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審決分類 |
審判 一部無効 1項3号刊行物記載 G02F 審判 一部無効 2項進歩性 G02F |
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管理番号 | 1136743 |
審判番号 | 無効2004-80186 |
総通号数 | 79 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1992-01-21 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2004-10-13 |
確定日 | 2005-11-24 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第2106809号「アクティブマトリクス型表示装置」の特許無効審判事件についてされた平成17年 4月11日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の決定(平成17年(行ケ)第10447号 平成17年 5月24日決定言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 |
結論 | 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
1.手続の経緯 本件特許第2106809号に係る手続の経緯は以下のとおりである。 平成 2年 5月11日 出願 平成 8年11月 6日 設定登録(特公平8-20646,特許2106 809) 平成16年 6月18日 判定2004-60054請求 平成16年 9月27日 判定(属するとの判断) 平成16年10月13日 本件無効2004-80186請求 平成16年12月28日 無効2004-80281請求 平成17年 2月23日 無効2004-80281取り下げ 平成17年 3月23日 口頭審理 平成17年 4月11日 審決 請求項1,2に係る特許は無効 請求項3に係る特許は維持 平成17年 4月28日 被請求人が知財高裁出訴(平成17年(行ヶ)1 0447) 平成17年 5月10日 訂正2005-39076請求(後に取消しの決 定によりみなし取下) 平成17年 5月24日 知財高裁において取消しの決定 平成17年 6月15日 訂正請求 平成17年 7月27日 弁駁書 2.訂正の適否について 2-1.訂正の内容 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1を、次のとおり訂正する。 「少なくとも一方が透光性を有する一対の絶縁性基板と、該一対の基板の何れか一方の基板上に縦横に配線された走査線及び信号線と、該走査線及び該信号線とにスイッチング素子を介して接続された絵素電極と、を備えたアクティブマトリクス型表示装置であって、 該絵素電極の下方と該当する該信号線の下方とにわたり、該信号線及び該絵素電極の各々に対して一部を重畳して設けられた導電層と、 該導電層と、該信号線及び該絵素電極との間に設けられ、該導電層と該信号線とを絶縁し、かつ、該導電層と該絵素電極とを絶縁する絶縁膜と、 該絵素電極と該絶縁膜との間に形成され、該絵素電極に電気的に接続された導電片と、を備え、 上記信号線は、該信号線が突出した突出部を有し、 該導電層の一方の端部に該絶縁膜を挟んで該信号線の該突出部が重畳し、該導電層の該信号線と重畳されていない端部に該絶縁膜を挟んで該導電片が重畳している、アクティブマトリクス型表示装置。」 (2)訂正事項2 請求項2を削除する。 (3)訂正事項3 請求項2の削除に伴い、もとの請求項3を請求項2に繰り上げ、「請求項1又は2に記載のアクティブマトリクス型表示装置。」を、「請求項1に記載のアクティブマトリクス型表示装置。」と訂正する。 (4)訂正事項4 請求項2の削除に伴い、もとの請求項4を請求項3に繰り上げ、「請求項1又は2に記載のアクティブマトリクス型表示装置。」を、「請求項1に記載のアクティブマトリクス型表示装置。」と訂正する。 (5)訂正事項5 特許第2106809号の明細書の「本発明の……達成される。」(公告公報4欄42行〜5欄20行)との記載を、「本発明のアクティブマトリックス型表示装置は、少なくとも一方が透光性を有する一対の絶縁性基板と、該一対の基板の何れか一方の基板上に縦横に配線された走査線及び信号線と、該走査線及び該信号線とにスイッチング素子を介して接続された絵素電極とを備えたアクティブマトリクス型表示装置であって、該絵素電極の下方と該当する該信号線の下方とにわたり、該信号線及び該絵素電極の各々に対して一部を重畳して設けられた導電層と、該導電層と、該信号線及び該絵素電極との間に設けられ、該導電層と該信号線とを絶縁し、かつ、該導電層と該絵素電極とを絶縁する絶縁膜と、該絵素電極と該絶縁膜との間に形成され、該絵素電極に電気的に接続された導電片とを備え、上記信号線は、該信号線が突出した突出部を有し、該導電層の一方の端部に該絶縁膜を挟んで該信号線の該突出部が重畳し、該導電層の該信号線と重畳されていない端部に該絶縁膜を挟んで該導電片が重畳していることによって上記目的が達成される。」と訂正する。 2-2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否 (1)訂正事項1について 特許明細書には、「第4A図〜第4C図に本発明の表示装置に用いられるアクティブマトリクス基板の他の実施例を示す。第4A図の基板では、ソースバス配線23に突出部23aが設けられ、導電層34はこの突出部23aに重畳されている。他の導電片35等の構成は第1図のそれと同様である。」と記載されている。 また第4A図には、ソースバス配線23と突出部23aの間に境界線等が記載されていないことがみてとれる。そして、この点では第4C図の、ソースバス配線23から分岐するソースバス支線23bと同様の描き方であることがみてとれる。 してみれば、上記記載のみからも、突出部は、ソースバス配線23が突出した部分と解釈されるだけでなく、第4A図及び第4C図において、何ら境界線等が記載されずに描かれていることから見ても、突出部はソースバス配線23と同一の材質で構成されていると解することが相当であるから、上記訂正事項は特許明細書及び図面に基づくものである。 そして、上記訂正は、信号線を限定するとともに、限定した事項と他の部材との関連構成を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮に当たるものであって、願書に添付した明細書の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。 なお、請求人は、弁駁書において、 「(c)さらに、訂正発明1によれば、構成要件1-bにおいて、導電層は信号線の下方で一部重畳している(i)項)とあるから、両者の重畳状態はiii)項に示す態様のみに限定される訳ではなく、訂正発明1は、一方の端部が信号線の突出部に重畳しているものの、導電層の一部が信号線とも重畳している様な形態である必要がある。 例えば、第2A図において、ソースバス配線23の左側に突出部を設け(第4A図ではソースバス配線23の右側に突出部を設けている)、該突出部の下方にまで導電層34の一方の端部を延ばし、これにより、該突出部(ソースバス配線23の左側に設けられた突出部)の下方において導電層34の一方の端部が重畳しており、且つソースバス配線23の下方において導電層34の一部分が重畳しているような形態がこれに該当すると思われる。 訂正発明1の文言によっても、上述した形態のものが訂正発明1に包含されていることは明白である。 しかしながら、このような形態の実施例は出願時の明細書又は図面に全く記載されておらず、訂正発明1が、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものでないことは明らかである。」 と主張するが、請求人の上記主張は、ソースバス配線の接続しない側に突出部を設けるというように、本件明細書の記載事項から通常では発想し得ない事項を捻出して、訂正によりそれが本件特許発明の技術的範囲に含まれることになったので、「記載した事項の範囲内においてなされたものでない」と主張するものであって、牽強付会のそしりを免れないものである。 そして、訂正事項1が、願書に添付した明細書及び図面に記載した事項の範囲内においてなされたことは上記の通りであるから、上記主張は採用するに足らないものである。 (2)訂正事項2について 上記訂正は、請求項の削除であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とした訂正に該当し、願書に添付した明細書の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。 (3)訂正事項3,4について 上記訂正は、請求項2を削除したことに伴って引用請求項の番号を請求項1のみに訂正するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とした訂正に該当し、願書に添付した明細書の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。 (4)訂正事項5について 上記訂正は、請求項1を減縮したことに伴い発明の詳細な説明を訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明に該当し、願書に添付した明細書の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。 2-3.独立特許要件の判断 無効請求のなされていない請求項3に係る発明(訂正前の請求項4に係る発明)について、上記訂正請求がなされたので、該請求項に係る発明が独立特許要件を満たしているかどうかを検討するに、下記「7.対比・判断」で述べるように、請求項1に係る発明が、甲第1号証発明または甲2号証発明と同一であるとも、また甲第3〜8号証を見ても、甲第1号証及び甲第2号証から容易になしえたとも言うことができないのであるから、これに更に限定した請求項3に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。 2-4.むすび 以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書及び特許法第134条の2第5項において準用する特許法第126条第3項ないし第5項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 3.本件発明 上記のとおり請求項2の削除を含む訂正請求が認められたので、本件無効審判事件の請求項に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1,2により特定される次のものである。 「【請求項1】少なくとも一方が透光性を有する一対の絶縁性基板と、該一対の基板の何れか一方の基板上に縦横に配線された走査線及び信号線と、該走査線及び該信号線とにスイッチング素子を介して接続された絵素電極と、を備えたアクティブマトリクス型表示装置であって、 該絵素電極の下方と該当する該信号線の下方とにわたり、該信号線及び該絵素電極の各々に対して一部を重畳して設けられた導電層と、 該導電層と、該信号線及び該絵素電極との間に設けられ、該導電層と該信号線とを絶縁し、かつ、該導電層と該絵素電極とを絶縁する絶縁膜と、 該絵素電極と該絶縁膜との間に形成され、該絵素電極に電気的に接続された導電片と、を備え、 上記信号線は、該信号線が突出した突出部を有し、 該導電層の一方の端部に該絶縁膜を挟んで該信号線の該突出部が重畳し、該導電層の該信号線と重畳されていない端部に該絶縁膜を挟んで該導電片が重畳している、アクティブマトリクス型表示装置。 