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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2008800186 審決 特許
無効2007800097 審決 特許
無効2010800015 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  G02B
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  G02B
管理番号 1142795
審判番号 無効2006-80040  
総通号数 82 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2000-08-15 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-03-09 
確定日 2006-09-01 
事件の表示 上記当事者間の特許第3341741号発明「近赤外線吸収フィルタ-」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3341741号の請求項1〜13に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
特許出願 平成11年12月2日(特願平11一343638号)
(優先権主張平成10年12月3日)
設定登録 平成14年8月23日(特許第3341741号)
特許異議申立 平成15年4月23日〜5月6日(異議2003-71129号、異議申立人:旭硝子(株)、(株)ディスク、日立化成工業(株)、佐藤哲夫、三菱化学(株))
訂正請求 平成16年12月8日
異議決定(維持) 平成17年4月18日
確定登録 平成17年5月18日
審判請求 平成18年3月9日 請求人:住友大阪セメント株式会社
(無効2006-80040号)
請求書副本の送達 平成18年3月29日
(答弁指令)

第2 本件発明
特許第3341741号の請求項1〜13に係る発明(以下「本件発明1」〜「本件発明13」という。)は、訂正明細書(平成16年12月10日)及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜13に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】 近赤外線吸収色素をバインダー樹脂に分散した組成物からなるコート層を、溶剤(塩化メチレンおよびクロロホルムを除く)を含むコーティング液を用いて基材上へ積層して形成される近赤外線吸収フィルターであって、
前記近赤外線吸収色素として、少なくとも下記式(1)で表わされるジイモニウム塩化合物を含み、
前記バインダー樹脂がポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、またはポリカーボネート系樹脂から選択され、且つ、ガラス転移温度が85〜140℃の範囲であり、
前記コート層中の残留溶剤量が0.05〜5.0重量%であることを特徴とする近赤外線吸収フィルター。
【化1】



(式中、R1〜R8は、水素原子、アルキル基、アリ-ル基、アルケニル基、アラルキル基、アルキニル基を表わし、それぞれ同じであっても、異なっていても良い。R9〜R12は、水素原子、ハロゲン原子、アミノ基、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、アルキル基、アルコキシ基を表わし、それぞれ同じであっても、異なっていても良い。R1〜R12で置換基を結合できるものは置換基を有しても良い。X-は陰イオンを表わす。)
【請求項2】 前記コート層中の残留溶剤量が0.05〜3.0重量%であることを特徴とする請求項1記載の近赤外線吸収フィルター。
【請求項3】 近赤外線吸収色素として、含フッ素フタロシアニン系化合物と、ジチオ-ル金属錯体系化合物の両方、あるいはいずれかを含むことを特徴とする請求項1または2に記載の近赤外線吸収フィルター。
【請求項4】 前記ジチオール金属錯体系化合物が、下記式(2)で表わされる化合物であることを特徴とする請求項3記載の近赤外線吸収フィルター。
【化2】



(R13〜R16は水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシル基、アリール基、アラルキル基、アミノ基を表わし、それぞれ同じであっても、異なっていても良い。)
【請求項5】 前記基材が透明な基材であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の近赤外線吸収フィルター。
【請求項6】 請求項5記載の透明な基材がポリエステルフィルムであることを特徴とする近赤外線吸収フィルター。
【請求項7】 前記近赤外線吸収フィルターの片面、又は両面に剥離可能な保護フィルムを積層していることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の近赤外線吸収フィルター。
【請求項8】 前記近赤外線吸収フィルターの片面または両面に粘着剤層を形成し、更にその上部に離型フィルムを積層することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の近赤外線吸収フィルター。
【請求項9】 前記近赤外線吸収フィルターの表面または裏面に開口率が50%以上の金属メッシュ導電層を有していることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の近赤外線吸収フィルター。
【請求項10】 前記近赤外線吸収フィルターの表面または裏面に透明導電層を有していることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の近赤外線吸収フィルター。
【請求項11】 前記近赤外線吸収フィルターの最外層に反射防止層を有することを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の近赤外線吸収フィルター。
【請求項12】 前記近赤外線吸収フィルターの最外層に防眩処理層を有することを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の近赤外線吸収フィルター。
【請求項13】 プラズマディスプレイの前面に設置されることを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の近赤外線吸収フィルター。 」

第3 審判請求人の主張
本件特許に関する異議2003-71129号の決定において特許庁が判断するように、本件発明1〜13の新規性及び進歩性の判断基準日は、本件特許の現実の出願日である、平成11年12月2日である。
そして、審判請求人は、本件特許の請求項1、3〜6、9〜13に係る発明についての特許は、甲1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定に違反して特許されたものであるから、同法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものであり、また、請求項2〜13に係る発明についての特許は、甲1号証、甲3号証、甲4号証に記載された発明、甲2号証の実験報告書に基づいて、当業者が容易にすることができたものであり、同法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるから、同法123条第1項2号の規定により無効とすべきものであると主張し、証拠方法として以下の証拠を提出している。
甲第1号証:WO99/60430号パンフレット(平成11年11月25日公開)、
甲第2号証:実験報告書、
甲第3号証:特開平10-186127号公報(平成10年7月14日公開)、
甲第4号証:特開平10-211668号公報(平成10年8月11日公開)、
甲第5号証:平成14(行ケ)539号 審決取消訴訟事件判決(写し)、
甲第6号証:近赤外線吸収色素CIRの構造に関する日本カーリット株式会社からのファックス(写し)、
甲第7号証:「イーエクスカラーIR-10A」に関する株式会社日本触媒からの「化学品安全データシート」、
甲第8号証:「フォレット GS-1000」に関する綜研化学株式会社からの書類(写し)、
甲第9号証:「ダイヤナール BR レジン」に関する三菱レイヨン株式会社の技術資料パンフレット(写し)、
甲第10号証:「バイロン」に関する製品情報を記載した東洋紡績株式会社のホームページ(写し)

