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審決分類 審判 全部申し立て 原文新規事項追加の訂正  B08B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B08B
審判 全部申し立て (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  B08B
審判 全部申し立て 2項進歩性  B08B
管理番号 1136207
異議申立番号 異議2003-73460  
総通号数 78 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2002-09-17 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-12-26 
確定日 2006-04-05 
異議申立件数
事件の表示 特許第3431904号「浮遊粉塵除去方法及びそのシステム」の請求項1ないし4、6に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3431904号の請求項1ないし4、6に係る特許を取り消す。 
理由 【1】手続の経緯
特許第3431904号の請求項1ないし4、6に係る発明についての出願は、平成13年3月6日に特許出願され、平成15年5月23日にその特許権の設定登録がされ、その後、請求項1ないし4及び6に係る発明の特許について、特許異議申立人 井坂紀子により特許異議の申立てがされ、平成17年5月17日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成17年7月26日に特許異議意見書が提出されるとともに、訂正請求がされ、平成17年11月14日付けで訂正拒絶の理由が通知されたものである。

【2】訂正の適否
1.訂正の内容
上記【1】の手続の経緯のとおり、平成17年11月14日付けで訂正拒絶の理由を通知し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、特許権者からは何らの応答もない。
したがって、特許権者が求めている訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、本件特許明細書の記載を、平成17年7月26日付け訂正請求書及びそれに添付された訂正明細書の記載のとおりに訂正するものである。
訂正事項の検討の便宜を考慮し、合議体において、訂正事項を次のとおりに整理した。

