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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G09B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G09B
管理番号 1138307
審判番号 不服2003-12839  
総通号数 80 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1998-04-14 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-07-07 
確定日 2006-06-12 
事件の表示 平成 8年特許願第253062号「心臓の動き表示装置および心臓の動き表示方法」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 4月14日出願公開、特開平10- 97186〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成8年9月25日の出願であって(以下、平成8年9月25日を「本願出願日」という。)、その出願からの主だった経緯を箇条書きにすると以下のとおりである。
・平成 8年 9月25日 本願出願
・平成13年 6月12日付け 原審にて拒絶理由の通知
・平成13年 8月 1日付け 意見書・手続補正書の提出
・平成14年 9月27日付け 原審にて拒絶理由の通知
・平成14年11月19日付け 意見書・手続補正書の提出
・平成15年 6月 2日付け 原審にて拒絶査定の通知
・平成15年 7月 7日付け 本件審判請求
・平成15年 8月 5日付け 審判請求書に係る手続補正書及び明細書に係る手続補正(平成14年改正前特許法第17条の2第1項3号の規定に基づく手続補正であり、以下、「本件補正」という。)書の提出

第2 補正の却下の決定
【補正の却下の決定の結論】
平成15年8月5日付けの明細書に係る手続補正を却下する。

【理由】
1.補正事項
本件補正後の【請求項1】乃至【請求項4】はそれぞれ本件補正前の【請求項1】乃至【請求項4】に対応するものであり、本件補正後の【請求項5】乃至【請求項9】はそれぞれ本件補正前の【請求項6】乃至【請求項10】に対応するものであり、本件補正後の【請求項10】は本件補正前の【請求項12】に対応するものであり、これら請求項の補正は次の補正事項からなっている。
補正事項:本件補正前【請求項1】及び【請求項7】の「複数の心臓の状態」を本件補正後【請求項1】及び【請求項6】の「正常状態と疾患状態を含む複数の心臓の状態」と補正する。

2.補正目的
補正事項は、「複数の心臓の状態」について「正常状態と疾患状態を含む」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮(特許法第17条の2第4項2号に該当)を目的とするものと認める。
そこで、本件補正後の【請求項1】に係る発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるかどうか検討する。

3.本件補正後の【請求項1】に係る発明の認定
本件補正後の【請求項1】に係る発明は、本件補正により補正された明細書の特許請求の範囲の【請求項1】に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める(以下、「補正発明」という。)。
「正常状態と疾患状態を含む複数の心臓の状態に対応した複数種類の心電図波形情報を記憶する心電図信号記憶手段と、
前記複数種類の心電図波形情報に対応する心臓の動作状態を表す、刺激の伝達状態と心筋の動作状態を示す心臓の断面イメージを、時系列で記憶する心臓動作記憶手段と、
前記複数の心臓の状態のうち所定の心臓の状態に対応する心電図波形情報と、当該心電図波形情報に対応する前記心臓の断面イメージをそれぞれ前記心電図信号記憶手段及び前記心臓動作記憶手段から順次読み出し、前記心電図波形情報の変化と、対応する前記心臓の動作状態の変化とを表示する表示手段を有することを特徴とする心臓の動き表示装置。」

