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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B43L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B43L
管理番号 1140872
審判番号 不服2003-16671  
総通号数 81 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2001-01-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-08-28 
確定日 2006-08-04 
事件の表示 特願2000-122453「電子黒板および電子黒板の表示制御装置」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 1月30日出願公開、特開2001- 26196〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、出願日が平成8年2月9日である特願平8-23540号の一部を平成12年4月24日に新たな出願としたものであって、平成15年7月17日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年8月28日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年9月29日付けで明細書についての手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされたものである。
なお、平成15年6月23日付け手続補正書は平成15年7月17日付けで補正却下されている。

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成15年9月29日付けの手続補正を却下する。

[理由]

1.本件補正の内容及び目的
本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲を
「【請求項1】 表示部と、
手書きされた文字や図形などを読み取るタッチセンサ部と、
前記タッチセンサ部によって読み取った手書き文字や図形などの可搬型記憶媒体への記録あるいは該可搬型記憶媒体からの読み込みを行う手段と、
前記可搬型記憶媒体から読み込まれた文字や図形などを前記表示部に表示させる表示手段と、
前記タッチセンサ部によって読み取った手書き文字や図形を認識する認識部と備え、
前記記録あるいは読み込みを行う手段は、前記認識部によって認識された文字や図形などをキャラクタデータとして前記可搬型記憶媒体への記録あるいは該可搬型記憶媒体からの読み込みを行い、前記認識部によって認識されなかった文字や図形などをイメージデータとして前記可搬型記憶媒体への記録あるいは該可搬型記憶媒体からの読み込みを行い、
前記表示手段は、前記可搬型記憶媒体から読み込まれた文字や図形などのキャラクタデータに対応する活字イメージと前記可搬型記憶媒体から読み込まれた文字や図形などのイメージデータを前記表示部に表示させることを特徴とする電子黒板。
【請求項2】 前記タッチセンサ部は、前記表示部の上に配置された、透明なタッチセンサ部であることを特徴とする請求項1記載の電子黒板。
【請求項3】 表示部と、
手書きされた文字や図形などを読み取るタッチセンサ部とを備えた電子黒板の表示制御装置において、
前記タッチセンサ部によって読み取った手書き文字や図形などの可搬型記憶媒体への記録あるいは該可搬型記憶媒体からの読み込みを行う手段と、
前記可搬型記憶媒体から読み込まれた文字や図形などを前記表示部に表示させる表示手段と、
前記タッチセンサ部によって読み取った手書き文字や図形を認識する認識部と備え、
前記記録あるいは読み込みを行う手段は、前記認識部によって認識された文字や図形などをキャラクタデータとして前記可搬型記憶媒体への記録あるいは該可搬型記憶媒体からの読み込みを行い、前記認識部によって認識されなかった文字や図形などをイメージデータとして前記可搬型記憶媒体への記録あるいは該可搬型記憶媒体からの読み込みを行い、
前記表示手段は、前記可搬型記憶媒体から読み込まれた文字や図形などのキャラクタデータに対応する活字イメージと前記可搬型記憶媒体から読み込まれた文字や図形などのイメージデータを前記表示部に表示させることを特徴とする電子黒板の表示制御装置。
【請求項4】 前記タッチセンサ部は、前記表示部の上に配置された、透明なタッチセンサ部であることを特徴とする請求項3記載の電子黒板の表示制御装置。」から、
本件補正後の特許請求の範囲
「【請求項1】 手書きされた文字や図形などを読み取るタッチセンサ部が配置された大型表示部と、
前記タッチセンサ部によって読み取った手書き文字や図形などの可搬型記憶媒体への記録、および該可搬型記憶媒体から当該可搬型記憶媒体に記録された前記タッチセンサ部によって読み取られた手書き文字や図形などの読み込みを行う手段と、
前記可搬型記憶媒体から読み込まれた文字や図形などを前記大型表示部に表示させる表示手段と、
前記タッチセンサ部によって読み取った手書き文字や図形を認識する認識部とを備え、
前記記録および読み込みを行う手段は、前記認識部によって認識された文字や図形などをキャラクタデータとして、かつ前記認識部によって認識されなかった文字や図形などをイメージデータとして可搬型記憶媒体へ記録する一方、認識部により認識され可搬型記憶媒体に記録された文字や図形などのキャラクタデータおよび認識部により認識されず該可搬型記憶媒体に記録された文字や図形などのイメージデータを当該可搬型記憶媒体から読み込み、
前記表示手段は、前記可搬型記憶媒体から読み込まれた文字や図形などのキャラクタデータに対応する活字イメージおよび前記可搬型記憶媒体から読み込まれた文字や図形などのイメージデータを前記大型表示部に表示させることを特徴とする電子黒板。
【請求項2】 前記タッチセンサ部は、前記大型表示部の上に配置された、透明なタッチセンサ部であることを特徴とする請求項1記載の電子黒板。
【請求項3】 手書きされた文字や図形などを読み取るタッチセンサ部が配置された大型表示部を備えた電子黒板の表示制御装置において、
前記タッチセンサ部によって読み取った手書き文字や図形などの可搬型記憶媒体への記録、および該可搬型記憶媒体から当該可搬型記憶媒体に記録された前記タッチセンサ部によって読み取られた手書き文字や図形などの読み込みを行う手段と、
前記可搬型記憶媒体から読み込まれた文字や図形などを前記大型表示部に表示させる表示手段と、
前記記録および読み込みを行う手段は、前記認識部によって認識された文字や図形などをキャラクタデータとして、かつ前記認識部によって認識されなかった文字や図形などをイメージデータとして可搬型記憶媒体へ記録する一方、認識部により認識され可搬型記憶媒体に記録された文字や図形などのキャラクタデータおよび認識部により認識されず該可搬型記憶媒体に記録された文字や図形などのイメージデータを当該可搬型記憶媒体から読み込み、
前記表示手段は、前記可搬型記憶媒体から読み込まれた文字や図形などのキャラクタデータに対応する活字イメージおよび前記可搬型記憶媒体から読み込まれた文字や図形などのイメージデータを前記大型表示部に表示させることを特徴とする電子黒板の表示制御装置。
【請求項4】 前記タッチセンサ部は、前記大型表示部の上に配置された、透明なタッチセンサ部であることを特徴とする請求項3記載の電子黒板の表示制御装置。」
に補正するものであって、本件補正は特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものであると認められる。

