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審決分類 審判 全部無効 発明同一  C07C
管理番号 1140468
審判番号 無効2004-80024  
総通号数 81 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2002-05-09 
種別 無効の審決 
審判請求日 2004-04-22 
確定日 2006-07-10 
事件の表示 上記当事者間の特許第3463875号発明「プラバスタチンを精製する方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3463875号の請求項1ないし9に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1 手続の経緯
本件特許第3463875号に係る発明についての出願は、平成12年10月16日に出願した特願2000-315256号の一部を、平成13年8月6日に新たな特許出願としたものであって、平成15年8月22日にその発明について特許権の設定登録がなされたものである。
これに対して請求人より本件無効審判の請求がなされた。審判における手続の経緯は以下のとおりである。

審判請求 平成16年 4月22日
上申書(請求人) 平成16年 5月 7日
答弁書 平成16年 7月20日
弁駁書 平成17年 5月31日
口頭審理陳述要領書(1)、(2)(請求人)
平成17年 8月12日
口頭審理陳述要領書(被請求人) 平成17年 8月12日
口頭審理 平成17年 8月12日
上申書(被請求人) 平成17年 9月 9日
上申書(2)(請求人) 平成17年 9月12日

2 本件発明
本件特許第3463875号の請求項1〜9に係る発明は、特許明細書の記載からみて、その特許請求の範囲請求項1〜9に記載された次の事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
菌により生成されたプラバスタチン類を含む培養濃縮液から、有機溶媒を用いて、プラバスタチン類を抽出する工程において、有機溶媒として、
式 CH3CO2R(上記式中、Rは炭素数3又は4のアルキル基を示す。)を有する溶媒を使用し、並びに、不純物を無機酸を用いて分解する工程、不純物を無機塩基を用いて分解する工程及び結晶化を行う工程を組み合わせることにより得られる、一般式(I)
【化1】


を有する化合物を、プラバスタチンナトリウムに対して0.1重量%以下の量で含有することを特徴とする、工業的に生産されたプラバスタチンナトリウムを含有する組成物。
【請求項2】
無機塩基が、アルカリ金属水酸化物類である、請求項1に記載のプラバスタチンナトリウムを含有する組成物。
【請求項3】
無機塩基を用いて分解する工程における反応温度が、50℃である、請求項1又は請求項2に記載のプラバスタチンナトリウムを含有する組成物。
【請求項4】
無機塩基を用いて分解する工程における反応温度が、100℃である、請求項1又は請求項2に記載のプラバスタチンナトリウムを含有する組成物。
【請求項5】
Rがn-プロピル基又はn-ブチル基である、請求項1乃至4から選択されるいずれか一項に記載のプラバスタチンナトリウムを含有する組成物。
【請求項6】
無機酸が、リン酸又は硫酸である、請求項1乃至5から選択されるいずれか一項に記載のプラバスタチンナトリウムを含有する組成物。
【請求項7】
無機酸を用いて分解する工程のpHが、2乃至5である、請求項1乃至6から選択されるいずれか一項に記載のプラバスタチンナトリウムを含有する組成物。
【請求項8】
無機酸を用いて分解する工程における反応温度が、20℃〜80℃である、請求項1乃至7から選択されるいずれか一項に記載のプラバスタチンナトリウムを含有する組成物。
【請求項9】
無機酸を用いて分解する工程の反応温度が、40℃〜60℃である、請求項1乃至7から選択されるいずれか一項に記載プラバスタチンナトリウムを含有する組成物。」
(以下、それぞれ「本件発明1」〜「本件発明9」といい、まとめて「本件発明」ともいう。)

3 請求人の主張
(1)請求の概要
審判請求人は、本件特許第3463875号の請求項1〜9に係る発明の特許を無効とする、審判費用は、被請求人の負担とする旨の審決を求める無効審判を請求し、証拠として甲第1号証〜甲第23号証を提出して、大略以下に示す理由により無効にされるべきであると主張している。

