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審決分類 |
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41J 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41J |
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管理番号 | 1140099 |
審判番号 | 不服2003-19011 |
総通号数 | 81 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1999-08-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2003-09-29 |
確定日 | 2006-07-12 |
事件の表示 | 平成10年特許願第 46315号「インクジェット記録装置」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 8月24日出願公開、特開平11-227220〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は平成10年2月13日の出願であって、平成15年8月22日付けで拒絶の査定がされため、これを不服として同年9月29日付けで本件審判請求がされるとともに、同日付けで明細書についての手続補正がされたものである。 当審においてこれを審理した結果、平成18年1月12日付けで拒絶理由を通知したところ、請求人は同年3月17日付けで意見書及び手続補正書を提出した。 第2 当審の判断 1.拒絶理由の概要 当審において通知した拒絶理由は次のようなものである。 (1)本願明細書には、平成14年改正前特許法36条4項に規定する要件を満たしていない不備がある。 (2)請求項1〜3に係る発明は、特開平9-234881号公報(以下「引用例1」という。)及び特公平5-19467号公報(以下「引用例2」という。)に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることできたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 2.特許請求の範囲の記載 平成18年3月17日付け手続補正により、特許請求の範囲は単一の請求項1のみとなり、その記載は次のとおりである。 「インクを吐出するヘッド部と、ヘッド部にインクを供給するサブタンクとを有する記録ヘッドと、サブタンクに供給するインクを保持するメインタンクと、メインタンクからサブタンクにインクを補給する補給手段と、ヘッド部から吐出および排出されたインクの量を計数する演算手段と、演算結果に応じてインクの補給量を制御する補給制御手段とからなり、前記演算手段が吐出ドット数と排出量のドット数換算値の和を算出し、前記インクを吐出するヘッド部と、ヘッド部にインクを供給し、内部のインク液面に設けたフロートと、該フロートとの接触によってインク補給を停止するスイッチとを有するサブタンクとを有する記録ヘッドと、サブタンクに供給するインクを保持するメインタンクと、メインタンクからサブタンクにインクを補給する補給手段と、ヘッド部から吐出および排出されたインクの量を計数する演算手段と、演算結果に応じてインクの補給量を制御する補給制御手段とからなり、前記補給制御手段が演算手段の演算結果に対して若干多めのインクを補給するように制御すると共に、前記補給制御手段が前記演算手段の吐出ドット数と排出量のドット数換算値の和を算出した演算結果によってポンプモータの回転数を制御するインクジェット記録装置。」 3.記載不備についての判断 上記請求項1の記載によれば、「補給制御手段が演算手段の演算結果に対して若干多めのインクを補給するように制御する」ものであり、演算結果とはインク消費量の推測量であるから、インク消費量よりも多い目のインクを補給しようとするものである。すなわち、サブタンクを満タンにするよう補給することを意図している。 他方、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、サブタンク内に「内部のインク液面に設けたフロートと、該フロートとの接触によってインク補給を停止するスイッチ」を有しており、満タン以上にインク補給をしようとすれば、スイッチにより停止される仕組みになっているから、インク消費量よりも多い目のインクを補給しようとしても、現実には満タンになるまでしか補給されず、実際の補給量はフロートとスイッチが接触するまでの補給量となる。 