4.独立特許要件の欠如
(1)引用刊行物の記載事項
原審の拒絶理由で引用した、本願出願日前である平成8年7月23日に頒布された特開平8-190341号公報には、次の事項が記載されている。
(ア)「【請求項4】 立体状あるいは平面状の心臓模型(1)の、心臓刺激伝導路(2)に概相当する位置に、複数の発光手段もしくは液晶表示手段を配列したことを特徴とする、心臓刺激伝導様式表示模型。
【請求項5】 心臓模型(1)の心臓刺激伝導路(2)に概相当する位置に配列した複数の発光手段もしくは液晶表示手段が、心臓刺激伝導様式に概相関した順序および速度で順次点灯もしくは点滅するよう構成した、請求項4記載の模型。
【請求項6】 心電図の所定箇所に配置した発光手段もしくは液晶表示手段を有し、心電図波形を模式的に示すように構成した、心電図波形表示部(3)を、併せ備えることを特徴とする、請求項4または5記載の模型。
【請求項7】 心電図波形表示部(3)の発光手段もしくは液晶表示手段が、順次点灯もしくは順次点滅することにより、心電図波形の進行を模式的に表示することを特徴とする、請求項6記載の模型。
【請求項8】 模式的に表示する心臓刺激伝導様式が、正常な心臓刺激伝導様式および複数種類の異常な心臓刺激伝導様式であり、いずれかを択一的に表示しうるように構成したことを特徴とする、請求項5、6または7記載の模型。」(【特許請求の範囲】参照。)
(イ)「【産業上の利用分野】本発明は、心臓の模式的表示方法および心臓の模型に関する。特に心臓刺激伝導様式の模式的表示方法と、心臓刺激伝導様式を表示する模型に関するものであり、医学生教育学習用・看護学生教育学習用・獣医学生教育学習用・患者への説明用などに利用され得る。」(【0001】参照。)
(ウ)「また、心臓模型の心臓刺激伝導路に概相当する位置に配列した複数の発光手段等を順次点灯あるいは点滅させることにより、特定の刺激伝導様式を模式的に表示し、同時に、かかる特定の刺激伝導様式において観察される特徴的・典型的な心電図波形を、心臓模型の心電図波形表示部に設けた複数の発光手段等を点灯あるいは順次点滅せしめて模式的に表示することにより、特定の心臓刺激伝導様式と、かかる特定の心臓刺激伝導様式において観察される心電図波形とを、同時に相関的に表示する。特に、心臓刺激伝導様式を示す発光手段等の順々の点滅に併せて、相関的に、心電図波形表示部の発光手段等を心電図波形の進行の通りに心電図波形状に順次点滅させると、心臓刺激伝導様式と心電図波形の関係がよく理解できる。つまり、例えば、正常洞調律を表示するときには、心臓刺激伝導路の洞房結節から結節間伝導路にかけての発光手段等が順次点滅するタイミングにあわせて、心電図表示部の発光手段等が、P波を表示するよう順次点灯あるいは点滅せしめ、また、ヒス束からプルキンエ線維にかけての発光手段等が順次点滅するタイミングにあわせて、心電図波形表示部の発光手段等はQRS群を形成するよう順次点灯あるいは点滅せしめる。特定の不整脈等を表示する場合も、同様に、その不整脈に特徴的な、心臓刺激伝導様式と心電図波形の進行とを、同時に示す。
…また、心臓刺激伝導路に概相当する位置に配列した複数の発光手段等の点滅に相関して、信号音を発せしめるとよい。信号音は、刺激の発生部位(正常洞調律では洞房結節の一部)に相当する発光手段等の点灯あるいは点滅にあわせて、鳴らしても良く、また、発光手段等の順々の点滅にあわせて、断続的になり続けるようにしても良い。不整脈などの異常な刺激伝導様式を表すときは、正常な刺激伝導様式を示す時とは異なる信号音を発せしめると良い。また、正常な刺激伝導様式(並びに心電図波形)を表示するときには正常な心音に類似した信号音を、異常な刺激伝導様式(並びに心電図波形)を表示するときには、その場合に聴診される特異な心音に類似した信号音を、刺激伝導の様子(発光手段等の順々の点滅)に同調して発せしめることが、より好ましい。
…心電図波形をも同時に表示するものでは、心臓内部の生理的活動である心臓刺激伝導様式と、それを生体の外部から観察した結果である心電図波形を、相関的・対比的に同時に表示できる。」(【0013】〜【0019】参照。)
(エ)「【実施例】本発明の実施例を、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の一実施例を概念的に示すものである。硬質合成樹脂製のパネル6に心臓の断面図として左心房7、右心房8、左心室9、右心室10、前大静脈11、後大静脈12等を模式的に描き、心臓模型1としている。
心臓模型1上には、代表的な心臓刺激伝導路2が存在する位置に、多数の小窓を設け、それぞれの小窓に多数の発光ダイオードL1〜L35およびL17r〜L35rが配してある(小窓の図示は省略)。具体的には、発光ダイオードの配列により、洞房結節(L1〜L3)・結節間伝導路(L4〜L8)・房室結節(L9〜L11)・ヒス束(12〜L16)・ヒス束左脚(L17〜L35)・ヒス束右脚(L17r〜L35r)が示してある。(本実施例では、心臓刺激伝導路をより簡潔に表示するために、複数あるとされる結節間伝導路は1本のみとして表示し、また、プルキンエ線維および副伝導路は設けていない。)心臓模型の下端には、それら発光ダイオードL1〜L35およびL17r〜L35rが特定の刺激伝導様式に則した点滅をするよう、表示するモデルパターンを選択するための、電気的な押しボタン式の選択スイッチ4を配置してある。選択スイッチ4は、本実施例のように押しボタン式以外にも、ロータリースイッチその他、自由に選択し得る。また、心臓模型1の左下隅に、多数の小窓を密に穿ち、発光ダイオードLを密に配してある(小窓の図示は省略)。この部分は、心電図波形表示部3である。また、右下隅には、信号音を発するためのスピーカー5を設けてある。」(【0021】〜【0022】参照。)
