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審決分類 |
審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 B41J 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J |
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管理番号 | 1142618 |
審判番号 | 不服2003-21218 |
総通号数 | 82 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2003-06-03 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2003-10-31 |
確定日 | 2006-08-25 |
事件の表示 | 特願2002-361869「インクジェットプリンタ用インクカートリッジ」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 6月 3日出願公開、特開2003-159814〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は平成7年4月20日に出願された特願平7-119289号(優先権主張 平成6年9月16日)の一部を特許法44条1項の規定により新たな特許出願としたものであって、平成15年9月18日付けで拒絶の査定がされたため、これを不服として同年10月31日付けで本件審判請求がされるとともに、同年11月26日付けで明細書についての手続補正(平成6年改正前特許法17条の2第1項5号の規定に基づく手続補正であり、以下「本件補正」という。)がされたものである。 第2 補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成15年11月26日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1.補正事項 本件補正は、補正前請求項7の「・・・舌片部とにより構成されているインクカートリッジ。」との記載を「・・・舌片部とにより構成され、前記舌片部の引き剥がしにより前記蛇行溝と前記非通気性シール材の本体部とで形成される流路を介して大気に開放されるインクカートリッジ。」と補正すること(以下「補正事項」という。)を含んでいる。 2.補正目的違反 補正事項が「請求項の削除」(平成6年改正前特許法17条の2第3項1号)又は「誤記の訂正」(同項3号)の何れにも該当しないことは明らかである。 補正事項により「前記舌片部の引き剥がしにより前記蛇行溝と前記非通気性シール材の本体部とで形成される流路を介して大気に開放される」との文言が追加されたが、同文言はインクカートリッジ使用時における非通気性シール材の取扱い(「前記舌片部の引き剥がしにより」との部分)及び同取扱いの結果(「前記蛇行溝と前記非通気性シール材の本体部とで形成される流路を介して大気に開放される」との部分)を述べたにすぎず、補正前発明の構成に欠くことができない事項の全部又は一部を限定するものではないから、「特許請求の範囲の減縮」(平成6年改正前特許法17条の2第3項2号)にも該当しない。 補正前の請求項7の記載が明りようでないとか、本件補正により明りようになったと解することもできないばかりか、仮に補正事項が明りょうでない記載の釈明を目的とするとしても、「拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。」との条件に該当しないから、平成6年改正前特許法17条の2第3項4号にも該当しない。 以上のとおり、補正事項を含む本件補正は、平成6年改正前特許法17条の2第3項の規定に違反している。 [補正の却下の決定のむすび] 本件補正は、平成6年改正前特許法17条の2第3項の規定に違反しているから、同法159条1項で読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下されなければならない。 第3 本件審判請求についての判断 1.