【請求項2】前記導電層が、前記絵素電極に接続された前記走査線に隣接する走査線に電気的に接続され、該導電層上には陽極酸化膜が形成されている、請求項1に記載のアクティブマトリクス型表示装置。」(以下、「本件発明1」,「本件発明2」という。」 そして、本件発明1,2を分節すると次のようになる。 本件発明1: 「1-A 少なくとも一方が透光性を有する一対の絶縁性基板と、該一対の基板の何れか一方の基板上に縦横に配線された走査線及び信号線と、該走査線及び該信号線とにスイッチング素子を介して接続された絵素電極と、を備えたアクティブマトリクス型表示装置であって、 1-B 該絵素電極の下方と該当する該信号線の下方とにわたり、該信号線及び該絵素電極の各々に対して一部を重畳して設けられた導電層と、 1-C 該導電層と、該信号線及び該絵素電極との間に設けられ、該導電層と該信号線とを絶縁し、かつ、該導電層と該絵素電極とを絶縁する絶縁膜と、 1-D 該絵素電極と該絶縁膜との間に形成され、該絵素電極に電気的に接続された導電片と、を備え、 1-E 上記信号線は、該信号線が突出した突出部を有し、 1-F 該導電層の一方の端部に該絶縁膜を挟んで該信号線の該突出部が重畳し、該導電層の該信号線と重畳されていない端部に該絶縁膜を挟んで該導電片が重畳している、 1-G アクティブマトリクス型表示装置。」 本件発明2: 「2-A 前記導電層が、前記絵素電極に接続された前記走査線に隣接する走査線に電気的に接続され、 2-B 該導電層上には陽極酸化膜が形成されている、 2-C 請求項1に記載のアクティブマトリクス型表示装置。」 4.請求人の主張する無効理由 4-1.無効理由の概要 無効理由1: 訂正前の請求項1の発明は、甲第1号証に記載された発明と同一であるから、特許法第29条第1項の規定に該当し特許を受けることができないものであり、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきである。 無効理由2: 訂正前の請求項1〜3の各発明は、甲第2号証に記載された発明と実質的に同一であるから、特許法第29条第1項の規定に該当し特許を受けることができないものであり、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきである。 無効理由3: 訂正前の請求項1〜3の各発明は、甲第1号証に記載された発明と甲第2号証に記載された発明とに基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に該当し、特許を受けることができないものであり、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきである。 記 甲第1号証 特開昭59-101693号公報 甲第2号証 特開昭60-59383号公報 4-2.弁駁の概要 請求人は、訂正がなされたことにより、特許法第29条第2項に関する無効理由3に関し、下記甲第3号証〜甲第8号証を追加し、弁駁書において以下のように詳述する。 なお、弁駁書において、甲第3号証を主たる証拠として主張していた理由Bについては、実質的に証拠の差し替えを行うものであるから請求の理由の補正として許可しないとの、補正の許否の決定を既に行った。 記 甲第3号証 特開昭58-184758公報 甲第4号証 特開昭62-22455号公報 甲第5号証 特開平2-108027号公報 甲第6号証 実願昭59-121l13号(実開昭61-36825号)の マイクロフィルム 甲第7号証 特表平1-501100号公報 甲第8号証 特開昭58-171845号公報 4-2-1.本件発明1について(理由A,C) <甲第1号証に記載された発明との対比>(理由A) (a)本件発明1と甲第1号証の発明との一致点 本請求人は、訂正前の本件発明1については、甲第1号証の発明との対比を行い、本件発明1と甲第1号証の発明とは同一であることを主張し(平成16年10月13日付審判請求書、第8頁第4行〜同第9頁第22行の記載参照)、平成17年4月11日付の審決においてもこれが認められた。 訂正発明1は、訂正前の本件発明1に、 (i)信号線に突出部を設けたこと。 (ii)該突出部が導電層の一方の端部と絶縁膜を挟んで重畳していること。 の2点を加えたものである。 よって、甲第1号証には、上記(i)、(ii)以外の構成を全て備えたアクティブマトリクス型液晶表示装置が記載されている。 (b)相違点に関する主張 ところで、甲第1号証には、第11図に記載されている修理構造が、修理時に絵素電極と信号線との接続のために使用されるという積極的な記載がない。 この点につき、被請求人は、「信号線と絵素電極とを電気的に接続しようとする技術的思想は全くないのであるから、…」(平成17年6月5日付訂正請求書第9頁第9行〜同第10行)と述べている。 しかし、甲第1号証の発明は、レーザ接続による欠陥修正のための配線構造の構築を目的としているから、発明者の主観的意図が絵素電極同士の接続による欠陥修正であるとしても、当業者は、甲第1号証の発明が修理時に信号線と絵素電極とを接続できる配線構造となっていることを容易に理解できるのである。 被請求人の、「信号線と絵素電極とを電気的に接続しようとする技術的思想は全くないのであるから、」という主張は、発明者がそれを意図していないという意味であり、甲第1号証の発明に、信号線と絵素電極とを電気的に接続しようとする技術的思想が存在していないという意味ではない。 そもそも、公知文献にどのような技術が記載されているのかということは、単に、その著者や発明者が積極的に認識している技術のみを指すのではなく、たとえ文章中に積極的な記載がなくても、その時点での技術水準に照らし当業者がそのことを容易に読み取ることができるのであれば、記載されているに等しいとしてもよいことは、審査基準にも明記してあることである。 既に説明したように、欠陥の修理構造とは、欠陥のある絵素電極に、正規の信号又はこれに近い信号を供給できるようにした配線構造である。本件特許の出願時には絵素電極を信号線に接続して修理することが公知であったのであるから、甲第1号証の第11図に示される構成は、絵素電極同士の接続は勿論のこと、絵素電極を信号線に接続して修理する方式にもそのままそっくり使用できることは、当業者であれば、容易に理解できることであったと言うべきである。 ところで、甲第3号証、甲第4号証、又は甲第7号証には、導電性部材と信号線との接続は、信号線に設けた突出部に所望の導電性部材を重畳させて両者を接続するという構成が記載されているし、この構成は周知技術でもある。 したがって、当業者であれば、甲第1号証の第11図の構成において、その信号線に突出部を設け、該突出部に導電層の一方の端部を絶縁膜を挟んで重畳させる構成に変更することにより訂正発明1を発明することは、容易になしえた程度のことであり、したがって、訂正発明1は、当業者が、甲第1号証と甲第3号証(第3図)、又は甲第1号証と甲第4号証(第1図、第5図)、あるいは甲第1号証と甲第7号証(図2、図11、図12)に基づいて、容易に発明することができたものである。 また、信号線に突出部を設け、該突出部に絶縁膜を介して導電材を重畳した接続構造は周知技術であるから、訂正発明1は、当業者が甲第1号証の発明に周知技術を適用して容易に発明することができたものでもある。 <甲第2号証に記載された発明との対比>(理由C) (a)本件発明1と甲第2号証の発明との一致点 本請求人は、訂正前の本件発明1については、既に甲第2号証の発明との対比を行い、本件発明1と甲第2号証との発明とは、導電片を備えていない点でのみ相違しているが、これは実質的な相違点とはいえず、仮に導電片を備えていない点が相違点であったとしても、導電片の使用は甲第1号証に記載されているので、当業者であれば、甲第2号証の発明と甲第1号証の発明とに基づいて容易に発明することができたものであることを説明した(平成16年10月13日付審判請求書、第11頁第12行〜同第14頁第15行の記載参照)。 そして、訂正発明1は、訂正前の本件発明1に、 (i)信号線に突出部を設けたこと。 (ii)該突出部が導電層の一方の端部と絶縁膜を挟んで重畳していること。 の2点を加えたものであることについては、既に説明した通りである。 よって、甲第2号証には、実質的に、上記(i)、(ii)以外の構成を全て備えたアクティブマトリクス型液晶表示装置が記載されている。 (b)相違点に関する主張 ところで、甲第2号証には、第3図に記載されている修理構造が、修理時に絵素電極と信号線との接続のために使用されるという積極的な記載がない。 この点につき、被請求人は、「信号線と絵素電極とを電気的に接続しようとする技術的思想は全くないのであるから、…」(平成17年6月5日付訂正言請求書第9頁第9行〜同第10行)と述べているが、この主張が失当であることは既に説明した通りである。したがって、甲第2号証の第3図に示される構成は、絵素電極同士の接続は勿論のこと、絵素電極を信号線に接続して修理する方式にもそのままそっくり用いることができることは、当業者であれば、容易に理解できることであったと言うべきである。 ところで、甲第3号証、甲第4号証、又は甲第7号証には、導電性部材と信号線との接続を、信号線に設けた突出部に所望の導電性部材を重畳させて行うという構成が記載されているし、この構成は周知技術でもある。 したがって、甲第2号証の発明において、その信号線に突出部を設け、該突出部に導電層の一方の端部を絶縁膜を挟んで重畳させる構成とすることにより訂正発明1を発明することは、当業者が容易になしえた程度のことであ。 よって、訂正発明1は、当業者が、甲第2号証と甲第3号証(第3図)とに基づいて、甲第2号証と甲第4号証(第1図、第5図)とに基づいて、甲第2号証と甲第7号証(図2、図11、図12)に基づいて、または、甲第2号証の発明と周知技術とに基づいて、容易に発明することがきたものである。 かりに、導電片を備えていないことが相違点であるとした場合には、これらに加えて、甲第1号証を考慮することにより、訂正発明1は、当業者が容易に発明することができたものである。 すなわち、当業者であれば、甲第2号証と甲第3号証(第3図)と甲第1号証とに基づいて、甲第2号証と甲第4号証(第1図、第5図)と甲第1号証とに基づいて、甲第2号証と甲第7号証(図2、図11、図12)と甲第1号証に基づいて、または甲第2号証と甲第1号証と周知技術とに基づいて、容易に発明することができたものである。 4-2-2.本件発明2について(理由D) 本件発明2は、訂正前の本件発明3において、導電層が、さらに、 (1)前記絵素電極に接続された前記走査線に隣接する走査線に電気的に接続され、 (2)該導電層上には陽極酸化膜が形成されている というものである。 甲第2号証には、ゲート配線材料を用いて不良画素修正パッド29を構成した構成が開示されており、実施例中には、「上記ゲート配線材料を不良画素修正パッドとして設けるものであり、ゲート配線形成時のパターニングを工夫することにより、同時に形成することができる。」(甲第2号証第2頁右下欄第6行〜同第9行)と記載されている。 また、甲第2号証の第2頁右下欄第12行〜同第13行には、ゲート電極の表面を酸化することが記載されている。ゲート配線についての酸化は記載されていないが、ゲート配線についてもその表面を酸化することは通常行われていることである。 このように、甲第2号証には本件発明2の特徴事項が全て開示されている。したがって、上述した本件発明1の無効理由において、甲第2号証の上述の記載を考慮することによって、本件発明2が当業者によって容易に発明できたものであることは明らかである。 5.被請求人の主張 被請求人は、訂正後の請求項に関し、以下のように主張する。 5-1.本件発明1について(訂正請求書における主張) 本件発明1と甲第1号証発明および甲第2号証発明とは、少なくとも以下の点において、構成上明確に相違する。 