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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G11B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G11B
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G11B
管理番号 1136122
審判番号 不服2003-22147  
総通号数 78 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2002-01-18 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-11-13 
確定日 2006-05-10 
事件の表示 特願2000-197370「ディスク基板の貼り合わせ方法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 1月18日出願公開、特開2002- 15476〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成12年6月29日に特許出願されたものであって、最初の拒絶理由通知に応答して平成15年8月25日付けで手続補正がなされたが、平成15年9月18日付で拒絶査定がなされ、これに対し、平成15年11月13日に拒絶査定に対する審判が請求されるとともに、平成15年12月12日付で手続補正がなされたものであり、その後当審において、前記平成15年12月12日付け手続補正が却下されるとともに、最後の拒絶理由が通知され、それに応答して平成17年10月3日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成17年10月3日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成17年10月3日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
(1)補正の概略
本件補正により、特許請求の範囲は、
補正前(平成15年8月25日付け手続補正書参照)の
「【請求項1】 下記(1)〜(7)の工程を順次有するディスク基板の貼り合わせ方法。
(1)ドーナツ型シート状粘着剤S2を下面に有するキャリアS1からなる粘着シート体Sを、ピッチ送りローラ6、上流側に配置されたテンションローラ5A、受け台2、下流側に配置されたテンションローラ5B、引き取りローラ7間に順に張設走行させる工程、
(2)受け台2上に保持された下ディスク基板D1に対して、粘着シート体Sを芯出しシャフト3により位置決めする工程、
(3)芯出しシャフト3を上昇させて、受け台2上に保持された下ディスク基板D1及び粘着シート体S上に貼合わせローラ1を転動させ、下ディスク基板D1に粘着シート体Sを貼り付ける工程、
(4)受け台2の上流側に配置されたテンションローラ5A及び下流側に配置されたテンションローラ5Bにより粘着シート体Sに張力をかけながら、受け台2の下流側に位置する剥離部材4を、粘着シート体Sと下ディスク基板D1との間を受け台2の上流側に移動し、粘着シート体Sを下ディスク基板D1上の粘着剤S2から剥離する工程、
(5)粘着剤S2を有する下ディスク基板D1上に上ディスク基板D2を戴置する工程、
(6)受け台2に戴置された両ディスク基板D1、D2に対して、略半球状の可撓性の材料からなる押し付け部材100を押し付けて、両ディスク基板D1、D2を貼り合わせる工程、
(7)貼り合わされた両ディスク基板D1、D2を加圧容器内に配置し、前記略半球状の押し付け部材100により両ディスク基板D1、D2に所定圧力を加えながら加圧容器内に圧縮空気を圧入して、前記所定圧力より高い高圧雰囲気状態に一定時間維持して、両ディスク基板D1、D2を強固に固着する工程。
【請求項2】 工程(7)の所定圧力を2気圧の圧力とし、且つ高圧雰囲気を5気圧の圧力とすることを特徴とする、請求項1記載のディスク基板の貼り合わせ方法。」から、
補正後の
「【請求項1】 下記(1)〜(7)の工程を順次有するディスク基板の貼り合わせ方法。
(1)ドーナツ型シート状粘着剤S2を下面に有するキャリアS1からなる粘着シート体Sを、ピッチ送りローラ6、上流側に配置されたテンションローラ5A、受け台2、下流側に配置されたテンションローラ5B、引き取りローラ7間に順に張設走行させる工程、
(2)受け台2上に保持された下ディスク基板D1に対して、粘着シート体Sを芯出しシャフト3により位置決めする工程、
(3)芯出しシャフト3を上昇させて、受け台2上に保持された下ディスク基板D1及び粘着シート体S上に貼合わせローラ1を転動させ、下ディスク基板D1に粘着シート体Sを貼り付ける工程、
(4)受け台2の上流側に配置されたテンションローラ5A及び下流側に配置されたテンションローラ5Bにより粘着シート体Sに張力をかけながら、受け台2の下流側に位置する剥離部材4を、粘着シート体Sと下ディスク基板D1との間を受け台2の上流側に移動し、粘着シート体Sを下ディスク基板D1上の粘着剤S2から剥離する工程、
(5)粘着剤S2を有する下ディスク基板D1上に上ディスク基板D2を戴置する工程、
(6)受け台2に戴置された両ディスク基板D1、D2に対して、略半球状の可撓性の材料からなる押し付け部材100を押し付けて、両ディスク基板D1、D2を貼り合わせる工程、
(7)貼り合わされた両ディスク基板D1、D2を加圧容器8内に配置し、前記略半球状の押し付け部材100により両ディスク基板D1、D2に所定圧力を加えながら、加圧容器8の側壁上部に配置された流路パイプ8Aを通して、加圧容器8内に押し付け部材100の上方に水平に圧縮空気を圧入して、前記所定圧力より高い高圧雰囲気状態に一定時間維持して、両ディスク基板D1、D2を強固に固着する工程。
【請求項2】 工程(7)の所定圧力を2気圧の圧力とし、且つ高圧雰囲気を5気圧の圧力とすることを特徴とする、請求項1記載のディスク基板の貼り合わせ方法。」
と補正された。

上記補正の前後の構成を対比すると、上記補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「加圧容器内に圧縮空気を圧入して」に関し、「加圧容器8の側壁上部に配置された流路パイプ8Aを通して、加圧容器8内に押し付け部材100の上方に水平に圧縮空気を圧入して」と補正するものである(下線部分を加入している)。なお、「加圧容器」を「加圧容器8」と訂正することは、単に参考の番号を付したにすぎない。