訂正事項a:
特許請求の範囲請求項1を、
「少なくとも界面活性剤を含む水溶液から、大きさが20〜50μmの霧粒子を作成するステップと、
粒径が大略10μmより小さくて空中に浮遊する機械的処理由来の浮遊粉塵に対して上記霧粒子が噴霧され、上記霧粒子により浮遊粉塵が捕捉されて、霧粒子とともに浮遊粉塵を落下させるステップとを備えることを特徴とする浮遊粉塵除去方法。」と訂正する。
訂正事項b:
特許請求の範囲請求項6を、
「水及び界面活性剤を混合して噴霧水溶液を調製する噴霧液調製手段と、
上記噴霧水溶液から大きさが20〜50μmの霧粒子を噴出する噴霧手段 と、
粒径が大略10μmより小さくて空中に浮遊する機械的処理由来の浮遊粉塵に対して上記霧粒子の噴霧量及び噴霧時間を制御する制御手段とを備えることを特徴とする浮遊粉塵除去システム。」と訂正する。
訂正事項c:
明細書の段落【0009】、【0010】、【0020】及び【0021】における「20〜150μm」の記載を、いずれも「20〜50μm」と訂正する。
訂正事項d:
明細書の段落【0001】における「空中に浮遊して落下しにくい粉塵」及び「目で見えない微粉塵」の記載を、それぞれ「空中に浮遊して落下しにくい機械的処理由来の粉塵」及び「目で見えない機械的処理由来の微粉塵」と訂正する。
訂正事項e:
明細書の段落【0002】における「多量の粉塵が発生する」の記載を、「多量の機械的処理由来の粉塵が発生する」と訂正する。
訂正事項f:
明細書の段落【0008】における「空中に浮遊する微粉塵」の記載を、「空中に浮遊する機械的処理由来の微粉塵」と訂正する。
訂正事項g:
明細書の段落【0009】、【0020】及び【0021】における「空中に浮遊する浮遊粉塵」の記載を、いずれも「空中に浮遊する機械的処理由来の浮遊粉塵」と訂正する。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否の検討
ア.訂正事項a、bについて
訂正事項a、bは、要するに、本件特許請求の範囲の請求項1及び6の記載について、訂正前は「大きさが20〜150μmの霧粒子」及び「空中に浮遊する浮遊粉塵」とされていたものを、それぞれ、「大きさが20〜50μmの霧粒子」及び「空中に浮遊する機械的処理由来の浮遊粉塵」と訂正することを求めるものである。
(アー1)特許法第120条の4第3項において準用する同法第126条第2項の規定について
上記訂正事項a及びbに係る「機械的処理由来の浮遊粉塵」に関しては、願書に添付された明細書(以下、「本件特許明細書」という。)には、「機械的処理由来の浮遊粉塵」なる記載は見あたらないが、その段落【0001】に、「廃棄物処理場や微粉末取扱工場や炭坑等の目で見えない微粉塵が浮遊する作業環境において、界面活性剤等を含む微細な霧粒子を浮遊粉塵に噴霧することによって、浮遊粉塵を捕捉して落下させる方法及びそのシステムに関する。」との記載がある。
同じく段落【0036】ないし【0038】には、「第2実施形態は、より具体的な実施形態として、アスファルト合材工場50において、・・・(中略)・・・、骨材をショベル72からホッパー74に移す際に、多量の微粉塵が発生し、比較的密閉状態にある作業用建屋50内部には、微粉塵が浮遊する粉塵浮遊空間56が形成される。・・・(中略)・・・薬液を含む噴霧水溶液をホッパー74に向けて下向き(噴霧方向aの方向)に噴出させることにより、ホッパー74から周囲に拡散する微粉塵に対して霧粒子が衝突して、微粉塵が霧粒子によって捕捉されて落下する。その結果、ホッパー74の周囲に浮遊する微粉塵が取り除かれる。」との記載があり、アスファルト合材工場における、骨材をショベルからホッパーに移す際に、多量の微粉塵が発生する例を通し、微粉塵骨材の移送作業において粉塵が発生すること、その粉塵は薬液を含む噴霧水溶液を噴出させることにより発生される霧粒子によって捕捉されて落下する旨が記載されているといえる。
ところが、本件特許明細書及び図面の記載全般からみて、段落【0001】の「作業環境」は、「廃棄物処理場」、「微粉末取扱工場」及び「炭坑」に限られるものではなく、「目で見えない微粉塵が浮遊する」作業環境一般を指していると考えることが相当である。
また、「浮遊粉塵」に関しては、機械的処理によるものか、そのような処理以外の処理によるものかの観点による分類に限らず、浮遊粉塵の大きさ、性質、環境に与える影響の種類、度合い等に関する様々な観点からの分類が考えられる。
そうすると、本件特許明細書又は図面に、廃棄物処理場や微粉末取扱工場や炭坑の例示の記載、第2実施形態として、骨材をショベルからホッパーに移すような移送作業の際に発生する微粉塵についての例示の記載があるにしても、作業の際に発生する微粉塵が上記例示のような作業環境で共通して機械的処理に由来するものに特定されていたとも、機械的処理に由来するか否かに着目して、機械的処理に由来するものを、特に除去の対象とすることの示唆がされていたとすることも、或いは機械的処理に由来しないものは、除去の対象にしないなどの示唆がされていたとすることもできない。
以上のことをまとめると、本件特許明細書又は図面には、「機械的処理由来の浮遊粉塵」という記載もないし、本件特許明細書又は図面から、「機械的処理由来の浮遊粉塵」の概念も導き出すことはできない。
また、除去対象とされる浮遊粉塵が何らかの機械的処理由来の浮遊粉塵であることが、本件特許明細書又は図面から自明のことでもない。
したがって、本件特許明細書又は図面に「機械的処理由来の浮遊粉塵」が特定されて記載されている、或いは記載されていたに等しいとはいえない。
次に、上記訂正事項a及びbにより、訂正前の特許請求の範囲の請求項1の「浮遊粉塵除去方法」が、「浮遊粉塵」に対して「大きさが20〜150μm」に特定される「霧粒子を作成するステップ」で作成された「霧粒子」が「噴霧され」る「浮遊粉塵除去方法」から、「機械的処理由来」に特定される「浮遊粉塵」に対して「大きさが20〜50μm」に特定される「霧粒子」を作成するステップ」で作成された「霧粒子」が「噴霧され」る「浮遊粉塵除去方法」に訂正されることになるので、これについても検討する。 上記したように、本件特許明細書又は図面に「機械的処理由来の浮遊粉塵」が特定されて記載されている、或いは記載されていたに等しいとはいえない。
また、本件特許明細書の段落【0016】には、「好ましくは、霧粒子の大きさが20〜150ミクロンである。霧粒子をこのようなサイズにすることにより、微粉塵が浮遊する空間において霧粒子が単位体積当りに存在する霧粒子密度が高くなって、霧粒子が微粉塵に衝突する衝突機会(回数)が増大する。また、例えば、霧粒子が50ミクロンより小さくても、霧粒子が微粉塵を確実に捕捉することによって、両者が容易に合体して、もとの霧粒子より大粒子化し、粉塵捕捉霧粒子の重量が重くなる。したがって、粉塵捕捉霧粒子が落下しやすくなって、「もや」のように空中浮遊して作業者の視界を妨げることが低減される。」と記載されており、特許明細書には、霧粒子の大きさを規定する「20〜50μm」の数値範囲自体は記載されているものといえるが、上記「霧粒子が50ミクロンより小さくても、・・・(中略)・・・低減される。」との記載は、単に、50ミクロンより小さい霧粒子でも、微粉塵を確実に捕捉することができることを説明しているにすぎず、除去の対象とする浮遊粉塵が、機械的処理由来の浮遊粉塵であることと関連して、「霧粒子が50ミクロンより小さくても」「落下しやすくな」ることを意味するものとはいえない。
してみると、上記訂正事項a及びbにより変更される請求項1に係る訂正事項である「機械的処理由来」に特定される「浮遊粉塵」に対して「大きさが20〜50μm」に特定される「霧粒子」を作成するステップで作成された「霧粒子」が「噴霧され」る「浮遊粉塵除去方法」は、本件特許明細書又は図面に記載されているに等しいとすることはできないし、これらから自明のことともいえない。
以上のことから、訂正事項a及びbは、本件特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正ではない。
(アー2)特許法第120条の4第2項ただし書の規定について
訂正事項a及びbに係る本件特許請求の範囲の請求項1及び6の訂正のうち、訂正前の「空中に浮遊する浮遊粉塵」とあるのを、「空中に浮遊する機械的処理由来の浮遊粉塵」と訂正することを求める訂正については、「機械的処理由来」との記載の意味内容が明確といえないから、「機械的処理由来の浮遊粉塵」との発明特定事項が明らかといえない。
そして、「機械的処理由来の浮遊粉塵」に関して本件訂正明細書の発明の詳細な説明には、上記(アー1)において検討した訂正事項a及びbに関する記載以外に、「機械的処理由来の浮遊粉塵」に関する記載は特に見あたらず、また、上記(アー1)において検討した訂正事項a及びbに関する記載によって、「機械的処理由来の浮遊粉塵」が指すものが明確とされるわけでもない。
以上のことから、本件訂正明細書及び図面の記載を参酌しても、訂正事項a及びbに係る「機械的処理由来の浮遊粉塵」の発明特定事項は不明であり、この訂正は、特許請求の範囲の記載を明りょうでないものとするものである。
してみると、訂正事項a及びbは、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明のいずれを目的とするものにも該当しない。
イ.訂正事項cないしgについて
訂正事項cないしgは、いずれも訂正事項a又はbと整合を図る意図で、明細書を訂正するものといえ、かつ訂正事項a又はbに係る訂正事項と同様な訂正事項を含むものといえるところ、上記ア.で説示したとおり、訂正事項a及びbに係る訂正は、新規事項の追加に該当するとともに、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明のいずれを目的とするものにも該当しないから、上記ア.で説示したと同様の理由から、訂正事項cないしgは、新規事項の追加に該当するとともに、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明のいずれを目的とするものにも該当しない。