本件特許に係る出願は、平成12年(2000年)10月16日に特許出願された特願2000-315256号に基づき、平成13年8月6日に特願2001-237749号として分割出願されたものであるところ、その出願に係る本件発明は、
本件の原出願の出願前の2000年(平成12年)10月5日に出願された米国仮出願(60/238278;甲第1号証)に基づく優先権を主張して2001年(平成13年)10月5日に出願された国際出願[PCT/US01/31230(国際公開WO02/030415;甲第2号証)]に基づく特許出願[特願2002-533858号(特表2004-510817号公報;甲第3号証)]の、出願当初の明細書及び米国仮出願明細書の両方に記載された発明と同一であり、
そして、本件出願の発明者がその出願前の出願に係る発明をした者と同一ではなく、また本件出願の時において、その出願人が上記出願の出願人と同一でもないので、本件発明に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。
したがって、本件特許は、特許法第123条第1項第2号の規定に該当し無効とされるべきである。

(2)証拠
請求人は、審判請求書とともに甲第1号証〜甲第19号証を、弁駁書とともに甲第20号証、甲第21号証を、口頭審理陳述要領書(2)とともに甲第22号証を、また上申書(2)とともに甲第23号証を提出している。

(A)各甲号証は以下のとおりである。
甲第1号証 米国仮出願(60/238278)に係る
明細書(2000年10月5日出願)
甲第2号証 国際公開第02/030415号パンフレット
(2002年(平成14年)4月18日国際公開)
甲第3号証 特表2004-510817号公報
甲第4号証 中西香爾博士の鑑定書
甲第5号証 特許第3,463,875号公報
甲第6号証 米国特許第4346227号明細書
甲第7号証 国際公開第00/46175号パンフレット
甲第8号証 本件出願(特願2001-237749号)の
出願当初の特許請求の範囲
甲第9号証 平成14年8月6日付け手続補正書
甲第10号証 平成14年10月22日付け拒絶理由通知書
甲第11号証 平成14年12月24日付け手続補正書
甲第12号証 平成14年12月24日付け意見書
甲第13号証 平成15年2月6日付け面接記録
甲第14号証 平成15年2月6日付けの拒絶査定
甲第15号証 平成15年3月12日付け手続補正書(前置補正)
甲第16号証 平成15年4月11日付け手続補正書(審判理由補充)
甲第17号証 平成15年5月19日付け上申書
甲第18号証 平成15年6月27日付け面接記録
甲第19号証 平成15年7月 7日付け手続補正書
甲第20号証 純度表
甲第21号証 サンプル情報
甲第22号証 詳細な精製表
甲第23号証 実施例2の詳細な純度表など

(B)甲号証の概要は次のとおりである。
(a)甲第1号証〜甲第3号証
本件発明の特許法第29条の2の規定違反に関する証拠
(b)甲第5号証
本件特許公報
(c)甲第4号証、甲第6号証、甲第7号証
本件発明における処理工程での特定有機溶媒の採用、培養濃縮液の採用が格別の創意を要するものでないことに関する証拠
(d)甲第8号証〜甲第19号証
本件出願の審査段階における手続及び特許請求の範囲の変遷に関する証拠
(e)甲第20号証〜甲第23号証
プラバスタチンナトリウム製造の各段階におけるHPLCチャート及びプリントアウトされた数値データ並びに数値をまとめた表

(C)甲第1号証〜甲第3号証の記載事項について
甲第1号証〜甲第3号証の記載事項を検討すると、甲第1号証と甲第3号証は、甲第1号証に甲第3号証の段落【0001】(関連出願に対するクロスリファレンス)と段落【0054】〜【0077】(例8〜例12)に対応する記載がなされていない以外、実質的に同一の事項が記載されおり、また、甲第2号証と甲第3号証は、実質的に同一の事項が記載されている。
甲第1号証〜甲第3号証に共通した内容が記載された明細書が本件に対して先願の地位を有するものであるから、それを以下「先願明細書」とし、その内容を甲第3号証の記載をもって引用することとする。

先願明細書には次の事項が記載されている。
(a)記載事項1:段落【0004】〜【0005】
「プラバスタチンの分子構造は、式(Ia)(ここで、R=OH)によって表される。ラクトンの形態は、式(Ib)(原子の順番を示すために標識された原子を有する)によって表される。