第4 被請求人の主張
一方、被請求人は、当審で通知した答弁指令に対して、その指定期間内に何らの応答もしなかった。

第5 甲号各証の記載内容
上記無効理由の根拠として挙げられた甲第1号証乃至甲第4号証には、概略以下の技術的事項が開示されている。
1.甲第1号証
甲1号証は、「赤外線吸収フィルター」に関する発明であり、以下の記載がある。
(ア)「本発明は、光学フィルターに関するもので、可視光線領域の透過率が高く、赤外線を遮断する光学フィルターであり、特にディスプレー用途に用いられるフィルターである。」(P1 L4〜6)
(イ)「前記(4)の方式は、赤外線吸収色素として、フタロシアニン系、ニッケル錯体系、アゾ化合物、ポリメチン系、ジフェニルメタン系、トリフェニルメタン系、キノン系、など多くの色素が用いられている。しかし、それぞれ単独では、吸収が不十分であったり、可視領域で特定の波長の吸収が有るなどの問題点を有している。さらに、同フィルターを高温下や高湿下に長時間放置すると、色素の分解や酸化が起こり可視領域での吸収が発生したり、赤外線領域での吸収がなくなってしまうなどの問題がある。
本発明の目的は、近赤外線領域に吸収があり、可視領域の光透過性が高く、且つ可視領域に特定波長の大きな吸収を持つことがなく、更に環境安定性に優れ、かつ加工性及び生産性が良好である赤外線吸収フィルターを提供することにある。」(P2 L8〜18)
(ウ)「第3の発明は、前記赤外線吸収フィルターが赤外線を吸収する色素または染顔料とその分散媒であるポリマーから構成された赤外線吸収層を透明基材上に積層していることを特徴とする前記第1の発明に記載の赤外線吸収フィルターである。」(P3 L7〜10)
(エ)「第4の発明は、前記赤外線吸収層中の残留溶剤量が5.0重量%以下であることを特徴とする前記第3の発明に記載の赤外線吸収フィルターである。」(P3 L11〜13)
(オ)「第6の発明は、前記透明基材がポリエステルフィルムであることを特徴とする前記第3の発明に記載の赤外線吸収フィルターである。」(P3 L18〜19)
(力)「第7の発明は、前記赤外線吸収層を構成するポリマーのガラス転移温度が、80℃以上であることを特徴とする前記第3の発明に記載の赤外線吸収フィルターである。」(P3 L20〜22)
(キ)「第9の発明は、前記赤外線吸収フィルターの赤外線吸収層と同一面、ないしは、反対面に開口率が50%以上の金属メッシュ導電層を有していることを特徴とする前記第3の発明に記載の赤外線吸収フィルターである。」(P3 L26〜28)
(ク)「第15の発明は、前記赤外線フィルターの最外層に反射防止層を積層していることを特徴とする前記1の発明に記載の赤外線吸収フィルターである。」(P4 L14〜16)
(ケ)「第16の発明は、前記赤外線フィルターの最外層に防眩処理層を積層していることを特徴とする前記1の発明に記載の赤外線吸収フィルターである。」(P4 L17〜19)
(コ)「第17発明は、プラズマディスプレーの前面に設置されることを特徴とする前記1の発明に記載の赤外線吸収フィルターである。
本発明の赤外線吸収フィルターは、波長800nmから1100nmの近赤外線領域の透過率が30%以下であることが必要である。・・・・・・また、本発明の赤外線吸収フィルターは、波長450nmから650nmの可視領域での透過率の最大値と・・・ディスプレー前面においた場合、ディスプレーから発せられる色調が変わらずに表現することが出来る。」(P4 L20〜P5L2)
(サ)「本発明では、赤外線吸収色素をポリマー中に分散し、更にこれを透明な基板上にコーティングした構成が好ましい。このような構成とすることによって、製作が簡単になり、小ロットの生産にも対応可能となる。」(P5 L17〜19)
(シ)「さらに、化学式(1)で表されるジイモニウム塩化合物を含む近赤外線吸収色素をバインダー樹脂に分散した組成物を基材上へ積層して形成される近赤外線吸収フィルターにおいて、該積層物中の残留溶剤量が5.0重量%以下であることが好ましい。


・・・(1)
(式中、R1〜R8は互いに相異なる水素、炭素数1〜12のアルキル基を表わし、Xは、SbF6、ClO4、PF6、NO3またはハロゲン原子を表わす。)」(P5下からL4〜P8 下からL17)
(ス)「コート層中の残留溶剤量が5.0重量%以下でなければ、高温、高湿下に長時間放置した場合、ジイモニウム塩化合物が化学変化し、近赤外領域の吸収が減少してしまい、近赤外線の遮断が不十分となってしまう。また、可視領域の吸収が大きくなり、フィルター全体が黄緑色を強く帯びてしまう。」(P6 下からL16〜下からL12)
(セ)「コート層中の残留溶剤量を5.0重量%以下にするためには、下記式(2)〜(4)の乾燥条件を同時に満足させることが必要である。下記式(2)で用いた因子の単位は、風速がm/秒、熱風温度が℃、乾燥時間が分、コート厚みがμmである。
風速×(熱風温度-20)×乾燥時間/コート厚み>48…(2)
熱風温度:≧80℃…(3)
乾燥時間:≦60分…(4)」(P6 下からL11〜下からL5)
(ソ)「本発明に用いるバインダー樹脂は、本発明で用いる近赤外線吸収色素を均一に分散できるものであれば特に限定されないが、ポリエステル系、アクリル系、ポリアミド系、ポリウレタン系、ポリオレフィン系、ポリカーボネート系樹脂が好適である。また、本発明での色素を分散するバインダー樹脂は、そのガラス転移温度が、本発明のフィルタを使用する想定保証温度以上の温度であることが好ましい。これにより、色素の安定性が向上する。前記フィルタを使用する想定保証温度は80℃以上が好ましく、85℃以上が特に好ましい。」(P6 下からL4〜P7L4)
(タ)「本発明で、コ-テイング時のコーティング液に用いる溶剤は、本発明で用いる近赤外吸収色素とバインダーを均一に分散できるものであれば何でもよい。
例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルインブチルケトン、酢酸エチル、酢酸プロピル、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、エチルセロソルブ、ベンゼン、トルエン、キシレン、テトラヒドロフラン、n-ヘキサン、n-へプタン、塩化メチレン、クロロホルム、N、N-ジメチルホルムアミド、水等が挙げられるが、これらに限定させるものではない。」(P7 L5〜12)
(チ)「本発明に使用する赤外線吸収色素は特に限定されるものではないが、一例を挙げるとすれば、以下のようなものが挙げられる。
近赤外線吸収色素として、前記化学式(1)で表わされるジイモニウム塩化合物以外に、含フッ素フタロシアニン系化合物、ジチオール金属錆体系化合物の両方、あるいはいずれかを含むことが好ましい。また、少なくともジイモニウム塩化合物、含フッ素フタロシアニン系化合物及び、ニッケル錯体のうちいずれか2種類を含有することが好ましい。」(P7 L13〜19)
(ツ)「前記化学式(1)で表わされるジイモニウム塩化合物としては、例えば、N,N,N’,N’-テトラキス(p-ジ-n-プチルアミノフェニル)-p-ベンゾキノン-ジイモニウム・ジテトラフルオロアンチモネート、N,N,N’,N’-テトラキス(p-ジエチルアミノフェニル)-p-ベンゾキノン-ジイモニウム・ジテトラフルオロアンチモネート、N,N,N’,N’-テトラキス(p-ジ-n-ブチルアミノフェニル)-p-ベンゾキノン-ジイモニウム・ジパークロレート、N,N,N’,N’-テトラキス(p-ジエチルアミノフェニル)-p-ベンゾキノン-ジイモニウム・ジパークロレート、N,N,N’,N’-テトラキス(p-ジイソプロピルアミノフェニル)-p-ベンゾキノン-ジイモニウム・ジテトラフルオロホスフェート、N,N,N’,N’-テトラキス(p-n-プロピルアミノフェニル)-p-ペンゾキノン-ジイモニウム・ジニトレートなどが挙げられるが、これらの化合物に限定されるものではない。これらの一部は市販品として入手可能で、日本化薬社製Kayasorb IRG-022、IRG-023等を好適に用いることができる。」(P7 下からL7〜P8 L8)
(テ)「含フッ素フタロシアニン系化合物としては日本触媒社製Excolor IR1、IR2、IR3、IR4、ジオチール金属錯体系化合物としては三井化学社製SIR-128、SIR-130、SIR-132、SIR-159などが挙げられる。」(P8 L9〜11)
(ト)「本発明の赤外線吸収フィルタに用いる透明基材フィルムは、特に限定がないが、ポリエステル系、アクリル系、セルロース系、ポリエチレン系、ポリプロピレン系、ポリオレフィン系、ポリ塩化ビニル系、ポリカーボネート、フェノール系、ウレタン系樹脂フィルムなどからなる延伸フィルムが挙げられるが、分散安定性、環境負荷などの観点から、ポリエステルフィルムが好ましい。」(P8 L16〜21)
(ナ)「また、本発明では、該赤外線吸収層と同一面、ないしは、反対面に透明導電層または開口率が50%以上の金属メッシュ導電層を有していることが好ましい。」(P9 下からL3〜下からL1)
(ニ)「また、本発明の赤外線フィルターは、ディスプレー等に用いた場合の視認性向上のために、最外層に、防眩処理層(AG)を設けても良い。」(P11 L18〜19)
(ヌ)「さらに、本発明赤外線吸収フィルターをディスプレーに用いた際に可視光線の透過率をさらに向上させるために、最外層に反射防止処理層を(AR)を設けてもよい。」(P11 下からL4〜下からL2)
(ネ)「実施態様例
・・・・・
(1)分光特性
自記分光光度計(日立U-3500型)を用い、波長1500〜200nmの範囲で測定した。・・・・・・
(3)コート層中の残存溶剤量
島津製作所製GC-9Aを用いて残存溶剤量の測定を次のように行った。試料約5mgを正確に秤量し、ガスクロマトグラフ注入口で150℃で5分間加熱トラップした後、トルエン、テトラヒドロフラン(THF)、及びメチルエチルケトン(MEK)の総量(A:ppm)を求めた。但し、THFとMEKはピークが重なるため、標準ピーク(トルエン)と比較し、合計値としてトルエン換算量を求めた。また、別に10cm四方に切り取った試料を秤量(B:g)後、コート層を溶剤で拭き取り、拭き取り前後の試料の重量差(C:g)を求めた。残存溶剤量は下記式を用いて算出した。
残存溶剤量(%)=A×B×10-4/C」(P12下からL11〜P13 L14)
(ノ)「実施例1
分散煤となるベースポリエステルを以下の要領で製作した。温度計、撹拌機を備えたオートクレーブ中に、
テレフタル酸ジメチル 136重量部、
インフタル酸ジメチル 58重量部、
エチレングリコール 96重量部、
トリシクロデカンジメタノール 137重量部、
三酸化アンチモン 0.09重量部、
を仕込み170〜220℃で180分間加熱してエステル交換反応を行った。次いで反応系の温度を245℃まで昇温し、系の圧力1〜10mmHgとして180分間反応を続けた結果、共重合ポリエステル樹脂(A1)を得た。共重合ポリエステル樹脂(A1)の固有粘度は0.4d1/g、ガラス転移温度は90℃であった・・・
表1


