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審決分類 審判 一部無効 1項3号刊行物記載  A47G
審判 一部無効 2項進歩性  A47G
管理番号 1143684
審判番号 無効2004-80229  
総通号数 83 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1997-02-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2004-11-16 
確定日 2006-07-31 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第2892976号「花生け用具」の特許無効審判事件についてされた平成17年10月18日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の決定(平成17年(行ケ)第10819号、決定日:平成18年2月21日)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第2892976号の請求項1ないし4に記載された発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1.手続の経緯
1.本件特許第2892976号に係る発明についての出願は、平成7年8月11日の出願であって、平成11年2月26日に特許権の設定登録がなされたものである。
2.その後、平成16年11月16日に株式会社大創産業から特許無効の審判が請求され、平成17年8月4日に口頭審理が行われ、平成17年10月18日に請求項1ないし4に記載された発明について特許を無効とする旨の審決がなされた。
3.これに対し、被請求人は、知的財産高等裁判所に審決の取消しを求める訴え(平成17年(行ケ)10819号)を提起した後、平成18年1月17日に訂正審判(訂正2006-39007号)を請求したところ、当該裁判所は平成18年2月21日に特許法第181条第2項の規定により審決の取消しの決定をした。
4.その後、特許法第134条の3第5項の規定により、上記訂正審判の請求書に添付された訂正明細書を援用する訂正請求(以下、「本件訂正」という。)が平成18年3月20日になされ、これに対し、請求人は平成18年5月8日に弁駁書を提出した。