本願発明の認定 本件補正は却下されたから、本願の請求項7に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成15年7月25日付けで補正された明細書の特許請求の範囲【請求項7】に記載されたとおりの次のものと認める。 「記録ヘッドにインクを供給するインク供給口を備えた容器本体と、 前記容器本体を封止することによりインクを収容する部屋を形成すると共に、前記部屋に連通する貫通孔と、大気と連通する大気連通口と、一端が前記貫通孔に連通し、他端が大気連通口に連通する蛇行溝と、が形成された蓋体と、 前記貫通孔、蛇行溝及び大気連通口を封止する非通気性シール材とを備え、 前記非通気性シール材が、前記貫通孔及び前記蛇行溝を封止する本体部と、前記本体部に括れ部を介して接続されて前記大気連通口を開封可能に封止する舌片部とにより構成されているインクカートリッジ。」 2.引用刊行物の記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された特開平4-144755号公報(以下「引用例」という。)には、以下のア〜オの記載又は図示がある。 ア.「ノズルよりインク滴を吐出して記録媒体に記録を行なうインクジェット記録装置のインクタンクにおいて、上端に設けた空気室と、前記空気室と外気を連通する通気孔と、前記通気孔に連通する通気溝とを設けた上蓋と、前記通気孔と前記通気溝を覆うシール部材とから構成されたことを特徴とするインクタンク。」(1頁左下欄5〜11行) イ.「インクタンクの上端に設けられた空気室と、空気室と外気を連通する通気孔と通気溝を設けた上蓋と、通気孔と通気溝を覆うガスバリヤー性の高いシール部材を設けたことで、外気と空気室の連通構成距離が長くなり、シール部材のガスバリヤー性も加わわって、インクの蒸発を極力防止し、インク成分の経時変化を抑えることが達成できたので、良好な印字品質を維持できる。又、外気と空気室の連通構成距離が長くできたので、インクタンクの落下や減圧状態においても、インクが通気溝から漏れ出ることはない。」(2頁左下欄15行〜右下欄5行) ウ.「第1図及び第2図は本発明の一実施例を示す概略断面図及び概略上面図である。タンクケース1内には多孔質のフオーム2が挿入されており、インク3が含浸されている。タンクケース1の下端にはインク3の漏れ防止用にゴム栓4が設けられている。印字ヘッド5にはインク3を導く中空針6が設けられており、ゴム栓4を貫いてタンクケース1内に挿入されている。一方、タンクケース1の上部には上蓋9が設けられ、上蓋9のリブ9dはフオーム2を押さえるように位置し、空気室8が設けられている。又、上蓋9には、通気孔9b及び通気溝9cが付属している。空気室8と通気孔9bは連通し、通気孔9bと通気溝9cは連通する構成になっている。シール10は通気孔9b及び通気溝9cを覆い、又通気溝9cの1部が外気と連通するように貼付されている。したがって、空気室8と外気は連通する構成になっており、通気溝9cは距離の長い通気孔を構成する状態になっている。本実施例では、通気孔9bは穴径D1=φ1〜φ2mm、長さL1=3mm程度、通気溝9cは幅W=0.8mm、溝深さH=0.6mm、長さL2=20〜50mm程度であり、プラスチック成形品であっても容易に製作できる。」(2頁右下欄7行〜3頁左上欄9行) エ.「シール10はアルミ箔のラミネートフィルムに限定されるものではなく、アルミ蒸着フィルム、ガスバリヤー性の高いプラスチックフィルム(例えば、ポリビニルアルコール系、ポリ塩化ビニリデン系、ナイロン系等のフィルム)、又はこれらの組合せによって構成されてもよい。」(3頁左上欄19行〜右上欄5行) オ.第2図には、通気溝9cが通気孔9bから蛇行した後直線状となっており、蛇行部分をシール部材が覆い、シール部材で覆われない直線状部分がある様子が図示されている。 3.引用例記載の発明の認定 記載イ,エによれば、記載アのシール部材はガスバリヤー性である。 記載ウによれば、インクタンクは「タンクケース」と「上蓋」からなるものであり、印字ヘッドの中空針がタンクケース下端のゴム栓を貫くものである。 したがって、記載又は図示ア〜オを含む引用例の全記載及び図示によれば、引用例には次のような発明が記載されていると認めることができる。 