(P13 下からL8〜P15 表1)
(ハ)「実施例2
実施例1に記載の共重合ポリエステル樹脂(A1)を用いて、表1に示すような組成で、コート液を作製した。更に作製したコーティング液を厚み100μmの高透明性ポリエステルフィルム基材(東洋紡績製コスモシャインA4300・・・・・)にグラビアロールによりコーティングし、次いで130℃の熱風を風速5m/sで送りながら1分間乾燥し、ロール状に巻き取った。コート層の厚さは8.0μm、コ-ト層中の残留溶剤量は4.1重量%であった。・・・作製した近赤外線吸収フィルターの色目は、目視ではダークグレーであった。また、図9にその分光特性を示す。図9に示すように、波長400nmから650nmまでの可視領域においては吸収が平らで、波長700nm以上に急峻な吸収があるフィルターが得られた。
得られたフィルターを温度60℃、湿度95%雰囲気中に1000時間放置し、再度分光特性を測定したところ図10のようになり、分光曲線の大きな変化はなく、安定な性能を示した。」(P18 下からL7〜P19 L10)
(ヒ)「近赤外線領域に広く吸収を持ち、かつ可視領域の透過率が高く、特定の可視領域波長を大きく吸収することのない赤外線吸収フィルタが得られ、プラズマディスプレー等に用いた場合、ディスプレーから放射される不要な赤外線を吸収できるため赤外線を使ったリモコンの誤動作を防げる。…・さらに、環境安定性に優れているため、高温・高湿の環境下でも前記特性を維持することができる。」(P22 下からL7〜最終行)

2.甲第2号証
甲第2号証は、株式会社ユービーイー科学分析センターにおける、本件発明の範囲内の近赤外線フィルター等を製造し、これらのフィルターの残留溶剤量の測定、分光透過率や透過色度の光学特性を測定した実験報告書である。

3.甲第3号証
甲第3号証は、「プラズマディスプレー用近赤外線吸収フィルター」に関する発明であり、以下の記載がある。
(フ)【0002】
更に詳しくは、近赤外線吸収剤であるポリメチン系化合物を含有し、可視光線透過率が高く、かつ近赤外線光のカット効率の高いプラズマディスプレー用近赤外線吸収フィルターに関する。
(ヘ)【0032】
塗料化してコーティングする(2)の方法としては、本発明のポリメチン系化合物をバインダー樹脂及び有機系溶媒に溶解させて塗料化する方法・・・等がある。
(ホ)【0037】
上記の方法で作製した塗料は、透明樹脂フィルム、透明樹脂、透明ガラス等の上にバーコーダー、ブレードコーター、スピンコーター、リバースコーター、ダイコーター、或いはスプレー等でコーティングして、本発明のプラズマディスプレー用近赤外線吸収フィルターを作製する。
(マ)【0038】
コーティング面を保護するために保護層を設けたり・・・こともできる。

4.甲第4号証
甲第4号証は、「赤外線吸収フィルム」に関する発明であり、以下の記載がある。
(ミ)【請求項1】
透明高分子フィルム上の少なくとも片面に、光線波長800nmから1000nmに極大吸収波長を有する近赤外線吸収層が積層されてなり、その極大吸収波長における光線透過率が10%以下で、かつ550nmにおける光線透過率が60%以上であることを特徴とする赤外線吸収フィルム。
(ム)【請求項4】
請求項2記載の赤外線吸収フィルムにおいてハードコート層の反対面に粘着層と離型フィルムを有することを特徴とする赤外線吸収フィルム。
【請求項5】
請求項3記載の赤外線フィルムにおいて反射防止層の反対面に粘着層と離型フィルムを有することを特徴とする赤外線吸収フィルム。
(メ)【0001】【発明の属する技術分野】
本発明は赤外線吸収フィルムに関する。詳しくは透明導電層を積層することにより電磁波シールド機能を有する赤外線吸収フィルムに関する。さらに詳しくは、プラズマディスプレイの近赤外線カットフィルターとして好適に使用される赤外線吸収フィルムに関する。
(モ)【0009】
本発明の近赤外線吸収層とは、光線波長800nm〜1000nmに極大吸収波長を有する1種以上の色素がバインダー樹脂中に溶解された層である。ここでいう色素とは、・・・フタロシアニン系化合物、ナフタロシアニン
系化合物、ナフトキノン系化合物、・・・ジチオール系錯体
などがある・・・
【0010】
バインダー樹脂としては、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂など好適に用いられる。・・・前述の近赤外線吸収色素との相溶性などから、テレフタル酸/イソフタル酸共重合タイプのポリエステル樹脂が好ましい。コーティング液の溶剤としては、バインダー樹脂の溶解性はもちろんのこと、近赤外線吸収色素との相溶性が高いことが必要である。
(ヤ)【0011】
・・・近赤外線吸収層の塗工方法としては、ブレードコーティング法、グラビアコーティング法、・・・等をいずれも利用できるが、薄い膜を厚みムラなくコーティングできる点で、グラビアコーティング法、リバースロールコーティング法、もしくはオフセットグラビアコーティング法が好ましい。
(ユ)【0016】
本発明の粘着層とは、透明性を有し、導電性を損なわないものであれば広く適用できる。公知の粘着剤の中でもアクリル系粘着剤が好適に使用される。この粘着剤層の厚みは5から100μmが適当である。加工プロセス上、PETフィルムなどの離型フィルムが最外層に積層されていることが好ましい。

