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審決分類 審判 全部無効 特許請求の範囲の実質的変更  A45D
審判 全部無効 特174条1項  A45D
管理番号 1135490
審判番号 無効2005-80208  
総通号数 78 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2001-09-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-07-04 
確定日 2006-04-26 
事件の表示 上記当事者間の特許第3644346号発明「脂取り紙およびその製造方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3644346号の請求項に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
(1)本件特許第3644346号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし4に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明4」といい、これらをまとめて「本件発明」という。)についての出願は、平成12年3月17日に出願され、平成17年2月10日にその発明について特許の設定登録がされたものである。

(2)これに対して、請求人は、概ね以下の理由を挙げ、本件発明に係る特許は無効とされるべきものであると主張し、証拠方法として甲第1号証ないし甲第5号証を提出している。
a)本件発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明に対してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当する。(以下、「無効理由1」という。)
b)本件発明に係る特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してなされたものであり、同法第123条第1項第1号に該当する。(以下、「無効理由2」という。)
c)本件発明に係る特許は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第123条第1項第4号に該当する。(以下、「無効理由3」という。)
d)本件発明に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第123条第1項第4号に該当する。(以下、「無効理由4」という。)
[証拠方法]
甲第1号証:特開平10-1900号公報
甲第2号証:特開平10-313940号公報
甲第3号証:本件特許出願(特願2000-77074号)の願書、願書
に最初に添付した明細書及び図面
甲第4号証:本件特許出願(特願2000-77074号)の平成16年
3月5日付け手続補正書
甲第5号証:本件特許出願に係る査定不服審判事件(不服2004-20
52)の平成16年7月1日付け手続補正書

(3)被請求人は、平成17年9月20日付けで答弁書を提出して、上記無効理由1ないし4はいずれも理由がない旨主張すると共に、同日付けで訂正請求書を提出して訂正を求めた。当該訂正の内容は、本件特許の明細書(以下、「本件特許明細書」という。)を訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正しようとするものである。すなわち、誤記の訂正を目的として、下記のとおりに訂正することを求めるものである。(なお、訂正箇所は、アンダーラインで示されている。)
・特許請求の範囲の請求項1の内容を、
「天然繊維を主成分とする原料により二層に積層された原紙に抄合わされ、この原紙の抄入れ時における凹凸に伴う原料の高密度部および低密度部を有する抄入れ層と、この抄入れ層の抄入れ時における凹凸側を被覆して凹部の内部に埋設するように設けられ、全体にほぼ均一な密度とする被覆層とからなり、この原紙が積層方向から加圧処理と、この原紙よりも堅い補助用シート状物とを互いに重ね合わせて束面から万遍なく叩く槌打処理を施された脂取り紙。」と訂正する。(以下、「訂正事項1」という。)
・明細書の段落【0008】の内容を、
「【課題を解決するための手段】 上記課題を解決するための本発明の脂取り紙は、天然繊維を主成分とする原料により二層に積層された原紙に抄合わされ、この原紙の抄入れ時における凹凸に伴う原料の高密度部および低密度部を有する抄入れ層と、この抄入れ層の抄入れ時における凹凸側を被覆して凹部の内部に埋設するように設けられ、全体にほぼ均一な密度とする被覆層とからなり、この原紙が積層方向から加圧処理と、この原紙よりも堅い補助用シート状物とを互いに重ね合わせて束面から万遍なく叩く槌打処理を施されたものである。」と訂正する。

(4)当審では、平成18年1月19日に実施された口頭審理において、上記訂正事項1を含む当該訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものであり、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に適合しない旨の訂正拒絶理由を通知した。

(5)被請求人は、平成18年2月20日付けで意見書を提出し、上記訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものではない旨主張している。

2.訂正の可否に対する判断
(1)上記訂正事項1について検討するに、訂正後の請求項1における「二層に積層された原紙に抄合わされ、・・・高密度部および低密度部を有する抄入れ層と、この抄入れ層の抄入れ時における凹凸側を被覆して凹部の内部に埋設するように設けられ、全体にほぼ均一な密度とする被覆層とからなり、この原紙が」との一連の記載からみて、「全体にほぼ均一な密度とする被覆層」とは、被覆層自体が全体にほぼ均一な密度を有する状態を表すものと解される。
一方、訂正前の請求項1における「二層に積層された原紙に抄合わされ、・・・高密度部および低密度部を有する抄入れ層と、この抄入れ層の抄入れ時における凹凸側を被覆して凹部の内部に埋設するように設けられ、該原紙を全体にほぼ均一な密度とする被覆層とからなり、この原紙が」との一連の記載からみて、「原紙を全体にほぼ均一な密度とする被覆層」とは、被覆層により原紙自体が全体にほぼ均一な密度を有する状態を表すものと解される。
そうすると、「全体にほぼ均一な密度」を有する対象として、訂正前は、抄入れ層と被覆層とからなる「原紙」であったものが、訂正後は、単なる「被覆層」へと変更されたため、訂正後の脂取り紙は、原紙自体が全体にほぼ均一な密度を有さないものをも含むことになる。
したがって、上記訂正事項1は、仮に誤記の訂正を目的としたものであるとしても、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものといわざるをえない。