「タンクケースと上蓋からなり、ノズルよりインク滴を吐出して記録媒体に記録を行なうインクジェット記録装置のインクタンクにおいて、 前記タンクケース上端には空気室が設けられており、 前記タンクケース下端にはゴム栓が設けられ、印字ヘッドの中空針が前記ゴム栓を貫くように構成されており、 前記上蓋には、前記空気室と外気を連通する通気孔と、前記通気孔に連通する通気溝とを設けた上蓋と、前記通気孔と前記通気溝を覆うガスバリヤー性のシール部材とから構成されており、 前記通気溝は前記通気孔から蛇行した後直線状となっており、蛇行部分をシール部材が覆うインクタンク。」(以下「引用発明」という。) 4.本願発明と引用発明との一致点及び相違点の認定 引用発明の「印字ヘッド」、「タンクケース」、「上蓋」、「通気孔」、「ガスバリヤー性のシール部材」及び「インクタンク」は、本願発明の「記録ヘッド」、「容器本体」、「蓋体」、「貫通孔」、「非通気性シール材」及び「インクカートリッジ」にそれぞれ相当する。なお、引用発明の「上蓋」が「容器本体を封止することによりインクを収容する部屋を形成する」ことは自明であり、「通気孔」が空気室に連通することは「インクを収容する部屋」に連通することでもあり、「シール部材が覆う」ことと「封止する非通気性シール材とを備え」ることに相違はない。 引用発明では「印字ヘッドの中空針が前記ゴム栓を貫くように構成されて」いるのだから、タンクケース下端部には印字ヘッドにインクを供給するインク供給口が備わっている。 引用例の第1図及び第2図は一実施例の概略断面図及び概略上面図であり、第1図では印字ヘッドの中空針がゴム栓を貫通する様子が図示されているから、第2図も第1図同様、印字ヘッドに装着した状態でのインクタンクと解すべきである。そして、引用発明の「通気溝」は、本願発明の「大気連通口」と「蛇行溝」を併せたものに相当し、「通気溝」のうち、シール部材が覆う蛇行部分が「蛇行溝」に相当し、印字ヘッド装着状態でシール部材が覆わない直線状部分が「大気連通口」にそれぞれ相当する。 したがって、本願発明と引用発明とは、 「記録ヘッドにインクを供給するインク供給口を備えた容器本体と、 前記容器本体を封止することによりインクを収容する部屋を形成すると共に、前記部屋に連通する貫通孔と、大気と連通する大気連通口と、一端が前記貫通孔に連通し、他端が大気連通口に連通する蛇行溝と、が形成された蓋体と、 前記貫通孔及び蛇行溝を封止する非通気性シール材とを備えたインクカートリッジ。」である点で一致し、次の点で相違する。 〈相違点〉本願発明の「非通気性シール材」は大気連通口をも封止するものであり、「前記非通気性シール材が、前記貫通孔及び前記蛇行溝を封止する本体部と、前記本体部に括れ部を介して接続されて前記大気連通口を開封可能に封止する舌片部とにより構成されている」のに対し、引用発明が同構成を有するとはいえない点。 なお、本件補正は却下されなければならないが、仮に却下しないとしても、「前記舌片部の引き剥がしにより前記蛇行溝と前記非通気性シール材の本体部とで形成される流路を介して大気に開放される」との構成は、上記相違点に係る構成を備えておれば、「舌片部の引き剥がし」という操作を行うことにより「前記蛇行溝と前記非通気性シール材の本体部とで形成される流路を介して大気に開放される」のだから、引用発明との別途の相違点を構成するものではない。すなわち、本件補正を却下するしないにかかわらず、本願発明と引用発明との実質的な相違点は、上記認定の点のみである。 5.相違点についての判断及び本願発明の進歩性の判断 引用例の第2図が、印字ヘッドに装着した状態での図であることは4.で述べたとおりであり、印字ヘッド装着前、すなわち未使用状態において、同図でシール部材が覆っていない直線状の通気溝部分(以下では、本願発明の用語に合わせて「大気連通口」ということがある。)がどうなっているのかについて、引用例には一切記載がない。 しかし、インクタンクの技術においては、使用時に大気と連通する部分を、未使用時には連通させないよう構成することが周知であるから、引用例に接した当業者であれば、引用発明においても、未使用時には大気連通口を封止してあるものと理解すべきである。百歩譲って、そのように理解できないとしても、設計事項の域を出るものではない。そして、引用発明の大気連通口は通気溝の一部であり、同じく通気溝の一部である蛇行部分はガスバリヤー性のシール部材で覆っているのだから、大気連通口を封止するに際してもガスバリヤー性のシール部材で覆うと考えるのが最も自然である。 