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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  A61M
審判 一部無効 1項3号刊行物記載  A61M
管理番号 1135000
審判番号 無効2004-80143  
総通号数 78 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1998-07-14 
種別 無効の審決 
審判請求日 2004-09-06 
確定日 2006-02-13 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3470270号発明「バルーンカテーテルにおける潤滑性被膜の選択的配置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3470270号の請求項1ないし3、6ないし7、9ないし13に記載された発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3470270号に係る発明についての出願は、1994年5月27日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1993年6月2日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成15年9月12日に特許権の設定登録がなされたものである。
これに対して、請求人より平成16年9月6日に本件無効審判の請求がなされ、一方、被請求人より平成16年12月24日付けで訂正請求書及び答弁書が提出され、これに対して、請求人より平成17年5月17日に弁駁書が提出された。
その後、平成17年8月1日に口頭審理が行われ、平成17年8月12日に被請求人より、平成17年8月15日に請求人より、それぞれ上申書が提出された。


2.訂正請求について
2-1.訂正事項
本件特許の願書に添付した明細書及び図面(以下、「本件特許明細書」という。)の訂正請求(以下、「本件訂正」という。)は、平成16年12月24日付け訂正請求書(以下、「訂正請求書」という。)によると、次の事項をその訂正内容とするものである。

(1)訂正事項1
本件特許明細書の特許請求の範囲の
「【請求項1】シャフト及び該シャフトに接続されたバルーンを含み、該バルーンは近位端部分,遠位端部分及び中央部分を有する種類のバルーンカテーテルにおいて、前記バルーンカテーテルは第一の潤滑手段および第二の潤滑手段を含み、前記第一の潤滑手段は、シャフトに潤滑性被膜を与えるために設けられ且つ配置され、前記バルーンカテーテルに結合され且つ少なくともバルーンの一部分に対してよりもシャフトの大部分に対して相対的に高潤滑性を与えるために設けられ且つ配置されており、更に前記第二の潤滑手段は、少なくともバルーンの一部分に潤滑性被膜を与えるために設けられ且つ配置され、そして前記バルーンの前記潤滑性被膜はシャフトの潤滑性被膜よりも低潤滑性であるバルーンカテーテル。」
とある記載を、
「【請求項1】シャフト及び該シャフトに接続されたバルーンを含み、該バルーンは近位端部分、遠位端部分及び中央部分を有する種類のバルーンカテーテルにおいて、前記バルーンカテーテルは第一の潤滑手段および第二の潤滑手段を含み、前記第一の潤滑手段は、シャフトに潤滑性被膜を与えるために設けられ且つ配置され、該潤滑性被膜は、前記バルーンカテーテルに結合され且つ少なくともバルーンの一部分に対してよりもシャフトの大部分に対して相対的に高潤滑性を与えるために設けられ且つ配置されており、更に前記第二の潤滑手段は、少なくともバルーンの一部分に潤滑性被膜を与えるために設けられ且つ配置され、そして前記バルーンの前記潤滑性被膜は前記シャフトの前記潤滑性被膜よりも低潤滑性であるバルーンカテーテル。」
と訂正する。

(2)訂正事項2
本件特許明細書の特許請求の範囲の
「【請求項4】前記バルーンの前記遠位端部分に潤滑性被膜を更に含む請求項3記載のカテーテル。」
とある記載を、
「【請求項4】 前記バルーンの前記遠位端部分は潤滑性被膜で被覆されている請求項3記載のカテーテル。」
と訂正する。

(3)訂正事項3
本件特許明細書の特許請求の範囲の
「【請求項9】近位端部及び遠位端部を有するシャフト,中央部分及び対向する端部を有し更に各端部にコーン及びウエストを有するバルーンを含む種類のバルーンカテーテルであって、前記バルーンカテーテルは更に、遠位先端部分,表面領域並びにこれらの表面領域に接続された潤滑性被膜を含む種類のバルーンカテーテルにおいて、前記カテーテルの表面領域の高潤滑性の被膜及び相対的に低潤滑性の被膜の配置が予め決定されており、前記シャフトはバルーンからシャフトの近位端に伸びているシャフトの大部分の長さに結合された相対的に高潤滑性の被膜が与えられており、前記バルーンの両コーンは遠位先端部分と同様に相対的に高潤滑性の被膜が与えられており、そしてバルーンボディの少なくとも大部分は、前記高潤滑性の被膜よりも相対的に低潤滑性の潤滑性被膜によって被覆されているカテーテル。」
とある記載を、
「【請求項9】近位端部及び遠位端部を有するシャフトと、中央部分及び対向する端部を有するバルーンボディからなり且つ該バルーンボディは更に各端部にコーン及びウエストを有するバルーンとを含む種類のバルーンカテーテルであって、前記バルーンカテーテルは更に、遠位先端部分、表面領域並びにこれらの表面領域に接続された潤滑性被膜を含む種類のバルーンカテーテルにおいて、前記カテーテルの表面領域の高潤滑性の被膜及び相対的に低潤滑性の被膜の配置が予め決定されており、前記シャフトはバルーンからシャフトの近位端に伸びているシャフトの大部分の長さに結合された相対的に高潤滑性の被膜が与えられており、前記バルーンの両コーンは遠位先端部分と同様に相対的に高潤滑性の被膜が与えられており、そして前記バルーンボディの少なくとも大部分は、前記高潤滑性の被膜よりも相対的に低潤滑性の被膜によって被覆されているカテーテル。」
と訂正する。

(4)訂正事項4
請求項12、請求項14、請求項15、請求項19、請求項20及び請求項21を削除する。これらの請求項の削除に伴い、請求項13、請求項16、請求項17及び請求項18の各請求項番号を12、13、14及び15にそれぞれ改め、且つ、請求項15(旧請求項18)で引用する請求項の番号を「17」から「14」に改める。

2-2.訂正の適否について
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1における「前記第一の潤滑手段は、シャフトに潤滑性被膜を与えるために設けられ且つ配置され、」と「前記バルーンカテーテルに結合され」との間に「該潤滑性被膜は、」という事項を加入するとともに、「シャフトの潤滑性被膜よりも」を「前記シャフトの前記潤滑性被膜よりも」と訂正するものである(以下、前者の訂正事項を「訂正事項1A」、後者の訂正事項を「訂正事項1B」という。)。
そして、訂正事項1Aは、「前記バルーンカテーテルに結合され且つ少なくともバルーンの一部分に対してよりもシャフトの大部分に対して相対的に高潤滑性を与えるために設けられ且つ配置されており」という構成について、その主語が「第一の潤滑手段」であるとしていたところを、具体的な構成である「潤滑性被膜」に訂正するものであり、より明瞭な構成に変更するものであるから、特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的とするものであるといえる。また、訂正事項1Aは、本件特許明細書中に「相対的に高潤滑性の被膜が、バルーンからカテーテルシャフトの近位端に近位方向に伸びて、カテーテルシャフトの少なくとも大部分に設けられているバルーンカテーテルの潤滑性被膜の選択的配置を介して」(特許公報第5欄第39行〜同欄第43行)との記載、及び「カテーテルの潤滑性被膜の選択的配置の一態様において、被膜は、近位コーン36(所望による)を覆って伸び、近位方向においてシャフト22の近位端部分26までシャフト22を覆い、それ故、シャフト22の大部分を覆う40として示される。」(特許公報第7欄第38行〜同欄第42行)との記載があることから、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてされたものであり、しかも、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
また、訂正事項1Bは、「シャフトの潤滑性被膜」における「潤滑性被膜」が「第一の潤滑手段がシャフトに与える潤滑性被膜」を指すことを明確にするために、「前記」という語を付加したものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであって、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかである。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、バルーンの遠位端部分には潤滑性被膜が被覆されているという構成を明確にするものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであるといえる。また、本件特許明細書には「別の好ましい態様は、被覆されたカテーテルシャフト,被覆されたバルーンコーン及び遠位カテーテル先端に伸びている少なくともバルーンの遠位ウエストの被膜からなり、バルーンボディの中央部は全く被膜を有しないか又は低潤滑性である。」(特許公報第6欄第33行〜同欄第37行)と記載され、「図4から明らかな如く、バルーン18はボディ部分30,近位コーン部分36,近位ウエスト部分38及び遠位ウエスト部分34と一緒になった遠位コーン部分32を含む。・・・(中略)・・・図3及び4に最も良く示されている如く、被膜40も所望により、遠位コーン部分32,遠位ウエスト部分34及びカテーテルの遠位先端20に含まれる。バルーンの中央部30は、未被覆であるか又は低潤滑性の組成物で被覆されるかの何れかである。」(特許公報第7欄第35行〜同欄第47行)と記載されているから、訂正事項2は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてされたものであるといえる。その上、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3)訂正事項3について
訂正事項3は、訂正前の請求項9における「近位端部及び遠位端部を有するシャフト,中央部分及び対向する端部を有し更に各端部にコーン及びウエストを有するバルーンを含む種類のバルーンカテーテルであって、」を、「近位端部及び遠位端部を有するシャフトと、中央部分及び対向する端部を有するバルーンボディからなり且つ該バルーンボディは更に各端部にコーン及びウエストを有するバルーンとを含む種類のバルーンカテーテルであって、」に訂正する事項(以下、「訂正事項3A」という。)と、「バルーンボディ」を「前記バルーンボディ」と訂正する事項(以下、「訂正事項3B」という。)とからなる。
訂正事項3Aは、バルーンカテーテルのバルーンが中央部分及び対向する端部を有するバルーンボディからなり、且つバルーンボディは各端部にコーン及びウエストを有するという構成を明りょうなものにするために、「中央部分及び対向する端部を有し更に各端部にコーン及びウエストを有するバルーン」を「中央部分及び対向する端部を有するバルーンボディからなり且つ該バルーンボディは更に各端部にコーン及びウエストを有するバルーン」と訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。そして、この訂正と併せて、請求項9の一行目の記載「シャフト、」を「シャフトと、」に訂正し且つ請求項9中の記載「バルーンを含む種類の」を「バルーンとを含む種類の」と訂正しており、この訂正も明りょうでない記載の釈明を目的とするものということができる。また、本件特許明細書には「別の好ましい態様は、被覆されたカテーテルシャフト,被覆されたバルーンコーン及び遠位カテーテル先端に伸びている少なくともバルーンの遠位ウエストの被膜からなり、バルーンボディの中央部は全く被膜を有しないか又は低潤滑性である。加えて及び更に好ましくは、近位及び遠位の両バルーンコーンも、カテーテルシャフト又は少なくとも遠位コーンと同様に被覆されている。本発明において、バルーンボディの中央部は未被覆であるか又は相対的に低潤滑性の被膜で被覆されている。」(特許公報第6欄第33行〜同欄第42行)と記載され、また、「図4から明らかな如く、バルーン18はボディ部分30,近位コーン部分36,近位ウエスト部分38及び遠位ウエスト部分34と一緒になった遠位コーン部分32を含む。本文中で意図された如く、カテーテルの潤滑性被膜の選択的配置の一態様において、被膜は、近位コーン36(所望による)を覆って伸び、近位方向においてシャフト22の近位端部分26までシャフト22を覆い、それ故、シャフト22の大部分を覆う40として示される。図3及び4に最も良く示されている如く、被膜40も所望により、遠位コーン部分32,遠位ウエスト部分34及びカテーテルの遠位先端20に含まれる。バルーンの中央部30は、未被覆であるか又は低潤滑性の組成物で被覆されるかの何れかである。」(特許公報第7欄第35行〜同欄第47行)と記載されているところからみて、訂正事項3は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてされたものであり、その上、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
訂正事項3Bは、訂正前の請求項9に記載された「バルーンボディ」とそれ以前に規定されるバルーンの構成との関係を明りょうにするために「バルーンボディ」を「前記バルーンボディ」と訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、この訂正が、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてされたものであり、その上、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかである。

