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審判番号(事件番号) データベース 権利
不服200323305 審決 特許
不服20061161 審決 特許
不服200213631 審決 特許
無効200680047 審決 特許
不服20013967 審決 特許

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審決分類 審判 査定不服 特29条の2 特許、登録しない。 E05C
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 E05C
管理番号 1142098
審判番号 不服2005-17119  
総通号数 82 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2004-01-08 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-08-10 
確定日 2006-08-14 
事件の表示 特願2003- 70977「地震時ロック方法及び地震対策付き棚」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 1月 8日出願公開、特開2004- 3300〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本願は、平成11年3月18日に出願した特願平11-116988号(以下、「原出願」という。)の一部を平成15年2月7日に新たな特許出願としたものであって、平成17年7月22日付で拒絶査定がされ、これに対し、同年8月10日付で拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正がなされ、当審は、その同年8月10日付の手続補正に基いて補正された明細書及び図面に対し、平成18年3月15日付の当審拒絶理由を通知したところ、同年18年5月28日付で意見書の提出がなされたものである。

2.当審拒絶理由の概要

当審による拒絶理由の要旨は次のとおりである。
本件出願の発明は、「地震時ロック方法」という方法の発明であると理解されるところ、当該ロック方法が、特許請求の範囲に記載された「装置本体」や「係止体」自体に構成上の特徴はなく、手動によっても実現できるものであってその手順に特徴を有するものであるのか、又は同特許請求の範囲に記載された「装置本体」や「係止体」が特定の構成上の特徴を備えていることを前提として、当該構成により自動的に実現される方法であって、当該方法を人が行うことは含まないものであるのかが、特許請求の範囲の記載事項からは理解しがたい。
また、仮に、本件出願の発明が後者の「装置本体」や「係止体」が特定の構成上の特徴を備えていることを前提とするものであって当該構成により自動的に実現される方法であるとすると、当該前提とする構成が如何なるものであるのかが、特許請求の範囲に記載された事項から理解しがたい。
すなわち、特許請求の範囲に記載されたところの、例えば、扉が「わずかに開かれる」、「扉等をばたつくロック状態」、「扉等の開く動きを許容しない状態」、「扉等の戻る動きとは独立し扉等の戻る動きで解除されず・・・扉等の開く動きを許容しない状態」、「扉等の戻る動きと関係なく・・・扉等の開く動きを許容して動き可能な状態」等は極めて抽象的な表現で記載されているために、それらの状態が相互にどの様に異なるものであるのかが理解しがたく、かつまた、それらの状態が、一体如何なる前提となる構成を規定したものであるのかも、特許請求の範囲の記載事項からは理解しがたい。

したがって、本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は明確でないので、この出願は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
なお、当該拒絶理由の通知の際に、判断の前提となる構成を明らかにするために、当審は特許請求の範囲の記載に関する【補正案】も提示した。

3.審判請求人の意見

これに対し、審判請求人は、平成18年5月28日付の意見書において、本願の特許請求の範囲の記載は、原出願の特許請求の範囲の減縮表現になっていることを指摘した上で、
「原出願の特許の特許請求の範囲についてその無効審判(無効2005-80113号)の審決において特許法第36条6項2号の無効理由はないとされた」ように、
原出願の特許の特許請求の範囲は上記無効審判事件において「明確」であるとの結論が出ているのであるから、原出願の特許の特許請求の範囲の減縮表現である本願発明の特許請求の範囲は同様に特許法第36条6項2号の無効理由はないと主張している。

4.当審の判断
(i)特許請求の範囲の記載について
本願の特許請求の範囲の請求項1には、(a)「棚本体側に取り付けられた装置本体に設けられ軸で回動する係止体であってわずかに開かれるまで扉等の係止具に当たらない係止体が地震時に該扉等をばたつくロック状態」、(b)「前記係止体が地震時に扉等の開く動きを許容しない状態」、(c)「前記係止体は扉等の戻る動きとは独立し扉等の戻る動きで解除されず地震時に扉等の開く動きを許容しない状態」及び(d)「地震のゆれがなくなることにより扉等の戻る動きと関係なく前記係止体は扉等の開く動きを許容して動き可能な状態」という4つの状態についての記載があり、それらは極めて抽象的な表現を用いて記載されている。
上記4つの状態の内、上記(a)の「棚本体側に取り付けられた装置本体に設けられ軸で回動する係止体であってわずかに開かれるまで扉等の係止具に当たらない係止体が地震時に該扉等をばたつくロック状態」における係止体は、「棚本体側に取り付けられた装置本体に設けられた軸で回動」し、かつ「わずかに開かれるまで扉等の係止具に当たらない」「係止体」であると一応理解することができる。この理解に基いて(b)の「前記係止体が地震時に扉等の開く動きを許容しない状態」とはどのようなロック状態を意味しているかを検討するに、係止体と当接した位置を超える範囲の扉等の開く動きは(当該係止体の働きによって規制し)許容しないロック状態を意味したものと解される。
しかしながら、このように解釈したロック状態と、(a)の「・・・地震時に該扉等をばたつくロック状態」の「ばたつくロック状態」が同義の状態を意味するのか否かが、特許請求の範囲の記載事項からは直ちには理解しがたい。
また、上記(c)の「前記係止体は扉等の戻る動きとは独立し扉等の戻る動きで解除されず地震時に扉等の開く動きを許容しない状態」とは、係止体が、地震時には、扉等の開く動きを許容しない状態に規制しているとともに、当該規制された状態が扉等の戻る動きで解除されないものであることは(その機能の実現手段が具体的に如何なるものであるのかは不明であるが)一応理解できるものの、「扉等の戻る動きとは独立し扉等の戻る動きで解除されず」と記載された点の「扉等の戻る動きとは独立し」が、如何なる事を意味するのかその技術的意義が理解しがたい。
さらに、上記(d)の「地震のゆれがなくなることにより扉等の戻る動きと関係なく前記係止体は扉等の開く動きを許容して動き可能な状態」とは、係止体は、地震のゆれがなくなった時には、扉等の開く動きを許容するような動きが可能な状態となるものであることは(その機能の実現手段が具体的に如何なるものであるのかは不明であるが)一応理解できるものの、「扉等の戻る動きと関係なく前記係止体は扉等の開く動きを許容して…」と記載された点の「扉等の戻る動きと関係なく」が、如何なる事を意味するのかその技術的意義が理解しがたい。
以上のとおり、本願の特許請求の範囲の請求項1の記載は、その殆どが極めて抽象的な表現を用いて記載されたものであり、かつまた、当該記載された事項の意味がその記載された事項自体からは明確に理解できず、このことにより特許を受けようとする発明の構成がその記載された事項によっては明確に把握できないといえる。