3.まとめ
以上検討したとおり、本件訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成15年法律第47号)附則第2条第7項により、なお従前の例によるとされる、同法律による改正前の特許法(以下、単に「特許法」という。)第120条の4第2項及び同条第3項において準用する同法第126条第2項の規定に適合しない。
よって、本件訂正は認められない。

【3】特許異議申立てについて
1.本件発明
本件の請求項1ないし4及び6に係る発明(以下、「本件特許発明1ないし4及び6」という。)は、上記【2】で説示したとおり、本件訂正は認められないから、本件特許明細書の特許請求の範囲請求項1ないし4及び6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

(本件特許発明1)
「少なくとも界面活性剤を含む水溶液から、大きさが20〜150μmの霧粒子を作成するステップと、粒径が大略10μmより小さくて空中に浮遊する浮遊粉塵に対して上記霧粒子が噴霧され、上記霧粒子により浮遊粉塵が捕捉されて、霧粒子とともに浮遊粉塵を落下させるステップとを備えることを特徴とする浮遊粉塵除去方法。」
(本件特許発明2)
「上記界面活性剤が陰イオン界面活性剤であることを特徴とする、請求項1記載の浮遊粉塵除去方法。」
(本件特許発明3)
「上記噴霧水溶液がさらに脱臭剤を含むことを特徴とする、請求項1記載の浮遊粉塵除去方法。」
(本件特許発明4)
「粉塵が発生する建屋内において、上方で且つ周囲から上記水溶液を噴霧することを特徴とする、請求項1記載の浮遊浮遊粉塵除去方法。」
(本件特許発明6)
「水及び界面活性剤を混合して噴霧水溶液を調製する噴霧液調製手段と、上記噴霧水溶液から大きさが20〜150μmの霧粒子を噴出する噴霧手段と、粒径が大略10μmより小さくて空中に浮遊する浮遊粉塵に対して上記霧粒子の噴霧量及び噴霧時間を制御する制御手段とを備えることを特徴とする浮遊粉塵除去システム。」

2.引用刊行物に記載された発明
(1)引用刊行物
平成17年5月17日付け取消理由通知で通知された引用刊行物は次のとおりである。

刊行物1:特開平3-188911号公報(異議申立人・井坂紀子が提出し た甲第1号証)
刊行物2:社団法人日本空気清浄協会編「室内空気清浄便覧」p5,48, 50、平成12年8月25日、株式会社オーム社発行(同甲第2 号証)
刊行物3:「日本建築学会大会学術講演梗概集」(北海道)
p.771〜772、1995年8月(同甲第3号証)
刊行物4:粉体工学研究会、日本粉体工業協会編「粉体物性図説」における 『都市大気中に浮遊する粒子状物質(冬期)』の項、昭和50年 11月15日、株式会社産業技術センター、第一版2刷発行(同 甲第4号証)
刊行物5:特開平7-328367号公報(同甲第6号証)
刊行物6:特開平11-343746号公報