甲第1号証発明および甲第2号証発明においてはいずれも、導電体(接続用シリコン薄膜25,不良画素修正パッド29)が、一方の端部を画素電極(液晶駆動電極17,ドレイン電極28)に重畳させ、他方の端部を隣接する画素電極に重畳させて設けられているのに対し、本件発明1においては、導電層が、一方の端部を信号線の突出部に絶縁膜を介して重畳させ、他方の端部を絵素電極に電気的に接続した導電片に絶縁膜を介して重畳させて設けられている。すなわち、甲第1号証発明および甲第2号証発明においては、導電体が隣接する画素電極間に設けられているのに対し、本件発明1においては、導電層が信号線の突出部と、絵素電極に電気的に接続された導電片との間に設けられているのである。 この相違点は、甲第1号証発明および甲第2号証発明が、欠陥絵素電極を隣接する画素電極に電気的接続することで欠陥を修正する技術であるのに対し、本件発明1は、欠陥絵素電極を信号線に電気的接続することで欠陥を修正し得るように表示装置を構成する技術であるという、意図する欠陥修正に際しての技術思想の違いに起因する。すなわち、甲第1号証発明および甲第2号証発明と本件発明1とは、その出発点となる技術思想が全く異なり、その結果、両者の構造は明確に相違することになっているのである。 また、本件発明1においては、欠陥修正に関し信号線を欠陥の生じた絵素電極に電気的接続し得る構造である点に鑑み、信号線が突出部を有することを特定し、その突出部と導電層とが重畳していることを特定しているが、甲第1号証および甲第2号証には、信号線に突出部を設けることは開示も示唆もされていない。 甲第1号証発明および甲第2号証発明には、信号線と絵素電極とを電気的に接続しようとする技術思想は全くないのであるから、信号線に突出部を設け、突出部に導電層を重畳させるという本件発明1特有の構成が、甲第1号証発明または甲第2号証発明あるいはこれらの組み合わせに基づいて創出されることはあり得ないのである。 このように、本件発明1は、甲第1号証発明および甲第2号証発明と同一でもなく、また同甲号証から当業者が容易になし得たものでもないことは明らかである。 5-2.本件発明2について(答弁書における主張、訂正後の請求項にあわせて書き換えたもの。) 本件発明2は、本件発明1を前提とするものであるが、上述したとおり、前提となる本件発明1が甲1号証発明と甲2号証発明に基づいて当業者が容易に発明できるものではないので、本件発明2も、甲1号証発明と甲2号証発明に基づいて当業者が容易に発明できるものではない。 更に、甲2号証発明には、本件発明2の構成要件である「前記導電層が、前記絵素電極に接続された前記走査線に隣接する走査線に電気的に接続されている」点及び「該導電層上には陽極酸化膜が形成されている」点について記載されていない。 甲第1号証にもこれらの点についての記載は存在しないので、甲1号証発明及び甲2号証発明から本件発明2を想到することは困難である。 6.甲号証の記載事項 甲第1号証には、次のことが記載されている。 ア)「レーザー光線を照射することにより、互いに隣り合う該駆動電極間を接続するパターンを有することを特徴とするアクティブマトリックス基板」(1頁左下欄8〜11行、特許請求の範囲)、 イ)「本発明は、アクティブマトリックス基板に関するものである。さらに本発明は、アクティブマトリックス基板の修正方法に関するものである。」(1頁左下欄末行〜同頁右下欄2行)、 ウ)「本発明は、アクティブマトリックス方式の液晶パネルに用いるアクティブマトリックス基板の欠陥修正方法に関するものであり以下実施例を示しながら説明する。 第1図は、ガラス基板あるいは石英基板を用いその上にアクティブマトリックス素子としてTFT(薄膜トランジスタ)を形成したアクティブマトリックス方式の液晶パネルの断面図である。図中の1はガラスあるいは石英板等の透明基板である。2及び3はシリコン薄膜であり、TFTチャンネル領域及びソース・ドレイン領域を形成している。4はゲート電極、5はシリコン酸化膜、6は金属層であり・・・図中の8は液晶層であり9は上側ガラス基板、10は上側ガラス基板全面に形成された透明電極である。11及び12は液晶パネルの上下に配置された偏光板、13は反射板である。第1図中のPで示された領域が一画素である。第2図は、アクティブマトリックス基板上の一画素の回路を示す。図中の14はビデオ信号線、15はタイミング信号線である。16がTFTであり17がTFTのドレイン側に接続された液晶駆動電極である。18は液晶層、19は上側ガラス基板上の透明電極である。ビデオ信号ラインから入力されたTV信号はTFTがオン状態の時に液晶層等の容量に書き込まれ、次の信号が入力されるまでの間、液晶層に一定の電圧を印加する。20にて示された領域が一画素の回路を示す。第3図はさらに詳しく駆動回路まで含めた回路図である。」(2頁左下欄11行〜3頁左上欄8行)、 エ)「一方24で示した画素回路は不良である。不良のモードはトランジスタのゲート酸化膜リークであってもよいし、またコンタクト不良であってもよい。ゲート酸化膜がリークしている場合には、第4図中のタイミング信号ライン15-2と、ビデオ信号ライン14-2がショート状態となり、お互いの電位に引っ張り合うためタイミング信号ライン15-2とビデオ信号ライン14-2は共にライン欠陥となり、常に黒表示もしくは白表示となる。この様な場合には第5図にて示す如く不良のトランジスタは、タイミング信号ライン及びビデオ信号ラインから切り離す必要がある。」(3頁右上欄8行〜19行)、 オ)「この液晶駆動電極は、どの信号レベルからも切り離された状態となる。この様な状態で用いることも可能であるが、実際には隣り合った液晶駆動電極へ接続する方が望ましい。・・・第9図は、左右の液晶駆動電極を具体的に接続する方法及びその時に用いる接続パターンの一例を示す。第9図中の14〜17までの番号は、第9図以前に用いた番号と同じである。図中の25は、隣り合う液晶駆動電極を電気的に接続するためのパターンであり、不純物がドープされたシリコン薄膜にて形成されている。このシリコン薄膜は、TFTのソース・ドレイン及びチャンネル部分を構成するシリコン薄膜と同一工程にて形成してもよいし、また、ゲート電極あるいはタイミング信号ラインを構成するシリコン薄膜の形成工程と同一工程にて形成してもよい。図中の26は、金属層パターンである。この金属層パターンは、レーザー光線にて液晶駆動電極17と下側のシリコン薄膜パターン25を溶かして溶接する際、お互いに電気的に接続しやすい様に金属層を上層として配置し、金属層の溶融により、液晶駆動電極と、下側シリコン薄膜パターンがより接続しやすい様にするものであり、金属層はあった方が容易に接続出来る。しかし、レーザの照射条件によっては金属層を用いない場合においても液晶駆動電極とシリコン薄膜パターンが接続することも可能である。この金属層はAlあるいはAl合金薄膜でもよいし、Cr,Ni等の金属でも良いし、それらの多層構造薄膜でも構わない。さらにこの金属層はアクティブマトリックス基板の周辺に形成される外部接続用取り出し電極用金属パターンと同一工程にて形成してもよい。またデータ信号ラインが金属配線の場合にはこの金属配線と同一工程にて形成してもよい。第9図中の27は、スルーホールである。例えば第9図の実施例においては、左側の液晶駆動電極はこのスルーホールを介して、接続用シリコン薄膜パターン25とあらかじめ接続している。したがって、例えばこの左右隣り合う液晶駆動電極を電気的に接続するためには、図中の○cにて示した部分をレーザーにて溶融、接続すればよい。第9図の実施例においては、右側の画素のTFTが不良であるため、このTFTのソース領域○a及びゲート電極領域○bをレーザーにて溶断後、○cにて示した部分をレーザーにて溶融し接続すれば、左側の画素のTFTにて、2画素分の液晶駆動電極を駆動することになるため、実質的には画素欠陥が修正されたことになる。量産レベルにおいては、この様な修正が必要な画素欠陥は、パネル当り0.1〜0.3箇所程度であるため、10パネル当り、1〜3箇所この様なレーザー照射による修正を行なうだけで画素欠陥が無いパネルの製造が可能となる。第10図は第9図のA-A’断面図を示したものである。図中の17は液晶駆動電極である透明導電膜である。25は接続用シリコン薄膜、26は金属層パターン、27はスルーホール、28は透明基板、29は酸化膜層である。第10図(a)中の金属層26はあってもよいし、なくてもよい。また第10図(b)にて示す如く片側は無くてもよい。第10図(c)は、スルーホールの無い側の金属層パターン上をレーザーにて溶融したところである。例えば金属としてAl層を用いた場合、図の如く、透明導電膜17及びシリコン薄膜パターン25が溶融し互いに電気的に接続する。第11図は、液晶駆動電極17の下側に金属層26を形成した場合である。この様な構造においても第10図の場合と同様にレーザー光線を照射することによりこれらの配線層を溶融・接続することができる。」(3頁左下欄20行〜4頁左下欄10行)、 カ)「第12図は、第8図に示した回路図の如く、上下の液晶駆動電極を接続する場合である。…第13図(a)、(b)は第12図のB-B’断面図である。」(同頁左下欄11〜17行) キ)「図面の簡単な説明・・・ 14……データ信号線(Y信号線) 15……タイミング信号線(X信号線) ・・・ 29……絶縁膜」 (なお、「○a」等は、○の記号の中にアルファベット(“a”など)がある記号を示す。審決注) 甲第2号証には、薄膜トランジスタの動作不良画素を隣接する正常な画素に電気的に接続することにより画素欠陥を修正するための構造に関して、第3図とともに次のことが記載されている。 ク)「透明絶縁基板上に形成した薄膜トランジスタをマトリックス状に配置したアクティブマトリックス基板において、前記薄膜トランジスタのゲート配線材料を、直交するソース配線材料に交差し、隣接する画素に交差する不良画素修正パッドとして設けたことを特徴とするアクティブマトリックス基板。」(特許請求の範囲)、 ケ)「本発明は、石英ガラスあるいはソーダガラス等の透明絶縁基板上に形成した薄膜トランジスタをスイッチング素子として用いたアクティブマトリックス基板の不良画素修正方法に関する。」(1頁左下欄13〜16行)、 コ)「第1図(a)はスタティック駆動方式の透過型液晶マトリックス表示装置に用いる薄膜トランジスタ回路基板上の液晶駆動素子のマトリックス状配置図である。図中1で囲まれた領域が表示領域であり、その中に液晶駆動用素子2がマトリックス状に配置されている。3は液晶駆動用素子2へのビデオ信号ライン(ソース配線)であり、4は液晶駆動素子2へのタイミング信号ライン(ゲート配線)である。 液晶駆動素子2の回路図を第1図(b)に示す。5はスイッチングトランジスタであり、通常MOS型トランジスタが用いられる。6はコンデンサーであり、データ信号の保持用として用いられる。7は液晶パネルであり、7-1は薄膜トランジスタ回路基板上の各液晶駆動素子に対応して形成された液晶駆動電極(ドレイン電極)であり、7-2は上側ガラスパネルである。」(2頁左上欄5行〜同頁右上欄1行)、 サ)「しかしながら、この種のアクティブマトリックス基板は、テレビ画像表示用としては数万個の画素を必要とし、この為歩留りを考慮し最小パターン巾を10μmとしても1パネル当り数個から十数個の不良画素が生じる。この不良画素は薄膜トランジスタの動作不良が原因であり、パネル点灯時には白欠陥となり、表示品質の低下につながる。 しかしながら従来のアクティブマトリックス基板では1パネル当り数個から十数個発生した不良薄膜トランジスタの修正が困難であり、非点灯画素のまま画像表示を行なっているのが現状である。 又、アクティブマトリックス基板製作プロセスの各工程品質を上げ、高歩留りのパネルを作り込む事にも限界がある。」(2頁右上欄17行〜同頁左下欄12行)、 シ)「具体的には、薄膜トランジスタのゲート配線形成時に、隣接する画素に交差する様にゲート配線材料を不良画素修正パッドとして設け、後にレーザー光により、不良画素のドレイン電極と正常な画素のドレイン電極とを接続することにより、目的が達せられる。 