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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B05D
管理番号 1137790
異議申立番号 異議2003-72123  
総通号数 79 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2002-05-21 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-08-25 
確定日 2006-03-15 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3380226号「耐候性コーティング膜の製造方法」の請求項1ないし5に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3380226号の請求項1ないし4に係る特許を取り消す。 
理由 1.手続の経緯
本件特許3380226号は、2000年11月15日に特許出願され、2002年12月13日にその特許権の設定が登録され(発明の数5)、その後、特許異議申立人 峯村節子(以下、「申立人A」という。)、及び、同 株式会社日本触媒(以下、「申立人B」という。)から、特許異議の申立てがされ、取消理由が通知されて、その指定期間内である平成17年5月24日に特許異議意見書が提出されるとともに、訂正請求がされ、さらに、特許権者に対する審尋がされて、平成17年10月24日付けで、特許権者から回答書が提出されたものである。

2.訂正の適否についての判断
2-1.訂正請求の内容
特許権者が求めている訂正の内容は、以下の訂正事項aである。
(1)訂正事項a
請求項5を削除する。
2-2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項a
訂正事項aは、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められ、明らかに、特許明細書に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
2-3.まとめ
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項並びに同条第3項において準用する同法第126条第2〜4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.本件特許に係る発明
「2.訂正の適否についての判断」で述べたとおり、訂正が認められるので、本件特許の請求項1〜4に係る発明(以下、「本件発明1」〜「本件発明4」という。)は、それぞれ、本件特許の訂正後の明細書の特許請求の範囲の請求項1〜4に記載されるとおりの以下のものである。
「【請求項1】 バインダーと硬化剤を主成分とする耐候性コーティング材を調製し、該コーティング材で被塗装物品を被覆し乾燥することによって、カーボンサンシャインウエザオメーターによる促進耐候性試験において80%以上の光沢保持率を1000時間以上維持する耐候性コーティング膜を製造する方法であって、
380nmより短い波長域に光の吸収スペクトルが極大値を有し吸収極大波長における分子吸光係数が5000から50000である紫外線吸収能を有する化合物を、コーティング材を構成するバインダー又は硬化剤のいずれか一方若しくは双方に化学的に結合させ、
コーティング材を被覆し乾燥したときに乾燥コーティング膜中の紫外線吸収能を有する化合物残基の濃度C(モル/L)が、式
εdC≧ 129・logτ - 367
(ここに、εは乾燥被膜中の該化合物残基の分子吸光係数、dは使用するときの乾燥被膜の厚み(cm)、τは使用用途に応じて要求される80%以上の光沢保持率を示す促進耐候性試験の暴露時間を表す)を満足する濃度になるように前記結合及びコーティング材の構成を設定してコーティング材を調製し、乾燥被膜の厚みが上記dになるように被覆し乾燥することを特徴とする耐候性コーティング膜の製造方法。
【請求項2】 請求項1における化合物を結合したバインダーが、重合可能なビニル基を持つ紫外線吸収能を有する化合物と他の重合可能なビニル基を持つ単量体を重合してなる樹脂である、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】 請求項1における化合物を結合した硬化剤が、活性水素を持つ紫外線吸収能を有する化合物と少なくとも2個の遊離イソシアネート基を有するイソシアネートプレポリマー及び/又は単量体のイソシアネート基の一部とを反応して得られる残存するイソシアネート基を含有するイソシアネート化合物を必須成分としてなり、必要に応じイソシアネートプレポリマーを配合してなる、硬化剤である、請求項1記載の製造方法。
【請求項4】 請求項1における紫外線吸収能を有する化合物が、ベンゾトリアゾール系、又はベンゾフェノン系の化合物からなる群から選択される化合物である、請求項1記載の製造方法。」

4.特許異議の申立てについての判断
4-1.特許異議の申立ての理由の概要及び当審が通知した取消理由の概要
4-1-1.申立人Aが主張する取消理由の概要
申立人Aは、以下の甲第1〜5号証を提出して、特許査定時の請求項1〜5に係る発明は、甲第1〜5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、特許査定時の請求項1〜5に係る特許は取り消されるべきである旨、を主張している。
甲第1号証: 特開平8-151415号公報
甲第2号証: 特開平11-77878号公報
甲第3号証: 特開平11-77877号公報
甲第4号証: 特開平11-323187号公報
甲第5号証: 特開平10-34840号公報

4-1-2.申立人Bが主張する取消理由の概要
申立人Bは、以下の甲第1〜4号証を提出して、以下の理由B1〜B5により、特許査定時の請求項1〜5に係る特許は取り消されるべきである旨を主張しているものと認める。

理由B1: 特許査定時の請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当する。
理由B2: 特許査定時の請求項1〜5に係る発明は、甲第1〜4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。
理由B3: 特許査定時の請求項5の記載では、耐候性コーティング材が特定されないから、本件特許明細書は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
理由B4: 特許査定時の請求項1〜4の記載では、請求項1〜4に係る発明の技術的範囲が特定できず不明確であるから、本件特許明細書は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
理由B5: 特許査定時の請求項1〜4に係る発明については、本件特許明細書の発明の詳細な説明に裏付けがないから、当業者がこれら発明を実施することができない。(なお、理由B5は、申立人Bの「特許法第36条第4項違反」との主張、及び、異議申立書第14ページの記載から、当審が認定した。)

甲第1号証: 特開平9-3394号公報
甲第2号証: 日本ペイント株式会社著「やさしい技術総説 塗料の性格と機能 21世紀への知識と応用」(日本塗料新聞社、1998年4月16日発行)第424、425ページ
甲第3号証: カタログ「反応型紫外線吸収剤 RUVA-93」(大塚化学株式会社)表紙、第2ページ、裏表紙
甲第4号証: 株式会社日本触媒高分子研究所 野田信久が、平成15年8月19日付けで作成した試験成績報告書

4-1-3.当審が通知した取消理由の概要
特許査定時の明細書の請求項1〜5の記載には、以下(1)〜(7)の不備があり、請求項1〜5に係る発明が明確でなく、本件特許明細書は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、請求項1〜5に係る特許は取り消すべきものである。

・特許査定時の請求項1、及び、請求項1を引用する請求項2〜4について:
(1)請求項1に記載された式における「(コーティング材を被覆し乾燥したときに乾燥コーティング膜中の紫外線吸収能を有する化合物残基の)濃度C(モル/L)」が、具体的に何を意味するのかが不明である。
(2)発明を特定するための要件である、「カーボンサンシャインウエザオメーターによる促進耐候性試験」における光沢保持率が何かが不明である。
すなわち、発明の詳細な説明において、「カーボンサンシャインウエザオメーターによる促進耐候性試験」については、「カーボンサンシャインウエザオメーターで2500時間の促進テストを行」(段落0041)ったとの記載しかなく、使用装置や、温度、湿度等の実験条件も不明であるから、該試験による80%以上の光沢保持率の技術的な意味内容が、当業者にとって一義的に定まるものとは認められない。
(耐候性コーティング膜の製造の技術分野において、促進耐候性試験の試験条件が一義的に定められていることが疎明されれば、この点についての不備は解消する。)
(3)「紫外線吸収能を有する化合物」については、明細書の段落0008、0009、0011などに多くの化合物が示されているが、これらの化合物は紫外線吸収の原理及び吸収能において種々のものが含まれており、実施例に示されたもの(ベンゾトリアゾール系化合物)以外の、あらゆる「紫外線吸収能を有する化合物」について、同等の効果が奏されるかどうかは確認できない。
(4)請求項1に記載された式の右辺「129・logτ-367」については、理論的な導出過程は示されておらず、実施例及び比較例等として臨界的意義が示されているものでもないから、発明の範囲が不明確である。
特に、実施例に示されたもの(ベンゾトリアゾール系化合物)以外の紫外線吸収剤についても、同一の係数及び定数の式が適合するものとは認められない。
(5)紫外線吸収剤が、吸収スペクトルの極大値を複数有する場合、「吸収極大波長における分子吸光係数」が何を意味するかが不明である。
すなわち、吸収スペクトルの極大値を複数有する場合、すべての「吸収極大波長における分子吸光係数」が5000〜50000なのか? いずれかの「吸収極大波長における分子吸光係数」が5000〜50000であればよいのか? どちらの意味であるのかが不明であるから、発明の範囲が不明確である。

