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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1142764
審判番号 不服2006-6070  
総通号数 82 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2004-11-04 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-03-31 
確定日 2006-08-28 
事件の表示 特願2004-219338「印刷装置および印刷方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年11月 4日出願公開、特開2004-306617〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成8年1月26日に出願(先の出願に基づく優先権主張 平成7年4月27日)された特願平8-12112号の一部を特許法44条1項の規定により新たな特許出願としたと主張して出願されたものであって、平成18年2月23日付けで平成17年7月29日付け手続補正が却下されるとともに拒絶の査定がされたため、これを不服として平成18年3月31日付けで本件審判請求がされるとともに、同年4月26日付けで特許請求の範囲についての手続補正(特許法17条の2第1項4号の規定に基づく手続補正であり、以下「本件補正」という。)がされたものである。

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成18年4月26日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正事項
本件補正前後の【請求項1】の記載は次のとおりである。
補正前請求項1:
「印刷ヘッドが印刷媒体の表面を主走査及び副走査することにより前記印刷媒体の表面に印刷を行う装置において、
前記印刷ヘッドの前記印刷媒体に対面する箇所に副走査方向に複数個のドット形成要素を配列してなるドット形成要素アレイと、
前記印刷ヘッドの主走査を行う主走査駆動手段と、
前記主走査の最中に前記ドット形成要素アレイを駆動するヘッド駆動手段と、
印刷品位の異なる複数の印刷モードの中からユーザ所望の印刷モードを選択する印刷モード選択手段と、を備え、
前記印刷モード選択手段によって高品位の印刷モードが選択された場合の主走査方向の連続ラインを印刷するのに要する主走査の繰り返し回数は、低品位の印刷モードが選択された場合の前記繰り返し回数以上であることを特徴とする印刷装置。」
補正後請求項1:
「印刷ヘッドが印刷媒体の表面を主走査及び副走査することにより前記印刷媒体の表面に印刷を行う装置において、
前記印刷ヘッドの前記印刷媒体に対面する箇所に副走査方向に複数個のドット形成要素を配列してなるドット形成要素アレイと、
前記印刷ヘッドの主走査を行う主走査駆動手段と、
前記主走査の最中に前記ドット形成要素アレイを駆動するヘッド駆動手段と、
印刷品位の異なる複数の印刷モードの中からユーザ所望の印刷モードを選択する印刷モード選択手段と、を備え、
前記印刷モード選択手段によって高品位の印刷モードが選択された場合の主走査方向の連続ラインを印刷するのに要する主走査の繰り返し回数、及び前記ドット形成要素の中心点間距離を印刷画像のドットピッチで除算した値を示す要素ピッチkは、低品位の印刷モードが選択された場合の前記繰り返し回数及び前記要素ピッチkの値以上であることを特徴とする印刷装置。」
要するに、「印刷モード選択手段によって高品位の印刷モードが選択された場合」の「ドット形成要素の中心点間距離を印刷画像のドットピッチで除算した値を示す要素ピッチk」が低品位の印刷モードが選択された場合のそれ以上である旨限定する(以下「本件補正事項」という。)ものである。