上記のとおり、フロート及びスイッチの作用により実際の補給量が定まるのであれば、「演算結果に対して若干多めのインクを補給するように制御」しようと、インク補給が停止されるまで補給しようと、結局補給される量は同じであるから、「演算結果に対して若干多めのインクを補給するように制御」することには技術的意義を認めることができない。 拒絶理由で指摘したことは上記と同旨であるが、請求人は平成18年3月17日付け意見書において、「インク消費量の演算結果が正確でないとき、特に、インク消費量を少なめに見積もってしまったとき、演算結果より「若干多めのインク」を補給することの意義があります。」(1頁したから4行目〜2行目)などと、的を射ない主張をしたため、再度当審において技術的意義の確認を行ったところ、請求人は平成18年4月12日にファクシミリにて次のように回答した。 (ア)サブタンクへのインクの補給量を決める方法として、(a)ソフト的にインク消費量を演算しインク補給量を決める方法、(b)メカニカルなスイッチによってタンクの満タンを検知する方法が挙げられる。 (イ)(a)の方法では、インク消費量を多く見積もる場合と少なく見積もる場合があり、演算結果に対して若干多めのインクを補給することにより、少なく見積もってしまった場合でもタンクを一杯にすることができる。多く見積もってしまった場合でも、メカニカルなスイッチ(フロートスイッチ)があるため、インクのオーバーフローを防止できる。 (ウ)タンクを一杯にすることだけを目的とするのであれば、(b)の方法のみでもよいが、メカニカルスイッチ(フロートスイッチ)はレスポンスが悪いという問題がある。本願発明はあらかじめ補給量を見積もってからインクを供給するので、一定段階までは高速でインクを補給し、満タンに近づくと補給スピードを下げメカニカルスイッチとの協働作業によりオーバーフローを安全に防止するという動作も可能となる。これはインク補給に要する時間を短縮するという効果を有する。 上記回答について検討する。(ア)は質問事項とは直接関係がない、単なる前提となる事実である。(イ)は、メカニカルスイッチ単独使用に優る理由にはなっていないばかりか、多く見積もってしまった場合の対策であれば、後記引用例1の「所定量以上で供給したインクを回収するシステム(オーバーフロー方式)」(引用例1の記載ウ)でも十分であり、フロートスイッチ併用の理由にはなっていない。そこで(ウ)について検討する。請求人の主張によれば、メカニカルスイッチ(フロートスイッチ)はレスポンスが悪いため、オーバーフローを安全に防止するためには同スイッチが作動する時点における補給速度は、フロートスイッチのレスポンスに見合った補給速度でなければならない。(ウ)の「一定段階までは高速でインクを補給し、満タンに近づくと補給スピードを下げ」は、そもそも本願明細書に記載されていない事項であり、「演算結果によってポンプモータの回転数を制御する」とした場合でも、フロートスイッチが作動することを前提として、フロートスイッチのレスポンスに見合った補給速度の範囲内で「ポンプモータの回転数を制御する」と解さなければならないから、(ウ)を(a)と(b)併用すること自体の技術的意義と認めることはできない。そればかりか、そのように供給速度を変化させるとしても、本願発明に技術的意義があることにはならない。その理由は次のとおりである。 補給スピードを高速から低速に切り替えるとした場合、重要なのは最終的な補給量ではなく、補給速度切り替えまでの補給量である。そこで、補給速度切り替えまでの補給量はいくらであるべきか考察する。補給速度が高速のままではオーバーフローを安全に防止できないとすれば、高速から低速への切り替えは、確実にフロートスイッチ作動前としなければならない。ところで、請求人が主張するとおり、演算結果にはかなりの誤差があり、インク消費量を多く見積もる場合も少なく見積もる場合もあるから、多く見積もった場合でもフロートスイッチ作動前に補給速度を切り替えなければならない。そして、インク消費量を多く見積もった場合であれば、補給速度を切り替える時点は、演算結果よりも補給量が相当程度少ない時点である。そうであれば、演算結果よりも少な目の補給量を、高速から低速への切り替えの指標として設定し、同補給量のインク補給後はフロートスイッチが作動するまで低速で補給すれば十分であるから、演算手段の演算結果に対して若干多めのインクを補給するように制御する必要性は全くなく、そのようにすることの技術的意義を認めることは到底できない。 