・特許査定時の請求項5について:
(6)請求項1〜4について指摘した(1)〜(5)と同じ不備がある。
(7)請求項5の記載では、塗料が特定されないから、請求項5に係る発明が明確でない。

4-2.当審が通知した取消理由についての検討
4-2-1.本件特許に係る発明と特許査定時の発明
「2.訂正の適否についての判断」及び「3.本件特許に係る発明」で述べたように、本件特許に係る訂正請求は、特許査定時の請求項5を削除するものであり、本件発明1〜4は、それぞれ、特許査定時の請求項1〜4に係る発明と変わっていない。
したがって、当審が通知した取消理由で、特許査定時の請求項5について指摘した(6)、(7)の不備は、もはや存し得ない。そこで、同じく本件発明1〜4に関して指摘した(1)〜(5)の不備が解消されているかどうかを検討する。

4-2-2.「(1)」の不備についての検討
特許権者は、意見書において、「コーティング材を被覆し乾燥したときに乾燥コーティング膜中の紫外線吸収能を有する化合物残基の濃度C(モル/L)」とは、特許明細書の段落0034の記載等からみても、「コーティング材を被覆し乾燥したときの乾燥コーティング膜1リットル当たり存する紫外線吸収能を有する化合物残基のモル数」を意味することは明らかである、と主張している。
この主張は、妥当かつ合理的なものと認められるから、本件発明1〜4に関して指摘した「(1)」の不備は存しない。

4-2-3.「(2)」の不備についての検討
4-2-3-1.取消理由通知の趣旨
先に「4-1-3.当審が通知した取消理由」で述べた、(2)の不備の指摘は、
発明の詳細な説明において、「カーボンサンシャインウエザオメーターによる促進耐候性試験」については、「カーボンサンシャインウエザオメーターで2500時間の促進テストを行」(段落0041)ったとの記載しかなく、使用装置や、温度、湿度等の実験条件も不明であるから、該試験による80%以上の光沢保持率の技術的な意味内容が、当業者にとって一義的に定まるものとは認められず、したがって、本件発明1〜4を特定するための要件である、「カーボンサンシャインウエザオメーターによる促進耐候性試験」における光沢保持率が何かが特定できないから、本件発明1〜4が明確でないという趣旨である。

4-2-3-2.意見書における特許権者の主張
これに対して、特許権者は、平成17年5月24日付けの特許異議意見書(以下、「意見書」という。)において、同試験の実験条件は、当業者の技術常識に鑑みれば一義的に定まるものであり、同試験による光沢保持率の技術的意味内容は明確である、と主張し、その根拠について、
1)カーボンサンシャインウエザオメーターによる促進耐候性試験は、塗膜の耐候性評価のために最も一般的に用いられている試験であり、当業者にとって技術常識である。
2)カーボンサンシャインウエザオメーターによる促進耐候性試験の実験条件は、JIS等の規格で共通の一般的条件が定められており、当業者にとって技術常識である、
3)カーボンサンシャインウエザオメーターによる促進耐候性試験の実験条件として、特殊な環境での被曝を想定して条件変更することはあるが、本件発明においては、一般的な条件での試験が妥当する、
4)JIS等の規格における一般的条件では、2つの降雨サイクルが提示されているが、「60分照射周期中12分降雨」の降雨サイクル条件が、我国における降水量及び降水日数の多さを踏まえれば、一般的条件としてより適切であることが周知徹底されており、当業者に自明である、
5)我国で広く一般的に用いられている試験機(本発明者が使用した試験機である)の取り扱い説明書では、「60分照射周期中12分降雨」を用いる方法が標準的試験条件として記載されている、
と主張している。

4-2-3-3.特許権者の主張の検討
「4-2-3-2.意見書における特許権者の主張」における具体的な主張1)〜5)について、順次検討する。
(1)主張1)について
本件各発明は、本件特許明細書の段落0001に、「【発明の属する技術分野】
本発明は、屋上防水、建築物の床及び外壁等の建築物、建材、テニスコートや陸上競技場のスポーツ施設の他、屋外に設置される道路標識などの表示のための構造物、あるいは自動車、家電製品、木工製品、プラスチック成型品、あるいは印刷物等の保護被覆、さらには光に対して不安定な物質の表面コート材等に用いられ、長期間の屋外使用に必要な光沢保持性、耐変色性、耐クラック性等の耐候性に優れたコーティング膜を製造する方法…に関するものである。」と記載されるように、周知の広範な用途に適用するための耐候性に優れたコーティング膜を製造する方法に関するものであるから、最も一般的に用いられていると解されるカーボンサンシャインウエザオメーターによる促進耐候性試験を採用することは、当業者にとって技術常識であるといえる。
したがって、特許権者の主張1)自体は妥当なものと認める。

(2)主張2)について
カーボンサンシャインウエザオメーターによる促進耐候性試験に関して、JIS等の標準的な規格が存在すること自体は技術常識であると認められる。
しかしながら、カーボンサンシャインウエザオメーターによる促進耐候性試験に関するJIS規格としては、当合議体が探知したところ、例えば、JIS A1415(「高分子系建築材料の実験室光源による暴露試験方法」)、JIS B7753(「サンシャインカーボンアーク灯式耐光性及び耐候性試験機」)、JIS K7350-4(「プラスチック-実験室光源による暴露試験方法-第4部:オープンフレームカーボンアークランプ」)など複数の規格が存在する。
(合議体注: JIS A1415、JIS K7350-4においては、「オープンフレームカーボンアークランプ」について、「サンシャインカーボンアークランプともいう。」と記載されているから、「オープンフレームカーボンアークランプ」と「サンシャインカーボンアークランプ」は同義と認められ、「オープンフレームカーボンアークランプ」による促進耐候性試験は、カーボンサンシャインウエザオメーターによる促進耐候性試験に相当するものと認められる。)
そして、これらJIS規格においては、光源(又は発光部)の分光特性等の仕様、ガラス製フィルターの仕様、ブラックパネル温度条件、相対湿度条件、水噴霧サイクル時間の条件、噴霧水量の条件などが、それぞれ定められており、
例えば、ブラックパネル温度や相対湿度に関して、それぞれ「(63±3)℃」、「(50±5)%」と実質的に同一の範囲が規定されている条件があるものの、
例えば、
ガラス製フィルタの種類については、3種類の分光透過率の波長分布を有するフィルタの使用が規定され、
水噴霧サイクル時間については、2つの条件(102分照射後、18分照射及び水噴霧の120分サイクル、又は、48分照射後、12分照射及び水噴霧の60分サイクル)が規定され、
噴霧水量については、2つの条件(噴霧圧力0.1MPaに対してノズル1個当たり0.53±0.10l/min又は0.08±0.01l/min)が規定されている。
してみれば、単に、「カーボンサンシャインウエザオメーターによる促進耐候性試験」という場合に、どのJIS規格を採用するのか、JIS規格において定められている複数の仕様や条件のいずれを採用するのかが、一義的に定まるものとは認められないから、特定の「共通の一般的条件」が当業者の技術常識であるとまではいうことができない。
したがって、特許権者の主張2)は採用できない。