(4)訂正事項4について
訂正事項4は、請求項12、14、15、19、20及び21を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、訂正事項4は、これらの請求項の削除に伴い、請求項の項番を繰り上げて新たな請求項とするとともに、引用する請求項の項番を変更するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。そして、訂正事項4は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかである。

2-3.むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書に適合し、特許法第134条の2第5項において準用する第126条第3項及び第4項の規定に適合するので、本件訂正を認める。


3.請求人の主張
請求人は、「特許第3470270号の請求項1〜3、同6〜7、同9〜16、同19〜21に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、証拠方法として以下の甲第1号証〜甲第9号証を提出するとともに、併せて参考資料1〜3を提出し、無効とすべき理由を次のように主張している。
(1)理由1
本件請求項1、2、6、7、9〜13、16に係る発明は、甲第1号証〜甲第4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものである。
(2)理由2
本件請求項1〜3、12に係る発明は、甲第5号証に記載された発明と同一、又は甲第5号証〜甲第7号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件特許は特許法第29条第1項第3号、又は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものである。
(3)理由3
本件請求項12に係る発明は、甲第8号証に記載された発明と同一、又は甲第8号証及び甲第9号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件特許は特許法第29条第1項第3号、又は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものである。
(4)理由4
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、当業者が容易にその実施をすることができる程度に、その発明の目的、構成及び効果を記載しておらず、また、本件請求項9、14、15に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでなく、また発明の構成に欠くことができない事項のみを記載したものではないので、本件特許は特許法第36条第4項及び第5項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第2項の規定によりなお従前の例によるとされる特許法第123条第1項第4号の規定により無効とすべきものである。
(5)理由5
本件請求項19、20、21に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでなく、また構成が不明であり、発明の構成に欠くことができない事項のみを記載したものではないので、本件特許は特許法第36条第4項及び第5項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第2項の規定によりなお従前の例によるとされる特許法第123条第1項第4号の規定により無効とすべきものである。

[証拠方法]
・甲第1号証:国際公開第92/19311号パンフレット
・甲第2号証:米国特許第2927584号明細書
・甲第3号証:米国特許第5135474号明細書
・甲第4号証:特開平4-9162号公報
・甲第5号証:国際公開第92/19316号パンフレット
・甲第6号証:伊藤公正編者、プラスチックデータハンドブック、初版、株式会社工業調査会、1980年7月5日、p.195
・甲第7号証:伊藤邦雄編者、シリコーンハンドブック、初版、日刊工業新聞社、1990年8月31日、p.256
・甲第8号証:国際公開第92/03178号パンフレット
・甲第9号証:関口勇、プラスチックのトライボロジーとは-プラスチック摺動材料の開発と課題-、プラスチックス、平成3年7月1日、第42巻、第7号、p.18-20
[参考資料]
・参考資料1:特表平6-506853号公報(甲第1号証の公表公報)
・参考資料2:特表平6-507101号公報(甲第5号証の公表公報)
・参考資料3:特表平6-506124号公報(甲第8号証の公表公報)

また、請求人は、平成17年8月15日付け上申書において「シリコーン」「ナイロン」「ポリエチレン」の各素材における潤滑性の比較資料として下記の資料1〜9を提出している。
[資料]
・資料1:特開平2-147694号公報
・資料2:特開昭56-63365号公報
・資料3:特開平2-289264号公報
・資料4:特開昭61-98262号公報
・資料5:特開平1-270872号公報
・資料6:特開平3-51052号公報
・資料7:特表平11-501831号公報
・資料8:特開平4-152953号公報
・資料9:特開平5-5040号公報


4.被請求人の主張
被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め」(答弁の趣旨)、本件訂正をするとともに、答弁書において、下記理由から、本件特許は無効とされるべきものではない旨を主張している。
(1)理由1に対して
訂正後の請求項1、2、6、7、9〜13に係る発明は、甲第1号証〜甲第4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許は特許法第29条第2項の規定に違反するものではない。
(2)理由2に対して
訂正後の請求項1〜3に係る発明は、甲第5号証に記載された発明と同一ではなく、また、甲第5号証〜甲第7号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件特許は特許法第29条第1項第3号及び第29条第2項の規定に違反するものではない。
(3)理由3に対して
上記訂正事項4の訂正により請求項12が削除されたので、理由3は解消した。
(4)理由4に対して
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、当業者が容易にその実施をすることができる程度に、その発明の目的、構成及び効果を記載しており、また、訂正後の請求項9に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものであり、発明の構成に欠くことができない事項のみを記載したものであるから、本件特許は特許法第36条第4項及び第5項に規定する要件を満たすものである。
(5)理由5に対して
上記訂正事項4の訂正により請求項19、20、21が削除されたので、理由5は解消した。


5.本件発明について
上記「2.訂正請求について」で示したとおり、本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1〜3、6〜7、9〜13に係る発明(以下順に、「本件発明1」〜「本件発明10」という。)は、訂正請求書に添付された訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1〜3、6〜7、9〜13に記載された次のとおりのものである。

(1)本件発明1
「【請求項1】 シャフト及び該シャフトに接続されたバルーンを含み、該バルーンは近位端部分、遠位端部分及び中央部分を有する種類のバルーンカテーテルにおいて、前記バルーンカテーテルは第一の潤滑手段および第二の潤滑手段を含み、前記第一の潤滑手段は、シャフトに潤滑性被膜を与えるために設けられ且つ配置され、該潤滑性被膜は、前記バルーンカテーテルに結合され且つ少なくともバルーンの一部分に対してよりもシャフトの大部分に対して相対的に高潤滑性を与えるために設けられ且つ配置されており、更に前記第二の潤滑手段は、少なくともバルーンの一部分に潤滑性被膜を与えるために設けられ且つ配置され、そして前記バルーンの前記潤滑性被膜は前記シャフトの前記潤滑性被膜よりも低潤滑性であるバルーンカテーテル。」
(2)本件発明2
「【請求項2】前記バルーンの少なくとも一部分は未被覆である請求項1記載のカテーテル。」
(3)本件発明3
「【請求項3】前記バルーンの前記中央部分が未被覆である請求項2記載のカテーテル。」
(4)本件発明4
「【請求項6】高潤滑性の被膜がポリエチレンオキシド組成物からなる請求項1記載のカテーテル。」
(5)本件発明5
「【請求項7】低潤滑性の被膜がシリコーンからなる請求項1記載のカテーテル。」
(6)本件発明6
「【請求項9】近位端部及び遠位端部を有するシャフトと、中央部分及び対向する端部を有するバルーンボディからなり且つ該バルーンボディは更に各端部にコーン及びウエストを有するバルーンとを含む種類のバルーンカテーテルであって、前記バルーンカテーテルは更に、遠位先端部分、表面領域並びにこれらの表面領域に接続された潤滑性被膜を含む種類のバルーンカテーテルにおいて、前記カテーテルの表面領域の高潤滑性の被膜及び相対的に低潤滑性の被膜の配置が予め決定されており、前記シャフトはバルーンからシャフトの近位端に伸びているシャフトの大部分の長さに結合された相対的に高潤滑性の被膜が与えられており、前記バルーンの両コーンは遠位先端部分と同様に相対的に高潤滑性の被膜が与えられており、そして前記バルーンボディの少なくとも大部分は、前記高潤滑性の被膜よりも相対的に低潤滑性の被膜によって被覆されているカテーテル。」
(7)本件発明7
「【請求項10】 前記高潤滑性の被膜がポリエチレンオキシド組成物からなる請求項9記載のカテーテル。」
(8)本件発明8
「【請求項11】 前記低潤滑性の被膜がシリコーンからなる請求項9記載のカテーテル。」
(9)本件発明9
「【請求項12】前記バルーンボディ全体が低潤滑性の被膜で被覆されている請求項9記載のカテーテル。」
(10)本件発明10
「【請求項13】前記シャフトの前記近位端部分が未被覆である請求項9記載のカテーテル。」