また本発明は、上記ゲート配線材料を不良画素修正パッドとして設けるものであり、ゲート配線形成時のパターニングを工夫することにより、同時に形成することができる。 第3図(a)、(b)により本発明による実施例を説明する。 ガラス基板21上に多結晶シリコン膜の島22を形成したのちに、表面を酸化し、ゲート電極となる多結晶シリコン膜24を形成すると共に、不良画素修正パッド29を形成する。次にイオン打込み法により、ソース・ドレイン拡散層25を形成する。 次に層間絶縁膜26を形成したのちにコンタクトホールを開口し、ソース配線27、ドレイン電極28を形成する。 この様に形成したアクティブマトリックス基板の特性を測定し、薄膜トランジスタの動作不良画素を見つけ出し、レーザー光30により隣接する正常な画素に交差する不良画素修正パッドと各々のドレイン電極とをショートする。 この結果、薄膜トランジスタの動作不良画素のドレイン電極は、隣接する正常な画素の薄膜トランジスタの動作時と同じドレイン電極電圧が得られ、正常な表示が可能となる。」(2頁左下欄20行〜3頁左上欄9行) 甲第3号証には、図面とともに次のことが記載されている。 「図中1で囲まれた領域が表示領域であり、その中にスイッチング素子2がマトリックス状に配置されている。3はスイッチング素子2へのデータ信号ライン(ソースライン)であり、4はスイッチング素子2へのタイミング信号ライン(ゲートライン)である。」(1頁右下欄11行〜17行)、 「5はMOS型電界効果トランジスターでありデータ信号のスイッチングを行なう。6はコンデンサーでありデータ信号の保持用として用いられる。7は液晶パネルであり、7-1は液晶駆動素子に対応して形成された液晶駆動電極であり、7-2は上側ガラスパネルである。」(2頁左上欄6行〜12行)、 「この為従来は、ゲートラインとソースラインのショートを修正する為に例えば第3図中のイで示される位置でトランジスターのソース電極とソースラインを切断した。この修正によつて、ソースラインとゲートライン間のショートは無くなるが、当該画素へのデータ信号が入らなくなる為にその画素は常に非点燈である為に、欠陥が非常に目立ち、表示装置の使用上大きな支障になっていた。 本発明は以上の欠点に鑑てなされたものでありソースラインとゲートライン間のショートを修正するとともに、欠陥画素を実際の使用上全く目立たなくしたものであり、パネルの量産効率を大巾に高めるものである。」(2頁右上欄8行〜末行)、 「以下本発明を図面により詳細に説明する。 第4図はMOS型電界効果トランジスターをスイッチング素子として用いたマトリックスアレーの代表例を示したものでありその一画素についての平面図と断面図であり、これにより本発明の説明を行なう。尚第4図(b)は平面図(a)の中の一点鎖線ハ-ニに従って切断した断面図である。ガラス基板12の表面へ半導体薄膜10を形成してMOS電界効果トランジスターを構成する。13はトランジスターのゲート絶縁膜、14はソース電極でソースライン9と接続されており、15はドレイン電極であり画素駆動電極11と接続されている。又8はゲートラインであるとともに半導体薄膜10の上に延在しトランジスターのゲート電極となつている。このトランジスターに不良が生じ、ゲートライン8とソースライン9間がショートした場合まず第4図(a)の中の破線イ-ロに従って、ゲートラインとトランジスターのゲート電極を分離する。ゲートライン8の枚数は通常、多結晶シリコン等の半導体か又はアルミニューム等の金属が用いられるのでこれらの薄膜の切断は例えばレーザー光線を照射する事により容易に行なえるので第4図(a)の中の破線イ-ロに沿つてレーザー光線をゲート部材8に照射すればゲートラインとトランジスターのゲート電極の分離が出来る。次に第4図(b)の中の矢印(a),(b)の位置でゲート電極とソース電極14及びドレイン電極をショートさせる。このショートの方法は例えばレーザー光線を基板の上方向より図中(a),(b)で示された矢印に従ってショートさせる個所に照射するとゲート電極とドレイン又はソース電極及びゲート絶縁膜が溶融し合いゲート電極とドレイン及びソース電極が接続される。」(2頁左下欄1行〜同頁右下欄13行)、 「第5図は本発明の他の実施例を示す断面図であり各部材の番号は第4図と同じである。第4図の実施例においてゲート電極8及び半導体薄膜10がシリコンの様な高融点金属の場合、レーザーで溶融する時のレーザー光線の出力、照射時間の条件に大きな制限が生じる。これを回避したものが第5図の例であり、第4図の場合と異なりアルミニューム等の低融点金属を図中の17の様にゲート電極の上へ絶縁膜16を介して設けてある。修正方法は、ゲート電極の切り離しは第4図の場合と全く同一に行なう。トランジスターのソースとドレイン間のショートは第5図の矢印(a),(b)で示した位置にやはりレーザー光線を照射しこの位置の絶縁膜16を破壊するとともにアルミニューム17を溶融し、アルミニューム17とソース電極14及びドレイン電極15とを接続し、ソース・ドレイン間をショートさせる。この場合の様にアルミニューム17を介してソース・ドレインを直接接続せず、図中の矢印(a),(b)で示された部分にのみアルミニュームを形成し、レーザーを照射して、このアルミニュームによりソース・ゲート間及びゲート・ドレイン間をショートさせる事によりゲート電極を介してソース・ドレイン間をショートする事も可能である。 第6図はさらに他の本発明の実施例を示したものであり、(a)は平面図、(b)は(a)の中の一点鎖線ホ-ヘに沿つた断面図である。この実施例では画素駆動電極11からトランジスターのソース電極14にかけて導電材料18が形成されている。 導電材料18はアルミニューム等の低融点物質が最も良く、又ソースライン9と同一工程で形成可能である。この導電材料18は画素駆動電極11とは直接接しているがトランジスターのソース電極とは絶縁膜16により絶縁されている。欠陥の修正方法は、トランジスターのゲート電極とゲートラインの切り離しは第4図の場合と同様に行なう。次に第6図(b)の矢印で示されている方向にレーザー光線を照射して、この部分の絶縁層16を破壊し、導電材料18とソース電極14とを接続する。これによりトランジスターのソース電極とドレイン電極は、導電材料18と画素駆動電極11を介してショートする。さらに他の実施例として画素駆動電極11をソースライン9まで延在せしめるか又は、ソースライン9を画素駆動電極11まで延在せしめて、あらかじめトランジスターのソースとドレインを短絡しておいて、ゲートラインとソースラインとが短絡している個所のトランジスターについてはゲート電極とゲートラインを第4図の場合と同様に切り離し、ゲートラインとソースラインが短絡していないトランジスターについてはソースラインと画素駆動電極の短絡個所を切断するという方法も有る。」(3頁左上欄4行〜同頁左下欄15行)、 「以上本発明の実施例のいくつかについて図面により詳細に述べたが、本発明の主旨はゲートとソースがショートしたMOS電界効果トランジスターは、ゲート電極とゲートラインを切り離し、ソースとドレインを短絡する事でありこれにより、従来画素欠陥としてパネル表示時に画素欠陥として欠陥の存在が目立ったものを、欠陥画素内のトランジスターのソースとドレインをショートする事によりデータ信号の平均的な電圧が画素駆動電極に加わり、欠陥の存在が全く目立たなくしたものであり、その応用において、マトリックスアレーの量産効率を大巾に向上するものである。尚本発明の実施例は液晶表示装置について述べてある」(4頁左下欄16行〜同頁右上欄8行) 甲第4号証には、図面とともに次のことが記載されている。 「第2図に薄膜能動素子として薄膜トランジスタ(以下TFTと略す)を用いた液晶パネル型ディスプレイの概念図を示す。(21)が液晶層であり、(22)が前記液晶層を駆動するためのスイッチングトランジスタである。(23)は液晶を駆動するために必要な電圧を印加するためのデータ線であり、(24)は薄膜トランジスタ(22)のゲートを制御する選択信号線である。(25)及び(26)は、透明電極である。」(2頁左上欄10行〜18行)、 「薄膜能動素子に起因する欠陥としては、電極間相互の短絡、各電極の断線といった構造的欠陥や、薄膜能動素子特性の不良といった欠陥等がある。 電極間相互の短絡は、電極間絶縁膜中の塵等の原因により発生するが、短絡がある場合には、一方の電極の信号が短絡点を通じて逃げてしまうために線欠陥等の表示欠陥の原因となってしまう。 また薄膜能動素子の電気的特性が不良の場合には、信号電圧が印加されても薄膜能動素子が充分な動作をしないために選択時に非点灯欠陥となる。」(2頁左下欄7行〜19行)、 「本発明は前述の問題点を解決すべくなされたものであり、あらかじめ補助配線を設けこれを用いて欠陥修復を行えるようにした薄膜能動素子基板を提供することを目的としたものであり」(2頁右下欄20行〜3頁左上欄4行)、 「ここで本方式による接続法の簡単な説明を加える。三層構造部分の断面図を第4図(a)に示す。(41)はガラス基板、(42),(44)は導電性薄膜を、(43)は絶縁性薄膜を示す。この構造の基板に対し上方からレーザを照射すると、(b)に示すような形状になる。この時上部もしくは、下部の導電性材料が絶縁膜露出面を覆い、上下の導電性薄膜の導通がとれるようになる。」(3頁左上欄18行〜同頁右上欄5行)、 「本発明では、ゲートラインとソースラインの交差する重なり部分(12)での短絡の修復のためにソースラインの形成と同時にゲートラインを横切る位置に第2の補助配線(11)を形成し、ゲートラインの形成と同時にソースラインと補助配線(11)上にその両端が位置するように補助配線(9B)を重なり部分1個に対し2個形成しており、このような構成をとることにより、補助配線(9B)とソースライン(2)、補助配線(9B)と補助配線(11)は絶縁されており、万一補助配線(11)とゲートライン(7)が短絡を生じていても補助配線(11)とソースライン(2)を導通させない限り、ソースラインには何ら影響を与えなく不良を増加させない。 又、第2のトランジスタのソース電極(4)とソースライン(2)上にゲートラインの形成と同時に補助配線(9A)を形成しており、これも補助配線(9A)とソースライン(2)、ソース電極(4)の両方とも短絡を生じるかレーザで導通をとらない限り、第2のトランジスタはソースラインに接続されないため、不良を生じることはない」(4頁左上欄8行〜同頁右上欄9行)、 「この例においては、第1のトランジスタにおいて、ゲート・ドレイン短絡、ゲート・ソース短絡、特性の不良等がおこった場合には、AもしくはBの部分または両方の部分において、このトランジスタをレーザトリマ等により切断し、その後ソースライン(2)と第2のトランジスタのソース電極(4)とを補助配線(9A)との重なり部分で上下方向に導通させることにより補助配線(9A)を介して接続し、さらにCの透明電動膜(10)/絶縁膜/金属(6)の三層構造の部分でレーザにより上下方向に導通をとることによって接続し、この第2のトランジスタを用いて、動作させるようにすることができる。修復後の状態を第5図に示す。A,Bの部分で電極が切断され、(13)にはレーザによる上下導通時の穴が開いている。Cの部分でも同様に穴が開いている。この部分では、コンタクトを確実にするために複数回、レーザを照射している状態を示す。また、ゲートライン(7)とソースライン(2)との重なり部分(12)においてゲートソース短絡が発生したような場合には、Dの部分でソースラインを切断し、補助配線(9B)及び補助配線(11)の重なり部分(14)及びソースライン(2)と補助配線(9B)の重なり部分(15)において、レーザにより上下方向導通をとることで欠陥を回避し表示欠陥をなくすことが可能になる。」(4頁右上欄19行〜同頁右下欄5行)、 甲第5号証には、図面とともに次のことが記載されている。 