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審決分類 審判 判定 同一 属さない(申立て成立) E04H
管理番号 1141415
判定請求番号 判定2005-60068  
総通号数 81 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 1998-07-14 
種別 判定 
判定請求日 2005-09-14 
確定日 2006-08-21 
事件の表示 上記当事者間の特許第3177586号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 イ号図面及びイ号物品説明書に示す「間柱ダンパー」は、特許第3177586号発明の技術的範囲に属しない。 
理由 1.請求の趣旨
本件判定請求は、イ号図面及びイ号物品説明書(甲第4号証)に示す「間柱ダンパー」(以下、「イ号物件」という。)が特許第3177586号の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)の技術的範囲に属しない、との判定を求めたものである。

2.本件発明
本件発明は、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものであり、分説すると以下の構成要件を備えるものである。

A:柱梁からなる構造物の架構内において
B:上下に離隔する梁間に配される柱状の制振架構であって、
C:上方の梁から下方に延長するH型形状断面の鋼材からなる上方架構材を設けると共に、
D:下方の梁から上方に延長するH型形状断面の鋼材からなる下方架構材を設け、
E:該上方及び下方架構材の先端部が相互に微小な間隙をもって重なり合うように配置し、
F:この微小間隙には粘弾性体を挾着させて低振動減衰部を形成し、
G:該上方及び下方架構材の先端部が材軸に直交する方向へ変形するのを所定範囲に規定するための押え材を設け、
H:前記上方架構材及び/又は前記下方架構材の所定部分に、これら架構材よりも強度が低く、且つ前記低振動減衰部よりも強度の高い、塑性化可能な塑性部材を設け、
I:該塑性部材は前記低振動減衰部に対して直列に配置されたことを特徴とする
J:制振架構。

3.イ号物件
請求人が提出した判定請求中のイ号物件の説明、同請求書に添付した「イ号図面」及び「イ号物品説明書」からみて、イ号物件の構成は、次のように特定するのが相当である。

a:柱梁からなる構造物の架構内において
b:上下に離隔する梁20,10間に配される柱状の間柱ダンパーであって、
c:上方の梁20からH型鋼40が垂下されると共に、
d:下方の梁10から上方に延長するボックス部材30が起立し、
e:H型鋼40下端部の塑性変形部材50の更に下端部に垂下されたダンパー上部構造70(2枚の平行板72)、及びボックス部材30の頂部に支持されたダンパー下部構造60(3枚の平行板62)が、僅かな間隙をあけて互いに平行に設けられ、
f:前記平行板72の周囲を粘弾性体102で囲んで粘弾性ダンパー100を構成し、
h:前記H型鋼40の下方に、H型鋼40及びボックス部30よりも強度が低く、塑性化可能な塑性変形部材50を設け、
i:該塑性変形部材50は前記粘弾性ダンパー100対して直列に配置された
j:間柱ダンパー。

4.当事者の主張
(i)請求人
請求人は、イ号物件は、本件発明と比較すると、少なくとも次の2点で相違しているから、イ号物件は、本件発明の技術的範囲に属しない旨、主張する(判定請求書6.1「請求の理由の要点」の記載参照)。
(イ)本件発明が、塑性部材は「架構材よりも強度が低く、且つ前記低振動減衰部よりも強度の高い」ことを発明の構成要素としているのに対して、イ号物件の塑性部材は、架構材およびダンパー(低振動減衰部)のいずれよりも強度が低い点。
(ロ)本件発明が、「H型形状断面の鋼材からなる下方架構材」を発明の構成要素としているのに対して、イ号物件の下方架構材はボックス型断面を有している点。

(ii)被請求人
被請求人は、判定請求書に対する答弁指令に対し、何らの応答もしなかった。

5.当審の判断
(i)本件発明の技術的意義について
本件特許の特許請求の範囲の請求項1には、上方架構材及び下方架構材がH型形状断面の鋼材からなり(構成要件C、D参照)、かつ「該上方及び下方架構材の先端部が相互に微小な間隙をもって重なり合うように配置し」(構成要件E)との記載があるものの、その具体的な構成として如何なるものを意味するのかが理解しがたいので、直ちにはイ号物件と対比・判断することができない。
ところで、特許法第70条第1項において、「特許発明の技術的範囲は、願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならない。」と規定されているとともに、同条第2項に「前項の場合においては、願書に添付した明細書及び図面を考慮して、特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するものとする。」と規定されており、特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか、あるいは、一見してその記載が誤記であることが明細書の発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなどの特段の事情がある場合に限っては明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することが許されるといえる。
そこで、本件発明とイ号物件との対比・判断に当たっては、特許明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌して、以下検討することとする。

