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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A63B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A63B
審判 全部申し立て 2項進歩性  A63B
管理番号 1137780
異議申立番号 異議2003-73550  
総通号数 79 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2001-11-20 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-12-25 
確定日 2006-03-08 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3463019号「水上練習用ゴルフボール」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3463019号の請求項1に係る特許を取り消す。 
理由 第1.手続の経緯
本件特許第3463019号の請求項1に係る発明についての出願は、平成12年5月15日に出願され、平成15年8月15日にその特許権の設定の登録がなされ、その特許について、荒井純子より特許異議の申し立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成16年9月14日に訂正請求(後日取り下げ)がなされ、さらに再度の取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成17年10月11日に訂正請求がなされたものである。

第2.訂正の適否
1.訂正の内容
特許権者の求めている訂正の内容は、以下のとおりである。
a.訂正事項a
特許請求の範囲の
「【請求項1】コアと該コアを被覆するカバーとから成るゴルフボールにおいて、
該カバーが曲げ剛性率(F)80〜300MPaを有し、
該ゴルフボールが、比重0.5以上1.0未満を有し、かつ初期荷重98Nを負荷した状態から終荷重1275Nを負荷したときまでの変形量(D)3.0〜6.0mmを有し、
該カバーの曲げ剛性率F(MPa)と該ボールの変形量D(mm)との比(F/D)が24〜31であることを特徴とする水上練習用ゴルフボール。」を、
「【請求項1】コアと該コアを被覆するカバーとから成るゴルフボールにおいて、
該コアが直径36.7〜40.8mmを有し、
該カバーが曲げ剛性率(F)85〜100MPaおよび厚さ1.0〜3.0mmを有し、
該ゴルフボールが、比重0.5以上1.0未満を有し、かつ初期荷重98Nを負荷した状態から終荷重1275Nを負荷したときまでの変形量(D)3.2〜4.0mmを有し、
該カバーの曲げ剛性率F(MPa)と該ボールの変形量D(mm)との比(F/D)が24〜31であることを特徴とする水上練習用ゴルフボール。」と訂正する。
b.訂正事項b
明細書の段落【0008】を
「即ち、コアと該コアを被覆するカバーとから成るゴルフボールにおいて、
該コアが直径36.7〜40.8mmを有し、
該カバーが曲げ剛性率(F)85〜100MPaおよび厚さ1.0〜3.0mmを有し、
該ゴルフボールが、比重0.5以上1.0未満を有し、かつ初期荷重98Nを負荷した状態から終荷重1275Nを負荷したときまでの変形量(D)3.2〜4.0mmを有し、
該カバーの曲げ剛性率F(MPa)と該ボールの変形量D(mm)との比(F/D)が24〜31であることを特徴とする水上練習用ゴルフボールに関する。」と訂正する。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否について
上記訂正事項aに関して、
願書に添付した明細書(以下、「特許明細書」という。)の
段落【0021】には「本発明のゴルフボールのコアは、直径36.5〜42.5mm、好ましくは36.7〜40.8mmを有することが望ましい。」と、
段落【0022】には「本発明では、カバーは厚さ0.3〜3.5mm、好ましくは1.0〜3.0mmを有することが望ましい」と、
段落【0033】には「コアの作製
以下の表1(実施例)および表2(比較例)に示した配合のゴム組成物を混合、混練し...直径38.5mmを有するコアを作製した。」と、
段落【0041】には「(実施例1〜5および比較例1〜5)
上記のカバー用組成物を、上記のようにして得られたコア上に直接射出成形することによりカバー層を形成し、表面にペイントを塗装して、直径42.7mmを有するゴルフボールを作製した。」と、
段落【0044】には、実施例1〜3として、カバー曲げ剛性率F(MPa)が、「100、100、85」、ボールコンプレッションD(mm)(ゴルフボールの初期荷重98Nを負荷した状態から終荷重1275Nを負荷したときまでの変形量)が「4.0、3.2、3.6」のゴルフボール(表5)が記載されている。
してみると、上記訂正事項aは、特許明細書又は図面に記載されていた範囲内で、特許明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載されていた
「コア」が「直径36.7〜40.8mmを有」すると、
「カバーの曲げ剛性率80〜300MPa」を、「カバーの曲げ剛性率85〜100MPa」と、
「カバー」を「厚さ1.0〜3.0mmを有する」と、
「ゴルフボールの初期荷重98Nを負荷した状態から終荷重1275Nを負荷したときまでの変形量(D)3.0〜6.0mm」を、「ゴルフボールの初期荷重98Nを負荷した状態から終荷重1275Nを負荷したときまでの変形量(D)3.2〜4.0mm」と限定したものである。
ゆえに、上記訂正事項aは、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、上記訂正事項bは、上記訂正事項aに伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るため、発明の詳細な説明の記載を訂正したものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
そして、上記訂正事項a及びbは、いずれも、新規事項の追加に該当せず、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

