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審決分類 審判 一部無効 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 無効とする。(申立て全部成立) G01B
審判 一部無効 2項進歩性 無効とする。(申立て全部成立) G01B
審判 一部無効 特36 条4項詳細な説明の記載不備 無効とする。(申立て全部成立) G01B
管理番号 1142241
審判番号 無効2002-35489  
総通号数 82 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1995-02-10 
種別 無効の審決 
審判請求日 2002-11-12 
確定日 2006-08-14 
事件の表示 上記当事者間の特許第3179254号「接近樹木離隔検出装置」の特許無効審判事件についてされた平成17年 4月19日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の判決(平成17年(行ケ)第10507号及び平成17年(行ケ)第10652号 平成18年 4月12日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 特許第3179254号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1.本件手続の経緯の概要
本件特許第3179254号についての手続の経緯の概要は、以下のとおりである。
平成 5年 8月 3日 特許出願
平成13年 4月13日 特許権の設定登録
平成14年11月13日 特許無効審判の請求
平成15年 3月24日 訂正請求
平成15年 6月 3日 参加申請
平成16年 1月 7日「訂正を認める。特許第3179254号の請求項1に記載された発明についての特許を無効とする。」との審決
平成16年 2月16日 被請求人より上記審決の取消を求める訴えを提起
(平成16年(行ケ)第59号)
平成16年 4月30日 被請求人より訂正審判の請求
(訂正2004-39085号)
平成16年 7月15日 訂正2004-39085号について、「特許第3179254号に係る明細書を本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおり訂正することを認める。」との審決
平成16年 9月28日 平成16年(行ケ)第59号について、「特許 庁が無効2002-35489号事件について平成16年1月7日にした審決中,特許第3179254号の請求項1に記載された発明についての特許を無効とするとの部分を取り消す。」との判決の言渡
平成17年 3月11日 平成15年3月24日付け訂正請求の取下げ
平成17年 4月19日「本件審判の請求は成り立たない。」との審決
平成17年 5月30日 請求人より上記審決の取消を求める訴えを提起
(平成17年(行ケ)第10507号)
平成17年 8月25日 参加人より上記審決の取消を求める訴えを提起
(平成17年(行ケ)第10652号)
平成18年 4月12日 平成17年(行ケ)第10507号及び同第10652号について、「特許庁が無効2002-35489号事件について平成17年4月19日にした審決を取り消す。」との判決の言渡


第2.本件発明
本件特許第3179254号の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という)は、平成16年7月15日付け審決で訂正が認められた特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】 測距光軸を走査する機能を有し、スキャナによるレーザ測距光軸の振れ角をθ、1フレーム当たりのデータ数をDとしたとき、走査するレーザビームをθ/D以上の広がり角で照射することにより、前記レーザ測距光軸の走査軌跡に沿って抜けなく前記レーザビームを照射するレーザ測距装置部と、前記レーザ測距装置部から出力される距離データ、及び走査光学系のスキャン角度データを記録する記録部と、前記レーザ測距装置部及び前記記録部を制御する制御部と、前記記録部によって記録された距離データ、スキャン角度データを処理し、送電線と前記送電線に接近する障害物間の離隔距離データを出力するデータ処理解析部とを有し、前記レーザ測距装置、記録部、制御部をヘリコプターに搭載し、前記ヘリコプターの機軸方向を含め互いに直交する3軸方向についての前記ヘリコプターの平行運動データ及び前記3軸を中心とした回転運動データを取得するためのジャイロ加速度計部を有し、前記レーザ測距光軸を前記ヘリコプターの機軸に垂直な面内で走査しながら、前記振れ角と前記ヘリコプターの飛行経路によって作られる面内を前記広がり角に相当する面分解能で前記レーザビームを照射することにより取得され、前記データ処理解析部において処理される前記距離データ及びスキャン角度データを、該距離データ及びスキャン角度データの取得と並行して取得される前記平行運動データ及び回転運動データで補正することにより、前記フレームをつなぎ合わせて前記送電線下の状況の3次元画像を作成し、前後のフレームも含めて送電線のある点からの最接近位置を検出できるようにしたことを特徴とする接近樹木離隔検出装置。」


第3.請求人の主張の概要
請求人は、甲第1号証ないし甲第10号証並びに参考文献1および2を証拠方法として提出するとともに、次の無効理由1及び2により、特許第3179254号の請求項1に係る発明の特許は、特許法第123条第1項第2号又は4号により無効とすべきである旨主張している。

無効理由1.
1A.上記訂正前の本件特許の請求項1に係る発明は、甲第1号証、甲第2号証及び甲第4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
1B.訂正された請求項1に係る発明(本件発明)は、甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証及び甲第5号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものである
1C.本件発明は、甲第5号証、甲第2号証、参考文献1及び参考文献2に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものである。
1D.本件発明は、甲第2号証,甲第4号証,甲第5号証に記載された発明及び周知慣用技術に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものである

無効理由2.
2A.本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件特許の請求項1に係る発明の「ジャイロ加速度計部」で取得した平行運動データをどう利用するかが説明されていないので、本件特許公報の明細書の発明の詳細な説明の欄には、当業者がその実施をすることができる程度に、本件の請求項1に係る発明の目的、構成及び効果が記載されておらず、かつ、本件の請求項1に係る発明は、明細書の発明の詳細な説明に記載したものでないので、本件の請求項1に係る発明の特許は、特許法第36条第4項及び第5項第1号に違反している。
2B.訂正により請求項1に追加された「前記データ処理解析部において処理される測定点の位置を前記平行運動データ及び回転運動データにより補正する」ことについて、具体的にどのように補正するかが訂正後の明細書の発明の詳細な説明の欄に、当業者がその実施をすることができる程度に記載されておらず、発明の詳細な説明に記載されない事項を特許請求の範囲にするものである。
2C.本件明細書の記載において、「各フレームをつなぎ合わせて」は、その内容が明確ではなく、「前後のフレームを含めて」と限定することの技術的意義が不明であり、また「送電線のある点からの最接近位置」の「ある点」及び「最接近位置」は、意味不明である。

<甲各号証等>
・甲第1号証:J.Lindenberger,"AIRBORNE LASER PROFILING FOR COASTAL SURVEYS ‐ the project zeeland l990", pp.149-158, Nov.12th-15th, 1991 (K.Linkwitz / U.Hangleiter, "HIGH PRECISION NAVIGATION 91", Proceedings of the 2nd Internationa1 Workshop on High Precision Navigation, Stuttgart and Freudenstadt, Germany, November l991)
・甲第2号証:「ヘリ搭載・レーザによる離隔測定システムの研究」、中部電力株式会社発行、技術開発ニュース、No.56、pp.5-6,1993.4
・甲第3号証:特開平5-133723号公報
・甲第4号証:J.Lindenberger, "METHODS AND RESULTS OF HIGH PRECISION AIRBORNE LASER PROFILING", PROCEEDINGS OF THE 43rd PHOTOGRAMMETRIC WEEK AT STUTTGART UNIVERSITY September 9th to 14th, l991, vol.15, pp.83-92, Stuttgart, 1991
・甲第5号証:J.Lindenberger, "TEST RESULTS OF LASER PROFILING FOR TOPOGRAPHIC TERRAIN SURVEY", PROCEEDINGS OF THE 42nd PHOTOGRAMMETRIC WEEK AT STUTTGART UNIVERSITY September 11th to 16th, l989, vol.13, pp.25-39, Stuttgart, 1989
・甲第6号証:田島 奏「航空計器概論」、社団法人日本航空整備協会、航空工学講座第16巻、昭和51年3月10日発行、254頁〜277頁
・甲第7号証:「航空用語辞典」増補新版、鳳文書林出版販売株式会社、pp.125一126,1986年9月30日発行
・甲第8号証:K.P.Schwarz,"INERTIAL TECHNIQUES IN GEODESY ‐STATE OF THE ART AND TRENDS", pp.423-440, Nov.12th-15th, 1991 (K.Linkwitz / U.Hangleiter, "HIGH PRECISION NAVIGATION 91", Proceedings of the 2nd Internationa1 Workshop on High Precision Navigation, Stuttgart and Freudenstadt, Germany, November l991)
・甲第9号証:Ross Nelson, William Krabill, John Tonelli, "Estimating Forest Biomass and Volume Using Airborne Laser Data", Remote Sensing of Environment Vol.24, pp.247-267 (1988)
・甲第10号証:竹内延夫、「レーザレーダの原理と特徴」、株式会社情報調査会発行、「センサ技術」、1984年5月号、pp.18-21
・参考文献1:米国特許第4326799号明細書(1982)
・参考文献2:K.Ove.Steinvall, "Experimental evaluation of an airborne depth-sounding lidar", Optical Engineering Vol.32 No.6 June 1993, pp.1307〜1321


第4.参加人の主張の概要
参加人は、本件発明は、甲第2号証、甲第5号証及び甲第8号証に記載された発明に基づき、あるいは、甲第2号証に記載された発明及び周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであると主張している。


第5.被請求人の主張の概要
被請求人は、本件発明は、甲各号証等に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、また、本件特許明細書には、当業者がその実施をすることができる程度に、本件発明の目的、構成及び効果が記載されており、かつ、本件発明は、明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであると主張している。