2.補正目的違反
「ドット形成要素の中心点間距離」は印刷モードに無関係の一定値であるから、高品位の印刷モードの「印刷画像のドットピッチ」が低品位の印刷モードのもの以上である旨、換言すれば、高品位印刷モードの副走査方向解像度が低品位印刷モードのそれ以上である旨限定するものである。そのことは、「ヘッド駆動手段」や副走査駆動手段(補正前後の請求項1に直接記載はないけれども、当然備えているものと認める。)について限定するものでもある。
補正前の請求項1には、高品位の印刷モードと低品位の印刷モードの関係につき、高品位印刷モードの「主走査方向の連続ラインを印刷するのに要する主走査の繰り返し回数」(以下、単に「繰り返し回数」ということがある。)が低品位の印刷モードの繰り返し回数以上である旨記載されていた。
本願明細書(出願後補正されていない。)には、「カラーインクジェットプリンタにおける画質改善を目指した別の技術として、・・・「シングリング」又は「マルチスキャン」などと呼ばれる技術がある。このシングリングは、異なる色インクを噴射する複数本のノズルアレイを主走査方向に並列してなる印刷ヘッドを用い、1回の主走査では、それらノズルアレイを間欠的タイミングで駆動することにより主走査方向に一定ドット数おきにドットを形成し、かつ、各ノズルアレイがそれぞれ異なるドット位置にドット形成するようにする。そして、このような主走査を複数回、その都度ノズル駆動タイミングをずらして、繰り返すことにより、主走査方向に連続したライン上の全ドットの形成を完成させる。」(段落【0004】)及び「シングリングでは、同一回の主走査で異なる色のインクドットが同一位置に重ねて形成されることがないため、異なる色インクのドット同士が一体化して画質を劣化させる所謂インクブリードの問題が改善される。」(段落【0005】)との各記載があるから、補正前請求項1に係る発明(以下「補正前発明」という。)の課題は、インクブリードの問題をより改善した高品位の印刷モードと、その改善の度合いが比較的乏しい低品位の印刷モードを選択可能とすることにある。
これに対し、解像度が高いことは、高品位であることの一種ではあろうが、インクブリードの問題とは別問題・別課題である。そうすると、補正後請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)の課題は、解像度及びインクブリードの問題をより改善した高品位の印刷モードと、それら改善の度合いが比較的乏しい低品位の印刷モードを選択可能とすることにあり、解像度が加わっているため、補正前発明と同一課題と認めることはできない。
したがって、本件補正は発明の課題を追加又は変更するものであるから、特許法17条の2第4項2号の「特許請求の範囲の減縮」には該当しない。
また、本件補正が請求項の削除(特許法17条の2第4項1号)、誤記の訂正(同項3号)又は明りようでない記載の釈明(同項4号)の何れをも目的としないことは明らかである。
以上のとおりであるから、本件補正は特許法17条の2第4項の規定に違反している。

3.独立特許要件欠如その1
仮に、本件補正が特許請求の範囲の減縮を目的とした場合の判断を本項以下でしておく。その場合、補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるかどうかが問題となる
(1)補正発明の認定
補正発明は、本件補正に補正された特許請求の範囲の【請求項1】に記載された事項によって特定されるものであり、本件補正後の【請求項1】の記載は1.で述べたとおりである。

(2)引用刊行物記載の発明その1
本件出願前に頒布された特公平3-56186号公報(以下「引用例1」という。)には、
「一様に離隔され、kDだけ離したノズルを有する複数のノズルNt(ここで、Dはペル間隔の幅、Ntはアレイ上のノズル数のうちのプリントに使用されるノズル数、kは整数である)を含む単一のアレイと、プリントヘツドを記録媒体に対して連続して通過させる手段と、前記プリントヘツドが前記記録媒体を通過する毎に前記プリントヘツドをNt×ペル間隔幅Dだけ並進させる手段と、印刷ライン上に1ペル間隔幅Dだけ並進させる手段と、印刷ライン上に1ペル間隔幅Dだけ離して印刷するために印刷データを処理する手段と、前記プリントヘツドによつて種々の解像度を制御する制御手段とを有するインターレース式のインクジエツト・プリンタにおいて、
前記制御手段は、
新しい解像度R’を(k’/k)R(ここで、Rは古い解像度)に等しくするために擬似ペル間隔幅D’をD’=(k/k’)D(ここで、k’は整数で、Ntと共通因数を有しない)に設定する設定手段と、
前記プリントヘツドが前記記録媒体を通過する毎に前記プリントヘツドをNt×擬似ペル間隔幅D’だけ並進するように前記並進手段を制御するために前記設定手段に応動する並進手段と、
印刷ライン上に使用するノズル数Ntにより1擬似ペル間隔幅D’だけ離して印刷するために前記印刷データを処理するように前記印刷データ処理手段を制御するために前記設定手段に応動するデータ制御手段とを備えたことを特徴とするインクジエツト・プリンタ。」との発明(以下「引用発明1」という。)が記載されている。