2.補正発明の認定
本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「補正発明」という。)は、本件補正により補正された明細書の特許請求の範囲【請求項1】に記載された次の通りのものと認める。
「手書きされた文字や図形などを読み取るタッチセンサ部が配置された大型表示部と、
前記タッチセンサ部によって読み取った手書き文字や図形などの可搬型記憶媒体への記録、および該可搬型記憶媒体から当該可搬型記憶媒体に記録された前記タッチセンサ部によって読み取られた手書き文字や図形などの読み込みを行う手段と、
前記可搬型記憶媒体から読み込まれた文字や図形などを前記大型表示部に表示させる表示手段と、
前記タッチセンサ部によって読み取った手書き文字や図形を認識する認識部とを備え、
前記記録および読み込みを行う手段は、前記認識部によって認識された文字や図形などをキャラクタデータとして、かつ前記認識部によって認識されなかった文字や図形などをイメージデータとして可搬型記憶媒体へ記録する一方、認識部により認識され可搬型記憶媒体に記録された文字や図形などのキャラクタデータおよび認識部により認識されず該可搬型記憶媒体に記録された文字や図形などのイメージデータを当該可搬型記憶媒体から読み込み、
前記表示手段は、前記可搬型記憶媒体から読み込まれた文字や図形などのキャラクタデータに対応する活字イメージおよび前記可搬型記憶媒体から読み込まれた文字や図形などのイメージデータを前記大型表示部に表示させることを特徴とする電子黒板。」

3.補正発明の独立特許要件の判断
以下、補正発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものかどうかを検討する。

3-1.引用例記載の発明
3-1-1 原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願の日前である平成5年12月14日に頒布された「特開平5-330289号公報 」(以下「引用文献1」という。)には、次の事項が図示とともに記載されている。

