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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G09F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G09F
管理番号 1138306
審判番号 不服2003-6297  
総通号数 80 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1997-03-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-04-14 
確定日 2006-06-13 
事件の表示 平成 8年特許願第 82024号「多層構造をもつラベル」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 3月28日出願公開、特開平 9- 81041〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は平成8年3月11日の出願(パリ条約に基づく優先権主張 1995年3月16日)であって、平成14年12月26日付けで拒絶の査定がされたため、これを不服として平成15年4月14日付けで本件審判請求がされるとともに、同年5月14日付けで明細書についての手続補正(平成14年改正前特許法17条の2第1項3号の規定に基づく手続補正であり、以下「本件補正」という。)がされたものである。

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成15年5月14日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正目的
本件補正前後の【請求項1】の記載を比較すると、補正前の「レーザー光を照射すると色を変化する添加剤」を「レーザー光を照射すると色を変化するがガス状放出物は生成しない添加剤」と補正しており、特許請求の範囲の減縮(特許法17条の2第4項2号該当)を目的とするものと認める。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるかどうか検討する。

2.補正発明の認定
補正発明は、本件補正により補正された明細書の特許請求の範囲【請求項1】に記載された事項によって特定されるものであり、その記載は次のとおりである。
「(a)プラスチックスからつくられた基底層から成り、
(b)該基底層は光、特にレーザー光を照射すると色を変化するがガス状放出物は生成しない添加剤を含み、
(c)該基底層はその片側を自己接着性の組成物で被覆され、
(d)該組成物は必要に応じ剥離紙または剥離フィルムで被覆されており、
(e)該基底層の他の側は互いに重ね合わされて配列された1枚またはそれ以上の保護フィルムで被覆され、
(f)該保護フィルムはレーザー照射光に対し透明でこれを透過することができ、且つ自己接着性の被膜が取り付けられていることを特徴とする多層構造をもったラベル。」
なお、補正発明は「多層構造をもったラベル」であり、この多層構造には「自己接着性の組成物」、必要に応じて「剥離紙または剥離フィルム」及び「保護フィルム」も含まれることが明らかであるから、(a)に「基底層から成り」とあるものの、ラベルが基底層のみから構成されていると認めることはできず、「基底層から成り」とあるのは「基底層を有し」との趣旨に解する。

3.引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された米国特許第5,340,628号明細書(以下「引用例1」という。)には、そのFIG.2に符番20,18,12,16,及び14の5層構造からなるものが図示されているとともに、以下のア〜クの記載がある。
ア.「レーザーマーカブルな積層シート」(1欄1行)
イ.「対向した表裏の主要面を有する可撓性ベースシート12、ベースシート12の表面と同一の広がりを持ちそれを覆う可撓性の透明カバーシート14,及びベースシート12とカバーシート14間にあって、カバーシート14をベースシート12に接着する透明で永久性の感圧接着剤16を構造として具備するレーザーマーカブルなシートが、FIG.1及びFIG.2に示されている。」(2欄11〜19行)
ウ.「随意選択的に、ベースシートの裏面は感圧接着剤18の層で被覆され、剥離シート20が一時的に感圧接着剤18に接着されている。」(2欄20〜23行)
エ.「ベースシート12は薄く可撓性で熱的にマーカブルな物質であり、その物質は熱的活性溶液で処理された表面を少なくとも有する不透明紙のようなものである。」(2欄30〜33行)
オ.「ベースシート表面に向けられたレーザービームの熱が、レーザーの入射エリアに暗いマーキングを生じるように、ベースシートの表面は熱的活性となっている。」(2欄34〜38行)
カ.「ベースシート12の表面に向けられたレーザービームは、カバーシート及び透明接着剤の両者を損なうことなく通過する。もしも、任意の粒子がレーザービームの熱に基づく燃焼によりベースシートから発生しても、そのような粒子はカバーシートとベースシート間で捕捉され、空気、製品、ベースシートが接着される容器又は使用に供される包装設備を汚染しない。」(2欄41〜49行)
キ.「FIG.3は、単純化した形態で、レーザーマーキングシステムを用いたレーザーマーカブルシート10の使用を描くものである。レーザービーム発生器30は、マスク34を通るようにレーザービーム32を方向付ける。マスクを通過したビーム36は、次にレーザーマーカブルシート10表面に焦点を結ぶための適宜の光学媒体38を通る。」(2欄50〜55行)
ク.「レーザーマーカブルシート10には、製品コード50、ロットナンバー52,バーコード54、期間満了日等の任意所望の情報をマークしてもよい。」(2欄56〜59行)