したがって、当審において通知した記載不備の拒絶理由は妥当であり、本願明細書には、平成14年改正前特許法36条4項に規定する要件を満たしていない不備がある。 4.進歩性についての判断 本項では、「発明を特定するための事項」という意味で「構成」との用語を用いることがある。 (1)本願発明の認定 請求項1の記載は2.のとおりであるが、「インクを吐出するヘッド部と、・・・補給制御手段とからなり、前記演算手段が吐出ドット数と排出量のドット数換算値の和を算出し、前記インクを吐出するヘッド部と、ヘッド部にインクを供給し、内部のインク液面に設けたフロートと、該フロートとの接触によってインク補給を停止するスイッチとを有するサブタンクとを有する記録ヘッドと、サブタンクに供給するインクを保持するメインタンクと、メインタンクからサブタンクにインクを補給する補給手段と、ヘッド部から吐出および排出されたインクの量を計数する演算手段と、演算結果に応じてインクの補給量を制御する補給制御手段とからなり・・・」との構文になっており、あたかも「吐出ドット数と排出量のドット数換算値の和を算出し、前記インクを吐出するヘッド部と、ヘッド部にインクを供給し、内部のインク液面に設けたフロートと、該フロートとの接触によってインク補給を停止するスイッチとを有するサブタンクとを有する記録ヘッドと、サブタンクに供給するインクを保持するメインタンクと、メインタンクからサブタンクにインクを補給する補給手段と、ヘッド部から吐出および排出されたインクの量を計数する演算手段と、演算結果に応じてインクの補給量を制御する補給制御手段」が「演算手段」の細部構成であるかのように記載されているため、著しく不明確であり理解困難となっている。「前記演算手段が吐出ドット数と排出量のドット数換算値の和を算出し、」との文言を演算手段の機能を記載したものと割り切り、それに続く「前記インクを吐出するヘッド部と、ヘッド部にインクを供給し、内部のインク液面に設けたフロートと、該フロートとの接触によってインク補給を停止するスイッチとを有するサブタンクとを有する記録ヘッドと、サブタンクに供給するインクを保持するメインタンクと、メインタンクからサブタンクにインクを補給する補給手段と、ヘッド部から吐出および排出されたインクの量を計数する演算手段と、演算結果に応じてインクの補給量を制御する補給制御手段とからなり、」については、演算手段ではなく「インクジェット記録装置」の構成と捉えれば、上記の不都合はないけれども、「内部のインク液面に設けたフロートと、該フロートとの接触によってインク補給を停止するスイッチとを有する」とのサブタンクの細部構成を除けば、請求項1冒頭で記載された構成の繰り返しである。 請求項1には以上の記載不備(3.で述べたこととは別の)がある(これ自体重大な記載不備であるが、拒絶理由通知後の補正により生じたものであり、拒絶理由で指摘したわけではないので審決の理由とはしない。)ため、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)を次のように認定する。 「インクを吐出するヘッド部と、ヘッド部にインクを供給するサブタンクとを有する記録ヘッドと、サブタンクに供給するインクを保持するメインタンクと、メインタンクからサブタンクにインクを補給する補給手段と、ヘッド部から吐出および排出されたインクの量を計数する演算手段と、演算結果に応じてインクの補給量を制御する補給制御手段とからなり、 前記演算手段は吐出ドット数と排出量のドット数換算値の和を算出するものであり、 前記サブタンクは内部のインク液面に設けたフロートと、該フロートとの接触によってインク補給を停止するスイッチとを有するものであり、 前記補給制御手段が演算手段の演算結果に対して若干多めのインクを補給するように制御すると共に、前記補給制御手段が前記演算手段の吐出ドット数と排出量のドット数換算値の和を算出した演算結果によってポンプモータの回転数を制御するインクジェット記録装置。」 (2)引用例1の記載事項 引用例1には、以下のア〜カの記載が図示とともにある。 ア.「液体を保持するタンク部と被記録材に記録を行う記録ヘッドとからなるヘッドカートリッジを搭載して前記被記録材に対して平行な一直線上を往復移動するキャリッジと、前記タンク部の液体を大量に保持する大型タンクとを備え、所定の位置で前記ヘッドカートリッジのタンク部と前記大型タンクとを接続させることにより、前記ヘッドカートリッジのタンク部に液体を供給する液体吐出記録装置において、 前記大型タンクは、保持する液体の種類を違えて複数設置され、 前記ヘッドカートリッジのタンク部は、前記各種の大型タンクに対応して複数設けられており、 前記各大型タンクと前記各ヘッドカートリッジのタンク部の間で異種の液体が誤供給されないように誤補給防止機構が設けられていることを特徴とする液体吐出記録装置。」