第6 当審の判断
まず、本件発明1乃至13の新規性進歩性を判断するにあたって、その基準日を考察する。
本件特許出願は、国内優先権主張を伴う出願であって、平成16年12月8日の訂正請求による訂正後の本件発明1は、「コート層中の残留溶剤量が0.05〜5.0重量%」、「ガラス転移温度が85〜140℃」をその構成要件としているところ、残留溶剤量の下限値を0.05%とする点、ガラス転移温度の数値範囲は、本件特許出願の優先権主張の基礎となる特願平10-344365号に添付された明細書に記載されておらず、また、同明細書の記載からみて自明とも認められない。したがって、本件発明1及び本件発明1を引用する本件発明2乃至13の新規性及び進歩性の判断をするための基準日は、本件特許出願の現実の出願日である平成11年12月2日となるものである。

次に、本件発明の構成は、上記「第2 本件発明」に記載したとおりであるが、証拠の記載事項との対比の便のため、分説すると以下のとおりとなる。
【請求項1】
A.近赤外線吸収色素をバインダー樹脂に分散した組成物からなるコート層を、溶剤(塩化メチレンおよびクロロホルムを除く)を含むコーティング液を用いて基材上へ積層して形成される近赤外線吸収フィルターであって、
B.前記近赤外線吸収色素として、少なくとも下記式(1)で表わされるジイモニウム塩化合物を含み、
C.前記バインダー樹脂がポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、またはポリカーボネート系樹脂から選択され、
D.且つ、ガラス転移温度が85〜140℃の範囲であり、
E.前記コート層中の残留溶剤量が0.05〜5.0重量%である
F.ことを特徴とする近赤外線吸収フィルター。
【化1】
(記載省略)
(式中、R1〜R8は、水素原子、アルキル基、アリ-ル基、アルケニル基、アラルキル基、アルキニル基を表わし、それぞれ同じであっても、異なっていても良い。R9〜R12は、水素原子、ハロゲン原子、アミノ基、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、アルキル基、アルコキシ基を表わし、それぞれ同じであっても、異なっていても良い。R1〜R12で置換基を結合できるものは置換基を有しても良い。X-は陰イオンを表わす。)
【請求項2】
G.前記コート層中の残留溶剤量が0.05〜3.0重量%であることを特徴とする請求項1記載の近赤外線吸収フィルター。
【請求項3】
H.近赤外線吸収色素として、含フッ素フタロシアニン系化合物と、ジチオ-ル金属錯体系化合物の両方、あるいはいずれかを含むことを特徴とする請求項1または2に記載の近赤外線吸収フィルター。
【請求項4】
I.前記ジチオール金属錯体系化合物が、下記式(2)で表わされる化合物であることを特徴とする請求項3記載の近赤外線吸収フィルター。
【化2】
(記載省略)
(R13〜R16は水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシル基、アリール基、アラルキル基、アミノ基を表わし、それぞれ同じであっても、異なっていても良い。)
【請求項5】
J.前記基材が透明な基材であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の近赤外線吸収フィルター。
【請求項6】
K.請求項5記載の透明な基材がポリエステルフィルムであることを特徴とする近赤外線吸収フィルター。
【請求項7】
L.前記近赤外線吸収フィルターの片面、又は両面に剥離可能な保護フィルムを積層していることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の近赤外線吸収フィルター。
【請求項8】
M.前記近赤外線吸収フィルターの片面または両面に粘着剤層を形成し、更にその上部に離型フィルムを積層することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の近赤外線吸収フィルター。
【請求項9】
N.前記近赤外線吸収フィルターの表面または裏面に開口率が50%以上の金属メッシュ導電層を有していることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の近赤外線吸収フィルター。
【請求項10】
O.前記近赤外線吸収フィルターの表面または裏面に透明導電層を有していることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の近赤外線吸収フィルター。
【請求項11】
P.前記近赤外線吸収フィルターの最外層に反射防止層を有することを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の近赤外線吸収フィルター。
【請求項12】
Q.前記近赤外線吸収フィルターの最外層に防眩処理層を有することを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の近赤外線吸収フィルター。
【請求項13】
R.プラズマディスプレイの前面に設置されることを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の近赤外線吸収フィルター。

1.本件発明1に対して(無効理由;特許法第29条第1項3号)
本件発明1と甲第1号証に記載された発明とを対比する。
i)構成要件Aについて
甲1号証の上記記載(ア)には赤外線を遮断する光学フィルターであること、上記(ウ)、(サ)及び(シ)から、当該近赤外線吸収フィルターは、近赤外線を吸収する色素をバインダー樹脂であるポリマー中に分散した組成物を透明基材上にコーティングして積層することで形成されることが記載されている。
そして、上記(タ)には、コーティング時のコーティング液には、溶剤が用いられており、該溶剤は、近赤外線吸収色素とバインダーとを均一に分散できる任意のものであると記載されている。そして、溶剤としては、アセトンやメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸プロピル、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、エチルセロソルブ、ベンゼン、トルエン、キシレン、テトラヒドロフラン、n-へキサン、n-へプタン、塩化メチレン、クロロホルム、N,N-ジメチルホルムアミド、水等が具体的に例示されている。
また、上記(ノ)及び(ハ)の実施例1及び2から、近赤外線吸収色素であるジイモニウム塩化合物(日本化薬社製 Kyasorb IRG-022)3.2重量部、含フッ素フタロシアニン系化合物(日本触媒製 Excolor IR-1)0.5重量部及びジチオール金属錯体系化合物(三井化学社製 SIR-159)1.6重量部と、バインダー樹脂である共重合ポリエステル樹脂(A1)440重量部と、溶剤であるメチルエチルケトン490重量部、テトラヒドロフラン490重量部及びトルエン490重量部とでコート液を作製して、作製したコーティング液をポリエステルフィルム基材(東洋紡績製 コスモシャインA4300)にコーティングして、コート層を形成し、実施例2の近赤外線吸収フィルターを得たことが記載されており、当該甲1号証に記載された実施例2の近赤外線フィルターは、本件明細書中の実施例1(【0039】〜【0042】)とまったく同一のものである。
従って、これらの記載は、本件発明1の構成要件A「近赤外線吸収色素をバインダー樹脂に分散した組成物からなるコート層を、溶剤(塩化メチレンおよびクロロホルムを除く)を含むコーティング液を用いて基材上へ積層して形成される近赤外線吸収フィルターであって、」と一致する。

ii)構成要件Bについて
更に、甲1号証の上記(シ)には、近赤外線吸収色素として下記式;



