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審決分類 審判 査定不服 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04B
審判 査定不服 特36 条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04B
管理番号 1140181
審判番号 不服2001-12366  
総通号数 81 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1999-05-11 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2001-07-16 
確定日 2006-07-18 
事件の表示 平成10年特許願第226479号「無線ディジタル電話システム」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 5月11日出願公開、特開平11-127487〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続きの経緯
本願は、平成2年2月15日に出願した特願平2-32637号の一部を新たな特許出願として出願(特願平10-226479号)したものであって、「無線ディジタル電話システム」に関するものと認める。

2.当審の拒絶理由
当審における平成17年1月28日付けの拒絶理由は、本件出願は、明細書及び図面の記載が不備のため、特許法第36条第3項及び第4項に規定する要件を満たしておらず(理由1)、また、本件出願の特許請求の範囲に記載された各発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された刊行物1(特表昭62-502841号公報)、刊行物2(特開平1-174023号公報)、刊行物3(Dag Akerberg, 「PROPERTIES OF A TDMA PICO CELLULAR OFFICE COMMUNICATION SYSTEM」, Global Telecommunications Conference, 1988, and Exhibition.'Communications for the Information Age.' Conference Record, GLOBECOM '88., lEEE, Publication Date:28 Nov-1 Dec 1988, USA: p.1343‐1349 vol.3)、刊行物4(特開昭61-218297号公報)、刊行物5(木下耕太 他2名,「TD‐FDMA移動通信方式の検討」,電子通信学会論文誌,日本,社団法人電子通信学会,1981年9月25日,J64-B第9号,1016頁-1023頁)に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない(理由2)とするものである。

3.判断
(1)上記理由1について
(記載不備の具体的内容)
上記理由1については、具体的には次のように指摘している。
『(1)特許請求の範囲第1項(請求項1)に関し、
(i)「複数の利用可能な無線周波数(RF)搬送波、すなわち一つのアナログ音声信号を伝送できる所定の帯域幅を各々が備え互いに等しい長さの複数のタイムスロットを含むフレームに分けられた波形を各々が備える複数のRF搬送波の一つを通じて交信する少なくとも一つの第1の送受信局およびこの第1の送受信局と交信する少なくとも二つの第2の送受信局を有する無線ディジタル通信システム」とあるが、「・・・フレームに分けられた波形」とはどういうことか、その意味内容が不明確である。
(ii)「・・・スペクトラム利用効率が高いアナロ信号・・・」とあるが、その旨の記載が明細書の発明の詳細な説明の欄に記載されているものの、技術的な説明がなく、内容不明確である。
(iii)「・・・前記第1の送受信局が同期動作の基準を設定し、前記第2の送受信局の各々が前記RF搬送波の前記設定された同期動作の基準に自局タイミングをそれぞれ同期させ、・・・」とあるが、同期動作の基準を設定する旨の記載が明細書の発明の詳細な説明の欄に記載されているものの、技術的な説明がなく、内容不明確である。また、「・・・設定された同期動作の基準に自局タイミングをそれぞれ同期させ、・・・」とは技術的にどういうことか不明確である。ここで述べている同期とは明細書のどの段落に示されているものか、またその内容はどういうことか説明し、自局タイミングを同期させるとはどういうことか説明されたい。
