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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J |
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管理番号 | 1142826 |
審判番号 | 不服2003-24024 |
総通号数 | 82 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1996-12-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2003-12-11 |
確定日 | 2006-08-31 |
事件の表示 | 平成 7年特許願第146023号「インクジェット記録装置」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年12月24日出願公開、特開平 8-336962〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯・本願発明の認定 本願は平成7年6月13日の出願であって、平成15年11月6日付けで拒絶の査定がされたため、これを不服として同年12月11日付けで本件審判請求がされるとともに、同日付けで明細書についての手続補正(以下「本件補正」という。)がされたものである。 本件補正は、補正前請求項2の「キャリッジの減速時または加速時に」及び同請求項3〜6の「キャリッジの加減速を含む非印字期間中に」との記載を「キャリッジの加速期間中に」と補正するものであるが、補正前の請求項2〜6は直接又は間接に請求項1を引用しており、その請求項1には「キャリッジの加速期間中に」とあるから、誤記の訂正を目的とするものと認める。 また、本件補正が願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内でされたことも認められるから、本件補正を却下することはできない。 したがって、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、本件補正により補正された明細書の特許請求の範囲【請求項1】に記載されたとおりの次のものと認める。 「液体を吐出するノズルと、前記ノズルに連通する液路と、前記液路に設けられた複数の電気熱変換手段とを備えた吐出部と、 前記電気熱変換手段に電圧を供給する供給手段と、前記供給手段の制御を行う制御手段とを有し、 前記吐出部を搭載するキャリッジを前記吐出部に対向する被記録媒体に対して走査して、かつ、所定の時間だけ前記電気熱変換手段に電圧を印加して、インクを加熱、沸騰させて、その沸騰気泡の発生圧力により、インク滴を吐出させて前記被記録媒体に印字を行うインクジェット記録装置であって、 各印字行の両端のキャリッジの加速期間中に、インクが沸騰しない時間だけ前記電気熱変換手段に電圧を印加することを特徴とするインクジェット記録装置。」 第2 当審の判断 1.引用刊行物の記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された特開昭61-146553号公報(以下「引用例」という。)には、以下のア〜サの記載が図示とともにある。 ア.「本発明は、液体を吐出させて、吐出液滴を形成させ、これを紙等の被記録材に付着させて記録を行う液体噴射記録装置に関し、特に吐出エネルギー液体に与えて、吐出液滴を形成する液体噴射記録装置に関するものである。」(2頁左上欄3〜7行) イ.「液滴吐出エネルギとして熱を利用するインクジェットプリンタは、通常、記録液を加熱して記録液に急激な体積増大を伴なう変位を与えて、ノズル部のオリフィス(液滴吐出孔)から吐出させ記録液の液滴を形成するための液滴形成手段と、電気信号を印加することにより発熱し、記録液を加熱することのできる電気熱エネルギ変換素子(以後吐出用ヒータと称する)を有する記録ヘッドを具備している。」(2頁左上欄19行〜右上欄7行) ウ.「液滴吐出エネルギとして熱を利用するプリンタ及びその他の液滴形成方式を適用したプリンタにおいては、記録液が吐出されるノズル先端に設けられたオリフィスは、装置の駆動の有無にかかわらず絶えず装置外部の外気に向けて開放されていることが多い。 