(3)主張3)について
特許権者の主張3)は、(2)でも例示したJIS規格において、カーボンサンシャインウエザオメーターによる促進耐候性試験に関する条件について、「受渡当事者間の協定」による変更を許容していることを念頭においた主張と解される。
先に(1)で述べたとおり、本件各発明は、周知の広範な用途に適用するための耐候性に優れたコーティング膜を製造する方法に関するものであるから、例えば、特殊な環境での使用等を考慮して特殊な試験条件を採用することには合理性が乏しいが、(2)で述べたとおり、すべて共通の一般的条件が当業者の技術常識であるとはいえないのであるから、主張3)自体の当否はともかく、試験条件が一義的に定まると認めることはできない。

(4)主張4)について
特許権者が認めるとおり、JIS規格では、カーボンサンシャインウエザオメーターによる促進耐候性試験の実験条件に関して、2つの降雨サイクル、すなわち水噴霧サイクル条件が設定されており、(2)で例示したJIS規格においては、いずれも、「102分照射後、18分照射及び水噴霧」と「48分照射後、12分照射及び水噴霧」の2条件が定められており、かつ、いずれかのサイクルを優先すべき旨の指示等はないから、いずれか一方の条件を採用することが当業者の技術常識であるとまではいうことができない。

この点、特許権者は、乙第1号証(大河内輝義外1名「塗料の耐候(光)性ばく露試験と耐候(光)試験機の関連性について(その2)」金属表面技術、Vol.16,No.5,1965年)及び乙第2号証(須賀長市著「耐候光と色彩<改訂版>」スガ試験機株式会社、昭和63年2月20日、第91ページ)を提出して、「60分照射周期中12分降雨」の降雨サイクル条件が、事実上標準条件であったと主張している。
そして、乙第1号証の第9ページ右欄第13行〜第10ページ左欄第16行には、「耐候性ばく露試験における降雨条件の違いが、塗料の変退色にいかに影響を与えるのかを調べるため、現行の“ドライ”“ウエット”の代表的降雨条件の比較をして、耐候日光ばく露試験にたいし、いずれが近似性に秀れ、より苛酷であるかを調べてみた。…
サンシャインカーボンの場合は、傾向については紫外線カーボンの場合と同様、大きな差はみられないが、結果に大きな差をもたらし、60min中12min降雨がより苛酷である。
光源の種類により、降雨条件の違いが塗料の変退色に影響をもつことは注目すべきことであり、この結果から試験機の促進性の点で、降雨条件は60min中12min降雨がとられるべきである。
また“いずれの降雨基準が日本の気象条件に合致しているか”について、気象研究所関原彊氏より次のごとき資料をいただいた。…降水日数は、日本はアメリカの1.7倍、降水量は、日本はアメリカの2.2倍の結果が得られた。」と記載されている。
この記載から、60min中12min降雨のサイクルがより苛酷な条件であること、及び、試験機の促進性の点で、降雨条件は60min中12min降雨のサイクルがより好適な条件と考えられていることが、分かる。
しかしながら、「より苛酷な条件」が「促進性の点」からみれば有利に働くこと自体は当然のことであって、促進耐候性試験における降雨条件の比較判断の要素である「正確性」ないし「近似性」その他の要件について、いかなる評価をしているのかが不明であることからも、乙第1号証の記載をもって、60min中12min降雨のサイクルが「周知徹底」され、当業者に自明であるとまではいうことはできない。
また、乙第2号証には、「耐候(光)性試験」に関して、「降雨時間及び周期時間は一般に規格に定められ、米国では120分照射周期中18分降雨、また、日本では60分照射周期中12分降雨である。」との記載があるが、カーボンサンシャインウエザオメータによる促進耐候性試験の降雨サイクルの一般的条件について、直接述べたものであると認めることはできない。
したがって、乙第1及び第2号証をみても、JIS等の規格に定められた2つの降雨(噴霧)サイクルのうち、「60分照射周期中12分降雨」の降雨サイクル条件が、より適切であることが当業者に自明である、という特許権者の主張4)は採用できない。

(5)主張5)について
特許権者は、主張5)に関わって、乙第3号証(「デューサイクルサンシャイン スーパーロングライフウェザーメーター WEL-SUN-DC 取扱説明書」。「スガ試験機株式会社」との表示がある文書。)を提示し、特に、その第13ページの最下図及び第19ページの「(2)操作順序」を指摘している。
しかし、第13ページの「(10)サイクルメーターの設定」には、「標準タイプの場合」について、「周期と降雨の組合せは…の二通りです。」(合議体注:表の記載は省略した。)と明示され、また、「デラックスタイプの場合」は、周期と降雨の組合せは42通りあることが記載されている。そして、特許権者が指摘する同ページの最下図に関しては、「デラックスタイプの場合」の「組合せの一例として周期60分、降雨12分の場合は「周期」のツマミを60分に合わせ、「降雨」のツマミを12分に合わせます。」と記載されているのであるから、単に、サイクルメーターの設定の仕方を例示的に記載しているものであって、「60分照射周期中12分降雨」の降雨サイクル条件が標準的であることを示す根拠とはいうことができない。また、第19ページの操作順序に関しても、組合せの一例を書いたと解するのが妥当である。
加えて、本件特許明細書には、カーボンサンシャインウエザオメータによる促進耐候性試験の具体的態様としては、「カーボンサンシャインウエザオメーターで2500時間の促進テストを行い」(段落0041)と記載されるのみであって、テストの条件も使用した試験機も一切不明であるから、乙第3号証に係る試験機が、本件発明において使用した試験機であるかどうかは不明である。
(合議体注: 「デューサイクルサンシャイン スーパーロングライフウェザーメーター WEL-SUN-DC」は、第4ページの「サンシャインスーパーロングライフカーボンアークランプ」との記載からみて、「カーボンサンシャインウエザオメータ」に相当するものであるとは認められる。)
したがって、特許権者の主張5)は、本件特許明細書の記載に基づかない主張であるから、採用できない。

4-2-3-4.まとめ
以上のとおり、乙第1号証について、先に(4)で摘示したように、カーボンサンシャインウエザオメーターによる促進耐候性試験においては、降雨条件の違いにより、結果に大きな差があることが当業者に知られているところ、本件発明1〜4を特定するための要件である、「カーボンサンシャインウエザオメーターによる促進耐候性試験」は、いかなる試験機及び試験条件により測定されたものであるかが不明であるから、カーボンサンシャインウエザオメーターによる促進耐候性試験における光沢保持率が、いかなる物性を意味するのかは不明である。
したがって、本件発明1〜4に関して指摘した「(2)」の不備は解消していない。