ところで、本件補正は、最後の拒絶の理由通知に応答してなされたものであるから、特許法第17条の2第1項第2号の『拒絶理由通知を受けた後更に拒絶理由通知を受けた場合において、最後に受けた拒絶理由通知に係る第五十条の規定により指定された期間内にするとき。』になされた補正に相当し、そのような補正は、特許法第17条の2第4項各号に規定する事項を目的にするものに限られているところ、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮は、『特許請求の範囲の減縮(第三十6条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)』とされている。

そこで、前記の補正を検討するに、「流路パイプ」は、補正前の発明に構成とし示されているものではないから、新たな構成事項を追加するものであって、必要な事項を限定するものとはいえない。
仮に一応限定に相当するとしたところで、解決しようとする課題が同一であるものに限られているので、その点を満たすか更に検討する。
これに関連して、請求人は、本件補正と同日付けで提出された平成17年10月3日付け意見書において、次のように主張している。
『本願発明は、少なくとも、上記「(7)」の構成を備えることにより、貴官が採用できないとした上記作用効果が、確実に達成されるものである。
すなわち、圧縮空気は、水平な流路パイプ8Aを介して加圧容器内に圧入されることにより、押し付け部材100の上方を水平に流れて対面の側壁に衝突する。
その結果、流れのエネルギーの大部分が消失され、容器内に充満して、加圧容器内全体が昇圧されることとなる。
従って、圧入空気が、両基板の貼り合わされた周縁付近に直接衝突することがないから、該圧入空気により、両基板周縁部間に剥離力が作用することも、該周縁部に上方又は下方に湾曲させる力が作用することもない。
以上のように、加圧容器内への圧縮空気の圧入時の状況を考慮すれば、審判請求理由において請求人が主張した上記作用効果が達成されることは、明白である。』
この主張からも明らかな如く、新たに追加した「加圧容器8の側壁上部に配置された流路パイプ8Aを通して、加圧容器8内に押し付け部材100の上方に水平に」との構成によって、もともと当初明細書でも認識されていなかった『圧入空気が、両基板の貼り合わされた周縁付近に直接衝突することがないから、該圧入空気により、両基板周縁部間に剥離力が作用することも、該周縁部に上方又は下方に湾曲させる力が作用することもない。』との課題および作用効果を主張するものであるから、該課題は、当初の課題である接着層の空泡に対する対策とは異なる課題と言うほかない。
してみると、本件補正は、補正の前後で課題が同一ではなく、課題を変更したことが明らかである。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第4項第2号の規定を満たしておらず、また、同条第4項の他の号に規定する請求項の削除(1号)、誤記の訂正(3号)、明りょうでない記載の釈明(4号)のいずれにも該当しない。

ところで、仮に課題が同一であって本件補正が限定的減縮であると解したところで、本件補正後の前記請求項1,2に係る発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであることが必要である。
そこで、本件補正後の前記請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)引用例
当審の最後の拒絶の理由に引用された特開平11-283288号公報(以下、「引用例1」という。)、及び、特開平10-119133号公報(以下、「引用例2」という。)と特開平11-149675号公報(以下、「引用例3」という。)には、次のように記載されている。なお、下線は、便宜的に当審が付与した。