3.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項および同条第3項において準用する第126条第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

第3.特許異議申し立てについての判断
1.記載不備について、
上述したように、訂正明細書の請求項1(以下、「本件請求項1」という。)の記載は、以下のとおりである。
「コアと該コアを被覆するカバーとから成るゴルフボールにおいて、
該コアが直径36.7〜40.8mmを有し、
該カバーが曲げ剛性率(F)80〜300MPaおよび厚さ1.0〜3.0mmを有し、
該ゴルフボールが、比重0.5以上1.0未満を有し、かつ初期荷重98Nを負荷した状態から終荷重1275Nを負荷したときまでの変形量(D)3.2〜4.0mmを有し、
該カバーの曲げ剛性率F(MPa)と該ボールの変形量D(mm)との比(F/D)が24〜31であることを特徴とする水上練習用ゴルフボール。」
一方、訂正明細書の発明の詳細な説明(以下、「本件の発明の詳細な説明」という。)の段落【0033】〜【0044】に記載された耐久性及び打球感の良否判定実験の内容及びその実験結果は、いずれも、コアの直径が38.5mm(段落【0033】)で、ボール直径が42.7mm(段落【0041】)のゴルフボール、すなわち、ペイント塗装層厚を0.1mmとすれば、コアの直径が38.5mmでカバーの厚さが2mm{ボール直径42.7-コア直径38.5-ペイント塗装層厚0.1×2)÷2}であるゴルフボールを対象にしたものである。
ところで、本件請求項1の、ゴルフボール(全体)の初期加重98Nを負荷した状態から終加重1275Nを負荷したときまでの変形量D(mm)なるものは、コアとカバーから成るゴルフボールにおいては、コアとカバーそれぞれの変形量(の組み合わせ)によって定まり、それぞれの変形量は、コアの直径及びカバーの厚さのそれぞれの値に応じて変わるものであるから、本件請求項1は、変形量D、カバーの曲げ剛性率F及びF/Dが同じであっても、コアの直径とカバーの厚さの値(の組み合わせ)が異なり、したがって、それぞれの変形量(の組み合わせ)が異なるものを含んでいる。
しかし、コアとカバーそれぞれの変形量(の組み合わせ)は、例えば、特開平8-276033号公報(申立人が提出した甲第1号証)の「コアに初期荷重10kgをかけた状態から終荷重130kgをかけたときまでの圧縮変形量Aとボールに初期荷重10kgをかけた状態から終荷重130kgをかけたときまでの圧縮変形量Bとの差(A-B)・・・が1.0mmより小さいときは、打出角を大きくし、スピン量を減少させて、飛距離を向上させたり、フィーリングを良好にさせることができず、また上記(A-B)が3.5mmより多くなると、コアの圧縮変形量Aとボールの圧縮変形量Bとの差が大きすぎるためにフィーリングが悪く、かつ耐久性が悪くなり」(段落【0008】参照、コアの圧縮変形量Aとボールの圧縮変形量Bとの差(A-B)は、コアとカバーの各変形量(の組み合わせ)如何と関係が大である)の記載にみられるように、ゴルフボールの耐久性及び打球感に無視できない影響を与えるものと考えられる。
そうであるのに、上述のとおり、本件請求項1は、コアの直径及びカバーの厚さについて、それぞれ、36.7〜40.8mm、1.0〜3.0mmと規定しており、他方、本件の発明の詳細な説明には、コアの直径及びカバーの厚さが、それぞれ、38.5mm、略2mmであるゴルフボールを対象にした実験結果が記載されているにとどまり、当該実験結果を、コアの直径及びカバーの厚さを、それぞれ、36.7〜40.8mm、1.0〜3.0mmであるものにまで一般化できる根拠が十分に説明されていない。
したがって、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明によって、裏付けられる発明であるとは認められないばかりでなく、本件の発明の詳細な説明は、当業者がその実施をできる程度に明確且つ十分に記載したものでない(委任省令要件違反)。
なお、特許権者は、平成17年10月11日付け意見書に同社社員大濱啓司作成の実験成績証明書を添付して、ゴルフボールのコアの直径が36.7〜40.8mmでカバーの厚さが1.0〜3.0mmの範囲にあるとカバーの曲げ剛性率F(MPa)と該ゴルフボールの変形量D(mm)と、それらの比F/D24〜31を満足し、すぐれた耐久性、打球感を有することを証明しようとし、ゴルフボールのコアの直径及びカバーの厚さがそれぞれ、36.7mm、3mmのもの、38.5mm、2.1mmのものが本件発明の効果を得られること、ゴルフボールのコアの直径及びカバーの厚さが、それぞれ、34.7mm、4mmのもの、42.1mm、0.3mmのものは、ボールコンプレッション(D)、比(F/D)共に本件発明の範囲外になることを立証している。しかしながら、特許出願後に実験データを提出して発明の詳細な説明の記載内容を記載外で補足することによって、その内容を特許請求の範囲に記載された発明の範囲まで拡張ないし一般化し、明細書のサポート要件に適合させることは、許されないうえ、上記実験成績証明書によっても、コアが直径36.7〜40.8mm、カバーが曲げ剛性率(F)85〜100MPaおよび厚さ1.0〜3.0mm、ゴルフボールが比重0.5以上1.0未満、初期荷重98Nを負荷した状態から終荷重1275Nを負荷したときまでの変形量(D)3.2〜4.0mm、比(F/D)が24〜31を満足するものが、満足しないものと比べて、格別の作用効果を奏するものとはいえない。
さらに、仮に、本件請求項1が、本件特許明細書に記載された実験例に合わせてコアの径を38.5mmでカバーの厚さを2mmと限定したものとしたとしても、Dを横軸とし、Fを縦軸としたDF平面上にプロットされた、耐久性が優れ且つ打球感が良好であるとする実施例の3個の点とそうでないとする比較例の7個の点、あわせて10個の点のみからは、F/D=24の直線とF/D=31の直線が、ゴルフボールにおける、耐久性が優れ且つ打球感が良好であるものとそうでないものとの間の一般的な境界線となるということができない。
以上のとおり、本件請求項1に係る発明の特許は、明細書の記載が不備であるため、特許法第36条第4項及び第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされている。

2.進歩性の欠如について、
(1)本件発明
上記第2.で示したように、訂正が認められるから、本件請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、本件請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである(上記訂正事項a参照)。