4-2-4.「(3)」の不備についての検討
特許権者は、意見書において、本件明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された関係式 εdC≧ 129・logτ - 367(以下、「式1」という。)が、一旦導き出されれば、選択した化合物における紫外線吸収の原理及び吸収能の相違に関わらず、適宜選択される暴露時間τに応じて、紫外線吸収能を有する化合物における残基の分子吸光係数ε、乾燥被膜の厚みd及び紫外線吸収能を有する化合物残基の濃度Cを当該関係式に従って適宜調整すれば、所望の耐候性に優れるコーティング膜を得られることは自明である旨を主張し、更に、実施例に限定されるべきとの取消理由通知の指摘は、本件特許発明の技術的理解を誤ったもので失当である旨を主張している。

しかしながら、式1の意義について、本件明細書には、
段落0043に、「次に各塗料の光沢保持率の変化をもとに各吸光度及び各紫外線吸収能を有する化合物の官能基の量で光沢保持率80%になる点を求め、任意の吸光度及び紫外線吸収能を有する化合物の官能基の量で光沢保持率80%になる促進時間を求めた。結果を表4及び図6〜9に示す。図6は吸光度と光沢保持率の関係(2)、図7は官能基の量と光沢保持率の関係(2)、図8は吸光度と耐候性の関係を示すものである。」と、
また、同じく段落0045に、「実施例の方法で製造した塗料組成物を使用した系では紫外線吸収能を有する化合物の官能基の量を多くすると耐候性は向上することが分かる。また官能基の量を0.38モル/Lにすると促進時間2500時間で80%の光沢保持率を維持し耐候性に優れていることが分かる。
図8の関係から吸光度をいくらにすれば所定の目的の暴露時間τで80%光沢保持率を満たすようにできるかの経験則を求めるために吸光度であるεdCとlogτの関係を図示した。
その結果直線性は良好でCをきめるための経験式として利用できることがわかった。すなわち、コーティング材を被覆し乾燥したときに乾燥被膜中の該化合物残基の濃度C(モル/L)が式
εdC≧ 129・logτ - 367
(ここに、εは乾燥被膜中の該化合物残基の分子吸光係数、dは使用するときの乾燥被膜の厚み(cm)、τは使用用途に応じて要求される80%以上の光沢保持率を示す促進耐候性試験の暴露時間を表す)によって決められる量を用いることが可能である。この式は図9によって示される。」と記載されている。
すなわち、式1は、第1に、「実施例の方法で製造した塗料組成物を使用した系」についてのものであり、第2に、「経験則」として取得したものであることが明記されている。

ところが、本件明細書に記載された実施例及び比較例において、紫外線吸収能を有する化合物として、具体的に使用されているのは、「2-〔2’-ヒドロキシ-5’-(メタクリロイル)フェニル〕ベンゾトリアゾール」及び「2(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール」を併用する場合(以下、「ベンゾトリアゾール併用系」という。)のみであるから、図4〜図9に示された実験結果は、すべてベンゾトリアゾール併用系についてのものである。

また、式1を直接導くために提示されたと解される図8及び図9に関しては、図上にプロットされた3点がいかなる実験例などの具体例についてのものであるのかが不明である。
すなわち、光沢保持率80%になるまでの促進時間(時間)が、1000、2000及び2500時間である塗料の吸光度(εdC)が、それぞれ、略20、40及び70であるという結果がどうして得られたのかは不明である。

してみれば、ベンゾトリアゾール併用系以外の任意の「380nmより短い波長域に光の吸収スペクトルが極大値を有し吸収極大波長における分子吸光係数が5000から50000である紫外線吸収能を有する化合物」についてまで、図9に示された関係が適合することが、当業者に自明であるということはできない。

したがって、ベンゾトリアゾール併用系以外の「380nmより短い波長域に光の吸収スペクトルが極大値を有し吸収極大波長における分子吸光係数が5000から50000である紫外線吸収能を有する化合物」に関しては、いかなる化合物が、本件発明の所期の効果を奏し得るのか、その範囲は不明である。
よって、本件発明1〜4において所期の効果を奏することができる「紫外線吸収能を有する化合物」の範囲は、当業者がこれを認識することができないから、該「紫外線吸収能を有する化合物」を発明を特定するための事項とする本件発明1〜4は明確でない。
したがって、本件発明1〜4に関して指摘した「(3)」の不備は解消していない。

4-2-5.「(4)」の不備についての検討
特許権者は、意見書において、本件明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された式1は、実際に検討したデータの裏付けを有するものであるから、式による技術的意義は明確である旨、及び、理論的導出過程の開示は不要で、本件特許発明の範囲は明確である旨、並びに、本件特許発明は、所定の光沢保持率を所定時間以上維持する耐候性コーティング膜を製造可能にする一定の条件式を新たに見出した点に特徴を有するものであるから、実施例と比較例とによる臨界的意義の開示が求められる発明ではない旨、を主張している。
そして、先に4-2-4.で述べたとおり、本件明細書の段落0043及び0045に、式1は、第1に、「実施例の方法で製造した塗料組成物を使用した系」についてのものであり、第2に、「経験則」として取得したものであることが明記されている。

まず、実施例の方法で製造した塗料組成物は、いずれも、ベンゾトリアゾール併用系についてのものであり、これ以外の「380nmより短い波長域に光の吸収スペクトルが極大値を有し吸収極大波長における分子吸光係数が5000から50000である紫外線吸収能を有する化合物」を使用する場合について、「実際に検討した」と解することができるデータの開示はなく、また、該データが当業者に自明の事項とも認められないから、式1が有効であると信じるに足る「経験則」の裏付けデータは何ら示されていない。特に、式1の右辺の1次式の1次の係数及び定数項の値が、任意の紫外線吸収能を有する化合物に適用可能であることを信じるに足る「経験則」の裏付けデータは存しない。

次に、特許権者が主張するように、本件特許発明は、一定の条件式を新たに見出した点に特徴を有するものである故に、該条件式の有用性が具体的に開示される必要がある。
本件特許発明における、εdC≧ 129・logτ - 367という不等式に関していえば、
第1に、種々の化合物の固有の物性値であるεと、d、C及びτの組合せについて、εdC=129・logτ - 367 という直線を境界にした領域で、効果の相違を確認することができるデータの開示が求められるとともに、
第2に、十分な数のデータに基づいて、「128・logτ - 366」でも、「130・logτ - 368」でもなく、「129・logτ - 367」が境界として適切なものであることを、当業者が理解することができる程度のデータ開示が求められる。
しかしながら、先に4-2-4.で述べたように、実験例は、ベンゾトリアゾール併用系についてのものだけであり、かつ、図9がいかなる実験例に基づくデータなのかも不明であるから、式1の技術的意義は不明であるといわざるを得ない。
したがって、本件発明1〜4に関して指摘した「(4)」の不備は解消していない。

4-2-6.「(5)」の不備についての検討
特許権者は、意見書において、紫外線吸収剤が、吸収スペクトルの極大値を複数有する場合の「吸収極大波長における分子吸光係数」とは、該複数の極大値のうちの、吸光度の値が最大である極大値の値として一義的に求められるものである旨を釈明していると認められるところ、この釈明に特段不合理があるとはいえないから、本件発明1〜4に関して指摘した「(5)」の不備は存しない。

4-2-7.まとめ
よって、訂正後の本件特許明細書は、その特許請求の範囲の記載が、先に通知した「(2)」、「(3)」及び「(4)」の点において、なおも不備であり、特許法第36条第6項第2号の規定に適合したものではない。

