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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) D01D
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) D01D
管理番号 1140981
審判番号 不服2002-5516  
総通号数 81 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1997-06-17 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-04-02 
確定日 2006-08-02 
事件の表示 平成 7年特許願第312769号「潜在捲縮性複合繊維及び製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 6月17日出願公開、特開平 9-157941〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
(1) 本願は、平成7年11月30日の特許出願である。
(2) 原審において、平成13年9月10日付けで拒絶理由通知が送付され、平成13年11月15日付けで、意見書及び明細書の手続補正書が提出されたところ、平成14年2月22日付けで拒絶査定がされた。
(3) 平成14年4月2日に拒絶査定に対する審判が請求されるとともに、平成14年4月17日付けで、明細書の手続補正書が提出されたところ、前置審査において、平成14年12月16日付けで、最後の拒絶理由通知が送付され、その指定期間内である平成15年2月21日付けで、意見書及び明細書の手続補正書が提出された。

2.補正却下の決定
[結論]
平成15年2月21日付けの手続補正を却下する。

[理由]
(1)補正事項
平成15年2月21日付けの手続補正(以下、「当審意見補正」という。)は、以下の補正事項a〜eからなるものである。
(1-1)補正事項a: 明細書の段落0033において、
「実施例1
極限粘度(IV)が0.80のポリエチレンテレフタレート(PET)100%からなる高粘度成分Aと、IVが0.50のPET100%からなる低粘度成分BとをAとBの重量複合比が60:40とし、図1、2の口金を用いてサイドバイサイドに複合紡糸した。複合繊維の断面は図3の如く境界面は実質的に直線であった。複合繊維のIVは0.64であった。この複合繊維を延伸、熱処理し75D-12F(単糸6.2d)の延伸糸を得た。原糸の物性は発現捲縮数は15コ/cm、見掛け収縮率60%、収縮応力0.25g/d、破断強度3.8g/d、破断伸度46%であった。上記複合繊維と60D-144Fのポリエステルマルチフィラメントの延伸糸とを仮撚加工し混繊糸を得た。得られた混繊糸に1000回/mの撚を施し混繊加撚糸とした。」を、
「実施例1
極限粘度(IV)が0.80のポリエチレンテレフタレート(PET)100%からなる高粘度成分Aと、IVが0.50のPET100%からなる低粘度成分BとをAとBの重量複合比が60:40とし、図1、2の口金を用いて紡糸温度295℃、紡糸速度1300m/分にてサイドバイサイドに複合紡糸した。複合繊維の断面は図3の如く境界面は実質的に直線であった。複合繊維のIVは0.64であった。この複合繊維をホットローラー90℃と熱板130℃を備えた延伸機にて2.8倍に延伸、熱処理し75D-12F(単糸6.2d)の延伸糸を得た。原糸の物性は発現捲縮数は15コ/cm、見掛け収縮率60%、収縮応力0.25g/d、破断強度3.8g/d、破断伸度46%であった。上記複合繊維と60D-144Fのポリエステルマルチフィラメントの延伸糸とを仮撚加工し混繊糸を得た。得られた混繊糸に1000回/mの撚を施し混繊加撚糸とした。」と補正する。

(1-2)補正事項b: 明細書の段落0035において、
「実施例2…その他は実施例1に準じた。」を、
「実施例2…その他は実施例1に準じて紡糸・延伸を行なった。」と補正する。

(1-3)補正事項c: 明細書の段落0038において、
「実施例3
No.11〜15はA、B両成分の境界面に関するものである。なおNo.11はNo.1と同じである。」を、
「実施例3
No.11〜15はA、B両成分の境界面に関するものであり、実施例1と同条件で紡糸・延伸を行なった。なおNo.11はNo.1と同じである。」と補正する。

(1-4)補正事項d: 明細書の段落0040において、
「実施例4
No.16〜20はIVを変化させたものでNo.16はNo.1と同じ」を、
「実施例4
No.16〜20はIVを変化させたもので実施例1と同条件にて紡糸・延伸を行なった。なおNo.16はNo.1と同じ」と補正する。

(1-5)補正事項e: 明細書の段落0042において、
「実施例5
実施例4に引き続きIV値を変化させた実験である。」を、
「実施例5
実施例4に引き続き実施例1の条件にてIV値を変化させた実験である。」と補正する。