3.各引用刊行物の記載事項
(1)刊行物1
上記刊行物1には、図面とともに次の事項が記載されている。
(1-1)「(1)保護されるべき微小浮遊物が存在する空間に水を噴霧する噴霧ノズルと、0.1〜3000PPMの界面活性剤が添加された水を加圧して該噴霧ノズルに供給する高圧水供給手段とを包含してなる浮游粒子落下装置。
・・・(中略)・・・
(4)上記噴霧ノズル及び上記高圧水供給部はそれぞれ2種類設けられており、上記第1の高圧供給部は上記第1の噴霧ノズルにカチオン性界面活性剤添加水を供給し、上記第2の高圧水供給部は上記第2の噴霧ノズルにアニオン性界面活性剤添加水を供給し、上記第2の噴霧ノズルは上記第1の噴霧ノズルより平均粒径が大きな水滴を噴霧するものである請求項1記載の消煙装置。」(特許請求の範囲)
(1-2)「本発明は、ガス中の微小浮遊物を沈降分離させる微小浮遊物落下装置に関する。」(第1頁右下欄第7〜8行)
(1-3)「[従来の技術]・・・(中略)・・・ガス中の有害又は有用な微小浮遊物を分離回収するために、水シャワー装置が実用されている。この水シャワー装置は、ガス(空気を含む)に水を噴霧してガス中の微小浮遊物を水滴に付着させて沈降、回収するものである。
[発明が解決しようとする課題]ところが、この水シャワー装置は、・・・(中略)・・・分離回収効率の向上のために、大量の水を噴霧しなければならない欠点があった。更に、・・・(中略)・・・、ガスを冷却してその大気への排出に悪影響を及ぼす。
本発明は上記した問題に鑑みなされたものであり、高い回収効率を有する水シャワー方式の微小浮遊物落下装置を提供することを、その解決すべき課題としている。」(第1頁右下欄第9行〜第2頁左上欄第8行)
(1-4)「射出水滴径の多くは0.01〜5mmの範囲となっていることが好ましい。水滴径が上記範囲よりも大きい場合には、水消費量に比較して消煙効果が小さく、水滴径が上記範囲よりも小さい場合には、水滴の沈降速度が小さく、回収効率が低下する。」(第2頁左上欄第15〜20行)
(1-5)「被集されるべき微小浮遊物が存在する空間に水を噴霧すると、微小浮遊物は水滴に濡れ(付着し)、共に沈降する。
水滴に・・・(中略)・・・添加されている界面活性剤は、その高い濡れ性又は静電的な結合力により、水滴による微小浮游物の捕集性を向上させる。」(第2頁右上欄第18行〜左下欄第4行)
(1-6)「第1実施例 本発明の微小浮游物落下装置の一実施例を図面により説明する。
この微小浮游物落下装置は、排煙除塵装置として用いられるもので、煙道中に配設されている。」(第2頁左下欄第6〜10行)
(1-7)「第1噴霧ノズル2は、主筒部11の下部の側壁に設けられていて、主筒部11の内部に、水滴を噴霧する。なお、水滴径の多くが0.1mmの平均粒径もつように、第1噴霧ノズル2の形状及び第1高圧水供給手段4の吐出水圧が設計されている。」(第2頁右下欄第13〜18行)
(1-8)「この微小浮游物落下装置の作用を説明すると、
上記ゴミ焼却炉(図示せず)で生じた排出ガスは煙道(図示せず)、導入筒部10,主筒部11,煙突(図示せず)を介して大気に排出される。
第1高圧水供給手段4から第1噴霧ノズル2に加圧供給されたカチオン性界面活性剤添加水は主筒部11の下部に噴霧され、その結果、噴霧された水滴に排出ガス中の粉塵が付着してともに水滴回収筒部12に沈降する」(第3頁左上欄第5〜13行)
(1-9)「なお、上記実施例において、・・・添加する界面活性剤はカチオン性又はアニオン性の他、両性やノニオン性でもよい。」(第3頁左下欄第5〜8行)
(1-10)「実験結果から、射出水滴の平均粒径は少なくとも約0.1mm以上であれば有効であることがわかる。」(第5頁左上欄第2〜4行)

(2)刊行物2
上記刊行物2には、次の事項が記載されている。
(2-1)1・1汚染物質 図1-1-1 室内汚染にかかわる粒子の大きさ(入江)(第5頁)には、一般粒状物質の欄に浮遊大気じんに関して、実線で10-2(μm)から100(μm)の範囲にあること、点線で10-2(μm)をやや下回る範囲或いは100(μm)から103(μm)の範囲にあることが示されている。
(2-2)「浮遊粉塵のうち,呼吸器に吸入されて健康に影響を及ぼす粒径10μm以下の粒子は,浮遊粒子物質として大気環境基準が決められている.その粒度分布は二峰性であり,最近は粒径が2.5μm(PM2.5)以下の微小粒子の健康影響に注目が集まっている.これらの微小粒子の発生源は主に燃焼由来であり,屋外の主な発生源は工場のほかにディーゼル車からの排出粒子が問題である.」(第48頁右欄第14〜23行参照)

(3)刊行物3
上記刊行物3には、次の事項が記載されている。
(3-1)
「一般住居内に見られるアレルゲン物質は粒径5〜10μmである。」(第771頁右欄第15〜16行)

(4)刊行物4
上記刊行物4から、次の事項が読み取れる。
(4-1)
「粒径がおよそ10μmより小さい浮遊粒子が全体の大部分を占めることを示す都市大気中の浮遊粒子の粒度分布例がある。」(「粉体物性図説」における『都市大気中に浮遊する粒子状物質(冬期)』の項]の図―1都市大気中の浮遊粒子の粒度分布例)

(5)刊行物5
上記刊行物5には、図面とともに次の事項が記載されている。
(5-1)
「筐体と、この筐体内に形成された開口部に連通接続されたエアー流路と、このエアー流路内に配設され噴霧手段により導入されたエアーを加湿する手段と、該エアー加湿手段の下流側に配設された衝突・慣性集塵フィルタと、この衝突・慣性集塵フィルタの下流側に配設された加臭手段と、この加臭手段の下流側に形成されたエアー吹出口と、上記加湿手段および衝突・慣性フィルタの下方に配設された濾過フィルタと、この濾過フィルタで濾過された水分を受けるタンクと、から構成されてなる集塵装置。」(特許請求の範囲請求項1)
(5-2)
「加湿フィルタ4は、含塵エアーの臭いや煙成分を液体に吸着させるように作用するもので、その組成は、含塵エアーと噴霧水とを効率よく接触させる公知の加湿フィルタと同様であるので、その詳細な説明をここでは省略する。}(段落【0015】)
(5-3)
「噴霧装置5は、含塵エアーの流れ方向と直交する方向から水を加湿フィルタ4へと噴霧するノズル17と、通常の水では脱臭できないときの特殊な脱臭液が収容された着脱自在な脱臭液カートリッジ18と、この液を上記噴霧水に供給し噴霧混合するノズル19と、該ノズル19を作動させる押圧機構(図示せず)と、から構成されており、上記ノズル17は、上記パイプ15の上端部に連通接続されている。」(段落【0016】)
(5-4)
「この実施例に係る集塵装置は、以上のように構成されているので、ファン10によってエアー流路3内に吸引された含塵エアーは、噴霧装置5によって加湿された加湿フィルタ4を通過して臭いや煙が液と接触し、各粉塵には、霧状の液体が吸着して重量およびフィルタ素子への付着性が付与されるので、・・・(中略)・・・効果的に捕集することができる。」(段落【0025】)
(5-5)
「また、脱臭において通常の水では脱臭ができない場合には、図示外の特殊脱臭スイッチをオンさせることで、脱臭液カートリッジ18内の脱臭液が噴霧水に供給され混合されて加湿フィルタ4に供給されるので、より確実な脱臭を行なうことができる。」(段落【0027】)