第6.甲号各証及び参考文献の記載事項
1.甲第1号証:J.Lindenberger,"AIRBORNE LASER PROFILING FOR COASTAL SURVEYS ‐ the project zeeland l990", pp.149-158, Nov.12th-15th, 1991 (K.Linkwitz / U.Hangleiter, "HIGH PRECISION NAVIGATION 91", Proceedings of the 2nd Internationa1 Workshop on High Precision Navigation, Stuttgart and Freudenstadt, Germany, November l991)
甲第1号証は、航空機によるレーザプロファイリングについて開示するものであって、図面とともに以下の事項が記載されている。
(1a)「On the other hand, in the scanning system the laser beam is sidewise deflected by a rotating mirror system, and along the flight path a strip is covered with laser points. The width of that strip depends on the scanning angle and the flying height. The survey of open area(i.e. area without forests or settlement like a coastal area) is suited very well for a scanning system. However, for the test flights in 1990, only a profiling system was available. But the fundamental results obtained with the profiling system can be transferred to a scanning system.(他方、スキャニングシステムでは、レーザービームは、回転ミラーシステムにより側方へ振られ、飛行路に沿ってストリップがレーザ点でカバーされ得る。このストリップ幅は、スキャン角度と航空機の対地高度に依存する。スキャニングシステムは、オープンな領域(例えば、海岸などのように樹木や建物などの障害がない領域)に非常に適している。但し、1990年のこの試験段階では、プロファイリングシステムのみが利用可能であった。しかし、プロファイリングシステムで得られた基本結果は、スキャニングシステムに移植できる。)」(150頁16〜26行)
(1b)表1には、航空機搭載地上プロファイルシステムに使用される各構成要素が列記されている。
(1c)「(3)The coordinates of the laser point on the ground are computed in the terrestrial reference system, for which the complete orientation(i.e. position and attitude) of laser beam must be known. Up to now the sensor orientation was most severe problem in the realization of any new airborne surveying system. The first experiments on laser profiling since the early 1970s were suffering of the weak sensor orientation. They were all in all not really successful, because of the poor accuracy of the sensor orientation and the high costs for involved efforts. Only since positioning by the NAVSTAR Global Positioning System(GPS) was applicable for high precision kinematic positioning in an aircraft, a solution of the sensor orientation became feasible. For the test flights a combination of an inertial navigation platform INS for attitude determination and GPS for positioning was applied. The positioning of aircraft GPS-antenna is calculated by processing of GPS phase observations. The relative kinematic positioning determines the aircraft positions in reference to a second stationary GPS-antenna on a known reference point. Two GPS receivers Sercel TR5S-B were applied for the test flights. These receivers are qualified for airborne positioning because of their measuring rate(every 0.6sec) and their high quality and reliability. There were never problems with cycle slips during the test flights. The main system components laser rangefinder, GPS for positioning and INS for attitude determination are integrated to the airborne laser profiling system controlled by an onboard computer. The central computer synchronizes the measurement processes and records the data on a digital tape.((3)地上のレーザー点の座標は、地上座標で計算されるが、そのためには、レーザービームの完全な定位(即ち、位置と方向)が知られなければならない。これまで、どんな新しい航空測量システムの実現においても、センサ定位が非常に厳しい問題であった。1970年代初期からのレーザプロファイリングの最初の実験は、低精度のセンサ定位にさらされてきた。これまで試されたシステムの全てという全てが、センサ定位の貧弱な精度とそのための努力に対する高コストによって、失敗を重ねてきた。飛行機の高精度の移動測位にNAVSTAR全地球測位システム(GPS)による測位が適用されたので、センサ定位の解決が可能になった。テスト飛行として、定位のための慣性航法プラットフォームINSと測位のためのGPSの組み合わせが適用された。航空機GPSアンテナの位置は、GPSの位相を観測しつづけることで計算される。相対的な移動測位を行うには、既知の基準点に固定された第2のGPSアンテナと比較して航空機位置を決定する。2つのGPS受信機Sercel TR5S-Bがテスト飛行のために適用された。これらの受信機は、その測定間隔(0.6秒毎)、品質の高さ、その信頼性により、航空機の位置測定に適している。試験飛行において、スリップサイクルの問題はほとんどなかった。メインシステム・コンポーネントレーザー測距装置、位置測定用GPSおよび姿勢決定用INSは、機上に搭載したコンピューターによって制御され、航空機レーザープロファイリングシステムに統合された。中央演算処理装置が測定プロセスとデジタルテープへのデータの記録を同期させる。)」(151頁1行〜152頁8行)
(1d)「First flights with a new developed scanning system are scheduled for the end of 1992.(1992年末までに、新たに開発するスキャニングシステムを使った初飛行が計画されている。)」(158頁3〜4行)

2.甲第2号証:「ヘリ搭載・レーザによる離隔測定システムの研究」、中部電力株式会社発行、技術開発ニュース、No.56、pp.5-6,1993.4
甲第2号証は、ヘリコプターに搭載したレーザによる離隔測定システムについて開示するものであって、図面とともに以下の事項が記載されている。
(2a)「送電線への接近樹木調査を効果的に実施するために、ヘリコプターからレーザ光を連続的に走査(スキャニング)しながら、瞬時に送電線と樹木の離隔を測定するシステム」(5頁左上欄2〜5行)
(2b)「2 パルス・レーザ測距儀を使ってヘリから測距
本システムは、従来の写真やビデオによる画像方式に対して、パルス・レーザ測距儀を用いた非画像方式で測定を行うことにその特徴を持ち、送電線路周辺の樹木を含めた地形断面情報を連続的かつ瞬時に得ることにより離隔の測定を行うものである。その概念図を第1図に示す。パルス・レーザ測距儀と、スキャニングサブシステム、映像撮影部、GPSによる位置表示サブシステム、離隔計算サブシステム等を有するシステムである。第2図に離隔測定するときのシステム原理を示す。」(5頁左下9行〜右下欄6行)
(2c) 第1図には、ヘリ搭載レーザ測距システムにより、送電線を横断するようにスキャニングする様子が示されている。
(2d)第2図には、パルス・レーザ測距儀のスキャニングにより測定された送電線までの距離A及び樹木までの距離Bと両者の間のスキャニング角度差αを用いて離隔xを求めることが示されている。
(2e)「4 ヘリによる基礎試験
地上からパルス・レーザにより送電線までの離隔測定を繰り返し行い、架空送電線を図形化することができたので、ヘリによる基礎試験を実施した。パルス・レーザを地上に向けてジャイロ架台から照射しながら、約10km/hの速度で送電線を横断測定した。第3図、第4図にその写真を、第5図にその試験の結果得られた地表断面図の一例を示す。測定精度は数10cmの誤差で計測でき、レーザパルス発射回数を増加する方向でシステム化にむけて将来に明るい見通しを得た。」(6頁左欄1〜11行)
(2f)第3図には、ジャイロ架台に組み込んだ側距儀の写真が示されている。
(2g)「5 今後の展開
今回の結果より、ヘリコプターから連続的に地上までの垂直距離を実測し、架空送電線の高さはもとより、地上樹木等の高低差を精度良く計測できる可能性を示せた。今後は本実験で得られた知見による問題点について検討を行い、また面的な情報を得るためのスキャニングシステム等の研究を進める予定である。」(6頁左欄12〜18行)

3.甲第3号証:特開平5-133723号公報
甲第3号証は、レーザを利用して架空線と電線直下近辺の物体までの離隔を測定するための装置について開示するものであって、図面とともに以下の事項が記載されている。
(3a)「【0009】【課題を解決するための手段】本発明のレ-ザを利用した離隔測定装置は、架空線Kと線下物体Fとの最短距離Rm を求めるために、架空線と線下物体が見通せる位置Dから、架空線K又は線下物体Fの対象点Tに向けてパルスレ-ザ光を発射し、発射方向から対象点の水平角度φ、垂直角度θを求め、対象点Tからのレ-ザ反射光の往復時間から対象点Tまでの距離Lを求める装置であって、レ-ザ光を対象点Tに当てるためのコリメ-タレンズの表面反射光を出射パルス光とすることで、対象点Tを照準する望遠鏡とレ-ザ光の光軸に視差がなくかつ同一の受光素子で出射パルス光と反射パルス光を検出する構成と出射パルス光と反射パルス光の信号を微分する微分回路を持った構成を特徴とする。」
(3b)「【0029】これで距離Lが分かったことになる。次に絶対座標空間に於ける方位を求める。これは既に述べたように望遠鏡6によって対象物体を見ているのであるから、このときの水平角度φと、垂直角度θは望遠鏡6の向きから直ちに分かる。3次元極座標系での物体の位置がこれによって分かることになる。垂直角度の取り方は、地平からの立ち上がり角としてもよいし、天頂からの立ち下がりとしてもよい。これを3次元直交座標に直すのは簡単である。θは地平からの立ち上がり角とする。
x=Lcosθcosφ (3)
y=Lcosθsinφ (4)
z=Lsinθ (5)
となる。こうして物体の位置を定める。物体が2つあれば、それぞれの位置を個別に測定し、これらの距離を計算することができる。ここでは樹木と電線(架空線)との最短距離(離隔という)を求める場合について説明する。この場合架空線のうちのどの点が最短距離を与えるのか予め分からない。樹木の頂点の位置Wは一義的に予め決まるが、架空線の方はどの点が樹木頂点に対して最近接位置にあるのか分からない。すると架空線について多くの点の位置測定を繰り返し、距離をそれぞれに求めてその内の最小のものを捜さなければならないように思える。
【0030】ところがその必要がない。架空線は両端を鉄塔によって懸架され線密度が一定なのであるから、これは懸垂線になるはずでcosh函数になる。このままの函数で扱ったところで、最小でも3点の位置が分かれば曲線の型が決まる。cosh函数は少し扱いにくいのでこれを二次函数(放物線)で近似してもよい。これは、樹木と架空線とが接近するのは架空線の最低高さの近傍であるはずであり、この場合、cosh函数は二次函数によって近似しても誤差が少ないからである。」