(式中、R1〜R8は互いに相異なる水素、炭素数1〜12のアルキル基を表わし、Xは、SbF6、ClO4、PF6、NO3またはハロゲン原子を表わす。)で表されるジイモニウム塩化合物が記載されており、上記(ツ)には具体的にジイモニウム塩化合物として、N,N,N’,N’-テトラキス(p-ジ-n-ブチルアミノフェニル)-p-ベンゾキノン-ジイモニウム・ジテトラフルオロアンチモネート、N,N,N’,N’-テトラキス(p-ジエチルアミノフェニル)-p-ベンゾキノン-ジイモニウム・ジテトラフルオロアンチモネート、N,N,N’,N’-テトラキス(p-ジ-n-ブチルアミノフェニル)-p-ベンゾキノン-ジイモニウム・ジパークロレート等が例示され、市販品として日本化薬社製Kayasorb IRG-022、IRG-023等を好適に用いることができることが記載されている。
また、上記(ノ)及び(ハ)の実施例1及び2には、近赤外線吸収色素として、ジイモニウム塩化合物(日本化薬社製 Kyasorb IRG-022)3.2重量部を含む近赤外線吸収色素が用いられており
(表1)



当該甲1号証に記載された実施例1及び2で用いられた該ジイモニウム塩化合物は、本件明細書中の実施例1(【0042】)で用いられているジイモニウム塩化合物とまったく同一のものである。
したがって、甲1号証に記載されたジイモニウム塩化合物は、本件発明1の構成要件Bに記載されたジイモニウム塩化合物と一致しており、上記甲1号証のこれらの記載は、構成要件Bを充たす。

iii)構成要件Cについて
上記(ソ)には、近赤外線吸収色素を均一に分散できるバインダー樹脂として、ポリエステル系、アクリル系、ポリアミド系、ポリウレタン系、ポリオレフィン系、ポリカーボネート系樹脂が例示されており、更に上記(ノ)及び(ハ)の実施例1及び2には、バインダー樹脂として表1(上記構成要件Bで示す)に記載された樹脂であって、実施例1(上記(ノ))にその調製方法が詳細に記載されている共重合ポリエステル樹脂(A1)が使用されたことが記載されており、当該甲1号証に記載された実施例1(上記(ノ))及び2(上記(ハ))で用いられた共重合ポリエステル樹脂(A1)は、本件明細書中の実施例1(【0039】)で用いられている共重合ポリエステル樹脂と組成がまったく同一のものである。
従って、これらの記載は、本件発明1の構成要件C「前記バインダー樹脂がポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、またはポリカーボネート系樹脂から選択され」と一致する。

iv)構成要件Dについて
上記(カ)及び(ソ)には、近赤外線吸収層を構成するポリマーであるバインダー樹脂のガラス転移温度は、近赤外線吸収色素を安定させるために、80℃以上、特に85℃以上であること、上記(ハ)の実施例2にはバインダー樹脂のガラス転移温度が90℃であることが記載されており、当該甲1号証に記載された実施例2(上記(ハ))で用いられたバインダー樹脂のガラス転移温度は、本件明細書中の実施例1(【0040】)で用いられているガラス転移温度とまったく同一のものである。
従って、実施例2(上記(ハ))の記載は、本件発明1の構成要件D「ガラス転移温度が85〜140℃の範囲であり」に包含され、本件構成要件Dを充たす。

v)構成要件Eについて
上記(エ)、(ス)、(セ)には、高温、高湿下に長時間放置した場合にジイモニウム塩化合物が化学変化して近赤外線領域の吸収が減少してしまい近赤外線の遮断が不十分となること、また可視領域の吸収が大きくなり、フィルター全体が黄緑を帯びてしまうことを防止するため、近赤外線吸収フィルター中の残存溶剤量を5.0重量%以下とすることが記載されている。
更に、上記実施例2(上記(ハ))には、近赤外線吸収フィルターの残存溶剤量が4.1重量%であることが記載され、上記(ネ)には、コート層中の残存溶剤量は、島津製作所製のGC-9Aを用いて、約5mgの試料を150℃で5分間トラップした後のトルエン、テトラヒドロフラン及びメチルエチルケトンの総量A(ppm)と、別個に切り取った試料の秤量B(g)後、コート層を溶剤でふき取った後の試料の重量差C(g)から、残存溶剤量(%)=A×B×10-4/Cで求められることが記載されている。これは、本件明細書中の実施例1(【0041】)の近赤外線吸収フィルターの残留溶剤量と一致し、その残留溶剤量の測定機器及び測定方法も、本件明細書【0036】に記載されている方法と全く同じものである。
そうすると、甲1号証の実施例2(上記(ハ))の近赤外線吸収フィルターに関する残存溶剤量は、本件発明1の構成要件E「E 前記コート層中の残留溶剤量が0.05〜5.0重量%である」に包含され、本件構成要件Eを充たす。

vi)構成要件Fについて上記甲1号証の(ア)、(イ)、(シ)、(ス)、(ハ)、(ヒ)、更には、図9及び図10より、甲1号証に記載されているフィルターは近赤外線吸収フィルターであることは明らかであり、本件発明1の構成要件Fを充たす。

vii)甲1号証に記載された発明である実施例2に記載された発明と本件発明1は、上記したように全ての構成要件が甲1号証に開示されており、両発明は一致する。

viii)従って、本件発明1は、新規性を有さない。

2.本件発明2に対して(無効理由;特許法第29条第2項)
i)甲1号証には、前記本件発明1で対比説明したように、本件発明1の構成要件がすべて開示されており、残留溶剤量については、本件明細書中(【0036】)に記載された測定方法及び測定装置と同一の測定方法及び測定装置に基づき測定された残留溶剤量が5.0重量%以下であることが記載されている(上記(エ)、(ス)、(セ))。この甲1号証記載の「残留溶剤量5.0重量%以下」の要件は、本件発明2の構成要件Gの「残留溶剤量が0.05〜3.0重量%である」を包含するものであって、「残留溶剤量を0.05〜3.0重量%とする」という具体的な数値は、甲1号証に明示的記載がない。
ところで、本件発明の課題は、本件明細書に記載があるように、「本発明の目的は、近赤外線領域に大きく且つ巾の広い吸収を有し、さらに可視領域の光透過性が高く、且つ可視領域に特定波長の大きな吸収がなく、加工性及び生産性が良好で、高温、高湿下で長時間放置しても分光特性が安定な、近赤外線吸収フィルターを提供することにある」(発明が解決しようとする課題;【0008】)。一方、甲1号証記載の発明の課題は(上記(イ))、「本発明の目的は、近赤外線領域に吸収があり、可視領域の光透過性が高く、且つ可視領域に特定波長の大きな吸収を持つことがなく、更に環境安定性に優れ、かつ加工性及び生産性が良好である赤外線吸収フィルターを提供すること」であって、両者は課題を共通にするものである。
そうすると、本件発明2は、甲1号証に記載された発明と対比して、残留溶剤量の数値限定要件にのみに特徴を有する発明であるから、要件として記載された数値範囲については、その数値限定範囲の内と外とで有利な効果について量的に顕著な差があって、その数値限定の臨界的意義や技術的困難性が認められなければ、本件発明2の進歩性を肯定することができない。