発明の名称:「電子黒板装置」
ア.特許請求の範囲
「【請求項1】 筆記具と、
筆記面の背後に埋め込まれ、前記筆記具によって筆記面において書かれる文字等の軌跡を検出する多数のセンサと、
このセンサが検出した軌跡を座標データ列から成る画像データとして記憶する第1の記憶手段と、
この第1の記憶手段に記憶された画像データに基づき筆記面に書かれた文字および図形を認識すると共に、特定の軌跡に関する画像データが予め定めた複数の編集コマンドのうちいずれに相当するかを認識する認識手段と、
認識された文字、図形、編集コマンドを記憶する第2の記憶手段と、
この第2の記憶手段に記憶された編集コマンドに従って前記認識された文字、図形を編集するコマンド実行手段と、
編集された文字、図形を電子黒板の筆記面に投射表示すると共に、筆記面の下部に縮小して投射表示する投射表示手段とを設け、
縮小投射表示領域および非縮小投射表示領域において書かれる文字、図形、編集コマンドを逐次認識し、筆記面の表示内容を逐次更新する
ことを特徴とする電子黒板装置。
【請求項2】 第1の記憶手段に対し、スキャナやファクシミリ等の画像データ読み取り手段で読み取った画像データを選択的に記憶させる切り替え手段を設けたことを特徴とする請求項1記載の電子黒板装置。
【請求項3】 文字、図形、編集コマンド等を表す入力音声を認識し、その認識した文字、図形、編集コマンド等のデータを前記第2の記憶手段に記憶させる音声認識手段を設けたことを特徴とする請求項1または2記載の電子黒板装置。
【請求項4】 第1の記憶手段または第2の記憶手段の記憶データを他の電子黒板装置との間で送受する通信手段を設けたことを特徴とする請求項1または2または3記載の電子黒板装置。
【請求項5】 第1の記憶手段または第2の記憶手段の記憶データをテレビ会議システムの送受データに付加して相手側の電子黒板装置との間で送受する通信手段を設けたことを特徴とする請求項1ないし4記載のいずれかの電子黒板装置。
【請求項6】 縮小表示領域のセンサは非縮小領域のセンサより高密度で配設されていることを特徴とする請求項1ないし5記載のいずれかの電子黒板装置。」

イ.段落【0001】
「【産業上の利用分野】本発明は板面上に書かれた文字、図形等を認識し、その認識結果を板面上に投射表示する電子黒板装置に関するものである。」

ウ.段落【0002】
「【従来の技術】複数の人が集まって打ち合わせを行う場合、あらかじめ用意した資料やその場で黒板等に書いた情報を参加者で議論し内容を検証し問題があれば修正するといった一連の作業を繰り返し、合意に達した内容や中間結果を記録し配布することが一般に行われている。」

エ.段落【0003】〜【0009】
これら段落には、電子黒板における従来の技術が紹介されており、電子黒板には、筆記具を用いて電子黒板上に書いた文字や図形等を表す軌跡を、電子黒板に埋め込まれたセンサーにより座標認識して取り込み、電子黒板のディスプレイ上の対応する座標位置に当該軌跡を文字や図形として表示するもの、前記軌跡を文字や図形として認識処理して、その認識結果を電子黒板のディスプレイ上に表示するもの、また、タブレット上にスタイラスペンにて手書き入力した文字や図形を認識し、その認識結果をタブレットと一体化した液晶等の表示装置に表示するもの等が存在することが記載されている。
(ただし、【0005】では、認識結果は記録紙に記録されることとなっている。)

オ.段落【0020】〜【0030】
図1と図2を参照して、一実施例の詳細が説明されている。
これら段落の記載によれば、実施例は、大別すると、電子黒板1、データ処理装置2、データ格納装置3、表示装置4より構成されていると記載されている。
電子黒板1は、筆記面1aの背後に多数のセンサをマトリクス状に配置した構造となっており、筆記具1bによって筆記面1aに書かれる文字等の軌跡を前記センサによって検出するように構成されており、特定の軌跡に関する画像データが予め定めた複数の編集コマンドのうちいずれに相当するかが画像データ認識部23で認識され、認識された文字、図形、編集コマンドは認識データ記憶部24に記憶され、この認識データ記憶部24に記憶された編集コマンドに従って前記認識された文字、図形を編集する認識コマンド実行部25により編集された文字、図形は画像メモリ27を介して表示装置4に供給され、表示装置4によって電子黒板1の筆記面1aに投射表示されると共に、筆記面1aの下部に縮小して投射表示させる記憶データ表示部26とから構成されており、図2に示されるように、筆記面1aは、縮小表示領域1cおよび非縮小表示領域1dを備えており、これら縮小表示領域1cおよび非縮小表示領域1dにおいて書かれる文字、図形、編集コマンドを逐次認識し、筆記面1aの表示内容が逐次更新されることが記載されている。