4.引用例1記載の発明の認定
引用例1の記載カによれば、カバーシートはレーザービームに対して透明である。
引用例1の記載エ〜カによれば、ベースシートの表面には、処理を行った「熱的活性溶液」の成分が含まれていること、及び同成分がレーザービームを照射した際に色が変わる物質であることは明らかである。
したがって、引用例1には次のような発明が記載されていると認めることができる。
「剥離シート、感圧接着剤層、可撓性のベースシート、感圧接着剤層及び可撓性のカバーシートがこの順に積層されたレーザーマーカブルシートであって、
ベースシート表面(カバーシートのある側の面)には、レーザービームを照射した際に色が変わる物質が含まれており、
カバーシートはレーザービームに対して透明であるレーザーマーカブルシート。」(以下「引用発明1」という。)

5.補正発明と引用発明1との一致点及び相違点の認定
補正発明の「基底層」につき検討すると、その「剥離紙または剥離フィルム」側が「自己接着性の組成物で被覆され」ている。本願明細書には出願当初から一貫して、「実施例1」として、「ペーストを厚さ75μmで高光沢性の二軸延伸ポリエステル・フィルム上に均一に被覆し、不活性ガス下において電子ビーム(EB)で照射して硬化させる。次いでこの構造物に公知のポリアクリレート接触接着剤を層の厚さ25g/m2で被覆する。・・・使用した保護フィルムはICI社製カラデックス(Kaladex)(R)の無色透明のポリエステル・フィルムであり、その厚さは50μmであって、同様に接着性被膜が取り付けられている。」(段落【0017】)との記載があり、ここでいう「接触接着剤」は補正発明の「自己接着性の組成物」に該当するものと認めることができ、硬化したペーストがフィルムから取り除かれる旨の記載はないから、「層」と表現しているものの、「シート」であってもよいことが明らかである。したがって、引用発明1の「ベースシート」及び「レーザービームを照射した際に色が変わる物質」は、補正発明の「基底層」及び「光、特にレーザー光を照射すると色を変化する添加剤」にそれぞれ相当する。
引用発明1の「剥離シート」及び「感圧接着剤層」(剥離シート側)は、補正発明の「剥離紙または剥離フィルム」及び「自己接着性の組成物」に相当する。なお、引用例1には「感圧接着剤」が「自己接着性」との記載はないが、補正発明の「自己接着性の組成物」とは、上記段落【0017】の記載からみても通常の接着剤にすぎないから、このように認定する。仮にこれが相違点であるとしても、しょせん公知の接着剤を使用しただけであるから、設計事項というべきであり、独立特許要件(進歩性)の判断には影響を及ぼさない。
補正発明の「保護フィルム」は「1枚またはそれ以上」であり、1枚の場合は「互いに重ね合わされて配列」が無意味となるから、引用発明1の「カバーシート」がこれに相当する。仮に、「1枚またはそれ以上」が「2枚以上」の誤記であるとしても(その場合、実施例がなくなるから、同解釈は困難であると同時に、記載不備の理由で独立特許要件を有さない。)、「互いに重ね合わされて配列された2枚以上」とすることは設計事項に属するから、独立特許要件(進歩性)の判断には影響を及ぼさない。
補正発明の「自己接着性の被膜」について、保護フィルムに取り付けられている旨の限定があるが、補正発明は「多層構造をもったラベル」であるから、「基底層」と「保護フィルム」間に「自己接着性の被膜」が存することだけが発明を特定しうる事項であって、ラベル作成前の「自己接着性の被膜」が「基底層」と「保護フィルム」のどちらに所属していたかは発明特定事項とはならない。そして、「自己接着性」に格別の意味がないことは「自己接着性の組成物」について述べたと同様であるから、引用発明1の「感圧接着剤層」(カバーシート側)は補正発明の「自己接着性の被膜」に相当し、この被膜が「基底層」と「保護フィルム」間に存する点で補正発明と引用発明1は一致する。
引用例1の記載カ,ケによれば、引用発明1は任意所望の情報がマークされ、物品に貼付されるものであるから「ラベル」ということができ、5層構造(接着剤層を除いても3層構造)であるから、「多層構造をもったラベル」である。
したがって、補正発明と引用発明1とは、
「(a)基底層を有し、
(b)該基底層は光、特にレーザー光を照射すると色を変化する添加剤を含み、
(c)該基底層はその片側を自己接着性の組成物で被覆され、
(d)該組成物は必要に応じ剥離紙または剥離フィルムで被覆されており、
(e)該基底層の他の側は互いに重ね合わされて配列された1枚またはそれ以上の保護フィルムで被覆され、
(f)該保護フィルムはレーザー照射光に対し透明でこれを透過することができ、且つ保護フィルムと基底層間に自己接着性の被膜が設けられている多層構造をもったラベル。」である点で一致し、以下の各点で相違する。
〈相違点1〉補正発明の「基底層」が「プラスチックスからつくられた」のに対し、引用発明1のそれがプラスチックス製かどうか不明である点。
〈相違点2〉「光、特にレーザー光を照射すると色を変化するがガス状放出物は生成しない添加剤」につき、補正発明では「ガス状放出物は生成しない」と限定しているのに対し、引用発明1ではその点明らかでない点。