5.むすび
以上のとおり、本件特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4項に該当し、取り消すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
耐候性コーティング膜の製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】バインダーと硬化剤を主成分とする耐候性コーティング材を調製し、該コーティング材で被塗装物品を被覆し乾燥することによって、カーボンサンシャインウエザオメーターによる促進耐候性試験において80%以上の光沢保持率を1000時間以上維持する耐候性コーティング膜を製造する方法であって、
380nmより短い波長域に光の吸収スペクトルが極大値を有し吸収極大波長における分子吸光係数が5000から50000である紫外線吸収能を有する化合物を、コーティング材を構成するバインダー又は硬化剤のいずれか一方若しくは双方に化学的に結合させ、
コーティング材を被覆し乾燥したときに乾燥コーティング膜中の紫外線吸収能を有する化合物残基の濃度C(モル/L)が、式
εdC≧129・logτ-367
(ここに、εは乾燥被膜中の該化合物残基の分子吸光係数、dは使用するときの乾燥被膜の厚み(cm)、τは使用用途に応じて要求される80%以上の光沢保持率を示す促進耐候性試験の暴露時間を表す)
を満足する濃度になるように前記結合及びコーティング材の構成を設定してコーティング材を調製し、乾燥被膜の厚みが上記dになるように被覆し乾燥することを特徴とする耐候性コーティング膜の製造方法。
【請求項2】請求項1における化合物を結合したバインダーが、重合可能なビニル基を持つ紫外線吸収能を有する化合物と他の重合可能なビニル基を持つ単量体を重合してなる樹脂である、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】請求項1における化合物を結合した硬化剤が、活性水素を持つ紫外線吸収能を有する化合物と少なくとも2個の遊離イソシアネート基を有するイソシアネートプレポリマー及び/又は単量体のイソシアネート基の一部とを反応して得られる残存するイソシアネート基を含有するイソシアネート化合物を必須成分としてなり、必要に応じイソシアネートプレポリマーを配合してなる、硬化剤である、請求項1記載の製造方法。
【請求項4】請求項1における紫外線吸収能を有する化合物が、ベンゾトリアゾール系、又はベンゾフェノン系の化合物からなる群から選択される化合物である、請求項1記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、屋上防水、建築物の床及び外壁等の建築物、建材、テニスコートや陸上競技場のスポーツ施設の他、屋外に設置される道路標識などの表示のための構造物、あるいは自動車、家電製品、木工製品、プラスチック成型品、あるいは印刷物等の保護被覆、さらには光に対して不安定な物質の表面コート材等に用いられ、長期間の屋外使用に必要な光沢保持性、耐変色性、耐クラック性等の耐候性に優れたコーティング膜を製造する方法、及びその膜を与えるコーティング材(塗料)に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来より塗料の耐候性を向上させる方法として塗料中に紫外線吸収能を有する化合物を配合してなる二液型塗料組成物が知られている。この塗料組成物は耐候性に優れ、しかも二液のため密着性、塗膜強度等の物理的に良好な塗膜を形成することができ、建物の屋上防水や外壁、建材、スポーツ施設等のトップコートとして用いられてきた。
【0003】
特に塗料のバインダーにアクリルポリオールを用い、塗料の硬化剤にイソシアネートプレポリマーを用いた場合には耐候性、光沢、化学的性質、機械的強度に優れた塗膜を作ることができ、屋外用塗料として一般的に用いられてきた。しかしながら上記塗料組成物では長期にわたって使用するとブリード現象を起こし紫外線吸収能を有する化合物が表面に浮き上がり効果が長続きしないという欠点があった。
【0004】
また上記の欠点を克服するために紫外線吸収能を有する化合物を塗料組成物中に固定する試みが行われており、アクリルポリオール中に重合可能な紫外線吸収能を有する化合物を重合させる方法が提案されている(特開平9-3393号公報)。
さらに硬化剤についても紫外線吸収能を有する化合物をイソシアネート中に結合させたものを配合した塗料用組成物が報告されている(特公昭47-29199号公報)。
しかしながら塗料中の紫外線吸収能を有する化合物については塗料中に配合される量だけが注目され、紫外線吸収能を有する化合物の分子吸光係数、吸収波長領域等の紫外線吸収能力と耐候性の関係や塗布後の塗膜中に存在する紫外線吸収能を有する化合物の量と耐候性については不明な点が多く、高価な紫外線吸収能を有する化合物を使用すればよいとの知見はあるものの、該紫外線吸収能を有する化合物をどのように活用すればよいのか不明であり、耐候性を自在に制御できる設計法を示唆するものはないのが実情である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は二液硬化型塗料において、紫外線吸収能を有する化合物を紫外線吸収能を損なわないようにバインダーあるいは硬化剤に化学的に結合させ、塗布後の乾燥塗膜に一定量含ませることにより長期間の屋外使用における光沢保持性、耐変色性等の長期の耐候性に優れた塗料組成物の製造方法を提供する事にある。また、そのために、紫外線吸収能を有する化合物の使用量と耐候性の関係を調べて得られるコーティング材の要求性能に応じた耐候性を得るための設計手法を基に、該製造方法を提供することが課題となる。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者は塗料の長期の耐候性を維持するための塗料組成物の製造方法について研究を続けた結果、紫外線吸収能を有する化合物をバインダーあるいは硬化剤に化学的に結合させたものを塗料組成物に配合し、塗布後の乾燥塗膜に一定量含ませ紫外線劣化を最小限にする条件を見いだすことで、耐候性の優れたコーティング膜を得ることに成功し本発明を完成させた。
【0007】
すなわち本発明は、バインダーと硬化剤を主成分とする耐候性コーティング材を調製し、該コーティング材で被塗装物品を被覆し乾燥することによって、カーボンサンシャインウエザオメーターによる促進耐候性試験において80%以上の光沢保持率を1000時間以上維持する耐候性コーティング膜を製造する方法であって、
380nmより短い波長域に光の吸収スペクトルが極大値を有し吸収極大波長における分子吸光係数が5000から50000である紫外線吸収能を有する化合物を、コーティング材を構成するバインダー又は硬化剤のいずれか一方若しくは双方に化学的に結合させ、
コーティング材を被覆し乾燥したときに乾燥コーティング膜中の紫外線吸収能を有する化合物残基の濃度C(モル/L)が、式
εdC≧129・logτ-367
(ここに、εは乾燥被膜中の該化合物残基の分子吸光係数、dは使用するときの乾燥被膜の厚み(cm)、τは使用用途に応じて要求される80%以上の光沢保持率を示す促進耐候性試験の暴露時間を表す)
を満足する濃度になるように前記結合及びコーティング材の構成を設定してコーティング材を調製し、乾燥被膜の厚みが上記dになるように被覆し乾燥することを特徴とする耐候性コーティング膜の製造方法及びその膜を提供するコーティング材である。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を詳しく説明する。
本発明において380nmより短い波長域に光の吸収スペクトルが極大値を有し吸収極大波長における分子吸光係数が5000から50000である紫外線吸収能を有する化合物(以下、紫外線吸収能を有する化合物と略記する)は単独又は2種以上組みあわせて用いられ、バインダー又は硬化剤中に紫外線吸収能を有する化合物の紫外線吸収能が損なわれないように、すなわち紫外線吸収能を有する基または部分が残存するように結合される。なお、本発明においては、コーティング材を被覆し乾燥したときに乾燥コーティング膜中の紫外線吸収能を有する化合物残基の濃度C(モル/L)が、前記式を満足するように紫外線吸収能を有する化合物の結合量が決定され、また前記式を満足するようにコーティング材の構成、すなわち紫外線吸収能を有する化合物の結合後のバインダー及び硬化剤の配合量が決定される。
紫外線吸収能を有する化合物としては、例えば活性水素を持つ紫外線吸収能を有する化合物、重合可能なビニル基を持つ紫外線吸収能を有する化合物があげられる。
活性水素を持つ紫外線吸収能を有する化合物としては例えば2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-5’-t-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’-t-ブチル-5’-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-4’-オクトキシフェニル)ベンゾトリアゾール等の活性水素を持つベンゾトリアゾール系化合物;2-ヒドロキシ-4-オクトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-エトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-オクトキシ-2’-クロロ-ベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-オクトキシ-3’-メチル-ベンゾフェノン等の活性水素を持つベンゾフェノン系の化合物があげられ、これらの単独もしくは複合系で使用できる。
【0009】
重合可能なビニル基を持つ紫外線吸収能を有する化合物としては、例えば2-〔2’-ヒドロキシ-5’-(メタクリロイルオキシメチル)フェニル〕-2H-ベンゾトリアゾール、2-〔2’-ヒドロキシ-5’-(メタクリロイルオキシエチル)フェニル〕-2H-ベンゾトリアゾール、2-〔2’-ヒドロキシ-5’-t-ブチル-3’-(メタクリロイルオキシエチル)フェニル〕-2H-ベンゾトリアゾール、2-〔2’-ヒドロキシ-5’-(メタクリロイルオキシエチル)フェニル〕-5-クロロ-2H-ベンゾトリアゾール等のビニル基を持つベンゾトリアゾール系化合物;2-ハイドロキシ-4-(3-アクリルオキシ-2-ハイドロキシプロポキシ)ベンゾフェノン、2-ハイドロキシ-4-(3-メタクリクリルオキシ-2-ハイドロキシプロポキシ)ベンゾフェノン、2’-ジハイドロキシ-4-(3-メタクリクオキシ-2-ハイドロキシプロポキシベンゾフェノン等のビニル基を持つベンゾフェノン系の化合物があげられ、これらの単独もしくは複合系で使用できる。
【0010】
紫外線吸収能を有する化合物をコーティング材中のバインダーまたは硬化剤に化学的に結合させるには、重合可能なビニル基を持つ紫外線吸収能を有する化合物と、他の重合可能なビニル基を持つ単量体及び/またはプレポリマーと重合するか;活性水素を持つ紫外線吸収能を有する化合物を少なくとも2個の遊離イソシアネート基を有するイソシアネートプレポリマー及び/またはイソシアネート単量体に反応させる;のが好ましい。紫外線吸収能を有する化合物をコーティング材中のバインダーまたは硬化剤に化学的に結合させることにより、耐候性に優れた塗膜を提供できる。さらに紫外線吸収能を有する化合物を結合させたバインダーまたは硬化剤を使用する場合に最も好ましいのは、バインダーとしてアクリルポリオールを用い且つ硬化剤として無応変型イソシアネートを用いることである。
【0011】
さらに詳しく説明すると、上記の紫外線吸収能を有する化合物を結合したアクリルポリオール(バインダー)の構成要素(構成成分)である重合可能なビニル基を持つ紫外線吸収能を有する化合物としては、2-〔2’-ヒドロキシ-5’-(メタクリロイルオキシメチル)フェニル〕-2H-ベンゾトリアゾール、2-〔2’-ヒドロキシ-5’-(メタクリロイルオキシエチル)フェニル〕-2H-ベンゾトリアゾール、2-〔2’-ヒドロキシ-5’-t-ブチル-3’-(メタクリロイルオキシエチル)フェニル〕-2H-ベンゾトリアゾール、2-〔2’-ヒドロキシ-5’-(メタクリロイルオキシエチル)フェニル〕-5-クロロ-2H-ベンゾトリアゾール等のビニル基を持つベンゾトリアゾール系化合物;2-ハイドロキシ-4-(3-アクリルオキシ-2-ハイドロキシプロポキシ)ベンゾフェノン、2-ハイドロキシ-4-(3-メタクリクリルオキシ-2-ハイドロキシプロポキシ)ベンゾフェノン、2’-ジハイドロキシ-4-(3-メタクリクオキシ-2-ハイドロキシプロポキベンゾフェノン等のビニル基を持つベンゾフェノン系の化合物;などがあげられこれらは単独または複合系で使用できる。
【0012】
また他の構成要素としての水酸基を有する不飽和単量体成分としては、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ヒドロキシ(メタ)アクリレートがあげられ、これらは単独、もしくは複合系で使用できる。
【0013】
またその他の構成要素である、その他の重合性単量体としては、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、メチルシクロヘキシルアクリレート、ターシャリーブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、セカンダリーブチル(メタ)アクリレート、タシャリーブチル(メタ)アクリレート、イソペンチル(メタ)アクリレート、ネオペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2エチルヘキシ(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノメチルアクリレート、ジエチルアミノメチルアクリレート、ジブチルアミノメチルアクリレート、ジヘキシルアミノメチルアクリレート、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、塩化ビニリデン、酢酸ビニル、アクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、2-アクリロイルオキシエチルコハク酸、2-アクリロイルオキシエチルフタル酸等があげられ、これらが単独、もしくは複合系で使用できる。
【0014】
また他の構成要素として、必要に応じて4-(メタ)アクリロイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-(メタ)アクリロイルアミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-(メタ)アクリロイルオキシ-1,2,2,6,6-ペンタメチルピペリジン、4-(メタ)アクリロイルアミノ-1,2,2,6,6-ペンタメチルピペリジン等の光安定化剤を単独、もしくは複合系で使用しても良い。
【0015】
バインダーを調製するための、上記構成要素を含む単量体組成物を共重合させる際の重合方法は特に限定されるものではないが溶液重合を行うのが好ましい。
共重合を行う際の溶剤としては例えば、トルエン、キシレン等の芳香族類炭化水素;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;セロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート;等が挙げられ、これらは単独、もしくは複合系で使用できる。
【0016】
また単量体組成物を共重合させる際に重合開始剤を用いるが、通常、重合開始剤としては、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ系;ベンゾイルパーオキサイド等の過酸化物系;等の重合開始剤が挙げられこれらの単独、もしくは複合系で使用できる。
【0017】
また前記の紫外線吸収能を有する化合物を結合した硬化剤の構成要素(構成成分)である活性水素を持つ紫外線吸収能を有する化合物としては、例えば2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-5’-t-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’-t-ブチル-5’-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-4’-オクトキシフェニル)ベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系化合物;2-ヒドロキシ-4-オクトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-エトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-オクトキシ-2’-クロロ-ベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-オクトキシ-3’-メチル-ベンゾフェノン等のベンゾフェノン系の化合物;があげられ、これらは単独もしくは複合系で使用できる。
【0018】
また他の構成要素としてのイソシアネート化合物としては、例えばヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、シクロヘキシルメタンジイソシアネート等の無応変型イソシアネート、及びにそれらのイソシアヌレート体、ビュレット体、トリメチロールプロパンアダクト体、活性水素を持つ化合物、例えばアミン類、カルボン酸類、アルコール類及びそれらの誘導体とのアダクト体等の化合物があげられ、これらは単独、もしくは複合系で使用できる。
【0019】
またイソシアネート化合物と活性水素を含有する紫外線吸収能を有する化合物を反応させる際に活性水素を持つ化合物、例えばアミン類、カルボン酸類、アルコール類及びそれらの誘導体等を単独、もしくは複合系で上記構成要素に加えることができ、化学的特性、並びに物理的特性を自由に調節する事が出来る。
【0020】
紫外線吸収能を有する化合物をイソシアネートに反応させる際に使用できる溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル、イソ酢酸ブチル等のエステル類、セロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等が挙げられこれらは単独、もしくは複合系で使用できるが、アルコール類等の活性水素を含有する溶剤はイソシアネートと反応するために使用を避ける必要がある。
【0021】
また反応促進のためウレタン反応触媒を使用してもよく、例えばジブチルチンジアセテート、ジブチルチンジラウレート等の有機金属触媒、1,4-ジアザバイシクロ(2,2,2)オクタン、トリエチルアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、トリエチレンジアミン、ジメチルアミノエタノール等のアミン系触媒があげられ、これらは単独、もしくは複合系で使用できる。
【0022】
さらに必要に応じて任意のイソシアネートプレポリマーを混合することができ、例えばヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等のイソシアネート単量体、イソシアヌレート体、ビュレット体、活性水素を持つ化合物例えばアミン類、カルボン酸、アルコール類及びそれらの誘導体とのアダクト体等が挙げられこれらは単独、もしくは複合系で使用できる。
【0023】
反応方法については特に制約はなく、一般的な手法に従って反応を行えばよい。ただ反応を行うに際して注意すべき点は水分の存在しない方法で実施することが望ましい。たとえはウレタングレードの溶剤を使用するか、水分除去剤を用いればよい。水分除去剤としては、例えば、トシルイソシアネート、モレキュラーシーブ等を用いることが出来る。本発明において特に耐候性に優れ且つ高物性を得るためにはヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体及びビュレット体を使用することが好ましい。また紫外線吸収剤を反応させる場合、イソシアネート組成物中のイソシアネート基が1分子あたり平均2個以上残るように設計することが望ましく、平均2個未満であると硬化剤成分と反応させた場合、架橋が不十分になり塗料の物性を低下させる事になる。
【0024】
本発明に係るコーティング材には必要に応じてイソシアネートとの反応促進剤、有機溶剤、添加剤、無機顔料、有機顔料、体質顔料を用いることが出来る。反応促進剤としては例えば、ブチルチンジアセテート、ジブチルチンジラウレート等の有機金属触媒、1,4-ジアザバイシクロ(2,2,2)オクタン、トリエチルアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、トリエチレンジアミン、ジメチルアミノエタノール等のアミン系触媒があげられこれらの単独、もしくは複合系で使用できる。
【0025】
有機溶剤としては例えば、トルエン、キシレン等の芳香族類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;セロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等が挙げられこれらの単独、もしくは複合系で使用できる。
【0026】
添加剤としては例えば、消泡剤、分散剤、レベリング剤、密着改良剤、可塑剤、安定剤、沈降防止剤等の各種塗料用添加剤を単独、もしくは複合系で使用できる。無機顔料としては例えば、酸化チタン、亜鉛華、黄鉛、ベンガラ、黄色酸化鉄、鉄黒、カーボンブラック等が挙げられる。有機顔料としては例えば、アゾ系化合物、フタロシアニン系化合物が挙げられる。体質顔料としては例えば、炭酸カルシウム、酸化珪素、クレー、有機ベントナイト、硅石粉等が挙げられこれらの単独、もしくは複合系で使用できる。
【0027】
また塗料の耐候性を十分に保つため、紫外線吸収能を有する化合物の官能基を該被膜の目的の被膜厚みと使用用途によって要求される80%以上の光沢保持率を示す暴露時間に応じて、塗料を被覆し乾燥したときに乾燥被膜中の該化合物残基の濃度C(モル/L)が経験式
εdC≧129・logτ-367
(ここに、εは乾燥被膜中の該化合物残基の分子吸光係数、dは使用するときの乾燥被膜の厚み(cm)、τは使用用途に応じて要求される80%以上の光沢保持率を示す促進耐候性試験の暴露時間を表す)
によって決められる量を用いれば目的を達することができるのである。
【0028】
上記の塗料組成物を塗布できる被塗布物は特に限定される物はない。被塗布物としては、例えばウレタン、FRP(繊維強化プラスチック)、ポリプロピレン、ポリカーボネート、アクリル系樹脂等のプラスチック類や、木、金属、ガラス、セラミック等のほか耐候性の弱い顔料等の化学物質の表面保護、印刷インキ面の保護、紙の表面コートが挙げられる。これらの被塗装物の表面に本発明の塗料組成物を塗布する事により被塗装物の長期の耐候性を保つことが出来る。
すなわち、本発明の塗料用組成物は、プラスチック成型品用、家電製品用、金属製品用、自動車用、航空機用、建築用、建材用、スポーツ施設用、木工用のコーティング剤として広範囲に使用することが出来る。
【0029】
【実施例】
以下に実施例等により本発明を説明する。
参考例1(含紫外線吸収剤バインダー(アクリルポリオール)の製造方法)
攪拌器、滴下ロート、冷却管、温度計を備えたフラスコに酢酸ブチル10重量部、キシレン10重量部を仕込み窒素雰囲気下で120℃まで昇温して、下記配合で重合性単量体を滴下ロートに仕込み2時間で等速に滴下した。
メタクリル酸シクロヘキシル 25重量部
メタクリル酸メチル 6重量部
アクリル酸ブチル 10重量部
メタクリル酸2-ヒドロキシエチル 7重量部
アクリル酸 0.3重量部
2-〔2’-ヒドロキシ-5’-(メタクリロイル)フェニル〕ベンゾトリアゾール
8重量部
メタクリロイルアミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン
0.5重量部
アゾビスイソブチロニトリル 1重量部
【0030】
滴下終了の1時間後にアゾビスイソブチロニトリル0.2重量部、キシレン10重量部の混合溶液を2時間かけて等速で滴下し、滴下終了後1時間、120℃に保った。冷却後、キシレン17.5重量部にて稀釈し、粘度30000mPa・s、不揮発分56.3%、重量平均分子量31000のアクリルポリオール(バインダー)を得た。
【0031】
参考例2
参考例1と同様の操作により以下の重合性単量体の配合で重合を行った。
メタクリル酸シクロヘキシル 25重量部
メタクリル酸メチル 6重量部
アクリル酸ブチル 10重量部
メタクリル酸2-ヒドロキシエチル 7重量部
アクリル酸 0.3重量部
2-〔2’-ヒドロキシ-5’-(メタクリロイル)フェニル〕ベンゾトリアゾール
5重量部
メタクリロイルアミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン
0.5重量部
アゾビスイソブチロニトリル 1.2重量部
キシレン 37.5重量部
酢酸ブチル 10重量部
なお、上記のアクリルポリオール(バインダー)の性状値は、粘度13100mPa・s、不揮発分53.3%、重量平均分子量32000であった。
【0032】
対照例1〜2
参考例1と同様の操作により以下の表1に示す配合でアクリルポリオール(バインダー)を得た。
【0033】