(6)刊行物6
上記刊行物6には、図面とともに次の事項が記載されている。
(6-1)
「粉塵が発生する作業環境において、当該作業環境の全域にほぼ行き渡るように場所を変えつつ当該作業環境の上方から、大きさが50ミクロン以下の無数の水粒子から構成される人工霧を噴出させ、
浮遊している粉塵に対し前記水粒子を付着させ、粉塵を水粒子と共に強制的に落下させて空気中から除去するようにした、
ことを特徴とする浮遊粉塵除去方法。」(特許請求の範囲請求項1)
(6-2)
「本発明は、建築・土木工事や解体工事等の作業環境下での浮遊粉塵を除去するための方法及びその装置に関するものである。
具体的には、労働安全衛生法に規定される作業環境基準枠を超える多量の粉塵が発生する場所または所定の浮遊粉塵量以下に閉鎖空間あるいはそれに近い空間内環境を抑制する必要がある場所において、浮遊粉塵を大幅に減らすために用いる技術である。」(段落【0001】)
(6-3)
「図1は、浮遊粉塵除去車により作業現場の粉塵を除去する際の説明図、図2は浮遊粉塵除去車の平面図、図3は同側面図、図4は同正面図を示す。
図1に示すように、作業現場Gにおいて複数の作業員が各種の作業をしており、作業現場Gでは粉塵が浮遊している。・・・(中略)・・・前記浮遊粉塵除去車12は、車両本体14と、複数のノズル16と、・・・(中略)・・・などを備えている」(段落【0008】ないし【0009】)
(6-4)
「ノズル16は、前記ポンプ22から圧送される水を超微細な人工霧として噴出するもので、大きさ(直径)が50ミクロン以下の超微細な水粒子として噴霧するものである。好ましくは、噴霧する水粒子の大きさ(直径)は5ミクロンから30ミクロン程度であり、後述する実施例では、5ミクロン程度の大きさの水粒子からなる人工霧を噴霧するノズル16を使用している。」(段落【0011】)
(6-5)
「なお、図2において、符号30は圧力計、32はタイマー(ポンプ22の駆動時間を設定するもので、設ける場合と設けない場合がある)、34はポンプ22の起動スイッチ、36はポンプ22の停止スイッチを示す。」(段落【0012】)
(6-6)
「作業現場G内でポンプ22を駆動しつつ作業員が手摺1406を持ち浮遊粉塵除去車12を移動させる。
そして、作業現場Gのほぼ全域にわたりその上方のノズル16から超微細な人工霧を噴霧させ、これにより、浮遊している粉塵に霧が付着し、浮遊塵埃は超微細霧と共に床へ落下し、作業環境は塵埃発生前のように改善される。」(段落【0013】)
(6-7)
「図5において、符号30Aはポンプ22の起動スイッチやポンプ22の停止スイッチなどが設けられた制御ボックスを示す。」(段落【0018】)
(6-8)
図1には、作業現場Gとして4方の壁に囲まれた空間が示されている。

4.対比・判断
(1)本件特許発明1について
刊行物1には、上記3.(1-1)ないし(1-10)の記載事項及び図示内容を総合すると、次の発明(以下、「刊行物1発明A」という。)が記載されているものと認められる。

「第1高圧水供給手段4から第1噴霧ノズル2に供給されたアニオン性界面活性剤添加水をゴミ焼却炉で生じ煙突を介して大気に排出される排出ガスに対して噴霧して、その結果、噴霧された水滴に前記排出ガス中の粉塵を付着させてともに水滴回収筒部12に沈降分離させる微小浮遊物落下装置であって、上記第1噴霧ノズル2の形状及び上記第1高圧水供給手段4は、水滴の多くが0.1mmの平均粒径をもつように設計されており、主筒部11の上部及び下部の側壁に第2噴霧ノズル3及び上記第1噴霧ノズル2が設けられており、上記第2噴霧ノズル3及び上記第1噴霧ノズル2から上記主筒部11の内部に水滴を噴霧する微少浮遊物落下装置。」

そして、刊行物1発明Aの「微小浮遊物落下装置」について、方法の観点から、上記の記載事項及び図示内容をみると、刊行物1には、「微小物落下方法」に係る次の発明(以下、「刊行物1発明B」という。)が記載されているものと認められる。

「第1高圧水供給手段4から第1噴霧ノズル2に供給されたアニオン性界面活性剤添加水をゴミ焼却炉で生じ煙突を介して大気に排出される排出ガスに対して噴霧して、噴霧された水滴に排出ガス中の粉塵である微小浮遊物を付着させ、排出ガス中の前記微小浮遊物を沈降分離させる微小浮遊物落下方法であって、上記第1噴霧ノズル2の形状及び上記第1高圧水供給手段4は、水滴の多くが0.1mmの平均粒径をもつように設計されており、主筒部11の上部及び下部の側壁に第2噴霧ノズル3及び第1噴霧ノズル2が設けられており、上記第2噴霧ノズル3及び第1噴霧ノズル2から主筒部11の内部に水滴を噴霧する微少浮遊物落下方法。」