6.相違点についての判断及び補正発明の独立特許要件の判断
以下、本審決では「発明を特定するための事項」という意味で「構成」との用語を用いることがある。
(1)相違点1について
引用発明1の「ベースシート」は可撓性であり、可撓性のシートとしてプラスチック製のものはありふれている。また、引用発明1の「ベースシート」は、「レーザー光を照射すると色を変化する添加剤」を含有できるものでなければならないが、逆にいうと同条件を満たしており、かつ可撓性であれば何であってもよい。
ところで、シートではないものの、プラスチック製のものに「レーザー光を照射すると色を変化する添加剤」を含有させることは、原査定の追って書きに引用された特開平3-24161号公報(本願明細書に「ドイツ特許E 39 17 294号」として紹介されたものが日本国に出願されたものの公開公報であり、以下「引用例2」という。)に記載されている。さらに、特開平6-175584号公報(以下「引用例3」という。)にはプラスチックシートを用いるものが記載されている。
以上を総合すれば、「レーザー光を照射すると色を変化する添加剤」を含有させる対象となるものをプラスチック製とすることは周知であり、その対象が可撓性シートであることは阻害要因にならないから、結局のところ、相違点1に係る補正発明の構成をなすことは設計事項というべきである。

(2)相違点2について
引用例1には、上記記載カがあるものの、粒子の発生原因は燃焼(burning)とされており、添加剤自体がガス状放出物を生成するとされているわけではない。したがって、相違点2は実質的な相違点ではない蓋然性が極めて濃厚である。
仮に、実質的な相違点であるとしても、引用例1の記載カからみて、余分な粒子(ガス状放出物を含む。)を発生しない方が好ましいことは自明である。
そして、本願明細書の「ドイツ特許E 39 17 294号記載の水酸化燐酸銅添加剤2.5%を激しく撹拌しながら混入する。」(段落【0017】)との記載によれば、補正発明の実施例では前掲引用例2と同一の添加剤を用いているのだから、引用例2で用いられた添加剤は「ガス状放出物は生成しない」ものであり、これを引用発明1に採用することには何の困難性もない。
そればかりか、引用例3には、「記録層12はフォトクロミック反応を呈する有機フォトクロミック材料(例えばスピロピラン)と透明樹脂材料との混合物」(【要約】欄)及び
「有機フォトクロミック材料としては,下記のものがある。なお,下記の物質の後に,(無色←→青色)のごとく示した表示は,光照射によって書き込みされた色(→方向の色),及びその着色が光又は熱によって消去される色(←方向の色)を示す。
(1)スピロピラン(無色←→青色)
(2)メチレンブルー「+Fe2+」(青色←→無色),
(3)βテトラクロロ-1-ケトジヒドロナフタレン(無色←→赤色),
(4)サリチリデンアニリン(淡黄色←→橙赤色),
(5)アゾベンゼン(無色←→黄色)。」(段落【0008】)との記載があり、これらの反応からみて、ガス状放出物を生成すると解することはできないから、引用例3記載の添加物(有機フォトクロミック材料)を引用発明1に採用することも当業者にとって何の困難性もない。
したがって、相違点2が実質的相違点であるとしても、引用例2又は3記載の技術を適用することにより、当業者が容易に想到できた構成といわなければならない。