(オ)「図2は、本発明の一実施例として、正常なる心臓刺激伝導様式、つまり、正常洞調律をモデルパターンとしたときの、発光ダイオードL1〜L35点滅のタイムチャートである。横軸は時間(秒)を示す。縦軸方向への基線の立上がりは、発光ダイオードL1〜L35それぞれの点灯を示す。発光ダイオードL1〜L35は、図1で示した実施例において、心臓刺激伝導路3に相当する部分に等間隔に配列してある発光ダイオードL1〜L35の、それぞれ同番号のものに相当する。発光ダイオードL17r〜L35rの点滅は、L17〜L35と同一のパターンであるため図示は省略した。
L1〜L3は、洞房結節を示すための発光ダイオードである。この実施例におけるパターンでは、L1が0.5秒毎に、他の発光ダイオードの点滅に先だって、0.005秒間点灯する。つまり、120回/分の頻度(心拍数)で、洞房結節がペースメーカーとなり刺激が発生することを模式する。このとき、発光ダイオードL1の点灯にあわせて信号音を発生させると、刺激の発生部位や発生頻度が、聴覚的にも明確となる。発光ダイオードL2続いてL3は、発光ダイオードL1の点滅に連続し、おなじく0.005秒間づつ、順次点灯する。発光ダイオードL4〜L8は結節間伝導路を示すための発光ダイオードである。正常な心臓刺激伝導様式である正常洞調律においては、結節間伝導路の刺激伝導速度は、洞房結節内の刺激伝導速度と等しい。よって、発光ダイオードL4〜L8は、発光ダイオードL1〜L3の点滅に連続し、おなじく0.005秒間づつ、順次点灯する。発光ダイオードL9〜L11は房室結節を示すための発光ダイオードである。それ以外の心臓刺激伝導路における刺激の伝導速度に比べ、房室結節における刺激の伝導速度はやや遅い。それを模式するために、発光ダイオードL8に続き、発光ダイオードL9〜L11は、それまでの発光ダイオードよりやや長く、0.02秒間づつ順次点灯する。発光ダイオードL12〜L16はヒス束を、発光ダイオードL17〜L35はヒス束左脚(およびヒス束右脚)を示す。ヒス束もヒス束左脚(および右脚)も、0.005秒間づつ順次点灯する。その後、全ての発光ダイオードの消灯した状態が、0.28秒間続く。これらが、正常洞調律の1心周期(1回の心拍)における心臓刺激伝導様式を示す一連の発光ダイオード点滅パターンである。正常洞調律では、これらの一連の点滅が規則的に繰り返される。」(【0023】〜【0024】参照。)
(カ)「図3は、本発明の別の実施例として、不整脈の一形態である接合部性早期拍動をモデルパターンとしたときの、発光ダイオード点滅のタイムチャートである。発光ダイオードL1〜L35の1回の点灯時間は、図2で示した正常洞調律の場合と同様であるので、説明を省略する。また、発光ダイオードL17r〜L35rの点滅は、L17〜L35と同様のパターンであるため、図示は省略した。正常洞調律では、常に洞房結節がペースメーカーとなるため、1心周期における一連の発光ダイオード点滅のスタート部位は、常に発光ダイオードL1であった。しかし、接合部性早期拍動(より詳しくは、接合部性早期拍同のうちの二段脈)では、正常な刺激発生部位である洞房結節と、異常な刺激発生部位としての房室結節が、交互に刺激を発生する。そして、異常な部位である房室結節において刺激が発生したときに限り、房室結節よりも上位の部分(結節間伝導路および洞房結節)には逆行性(正常とは逆方向)に刺激が伝わる。
図3のタイムチャートに示した発光ダイオード点滅の流れのうち、第一群は、洞房結節から刺激が発生した場合を示している。つまり、発光ダイオードL1から点滅が開始し、正常洞調律と同様に以降の発光ダイオードが順次点滅する。第二群は、房室結節から異常なる刺激が発生した場合を示している。房室結節を示す発光ダイオードの1つである発光ダイオードL9から点滅が開始し、他の発光ダイオードの一連の点滅が開始する。発光ダイオードL10以降は、正常洞調律と同様に下降性に発光ダイオードが順次点滅するが、発光ダイオードL8より上位へは、正常洞調律とは逆に、逆行性に発光ダイオードが順次点滅する。信号音を発する場合、第一群における発光ダイオードL1点灯時を、正常洞調律の場合と同様な音とし、第二群における発光ダイオードL9点灯時を、それとは異なる音とすることが好ましい。つまり、正常な刺激発生と異常な刺激発生とで、信号音を異質にすることにより、聴覚的にも正常な刺激発生と異常な刺激発生とを識別できる。」(【0026】〜【0027】参照。)
(キ)「図5は、心電図波形表示部3を示す実施例であり、そのうちのAは正常洞調律における波形を示すための心電図波形表示部3である。左から右に向かい、発光ダイオードを順次点滅させ、波形の進行を表現する。この場合、生体内の心臓刺激伝導路において刺激が移動している位置と、その時々に生体外で観察される心電図波形成分とが、心臓刺激伝導路2を示す表示部分の発光ダイオードと、心電図波形表示部3の発光ダイオードとで同調して表示されるようにする。タイムチャートは省略するが、例えば図5中に中黒丸で示した、発光ダイオードLpは、P波の開始、つまり、正常洞調律における刺激の発生を示しており、図1ならびに図3上の発光ダイオードL1と同時に点滅することにより、生体の心臓内部における心臓の電気的活動と、それを生体外部から計測・観察した心電図波形とが、どの様な関係であるかが、一目でわかる。
図6は、多数の発光ダイオードLを同一平面上に密に配置し、正常洞調律の心電図波形や各種不整脈発生時などの心電図波形を、点滅する発光ダイオードの位置とパターンで択一的に表示する、図5で示したものとは別の心電図波形表示部3を示す実施例である。中黒丸は点灯している発光ダイオードLを示している。すなわち、図6では、正常洞調律の心電図波形を表示している。本実施例では、発光ダイオードLを順次点灯あるいは順次点滅させずに、表示しているモデルパターンの心臓刺激伝導様式において観察される心電図の波形を、波形通りの複数の発光ダイオードLの、一斉の「点灯」で表示している。ただし、この場合、刺激が伝達されつつある部位と、心電図波形の構成とを、動的かつ相関的に表示することはできないため、次善の策といえる。」(【0029】〜【0030】参照。)