もっとも、インクタンク未使用状態において、通気溝全体をガスバリヤー性のシール部材で覆うとしても、その覆い方はひととおりではなく、蛇行部分を覆うシール部材を設けてから、それ以外の部分を覆う別のシール部材を設けるやり方(以下「前者」という。)と、通気溝全体を単一のシール部材で覆ってから、蛇行部分を覆うシール部材を残すやり方(以下「後者」という。)が自明に考えられる。本願発明はこのうち後者を採用したものであるが、後者採用に当たって格別の創意工夫を要するのであれば、後者採用が想到容易とはいえないが、格別の創意工夫を要さないのであれば想到容易というべきである。 そこで、後者採用に当たって格別の創意工夫を要するかどうか検討する。単一のシール部材で通気溝全体を覆う場合に重要なことは、シール部材の一部を剥離した際に、蛇行部分を完全に覆うが、直線状部分はその少なくとも先端が露出することである。換言すれば、シール部材の一部を剥離する際に、残存部分と剥離部分の境界が直線状部分に合致することである。 単一部材のシート状物を2部材に切り離すに当たり、切り離し位置を規制するために括れ部を形成し、その括れ部で切り離されるようにすることは周知である(例えば、実願平1-78265号(実開平3-18576号)のマイクロフィルム、実願昭49-109819号(実開昭51-37477号)のマイクロフィルム、実願昭52-82702号(実開昭54-10488号)のマイクロフィルム、実願昭53-62578号(実開昭54-165265号)のマイクロフィルム(第4図の切目9のある部分が括れ部に相当する。)、実願昭52-172291号(実開昭54-98420号)のマイクロフィルム(昭和53年9月9日付け手続補正書第1図の切込4のある部分が括れ部に相当する。)又は実願昭62-75698号(実開昭63-183068号)のマイクロフィルムを参照。)。 他方、引用例第2図には正方形に近い矩形状のシール部材が図示されており、通気溝の蛇行部分を覆うためにはこのような形状が適切であることがたやすく理解できるとともに、直線状部分は、引用例の記載ウにあるとおり、溝幅がW=0.8mmであるのに対し、長さはL2=20〜50mm程度であるから、極めて幅の狭い矩形状で十分である。 引用発明において後者を採用するには、単一シール部材で直線状部分をもシールしなければならないが、直線状部分の周辺は必ずしもシールする必要がないから、上記周知技術を採用するのに適した状況(残存部分と剥離部分の境界を括れ部とするのに適した状況)であり、そうである以上、上記周知技術を引用発明に適用して後者を採用することには格別の創意工夫を要さない。また、上記周知技術を適用した場合には、括れ部において残存部分と剥離部分に分離されるのであるが、括れ部のどの部分で分離しても確実に、分離部が通気溝の直線状部分となるようにするには、括れ部を直線状部分のさらに一部とすればよいだけであり、直線状部分は相当程度長いから、このようにすることにも格別の創意工夫を要さない。そして、直線状部分の一部を括れ部として上記周知技術を採用した場合には、括れ部を境にして残存部分となる側が本願発明の「本体部」に、それと反対側の部分が本願発明の「大気連通口を開封可能に封止する舌片部」に相当するから、結局のところ、相違点に係る本願発明の構成を採用することは当業者にとって想到容易である。 また、相違点に係る本願発明の構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。 したがって、本願発明は引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 第4 むすび 本件補正は却下されなければならず、本願発明が特許を受けることができない以上、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2006-06-27 |
結審通知日 | 2006-06-28 |
審決日 | 2006-07-11 |
出願番号 | 特願2002-361869(P2002-361869) |
審決分類 |
P
1
8・
57-
Z
(B41J)
P 1 8・ 121- Z (B41J) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 後藤 時男 |
特許庁審判長 |
津田 俊明 |
特許庁審判官 |
長島 和子 島▲崎▼ 純一 |
発明の名称 | インクジェットプリンタ用インクカートリッジ |
代理人 | 木村 勝彦 |