そのために、記録が行われない状態が長時間にわたる場合には、・・・記録液の粘度が増加し、結果として記録液の吐出に好適な範囲を越えてしまうために、記録再開時直後に於いては、吐出用信号が印加されているにもかかわらず、液滴が吐出されない液滴の吐出不良が起き易く、記録画像の初期印字部等に欠陥を生じるという問題があった。」(2頁右上欄15行〜左下欄13行) エ.「電源投入後印字開始前や印字開始時に、予め予備的な加熱を行ってインクを保温して吐出を最適化するようにしたインクジェットプリンタを構成することが考えられる。そして、この予備的な加熱としては、・・・前記吐出エネルギ発生素子にインクを吐出しない程度の印字出力を供給していわば内部からインクに熱を加える処理を施すことが考えられる。」(3頁左上欄2〜10行) オ.「環境条件に応じ、記録ユニット制御手段110に飛翔的液滴が形成されない範囲のパルス幅の電気信号を設定することによって液体の加熱を行なう加熱制御手段140とを具えた」(3頁右上欄18行〜左下欄1行) カ.「記録面に対して所定方向に移動するキャリッジにヘッドユニットを搭載した形態のインクジェットプリンタ」(3頁左下欄7〜10行) キ.「吐出用ヒータETは発熱し、熱エネルギが吐出用ヒータET近傍の液流路ICH内にある記録液に付与され、その部分に於いて瞬間的な記録液の体積増大を伴なう記録液内での気泡の発生が起き、吐出用ヒータETの下流部にある記録液がオリフィスORより吐出されて、記録液の液滴が形成される。」(4頁右上欄6〜12行) ク.「本例では、プリンタの電源投入時および印字開始時にヘッドユニットHUを予備加熱処理および予備吐出処理を行い、インク吐出状態を良くするようにする。・・・予備加熱処理に際しては、外部加熱処理および/または内部加熱処理を行うものとする。・・・内部加熱とはへッドユニットHUからインクが吐出されない範囲の印字出力パルスを吐出エネルギ発生素子に供給することによって、ヘッド内部から加熱することをいう。」(5頁左上欄12行〜右上欄6行) ケ.「キャリッジモータM2が駆動されている印字動作中には加熱処理が行われないようにする。」(6頁右下欄14〜15行) コ.「キャリッジの動作中であってキャリッジの移動範囲の両端での移動方向転換時にはキャリッジCがそこで停止するので、そのときに加熱処理を行ってもよい。」(6頁右下欄18行〜7頁左上欄1行) サ.「予備加熱処理において信号が吐出用ヒータETに供給されたときに、加熱によるバブル(泡)が発生すると、その後の液滴の吐出が不安定になったり、また場合によっては不吐出が生じることもある。従って、予備加熱に際して吐出用ヒータETに加えられる電気信号は、吐出用ヒータET上にバブル(泡)が発生しない範囲でなければならない。」(8頁右上欄17行〜左下欄4行) 2.引用例記載の発明の認定 引用例の記載イ,カ,キ,サは記載エの「インクジェットプリンタ」にも当てはまる。 したがって、引用例には次のような発明が記載されていると認めることができる。 「記録面に対して所定方向に移動するキャリッジにヘッドユニットを搭載した形態であり、ノズル部のオリフィスから吐出させ記録液の液滴を形成するための液滴形成手段と、電気信号を印加することにより発熱し、記録液を加熱することのできる吐出用ヒータを有する記録ヘッドを具備したインクジェットプリンタであって、 インク吐出の際には記録液内での気泡の発生が起きるように吐出用ヒータに電気信号を印加し、 電源投入後印字開始前や印字開始時には、吐出用ヒータ上にバブルが発生しない範囲で吐出用ヒータに電気信号を印加するインクジェットプリンタ。」(以下「引用発明」という。) 3.本願発明と引用発明との一致点及び相違点の認定 引用発明の「オリフィス」は本願発明の「液体を吐出するノズル」に相当し、引用発明の「ノズル部」が本願発明の「吐出部」に相当する(仮に、この対応関係が適切でないとしても、引用発明が「液体を吐出するノズル」や「吐出部」を有することは明らかである。)。引用発明が「ノズルに連通する液路」を有することは明らかである。 本願発明の「液路に設けられた複数の電気熱変換手段」について検討するに、請求項1を引用する請求項7には「前記電気熱変換手段が、一対の電極である」とあり、他方引用発明の「吐出用ヒータ」が液路に設けられること、及び「吐出用ヒータ」には一対の電極が接続されることは明らかであるから、その一対の電極は本願発明の「液路に設けられた複数の電気熱変換手段」に相当する。 引用発明が「電気熱変換手段に電圧を供給する供給手段と、前記供給手段の制御を行う制御手段」を有することも明らかであり、引用発明において「記録液内での気泡の発生が起きるように吐出用ヒータに電気信号を印加」することと、本願発明において「所定の時間だけ前記電気熱変換手段に電圧を印加して、インクを加熱、沸騰させて、その沸騰気泡の発生圧力により、インク滴を吐出」させることに相違はない。