本件特許の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項の技術的意義につき、特許明細書における発明の詳細な説明には、次の記載がある。
(イ)「【0010】前記上方架構材21はH形鋼で形成し、その上端を梁11に固定する。また上方架構材21を構成するH形鋼からは、ウェブ21bの下端全巾を切り欠き、残されたウェブ21b下端の両面にはそれぞれ補強プレート21e,21dを介して挾持プレート21f,21cを接合する。この補強プレート21e,21dは、その両側辺がH形鋼のフランジ21a,21aに当接するような巾に形成し、その下端辺が、切り欠かれたウェブ21bの下端と同じ位置まで延長するように配置する。一方、挾持プレート21f,21cは、その両側辺がフランジ21aに当接するような巾に形成し、その下端辺が、両側フランジ21aの下端と同じ位置まで延長するように配置する。かような配置によって、上方架構材21の下端部には、挾持プレート21f,21cの相互に対向する面と、ウェブ21b及び補強プレート21e,21dの下端辺と、両側フランジ21aの内面とで囲まれる凹溝が形成され、さらに、両側フランジ21aは、低振動減衰部20の変形を所定範囲に規定するための押え材としての機能も果たす。」
(ロ)「【0011】また前記下方架構材22はH形鋼で形成し、その下端を梁12に固定する。そして、下方架構材22を構成するH形鋼の上端部からは、ウェブ22bを残して両側のフランジを所定長取り除き、残されたウェブ22bの巾を前記凹溝に嵌入できるように調整し、これにより嵌入プレート22b’を形成し、さらに、この嵌入プレート22b’の下端部両面に当接するように両側フランジ22a間に補強材22dを架け渡して溶接で固定する。また、下方架構材22のH形鋼部分においては、所定長のウェブ22bを全巾にわたって切り欠き、この切り欠き部分に低降伏点鋼板25を嵌め込んで溶接で固定し、この低降伏点鋼板25の上下のウェブ22bの両面に当接するように両側フランジ22a間に補強材22e,22cを架け渡して溶接で固定する。なお、この低降伏点鋼板25と前記嵌入プレート22b’との間には、図2に示したようにH形鋼のウェブ22bを介在させることが好ましいが、これら両部材は連続するように配置することも可能である。」
(ハ)「【0012】上述した上方架構材21及び下方架構材22は、前記凹溝内に嵌入プレート22b’が嵌入するような位置関係で配置され、この嵌入プレート22b’は図2(a)(b)に示すように、挾持プレート21c,21fとの間に微小な間隔をもって相互に重なり合うように配置され、この微小間隙には粘弾性体23が介装されて、この粘弾性体22によって、これらプレート22b’,21c,21fが相互に挾着される。また嵌入プレート22b’は、その上辺と補強プレート21d,21eやウェブ21bの下端との間に所定長のクリアランス26を有し、且つ、その側辺とフランジ21a,21aの内面との間にも所定長のクリアランス24を有するように配置される。さらに、粘弾性体23は、流体のような粘性と、スプリングのような弾性を併わせ持った力学挙動を示し、振動を熱エネルギーにして吸収するアクリル系高分子材料や、ゴム系高分子材料を用いる。」

本件特許明細書の上記(イ)によれば、上方架構材を構成するH型鋼から、ウェブ21bの下端全巾を切り欠き、上方架構材21を構成するH型鋼のウェブ2が切り欠かれた下端部には、挾持プレート21f,21cの相互に対向する面と、ウェブ21b及び補強プレート21e,21dの下端辺と、両側フランジ21aの内面とで囲まれる凹溝を形成し、上記(ロ)によれば、下方架構材22を構成するH形鋼の上端部は、両側のフランジ22aを所定長取り除いてウェブ22bを残し、残されたウェブ22bの巾を前記凹溝に嵌入できるように調整し、これにより嵌入プレート22b’を形成している構成が示されている。
同じく、上記(ハ)によれば、上方架構材21及び下方架構材22は、前記凹溝内に嵌入プレート22b’が嵌入するような位置関係で配置され、この嵌入プレート22b’は図2(a)(b)に示すように、挾持プレート21c,21fとの間に微小な間隔をもって相互に重なり合うように配置されている構成が示されている。
以上のことから、本件発明の「該上方及び下方架構材の先端部が相互に微小な間隙をもって重なり合うように配置し」(構成要件E)た点は、上方架構材21を構成するH型鋼に形成された凹溝内に、下方架構材22を構成するH形鋼のウェブ22bが嵌入するような配置関係に構成されていることを意味したものと理解することができる。

(ii)属否の判断
上記「(i)」で説示した理解に基づいて、イ号物件の構成が本件発明の各構成要件を充足するか否かについて次に検討する。

(構成要件AないしC、F、I及びJについて)
本件発明とイ号物件の構成を対比すると、イ号物件の「間柱ダンパー」、「H型鋼40」、「ボックス部材30」、「粘弾性ダンパー100」、「塑性変形部材50」が、それぞれ、本件発明の「制振架構」、「上方架構材」、「下方架構材」、「低振動減衰部」、「塑性部材」に相当するといえるから、イ号物件の構成aないしc、f、i及びjは、それぞれ、本件発明の構成要件AないしC、F、I及びJを充足するといえる。