(3)補正発明と引用発明1との対比
引用発明1の「1ペル間隔幅」と補正発明の「印刷画像のドットピッチ」が同一であることは明らかである。
引用発明1において「プリントヘツドを記録媒体に対して連続して通過させる」こと及び「プリントヘツドをNt×ペル間隔幅Dだけ並進させる」ことは、補正発明でいう「主走査」及び「副走査」と異ならず、引用発明1は「印刷ヘッドの主走査を行う主走査駆動手段」を備えている。
引用発明1の「複数のノズル」はアレイ上にあるから、これらノズル(又は各ノズル毎のインク吐出機構)は本願発明の「ドット形成要素」に、複数のノズル全体が「ドット形成要素アレイ」にそれぞれ相当し、複数のノズルがプリントヘツド(印刷ヘッドに相当)の記録媒体(印刷媒体に相当)に対面する箇所に副走査方向に配列されていることは明らかである。そして、引用発明1が「主走査の最中に前記ドット形成要素アレイを駆動するヘッド駆動手段」を備えた「印刷ヘッドが印刷媒体の表面を主走査及び副走査することにより前記印刷媒体の表面に印刷を行う装置」であることもいうまでもない。要するに、補正発明の発明特定事項のうち、「印刷ヘッドが・・・駆動するヘッド駆動手段」の部分は、ありふれたシリアルプリンタを特定するものでしかなく、同部分において相違点はあり得ない。
引用発明1では、解像度を設定する(ユーザが設定するものと認める。)ことができ、解像度が異なれば印刷品位が異なるといえるから、引用発明1は「印刷品位の異なる複数の印刷モードの中からユーザ所望の印刷モードを選択する印刷モード選択手段」を備えると認めることができる。この点請求人は、平成16年12月24日付け意見書において「本発明では印刷品位の異なる複数の印刷モードの中からユーザが所望する印刷モードが選択されるのに対して、引用文献1(審決注;特開平5-309874号公報)では、・・・ユーザ自らがマルチスキャン回数そのものを指定する点が明確に相違する。」(2頁10〜14行)と主張しており、引用発明1との関係においても、解像度の設定と印刷品位の異なる印刷モードの選択が異なる旨主張するかもしれないので検討を加える。引用発明1の解像度は自然数k(又はk’)によって定まり、実施例ではk=4,k’=2となっているように、せいぜい数種類しか想定できないから、「設定」と「選択」が異なると解することは困難であり、kの値を設定する手段を「印刷モードを選択する印刷モード選択手段」と異なる旨解することも困難である。百歩譲って、この点が相違するとしても、せいぜい設計事項程度の微差であり、実質的相違点といえるほどのものではない。
引用発明1では「プリントヘツドが前記記録媒体を通過する毎に前記プリントヘツドをNt×ペル間隔幅Dだけ並進させる」のであるから、「主走査方向の連続ラインを印刷するのに要する主走査の繰り返し回数」は解像度によらず1回である。
引用発明1のk又はk’は、補正発明でいう「前記ドット形成要素の中心点間距離を印刷画像のドットピッチで除算した値」と異ならず、k又はk’の大きい方が本願発明の「高品位の印刷モード」に、小さい方が「低品位の印刷モード」に相当し、「値以上」とは値が同一である場合を含むから、「前記印刷モード選択手段によって高品位の印刷モードが選択された場合の主走査方向の連続ラインを印刷するのに要する主走査の繰り返し回数、及び前記ドット形成要素の中心点間距離を印刷画像のドットピッチで除算した値を示す要素ピッチkは、低品位の印刷モードが選択された場合の前記繰り返し回数及び前記要素ピッチkの値以上である」点で、補正発明と引用発明1に相違はない。
したがって、補正発明と引用発明1とは、
「印刷ヘッドが印刷媒体の表面を主走査及び副走査することにより前記印刷媒体の表面に印刷を行う装置において、
前記印刷ヘッドの前記印刷媒体に対面する箇所に副走査方向に複数個のドット形成要素を配列してなるドット形成要素アレイと、
前記印刷ヘッドの主走査を行う主走査駆動手段と、
前記主走査の最中に前記ドット形成要素アレイを駆動するヘッド駆動手段と、
印刷品位の異なる複数の印刷モードの中からユーザ所望の印刷モードを選択する印刷モード選択手段と、を備え、
前記印刷モード選択手段によって高品位の印刷モードが選択された場合の主走査方向の連続ラインを印刷するのに要する主走査の繰り返し回数、及び前記ドット形成要素の中心点間距離を印刷画像のドットピッチで除算した値を示す要素ピッチkは、低品位の印刷モードが選択された場合の前記繰り返し回数及び前記要素ピッチkの値以上であることを特徴とする印刷装置。」である点で一致し、両者に相違点は存在しない。すなわち、補正発明は引用発明1そのものであるから、特許法29条1項3号の規定に該当し、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