引用例1には、図面とともに、
「【0028】【発明の実施の形態】本発明の粘着剤S2の貼り合わせ方法において、粘着剤S2がディスク基板に付着されるまでの工程を図1〜図9を基に説明する。その前にまず、本発明を遂行するのに用意された粘着シート体Sについて説明する。粘着シート体Sは、長尺状のもので土台となるキャリヤS1と、該キャリヤ(薄いポリエチレン等の合成樹脂テープでできている)に付着された粘着剤S2と、該粘着剤S2の表面に仮付着された剥離紙S3よりなる(図1参照)。
【0029】ここで図20(A)は、粘着シート体Sの正面図、図20(B)は側面図、また、図20(C)は剥離紙S3を剥がした状態の側面図である。この粘着剤S2は、後ほどに説明するように、ディスク基板同志を合体させるための固着媒介となるもので、LP盤型(又はドーナツ型)のシート状をしており(図21(A)参照)、長尺状のキャリヤS1表面に一定の間隔をおいて多数付着されている。粘着剤S2としては、例えば、ゴム系粘着剤、アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ビニル系粘着剤等の感圧性の接着剤が採用される。
【0030】なお、粘着剤S2の層厚は、設計される光ディスクの種類により最適な厚さのものを選択することができる。剥離紙S3は、粘着剤S2の表面に仮付着されて、この表面をカバーするもので、該粘着剤S2と同じ形状をしている(図21(B)参照)。
【0031】粘着シート体Sは、製造する際、前記、キャリヤS1、粘着剤S2、及び剥離紙S3を同時に貫通する穴Pが設けられており、この穴Pが、後述するような位置決め部材である芯出しシャフトを使った受け台2に対する位置決めの時に利用される。なお、以下貼合わせローラ1と受け台2との間に供給される粘着シート体Sは、粘着シート体Sからは剥離紙S3が取り除かれた状態のものである。
【0032】次に、粘着剤S2が下ディスク基板D1に付着される一連の流れを述べる。図1は、粘着剤S2の付着方法、及び粘着シート体Sの貼り合わせ装置を示したもので、図のように、先ず、粘着シート体Sが供給ローラ8から開放されて繰り出されてくる。繰り出された後は、例えばクリーニングローラ7により表面の塵等の付着物が除去される。その後、ピッチ送りローラ6を通って、テンションローラ5Aに送られる。テンションローラ5Aを通過した粘着シート体Sは、その後、受け台2と貼り合わせ部材である貼合わせローラ1との間を通って下流のテンションローラ5Bに渡される。ここで、受け台は、回転テーブルTの上に設置されているもので、該回転テーブルの回転移動により、前もって芯出しシャフト3の真下に移送されている。
【0033】なお、受け台2には、既に下ディスク基板D1が載置されている。粘着シート体Sは、この受け台2と貼合わせローラ1との間で圧接力を受け、後述するように、支持部材であるテンションローラ5Aとテンションローラ5Bとで張設された状態で受け台2の上に載置された下ディスク基板D1の表面に対して粘着剤S2が付着されることになる。粘着剤S2の付着が終わった後、粘着シート体Sは、テンションローラ5Bを通って、送り出しローラ11に送られる。送り出しローラ11は、積極的に駆動することにより、粘着シート体Sを必要時に移動することができる。送り出しローラ11から送出された粘着シート体Sは、吊り下げローラ12を介して、巻取りローラ13により巻き取られる。
【0034】この吊り下げローラ12は、粘着シート体Sに吊り下げられているもので、送り出しローラ11から粘着シート体Sが送り出されると下降する。この下降位置を検知器12Aにより読み取って、その検知信号により巻取りローラ12を回転させて一定量巻き取る。以上のような流れで、粘着剤S2は、下ディスク基板D1に付着されることになる。
【0035】ところで、粘着シート体Sは、受け台2と貼合わせローラ1との間では、下側に粘着剤S2が露出してその表面から剥離紙S3を除去された状態で供給されることは既に述べた。このように粘着シート体Sから剥離紙S3を取り除く手段として接着テープLが使用される。この接着テープLの役割について言及すると、図1に示すように、当初、供給ローラ8から繰り出された粘着シート体Sは、下面に粘着剤S2が付着されており、該粘着剤S2の表面には剥離紙S3が付与された状態となっている。
【0036】一方、供出ローラ9から供給された接着テープLは、接着剤付与面が裏側に向いており(すなわち、上面に向いており)、案内ローラ81のところで、該接着剤付与面が粘着シート体Sの剥離紙S3と、相対して接触する。接着テープLと粘着シート体Sとは、以後、案内ローラ81、クリーニングローラ7、ピッチ送りローラ6、テンションローラ5A等を通過することにより、互いに圧着される。その結果、接着テープLの接着剤付与面が粘着シート体Sの剥離紙S3に接着する。
【0037】テンションローラ5Aを通過した後は、接着テープLの接着力により粘着シート体Sから剥離紙S3が剥がされる。そして剥離紙S3を受け取った接着テープLが、巻取りローラ10により巻き取られることにより、剥離紙S3は回収される。このように、剥離紙S3が接着テープLを使って、粘着シート体Sより分離されることにより回収されるのは、剥離紙S3と粘着剤S2との付着力より、接着テープLと剥離紙S3との付着力の方が大きいことを条件とする。
【0038】すなわち、接着テープLは、粘着剤に対する剥離紙の剥離強度より大なる剥離紙に対する接着強度を有することが必要である。このようにして、テンションローラ5Aを通って受け台2と貼合わせローラ1との間に供給された粘着シート体Sは、接着テープLにより剥離紙S3が取り除かれ下面に粘着剤S2が露出した状態となる。ここで、本発明で重要な機能を有する貼り合わせ部材である貼合わせローラ1について簡単に言及すると、貼合わせローラ1は、下ディスク基板D1に粘着シート体Sを押し付けて具体的に貼り合わせを行う機能を有する。
【0039】そのため、貼合わせローラ1は、外周部が可撓性を有する材料の層で形成されており、また、内部にはヒータが組み込まれて全体的な加熱調整が可能となっていることが好ましい。また貼合わせローラ1の幅は、下ディスク基板D1より幾分、幅広に設計されている。そして、貼合わせローラ1は、図示しない駆動装置により下ディスク基板D1の上を押圧した状態で転動しながら平行移動することができ、下ディスク基板の表面全体への粘着シート体Sの貼り合わせが終了した後は、下ディスク基板D1より離れて元の位置に戻る。
【0040】さて、粘着シート体Sは、その下面にLP盤型(ドーナツ型)のシート状をした粘着剤S2が露出した状態で、受け台2と貼合わせローラ1の上流及び下流に配置された各テンションローラ5A及びテンションローラ5B間に支持される。この時、上流のテンションローラ5Aの下端を下流のテンションローラ5Bの下端より幾分か高くすると、後述するように貼り合わせがより良く行える。この点も技術的に重要な部分である。粘着シート体Sが移送される場合は、この2つのテンションローラ5A,5Bによって支持された粘着シート体Sは、図1に示すように、送り出しローラ11の駆動によって粘着シート体Sに一定の張力を与えられて緊張した状態で送られる。次に、粘着シート体Sが停止すると、下流のテンションローラ5Bが僅かに動いて粘着シート体Sには、張力が殆どかかってない状態(初期状態)となる。
【0041】次に、図3に示すように、位置決め部材である芯出しシャフト3が下降して、その先端に設けられている突出部(第1小径部31、第2小径部32)により、粘着シート体Sの(詳しくは粘着剤部の)の下ディスク基板D1に対する位置決めが行われる。ところで、芯出しシャフト3が下降して、その先の突出部が粘着シート体Sの穴Pに入る瞬間に、上流のテンションローラ5Aを僅かに後退させて、粘着シート体Sに少しく張力を与える。尚、この時、下流のテンションローラ3Bは元のままである。
【0042】このように粘着シート体Sに僅かな張力を与えることにより、該シート体が振れ動かず安定した状態となるので、芯出しシャフト3の第1小径部31を的確に粘着シート体Sの穴Pに挿入することができる。念のため、芯出しシャフト3による位置決めについて更に言及すると、先ず、芯出しシャフト3が下降すると、大径部33の下端に設けた突出部(第小径部31)が、粘着シート体Sの穴Pに挿入され、更に突出部の一部である第2小径部が受け台2のボス配設穴21に嵌まり込む(図10A参照)。この時、粘着シート体Sは、下ディスク基板D1とは同心化される。
【0043】すなわち、芯出しシャフト3の先端の第1小径部31が粘着シート体Sの穴Pに挿入され、更にそれより径の小さい第2小径部32が下ディスク基板D1の中心穴Hに挿入され、且つボス配設穴21に嵌まり込んだ状態となる。そのため、粘着シート体Sと下ディスク基板D1とは同心に位置決めされる。この時、粘着シート体Sは、緊張しているため突出部の第1小径部31の上端に位置し大径部33の下面に接する状態となっている。
【0044】そのため、ディスク基板D1の表面には接触することなく、粘着シート体Sの粘着剤部が下ディスク基板D1の真上に的確に位置決めされる。この時点で、受け台2に設けられた図示しない小孔を通じての吸引が行われ、下ディスク基板D1は、受け台2に位置決めされたまま動かないように吸着保持される。また、上流のテンションローラ5Aと下流のテンションローラ5Bとの上下位置関係により、粘着シート体Sがやや傾斜して配置されると、粘着シート体Sが傾斜状に緊張するため芯出しシャフト3の先端の第1小径部31が粘着シート体Sの穴Pにより入り易い。
【0045】なお、受け台2に設けられたボス配設穴21について説明すると、この中には、図示しないボス体が上下摺動可能に装備されている。そのため、図示しない前工程において、受け台2に下ディスク基板D1が載置される際に、受け台上に、ボス体がその配設穴21から突出状態となり、下ディスク基板D1の受け台に対する予備的位置決めが行われる。また、受け台2に下ディスク基板D1が載置された後は、ボス体は、ボス配置穴21の奥に引っ込んで待機するため、受け台上での粘着シート体Sの貼り合わせ操作を妨害することはない。
【0046】さて、次に、上方に待機していた貼合わせローラ1が下降し、位置決めされた下ディスク基板D1の一方端に接地する(図4参照)。この時点で、芯出しシャフト3の役目は終了するので、速やかに上昇して元の位置に戻る(図5参照)。
【0047】次に、図6に示すように、貼合わせローラ1が下ディスク基板D1の上を(詳しくは下ディスク基板上の粘着シート体Sの上を)、図の矢印方向に転動する。この転動作用により、下ディスク基板D1に対して粘着シート体Sは押し付けられ、徐々に両者の接触面積が拡大していく。最終的に、貼合わせローラ1が、下ディスク基板D1の他方端を過ぎ去ると、粘着シート体Sが下ディスク基板D1の表面全体に完全に貼り付けられる。このような独特の圧接手法により、粘着シート体Sの下面に付着されている粘着剤S2が、空気泡等が混入しない状態、また皺が発生しない状態で下ディスク基板D1の表面に付着(いわゆる転着)されるのである。
【0048】ここで、芯出しシャフト3と貼合わせローラ1の作用を更に詳しく述べる。図10は、その作用を説明した図である。図10(A)に示すように、粘着シート体Sが位置決めされた状態では、芯出しシャフト3の突出部(第2小径部32)が受け台2に嵌まり込み、粘着シート体は、突出部の第1小径部31の上端に位置することになる。すわなち粘着シート体Sは、芯出しシャフト3の大径部33に接触した状態となる。また粘着シート体Sには、少しく張力がかかっているため、粘着シート体Sがディスク基板D1の表面には接触することはない点は既に述べた。
【0049】次に、図10(B)に示すように、貼合わせローラ1が、下降して下ディスク基板D1の一方端に接地する。この時、粘着シート体Sの一部が下ディスク基板D1の端部に圧着されるが、この時点で、芯出しシャフト3による位置決めは完了しているので、芯出しシャフト3の働きは終わり、速やかに下ディスク基板D1を離れる。
【0050】次に、図10(C)に示すように、貼合わせローラ1が、下ディスク基板D1に対して粘着シート体を押圧しながらその上を転動する。そしてLP盤型(又はドーナツ型)のシート状の粘着剤S2が、一方端から他方端に向けて着領域が徐々に拡大するように下ディスク基板D1に付着されて行くのである。この時、粘着シート体Sは傾斜した状態で、空気を押し除くように順次押し付けられて行くので、粘着剤S2と下ディスク基板D1との間に空気泡等が入ることがなく、また皺も起生しない。その結果、粘着剤S2は下ディスク基板D1の表面に均一に付着される。以上が、作用説明である。
【0051】次に、図7に戻って説明すると、ディスク基板D1に対して粘着シート体Sの付着が完全に終わり、図に示すように、貼合わせローラ1は上昇して元の位置(二点鎖線の位置)に戻る。この時、粘着剤S2は、粘着シート体Sと下ディスク基板D1の両方に付着されている状態、すなわち、粘着剤S2が粘着シート体SのキャリヤS1と下ディスク基板D1の表面の両面に付着されている状態にある。
【0052】次に、図8に示すように、受け台2の下流側に位置していた引き剥がし部材である剥離部材4が、受け台2に載置された下ディスク基板D1の上方を横断するように移動する。下ディスク基板D1の表面と粘着剤S2の粘着力が、キャリアS1と粘着剤S2の粘着力より大きいために、このような剥離部材4の移動により、粘着シート体Sと粘着剤S2(詳しくはキャリアS1と粘着剤S2)とは、確実に引き剥がされていく。尚、下ディスク基板D1は、先述したように、受け台2に吸引保持されているので、引き剥がしは的確に行われる。
【0053】剥離部材4が横断し終わった時点で、粘着シート体Sは、下ディスク基板D1(詳しくは下ディスク基板上の粘着剤S2)から引き剥がされフリーとなる。ところで、この剥離部材4について、ここでその機能を説明する。剥離部材4は、回転(自転)する基部41と、それに固定された2つの支杆(先導支杆43及び角度規制支杆42)を備えたもので、受け台2の上を横切るように(横断するように)往復移動が可能となっている。
【0054】この2つの支杆のうち、角度規制支杆42は、例えば、断面略扇形の棒体で、先導支杆43は断面細円径の棒体となっている。尚、扇形の弧は、半径部の長さに対応して形成される形に、必ずしも一致していない。この先導支杆43及び角度規制支杆42は、基台41の中心より一定距離離れた位置に設けられている。角度規制支杆42は、粘着シート体Sを下ディスク基板D1に対して接触させず僅かに間隙を保った状態で支持する。そして角度規制支杆42は、下ディスク基板D1に対して鋭角(90度以下)の案内角αを保って粘着シート体Sを引き剥がしていくための鋭角部42Aを備えている。この鋭角部42Aを備えるものであれば、角度規制支杆42の形は限定されるものではない。
【0055】粘着シート体Sを下ディスク基板D1から引き剥すには、図11に示すように、先ず、角度規制支杆42と先導杆43の間に粘着シート体Sを介在させた状態(図11A参照)で剥離部材4を約180度近く回転して、粘着シート体Sを逆Z字状に形成する(図11B参照)。先導支杆43は、角度規制支杆42の鋭角部42Aが案内角αを保てるような位置にややオーバに回転するとよい。この時、粘着シート体Sは角度規制支杆42と先導杆43の間に張架された状態となる。
【0056】次に、剥離部材4を受け台2の上を横切るように平行移動させると、剥離部材4の角度規制支杆42は、粘着シート体を下ディスク基板D1に対して接触しない状態で僅かに間隙を保って支持し、且つ先導杆43によって引っ張り上げるように作用し横断移動していく。この場合、角度規制支杆42の斜面Uにより、粘着シート体Sは下ディスク基板D1の表面から鋭角状態で引き剥がされて行く(図11C参照)。ここで、角度規制支杆42としては、 鋭角部42Aを備えているものであれば、その形は限定されるものではなく、図12は、角度規制支杆42の変形例を示すものである。
【0057】図12は、角度規制支杆42と先導杆43の間に粘着シート体Sを介在させた状態を簡略的に示し、また(A)は、簡略正面図、(B)は簡略側面図を示す。図13は、剥離部材4が回転して粘着シート体Sが逆Z字状に形成された状態を簡略的に示し、また(A)は、簡略正面図、(B)は簡略側面図を示す。この例の場合、角度規制支杆42は鋭角部42Aを備え断面3角形に形成されている。
【0058】ここで、粘着シート体Sの案内角αが図に示すように鋭角であると、粘着シート体Sの粘着剤S2が粘着シート体SのキャリヤS1に粘着することなく均一に引き剥がされる。例えば、案内角αが鈍角(90度以上)であると粘着シート体SのキャリヤS1に粘着剤S2の一部が一緒に付着することが多い。なお、剥離が極めてスムースに行われることを、本発明者等は実験で確認している。
【0059】粘着シート体Sが下ディスク基板D1から引き剥がされた後、受け台2が据えつけられた回転テーブルTは回転し、受け台2を速やかに次のステーションに移送させる。すなわち、今まで説明してきた剥離紙S2を付与するステーションであるところの第1ステーションXから、次のステーション(第2のステーションY)に移送される(図14参照)。その後、剥離部材4が元の位置に戻り、図2に示すように初期状態となる。以上で、下ディスク基板D1に対する粘着剤S2の付与工程は完了し、その結果、図15に示すように、上ディスク基板D2の上に粘着剤S2が均一に付与されることになる。
【0060】以後、先程の第2のステーションでは、粘着剤S2が付与された下ディスク基板D1の上に別の上ディスク基板D2が重ねて載置される(図16参照)。重ねて置かれた2枚のディスク基板D1,D2は、まだ両者とも圧接作用を受けていないので強固に貼り合わされた状態とはなっていない。そのため、次に第3のステーションZ(図14参照)に移動され、2枚のディスク基板D1,D2が加圧されて完全に貼り付けられる。
【0061】図17は、受け台2に置かれた2枚のディスク基板D1,D2が押圧部材100により互いに圧接される状態を示すものである(この例では受け台が上昇した場合を示す)。ここで使用される押圧部材100は可撓性の材質により、ほぼ半球状に形成されている。このように重ねて置かれた2枚のディスク基板D1,D2が、押圧部材100と受け台2との間で圧接力を受けることにより、両ディスク基板は、互いに強く貼り付く。
【0062】ここで、貼合わせローラ1は、上ディスク基板D2を中心部から徐々に外側に(半径方向に)向けて接触部が拡大するように圧接することができる。そのため上ディスク基板D2が中心部から徐々に外側に(半径方向に)向けて下ディスク基板との接触部(圧接部)が拡大するように圧接され、両ディスク基板間に気泡等が包含されることはない。以上で、2枚のディスク基板の貼り合わせは終了し、高品位な光ディスクDができあがる(図18参照)。」(段落【0028】〜【0062】参照)ことが記載されている。