4.甲第4号証:J.Lindenberger, "METHODS AND RESULTS OF HIGH PRECISION AIRBORNE LASER PROFILING", PROCEEDINGS OF THE 43rd PHOTOGRAMMETRIC WEEK AT STUTTGART UNIVERSITY September 9th to 14th, l991, vol.15, pp.83-92, Stuttgart, 1991
甲第4号証は、航空機によるレーザプロファイリングについて開示するものであって、図面とともに以下の事項が記載されている。
(4a)「The integration of new sensors in an aircraft enables a new approach for topographic terrain survey and the evalution of digital terrain models. As an example airborne laser profiling will be presented in this paper. The main advantages of this method is the high precision data capture in a fully automatical and digital manner. ・・・Some areas where this method is especially suited and where its application has already been demonstrated will be mentioned.
-Forest area
where no sight to the ground is available in the aerial photographs, and where terrestrial surveying is too expensive. ・・・
-Tracing of Streets, railroads, pipelines, electrical power lines
where a digital terrain model is necessary only along the planned line.(航空機による新たなセンサの統合は、地勢調査やデジタル地形モデルの評価へ新たなアプローチを可能とした。例えば、航空機レーザプロファイリングが当論文に開示されている。この手法の主な利点は、デジタル処理にて自動的に高精度のデータを得られる点である。・・・この手段に特に適合し、その応用がすでに論証されているような、ある種の領域について言及していく。-森林領域 この領域においては、航空写真では地表までの視界が得られず、陸上の調査ではコストがかさむ。-通り、線路、パイプライン及び送電線の追跡 この領域においては、計画されたラインのみに沿ったデジタル地形モデルが必要とされる。)」(83頁2行〜20行)
(4b)「Speaking about penetration while flying over a forest area means that the laser rangefinder utilizes the gaps in the tree foliages to measure to the ground level of the forest. In doing so, the laser receives multiple signal returns from one emitted laser pulse, when parts of laser energy is reflected at the tree foliage whereas other parts are penetrating to the ground. The airborne laser rangefinder must be able to discriminate the multiple returns and select the last return for the distance measurement referring to the signal reflected on the ground. Nevertheless, in very dense vegetation the laser beam is not able to penetrate to the ground level. Then the last signal return is located anywhere in the tree foliage. The typical appearance of a laser profile is demonstrated by the example in figure 2.(貫通作用に言及すると、森林地帯上を飛行する場合、レーザー測距装置は、森林の地表面の高さを測定するためには、木葉のすきまを利用することが必要となる。そうする際に、1つの放射されたレーザー・パルスからの応答である複数の信号を受信する。一部は木葉から反射され、他の部分は地面にまで貫通することとなる。航空レーザー測距装置は、多数の反射信号を識別し、地面から反射した信号と照合し、距離を測定するための最後の反射信号を選別することが必要となる。しかしながら、非常に密集した植生では、レーザービームが地表面にまで貫通することができない。その場合、最後の反射信号は、木葉のどこかに位置することになる。レーザープロファイルの典型的な概略が、図2の例に示されている。)」(84頁21〜29行)
(4c)「Up to now the sensor orientation was the most servere problem in the realization of any new airborn surveying system. ・・・Only since positioning by the NAVSTAR Global Positioning System (GPS) became applicable for high precision kinematic positioning in an aircraft, the complete sensor orientation can be solved by the combination of an inertial navigation platform(INS) and GPS for attitude and position determination.
For the realized system the attitude of the aircraft was determined by an INS Honeywell Lasernav. The aircraft positions are calculated post mission by relative kinematic positioning using GPS phase observations. The position of the aircraft GPS-antenna is determined in reference to a second stationary GPS-antenna on a known reference point. Two GPS receivers Sercel TR5S-B were applied for the test flights. These receivers are qualified for airborne positioning because of their measuring rate(every 0.6 sec) and their high quality and reliability. There were never problem with cycle slip during the test flights.(今まで、センサー定位は、新たな航空測量システムの実現において重大な問題であった。・・・NAVSTAR全地球測位システム(GPS)による位置測定が、航空機における高精度な運動学的位置決めに利用できたことにより、慣性航法プラットフォーム(INS)とGPSの複合により、センサー定位の問題が完全に解消された。実現されたシステムについては、航空機の姿勢はINS Honeywell Lasernavによって決定される。航空機の位置は、GPSの位相を観測することで、相対的な移動測位により初期設定値が計算される。航空機のアンテナ位置は、既知の基準点に固定された第2のGPSアンテナと比較して決定する。2つのGPS受信機Sercel TR5S-Bが試験飛行のために適用された。これらの受信機は、その測定間隔(0.6秒毎)、品質の高さ、その信頼性により、航空機の位置測定に適している。試験飛行において、スリップサイクルの問題はほとんどなかった。)」(84頁40行〜85頁8行)

5.甲第5号証:J.Lindenberger, "TEST RESULTS OF LASER PROFILING FOR TOPOGRAPHIC TERRAIN SURVEY", PROCEEDINGS OF THE 42nd PHOTOGRAMMETRIC WEEK AT STUTTGART UNIVERSITY September 11th to 16th, l989, vol.13, pp.25-39, Stuttgart, 1989
甲第5号証は、航空機によるレーザプロファイリングについて開示するものであって、図面とともに以下の事項が記載されている。
(5a)「Laser rangefinders for airborn use, being in production nowadays, are restricted for profiling along the flight path, whereas scanning lasers, covering an area to both sides of the path, are under construction.(現時点で製造されている航空用レーザ測距装置は、飛行経路に沿ってのプロファイリングに限られるが、飛行経路の両側をカバーするスキャニングレーザが開発中である。)」(25頁13〜14行)
(5b)「An airborne laser profiling system (ALPS) consists of a series of measuring computing and recording devices which provide the necessary information for the derivation of the topographically relevant digital terrain data. The problem is to determine the position of the laser beam target point on the ground in a 3-dimensional coordinate space.・・・All instruments were installed on board of the Dornier Do 28 aircraft・・・. As the sampling frequency of the computer was fixed to 23 Hz and the planned velocity of the aircraft was about 50 m/s, the expected distance of the laser points within the profile is about 2.2 m.(航空機によるレーザプロファイリングシステム(ALPS)が、一連の測定装置、処理装置、及び記録装置からなり、デジタル地形データの導出に必要な情報を出力する。問題は、地上のレーザビーム測定点の位置を、3次元座標空間において求めなければならないことである。・・・機器群の全ては航空機(Dornier Do 28)の機上に搭載され、・・・測定データは機上のコンピュータによりサンプリングされて高密度磁気テープに記録された。サンプリング周波数は23Hzに固定され、航空機の予定速度は50m/sであった。)」(26頁6〜15行)
(5c)「A GPS receiver is able to determine the position of his antenna in a 3-dimensional geodetic coordinate system. GPS will be applied in two ways: for the calculation of the laser rangefinder positions and for the navigation of the aircraft along the desired flight path. As the precision of kinematic positioning using only one GPS receiver is about 20 m in the best case ・・・, which is far too low, the differential GPS mode was applied by utilizing a second GPS receiver on ground. Thus, ・・・, an accuracy of a few centimeter can be expected for the kinematic positioning in aircraft.(GPS受信機は、3次元測地座標空間におけるGPSアンテナの位置を求めることができる。GPSは、レーザ測距装置の位置を計算するためと、航空機を所望の飛行経路に沿って航行させるための、二つの用途に使われる。運動学的位置決め精度は、1つのGPS受信器だけでは・・・20mという低すぎる値しかでないため、地上に設置した第二のGPS受信機を使ってディファレンシャルGPSモードを行う。そうすれば・・・航空機の位置は数cmの精度で求めることができる。)」(26頁17〜末行)
(5d)「Most realizations of ALPS use the INS for the determination of attitude and position. Because of the manifold systematic errors from non-modeled physical effects, an external control of the INS becomes undispensable. For that reason these ALPS realizations are operating in helicopters where the necessary zero-velocity updates are feasible every few minutes. A more sophisticated solution is the combined processing of GPS and INS data in a joint adjustment. The INS in our ALPS is primarily required for the attitude measurements which are necessary for a high accurate determination of the laser beam orientation. The gyroscopically fixed platform Delco Carrousel 4 measures the attitude angles of the aircraft.(ALPSのほとんどの実現形は、INSを姿勢と位置を求めるために用いている。モデル化されていない物理的影響からくる複合システマチックエラーのため、INSを外部から制御することは欠かせない。このため、これらのALPS実現形は、必要なゼロ速度更新を数分毎に実行可能なヘリコプターで動作している。より洗練された解決法は、GPSデータとINSデータを組み合わせて処理することである。我々のALPSのINSは、主に、レーザビームの方向を正確に求めるのに必要な姿勢の測定のためにある。ジャイロスコープにより定まったプラットフォームDelco Carrousel 4は、航空機の姿勢の角度を測定する。)」(27頁11〜18行)
(5e)「The coordinates of the laser target points are calculated from the measurements of the GPS receivers, the INS platform and the laser rangefinder. ・・・ Then the GPS positions obtained at each 0.6 seconds are interpolated to the 23 Hz frequency of the INS and laser registrations.(レーザ測定点の座標は、GPS受信機とINSプラットフォームとレーザ測距装置との測定結果から計算される。・・・GPSにより0.6秒毎に得られる位置は、INSデータとレーザ測距データが記録される周波数23Hzまで補間される。)」(26頁30〜38行)
(5f)「The measurements of the ALPS instruments are related to different coordinate systems. ・・・
1. The aircraft-fixed coordinate system defined by the main body-axis of the aircraft is moving along the flight path. This system plays a central part as with regard to it the locations of the instruments have fixed coordinates during all aircraft movements, except for deformations of the aircraft body during the flight.
2. The stationary GPS-receiver on the ground is the origin of a topocentric horizontal coordinate system in which the GPS measurements are evaluated. The position ・・・ of the on-board GPS-antenna are transformed into this system.
3. The attitudes(Roll, Pitch, Yaw) from the INS are defined as the angles between the aircraft-fixed system and the inertial coordinate system. The inertial coordinate system is defined by local horizon at the starting point of the aircraft, where the INS is aligned.(ALPSの機器群による測定は、異なる座標系が関係している。・・・1.機体の主軸により定義される機体固定の座標系で、この座標系は飛行経路に沿って移動する。移動の間ずっと機体の歪みを除いて機器群はこの座標系では固定された配置にある。 2.地上に設置された不動のGPS受信機がその原点となる測地座標系で、機上のGPSアンテナ位置・・・はこの座標系へ変換される。 3.INSが設置された航空機の出発地点でのローカルな地平線により定義される慣性座標系で、INSからの姿勢データ(Roll, Pitch,Yaw)は、機体固定の座標系と慣性座標系との間の角度として定義される。)」(27頁41行〜28頁9行)
(5g)「The diffrerent locations of the ALPS instruments within the aircraft and the three coordinate systems to which the measurements are related require some transformations. The parameters describing the calibration and the datum transformations are constant during the flight and must be determined in a calibration process. The most important parameters are:
1. The antenna offset vector ・・・ describing the different locations of the laser rangefinder and the GPS antenna in the aircraft-fixed system.
2. The laser-alignment angle (droll, dpitch) describing the angles between the axis of the laser rangefinder and the aircraft-fixed coordinate system. The laser rangefinder is mounted with a pitch angle of about 5 degrees so that the laser will point vertical to the ground during the flight.
3. the rotation angles (da, db, dc) representing the orientation between the inertial and the topocentric coordinate systems defined by INS and GPS. (ALPSの各機器の機内での配置と三つの座標系によりデータ変換が必要となるが、そのためのパラメータは、1.アンテナオフセットベクトル・・・:機体固定の座標系においてレーザ測距装置の軸と機体固定の座標系においてレーザ測距装置とGPSアンテナとが離れて配置されていることを示す。 2.レーザ光軸角度(droll, dpitch):レーザ測距装置の軸と機体固定の座標系との間の角度を表し、レーザが飛行中垂直に地面を指すようにピッチ角を約5度としてレーザ測距装置は搭載される。 3.回転角度(da, db, dc):INSにより定義される慣性座標系とGPSにより定義される測地座標系との間の方向を表す。)」(28頁11〜21行)
(5h)「4.4 Computation of laser target points」(28頁)の欄には、レーザ測距装置から出力された距離から、測地座標系におけるレーザ測定点の座標を演算する計算式が示されている。
(5i)「6.2 Rotterdam」(31頁)の欄には、「The test took place outside of a GPS-window so that the positions are determined roughly from the INS only.(試験飛行は、GPS衛星から相違のための受信が可能な範囲外で行われたため、位置はINSのみに基づいて大まかに求められた。)」