「本発明は、薄膜トランジスタ(以下「TFT」と称す)等のスィッチング素子を有し、液晶等と組合わせてマトリクス表示装置を構成するためのアクティブマトリクス基板の構造に関するものである。」(1頁左下欄20行〜同頁右下欄4行)、 「本発明のアクティブマトリクス基板は、絶縁性基板上にマトリクス状に配された絵素電極、該絵素電極のそれぞれに接続されたスイッチング素子、該スイッチング素子を駆動するための走査線及び信号線、並びに該絵素電極のそれぞれの近傍に配され、該絵素電極には接続されていない予備スイッチング素子を有するアクティブマトリクス基板であって、該信号縁の下方に形成された、該予備スイッチング素子のための予備配線を備え、該予備配線の一端が該予備スィッチング素子の開閉端子に接続されており、該予備配線の他端が該信号線の下方より側方に延伸され、該走査線の近傍に配設されており、そのことにより上記目的が達成される。」(2頁左下欄7行〜末行)、 「次にレーザCVD等により、予備のTFT5のドレイン電極9と絵素電極3との間、及び接触部7を電気的に接続する。」(3頁右上欄14〜17行) 甲第6号証には、図面とともに次のことが記載されている。 「(ホ)作用 本考案の表示装置に於いては、ゲートラインとドレインラインとが交差するスイッチングトランジスタ箇所に於いてこれ等両ラインの短絡事故が発生した場合に、この短絡箇所のゲートライン又はドレインラインを切断してスイッチングトランジスタを孤立せしめると共に、ゲートライン又はドレインラインに対して補助ライン及びブリッジ部を電気的に結合して上記孤立したスイッチングトランジスタを迂回したバイパス配線を得るものである。」(明細書7頁6〜16行)、 「斯る本考案実施例装置が従来装置と異なる所は第2図(a)に示す如く、ガラス基板(10)上にゲートライン(16)…を形成すると同時にこのゲートライン(16)…ゲ-ト電極(17)(17)…箇所付近、即ち、スイッチングトランジスタを構成する箇所に対して独立した補助ゲートライン(16’)(16’)…を並列状態で設け、さらにこの補助ゲートライン(16’)の両端部とゲートライン(16)とを跨ぐ位置に絶縁膜(12)を介してドレインライン(14)…を形成すると同時にブリッジ部(19)(19)…を設けた点にある。」(明細書8頁12行〜9頁1行) 甲第7号証には、図面とともに次のことが記載されている。 「本発明は、マトリックス状に集積されたトランジスタによって制御される電気的光学材料層を含むディスプレイパネルに関する。」(3頁右下欄7行〜9行) また、図2、図11、図12には、信号線CLが突出した接続要素CDCがあること、及び制御用トランジスタのドレインDRは該接続要素CDCと重畳していることが見て取れる。 甲第8号証には、図面とともに次のことが記載されている。 「第1図に電気光学装置を構成する薄膜トランジスタの外観図を示す。図面に於いて101はソースライン、102はゲートライン、103はゲート電極、104は1st多結晶シリコン薄膜、105はソースコンタクト、106はドレインコンタクト、107は透明導電膜であるところの液晶駆動電極である。ソースライン及びゲートラインには画素外に、外部ドライブ回路又は電気特性測定装置との電気的接続を取る為の端子が形成されている。」(1頁左下欄1行〜9行) また、図1には、ソースライン101はソースコンタクト105が形成されている部分において幾分幅広に形成されていることが見て取れる。 7.対比・判断 7-1.本件発明1について 本件発明1と甲第1号証に記載された発明(甲1号証発明)とを対比する。 (1)甲第1号証には、「第1図は、ガラス基板あるいは石英基板を用いその上にアクティブマトリックス素子としてTFT(薄膜トランジスタ)を形成したアクティブマトリックス方式の液晶パネルの断面図である。図中の1はガラスあるいは石英板等の透明基板である。2及び3はシリコン薄膜であり、TFTチャンネル領域及びソース・ドレイン領域を形成している。4はゲート電極、5はシリコン酸化膜、6は金属層であり、7は液晶駆動電極であり透明度の高いITO膜・・・が用いられる。・・・図中の8は液晶層であり9は上側ガラス基板、10は上側ガラス基板全面に形成された透明電極である。」(上記ウ)、「第2図は、アクティブマトリックス基板上の一画素の回路を示す。図中の14はビデオ信号線、15はタイミング信号線である。16がTFTであり17がTFTのドレイン側に接続された液晶駆動電極である。18は液晶層、19は上側ガラス基板上の透明電極である。ビデオ信号ラインから入力されたTV信号はTFTがオン状態の時に液晶層等の容量に書き込まれ、次の信号が入力されるまでの間、液晶層に一定の電圧を印加する。」(同)と記載されており、甲第1号証が、構成要件1-A及び1-Eの「少なくとも一方が透光性を有する一対の絶縁性基板と、該一対の基板の何れか一方の基板上に縦横に配線された走査線及び信号線と、該走査線及び該信号線とにスイッチング素子を介して接続された絵素電極と、を備えたアクティブマトリクス型表示装置」に相当する技術的事項を有するものであることは明らかである。 (2)甲第1号証には、「第9図は、左右の液晶駆動電極を具体的に接続する方法及びその時に用いる接続パターンの一例を示す。・・・図中の25は、隣り合う液晶駆動電極を電気的に接続するためのパターンであり・・・シリコン薄膜にて形成されている。・・・図中の26は、金属層パターンである。この金属層パターンは、レーザー光線にて液晶駆動電極17と下側のシリコン薄膜パターン25を溶かして溶接する際、お互いに電気的に接続しやすい様に金属層を上層として配置し、金属層の溶融により、液晶駆動電極と、下側シリコン薄膜パターンがより接続しやすい様にするものであり、金属層はあった方が容易に接続出来る。・・・またデータ信号ラインが金属配線の場合にはこの金属配線と同一工程にて形成してもよい。・・・○cにて示した部分をレーザーにて溶融し接続すれぱ、左側の画素のTFTにて、2画素分の液晶駆動電極を駆動することになるため、実質的には画素欠陥が修正されたことになる。」(上記オ)と記載されている。金属層パターン26は、データ信号ラインと同一工程にて形成してもよいことが把握でき、また、第11図は、第9図のA-A’断面であるから、第11図には、両画素に接する2つの金属層パターン26の間の位置にデータ信号線14(ビデオ信号線)が存在することも把握できる。これらの記載と第11図から、甲第1号証の「シリコン薄膜パターン25」は、構成要件1-Bの「該絵素電極の下方と該当する該信号線の下方とにわたり、該信号線及び該絵素電極の各々に対して一部を重畳して設けられた導電層」に相当し、また、甲第1号証の「金属層パターン26」は、構成要件1-Dの「該絵素電極と該絶縁膜との間に形成され、該絵素電極に電気的に接続された導電片」に相当する。 (なお、平成17年3月23日の口頭審理において、被請求人は、甲第1号証の第11図に、「2つの金属層パターン26の間で、シリコン薄膜25上の絶縁層29上にデータ信号線14が存在すること」自体は認めた。) (3)上記(2)の記載、第11図及び甲1号証発明の目的の記載から、甲第1号証の絶縁層29は、構成要件1-Cの「該導電層と、該信号線及び該絵素電極との間に設けられ、該導電層と該信号線とを絶縁し、かつ、該導電層と該絵素電極とを絶縁する絶縁膜」に相当する。 したがって、両者は、 「少なくとも一方が透光性を有する一対の絶縁性基板と、該一対の基板の何れか一方の基板上に縦横に配線された走査線及び信号線と、該走査線及び該信号線とにスイッチング素子を介して接続された絵素電極と、を備えたアクティブマトリクス型表示装置であって、 該絵素電極の下方と該当する該信号線の下方とにわたり、該信号線及び該絵素電極の各々に対して一部を重畳して設けられた導電層と、 該導電層と、該信号線及び該絵素電極との間に設けられ、該導電層と該信号線とを絶縁し、かつ、該導電層と該絵素電極とを絶縁する絶縁膜と、 該絵素電極と該絶縁膜との間に形成され、該絵素電極に電気的に接続された導電片と、を備えるアクティブマトリクス型表示装置」である点で一致し、次の点で相違する。 相違点: 本件発明1が、「上記信号線は、該信号線が突出した突出部を有し、該導電層の一方の端部に該絶縁膜を挟んで該信号線の該突出部が重畳し、該導電層の該信号線と重畳されていない端部に該絶縁膜を挟んで該導電片が重畳している」との事項を有するのに対し、甲1号証発明は、突出部に係る上記技術的事項を有するものではない点。 請求人が提出した甲2号証にも、上記相違点が記載されていないことは明らかである。 弁駁書で追加して提示した甲第3〜8号証を検討する。 甲第3号証には、「トランジスタ部の欠陥による表示欠陥が生じた場合、これを使用上全く目立たなくするため、欠陥画素の画素電極を書き込みバスに接続して修正を行う」ことが記載されているが、甲第3号証のものは、欠陥が生じたトランジスタそのものを修復に用いるものであって、本件発明のように信号線に修復のための突出部を設けて修復構造を構成したものとは基本的な技術思想が相違するものである。それ故、詳細に検討すると(下記、「7-3.甲第3号証に主たる証拠とする主張について」参照。)、本件発明との正確な対応付けが困難であり、本件発明の前提技術とはなり得ないものである。 また、甲第4号証のものは、薄膜能動素子の各部の欠陥により生じた表示点欠陥を、補助配線を用いて修理できるようにするものであり、不良となった第1のトランジスタに代えて第2のトランジスタを使用するため、補助配線9Aによってそのソース電極4をソースラインに接続しようとすること、またはソースライン2の不良箇所を補助配線11によりバイパス接続することは記載されているが、これは本件発明のような、スイッチング素子の不良による欠陥を、信号線と絵素電極をスイッチング素子を介することなく電気的に接続するものとは相違する。 さらに、甲第7号証のものは、制御用トランジスタを形成するために信号線CLに突出した接続要素CDCを設けているだけのものであって、本件発明1を導くことができるようなものではない。 そして、相違点の技術的意義は、信号線に突出部を設け、導電層の一方の端部を該信号線の突出部、他方の端部を導電片の各々に重畳させることにより、導電層が信号線の突出部と導電片までしか存在せず、信号線と絵素電極とを直接接続する点にあるが、甲第3〜8号証には、「6.甲号証の記載事項」で摘記した事項は記載されているものの、本件発明1の導電層及び導電片に対応する構成並びに該導電層に重畳するように突出部を形成する構成は記載されていない。結局、甲第3〜8号証は、導電層を信号線の突出部と導電片まで存在せしめたものでも、不良欠陥が生じた場合に信号線と絵素電極とを直接接続するものでもないから、上記相違点を開示するものとはいえない。 そして、上記相違点の事項は任意に設計し得る事項ともいえないから、本件発明1は、甲第1号証発明または甲2号証発明と同一であるとも、また甲第3〜8号証を見ても、甲第1号証及び甲第2号証から容易になしえたとも言うことはできない。 なお、請求人は、弁駁書(17頁6行〜18頁15行)において、 (1)甲第1号証には、第11図に記載されている修理構造が、修理時に絵素電極と信号線との接続のために使用されるという積極的な記載がないが、甲第1号証の発明は、レーザ接続による欠陥修正のための配線構造の構築を目的としているから、発明者の意図が絵素電極同士の接続による欠陥修正であるとしても、当業者は、甲第1号証の発明が修理時に信号線と絵素電極とを接続できる配線構造となっていることを容易に理解できる。 (2)欠陥の修理構造とは、欠陥のある絵素電極に、正規の信号又はこれに近い信号を供給できるようにした配線構造であって、本件特許の出願時には絵素電極を信号線に接続して修理することが公知であったのであるから、甲第1号証の第11図に示される構成は、絵素電極同士の接続は勿論のこと、絵素電極を信号線に接続して修理する方式にもそのままそっくり使用できることは、当業者が容易に理解できる。 (3)ところで、甲第3号証、甲第4号証、又は甲第7号証には、導電性部材と信号線との接続は、信号線に設けた突出部に所望の導電性部材を重畳させて両者を接続するという構成が記載され、周知でもある。 (4)したがって、当業者であれば、甲第1号証の第11図の構成において、その信号線に突出部を設け、該突出部に導電層の一方の端部を絶縁膜を挟んで重畳させる構成に変更することにより訂正発明1を発明することは、容易になしえた程度のことである。 などと主張する。 しかし、甲第3号証のものは、ゲートとソースがショートしたMOS電界効果トランジスターの、ゲート電極とゲートラインを切り離し、ソースとドレインを短絡する事によりデータ信号の平均的な電圧を画素駆動電極に加わえるものであるが、該甲第3号証を適用すべき甲1号証発明は、画素電極同士を接続して修復を行うものである。そして、本件発明1と甲第3号証等は欠陥画素の修復がレーザによる切断溶融による点で共通し、またトランジスターを介して絵素電極と信号線を接続して修復する技術が上記甲第3号証に見られるように公知であるとはいえ、トランジスターを介しての上記修復技術は、トランジスター部を短絡しようとするものであるから、トランジスターとは異なる部位において絵素電極同士を接続する甲1号証発明に上記修復技術を適用する動機付けとはなりえない。 また、甲第3号証のものは、上記のように本件発明1及び甲1号証発明とは共通点が少なく、むしろ甲1号証発明との正確な対応関係を見いだすことが困難であることから、適用に当たっては阻害要因を有するともいえるものであるので、やはり甲第3号証のものを甲1号証発明に適用することが容易とはいえない。 よって、上記請求人の主張は採用するに足らないものである。 7-2.本件発明2について 本件発明2は、本件発明1をさらに「前記導電層が、前記絵素電極に接続された前記走査線に隣接する走査線に電気的に接続され、」(構成要件2-A)、「該導電層上には陽極酸化膜が形成されている」(構成要件2-B)と限定するものであるから、本件発明1と同様に、甲第1号証発明または甲2号証発明と同一であるとも、甲第1号証及び甲第2号証から容易になしえたとも言うことはできない。 なお、上記構成要件2-A,2-Bの点に付き念のため言及すると、甲第2号証に、ゲート電極の表面を酸化することが記載されているとしても、甲第2号証において、不良画素修正パッド29は独立したパターンであるから、構成要件2-Aを開示するものではなく、また、電気的に接続されていない(すなわち上記構成要件2-Aを有しない)層に対して陽極酸化膜は形成できないことから見て、甲第2号証の記載は、この点において陽極酸化膜を形成することを意味するものではない。また、甲第2号証において、表面が酸化されたのは、「多結晶シリコン膜の島22」であるが、「陽極酸化膜」が形成されるのは、金属電極の電解によるもの(例えば、化学大辞典編集委員会編「化学大辞典」共立出版、「陽極酸化膜」の項参照)であることから、シリコン膜に形成された膜は陽極酸化膜とは認められず、甲第2号証は、この点からも構成要件2-Bを意味するものではない。 そして、上記構成要件2-Aにより、構成要件2-Bの陽極酸化膜を形成することが可能となるものである。(本件特許公報9欄13〜18行) 7-3.甲第3号証を主たる証拠とする主張について 甲第3号証を主たる証拠とする主張(理由B:弁駁書18頁19行〜23頁下から3行)は、審理を不当に遅延させるものであるから、許可されるものではないが、念のため、甲第3号証に基づく主張について言及する。 請求人は、甲第3号証の第4〜6図を挙げて、本件発明は、これから容易になし得ると主張している。 しかしながら、甲第3号証に、「トランジスタ部の欠陥による表示欠陥が生じた場合、これを使用上全く目立たなくするため、欠陥画素の画素電極を書き込みバスに接続して修正を行う」ことが記載されているとしても、甲第3号証のものは、欠陥が生じたトランジスタそのものを修復に用いるものであって、本件発明のように信号線に修復のための突出部を設けて修復構造を構成したものとは基本的な技術思想が相違するから、以下に詳述するように、本件発明との正確な対応付けが困難であり、本件発明の前提技術とはなり得ないものである。 具体的な構造について詳述すると、甲第3号証の第4図のものでは、 i)該図においては、信号線に突出した部分が形成はされているが、これは信号線をトランジスターのソース電極14に接続するために突出した形状を有しているものであって、修復のために突出部を突出させたものではない、 ii)a,bの部分にレーザ照射しているが、甲第3号証に「次に第4図(b)の中の矢印a,bの位置でゲート電極とソース電極14及びドレイン電極をショートさせる。このショートの方法は例えばレーザー光線を基板の上方向より図中a,bで示された矢印に従ってショートさせる個所に照射するとゲート電極とドレイン又はソース電極及びゲート絶縁膜が溶融し合いゲート電極とドレイン及びソース電極が接続される。」と記載されているように、ゲート電極8とソース電極14及びドレイン電極15をショートさせることにより、ゲート電極8を通じて信号線からの電圧を画素電極11に印加するものであって、該ゲート電極8は、本件発明のような信号線と重畳関係を有するような導電層にはなり得ないものであることは明らかであるから、第4図のものは、本件発明の導電層に対応する層を有するものではない、 iii)画素駆動電極11に電気的に接続された導電片に相当する部材を有していないばかりでなく、導電層に対応する層がないことから、対応する絶縁膜を有するものでもなく、絶縁膜と上記導電層,導電片との関連構成(重畳関係)を有するものでもない、 等の点で、正確な対応付けが困難である。 また、同第5図のものでは、 i)導電層に相当するとされるアルミニューム17は、最上層として形成されていることから、下方に設けられたものでないばかりか、信号線に相当するソースライン9及び画素駆動電極11とも重畳していない、 ii)上記のように重畳関係が異なることから、アルミニューム17及びソースライン9あるいは画素駆動電極11間に介在する絶縁膜を有していない、 iii)画素駆動電極11に電気的に接続された導電片に相当する部材を有しておらず、上記ii)に示したように対応する絶縁膜を有していないことから、絶縁膜との関連構成を有するものでもない、 iv)ソースライン9は、信号線をトランジスターのソース電極14に接続するために突出した形状を有しているものであって、修復のために突出部を突出させたものではなく、修復の目的等も異なる(ソースラインとゲートラインのショートを修復)ことから、他の部材との重畳関係も相違する、 等の点で、正確な対応付けが困難である。 さらに、同第6図のものは、ソース電極14の上に、ソース-ドレイン方向とは直交する方向に絶縁層16を介して導電材料18を配置し修復を行うものであって、導電材料18が画素駆動電極11に直接接続されている点で第5図のものとは相違するものの、第5図において指摘したi),ii)の点で同様に相違するばかりでなく、 iii)2カ所で絶縁するとの思想がないことから、導電材料18が画素駆動電極11に直接接続されているものであり、したがって画素駆動電極11の上に絶縁層を設けるものでも、その上に導電片を設けるものでもない、 iv)ソースライン9は、信号線をトランジスターのソース電極14に接続するために突出した形状を有しているものであって、修復のために突出部を突出させたものではない、 等の点で、正確な対応付けが困難である。 結局、請求人の主張は、本件発明とは基本的な技術思想が相違する文献を提示し、上記のように詳細に検討すると正確に対応付けができないところを、相違するところは適宜対応(別部材であるソース電極14を信号線9の突出部と見做すことなど)すると主張し、またそれぞれの図面に断片的に記載されている構成を集め(第6図の構成に、第5図の絶縁膜を介した修正構造を用いることなど)、さらにその余は実質的相違ではない(導電材料18を上下いずれに配置するかなど)と主張するものであるから、甲第3号証を主たる証拠として採用した請求人の主張は、解決すべき課題及び動機付けを考慮した適切な論理を構成するものではないので、採用するに足らないものである。 8.むすび 以上のとおりであるから、請求人が主張する理由及び提出した証拠方法によっては、訂正後の本件発明1及び本件発明2を無効とすることはできない。 よって、結論のとおり審決する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 アクティブマトリクス型表示装置 (57)【特許請求の範囲】 1.少なくとも一方が透光性を有する一対の絶縁性基板と、該一対の基板の何れか一方の基板上に縦横に配線された走査線及び信号線と、該走査線及び該信号線とにスイッチング素子を介して接続された絵素電極と、を備えたアクティブマトリクス型表示装置であって、 該絵素電極の下方と該当する該信号線の下方とにわたり、該信号線及び該絵素電極の各々に対して一部を重畳して設けられた導電層と、 該導電層と、該信号線及び該絵素電極との間に設けられ、該導電層と該信号線とを絶縁し、かつ、該導電層と該絵素電極とを絶縁する絶縁膜と、 該絵素電極と該絶縁膜との間に形成され、該絵素電極に電気的に接続された導電片と、を備え、 上記信号線は、該信号線が突出した突出部を有し、 該導電層の一方の端部に該絶縁膜を挟んで該信号線の該突出部が重畳し、該導電層の該信号線と重畳されていない端部に該絶縁膜を挟んで該導電片が重畳している、アクティブマトリクス型表示装置。 2.前記導電層が、前記絵素電極に接続された前記走査線に隣接する走査線に電気的に接続され、該導電層上には陽極酸化膜が形成されている、請求項1に記載のアクティブマトリクス型表示装置。 3.前記絵素電極に前記絶縁膜を挟んで対向する付加容量用電極を更に備え、前記導電層が、該付加容量用電極に電気的に接続され、該導電層上には陽極酸化膜が形成されている、請求項1に記載のアクティブマトリクス型表示装置。 【発明の詳細な説明】 (産業上の利用分野) 本発明は、表示用絵素電極にスイッチング素子を介して駆動信号を印加することにより、表示を実行する表示装置に関し、特に絵素電極をマトリクス状に配列して高密度表示を行うアクティブマトリクス駆動方式の表示装置に関する。 (従来の技術) 従来より、液晶表示装置、EL表示装置、プラズマ表示装置等に於いては、マトリクス状に配列された絵素電極を選択駆動することにより、画面上に表示パターンが形成される。選択された絵素電極とこれに対向する対向電極との間に電圧が印加され、これらの電極の間に介在する液晶等の表示媒体の光学的変調が行われる。この光学的変調が表示パターンとして視認される。絵素電極の駆動方式として、個々の独立した絵素電極を配列し、この絵素電極のそれぞれにスイッチング素子を連結して駆動するアクティブマトリクス駆動方式が知られている。絵素電極を選択駆動するスイッチング素子としては、TFT(薄膜トランジスタ)素子、MIM(金属-絶縁層-金属)素子、MOSトランジスタ素子、ダイオード、バリスタ等が一般的に知られている。アクティブマトリクス駆動方式は、高コントラストの表示が可能であり、液晶テレビジョン、ワードプロセッサ、コンピュータの端末表示装置等に実用化されている。 第12図に従来のアクティブマトリクス型表示装置に用いられるアクティブマトリクス基板の平面図を示す。第12図の基板では、互いに平行に配列されたゲートバス配線21に直交して、ソースバス配線23が配設されている。2本のゲートバス配線21及び2本のソースバス配線23に囲まれた矩形の各領域には、絵素電極41が配されている。ゲートバス配線21から分岐したゲートバス支線22上には、スイッチング素子として機能するTFT31が形成されている。ゲートバス支線22の一部がTFT31のゲート電極として機能している。TFT31のドレイン電極は絵素電極41に電気的に接続されている。TFT31のソース電極はソースバス配線23に接続されている。 (発明が解決しようとする課題) このような表示装置を用いて高密度の表示を行う場合、非常に多数の絵素電極41とTFT31とを配列することが必要となる。ところが、TFT31は基板上に作製した時点で動作不良素子として形成されることがある。このような不良素子に連結された絵素電極は、表示に寄与しない点欠陥として認められる。点欠陥は表示装置の画像品位を著しく損ない、製品の歩留りを大きく低下させる。 点欠陥の主な原因は、大別すると2種類ある。1つは走査信号によって絵素電極が選択されている時間内に、絵素電極に十分な充電が行われないために起こる不良(以下では「オン不良」と称す)である。他の1つは、充電された絵素電極の電荷が非選択時間内に漏洩してしまう不良(以下では「オフ不良」と称す)である。オン不良はTFTの不良に起因する。オフ不良はTFTを介する電気的漏洩によって生ずる場合と、絵素電極とバス配線との間の電気的漏洩によって生じる場合とがある。何れの不良が生じても、絵素電極と対向電極との間に必要な電圧が印加されないため、点欠陥を生じることになる。このような不良は、絵素電極と対向電極との間に印加される電圧が0Vのときに光の透過率が最大となるノーマリホワイトモードでは輝点として現れ、該電圧が0Vのときに光の透過率が最低となるノーマリブラックモードでは黒点として現れる。 このような欠陥は、レーザトリミング等を行うことにより修正し得る。しかし、この欠陥修正は、表示装置を組み立てる前のアクティブマトリクス基板の段階で行われなければならない。絵素欠陥を表示装置として組み立てた後に検出することは容易であるが、絵素欠陥をアクティブマトリクス基板の段階で検出することは極めて困難である。特に絵素数が10万個〜50万個以上もある大型表示装置では、全ての絵素電極の電気的特性を検出して不良TFTを発見するには、極めて高精度の測定機器等を使用しなければならない。このため、検査工程が繁雑となり、量産性が阻害される。従って、コスト高になるという結果を招く。このような理由で、絵素数の多い大型表示装置では、上述のレーザ光を用いた基板の状態での絵素欠陥の修正を行なうことができないというのが実情である。 本発明はこのような問題点を解決するものであり、本発明の目的は、スイッチング素子の不良による絵素欠陥が生じても、表示装置を組み立てた状態で該欠陥を目立たないように修正し得るアクティブマトリクス型表示装置を提供することである。 (課題を解決するための手段) 本発明のアクティブマトリックス型表示装置は、少なくとも一方が透光性を有する一対の絶縁性基板と、該一対の基板の何れか一方の基板上に縦横に配線された走査線及び信号線と、該走査線及び該信号線とにスイッチング素子を介して接続された絵素電極とを備えたアクティブマトリクス型表示装置であって、該絵素電極の下方と該当する該信号線の下方とにわたり、該信号線及び該絵素電極の各々に対して一部を重畳して設けられた導電層と、該導電層と、該信号線及び該絵素電極との間に設けられ、該導電層と該信号線とを絶縁し、かつ、該導電層と該絵素電極とを絶縁する絶縁膜と、該絵素電極と該絶縁膜との間に形成され、該絵素電極に電気的に接続された導電片とを備え、上記信号線は、該信号線が突出した突出部を有し、該導電層の一方の端部に該絶縁膜を挟んで該信号線の該突出部が重畳し、該導電層の該信号線と重畳されていない端部に該絶縁膜を挟んで該導電片が重畳していることによって上記目的が達成される。 更に、前記導電層が、前記絵素電極に接続された前記走査線に隣接する走査線に電気的に接続され、該導電層上には陽極酸化膜が形成されている構成とすることもできる。 更に、前記絵素電極に前記絶縁膜を挟んで対向する付加容量用電極を更に備え、前記導電層が、該付加容量用電極に電気的に接続され、該導電層上には陽極酸化膜が形成されている構成とすることもできる。 (作用) 本発明のアクティブマトリクス型表示装置に於て、スイッチング素子の不良、信号線と絵素電極との間の弱いリーク電流の発生等により、オン不良又はオフ不良が生じた場合には、表示装置を組み立てた状態で修正を行うことができる。まず、信号線と導電層との重畳部に光エネルギーが照射され、信号線と導電層との間が電気的に接続される。次に、導電層と導電片との重畳部に光エネルギーが照射され、導電層と導電片との間が電気的に接続される。これにより、信号線と絵素電極とがスイッチング素子を介することなく直接電気的に接続される。更に、導電層が走査線又は付加容量用電極に電気的に接続されている構成では、導電層と走査線又は付加容量用電極との間の電気的接続が、光エネルギー照射によって絶たれる。 以上のようにして信号線に直接に接続された絵素電極(以下では「修正絵素電極」と称する)に印加される電圧について、第11図を参照しながら説明する。第11図に於て、Gnはn番目の走査線の信号電圧(縦軸)と時間(横軸)との関係を表わし、Smはm番目の信号線の信号電圧(縦軸)と時間(横軸)との関係を表わす。Pnmは、n番目の走査線とm番目の信号線とに接続された、正常な絵素電極に印加される電圧を表す。P′nmは、n番目の走査線とm番目の信号線とに接続された、修正絵素電極に印加される電圧を表わす。 走査線にはGn、Gn+1に示すように順次スイッチング素子を選択する信号(Vgh)が選択時間Tonの間出力される。走査線の選択時間Tonに対応して、信号線には映像信号電圧V0が出力され、正常な絵素電極ではPnmに示すように、この信号電圧V0が非選択時間Toffの間保持される。そして、次に選択信号電圧Vghが印加されると、信号線には、-V0の映像信号が印加される。 これに対し、修正絵素電極には、P′nmに示すように、信号線からの映像信号が常に印加されるため、修正絵素電極は正常には機能し得ない。しかし、この修正絵素電極によって表示される絵素は、1周期を通してみるとこの1周期の間に信号線に印加された映像信号の実効値に相当する表示を行う。従って、この絵素は完全な輝点又は黒点となることはなく、信号線に沿って並ぶ絵素の平均的な明るさの表示を行う。従って、この絵素はきわめて判別し難い絵素欠陥となる。 上述のようにして光エネルギー照射によって接続された部分に於ける電気抵抗は、スイッチング素子の選択状態での抵抗(以下では「オン抵抗」と称する)よりも小さいことが必要である。その理由は以下のようである。スイッチング素子のオン抵抗の値は、スイッチング素子が選択されている時間内に絵素電極に電荷を充電し得るだけの電流が流れるように設定されている。従って、上記の接続を行った部分での抵抗がオン抵抗より大きいと、修正絵素電極にはスイッチング素子の選択時間毎に変化する信号電圧が確実に書き込まれず、修正絵素電極に印加される電圧の実効値が小さくなってしまう。このような状態では、修正絵素電極によって表示される絵素と他の正常な絵素との間で明るさの違いが大きくなり、絵素欠陥として視覚的に認識されることになる。 (実施例) 本発明の実施例について以下に説明する。 第1図に本発明の表示装置の一実施例に用いられるアクティブマトリクス基板の平面図を示す。第2A図に第1図の導電層34近傍の拡大図を、第2B図に第1図のII-II線に沿った断面図を示す。第3図に第1図の基板を用いた表示装置の第1図に於けるIII-III線に沿った断面図を示す。本実施例のアクティブマトリクス型表示装置を製造工程に従って説明する。本実施例では、絶縁性基板として透明のガラス基板を用いた。ガラス基板1上に走査線として機能するゲートバス配線21と、該ゲートバス配線21から分岐するゲートバス支線22と、導電層34とを形成した。ゲートバス配線21、及びゲートバス支線22は一般にTa、Ti、Al、Cr等の単層又はこれらの多層金属で形成されるが、本実施例ではTaを使用した。導電層34もゲートバス配線21と同じ金属によって形成した。ゲートバス配線21、ゲートバス支線22及び導電層34は、スパッタリング法により形成されたTa金属層をパターニングすることにより形成される。ゲートバス配線21、ゲートバス支線22及び導電層34を形成する前に、ガラス基板1上にTa2O5等から成るベースコート膜を形成してもよい。 ゲートバス配線21、ゲートバス支線22及び導電層34上には、SiNXからなるベース絶縁膜11を全面に形成した。ゲート絶縁膜11は、プラズマCVD法により3000Åの厚さに形成されている。 次に、ゲートバス支線22の先端部に、スイッチング素子として機能するTFT31を形成した。ゲートバス支線22の一部がTFT31のゲート電極25として機能する。上述のようにゲート絶縁膜11を形成した後、後にチャネル層12となるアモルファスシリコン(a-Si)層と、後にエッチングストッパ層13となるSiNX層とを堆積させた。a-Si層の厚さは300Å、SiNX層の厚さは2000Åである。次に、SiNX層のパターニングを行い、エッチングストッパ層13を形成した。更に、a-Si層及びエッチングストッパ層13上の全面に、後にコンタクト層14、14となる。P(リン)を添加したn+型a-Si層を、プラズマCVD法により800Åの厚さに堆積させた。次に、上記a-Si層及びn+型a-Si層のパターニングを同時に行い、チャネル層12及びコンタクト層14、14を形成した。 次に、後にソース電極32、信号線として機能するソースバス配線23、ドレイン電極33及び導電片35となるTi金属層を形成した。上記ソースバス配線23等は、一般に、Ti、Al、Mo、Cr等の単層又はこれらの多層金属で形成されるが、本実施例ではTiを使用した。Ti金属層はスパッタリング法により形成される。このTi金属層をパターニングすることにより、ソース電極32、ソースバス配線23、ドレイン電極33、及び導電片35を形成した。ソースバス配線23はゲートバス配線21と、前述のゲート絶縁膜11を挟んで交差している。また、第2B図に示すように、ソースバス配線23は導電層34の一方の端部にゲート絶縁膜11を挟んで重畳されるように形成される。導電片35は導電層34のソースバス配線23とは重畳されていない端部の上にゲート絶縁膜11を挟んで形成される。 次に、第1図に示すように、ゲートバス配線21とソースバス配線23とに囲まれた矩形の領域に、ITO(Indium tin oxide)から成る絵素電極41を形成した。絵素電極41はTFT31のドレイン電極33の端部に重畳され、ドレイン電極33に電気的に接続されている。また、第2B図に示すように、絵素電極41は導電片35上にも重畳されて形成される。 更に、絵素電極41を形成した基板上の全面に、SiNXからなる保護膜17を堆積した。保護膜17は、絵素電極41の中央部の上で除去した窓状の形状としてもよい。保護膜17上には配向膜19を形成した。ガラス基板1に対向するガラス基板2上には、対向電極3及び配向膜9が形成されている。これらの基板1及び2上の間に液晶層18を挟み、本実施例のアクティブマトリクス型表示装置が完成する。 以上の構成を有するアクティブマトリクス型表示装置に於いて、TFT31が不良となったり、ソースバス配線23と絵素電極41との間に弱いリーク電流が発生した場合には、絵素欠陥が生じる。このような場合には、次のようにして修正が行われる。まず、第2A図に破線で示すソースバス配線23と導電層34との重畳領域61(第2B図の矢印65で示す部分)、及び導電層34と導電片35との重畳領域62(第2B図の矢印64で示す部分)に光エネルギーを照射する。これにより、ソースバス配線23と導電層34と導電片35とは電気的に接続される。導電片35と絵素電極41とは電気的に接続されているので、絵素電極41はソースバス配線23に電気的に接続されることになる。本実施例では光エネルギーとして、YAGレーザ光(波長1064nm)を用いた。レーザ光は基板1及び2の何れの基板から照射してもよいが、基板2には遮光膜が形成されている場合が多く、その場合には基板1側から照射する。本実施例でも基板1側から照射した。 以上のようにしてソースバス配線23に直接接続された絵素電極41(修正絵素電極)には、ソースバス配線23の信号が常に印加されるため、修正絵素電極は正常には機能することはできない。