(2)引用刊行物に記載された発明
当審で通知した取消しの理由で引用した本件出願前に頒布された特開平7-51406号公報(特許異議申立人荒井純子提出の甲第4号証、以下、「刊行物1」という。)には、以下の事項が記載されている。
a.「【産業上の利用分野】本発明は、ゴルフボールに関する。さらに詳しくは、打球感およびコントロール性が良好で、かつ飛行特性が優れたゴルフボールに関する。」(段落【0001】)
b.「実施例8〜14および比較例8〜13(ツーピースソリッドゴルフボール)
コアの作製
ポリブタジエンゴム〔BR-11(商品名)、日本合成ゴム(株)製〕100重量部に対して、アクリル酸亜鉛36重量部、酸化亜鉛20重量部、ジクミルパーオキサイド1.2重量部および老化防止剤〔ヨシノックス425(商品名)、吉富製薬(株)製〕0.5重量部を配合したゴム組成物を160℃で25分間加硫成形することによって、ソリッドコアを得た。得られたコアの平均直径は38.2mmであった。
カバー用組成物
前記調製例1〜7および比較調製例1〜6で調製したペレット状のカバー用組成物を用いた。
ゴルフボールの製造
上記のカバー用組成物を射出成形により直接前記のソリッドコアに被覆してツーピースソリッドゴルフボールを得た。このボールにペイントを塗装して、直径42.7mmのゴルフボールに仕上げた。」(段落【0073】〜【0075】)
c.「表8には比較例8〜13のゴルフボールのボール重量、ボールコンプレッション、ボール初速、飛距離、打球感とコントロール性および製造にあたって使用したカバー用組成物の種類を示す。ただし、カバー用組成物は...比較調製例No.で示す。」(段落【0077】)
d.「比較例8〜12のゴルフボールは、打球感やコントロール性がそれほど悪くないものの、飛距離が実施例8〜14のゴルフボールに比べて3〜6ヤード劣っていた。」(段落【0084】)
e.【表4】から、比較調整例No2、No3、No5のカバー用組成物の曲げ剛性率が90MPaであることが看取できる。(段落【0057】)
f.【表8】から、比較例9、10,12は、カバー用組成物にそれぞれ比較調整例No2、No3、No5を用い、ボールコンプレッションがいずれも90であり、比較例9、10のボール重量が45.3、比較例12のボール重量が45.4であり、比較例9、10,12は、打球感とコントロール性が△であることが看取できる。(段落【0080】)
カバー厚さは、以下の式より約2.15mmと認められる。
カバー厚さ=(42.7mm(ゴルフボールの直径)-38.2mm(コアの直径)-0.1mm(ペイントの厚さ)*2)÷2≒2.15mm
ゴルフボールの比重は、以下の式より約1.10と認められる。
45.3÷[2.135cm(ゴルフボールの半径)3*3.14*4÷3]≒1.11
45.4÷[2.135cm(ゴルフボールの半径)3*3.14*4÷3]≒1.11
したがって、これら摘示のa.〜f.の記載を含む引用例1の全記載及び図示からみて、引用例1には、以下の発明が記載されているものと認める(以下、「引用発明」という。)。
「コアと該コアを被覆するカバーとから成るゴルフボールにおいて、
該コアが平均直径38.2mmで、
該カバーが曲げ剛性率90MPaで、厚さが約2.15mmで、
該ゴルフボールが、比重約1.1で、ボールコンプレッションが90であるゴルフボール。」
(3)本件発明と引用発明の一致点及び相違点の認定
本件発明と引用発明とを対比する。
平成14年10月24日付け拒絶理由通知に対する出願人の平成14年12月25日付け意見書の第9頁第13〜23行の記載(「ゴルフボール変形量が本願発明とは異なりPGA方式であるので、このままでは比較はできない。そこで、本願発明の初期荷重98Nを負荷した状態から終荷重1275Nを負荷したときまでの変形量(D)と、引用例1のPGA方式のボールコンプレッションとの値を実際に比較するために、特許異議申立人の佐藤美智子氏による平成11年5月24日付特許異議申立書(平成11年異議第72017号)第7頁下から第8〜9行に記載されているPGAボールコンプレッションと10→130kgf(98→1275N)荷重歪み(本願発明の変形量Dと同じ)との換算式:10→130kg荷重歪み=7.1248-0.0435×PGAコンプレッションを用いて換算する」)によれば、引用発明におけるボールコンプレッション90(PGA方式)(段落【0060】)は、初期荷重98Nを負荷した状態から終荷重1275Nを負荷したときまでの変形量(D)=7.1248-0.0435×90の換算式より、初期荷重98Nを負荷した状態から終荷重1275Nを負荷したときまでの変形量で表すと3.2098mmとなり、本件発明の3.2〜4.0mmの範囲に含まれている。
そして、カバーの曲げ剛性率F90MPaと該ボールの変形量D3.2098mmとの比(F/D)は、28.03913となり、本件発明の比(F/D)24〜31に含まれる。
したがって、両者は、
「コアと該コアを被覆するカバーとから成るゴルフボールにおいて、
該コアが直径36.7〜40.8mmを有し、
該カバーが曲げ剛性率(F)85〜100MPaおよび厚さ1.0〜3.0mmを有し、
該ゴルフボールが、初期荷重98Nを負荷した状態から終荷重1275Nを負荷したときまでの変形量(D)3.2〜4.0mmを有し、
該カバーの曲げ剛性率F(MPa)と該ボールの変形量D(mm)との比(F/D)が24〜31であるゴルフボール。」
で一致し、次の点で相違する。
[相違点]
ゴルフボールの比重が、本件発明では、1.0未満であるのに対し、引用発明では、約1.1である点
(4)相違点についての判断
同じく当審で通知した取消しの理由で引用した本件出願前に頒布された特開平6-327791号公報(特許異議申立人荒井純子提出の甲第3号証、以下、「刊行物2」という。)には、以下の事項が記載されている。
a.「水上練習用ゴルフボールの場合、何にもまして大切な特性は、水に浮く、すなわちボールの比重が1未満でなければならないということである。」(段落【0004】)
b.「また、ラウンドボールに近い硬さや打球感を持たせた2層構造の水上練習用ゴルフボールも提案されているが、カバーとコアの硬度が大きく異なるため、耐久性が非常に悪く、実用に耐えなかった。そのため、シンジオタック-1,2-ポリブタジエンを含有するポリブタジエンゴムを必須とする基材ゴムと、平均粒子径50μm以下の微粒子状高分子量ポリオレフィンを主材とする低比重のソリッドボール(特開昭62-142571号公報)や、それをベースに、耐圧強度140kg/cm2 以上の微小中空球体を配合した低比重のソリッドボール(特開平2-185274号公報)などが開発されてきた。」(段落【0007】〜【0008】)