第2.訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
被請求人が求めている本件訂正は、本件明細書を、上記援用された訂正明細書のとおりに訂正することである。すなわち、その訂正の内容は、以下の訂正事項1〜20のとおりである(被請求人は、平成17年2月22日付けの訂正請求書に添付した訂正明細書に基づいて訂正内容を記載しているが、平成17年2月22日付けの訂正の請求は、特許法第134条の2第4項の規定により取り下げたものとみなされるので、特許権の設定登録時の明細書に基づくように記載を変えている)。
訂正事項1:請求項1に「中空のドーナッツ状の形態を有し」とあるのを「花びらを乗せる上面と、萼を入れ、茎を下に突き抜けさせる中心の穴とを有し、全体的に中空のドーナッツ状の形態を有する薄肉のガラス製品であ
り」と訂正する。
訂正事項2:請求項1に「水に浮くことができる、」とあるのを「水に浮くことができ、花びらを上面に乗せ、萼を中心の穴に入れ、茎を中心の穴から下に突き抜けさせて前記容器中の水の中に入れることにより花を生ける」と訂正する。
訂正事項3:請求項2を削除する。
訂正事項4:請求項3に「側面の少なくとも一か所に、側方に突出する突起」とあるのを「側面に、側方に突出する、先端が細くなって閉じている1個の突起」と訂正するとともに、「請求項2記載の」とあるのを「請求項1記載の」と訂正し、請求項3を新たな請求項2とする。
訂正事項5:請求項4に「請求項2記載の」とあるのを「請求項1記載
の」と訂正し、請求項4を新たな請求項3とする。
訂正事項6:請求項5に「請求項2記載の」とあるのを「請求項1記載
の」と訂正し、請求項5を新たな請求項4とする。
訂正事項7:請求項6に「前記ガラス製の容器の」とあるのを「ガラス製の容器と、その容器に満たした水と、その水に浮かべた、容器の開口部よりも小さい外径を有する花生け用具とからなり、前記花生け用具が、水を張った容器に花を生ける用具であって、全体的に中空のドーナッツ状の形態を有する薄肉のガラス製品であり、水に浮くことができるものであり、前記ガラス製の容器の」と訂正するとともに、「請求項5載の」とあるのを削除し、請求項6を新たな請求項5とする。
訂正事項8:明細書の段落【0004】(特許2892976号公報第2頁左欄第8〜9行)に「中空のドーナッツ状の形態を有し」とあるのを「花びらを乗せる上面と、萼を入れ、茎を下に突き抜けさせる中心の穴とを有する、全体的に中空のドーナッツ状の形態を有する薄肉のガラス製品であり」と訂正する。
訂正事項9:明細書の段落【0004】(特許2892976号公報第2頁左欄第9行)に「水に浮くことができる」とあるのを「水に浮くことがで
き、花びらを上面に乗せ、萼を中心の穴に入れ、茎を中心の穴から下に突き抜けさせて前記容器の水の中に入れて花を生ける花生け用具である」と訂正する。
訂正事項10:明細書の段落【0004】(特許2892976号公報第2頁左欄第10〜11行)に「このような・・・・ガラス製であるのが好ましい。」とあるのを削除する。
訂正事項11:明細書の段落【0004】(特許2892976号公報第2頁左欄第11〜12行)に「側面の少なくとも一か所に、側方に突出する突起」とあるのを「側面に、側方に突出する、先端が細くなって閉じている1個の突起」と訂正する。
訂正事項12:明細書の段落【0005】(特許2892976号公報第2頁左欄第18〜21行)に「このようなディスプレー装置では・・・好ましい」とあるのを「本発明のディスプレー装置の他の態様は、ガラス製の容器と、その容器に満たした水と、その水に浮かべた、容器の開口部よりも小さい外径を有する花生け用具とからなり、前記花生け用具が、水を張った容器に花を生ける用具であって、全体的に中空のドーナッツ状の形態を有する薄肉のガラス製品であり、水に浮くことができるものであり、前記ガラス製の容器の底面が凸湾曲面であり、水がその容器の途中まで満たされていることを特徴としている」と訂正する。
訂正事項13:明細書の段落【0006】(特許2892976号公報第2頁左欄第24〜25行)に「水を張った容器」とあるのを「花びらを上面に乗せ、萼を中心の穴に入れ、茎を中心の穴から下に突き抜けさせて容器中の水の中に入れるようにして、水を張った容器」と訂正する。
訂正事項14:明細書の段落【0006】(特許2892976号公報第2頁左欄第26行)における「花は」を「花は、水面上に浮く睡蓮の様相あるいはブーケ状の花束を水面に浮かせた外観を呈し」と訂正する。
訂正事項15:明細書の段落【0006】(特許2892976号公報第2頁左欄第28〜29行)に「ガラス製とする場合は」とあるのを「ガラス製としているので」と訂正する。
訂正事項16:明細書の段落【0007】(特許2892976号公報第2頁左欄第32行)に「突出する突起」とあるのを「突出する、先端が細くなって閉じている1個の突起」と訂正する。
訂正事項17:明細書の段落【0012】(特許2892976号公報第2頁右欄第28〜29行)に「さらにガラスに・・・することもできる。」とあるのを削除する。
訂正事項18:明細書の段落【0020】(特許2892976号公報第3頁右欄第25〜26行)に「花生け用具1」とあるのを「花生け用具3
0」と訂正する。
訂正事項19:明細書の段落【0022】(特許2892976号公報第3頁右欄第41行)に「花を水面上に」とあるのを「水面上に浮く睡蓮の様相あるいはブーケ状の花束を水面に浮かせた外観で、花を水面上に」と訂正する。
訂正事項20:明細書の段落【0022】(特許2892976号公報第3頁右欄第43行)に「ガラス製の花生け用具」とあるのを「ガラス製であるので」と訂正する。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
訂正事項1について
訂正事項1は、請求項1の「中空のドーナッツ状の形態を有し」に「花びらを乗せる上面と、萼を入れ、茎を下に突き抜けさせる中心の穴とを有し、全体的に」、「薄肉のガラス製品であり」を付加して「花びらを乗せる上面と、萼を入れ、茎を下に突き抜けさせる中心の穴とを有し、全体的に中空のドーナッツ状の形態を有する薄肉のガラス製品であり」と訂正するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正後の「花びらを乗せる上面と、萼を入れ、茎を下に突き抜けさせる中心の穴とを有し、」は、明細書の段落【0016】に「花16の花びら16aは花生け用具1の上面に軽く乗り、萼16bは花生け用具1の穴3に入り、穴3から下に突き抜けている茎16cだけが水中に入ってい
る。」と記載されているから、明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、「全体的に中空のドーナッツ状の形態を有する薄肉のガラス製品であり」は、明細書の段落【0011】に「全体的に中空のドーナッツ状、あるいは浮輪状の形態を有するガラス製品であり」と記載され、また、請求項2に「薄肉のガラス製である請求項1記載の花生け用具。」と記載されているから、明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであ
る。そして、実質上、特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