4.独立特許要件欠如その2
(1)引用刊行物記載の発明その2
本件出願前に頒布された特開平6-122211号公報(原査定の拒絶の理由に引用された文献であり、以下「引用例2」という。)には、次のア〜エの記載が図示とともにある。
ア.「記録ヘッドの走査方向とは異なる方向に配設された複数の記録要素を備える記録ヘッドを走査して、入力した画像情報をもとに画像を形成する画像形成装置であって、
前記画像情報の内の前記複数の記録要素に応じた記録幅の画像を前記記録ヘッドの1回の走査により形成する第1の形成手段と、
前記複数の記録要素を複数のブロックに分割し、各走査毎に各ブロックの記録要素を切り換えて使用し、前記第1の形成手段により形成される画像を前記記録ヘッドを複数回走査して形成する第2の形成手段と、
前記第1と第2の形成手段のいずれかを選択して画像を形成する選択手段と、
を有することを特徴とする画像形成装置。」(【請求項1】)
イ.「記録ヘッド2aは、記録ヘッド2aの走査方向に直交する方向に128個のノズルが一列に配置されており、記録ヘッド2aの1回の走査により画像を記録できる。即ち、記録ヘッド2aは・・・図1の奥の方に走査しながら記録を行って、1バンド分(約8mm幅)の画像を記録紙上に形成する。・・・1バンド分の画像の記録が終了すると、記録紙を1バンド分、搬送ローラ8,9,10,13により搬送して、次のバンドの記録に備える。」(段落【0013】〜【0014】)
ウ.「記録ヘッド2aのノズルを4つのブロックに分ける。図5に示すように、ノズルのブロックAによる記録された画像は×で表わし、ブロックBのノズルによる記録ドットは四角□、ブロックCのノズルによる記録ドットは三角△、ブロックDのノズルによる記録ドットは円○で表わす。まず、1回目の走査でブロックDのノズルを使って、主走査方向に4画素毎に記録する。この1回目のスキャンによる記録は、501で示されている。・・・次に、記録紙を32画素分、副走査方向に搬送し(本実施例の記録ヘッド2aは128画素なので、全ノズルの1/4だけ搬送すると32画素分となる)、2スキャン目はブロックCのノズルを用いて、ブロックDのノズルによる記録ドットに対して主走査方向に1画素ずれた箇所に、主走査方向に4画素おきにドットを記録する(この様にして記録された画像を502で示す)。次に3スキャン目において、ブロックBのノズルを使用して2スキャン目と同様にして記録を行い(503で示す)、更に4スキャン目ではブロックAのノズルを用いて、同様に記録する(504で示す)ことにより、1バンド幅の記録が終了する。」(段落【0020】〜【0021】)
エ.「操作部406で高画質モードキー602が押されているかをチェックする。この高画質モードキー602の状態に応じて、ヘッド駆動回路307に画素の記録モード(4画素おきか、或いは全画素記録か)を設定する。」(段落【0027】)