前記イ〜エ記載からは、従来より複数の人が集まって打ち合わせを行う際に、黒板等に書いた情報を参加者で議論し内容を検証し問題があれば修正するといった一連の作業を繰り返し、合意に達した内容や中間結果を記録し配布することが一般に行われていること、そして、打ち合わせ業務の容易化を図り得るものとして電子黒板が用いられていることが把握できる。
そして、前記ア及びオ記載によれば、当該文献に係る発明、特に一実施例においては、筆記面1aの背後に多数のセンサをマトリクス状に配置した構造の電子黒板1aを備え、筆記具1bによって筆記面1aに書かれる文字等の軌跡を前記センサによって検出するものとされている。

よって、これらの記載を参照するに、引用文献1には、次の発明が記載されている。
「電子黒板において、
筆記具1bにより書かれた文字等の軌跡を検出する筆記面1aの背後にマトリクス状に配置した多数のセンサが配置された電子黒板1と、
前記筆記具1bによって前記電子黒板1の筆記面1aに書かれる文字、図形等の軌跡は前記センサによって検出され、特定の軌跡に関する画像データが予め定めた複数の編集コマンドのうちいずれに相当するかを認識する画像データ認識部23と、
当該画像データ認識部23で認識された文字、図形、編集コマンドは認識データ記憶部24に記憶され、この認識データ記憶部24に記憶された編集コマンドに従って前記認識された文字、図形を編集する認識コマンド実行部25により編集された文字、図形は画像メモリ27に記憶され、当該画像メモリ27に記憶された文字、図形を電子黒板1に表示する表示装置4とを備えた電子黒板。」(以下、「引用発明」という。)

3-1-2 同じく原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願の日前である平成6年1月14日に頒布された「特開平6-4711号公報 」(以下「引用文献2」という。)には、次の事項が図示とともに記載されている。

カ.特許請求の範囲
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 升目が固定的に描かれたボードと、該ボードに描かれた図形を画像として読み取って画像信号を得る読取手段と、前記画像信号に基づいて、前記ボードに描かれた図形を、前記升目で区画された1つもしくは2つ以上の領域を単位として各単位毎に文字認識する文字認識手段とを備えたことを特徴とする電子黒板。」

キ.段落【0002】「【従来の技術】例えば白色ボードに黒色インク等で人が描いた図形を電子光学的方法により読み取って、用紙等に再生したり、記憶媒体に記憶させておく電子黒板が従来から知られている。この従来の電子黒板においては、読み取られた文字や画像の全てが画像信号として処理され、画像情報として用紙等に再生されたり、記憶媒体に記憶されている。」

ク.段落【0004】、【0005】「本発明は、上記事情に鑑み、ボードに描かれた図形のうちの文字を高い精度で認識して文字信号に変換する機能を備えた電子黒板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために本発明の電子黒板は、(1)升目が固定的に描かれたボード、(2)ボードに描かれた図形を画像として読取って画像信号を得る読取手段、(3)画像信号に基づいて、ボードに描かれた図形を、升目で区画された1つもしくは2つ以上の領域を単位として各単位毎に文字認識する文字認識手段、を備えたことを特徴とするものである。」

ケ.段落【0011】「図2は文字認識装置における文字認識を示すフローチャートである。尚、このフローでは複数の升目に跨って書かれている文字の認識は省略している。ボード12に描かれた文字、画像などの図形を記録するために、読取装置14がボード12の右端から左端まで移動して描かれた図形が順次読み取られ、画像信号に変換される。この画像信号は、文字認識装置に入力され(ステップ101)、ステップ102においては、画像信号が表す図形に対応するパターンが、文字データベースに存在するかの検索が行なわれ、この検索中に文字が検出され(ステップ103)、文字が検出されたときはステップ104に進む。ステップ104ではこの検出された文字を表す画像信号が該当する文字信号に変換される。一方、文字データベースに該当する文字がないときは、この画像信号は変換されずそのままの状態にとどまる(ステップ105)。あるいはこの画像信号を画像信号のままデータ圧縮を行ってもよい。その後、各升目毎に、文字認識された升目については文字信号、文字認識されなかった升目については画像信号が出力され、例えばフロッピィ挿入口24に挿入されたフロッピィディスクに記憶される(ステップ106)。このフロッピィディスクには、ボードに書かれた文字が文字信号として記憶されているため、全体としてデータ量が少なくて済み、またボードに書かれた内容を、例えばワードプロセッサを利用して議事録等の定形フォーマットに修正することができる。この場合、文字は文字信号として処理されているため、これらのデータ加工が容易となる。」