これらの記載によれば、引用例1には、
「下記(1)〜(6)の工程を順次有するディスク基板の貼り合わせ方法。
(1)ドーナツ型シート状粘着剤S2が下側に付着されたキャリアS1からなる粘着シート体Sを、ピッチ送りローラ6、上流側に配置されたテンションローラ5A、受け台2、下流側に配置されたテンションローラ5B、送り出しローラ11間に順に張設走行させる工程、
(2)受け台2上に載置された下ディスク基板D1に対して、粘着シート体Sを芯出しシャフト3により位置決めする工程、
(3)芯出しシャフト3を上昇させて、受け台2上に載置された下ディスク基板D1及び粘着シート体S上に貼合わせローラ1を転動させ、下ディスク基板D1に粘着シート体Sを貼り付ける工程、
(4)受け台2の下流側に位置する剥離部材4によって粘着シート体Sを逆Z字状に形成し、剥離部材4を受け台2の上(受け台2に載置された下ディスク基板D1の上方)を横切るように平行移動させ、粘着シート体Sを下ディスク基板D1上の粘着剤S2から引き剥す工程、
(5)粘着剤S2を有する下ディスク基板D1上に上ディスク基板D2を戴置する工程、
(6)受け台2に戴置された両ディスク基板D1、D2に対して、ほぼ半球状の可撓性の材質からなる押圧部材100を圧接して、両ディスク基板D1、D2を貼り合わせる工程。」
の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されていると認められる。