記載イは、記載アの「前記画像情報の内の前記複数の記録要素に応じた記録幅の画像を前記記録ヘッドの1回の走査により形成する第1の形成手段」のみを用いた場合の説明であり、記載ウは記載アの「前記複数の記録要素を複数のブロックに分割し、各走査毎に各ブロックの記録要素を切り換えて使用し、前記第1の形成手段により形成される画像を前記記録ヘッドを複数回走査して形成する第2の形成手段」についての説明である。
記載アには「第1と第2の形成手段のいずれかを選択」とあるけれども、「第2の形成手段」には「第1の形成手段」が含まれているから、「第1形成手段のみ又は第2の形成手段のいずれかを選択」の趣旨に解するのが相当である。
記載イによれば、「第1の形成手段」では、総ノズル数相当の1バンド分記録すると、記録紙を1バンド分搬送するのであるから、ノズル(記載アでは「記録要素」)間隔と記録されたドット間隔は等しい。
記載ウによれば、「第2の形成手段」では、1回の走査終了後、各ブロックのノズル数相当分だけ記録紙を副走査方向に搬送するのであるから、やはりノズル間隔と記録されたドット間隔は等しい。
したがって、引用例2には次のような発明が記載されていると認めることができる。
「記録ヘッドの走査方向とは異なる方向に配設された複数の記録要素を備える記録ヘッドを走査して、入力した画像情報をもとに画像を形成する画像形成装置であって、
前記画像情報の内の前記複数の記録要素に応じた記録幅の画像を前記記録ヘッドの1回の走査により形成する第1の形成手段と、
前記複数の記録要素を複数のブロックに分割し、各走査毎に各ブロックの記録要素を切り換えて使用し、前記第1の形成手段により形成される画像を前記記録ヘッドを複数回走査して形成する第2の形成手段と、
前記第1形成手段のみ又は前記第2の形成手段のいずれかを選択して画像を形成する選択手段と、
を有し、
第1の形成手段及び第2の形成手段に共通して、記録されたドット間隔は記録要素間隔と等しくする画像形成装置。」(以下「引用発明2」という。)

(2)補正発明と引用発明2との対比
引用発明2の「記録ヘッド」、「走査方向」、「走査方向とは異なる方向」、「記録要素」及び「画像形成装置」は、補正発明の「印刷ヘッド」、「主走査」方向、「副走査方向」、「ドット形成要素」及び「印刷装置」にそれぞれ相当し、引用発明2も「印刷ヘッドが印刷媒体の表面を主走査及び副走査することにより前記印刷媒体の表面に印刷を行う装置において、前記印刷ヘッドの前記印刷媒体に対面する箇所に副走査方向に複数個のドット形成要素を配列してなるドット形成要素アレイと、前記印刷ヘッドの主走査を行う主走査駆動手段と、前記主走査の最中に前記ドット形成要素アレイを駆動するヘッド駆動手段とを備える印刷装置」と認めることができる。なお、補正発明は「印刷ヘッドが印刷媒体の表面を主走査及び副走査することにより前記印刷媒体の表面に印刷を行う」としているが、主走査はともかくとして、副走査についても、固定された印刷媒体に対して印刷ヘッドが移動するものに限定されると解することは、そのような構成が不可能とまではいえないにしても、技術常識とは相容れないばかりか、本願明細書(出願後補正されていない。)に記載された実施例にも反する(例えば、【図1】には「(紙送り)副走査方向」と記載されている。)から、「主走査及び副走査」とは「印刷ヘッドが印刷媒体」に対して相対的に移動することの意味に解する。
引用例2の記載エにあるように、第2の形成手段を選択して画像を形成すれば、第1形成手段のみにより画像を形成する場合よりも高画質となり、これは「高品位」の一種であるから、引用発明2の「前記第1形成手段のみ又は前記第2の形成手段のいずれかを選択して画像を形成する選択手段」は、補正発明の「印刷品位の異なる複数の印刷モードの中からユーザ所望の印刷モードを選択する印刷モード選択手段」に相当する。
補正発明の「高品位の印刷モード」及び「低品位の印刷モード」に相当するのは、引用発明において第2の形成手段が選択された場合及び第1形成手段のみが選択された場合であって、「主走査方向の連続ラインを印刷するのに要する主走査の繰り返し回数」は、「高品位の印刷モード」では複数回、「低品位の印刷モード」では1回であるから、「高品位の印刷モードが選択された場合の主走査方向の連続ラインを印刷するのに要する主走査の繰り返し回数・・・は、低品位の印刷モードが選択された場合の前記繰り返し回数・・・以上である」点で、補正発明と引用発明2は一致する。
さらに、引用発明2において、「記録されたドット間隔は記録要素間隔と等し」いことは、補正発明の表現に従えば、「ドット形成要素の中心点間距離を印刷画像のドットピッチで除算した値」が1であることであり、「以上」とは同一である場合を含むから、補正発明の「高品位の印刷モードが選択された場合の・・・前記ドット形成要素の中心点間距離を印刷画像のドットピッチで除算した値を示す要素ピッチkは、低品位の印刷モードが選択された場合の・・・前記要素ピッチkの値以上である」ことにも合致する。
したがって、補正発明と引用発明2とは、
「印刷ヘッドが印刷媒体の表面を主走査及び副走査することにより前記印刷媒体の表面に印刷を行う装置において、
前記印刷ヘッドの前記印刷媒体に対面する箇所に副走査方向に複数個のドット形成要素を配列してなるドット形成要素アレイと、
前記印刷ヘッドの主走査を行う主走査駆動手段と、
前記主走査の最中に前記ドット形成要素アレイを駆動するヘッド駆動手段と、
印刷品位の異なる複数の印刷モードの中からユーザ所望の印刷モードを選択する印刷モード選択手段と、を備え、
前記印刷モード選択手段によって高品位の印刷モードが選択された場合の主走査方向の連続ラインを印刷するのに要する主走査の繰り返し回数、及び前記ドット形成要素の中心点間距離を印刷画像のドットピッチで除算した値を示す要素ピッチkは、低品位の印刷モードが選択された場合の前記繰り返し回数及び前記要素ピッチkの値以上であることを特徴とする印刷装置。」である点で一致し、両者に相違点は存在しない。すなわち、補正発明は引用発明2そのものであるから、特許法29条1項3号の規定に該当し、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