c.「充填剤としては、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、クレー、酸化亜鉛などの通常の無機充填剤を用いることができるが、特に低比重とするために、微粒子状高分子量ポリオレフィンや微小中空球体を用いることが好ましい。上記の微粒子状高分子量ポリオレフィンは、低比重の補強性充填剤的な役割を果たし、ゴルフボールの硬度を高め、かつ耐久性を高めて、打球感を良好にする。このような微粒子状高分子量ポリオレフィンとしては、平均粒子径10〜50μmのものが好ましく...平均粒子径20μmで分子量200万以上の微粒子状高分子量ポリオレフィン)などが市販されており、本発明において好適に使用される。...上記のような微粒子状高分子量ポリオレフィンの配合量としては、ゴム成分100重量部に対して10〜40重量部にするのが好ましい。...上記微小中空球体は、平均粒子密度が0.37g/cc〜0.63g/ccと非常に軽く、これを配合することによって、低比重を保ちながら、打球感や、耐久性、飛距離などの向上に寄与する高比重の無機充填剤などが多く配合できるようになる。この微小中空球体としては、オープンロールやニーダーなどでの混練時に破壊されずに中空球体を保ち得るために、耐圧強度が140kg/cm2 以上のものが好ましい。そのような耐圧強度が140kg/cm2 以上の微小中空球体は、ガラス、セラミックスなど、各種の無機材料から作製されるが、本発明において好適に用い得るものとしては、たとえば、住友スリーエム(株)からグラスバブルズB37/2000、グラスバブルスB38/4000、グラスバブルズB46/4000、グラスバブルズS60/10000などの商品名で市販されているソーダ石灰ホウケイ酸ガラス製のものが挙げられる。...上記微小中空球体は、一般に直径が4〜250μmの範囲内にある微細な中空球体であって、ゴム組成物中への分散性が良好で、前述したように、ゴム組成物の比重を軽くし、打球感や、耐久性、飛距離などを向上させる無機充填剤などを多く配合できるようにさせるが、この微小中空球体の配合量としては、ゴム成分100重量部に対して2〜50重量部、特に2〜25重量部にするのが好ましい。...無機充填剤は、主として、硬度と衝撃強度を高め、ゴルフボールの耐久性を増加させ、かつ打球感、打球音を良くする役割を果たすが、これらの無機充填剤を多く配合すると、比重が大きくなって水に浮かなくなるので、これらの無機充填剤の配合量は、ゴム成分100重量部に対して1〜20重量部にするのが好ましい。」(段落【0023】〜【0030】)
刊行物2の摘示のa.、b.の記載によれば、コアと該コアを被覆するカバーとから成る比重1.0未満の水上練習用ゴルフボールは従来から周知であることが窺え、同摘示のa.、b.の記載によれば、ボールの比重を1.0未満にする方法も周知である。
そして引用発明のゴルフボールを、水上練習用ゴルフボールとすべく比重を1.0未満にすることに格別の阻害要因がなく、当業者が想到容易である。そうすれば、1.0未満とは限りなく1.0に近いものを含む(技術的には1.0未満も1.0も変りがない)から、引用発明の比重約1.1のボールを1.0にしたところで、その軽量化度合いからみてその軽量化したボールが本件発明を特定する他の値の範囲から外れたものとは考えられない。 したがって、本件発明は、引用発明及び周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

3.むすび
以上のとおりであるから、本件請求項1に係る発明の特許は、特許法第36条第4項及び第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるかまたは特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、本件請求項1に係る発明の特許は、特許法第113条第2号または第4号に該当し取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
水上練習用ゴルフボール
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】コアと該コアを被覆するカバーとから成るゴルフボールにおいて、
該コアが直径36.7〜40.8mmを有し、
該カバーが曲げ剛性率(F)85〜100MPaおよび厚さ1.0〜3.0mmを有し、
該ゴルフボールが、比重0.5以上1.0未満を有し、かつ初期荷重98Nを負荷した状態から終荷重1275Nを負荷したときまでの変形量(D)3.2〜4.0mmを有し、
該カバーの曲げ剛性率F(MPa)と該ボールの変形量D(mm)との比(F/D)が24〜31であることを特徴とする水上練習用ゴルフボール。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、優れた耐久性を有し、かつ良好な打球感を有する水上練習用ゴルフボールに関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に練習用ゴルフボールは、その用途によって2種類に大別される。一方は陸上で使用される練習用ゴルフボールであり、もう一方は池や湖などで使用される水上練習用ゴルフボールである。これらの練習用ゴルフボールに要求される性能は、第1に優れた耐久性であり、次いでラウンド用ゴルフボールと同等の良好な打球感を有することである。
【0003】
また、水上練習用ゴルフボールの場合には、これらに加えて打撃後の回収を容易にするために水に浮くことが必須条件となっており、ゴルフボールの比重が1.0未満であることが重要な条件となる。このような要求性能、即ち耐久性、打球感および比重を満たすものとして、従来より主としてワンピースゴルフボールが採用されてきた。これは上記の要求性能に対応するのに適しているためであるが、特に耐久性に優れることが最大の理由である。
【0004】
近年になって、前述のように練習用ゴルフボールにもラウンド用ゴルフボールにより近いものが求められるようになり、水上練習用ゴルフボールにもカバーを被覆させたいわゆるツーピースゴルフボールが用いられるようになった。低比重で水に浮き、かつラウンド用ゴルフボールに近い良好な打球感を有する水上練習用のツーピースゴルフボールが提案されている(特開平6-327791号公報等)。
【0005】