6.証拠方法について
6-1.甲第1号証について
甲第1号証には、図面とともに、次の事項が記載されている。(なお、日本語訳については、甲第1号証(国際公開第92/19311号パンフレット)と同一内容である参考資料1「特表平6-506853号公報」の記載を参照した。)
(1)「本発明は一般的に血管疾病の処置において用いられる拡張またはバルーンカテーテルの分野に関する。」(第1頁第5〜7行[特表平6-506853号公報第3頁左上欄第4〜5行])
(2)「本発明の完全に交換可能な一体式-ワイヤー、膨張バルーンカテーテルの模範的な実施態様はY-コネクタ10の圧縮ハブ14に固定され、第1図中に一般的に参照数字30として示されており、これは可撓性で小直径のガイドワイヤー32であって、Y-コネクタ10を経由し、かつ基部端36および末梢端38を備える可撓性の細長い管状シャフト34に沿って延在するものを含んで構成されている。可撓性管状シャフト34は好ましくは高分子材料、たとえばポリエチレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリプロピレン、ポリビニル、ポリエステル、たとえばポリエチレンテレフタレート(PET)またはポリオレフィンコポリマーから形成されている。更に、シャフト34はPTFE、シリコーンまたは低摩擦減摩剤を含む他の物質で塗被されていてもよい。」(第9頁第9〜22行[同公報第4頁右下欄第10〜19行])
(3)「シャフト34の末梢端38は拡張可能膨張バルーン44(膨張して示す)内に張り出しており、その詳細は第2図の拡大された横断面において一層容易に明らかである。第2図中に示すように、膨張バルーン44はカテーテル30の一体的部分として形成されており、これは管状シャフト34の全長に延びる代表的な単一、軸方向の管腔46と液体導入的連通状態にある。例示されたカテーテル30の一体的構造が好ましいけれども、膨張バルーン44が管状シャフト34の末梢端38に封止的に連結されている限り代替的構造を利用してもよい。」(第9頁第27〜37行[同公報第4頁右下欄第23〜29行])
(4)「従って、膨張バルーン44はシャフト34の構造において使用されるのと同一または異なった高分子材料から構成されていてもよい。同様に、低摩擦コーチング、たとえばPVC、ポリアミドまたはフルオロポリマーまたは、たとえばPTFEあるいは親水性物質および減摩剤を使用して、血管形成術中にカテーテル30の全構成要素の動きを高めるようにしてもよい。」(第9頁第37行〜第10頁第7行[同公報第4頁右下欄第29行〜第5頁左上欄第5行])
(5)「バルーン44は末梢部オリフィス48を備えており、これは管腔46と同軸的に整列され、そして導入ガイドワイヤー32を受けるようにされており、このガイドワイヤーはバルーン44の全長に亘り、かつ末梢部オリフイス48を越えて延びている。オリフィス48は封止関係をもってガイドワイヤー32を解放可能に係合するための手段を備えている。本発明の模範的実施態様において、封止関係をもって解放可能に係合するための手段は弾性スリーブ50から形成され、これは末梢部オリフィス48から延在し、そして円筒形カラー52から形成されるガイドワイヤー32の拡大された径の末梢端部と封止的に係合するような寸法とされており、またこのカラーはガイドワイヤー32に封止的に連結されている。弾性スリーブ50は管状シャフト34の残部を形成するのと同一材料から形成されてもよく、あるいは減摩性高分子材料から形成されていてもよい。或は弾性スリーブ50はその内表面に沿って減摩性物質で塗被して、円筒形カラー52との係合を容易にしてもよい。」(第10頁第8〜25行[同公報第5頁左上欄第6〜18行])
(6)また、第1図及び第2図には、中央部分と対向する端部とを有するバルーンボディからなる膨張バルーン44が図示されており、膨張バルーン44を、円筒形状の中央部分と、該中央部分の両端に形成された断面略半円形のコーンと、該コーンの各端部に形成され筒状に絞られた実質的に膨張しない部分(部分38及び弾性スリーブ50)であるウエストとで構成した点が図示されている。
また、上記(3)の記載から、膨張バルーン44を管状シャフト34の末梢端38に封止的に連結できる代替的構造を採用し得るのであるから、膨張バルーン44の遠位側のウエストの反対側に位置する近位側のウエストから延びる筒状の近位端部を形成して膨張バルーン44の一部として末梢端38の外表面に封止的に連結することが記載されていると認められる。
そして、両端の断面略半円形のコーンと弾性スリーブ50及び近位端部は、ともに膨張バルーン44の一部分であり、膨張バルーン44について「低摩擦コーチング、たとえばPVC、ポリアミドまたはフルオロポリマーまたは、たとえばPTFEあるいは親水性物質および減摩剤」などから選択される被膜を設けることが記載されている(前記(4)参照)ことから、該断面略半円形のコーンは弾性スリーブ50及び近位端部と同様に上記の「潤滑性被膜」が施されていると認められる。また、前記(2)で摘示した「シャフト34はPTFE、シリコーンまたは低摩擦減摩剤を含む他の物質で塗被されていてもよい。」という記載からみて、管状シャフト34には「PTFE、シリコーンまたは低摩擦減摩剤を含む他の物質の被膜」である「潤滑性被膜」が施されていると認められる。

これらの記載事項および図示内容を総合すると、甲第1号証には、
「管状シャフト34及び該管状シャフト34に接続された膨張バルーン44を含み、該バルーン44は近位端部、弾性スリーブ50及び中央部分を有する種類のバルーンカテーテルにおいて、前記バルーンカテーテルは『PTFE、シリコーンまたは低摩擦減摩剤を含む他の物質の被膜』および『低摩擦コーチング、たとえばPVC、ポリアミドまたはフルオロポリマーまたは、たとえばPTFEあるいは親水性物質および減摩剤などから選択される被膜』を含み、『PTFE、シリコーンまたは低摩擦減摩剤を含む他の物質の被膜』は、管状シャフト34に潤滑性被膜を与えるために設けられ且つ配置され、前記バルーンカテーテルに結合されており、更に『低摩擦コーチング、たとえばPVC、ポリアミドまたはフルオロポリマーまたは、たとえばPTFEあるいは親水性物質および減摩剤などから選択される被膜』は、膨張バルーン44全体に潤滑性被膜を与えるために設けられ且つ配置されているバルーンカテーテル。」(以下、「引用発明1」という。)、
及び、
「基部端36及び抹消端38を有する管状シャフト34と、中央部分及び対向する端部を有するバルーンボディからなり且つ該バルーンボディは更に各端部にコーン及びウエストを有する膨張バルーン44とを含む種類のバルーンカテーテルであって、前記バルーンカテーテルは更に、弾性スリーブ50、表面領域並びにこれらの表面領域に接続された潤滑性被膜を含む種類のバルーンカテーテルにおいて、前記カテーテルの表面領域の『PTFE、シリコーンまたは低摩擦減摩剤を含む他の物質の被膜』及び『低摩擦コーチング、たとえばPVC、ポリアミドまたはフルオロポリマーまたは、たとえばPTFEあるいは親水性物質および減摩剤などから選択される被膜』の配置が予め決定されており、前記管状シャフト34は膨張バルーン44から管状シャフト34の基部端36に伸びているシャフトの大部分の長さに結合された『PTFE、シリコーンまたは低摩擦減摩剤を含む他の物質の被膜』が与えられており、前記膨張バルーン44の両コーンは弾性スリーブ50と同様に『低摩擦コーチング、たとえばPVC、ポリアミドまたはフルオロポリマーまたは、たとえばPTFEあるいは親水性物質および減摩剤などから選択される被膜』が与えられており、そして前記バルーンボディ全体は、『低摩擦コーチング、たとえばPVC、ポリアミドまたはフルオロポリマーまたは、たとえばPTFEあるいは親水性物質および減摩剤などから選択される被膜』によって被覆されているカテーテル。」(以下、「引用発明2」という。)
が記載されていると認めることができる。

6-2.甲第2号証について
甲第2号証には、図面とともに、次の事項が記載されている。(なお、日本語訳については審判請求書の日本語訳を採用した。)
(1)「この発明は医療用排液管に関し、特に膨張可能な袋を備えるカテーテルに関する。止血カテーテルは、これまで、通常は長尺なチューブの先端部の周囲に配置された膨張可能な袋とともに形成され、この袋は、その膨張状態において、カテーテルを固定(anchor)させ、出血部位を支えることを目的としている。そのような装置は袋を収縮させて体腔に挿入される。この装置が適切に位置されたあと、出血組織に係合(engage)するように袋が膨張される。しかし、そのような袋カテーテルは、出血部位から滑って外れる(s1ip away)傾向があるため、使用するにあたり望ましくなかった。私は、膨張した袋が望ましい錨効果(anchoring effect)を達成できないのは、主に、袋が止血すべき領域に血液のような体液が存在し、そのような体液が、袋が膨張された状態においてすら、このような装置が通常ゴム、ナイロン、ポリエチレンのような材料から形成されるにもかかわらず、カテーテルを滑らせるためであることを見出した。したがって、本発明の第1の目的は、体腔への挿入および所定位置への固定が容易であり、かつ、これまで達成できなかった、袋が膨張された状態で不慮の脱落を起こし難く固定できる、改良された膨張可能止血袋カテーテルを提供することにある。」(第1欄第15〜40行)
(2)「フロック加工の付着が望ましくないカテーテル10の表面部は適当なマスキング複合物またはプラスチックテープで被覆される。」(第2欄第14〜17行)
(3)「カテーテル10が尿道に導入され袋が膨張されたとき、袋19のフロック加工された表面はこの膨張された袋が濡れた止血部位から滑り落ちることを防止する。」(第2欄第57〜60行)
(4)また、第2図、第5図には、袋19の外表面全体にのみ単繊維からなるフロック加工材料21を付着させカテーテルの他の部位より滑り難くすることが記載されている。

これらの記載から、甲第2号証には、
「長尺のチューブを有する膨張可能な袋カテーテルは、体腔内の止血部位で袋が膨張したとき、止血領域に存在する血液等の体液で袋が滑るため当該カテーテルを所定位置に固定できないこと。」及び
「長尺のチューブを有する膨脹可能な袋カテーテルにおいて、体腔への挿入の容易を維持しつつ袋の膨張時に体腔内の止血領域に存在する血液等の体液で、袋が滑るのを防止するには、袋の外表面をフロック加工し滑り難くすること。」
が記載されていると認めることができる。

6-3.甲第3号証について
甲第3号証には、図面とともに、次の事項が記載されている。(なお、日本語訳については審判請求書の日本語訳を採用した。)
(1)「本発明の別の目的は、バルーンの配置および拡張の直後におけるカテーテルの滑りを防止する織り目加工された(textured)膨張可能なバルーン部分を備える肝臓バイパスカテーテルを提供することにある。」(第3欄第48〜51行)
(2)「肝臓バイパスカテーテル組立体10は長尺で柔軟なシリコン外側管状体11を備え、この管状体11は、以下の記述から明らかになる理由から、拡大する載置チューブとして引用される。」(第4欄第24〜28行)
(3)「バルーンの外表面は血管内壁に接触する。一方のバルーン若しくは両方のバルーンの外面を織り目加工し、バルーンが膨張された後におけるカテーテルの滑りや脱落(dis1ocation)の可能性を減らすようにすることが好ましい。バルーンのようなシリコン物品の外面を織り目加工する方法は、米国特許第4889744号明細書にQuaidによって記載されている。」(第5欄第22〜29行)

これらの記載から、甲第3号証には、
「シリコン外側管状体を有するカテーテルにおいて、膨張直後のカテーテルの滑りを防止するため、バルーンの外面を織り目加工すること。」
が記載されていると認めることができる。

