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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01F
管理番号 1135619
審判番号 不服2004-22317  
総通号数 78 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1996-11-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-10-28 
確定日 2006-05-12 
事件の表示 平成 7年特許願第120977号「超音波式流量計」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年11月29日出願公開、特開平 8-313316〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成7年5月19日に出願されたものであって、本願の請求項1〜4に係る発明は、平成16年4月23日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1〜4に記載されたとおりのものであって、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものと認める。
【本願発明】断面が矩形状の流量測定部と、前記流量測定部を挟んで配置された第一及び第二の超音波振動子と、前記超音波振動子の信号を基に流量を算出する流量演算部とを備え、前記流量測定部の矩形断面における短辺の長さを、前記長さを代表長さとして計算したレイノルズ数が層流域になる様に設定し、さらに前記第一及び第二の超音波振動子はこの短辺側に位置させた超音波式流量計。

2.引用刊行物記載の発明
原査定の拒絶の理由に引用された特開平6-249690号公報(以下、「引用刊行物A」という。)には、
(A-1)「本発明は、超音波流量計に関し、より詳細には、超音波伝播路における測定管の形状を偏平断面とした超音波流量計に関する。」(第1欄第30〜32行)こと、
(A-2)「図5(a),(b)は、従来のシングルパス形の超音波流量計の原理構造を説明するための図で、(a)図は縦断面図、(b)図はY-Y’線断面図を示す。測定管20は直径Dの円管で、該測定管20の中心軸X-X’を含む平面の管壁に第1超音波送受波器(以後単にトランスデューサと呼ぶ)21、および第2トランスデューサ22を対向して配設している。第1,第2トランスデューサ21,22は同一形状構造のものでPZT(ジルコン酸チタン酸鉛)等の圧電素子を要部として構成されている。」(第2欄第13〜22行)こと、
(A-3)「(5)式または(8)式により求めた流速Vは、測定管20の計測パスにおける平均流速であるが、測定管20内の平均流速を表すものではない。測定管20内を流れる実際の流れは、レイノルズ数(Re)に応じた図示の層流分布VL、乱流分布VTのように変化したパターンの流速分布を有している。このため超音波伝播路の長さL上において、レイノルズ数による流速パターンの変化による流域を補正し、真の管内平均流速にする必要がある。」(第3欄17行〜第4欄19行)こと、
(A-4)「本発明は、上述のごとき実情に鑑みなされたもので、同一管径の測定管でも超音波伝播路の長さを大きくして、伝播時間測定精度を上げ、更には、配管による旋回流や偏流を減少することにより、小形で、高精度の超音波流量計を提供することを目的とする。・・・本発明は、上記目的を達成するために、(1)測定管の断面を偏平形状とし、超音波が伝播する測定パスを測定管断面の長軸を含む面としたこと、・・・該測定管の偏平断面の長軸を含む面に前記軸と所定角度をもって超音波の送受波可能に前記測定管壁に配設された一対の超音波送受波器と、該一対の超音波送受波器間において流れと逆方向及び順方向に超音波が伝播する伝播時間差を検知する時間差測定手段または伝播時間逆数差測定手段を有し、前記超音波の伝播時間差または伝播時間逆数差に比例して流体の流量を測定すること・・・を特徴とするものである。」(第3欄第48行〜第4欄第48行)こと、
(A-5)「測定管1の断面を楕円形のように偏平にすると、円形の場合と比較して計測パス4が長くなり、その分超音波伝播時間が長く、時間測定精度が向上する。また、計測パス4の同一レイノルズ数における流速分布VSの面積は、図5(a)の測定管20が円形である場合の層流流速分布VLの面積よりも大きいので、円形の場合に比べて、より精度よく管内平均流速を代表している。従って、管内平均流速を導入するための補正係数Kの変動幅も小さく補正値の影響が小さいので高精度の平均流速を求めることができる。・・・更には、測定流体は偏平断面内を流れるので旋回成分が除去されるという整流効果もあるので流速分布の変動が小さい。すなわち、上、下流側の配管影響を受け難く、配管の制限がなくなる。従って、流量計の多様なニーズに対応させることができる。」(第5欄第12〜26行)こと、