【0034】
上記の参考例1で得られたアクリルポリオール(バインダー)と対照例1で得られたアクリルポリオール(バインダー)を乾燥後の厚さが100ミクロンの塗膜を作成し紫外線分光光度計で紫外線透過率を測定した。その結果を図1に示す。図1は各塗膜の紫外線透過率を示したものである。
また、参考例1で得られたバインダー及び結合前の紫外線吸収能を有する化合物単独の各々の吸収スペクトルを分子吸光係数と波長の関係として図2に示した。
測定はバインダーについてはスペクトル的に無関係の樹脂(参考例1記載のアクリルポリオール)でうすめて塗装膜中の結合後の官能基残基の濃度を0.106ミリモル/Lにし100ミクロンの膜厚で吸光度を測定し分子吸光係数を求めた。結合前の紫外線吸収能を有する化合物については溶液法で1cmのセルを用い、0.0619ミリモル/Lの濃度で測定し同様の方法で分子吸光係数を求めた。
【0035】
参考例1及び2で得られたバインダーと対照例1及び2で得られたバインダーを乾燥後の厚さが100ミクロンの塗膜を作成し紫外線分光光度計で塗膜の吸光度を測定し1cm2あたりの紫外線吸収能を有する化合物の官能基の量と吸光度の関係を調べた。吸光度をA、透過率をTとすると吸光度と透過率の関係はA=-logTとなる。また参考例1及び2の吸光度は紫外線吸収能の無いバインダーで参考例1及び2で得られたバインダーを固形分換算で20倍に希釈したもので測定し換算して求めた。その結果を表2及び図3に示す。表2は紫外線吸収機能を有する化合物の官能基の量と吸光度の関係を示したものであり、図3は紫外線吸収機能を有する化合物の官能基の量と吸光度の関係を示したものである。
【0036】