コ.段落【0012】「また、フロッピィディスク等を経由せずに上記文字信号、画像信号を出力端子から図示しないパーソナルコンピュータ、ワークステーション等に直接伝送してもよい。尚、該当する文字が文字データベースにないときは画像信号として処理されるが、ボードに描かれた図形がどのような文字、画像であってもそれらの記憶等は漏れなく行われる。」

サ.段落【0013】「ここで、升目の一つが文字を描く最小単位となっているため文字の認識が容易となり、文字認識率が向上する。また、複数の升目を合わせた領域を文字認識の単位とすることにより、一つの升目を越えて文字が描かれても文字認識が可能となり、したがって文字の大小も自由に選択できる。なお、文字認識装置で認識できなかった文字を全体の文脈や前後の文字から推考する文章推考機能を付加してもよい。」

前記カ、キ記載から、当該文献に係る発明が電子黒板に関するものであることが把握できる。
そして、前記ク〜サ記載からは、当該文献に係る電子黒板では、文字認識が文字データベースに基づいて行われること、ボードに書かれた内容は、文字認識された文字については文字信号、文字認識されなかったものについては画像信号として、フロッピィディスクに記憶されること、フロッピィディスクには、ボードに書かれた文字が文字信号として記憶されているために、全体としてデータ量が少なくて済み、ワードプロセッサを利用したデータ加工が容易となること等が説明されており、ボードに書かれた内容をフロッピィディスクに記憶させて、その後に利用可能であることが把握できる。

3-1-3 同じく原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願の日前である昭和62年8月8日に頒布された「特開昭62-181198号公報 」(以下「引用文献3」という。)には、次の事項が図示とともに記載されている。

シ.「第1図は、この発明を実施したインフォメーションボードの全体構造を示す外観斜視図である。」(2頁左上欄10〜11行)

ス.「表示ボード2の左側面部には図示しないが磁気カード12を読み取るカードリーダ及びフロッピディスク13を装着するフロッピディスク装置を備えている。なお、フロッピディスク13には予め作成した各種のフォーマット、例えば議事録用フォーマット、縦書き用ケイ線のフォーマット、横書き用ケイ線のフォーマット、方眼用フォーマット等を格納している。」(2頁右下欄1〜8行)

セ.「第4図は、このインフォメーションボードの制御部を示すブロック図である。
この制御部は、このインフォメーションボード1の全体の制御を司るモード切換手段を兼ねた入力表示制御回路31と、液晶表示パネル21に対する表示制御を司る液晶表示コントローラ32と、液晶表示パネル21に対する表示データを格納する表示メモリ33と、液晶表示パネル21の各X電源及びY電源をドライブするための駆動回路34と、入力表示制御回路31とパーソナルコンピュータ15等の各種接続装置との間のデータ転送用インタフェース35とを備えている。」(2頁右下欄12行〜3頁左上欄3行)

ソ.「この入力表示制御回路31は、パーソナルコンピュータ15、カードリーダ16及びフロッピディスク装置17からの入力情報を処理して取り込んだ画像情報については表示メモリ33に表示データとして書込んで液晶表示パネル21に表示させる。」(3頁左上欄18行〜右上欄3行)

3-2.補正発明と引用発明との対比
補正発明と引用発明を対比すると、引用発明の「筆記具1bにより書かれた文字等の軌跡を検出する筆記面1aの背後にマトリクス状に配置した多数のセンサが配置された電子黒板1」は、手書きされた文字や図形を読み取る機能を備えるものであり、補正発明の「手書きされた文字や図形などを読み取るタッチセンサ部が配置された大型表示部」に、大型とされるか否かを除いて、相当している。
また、引用発明の「当該画像メモリ27に記憶された文字、図形を電子黒板1に表示する表示装置4」は、手書き入力された文字や図形などを読み取って文字認識された情報を電子黒板1に表示するものであるから、補正発明の「文字や図形などを前記大型表示部に表示させる表示手段」に相当する。
さらに、引用発明の「前記筆記具1bによって前記電子黒板1の筆記面1aに書かれる文字、図形等の軌跡は前記センサによって検出され、特定の軌跡に関する画像データが予め定めた複数の編集コマンドのうちいずれに相当するかを認識する画像データ認識部23」は、筆記面1aの背後に多数のセンサをマトリクス状に配設した構造となっており、タッチセンサによって読み取る機能を備えた認識部といえるから、補正発明の「前記タッチセンサ部によって読み取った手書き文字や図形を認識する認識部」に相当する。