そして、特許法第36条第6項第2号において「特許を受けようとする発明が明確であること」と規定した点は、特許請求の範囲の記載は、できる限り、それ自体で、特許出願に係る発明の技術的範囲が明確になるように記載されるべきであることを規定したものと解され、殊更に不明確あるいは不明りょうな用語を使用して特許請求の範囲を記載することにより発明を不明確なものとするようなことは、上記規定の趣旨からして許されないものというべきである(参考:平成15年3月13日言い渡し、東京高等裁判所・平成13年(行ケ)第346号事件判決)。

したがって、本願は、その特許請求の範囲に特許を受けようとする発明が明確に記載されているということができず、特許法第36条第6項第2号の規定に違反するというべきである。

ところで、上述したように審判請求人は平成18年5月28日付の意見書において、本願の特許請求の範囲の請求項1の記載のうち、本願の原出願であって、特許された特許3650955号の請求項1の記載と一致する箇所については、すでに無効2005-80113号の審決において判断されたように明確であるとし、「法律上の既判力」がないにしろ、「審判の判断の安定性」の観点から、本件発明と一致する発明の特定事項についても、特許法第36条第6項第2号の規定を満たしている旨主張している。
しかしながら、本件審判事件は拒絶査定不服の審判事件であって、その記載要件の判断は原出願と独立して審理されるものであり、また上記無効審判事件の審決は出訴され(平成17行ヶ第10749号)ている状況にあって、現時点ではその記載要件についての判断も確定したものではないから、審判請求人の主張は採用できない。