プラバスタチン、コンパクチン(式Ia,R=H)、ロバスタチン(式Ia,R=CH3)、シンバスタチン、フルバスタチン及びアトルバスタチンは、それぞれカルボン酸によって終了し、且つカルボン酸に関してβ及びδ位に2つのヒドロキシル基を持つアルキル鎖を有する。δ位にあるカルボン酸基とヒドロキシル基は、式(Ib)に示すようにラクトン化する傾向にある。スタチンの様なラクトン化する化合物は、遊離酸型またはラクトン型で、あるいはその両方の型の平衡混合物として存在することがある。」
(b)記載事項2:段落【0006】
「現在、プラバスタチンを製造するのに最も経済的に利用可能な方法は、コンパクチンのC-6位の微生物によるヒドロキシル化である。酵素的方法は非常に立体選択的であるが、有意な量のプラバスタチンC-6エピマー(「エピプラバ(epiprava)」)を混入することがある培養液からの単離後に得られるプラバスタチンナトリウムにとって一般的である。C-6位はビス-アリル位であるので、C-6原子はエピマー化しやすい。プラバスタチンの単離の間のpHの慎重な調節及び他の条件が、エピマー化を最小にするために必要とされる。」
(c)記載事項3:段落【0007】
「本発明は、プラバスタチンラクトン及び、プラバスタチンのC-6エピマーであるエピプラバ、を実質的に含まないプラバスタチンナトリウムを提供する。本発明は更に、そのような実質的に純粋なプラバスタチンナトリウムを製造するための、工業的な規模で実施され得る方法を提供する。」
(d)記載事項4:段落【0031】
「凍結乾燥又は結晶化あるいは生成物の純度を損なわない他の手段によって単離されようとなかろうと、本発明の方法の実施で単離されるプラバスタチンナトリウムは、プラバスタチンラクトン及びエピプラバを実質的に含まない。以下の例で示すように、プラバスタチンナトリウムは、プラバスタチンラクトン(下記注参照)の混入が0.5%(w/w)未満で且つエピプラバの混入が0.2%(w/w)未満で単離されうる。プラバスタチンナトリウムは更に、2つが例1及び3で例示される、本発明の好ましい態様を遵守することによってプラバスタチンラクトン(下記注参照)が0.2%(w/w)未満で且つエピプラバが0.1%(w/w)未満で単離されうる。」
(注:甲第3号証では上記指摘の2箇所において「プラバスタチン」と記載されているが、甲第1号証、甲第2号証の該当箇所では「プラバスタチンラクトン」とされていることから、誤記と認め、「プラバスタチンラクトン」と記載する。)
(e)記載事項5:段落【0045】
例1において、「・・・結晶化によって90%の収率で結晶として得られた。プラバスタチンナトリウムは、上述の条件を用いるHPLCによって測定した場合、出発時の培養液によって生成した活性物質から、65%の全収率、約99.8%の純度で得られた。」
(f)記載事項6:段落【0051】
例5において、「生じた結晶は、続いてナトリウム塩に置き換えられる再結晶化によって更に精製され、そして例1に記載の様に単離された。プラバスタチンナトリウムは、約99.9%の純度及び67.7%の収率で得られた。」
(g)記載事項7:段落【0052】
「例6 例1の手順に従い、プラバスタチンナトリウム塩は、HPLCによって測定した場合に、64%の、出発時の培養によって生成された活性物質からの全収率及び99.8%の純度で、1/15の水/アセトン混合物から結晶化された。」
(h)記載事項8:特許請求の範囲請求項1
「実質的に純粋なプラバスタチンナトリウム。」
(i)記載事項9:特許請求の範囲請求項6
「0.1%未満のエピプラバを含む、請求項1に記載のプラバスタチンナトリウム。」
(j)記載事項10:特許請求の範囲請求項7
「0.2%未満のプラバスタチンラクトン及び0.1%未満のエピプラバを含む、請求項1に記載のプラバスタチンナトリウム。」