5.独立特許要件についての予備的判断
請求人は、「引用文献1(審決注;審決の引用例2)には、上述の要素ピッチに関する記載はない。従って、本発明は引用文献1に記載された発明と同一ではない。」(平成18年4月26日付け手続補正書(方式)2頁下から4行〜3行)と主張している。引用例2に、要素ピッチに関する直接記載がないことは事実であるが、4.で説示したとおり、記載イ,ウ等から簡単に割り出せるものであるから、この主張を採用することはできない。
そうではあるが、補正後請求項1に「繰り返し回数」及び「要素ピッチk」との文言記載があり、最もオーソドックスな印刷モードはこれらが1であることからすると、複数の印刷モードには繰り返し回数が2以上のモード、及び要素ピッチkが2以上のモードが含まれることが前提であるとの主張かもしれないので、この点につき検討する。
特許請求の範囲を解釈するに当たっては、特段の事情がない限り、特許請求の範囲の記載のみに基づくべきであり、同記載からは繰り返し回数が2以上のモード及び要素ピッチkが2以上のモードの存在が前提であると解することはできず、上記3.及び4.の認定判断は妥当であるが、上記2つのモードの存在が前提であるとしても、補正発明は独立特許要件を欠如している。その理由は次のとおりである。
まず第1に、上記2つのモードの存在が前提であることが補正後請求項1に記載されていないから、補正後請求項1の記載は著しく不明確というべきであり、特許法36条6項2号に規定する要件を満たさないとの理由により、補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができない。
次に、上記前提下において、補正発明が進歩性を有するかどうか検討する。上記前提に立てば、補正発明と引用発明1とは「繰り返し回数が2以上のモード」の存在が相違点となり、補正発明と引用発明2とは「要素ピッチkが2以上のモード」の存在が相違点となる。
引用発明1は、要素ピッチkの異なる印刷モードを有し、要素ピッチkが異なれば解像度(特に副走査方向の)が異なる。引用発明2は、繰り返し回数の異なる印刷モードを有し、繰り返し回数が異なれば画質(引用例2の記載エ参照。)が異なる。このように、要素ピッチkと繰り返し回数は、それらを大きくすることにより印刷品位を向上するものであるが、詳細にみれば、印刷品位向上の意味合いは異なり、要素ピッチkと繰り返し回数をともに大きくすれば、解像度と画質がともに向上することになるから、そのようにすることに格別の技術的困難性がない限り当業者にとって想到容易といわなければならない。
ところで、引用発明1はいわゆるインターレース方式を採用して、解像度を変化させるものであるから、これに繰り返し回数が2以上とする印刷モードを採用するに当たっても、インターレース方式は維持すべきであろうから、それが技術的に可能かどうかが問題となる。しかし、本件出願前に頒布された特開平7-25014号公報(特に【図3】に示される第2実施例を参照。)には、インターレース方式を採用して繰り返し回数を2以上とすることが記載されているから、上記格別の技術的困難性があると認めることはできず、高品位印刷モードの繰り返し回数と要素ピッチkをともに、低品位印刷モードの繰り返し回数と要素ピッチk以上とすることは当業者にとって想到容易である。
引用発明2を出発点とした場合には、なお一層容易である。補正発明は、副走査について一定の送り量であることを限定していないからである。副走査の送り量が不均一でよいのなら、ドット形成要素の中心点間距離を要素ピッチkで除した値(すなわち「印刷画像のドットピッチ」)だけ印刷媒体送りを(k-1)回繰り返し、続いてドット形成要素の中心点間距離にドット形成要素を乗じた値から既に移動した距離を減じた量だけ印刷媒体送りをすれば済むからである。
以上のとおり、繰り返し回数が2以上のモード及び要素ピッチkが2以上のモードの存在が前提であるとした場合でも、補正発明は引用発明1及び引用発明2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

