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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2007800236 審決 特許
不服200510220 審決 特許

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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 4項1号請求項の削除 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1140521
審判番号 不服2004-18369  
総通号数 81 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2001-10-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-09-06 
確定日 2006-07-26 
事件の表示 平成10年特許願第511867号「心筋梗塞を処置するためのGLP―1またはその同族体の使用」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 3月 5日国際公開、WO98/08531、平成13年10月30日国内公表、特表2001-520640〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成9年8月26日(パリ条約による優先権主張1996年8月30日、米国)の出願であって、平成16年6月8日に拒絶査定され、同年9月6日に拒絶査定に対する審判が請求され、審判請求時の補正可能期間内である同年10月6日に手続補正書が提出されたものである。

2.平成16年10月6日付手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の結論]
平成16年10月6日付の手続補正を却下する。
[理由]
(1)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の特許請求の範囲は、平成15年5月6日付手続補正書で補正された明細書に記載された以下のとおりのものである。
「 1.心筋梗塞後の死亡率および罹患率を減少させる医薬組成物であって、GLP-1、およびGLP-1がそのインスリン分泌活性を示す際に相互作用するレセプターまたはレセプター群と同じものと相互作用することによってインスリン分泌活性を示すGLP-1同族体およびGLP-1誘導体ならびにそれらの製薬的に許容される塩の中から選ばれる化合物の、血糖を正常化するに有効な量を含有する医薬組成物。
2.静脈内投与するための請求項1記載の組成物。
3.皮下投与するための請求項1記載の組成物。
4.連続して投与するための請求項2または3記載の組成物。
5.0.25から6pmol/kg/分の速度で投与する、請求項4記載の組成物。
6.0.5から2.4pmol/kg/分の速度で投与する、請求項5記載の組成物。
7.該速度が約0.5から約1.2pmol/kg/分である、請求項5記載の組成物。
8.間欠的に静脈内に投与するための請求項2記載の組成物。
9.GLP(7-36)アミドまたはその製薬的に許容される塩を含有する、請求項1記載の組成物。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲
本件補正後の特許請求の範囲は以下のとおりである。
「【請求項1】
心筋梗塞後の死亡率および罹患率を減少させる医薬組成物であって、GLP-1、およびGLP-1がそのインスリン分泌活性を示す際に相互作用するレセプターまたはレセプター群と同じものと相互作用することによってインスリン分泌活性を示すGLP-1同族体およびGLP-1誘導体ならびにそれらの製薬的に許容される塩の中から選ばれる化合物の、血糖を正常化するに有効な量を含有する医薬組成物。
【請求項2】
静脈内投与するための請求項1記載の組成物。
【請求項3】
皮下投与するための請求項1記載の組成物。
【請求項4】
連続して投与するための請求項2または3記載の組成物。
【請求項5】
0.25から6pmol/kg/分の速度で投与する、請求項4記載の組成物。
【請求項6】
0.5から2.4pmol/kg/分の速度で投与する、請求項5記載の組成物。
【請求項7】
該速度が約0.5から約1.2pmol/kg/分である、請求項5記載の組成物。
【請求項8】
間欠的に静脈内に投与するための請求項2記載の組成物。
【請求項9】
GLP(7-36)アミドまたはその製薬的に許容される塩を含有する、請求項1記載の組成物。
【請求項10】
GLP-1同族体が、以下の(a)から(e)に示す修飾群から選ばれる少なくとも1つの修飾を有するGLP-1(7-34)、GLP-1(7-35)、GLP-1(7-36)もしくはGLP-1(7-37)またはそれらのアミド体およびそれらの製薬的に許容される塩であり:
(a) 26位および/または34位のリジンに代わるグリシン、セリン、システイン、スレオニン、アスパラギン、グルタミン、チロシン、アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、アルギニンまたはD-リジンへの置換; または36位のアルギニンに代わるグリシン、セリン、システイン、スレオニン、アスパラギン、グルタミン、チロシン、アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、リジンまたはD-アルギニンへの置換;
(b) 31位のトリプトファンに代わる酸化耐性アミノ酸への置換;
(c) 16位のバリンからチロシン、18位のセリンからリジン、21位のグルタミン酸からアスパラギン酸、22位のグリシンからセリン、23位のグルタミンからアルギニン、24位のアラニンからアルギニンおよび26位のリジンからグルタミンの中から選ばれる少なくとも1つの置換;
(d) 8位のアラニンに代わるグリシン、セリンまたはシステイン;9位のグルタミン酸に代わるアスパラギン酸、グリシン、セリン、システイン、スレオニン、アスパラギン、グルタミン、チロシン、アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、メチオニンまたはフェニルアラニン;10位のグリシンに代わるセリン、システイン、スレオニン、アスパラギン、グルタミン、チロシン、アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、メチオニンまたはフェニルアラニン;および15位のアスパラギン酸に代わるグルタミン酸、の中から選ばれる少なくとも1つの置換;および
(e) 7位のヒスチジンに代わるグリシン、セリン、システイン、スレオニン、アスパラギン、グルタミン、チロシン、アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、メチオニンまたはフェニルアラニンまたはD-もしくはN-アシル化もしくはアルキル化型ヒスチジンへの置換;
ここに、(a)、(b)、(d)および(e)の置換では、置換されるアミノ酸はD-型であってよく、7位に置換されるアミノ酸はN-アシル化またはN-アルキル化型であってもよい;
または、GLP-1誘導体がGLP-1またはGLP-1同族体のアミノ酸配列を有しているが、そのアミノ酸側鎖の基、α-炭素原子、末端アミノ基または末端カルボン酸基の1つまたはそれ以上に化学的修飾を付加的に有している分子であって、化学的修飾が以下の(x)から(z)から選ばれるもの:
(x)アミノ酸側鎖基の修飾として、リジンε-アミノ基のアシル化、アルギニン、ヒスチジンまたはリジンのN-アルキル化、グルタミン酸またはアスパラギン酸カルボン酸基のアルキル化、およびグルタミンまたはアスパラギンの脱アミド化;
(y)末端アミノの修飾として、デス-アミノ、N-低級アルキル、N-ジ-低級アルキルおよびN-アシル修飾;
(z)末端カルボキシ基の修飾として、アミド、低級アルキルアミド、ジアルキルアミドおよび低級アルキルエステル修飾;
である、請求項1から8までのいずれか記載の組成物。
【請求項11】
心筋梗塞が急性心筋梗塞である、請求項1から10までのいずれか記載の組成物。」