してみれば、両者の一致点及び相違点は、次のとおりである。

<一致点>
「手書きされた文字や図形などを読み取るタッチセンサ部が配置された表示部と、
前記タッチセンサ部によって読み取った手書き文字や図形などを前記表示部に表示させる表示手段と、
前記タッチセンサ部によって読み取った手書き文字や図形を認識する認識部とを備えた電子黒板。」


<相違点1>
表示部を、補正発明は、「大型表示部」とするのに対し、
引用発明にはかかる特定がない点。

<相違点2>
補正発明では、「前記タッチセンサ部によって読み取った手書き文字や図形などの可搬型記憶媒体への記録、および該可搬型記憶媒体から当該可搬型記憶媒体に記録された前記タッチセンサ部によって読み取られた手書き文字や図形などの読み込みを行う手段と、
前記可搬型記憶媒体から読み込まれた文字や図形などを前記大型表示部に表示させる表示手段とを備え、
前記記録および読み込みを行う手段は、前記認識部によって認識された文字や図形などをキャラクタデータとして、かつ前記認識部によって認識されなかった文字や図形などをイメージデータとして可搬型記憶媒体へ記録する一方、認識部により認識され可搬型記憶媒体に記録された文字や図形などのキャラクタデータおよび認識部により認識されず該可搬型記憶媒体に記録された文字や図形などのイメージデータを当該可搬型記憶媒体から読み込み、
前記表示手段は、前記可搬型記憶媒体から読み込まれた文字や図形などのキャラクタデータに対応する活字イメージおよび前記可搬型記憶媒体から読み込まれた文字や図形などのイメージデータを前記大型表示部に表示させる」とされるのに対して、
引用発明にはかかる特定がない点。

3-3.相違点の判断及び補正発明の進歩性の判断
(1) 相違点1について
前記ウ記載にみられるように、従来から電子黒板は、多人数での打ち合わせ或いは会議において用いられるものであって、多人数が同時に見ることができるためには、ある程度の大きさを必要とされることは自明なことである。
この点、相違点1に係るように「大型表示部」と規定したとしても、何に比較して大きいのか、また、どのくらい大きいかが明確に特定されているものとはいえない。
してみれば、相違点1に係る「大型表示部」は、電子黒板として用いるに必要とされる大きさを規定したに過ぎないものといえる。
よって、当該相違点1は、当業者が電子黒板の用途を考慮して適宜なし得た設計事項に属するものでしかない。

(2) 相違点2について
引用発明を認定した引用文献1においては、電子黒板上に筆記具で手書きで書かれた文字や図形やコマンド等を認識し、コマンドに従って文字や図形を編集し、その結果を電子黒板に投射表示することは記載されているものの、電子黒板に表示した内容を、記憶させることの記載或いは示唆はない。
しかしながら、引用文献2のケ記載及びコ記載にみられるように、電子黒板において、手書き入力した情報の内容を、文字認識された文字については文字信号、文字認識されなかったものについては画像信号として、フロッピーディスクに記憶させるようにすることは、従来から必要に応じて採用されている。
そして、フロッピーディスクが、可搬型記憶媒体であることは自明である。
なお、引用文献2の前記記載には、フロッピーディスクに電子黒板に表示した内容を記憶させることの明記はあるものの、再度、フロッピーディスクから電子黒板に表示することの明記はない。
しかしながら、前記引用文献3にみられるように、元々、予め準備しておいたフォーマットを電子黒板に表示するために、フロッピーディスクが用いられていること、また、可搬型記憶媒体を使用するのは、単に記憶させておくのみならず、再度の使用を前提とするものであることからして、フロッピーディスクを用いた際に、電子黒板の表示を記憶するのみならず、電子黒板へ表示させるものとすることは、当業者であれば必要に応じて適宜なし得た程度のことといえる。
そして、本願発明における相違点2に係る
「前記タッチセンサ部によって読み取った手書き文字や図形などの可搬型記憶媒体への記録、および該可搬型記憶媒体から当該可搬型記憶媒体に記録された前記タッチセンサ部によって読み取られた手書き文字や図形などの読み込みを行う手段」、
「前記可搬型記憶媒体から読み込まれた文字や図形などを前記大型表示部に表示させる表示手段」、及び
「前記記録および読み込みを行う手段は、前記認識部によって認識された文字や図形などをキャラクタデータとして、かつ前記認識部によって認識されなかった文字や図形などをイメージデータとして可搬型記憶媒体へ記録する一方、認識部により認識され可搬型記憶媒体に記録された文字や図形などのキャラクタデータおよび認識部により認識されず該可搬型記憶媒体に記録された文字や図形などのイメージデータを当該可搬型記憶媒体から読み込み、
前記表示手段は、前記可搬型記憶媒体から読み込まれた文字や図形などのキャラクタデータに対応する活字イメージおよび前記可搬型記憶媒体から読み込まれた文字や図形などのイメージデータを前記大型表示部に表示させる」なる構成は、可搬型記憶媒体を用いた際に、当然に必要とされる構成を記載しているに過ぎないものである。
また、このように、可搬型記憶媒体を用いたことで得られる作用効果も、当業者であれば、容易に想到可能なものでしかない。