ii)そこで、本件発明2の構成要件Gの残留溶剤量を0.05〜3.0重量%と規定する数値範囲の臨界的意義について以下に検討する。
本件明細書には、「残留溶剤量が0.05〜3.0重量%」である近赤外線吸収フィルム(請求項2)が、「近赤外域に大きく且つ巾の広い吸収をもち、さらに、可視領域の光透過性が高く且つ可視領域に特定波長の大きな吸収を持つことがないため、ビデオカメラ、ディスプレーなどの光学機器、特にプラズマディスプレイ用の近赤外線吸収フィルターとして好適である。また、加工性及び生産性が良好であり、また、環境安定性に優れ、高温または高湿下でも長時間の使用に耐えうる利点がある。【0050】」(発明の効果)という効果を奏することが記載され、また残留溶剤量に関する数値限定の根拠として、「【0016】本発明において、コート層中の残留溶剤量が0.05〜3.0重量%であることが特に好ましい。残留溶剤量が0.05重量%未満では、高温高湿下に長時間放置した場合の近赤外吸収色素の変性は小さくなるが、0.05重量%未満にするために必要な熱によって近赤外線吸収色素が変性しやすくなる。」と、また、「【0019】・・・色素をバインダー樹脂に分散した組成物中の残留溶剤量を5.0%以下にすれば、耐熱性、耐湿性の向上が特に著しいことを、本発明者は見出した。さらに、該残留溶剤量を3.0重量%以下にすることにより、耐熱性、耐湿性の向上がさらに促進される。」と記載されている。これらの記載によれば、コート層中の残留溶剤量を0.05〜3.0重量%とすることにより、本件発明1の、残留溶剤量が3.0重量%を超え5.0重量%の数値範囲の近赤外線吸収フィルターと比較して、高温、高湿下での安定性がさらに優れ、従って、近赤外域に更に大きく且つ巾の広い吸収をもち、そして、可視領域の光透過性がより高く且つ可視領域に特定波長の大きな吸収を持つことがないという有利な効果について、量的に格段の差を有する顕著な効果を有するということが、本件発明2の構成要件Gの残留溶剤量を0.05〜3.0重量%と規定する数値範囲の臨界的意義である。

iii)甲1号証の実施例2(上記(ハ)に、残存溶剤量が4.1重量%であって、その残留溶剤量の測定方法(上記(ネ))も本件明細書【0036】に記載されている測定方法と全く同じである近赤外線吸収フィルターが開示されていることは、上記本件発明1で説明したとおりである。
そして、甲1号証の実施例2((ハ))の当該残留溶剤量4.1重量%の近赤外線吸収フィルター製造後の分光特性の測定結果が図9に、また、温度60℃、湿度95%の雰囲気下で1000時間放置した後の分光特性の測定結果が図10に、それぞれ示されている。

一方、本件明細書記載の実施例1の近赤外線吸収フィルターは、甲1号証の実施例2と同一の近赤外線吸収フィルターであり、その製造後の分光特性は、本件明細書の図1に示されており、甲1号証の上記記載(ノ)及び本件明細書の【0037】「<分光特性>自記分光光度計(日立U-3500型)を用い、波長1500〜200nmの範囲で測定した。」との記載から、分光特性の測定機器等が、甲1号証に記載のものと本件明細書に記載のものとで、同一であることは明らかであるから、甲1号証の図9は本件明細書の図1と一致するものである。更に、本件明細書には、実施例1の近赤外線吸収フィルターを60℃、湿度95%の雰囲気中500時間放置した後の分光特性結果が図2に示されており、波長420〜1100nmの透過率の最大変化率は9.2%であったことが記載されている(【0041】)。

本件発明2の近赤外線吸収フィルターは、本件明細書の実施例2(【0043】)に記載の近赤外線吸収フィルターが該当し、当該フィルターの残留溶剤量は2.0重量%である。そして、本件発明2の実施例2においては、【0043】に、「実施例1で用いたコーティング液を、厚みが100μmであり、片面に易接着層を有する高透明性ポリエステルフィルム基材(東洋紡績製 コスモシャインA4100)にグラビアロールにより前記基材フィルムの易接着層面にコーティングし、150℃の熱風を風速5m/sで送りながら1分間乾燥した。コ-ト層の厚さは10μm、コート層中の残留溶剤量は2.0重量%であった。」との記載があることから、本件明細書の実施例1、すなわち甲1号証の実施例2の近赤外線吸収フィルターと比較して、残留溶剤量のみが異なるフィルターであることがわかる。当該本件発明2の近赤外線吸収フィルターの製造後の分光特性は、本件明細書中の図3に、また60℃、湿度95%の雰囲気中500時間放置した後の分光特性結果は図4に示されており、波長420〜1100nmの透過率の最大変化率は11.5%であったことが記載されている(【0043】)。
ここで、残留溶剤量が4.1重量%の甲1号証の実施例2(本件明細書中の実施例1と同一)の分光特性と、残留溶剤量が2.0重量%である本件発明2の実施例に該当する本件明細書中の実施例2の分光特性を比較するために、以下に分光特性の測定結果図を示す。



上記残留溶剤量4.1重量%の近赤外線吸収フィルターと残留溶剤量が2.0重量%の近赤外線吸収フィルターとの分光特性を上記各図により比較する。図A(残留溶剤量4.1重量%)と図B(残留溶剤量2.0重量%)について、可視領域である波長400〜650nmの透過率を比較すると、その波形よりほぼ同等の透過率を有していることが、また近赤外線領域である波長800〜1100nmの遮断率を比較してもほぼ同等の遮断率を有していることがわかる。更に耐熱性及び耐湿性試験後の図C及び図D(残留溶剤量4.1重量%)と図E(残留溶剤量2.0重量%)とを比較しても、波長400〜650nmの可視光の透過率はほぼ同等であり、波長800〜1100nmの近赤外線の遮断率もほぼ同等であることが示されており、両者の奏する光学特性効果に、有意な差異がないことは明らかである。

iv)また、甲2号証は、近赤外線吸収フィルターの残留溶剤量の相違による光学特性の測定を実験した、(株)ユービーイー科学分祈センターによる実験結果報告書である。
甲2号証のP3〜P4の表1-1〜1-4にコーティング液の配合組成が、P4の「3.2塗工」の欄に、基材として三菱化学ポリエステルフィルム社製のO320E100を使用して、各コーティング液をコーティングすることが、そして、「3.3乾燥」により、コーティング膜を乾燥することが記載されており、P5の表2に近赤外線吸収色素、バインダー樹脂、溶剤、乾燥条件等がまとめて表示され、使用した装置及び実験条件は、P2の「2.4装置及び条件」に記載されている。