また、段落【0011】〜【0030】には、本件発明のプラバスタチンナトリウムの単離方法が説明され、段落【0039】〜【0053】には、これを具体化した例1〜例7が記載されている。

(3)無効の理由
請求人は、甲第8号証〜甲第19号証よる本件出願の審査段階での手続及び特許請求の範囲の変遷をもとに、請求項1におけるプラバスタチンナトリウム組成物を得るための工程、及び、該組成物が「工業的に生産された」ものであることについては、審査の過程で引用文献記載の発明と区別する要素とされておらず、出願人もそれを受け容れていたことから、「一般式(I)[構造式(I)省略]を有する化合物を、プラバスタチンナトリウムに対して0.1重量%以下の量で含有することを特徴とする、プラバスタチンナトリウムを含有する組成物」なる記載が組成物の真正な構成要件であるとした上で、
上記先願明細書の記載に基づいて、
(A)記載事項2から明らかな通り、先願明細書に記載されている「エピプラバ」は、本件発明における一般式(I)の化合物と同一である旨(審判請求書第14頁下から7〜5行)、
(B)記載事項3及び記載事項8には、エピプラバを実質的に含まないプラバスタチンナトリウムを、工業的規模で製造する方法を提供することが記載されており、これは本件発明の目的と同一である旨(同第14頁下から4〜2行)、
(C)記載事項4、記載事項9及び記載事項10には、エピプラバの含有量が0.1(w/w)未満のプラバスタチンナトリウムが記載されており、これは本件発明1における、一般式(I)の化合物の量がプラバスタチンナトリウムに対して0.1重量%以下との規定と同義である旨(同第14頁末行〜第15頁6行)等を述べ、
先願明細書には、本件発明1が記載されていると主張している(同第15頁20〜22行参照)。
また、本件発明2〜本件発明9について、これらの請求項には、組成物の組成に関する事項は記載されていない。また、記載されている精製条件から、一般式(I)の化合物の含有率を推定することも出来ない。したがって、請求項2〜請求項9に記載の発明には、請求項1に記載の発明と同じ無効理由が存在する、と主張している(同第15頁24〜27行参照)。

4 被請求人の主張
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする旨の審決を求め、審判請求人が主張する上記無効の理由に対して、答弁書とともに乙第1号証(東京高裁平成13年(行ケ)第219号判決)、乙第2号証(東京高裁平成10年(行ケ)第401号判決)を提出し、大略以下(1)〜(6)のように主張している。

(1)先願明細書に記載される「エピプラバ」は、本件発明の一般式(I)の化合物と同一であることは認める(答弁書第3頁下から2行〜第4頁5行参照)。
(2)記載事項4、記載事項9、記載事項10の記載から、請求人が主張しているとおりり、「エピプラバの含有量が0.1%(w/w)未満のプラバスタチンナトリウム」という文言は先願明細書に記載されている。しかしながら、「0.1%未満のエピプラバを含むプラバスタチンナトリウム」は、先願明細書のいずれの例の記載から確認することができず、さらに、当業者が、理論上又は経験則上、これらの例の記載から、「0.1%未満のエピプラバを含むプラバスタチンナトリウム」が得られていることを予測することも、把握することもできないので、完成された発明として記載されていない(同第4頁7行〜第5頁11行参照)。
(3)先願明細書の例1、例3には、約99.8%の純度のプラバスタチンナトリウムが得られた旨が記載されているのみで、記載事項4における「プラバスタチンナトリウムは、プラバスタチンラクトンが0.2%(w/w)未満で且つエピプラバが0.1%(w/w)未満で単離される」ことは一切記載されていず、確認も全くされていない。また、記載事項9、記載事項10は、記載事項4をもとに記載されたものであり、「エピプラバの含量が0.1(w/w)未満%のプラバスタチンナトリウム」は、具体的に確認されたものではない(同第5頁14行〜第6頁6行参照)。
(4)明細書の記載から確認できず、当業者が、理論上又は経験則上、得られていることが予測することも、把握することもできない化学物質である、「0.1%未満のエピプラバを含むプラバスタチンナトリウム」の発明は、化学物質発明の成立性が否定され、完成された発明であるとはいえないものであり、未完成発明を記載している先願明細書は、特許法29条の2に基づいて、先願発明として本件特許に対し後願排除効を有するとはいえない(同第9頁13〜30行参照)。
(5)乙第1号証(東京高裁平成13年(行ケ)第219号判決)には、化学物質そのものが確認されることが、化学物質発明が成立するための必須条件である旨が、乙第2号証(東京高裁平成10年(行ケ)第401号判決)には、特許出願に係る発明が特許法29条の2により、特許を受けることができないとされるためには、当該特許出願の日前の他の特許出願に係る発明は、発明として完成していることを必要とする旨が判示されている(同第9頁31行〜第10頁11行参照)。
(6)本件発明2〜本件発明9は、請求項1の従属項であるので、本件発明1と同様に、先願明細書は、特許法29条の2に基づいて先願発明として本件特許に対し後願排除効を有するとはいえず、本件発明2〜本件発明9には無効理由は存在しない(同第10頁12〜16行参照)。