以上のことから、本願は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、拒絶すべきものである。


なお、付言すると、本願の請求項1に係る発明は、原審において平成16年12月28日付の拒絶理由通知書により通知されたところの特許法第29条の2の規定に基づく拒絶理由によっても特許を受けることができない。
以下に、その理由を示す。
(i)先願明細書に記載された事項
原審において、引用出願として示された特願平11-53488号(特開2000-248812号公報参照)の願書に最初に添付された明細書又は図面(以下、「先願明細書」という。)には、「開き戸の閉止装置」の発明に関して、図面の図1〜図3とともに、以下の事項が記載されている。
(イ)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 家具、吊り戸棚等の開き戸付き収納装置に設けられ、地震時に開き戸の開放を規制する開き戸の閉止装置において、前記収納装置本体に上下動可能に設けられた係止体と、地震の揺れによって動作して前記係止体の動きを上動不能に阻止する阻止手段と、前記開き戸に支持され前記開き戸の開閉に際して前記係止体の動きが阻止されたときにのみ前記係止体が係止可能な状態になって前記開き戸の開放度を若干開く程度に規制する規制手段とを備えていることを特徴とする開き戸の閉止装置。」(公開特許公報第2頁第1欄参照)
(ロ)「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、家具、吊り戸棚等の開き戸付き収納装置に設けられ、地震時に開き戸の開放を規制する開き戸の閉止装置に関し、特に地震時に開き戸の開放を規制する構造に関するものである。
【0002】
【従来の技術】家具、吊り戸棚等の開き戸付き収納装置では、地震の揺れにより開き戸が開いて収納物が落下するのを防止するために、通常地震時に開き戸の開放を規制する閉止装置が設けられる。この種の閉止装置は、収納装置本体に設けられた係止手段が平常時にはケース内に没入状態にあり、地震の揺れによりこの係止手段がケース下方に突出し、この突出した係止手段が開き戸に設けられた係止具に係止して開き戸の開放が規制され、収納物の落下が防止されるようになっている。
…(中略)…
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかし、上記した従来の閉止装置では、開き戸をわずかに隙間を有した半開きの状態にロックするため、地震終了後に、このロック状態を解除するのに特別な解除動作が必ず必要となり、非常に面倒である。
…(中略)…
【0006】この発明が解決しようとする課題は、地震終了後の解除動作を不要にし、地震中の開き戸の開放を確実に阻止できる小型、薄型の開き戸の閉止装置を提供することにある。」(公開特許公報第2頁第1〜2欄参照)
(ハ)「【0017】
【発明の実施の形態】この発明の一実施形態について図1ないし図3を参照して説明する。但し、図1は切断正面図、図2は一部の切断平面図、図3は異なる一部の平面図である。
【0018】図1において、31家具、吊り戸棚等の開き戸付き収納装置本体、32は開き戸、33は樹脂等から成るケースであり、図2にも示されるように、内側に空間を有し、この空間が3つに仕切られて3個の移動スペース34が形成され、上端のフランジがねじ等により収納装置本体31に取り付けられている。
【0019】36はケース底面の形成された開口、37は転動体である3個の球体であり、各移動スペース34内にそれぞれ移動可能に収容されている。このとき、各球体37は各々の移動スペース34のみ移動可能で、隣接する移動スペース34には侵入できないように移動スペース34が構成されている。
【0020】38は樹脂等から成る係止体であり、ほぼ円柱状を成す基部38aと、基部38aの上端に形成された開口36より大寸の鍔部38bとから成り、この鍔部38bがケース33の内側に収容され、基部38aが開口36内に上動可能に配設されている。このとき、係止体38が下動した状態において、係止体38の下端部がケース33の下方に突出するように係止体38が配設されている。また、揺れのない状態で、球体37が転動して係止体38の鍔部38bの上面から落ち易くするために、鍔部38bの上面をわずかに外向きに傾斜させている。
【0021】そして、ケース33の上面にはその全部或いは一部を閉塞した蓋39が装着され、この蓋39の下面と下動時の係止体38の鍔部38bの上面との間のクリアランスが、球体37の直径よりもやや大きい程度に設定されると共に、下動時の係止体38の鍔部38bの上面周縁がケース33の底面よりわずかに上に位置するように設定されている。
【0022】そのため、地震の揺れを感じると、鍔部38bの上面にいずれかの球体37が載置可能になり、蓋39の下面と係止体38の鍔部38bの上面との間に球体37が嵌まり込んで挟持され、これによって係止体38の動きが上動不能に阻止される。尚、蓋39の下面ほぼ中央部には突起が形成され、この突起の存在により、各球体37は隣接する移動スペース34に侵入することができないようになっている。このように、各球体37は、地震の揺れによって動作して係止体38の動きを上動不能に阻止する阻止手段として機能する。
【0023】41は樹脂から成り左端部がねじ等により開き戸32に固着された支持体、42は支持体41の右端部に形成され右側に開き戸32の閉塞方向に向かう登り傾斜面42aを有し左側には垂直面42bを有する係止部、43は弾性片であり、図1、図3に示されるように、支持体41のほぼ中央にほぼ45゜屹立した状態で一体的に形成され、係止部42の手前に配置され、先端部分が係止体38の重量より大なる上向きの弾性力を有する。
【0024】このとき、支持体41、係止部42及び弾性片43が規制手段として機能し、地震の揺れがないときには、その弾性力によって、弾性片43は開き戸32の開放方向に向かう登り傾斜面43aを形成するため、開き戸32を開く際に係止体38がこの傾斜面43aを摺接しつつ弾性片38及び係止部42を乗り越え、揺れがあるときには、開き戸32が開こうとすると、球体37の介入によって上動不能に動きが阻止された係止体38により、弾性片43が押し下げられ、係止体38の下端部が係止部42の左側の垂直面42bに当接して開き戸32の開放度が若干開く程度に規制される。」(公開特許公報第3頁第4欄〜第4頁第5欄参照)
(ニ)「【0025】次に動作について説明すると、平常時には、係止体38の上動が阻止されることはないため、開き戸32の開放に伴い、弾性片43の傾斜面43aに沿って係止体38が上動すると共に、開き戸43の閉塞に伴い、係止部42の傾斜面42aに沿って係止体38が上動し、開き戸32は自由に開閉することができる。
【0026】一方、地震時には、揺れによって各球体37のうち少なくともひとつが係止体38の鍔部38b上面に載置することにより、蓋39の下面と係止体38の鍔部38bの上面との間に球体37が嵌まり込んで挟持され(図1中の1点鎖線及び2点差線)、これによって係止体38の上動が阻止され、係止体38の下端が弾性片43を押し下げながら係止部42の垂直面42bに当接可能な状態になり、開き戸32の開放度が若干開く程度に規制される。
【0027】そして、地震が終われば、係止体38の鍔部38bの上面に載っていた球体37が移動スペース34側へ転動するため、係止体38の動きの規制が自動的に解除され、弾性片43がその弾性力によって先端が元の状態に起き上がり、特別な解除動作を行わなくても平常時と同じ状態に復帰する。」(公報第4頁第5,6欄参照)
(ホ)「【0033】更に、規制手段は、上記したように支持体41、係止部42及び弾性片43により構成されるものに限定されず、要するに、開き戸32に支持され、開き戸32の開閉に際して係止体38の動きが上動不能に阻止されたときにのみ、係止体38が係止可能な状態になって開き戸32の開放度を若干開く程度に規制し得るような構成であればよい。
【0034】また、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。」(公開特許公報第4頁第6欄〜第5頁第7欄参照)
(ヘ)「【0035】
【発明の効果】以上のように、請求項1に記載の発明によれば、係止体の上動が阻止されたときに、係止体は規制手段に係止可能になればよく、係止体の上下方向への移動量はわずかであってもよいため、装置の小型化、薄型化が可能になり、開き戸にガラスが嵌め込まれた場合でもガラス越しに閉止装置が見えにくくなり、見栄えの非常に良好な収納装置を提供することが可能になる。
【0036】更に、地震時に係止体の動きが阻止されたときのみ規制手段に係止体が係止可能な状態になるため、地震の最中は阻止手段により係止体の上動が継続的に阻止され、地震が終了すれば阻止手段により係止体の上動が阻止されることはないため、地震終了後における従来のような解除動作が不要で、しかも地震中の開き戸の開放を確実に阻止することができ、信頼性の優れた使いやすい収納装置を得ることができる。」(公開特許公報第5頁第7欄参照)