なお、被請求人は、上記意見書において、「請求項1における被覆層は、段落0024にもある通り、フラットな層(繊維の多寡のない均一な層)であり、これを凹凸のある抄入れ層と抄合わせることにより、加圧された後の密度については抄入れ層の凹凸により生じる密度差を軽減するものであって、請求項1は、これを「全体にほぼ均一な密度とする」と表現したものと解されるべきである。」、さらに、「訂正請求が「全体にほぼ均一な密度を有する対象」を訂正前の「原紙」から訂正後の「被覆層」へと変更するものであるとしても、脂取り紙という物として把握するときは、結局のところ、同一に帰するのであって、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。」(「6 意見の内容(1)」参照)と主張している。
ところで、本件特許明細書の段落【0024】には、「第1のシリンダ2aには抄入れ、すなわち、凹凸面を得ることができるように16メッシュの抄紙ワイヤを用い、第2のシリンダ2bはフラット層を得ることができるように100メッシュの抄紙ワイヤを用いた。第1シリンダ2aでは12g/m2、第2のシリンダ2bでは12g/m2となるように抄紙用原料3を調整し、合計で24g/m2の坪量となるように二層抄合わせたシート状の原紙9を作成した。この原紙9をカレンダー加工機により線圧100kg/cmで加圧した。」と記載されている。
この段落【0024】の記載は、被覆層がフラットな層であることについては明確にしているものの、被覆層が加圧された後の抄入れ層の凹凸により生じる密度差を軽減することに関して何等示唆するものではなく、また、本件特許明細書及び図面の全体を参酌しても、被覆層による密度差の軽減を合理的に把握し得る説明がなされていない以上、これを肯定することはできない。
よって、訂正の前後で脂取り紙としては同一である旨の上記主張も採用できない。

(2)したがって、上記訂正事項1を含む平成17年9月20日付けの訂正は、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に適合しないので、当該訂正を認めない。

3.無効理由に対する判断
無効理由1ないし4のうち、まず無効理由2について以下検討する。

(1)本件特許明細書の記載事項
本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1には、次のとおりに記載されている。
「天然繊維を主成分とする原料により二層に積層された原紙に抄合わされ、この原紙の抄入れ時における凹凸に伴う原料の高密度部および低密度部を有する抄入れ層と、この抄入れ層の抄入れ時における凹凸側を被覆して凹部の内部に埋設するように設けられ、該原紙を全体にほぼ均一な密度とする被覆層とからなり、この原紙が積層方向から加圧処理と、この原紙よりも堅い補助用シート状物とを互いに重ね合わせて束面から万遍なく叩く槌打処理を施された脂取り紙。」
そして、上記請求項1の記載は、平成16年3月5日付け手続補正書により補正されたものである。(なお、補正箇所は、アンダーラインで示されている。)

(2)出願当初明細書及び図面の記載事項
一方、出願当初明細書及び図面(以下、「当初明細書等」という。)には、次の事項が記載されている。
・「【請求項1】 天然繊維を主成分とする原料により二層に積層された原紙に抄合わされ、この原紙が抄入れ時における凹凸に伴う原料の高密度部および低密度部を有する抄入れ層と、この抄入れ層の抄入れ時における凹凸側を被覆して内部に埋設するように設けられ、全体にほぼ均一な密度となる被覆層とから成り、この原紙が積層方向から荷重付加処理を施された脂取り紙。」
・「【0017】
ここで、第1のシリンダ2aにおける抄紙ワイヤは、5〜40メッシュのものを用い、または40〜100メッシュで、所望間隔ごとに目つぶししたものを用いることができる。このような抄紙ワイヤを用いることにより、ワイヤ部分、若しくは目つぶし部分では水分が透過しないために抄紙用原料3の量が少なく、透孔部分では水分が透過するために抄紙用原料3の量が多く、したがって、抄入れ層7はウェット毛布4とは反対側、すなわち、抄紙ワイヤ側に凹凸面が形成される。一方、第2のシリンダ2bにおける抄紙ワイヤは、40メッシュ以上のものを用いる。このような抄紙ワイヤを用いることにより、被覆層8は全体がほぼ均一な密度となるフラット状に抄くことができる。・・・」
・「【0018】
・・・そして、抄入れ層7と被覆層8の抄合わせ状態では上記のように多量の水分を含んでいるため、抄合わせ時に抄入れ層7における凸部は被覆層8とで圧縮させ、続いてプレスロールにより加圧し、更にヤンキードライヤにタッチロールにより加圧密着させて乾燥させることにより、抄入れ層7における凸部を強く圧縮させて右上傾斜の斜線で示す高密度状態とし、凹部を弱く圧縮させて右下傾斜の斜線で示す低密度状態とし、この高密度部と低密度部を内部に埋設させ、図2(c)に示すように、全体がほぼ均一な厚みのフラット状の原紙9を得ることができる。」