さらに、被請求人は、上申書とともに乙第3号証(特願2002-533858(甲第3号証に係る出願)の平成16年3月17日付け拒絶理由通知書写し)、乙第4号証(同出願の平成17年4月22日付け拒絶査定書写し)及び乙第5号証(同出願の平成16年9月24日付け意見書写し)を提出し、次の(ア)、(イ)の主張をしている。
(ア)甲第3号証に係る出願の審査段階における拒絶理由通知書(乙第3号証)第3頁の「(理由4について)(B)」において、発明の詳細な説明にプラバスタチンラクトン、エピプラバの含有量の計測結果は一切記載されていないとして、「本願発明の詳細な説明は、請求項に係る発明を実施できる程度に記載されていない。」と判断され、その後該出願が拒絶査定されていることをもって、本件発明1は甲第3号証に完成された発明として記載されていない(上申書第6頁下から3行〜第7頁14行参照)。
(イ)甲第3号証に係る出願の審査段階における意見書(乙第5号証)において請求人は、段落【0031】に記載されているプラバスタチンラクトン及びエピプラバの混入量は実測値であると述べているのに対し、本件審判の弁駁書において、プラバスタチンラクトンの混入量は経験に基づいて請求人が任意に選択した数値であると主張しており、同じ記載に対し異なる説明をしていることから、本件発明1は甲第3号証に完成された発明として記載されたものではない(同第7頁16行〜第8頁下から5行参照)。

5 当審の判断
(1)本件発明1について
(A)はじめに
本件発明1は、前記の請求項1に記載のとおりであるが、請求項1は、有機溶媒を用いる抽出工程、無機酸を用いる不純物分解工程、無機塩基を用いる不純物分解工程及び結晶化工程を組み合わせた製造方法により、さらに、工業的に生産されたことにより、一般式(I)を有する化合物の含量を限定したプラバスタチンナトリウム組成物を特定しようとする記載がなされた、いわゆる「プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」である。したがって、請求項1の記載は、最終的に得られた生産物を意味すると解されるので、本件発明1は、「一般式(I)を有する化合物を、プラバスタチンナトリウムに対して0.1重量%以下の量で含有することを特徴とする、プラバスタチンナトリウムを含有する組成物」そのものの発明である。
そして、本件発明1は、本件特許明細書の記載によれば、従来の生産性の低いカラムクロマトグラフィーのような方法を使用することなく「工業的に生産された」という点に特徴を有するものである(段落【0104】)。
なお、上記の点については、被請求人も認めるところである(「第1回口頭審理調書」参照)。