上記記載事項並びに図面の図示内容を総合すると、先願明細書には、次の発明(以下、「先願発明」という。)が記載されているものと認められる。
(先願発明)
「家具、吊り戸棚等の開き戸付き収納装置に設けられ、地震時に開き戸の開放を規制する開き戸の閉止装置であって、前記収納装置本体に上下動可能に設けられた係止体と、地震の揺れによって動作して前記係止体の動きを上動不能に阻止する阻止手段(球体37)と、前記開き戸に支持され前記開き戸の開閉に際して前記係止体の動きが阻止されたときにのみ前記係止体が係止可能な状態になって前記開き戸の開放度を若干開く程度に規制する規制手段とを備えている開き戸の閉止装置を用いた地震時に開き戸の開放を規制する方法。」

(ii)対比・判断
(はじめに)
上述したように、本願の請求項1の記載は極めて抽象的な表現を用いて記載されているためにその意味が理解しがたいので、直ちには対比・判断することができない。
ところで、特許法第29条1項及び2項所定の特許要件、すなわち、特許出願に係る発明の新規性及び進歩性について審理するに当たっては、この発明を同条1項各号所定の発明と対比する前提として、特許出願に係る発明の要旨が認定されなければならないところ、この要旨認定は、特段の事情のない限り、願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきであるが、特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか、あるいは、一見してその記載が誤記であることが明細書の発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなどの特段の事情がある場合に限っては明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することが許されるといえる。
そこで、上記と同様の新規性の審理といえる本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)と先願発明との対比・判断に当たっては、本願明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌して、以下検討することとする。