(3)新規事項の存否
本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1の「該原紙を全体にほぼ均一な密度とする被覆層」との記載によれば、「全体にほぼ均一な密度」であるのは原紙自体であり、被覆層は、「原紙を全体にほぼ均一な密度とする」ためのものであると解される。
これに対し、当初明細書等の上記記載事項によれば、原紙は、「高密度部および低密度部を有する抄入れ層」と「全体にほぼ均一な密度となる被覆層」とが二層に抄合わされたものであって、「全体がほぼ均一な厚みのフラット状」になるものとされているところから、被覆層は、「原紙を全体にほぼ均一な厚みとする」ためのものであると解される。
また、当初明細書等の全体を参酌しても、「原紙を全体にほぼ均一な密度とする被覆層」を示唆する記載を見出すことができない。
そして、二層に抄合わされた原紙において、「全体がほぼ均一な厚み」であることと、「全体にほぼ均一な密度」であることとは、技術的な概念を異にするものであることは明らかである。
そうすると、「該原紙を全体にほぼ均一な密度とする被覆層」との記載から把握される技術的事項、即ち、原紙自体が「全体にほぼ均一な密度」であること、及び、被覆層が「原紙を全体にほぼ均一な密度とする」ためのものであることは、当初明細書等に何等記載されていない新規事項というべきであり、かつ、上記技術的事項が当初明細書等に記載されていたに等しい事項であるとも認められない。
なお、付言するに、上記技術的事項が新規事項であるとの判断は、被請求人が、上述した訂正請求において、「該原紙を全体にほぼ均一な密度とする被覆層」との記載を「全体にほぼ均一な密度とする被覆層」との記載に訂正して無効理由2を解消しようとしたこととも符合するものである。

(4)
したがって、本件特許出願(特願2000-77074号)は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願であるといわざるをえないため、無効理由2には理由があるといえる。

4.被請求人の主張
被請求人は、上記答弁書において、「抄入れ層の抄入れ時における凹凸に伴う原料の低密度部と高密度部の箇所が原料繊維の本数は変わらないので模様として認識される程度は残存しながらも、原紙がほぼ均一な密度となることは、被覆層が全体にほぼ均一な密度のものであることから、脂取り紙の本件特許出願時の当業者にとって自明のことである。本件第1発明が「均一な密度」とせず、「ほぼ均一な密度」と規定したのは係る意味であり、このことは脂取り紙の本件特許出願時の当業者にとって自明のことである。」(26頁参照)と主張している。
しかしながら、上記「3.(2)」で摘記した当初明細書等の段落【0017】及び【0018】の記載(本件特許明細書の段落【0017】及び【0018】も同内容)によれば、抄入れ層は、圧縮によって、抄紙用原料の量が多い凸部が高密度部となり、抄紙用原料3が量が少ない凹部が低密度部となるものと解されるため、原料繊維の本数は高密度部の方が低密度部よりも多くなることが明らかである。
したがって、「抄入れ層の抄入れ時における凹凸に伴う原料の低密度部と高密度部の箇所が原料繊維の本数は変わらない」ということはいえず、被請求人の主張は、その前提自体を誤ったものとして採用することができない。

さらに、被請求人は、平成18年1月19日付けの第二答弁書において、「抄入れ層の凹凸面を被覆層で被覆するについて、抄入れ層の高密度部および低密度部は模様を表出する限りで残存していれば足りるのであって、そうでなければ全体がほぼ均一な厚みのフラット状の脂取り紙を得ることは難しいことである。 従って、当業者であれば、出願当初の明細書および図面の記載から「該原紙を全体にほぼ均一な密度とする」ことは明白に読み取れることである。」(10頁参照)と主張している。
しかしながら、「該原紙を全体にほぼ均一な密度とする」ことは当初明細書等に何等記載がないばかりでなく、むしろ、当初明細書等の段落【0012】の「本発明によれば、抄入れ時における凹凸に伴う原料の高密度部および低密度部により模様を表出することができて意匠性を満足することができ、また、上記高密度部および低密度部を内部に埋設して表面に抄入れ時における凹凸が露出しないようにし」なる記載、同段落【0020】の「上記実施形態によれば、抄入れ層7の抄入れ時における凹凸に伴う原料の高密度部および低密度部により模様を表出することができて意匠性を満足することができる。」なる記載によれば、原紙は、模様を表出するための「高密度部および低密度部」という密度の異なる部分を積極的に残存させているため、かかる「高密度部および低密度部」が存在する以上、原紙が「全体にほぼ均一な密度」であるとは到底解することができない。

5.むすび
以上のとおりであるから、他の無効理由について検討するまでもなく、本件発明は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してなされたものであり、同法第123条第1項第1号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-02-27 
結審通知日 2006-03-02 
審決日 2006-03-14 
出願番号 特願2000-77074(P2000-77074)
審決分類 P 1 113・ 55- ZB (A45D)
P 1 113・ 855- ZB (A45D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 沖田 孝裕  
特許庁審判長 田中 秀夫
特許庁審判官 高橋 学
佐々木 芳枝
登録日 2005-02-10 
登録番号 特許第3644346号(P3644346)
発明の名称 脂取り紙およびその製造方法  
代理人 恩田 誠  
代理人 恩田 博宣  
代理人 中澤 健二  
代理人 恩田 博宣  
代理人 恩田 誠  

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