(A-6)「図2は、本発明における超音波流量計の具体例を説明するための図で、図中、5,6はトランスデューサ、7は計測パス、10は測定管、11は流入端、12は流出端、13は中間部である。・・・図示の超音波流量計は、シングルパスのものである。測定管10は、軸X-X’上に円形断面の流路である流入端11と、流出端12とがあり、該流入端1と流出端12との間の中間部13の断面は、長さKの区間で一定形状の楕円である。流入端11と、流出端12とから中間部13に至る流路断面は、円形から楕円形に連続した曲面にしてある。・・・トランスデューサ5,6は、中心軸X-X’と楕円の長軸を含む面において、中心軸X-X’と角度θをもって傾斜した計測パス7上に対向して測定管10の管壁に装着されている。・・・図示のシングルパスの超音波流量計の場合も、計測パス7の長さが円形断面の場合に比べて長いので、上述の図1の場合と同様な効果が得られる。」(第5欄第27〜46行)こと、
(A-7)「以上、図1〜3においては、対をなす超音波のトランスデューサを測定管壁に装着しているが、超音波流量計とするためには、超音波を発生するためのトランスデューサの駆動回路、および、受波信号を検知する受波回路、および、駆動回路および受波回路を交互に切換えて超音波伝播時間差を測定する時間差測定回路または伝播時間逆数差測定回路および、伝播時間差または伝播時間逆数差に比例した流量を算出補正する演算回路を有するが、以上においては、これらの計測手段についての説明を省いた。」(第6欄第8〜17行)こと、
(A-8)「図4・・・(b)は、本発明に係る測定管の断面形状の他の実施例を説明するための図で、図2,3の測定管10の計測パス7,17での断面を楕円形としたが、・・・(b)図の測定管15は、矩形断面で、角部を四分円形とした偏平形状の測定管であり、楕円形状の測定管に比して、製作が容易で旋回成分の小さいものが得られる。」(第6欄第18〜25行)ことが記載されている。
上記(A-1)〜(A-8)の記載を参照すると、上記引用刊行物Aには、
「矩形断面の測定管15と、前記測定管15を挟んで配置されたトランスデューサ5,6と、前記トランスデューサ5,6の信号から時間差測定回路または伝搬時間逆数測定回路および伝搬時間差又は伝搬時間逆数差に比例した流量を算出補正する演算回路とを備え、トランスデューサ5,6を測定管15の長軸方向に装着した超音波流量計。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
また、同じく、原査定の拒絶の理由に引用された特開平5-180677号公報(以下、「引用刊行物B」という。)には、
(B-1)「本発明は、超音波を用いて管内の流速を測定することにより、流体の流量を求めるようにした超音波流量計に関するものである。」(第1欄第21〜23行)こと、
(B-2)「【従来の技術】通常、管内の流体の流量は管の面平均流速V0に、管断面積等を乗ずることにより得られるが、流量測定手段のうちの一つとして、例えば、図9に示すように、超音波流量計1は、一対の超音波送受波器2を管壁3に相対して取り付け、交互に超音波パルスを伝播させて流速を測定するようにした流速測定型の流量計である。この測定される流速は、超音波の伝播路(測線)の線平均流速V1である。なお、管内における流体の面平均流速分布は Re=V0・D/ν・・・・(1)(ただし、Re:レイノルズ数、D:管内径、ν:動粘性係数)により求められる。ここで、Re<2320の流れは層流であり、Re≒4000以上の流れは乱流といわれ、図10にその分布の一例を示す。層流において、線平均流速V1と面平均流速V0の比をκとすると、 κ=V1/V0………(2) この場合、κ=4/3で一定である。・・・レイノルズ数Reとκの関係を図示すると、図11の通りである。・・・ところで、実際の流量測定では、通常、乱流域での計測となり、その乱流域での流量Qは、 Q=V0・S・3600=V1/κ・πD2/4・3600(m3/H)・・・(3) (ただし、V0:面平均流速、S:断面積、V1:線平均流速、κ:レイノルズ数に応じた流速補正係数)より求められる。」(第2欄第2行〜第1欄第27行)こと、
(B-3)「【発明が解決しようとする課題】しかしながら、(3)式におけるκは、乱流域では、図11に示すようにレイノルズ数Re、すなわち面平均流速V0により変化するため、広い流量範囲にわたつて高い精度の値を求めることは困難である。本発明はかかる課題を鑑みてなされたものであって、κが一定である層流域で計測できるように超音波流量計を構成することにより、流量の測定値の精度を向上させることを目的とする。」(第1欄第29〜36行)こと、
(B-4)「【課題を解決するための手段】前記した課題を解決するために、本発明は、流体を流通させる主管に、分岐管を設け、この分岐管の管壁に一対の超音波送受波器を相対して配置することを特徴とする。・・・【作用】Re=V0・D/νの関係から、主管の内径Dを大きくすることなく、主管に設けた内径の小さい分岐管に超音波送受波器を配設するようにすれば、Reの値が2320未満である層流域での流量測定が可能となる。層流域では、κの値が一定となるため、高い精度の流量を求めることができる。」(第1欄第38行〜第2欄第31行)ことが記載されている。
3.対比・判断