(iv)「・・・前記第1および第2の送受信局の各々が、前記フレームの各々の前半のそれぞれ一つのタイムスロットで前記第1の送受信局から前記第2の送受信局のそれぞれ対応の一つへの前記情報信号の伝送のためのチャンネルを構成し前記フレームの各々の後半のそれぞれ一つのタイムスロットで前記第2の送受信局のそれぞれ対応の一つから前記第1の送受信局への前記情報信号の伝送のためのチャンネルを構成するように前記一つのRF搬送波の前記タイムスロットの選ばれた一つに前記情報信号を導く手段・・・」とあるが、発明の詳細な説明の欄に記載されていない。
例えば、図10に関する説明をみると、2つのスロットは基地局用に使用し、あとの2つは加入者電話機用に使用されると記載されており、図10のスロット構成は基地局(あるいは加入者電話機)の送信スロットと受信スロットを示していない。
(2)特許請求の範囲第2項(請求項2)に関し、発明の詳細な説明の欄のどこに記載されているのか不明。また、技術手段が何ら記載されていない。
(3)特許請求の範囲第3項(請求項3)に関しては、上記(1)の(iv)と同様である。
(4)特許請求の範囲第4項(請求項4)に関し、
(i)一次送受信局、二次送受信局とあるが、発明の詳細な説明の欄のどこに記載されているのか不明。
(ii)上記(1)で示したと同様の理由で記載不明確、不明りょうないし記載の根拠が不明。
(5)明細書の【0032】に関し、
(i)全体に説明不足で内容が不明である。
(ii)「互いに異なるチャンネルで動作する多数の中継器」とあるが、時間スロットの数が異なるといっているのか、それとも違うことを述べているのか不明である。
(iii)「互いに同期させ」とあるが、多数の中継器においてどうやって異なるチャンネルを同期させるのか不明であり、そのための技術手段の開示にも欠ける。また、そもそもここで述べている同期とは何か不明である。
(iv)RCC経由で種々の加入者局の監視情報を中継するとあるが、図2のRCC(RCCの説明は図2,図3にしかない)でどうやって監視情報を中継するのか不明である。
(vi)主中継器とは何か説明がない。
(6)明細書、図面に「エミュレートした基地局」とあるが、説明が無いので、基地局あるいは中継器とどう違うのか不明である。
(7)明細書の【0025】に「複数のエミュレートした基地局からの送信全ての間で同期をとることによって、送受切換器を用いることなく複数の二重加入者システムを互いに異なるチャンネルで動作させることができる。」とあるが、技術的な開示、説明が無いので、複数のエミュレートした基地局からの送信全ての間で同期をとることがどのようにして行われるのか不明である。
(8)明細書の発明の詳細な説明の欄には、基地局の送信スロットと加入者局の受信スロットの配置が記載されているものの、加入者局から基地局への信号の送信、受信に関する説明がなく、不明である。』
(検討)
記載不備の具体的内容のうち、(1)(i)について
請求人は平成17年7月27日付けで意見書(以下、意見書という。)を提出し、『用語「フレームに分けられた波形」の意味が不明確とのご指摘でありますが、複数のRF搬送波の各々を通じて時分割的に複数の音声情報を伝送しようとすればそのRF搬送波を反復フレームに分けることは常套的手段でありますから、図3,図4,図10および図11などの波形図から当業者に自明の事項であります。』と主張している。
しかるに、搬送波というのは、反復フレームを運ぶためのCarrierであって、このCarrierをフレームで分けるといったことは考えられない。そして、本願の図3,図4,図10および図11などの波形図をみても、RF搬送波を反復フレームに分けるといったことは記載されていない。
したがって、依然として、不備は解消していない。
記載不備の具体的内容のうち、(1)(ii)について
意見書において、『段落[0001]第1行乃至第2行の記載「無線周波数利用効率を高めた・・・」、同[0008]第4行乃至第8行の記載「・・・ディジタル・データストリームは音声処理装置18に供給され、この音声処理装置18によってより低いデータ速度にデータ圧縮される。圧縮されたデータは・・・このモデムによって周波数スペクトラム利用効率の高いアナログ信号に変換される。」などから、圧縮音声データによる位相偏移変調などを施した帯域幅の広がりの少ない被変調中間周波数信号を意味することは自明であります。』と主張している。