訂正事項2について
訂正事項2は、請求項1の「水に浮くことができる、」に「花びらを上面に乗せ、萼を中心の穴に入れ、茎を中心の穴から下に突き抜けさせて前記容器中の水の中に入れることにより花を生ける」を付加して「水に浮くことができ、花びらを上面に乗せ、萼を中心の穴に入れ、茎を中心の穴から下に突き抜けさせて前記容器中の水の中に入れることにより花を生ける」と訂正するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正後の「花びらを上面に乗せ、萼を中心の穴に入れ、茎を中心の穴から下に突き抜けさせて前記容器中の水の中に入れることにより花を生ける」は、明細書の段落【0016】に「花16の花びら16aは花生け用具1の上面に軽く乗り、萼16bは花生け用具1の穴3に入り、穴3から下に突き抜けている茎16cだけが水中に入っている。」と記載されているから、明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、実質
上、特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

訂正事項3について
訂正事項3は請求項2を削除するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的としており、新規事項を追加するものでもない。

訂正事項4について
訂正事項4における請求項3の「側面の少なくとも一か所に、側方に突出する突起」を「側面に、側方に突出する、先端が細くなって閉じている1個の突起」と訂正することは、突起の形状を限定し、個数を1個に限定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして訂正後の「先端が細くなって閉じている1個の突起」は、明細書の段落【001
5】に「残ったガラス管9aの先端が細くなって閉じ、その部分が前述の突起2となる。」と記載されており、段落【0011】に「その側壁から1個の突起2が突出している」と記載されているから、明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、実質上、特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
また、「請求項2記載の」とあるのを「請求項1記載の」と訂正することは、上記訂正事項1、2による請求項1の訂正が、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるとともに、請求項2の「薄肉のガラス製品である」を「全体的に薄肉のガラス製品であり」として、実質的に付加するものでもあるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるとともに、訂正事項3の請求項2を削除することに伴う明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。そして、この訂正は、明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、実質上、特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
さらに、請求項3を新たな請求項2と訂正することは、上記訂正事項3の請求項2を削除することに伴う明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。

訂正事項5及び6について
「請求項2記載の」とあるのを「請求項1記載の」と訂正することは、上記訂正事項1、2による請求項1の訂正が、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるとともに、請求項2の「薄肉のガラス製品である」を「全体的に薄肉のガラス製品であり」として、実質的に付加するものでもあるか
ら、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるとともに、訂正事項3の請求項2を削除することに伴う明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。そして、この訂正は、特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、実質上、特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
さらに、請求項4、5を新たな請求項3、4とすることは、上記訂正事項3の請求項2を削除することに伴う明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。

訂正事項7について
請求項5の従属形式で記載されていた請求項6に、請求項5の特定事項を付加するとともに、請求項5で引用している「請求項2記載の花生け用具」の特定事項である「中空のドーナッツ状の形態を有する薄肉のガラス製品である」を「全体的に中空のドーナッツ状の形態を有する薄肉のガラス製品であり、」と限定して付加し、かつ「請求項5記載の」を削除して、独立請求項の形式に訂正するものである。したがって特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして訂正後の「全体的に中空のドーナッツ状の形態を有する薄肉のガラス製品であり、」は、明細書の段落【0011】に「全体的に中空のドーナッツ状、あるいは浮輪状の形態を有するガラス製品であり」と記載され、また、請求項2に「薄肉のガラス製である請求項1記載の花生け用具。」と記載されているから、明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであ
る。

訂正事項8〜17、19、20について
訂正事項8〜17、19、20は、訂正事項1〜7と発明の詳細な説明の記載とが整合するように訂正するものであって、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、これらの訂正は、特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、実質上、特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

訂正事項18について
明細書の段落【0020】の「この花生け用具30は前述の突起2に代えて、上面側に空洞部4と外部を連通する開口部31を備えている。」及び図8における「30:花生け用具 31:開口部」の記載から、明細書の段落【0020】(特許2892976号公報第3頁右欄第25〜26行)における「花生け用具1」は「花生け用具30」の誤記であることが明らかであり、訂正事項18は、誤記の訂正を目的とするものであって、特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上、特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

3.独立特許要件
訂正事項7による訂正は、特許無効審判が請求されていない請求項についての訂正であって、上記2.に記載したように特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、訂正明細書の請求項5に係る発明の独立特許要件について検討する。
訂正明細書の請求項5に係る発明は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項5に記載された事項により特定されたとおりのものであって、請求人が提出した甲第1〜5号証に記載された発明(後述の第5.各甲号証の記載を参照。)と同一であるとも、また、これらの記載された発明から又はこれらの記載された発明の組み合わせから容易に発明することができたと認めることはできない。また、他に特許を受けることができない理由も見当たらな
い。
したがって、訂正明細書の請求項5に係る発明は、出願の際、独立して特許を受けることができるものである。