(2)引用刊行物に記載の発明の認定
したがって、上記各記載事項を含む引用刊行物の全記載及び図示によれば、引用刊行物には、下記の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「心臓模型(1)の、心臓刺激伝導路(2)に概相当する位置に、複数の発光手段もしくは液晶表示手段を心臓刺激伝導様式に概相関した順序および速度で順次点灯もしくは点滅するよう構成し、心臓刺激伝導様式が正常な心臓刺激伝導様式および複数種類の異常な心臓刺激伝導様式であり、いずれかを択一的に表示しうるように構成すると共に、心電図の所定箇所に配置した発光手段もしくは液晶表示手段を有し、発光手段もしくは液晶表示手段が、心臓刺激伝導様式に相関的に順次点灯もしくは順次点滅することにより、心電図波形の進行を模式的に表示する心電図波形表示部(3)を併せ備えることを特徴とする心臓刺激伝導様式表示模型。」

(3)補正発明と引用発明との一致点及び相違点の認定
上記記載事項(ウ)〜(キ)より、引用発明の「心電図波形」は、正常及び異常な「心臓刺激伝導様式」のパターンに相関してパターンで表示されるものであって、「心電図波形」がパターン化していることは、すなわち、「心電図波形」が記憶されていることであるから、引用発明は、補正発明の「正常状態と疾患状態を含む複数の心臓の状態に対応した複数種類の心電図波形情報を記憶する心電図信号記憶手段」を有するものと言える。
上記記載事項(エ)より、引用発明の「心臓模型(1)の、心臓刺激伝導路(2)に概相当する位置に、複数の発光手段もしくは液晶表示手段を心臓刺激伝導様式に概相関した順序および速度で順次点灯もしくは点滅するよう構成」したものは、補正発明で言うところの「心臓の動作状態」を「心臓のイメージ」で表したものであることが明らかであると共に、前述と同様に上記記載事項(ウ)〜(キ)より、「心電図波形」と相関すると共に、正常と異常のものとを択一的に順次点灯もしくは点滅するようパターンで表示されるもの、すなわち、時系列的なパターンとして記憶されたものと言えるから、引用発明は、補正発明の「複数種類の心電図波形情報に対応する心臓の動作状態を表す、刺激の伝達状態を示す心臓のイメージを、時系列で記憶する心臓動作記憶手段」を有するものと言える。
引用発明の「心臓模型(1)の、心臓刺激伝導路(2)に概相当する位置に、心臓刺激伝導様式に概相関した順序および速度で順次点灯もしくは点滅するよう構成」した複数の発光手段もしくは液晶表示手段と「心電図」は、相関したパターンで順次点灯もしくは順次点滅表示するものであって、そのパターンの表示にあたっては、パターンの時系列にしたがって表示されるわけであり、パターンの記憶手段と表示手段との関係においては、記憶手段からパターンを時系列にしたがって順次読み出して表示手段で表示するものと言える。そうすると、引用発明は心筋の動作状態を除く限度において、補正発明の「複数の心臓の状態のうち所定の心臓の状態に対応する心電図波形情報と、当該心電図波形情報に対応する前記心臓のイメージをそれぞれ前記心電図信号記憶手段及び前記心臓動作記憶手段から順次読み出し、前記心電図波形情報の変化と、対応する前記心臓の動作状態の変化とを表示する表示手段」を有するものと言える。
引用発明の「心臓刺激伝導様式表示模型」は、補正発明の「心臓の動き表示装置」に相当する。
したがって、補正発明と引用発明を対比すると、両者は、
「正常状態と疾患状態を含む複数の心臓の状態に対応した複数種類の心電図波形情報を記憶する心電図信号記憶手段と、
前記複数種類の心電図波形情報に対応する心臓の動作状態を表す、刺激の伝達状態を示す心臓のイメージを、時系列で記憶する心臓動作記憶手段と、
前記複数の心臓の状態のうち所定の心臓の状態に対応する心電図波形情報と、当該心電図波形情報に対応する前記心臓のイメージをそれぞれ前記心電図信号記憶手段及び前記心臓動作記憶手段から順次読み出し、前記心電図波形情報の変化と、対応する前記心臓の動作状態の変化とを表示する表示手段を有することを特徴とする心臓の動き表示装置。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
《相違点》
心臓動作記憶手段に記憶する複数種類の心電図波形情報に対応する心臓の動作状態を表す心臓のイメージが、補正発明では刺激の伝達状態と心筋の動作状態を示す断面イメージであるのに対して、引用発明では刺激の伝達状態を示すのみである点。

