可動プレートが軸方向以外に移動するのを規制する規制手段とを有するとともに、
(g)該規制手段は、フレームに配設された固定側の規制部材、及び前記可動プレートに配設された可動側の規制部材を備え、
(h)前記変換手段は、互いに平行に、かつ、前記可動プレートに回転自在に支持されたボールねじ軸と、該ボールねじ軸のねじ部と螺合され前記固定プレートに取り付けられたボールナットとから構成され
(i)前記ボールねじ軸は、後端部に配設された軸部が前記可動プレートを貫通して延び、前記軸部の後端に従動プーリーが取り付けられ、
(j)前記駆動手段には、駆動プーリーが取り付けられ、該駆動プーリーと前記従動プーリーとの間にベルトが張設されることを特徴とする射出装置。

(2)新規事項について
訂正事項1の文節(j)には、「該駆動プーリーと前記従動プーリーとの間にベルトが張設される」との記載があるが、特許査定時の明細書又は図面(以下、「特許明細書」という。)には、「タイミングベルト」を張設する旨の記載があるだけで、「タイミングベルト」より一般的な技術用語である「ベルト」を張設することは記載されておらず、また当該特許明細書の記載から自明であるとも認められない。
なお、特許権者は、平成16年4月21日付特許異議意見書(第4-5頁「(4)本件訂正の適法性」の項)において、
1)段落【0024】には、「前記可動プレート36の所定箇所に駆動手段としての図示されない射出用のモータが取り付けられ、該射出用のモータの出力軸に図示されない駆動プーリが取り付けられ、該駆動プーリと前記従動プーリ51との間にタイミングベルトが張設される」が記載されていること、
2)ベルトがタイミングベルトより一般的な技術用語であって、ベルトが、タイミングベルトの上位概念であることは当業者に良く知られていること、
3)段落【0026】の「射出工程時に、前記射出用のモータを駆動して、スクリュー22を回転させることなく前進させると、前記スクリューヘッド22a前方に蓄えられた樹脂33は、前記射出ノズル12aから射出され、図示されない金型装置のキャビティ空間に充填される。」の記載によれば、射出用のモータの駆動により、スクリュー22が前進するものであるから、「タイミングベルト」は駆動プーリと従動プーリとの間で動力を伝達するものとして用いられているものであって、そのような機能は、タイミングベルトばかりでなく、一般のベルトにおいても有する機能であることは、当業者にとって明らかであること、
4)段落【0034】及び【0035】の記載によれば、フレームに配設された固定側の規制部材と可動プレートに配設された可動側の規制部材を備えることにより、射出装置を小型化しつつ、可動プレートを案内して、シリンダ部材と射出部材の同心性を維持するものであって、回転力を推力に変換し、可動プレートを進退させる変換手段に用いられる回転力伝達手段が一般のベルトにはないタイミングベルト特有の機能を用いなければ効果を奏さない発明であるというものでもないこと、
を理由として、特許明細書の記載における、「タイミングベルト」は、駆動プーリと従動プーリとの間で動力を伝達する「ベルト」の一つの機能として記載されたものであることは明らかであり、その上位概念である「ベルト」は、特許明細書に開示されていたといえる旨を主張している。
この主張について検討すると、本件発明の射出装置にかかる射出成形機は、高圧、高速で溶融樹脂を金型内に射出するものであり、そのためにスクリューを高速で前進させるものであるから、その動力伝達系にかかる負荷は多大なものであり、また、スクリューの回転数、回転速度、移動速度、移動量等についても精密な制御がなされるものであることは当業者にとって周知のことと認められる。
そして、このように精密に制御される駆動装置においては動力の確実な伝達が要求されることは当然のことであるから、その伝達手段として、等間隔の歯を内側にもちプーリの外周に刻まれた歯とかみあい、強制的な、すべりのない、一定速度の駆動を可能にするという機能を有する「タイミングベルト」と他のVベルトや平ベルトのような「ベルト」が同等なものとして用いられているものとは認められない。
よって、特許明細書においては、「タイミングベルト」は、一般のベルトにはないタイミングベルト特有の機能を用いるものとして記載されていると認められるから、上記の3)及び4)の理由は認められず、特許権者の主張は採用できない。
したがって、上記訂正は、特許明細書に記載した事項の範囲内においてするものとはいえず、特許法第120条の4第3項において準用する特許法第126条第2項の規定に適合しないので、当該訂正を認めない。