6-4.甲第4号証について
甲第4号証には、図面とともに、次の事項が記載されている。
(1)「この点において、上記の特開昭61-45775号公報に示されているガイドワイヤーは、十分な効果を有している。しかし、このガイドワイヤーは、外表面全体に水溶性高分子物質またはその誘導体が共有結合しているため、カテーテル内面とガイドワイヤー外面との間の摩擦抵抗も極めて小さいものとなっている。・・・(中略)・・・。このため、あまり、操作抵抗が低すぎると、予定以上にガイドワイヤーを押し込んだり、逆に引き戻してしまうことがあり、抵抗が少なすぎる故に、操作性が悪い場合があった。そこで、本発明の目的は、ある程度の操作抵抗を有し、操作中における過剰なガイドワイヤーの押し込み、および引き戻しを行う可能性が少なく、さらに、血管壁と接触する部分の摩擦抵抗は、十分低く、目的部位への挿入が容易なカテーテル用ガイドワイヤーを提供するものである。」(第2頁右下欄第7行〜第3頁左上欄第9行)
(2)「さらに、第1の線状体2の外面に、カテーテル等の筒状体内面との摩擦抵抗をある程度低下させるために合成樹脂層8を設けることが好ましい。合成樹脂層8としては、ポリエチレン、・・・(中略)・・・、フッ素樹脂(例えば、PTFE、ETFE)、シリコーンゴムもしくは各々のエラストマーおよび複合材料等が好適に使用され、特に好ましくは、フッ素樹脂である。」(第5頁左下欄第3〜12行)
(3)「そして、この合成樹脂層5の表面は、潤滑性表面であることが必要であり、潤滑性表面は、合成樹脂層5の表面に潤滑性物質を固定することにより形成することが好ましい。潤滑性物質とは、湿潤時に潤滑性を有する物質をいう。具体的には、水溶性高分子物質またはその誘導体がある。」(第6頁左上欄第8〜14行)
(4)「さらに、潤滑性物質は、湿潤時(例えば、血液接触時)に含水し潤滑性を発現するものである。このような潤滑性物質をガイドワイヤー1の外表面である合成樹脂層5に固定することにより、カテーテル挿入時に、カテーテル内壁とガイドワイヤー外面との摩擦が低下し、カテーテル内でのガイドワイヤーの摺動性が向上するため、ガイドワイヤーの操作が容易となる。・・・(中略)・・・。合成水溶性高分子物質としては、ポリビニルアルコール、また、ポリアルキレンオキサイド系として、ポリエチレンオキサイド、・・・(中略)・・・、水溶性ナイロンなどが考えられる。」(第6頁左上欄第20行〜同頁左下欄第11行)

これらの記載から、甲第4号証には、
「潤滑性を有する潤滑性物質の被膜にはポリエチレンオキサイドが、また低摩擦性の合成樹脂被膜にはシリコーンゴムが含まれること。」
が記載されている。

6-5.甲第5号証について
甲第5号証には、図面とともに、次の事項が記載されている。(なお、日本語訳については、甲第5号証(国際公開第92/19316号パンフレット)と同一内容である参考資料2「特表平6-507101号公報」の記載を参照した。)
(1)「本発明は医療器具のために用いるバルーン(風船)及びこのようなバルーンを用いた医療器具に関するものである。」(第1頁第9〜10行[特表平6-507101号公報第3頁右上欄第6〜7行])
(2)「本発明の他の特徴は、ベース層としてそれ自体ではポリエチレンカテーテル管に容易には熱融着できない材料を用いることにある。これらの例では、相互に接合可能な材料のスリーブをカテーテルとバルーン間の接合部分にかぶせ、スリーブを加熱してバルーンをスリーブに接合し、同時にスリーブをカテーテルに接合してカテーテルとバルーン間に液密シールを形成せしめる。」(第2頁第31〜39行[同公報第3頁左下欄第19〜23行])
(3)「説明用のカテーテルを第1図と第2図に示す。カテーテル1は中間部5と、端部6と先端7とを有するカテーテル管3を含む。端部6と先端7に接続された本発明の膨張した押出医療用バルーン8を第1図に示す。」(第5頁第9〜14行[同公報第4頁右上欄第2〜4行])
(4)「カテーテル1を動脈内に挿入するためカテーテル管3はやや可撓性のある材料で作る。カテーテル管3は好ましくはポリオレフィン共重合体、例えば従来の高密度ポリエチレンにより形成する。管の直径は約12〜16フレンチとし、水溶液内での滑りを加速するため、内側及び外側面を例えばシリコンベースの材料で被覆せしめる。」(第6頁第6〜13行[同公報第4頁右上欄第22〜26行])
(5)「第1図に示す構成のものの変形においては、ポリエチレンテレフタレートの主層8Bと、ポリエチレンの外層8Aとより成るバルーンをカテーテル管3の端部6の周りに配置し、次いでナイロンのベース層20Bと高密度のポリエチレンの熱融着層20Cより成るスリーブ20をバルーン8の端部にかぶせ、バルーン8のポリエチレンをスリーブのポリエチレンに封着し、ナイロンをカテーテル管3に封着する。強度が必要な場合には最も内側の層を高密度ポリエチレンで形成し、最も外側の層をプレクサーを挟んだナイロンによって形成する。」(第7頁第5〜17行[同公報第4頁左下欄第19〜25行])
(6)また、上記(4)で摘示したとおり、カテーテル管3は「水溶液内での滑りを加速するため、内側及び外側面を例えばシリコンベースの材料で被覆」されているのであるから、カテーテル管3には、潤滑性被膜を与えるためにシリコーン被膜が施されているということができる。さらに、第5図には、ナイロンのベース層20Bがスリーブ20の外層であることが図示されている。

これらの記載事項及び図示内容を総合すると、甲第5号証には、
「カテーテル管3及び該カテーテル管3に接続されたバルーン8を有するバルーンカテーテルにおいて、前記バルーンカテーテルはシリコーン被膜およびスリーブ20を含み、前記シリコーン被膜は、カテーテル管3に潤滑性被膜を与えるために設けられ且つ配置され、該潤滑性被膜は、前記バルーンカテーテルに結合されており、更に前記スリーブ20は、バルーン8の両端部に設けられ且つ配置されたバルーンカテーテル。」(以下、「引用発明3」という。)
が記載されていると認めることができる。


7.訂正後の本件発明に係る特許の無効理由の存否について
上記訂正事項4の訂正により理由3及び理由5については無効の理由がなくなり、また、口頭審理において請求人は理由4についての主張を撤回したので、以下、理由1及び理由2について検討する。

7-1.理由1について
7-1-1.本件発明1について
(1)対比
本件発明1と引用発明1とを対比すると、その作用ないし構造からみて、引用発明1における「管状シャフト34」は本件発明1の「シャフト」に相当することが明らかであり、同様に、引用発明1における「膨張バルーン44」は本件発明1の「バルーン」に、「近位端部」は「近位端部分」に、「弾性スリーブ50」は「遠位端部分」に、それぞれ相当するといえる。
また、引用発明1における「PTFE、シリコーンまたは低摩擦減摩剤を含む他の物質の被膜」は、管状シャフト34に潤滑性被膜を与えるために設けられ且つ配置されたものであるから、本件発明1における「第一の潤滑手段」に相当し、引用発明1における「低摩擦コーチング、たとえばPVC、ポリアミドまたはフルオロポリマーまたは、たとえばPTFEあるいは親水性物質および減摩剤などから選択される被膜」は、膨張バルーン44全体に潤滑性被膜を与えるために設けられ且つ配置されているので、「少なくとも膨張バルーン44の一部分に潤滑性被膜を与えるために設けられ且つ配置されている」といえるから、本件発明1の「第二の潤滑手段」に相当する。
してみると、両者は、
「シャフト及び該シャフトに接続されたバルーンを含み、該バルーンは近位端部分、遠位端部分及び中央部分を有する種類のバルーンカテーテルにおいて、前記バルーンカテーテルは第一の潤滑手段および第二の潤滑手段を含み、前記第一の潤滑手段は、シャフトに潤滑性被膜を与えるために設けられ且つ配置され、該潤滑性被膜は、前記バルーンカテーテルに結合されており、更に前記第二の潤滑手段は、少なくともバルーンの一部分に潤滑性被膜を与えるために設けられ且つ配置されているバルーンカテーテル。」
である点(以下、「一致点A」という。)で一致し、次の点で相違するということができる。
相違点1:第一の潤滑手段に関して、本件発明1は、潤滑性被膜が、少なくともバルーンの一部分に対してよりもシャフトの大部分に対して相対的に高潤滑性を与えるために設けられ且つ配置されているのに対して、引用発明1は、その点が明確にされていない点。
相違点2:本件発明1は、バルーンの潤滑性被膜はシャフトの潤滑性被膜よりも低潤滑性であるのに対して、引用発明1は、その点が明確にされていない点。

(2)当審の判断
そこで、上記相違点1、2について検討する。
相違点1、2に係る本件発明1の構成は、本件特許明細書の記載によれば、膨張したバルーンにより閉塞部に対して付与される増大した圧力の結果、閉塞部を覆う血液等の体液により閉塞部に沿ってバルーンが摺動すること、即ち「スイカの種蒔き」を防止するために採用されたものであり、シャフトの潤滑性被膜を高潤滑性とするとともに、バルーンの潤滑性被膜をシャフトの潤滑性被膜よりも低潤滑性とし、少なくともバルーンの一部分をシャフトの大部分よりも滑り難くしたものである。
ところで、甲第2号証には、「長尺のチューブを有する膨張可能な袋カテーテルは、体腔内の止血部位で袋が膨張したとき、止血領域に存在する血液等の体液で袋が滑るため当該カテーテルを所定位置に固定できないこと。」及び「長尺のチューブを有する膨脹可能な袋カテーテルにおいて、体腔への挿入の容易を維持しつつ袋の膨張時に体腔内の止血領域に存在する血液等の体液で、袋が滑るのを防止するには、袋の外表面をフロック加工し滑り難くすること。」が、また、甲第3号証には、「シリコン外側管状体を有するカテーテルにおいて、膨張直後のカテーテルの滑りを防止するため、バルーンの外面を織り目加工すること。」が記載されているので、シャフトをバルーンよりも相対的に一層摺動し易くすると共に、膨張したバルーンにより閉塞部に対して付与される増大した圧力の結果、閉塞部を覆う血液等の体液により閉塞部に沿ってバルーンが摺動するのを防止するために、バルーンの外表面を滑り難くし、バルーンに対してよりもシャフトに対して相対的に高潤滑性を与えようとすることは、本願の出願前において公知の技術課題であったということができる。
そして、甲第2号証の「フロック加工」は滑り難くするために施される加工であるから、フロック加工を施された袋の外表面の所望の部分は、カテーテルの他の部分よりも滑り難く、フロック加工を施された袋の外表面の所望の部分の滑り、即ち潤滑性は、カテーテルの他の部分、即ちシャフト等の部分の潤滑性より低いことは明らかである。また、甲第3号証の「織り目加工」は、シリコンで構成されたバルーンが「膨張された後におけるカテーテルの滑りや脱落(dis1ocation)の可能性を減らす」ために施される加工であるから、バルーンの外面の滑り、即ちバルーンの潤滑性は、シリコーンで構成されたバルーン以外のカテーテル部分、即ちシャフト等の部分より潤滑性が低いことは明らかなことである。
しかも、引用発明1においては、シャフトに潤滑性被膜を与えるために設けられた第一の潤滑手段は「PTFE、シリコーンまたは低摩擦減摩剤を含む他の物質の被膜」であり、バルーンに潤滑性被膜を与えるために設けられた第二の潤滑手段は「低摩擦コーチング、たとえばPVC、ポリアミドまたはフルオロポリマーまたは、たとえばPTFEあるいは親水性物質および減摩剤などから選択される被膜」であるから、シャフトとバルーンとで異なる物質の被膜を施すという選択もあり得ることが示唆されているということができる。
そうすると、引用発明1において、甲第2号証、甲第3号証に記載されている「袋が膨張されたとき、膨張された袋が濡れた止血部位から滑り落ちることを防止する」又は「バルーンが膨張された後におけるカテーテルの滑りや脱落(dis1ocation)の可能性を減らす」という公知の技術課題を解決する場合、甲第2号証、甲第3号証の記載から把握し得る「袋の外表面の所望の部分の潤滑性を、カテーテルの他の部分、即ちシャフト等の部分の潤滑性より低くすること」又は「バルーンの潤滑性を、バルーン以外のカテーテル部分、即ちシャフト等の部分の潤滑性より低くすること」に基づいて、引用発明1のバルーンの潤滑性被膜をシャフトの潤滑性被膜よりも低潤滑性として、少なくともバルーンの一部分がシャフトの大部分よりも滑り難くなるようにすることは、当業者が容易に想到できたことであるということができる。
そして、本件発明1の効果も、引用発明1、甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明から当業者が予測できる範囲内のものであって格別なものとはいえない。
したがって、本件発明1は、甲第1号証〜甲第3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるといわざるを得ない。