しかるに、段落[0001]第1行乃至第2行の記載「無線周波数利用効率を高めた・・・」というのは、従来送受信に一対の周波数を用いていたものを、本件では送受信を単一の周波数で行えるようにしたということを述べているだけであって、「・・・スペクトル利用効率が高いアナログ信号・・・」ということとは関係ない。
また、「・・・位相偏移変調などを施した・・・」といったことは本件明細書には記載されておらず、記載されていない事項を発明の構成要件として記載したということであると、それはサポート要件違反である。
したがって、依然として、不備は解消していない。
記載不備の具体的内容のうち、(1)(iii)について
意見書において、『この出願の発明においてエミュレートした基地局が同期動作の基準の設定、すなわち図3の波形の送信を行い、そのエミュレートした基地局の交信相手の加入者局が図3の波形を受信して自局のタイミングをその受信した波形に同期させることは明細書および図面に明確に記載されています(段落[0007]、[0012]、[0013]、図3,図4,[0014]、図5,[0026]参照)。』と主張している。
しかるに、段落[0007]には、「・・・このエミュレートした基地局と上記加入者局との相違点は前者が同期動作の基準を設定できる点だけであり・・・」と記載されているだけで、技術的な説明になっていない。
段落[0012]には、図2,3に関連し、「・・・RCCスロットは11.25ミリ秒より僅かに短く、これによって各フレームの始点で変調に微小なギャップを生じさせる。このギャップはAMホールとして知られている。実際の基地局のフォーマットにおけるRCCチャンネルの波形を第2図に示す。本発明のシステムにおいては、デューティサイクル100%の波形の送信は行わず、第3図に示すとおり、フレームあたり一つのスロットだけで送信を行う(すなわち、デューティサイクル25%の波形)。・・・」と記載され、また、段落[0026]にはRCCチャンネルについての言及がなされているが、技術説明が不足(そもそもRCCチャンネルについての説明がない(刊行物を提示しただけでは発明の詳細な説明欄で説明したことにはならない。)。ただ、上記刊行物4の記載を参酌していえば、RCCチャンネルによる同期であるということであれば、まずAMホールを検出し、ビット同期をとり、ユニークワードを検出といった手順で同期をとることになるが、第2図、第3図の波形がそのRCCチャンネルの波形であるということであれば、そのRCCチャンネルの内容を示す波形が示されるはずであるが、第2図、第3図には単純な波形が示されているだけで、どうしてその波形がRCCチャンネルの波形といえるのか不明である。つまり、説明不足の証左である。また、RCCチャンネルの波形というからには、上記(1)(ii)についてにおいて請求人が主張するような位相偏移変調された波形が示されてしかるべきであるのに、単純な波形が示されているだけである。さらに、図3にはAMホールが示されていない。)で、請求項1が「・・・前記第1の送受信局が同期動作の基準を設定し、前記第2の送受信局の各々が前記RF搬送波の前記設定された同期動作の基準に自局タイミングをそれぞれ同期させ、・・・」とする内容が明確に説明されているとはいえない。
そして、図4に関連して段落[0013]には、粗同期について説明されているにすぎず、図5には粗同期をとるための構成が記載され、段落[0014]も粗同期に言及しているにすぎないから、これら記載を根拠とするということであれば、請求項1には、正確に、粗同期と記載すべきである。
さらに言えば、請求項1の記載はビット同期について記述しているようにも読めるが、ビット同期については本件明細書に何の記載もないから、請求項1の記載は本件明細書に基づかないものである。
したがって、依然として不備は解消していない。
記載不備の具体的内容のうち、(1)(iv)について