(3)判断
本件補正前の請求項数9に対し、本件補正後は請求項数が2増加して11となっている。本件補正後の請求項1〜9は、それぞれ本件補正前の全請求項である請求項1〜9と一致しており、これに請求項10及び11をあらたに加える本件補正は、特許法第17条の2第4項第1〜4号に掲げるいずれを目的とするものにも該当しない。

(4)むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第4項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
よって、上記補正却下の結論のとおり決定する。

3.本願発明について
平成16年10月6日付手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、平成15年5月6日付手続補正書で補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。

4.本願明細書の記載について
(1)請求項1の記載からみて、本願発明は、医薬組成物の有効成分としてのGLP-1、GLP-1同族体およびGLP-1誘導体ならびにそれらの製薬的に許容される塩の中から選ばれる化合物を、心筋梗塞後の死亡率および罹患率を減少させるために用いる点に技術的特徴を有する医薬用途発明であると認められる。
医薬についての用途発明においては、一般に、有効成分の物質名、化学構造だけからその有用性を予測することは困難であり、明細書に有効量、投与方法、製剤化のための事項がある程度記載されている場合であっても、それだけでは当業者が当該医薬が実際にその用途において有用性があるか否かを知ることができないから、明細書に薬理試験結果又はそれと同視すべき程度の記載をしてその用途の有用性を裏付ける必要がある。
そこで、本願明細書において、GLP-1、およびGLP-1同族体およびGLP-1誘導体ならびにそれらの製薬的に許容される塩の中から選ばれる化合物の心筋梗塞後の死亡率および罹患率を減少させる治療効果が、薬理試験結果又はそれと同視すべき程度の記載によって裏付けられているかを以下で検討する。

(2)本願明細書には薬理試験結果として、実施例1及び2にGLP-1(7-36)アミドをインスリン非依存型糖尿病(NIDDM)患者に投与した際の血糖値の推移を測定した試験結果が記載されている。しかし、これらの試験の対象はインスリン非依存型糖尿病(NIDDM)患者であり、心筋梗塞の患者ではないし、心筋梗塞後の死亡率および罹患率についてのデータを得たものでもないから、本願明細書には心筋梗塞後の死亡率および罹患率を減少させる治療効果を直接確認した薬理試験結果は記載されていない。