そこで、本件特許発明1と刊行物1発明Bとを対比すると、後者の「アニオン性界面活性剤」は、その機能及び構成からみて、前者の「界面活性剤」に相当し、以下、同様に、「大気に」は「空中に」に、「噴霧された水滴に排出ガス中の粉塵である微小浮遊物を付着させ」は「上記霧粒子により浮遊粉塵が捕捉されて」に、「粉塵である微小浮遊物」は「浮遊粉塵」に、「排出ガス中の前記微少浮遊物を沈降分離させる」は「霧粒子とともに浮遊粉塵を落下させる」に、「微少浮遊物落下方法」は「浮遊粉塵除去方法」に相当する。
そして、後者が、「第1高圧水供給手段4から第1噴霧ノズル2に供給されたアニオン性界面活性剤添加水をゴミ焼却炉で生じ煙突を介して大気に排出される排出ガスに対して噴霧」するものであることは、後者は、前者の「少なくとも界面活性剤を含む水溶液から」「霧粒子を作成するステップ」及び「空中に浮遊する浮遊粉塵に対して上記霧粒子が噴霧され」るステップを備えてなるものといえる。
また、後者において、「第1噴霧ノズル2の形状及び第1高圧水供給手段4は、水滴の多くが0.1mmの平均粒径をもつように設計されている」ということは、排出ガスに対して噴霧されるアニオン性界面活性剤添加水の状態は、水滴の多くが0.1mm(100μm)の平均粒径をもつものといえるから、後者の「微少浮遊物落下方法」における「噴霧された水滴」の状態は、「大きさが100μmの霧粒子」に相当するといえる。
したがって、両者は
「少なくとも界面活性剤を含む水溶液から、大きさが100μmの霧粒子を作成するステップと、空中に浮遊する浮遊粉塵に対して上記霧粒子が噴霧され、上記霧粒子により浮遊粉塵が捕捉されて、霧粒子とともに浮遊粉塵を落下させるステップとを備える浮遊粉塵除去方法。」である点で一致し、次の点で相違する。

【相違点1】:
「浮遊粉塵」に関して、本件特許発明1では、「粒径が大略10μmより小さ」いものであるのに対して、刊行物1発明Bでは、ゴミ焼却炉で生じ煙突を介して大気に排出される排出ガスであって、粒径については明らかでない点。

そこで、上記相違点1について検討する。
刊行物2の上記3.(2-2)の記載事項にあるように、燃焼由来の排出ガス中には、粒径10μm以下の粒子が浮游粒子物質として含有されているといえるから、刊行物1発明Bの焼却という燃焼工程を伴う処理の排出ガス中にも粒径10μm以下の粒子が浮游粒子物質として含有されているということができ、刊行物1発明Bで対象とする浮游粉塵として「粒径10μm以下の粒子」が含まれているといことができる。
そうすると、刊行物1発明Bの微少浮遊物落下方法は、「粒径が大略10μmより小さ」い「浮遊粉塵」に対して「霧粒子が噴霧」されることを実質的に備えているものといえ、相違点1は実質的な相違点とはいえない。
また、「浮遊粉塵」が、燃焼由来のものに限らず、より一般的なものまでも含むとしても、上記刊行物2から読み取れる上記3.(2-1)の浮遊大気じんに関して、その大きさの範囲は、主に10-2(μm)から100(μm)であることが示された記載事項、上記刊行物3についての上記3.(3-1)の「一般住居内に見られるアレルゲン物質は粒径5〜10μmである。」との記載事項及び上記刊行物4から読み取れる上記3.(4―1)の「粒径がおよそ10μmより小さい浮遊粒子が全体の大部分を占めることを示す都市大気中の浮遊粒子の粒度分布例がある。」との記載事項などからみて、「粒径が大略10μmより小さ」い浮遊粉塵が、格別小さいものではないことは技術常識といえるから、「粒径が大略10μmより小さ」い浮遊粉塵に対して、刊行物1発明Bの微少浮遊物落下方法を適用して相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは、当業者において容易に想到し得たことといえる。
上記のことをまとめると、本件特許発明1は、刊行物1発明Bであるといえる。
また、「浮遊粉塵」が、燃焼由来のものに限らず、より一般的なものまでも含むとしても、本件特許発明1は、刊行物1発明Bから当業者が容易に発明をすることができたものであるといえる。

(2)本件特許発明2について
本件特許発明2は、本件特許発明1の発明特定事項を全て含むとともに、さらに、「上記界面活性剤が陰イオン界面活性剤であること」という限定事項を加えたものである。
ところが、刊行物1発明Bで使用するのは「アニオン性界面活性剤」であり、本件特許発明2の「陰イオン界面活性剤」に相当するから、本件特許発明2と刊行物1発明Bとでは、界面活性剤に関して、実質的な相違点はない。
そして、相違点1について上記(1)で検討したことを考慮すると、結局、本件特許発明2は、刊行物1発明Bであるといえる。
また、そうではなくても、本件特許発明2は、刊行物1発明Bから当業者が容易に発明をすることができたものであるといえる。