(2)各補正事項の適否についての判断
(2-1)補正事項aについて
補正事項aは、より具体的には、実施例1について、(i)PETからなる高粘度成分Aと低粘度成分Bとを、「図1、2の口金を用いてサイドバイサイドに複合紡糸した。」とあったのを、「図1、2の口金を用いて紡糸温度295℃、紡糸速度1300m/分にてサイドバイサイドに複合紡糸した。」と補正し、(ii)複合繊維から、75D-12F(単糸6.2d)の延伸糸を得るに当たり、「複合繊維を延伸、熱処理し」とあったのを、「複合繊維をホットローラー90℃と熱板130℃を備えた延伸機にて2.8倍に延伸、熱処理し」と補正するものである。
(i)に関しては、紡糸温度及び紡糸速度について何ら記載がなかったものに対して、特定の紡糸温度及び紡糸速度の組合せの記載を新たに追加するものであり、(ii)に関しては、延伸機、延伸温度及び延伸倍率について何ら記載がなかったものに対して、特定の延伸機、延伸温度及び延伸倍率の組合せの記載を新たに追加するものである。
そして、本願の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「当初明細書等」という。)には、紡糸温度、紡糸速度、延伸機、ホットローラー及び熱板、延伸温度、並びに、延伸倍率及び倍率という用語すら記載されていないから、(i)における特定の紡糸温度及び紡糸速度の組合せ、及び(ii)における特定の延伸機、延伸温度及び延伸倍率の組合せの新たな追加は、当初明細書等に記載した事項から当業者が直接的かつ一義的に導き出せるものでない。
なお、補正の根拠に関して、請求人は、平成15年2月21日付け意見書において、4件の特許公報の記載を提示して、「通常のバイメタル複合糸であれば、該公報等と同様な条件を採用して製糸することは同業者であれば周知の技術常識であり、明細書の発明の詳細な説明の記載の不明瞭な箇所を単に明確に記載したものであります。」と述べている。
しかしながら、提示されたいずれの特許公報にも、先の特定の紡糸温度及び紡糸速度の組合せも、特定の延伸機、延伸温度及び延伸倍率の組合せも記載されていないから、実施例1について、何らの記載もなく明りょうでない紡糸温度、紡糸速度、延伸機、延伸温度及び延伸倍率に関し、具体的な値及び機器名の記載を追加して明りょうにすることは、新規事項の追加である。
しがたって、補正事項aは、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてする補正ではない。

(2-2)補正事項b〜eについて
補正事項b〜eは、実施例2〜5について、実施例1と同じ条件で紡糸と延伸を行った旨を追加するものであるから、実施例2〜5に記載される複合繊維が、補正事項aで追加された特定の紡糸温度、紡糸速度、延伸機、延伸温度及び延伸倍率を採用して得られたものであるものであると補正することとなる。
しかしながら、(2-1)で述べたように、補正事項aは、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてする補正ではないから、補正事項b〜eは、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてする補正ではない。

(3)まとめ
以上のとおり、補正事項a〜eはいずれも、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてする補正ではないから、当審意見補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてする補正ではない。
したがって、最後の拒絶理由通知に対するものである当審意見補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反しているものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により、却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。

3.本願発明
2.で述べたとおり、当審意見補正は補正却下の決定がされたから、本願の明細書の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本件発明1」という。)は、平成14年4月17日付けの手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載される事項により特定される、以下のとおりのものである。
「高粘度成分Aと低粘度成分Bとがサイドバイサイド型に貼り合わされた複合繊維であって、A成分とB成分の境界面が直線であり、かつ
(1)沸騰水処理前後の捲縮数の差 4コ/cm以上
(2)見掛け収縮率 40%以上
(3)収縮応力 0.15g/d以上
(4)破断強度 3.0g/d以上
(5)破断伸度 40〜70%
(6)単糸デニール 4〜10d
であることを特徴とする潜在捲縮性複合繊維。」

4.明細書の記載要件についての判断
4-1.平成14年12月16日付けで通知した拒絶理由
平成14年12月16日付けの拒絶理由通知は、概要、以下のとおりのものである。
「本願請求項1では(1)〜(6)の物性値で発明を特定しているが、発明の詳細な説明は、このような複合繊維を当業者が通常の労力で実施できる程度に記載されたものではない。
繊維の破断強度や破断伸度といった物性は、紡糸時や延伸時の製造条件で異なってくることが常識であるが、本願明細書には製造に供した口金の構造と高粘度成分A、低粘度成分Bの記載はあるものの、製造条件は「この複合繊維を延伸、熱処理した」とあるだけで、紡糸温度、紡糸速度、紡糸した繊維の冷却の有無、延伸倍率、延伸段数、延伸時の温度条件等一切記載がなく請求項中(1)〜(6)に記載の物性を同時に満たすものをどのようにして得るかは全く不明になっている。
よって、この出願の明細書の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1-5に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないから、この出願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。」