[補正の却下の決定のむすび]
以上述べたとおり、本件補正は特許法17条の2第4項の規定に違反しており、同規定に違反しないとしても、同条5項で準用する同法126条5項の規定に違反している。
すなわち、本件補正は特許法159条1項で読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下されなければならない。
よって、補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本件審判請求についての判断
1.本願発明の認定
平成17年7月29日付け手続補正は原審において、本件補正は当審においてそれぞれ却下されたから、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成16年12月24日付けで補正された特許請求の範囲【請求項1】に記載された事項によって特定されるものと認める(「第2 [理由]1」で、補正前請求項1として示したので再掲しない。)。

2.本願発明の新規性の判断
本願発明と引用発明2とは、
「印刷ヘッドが印刷媒体の表面を主走査及び副走査することにより前記印刷媒体の表面に印刷を行う装置において、
前記印刷ヘッドの前記印刷媒体に対面する箇所に副走査方向に複数個のドット形成要素を配列してなるドット形成要素アレイと、
前記印刷ヘッドの主走査を行う主走査駆動手段と、
前記主走査の最中に前記ドット形成要素アレイを駆動するヘッド駆動手段と、
印刷品位の異なる複数の印刷モードの中からユーザ所望の印刷モードを選択する印刷モード選択手段と、を備え、
前記印刷モード選択手段によって高品位の印刷モードが選択された場合の主走査方向の連続ラインを印刷するのに要する主走査の繰り返し回数は、低品位の印刷モードが選択された場合の前記繰り返し回数以上であることを特徴とする印刷装置。」である点で一致し、両者に相違点は存在しない。
すなわち、本願発明は引用発明2そのものであるから、特許法29条1項3号の規定に該当し、特許を受けることができない。

第4 むすび
本件補正は却下されなければならず、本願発明が特許を受けることができない以上、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-07-03 
結審通知日 2006-07-04 
審決日 2006-07-18 
出願番号 特願2004-219338(P2004-219338)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (B41J)
P 1 8・ 575- Z (B41J)
P 1 8・ 572- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 門 良成  
特許庁審判長 津田 俊明
特許庁審判官 藤井 勲
島▲崎▼ 純一
発明の名称 印刷装置および印刷方法  
代理人 特許業務法人ウィルフォート国際特許事務所  

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