しかし、修正絵素電極によって表示される絵素は、ソースバス配線23に印加される信号の実効値に相当する表示を行うので、この絵素は完全な輝点又は黒点となることはなく、ソースバス配線23に沿って並ぶ絵素の平均的な明るさの表示を行うことになる。従って、この絵素は、きわめて判別し難い絵素欠陥となる。 上述のようにレーザ光照射を行っても、導電層34とソースバス配線23との重畳部、及び導電層34と導電片35との重畳部の上には保護膜17が形成されているので、溶融した金属等が表示媒体である液晶層18に混入することもなく、表示には影響しない。 第4A図〜第4C図に本発明の表示装置に用いられるアクティブマトリクス基板の他の実施例を示す。第4A図の基板では、ソースバス配線23に突出部23aが設けられ、導電層34はこの突出部23aに重畳されている。他の導電片35等の構成は第1図のそれと同様である。 第1図の実施例では導電層34及び導電片35はTFT31から離れた位置に設けられているが、ソースバス配線23に近接する位置であれば何れの位置に設けてもよい。第4B図はTFT31近傍に導電層34を形成した例を示している。 第4C図の実施例では、ソースバス配線23から分岐するソースバス支線23bが形成されている。導電層34はソースバス配線23に並行して形成され、ソースバス支線23bに重畳されている。 第4A図〜第4C図の何れの基板を用いた表示装置に於いても、第1図の実施例と同様にして、絵素欠陥が修正される。尚、図示していないが、導電層34及び導電片35等を、第4A図〜第4C図に示すソースバス配線23とは絵素電極41を挟んで反対側のソースバス配線23に設けた構成とすることもできる。 第5A図及び第5B図に、本発明の表示装置に用いられるアクティブマトリクス基板の他の実施例を示す。前述の第1図及び第4A図〜第4C図のアクティブマトリクス基板では、導電層34とソースバス配線23との間には、ゲート絶縁膜11が存在するのみなので、ソースバス配線23と導電層34との間、及び導電層34と導電片35との間が自然に短絡してしまうことがある。この点を解消したのが第5A図及び第5B図に示すアクティブマトリクス基板である。第5A図に示す基板の導電層34は、該導電層34に重畳されている絵素電極41に接続されたゲートバス配線に隣接するゲートバス配線21に接続されて形成されている。ゲートバス配線21上には、ゲートバス配線21の絶縁を確実にするため、しばしば陽極酸化膜が形成される。本実施例のように、導電層34をゲートバス配線21に接続して形成することにより、導電層34上にも陽極酸化膜を形成することが可能となる。導電層34上に陽極酸化膜が形成されていると、ソースバス配線23と導電層34との間、及び導電層34と導電片35との間の短絡が防止される。 第5B図の基板では、導電層34及び導電片35は、TFT31とは反対側の角に設けられている。従って、本実施例では導電層34は該導電層34に重畳される絵素電極に接続されたソースバス配線に隣接するソースバス配線23に重畳されている。 第5A図及び第5B図の基板を用いた表示装置に於て絵素欠陥が生じた場合には、前述の第1図の実施例と同様にして、導電層34とソースバス配線23との間、及び導電層34と導電片35との間が接続される。更に、これらの基板では第5A図及び第5B図に破線で示す領域63に光エネルギーが照射され、導電層34とゲートバス配線21との間が切断される。以上のようにして光エネルギー照射による接続と切断とを行うことにより、絵素電極41はソースバス配線23に直接接続される。尚、このような修正を行うと、第5A図の基板では、第1図の基板と同様に、絵素電極41はTFT31を介して接続されていたソースバス配線23に直接接続されるが、第5B図の基板では、絵素電極41はTFT31を介して接続されいたソースバス配線23に隣接するソースバス配線23に接続されることになる。 第6図に本発明の表示装置に用いられるアクティブマトリクス基板の他の実施例を示す。本実施例では、導電層34は、互いに隣接する絵素電極41a及び41b、並びにソースバス配線23の下方に形成されている。本実施例では導電層34は絵素電極2個に対して1個の割合で設けられている。導電層34の両端部上にはゲート絶縁膜11を挟んで導電片35a及び35bが形成されている。絵素電極41a及び41bは、それぞれ導電片35a及び35b上に直接重畳されている。また、導電層34は、該導電層34上方に重畳された絵素電極41a及び41bに接続されているゲートバス配線に隣接するゲートバス配線21に電気的に接続されて形成されている。導電層34をゲートバス配線21に接続して形成したことにより、導電層34上には陽極酸化膜を形成することができる。 本実施例の基板を用いた表示装置に於て、絵素電極41a又は1bに絵素欠陥が発生した場合には、まず、ソースバス配線23と導電層34との重畳部にレーザ光が照射される。次に、絵素電極41aに絵素欠陥が生じている場合には導電層34と導電片35aとの重畳部に、絵素電極41bに絵素欠陥が生じている場合には導電層34と導電片35bとの重畳部に、レーザ光が照射される。更に、第6図の破線で示す領域63にレーザ光照射を行い、導電層34とゲートバス配線21との電気的接続が絶たれる。以上の修正により、絵素欠陥が生じている絵素電極41a又は41bは、ソースバス配線23に直接接続されることになる。尚、上記に於て絵素電極41a及び41bの両方に絵素欠陥が生じた場合には、絵素電極41a及び41bの両方をソースバス配線23に直接接続することにより、何れの絵素欠陥も修正される。また、本実施例では導電層34をゲートバス配線21に接続した構成を示したが、導電層34をゲートバス配線21に接続しない構成としてもよい。 第1図の構成は、第7図に示すように、付加容量42を有するアクティブマトリクス型表示装置にも適用できる。第7図の表示装置は、前述の第4B図に示す実施例に付加容量42を設けたものである。付加容量42は、基板1上にゲートバス配線21と平行に設けられた付加容量用電極24と、絵素電極41との重畳部(斜線部)に形成されている。第7図の表示装置に於いても前述の第1図の実施例と同様に絵素欠陥を修正することができる。導電層34及び導電片35並びにソースバス配線23の構成は、前述の第1図、第4A図、及び第4C図に示すものとすることもできる。更に、第7図に於て、導電層34及び導電片35は、第5A図、第5B図、及び第6図に示す構成とすることもできる。導電層34及び導電片35をこれらの図に示す構成とする場合には、導電層34はゲートバス配線21ではなく付加容量用電極24に電気的に接続される。一例として、導電層34及び導電片35を第6図に示す構成とした場合を第9図に示した。第9図のアクティブマトリクス基板では、導電層34は付加容量用電極24に接続されて形成されている。付加容量用電極24上にも陽極酸化膜がしばしば形成される。従って、導電層34を付加容量用電極24に接続することにより、導電層34上にも陽極酸化膜が形成され得る。 更に、本発明は第8図の構成を有するアクティブマトリクス型表示装置にも適用することができる。この表示装置は、第7図の表示装置に於いて、付加容量42の占める部分による開口部の面積の減少を抑えたものである。即ち、この表示装置では、ゲートバス配線21の幅を広げ、絵素電極41の一部と重畳されている。この構成では、隣接する非選択状態のゲートバス配線21を付加容量用電極として用いることができる。しかも、第7図のようにゲートバス配線21と付加容量用電極24との間に隙間が存在しないので、開口部の面積の減少を抑えることができる。この表示装置に於いても、第1図の実施例と同様に絵素欠陥が修正される。本実施例に於いても、導電層34及び導電片35並びにソースバス配線23の構成は、前述の第1図、第4A図、及び第4C図に示すものとすることもできる。更に、第8図に於て、導電層34及び導電片35は、第5A図、第5B図、及び第6図に示す構成とすることもできる。一例として、第8図の導電層34及び導電片35を、第6図に示す構成とした基板を第10図に示した。 上記の実施例では、TFT31のゲート電極が下に、ソース電極及びドレイン電極が上に形成されている例を示したが、ゲート電極が上に、ソース電極及びドレイン電極が下に形成されたタイプのTFTを用いることもできる。また、TFT31をゲートバス支線22上に形成したが、TFT31をゲートバス配線21上に形成し、ソースバス配線23からの支線をソース電極に接続した構成としてもよい。 また、上記の実施例では何れもスイッチング素子としてTFTを用いたが、TFT以外の例えばMIM素子、MOSトランジスタ素子、ダイオード、バリスタ等を用いてもよい。 (発明の効果) 本発明のアクティブマトリクス型表示装置では、信号線と導電層との間および絵素電極と導電層との間の2箇所で絶縁しているため、初期状態のとき、その一方が非絶縁状態となっていても、信号線と絵素電極との間を確実に絶縁したままにできる。よって、絵素欠陥を容易に検出することができる表示装置の状態で、該絵素欠陥を目立たないように修正することができる。従って、本発明によれば、高い歩留りで表示装置を生産することができ、表示装置のコスト低下に寄与することができる。 【図面の簡単な説明】 第1図は本発明の一実施例のアクティブマトリクス型表示装置に用いられるアクティブマトリクス基板の平面図、第2A図は第1図の導電層近傍の拡大平面図、第2B図は第1図のII-II線に沿った断面図、第3図は第1図の基板を用いた表示装置の第1図に於けるIII-III線に沿った断面図、第4A図〜第4C図、第5A図〜第5B図、及び第6図は本発明の表示装置に用いられる基板の他の実施例の平面図、第7図及び第8図はそれぞれ本発明の表示装置を構成する付加容量用電極を有する基板の他の実施例の平面図、第9図及び第10図はそれぞれ本発明の表示装置を構成する付加容量用電極を有する基板の更に他の実施例の平面図、第11図は走査線及び信号線に印加される信号と絵素電極の電圧との関係を示す図、第12図は従来のアクティブマトリクス型表示装置に用いられるアクティブマトリクス基板の平面図である。 1,2…ガラス基板、3…対向電極、9,19…配向膜、11…ゲート絶縁膜、12…チャネル層、13…エッチングストッパ層、14…コンタクト層、18…液晶層、21…ゲートバス配線、22…ゲートバス支線、23…ソースバス配線、24…付加容量用電極、25…ゲート電極、31…TFT、32…ソース電極、33…ドレイン電極、34…導電層、35,35a,35b…導電片、41,41a,41b…絵素電極、42…付加容量。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
審理終結日 | 2005-09-15 |
結審通知日 | 2005-09-22 |
審決日 | 2005-04-11 |
出願番号 | 特願平2-121788 |
審決分類 |
P
1
123・
121-
YA
(G02F)
P 1 123・ 113- YA (G02F) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 井口 猶二 |
特許庁審判長 |
平井 良憲 |
特許庁審判官 |
向後 晋一 稲積 義登 |
登録日 | 1996-11-06 |
登録番号 | 特許第2106809号(P2106809) |
発明の名称 | アクティブマトリクス型表示装置 |
代理人 | 山本 光太郎 |
代理人 | 中尾 俊輔 |
代理人 | 永島 孝明 |
代理人 | 磯田 志郎 |
代理人 | 櫻井 彰人 |
代理人 | 明石 幸二郎 |
代理人 | 明石 幸二郎 |
代理人 | 永島 孝明 |
代理人 | 高野 昌俊 |
代理人 | 安國 忠彦 |
代理人 | 伊藤 高英 |
代理人 | 磯田 志郎 |
代理人 | 伊藤 高英 |
代理人 | 安國 忠彦 |
代理人 | 高橋 隆二 |
代理人 | 中尾 俊輔 |
代理人 | 山本 光太郎 |