(【請求項8】) イ.「インク供給方式としては、インクを保持する大容量のタンク(以下、「大型タンク」と称する)が設置されると共に、インクタンクと記録ヘッドとが一体的に装着されたヘッドカートリッジがキャリッジ上に装着され、キャリッジを移動させて所定の位置で大型タンクにヘッドカートリッジのインクタンク(以下、「タンク部」と称する)を接続することによりインクが補充される、いわゆるピットイン方式が知られている。この場合はタンク部を構成するインクタンクは交換する必要がなく、大型タンクについてはインクがなくなった場合にインクを補充するのが一般的である。」(段落【0011】) ウ.「ピットイン方式に代表されるような、キャリッジ上のタンク部にインクを補充する方式についても、従来の技術では補給される空間(体積)に対してインク残量がばらついたり、一定量の補給についても精度よく行うことが出来なかった。これを解決するために従来は、所定量以上で供給したインクを回収するシステム(オーバーフロー方式)を必要としたり、ばらつきの量だけ安全係数を掛けて極めて少量の補給量にしたりすることが行われている。将来的には前者が装置が大型化したりインクの無駄を招いたりし、後者は補給回数の増大に伴う記録停止時間が多くなりスループットを下げることにつながる問題があった。」」(段落【0013】) エ.「本発明は、上記従来技術の実情に鑑み、ピットイン方式を採用してキャリッジ上の使用頻度の多いインクタンクの交換回数を少なくする・・・ことを第2の目的とする。」(段落【0017】) オ.「インク収納室11の残量は、インク収納室11の底部に設けられた光学式残量検出器10により監視されており、この光学式残量検出器10の検出状態により制御部(不図示)が残量が少ないと判断した場合は、前記制御部の指令により同種のタンク同士が接続され、供給管7を通じて大型タンク6からヘッドカートリッジのタンク部9へ液体が供給される。」(段落【0032】) カ.「図2の例ではインク収納室11の底部に光学式残量検出器10を設けたが、これに限られず、記録ヘッドによる液体消費量からインク収納室11の残量を判断して補充を行ってもよい。例えば、記録ヘッドから飛翔する液滴(ドット)の数が幾つの時にインク収納室11の液体が完全に無くなるかを予め確認し、このドットカウント値に、インク収納室11が完全に空にならないように安全値を足した設定値を制御部に保持させておき、この設定値になった時に設定値に相当する量の液体を補充するようにしてもよい。このようにすれば、補充に費やされる時間が最小化できる。」(段落【0034】) (3)引用例1記載の発明の認定 記載イ,オの「ヘッドカートリッジのインクタンク」を「カートリッジタンク」ということにする。記載アの「液体を保持するタンク部」は「カートリッジタンク」である。記載オ,カの「インク収納室11」は「カートリッジタンク」における収納室であり、「インク収納室11の残量を判断」(記載カ)することは、カートリッジタンクの残量を判断することでもある。 したがって、記載ア〜カを含む引用例1の全記載及び図示によれば、引用例1には次のような発明が記載されていると認めることができる。 「カートリッジタンクと記録ヘッドとからなるヘッドカートリッジを搭載して被記録材に対して平行な一直線上を往復移動するキャリッジと、前記カートリッジタンクの液体を大量に保持する大型タンクとを備え、所定の位置で前記ヘッドカートリッジのカートリッジタンクと前記大型タンクとを接続させることにより、前記カートリッジタンクに液体を供給する液体吐出記録装置において、 記録ヘッドから飛翔する液滴の数をカウントし、このドットカウント値に前記カートリッジタンクのインク収納室が完全に空にならないように安全値を足した設定値を制御部に保持させておき、この設定値になった時に設定値に相当する量の液体を補充するように制御する液体吐出記録装置。」(以下「引用発明1」という。) (4)本願発明と引用発明1との一致点及び相違点の認定 引用発明1の「カートリッジタンク」、「記録ヘッド」、「ヘッドカートリッジ」及び「大型タンク」は、本願発明の「サブタンク」、「ヘッド部」、「記録ヘッド」及び「メインタンク」にそれぞれ相当する。