7-1-2.本件発明2について
(1)対比
本件発明2は本件発明1を引用する発明であるから、本件発明2と引用発明1とを対比すると、上記一致点Aで一致し、上記相違点1及び2に加えて、次の点で相違するといえる。
相違点3:本件発明2は、バルーンの少なくとも一部分は未被覆であるのに対して、引用発明1はそのような構成を備えていない点。
(2)当審の判断
そこで、上記相違点3について検討する。
引用発明1のバルーンカテーテルにおいては、バルーンやシャフトの外表面を滑り易くするために、即ち潤滑性を高めるために、当該外表面に潤滑性被膜が施されているのであるから、潤滑性被膜が施されていない場合、即ち未被覆の場合には滑り難い、即ち潤滑性が低いことは、当業者にとって自明の事項である。
そうすると、引用発明1において、甲第2号証、甲第3号証に記載された発明を適用するに当たり、バルーンを低潤滑性とするためにバルーンの一部分を未被覆とするようなことは、当業者が容易に想到できたことであるということができる。
したがって、本件発明2も、甲第1号証〜甲第3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるといわざるを得ない。

7-1-3.本件発明4について
(1)対比
本件発明4は本件発明1を引用する発明であるから、本件発明4と引用発明1とを対比すると、上記一致点Aで一致し、上記相違点1及び2に加えて、次の点で相違するといえる。
相違点4:本件発明4は、高潤滑性の被膜がポリエチレンオキシド組成物からなるのに対して、引用発明1はそのような構成を備えていない点。
(2)当審の判断
そこで、上記相違点4について検討する。
甲第4号証には、「潤滑性を有する潤滑性物質の被膜にはポリエチレンオキサイドが、また低摩擦性の合成樹脂被膜にはシリコーンゴムが含まれること。」が記載されている。(なお、甲第4号証に記載された「ポリエチレンオキサイド」は、本件発明4における「ポリエチレンオキシド組成物」と同じものを意味するものと認められる。)
そうすると、引用発明1において、高潤滑性の被膜として「ポリエチレンオキシド組成物」を採用するようなことは、甲第4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到できたことであるということができる。
したがって、本件発明4は、甲第1号証〜甲第4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるといわざるを得ない。

7-1-4.本件発明5について
(1)対比
本件発明5は本件発明1を引用する発明であるから、本件発明5と引用発明1とを対比すると、上記一致点Aで一致し、上記相違点1及び2に加えて、次の点で相違するといえる。
相違点5:本件発明5は、低潤滑性の被膜がシリコーンからなるのに対して、引用発明1はそのような構成を備えていない点。
(2)当審の判断
そこで、上記相違点5について検討する。
甲第4号証には、「潤滑性を有する潤滑性物質の被膜にはポリエチレンオキサイドが、また低摩擦性の合成樹脂被膜にはシリコーンゴムが含まれること。」が記載されている。
そうすると、引用発明1において、低潤滑性の被膜として「シリコーン」を採用するようなことは、甲第4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到できたことであるということができる。
したがって、本件発明5も、甲第1号証〜甲第4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるといわざるを得ない。

7-1-5.本件発明6について
(1)対比
本件発明6と引用発明2とを対比すると、その作用ないし構造からみて、引用発明2における「管状シャフト34」は本件発明6の「シャフト」に相当することが明らかであり、同様に、引用発明2における「膨張バルーン44」は本件発明6の「バルーン」に、「基部端36」は「近位端部」に、「抹消端38」は「遠位端部」に、「弾性スリーブ50」は「遠位先端部分」に、それぞれ相当するといえる。
また、引用発明2における「PTFE、シリコーンまたは低摩擦減摩剤を含む他の物質の被膜」及び「低摩擦コーチング、たとえばPVC、ポリアミドまたはフルオロポリマーまたは、たとえばPTFEあるいは親水性物質および減摩剤などから選択される被膜」、本件発明6における「高潤滑性の被膜」及び「低潤滑性の被膜」は、いずれも潤滑性を有する被膜であるから、「潤滑性の被膜」と言い換え得るものである。
してみると、両者は、
「近位端部及び遠位端部を有するシャフトと、中央部分及び対向する端部を有するバルーンボディからなり且つ該バルーンボディは更に各端部にコーン及びウエストを有するバルーンとを含む種類のバルーンカテーテルであって、前記バルーンカテーテルは更に、遠位先端部分、表面領域並びにこれらの表面領域に接続された潤滑性被膜を含む種類のバルーンカテーテルにおいて、前記カテーテルの表面領域の2つの潤滑性の被膜の配置が予め決定されており、前記シャフトはバルーンからシャフトの近位端に伸びているシャフトの大部分の長さに結合された潤滑性の被膜が与えられており、前記バルーンの両コーンは遠位先端部分と同様に潤滑性の被膜が与えられており、そして前記バルーンボディの少なくとも大部分は、潤滑性の被膜によって被覆されているカテーテル。」
である点(以下、「一致点B」という。)で一致し、次の点で相違するということができる。
相違点6:カテーテルの表面領域の2つの潤滑性の被膜が、本件発明6は、「高潤滑性の被膜及び相対的に低潤滑性の被膜」であるのに対して、引用発明2は、「PTFE、シリコーンまたは低摩擦減摩剤を含む他の物質の被膜」及び「低摩擦コーチング、たとえばPVC、ポリアミドまたはフルオロポリマーまたは、たとえばPTFEあるいは親水性物質および減摩剤などから選択される被膜」である点。
相違点7:シャフトに与えられる潤滑性の被膜が、本件発明6は、「相対的に高潤滑性の被膜」であるのに対して、引用発明2は、「PTFE、シリコーンまたは低摩擦減摩剤を含む他の物質の被膜」である点。
相違点8:バルーンの両コーンに遠位先端部分と同様に与えられる潤滑性の被膜が、本件発明6は、「相対的に高潤滑性の被膜」であるのに対して、引用発明2は、「低摩擦コーチング、たとえばPVC、ポリアミドまたはフルオロポリマーまたは、たとえばPTFEあるいは親水性物質および減摩剤などから選択される被膜」である点。
相違点9:バルーンボディの少なくとも大部分を被覆する潤滑性の被膜が、本件発明6は、「高潤滑性の被膜よりも相対的に低潤滑性の被膜」であるのに対して、引用発明2は、「低摩擦コーチング、たとえばPVC、ポリアミドまたはフルオロポリマーまたは、たとえばPTFEあるいは親水性物質および減摩剤などから選択される被膜」である点。

(2)当審の判断
そこで、上記相違点6〜9について検討する。
上記相違点6〜9を一つにまとめると、要するに、両者の相違点は、本件発明6では、「シャフトに与える潤滑性の被膜」と「バルーンの両コーンに遠位先端部分と同様に与えられる潤滑性の被膜」とを「相対的に高潤滑性の被膜」とし、「バルーンボディの少なくとも大部分を被覆する潤滑性の被膜」を「高潤滑性の被膜よりも相対的に低潤滑性の被膜」としたのに対して、引用発明2では、「シャフトに与える潤滑性の被膜」、「バルーンの両コーンに遠位先端部分と同様に与えられる潤滑性の被膜」、及び「バルーンボディの少なくとも大部分を被覆する潤滑性の被膜」の潤滑性についてはその高低の区別が明確にされていない点、にあるということができる。
ところで、引用発明2のバルーンカテーテルは、シャフトとバルーンのどちらも潤滑性の被膜で被覆されたものであり、この潤滑性の被膜を設けることによってバルーンカテーテルが血管内で容易に移動することができるようにしたものである。
そして、バルーンカテーテルを体内の目的部位に導入する際に、バルーンの両端部のコーンや遠位先端部分(弾性スリーブ50)が血管壁に対する摺動抵抗を高める大きな要因になることを勘案すれば、両コーンと遠位先端部分については、特に高い潤滑性が要求されるということは当業者にとって自明の事項である。
一方、甲第2号証及び甲第3号証の記載からみて、バルーンカテーテルにおいて、バルーンの膨張時にバルーンが滑って不慮の移動が生じるのを防止するという課題が本件発明の出願前に既に公知の技術課題であったということ、そして、その課題を解決するために、バルーンをシャフトに比べて相対的に滑り難くするという手段を採用することも、同じく公知であったということができる。
そうすると、引用発明2において、甲第2号証、甲第3号証に記載された、バルーンの膨張時にバルーンが滑って不慮の移動をするのを防止するという課題を解決するために、バルーンをシャフトに比べて相対的に滑り難くするという手段を採用すること、即ちバルーンをシャフトに比べて相対的に低潤滑性にすることは、当業者が容易に想到できたことであり、その際に上記自明の事項を勘案して、バルーンの両コーンと遠位先端部分だけは、シャフトと同様に相対的に滑り易いままにしておくこと、即ち高潤滑性にしておくことも、当業者が容易に想到できたことであるということができる。
したがって、「シャフトに与える潤滑性の被膜」と「バルーンの両コーンに遠位先端部分と同様に与えられる潤滑性の被膜」とを「相対的に高潤滑性の被膜」とし、「バルーンボディの少なくとも大部分を被覆する潤滑性の被膜」を「高潤滑性の被膜よりも相対的に低潤滑性の被膜」とするという構成、即ち、上記相違点6〜9に係る本件発明6の構成は、当業者が容易に想到できたものである。
そして、本件発明6の効果も、引用発明2、甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明から当業者が予測できる範囲内のものであって格別なものとはいえない。
したがって、本件発明6は、甲第1号証〜甲第3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるといわざるを得ない。