そして、引用発明が「キャリッジにヘッドユニットを搭載した形態」である以上、「前記吐出部を搭載するキャリッジを前記吐出部に対向する被記録媒体に対して走査して」「前記被記録媒体に印字を行う」ことも明らかである。 引用発明の「電源投入後印字開始前や印字開始時」と本願発明の「各印字行の両端のキャリッジの加速期間中」は、印字を行わない期間の限度で一致し、「吐出用ヒータ上にバブルが発生しない範囲で吐出用ヒータに電気信号を印加する」ことと「インクが沸騰しない時間だけ前記電気熱変換手段に電圧を印加すること」に相違はない。 さらに、「インクジェットプリンタ」(引用発明)と「インクジェット記録装置」(本願発明)は同義である。 したがって、本願発明と引用発明とは、 「液体を吐出するノズルと、前記ノズルに連通する液路と、前記液路に設けられた複数の電気熱変換手段とを備えた吐出部と、 前記電気熱変換手段に電圧を供給する供給手段と、前記供給手段の制御を行う制御手段とを有し、 前記吐出部を搭載するキャリッジを前記吐出部に対向する被記録媒体に対して走査して、かつ、所定の時間だけ前記電気熱変換手段に電圧を印加して、インクを加熱、沸騰させて、その沸騰気泡の発生圧力により、インク滴を吐出させて前記被記録媒体に印字を行うインクジェット記録装置であって、 印字を行わない期間に、インクが沸騰しない時間だけ前記電気熱変換手段に電圧を印加するインクジェット記録装置。」である点で一致し、次の点で相違する。 〈相違点〉インクが沸騰しない時間だけ前記電気熱変換手段に電圧を印加すべき印字を行わない期間を、本願発明では「各印字行の両端のキャリッジの加速期間中」としているのに対し、引用発明では「電源投入後印字開始前や印字開始時」としている点。 4.相違点についての判断及び本願発明の進歩性の判断 引用例の記載ウによれば、「インクが沸騰しない時間だけ前記電気熱変換手段に電圧を印加」(以下「予備加熱」という。)する目的は、ノズル先端に設けられたオリフィスが装置外部の外気に向けて開放されていることが原因で、記録液の粘度が増加することの対策にある。印字開始後は、べた印字に近いような印字データであれば、吐出用ヒータを加熱することでインクが加熱されるから、予備加熱する必要はないであろうが、印字データによっては、ほとんど吐出用ヒータを加熱しない(インクを吐出しない)場合もあり、通常ノズル(オリフィス)は多数設けられており、全くインクを吐出しないノズルも想定され、印字開始後にインクの粘度が増加することは十分想定できる。 そして、引用発明は、引用例に従来技術の1つとして記載されたものであるが、引用例には記載コのとおり、印字開始後に加熱処理をすることも記載されているから、引用発明を出発点として、印字開始後に予備加熱することは設計事項というべきである。もっとも、記載コには、移動方向転換時でキャリッジが停止した状態で加熱する旨記載されているから、「印字行の両端」に該当するとしても、「各印字行の両端」及び「キャリッジの加速期間中」には該当しない。さらに、記載ケには「キャリッジモータM2が駆動されている印字動作中には加熱処理が行われない」ともあるが、被記録媒体に対向する位置で加熱処理をすることが適切でないことは理解できるものの、それ以外の加速領域又は減速領域(例えば、特開平3-190747号公報(以下「周知例1」という。)に、「一般に記録ヘッドを搭載したキャリッジを往復運動させて印字を行う記録装置は記録領域の両側にキャリッジの加減速領域が設けられておりこの領域においては記録ヘッドは非印字状態となる。」(3頁右上欄14〜18行)とあるように、キャリッジを吐出部に対向する被記録媒体に対して走査するような記録装置では、記録領域の両側に加減速領域を設けることは周知である。)においてまで加熱処理をすることが適切でない理由を見いだし難い。 ところで、本願発明は「各印字行の両端のキャリッジの加速期間中」に予備加熱すると限定しているだけであって、移動方向転換時の停止期間に予備加熱しない旨限定しているのではなく、予備加熱のための停止期間を積極的に設定することを排除しているものでもない。要するに、予備加熱期間に加速期間が含まれる旨限定しているだけである。上記のとおり、加速期間又は減速期間に予備加熱できない理由は見いだし難いから、予備加熱期間に加速期間を含むことは当業者にとって想到容易というよりない。 