4-2.本件発明1についての検討
3.で述べたとおり、本件発明1に係る潜在捲縮性複合繊維は、沸騰水処理前後の捲縮数の差、見掛け収縮率、収縮応力、破断強度及び破断伸度の物性値の範囲を併せて特定するものであるところ、これらの物性が、紡糸や延伸の条件、例えば、紡糸温度、紡糸速度、紡糸した繊維の冷却の有無、延伸倍率、延伸段数、延伸時の温度条件等によって変化することは当業者に明らかな技術的事項であると認められるから、発明の詳細な説明には、該紡糸や延伸の条件が、明示的に又は実質的に記載されている必要がある。
しかしながら、本件の明細書の発明の詳細な説明には、段落0033に記載の実施例1にあっては、極限粘度が異なるPET成分を複合紡糸して、延伸糸を得ることが記載されているものの、「図1、2の口金を用いてサイドバイサイドに複合紡糸した」、「この複合繊維を延伸、熱処理し…延伸糸を得た」とあるだけで、紡糸や延伸の条件については記載がなく、段落0035に記載の実施例2にあっては、「実施例1に準じた」と記載されるだけであり、実施例3〜5にあっては、紡糸や延伸の条件についての記載はない。
発明の詳細な説明のその余の部分についても、紡糸温度、紡糸速度、延伸機、ホットローラー、熱板、延伸温度、延伸倍率及び倍率という用語すら記載されていない。
してみれば、実施例1として記載されるように、極限粘度が異なるPET成分を複合紡糸、延伸して、本件発明1の潜在捲縮性複合繊維という「物」を製造するためには、当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤を要するといわざるを得ない。

さらに、本件発明1は、高粘度成分Aと低粘度成分Bとして、いかなる樹脂材料を使用するのかについては特定がないから、PET以外の任意の樹脂材料を採用する場合について、沸騰水処理前後の捲縮数の差、見掛け収縮率、収縮応力、破断強度及び破断伸度の値の範囲を併せて備える潜在捲縮性複合繊維を製造するための、紡糸や延伸の条件、さらには、高粘度成分Aと低粘度成分Bの比率やそれぞれの極限粘度の値を設定するためには、当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤を要するといわざるを得ない。

したがって、本件の明細書の発明の詳細な説明が、当業者が本件発明1の実施をすることができる程度に明確かつ十分に、記載したものであるということはできない。

なお、この点、請求人は、平成15年2月21日付け意見書において、
(i)4件の特許公報の記載を提示して、「通常のバイメタル複合糸であれば、該公報等と同様な条件を採用して製糸することは同業者であれば周知の技術常識であり、明細書の発明の詳細な説明の記載の不明瞭な箇所を単に明確に記載したものであります。」と、
(ii)「本願発明の潜在捲縮性複合繊維においては、複合境界面を直線にせしめ、かつ4〜10dの太単糸デニールにすることが重要であり、諸物性を同時に満たすことが実施可能な記載が、明確にかつ十分に明細書に記載されている」と、主張している。
しかしながら、「2.補正却下の決定」の(2-1)で述べたように、提示されたいずれの特許公報にも、先の特定の紡糸温度及び紡糸速度の組合せや、特定の延伸機、延伸温度及び延伸倍率の組合せは記載されておらず、
さらに、発明の詳細な説明には、先にも述べたように、紡糸温度、紡糸速度、紡糸した繊維の冷却の有無、延伸倍率、延伸段数、延伸時の温度条件については、各実施例に記載がなく、また、一般的な記載も見当たらないから、請求項1に記載される(1)〜(6)の物性を同時に満たすものをどのようにして得るかは不明である。
付言すれば、平成14年4月17日付け手続補正書により補正された明細書の発明の詳細な説明の記載に不明りょうな箇所があることは、意見書の(i)において「明細書の発明の詳細な説明の記載の不明瞭な箇所を…」と記載し、請求人自身が認めているところでもある。
したがって、意見書の主張をみても、発明の詳細な説明が、当業者が本件発明1の実施をすることができる程度に明確かつ十分に、記載したものであるということはできない。

4-3.まとめ
本件出願の明細書の発明の詳細な説明は、特許法第36条第4項の規定する要件を満たしていない。

5.むすび
以上のとおりであるから、本願は、平成14年12月16日付けで通知した拒絶理由により拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-05-22 
結審通知日 2006-05-30 
審決日 2006-06-13 
出願番号 特願平7-312769
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (D01D)
P 1 8・ 561- WZ (D01D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 澤村 茂実  
特許庁審判長 松井 佳章
特許庁審判官 川端 康之
野村 康秀
発明の名称 潜在捲縮性複合繊維及び製造方法  

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