本願の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項の技術的意義につき、明細書における発明の詳細な説明には、次の記載がある。
(イ)「【0003】【発明が解決しようとする課題】
本発明は以上の従来の課題を解決し地震時に係止体が扉等の戻る動きとは独立して動くことにより扉等の戻る動きで解除されず地震時にロック位置に到って振動し又はロック位置を保持する構成にすることにより解除機構を単純に出来る扉等の地震時ロック方法及び該方法を用いた地震対策付き棚の提供を目的とする。」
(ロ)「【0011】
・・・・・・・・・・・
すなわち開き戸(91)の重量と予想される地震の加速度の両者から係止部(2e)(5a)の(係止保持力)(係止解除力でもある)を設定しておくことにより予想される範囲の地震においては地震が終了するまで係止状態が保持される。
【0012】
地震が終わると使用者は隙間を有してロックされている図5の開き戸(91)を係止保持力以上の力で押す。
これにより係止状態が解除され図5の状態から図1に示す様に係止体(2)の係止部(2e)は下降し開き戸(91)の開閉は自由になる。
ここで球(9)については地震が終わると係止状態の解除と関係なく装置本体(1)の振動エリアAの床面の傾斜により中央後端の安定位置に戻る。以上で明らかな通り図1乃至図5の扉等の地震時ロック方法は棚の本体(90)側に取り付けられた装置本体(1)の係止体(2)が地震時に扉等の開く動きを停止させる位置であるロック位置へと動き、前記係止体(2)は扉等の戻る動きとは独立して動くことにより扉等の戻る動きで解除されず地震時にロック位置に到って振動し又はロック位置を保持し、地震のゆれがなくなることにより扉等の戻る動きと関係なく前記係止体(2)は待機位置へと戻る扉等の地震時ロック方法である。
そして図示のものは地震時に装置本体(1)の係止体(2)が扉等の係止具(5)に係止し扉等のばたつきのほとんどないロック状態となる扉等の地震時ロック方法であった。」(注;下線は当審が付記した。)
(ハ)「【0017】
・・・・・・・・・・・・
すなわち段(6c)における係止保持力(係止解除力でもある)以下であれば開き戸(91)は地震のゆれの戻りから受ける力によっては解除されない。
すなわち開き戸(91)が隙間を有した状態でロックされることは図1乃至図5の実施例のものと同様である。
地震が終わると使用者は隙間を有してロックされている図10及び図11の状態の開き戸(91)を係止保持力以上の力で押す。
これにより係止状態が解除され図10及び図11の状態から図6及び図7に示す様に係止体(6)は係止具(7)の絞り(7c)を通過し開口(7a)へと戻り開き戸(91)の開閉は自由になる。
一方球(9)については地震が終わると係止状態の解除と関係なく振動エリアAの床面の傾斜により後端室A9に戻る。
以上で明らかな通り図6乃至図11の扉等の地震時ロック方法は棚の本体(90)側に取り付けられた装置本体(1)の係止体(6)が地震時に扉等の開く動きを許容しない状態になり、前記係止体(6)は扉等の戻る動きとは独立し扉等の戻る動きで解除されず地震時に扉等の開く動きを許容しない状態を保持し、地震のゆれがなくなることにより扉等の戻る動きと関係なく前記係止体(6)は扉等の開く動きを許容して動き可能な状態になる扉等の地震時ロック方法である。
【0018】
そして図示のものは地震時に装置本体(1)の係止体(6)が扉等の係止具(7)に係止し扉等のばたつきのほとんどないロック状態となる扉等の地震時ロック方法であった。すなわち図1乃至図11の扉等の地震時ロック方法に共通することは地震時に装置本体(1)の係止体(2)(6)が扉等の係止具(5)(7)に係止し扉等のばたつきのほとんどないロック状態となることであった。」(注;下線は当審が付記した。)
(ニ)「【0018】
・・・・・・・・・・・・・・
以上の地震時ロック方法のいずれかに適用が可能な振動エリアAの他の実施例(但しこれに限るものではない)を図12乃至図17に示す。…(中略)…次に図18及び図19の実施例は図6乃至図11に示したものと比較し地震時に扉等がばたつくロック状態となる扉等の地震時ロック方法であることを特徴とする。
すなわち係止体(6)の係止部(6b)は扉等の係止具(7)に係止することなく単に停止されるものであり地震時に扉等がばたつくロック状態となる。
【0020】
次に図20の実施例は図1乃至図5に示したものと比較し地震時に扉等がばたつくロック状態となる扉等の地震時ロック方法であることを特徴とする。
すなわち係止体(2)の係止部(2e)は扉等の係止具(5)の係止部(5a)に係止することなく単に停止されるものであり地震時に扉等がばたつくロック状態となる。」(注;下線は当審が付記した。)

上記記載事項からすると、本願明細書に記載された実施例の内、図1乃至図11の扉等の地震時ロック方法は、「地震時に装置本体(1)の係止体(6)が扉等の係止具(7)に係止し扉等のばたつきのほとんどないロック状態となる扉等の地震時ロック方法」(上記(ii)の(ハ)参照)であって、いいかえれば、正確には本願発明の実施例ではなく参考例ないし比較例であり、他方、「図18及び図19の実施例は図6乃至図11に示したものと比較し地震時に扉等がばたつくロック状態となる扉等の地震時ロック方法である」及び「図20の実施例は図1乃至図5に示したものと比較し地震時に扉等がばたつくロック状態となる扉等の地震時ロック方法である」(上記(ii)の(ニ)参照)という記載から見て、図18及び図19並びに図20の実施例が本願発明の実施例に相当するものであることが明らかである。
そうすると、上記(a)の状態であるところの本願発明における「地震時に該扉等をばたつくロック状態」とは、上記の図18及び図19並びに図20の実施例におけるような(装置本体(1)の)「係止体(6)の係止部(6b)は扉等の係止具(7)に係止することなく単に停止されるものであ」る、又は(装置本体(1)の)「係止体(2)の係止部(2e)は扉等の係止具(5)の係止部(5a)に係止することなく単に停止されるものであ」るところの扉等のロック状態を意味したものと一応解することができ、これと同様に、上記(b)の状態であるところの本願発明における扉等が閉じられた状態からわずかに開かれるまで当たらない「係止体が地震時に扉等の開く動きを許容しない状態」とは、上記「係止体(6)の係止部(6b)」が「扉等の係止具(7)」に、又は「係止体(2)の係止部(2e)」が「扉等の係止具(5)」に、停止されることにより地震時に扉等の開く動きを許容しない状態を意味したもの、すなわち、上記(a)の状態と同義の状態を意味したものと一応解することができる。