表2



ここで、甲6号証は、日本カーリット株式会社からのファックスで、CIR色素の構造が記載された書面であり、具体的には日本カーリット製のCIR-1080、CIR-1083、CIR-1081の構造式が記載された書面である。これらの近赤外線吸収色素CIRは、本件明細書中の式(1)で表されるジイモニウム塩化合物中、R1〜R8がアルキル基、R9〜R12が水素原子のものに該当することは明らかであることから、甲2号証の上記表1-1〜1-4及び表2に記載の近赤外線吸収色素である日本カーリット製のCIR-1080、CIR-1083、CIR-1081及び日本化薬社製のIRG-022(本件明細書【0020】に式(1)に該当するジイモニウム塩化合物として例示されている)は、本件明細書中の式1で表されるジイモニウム塩化合物(本件明細書【0010】)に該当する。
また、甲7号証は、株式会社日本触媒から入手した技術情報であるイーエクスカラーIR-10Aに関する「化学品安全データシート」で、イーエクスカラーIR-10Aは、フタロシアニン系色素であることが明記されていることから、日本触媒製のイーエクスカラーIR-10A、IR-1(本件明細書【0021】に含フッ素フタロシアニン系色素として例示されている)は含フッ素フタロシアニン系色素であり、そして、山本化成製のSIR-159は、本件明細書中の式2で表されるジチオール金属錯体系化合物(本件明細書【0022】に式(2)に該当するジチオール金属錯体系化合物として例示されている)に該当するものである。
また、甲8号証は、「フォレットGS-1000」のガラス転移温度が100〜110℃であることを記載した綜研化学株式会社による書面(写し)であり、甲9号証は、三菱レイョン株式会社の「ダイヤナールBRレジン」の製品カタログ(写し)であって、「ダイヤナールBR80」のガラス転移温度が105℃であることが記載され、甲10号証は、東洋紡績株式会社の「バイロン」の製品情報が記載されたホームページ(写し)であって、「バイロン200」のガラス転移温度は67℃であることが記載されていることから、甲2号証の上記表1-1〜1-4及び表2に記載のバインダー樹脂であるアクリル樹脂類である綜研化学製のフォトレットGS-1000及び三菱レイヨン製のダイナールBR-80は本件発明2の「バインダー樹脂のガラス転移温度が85〜140℃である」との構成要件を充たすものである。
従って、甲2号証に記載された配合1〜3の近赤外線吸収フィルターは、残留溶剤量が異なる点を除き、本件発明2の構成要件Gを充たすものである。
得られた上記各配合番号の各近赤外線フィルターの残留溶剤量は、甲2号証P5の「3.5残留溶剤量の測定」及び「3.6塗工重量の測定」に記載された手順に従い、P8に記載された「4.3残留溶剤量の測定結果」の式;残存溶剤量(%)=A×B×10-4/Cに従って算出され、これは本件発明の残中溶剤量の測定手法(本件明細書【0035】)と同一の測定手法であり、その結果は甲2号証中の表4に記載されている。
表4



そして、これらの各近赤外線吸収フィルターの光学特性を甲2号証のP5の「3.4分光透過率測定及び透過色度の測定」及びP2の「2.4装置及び条件」に記載された分光光度計を用いて、P6の「3.7恒温恒湿試験」の60℃、95%湿度での1000時間保管後の耐熱性・耐湿性試験を実施する前後での光学特性実験結果が甲2号証の図1〜7に示されている。
ここで、同じ配合番号の近赤外線吸収フィルターであって残留溶剤量のみが異なる、甲2号証の配合番号3のバーコード#28の残留溶剤量が3.02重量%のものと残留溶剤量が0.80重量%のものとを比較するために、図5(残留溶剤量:3.02重量%;3.#28 130-3)と図6(残留溶剤量:0.80重量%:3.#28 150-3)とを対比すると、残留溶剤量3.02重量%のものと残留溶剤量が0.80重量%のものとは、上記耐熱性・耐湿性試験の前後において可視光領域である波長400〜650nmの透過率はほぼ同等、むしろ、残留溶剤量が3.02重量%のもののほうが若干良好な可視光透過率を有する結果が示されており、近赤外線の遮断率についてもほぼ同等であることが示され、両者の奏する光学特性効果において、顕著な差異がないことは、これらの図から明白である。

v)更に、甲1号証(上記(イ))には、高温、高湿下で長時間放置すると、色素の分解等の間題があったことが記載されており、また、上記(ス)には、残留溶剤量が5.0重量%以下でなければ高温、高湿下に長時間放置した場合、ジイモニウム塩化合物が化学変化して安定性が悪くなることが記載されていることから、ジイモニウム塩は、高温・高湿下で安定性が悪くなり、高温・高湿下では化学変化がおきしまうという事項は、出願当時の当業者としての技術常識というべきものである。
また、コート層中の残留溶剤量を5.0重量%とするには、一定の条件を満たす乾燥条件で熱風を当てることが上記(セ)に記載されていることから、当業者であれば、残留溶剤量を少なくするために熱に不安定なジイモニウム塩に熱風をあてなくてはならないことと、ジイモニウム塩の熱による変性を抑制するためには熱風を短時間しかあててはならないが残留溶剤量が少量にはならないこととの双方を考慮して、「残留溶剤量を0.05〜3.0重量%」とすることは、適宜選定しうる事項であって、そこに技術的困難性を見いだすことはできない。

vi)上記説明したように、残留溶剤量を0.05〜3.0重量%とすることに格別の臨界的意義や技術的困難性はなく、この数値限定は、当業者が必要に応じて適宜なしうる設計的事項にすぎない。
よって、本件発明2の構成要件Gは、上記本件発明1について、当業者が必要に応じて適宜なしうる設計的事項にすぎないものである。
従って、本件発明2は、進歩性を有さない。

3.本件発明3に対して(無効理由;特許法第29条第1項3号第29条第2項)
本件発明3の構成要件Hについては、上記本件発明1または2で説明した事項に加え、甲1号証の上記(チ)に、近赤外線吸収色素として、含フッ素フタロシアニン系化合物と、ジチオール金属錯体系化合物の両方、あるいはいずれかを含むことが記載されており、上記(ノ)及び(ハ)の実施例1及び2には、近赤外線吸収色素としてジイモニウム塩化合物(日本化薬社製 Kyasorb IRG-022)3.2重量部、含フッ素フタロシアニン系化合物(日本触媒製 Excolor IR-1)0.5重量部及びジチオール金属錯体系化合物(三井化学社製 SIR-159)1.6重量部を用いることが記載されており、これは、本件明細書の実施例1で用いられている近赤外線吸収色素(【0042】)とまったく同一のものである。
従って、本件発明3は、新規性または進歩性を有さない。

4.本件発明4に対して(無効理由;特許法第29条第1項3号第29条第2項)
本件発明4の構成要件Iについては、上記本件発明1〜3で説明した事項に加え、甲1号証の上記(テ)には、近赤外線吸収色素である含フッ素フタロシアニン系化合物として、日本触媒社製 Excolor IR1、IR2、IR3、IR4が例示されており、上記(ノ)及び(ハ)の実施例1及び実施例2においては、近赤外線吸収色素である含フッ素フタロシアニン系化合物として日本触媒社製のExcolor IR-1を用いたことが表1(上記本件発明1に記載)に示されている。
そして、日本触媒社製 Excolor IR-1は、本件明細書【0021】に、「含フッ素フタロシアニン系化合物としては、例えば、日本触媒社製 Excolor IR-1、IR-2、IR-3、IR-4、TXEX-805K、TXEX-809K、TXEX-810K、TXEX-811K、TXEX-812Kなどを好適に用いることができる。」と記載され、実施例1(【0042】)で用いられている含フッ素フタロシアニン系化合物と同じものである。
従って、本件発明4は、新規性または進歩性を有さない。