引用例2には、図面と共に、
(2-i)「【請求項1】 円盤状の第1の記録用基板と、この第1の記録用基板と同形状の第2の記録用基板とを感圧性接着剤層を介して同心的に積層し、次いでこれを加圧接着する方法であって、この加圧接着が基板の周方向に略均一な加圧力で基板の中心部から外周部へと順次加圧して行なわれる工程を含むものである情報記録媒体の製造方法。
【請求項2】 基板の周方向に略均一な圧力で基板の中心部から外周部へと順次加圧して行なう加圧手段として円錐形の弾性体からなるプレス型が用いられる請求項1記載の情報記録媒体の製造方法。
【請求項3】 基板の周方向に略均一な圧力で基板の中心部から外周部へと順次加圧して行なわれる工程に続いてさらに加圧脱泡する工程を含むものである請求項1又は2記載の情報記録媒体の製造方法。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】〜【請求項3】参照)、及び、
(2-ii)「【0017】感圧性接着剤層20は、次のようにして作製したものである。アクリル酸イソオクチル90重量部と、アクリル酸10重量部とからなるモノマー混合物100重量部に対して、光重合開始剤としてイルガキュアー184(チバガイギー社製)を2重量部配合し、充分に窒素置換して、高圧水銀ランプで約100mJ/cm2の紫外線照射を行い、粘稠物を得た。この粘稠物に対して、内部架橋剤としてトリメチロールプロパントリアクリレートを1重量部添加し、これをシリコーン処理紙からなるセパレータ上に厚み50μmとなるように塗工した。さらに、酸素による重合阻害をなくすため、ポリエチレンテレフタレートからなるセパレータでカバーし、高圧水銀ランプで約1400mJ/cm2の紫外線照射を行い、テープ状の感圧性接着剤層20を作製した。得られたテープ状感圧性接着剤層20の厚みは、50±5μm(厚み精度±10%)であった。
【0018】これを上記の光記録基板1a、1b(円盤状直径120mm)の直径より2mm小さい直径118mmで同形状に打ち抜き加工した。そして、上記感圧性接着剤層20を上記第1の光記録基板1aの保護層12a上にハンドローラーを用いて貼着した後、上記セパレータを剥離除去した。
【0019】次に、上記感圧性接着剤層20のセパレータ除去面(即ち接着剤層2の露出面)と上記第2の光記録基板1bの保護層12bとが対面する状態で積層し、シリコーンゴム製の円錐形プレス型(θは35度)でその頂部が基板の孔3に合致するように位置させて5kg/cm2のプレス圧で仮接着し、さらにこれをオートクレーブにて6kg/cm2で加圧脱泡しながら本接着し、光記録媒体を作製した。」(段落【0017】〜【0019】参照)こと、が記載されている。