ところが、上記(c)の状態における「扉等の戻る動きとは独立し」及び上記(d)の状態における「扉等の戻る動きと関係なく」については、上記本願発明の実施例である図18及び図19並びに図20の実施例に関して、対応する記載が見あたらない。
そこで、本願明細書における上述の参考例ないし比較例に関する記載を見ると、図20の実施例に対応すると思われるところの実施例につき、「図1乃至図5の扉等の地震時ロック方法は棚の本体(90)側に取り付けられた装置本体(1)の係止体(2)が地震時に扉等の開く動きを停止させる位置であるロック位置へと動き、前記係止体(2)は扉等の戻る動きとは独立して動くことにより扉等の戻る動きで解除されず」(上記(ii)の(ロ)参照)との記載があり、また、図18及び図19の実施例に対応すると思われるところの実施例につき、「図6乃至図11の扉等の地震時ロック方法は棚の本体(90)側に取り付けられた装置本体(1)の係止体(6)が地震時に扉等の開く動きを許容しない状態になり、前記係止体(6)は扉等の戻る動きとは独立し扉等の戻る動きで解除されず」(上記(ii)の(ハ)参照)との記載がある(注;下線は当審が付記した)。
上記記載事項によれば、図1乃至図5の実施例については「前記係止体(2)は扉等の戻る動きとは独立して動くことにより扉等の戻る動きで解除されず」と説示されているのに対して、図6乃至図11の実施例については「前記係止体(6)は扉等の戻る動きとは独立し扉等の戻る動きで解除されず」と説示されているのであるから、上記(c)の「扉等の戻る動きとは独立し扉等の戻る動きで解除されず」と記載された点は、これと同じ表現を用いて説示されているところの後者(図6乃至図11の実施例)のものを意味したものと一応解することができる。
(仮に、後者における「扉等の戻る動きとは独立し扉等の戻る動きで解除されず」と記載した点が、前者と同じ「扉等の戻る動きとは独立して動くことにより扉等の戻る動きで解除されず」の誤記であるとした場合は、特許請求の範囲の記載に誤記があるという記載不備があることになるし、また、図6乃至図11の実施例のものが、地震時に扉等の開く動きを許容しない状態となるのに、係止体(6)が扉等の戻る動きとは独立して動くことにより、いいかえれば、(扉等の戻る動きとは独立した働きであるところの)地震のゆれにより移動した球(9)によって係止体(6)が動かされることにより、その結果として、係止体(6)が扉等の戻る動きとは独立して動き、扉等の開く動きを許容しない位置へ移動するようなものでないことも、当該実施例の、例えば、「すなわち通常の使用状態においては図6及び図7に示す様に係止体(6)はその軸(6e)を中心に前部(6a)が自重で下降した状態になっている。開き戸(91)はこの状態で開閉されるが係止体(6)の係止部(6b)の前面は係斜しているため係止具(7)が進入し当たると軸(6e)を中心として係止体(6)の係止部(6b)は上昇する。」(明細書【0014】参照。注;下線は当審が付記した。「係斜」は、「傾斜」の誤記と認める。)という記載から、係止体は、地震のゆれのない通常の状態で既に前部(6a)が下降した状態にある、すなわち、扉等の開く動きを許容しない位置と同じ位置にあることからも(係止体(6)が扉等の戻る動きとは独立して動くことにより地震時に扉等の開く動きを許容しない状態となるものでないことが)明らかであって、そのような誤記があるともいえない。)
そうすると、上記(c)の「前記係止体は扉等の戻る動きとは独立し」「地震時に扉等の開く動きを許容しない状態」とは、図6乃至図11の実施例に示されるように、係止体(6)が、地震時において、扉等の戻る動きとは無関係に、扉等の開く動きを停止させる位置であるロック位置に保持されていることを単に意味したものと一応解されるし、また、同上(c)の「扉等の戻る動きで解除されず地震時に扉等の開く動きを許容しない状態」とは、係止体(6)が、上述した扉等の開く動きを停止させる位置であるロック位置へ保持された状態が、扉等の戻る動きでは解除されないものであることを単に意味したものと一応解することができる(ちなみに、上記のように理解した点は、原出願の拒絶査定不服の審判事件(不服2003-23254)における平成16年11月14日付の回答書において、請求人が、本件発明は、図18及び図19の実施例に対応するものであって、上述の図6及び図7の実施例の構成から「係止体が扉等(の係止具)に係止」する構造のみを除去して得られるものである旨を回答していることとも整合する)。
以上のことから、上記(c)の状態であるところの本願発明における「前記係止体は扉等の戻る動きとは独立し扉等の戻る動きで解除されず地震時に扉等の開く動きを許容しない状態」とは、係止体(6)が、地震時において、扉等の戻る動きとは無関係に、扉等の開く動きを停止させる位置であるロック位置に保持されており、当該保持された状態が扉等の戻る動きでは解除されないものであることを意味したものと一応解することができる。

同様に、上述の参考例ないし比較例に関する記載を見ると、「ここで球(9)については地震が終わると係止状態の解除と関係なく装置本体(1)の振動エリアAの床面の傾斜により中央後端の安定位置に戻る。」、「地震のゆれがなくなることにより扉等の戻る動きと関係なく前記係止体(2)は待機位置へと戻る」との記載(上記(ii)の(ロ)参照)が、また、「一方球(9)については地震が終わると係止状態の解除と関係なく振動エリアAの床面の傾斜により後端室A9に戻る。」、「地震のゆれがなくなることにより扉等の戻る動きと関係なく前記係止体(6)は扉等の開く動きを許容して動き可能な状態になる」との記載(上記(ii)の(ハ)参照)がある。
そうすると、上記(d)の状態であるところの本願発明における「地震のゆれがなくなることにより扉等の戻る動きと関係なく前記係止体は扉等の開く動きを許容して動き可能な状態」とは、地震が終わると球(9)が装置本体(1)の振動エリアAの床面の傾斜により中央後端の安定位置ないし後端室A9に戻ることになるので、地震のゆれがなくなることにより、扉等の戻る動きと関係なく、いいかえれば、球(9)が安定位置に戻る動きにより、係止体が待機位置(すなわち、扉等の開く動きを許容する位置)へと戻ることが可能となる状態を意味したものと一応解することができる。