しかしながら、昨今のゴルフボール性能の著しい向上によって、ラウンド用ゴルフボールが非常に軟らかくて良好な打球感を有し、かつ高反発性能を有するようになった。従って、上記ゴルフボールが提案された頃には良好な打球感と評価されていたものの、従来の練習用ゴルフボールでは現状に即しておらず、非常に硬くて打球感が悪いという問題点があった。これは、コアが硬いことと、カバーの剛性が高すぎることによるものである。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、従来の水上練習場用ゴルフボールの有する問題点を解決し、優れた耐久性を有し、かつ良好な打球感を有する水上練習用ゴルフボールを提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、上記目的を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、コアとカバーから成るツーピースゴルフボールにおいて、カバーの曲げ剛性率、ボール比重、ボールに初期荷重98Nを負荷した状態から終荷重1275Nを負荷したときまでの変形量およびカバーの曲げ剛性率F(MPa)と該ボールの変形量D(mm)との比(F/D)を特定範囲内に規定することによって、優れた耐久性を有し、かつ良好な打球感を有する水上練習用ゴルフボールが得られることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、コアと該コアを被覆するカバーとから成るゴルフボールにおいて、
該コアが直径36.7〜40.8mmを有し、
該カバーが曲げ剛性率(F)85〜100MPaおよび厚さ1.0〜3.0mmを有し、
該ゴルフボールが、比重0.5以上1.0未満を有し、かつ初期荷重98Nを負荷した状態から終荷重1275Nを負荷したときまでの変形量(D)3.2〜4.0mmを有し、
該カバーの曲げ剛性率F(MPa)と該ボールの変形量D(mm)との比(F/D)が24〜31であることを特徴とする水上練習用ゴルフボールに関する。
【0009】
本発明のゴルフボールは、十分に軟らかいコアに剛性率の低いカバーを被覆することにより、ゴルフボール全体を軟らかくして良好な打球感を実現している。本発明では、ゴルフボールの軟らかさを示す初期荷重98Nを負荷した状態から終荷重1275Nを負荷したときまでの変形量(ボールコンプレッション)が3.0〜6.0mmであることを要件とするが、好ましくは3.2〜5.5mm、より好ましくは3.6〜4.0mmである。3.0mmより小さいとボールが硬くなり過ぎて打球感が悪くなり、6.0mmを超えると軟らかくなり過ぎて耐久性が著しく低下する。
【0010】
本発明のゴルフボールでは、水に浮くことが必要であるため、比重0.5以上1.0未満を有することを要件とするが、好ましくは0.8〜0.99、より好ましくは0.90〜0.98である。1.0以上となると水に浮かなくなり水上練習用ゴルフボールとしては使用できなくなり、0.5より小さくなるとボール重量も小さくなり、飛距離が低下するとともに、打球感が軽くなり過ぎてラウンド用ゴルフボールの打球感と大きく異なってしまう。
【0011】
本発明のゴルフボールでは、カバーが曲げ剛性率80〜300MPaを有することを要件とするが、好ましくは80〜200MPa、より好ましくは85〜170MPaである。80MPaより小さいとカバー自体が軟らかくなり過ぎて打撃によって傷がつきやすくなり耐久性が低下し、300MPaより大きいとコアを軟らかくしてもボール全体が硬くなり過ぎて打球感が悪くなる。
【0012】
本発明のゴルフボールでは、前述のように、ゴルフボールの初期荷重98Nを負荷した状態から終荷重1275Nを負荷したときまでの変形量を3.0mm以上にすることにより、良好な打球感を有するゴルフボールとなる。しかしながら、このような変形量の大きなゴルフボールの場合には、耐久性が低下するという問題が残る。従来の考え方ではボール変形量を小さいまま耐久性を向上するためには、カバーの曲げ剛性率を大きくする方法が考えられる。しかしながら、ボール変形量を大きくしてカバーの曲げ剛性率を大きくすると、カバーとコアとの剛性率の差が大きくなり過ぎて打撃時の変形により両者間の剪断歪が大きくなって耐久性を向上することにはならない。
【0013】
そこで本発明者等は、これまで注目されることのなかったカバーの曲げ剛性率F(MPa)とボールの初期荷重98Nを負荷した状態から終荷重1275Nを負荷したときまでの変形量(D)との比(F/D)に着目し、上記変形量(D)を大きくしたゴルフボールの場合には、比(F/D)を50以下にすれば上記剪断歪を小さくすることができ耐久性を向上することを見出した。比(F/D)が50を超えると、カバーだけが硬くなり過ぎて、コアにかかる応力が大きくなってコアが損傷し易くなり、また大きなボール変形量に対してカバーの変形量が小さくなり過ぎて、カバーとコアとの間の剪断歪が大きくなってカバーが損傷し易くなり耐久性が低下する。従って、比(F/D)の上限は50以下、好ましくは40以下、より好ましくは35以下、最も好ましくは31以下であるのがよい。尚、比(F/D)が小さくなり過ぎるとカバーが軟らかくなってカバー自体の耐久性が低下するため、上記比(F/D)の下限は15以上、好ましくは18以上、より好ましくは24以上とするのがよい。
【0014】
以下、本発明について更に詳細に説明すると、本発明の水上練習用ゴルフボールは、コアと該コアを被覆するカバーとから成るツーピースゴルフボールである。本発明のゴルフボールに用いられるコアは、基材ゴム、共架橋剤、有機過酸化物および充填材を必須成分として含有するゴム組成物の加硫成形物から成る。
【0015】
基材ゴムは、従来からゴルフボールに用いられているものであればよいが、特にシス-1,4-結合少なくとも40%以上、好ましくは80%以上を有するポリブタジエンゴムが好ましい。また本発明に用いられるポリブタジエンゴムは、比重増加につながる無機充填材を多量に使用しなくてもゴルフボールに適度な硬さ、即ちコンプレッションを付与し、好適な打球感および耐久性を付与するために、高結晶性および高融点を有するシンジオタクチック-1,2-ポリブタジエン5〜30%およびシス-1,4-ポリブタジエン40%以上を含有するポリブタジエンゴムであってもよい。このようなポリブタジエンゴムの具体例としては、宇部興産(株)から市販の「UBEPOL-VCR309」(商品名、組成:シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエン9%、シス-1,4-ポリブタジエン89%およびトランス-1,4-ポリブタジエン2%)、「UBEPOL-VCR412」(商品名、組成:シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエン12%、シス-1,4-ポリブタジエン86%およびトランス-1,4-ポリブタジエン2%)等が挙げられる。