引用例3には、図面と共に、
(3-i)「【請求項1】 2枚のディスク基板を両面粘着シートを介して接着して光ディスクを製造する方法であって、剥離テープ下面に複数のディスク状の両面粘着シートが所定間隔で並べられてなるテープを準備し、このテープの両面粘着シートを第1ディスク基板の上面に貼りつけることにより、上記両面粘着シートを第1ディスク基板に仮止めして仮止め品とし、この仮止め品から剥離テープを剥離させて両面粘着シートを露呈させ、この露呈した両面粘着シートの上に第2ディスク基板を載置し、その状態で仮止め品と第2ディスク基板を真空中で加圧して貼り合わせて貼り合わせ品とし、この貼り合わせ品を加圧または加熱加圧環境下に保持することにより接着することを特徴とする光ディスク製造方法。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】参照)、及び、
(3-ii)「【0034】そして、インデックステーブル7がさらに約45度回転し(図2に示すポジションF)、上記貼り合わせ品29を加圧(例えば、10kg/cm2×室温)もしくは加熱加圧(例えば、6kg/cm2×60℃)環境下に所定時間(例えば1分)保持することにより接着を行う。上記接着は、オートクレーブのような装置によって行われる。このように、加圧もしくは加熱加圧環境下に保持することにより接着を行うため、貼り合わせ品29の全体が上下方向に均一に加圧され、光ディスクの平行度が良好になる。また、均一な加圧力により均一に接着が行われる。」(段落【0034】参照)こと、が記載されている。