また、印刷速度を向上することは記録装置一般の普遍的課題であり、予備加熱のための停止期間を積極的に設定すれば、それだけ印刷速度が低下するから、予備加熱のための停止期間は短い方が好ましいことは明らかである。その点からみても、予備加熱期間に加速期間を含むことは容易である。 そして、予備加熱すべき時期(加速期間を含む移動方向転換時)において、インク粘度の増加分が小さければ、予備加熱のための停止期間を短くできること(場合によっては、積極的に停止期間を設定しなくともよくなる。)は自明である。そして、頻繁に予備加熱すれば、前回予備加熱時からのインク粘度増加を抑制できることも自明であるから、移動方向転換ごと(各印字行の両端)に予備処理することも当業者にとって想到容易というべきである。 以上のことは、次の事実からも頷ける。引用例の記載ウの「その他の液滴形成方式」として著名なものは、圧電素子に電圧を印加することによりインク室を膨脹・収縮させる方式(以下「圧電方式」という。)であるが、記録液の粘度が増加することの課題は圧電方式にも共通する。圧電方式では、この課題を解決するために、「各印字行の両端のキャリッジの加速期間中」にインクを吐出しない程度の電圧を圧電素子に印加する(その結果、インク室及びインクが微振動する。)ことが周知である(例えば、前掲周知例1の「インク滴を頻繁に噴射していたノズルの先端部には粘度の低いインクが付着しており長時間噴射を休止していたノズルの先端部には粘度の高いインクが付着しているという具合に、各ノズルの駆動履歴によりノズル先端部の濡れ状態に差が生じ次の噴射の際にインク滴の飛行方向や飛行速度に影響が出て均一な噴射特性が保てなくなるという問題を有する。」(1頁右下欄12〜19行)及び「加減速領域にキャリッジが移行した時にインクジェット記録ヘッドのすべての圧電素子に、先に説明したようなノズルよりインク滴が噴射しない程度の電圧による駆動を行い微小振動を与えることによりノズル先端部にインクを供給して先端部の濡れを均一に保たせるものである。」(3頁右上欄18行〜左下欄4行)との記載又は特開平4-80037号公報(以下「周知例2」という。)の「非印字領域中に、全ノズルが、同じタイミングで、インクが飛び出さない範囲の電気信号を、その圧電素子に与える事により、駆動させ、印字タイミング前に、印字ノズル群のノズル孔周囲のインクによる濡れを均一にする」(2頁右上欄11〜15行)との記載を参照。)。 引用発明の予備加熱と上記周知技術とは、粘度増加抑制の原理が異なる(そもそもインク吐出原理が異なる。)けれども、インクを吐出しない程度のエネルギーを与える点で軌を一にするものであるから、上記周知技術に倣って、「各印字行の両端のキャリッジの加速期間中」に予備加熱することは当業者にとって想到容易である。なお、予備加熱と上記周知技術の類似性については、前掲周知例2にも「圧電素子のかわりに、流路内に電気熱変換体を設けて、ノズル内のインクを熱エネルギーを用いて射出する記録媒体液吐出記録方法の場合においても同様に、非印字領域内で、印字ノズルの流路内の熱発生部に、インクが飛び出さない程度のエネルギーをあたえるように駆動電流、電圧印加時間を変えることにより、前記実施例と同様の効果が得られる。」(3頁右上欄3〜10行)と記載されているとおりである。 以上によれば、相違点に係る本願発明の構成を採用することは当業者にとって想到容易であり、同構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。 したがって、本願発明は引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 第3 むすび 本願発明が特許を受けることができない以上、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2006-06-28 |
結審通知日 | 2006-07-04 |
審決日 | 2006-07-18 |
出願番号 | 特願平7-146023 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(B41J)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 後藤 時男 |
特許庁審判長 |
津田 俊明 |
特許庁審判官 |
長島 和子 藤本 義仁 |
発明の名称 | インクジェット記録装置 |
代理人 | 内藤 浩樹 |
代理人 | 永野 大介 |
代理人 | 岩橋 文雄 |