(4)相違点についての判断
上記「(3)補正発明と引用発明との一致点及び相違点の認定」で検討したように、引用発明の「心電図波形」と「心臓刺激伝導様式」は共に、正常及び異常な心臓の状態に対応したものであるとともに、「心臓刺激伝達様式」は心臓刺激伝導路(2)に概相当する位置に、複数の発光手段もしくは液晶表示手段を心臓の動作状態に概相関した順序および速度で順次点灯もしくは点滅するものであるから、心臓の動作状態に対応した変化を表示しているものと言える。
ここで、所定時間の心電図波形と共に心臓断面データを記憶し表示することは本願出願日前において周知の技術であって(例えば、特開平4-30840号公報、特開昭62-231622号公報等参照。)、特に特開平4-30840号公報の心臓の断層データであってもその画像により心筋の動きを捉え得るし、ましてや、特開昭62-231622号公報においては、プログラム制御可能に時間的に変化する心筋の動きを表示し得るのであるから、心電図波形に対応する心筋の動作状態を表す心臓の断面イメージを記憶する記憶手段は、本願出願日前において周知の技術と言える。
そうすると、相違点に係る補正発明の心筋の動作状態を心臓の断面イメージとして表すことは、当業者であれば容易に想起し得る程度のことである。
したがって、相違点に係る補正発明は、当業者が前記周知の事項を参酌し、容易に想到し得るものである。