6.甲第6号証:田島 奏「航空計器概論」、社団法人日本航空整備協会、航空工学講座第16巻、昭和51年3月10日発行、254頁〜277頁
甲第6号証には、慣性航法装置の基本的な内容として以下の事項が記載されている。
(6a)「5-1-2 慣性航法装置の原理」(254頁26行〜255頁11行)の欄には、加速度計で加速度を求めれば、これを時間について積分して速度が求められ、さらに時間について積分して変位が求められることが説明されている。
(6b)「5-2 安定化プラットフォーム」(257頁5行〜259頁5行)の欄には、航空機の姿勢に影響されずに常に慣性空間に対し一定の方向を保つ加速度計取付台として安定化プラットフォームが必要であること、及び安定化プラットフォームを設定するために3個の自由度1のジャイロにより互いに直交する3軸(ロール軸、ピッチ軸、ヨー軸)の角速度を検出し、角速度が0になるようにプラットフォームを制御することが説明されている。
(6c)「5-4-3 Local Vertical Local North Analytic System」(270頁14行〜277頁19行)の欄には、子午線の接線方向の加速度、緯度線の接線方向の加速度および重力方向の加速度を感知する3個の加速度計は、3個のジャイロと共に安定化プラットフォームに取付けられており、3個のジャイロにはコンピュータからプリセッション指令信号が送られることで、安定化プラットフォームは、3個の加速度計が常に上述の加速度成分を感知するように制御され、3個の加速度計からの出力から速度および変位が求められることが説明されている。

7.甲第7号証:「航空用語辞典」増補新版、鳳文書林出版販売株式会社、pp.125一126,1986年9月30日発行
甲第7号証には、INS(慣性航法装置)について、加速度に時間をかければ航空機の変位が求まること、及びこの加速度を求めるために、慣性航法装置ではプラットフォームと2つのジャイロ及び3つの加速度計が用いられていることが説明されている。

8.甲第8号証:K.P.Schwarz,"INERTIAL TECHNIQUES IN GEODESY ‐STATE OF THE ART AND TRENDS", pp.423-440, Nov.12th-15th, 1991 (K.Linkwitz / U.Hangleiter, "HIGH PRECISION NAVIGATION 91", Proceedings of the 2nd Internationa1 Workshop on High Precision Navigation, Stuttgart and Freudenstadt, Germany, November l991)
甲第8号証には、慣性航法装置(INS)について以下の事項が記載されている。
(8a)「3.WHAT ARE INERTIAL TECHNIQUES?」(426〜433頁)の欄のFigure1には、INSでは、加速度計およびジャイロスコープの出力から位置(φ、λ、h)及び姿勢を出力するブロック図が示されている。
(8b)「Without correcting for these errors, results become soon useless for geodetic applications. On the other hand, a comparison between Figures 2 and 3 shows that these errors follow a very smooth pattern and can be eliminated by appropriate methods. The remaining errors are very small and this is the major reason why inertial techniques work so well when properly applied. The decisive problem for precise velocity, position, and attitude determination is therefore the elimination of these quasi-systematic errors. This is done by update measurements. They can be zero velosity measurements, if the operational procedure allows regular stops of the vehicle, or velocity and position updates from GPS if an integrated system is used. The latter approach results in more flexible operations and often in better accuracy. It also can make better use of the good short-term performance of the INS in positioning and attitude determination and the superior long-term performance of GPS in positioning. (小さな一定の初期エラー又は時間的にゆっくり変化するエラーの効果は、即ち、速度及び位置のエラーが急速に成長することである。これらのエラーを補正すること無しでは、結果は、測地用途にとって役に立たなくなる。他方、図2と図3の比較は、これらのエラーが、非常にスムーズなパターンを伴い、そして、適切な方法により除去できることを示している。残るエラーは非常に小さく、そして、これが、適切に適用された場合に慣性技術がうまく動作する主たる理由である。速度、位置及び姿勢の精密な測定に対する決定的な課題は、それゆえ、これらの準システム的なエラーの除去である。これは、測定のアップデートにより為され得る。それは、もしも走査手順が移動体の規則的な停止を許容するか、又は、統合システムが使用できる場合にGPSによる速度及び位置の更新を許容する場合の、ゼロベロシティ測定である。後者のアプローチは、より柔軟な処理をもたらし、そして、しばしばより正確である。それはまた、位置決めと姿勢の決定におけるINSの短時間での良好なパフォーマンスと、位置決めにおけるGPSの非常に優れた長期的パフォーマンスの両方を使用できるようにする。)」(430頁14〜26行)
(8c)「4. Which application areas are of primary interest」の欄(433〜438頁)には、INSが スタンドアローンで使用される応用例(figure5)と、「INSが統合システムのコンポーネントとして使用される応用例」(figure7〜9)とが説明されている。
(8d)「The INS provides the basic position and orientation information, GPS differential positioning is used for updating, (INSが基本的な位置と方向の情報を提供し、GPSのディファレンシャルな位置決めが更新に用いられる。)」(435頁21〜22行)
(8e)「The advantage of inertial measuring units is their capability to provide all parameters needed to completely model a trajectory in space. Position, velocity, and attitude information is thus available to support other measurement systems. Their drawback, the unfavorable error propagation, can either be overcome by regular zero velocity updates or by integration with GPS. The latter method seems especially advantageous for emerging based kinematic appliations in airborne remote sensing and geophysical prospecting.(慣性測定ユニットの利点は、空間内の軌道を完全にモデル化するのに必要な全てのパラメータを提供できることにある。これにより、位置、速度、及び姿勢の情報が、他の測定システムのサポートに利用可能となる。望ましくないエラーの増殖という欠点は、定期的にゼロ速度更新をすることか、GPSと統合することにより、解消できる。GPSとの統合方式は、航空機からの遠隔測定等の発展途上の運動学的応用に特に有用であると考えられる。)」(438頁21〜27行)