(3)本件特許発明3について
本件特許発明3は、本件特許発明1の発明特定事項を全て含むとともに、さらに、「上記噴霧水溶液がさらに脱臭剤を含むこと」という限定事項を加えたものである。
そこで、本件特許発明3と刊行物1発明Bとを対比すると、上記(1)において対比した相違点1に加え、下記の点で相違する。

[相違点2]: 噴霧水溶液に関し、本件特許発明3は、「脱臭剤を含む」ものと規定されているのに対し、刊行物1発明Bでは、そのような規定がされていない点。
先に、相違点2について検討する。
上記刊行物5には、上記3.(5-1)ないし(5-4)の記載事項を総合すると、次の発明(以下、「刊行物5発明」という。)が記載されているものと認められる。

「含塵エアーの流れ方向と直交する方向から噴霧水を加湿フィルター4へと噴霧するノズル17と、脱臭液が収容された脱臭液カートリッジ18と、上記脱臭剤カートリッジ18に収容された脱臭液を上記噴霧水に供給し噴霧混合するノズル19とを備えた噴霧装置5及び加湿フィルター4を有する含塵装置であって、含塵エアーは上記脱臭液を含む噴霧装置5からの噴霧水と加湿フィルター4において接触し捕集される集塵装置。」

ここで、刊行物5発明の「脱臭液」は、本件特許発明3の「脱臭剤」に相当するから、刊行物5発明は、その「噴霧装置5」により、噴霧水溶液に対し、「脱臭剤を含」ませる構成を備えてなるものといえるので、集塵方法において、噴霧水に脱臭剤を含ませることは、当業者が必要に応じて容易に想到し得ることである。
そして、相違点1について上記(1)で検討したことを合わせて考慮すると、結局、本件発明3は、刊行物1発明Bに刊行物5発明を適用することにより当業者が容易に発明をすることができたものであるといえる。

(4)本件特許発明4について
本件特許発明4は、本件特許発明1の発明特定事項を全て含むとともに、さらに、「粉塵が発生する建屋内において、上方で且つ周囲から上記水溶液を噴霧すること」という限定事項を加えたものといえる。
そこで、本件特許発明4と刊行物1発明Bとを対比すると、上記(1)において検討した相違点1に加え、下記の点で相違する。

[相違点3]: 水溶液を噴霧する場所及び位置に関し、本件特許発明4は、それらが、それぞれ「粉塵が発生する建屋内」及び「上方で且つ周囲から」と規定されているのに対し、刊行物1発明Bでは、水溶液を噴霧する場所が建屋内であるか否か明らかでなく、水溶液を噴霧する位置は、主筒部の上方であるが、「粉塵が発生する建屋内」において、その「上方で且つ周囲から」であるか否か明らかでない点。

先に、[相違点3]について検討する。
上記刊行物6には、上記3.(6-1)ないし(6-4)の記載事項及び図示内容を総合すると、次の発明(以下、「刊行物6発明」という。)が記載されているものと認められる。

「大きさがミクロン単位あるいは数10ミクロン単位の浮遊する粉塵が発生する4方の壁に囲まれた作業現場Gの環境において、当該作業現場Gの環境の全域にほぼ行き渡るようにノズル16を備えた浮遊粉塵除去車12が場所を変えつつ当該作業現場Gの環境の上方からノズル16により大きさが50ミクロン以下の無数の水粒子から構成される人工霧を噴出し、浮遊している粉塵に対し前記水粒子を付着させ、粉塵を水粒子と共に強制的に落下させて空気中から除去する浮遊粉塵除去方法。」

ここで、相違点3に係る噴霧の態様に関し、本件特許発明4と刊行物6発明を対比すると、刊行物6発明の「4方の壁に囲まれた作業現場Gの環境」は、その機能及び構成からみて、本件特許発明4の「粉塵が発生する建屋内」に相当し、同じく刊行物6発明の「作業現場Gの環境の上方から」は、本件特許発明4の「上方で」に相当する。
そして、刊行物6発明の浮遊粉塵除去方法では、浮遊粉塵除去車12が、作業現場環境の全域にほぼ行き渡るように場所を変えつつ当該作業現場環境の上方から人工霧を噴霧するものであるが、刊行物6発明では、作業現場Gの環境の全域にほぼ行き渡るようにとの作業方針の下、噴霧が実行されることが明らかなことに加え、本件特許発明6に関し、本件特許明細書の段落【0042】に、「例えば、作業用建屋50の天井52の内側にガイドレール(不図示)を設けるとともに噴霧装置40に車輪を設けて、このガイドレールに沿って噴霧装置40を移動させる構造にすることができる。」と記載されているように、本件特許発明4は、刊行物6発明と同様な、噴霧装置の周回移動を行う例のものを発明に含むものとされていることを参酌すると、刊行物6発明は、本件特許発明4の「粉塵が発生する建屋内において上方で且つ周囲から」の規定を満足するような噴霧方法を備えてなることは明らかといえる。
したがって、相違点3に係る本件特許発明4の発明特定事項は、当業者が刊行物1発明に刊行物6発明が有する上記噴霧方法を適用することにより容易に想到し得たものといえる。
そして、本件特許明細書の段落【0017】に記載の「上方及び横方向に拡散しようとする微粉塵が界面活性剤を含む霧粒子によって捕捉されて落下し、粉塵発生源の周囲に微粉塵が拡散することが防止される。」との効果も刊行物1発明B並びに刊行物6発明から当業者が予測することができる範囲のものでる。
よって、相違点1について上記(1)で検討したことを合わせて考慮すると、結局、本件特許発明4は、刊行物1発明Bに刊行物6発明を適用することにより当業者が容易に発明をすることができたものであるといえる。