(構成要件Eについて)
上記「(i)」において検討したように、本件特許明細書の上記(イ)〜(ハ)の記載事項を参酌すれば、本件発明の構成要件Eにおける「上方及び下方架構材の先端部が相互に微小な間隙をもって重なり合うように配置」した点は、上方架構材21を構成するH型鋼に形成された凹溝内に、下方架構材22を構成するH形鋼のウェブ22bが嵌入するような配置関係に構成されていることを意味したものと解釈できる。
一方、イ号物件の構成eは、上方架構材(H型鋼40)下端部の塑性部材(塑性変形部材50)の更に下端部に設けられた2枚の平行板72と、下方架構材(ボックス部材30)に設けられた3枚の平行板62とが、相互に間隙を持って重なり合うように単に配置されているに止まるものであって、本件発明の構成要件Eのように、上方架構材を構成するH型鋼に形成された凹溝内に、下方架構材を構成するH形鋼のウェブが嵌入するような配置関係に構成されているものではないことが明らかである。
してみると、イ号物件の構成eは、本件発明の構成要件Eを充足しないというべきである。

6.むすび
以上のとおりであるから、イ号物件は、本件発明の他の構成要件の充足性について検討するまでもなく、本件発明の構成要件Eを充足しないといえるから、本件発明の技術的範囲に属しない。
よって、結論のとおり、判定する。
 
別掲


2. イ号物品説明書

図1 間柱ダンパーの第1の側面図
図2 同じ間柱ダンパーの第1の側面図と直交する方向から見た第2の側面図
図3 粘弾性ダンパー100、およびボックス部材30の水平断面
図4 粘弾性ダンパー100の拡大図

2.1 イ号物品の構造

図1〜4はイ号物品の間柱ダンパー部を示す図面です。当該間柱ダンパーは、図示されていませんが柱梁からなる構造物の架構内に設置されるべきものです。図1は間柱ダンパーの第1の側面図、図2は同じ間柱ダンパーの第1の側面図と直交する方向から見た第2の側面図を示します。図1の下部に示されたH型鋼(またはI型鋼)10が下方の梁、図面上部に示されたH型鋼(またはI型鋼)20が上方の梁にあたります。下方の梁からボックス部材30が起立し、上方の梁からはH型鋼40と塑性変形部材50とが順に垂下され、ボックス部材30の頂部にはダンパー下部構造60が支持され、塑性変形部材50の下端部にはダンパー上部構造70が固定されています。以下において、ダンパー上部構造70とダンパー下部構造60を併せてダンパー構造体と称することにします。
図3は、塑性変形部材50、ダンパー上部構造70とダンパー下部構造60を含む粘弾性ダンパー100、およびボックス部材30の水平断面を示すものです。塑性変形部材50は、ウェブ52の一方の側には2つの水平リブ54、ウェブ52の他方の側には2つの鉛直リブ56を有し、周囲を水平部材と鉛直部材からなる外周フランジ58で囲った構造です。
ダンパー上部構造70は上端を固定されて鉛直下方に延びる2枚の平行板72からなり、ダンパー下部構造60は下端を固定されて鉛直上方に延びる3枚の平行板62とからなります。平行板72と平行板62とは、図4に示すように、僅かの間隙をあけて互いに平行に設けられており、その間隙、つまり2枚の平行判2の周囲は粘弾性体102で埋められて全体としてダンパー100を構成しています。
ボックス部材30は、図3に示したようにボックス型の水平断面、つまり、2つの互いに平行な側面部材32、34と、これらに直交する2つの互いに平行な側面部材36、38から構成されています。

2.2 イ号物品の力・変形関係

間柱ダンパーの力・変形関係および破壊性状は以下のとおりです。
変形が小さいときの間柱ダンパーの変形は、ダンパー100の変形が支配的になります1。ダンパー100の力・変形関係は、平行板72の周囲に設けられた粘弾性体102に起因するために、反力は変形に依存する成分と速度に依存する成分の和になります。変形が小さいときには、ダンパー100、塑性変形部材50を含むいずれの部材も破壊あるいは降伏することはないので、この領域において強度を論じることはできません。
ダンパー100は平行板72の周囲を粘弾性体102で囲んだ構造なので、変形が大きくなり平行板62、72の距離が近くなると、ダンパー100の反力の変形に依存する成分は変形との比例関係を外れて急激に大きくなります。また、変形速度が大きい場合には、ダンパー反力の変形速度に比例する成分が変形速度に比例して大きくなります。
結果的に、変形が大きくなるとダンパー100の反力は非常に大きくなることができ、ダンパー100が最大反力に到達する前に塑性変形部分が先に塑性変形することになります。間柱ダンパーの破壊性状は塑性変形部分の塑性化であり、間柱ダンパーの最大反力は塑性変形部分の最大反力によって決定されます。
ここで、当該間柱ダンパーの「強度」とは、当該ダンパーの最大反力と考えられますが、上述のように大きな外力が加わったときにはダンパーが最大反力に達する前に塑性変形部分が塑性変形することから明らかなように、間柱ダンパーの強度は塑性変形部分の強度になります。
 
判定日 2006-08-08 
出願番号 特願平8-344980
審決分類 P 1 2・ 1- ZA (E04H)
最終処分 成立  
特許庁審判長 大元 修二
特許庁審判官 小山 清二
柴田 和雄
登録日 2001-04-06 
登録番号 特許第3177586号(P3177586)
発明の名称 制振架構  
代理人 園田 吉隆  

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