(3)補正発明の独立特許要件の判断
相違点1及び相違点2は、実質的相違点でないか、設計事項程度の軽微な相違点であるか、または当業者にとって想到容易な相違点でしかなく、これら相違点に係る補正発明の構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。
したがって、補正発明は引用発明1及び引用例2若しくは引用例3記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

[補正の却下の決定のむすび]
本件補正前の請求項1に係る発明を限定的に減縮した補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないから、本件補正は平成15年改正前特許法17条の2第5項で準用する同法126条4項の規定に違反している。したがって、同法159項1項で読み替えて準用する同法53条1項の規定により、本件補正は却下されなければならない。
よって、補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本件審判請求についての判断
1.本願発明の認定
本件補正が却下されたから、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、願書に最初に添付した明細書の特許請求の範囲【請求項1】に記載された事項によって特定されるものであり、その記載は次のとおりである。
「(a)プラスチックスからつくられた基底層(a)から成り、
(b)該基底層は光、特にレーザー光を照射すると色を変化する添加剤を含み、
(c)該基底層はその片側を自己接着性の組成物で被覆され、
(d)該組成物は必要に応じ剥離紙または剥離フィルムで被覆されており、
(e)該基底層の他の側は互いに重ね合わされて配列された1枚またはそれ以上の保護フィルムで被覆され、
(f)該保護フィルムはレーザー照射光に対し透明でこれを透過することができ、且つ自己接着性の被膜が取り付けられていることを特徴とする多層構造をもったラベル。」
なお、「基底層(a)」の括弧書きには別段意味がなく(そのため、本件補正では削除されている。)、かつ「第2[理由]2」で述べたと同様の理由により、「基底層(a)から成り」とあるのは「基底層を有し」との趣旨に解する。

2.本願発明の進歩性の判断
本願発明と引用発明1とは、
「(a)基底層を有し、
(b)該基底層は光、特にレーザー光を照射すると色を変化する添加剤を含み、
(c)該基底層はその片側を自己接着性の組成物で被覆され、
(d)該組成物は必要に応じ剥離紙または剥離フィルムで被覆されており、
(e)該基底層の他の側は互いに重ね合わされて配列された1枚またはそれ以上の保護フィルムで被覆され、
(f)該保護フィルムはレーザー照射光に対し透明でこれを透過することができ、且つ保護フィルムと基底層間に自己接着性の被膜が設けられている多層構造をもったラベル。」である点で一致し、「第2[理由]5」で述べた〈相違点1〉において相違する(「補正発明」を「本願発明」と読み替える。)。
そして、相違点1に係る本願発明の構成を採用することが設計事項であることは「第2[理由]6(1)」で述べたとおりであり(「補正発明」を「本願発明」と読み替える。)、同構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。
したがって、本願発明は引用発明1及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
本件補正は却下されなければならず、本願発明が特許を受けることができない以上、本願の請求項2に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-12-26 
結審通知日 2006-01-10 
審決日 2006-01-23 
出願番号 特願平8-82024
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G09F)
P 1 8・ 575- Z (G09F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高木 彰小宮 寛之  
特許庁審判長 津田 俊明
特許庁審判官 藤井 勲
藤本 義仁
発明の名称 多層構造をもつラベル  
代理人 小田島 平吉  

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