7-1-6.本件発明7について
(1)対比
本件発明7は本件発明6を引用する発明であるから、本件発明7と引用発明2とを対比すると、上記一致点Bで一致し、上記相違点6〜9に加えて、次の点で相違するといえる。
相違点10:本件発明7は、高潤滑性の被膜がポリエチレンオキシド組成物からなるのに対して、引用発明2はそのような構成を備えていない点。
(2)当審の判断
そこで、上記相違点10について検討する。
甲第4号証には、「潤滑性を有する潤滑性物質の被膜にはポリエチレンオキサイドが、また低摩擦性の合成樹脂被膜にはシリコーンゴムが含まれること。」が記載されている。
そうすると、引用発明2において、高潤滑性の被膜として「ポリエチレンオキシド組成物」を採用することは、甲第4号証に記載されたものに基づいて、当業者が容易に想到できたことであるということができる。
したがって、本件発明7は、甲第1号証〜甲第4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるといわざるを得ない。

7-1-7.本件発明8について
(1)対比
本件発明8は本件発明6を引用する発明であるから、本件発明8と引用発明2とを対比すると、上記一致点Bで一致し、上記相違点6〜9に加えて、次の点で相違するといえる。
相違点11:本件発明8は、低潤滑性の被膜がシリコーンからなるのに対して、引用発明2はそのような構成を備えていない点。
(2)当審の判断
そこで、上記相違点11について検討する。
甲第4号証には、「潤滑性を有する潤滑性物質の被膜にはポリエチレンオキサイドが、また低摩擦性の合成樹脂被膜にはシリコーンゴムが含まれること。」が記載されている。
そうすると、引用発明2において、低潤滑性の被膜として「シリコーン」を採用するようなことは、甲第4号証に記載されたものに基づいて、当業者が容易に想到できたことであるということができる。
したがって、本件発明8も、甲第1号証〜甲第4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるといわざるを得ない。

7-1-8.本件発明9について
(1)対比
本件発明9は本件発明6を引用する発明であるから、本件発明9は、本件発明6において、「前記バルーンの両コーンは遠位先端部分と同様に相対的に高潤滑性の被膜が与えられており、そして前記バルーンボディの少なくとも大部分は、前記高潤滑性の被膜よりも相対的に低潤滑性の被膜によって被覆されている」という構成を、「前記バルーンボディ全体が低潤滑性の被膜で被覆されている」という構成に置き換えたものであると認めることができる。
そうすると、本件発明9と引用発明2とを対比すると、両者は、
「近位端部及び遠位端部を有するシャフトと、中央部分及び対向する端部を有するバルーンボディからなり且つ該バルーンボディは更に各端部にコーン及びウエストを有するバルーンとを含む種類のバルーンカテーテルであって、前記バルーンカテーテルは更に、遠位先端部分、表面領域並びにこれらの表面領域に接続された潤滑性被膜を含む種類のバルーンカテーテルにおいて、前記カテーテルの表面領域の2つの潤滑性の被膜の配置が予め決定されており、前記シャフトはバルーンからシャフトの近位端に伸びているシャフトの大部分の長さに結合された潤滑性の被膜が与えられており、そして前記バルーンボディ全体は、潤滑性の被膜によって被覆されているカテーテル。」
である点で一致し、上記相違点6、7に加えて、次の点で相違するといえる。
相違点12:本件発明9は、バルーンボディ全体が低潤滑性の被膜で被覆されているのに対して、引用発明2はそのような構成を備えているかどうか明確でない点。
(2)当審の判断
そこで、上記相違点6、7、12について検討する。
相違点6、7、12を一つにまとめると、両者の相違点は、本件発明9では、「シャフトに与えられる潤滑性の被膜」が「相対的に高潤滑性の被膜」であり、「バルーンボディ全体」が「高潤滑性の被膜よりも相対的に低潤滑性の被膜」によって被覆されているのに対して、引用発明2では、「シャフトに与えられる潤滑性の被膜」が「PTFE、シリコーンまたは低摩擦減摩剤を含む他の物質の被膜」であり、「バルーンボディ全体」が「低摩擦コーチング、たとえばPVC、ポリアミドまたはフルオロポリマーまたは、たとえばPTFEあるいは親水性物質および減摩剤などから選択される被膜」によって被覆されている点、にあるということができる。
ところで、引用発明2のバルーンカテーテルは、シャフトとバルーンのどちらも潤滑性の被膜で被覆されたものであり、この潤滑性の被膜を設けることによってバルーンカテーテルが血管内で容易に移動することができるようにしたものである。
一方、甲第2号証及び甲第3号証の記載からみて、バルーンカテーテルにおいて、バルーンの膨張時にバルーンが滑って不慮の移動が生じるのを防止するという課題が本件発明の出願前に既に公知の技術課題であったということ、そして、その課題を解決するために、バルーンをシャフトに比べて相対的に滑り難くするという手段を採用することも、同じく公知であったということができる。
そうすると、引用発明2において、甲第2号証、甲第3号証に記載された、バルーンの膨張時にバルーンが滑って不慮の移動が生じるのを防止するという課題を解決するために、バルーンをシャフトに比べて相対的に滑り難くするという手段を採用すること、即ちバルーンをシャフトに比べて相対的に低潤滑性にすることは、当業者が容易に想到できたことであるということができる。
したがって、「シャフトに与えられる潤滑性の被膜」を「相対的に高潤滑性の被膜」とし、「バルーンボディ全体」を「高潤滑性の被膜よりも相対的に低潤滑性の被膜」で被覆するという構成、即ち、上記相違点6、7、12に係る本件発明9の構成は、当業者が容易に想到できたものである。
そして、本件発明9の効果も、引用発明2、甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明から当業者が予測できる範囲内のものであって格別なものとはいえない。
したがって、本件発明9も、甲第1号証〜甲第3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるといわざるを得ない。

7-1-9.本件発明10について
(1)対比
本件発明10は本件発明6を引用する発明であるから、本件発明10と引用発明2とを対比すると、上記一致点Bで一致し、上記相違点6〜9に加えて、次の点で相違するといえる。
相違点13:本件発明10は、シャフトの前記近位端部分が未被覆であるのに対して、引用発明2は、そのような構成を備えているかどうか明確でない点。
(2)当審の判断
そこで、上記相違点13について検討する。
シャフトの近位端部分は、血管拡張手術などにおいてバルーンカテーテルを操作するとき、手で握り持つことの多い部分であることは、当業者にとって技術常識である。
そうすると、シャフトを潤滑性の被膜で被覆した引用発明2において、シャフトをしっかりと握り持ちながら、バルーンカテーテルを確実に操作できるようにするために、シャフトの近位端部分を滑り難くすることは、当業者が容易に想到できたことであり、そのために、シャフトの近位端部分を未被覆とすることは、当業者が容易になし得たことである。
したがって、本件発明10も、甲第1号証〜甲第3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるといわざるを得ない。

7-2.理由2について
7-2-1.本件発明1について
(1)対比
本件発明1と引用発明3とを対比すると、その作用ないし構造からみて、引用発明3における「カテーテル管3」は本件発明1の「シャフト」に相当することが明らかであり、同様に、引用発明3における「バルーン8」は本件発明1の「バルーン」に相当するといえる。そして、引用発明3の「バルーン8」も、近位端部分、遠位端部分及び中央部分を有する種類のバルーンであることは明らかである。
また、引用発明3における「シリコーン被膜」は、上記「6-5.(6)」で摘示したとおり、カテーテル管3に潤滑性被膜を与えるために施されているものであるから、本件発明1における「第一の潤滑手段」に対応し、また、引用発明3における「スリーブ20」は、バルーン8の両端部、即ちバルーン8の一部分に被せられており、かつ外層に当たるベース層20Bが潤滑性を有するナイロンであるところからみて、本件発明1における「第二の潤滑手段」に対応するものである。また、引用発明3のベース層20Bは、ナイロンの層であるから「ナイロン被膜」あるいは「潤滑性被膜」と称し得るものである。
してみると、両者は、
「シャフト及び該シャフトに接続されたバルーンを含み、該バルーンは近位端部分、遠位端部分及び中央部分を有する種類のバルーンカテーテルにおいて、前記バルーンカテーテルは第一の潤滑手段および第二の潤滑手段を含み、前記第一の潤滑手段は、シャフトに潤滑性被膜を与えるために設けられ且つ配置され、該潤滑性被膜は、前記バルーンカテーテルに結合されており、更に前記第二の潤滑手段は、少なくともバルーンの一部分に潤滑性被膜を与えるために設けられ且つ配置されたバルーンカテーテル。」
である点(以下、「一致点C」という。)で一致し、次の点で一応相違するということができる。
相違点14:第一の潤滑手段に関して、本件発明1は、潤滑性被膜が、少なくともバルーンの一部分に対してよりもシャフトの大部分に対して相対的に高潤滑性を与えるために設けられ且つ配置されているのに対して、引用発明3は、その点が明確にされていない点。
相違点15:本件発明1は、バルーンの潤滑性被膜はシャフトの潤滑性被膜よりも低潤滑性であるのに対して、引用発明3は、その点が明確にされていない点。

(2)当審の判断
そこで、上記相違点14、15について検討する。
甲第5号証には、上記「6-5.」で摘示した事項からみて、(a)カテーテル管3はシリコーン被膜で被覆されていること、(b)バルーンの外層(外層8A)はポリエチレンであること、(c)スリーブの外層(ベース層20B)はナイロンであること、即ちナイロン被膜であること、が記載されていると認められる。
ところで、シリコーンがポリエチレン(ポリオレフィン)やナイロン(ポリアミド)よりも潤滑性が高いことは、請求人が上申書において提出した資料1〜7により明らかであり、ナイロン(ポリアミド)やポリエチレンの表面にシリコーン被膜を施して潤滑性を高めることは、カテーテル等の医療機器の分野では従来から広く行われてきたことであるということができる。
そうすると、引用発明3のバルーンカテーテルにおいて、シャフトを被覆しているシリコーン被膜は、バルーンの一部分に設けられたスリーブのナイロン被膜よりも潤滑性が高いということができるから、引用発明3においても、シリコーン被膜が「少なくともバルーンの一部分に対してよりもシャフトの大部分に対して相対的に高潤滑性を与えるために設けられ且つ配置されている」ということができる。したがって、相違点14は実質的に相違点とはいえないものである。
また、引用発明3のバルーンカテーテルにおいて、「バルーンの潤滑性被膜」に相当するスリーブのナイロン被膜は、「シャフトの潤滑性被膜」に相当するシリコーン被膜よりも潤滑性が低いから、引用発明3においても「バルーンの潤滑性被膜はシャフトの潤滑性被膜よりも低潤滑性である」ということができる。したがって、相違点15も実質的に相違点とはいえないものである。
してみると、本件発明1は引用発明3と同一である。