【0016】
また、所望により上記ポリブタジエンゴムには、天然ゴム、ポリイソプレンゴム、ポリクロロプレンゴム、ポリブチルゴム、スチレンポリブタジエンゴム(SBR)、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、アクリニトリルゴム等を配合してもよい。使用する場合、配合量は、基材ゴム100重量部に対して、ポリブタジエンゴムが50重量部以上となるようにすることが好ましい。
【0017】
共架橋剤としては、別々に配合しゴム組成物の混合中に反応させてα,β-不飽和カルボン酸の金属塩とするアクリル酸またはメタクリル酸等のような炭素数3〜8個のα,β-不飽和カルボン酸と酸化亜鉛等の金属酸化物との組合せや、元からα,β-不飽和カルボン酸の金属塩の形のもの(例えば、アクリル酸亜鉛、メタクリル酸亜鉛等)や、それらの混合物が挙げられる。配合量はα,β-不飽和カルボン酸の金属塩の場合、基材ゴム100重量部に対して、5〜30重量部、好ましくは5〜20重量部である。30重量部より多いと比重が大きくなるため低比重充填材の配合量が多くなって耐久性が低下したり、コアが硬くなって打球感が悪くなる。5重量部未満では、得られるゴルフボールの反発性が低下する。α,β-不飽和カルボン酸と金属酸化物との組合せの場合、α,β-不飽和カルボン酸は3〜20重量部、好ましくは5〜15重量部であり、金属酸化物は3〜20重量部、好ましくは5〜15重量部である。
【0018】
有機過酸化物としては、例えばジクミルパーオキサイド、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジ-t-ブチルパーオキサイド等が挙げられ、ジクミルパーオキサイドが好適である。配合量は基材ゴム100重量部に対して、0.1〜5.0重量部、好ましくは0.5〜3.0重量部である。0.1重量部未満ではコアが軟らかくなり過ぎて反発性が低下し、5.0重量部を越えると硬くなり過ぎ脆くなって耐久性が低下したり、打球感が悪くなる。
【0019】
充填材としては、ゴルフボールに通常配合されるものであればよく、例えば無機充填材、具体的には、酸化亜鉛、硫酸バリウム、炭酸カルシウム等が挙げられるが、低比重にするため微粒子状高分子量ポリオレフィンや微小中空体を用いることが好ましい。微粒子状高分子量ポリオレフィンとしては、平均粒子径10〜50μmのものが好ましく、具体的な例としては三井石油化学工業(株)から市販の「ミペロンXM-220」(商品名、平均粒子径20μm、分子量200万以上)等が挙げられる。微小中空体としては、ガラス、セラミック等の無機材料から作製されるものと、アクリロニトリル-メタクリロニトリル共重合体や塩化ビニリデン-アクリルニトリル共重合体等の有機材料から作製されるものとがある。具体的な例としては、それぞれ、住友スリーエム(株)から商品名「グラスバブルズ」で市販されているソーダ石灰ホウ珪酸ガラス製の微小中空球体(例えば、「グラスバブルズB37/2000」、「グラスバブルズB38/4000」、「グラスバブルズB46/4000」、「グラスバブルズS60/10000」等)、ケマ・ノーバル社から商品名「エクスパンセル」で市販されているメタアクリロニトリルとアクリロニトリルの共重合体(例えば、「エクスパンセル091DE」、「エクスパンセル091DE80」等)が挙げられる。配合量は、基材ゴム100重量部に対して1〜30重量部、好ましくは5〜20重量部である。1重量部未満では軽量化効果が達成できず、30重量部を越えると耐久性が低下し易くなる。
【0020】
更に、本発明に用いられるコアには、ゴルフボールに硬さを付与するために、ハイスチレン樹脂等を配合してもよい。その他、軟化剤、液状ゴムまたは老化防止剤等を適宜配合してもよい。
【0021】
本発明のゴルフボールのコアは、上記成分を混合し、混線ロール、ニーダー等の混線機を用いて混線したゴム組成物を、金型内で、例えば130〜170℃で10〜30分間加熱プレスして加硫することによって得られる。本発明のゴルフボールのコアは、直径36.5〜42.5mm、好ましくは36.7〜40.8mmを有することが望ましい。36.5mmより小さいとカバーが厚くなって衝撃が大きくなったり、コアの体積が小さくなって反発性が低下し、42.5mmより大きいとカバーが薄くなって耐久性が低下する。
【0022】
次いで、上記コア上にはカバーを被覆する。本発明では、カバーは厚さ0.3〜3.5mm、好ましくは1.0〜3.0mmを有することが望ましいが、0.3mmより小さいとカバー自体の耐久性が低下し、3.5mmより大きいとコアの体積が小さくなり、また打撃時にコアに及ぶ変形量が小さくなって反発性が低下する。
【0023】
本発明のカバーは、前述のような特性を満たせば特に限定されないが、熱可塑性樹脂、特に通常ゴルフボールのカバーに用いられるアイオノマー樹脂を基材樹脂として含有する。上記アイオノマー樹脂としては、エチレンとα,β-不飽和カルボン酸との共重合体中のカルボキシル基の少なくとも一部を金属イオンで中和したもの、またはエチレンとα,β-不飽和カルボン酸とα,β-不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体中のカルボキシル基の少なくとも一部を金属イオンで中和したものである。上記のα,β-不飽和カルボン酸としては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸、クロトン酸等が挙げられ、特にアクリル酸とメタクリル酸が好ましい。また、α,β-不飽和カルボン酸エステル金属塩としては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸等のメチル、エチル、プロピル、n-ブチル、イソブチルエステル等が用いられ、特にアクリル酸エステルとメタクリル酸エステルが好ましい。上記エチレンとα,β-不飽和カルボン酸との共重合体中や、エチレンとα,β-不飽和カルボン酸とα,β-不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体中のカルボキシル基の少なくとも一部を中和する金属イオンとしては、ナトリウム、カリウム、リチウム、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、バリウム、アルミニウム、錫、ジルコニウム、カドミウムイオン等が挙げられるが、特にナトリウム、亜鉛、マグネシウムイオンが反発性、耐久性等からよく用いられ好ましい。