3.特許異議の申立てについて
(1)請求項1ないし2に係る発明
上記のとおり訂正請求は認められないので、本件請求項1ないし2に係る発明は、願書に添付された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲に記載された下記のとおりのものと認められる。
【請求項1】 (a)シリンダ部と、
(b)該シリンダ部の後端に取り付けられた固定プレートと、
(c)該固定プレートに対して移動自在に配設された可動プレートと、
(d)前記シリンダ部内において回転自在に、かつ、進退自在に配設され、後端が前記可動プレートに対して回転自在に取り付けられた射出部材と、
(e)前記固定プレートと可動プレートとの間に配設され、駆動手段によって発生させられた回転力を推力に変換し、前記可動プレートを進退させる変換手段と、
(f)前記可動プレートが軸方向以外に移動するのを規制する規制手段とを有するとともに、
(g)該規制手段は、フレームに配設された固定側の規制部材、及び前記可動プレートに配設された可動側の規制部材を備えることを特徴とする射出装置。
【請求項2】 前記固定側の規制部材はガイドレールであり、前記可動側の規制部材は、前記ガイドレールによって案内される係止部である請求項1に記載の射出装置。

(2)特許異議の申立ての概要
特許異議申立人松野洋子は、甲第1号証(特公平8-9184号公報)を提出して、請求項1及び2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるか、または、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号の規定、または、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、請求項1及び2に係る特許は、特許法第113条第1項第2号の規定により取り消されるべきものである旨を主張している。
特許異議申立人唐沢拓磨は、甲第1号証(本件特許公報)、甲第2号証(特開平2-307714号公報)を提出して、請求項1及び2に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であるか、または、甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号の規定、または、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、請求項1及び2に係る特許は、特許法第113条第1項第2号の規定により取り消されるべきものである旨を主張している。

(3)取消理由の概要
取消理由の概要は、請求項1ないし2に記載された発明は、刊行物1(特公平8-9184号公報)に記載された発明と同一であるから、請求項1ないし2に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものであり、特許法第113条第1項第2号の規定により取り消すべきものである、というものである。

(3)-1 刊行物1の記載事項
1-1「図において、射出装置1はフロントプレート2とプッシャープレート3を備えた2プレート方式で構成され、フロントプレート2は機台4に固定され、プッシャープレート3は機台4にリニアガイド5を介して、フロントプレート2と平行に、かつ、前後移動可能に取付けられている。」(2頁3欄28-33行)、

1-2「シリンダアッセンブリ6はその軸線を射出装置1に設定された射出軸線aに沿わせて配置され、その基部がフランジ9とボルト10によってフロントプレート2の前面に固定され(第2図)ている。シリンダアッセンブリ6の内部にはスクリュ11が回転と前後移動可能に配置されている。」(2頁3欄37-42行)、

1-3「プッシャープレート3には前記した各ボールネジ7に対応して貫通孔18が設けられ、各貫通孔18の後面側にそれぞれボールナット19(概略で図示している)が固定されると共に、このプレート3の中央部にはスクリュスリーブ20が回転のみ自在に軸支されている。」(2頁4欄8-12行)、

1-4「各ボールネジ7の後部をボールナット19に螺合してフロントプレート2とプッシャープレート3を結合すると共に、ガイドバー8の後端部をプッシャープレート3のガイド孔29に貫通させ、シリンダアッセンブリ6の後端から後方に突出したスクリュ11の後端をスクリュスリーブ20に回転および前後移動不可として取付ける。」(2頁4欄24-29行)、

1-5「射出モータ34によってボールネジ7,7が回動されてプッシャープレート3が前進し射出工程が行なわれる。」(3頁5欄4-5行)、

1-6「プッシャープレート3の前後移動は、2本のボールネジ7,7によって射出軸線aに沿った直線性とフロントプレート2に対する平行性が充分に維持される。プッシャープレート下部のリニアガイド5と中間のガイドバー8は前記の平行性、直線性をより確実とする。」(3頁5欄9-14行)、

1-7 第1図には、機台4に配設された、断面略T字状のリニアガイド5と、プッシャープレート3の下部に配設され、断面略T字状のリニアガイド5の上部に係合する、断面略逆U字状の部材とが記載されていること。