(B)対比・判断
先願明細書の「本発明の詳細な説明」(段落【0009】〜【0038】)をみると、「コンパクチンの酵素的ヒドロキシル化」(段落【0010】)に始まり、「実質的に純水(注:「純粋」の誤記)なプラバスタチンナトリウムの単離」として、発酵液から抽出によりプラバスタチンを単離し、多段の工程を経て、プラバスタチンナトリウムを結晶化または凍結乾燥によって単離する一連の工程が記載されている(段落【0011】〜【0030】)。そして、それに続いて、「本発明の方法の実施で単離されるプラバスタチンナトリウムは、プラバスタチンラクトン及びエピプラバを実質的に含まない。以下の例で示すように、プラバスタチンナトリウムは、プラバスタチンラクトンの混入が0.5%(w/w)未満で且つエピプラバの混入が0.2%(w/w)未満で単離されうる。プラバスタチンナトリウムは更に、2つが例1及び3で例示される、本発明の好ましい態様を遵守することによってプラバスタチンラクトンが0.2%(w/w)未満で且つエピプラバが0.1%(w/w)未満で単離されうる。」(段落【0031】:記載事項4)と記載されている。ここでいう「以下の例」は、上記段落【0011】〜【0030】で記載された本件発明の方法を具体化した、段落【0039】以下の「例」における例1〜7を、また、「例1及び3」は、段落【0039】〜【0045】の例1、段落【0047】の例3を指すと認められる。
そうしてみると、段落【0031】には、「本発明の段落【0011】〜【0030】に記載される方法の実施で単離されるプラバスタチンナトリウムは、エピプラバを実質的に含まない。本発明における方法を具体化した態様である例1〜7によれば、エピプラバの混入が0.2%(w/w)未満で単離されうるが、好ましい態様に従えばエピプラバが0.1%(w/w)未満で単離されうる。例1及び例3は、エピプラバが0.1%(w/w)未満で単離された例である。」ことが記載されていると認められる。
ここで、単離されたプラバスタチンナトリウムにおけるエピプラバの混入の数値は、本発明の段落【0011】〜【0030】に記載される方法により導かれるものではなく、該方法により単離されたプラバスタチンナトリウムを何らかの測定手段をもって測定しなければ得られないのであるから、上記のエピプラバの混入が0.2%(w/w)未満、0.1%(w/w)未満という数値範囲も、恣意的に設定し得るものではなく、何らかの手段により測定された具体的数値に基づくものでなければならない。
そこで、エピプラバが0.1%(w/w)未満で単離された例であるとされる例1をみると、プラバスタチンナトリウムの純度がHPLCにより測定され「約99.8%」と記載されているが、エピプラバについての数値は示されていない(記載事項5)。しかし、精製されたプラバスタチンナトリウムの純度をHPLCにより求めるには、手順として、プラバスタチンナトリウムと不純物であるエピプラバ、プラバスタチンラクトン等の各成分のピークが分離したチャートが得られるような条件を設定して測定し、得られたチャートの各成分のピーク面積を求め、ピーク面積の総和に対するプラバスタチンナトリウムのピーク面積比を算出し純度を求めることが通常採用される。すなわち、プラバスタチンナトリウムの純度を求めるにあたり、すべての成分のピーク面積は求められているので、プラバスタチンナトリウムだけでなくエピプラバ等の他の成分についても、その混入割合を同時に求めることは可能なのである。そして、先願明細書記載の発明において、精製されたプラバスタチンナトリウムにおけるエピプラバ混入の数値が重要な要件であることからすれば、例1においてエピプラバについての数値が示されていないとしても、HPLCによる測定によりプラバスタチンナトリウムの純度のみを求めたとすることは、常識的にあり得ないといえる。
そうすると、例1において特にエピプラバについての数値が記載されていないとしても、段落【0031】における、例1がエピプラバが0.1%(w/w)未満で単離された例であるとの記載は、例1においてHPLCにより具体的に求められた数値に基づいたものというべきであり、先願明細書には実質的に、「エピプラバをプラバスタチンナトリウムに対して0.1重量%以下の量で含有する、プラバスタチンナトリウムを含有する組成物」が記載されているとすることができる。そして、先願明細書記載の発明は、「工業的な規模で実施され得る方法を提供する」(記載事項3)ものであるから、該プラバスタチンナトリウムを含有する組成物も「工業的に生産された」ものである。
したがって、本件発明1は、先願明細書に記載された発明と同一である。