(a)意見書において、『ご指摘の点は明細書および図面の記載内容の誤解に起因するものとみられます。すなわち、段落[0024]に図10を参照して述べてあるとおり、図10の四つのスロット1,2,3および4の初めの二つのスロットは(エミュレートした)基地局が送信用(すなわち加入者局の受信用)に用い、あとの二つのスロットは加入者局が送信用(すなわち基地局の受信用)に用います。(エミュレートした)基地局の送信用スロットが加入者局の受信用スロットであり、加入者局の送信用スロットが(エミュレートした)基地局の受信用スロットであることは上記段落[0007](特に同段落第7行乃至第9行)、[0009](特に同段落第1行乃至第2行)、および[0012](特に同段落第9行乃至第11行)などの説明から自明であります。』と主張している。
しかるに、例えば、図10に関する説明(段落0024)をみると、2つのスロットは基地局用に使用し、あとの2つは加入者電話機用に使用されると記載されているのであって、図10のスロット構成は基地局(あるいは加入者電話機)の送信スロットと受信スロットを示しているとは記載されていない。
また、意見書で指摘している段落をみてもスロット構成に言及する記載は見あたらない。
したがって、依然として不備は解消していない。
(b)請求項1は第1の送受信局と第2の送受信局とが交信を行なうことをその内容としているところ、意見書では、送受信局の一方が基地局であり、送受信局の他方が加入者局である場合について主張している。
しかるに、請求項1は、第1の送受信局、第2の送受信局と記載されているだけであるから、加入者局(第1の送受信局)と加入者局(第2の送受信局)とが直接交信することもその内容としているが、そのようなことは、本件の明細書の発明の詳細な説明の欄には記載されていない。
さらに、上記の場合のスロットの使用が、請求項1に「・・・前記第1および第2の送受信局の各々が、前記フレームの各々の前半のそれぞれ一つのタイムスロットで前記第1の送受信局から前記第2の送受信局のそれぞれ対応の一つへの前記情報信号の伝送のためのチャンネルを構成し前記フレームの各々の後半のそれぞれ一つのタイムスロットで前記第2の送受信局のそれぞれ対応の一つから前記第1の送受信局への前記情報信号の伝送のためのチャンネルを構成する」といったことも、明細書の発明の詳細な説明の欄の記載に基づくものではない。
したがって、依然として不備は解消していない。
記載不備の具体的内容のうち、(2)について
意見書において、『図13およびその関連説明(段落[0028])に記載されています。』と主張している。
しかるに、明細書には、加入者局がエミュレートした基地局と交信することは記載されている(例えば、図8,図9,図12)ものの、加入者局が通常の基地局と交信を行うことは記載されていない。
にもかかわらず、請求項2は、加入者局が通常の基地局と交信することを前提とし、交信できない場合には、加入者局はエミュレートした基地局と交信すると記載しており、この点は、本件明細書の記載の基づくものではない。
また、交信するスロットに関していえば、請求項1の記載から、加入者局はRRSS(4つのスロットのうち、前半が2つが他の送受信局からの受信用(記号R)、後半の2つが他の受信局への送信用(記号S)ということを表わす。以降、RRSSと略し、その他の場合にも同様とする。)で、請求項1の記載に倣えば、交信の相手である通常の基地局はSSRRということになる。そして、図13の場合、請求項1の記載から、加入者局がRRSSで、エミュレート基地局はSSRRということになる。
そうすると、通常の基地局もSSRRであるから、通常の基地局とエミュレート基地局とは、送信と受信が同じとなってしまい、交信がうまくいかない。
依然として技術手段に関する記載が不備あるいは不足している。
記載不備の具体的内容のうち、(3)について
上記(1)(iv)についてで述べたと同様であり、依然として不備は解消していない。
記載不備の具体的内容のうち、(4)について 請求項4に関する不備の指摘をしているが、請求項5の誤記であったので、拒絶理由の(4)については検討しない。
記載不備の具体的内容のうち、(5)(i)について
意見書において、『「互いに異なるチャンネルで動作する多数の中継器を一箇所に設置し、」との記載から、この発明のエミュレートした基地局多数(搬送波周波数が互いに異なる)を一箇所に集中配置した環境を述べていることは明らかであります。このエミュレートした基地局を上記米国特許第4,675,863号(引用例4対応)のシステムの基地局の代替局として用いることは(段落[0005]参照)上記(1)(iv)に挙げたとおりでありますから、複数の搬送波のスロットの相互間の同期を達成できることは自明であります。その点において、「全体に説明不足」とのご指摘は失当であります。』と主張している。