【0037】
参考例3(紫外線吸収剤を含む硬化剤(イソシアネートプレポリマー)の製造方法)
攪拌器、冷却管、温度計を備えたフラスコに酢酸ブチル24重量部、ヘキサメチレンジイソシアヌレート12重量部、2(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール2重量部、ジブチルチンジラウレート0.01重量部を仕込み窒素雰囲気下で70℃まで昇温し3時間反応させた。室温まで冷却後イソシアネートプレポリマー(アクリット8XA-012、大成化工株式会社製、不揮発分50% イソシアネート含有率3.1%)を38部混合し不揮発分43%、粘度20mPa・s、イソシアネート基含有率4.3%のイソシアネートプレポリマー(硬化剤)を得た。
【0038】
対照例3
攪拌器、冷却管、温度計を備えたフラスコに酢酸ブチル24重量部及びヘキサメチレンジイソシアヌレート12重量部を窒素雰囲気下室温で10分撹拌しイソシアネートプレポリマー(アクリット8XA-012)を38部混合し組成物を得た。性状値は不揮発分42%、粘度18mPa・s、イソシアネート基含有率5.1%のイソシアネートプレポリマーを得た。
【0039】
参考例4
参考例1、2で得られたバインダー樹脂(アクリルポリオール)を用い以下の配合でサンドミルを使用し顔料分散を行い白の塗料を得た。