なお、先願明細書の例1においてプラバスタチンナトリウムの純度が「約99.8%」と記載されているが、甲第21号証における1999年10月〜2000年4月の日付のあるHPLCの数値データをみると、小数点以下2桁まで算出されており、甲第1号証に係る出願の出願当時(2000年10月5日)、HPLCにより純度は小数点以下2桁まで求めることが可能であったのであるから、上記純度の「約」は、小数点以下2桁目の数値を丸めたために付けられたと解される。したがって、純度を求めるのと同じ手順により、例1においてエピプラバについて0.1%以下の小数点以下2桁の数値を求めることも可能であったといえる。例えば、1999年11月23日の日付のある甲第21号証の7頁目のデータによれば、エピプラバについて「0.06%」という数値が得られている。

(2)本件発明2〜9について
本件発明2〜4は、本件発明1の不純物を無機塩基を用いて分解する工程について、本件発明5は、本件発明1の有機溶媒を用いて抽出する工程について、本件発明6〜9は、本件発明1の不純物を無機酸を用いて分解する工程について、それぞれ限定を付したものである。しかし、先に記載のとおり、本件発明1は、プラバスタチンナトリウムを含有する組成物そのものの発明であり、製造方法における工程について限定を付したとしても発明の対象が変わることはないので、本件発明2〜9も、本件発明1と同様のプラバスタチンナトリウムを含有する組成物そのものの発明であるから、上記「(1)(B)対比・判断」に記載の理由と同じ理由により、先願明細書に記載された発明と同一であるとすることができる。

(3)まとめ
以上のとおり、本件発明1〜9は、先願明細書に記載された発明と同一であるが、先願明細書は甲第1号証〜甲第3号証に共通した内容が記載されたものであるから、結局、本件発明1〜9は、本件の原出願の出願前に出願された米国仮出願(60/238278;甲第1号証)に基づく優先権を主張して出願された国際出願[PCT/US01/31230(国際公開WO02/030415;甲第2号証)]であって本件特許出願後に国際公開されたものの国際出願日における国際出願の明細書又は請求の範囲及び上記米国仮出願の明細書の両方に記載された発明と同一であり、そして、本件特許出願の発明者がその出願前の出願に係る発明をした者と同一ではなく、また本件特許出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、本件発明1〜9に係る特許は、特許法第184条の13で読み替えられた同法第29条の2の規定により特許を受けることができないものである。

(4)被請求人の(ア)、(イ)の主張について
(ア)について
甲第3号証の発明の詳細な説明には、請求項に係る発明を実施できる程度に記載されていないとする拒絶の理由は通知されているが、この理由は拒絶査定の際に採用されていない。
(イ)について
甲第3号証の記載におけるプラバスタチンラクトンの混入量について、審査段階(乙第5号証)と弁駁書とではその主張に齟齬がみられるが、そのプラバスタチンラクトンの混入量についての主張の齟齬をもってエピプラバの混入量について疑義があるとすることはできないから、甲第3号証におけるエピプラバが特定量以下混入したプラバスタチンナトリウムの発明が否定されるものではない。
そして、先に述べたように甲第3号証すなわち先願明細書には、「エピプラバをプラバスタチンナトリウムに対して0.1重量%以下の量で含有する、プラバスタチンナトリウムを含有する組成物」が記載されているとすることができる。
したがって、被請求人の上記の主張は採用できない。

6 むすび
以上のとおりであるから、本件特許請求の範囲請求項1ないし9に係る発明についての特許は、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-09-15 
結審通知日 2005-09-21 
審決日 2005-09-28 
出願番号 特願2001-237749(P2001-237749)
審決分類 P 1 113・ 161- Z (C07C)
最終処分 成立  
特許庁審判長 西川 和子
特許庁審判官 後藤 圭次
原田 隆興
登録日 2003-08-22 
登録番号 特許第3463875号(P3463875)
発明の名称 プラバスタチンを精製する方法  
代理人 古賀 哲次  
代理人 金原 玲子  
代理人 福本 積  
代理人 越後 友希  
代理人 青木 篤  
代理人 石田 敬  
代理人 岩出 昌利  
代理人 西山 雅也  
代理人 矢口 敏昭  
代理人 大野 彰夫  
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