9.甲第9号証:Ross Nelson, William Krabill, John Tonelli, "Estimating Forest Biomass and Volume Using Airborne Laser Data", Remote Sensing of Environment Vol.24, pp.247-267 (1988)
甲第9号証には、航空レーザ測量技術の変遷について、以下のとおり記載されている。
(9a)「Background The concept of using an airborne laser system to measure terrestrial biomass evolved from oceanographic applications of LIDAR in the 1960s and 1970s. First demonstrated for bathymetry in 1968 (Hickman and Hogg, 1969 ), laser systems were developed such that sequential measurements could be made on the intensity of the return from an individual laser pulse. Once the initial bright return from the water surface was sensed for a given pulse, sequential measurements were taken to try to identify a secondary peak, or bright spot, which might mark the return from the ocean bottom. Aircraft-target distances were calculated by precisely measuring the amount of time (current precision on the order of tenths of nanoseconds) required for a given pulse to make the round trip. Time differences between the primary and secondary return from a single laser pulse denoted water depth. Hoge et al.(1980) reported the results of a study using the NASA Airborne Oceanographic LIDAR(AOL) to derive water depths in the Atlantic Ocean and in the turbid Chesapeake Bay. The attributes which make an airborne laser so useful for water depth ranging (sea floor profiling) have been shown to be relevant to terrestrial problems. Initial interest in terrestrial applications of airborne laser profiling data (sequential ranging measurements made along a flight line) centered on terrain mapping. Reserchers involved in terrain mapping studies exploited the ability of the laser profiler to penetrate vegetation so that the ground elevations beneath a continuous vegetation cover could be derived. Vegetation, in this context, was basically "in the way" and a source of noise when terrain elevations were calculated based on laser profiles. Link and Collins (1981) provided a succinct summary of the operational aspects of a laser terrain mapping system and briefly described some of the North American laser work and instruments. Krabill et al. (1984) used an airborne laser equipped with a vertical accelerometer (to remove vertical aircraft motion) to map the topography of a watershed near Memphis, TN. They found that the airborne laser ranging profiles agreed with the photogrammetrically-derived elevational profiles to within 12-27 cm RMS over open ground and to within 50 cm RMS in forested areas (leaves off). Arp et al.(1982) reported on an ambitious laser mapping project for water reservoir location in an inaccessible area in Venezuela. Schreier et al. (1984) determined, in a terrain mapping study in Canada, that 95% of all laser terrain elevations were with 1.80 m of photogrammetrically derived values. Vegetation cover had a significant influence on the accuracy of the laser terrain measurements; dense vegetation introduced an element of noise into terrain mapping. They noted that laser profiling data would be useful for vegetation canopy height determination. Nelson et al. (1984) utilized the tree height-finding capability of a profiling laser on a heavily forested hardwood site in Pennsylvania to show the changes in the laser canopy density conditions. They found that mean tree height estimates were within 60 cm of the photogrammetric values, and the laser estimates were more precise. Aldred and Bonner (1985) concluded that laser tree height estimates were within 4.1m of photogrammetrically or field-measured stand heights at the 95% level of confidence. The laser measurements consistently underestimted ground measurements of tree height, though this error could be reduced by increasing beam divergence (i.e., increase the laser spot size at the target). Schreier et al. (1985) reported that their near-infrared laser produced accurate terrain and vegetation canopy profiles, thereby permitting accurate measurement of tree height. They used the canopy height measurements in conjunction with the near infrared reflectance value to differentiate level II (conifer, hardwood) using semiautomated classification techniques.(背景 地上のバイオマスを測定するために航空レーザシステムを使用するというコンセプトは、1960年代及び1970年代におけるLIDARの海洋用途から発展した。最初に1968年(Hickman and Hogg,1969)に水深測量学に対して立証されたが、レーザシステムは、個々のレーザパルスの戻りの強度により連続的な測定が可能となるように開発された。与えられたパルスに対して、水面からの初期の明るい戻りが感知されると、海底からの戻りを示しうる2番目のピーク又は明るいスポットを同定するために一連の測定が行われる。飛行機・ターゲット間の距離は、与えられたパルスに対して、水面からの初期の明るい戻りが感知されると、海底からの戻りを示しうる2番目のピーク又は明るいスポットを同定するために一連の測定が行われる。飛行機・ターゲット間の距離は、与えられたパルスに対して必要な、ラウンドトリップを為す時間(現在の精度では、10分の数ナノセカンドのオーダー)を正確に測定することにより、計算された。1つのレーザパルスからの最初の戻りと2番目の戻りとの時間差は、水深を示す。Hoge et al.(1980)は、NASA Airborne Oceanograpic LIDAR(AOL)を使った、大西洋と濁ったチェサピーク湾で水深を探る研究の結果を報告した。水深探査(海底プロファイリング)に航空レーザを役立たせる特性が、地上の問題に関連して示された。航空レーザプロファイリングデータ(飛行線に沿って行われた一連の距離測定)は、地形マッピングに集中した。地形マッピングの研究にかかわる研究者は、連続する植生カバーの下の地面標高を推測できるほどに植生を貫通するように、レーザプロファイラの能力を活用した。植生は、この文脈では、基本的に”邪魔”であり、レーザプロファイルに基づいて地上高が計算された時にノイズ源となる。LinkとCollins(1981)は、レーザ地形マッピングシステムの操作上の様相の簡潔な要約を与えると共に、北米レーザ研究と装置のいくつかを簡潔に説明した。Krabill et al.(1984)は、テネシー州メンフィス近くの分水界の地形をマッピングするために、(垂直な飛行機の動きを除くための)垂直加速度計と共に装置された航空レーザを使用した。彼らは、航空レーザ測距プロファイルが、写真測量で得られた標高プロファイルと、開放地ではRMSで12-27cm内、樹林地帯(落葉)でRMSで50cm以内で一致することを発見した。Arp et al.(1982)は、ベネズエラの接近不能な領域の貯水池をレーザマッピングする野心的な研究について報告した。Schreier et al.(1984)は、カナダにおける地形マッピングの研究で、全レーザ地形標高値の95%が、写真測量で得られた値と1.80mで同じであることを決定した。植生カバーは、レーザ地形測定の精度に重要な影響をもたらし、濃密な植生は、地形マッピングにノイズ要因を導入する。彼らは、レーザプロファイリングデータが林冠の高度の決定に役立つだろうことを指摘した。Nelson et al.(1984)は、変化する林冠密度状態に対応するレーザ林冠プロファイルの変化を示すために、ペンシルバニアの高密度の樹林地帯でプロファイリングレーザの樹高検出能力を利用した。彼らは、平均樹高推定値が車輪測量地と60cm以内であったこと、レーザ推測値がより正確であったことを発見した。Aldred and Bonner(1985)は、レーザによる樹高推測値は、95%の信頼性で、航空測量又は現地測量の樹高値とは4.1m以内で一致すると結論づけた。レーザ測量は、一環して、樹高の地上測定を小さく見積もるが、このエラーは、ビームの広がりを大きくする(例えば、ターゲット上でのレーザスポットを大きくする)ことにより、低減できる。Schreier et al.(1985)は、近赤外レーザが正確な地形・植生林冠のプロファイルを生成し、これにより樹高の正確な測定を可能とすることを報告した。彼らは、半自動分類技術を使ってレベルII(針葉樹、広葉樹)を区別するために、近赤外反射値に関連して林冠高測定を使用した。)」(248頁左欄7行〜249頁左欄23行)

10.甲第10号証:竹内延夫、「レーザレーダの原理と特徴」、株式会社情報調査会発行、「センサ技術」、1984年5月号、pp.18-21
甲第10号証には、レーザレーダに関し、「4.応用分野」(20頁左欄37行〜21頁左欄6行)の欄に、プロファイルの測定においては、レーザ送出方向をスキャンすることによって2次元、3次元データを得ること、及び3次元データに対しては鳥かん図方式の表示が有効であることが説明されている。

11.参考文献1:米国特許第4326799号明細書(1982)
参考文献1は、飛行機に搭載される走査式レーザ測距儀により地上のターゲットの位置と距離を測定する技術を開示するものであって、特に、図1には、飛行機10からのビームパターン12にて地表面をスキャンする様子が示されており、この図1に関連して以下の事項が記載されている。
(11a)「In Fig.1 is shown a perspective view of a situation in which the present invention is used to advantage. Airplane 10 carries a laser scanning system constructed in accordance with the invention which is used to detect the presence of objects such as tank 14 upon the surface of earth below the airplane. The laser scanning system, which operates through an aperture in the underside of airplane 10, scans the surface of the earth in a beam pattern 12 known in the art as a Palmer scan pattern.・・・Also because of the high resolution capabilities of such a system, this system is also useful in mapping the surface of the earth.(図1には、本発明が好適に利用される状態を表す透視図が示されている。レーザースキャニングシステムを搭載した飛行機10は、その下の地表面上のタンク14のような物体の存在を検知する。レーザースキャニングシステムは、飛行機10の下部の開口を通して操作され、Palmerスキャンパターンとして当該分野において既知のビームパターン12にて地表面をスキャンする。・・・また、このようなシステムは高分解能を有するため、このシステムは、さらに地表面をマッピングするのにも有用である。)」(第3欄25〜44行)

(11b)「Two contiguous "footprints" are shown separated by a distance e corresponding to the round trip transit time tRT of the scanning beam.(2つの接触するフットプリントが、走査ビームのラウンドトリップ移動時間tRTに対応する距離eだけ離れていることが示されている。)」(第5欄54〜56行)

12.参考文献2:K.Ove.Steinvall, "Experimental evaluation of an airborne depth-sounding lidar", Optical Engineering Vol.32 No.6 June 1993, pp.1307〜1321
参考資料2には、ヘリコプターに搭載したレーザー・システムの水深探査装置に関して以下の事項が記載されている。
(12a)「The FLASH system is a laser system carried by helicopter (Boeing Vertol) that provides depth-sounding data for charting purposes.・・・Figure 1 shows a block diagram of the main parts of the system. These include the sensor platform ・・・. The sensor platform consists of the transceiver and scanner and the mounting frame.・・・The programmable scanner enables the beam to search the water surface in different patterns that can be chosen by the operator.(FLASHシステムは、図表化する水深データを提供するために、ヘリコプター(Boeing Vertol)に搭載されたレーザー・システムである。・・・図1は、このシステムの主要な部分を示すブロック図である。これらは、センサプラットフォーム・・・を含む。センサプラットフォームは通信装置、スキャナ、搭載フレームとからなる。・・・プログラム可能なスキャナは、オペレータにより選択される異なるパターンにて水面にビームを当てることができる。)」(1307頁4〜16行)

(12b)「The laser is a frequency-doubled Nd:YAG laser having emissions at 532 and 1064 nm with a pulse length of approximately 7 ns. The laser beam divergence is automatically controlled via a beam expander to values between 2 to 10 mrad to allow studies of the horizontal resolution of bottom features close to the surface.(レーザは、約7nsのパルス長を有する532nm及び1064nmの光を放出する周波数逓倍されたNd:YAGレーザである。レーザビームの広がりは、水面に接する海底の水平最小別距離を測定できるように、ビーム拡張器より2乃至10mradに自動的に制御される。)」(1308頁左欄3〜8行)
(12c)「Attached to the sensor frame (containing laser, receiver, and scanner) is also a vertical gyro, which serves as a reference for the roll-and-pitch angles.(ロール角及びピッチ角を測定するための垂直ジャイロが、センサーフレーム(レーザー、レシーバーおよびスキャナを含む)に装備されている。)」(1308頁右欄末行〜1309頁左欄3行)
(12d)Fig.21(b)には、FLASHで得られた水深を3D表示したものが示されている。