本願発明の「メインタンクからサブタンクにインクを補給する補給手段」が引用発明1に備わっていること、引用発明1の「サブタンク」が、記録ヘッド(ヘッド部)にインクを供給するものであることは自明である。なお、「記録ヘッド」との用語は、本願発明と引用発明1において異なる意味合いで用いられている。 引用発明1の「ドットカウント値」と本願発明の「吐出ドット数」に相違はなく(当然引用発明1は「ヘッド部から吐出されたインクの量を計数する演算手段」を備える。)、引用発明1では「吐出ドット数」に「排出量のドット数換算値」を加えてはいないけれども、引用発明1の「ドットカウント値」と本願発明の「吐出ドット数と排出量のドット数換算値の和」(演算結果)は、インク消費量の目安となる値である点で一致し、算出されたインク消費量に応じて「インクの補給を制御する補給制御手段」を有する点で、本願発明と引用発明1は一致する。 そして、本願発明の「インクジェット記録装置」と引用発明1の「液体吐出記録装置」が同一であることはいうまでもない。 したがって、本願発明と引用発明1とは、 「インクを吐出するヘッド部と、ヘッド部にインクを供給するサブタンクとを有する記録ヘッドと、サブタンクに供給するインクを保持するメインタンクと、メインタンクからサブタンクにインクを補給する補給手段と、インク消費量の目安となる値を演算する演算手段と、演算結果に応じてインクの補給を制御する補給制御手段とからなるインクジェット記録装置。」である点で一致し、以下の各点で相違する。 〈相違点1〉演算手段及び演算結果について、本願発明が「吐出ドット数」のみではなくこれに「排出量のドット数換算値」を加える構成としているのに対し、引用発明1では「排出量のドット数換算値」を加えていない点。 〈相違点2〉サブタンクにつき、本願発明が「内部のインク液面に設けたフロートと、該フロートとの接触によってインク補給を停止するスイッチ」を有するのに対し、引用発明1が同構成を有するとはいえない点。 〈相違点3〉補給制御について、本願発明が「演算手段の演算結果に対して若干多めのインクを補給するように制御すると共に、前記補給制御手段が前記演算手段の吐出ドット数と排出量のドット数換算値の和を算出した演算結果によってポンプモータの回転数を制御する」としているのに対し、引用発明1が同構成を有するとはいえない点。なお、本願発明が「インクの補給量を制御する」としていることは、この相違点に含まれる。 (5)相違点についての判断 〈相違点1について〉 引用例2には、「本発明においては、記録ヘツドから噴射する為の液滴吐出パルス数N及び記録ヘツド内の気泡や塵芥などによる液滴の吐出不良やインクの目詰りによる不吐出を正常な状態に回復するための回復操作回数Mを計数することによつて、インクの使用量を知り、それによつてインクタンク内にあるインク残量を表示する手段を備えている。」(3欄39行〜4欄1行)、「インク滴を吐出させる為の信号パルス数Nと回復操作を行なつた回数Mとを夫々計数し、各々1回のインク消費量を容積A、容積Bとすれば、全インク量Sはs=AN+BMである」(4欄27〜30行)及び「ヘツド駆動パルス発生器21のパルスの計数値をA/Bした数、すなわちパルス信号の計数値に基づく数値で歯車14を回転させる。また回復操作の場合には、回復操作1回でモータ用パルス発生器23にパルスが印加され、B/Aの記録ヘツド駆動パルスが印加された場合と同一の回転角でインクタンク4の歯車14を回転させる。つまり回復操作の回数自身、すなわち回復の計数値に基づく数値で歯車14を回転させる。」(4欄末行〜5欄9行)との各記載があり、モータ用パルス発生器に印加されるパルス数は「AN/B+M」であるから、これは「排出回数と吐出ドット数の排出回数換算値の和」である。相違点1に係る本願発明の構成とは、ドット数に換算するのか、排出回数に換算するのかの相違はあるけども、どちらに換算するかは設計事項であるから、インク消費量を得るための相違点1に係る本願発明の構成は事実上引用例2に記載されている。 そして、インク消費がインク吐出だけでなく、排出によっても行われることは技術常識というべきであるから、より正確なインク消費量を得るためには、インクの排出をも勘定に入れるべきであることは自明であり、そのために引用例2記載の技術を引用発明1に採用して、相違点1に係る本願発明の構成をなすことは当業者にとって想到容易である。 〈相違点2について〉 引用発明1では、「記録ヘッドから飛翔する液滴の数をカウントし、このドットカウント値に前記カートリッジタンクのインク収納室が完全に空にならないように安全値を足した設定値を制御部に保持させておき、この設定値になった時に設定値に相当する量の液体を補充するように制御する」のであるが、インク消費量の目安とされた「ドットカウント値」がそれほど正確でないことは明らかである。