【0040】
対照例4
参考例4と同様の手段により対照例1、2で得られた樹脂で白の塗料を得た。
【0041】
実施例1〜2、比較例1〜2
参考例4の白塗料と参考例3で得たイソシアネートプレポリマー、対照例4の白塗料と対照例3で得たイソシアネートプレポリマーを各々、NCO基/OH基=1/1になるように配合し、アルミ板に乾燥後の塗膜が150ミクロンになるように塗装しカーボンサンシャインウエザオメーターで2500時間の促進テストを行い、光沢保持率を測定し各塗料の光沢保持率から吸光度と光沢保持率及び紫外線吸収能を有する化合物の官能器の量と光沢保持率の関係を調べた。結果を表3と図4〜5に示す。図4は吸光度と光沢保持率の関係(1)を示すものであり、図5は官能基の量と光沢保持率の関係(1)を示すものである。
【0042】

【0043】
次に各塗料の光沢保持率の変化をもとに各吸光度及び各紫外線吸収能を有する化合物の官能基の量で光沢保持率80%になる点を求め、任意の吸光度及び紫外線吸収能を有する化合物の官能基の量で光沢保持率80%になる促進時間を求めた。結果を表4及び図6〜9に示す。図6は吸光度と光沢保持率の関係(2)、図7は官能基の量と光沢保持率の関係(2)、図8は吸光度と耐候性の関係を示すものである。
【0044】

【0045】
実施例の方法で製造した塗料組成物を使用した系では紫外線吸収能を有する化合物の官能基の量を多くすると耐候性は向上することが分かる。また官能基の量を0.38モル/Lにすると促進時間2500時間で80%の光沢保持率を維持し耐候性に優れていることが分かる。
図8の関係から吸光度をいくらにすれば所定の目的の暴露時間τで80%光沢保持率を満たすようにできるかの経験則を求めるために吸光度であるεdCとlogτの関係を図示した。
その結果直線性は良好でCをきめるための経験式として利用できることがわかった。すなわち、コーティング材を被覆し乾燥したときに乾燥被膜中の該化合物残基の濃度C(モル/L)が式
εdC≧129・logτ-367
(ここに、εは乾燥被膜中の該化合物残基の分子吸光係数、dは使用するときの乾燥被膜の厚み(cm)、τは使用用途に応じて要求される80%以上の光沢保持率を示す促進耐候性試験の暴露時間を表す)
によって決められる量を用いることが可能である。この式は図9によって示される。
【0046】
【発明の効果】
本発明によれば、紫外線吸収能を有する化合物を塗料バインダー、あるいは硬化剤に紫外線吸収能が損なわれないようにうまく結合させ、紫外線吸収能を有する官能基を塗布後の乾燥塗膜に一定の量を含ませることにより、塗膜の物性や化学的性質を損ねずに長期耐候性を向上させた塗膜が得られる。本発明は、耐候性を重視する塗料やインキなどの用途に使用できる。
本発明によれば、コーティング膜のカーボンサンシャインウエザオメーターによる促進試験における光沢保持率80%以上を使用用途に応じて容易に長くすることができ、例えば2500時間以上の長期耐候性とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
各塗膜の紫外線透過率を示すグラフである。
【図2】
紫外線吸収能を有する官能基残基の吸収スペクトルである。
【図3】
紫外線吸収機能を有する化合物の官能基の量と吸光度の関係を示すグラフである。
【図4】
吸光度と光沢保持率の関係を示すグラフである。
【図5】
官能基の量と光沢保持率の関係を示すグラフである。
【図6】
吸光度と光沢保持率の関係を示すグラフである。
【図7】
塗膜中の紫外線吸収能を有する官能基残基の量と光沢保持率との関係を示すグラフである。
【図8】
吸光度と耐候性の関係を示すグラフである。
【図9】
塗膜中の紫外線吸収能を有する化合物残基の濃度、分子吸光係数、乾燥被膜の厚み及び暴露時間の関係を示すグラフである。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2006-01-20 
出願番号 特願2000-348232(P2000-348232)
審決分類 P 1 651・ 537- ZA (B05D)
最終処分 取消  
前審関与審査官 村山 禎恒  
特許庁審判長 石井 淑久
特許庁審判官 鴨野 研一
野村 康秀
登録日 2002-12-13 
登録番号 特許第3380226号(P3380226)
権利者 大成化工株式会社
発明の名称 耐候性コーティング膜の製造方法  
代理人 池田 幸弘  
代理人 松本 武彦  
代理人 浅村 昌弘  
代理人 浅村 肇  
代理人 浅村 肇  
代理人 浅村 皓  
代理人 浅村 皓  
代理人 池田 幸弘  
代理人 浅村 昌弘  

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