(3)対比、判断
本願補正発明と引用例1発明を対比する。
(a)引用例1発明の「送り出しローラ11」、「受け台上に載置された下ディスク基板」、「引き剥がす」、「押圧部材」、「押し付けて」は、それぞれ本願補正発明の「引き取りローラ7」、「受け台上に保持された下ディスク基板」、「剥離する」、「押し付け部材」、「圧接して」に相当する。
(b)引用例1発明の(4)の引き剥がす工程の「受け台2の下流側に位置する剥離部材4によって粘着シート体Sを逆Z字状に形成し、剥離部材4を受け台2の上(受け台2に載置された下ディスク基板D1の上方)を横切るように平行移動させ、粘着シート体Sを引っ張り上げるように作用させて」は、本願補正発明の「粘着シート体Sと下ディスク基板D1との間を受け台2の上流側に移動」することに他ならない。 また、該引き剥す工程において、引用例1発明では、本願補正発明で特定する「受け台2の上流側に配置されたテンションローラ5A及び下流側に配置されたテンションローラ5Bにより粘着シート体Sに張力をかけながら、」は明示されていないけれども、当然にそのように張力をかけながら行なうものと認められる。

してみると、両発明は、次の点で一致する。
「下記(1)〜(6)の工程を順次有するディスク基板の貼り合わせ方法。
(1)ドーナツ型シート状粘着剤を下面に有するキャリアからなる粘着シート体を、ピッチ送りローラ、上流側に配置されたテンションローラ、受け台、下流側に配置されたテンションローラ、引き取りローラ間に順に張設走行させる工程、
(2)受け台上に保持された下ディスク基板に対して、粘着シート体を芯出しシャフトにより位置決めする工程、
(3)芯出しシャフトを上昇させて、受け台上に保持された下ディスク基板及び粘着シート体上に貼合わせローラを転動させ、下ディスク基板に粘着シート体を貼り付ける工程、
(4)受け台の上流側に配置されたテンションローラ及び下流側に配置されたテンションローラにより粘着シート体に張力をかけながら、受け台の下流側に位置する剥離部材を、粘着シート体と下ディスク基板との間を受け台の上流側に移動し、粘着シート体を下ディスク基板上の粘着剤から剥離する工程、
(5)粘着剤を有する下ディスク基板上に上ディスク基板を戴置する工程、
(6)受け台に戴置された両ディスク基板に対して、略半球状の可撓性の材料からなる押し付け部材を押し付けて、両ディスク基板を貼り合わせる工程。」

しかしながら、本願補正発明は、(6)の工程の後に「(7)貼り合わされた両ディスク基板D1、D2を加圧容器8内に配置し、前記略半球状の押し付け部材100により両ディスク基板D1、D2に所定圧力を加えながら、加圧容器8の側壁上部に配置された流路パイプ8Aを通して、加圧容器8内に押し付け部材100の上方に水平に圧縮空気を圧入して、前記所定圧力より高い高圧雰囲気状態に一定時間維持して、両ディスク基板D1、D2を強固に固着する工程。」という(7)の工程を有するのに対し、引用例1発明では該工程がない点で相違する。

そこで、この相違点について検討する。
2つのディスク基板をシート状接着層を介して貼り合わせるに際し、2つのディスク基板を接着層を介して(加圧)接着した後、圧縮空気による加圧雰囲気中に保持することにより脱泡等を行うことは、引用例2や引用例3に記載されている様に周知の技術事項である(必要であれば、当審の最後の拒絶理由にも提示した特開平10-55572号公報、特開平10-208314号公報、特開平11-339333号公報、特開平11-283279号公報なども参照)。
そして、引用例1発明においても、気泡(空泡)の存在による不都合を解消することは当然望まれることであるから、引用例2や引用例3の教示に基づいて、「貼り合わされた両ディスク基板を加圧容器内に配置し、加圧容器内に圧縮空気を圧入して、高圧雰囲気状態に一定時間維持して、両ディスク基板を強固に固着する工程。」を更に付加する程度のことに、格別の創意工夫が必要であるとは認められない。
ところで、本願補正発明では、更に、(イ)「前記略半球状の押し付け部材により両ディスク基板に所定圧力を加えながら、・・・前記所定圧力より高い高圧雰囲気状態」とすること、及び、(ロ)圧縮空気を圧入することに関し、「加圧容器8の側壁上部に配置された流路パイプ8Aを通して、加圧容器8内に押し付け部材100の上方に水平に圧縮空気を圧入」することが限定されている。