(5)本件特許発明6について
本件特許発明6と刊行物1発明Aとを対比すると、後者の「アニオン性界面活性剤添加水」は、その機能及び構成からみて、前者の「水及び界面活性剤」に相当し、以下、同様に、「大気に」は「空中」に、「噴霧された水滴」は「霧粒子」に、「微少浮遊物落下装置」は「浮遊粉塵除去システム」に相当する。
そして、後者の「微少浮遊物落下装置」が「第1高圧水供給手段4から第1噴霧ノズル2に供給されたアニオン性界面活性剤添加水を・・・(中略)・・・噴霧」するものであり、「上記第1噴霧ノズル2の形状及び上記第1高圧水供給手段4は、水滴の多くが0.1mmの平均粒径をもつように設計されて」いるものであるということは、少なくとも後者の「第1高圧水供給手段4」及び「第1噴霧ノズル2」は合わせて、前者の「噴霧液調整手段」及び「噴霧手段」に相当する手段であるといえる。
また、後者において、「第1ノズル2の形状及び第1高圧水供給手段4は、水滴の多くが0.1mmの平均粒径をもつように設計されている」ということは、排出ガスに対して噴霧されるアニオン性界面活性剤添加水の状態は、水滴の多くが100μmであるということであり、後者の「微少浮遊物落下方法」における「噴霧された水滴」の状態は、「大きさが100μmの霧粒子」である。
したがって、両者は
「少なくとも界面活性剤を含む水溶液から、大きさが100μmの霧粒子を作成するステップと、上記霧粒子が噴霧され、上記霧粒子により浮遊粉塵が捕捉されて、霧粒子とともに浮遊粉塵を落下させるステップとを備えることを特徴とする浮遊粉塵除去方法。」である点で一致し、次の点で相違する。

【相違点4】:
「浮遊粉塵」に関して、本件特許発明6では、「粒径が大略10μmより小さ」いものであるのに対して、刊行物1発明Aでは、ゴミ焼却炉で生じ煙突を介して大気に排出される排出ガスであって、粒径については明らかでない点。
【相違点5】:
本件特許発明6では、「霧粒子の噴霧量及び噴霧時間を制御する制御手段」を備えるのに対し、刊行物1発明Aでは、そのような構成を備えてなるか否かが明らかでない点。

そこで、上記相違点について検討する。
相違点4について
相違点4は、相違点1と同じく浮遊粉塵除去の除去対象に係る相違点であって、相違点1に関して上記(1)で検討したと同様の理由から、実質的な相違点とはいえないし、浮遊粉塵が、燃焼由来のものに限らず、より一般的なものを含んだものであるとしても、相違点4に係る本件特許発明6の発明特定事項は、刊行物1発明Aから当業者が容易になし得たことといえる。
相違点5について
浮遊粉塵除去のための噴霧機構において、霧粒子の噴霧量や噴霧時間を制御する制御手段を設けたものは、特開平11-216324号公報の段落【0054】に、「制御手段80は、・・・(中略)・・・清浄化対象空間1内の状況に応じて水噴霧ノズル30からの水微粒子の噴霧量を調整する」と記載され、刊行物6に「32はタイマー(ポンプ22の駆動時間を設定するもので、・・・(中略)・・・34はポンプ22の起動スイッチ、36はポンプ22の停止スイッチを示す。」(上記3.の(6-5))及び、「符号30Aはポンプ22の起動スイッチやポンプ22の停止スイッチなどが設けられた制御ボックスを示す。」(上記3.(6-7))と記載されているように周知の技術であるから、相違点5に係る本件特許発明の制御手段は、単なる周知技術を適用したにすぎず、当業者が容易になし得る設計的事項といえる。

そして、本件特許発明6が有する効果は、刊行物1発明A並びに上記周知の技術から、当業者が予測が予測することができる範囲のものである。
上記のことから、本件特許発明6は、刊行物1発明Aに上記周知の技術を適用することにより当業者が容易に発明をすることができたものであるといえる。

(6)まとめ
以上のことから、本件特許発明1ないし2は、刊行物1に記載された発明であるといえる。
また、本件特許発明1ないし2は、刊行物1に記載された発明から容易に発明をすることができたものであり、本件特許発明3は、刊行物1及び5に記載された発明から容易に発明をすることができたものであり、本件特許発明4は、刊行物1及び6に記載された発明から容易に発明をすることができたものであり、及び本件特許発明6は、刊行物1及び上記周知の技術から容易に発明をすることができたものであるといえる。

5.むすび
したがって、本件特許発明1ないし4及び6に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してなされたものであり、特許法第113条第2項に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2006-02-15 
出願番号 特願2001-61809(P2001-61809)
審決分類 P 1 651・ 842- ZB (B08B)
P 1 651・ 121- ZB (B08B)
P 1 651・ 841- ZB (B08B)
P 1 651・ 113- ZB (B08B)
最終処分 取消  
前審関与審査官 遠藤 謙一  
特許庁審判長 増山 剛
特許庁審判官 石井 淑久
石井 克彦
登録日 2003-05-23 
登録番号 特許第3431904号(P3431904)
権利者 株式会社メンテック
発明の名称 浮遊粉塵除去方法及びそのシステム  
代理人 平山 孝二  
代理人 伊藤 晃  
代理人 箱田 篤  
代理人 石井 久夫  
代理人 青山 葆  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 小川 信夫  
代理人 水口 七重  
代理人 浅井 賢治  

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