(1)本願発明について
上記したところの本願明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌した理解に基づいて、以下、本願発明と先願発明とを対比することとする。

本願発明と先願発明とを対比すると、その機能ないし構造から見て、先願発明の「吊り戸棚等の」「収納装置」ないし「収納装置本体」は本願発明の「棚本体」に、先願発明の「開き戸」は本願発明の「扉等」に、先願発明の「収納装置本体に上下動可能に設けられた係止体」は本願発明の「棚本体側に取り付けられた装置本体の」「係止体」に、先願発明の「規制手段」は本願発明の「係止具」に、それぞれ相当するといえる。

そして、上記検討したように、本願発明における「地震時に該扉等をばたつくロック状態」(上記(a)の状態)は、(装置本体(1)の)「係止体(6)の係止部(6b)は扉等の係止具(7)に係止することなく単に停止されるものであ」る、又は(装置本体(1)の)「係止体(2)の係止部(2e)は扉等の係止具(5)の係止部(5a)に係止することなく単に停止されるものであ」るところの扉等のロック状態を意味したものと一応解することができる。
他方、先願発明の「地震の揺れによって」「前記開き戸の開放度を若干開く程度に規制する」ところの「地震時に開き戸の開放を規制する方法」は、先願明細書に「【0026】一方、地震時には、揺れによって各球体37のうち少なくともひとつが係止体38の鍔部38b上面に載置することにより、蓋39の下面と係止体38の鍔部38bの上面との間に球体37が嵌まり込んで挟持され(図1中の1点鎖線及び2点差線)、これによって係止体38の上動が阻止され、係止体38の下端が弾性片43を押し下げながら係止部42の垂直面42bに当接可能な状態になり、開き戸32の開放度が若干開く程度に規制される。」(上記(i)の(ニ)参照)との記載があることから、地震時に、「係止体38」(の下端)が、係止部42の垂直面42bに当接可能な状態になり、いいかえれば、係止部42に停止されることにより、開き戸32の開放度が若干開く程度に規制されるものであることが明らかである。
そうすると、先願発明の「地震の揺れによって」「前記開き戸の開放度を若干開く程度に規制する」ところの「地震時に開き戸の開放を規制する方法」は、本願発明の「地震時に該扉等をばたつくロック状態」となる「ロック方法」に相当するといえる。

同様に、同上検討したように、本願発明における「前記係止体が地震時に扉等の開く動きを許容しない状態」(上記(b)の状態)は、上記「係止体(6)の係止部(6b)」が「扉等の係止具(7)」に、又は「係止体(2)の係止部(2e)」が「扉等の係止具(5)」に、停止されることにより地震時に扉等の開く動きを許容しない状態を意味したもの、すなわち、上記(a)の状態と同義の状態を意味したものと一応解することができるから、先願発明の「係止体38」(の下端)が、係止部42の垂直面42bに当接可能な状態になり、いいかえれば、係止部42に停止されることにより、開き戸32の開放度が若干開く程度に規制される状態、いいかえれば、先願発明の「前記開き戸に支持され前記開き戸の開閉に際して前記係止体の動きが阻止されたときにのみ前記係止体が係止可能な状態になって前記開き戸の開放度を若干開く程度に規制する」状態に相当するということができる。

また、同上検討したように、上記(c)の状態であるところの本願発明における「前記係止体は扉等の戻る動きとは独立し扉等の戻る動きで解除されず地震時に扉等の開く動きを許容しない状態」とは、係止体(6)が、地震時において、扉等の戻る動きとは無関係に、扉等の開く動きを停止させる位置であるロック位置に保持されており、当該保持された状態が扉等の戻る動きでは解除されないものであることを意味したものと一応解することができる。
他方、先願発明の「前記開き戸に支持され前記開き戸の開閉に際して前記係止体の動きが阻止されたときにのみ前記係止体が係止可能な状態になって前記開き戸の開放度を若干開く程度に規制する規制手段」は、先願明細書に「【0036】更に、地震時に係止体の動きが阻止されたときのみ規制手段に係止体が係止可能な状態になるため、地震の最中は阻止手段により係止体の上動が継続的に阻止され、地震が終了すれば阻止手段により係止体の上動が阻止されることはないため、地震終了後における従来のような解除動作が不要で、しかも地震中の開き戸の開放を確実に阻止することができ、…」(上記(i)の(ヘ)参照)及び「【0027】そして、地震が終われば、係止体38の鍔部38bの上面に載っていた球体37が移動スペース34側へ転動するため、係止体38の動きの規制が自動的に解除され、弾性片43がその弾性力によって先端が元の状態に起き上がり、特別な解除動作を行わなくても平常時と同じ状態に復帰する。」(上記(i)の(ニ)参照)と記載されていることから、地震終了後における特別な解除動作が不要であるとともに、地震が終了することにより自動的に阻止手段による係止体の上動の阻止が解除される、いいかえれば、当該解除が開き戸の戻る動きで解除されるものでないことが明らかである。
そうすると、先願発明の「前記開き戸に支持され前記開き戸の開閉に際して前記係止体の動きが阻止されたときにのみ前記係止体が係止可能な状態になって前記開き戸の開放度を若干開く程度に規制する」状態は、本願発明における「前記係止体は扉等の戻る動きとは独立し扉等の戻る動きで解除されず地震時に扉等の開く動きを許容しない状態」に実質的に相当するということができる。