4.むすび
したがって、上記訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書きの規
定、及び特許法第134条の2第5項において準用する特許法第126条第3項から第5項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

第3.本件発明
本件特許第2892976号の請求項1〜4に係る発明(以下順に、「本件発明1」〜「本件発明4」という。)は、訂正された本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1〜4に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。
「【請求項1】 水を張った容器に花を生ける用具であって、
花びらを乗せる上面と、萼を入れ、茎を下に突き抜けさせる中心の穴とを有し、全体的に中空のドーナッツ状の形態を有する薄肉のガラス製品であ
り、水に浮くことができ、
花びらを上面に乗せ、萼を中心の穴に入れ、茎を中心の穴から下に突き抜けさせて前記容器中の水の中に入れることにより花を生ける花生け用具。
【請求項2】 側面に、側方に突出する、先端が細くなって閉じている1個の突起を備えている請求項1記載の花生け用具。
【請求項3】 上面に空洞の内部と外部を連通する開口部を備えている請求項1記載の花生け用具。
【請求項4】 ガラス製の容器と、その容器に満たした水と、その水に浮かべた、容器の開口部よりも小さい外径を有する請求項1記載の花生け用具とからなる花のディスプレー装置。」

第4.当事者の主張の概要及び証拠方法
1.請求人の主張の概要及び証拠方法
請求人は、審判請求書において、証拠として甲第1〜4号証を提出して、次の主張をしている。
【理由1:特許法第29条第1項
本件発明1、4(訂正前の請求項1、2、5に係る発明)は、甲第1号証に記載された発明であるから、それらについての特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものである。
したがって、本件発明1、4(訂正前の請求項1、2、5に係る発明)についての特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効にすべきである。
【理由2:特許法第29条第2項
本件発明1、4(訂正前の請求項1、2、5に係る発明)は、甲第1号証に記載された発明でないとしても、甲第1、2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、それらについての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。
本件発明2(訂正前の請求項3に係る発明)は、甲第1〜3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるか
ら、それについての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。
本件発明3(訂正前の請求項4に係る発明)は、甲第1、4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるか
ら、それについての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。
したがって、本件発明1〜4(訂正前の請求項1〜5に係る発明)についての特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効にすべきであ
る。

さらに、請求人は、平成17年5月20日付けの弁駁書とともに甲第5号証を提出して、本件特許に係る花の生け方、その生け方を実現する用具も以前から存在したと主張している。

<証拠方法>
甲第1号証:実公昭32-5945号公報
甲第2号証:実願昭53-2801号(実開昭54-108244号)の マイクロフィルム
甲第3号証:特開昭52-131839号公報
甲第4号証:実公昭45-9090号公報
甲第5号証:意匠登録第523876号公報
甲第6号証の1:インターネットによる「投げ入れ(なげいれ)」の説明画 面を含むホームページのトップページ
甲第6号証の2:上記トップページの「CONTENTS」から「生け花」の目 次を開いたページ
甲第6号証の3:上記生け花のページから「投げ入れの基本へ」の項目を 開いたページ
甲第6号証の4:上記トップページの「CONTENTS」から「お茶花」の目 次を開いたページ
甲第6号証の5:上記「お茶花」のページから「お茶花の図へ」の項目を 開いたページ
なお、請求人が提出した「訂正乙第1号証の1」〜「訂正乙第1号証の
5」は、「甲第6号証の1」〜「甲第6号証の5」と読み替えて記載している。

2.被請求人の主張の概要及び証拠方法
本件発明1、4は、甲第1号証に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当しない。さらに、本件発明1、4は、甲第1、2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものではなく、本件発明2は、甲第1〜3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものではなく、本件発明3は、甲第1、4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものではないから、特許法第29条第2項の規定に該当しない。
したがって、本件発明1〜4についての特許は、特許法第123条第1項第2号の無効理由はない。

<証拠方法>
乙第1号証:実公昭32-5945号公報
乙第2号証:実願昭53-2801号(実開昭54-108244号)の マイクロフィルム
乙第3号証:特開昭52-131839号公報
乙第4号証:実公昭45-9090号公報
乙第5号証:意匠登録第523876号公報
乙第6号証の1:いけばな辞典 大井ミノブ編 東京堂出版 平成14年 2月5日 5版発行 第297頁下段
乙第6号証の2:いけばな辞典 大井ミノブ編 東京堂出版 平成14年 2月5日 5版発行 第248頁上段
乙第7号証:大辞泉 小学館 大辞泉編集部 1995年12月1日
第1版発行 第1971頁上段
乙第8号証:インターネットによる「投げ入れ(なげいれ)」の説明画面
乙第9号証:審決取消訴訟の訴状(添付書類省略)
乙第10号証:知的財産高等裁判所書記官よりのファクシミリ
なお、被請求人の提出した「甲第1号証」〜「甲第10号証」は、「乙第1号証」〜「乙第10号証」と読み替えて記載している。