【0024】
上記アイオノマー樹脂の具体例としては、それだけに限定されないが、ハイミラン1555、1557、1605、1652、1702、1705、1706、1707、1855、1856、AM7316(三井デュポンポリケミカル社製)、サーリン(SURLYN)8945、9945、6320、8320、AD8511、AD8512、AD8542(デュポン社製)、アイオテック(IOTEK)7010、8000(エクソン(Exxon)社製)等を例示することができる。これらのアイオノマーは、上記例示のものをそれぞれ単独または2種以上の混合物として用いてもよい。
【0025】
更に、本発明のカバーの好ましい材料の例としては、上記のようなアイオノマー樹脂のみであってもよいが、アイオノマー樹脂と熱可塑性エラストマーやジエン系ブロック共重合体等の1種以上とを組合せて用いてもよい。上記熱可塑性エラストマーの具体例として、例えば東レ(株)から商品名「ペバックス」で市販されている(例えば、「ペバックス2533」)ポリアミド系熱可塑性エラストマー、東レ・デュポン(株)から商品名「ハイトレル」で市販されている(例えば、「ハイトレル3548」、「ハイトレル4047」)ポリエステル系熱可塑性エラストマー、武田バーディシュ(株)から商品名「エラストラン」で市販されている(例えば、「エラストランET880」)ポリウレタン系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
【0026】
上記ジエン系ブロック共重合体は、ブロック共重合体または部分水添ブロック共重合体の共役ジエン化合物に由来する二重結合を有するものである。その基体となるブロック共重合体とは、少なくとも1種のビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックAと少なくとも1種の共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックBとから成るブロック共重合体である。また、部分水添ブロック共重合体とは、上記ブロック共重合体を水素添加して得られるものである。ブロック共重合体を構成するビニル芳香族化合物としては、例えばスチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、p-t-ブチルスチレン、1,1-ジフェニルスチレン等の中から1種または2種以上を選択することができ、スチレンが好ましい。また、共役ジエン化合物としては、例えばブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン等の中から1種または2種以上を選択することができ、ブタジエン、イソプレンおよびこれらの組合せが好ましい。好ましいジエン系ブロック共重合体の例としては、エポキシ基を含有するポリブタジエンブロックを有するSBS(スチレン-ブタジエン-スチレン)構造のブロック共重合体またはエポキシ基を含有するポリイソプレンブロックを有するSIS(スチレン-イソプレン-スチレン)構造のブロック共重合体等が挙げられる。上記ジエン系ブロック共重合体の具体例としては、例えばダイセル化学工業(株)から商品名「エポフレンド」市販されているもの(例えば、「エポフレンドA1010」)が挙げられる。
【0027】
上記の熱可塑性エラストマーやジエン系ブロック共重合体等の配合量は、カバー用の基材樹脂100重量部に対して、1〜60重量部、好ましくは1〜35である。1重量部より少ないとそれらを配合することによる打球時の衝撃低下等の効果が不十分となり、60重量部より多いとカバーが軟らかくなり過ぎて反発性が低下したり、またアイオノマーとの相溶性が悪くなって耐久性が低下しやすくなる。
【0028】
本発明に用いられるカバーには、上記樹脂以外に必要に応じて、種々の添加剤、例えば二酸化チタン等の顔料、分散剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤等を添加してもよい。
【0029】
上記カバーを被覆する方法は、特に限定されるものではなく、通常のゴルフボールのカバーを被覆する方法で行うことができる。カバー用組成物を予め半球殻状のハーフシェルに成形し、それを2枚用いてコアを包み、130〜170℃で1〜5分間加圧成形するか、または上記カバー用組成物を直接コア上に射出成形してコアを包み込む方法が用いられる。そして、カバー成形時に、必要に応じて、ボール表面にディンプルを形成し、また、カバー成形後、ペイント仕上げ、スタンプ等も必要に応じて施し得る。
【0030】
本発明のゴルフボールのボール直径は、通常のラージサイズボールの規格42.67mm以上に適するように、42.67〜42.90mmとすることが好ましい。
【0031】
本発明では、優れた耐久性を有し、かつ良好な打球感を有する水上練習用ゴルフボールを提供する。
【0032】
【実施例】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明する。但し、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0033】
コアの作製
以下の表1(実施例)および表2(比較例)に示した配合のゴム組成物を混合、混線し、半球状キャビティーを有する上下金型内で155℃で16分間、次いで165℃で8分間加熱プレスして、直径38.5mmを有するコアを作製した。
【0034】
【表1】


【0035】
【表2】

【0036】
(注1)JSR(株)から商品名「BR11」で市販のシス-1,4-ポリブタジエンゴム(シス-1,4-ポリブタジエン含量96%)
(注2)宇部興産(株)から商品名「UBEPOL-VCR412」で市販のシンジオタクチック-1,2-ポリブタジエン12重量%、シス-1,4-ポリブタジエン86重量%およびトランス-1,4-ポリブタジエン2重量%の組成を有するポリブタジエンゴム
(注3)三井石油化学工業(株)から商品名「ミペロンXM-220」で市販の微粒子状超高分子量ポリオレフィン、平均粒子径20μm、分子量200万以上
(注4)日本ゼオン(株)から商品名「Nipol 2007J」で市販のハイスチレン樹脂
(注5)住友スリーエム(株)から市販の耐圧強度69MPaおよび平均粒子密度0.60g/ccを有するソーダ石灰ホウ珪酸ガラス製の微小中空球体