(5)補正発明の独立特許要件の判断
相違点は、当業者にとって想到容易な相違点であって、この相違点に係る補正発明の発明特定事項を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。
したがって、補正発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

【補正却下の決定の結び】
以上のとおり、本件補正前の【請求項1】を限定的に減縮した補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないから、本件補正は平成15年改正前特許法17条の2第5項で準用する同法第126条第4項の規定に違反している。したがって、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により、本件補正は却下されなければならない。
よって、補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本件審判請求についての当審の判断
1.本願発明の認定
本件補正が却下されたから、本願の【請求項1】に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成14年11月19日付けで補正された明細書の特許請求の範囲【請求項1】に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。
「複数の心臓の状態に対応した複数種類の心電図波形情報を記憶する心電図信号記憶手段と、
前記複数種類の心電図波形情報に対応する心臓の動作状態を表す、刺激の伝達状態と心筋の動作状態を示す心臓の断面イメージを、時系列で記憶する心臓動作記憶手段と、
前記複数の心臓の状態のうち所定の心臓の状態に対応する心電図波形情報と、当該心電図波形情報に対応する前記心臓の断面イメージをそれぞれ前記心電図信号記憶手段及び前記心臓動作記憶手段から順次読み出し、前記心電図波形情報の変化と、対応する前記心臓の動作状態の変化とを表示する表示手段を有することを特徴とする心臓の動き表示装置。」

2.本願発明の進歩性の判断
補正発明の「正常な状態と疾患状態を含む複数の心臓の状態」は本願発明の「複数の心臓の状態」の具体例である。
したがって、本願発明と引用発明とは、
「複数の心臓の状態に対応した複数種類の心電図波形情報を記憶する心電図信号記憶手段と、
前記複数種類の心電図波形情報に対応する心臓の動作状態を表す、刺激の伝達状態を示す心臓のイメージを、時系列で記憶する心臓動作記憶手段と、
前記複数の心臓の状態のうち所定の心臓の状態に対応する心電図波形情報と、当該心電図波形情報に対応する前記心臓のイメージをそれぞれ前記心電図信号記憶手段及び前記心臓動作記憶手段から順次読み出し、前記心電図波形情報の変化と、対応する前記心臓の動作状態の変化とを表示する表示手段を有することを特徴とする心臓の動き表示装置。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
《相違点’》
心臓動作記憶手段に記憶する複数種類の心電図波形情報に対応する心臓の動作状態を表す心臓のイメージが、補正発明では刺激の伝達状態と心筋の動作状態を示す断面イメージであるのに対して、引用発明では刺激の伝達状態を示すのみである点。
この相違点’について検討するに、「第2 補正の却下の決定 【理由】4.独立特許要件の欠如 (4)相違点についての判断」で述べたと同様の理由により、相違点’に係る本願発明の発明特定事項を採用することは当業者にとって想到容易である。また。この発明特定事項を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。
したがって、本願発明は引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおり、本件補正は却下されなければならず、本願発明が特許を受けることができない以上、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-04-12 
結審通知日 2006-04-17 
審決日 2006-04-28 
出願番号 特願平8-253062
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G09B)
P 1 8・ 575- Z (G09B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 木村 史郎平井 聡子  
特許庁審判長 酒井 進
特許庁審判官 藤井 靖子
藤本 義仁
発明の名称 心臓の動き表示装置および心臓の動き表示方法  
代理人 木村 秀二  
代理人 高柳 司郎  
代理人 大塚 康徳  
代理人 大塚 康弘  

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