第5.各甲号証の記載
1.甲第1号証の記載事項
(1)「本考案は硝子、合成樹脂、セルロイド或は木材等適当の材料を以て全体を円形の中空体1に形成させ、その内径面は曲線の斜面2に形成すると共に最小径部には内方に向け柔軟性の鍔縁9を設けてなるものである。
本考案はチューリップ、ヒヤシンス、水仙等のような水栽球根を、その根先を下向にして斜面2にのせると共に、球根の根もとを鍔縁3内に押込み、鍔縁3で挟むようにして支持させ、これを池とか貯水槽等の水面に浮かせ、或は水盤や金魚鉢のような小さい容器の水面に浮かせて水栽培するものである。
そして池や貯水槽のような広い水面に浮かせるときは、中空体1は球根をのせた儘風によつて水面を浮遊し、球根から生じた白い根と葉と花の三者を一体として動的のものを観賞するものである。」(第1ページ左欄第5行〜右欄第2行)
(2)「本考案は上記のように中空体1の内径部を斜面2に形成すると共に、柔軟性の鍔縁3を設け、この鍔縁3にて球根の根もとを挟むように支持するものであるから、大小各種の球根を支受することができると共に、これを広い水面に浮かせるときは中空体1の浮動により動的な美しさが観賞できる効果があり、又金魚鉢や水盤等のような小さい器物内でも容易に水栽培ができる効果がある。」(第1ページ右欄第6行〜第13行)
(3)「図面に示すように合成樹脂、セルロイド或は木材等適当の材料を以て全体を円形の中空体1に形成させ、その内径面は曲線の斜面2に形成すると共に最小径部には内方に向け柔軟性の鍔縁3を設けてなる球根浮環の構造。」(登録請求の範囲)
(4)第1図には、球根浮環の縦断斜面図が記載され、そこに記載されている、中空体1は薄肉であると認められる。
上記(1)〜(4)の記載を総合すると、金魚鉢のような小さい容器の水面に球根浮環を浮かせて水栽培する場合、当然のことながら、金魚鉢の開口部よりも球根浮環の外径が小さいといえるから、甲第1号証には次の二つの発明が記載されていると認められる。
「硝子の材料を以て全体を円形の薄肉の中空体に形成させ、その内径面は曲線の斜面に形成すると共に最小径部には内方に向け柔軟性の鍔縁を設けてなり、池とか貯水槽等の水面、或いは水盤や金魚鉢のような小さい容器の水面に浮かせる球根浮環。」(以下、「引用発明1」という。)
「金魚鉢と、この金魚鉢に満たした水と、その水に浮かべた、金魚鉢の開口部よりも小さい外径を有する、硝子の材料を以て全体を円形の薄肉の中空体に形成させ、その内径面は曲線の斜面に形成すると共に最小径部には内方に向け柔軟性の鍔縁を設けてなる球根浮環と、からなる装置。」(以下、「引用発明2」という。)

2.甲第2号証の記載事項
甲第2号証には、以下の記載がある。
(1)「(イ)周辺部に空気管又は空気室(1)を具備し、さらに排水穴又は排水溝(2)をつけ、中央部に球根設置穴(3)を設けた球根栽培水上浮具。」(実用新案登録請求の範囲)
(2)「この実用新案は球根水栽培の水上浮具に関するものである。人工池又は水槽等を利用して観賞用球根花を大量に水栽培することを目的としている。
従来、球根水栽培は透明状鉢等にて実施していたが大量かつ多種類の栽培は場所等の関係から不可能であった。
本考案はこの欠点を解決する為、かつまた土壌を使用しない簡易な球根水栽培の普及を促進する為に考案されたもので、これを図面について説明すれば、周辺部に空気管又は空気室(1)を具備し雨水等の排水穴又は排水溝
(2)をつけ、中央部分に球根設置穴(3)を設けて凸凹切込みをつける。 本案は以上のような構造であるからこれを使用せんとするときには、球根設置穴(3)に球根を押込んで設置し人工池又は水槽に浮漂させればよく、使用方法は至って簡単である。
また風力等の抵抗を少くする為空気管又は空気室(1)は水面よりの高さを小さくする。球根設置穴(3)は周囲が凸凹切込み状を呈するから球根押えの効果があり、球根傾斜を防止する。浮具自体の形状は円状、角状、星形状、花弁状をも含み、適宜配色すればなお一層の美的効果がある。素材としてプラスチックや発泡スチロール等の軽素材を用いるので、球根開花時に於ける多少の水面波に対しても転倒することはない。
本考案の応用例としては球根設置穴(3)を細口にしてこれに生け花を投入した生け花浮具としての使用も可能である。」(明細書第1ページ第11行〜第3ページ第1行)