(4)取消理由についての判断
(4)-1 請求項1に係る発明について
刊行物1の1-7に記載された、機台4に配設された、リニアガイド5と、プッシャープレート3の下部に配設された、断面略逆U字状の部材とは、1-1及び1-6の記載からみて、基台4に固定されたリニアガイド5が、断面略逆U字状の部材の移動を案内することにより、プッシャープレート3の前後移動の平行性、直線性を確実にするものであるので、両部材は、プッシャープレート3が軸方向以外に移動するのを規制する規制手段を構成するものと認められる。
したがって、刊行物1には、
シリンダアッセンブリ6と、
シリンダアッセンブリ6の後端に取り付けられたフロントプレート2と、
フロントプレート2に対して平行に、かつ、前後移動可能に配設されたプッシャープレート3と、
シリンダアッセンブリ6内において回転と前後移動可能に配設され、後端がプッシャープレート3に対して、スクリュースリーブ20を介して、回転のみ自在に軸支されたスクリユ11と、
フロントプレート2とプッシャープレート3との間に配設され、射出用モータ34によって発生させられた回転力を推力に変換し、プッシャープレート3を前後移動させるボールネジ7およびボールナット19からなる変換手段と、
機台4に固定されたリニアガイド5と、プッシャープレート3の下部に配設された、リニアガイド5の上部に係合して案内され移動する、断面逆U字状の部材とからなり、プッシャープレート3が軸方向以外に移動するのを規制する規制手段を備える、
射出装置の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
請求項1に係る発明(以下、「本件発明1」という。)と引用発明とを対比すると、
引用発明の、「シリンダアッセンブリ6」、「フロントプレート2」、「プッシャープレート3」、「スクリユ11」、「射出用モータ34」、「ボールネジ7およびボールナット19からなる変換手段」、「規制手段」、「機台4」、「リニアガイド5」及び「断面略逆U字状の部材」は、それぞれ、
本件発明1の、「シリンダ部」、「固定プレート」、「可動プレート」、「射出部材」、「駆動手段」、「可動プレートを進退させる変換手段」、「規制手段」、「フレーム」、「固定側の規制部材」、「可動側の規制部材」に相当すると認められるから、両者は、
(a)シリンダ部と、
(b)該シリンダ部の後端に取り付けられた固定プレートと、
(c)該固定プレートに対して移動自在に配設された可動プレートと、
(d)前記シリンダ部内において回転自在に、かつ、進退自在に配設され、後端が前記可動プレートに対して回転自在に取り付けられた射出部材と、
(e)前記固定プレートと可動プレートとの間に配設され、駆動手段によって発生させられた回転力を推力に変換し、前記可動プレートを進退させる変換手段と、
(f)前記可動プレートが軸方向以外に移動するのを規制する規制手段とを有するとともに、
(g)該規制手段は、フレームに配設された固定側の規制部材、及び前記可動プレートに配設された可動側の規制部材を備えることを特徴とする射出装置である点で一致するから、引用発明は本件発明1を特定する事項を全て有すると認められる。
したがって、本件発明1は刊行物1に記載された発明である。

(4)-2 請求項2に係る発明について
請求項2に係る発明(以下、「本件発明2」という。)は、請求項1に係る発明を引用し、その、固定側の規制部材をガイドレールに、可動側の規制部材を前記ガイドレールによって案内される係止部に、それぞれ、さらに特定したものであるが、引用発明の、「リニアガイド5」及び「断面略逆U字状の部材」は、それぞれ、本件発明2の「ガイドレール」及び「ガイドレールによって案内される係止部」に相当すると認められるから、引用発明は本件発明2を特定する事項を全て有すると認められる。
したがって、本件発明2は刊行物1に記載された発明である。

4.むすび
以上のとおりであるから、本件請求項1ないし2に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであるから、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2004-12-07 
出願番号 特願平10-279766
審決分類 P 1 651・ 113- ZB (B29C)
最終処分 取消  
前審関与審査官 加藤 友也  
特許庁審判長 石井 淑久
特許庁審判官 石井 克彦
鴨野 研一
登録日 2001-04-13 
登録番号 特許第3179756号(P3179756)
権利者 住友重機械工業株式会社
発明の名称 射出装置  
代理人 大場 充  
代理人 小林 武  
代理人 古部 次郎  

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