第7.当審の判断
1.無効理由2(36条違反)について
特許法36条違反について、平成18年4月12日言渡の上記判決において、次のように判示された。
「1 取消事由1(特許法36条違反についての判断の誤り)について
(1) 原告らは,要するに,次の4つの不明点を挙げて,特許法36条違反をいうものである(前記第3,1 )。
不明点1:構成Aの「フレームをつなぎ合わせて」という要素について,「ヘリコプターの各軸についての平行運動データ及び回転運動データで測定点の位置データを補正」すれば自動的に「フレームをつなぎ合わせ」たことになるのか,それとも,単に「ヘリコプターの各軸についての平行運動データ及び回転運動データで測定点の位置データを補正」するだけではなく「フレーム」に関して付加的な処理を行ってはじめて「フレームをつなぎ合わせ」たことになるのかが不明である点。
不明点2:構成Aの「前後のフレームも含めて…最接近位置を検出できるようにした」という要素について「前後のフレームも含めて送電線のある点からの最接近位置を検出できるようにした」(Q)という構成は「フレームをつなぎ合わせて,送電線下の状況の3次元画像を作成」(P)という処理を行う構成であれば,それだけで自動的に(Q)の構成も備えていることになるのか,それとも(P)の処理をした上に「前後のフレームも含め」るための特別な処理を行うようにしてはじめて(Q)の構成を備えていることになるのか不明である点。
不明点3:不明点2と同じ構成Aの要素について「3次元画像を作成」しなければ「前後のフレームも含めて…最接近位置を検出できるように」ならないのか,それとも「3次元画像」に依存せずに「前後のフレームも含めて…最接近位置を検出できるように」なるのか不明である点。
不明点4:不明点2と同じ構成Aの要素について「フレームをつなぎ合わせ」ることにより作成される本件発明の「3次元画像」が「平行運動データ及び回転運動データで補正」することにより共通の座標系(例えば地上に固定された3次元の座標系)で表現されたデータを単に3次元座標系でプロットしただけのものであるのか,それとも「フレーム」に関して特別な処理をすることによりそれとは異なる3次元画像が作成されているのか,不明である点。
(2) まず,本件発明の構成Aの「フレームをつなぎ合わせて」という要素の意味内容について検討する。
(a) 前記第2,2に記載した本件発明の請求項1の記載によれば,1フレームとは振れ角θで行うレーザ測距光軸の一回のスキャン走査のことで一回のスキャン走査によって「レーザ測距装置部から出力される距離データ及びスキャン角度データ」を取得できること,また,各フレームにおいて取得されるデータは,振れ角θとヘリコプターの飛行経路によって作られる,ヘリコプターの機軸に垂直な面内に位置する送電線と送電線に接近する障害物についてのデータであること,さらに「前記データ処理解析部において処理される前記距離データ及びスキャン角度データを,該距離データ及びスキャン角度データの取得と並行して取得される前記平行運動データ及び回転運動データで補正すること」によって得られるのは,送電線と送電線に接近する障害物についての補正後の位置データであることが認められる。
一方,「つなぎ合わせる」とは「いくつかの物事をつないで一つにする(広辞苑5版)ことを意味するところ,上記認定によれば,フレームとは,スキャン走査面のことであり,補正によって得られるのは,補正後の位置データであると解されるのであるから,上記「フレーム」は,そもそも,つなぎ合わせるような性質のものであるかは疑問であって,請求項1の「補正することにより,前記フレームをつなぎ合わせて前記送電線下の状況の3次元画像を作成し」との記載をはじめとする本件発明の特許請求の範囲の記載に基づくのみでは「フレームをつなぎ合わせて」の技術的意義を一義的に明確に理解することが困難であるというほかない。
(b) そこで,本件明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌し,技術常識を加味しつつ本件発明の要旨を検討してみると,次のとおりである。
上記のとおり,本件発明における「補正」は「フレームをつなぎ合わせ」る前段階で行われるものであるところ,ヘリコプターの回転運動データによる補正がなされると,理論的にみて,各フレームにおいて,データ取得時のヘリコプターの姿勢が考慮されることとなり,実際の測定点の位置が,ヘリコプターに対する相対位置として定められることになる。換言すれば,距離データ及びスキャン角度データからなる2次元データが,ヘリコプターに対する測定点の相対位置である3次元データに補正されることになる。また,ヘリコプターの平行運動データによる補正がなされると,理論的にみて,データ取得時のヘリコプターの飛行位置が考慮されることとなり,実際の測定点の位置が,ヘリコプターの飛行経路と同一の座標系における絶対位置として特定されることになる。
また,上記のとおり「フレームをつなぎ合わせて…3次元画像を作成」するのであるから「フレームをつなぎ合わせ」る処理は,上記補正の後,3次元画像を作成するための処理であることは明らかである。
そして,本件明細書(甲16)の発明の詳細な説明欄には,「フレームをつなぎ合わせて」に関係する記載としては,「この補正によって,フレームをつなぎ合わせ,3次元画像を作成することも可能となる。したがって,前後のフレームも含めて送電線のある点からの最接近位置を検出することができる。」(段落【0022】),「更に,ジャイロ加速度計部を加えることによって,ヘリコプター等航空機の運動による誤差の補正ができ送電線下の状況を3次元画像化可能なので前後のフレームデータを含めて離隔距離を算出できる。」(段落【0029】 )などと記載されているだけである。これらの記載のほか,本件明細書の記載全体を精査しても,上記の「補正」と「3次元画像の作成」との間の段階で格別の処理が行われているものと解することはできない。したがって「フレームをつなぎ合わせ」る処理は,上記補正後の3次元データを,3次元画像へと加工する一般的な処理のことであると解するほかない。
以上によれば,構成Aの「フレームをつなぎ合わせて」ということは,「前記距離データ及びスキャン角度データを,該距離データ及びスキャン角度データの取得と並行して取得される前記平行運動データ及び回転運動データで補正すること」により,各フレームにおける実際の測定点の位置を,ヘリコプターの飛行経路と同一の座標系における絶対位置(3次元)として定め,3次元画像へと加工することを意味するものと認められる。そして,このような作業の結果として,前後フレームにおける実際の測定点の間の位置関係が特定されて,前後フレームにはつながりが生じるといえるのであって,これをもって「フレームをつなぎ合わせて」と表現したものと理解される。なお,前認定のとおり,本件発明における「フレームをつなぎ合わせ」る処理は,上記補正後の3次元データを,3次元画像へと加工する一般的な処理のことであり「補正」と「3次元画像の作成」との間の段階で格別の処理が行われるものであるとは解されないものである。
(c) そうすると,原告らが不明点1として主張する点は,不明であるとはいえない。
(3) 次に,本件発明の構成Aの「前後のフレームも含めて…最接近位置を検出できるようにした」という要素の意味内容について検討する。
(a) 上記の補正と,3次元画像の作成との間の段階で格別の処理が行われるものであると解することはできないことは,前判示のとおりである。
また,各フレームにおける実際の測定点の位置が,ヘリコプターの飛行経路と同一の座標系における絶対位置(3次元)として定まれば,これら測定点の位置を3次元画像に形成できること,そして,3次元画像が作成できるのなら,測定点間の距離が3次元的に算出可能であり,樹木の最接近位置を検出できることは,いずれも当業者にとっては明らかなことと解される。
もっとも,前記の特許請求の範囲の記載においては,本件発明における3次元画像の構造や3次元画像の作成手段が特定されているわけではなく,また,送電線のある点及び樹木の位置を特定する手段として,上記補正以外の手段が示されているわけでもないし,両者の距離を算出する具体的手段が示されているわけでもない。
また,本件明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌しても,上記段落【0022】,【0029】の記載などによっても,3次元画像を作成し,最接近位置を検出するための具体的な態様が示されているわけではない。そうすると,本件発明における「3次元画像を作成し」,「最接近位置を検出できるように」するための手段としては,周知のものが採用されているものと解するのが相当である。
(b) 以上によれば,「前後のフレームも含めて…最接近位置を検出できるようにした」ということは,上記補正により得られる各測定点の3次元データを,周知の手法により,フレームをつなぎ合わせて3次元画像を作成し,周知の方法により,画像データないし3次元位置データに基づいて送電線のある点と樹木との最接近位置を検出できるようにしたということを意味するものと解するのが相当である。
(c) そうすると,原告らが不明点2ないし4として主張する点は,不明であるとまではいえない。
(4) なお,被告らは,前記第4,1(1)のとおり,測定点の位置データを補正して,フレームをつなぎ合わせる場合において,これが自動的にできるように構成する場合も,付加的な処理をする場合も含まれると主張しており,本件発明には,フレームをつなぎ合わせるために,特別の処理は要せず,測定点の位置データを補正すれば足りるような構成が含まれることを認めている。
被告らは,また,前記第4,1(1)のとおり,いずれにせよ3次元画像内において検出することが必要であって,得られたデータを3次元で把握する方法に特段の限定はないと主張しており,3次元画像を作成できれば最接近位置を検出できることを認めていると解されるとともに,本件発明における得られたデータを3次元で把握する方法には,限定がなく,周知の方法による構成も含まれることを認めている趣旨と解される。
(5) 以上の点に関し,審決は,前記第2,3,(2)のとおり説示するが,既に判示したところと同旨と解し得る限りにおいて,違法はない。
よって,原告ら主張の取消事由1は理由がない。」(31頁11行〜36頁8行)

上記判決の(5)で言及されている(平成17年4月19日付け)審決における特許法36条違反の主張についての判断は、以下のとおりである。
「1.無効理由2(36条違反)について
(1)審判請求書における主張について
請求人による、「ジャイロ加速度計部」で取得した平行運動データをどう利用するかが不明であるという点について以下に検討する。
まず、特許明細書の詳細な説明を参酌すると、段落【0017】に「以上のように機上搭載装置によって取得された距離データ及び測距時の走査光学系のスキャン角度データによって、ヘリコプターの飛行経路をZ軸とした極座標のかたちで送電線及び接近樹木等の地形情報を得ることができる。」と記載され、また段落【0022】に「これに対し、ジャイロ加速度計部5を追加するならば、ヘリコプターの各軸についての平行運動データ及び回転運動データが得られる。これらヘリコプターの運動データをヘリコプターの運動変化の速さを考慮したレートで測距データ、スキャン角度データと並行して取得すれば、測定点の位置を補正することができる。つまり、図9で言うならば、機体の回転角θrがわかるので、この値をスキャン角度データに加算することによって正確な目標位置がわかるのである。」と記載されている。これらの記載から、「ジャイロ加速度計部」で得られた回転角度データとスキャン角度データを加算すれば測距データは共通の極座標で表現できることが理解できる。そして「ジャイロ加速度計部」からの角速度出力から機体の回転角が得られ、加速度出力から変位が得られること、及び上記のような補正は、機体の回転角θrに限らず、各軸周りの回転角や極座標系自体についてもなされるものと解されることから、「ジャイロ加速度計部」で取得した平行運動データにより、ヘリコプターでの測定によって得られた測定点の位置データを、共通の座標系へ変換できることは当業者にとって自明であり、その具体的内容は一般の座標変換手段から導出可能であることも明らかである。

(2)弁駁書における主張について
上記「(1)審判請求書における主張について」で検討したとおり、「ジャイロ加速度計部」で取得した平行運動データをどう利用するかは当業者にとって自明な事項であるから、訂正の審判の請求(訂正2004-39085号)により減縮された本件発明の構成である「距離データ及びスキャン角度データを、該距離データ及びスキャン角度データの取得と並行して取得される前記平行運動データ及び回転運動データで補正する」点も、本件特許明細書の発明の詳細な説明の欄に実質的に記載された事項であるから、上記訂正が、実質上特許請求の範囲を変更するものではなく、また、特許法第36条第5項第1号に違反するものでもない。