しかるに、段落「0005」には、「本発明のもう一つの目的はある状況の下で実際の基地局の代替局として機能できるシュミレートまたはエミュレートした基地局とも呼び得る局を提供することにある。」と記載されているに留まり、請求人が主張するような「・・・このエミュレートした基地局を上記米国特許第4,675,863号(引用例4対応)のシステムの基地局の代替局として用いることは(段落[0005]参照)」といったことは本件明細書に記載されておらず、したがって、エミュレートした基地局の機能を米国特許第4,675,863号(引用例4対応)のシステムで説明することは、本件明細書の記載に基づくものとはいえない。
そもそも、段落[0007]に「・・・変形した加入者局を、シュミレートまたはエミュレートした基地局として機能するように用い、・・・このエミュレートした基地局と上記加入者局との相違は前者が同期動作の基準を設定できる点だけであり」と記載されていることからみて、エミュレートした基地局は、(どのように変形したのか不明であるが)変形した加入者局に同期動作の基準を設定できるようにしたものと考えられるが、上記刊行物(引用例4)の基地局には、PBX、RPUによる回線管理機能等があり、そのような機能を備えない本件のエミュレートされた基地局は上記刊行物4(引用例4)の基地局の代替とはなり得ない。また、そもそも上記刊行物(引用例4)はFDD方式に関するものであるのに対し、本件はTDD方式に関するものであり、本件のエミュレートされた基地局は、そのままでは、上記刊行物4(引用例4)の基地局の代替とはなり得ない。
請求人の主張は、本件明細書の説明が不十分なので、それを補うために、上記刊行物(引用例4)の内容も明細書に説明しないのにもかかわらず、上記刊行物(引用例4)があることをもって、明細書の説明が十分であると取り繕うものである。
また、段落[0032]の「・・・それによって送受切換器の使用を回避することができる。・・・」との記載に関し、どうしてそういうことがいえるのか説明がなく、さらに、段落[0032]の「そのような構成においては、基地局のRCCチャンネルをモニターするために主中継器を用い、その主中継器によって上記エミュレートした基地局のRCC経由で種々の加入者局に監視情報を中継する。このような構成においては、呼の設定時に、加入者局の各々に中継局チャンネルが割り当てられる。」との記載についても、技術内容が不明である。
したがって、依然として不備は解消していない。
記載不備の具体的内容のうち、(5)(iii)について
拒絶理由において「(iii)「互いに同期させ」とあるが、多数の中継器においてどうやって異なるチャンネルを同期させるのか不明であり、そのための技術手段の開示にも欠ける。また、そもそもここで述べている同期とは何か不明である。」と指摘したことに対し、意見書において『・・・米国特許第4,675,863号(引用例4対応)記載のシステムに用いられ得るこの出願のエミュレートした基地局という背景からみれば、多数の中継器相互間の同期の意味は明らかであります。』と主張している。
しかし、「・・・この出願のエミュレートした基地局という背景からみれば、・・・」との主張が何を主張したいのか不明であるが、上記(5)(i)についてにおいて述べたように根拠のない主張である。
また、複数のエミュレートした基地局からの送信全ての間で同期をとるということについては、段落[0025]に記載されているが、どのようにして同期をとるのかについての説明はない。
したがって、依然として不備は解消していない。
記載不備の具体的内容のうち、(5)(iv)について
拒絶理由で「(iv)RCC経由で種々の加入者局の監視情報を中継するとあるが、図2のRCC(RCCの説明は図2,図3にしかない)でどうやって監視情報を中継するのか不明である。」と指摘したことに対して、意見書において、『上記(5)(i)、(iii)並びに段落[0012]および[0013]に述べてあるとおり、上記米国特許(引用例4対応)記載のシステムで動作できることを前提にこの発明のエミュレートした基地局、すなわち「中継器」は構成されていますから、そのシステムのRCC(無線制御チャネル)を利用する機能を備えていることは当然であります(段落[0026]ほか参照)。したがって、主中継器(一次加入者局またはエミュレートした基地局)が交信相手の加入者局の同期を制御すること、すなわち図2,図3,図4および図5を参照して明細書に述べてある同期制御を行うことと、RCC経由で割当てスロット情報を交信相手の加入者局に送ることは自明であります。』と主張している。