3.甲第3号証の記載事項
甲第3号証には、以下の記載がある。
(1)「多数の栽培用トレイを養液面に浮遊させながら循環移動させ、植物を生育させる平面移動式養液栽培装置において、浮遊移動させるトレイの側壁に複数個の突起を設け、トレイの移動(自転、公転 )を容易ならしめることを特徴とする植物栽培用移動トレイ。」(特許請求の範囲)
(2)「本発明は養液面に栽培用トレイを、浮遊させながら移動させる平面移動式養液栽培における植物栽培用の移動トレイの形状に関するものである。」(第1ページ左下欄第11行〜第13行)
(3)「第2図(a)および(b)に示す如く、本移動トレイは、浮力の大きい材料(たとえば発砲スチロール)で作られたトレイ(円板状でなくてもよい)6、そのトレイの側壁につけられた複数個の突起7から成る。養液面に浮遊させた多数のトレイの移動においては、トレイ同志間、あるいはトレイと養液槽壁間に働く大きい附着力が、トレイの移動に対して障害となりトレイが団子状になり易く、移動停止の原因となり安定した運動が得られないが、トレイの側壁に第2図に示した如き三角形状で先端に円弧状を有する複数個の突起を設ける(たとえば金属棒をまげて作つたものをトレイにさし込む)ことによりトレイ同志あるいはトレイと槽壁間の離散が非常に容易と なり、小さい動力で多数のトレイの移動(自転および公転)が可能とな
る。」(第1ページ右下欄第16行〜第2ページ左上欄第10行)

4.甲第4号証の記載事項
(1)「この考案は浮体の中央に底板を設け、用土類を入れて植物を植込み、または水栽用球根を置いて池水槽等大小様々の水面に浮かべるようにした浮花壇に係るもので、浮体の中央に該浮体を水面に浮べた際その水面より適宜な間隔を保有する状態に於て底板を設け、且つ該底板にこれらの上方に入れた用土類に適量の水分を供給する吸水装置を設けて成るものである。 上記浮体は内部が中空のものを用いるのが適切で、この場合内部を4つ等数個に区画するか、或いは浮体を4個等数個の部分から構成してこれを一連に連結することにより、1つの輪または舟形矩形など任意の形としこれ等の区画室毎に給排水口を設ける。
こうすると各室内に給水したり排水したりすることにより浮力を調節して重量の片寄りによる傾斜や顛覆が補正できると共に吃水が調節でき、全体が水平に保持できると同時に常に底板と水面との間隔を一定に保ち空気層を保有するので根の生理にとつて極めて良好な状態に於て浮かせることができるので甚だ好都合である。なお給排水口には雨水等の流入や内部の水の蒸発を防ぐために蓋を設ける。」(第1ページ第1欄第15行〜第37行(ページ中央の行数の表示に基づくと第17行〜第39行))
(2)「こうした浮体1の中央に、該浮体1を水面に浮べた際その水面より適宜な間隔を保有する状態に於て底板7を設け、該底板7にこれの上方に適量の水分を供給する。吸水装置即ち適数の円筒8を貫通配置してこれ等の円筒8に綿、ガラス繊維等の給水繊維9を挿通し、さらに底板7に適数の排水孔10を配置し、浮体1の底部に環11を設けたものである。」(第1ページ第2欄第12行〜第19行)
(3)「図示の実施例は叙上の通りであるから底板7上に用土類を適量のせ、これに適宜に植物を植え、または水裁用球根を置きこれを池、水槽等に浮べる。そして給排水口5,5,5,5より第1例の場合は各区画室3に、また第2例の場合は各空室12に給水或いは排水して浮力を調節し重量の片寄りによる傾斜や顛覆を補正すると共に吃水突条6により植込んだ植物に応じた吃水を定め(植物に応じた吃水を定めるのは、植物に適した水分を前記吸水装置により供給するためである。)る。
このようにして水面に浮べられると円筒8に挿通された綿ガラス繊維等の給水繊維9の下端が水中に浸されるので水分が毛細管現象により給水繊維9を伝つて上昇し、用土類中に至り土を適宜に湿潤する。また降雨その他による余分の水分は底板7の排水孔10より排水される。ところでこの際の給水には円筒8が用いられているので用土類への給水は下部のみならずその上部にまで均一に分配される。」(第1ページ第2欄第28行〜第2ページ第3欄第7行)
(4)「従つてこの考案によれば水面上に極めて美麗な花壇を構成でき、しかもこの花壇は風のまにまに浮動して動的興味を与えるものである。ま
た、植物の種類に合わせて適宜浮体1の中空室に給水或いは排水することにより、浮体1の浮力を調節して底板7を水面に離接せしめることができ、各々の植物に最も適した水分を給水繊維9にて毛細管現象により吸い上げて供給しより効率よく植物を育成することができる。」(第2ページ第3欄第16行〜第4欄第7行)
(5)「給排水自在とした中空室を適宜設け任意の環状に形成した浮体の中央に底板を設け、該底板に適数個の綿、ガラス繊維等から成る給水繊維を挿通したことを特徴とする浮花壇。」(実用新案登録請求の範囲)
(6)第2図には、内部を中空にして任意の環状にした浮体1の上面に蓋4を有する給排水孔5を設けた浮花壇が記載されている。
上記(1)〜(6)の記載を総合すると、甲第4号証には、「中空室を適宜設け任意の環状に形成した浮体の中央に底板を設け、該底板に適数個の綿、ガラス繊維等から成る給水繊維を挿通し、底板に水栽用球根を置いて池水槽等大小様々の水面に浮かべるようにした浮花壇において、浮体の上面に給排水孔を設け、該給排水孔からの給水又は排水により吃水を調整する」技術が記載されていると認められる。