(3)上申書(第1)における主張について
請求人は、訂正の審判(訂正2004-39085号)の審理過程において平成16年6月23日に提出した上申書(第1)にて、本件発明の記載において、「各フレームをつなぎ合わせて」は、その内容が明確ではなく、「前後のフレームを含めて」と限定することの技術的意義が不明であり、また「送電線のある点からの最接近位置」の「ある点」及び「最接近位置」は、意味不明である旨主張しているので、この主張について以下に検討する。
本件特許明細書中段落【0021】の記載「このようなヘリコプターの運動がデータに影響を与える状況では、ヘリコプターの運動変化に対してデータの取得時刻差が小さければ影響を無視できるが、データ取得時刻に大きな差があれば影響が大きく、データを同じ機上にプロットすることはできない。つまり、1フレーム内での影響は無視できても、数フレーム間のデータをいっしょに議論することはできないのである。ところが、送電線のある点から最も近い樹木の位置は、同じフレーム内ではなく前後のフレーム内にある場合も考えられるため、フレームをつなぎ合わせできないときは、正確な接近樹木位置を把握することができない場合がある。」、及び、段落【0022】の記載「これに対し、ジャイロ加速度計部5を追加するならば、ヘリコプターの各軸についての平行運動データ及び回転運動データが得られる。これらヘリコプターの運動データをヘリコプターの運動変化の速さを考慮したレートで測距データ、スキャン角度データと並行して取得すれば、測定点の位置を補正することができる。つまり、図9で言うならば、機体の回転角θrがわかるので、この値をスキャン角度データに加算することによって正確な目標位置がわかるのである。この補正によって、フレームをつなぎ合わせ、3次元画像を作成することも可能となる。したがって、前後のフレームも含めて、送電線のある点からの最接近位置を検出することができる。」を参酌すれば、「各フレームをつなぎ合わせて」は、ヘリコプターの各軸についての平行運動データ及び回転運動データで測定点の位置データを補正し、各フレームの測距データを共通の座標系で表現することを意味することは明らかである。
また、段落【0021】の記載「ところが、送電線のある点から最も近い樹木の位置は、同じフレーム内ではなく前後のフレーム内にある場合も考えられるため」、及び、段落【0022】の記載「前後のフレームも含めて、送電線のある点からの最接近位置を検出することができる。」から、「前後のフレームを含めて」最接近位置を検出することについての技術的意義が、1フレームでは最も近い樹木の位置が検出できないため、その前後のフレームを含めて正確な接近樹木位置を把握することにあることは明らかである。
さらに、接近樹木離隔検出装置においては、送電線-樹木間の離隔距離を検出することを目的としているのであるから、ヘリコプターは特に異常が認められない限り送電線に沿って飛行するのが通常であり(段落【0025】の記載参照)、したがって、送電線はフレーム内で点として表示されることとなり、図7、図11もこのことを裏付けている。よって、「送電線のある点」とは、フレーム内で送電線が存在する測定点と解するのが自然である。また、段落【0021】の記載「フレームをつなぎ合わせできないときは、正確な接近樹木位置を把握することができない場合がある。」から、「送電線のある点からの最接近位置」とは、接近樹木位置であることは明らかである。
以上のとおり、本件発明の「フレームをつなぎ合わせて前記送電線下の状況の3次元画像を作成し、前後のフレームも含めて送電線のある点からの最接近位置を検出できるようにしたこと」とは、あるフレームの送電線の存在する測定点からの最接近樹木位置を、その前後のフレームを含む測距データを共通の座標系にて表現した3次元画像内において検出することを意味していることは明らかである。

(4)無効理由2(36条違反)についての結論
以上のとおり、本件特許明細書の発明の詳細な説明の欄には、当業者がその実施をすることができる程度に、本件発明の目的、構成及び効果が記載されており、また、本件発明は、明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるから、特許法第36条第4項及び第5項第1号に規定する要件を満たしている。 」

そして、当審における特許法36条違反についての判断は、裁判所の上記判断に拘束されるものである。
よって、請求人の主張する無効理由2により本件特許を無効とすることはできないものと判断する。

2.無効理由1(29条2項違反)について
本件発明は、ヘリコプターに搭載したレーザ測距装置部により送電線と接近樹木の離隔を検出するものであるところ、送電線と接近樹木との離隔をヘリコプターに搭載したレーザ測距装置部により検出することに関して記載があるのは、甲第2号証のみである。
そこで、甲第2号証に記載された発明を認定し、本件発明と甲第2号証に記載された発明とを対比して両者の一致点、相違点を認定するとともに、両者の相違点につき判断する。
(1)甲第2号証に記載された発明
甲第2号証には、摘記事項(2a)及び(2b)に、ヘリコプターに、パルス・レーザ測距儀と、スキャニングサブシステム、GPSによる位置表示サブシステム、離隔計算サブシステム等を搭載し、ヘリコプターからレーザ光を連続的にスキャニングしながら、瞬時に送電線と樹木の離隔を測定するシステムが示され、摘記事項(2d)に、1回の走査で得られたスキャニング面において、送電線までの距離A及び樹木までの距離Bと両者の間のスキャニング角度差αを用いて送電線と樹木との離隔χを求めることが示されており、この検出が離隔計算サブシステムによりなされることは明らかである。また、摘記事項(2e)及び(2f)に、パルス・レーザ測距儀が、ヘリコプターに取り付けられたジャイロ架台に組み込まれていることが示されている。
したがって、甲第2号証には、次の発明(以下、「甲2号証記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。
「パルス・レーザ測距儀と、スキャニングサブシステム、GPSによる位置表示サブシステム、離隔計算サブシステムをヘリコプターに搭載し、前記ヘリコプターからレーザ光を連続的にスキャニングして、前記離隔計算サブシステムにより、1回の走査で得られたスキャニング面における送電線までの距離A及び樹木までの距離Bと両者の間のスキャニング角度差αを用いて送電線と樹木との離隔χを求めるとともに、前記パルス・レーザ測距儀が、前記ヘリコプターに取り付けられたジャイロ架台に組み込まれていることを特徴とする送電線と樹木の離隔を測定するシステム。」

(2)本件発明と甲第2号証記載の発明との対比
そこで、本件発明(前者)と甲第2号証記載の発明(後者)を対比する。
後者の「パルス・レーザ測距儀」及び「スキャニングサブシステム」は、レーザビームを照射して測距光軸を走査し、物体までの距離を出力するものであるから、前者の「レーザ測距装置部」に相当し、後者の「離隔計算サブシステム」は、送電線及び樹木に対する走査光学系(スキャナ)のスキャニング角度と距離を用いて、送電線と樹木との離隔を検出するものであるから、前者の「データ処理解析部」に相当する。
上記スキャニングは、測距光軸を走査することにより経時的になされるものであり、送電線と樹木との離隔を求めるためには、送電線及び樹木に対するスキャニング角度と距離を記憶しておかなければならないから、明示はないものの、後者も、前者の「記録部」に相当する構成を有してしているものと認められ、また、後者も、スキャニングによる測距と測距データの記憶との連携を取るための制御が必要であることは明らかであるから、後者も、前者の「制御部」に相当する構成を有しているものと認められる。そして、それぞれの構成は、それらに関連するサブシステムがヘリコプターに搭載されているのであるから、同様にヘリコプターに搭載されているものと認められる。
後者の「パルス・レーザ測距儀が、ヘリコプターに取り付けられたジャイロ架台に組み込まれている」点についてみると、「ジャイロ架台」は、ヘリコプターの平行運動及び回転運動に拘わらず、パルス・レーザ測距儀を重力方向に対し一定の方向に支持するものであり、パルス・レーザ測距儀の各スキャニング面は、互いに平行になり、各スキャニング面において得られた送電線及び樹木に対するスキャニング角度は、ヘリコプターの平行運動及び回転運動に依存しないものと認められる。したがって、後者のパルス・レーザ測距儀をジャイロ架台に組み込む点と、前者の「ヘリコプターの機軸方向を含め互いに直交する3軸方向についての前記ヘリコプターの平行運動データ及び前記3軸を中心とした回転運動データを取得するためのジャイロ加速度計部を有し、レーザ測距光軸を前記ヘリコプターの機軸に垂直な面内で走査しながら、振れ角と前記ヘリコプターの飛行経路によって作られる面内を広がり角に相当する面分解能でレーザビームを照射することにより取得され、データ処理解析部において処理される距離データ及びスキャン角度データを、該距離データ及びスキャン角度データの取得と並行して取得される前記平行運動データ及び回転運動データで補正」する点とは、ともに、「ヘリコプターの平行運動及び回転運動に依存しない距離データ及びスキャン角度データを取得する手段を設ける」点で共通する。
後者の「送電線と樹木の離隔を測定するシステム」は、前者の「接近樹木離隔検出装置」に相当する。
したがって、両者は、
「測距光軸を走査する機能を有し、スキャナによりレーザ測距光軸を所定の振れ角で走査してレーザビームを照射することにより、前記レーザ測距光軸の走査軌跡に沿って前記レーザビームを照射するレーザ測距装置部と、前記レーザ測距装置部から出力される距離データ、及び走査光学系のスキャン角度データを記録する記録部と、前記レーザ測距装置部及び前記記録部を制御する制御部と、前記記録部によって記録された距離データ、スキャン角度データを処理し、送電線と前記送電線に接近する障害物間の離隔距離データを出力するデータ処理解析部とを有し、前記レーザ測距装置、記録部、制御部をヘリコプターに搭載し、前記振れ角と前記ヘリコプターの飛行経路によって作られる面内を前記レーザビームを照射することにより取得され、前記データ処理解析部において処理される前記距離データ及びスキャン角度データから、ヘリコプターの平行運動及び回転運動に依存しない距離データ及びスキャン角度データを取得する手段を設け、送電線と樹木との離隔を検出できるようにした接近樹木離隔検出装置。」である点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点1]
前者の「レーザ測距装置部」が、「スキャナによるレーザ測距光軸の振れ角をθ、1フレーム当たりのデータ数をDとしたとき、走査するレーザビームをθ/D以上の広がり角で照射することにより、前記レーザ測距光軸の走査軌跡に沿って抜けなく前記レーザビームを照射する」とともに「前記広がり角に相当する面分解能で前記レーザビームを照射する」のに対し、後者の「パルス・レーザ測距儀」は、レーザ光を連続的にスキャニングするものではあるものの、振れ角及び1フレーム当たりのデータ数と広がり角との関係について記載されていない点。
[相違点2]
前者が、ヘリコプターの機軸方向を含め互いに直交する3軸方向についての前記ヘリコプターの平行運動データ及び前記3軸を中心とした回転運動データを取得するためのジャイロ加速度計部を有し、レーザ測距光軸を前記ヘリコプターの機軸に垂直な面内で走査し、距離データ及びスキャン角度データを、該距離データ及びスキャン角度データの取得と並行して取得される前記平行運動データ及び回転運動データで補正しているのに対し、後者は、ジャイロ架台及びGPSを設けているものの、ヘリコプターの機軸に垂直な面内で必ずしもレーザの走査がなされるというものではなく、前者のような補正は行っていない点。
[相違点3]
前者が、フレームをつなぎ合わせて前記送電線下の状況の3次元画像を作成し、前後のフレームも含めて送電線のある点からの最接近位置を検出できるようにしているのに対し、後者は、このような構成を有していない点。