さらに、同上検討したように、上記(d)の状態であるところの本願発明における「地震のゆれがなくなることにより扉等の戻る動きと関係なく前記係止体は扉等の開く動きを許容して動き可能な状態」とは、地震が終わると球(9)が装置本体(1)の振動エリアAの床面の傾斜により中央後端の安定位置ないし後端室A9に戻ることになるので、地震のゆれがなくなることにより、扉等の戻る動きと関係なく、いいかえれば、球(9)が安定位置に戻る動きにより、係止体が待機位置(すなわち、扉等の開く動きを許容する位置)へと戻ることが可能となる状態を意味したものと一応解することができる。
他方、先願発明の「前記収納装置本体に上下動可能に設けられた係止体と、地震の揺れによって動作して前記係止体の動きを上動不能に阻止する阻止手段(球体37)」は、先願明細書に、同上「【0027】そして、地震が終われば、係止体38の鍔部38bの上面に載っていた球体37が移動スペース34側へ転動するため、係止体38の動きの規制が自動的に解除され、弾性片43がその弾性力によって先端が元の状態に起き上がり、特別な解除動作を行わなくても平常時と同じ状態に復帰する。」及び「【0025】次に動作について説明すると、平常時には、係止体38の上動が阻止されることはないため、…(中略)…開き戸32は自由に開閉することができる」との記載(上記(i)の(ニ)参照)があることから、地震のゆれがなくなることにより、球体37が移動スペース34側へ転動する動きにより、平常時と同じ状態に復帰する、いいかえれば、係止体38が開き戸を開く動きを許容する位置へと戻ることが可能となる状態を実現するものであることが明らかである。
そうすると、先願発明の「前記収納装置本体に上下動可能に設けられた係止体と、地震の揺れによって動作して前記係止体の動きを上動不能に阻止する阻止手段(球体37)」とを用いて、「前記係止体の動きが阻止されたときにのみ前記係止体が係止可能な状態になって前記開き戸の開放度を若干開く程度に規制する」点は、本願発明の「扉等の戻る動きで解除されず地震時に扉等の開く動きを許容しない状態を保持し、地震のゆれがなくなることにより扉等の戻る動きと関係なく前記係止体は扉等の開く動きを許容して動き可能な状態になる」点に実質的に相当するといえる。

以上のことから、両者は、
「棚本体側に取り付けられた装置本体に設けられる係止体であってわずかに開かれるまで扉等の係止具に当たらない係止体が地震時に該扉等をばたつくロック状態にするロック方法において、前記係止体が地震時に扉等の開く動きを許容しない状態になり、前記係止体は扉等の戻る動きとは独立し扉等の戻る動きで解除されず地震時に扉等の開く動きを許容しない状態を保持し、地震のゆれがなくなることにより扉等の戻る動きと関係なく前記係止体は扉等の開く動きを許容して動き可能な状態になる扉等の地震時ロック方法」である点で一致し、以下の点で一応相違する。
(相違点)
1.係止体が、本願発明では軸で回動するものであるのに対して、先願発明では上下動するものであって、軸で回動するものではない点。

上記相違点1について検討する。
ところで、棚本体側に取り付けられた装置本体に設けられる係止体を軸で回動させたものとすることは、例えば、本願の原出願の平成15年3月19日付の刊行物提出書において刊行物6として提出された特開平10-317772号公報等にも開示されているように本願出願前において周知の技術である。
このように、装置本体に設けられる係止体を軸で回動させたものが、出願時において当業者にとって周知の技術であることを考慮すれば、先願明細書に接した当業者にとって、上記相違点1に係る本願発明の構成は、記載されているに等しい事項であるといえる。
したがって、本願発明は、先願明細書に記載された発明と実質的に同一であるといわざるを得ない。

5.むすび

以上検討したとおり、本願は、その特許請求の範囲に特許を受けようとする発明が明確に記載されているということができず、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないものであり、また、本願発明の構成につき、その明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌して検討してみると、本願発明が、本願の出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公開がされた先の特許出願である先願明細書に記載された発明と実質的に同一であるということができ、しかも、本願発明の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をしたものと同一ではなく、また本願発明の出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、本願は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであるから、本願の他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-06-13 
結審通知日 2006-06-20 
審決日 2006-07-03 
出願番号 特願2003-70977(P2003-70977)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (E05C)
P 1 8・ 16- Z (E05C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 富士 春奈鈴木 秀幹  
特許庁審判長 大元 修二
特許庁審判官 柴田 和雄
西田 秀彦
発明の名称 地震時ロック方法及び地震対策付き棚  

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