5.甲第5号証の記載事項
甲第5号証には、「意匠に係る物品 水上花器」、「説明 本物品は生花を中央孔に投入し、水面上に浮漂して用いる花器である。」と記載され、その図面には、断面略紡錘形の浮き輪と、浮き輪の内周部に連続するように設けられる有底の筒部とからなり、筒部の上端がラッパ状に開いて浮き輪の上面に連続し、筒部の下部近辺の側方に複数個の矩形状の貫通孔が形成された水上花器が記載されている。

第6.本件発明に係る特許の無効の有無について
上記理由2について検討する。
1.本件発明1について
(1)対比
本件発明1と引用発明1を対比すると、後者の「硝子の材料を以て全体を円形の薄肉の中空体に形成させ、その内径面は曲線の斜面に形成する」は、前者の「全体的に中空のドーナッツ状の形態を有する薄肉のガラス製品であり、」に相当する。
後者の「中空体」も当然のことながら上面を有し、前者の「花びらを乗せる上面」と「上面」である点で共通する。
後者の「最小径部」は、前者の「萼を入れ、茎を下に突き抜けさせる中心の穴」と「中心の穴」である点で共通する。
後者の「水盤や金魚鉢のような小さい容器の水面に浮かせる」は、前者の「水を張った容器」の「水に浮くことができ、」るに相当する。
また、後者の「球根浮環」は、「用具」といえるから、前者の「花生け用具」と「用具」である点で共通する。
したがって、両者は、「上面と中心の穴とを有し、全体的に中空のドーナッツ状の形態を有する薄肉のガラス製品であり、水を張った容器の水に浮くことができる用具」である点(以下、「一致点A」という。)で一致し、次の点で相違する。
【相違点1】
用具について、本件発明1は、全体的に中空のドーナッツ状の形態を有する薄肉のガラス製品が、花びらを乗せる上面と、萼を入れ、茎を下に突き抜けさせる中心の穴とを有し、花びらを上面に乗せ、萼を中心の穴に入れ、茎を中心の穴から下に突き抜けさせて容器中の水の中に入れることにより花を生ける花生け用具であるのに対して、引用発明1は、全体的に中空のドーナッツ状の形態を有する薄肉のガラス製品の中心の穴(最小径部)には内方に向け柔軟性の鍔縁を有する、球根浮環である点 。