(4) 補正発明の進歩性の判断
以上のように、相違点1、相違点2に係る補正発明の構成を採用することは当業者にとって想到容易であり、これら構成を寄せ集めて採用したことにより格別の作用効果が生じるとも認めることができない。
したがって、補正発明は、引用発明及び引用文献2に記載された事項及び周知慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

3-4.まとめ
以上のとおり、補正発明は、特許法第29条第2項の規定により特許をすることができないものであるから、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

[補正の却下の決定のむすび]
本件補正前の請求項1を限定的に減縮した補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないから、本件補正は、平成15年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法126条第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、補正の却下の結論のとおり決定する。

第3 本件審判請求についての当審の判断

1.本願発明の認定
本件補正が却下されたから、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成14年8月19日付け手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲【請求項1】に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。

「表示部と、
手書きされた文字や図形などを読み取るタッチセンサ部と、
前記タッチセンサ部によって読み取った手書き文字や図形などの可搬型記憶媒体への記録あるいは該可搬型記憶媒体からの読み込みを行う手段と、
前記可搬型記憶媒体から読み込まれた文字や図形などを前記表示部に表示させる表示手段と、
前記タッチセンサ部によって読み取った手書き文字や図形を認識する認識部と備え、
前記記録および読み込みを行う手段は、前記認識部によって認識された文字や図形などをキャラクタデータとして前記可搬型記憶媒体への記録あるいは可搬型記憶媒体からの読み込みを行い、前記認識部によって認識されなかった文字や図形などをイメージデータとして前記可搬型記憶媒体への記録あるいは該可搬型記憶媒体からの読み込みを行い、
前記表示手段は、前記可搬型記憶媒体から読み込まれた文字や図形などのキャラクタデータに対応する活字イメージと前記可搬型記憶媒体から読み込まれた文字や図形などのイメージデータを前記表示部に表示させることを特徴とする電子黒板。」

2.本願発明と引用発明との対比
本願発明と前記補正発明と比較するに、「前記記録および読み込みを行う手段」が行う内容の特定について、前記補正発明においては「記録」及び「読み込み」毎に分けて記載されているのに対して、本願発明においては「キャラクタデータ」と「イメージデータ」毎に分けて記載されているものの、「前記記録および読み込みを行う手段」が行う内容について格別相違するものではない。
そして、「前記表示手段」が行なう表示の特定についても、前記補正発明と本願発明とで格別の相違はない。
また、「表示部」と「タッチセンサ部」の特定について、補正発明においては「手書きされた文字や図形などを読み取るタッチセンサ部が配置された大型表示部」を備えるとして、表示部が「大型表示部」であること、「タッチセンサ部」が「大型表示部」に配置されていることが明記されているのに対して、本願発明においては「表示部」と「手書きされた文字や図形などを読み取るタッチセンサ部」とを備えるとされ、「タッチセンサ部」と「表示部」との配置関係は特定されていない。
しかしながら、前記3-2で検討したように、引用発明は「手書きされた文字や図形などを読み取るタッチセンサ部が配置された表示部」を備えたものであるから、「タッチセンサ部」及び「表示部」を備えていることは明らかである。

以上のとおりであるから、前記3-2における補正発明と引用発明との対比を踏まえれば、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