しかるに、上記(5)(i)についてで述べたように、エミュレートした基地局が米国特許(引用例4対応)記載のシステムで動作できることを前提にしているといった主張は根拠のないものである。
また、「RCC経由で割当てスロット情報を交信相手の加入者局に送ることは自明であります。」と主張しているが、明細書のどの記載からみて自明なのか不明である。そもそも、上記(1)(iii)についてにおいて述べたように、同期に関する記述も不明あるいは不明りょうであり、刊行物(引用例4)の説明と対比しても、RCCという言葉は同じであるが、説明内容がまったく異なる。
さらに、複数のエミュレートした基地局からの送信全ての間で同期をとるということについては、段落[0025]に記載されている(ただし、どのようにして同期をとるのかについての説明はない。)が、請求人の主張するような「主中継器が交信相手の加入者局の同期を制御すること、すなわち図2,図3,図4および図5を参照して明細書に述べてある同期制御を行うこと」といったことは本件明細書には説明されていない。
さらにまた、拒絶理由で指摘したように、「図2のRCC(RCCの説明は図2,図3にしかない)でどうやって監視情報を中継するのか不明である。
したがって、依然として不備は解消していない。
記載不備の具体的内容のうち、(5)(vi)について
拒絶理由において「主中継器とは何か説明がない。」との指摘に対し、意見書において、『「主中継器」は複数個の中継器の中の一つを指しているに過ぎません。複数個の加入者局の一つを一次加入者局と呼び、エミュレートした基地局として用いるのと全く同じであります。』と主張している。そして、上記(5)(iv)についてにおいて、主中継器(一次加入者局またはエミュレートした基地局)と主張している。
しかるに、多数の中継器を一箇所に設置した場合において、複数個の中継器の中の一つを主中継器とするといったことは、本件明細書には記載されていない。ましてや、その主中継器が、上記(5)(iv)についてにおける請求人の主張のように、交信相手の加入者局の同期を制御するといったことは、本件明細書には記載されていない(段落[0032]には、主中継器は種々の加入者局に監視情報を中継することが記載されているのみである。)。
さらに、請求人が上記(5)(iv)についてで主張するような、主中継器が、一次加入者局またはエミュレートした基地局であるとする点は、本件明細書の記載に基づくものではない。また、一次加入者局といった記述も本件明細書には記載されていない。ましてや、加入者局が中継器として機能して他の加入者局と直接交信を行うといったことは本件明細書の記載に基づくものではない。
したがって、依然として不備は解消していない。
記載不備の具体的内容のうち、(6)について
意見書において、『段落[0005]に用語「エミュレートした基地局」の意味を説明しています。また、この「エミュレートした基地局」を「中継器」として使用できることを段落[0029]に説明しています。両者の実体が同一であることは自明であります。』と主張している。
しかるに、エミュレートした基地局に関する技術的な説明がなく、したがって、「エミュレートした基地局」を「中継器」として使用できると述べただけでは、どうして同一になるのか不明である。
したがって、依然として不備は解消していない。
記載不備の具体的内容のうち、(7)について
意見書において、『段落[0007]に記載してあるとおり、エミュレートした基地局と加入者局とは同期動作の基準を設定する点だけ相違し、それ以外の点では両者は全く同一であります。したがって、上記(5)(iii)において述べたと同様に、互いに異なるチャンネル、すなわち互いに異なる周波数でそれぞれ動作する複数のエミュレートした基地局の送信を互いに同期させることができ(段落[0013]および[0014]参照)、その同期によって、複数の二重加入者システムを送受切換器を要することなく互いに異なるチャンネルで動作させることができることは明らかです。』と主張している。