(3)各相違点についての判断
[相違点1]について
本件発明の振れ角及び1フレーム当たりのデータ数と広がり角との関係は、隣接するレーザービームが重なりを持つための条件及び面分解能を規定するものであり、上記関係を満たすことにより、所定の面分解能で「レーザ測距光軸の走査軌跡に沿って抜けなく前記レーザビームを照射する」こととなるものである。
他方、参考文献1には、「2つの接触するフットプリントが、走査ビームのラウンドトリップ移動時間tRTに対応する距離eだけ離れていることが示されている。」との記載があり、隣接するレーザビームが重なりを有すること、及び、所定の面分解能を有することが示されているから、結局、参考文献1には、相違点1に係る構成が実質的に示されているものと認められる。
したがって、甲第2号証記載の発明に、このような参考文献1に示される技術事項を適用して、相違点1に係る構成とすることは当業者が容易に推考しうることと認められる。

[相違点2]について
前者の「補正」に関して、上記判決には次のように判示されている。
「本件発明における「補正」は「フレームをつなぎ合わせ」る前段階で行われるものであるところ,ヘリコプターの回転運動データによる補正がなされると,理論的にみて,各フレームにおいて,データ取得時のヘリコプターの姿勢が考慮されることとなり,実際の測定点の位置が,ヘリコプターに対する相対位置として定められることになる。換言すれば,距離データ及びスキャン角度データからなる2次元データが,ヘリコプターに対する測定点の相対位置である3次元データに補正されることになる。また,ヘリコプターの平行運動データによる補正がなされると,理論的にみて,データ取得時のヘリコプターの飛行位置が考慮されることとなり,実際の測定点の位置が,ヘリコプターの飛行経路と同一の座標系における絶対位置として特定されることになる。」(33頁9行〜18行)
そして、甲第2号証におけるスキャニングデータの共通座標系への変換による3次元的比較の必要性に関して、次のように判示された。
「甲2には,「地上プロフィールという絶対的位置」を測定すること,「3次元データを得る」こと,「前後のスキャニング面の距離データをいっしょに議論する」こと,「すべての測距データを共通の測地座標系に変換する」ことが記載されているということはできない。
(d) しかしながら,甲2のヘリコプターは,飛行しながら計測を行うのであるから(上記(b-3)) ,技術常識に照らしても,1回のスキャンで送電線に最も近接する樹木の特定ができるとは考えられない。また,甲2には「今回の結果より,ヘリコプターから連続的に地上までの垂直距離を実測し,架空送電線の高さはもとより,地上樹木等の高低差を精度良く計測できる可能性を示せた」(上記(b-4))と記載され,送電線と樹木との離隔の他にも,架空送電線の高さや地上樹木等の高低差をも計測できることが示されているのであって,これらを含めて計測しようとするなら,一つのスキャニング面でのデータを取得するだけでは足りず,複数のスキャニング面でのデータを3次元的に比較する必要があることは明らかである。
また,甲10には,プロファイルの測定においては,レーザ送出方向をスキャンすることによって,2次元,3次元データを得ること,及び3次元データに対しては鳥かん図方式の表示が有効であることが説明されているから(20頁左欄37行〜21頁左欄6行),上記の場合において,複数のスキャニング面のそれぞれから3次元データを得て,それを3次元画像とすることも,当業者ならば普通に考慮することといえる。
そうであれば,甲2においても,飛行しながら複数回のスキャンを行い,複数のスキャニング面から必要なデータを得る必要のあること,また,これらのデータを3次元データないし3次元画像に加工した上で計測する必要のあることは,当業者が容易に理解し得ることというべきであり,甲2発明では,「3次元データを得る必要性」がない(上記(B))とか,「前後のスキャニング面の距離データをいっしょに議論する必要」がない(上記(C))ということはできない。
(e) また,上記甲2における地表断面図に基づいて,送電線と樹木との離隔を検出したとしても,スキャニング面の位置が特定できなければ,地上における樹木の位置が特定できないことは明らかである。甲2において,パルス・レーザ測距儀をジャイロ架台に組み込み,GPSによる位置表示システムを採用するのは,スキャニング面の位置を特定するためであると解される(上記(b-2)(b-3),甲2の6頁第3図)。
そして,甲1,4及び5には,航空機からのレーザ測距データを,GPS及びINSからの信号に基づいて測地座標系といった共通の座標系に変換し,地上プロフィールを得るシステムが記載されているところ,共通の座標系に変換する理由として,「地上のレーザ点の座標は地上座標系で計算されるがそのためにはレーザビームの完全な定位(即ち,位置と姿勢)が知られなければならない」とし,これに引き続いて説明がされており(甲1の151頁1〜8行,抄訳1頁下から4行〜2頁12行),レーザビームの完全な定位(これにより,スキャニング面の位置も特定される)を知らないと,レーザ点を特定できないことは明らかである。
そうであれば,甲2において,データを測地座標系といった共通の座標系に変換する必要のあることは,当業者が普通に理解できることであるから,甲2発明は,「 地上プロフィールという絶対的位置」を測定するものではない(上記(A) とか,「すべての測距データを共通の測地座標系に変換する必然性」がない(上記(D))ということもできない。
この点に関し,被告らは,地図の作成を目的とするプロファイラー装置は,本件発明とは,明らかに別異の技術である旨を主張する。しかし,本件発明において,相対的位置関係を把握するだけでは,樹木を特定するに至らないことは上記のとおりであるし,測定間隔は,測定の目的に応じて,適宜設定されるべきものであるから,本件発明がプロファイラー装置と別異の技術であるということはできない。
(f) 以上のように,周知技術を勘案しつつ甲2発明を理解すれば,「地上プロフィールという絶対的位置」を測定すること,「3次元データを得る」こと,「前後のスキャニング面の距離データをいっしょに議論する」こと,「すべての測距データを共通の測地座標系に変換する」ことが,甲2発明にも本来的に予定されているものと解すべきであって」(38頁4行〜40頁5行)
また、本件発明のジャイロ加速度計部と、甲第2号証記載の発明のジャイロ架台及びGPSとの対比についても、以下のように判示された。
「本件発明におけるジャイロ加速度計部は,飛行体の平行運動データ,回転運動データを取得するための周知の手段と認められるし(甲1,4及び5),甲2において,測定データを測地座標系といった共通の座標系に変換する必要があることは明らかであるから,甲2発明において,GPS,ジャイロ架台に代え,上記周知の手段を採用することは,当業者が容易に想到し得ることというべきである。」(44頁8行〜12行)

上記判示内容に従えば、相違点2に係る構成は、当業者が容易に想到し得ることと認められる。

[相違点3]について
相違点3に関して、上記判決において次のように判示された。
「(a) 前記1で前判示したとおり,本件発明における構成A(当審注;相違点3に係る構成)は,ヘリコプターの平行運動データ及び回転運動データにより測定データを補正して得られる各測定点の3次元データを,周知の手法により,フレームをつなぎ合わせて3次元画像を作成し,周知の方法により,画像データないし3次元位置データに基づいて送電線のある点と樹木との最接近位置を検出できるようにしたということを意味するものと解される。本件発明においては,最接近位置の検出のための特別の処理がされるものとは解されないことも,前判示のとおりである。
(b) そして,既に判示したとおり,甲2発明において,複数のスキャニング面のそれぞれから3次元データを得ること,得られたデータを測地座標系といった共通の座標系に変換すること,変換したデータを3次元画像とすることは,いずれも業者が普通に考慮することであるというべきである。
また,3次元データを共通の座標系に変換すると,測定点の位置が上記座標系において特定されることになり,また,測定点間の距離は,測定点の位置から計算によって容易に求めることができるのであるから,送電線に対する最接近樹木の位置も容易に定まるといえる。
そうであれば,本件発明の構成Aは,容易に想到し得たものというべきである。」(40頁〜41頁6行)
当審における相違点3についての判断は、裁判所の上記判断に拘束されるものである。
したがって、相違点3に係る構成は、容易に想到し得たものと判断する。

(4)無効理由1(29条2項違反)についての結論
以上のとおり、本件発明は、甲第2号証記載の発明、参考文献1記載の技術事項及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。


第8.むすび
以上のとおりであるから、特許第3179254号の請求項1に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであって、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2003-12-17 
結審通知日 2006-06-20 
審決日 2005-04-19 
出願番号 特願平5-192188
審決分類 P 1 122・ 531- Z (G01B)
P 1 122・ 534- Z (G01B)
P 1 122・ 121- Z (G01B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 岡田 卓弥  
特許庁審判長 上田 忠
特許庁審判官 杉野 裕幸
瀧 廣往
小川 浩史
山口 敦司
登録日 2001-04-13 
登録番号 特許第3179254号(P3179254)
発明の名称 接近樹木離隔検出装置  
代理人 田中 久子  
代理人 田中 常雄  
代理人 臼田 保伸  
代理人 臼田 保伸  
代理人 鈴木 康夫  
代理人 鈴木 康夫  
代理人 大野 聖二  

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