<一致点>
「表示部と、
手書きされた文字や図形などを読み取るタッチセンサ部と、
前記タッチセンサ部によって読み取った手書き文字や図形などを前記表示部に表示させる表示手段と、
前記タッチセンサ部によって読み取った手書き文字や図形を認識する認識部と備えた電子黒板。」

<相違点3>
本願発明では、「表示部」と「手書きされた文字や図形などを読み取るタッチセンサ部」とを備えると特定されているのに対して、
引用発明ではこのような特定とはなっていない点。

<相違点4>
本願発明では、「前記タッチセンサ部によって読み取った手書き文字や図形などの可搬型記憶媒体への記録あるいは該可搬型記憶媒体からの読み込みを行う手段と、
前記可搬型記憶媒体から読み込まれた文字や図形などを前記表示部に表示させる表示手段とを備え、
前記記録および読み込みを行う手段は、前記認識部によって認識された文字や図形などをキャラクタデータとして前記可搬型記憶媒体への記録あるいは可搬型記憶媒体からの読み込みを行い、前記認識部によって認識されなかった文字や図形などをイメージデータとして前記可搬型記憶媒体への記録あるいは該可搬型記憶媒体からの読み込みを行い、
前記表示手段は、前記可搬型記憶媒体から読み込まれた文字や図形などのキャラクタデータに対応する活字イメージと前記可搬型記憶媒体から読み込まれた文字や図形などのイメージデータを前記表示部に表示させる」とされるのに対して、
引用発明にはかかる特定がない点。

3.相違点の判断及び本願発明の進歩性の判断
(1) 相違点3について
ここで、「タッチセンサ部」と「表示部」との配置関係については、本願明細書に記載される実施例に係る段落【0023】に、「図2の(a)において、S1は、手書き入力する。これは、図1の大型表示部1の上に透過する状態で配置したタッチセンサ部3の上から手書き入力する。」とあるように、手書き入力したデータの表示を行なうことで、手書き入力の便宜を図ることが示唆されていることに照らせば、本願発明において、特段に「タッチセンサ部」と「表示部」との配置関係が特定されていないものの、補正発明における特定を排除したものとまではいえない。
他方、引用発明の「筆記具1bにより書かれた文字等の軌跡を検出する筆記面1aの背後にマトリクス状に配置した多数のセンサが配置された電子黒板1」は、手書きされた文字や図形を読み取る機能を備えるものであり、本願発明の「手書きされた文字や図形などを読み取るタッチセンサ部」及び「表示部」を備えている。
してみれば、相違点3は実質的な相違を形成するものとはいえない。

(2) 相違点4について
前記「第2 補正の却下の決定」における「3-3.相違点の判断及び補正発明の進歩性の判断」の「(2)相違点2について」で検討したように、引用発明を認定した引用文献1においては、電子黒板上に筆記具で手書きで書かれた文字や図形やコマンド等を認識し、コマンドに従って文字や図形を編集し、その結果を電子黒板に投射表示することは記載されているものの、電子黒板に表示した内容を、記憶させることの記載或いは示唆はない。
しかしながら、引用文献2のケ記載及びコ記載にみられるように、電子黒板において、手書き入力した情報の内容を、文字認識された文字については文字信号、文字認識されなかったものについて画像信号として、フロッピーディスクに記憶させるようにすることは、従来から必要に応じて採用されているし、このフロッピーディスクが、可搬型記憶媒体であることは自明なことである。
そして、本願発明における相違点4に係る前記構成は、可搬型記憶媒体を用いた際に、当然に必要とされる構成を記載しているに過ぎないものである。
また、このように、可搬型記憶媒体を用いたことで得られる作用効果も、当業者であれば、容易に想到可能なものでしかない。

(3) 本願発明の進歩性の判断
以上のとおりに、相違点3は実質的な相違でなく、相違点4に係る本願発明の構成を採用することは当業者にとって想到容易であり、これを採用したことにより格別の作用効果が生じるとも認めることができない。
したがって、本願発明は、引用文献1及び引用文献2の記載及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第4 むすび
本件補正は却下されなければならず、本願発明が特許を受けることができない以上、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-05-23 
結審通知日 2006-05-30 
審決日 2006-06-15 
出願番号 特願2000-122453(P2000-122453)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B43L)
P 1 8・ 575- Z (B43L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉村 尚  
特許庁審判長 酒井 進
特許庁審判官 藤本 義仁
國田 正久
発明の名称 電子黒板および電子黒板の表示制御装置  
代理人 岡田 守弘  

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