(イ)の点について
しかしながら、略半球状の押し付け部材により両ディスク基板に所定圧力を加えながら行うことは、既に(6)の工程(この工程は引用例1発明でも採用されている)で行われていることにすぎず、そのような操作(手段)を再度行うことに、貼り合わせディスクを固定するという以上の格別の技術的意義は認められないから、そのような手段の併用は単なる設計的事項に過ぎないというべきである。なお、両基板がずれないことは、貼り合わせディスクの固定により行われる単なる自明な作用効果にすぎない。
そして、圧縮空気による圧力をどの程度とするかは単なる設計事項と認められ、押し付け部材による所定圧力より圧縮空気の圧力を高くすることは当業者が適宜乃至容易になし得る態様にすぎないと言うべきである。
よって、(イ)の点は、単なる設計事項乃至は、当業者が容易に想到し得る程度のことといえる。

(ロ)の点について
加圧容器に圧縮空気を圧入するための導入口を設けることは、当然のことであるところ、それをどのような位置に設けるかは、単なる設計事項にすぎない。
これに対し、請求人は、本件補正と同日付けで提出された平成17年10月3日付け意見書において、『すなわち、圧縮空気は、水平な流路パイプ8Aを介して加圧容器内に圧入されることにより、押し付け部材100の上方を水平に流れて対面の側壁に衝突する。
その結果、流れのエネルギーの大部分が消失され、容器内に充満して、加圧容器内全体が昇圧されることとなる。
従って、圧入空気が、両基板の貼り合わされた周縁付近に直接衝突することがないから、該圧入空気により、両基板周縁部間に剥離力が作用することも、該周縁部に上方又は下方に湾曲させる力が作用することもない。
以上のように、加圧容器内への圧縮空気の圧入時の状況を考慮すれば、審判請求理由において請求人が主張した上記作用効果が達成されることは、明白である。』と主張している(上記2.(1)で摘示済みであるが一部再掲した。)。
しかしながら、圧縮空気の圧入に際しどのような問題点(課題)があるかつにいて当初明細書には何ら説明はないし、また、上記主張する如き作用についての言及が全くないばかりか、工程(6)で使用されている如き「半球状の可撓性の材質からなる押圧部材100」を貼合せ中のディスクに圧接して用いる状況を鑑みると、そもそもそのような課題があるのかすら不明である。なお、圧縮空気雰囲気による高圧が両ディスク基板間に均等に働くことは論ずるまでもなく明らかであるし、そもそも貼合せ基板に圧縮空気を直接吹き付ける必然性は見あたらない。
してみると、前記請求人の主張は採用できない。

以上のとおりであるから、前記相違点となる(7)の工程の構成を採用することに格別の創意工夫が必要であるとは認められない。
よって、本願補正発明は、引用例1〜3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4)むすび
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第4項各号の規定を満たしていないため同条第4項の規定に違反し、乃至は、平成15年改正前特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第4項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
平成17年10月3日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1,2に係る発明は、平成15年8月25日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1,2に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、そのうち請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は次のとおりである。
「【請求項1】 下記(1)〜(7)の工程を順次有するディスク基板の貼り合わせ方法。
(1)ドーナツ型シート状粘着剤S2を下面に有するキャリアS1からなる粘着シート体Sを、ピッチ送りローラ6、上流側に配置されたテンションローラ5A、受け台2、下流側に配置されたテンションローラ5B、引き取りローラ7間に順に張設走行させる工程、
(2)受け台2上に保持された下ディスク基板D1に対して、粘着シート体Sを芯出しシャフト3により位置決めする工程、
(3)芯出しシャフト3を上昇させて、受け台2上に保持された下ディスク基板D1及び粘着シート体S上に貼合わせローラ1を転動させ、下ディスク基板D1に粘着シート体Sを貼り付ける工程、
(4)受け台2の上流側に配置されたテンションローラ5A及び下流側に配置されたテンションローラ5Bにより粘着シート体Sに張力をかけながら、受け台2の下流側に位置する剥離部材4を、粘着シート体Sと下ディスク基板D1との間を受け台2の上流側に移動し、粘着シート体Sを下ディスク基板D1上の粘着剤S2から剥離する工程、
(5)粘着剤S2を有する下ディスク基板D1上に上ディスク基板D2を戴置する工程、
(6)受け台2に戴置された両ディスク基板D1、D2に対して、略半球状の可撓性の材料からなる押し付け部材100を押し付けて、両ディスク基板D1、D2を貼り合わせる工程、
(7)貼り合わされた両ディスク基板D1、D2を加圧容器内に配置し、前記略半球状の押し付け部材100により両ディスク基板D1、D2に所定圧力を加えながら加圧容器内に圧縮空気を圧入して、前記所定圧力より高い高圧雰囲気状態に一定時間維持して、両ディスク基板D1、D2を強固に固着する工程。」

(1)引用例
当審の最後の拒絶の理由に引用される引用例、およびその記載事項は、前記「2.(2)」に記載したとおりである。

(2)対比、判断
本願発明は、前記2.で検討した本願補正発明から「圧縮空気の圧入」の限定事項である「加圧容器8の側壁上部に配置された流路パイプ8Aを通して、加圧容器8内に押し付け部材100の上方に水平に」との構成(下線部のみ)を省いたものである。
そうすると、本願補正発明の構成要件を全て含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「2.(3)」に記載したとおり、引用例1〜3記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用例1〜3記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。それ故、他の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-02-02 
結審通知日 2006-02-03 
審決日 2006-03-28 
出願番号 特願2000-197370(P2000-197370)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G11B)
P 1 8・ 575- WZ (G11B)
P 1 8・ 572- WZ (G11B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 橘 均憲日下 善之  
特許庁審判長 山田 洋一
特許庁審判官 川上 美秀
中村 豊
発明の名称 ディスク基板の貼り合わせ方法  
代理人 阿部 綽勝  
代理人 白崎 真二  

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