(3a-1)本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「矩形断面の測定管15」、「トランスデューサ5,6」、「時間差測定回路または伝搬時間逆数測定回路および伝搬時間差又は伝搬時間逆数差に比例した流量を算出補正する演算回路」、「トランスデューサ5,6を測定官15の長軸方向に装着した超音波流量計」がそれぞれ本願発明の「断面が矩形状の流量測定部」、「第一及び第二の超音波振動子」、「流量演算部」、「第一及び第二の超音波振動子はこの短辺側に位置させた超音波式流量計」に相当する。
そうすると、本願発明1と引用発明Aとは、
「断面が矩形状の流量測定部と、前記流量測定部を挟んで配置された第一及び第二の超音波振動子と、前記超音波振動子の信号を基に流量を算出する流量演算部とを備え、前記第一及び第二の超音波振動子はこの短辺側に位置させた超音波式流量計。」である点で一致し、次の相違点(イ)で相違している。
・相違点(イ)
本願発明では「流量測定部の矩形断面における短辺の長さを、前記長さを代表長さとして計算したレイノルズ数が層流域になる様に設定している」のに対して、引用発明には当該構成を有しない点。
(3a-2)当審の判断
そこで、上記相違点(イ)について判断する。
超音波流量計において、乱流域では広い流量範囲にわたって高い精度の値を求めることが困難である課題を解決するために、Re=V0・D/ν(ただし、Re:レイノルズ数、D:管内径、ν:動粘性係数)で表されるレイノズル数の管内径Dに注目し、管内の流れる流体のレイノズル数Reを2320より小さくなるように管内径Dの大きさを制御することにより管内を流れる流体を層流にして精度の高い流量を求めることが上記引用刊行物Bの上記(B-1)〜(B-4)に記載されており、さらに、引用刊行物Bと同じ超音波流量計である上記引用刊行物Aの上記(A-3)〜(A-5)には、真の管内平均流速にし、配管による旋回流や編流を減少して高精度の超音波流量計を得ることが記載されている以上、引用発明おいても上記引用刊行物Bと同様に乱流域では広い流量範囲にわたって高い精度の値を求めることが困難であるという解決すべき共通の課題が存在し、その課題を解決するために、引用発明の断面矩形状の測定管15の大きさに注目し、管内を流れる流体のレイノズル数Reを2320より小さくなるように管の大きさを制御することにより管内を流れる流体を層流にし精度の高い流量を求めるようにすることは当業者であれば容易に想到しうるものである。
そして、断面が矩形状の管を流れる流体のレイノズル数Reが、
Re=V・4m/ν、m=A/s
ただし、Vは流体の平均速度、νは流体の動粘性係数、Aは管の断面積は、sは断面の流体の接している長さ(濡れ線の長さ)
として表されることは周知(例えば、中村育雄、大坂秀夫共著「工学基礎 機械流体工学」P99〜100、図6.9、共立出版株式会社1992年4月10日初版7刷発行参照)であり、断面が矩形状の管の長辺をH、短辺をhとし、長辺Hが短辺hに比べて十分大きく、H≫hの関係にあるとすると、断面矩形状レイノズル数Re=V・4A/sν=V・4Hh/2(H+h)ν=2VHh/H(1+h/H)ν≒2Vh/νとなるものであるから、断面が矩形状であり長辺Hが短辺hに比べて十分大きい管内を流体が流れる場合には、管内を流れる流体のレイノズル数は管の短辺の長さに依存することは当業者にとって自明な事項である。
そうすると、引用発明においても断面が矩形状の管を有する測定管15を用いて、測定管15内を流れる流体を層流にして精度の高い流量を求める場合には、上記のごとく管の長辺が短辺に比べて十分長い条件の下で短辺の長さを代表値としてレイノズル数を計算し、その値が2320より小さくなるようにして管内を流れる流体を層流にすることは引用発明に上記引用刊行物Bに記載された発明及び上記周知技術を適用して当業者が容易に為し得たものである。
そして、本願発明によってもたらされる効果は、引用発明、引用刊行物Bに記載された発明及び周知技術から予測される範囲内のものである。
したがって、本願発明は、引用発明、引用刊行物Bに記載された発明及び周知技術に基づき当業者が容易に発明をすることができたものである。
なお、審判請求人は、審判請求の理由のなかで「本件発明は、広い流量範囲で高精度の流量計測ができるもので、各引例との差異は明確であります。」旨の主張をしているが、上記のごとく断面が矩形状で管の長辺Hが短辺hに比べて十分大きい場合に、管内を流れる流体のレイノズル数は断面が矩形状の管の短辺hを代表値として表されることは自明であり、断面が矩形状の管の長辺Hを短辺hに対して H≫h を満足するように広範囲に設定すれば、これにより流量が広範囲にできることも当然予想されるところであるから、上記審判請求人の主張は採用できないものである。
4.むすび
以上のとおり本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-02-03 
結審通知日 2005-02-08 
審決日 2005-02-21 
出願番号 特願平7-120977
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 森口 正治  
特許庁審判長 杉野 裕幸
特許庁審判官 山川 雅也
後藤 時男
発明の名称 超音波式流量計  
代理人 坂口 智康  
代理人 岩橋 文雄  
代理人 内藤 浩樹  

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