なお、被請求人は、答弁書及び上申書において、甲第5号証に記載されたスリーブの外層は、「ナイロン」でなく「ポリエチレン」であると主張している。しかしながら、甲第5号証における「強度が必要な場合には最も内側の層を高密度ポリエチレンで形成し、最も外側の層をプレクサーを挟んだナイロンによって形成する。」(上記「6-5.(5)」を参照)という記載、「本発明の他の特徴は、ベース層としてそれ自体ではポリエチレンカテーテル管に容易には熱融着できない材料を用いることにある。これらの例では、相互に接合可能な材料のスリーブをカテーテルとバルーン間の接合部分にかぶせ、スリーブを加熱してバルーンをスリーブに接合し、同時にスリーブをカテーテルに接合してカテーテルとバルーン間に液密シールを形成せしめる。」(上記「6-5.(2)」を参照)という記載、及び、第5図に図示されたナイロンのベース層20Bはスリーブ20の外層であること(上記「6-5.(6)」を参照)などからみて、最も外側の層は「ポリエチレン」ではなくて「ナイロン」であると解されるから、被請求人の主張は採用することができない。

7-2-2.本件発明2について
本件発明2は、引用発明3と同一の本件発明1に「バルーンの少なくとも一部分は未被覆である」という限定を付加したものである。
しかしながら、引用発明3は、バルーンの両端部がスリーブで覆われているのであるから、バルーンの残りの部分はスリーブで覆われていない、即ち未被覆であるということができる。
したがって、本件発明2も引用発明3と同一である。

7-2-3.本件発明3について
本件発明3は、引用発明3と同一の本件発明1に「バルーンの前記中央部分が未被覆である」という限定を付加したものである。
しかしながら、引用発明3は、バルーンの両端部がスリーブで覆われているのであるから、バルーンの中央部分はスリーブで覆われていない、即ち未被覆であるということができる。
したがって、本件発明3も引用発明3と同一である。