(3)請求人は、審判請求書の「(4)理由2: 特許法第36条第4項の拒絶理由に対して」において、「拒絶査定では、糖尿病患者における血糖値を制御すれば、心筋梗塞後の死亡率および罹患率が減少することが、データ等を用いて客観的に記載されていない、と認定されております。しかし、本願明細書2頁7-10行には『心筋梗塞はインスリンの循環を減少させ、アドレナリン作動性状態を劇的に増大させ、そしてストレスホルモン、例えば一緒になって高血糖を増大させ脂質分解を刺激するコルチゾン、カテコールアミン類、グルカゴンを放出させる。』と記載されており、心筋梗塞と血糖との因果関係の説明を行っております。その血糖に指向している点は本願明細書の実施例の結果と符号するものであります。つまり、実施例では、血糖を正常化する態様が記載されています。」「さらに付言すれば、平成15年5月6日付け提出の意見書に添付した参考資料1(Malmberg et al. (1999) Circulation 99:2626-2632)には、『急性心筋梗塞を有する糖尿病患者の死亡率は、年齢、心不全の既往歴および入院時における糖代謝状態の重篤度により予測され』と記載されており、糖代謝状態の重篤度、即ち入院時の血糖値が心筋梗塞後の死亡率を予測するための1つの因子であることが臨床試験により確かめられております。」と述べ、本願明細書が本願発明を容易に実施することができる程度に記載されていることが示されている旨主張している。また、平成18年2月14日付上申書において、参考資料1として、医学雑誌に掲載された論文であるNikoladidis et al., Circulation 2004;109:962-965を提出し、「添付の参考資料1によれば、急性心筋梗塞後の一次血管形成術を受け、再灌流が達成された患者に本願発明で用いたものと同様のGLP-1(7-36)アミドを投与した群では、GLP-1を投与していないコントロール群と比して死亡率が有意に減少し、また糖尿病患者であるか否かに拘わらずLVEF、局所および全体の壁運動性のいずれもが改善されることが確認されております(Figure 1および2)。GLP-1誘導体の急性心筋梗塞に対する作用が、本願発明の記載の通りであることが、この論文からもご理解頂けると存じます。」と述べている。(以下、平成15年5月6日付け提出の意見書における参考資料1を「文献A」、平成18年2月14日付上申書における参考資料1を「文献B」という。)

しかしながら、請求人が心筋梗塞と血糖との因果関係として指摘する明細書の上記記載は、心筋梗塞の患者でアドレナリン等の体内生理活性物質の変動があり、結果的に高血糖が生じることを説明したものであって、本願発明の化合物の投与によって血糖を正常化させることが、糖尿病患者であるか否かを問わず心筋梗塞後の死亡率及び罹患率の減少につながるという根拠とはならない。そして、特許法第36条第4項に規定する明細書の記載要件は、出願時の当業者の技術常識を前提にしているところ、請求人の提出した文献A及び文献Bは、いずれも本願出願日後のものであって、これら文献の記載を検討しても、GLP-1が心筋梗塞後の死亡率を減少させること及び本願発明の化合物の投与によって血糖を正常化させることが、糖尿病患者であるか否かを問わず心筋梗塞後の死亡率及び罹患率の減少につながることが、本願出願時においてすでに当業者に自明であったとはいえない。

(4)そうすると、結局、本願明細書には、GLP-1、GLP-1同族体およびGLP-1誘導体ならびにそれらの製薬的に許容される塩の中から選ばれる化合物によって心筋梗塞後の死亡率および罹患率を減少できることが、実験的にも理論的にも裏付けられていないことになる。

(5)このように本願明細書には、 GLP-1、GLP-1同族体およびGLP-1誘導体ならびにそれらの製薬的に許容される塩の中から選ばれる化合物を用いた場合に心筋梗塞後の死亡率および罹患率を減少できることについて具体的裏付けがなく、また、これら化合物によって、そのような治療効果が得られることを客観的に理解するに足りる合理的説明もされていないのであるから、本願明細書の記載は当業者が上記化合物を心筋梗塞後の死亡率および罹患率を減少する目的で使用することの技術上の意義を理解するために必要な事項を欠くものである。
したがって、本願明細書の発明の詳細な説明には、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分な記載がされているとはいえない。

5.むすび
以上のようであるから、本願明細書の記載は特許法第36条第4項に規定
する要件を満たしていない。
よって、上記結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-02-22 
結審通知日 2006-02-28 
審決日 2006-03-15 
出願番号 特願平10-511867
審決分類 P 1 8・ 571- Z (A61K)
P 1 8・ 536- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鳥居 福代瀬下 浩一安藤 倫世  
特許庁審判長 森田 ひとみ
特許庁審判官 吉住 和之
齋藤 恵
発明の名称 心筋梗塞を処置するためのGLP―1またはその同族体の使用  
代理人 田村 恭生  
代理人 高山 裕貢  
代理人 青山 葆  

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