しかるに、請求人の指摘した段落をみても、エミュレートした基地局と加入者局との間の同期について記載されているに留まり、拒絶理由で指摘した、複数のエミュレートした基地局からの送信全ての間で同期をとることがどのようにして行われるのか、という点についての記述はない。
したがって、依然として不備は解消していない。
(まとめ)
以上検討したとおりであるから、本願は、特許法第36条第3項、第4項の規定を満たさない。

(2)上記理由2について
(本件発明)
本願の請求項1に係る発明(以下、本件発明という。)は、平成12年5月26日付け、平成13年8月15日付け、平成13年8月29日付け、平成15年5月28日付けの各手続補正書により補正された明細書、図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりである。
「複数の利用可能な無線周波数(RF)搬送波、すなわち一つのアナログ音声信号を伝送できる所定の帯域幅を各々が備え互いに等しい長さの複数のタイムスロットを含むフレームに分けられた波形を各々が備える複数のRF搬送波の一つを通じて交信する少なくとも一つの第1の送受信局およびこの第1の送受信局と交信する少なくとも二つの第2の送受信局を有する無線ディジタル通信システムであって、
前記第1および第2の送受信局の各々が、前記複数のRF搬送波のうちの前記一つのRF搬送波を用い、そのRF搬送波を伝送すべき情報信号で変調してスペクトラム利用効率の高いアナログ信号を生ずる手段を含み、
前記第1の送受信局が同期動作の基準を設定し、前記第2の送受信局の各々が前記RF搬送波の前記設定された同期動作の基準に自局タイミングをそれぞれ同期させ、
前記第1および第2の送受信局の各々が、前記フレームの各々の前半のそれぞれ一つのタイムスロットで前記第1の送受信局から前記第2の送受信局のそれぞれ対応の一つへの前記情報信号の伝送のためのチャンネルを構成し前記フレームの各々の後半のそれぞれ一つのタイムスロットで前記第2の送受信局のそれぞれ対応の一つから前記第1の送受信局への前記情報信号の伝送のためのチャンネルを構成するように前記一つのRF搬送波の前記タイムスロットの選ばれた一つに前記情報信号を導く手段をさらに含む
無線ディジタル通信システム。」
(引用刊行物の記載内容)
当審が通知した拒絶の理由に引用した刊行物1には、携帯無線電話器を有する施設システムに関する発明が記載されており、システムには、電話網に接続した1個以上の固定装置と、これら固定装置と無線通信する1個以上の携帯電話装置が含まれ、これら装置は、共通の無線周波数で変調された同じ時間フレームの前半のタイムスロットと後半のタイムスロットを割り当てて通信を行うようにしている。また、携帯電話装置の時間フレームは固定装置の送信に同期し、さらに全施設の時間フレームも同期している。
同じく当審が通知した拒絶の理由に引用した刊行物2には、移動通信システムに関する発明が記載されており、基地局と移動局とが交互に設定されたタイムスロットで通信を行うことが記載されている。
同じく当審が通知した拒絶の理由に引用した刊行物3には、通信システムに関する発明が記載されており、固定局と移動局とが、同じ時間フレームの前半のタイムスロットと後半のタイムスロットを割り当てて通信を行うようにしている。
同じく当審が通知した拒絶の理由に引用した刊行物4には、無線ディジタル電話システムに関する発明が記載されており、システムには、複数のRF周波数の一つを通じて交信する少なくとも一つの第1の送受信局(基地局)およびこの第1の送受信局と交信する少なくとも二つの第2の送受信局(加入者局)が含まれ、送受信局間の交信は、互いに等しい長さの複数のタイムスロットを含むフレーム、複数の無線周波数(RF)搬送波を用いて行われている。また、RCCメッセージを用いて同期がとられるようになっており、ビット同期もとられている。そして、送受信局には、MODEM、CCU(チャンネル制御装置)が備えられている。
同じく当審が通知した拒絶の理由に引用した刊行物5には、TD-FDMA移動通信システムに関する発明が記載されており、システムには、複数のRF周波数の一つを通じて交信する少なくとも一つの第1の送受信局(基地局)およびこの第1の送受信局と交信する少なくとも二つの第2の送受信局(移動機)が含まれ、送受信局間の交信は、互いに等しい長さの複数のタイムスロットを含むフレーム(上り回線と下り回線とではタイムスロットの数、その長さが異なるが、上り回線(あるいは下り回線)では、送受信局間の交信は互いに等しい長さの複数のタイムスロットを含むフレームで行われる)、複数の無線周波数(RF)搬送波を用いて行われている。また、Frame sync.信号により同期がとられるようになっており、ビット同期もとられている。そして、送受信局には、Modulator、Multiplexerが備えられている。