8.むすび
以上のとおりであるから、本件発明1〜3の特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、また、本件発明1、2、4〜10の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
バルーンカテーテルにおける潤滑性被膜の選択的配置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】シャフト及び該シャフトに接続されたバルーンを含み、該バルーンは近位端部分、遠位端部分及び中央部分を有する種類のバルーンカテーテルにおいて、前記バルーンカテーテルは第一の潤滑手段および第二の潤滑手段を含み、前記第一の潤滑手段は、シャフトに潤滑性被膜を与えるために設けられ且つ配置され、該潤滑性被膜は、前記バルーンカテーテルに結合され且つ少なくともバルーンの一部分に対してよりもシャフトの大部分に対して相対的に高潤滑性を与えるために設けられ且つ配置されており、更に前記第二の潤滑手段は、少なくともバルーンの一部分に潤滑性被膜を与えるために設けられ且つ配置され、そして前記バルーンの前記潤滑性被膜は前記シャフトの前記潤滑性被膜よりも低潤滑性であるバルーンカテーテル。
【請求項2】前記バルーンの少なくとも一部分は未被覆である請求項1記載のカテーテル。
【請求項3】前記バルーンの前記中央部分が未被覆である請求項2記載のカテーテル。
【請求項4】前記バルーンの前記遠位端部分は潤滑性被膜で被覆されている請求項3記載のカテーテル。
【請求項5】前記バルーンの前記近位端部分も又潤滑性被膜を含む請求項4記載のカテーテル。
【請求項6】高潤滑性の被膜がポリエチレンオキシド組成物からなる請求項1記載のカテーテル。
【請求項7】低潤滑性の被膜がシリコーンからなる請求項1記載のカテーテル。
【請求項8】低潤滑性の被膜がバルーンの前記中央部分にのみ存在する請求項1記載のカテーテル。
【請求項9】近位端部及び遠位端部を有するシャフトと、中央部分及び対向する端部を有するバルーンボディからなり且つ該バルーンボディは更に各端部にコーン及びウエストを有するバルーンとを含む種類のバルーンカテーテルであって、前記バルーンカテーテルは更に、遠位先端部分、表面領域並びにこれらの表面領域に接続された潤滑性被膜を含む種類のバルーンカテーテルにおいて、前記カテーテルの表面領域の高潤滑性の被膜及び相対的に低潤滑性の被膜の配置が予め決定されており、前記シャフトはバルーンからシャフトの近位端に伸びているシャフトの大部分の長さに結合された相対的に高潤滑性の被膜が与えられており、前記バルーンの両コーンは遠位先端部分と同様に相対的に高潤滑性の被膜が与えられており、そして前記バルーンボディの少なくとも大部分は、前記高潤滑性の被膜よりも相対的に低潤滑性の被膜によって被覆されているカテーテル。
【請求項10】前記高潤滑性の被膜がポリエチレンオキシド組成物からなる請求項9記載のカテーテル。
【請求項11】前記低潤滑性の被膜がシリコーンからなる請求項9記載のカテーテル。
【請求項12】前記バルーンボディ全体が低潤滑性の被膜で被覆されている請求項9記載のカテーテル。
【請求項13】前記シャフトの前記近位端部分が未被覆である請求項9記載のカテーテル。
【請求項14】前記バルーンの少なくとも遠位ウエストも高潤滑性の被膜で被覆されている請求項9記載のカテーテル。
【請求項15】前記バルーンの近位ウエストに同一の高潤滑性の被膜を含む請求項14記載のカテーテル。
【発明の詳細な説明】
技術分野
本発明は、血管形成のためのバルーンカテーテル(時々、拡延カテーテルと記載される)に関するものである。
発明の背景
血管形成(angioplasty)は、血管系における狭窄を開口するための有用且つ効果的な方法として認識され始めた。血管形成の最も広汎な使用形態においては、バルーンカテーテルは、バルーン(これは、カテーテルシャフトの遠位端に保持されている)が狭窄部叉は病巣(すなわち管閉塞部)を横切って配置されるまで、血管系を通って案内される。バルーンは次いで閉塞部に押圧され、閉塞部は基本的に、管の内壁に対して押圧されることにより再成形され、その結果、管は抑制された流れを開放する。
バルーンカテーテルには種々の種類がある。一つの種類は、案内ワイヤーを介して供給され〔すなわち、“ワイヤー誘導(over-the-wire)カテーテル”〕、そして別の種類は、それ自体案内ワイヤーとして役立つ〔すなわち、“固定ワイヤー(fixed-wire)カテーテル”〕。これらの二つの基本型の変形も、いわゆる“急速変換(rapid exchange)”型の“インナーレス(innerless)カテーテル”などとして発展した。本文中で使用するように、用語“バルーンカテーテル(baloon catheter)”は、血管形成を行うためのバルーンを持つ種々の種類の血管形成カテーテルの全てを含む意味がある。バルーンカテーテルは、異なる内腔設計のような広汎な種々の内部構造を有していてよく、それには、少なくとも三つの基本型がある:三重内腔、二重内腔及び同軸内腔。内部構造の全ての変化及び設計変化は、本文中では用語“バルーンカテーテル”の使用により包含されることを意味する。
経皮的内腔内外冠状血管形成(percutaneous transluminal coronary angioplasty;PTCA)において使用された場合には、バルーンカテーテルは代表的には、案内カテーテルを介して大動脈のような予め選択された管位置に前駆される。透視を使用しながら、外科医はバルーンが狭窄部叉は閉塞部を横切って配置されるまでカテーテルを操作する。既に指摘された如く、これは案内ワイヤー(これを介してカテーテルは移動されるか、或いは又、特別な設計に応じて、カテーテルはそれ自体を案内ワイヤーとして動き得る)の使用を含み得る。閉塞部への案内カテーテルを通る及び管を通るバルーンカテーテルの操作は、バルーンカテーテルに多数の異なる特長を有することを要求する。
前記特長の一つは、血管形成を行うための予め選択された管位置までの、血管系内の時々曲がりくねった通路を通るカテーテルの移動を容易にするための、カテーテル及びバルーンの外側表面を覆う潤滑性被膜の使用である。前記潤滑性被膜の広汎な変化は、外科的処置などに関連して体内に挿入可能なカテーテル及び他の装置の使用において一般的になった。用語“潤滑性被膜”の使用に関して、前記被膜の全てが本文中に含まれることが意図されている。前記被膜の例は、シリコーン及び最も好ましくは親水性被膜を含むヒドロゲル叉は、例えば、ビニルポリマー及び非架橋ヒドロゲルなどである。ポリエチレンオキシド(PEO)は好ましいヒドロゲルである。好ましいビニルポリマーは、ネオペンチルグリコールジアクリレート(NPG)である。このような組成物は、本願と共に継続中のアメリカ合衆国特許願第07/809889号(これは、本願と同一の出願人によって提出され、そしてこれは参考文献として本文中に記載されている)の明細書中に一層詳しく開示されている。
前記被膜は、被膜中に恒久的に捕捉され得るか叉はそこから体内に浸出し得る薬剤のような特定の薬剤を含むことも知られていた。例えば、前記態様においてヘパリンが使用された。ヘパリンは、血液中の血餅の生成を阻害するためにしばしば使用される薬剤として良く知られている。再び、用語“潤滑性被膜”は、全ての前記変形を含むことを意味する。
用語“スイカの種蒔き(watermelon seeding)”は、人差し指と親指との間でスイカの種を押圧する場合に起こる通常経験される現象(この結果、通常、スイカの種が飛ぶ)に関するものである。それ故、前記専門用語は、潤滑されたバルーンが閉塞部を横切って配置され次いで膨張された状況において起こるであろう潜在的な問題を適切に述べている。膨張したバルーンにより閉塞部に対して付与される増大した圧力の結果、増大した圧力を開放するために閉塞部に沿ってバルーンが摺動するので、管内における一方向叉は他方向へのバルーンの予期しない移動が起こるかもしれない。この予期しない移動は、外科医により好ましくないと考えられるかもしれない。それ故、通常の移動のためには高い潤滑性が望ましいけれども、バルーンの膨張に伴うバルーンの予測しない移動を避けるために、定位置にバルーンを停止叉は位置決めする手段を与えることも望ましい。
発明の要約
これは、バルーンボディの少なくとも大部分は未被覆叉は低摺動性であり、そして相対的に高い高潤滑性の被膜が、バルーンからカテーテルシャフトの近位端に近位方向に伸びて、カテーテルシャフトの少なくとも大部分に設けられているバルーンカテーテルの潤滑性被膜の選択的配置を介して、本発明により達成される。
通常はこの際、“スイカの種蒔き”を避け且つ血管形成を行うための位置にバルーンを良好に停止させるために、本発明は潤滑性被膜(類)の配置の改良を意図する。これは、“差別化被覆”叉は“選択的潤滑化”の如く本文中で表現され得ることにより行われる。これにより、カテーテルの潤滑性は選択的に設計され且つ設けられ、そしてカテーテルシャフト(すなわち、カテーテルの実質的に全て)が通常、バルーンの通常の潤滑性よりも高い潤滑性を示すように、予め決定された如く配置されるということが意味される。簡単に言うと、カテーテルはバルーンよりも相対的に一層摺動し易い。本発明の重要な特長は、未被覆叉は低摺動性のバルーン或いはカテーテルの残部に対するその部分にあることが判る。
このような配置は、多数の方法で行われる。例えば、一態様において、潤滑性被膜は実質的にカテーテル全体にわたって(すなわち、バルーンに対すること以外は従来技術において行われた如く)与えられてよい。前記態様において、バルーンは如何なる潤滑性被膜も全く含まない。
より好ましい態様において、カテーテルシャフト及びバルーンは、共に潤滑的に被覆されているが、しかし、バルーンの被膜はカテーテルシャフトの被膜よりも低潤滑性叉は低摺動性である。前記例において、カテーテルシャフトに対しては上述の如きPEO組成物が、他方、バルーンに対してはシリコーン被膜が配置されるというように、二つの異なる被膜が使用されてよい。このような配置は、本発明の好ましい態様を成す。
他の変形においては、PEOの異なる組成物がシャフト及びバルーンに対して使用されてよい。イソプロピルアルコール及び水中のPEO及びNPGを含む上述のPEO組成物において、PEO含有率の量的変化は組成物の最終的な潤滑性に影響を及ぼす;PEOの高いパーセンテージは、高い潤滑性を示す。それ故、本発明の目的(すなわち、カテーテルにおける“差別的”及び“選択的”潤滑性)を更に達成するために、カテーテルシャフトに対しては相対的に高いパーセンテージのPEO組成物を使用し、そしてバルーンに対しては相対的に低いパーセンテージの組成物を使用してよい。勿論、他の組成物も本方法において用いてよい。
別の好ましい態様は、被覆されたカテーテルシャフト、被覆されたバルーンコーン及び遠位カテーテル先端に伸びている少なくともバルーンの遠位ウエストの被膜からなり、バルーンボディの中央部は全く被膜を有しないか叉は低潤滑性である。
加えて及び更に好ましくは、近位及び遠位の両バルーンコーンも、カテーテルシャフト叉は少なくとも遠位コーンと同様に被覆されている。本発明において、バルーンボディの中央部は未被覆であるか叉は相対的に低潤滑性の被膜で被覆されている。
図面の簡単な説明
本発明の詳細な説明は、図面に記載された特定の例に関して後記本文中に記載されているが、ここで:
図1は、膨張に先立ってバルーンが管内で閉塞部を横切って配置されているバルーンカテーテルを示す略図であり、
図2は、閉塞部において膨張されたバルーンを有する図1の配置されたバルーンカテーテルを示す略図であり、
図3は、代表的なバルーンカテーテルを示す略図であり、
図4は、本発明の一つの好ましい態様で被覆されたカテーテルバルーンの基本的な構造を示す略図である。
発明の詳細な説明
ここで図1及び図2を参照すると、上述の“スイカの種蒔き”効果に関する記載は、一層容易に理解されるであろう。図1及び図2は、案内ワイヤー12(これを介して、カテーテルは管14内を閉塞部16の位置まで移動する)を有するワイヤー誘導型の、一般的に10で示されるバルーンカテーテルを示す。図から明らかな如く、膨張されない状態で、バルーン18は閉塞部16を横切って配置されている(図1参照)。膨張に際して(図2参照)、バルーンは拡大し且つ閉塞部16を押圧するので、カテーテルが固定位置に保持されない場合には、“スイカの種蒔き”効果が起こる可能性がある。図2に示される如く、カテーテルが固定位置に保持される場合には、拡大したバルーンは閉塞部16を押圧し、管を開口するために管14の内壁に対して閉塞部16を成形する。本発明に関して既に記載された如く、閉塞部16に接触して示されているバルーン18の表面は、それを閉塞部に係止する場合に“錨”効果を与えるために、未被覆であることが最も良く、叉はカテーテルよりも低潤滑性の被膜で被覆されることが好ましい。このことは、図3及び4に関して、下記本文中に一層充分に記載されている。
図3は、カテーテルにおける種々の上述の設計変形の何れかを含んでよい代表的なバルーンカテーテルを示す。本発明を理解する目的のためには、カテーテル10は、一般的に18で示されるバルーン、遠位先端20、シャフト22及び一般的に24で示されるマニホールド部を含むということを覚えておくことのみが重要である。シャフト22は、近位端部分26及び遠位端部分25(これは、バルーン18に結合している)からなる。
図4から明らかな如く、バルーン18はボディ部分30、近位コーン部分36、近位ウエスト部分38及び遠位ウエスト部分34と一緒になった遠位コーン部分32を含む。
本文中で意図された如く、カテーテルの潤滑性被膜の選択的配置の一態様において、被膜は、近位コーン36(所望による)を覆って伸び、近位方向においてシャフト22の近位端部分26までシャフト22を覆い、それ故、シャフト22の大部分を覆う40として示される。図3及び4に最も良く示されている如く、被膜40も所望により、遠位コーン部分32、遠位ウエスト部分34及びカテーテルの遠位先端20に含まれる。バルーンの中央部30は、未被覆であるか叉は低潤滑性の組成物で被覆されるかの何れかである。
バルーンカテーテル及び潤滑性被膜に関する従来技術において知られている如く、被膜は比較的薄く、且つ必要ではないが、好ましくは、カテーテルボディ表面に結合しているであろう。シリコーンは、非結合性潤滑材の例である。最初に述べたPEOベースの被膜は、結合性潤滑材の例である。図において、被膜の相対的な厚さは判り易くするために非常に誇張されている。しかしながら、従来技術の普通の実務においては、前記被膜は名目的には20〜50μm叉はそれより小さな程度の厚さであってよく、そして、含まれる被膜の種類及び特に望まれる被膜の選択的配置に応じて、種々の方法で用いられるであろう。
例えば、種々のポリマー状の親水性被膜の場合には、バルーンのボディ部分が摺動性の親水性被膜で被覆されることを妨げるために、弾性マスクを用いると都合が良いことが判った。前記マスクは、好ましい形態においては、加工中のマスクの位置を保持するためにバルーンを取り巻く僅かな干渉フィットを与えるために、寸法決めされた熱収縮性ポリオレフィンである。一つの好ましい態様においては、マスクされた領域の未被覆長さは、バルーンのボディ部分の中心で且つボディ部分の外周面を取り巻いている約1.6cm(約5/8インチ)である。このような配置は、図4に示されている。勿論、バルーンのボディ全体が未被覆のままであってもよいし、そして叉は、カテーテルの中央よりも相対的に低潤滑性の被膜を用いて被覆されていることが好ましい。
ポリマー被覆操作の完了において、未被覆のバルーンボディ部分を暴露するために、マスクは次いで除去される。このような配置において、シャフトとバルーンコーンとウエスト(これらは被覆操作中は未被覆である)とは、カテーテルの残部に配置されたものと同一の潤滑性の親水性被膜を用いて被覆される。既に知られている如く、前記被膜は代表的には溶液の形態でカテーテルの表面に塗布され、これは乾燥され、次いで通常は短時間の加熱叉は紫外線照射により乾燥される。
カテーテルにおける被膜の選択的配置を行う手段は油(これは、未被覆で残るであろうことを望まれている領域にわたって広げられていてよい)のような離型剤の使用を含む。被膜の硬化後、この領域を次いで、油を塗った領域から被膜を単に剥離することにより暴露する。更に所望により、被膜を硬化する前に、被膜の一部分をバルーンから洗浄除去しても叉は拭い落としてもよい。別の方法は、例えば紫外線遮蔽物を使用して、未被覆で残すべきバルーンの領域の被膜を変性することである。
本発明の最後の選択的被膜配置は、最初に低摺動性で相性の被膜を用いてバルーン及びできれば更にカテーテルも被覆し、次いでマスキングし、所望の高摺動性の被膜を塗布し、次いで普通に行うか叉は、これらの逆に行われてもよい。
本発明は、伸展性(compliant)型のバルーンに対しても及び非伸展性(non-compliant)型のバルーンに対しても等しく適用可能である。バルーンの材料における広汎な変化は良く知られており、そのうちの幾つかを二三挙げると、エチレン/ビニルアセテートコポリマー、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン/ポリオレフィンコポリマー及び高密度ポリエチレンが含まれる。
マスキング材は、最も都合良くは、特にバルーンに適するように寸法決めされ且つその上に配置されたマンドレル状の熱収縮性ポリエチレンである。被膜は、高分子量の可溶性ポリマー例えばPEOと、イソプロピルアルコール中の紫外線硬化性ジアクリレートと、微量の紫外線吸収剤を含む水とからなっていてよい。被覆溶液をカテーテル装置の選択された領域に塗布し、これらを次いで紫外線チャンバーに通し、酸素を除去し、紫外線に暴露し、次いで除く。マスクを除去し、如何なる滴りも除くために、前記領域を水浴を用いて超音波洗浄する。バルーンの未被覆部分はそのままの状態で放置されるか叉は、例えば、シリコーン若しくは低いパーセンテージのヒドロゲル含有率を有するポリマー被膜のような低潤滑性の被膜を塗布する。他の塗布方法は、当業者に知られているであろう。
本発明は多くの異なる形態で実施可能であり、これらは図中に示されており、且つ本発明の特定の好ましい態様は本文中に詳細に記載されている。本開示は、本発明の原理の例示であり、そして説明された特定の態様に本発明を限定することを意図するものではない。
本開示は、本発明の好ましく且つ互換性の態様の記載を示す。当業者は、本文中に記載された特定の態様と等価な他の態様(これは、本書に添付された請求項により表現することが意図されている)を認識し得るであろう。
【図面】




 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2005-09-13 
結審通知日 2005-09-20 
審決日 2005-10-03 
出願番号 特願平7-500995
審決分類 P 1 123・ 113- ZA (A61M)
P 1 123・ 121- ZA (A61M)
最終処分 成立  
前審関与審査官 生越 由美  
特許庁審判長 阿部 寛
特許庁審判官 柳 五三
川本 真裕
登録日 2003-09-12 
登録番号 特許第3470270号(P3470270)
発明の名称 バルーンカテーテルにおける潤滑性被膜の選択的配置  
代理人 宮崎 嘉夫  
代理人 中村 壽夫  
代理人 宮崎 嘉夫  
代理人 中村 壽夫  
代理人 手島 直彦  
代理人 湯田 浩一  
代理人 杉山 秀雄  
代理人 萼 経夫  
代理人 萼 経夫  
代理人 竹本 松司  
代理人 加藤 勉  
代理人 魚住 高博  
代理人 加藤 勉  

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