【0037】
カバー用組成物の調製
以下の表3(実施例)および表4(比較例)に示した配合の材料を、二軸混練型押出機によりミキシングして、ペレット状のカバー用組成物を調製した。押出条件は、スクリュー径45mm、スクリュー回転数200rpm、スクリューL/D=35であり、配合物は押出機のダイの位置で150〜260℃に加熱された。得られたカバー用組成物の曲げ剛性率は、約2mm厚さの熱プレス成形シートを23℃で2週間保存後、ASTM D-2240に準じて測定し、その結果を表5(実施例)および表6(比較例)に示した。
【0038】
【表3】


【0039】
【表4】

【0040】
(注6)三井デュポンポリケミカル(株)製のナトリウムイオン中和エチレン-メタクリル酸共重合系アイオノマー樹脂
(注7)三井デュポンポリケミカル(株)製のナトリウムイオン中和エチレン-メタクリル酸共重合系アイオノマー樹脂
(注8)三井デュポンポリケミカル(株)製の亜鉛イオン中和エチレン-メタクリル酸共重合体系アイオノマー樹脂
(注9)三井デュポンポリケミカル(株)製の亜鉛イオン中和エチレン-メタクリル酸共重合体系アイオノマー樹脂
(注10)三井デュポンポリケミカル(株)製の亜鉛イオン中和エチレン-イソブチルアクリレート-メタクリル酸三元共重合体系アイオノマー樹脂
(注11)三井デュポンポリケミカル(株)製のナトリウムイオン中和エチレン-アクリル酸エステル-メタクリル酸三元共重合系アイオノマー樹脂
(注12)三井デュポンポリケミカル(株)製の亜鉛イオン中和エチレン-n-ブチルアクリレート-メタクリル酸三元共重合体系アイオノマー樹脂
(注13)デュポン社製のナトリウムイオン中和エチレン-メタクリル酸共重合系アイオノマー樹脂
【0041】
(実施例1〜3および比較例1〜7)
上記のカバー用形成物を、上記のようにして得られたコア上に直接射出成形することによりカバー層を形成し、表面にペイントを塗装して、直径42.7mmを有するゴルフボールを作製した。得られたゴルフボールの比重、コンプレッション、耐久性および打球感を測定または評価し、その結果を表5および表6に示した。試験方法は以下の通り行った。
【0042】
(試験方法)
▲1▼耐久性
ツルーテンパー社製スイングロボットにメタルヘッド製ウッド1番クラブ(ドライバー、W#1)を取り付け、ゴルフボールをヘッドスピード45m/秒に設定して打撃して衝突板に衝突させ、ゴルフボールに破壊が生じるまでの打撃回数を測定し、比較例1の上記回数を100とした時の指数で示した。この数値が大きい程、耐久性が優れていることを示す。
【0043】
▲2▼打球感
ゴルファー10人によるドライバーでの実打テストで打撃時の衝撃の大きさを評価する。評価基準は以下の通りである。ゴルファー10人によるメタルヘッド製ウッド1番クラブ(ドライバー、W#1)を用いた実打テストにより打撃時の衝撃の大きさを評価した。評価は下記の判定基準により行った。最も多い評価をそのゴルフボールの結果とした。
判定基準
○:衝撃が小さくて良好な打球感である
△:普通
×:衝撃が大きくて悪い打球感である
【0044】
(試験結果)
【表5】

【0045】
【表6】

【0046】
以上の結果から、本発明の実施例1〜3のゴルフボールは、比重がすべて1.0未満であるため水に浮き、比較例1〜7のゴルフボールに比べて、打球感が良好でかつ耐久性に優れていることがわかった。
【0047】
これに対して、比較例1のゴルフボールは、カバーの曲げ剛性率が小さく、比(F/D)が小さいため、打球感は良好であるものの、カバーが軟らかくなり過ぎて損傷しやすくなり耐久性が悪くなっている。比較例2のゴルフボールは、カバーの曲げ剛性率が大きく、比(F/D)が大きいため、カバーが硬くなり過ぎて打球感が悪く、またカバーがボールの変形に追随できないため耐久性が悪くなっている。
【0048】
比較例3のゴルフボールは、ボールコンプレッションが小さいため、耐久性は優れるものの、ボールが硬くなり過ぎて打球感が悪くなっている。比較例4のゴルフボールは、ボールコンプレッションが大きいため、打球感は優れるものの、ボールが軟らかくなり過ぎて耐久性が悪くなっている。
【0049】
比較例5のゴルフボールは、カバーの曲げ剛性率およびボールコンプレッション共に本発明の範囲内であるが、比(F/D)が大きいため、カバーだけが硬くなり過ぎて打球感が若干悪くなり、またコアが損傷しやすくなり、加えてカバーがボールの変形に追随できないため耐久性が若干悪くなっている。比較例6のゴルフボールは、カバーの曲げ剛性率およびボールコンプレッション共に本発明の範囲内であるが、比(F/D)が小さいため、打球感は良好であるが耐久性が悪いものとなっている。比較例7のゴルフボールは、カバーの曲げ剛性率およびボールコンプレッション共に本発明の範囲内であるが、比(F/D)が大きいため、打球感は良好であるが耐久性が悪いものとなっている。即ち、単にカバーの曲げ剛性率(F)およびボールコンプレッション(D)を特定範囲内に規定するだけでは本発明のゴルフボールは得られず、それらに加えて比(F/D)を特定範囲内に規定することにより本発明のゴルフボールを得ることができる。
【0050】
【発明の効果】
本発明では、コアとカバーから成るツーピースゴルフボールにおいて、ボール比重、カバーの曲げ剛性率、ボールに初期荷重98Nを負荷した状態から終荷重1275Nを負荷したときまでの変形量、およびカバーの曲げ剛性率F(MPa)と該ボールの変形量D(mm)との比(F/D)を特定範囲内に規定することによって、優れた耐久性を有し、かつ良好な打球感を有する水上練習用ゴルフボールを提供することができる。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2006-01-20 
出願番号 特願2000-141548(P2000-141548)
審決分類 P 1 651・ 536- ZA (A63B)
P 1 651・ 121- ZA (A63B)
P 1 651・ 537- ZA (A63B)
最終処分 取消  
前審関与審査官 小林 英司  
特許庁審判長 番場 得造
特許庁審判官 藤井 靖子
藤井 勲
登録日 2003-08-15 
登録番号 特許第3463019号(P3463019)
権利者 SRIスポーツ株式会社
発明の名称 水上練習用ゴルフボール  
代理人 豊田 武久  
代理人 山本 宗雄  
代理人 青山 葆  
代理人 山本 宗雄  
代理人 青山 葆  

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