(対比、判断(その1))
本件発明については、上記(1)に述べたように多くの不明確な点が存在するが、それらについては明細書、図面を参酌するとして、本件発明と刊行物4(あるいは刊行物5)記載の発明とを対比すると、本件発明と上記刊行物4(あるいは刊行物5)記載の発明とは、次の点で相違し、その余には実質的な差異は見あたらない。
本件発明が、フレームの各々の前半のそれぞれ一つのタイムスロットで第1の送受信局から第2の送受信局のそれぞれ対応の一つへの情報信号の伝送のためのチャンネルを構成し、フレームの各々の後半のそれぞれ一つのタイムスロットで第2の送受信局のそれぞれ対応の一つから第1の送受信局への情報信号の伝送のためのチャンネルを構成するようにしているのに対し、上記刊行物4(あるいは刊行物5)記載の発明においてはそのようになっていない点
しかるに、フレームの各々の前半のそれぞれ一つのタイムスロットで第1の送受信局から第2の送受信局のそれぞれ対応の一つへの情報信号の伝送のためのチャンネルを構成し、フレームの各々の後半のそれぞれ一つのタイムスロットで第2の送受信局のそれぞれ対応の一つから第1の送受信局への情報信号の伝送のためのチャンネルを構成するといったことは、本件出願前に普通に知られたことである(必要ならば、例えば、上記刊行物1乃至3、あるいはHeinz OCHSNER,DECT-digital European cordless telecommunications,Vehicular Technology Conference 1989 IEEE 39th,米国,1989年5月1日,vol.2,718-721を参照されたい。)から、上記刊行物4(あるいは刊行物5)記載の発明において、上り回線と下り回線において異なる搬送波を用いることに代えて、フレームの各々の前半のそれぞれ一つのタイムスロットとフレームの各々の後半のそれぞれ一つのタイムスロットを用いて通信を行うとすることは当業者が容易になし得ることにすぎない。
(対比、判断(その2))
本件発明については、上記(1)に述べたように多くの不明確な点が存在するが、それらについては明細書、図面を参酌するとして、本件発明と刊行物1記載の発明とを対比すると、本件発明と上記刊行物1記載の発明とは、次の点で相違し、その余には実質的な差異は見あたらない。
本件発明が複数の無線周波数(RF)搬送波を用いるとしているのに対し、上記刊行物1にはその点の記載がない点
しかるに、複数の搬送波を用いてチャンネル数を増やすといったことは上記刊行物4乃至5に記載されており、上記刊行物1記載の発明に適用して、複数の搬送波を用いることによりチャンネル数を増やすようにするといったことは当業者が容易になし得ることにすぎない。
(まとめ)
以上のとおりであるから、仮に、理由1で指摘した不備が解消しているとしても、理由2で述べたとおりであるから、本件発明は、上記刊行物1乃至5記載の発明に基づき、周知技術を参酌して、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.まとめ
したがって、本件の出願あるいは本件発明は、当審で通知した拒絶理由によって拒絶をするべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-02-13 
結審通知日 2006-02-20 
審決日 2006-03-07 
出願番号 特願平10-226479
審決分類 P 1 8・ 531- WZ (H04B)
P 1 8・ 534- WZ (H04B)
P 1 8・ 121- WZ (H04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 聡史深沢 正志  
特許庁審判長 川名 幹夫
特許庁審判官 橋本 正弘
井関 守三
発明の名称 無線ディジタル電話システム  
代理人 内原 晋  

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