5.本件発明5に対して(無効理由;特許法第29条第1項3号第29条第2項)
本件発明5の構成要件Jについては、上記本件発明1〜4で説明した事項に加え、甲1号証の上記(ウ)、(ト)に、赤外線吸収フィルタには透明基材フィルムが用いられることが記載されており、上記(ハ)の実施例2には、高透明性ポリエステルフィルム基材(東洋紡績製 コスモシャインA4300)が用いられていることが記載されている。
従って、本件発明5は、新規または進歩性を有さない。

6.本件発明6に対して(無効理由;特許法第29条第1項3号第29条第2項)
本件発明6の構成要件Kについては、上記本件発明1〜5で説明した事項に加え、甲1号証の上記(オ)、(ト)に、透明基材の好適例としてポリエステルフィルムが記載されており、上記(ハ)の実施例2には、基材として高透明性ポリエステルフィルム基材(東洋紡績製 コスモシャインA4300)が用いられていることが記載されている。
従って、本件発明6は、新規性または進歩性をさない。

7.本件発明7に対して(無効理由;特許法第29条第2項)
本件発明7の構成要件Lの「前記近赤外線フィルターの片面、または両面に剥離可能な保護フィルムを積層する」との構成は甲1号証に記載されていない。
しかしながら、甲3号証の上記(フ)には、可視光線の透過率が高く、近赤外線光のカット率の高い、近赤外線吸収色素を含む近赤外線吸収フィルターが、そして上記(へ)、(ホ)には、当該近赤外線吸収フィルターを作製する方法として、近赤外線吸収色素をバインダー樹脂とに溶解させて塗料化し、当該塗料を透明樹脂板等の基材上にコーティングして近赤外線吸収フィルターを作製することが記載されていることから、甲3号証には、近赤外線吸収色素をバインダー樹脂に溶解させて得られた塗料であるコーティング剤を透明樹脂等の基材にコーティングしてコート層を積層形成する近赤外線吸収フィルターが記載されていることは明らかであり、これは甲1号証記載の近赤外線吸収フィルターの構成と同じ構成である。
そして、甲3号証には、当該近赤外線吸収フィルターのコーティング面を保護するために、保護層を設けることが記載されている(上記(マ))。
そうすると、甲1号証に記載された近赤外線吸収フィルターのコーティング面を保護するために、そのフィルターの表面に保護層を設けることは、当業者であれば慣用的に当然になしうる事項である。
よって、本件発明7の構成要件Lについては、上記本件発明1〜5で説明した事項に加え、甲3号証に記載された発明により、当業者が容易に想到するものである。
従って、本件発明7は、進歩性を有さない。

8.本件発明8に対して(無効理由;特許法第29条第2項)
本件発明8の構成要件Mの「前記近赤外線フィルターの片面、または両面に粘着剤層を形成し、更にその上部に離型フィルムを積層する」との構成は甲1号証には記載されていない。
しかしながら、甲4号証の上記(ミ)には、透明高分子フィルムの上に近赤外線吸収層が積層されてなる赤外線吸収フィルムが、そして上記(メ)には、当該フィルムは、近赤外線カットフィルターとして使用されることが記載されている。更に上記(モ)には、近赤外線吸収層は近赤外線領域である光線波長800〜1000nmに吸収波長を有する例えばフタロシアニン系化合物やジチオール系錯体などの色素を用いることが記載されており、これらは、近赤外線領域である光線波長800〜1000nmの光線を吸収することから、近赤外線吸収色素に相当するものである。また、上記(モ)から、コーティング溶液にはバインダー樹脂と近赤外線吸収色素が含有され、バインダー樹脂と近赤外線吸収色素との相溶性が高い溶剤を用いてこれらの近赤外線吸収色素とバインダー樹脂とを溶解してコーティング液とすることが記載されている。そして、上記(ヤ)には、近赤外線吸収層の塗工方法として、種々のコーティング方法を用いることが記載されており、これは基材上にコーティング層を形成するものである。
これらの記載から、甲4号証には、近赤外線吸収色素をバインダー樹脂に溶解させて得られた塗料であるコーティング剤を透明樹脂等の基材にコーティングしてコート層を積層形成する近赤外線吸収フィルターが記載されていることが明らかであり、これは甲1号証記載の近赤外線吸収フィルターの構成と同じ構成である。
そして、甲4号証の上記(ム)及び(ユ)には、当該赤外線吸収フィルムの一面に粘着層を設け、そしてその最外層に離型フィルムを設けることが記載されていることから、赤外線吸収フィルムの面に、粘着剤層を形成し、その上に離型フィルムを設けることが開示されているといえる。
そうすると、甲1号証に記載された近赤外線吸収フィルターのコーティング面の表面に粘着剤層を設け、その上に離型フィルムを積層することは、当業者であれば容易になしうる事項である。
よって、本件発明8の構成要件Mについては、上記本件発明1〜7で説明した事項に加え、甲4号証に記載された発明により、当業者が容易に想到するものである。
従って、本件発明8は、進歩性を有さない。

9.本件発明9及び本件発明10に対して(無効理由;特許法第29条第1項3号第29条第2項)
本件発明9の構成要件N及び本件発明10の構成要件Oについては、上記本件発明1〜8で説明した事項に加え、甲1号証の上記(キ)、(ナ)には、前記赤外線吸収フィルターの赤外線吸収層と同一面、ないしは反対面に透明導電層または開ロ率が50%以上の金属メッシュ導電層を有することが記載されている。
よって、本件発明9及び本件発明10は、新規性または進歩性を有さない。

10.本件発明11に対して(無効理由;特許法第29条第1項3号第29条第2項)
本件発明11の構成要件Pについては、上記本件発明1〜10で説明した事項に加え、甲1号証の上記(ク)、(ヌ)には、近赤外線吸収フィルターの最外層に、可視光線の透過率をさらに向上させるために、反射防止層を設けることが記載されている。
よって、本件発明11は、新規性または進歩性を有さない。

11.本件発明12に対して(無効理由;特許法第29条第1項3号第29条第2項)
本件発明12の構成要件Qについては、上記本件発明1〜11で説明した事項に加え、甲1号証の上記(ケ)、(ニ)には、近赤外線吸収フィルターの最外層に、ディスプレー等に用いた場合の視認性向上のために、防眩処理層を設けることが記載されている。
よって、本件発明12は、新規性または進歩性を有さない。

12.本件発明13に対して(無効理由;特許法第29条第1項3号第29条第2項)
本件発明13の構成要件Rについては、上記本件発明1〜12で説明した事項に加え、甲1号証の上記(コ)には、近赤外線吸収フィルターはプラズマディスプレーの前面に設置されることが記載されている。
よって、本件発明13は、新規性または進歩性を有さない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、本件発明1〜13は、いずれも特許法第29条第1項3号、または同法第29条第2項の規定に違反してなされたものであって、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。

よって、上記結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-07-05 
結審通知日 2006-07-10 
審決日 2006-07-21 
出願番号 特願平11-343638
審決分類 P 1 113・ 121- Z (G02B)
P 1 113・ 113- Z (G02B)
最終処分 成立  
特許庁審判長 末政 清滋
特許庁審判官 秋月 美紀子
江塚 政弘
登録日 2002-08-23 
登録番号 特許第3341741号(P3341741)
発明の名称 近赤外線吸収フィルタ-  
代理人 長沢 幸男  
代理人 田村 爾  
代理人 杉村 純子  
代理人 植木 久一  

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