そうすると、「設定値に相当する量」よりも多くのインクが消費されている場合も、少ないインクが消費されている場合もあり、現実に消費されたインク量が「設定値に相当する量」よりも少ない場合、オーバーフローする可能性を当然想定しなければならない。 他方、容器に液体を満タンに充填する場合(引用発明1も設定値に相当する量の液体を補充する以上、満タンを予定している。)、フロート及びそれと接触するスイッチを用いて、液体の補給を停止することは周知である。この周知技術を採用すれば、オーバーフローの問題も解決できるのだから、引用発明1に同周知技術を採用して相違点1に係る本願発明の構成をなすことは当業者にとって想到容易である。 〈相違点3について〉 まず、インク補給量を制御する点につき検討する。サブタンクはキャリッジに搭載されるものであるから軽い方が好ましい反面、印刷途中、とりわけ記録行内でのインク補給(メインタンクからの)は印刷速度及び印刷品位の点から避けるべき事項である。そのため、サブタンク容量は1行の印刷途中ではインク補給を行わずに、1ページ又は1つの印刷ジョブの印刷終了時などに補給することが多く、かつ1ページの印刷終了時であっても、ほとんどインクを消費しないこともあり、その場合にはインク補給を行わない場合もある(例えば特開昭62-158049号公報参照。)。引用発明1においても、ドットカウント値が設定値に一致する瞬間は、行の途中になることが予想されるが、その際にインク補給を行わないですむように、1ページ又は1つの印刷ジョブの印刷終了時を補給時期と定めることは設計事項に属する。そして、インクの補給時期を定める以上、インク補給量はそれまでの消費量に依存するから、インク消費量の目安に基づいてインク補給量を制御することも設計事項というべきである。 また、「演算手段の演算結果に対して若干多めのインクを補給するように制御する」点については、サブタンクは通常小容量であるから、補給回数を減らすため満タンにすることが望ましく、「若干多めのインクを補給する」ことを想到困難と認めることはできない。「若干多めのインクを補給する」ことと「内部のインク液面に設けたフロートと、該フロートとの接触によってインク補給を停止するスイッチ」(相違点2に係る本願発明の構成)の併用については、3.で述べたとおり技術的意義を認めることができないのであるが、「若干多めのインクを補給する」ことを前提として上で、満タンになれば早めにポンプを停止するという技術であるから、これら2つの併用することに技術的意義がない(そのことは、2つの技術を併用することの積極的理由がないことに通ずる。)以上、2つの技術を併用したからといって、相違点2,3を総合した本願発明の構成に至ることが当業者にとって困難であるということはできない。 そして、インク補給量を制御するとした場合、インク補給の目安となる値(前記演算手段の吐出ドット数と排出量のドット数換算値の和を算出した演算結果)によってポンプモータの回転数を制御することは設計事項というべきである。 したがって、相違点3に係る本願発明の構成を採用(相違点2に係る本願発明の構成の採用を前提としても)することは当業者にとって想到容易である。 (6)本願発明の進歩性の判断 相違点1〜3に係る本願発明の構成を採用することは当業者にとって想到容易であり、こえれら構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。 したがって、本願発明は引用発明1、引用例2記載の技術及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 第3 むすび 本願明細書には記載不備があり、かつ本願発明が特許を受けることができないから、本願は拒絶を免れない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2006-04-24 |
結審通知日 | 2006-05-09 |
審決日 | 2006-05-22 |
出願番号 | 特願平10-46315 |
審決分類 |
P
1
8・
536-
WZ
(B41J)
P 1 8・ 121- WZ (B41J) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 江成 克己 |
特許庁審判長 |
津田 俊明 |
特許庁審判官 |
長島 和子 藤本 義仁 |
発明の名称 | インクジェット記録装置 |
代理人 | 岡田 和喜 |