(2)当審の判断
上記相違点1について
上記相違点1における本件発明1の「全体的に中空のドーナッツ状の形態を有する薄肉のガラス製品が、花びらを乗せる上面と、萼を入れ、茎を下に突き抜けさせる中心の穴とを有し、花びらを上面に乗せ、萼を中心の穴に入れ、茎を中心の穴から下に突き抜けさせて容器中の水の中に入れることにより花を生ける花生け用具」の「花びらを乗せる上面と、萼を入れ、茎を下に突き抜けさせる中心の穴とを有し、花びらを上面に乗せ、萼を中心の穴に入れ、茎を中心の穴から下に突き抜けさせて容器中の水の中に入れることにより花を生ける」は、使用方法ないし使用形態を記載したものであって、「全体的に中空のドーナッツ状の形態を有する薄肉のガラス製品」の上面及び中心の穴の形状、構造、材質等を何ら限定するものではない。そうすると、この使用方法ないし使用形態を記載した部分は、花生け用具の特定事項として格別意味のあるものとはいえない。
ところで、甲第2号証には、「周辺部に空気管又は空気室(1)を具備
し、さらに排水穴又は排水溝(2)をつけ、中央部に球根設置穴(3)を設けた球根栽培水上浮具。」の「応用例としては球根設置穴(3)を細口にしてこれに生け花を投入した生け花浮具としての使用も可能である。」と記載されている(上記第5.2.(1)、(2)を参照)。上記甲第2号証の記載は、球根栽培水上浮具の応用例として生け花浮具としての使用を教示ないし示唆しているととともに、生け花浮具とする場合の一形態として球根設置穴を細口にすることを示しているといえる。そうすると、引用発明1の球根浮環は、その機能、構造から、球根栽培水上浮具といえるので、上記教示ないし示唆に基づいて、球根浮環の応用例として生け花浮具として使用することは当業者であれば当然考えることである。その際に、支持するものが球根から花(茎や葉を伴う)に代わることに伴い、上記球根設置穴を細口にするという一形態に拘束されず、花を支持するのに適合するような構造に変更することは当然のことである。そして、引用発明1の球根浮環は、柔軟性の鍔縁の内側で形成する穴に挿入された花(茎や葉を伴う)を支持することも可能であるが、花の種類、大きさ等によって、球根の根もとが押し込まれ、これを挟むように支持させる為に設けられた柔軟性の鍔縁(上記第5.1.(1)を参照)が、花を支持するのに適さない場合には、柔軟性の鍔縁を省略した単なる最小径部(中心の穴)とすることにより、挿入された花を支持することも可能であることは引用発明1の形状、構造等から十分予測できることであるから、花を支持するのに適合する構造の一形態として、柔軟性の鍔縁を省略して、単に中空のドーナッツ状の形態を有する薄肉のガラス製品の最小径部(中心の穴)に花を挿入するような生け花浮具とすることは、当業者であれば適宜なし得たものである。
そして、この柔軟性の鍔縁を省略した生け花浮具と本件発明1の上記相違点1における花生け用具とは、物の発明としてみると格別差異がないものであり、上述したように本件発明1の使用方法ないし使用形態を記載した部分は、花生け用具の特定事項として格別意味のあるものとはいえないから、相違点1における本件発明1の特定事項のようにすることは当業者であれば適宜なし得たものであるということができる。
また、本件発明1の上記相違点1における特定事項とすることによる効果も格別なものとは認められない。

したがって、本件発明1は、引用発明1及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、被請求人は、平成18年3月20日に訂正の請求がされたとみなされた訂正請求書で、甲第2号証における「球根設置穴(3)を細口にしてこれに生け花を投入した生け花浮具としての使用も可能である。」との記載
は、「球根設置穴が形成されている朝顔状の板の中央部を細い筒状にして下方に延ばし、その内部に花の茎を差し込んで立てるように生ける」ことを意味し、仮に、甲第2号証の応用例としての生け花浮具あるいは甲第5号証の水上花器の記載に基づいて、当業者が甲第1号証の球根浮環を花を生ける用具に応用できたとしても、甲第1号証の球根浮環の「鍔縁」に代えて、甲第2号証あるいは甲第5号証の「筒部(細口)を備えた朝顔状の板」で中空体の中心の穴を塞ぐ構成となるはずであるから、「鍔縁を省略する」といった発想は出てくるはずがなく、甲第1号証の球根浮環の鍔縁を省略するといった考えは、本件発明当時、いかに当業者といえども容易に想到しえたはずがない、旨主張している。
しかしながら、甲第2号証における「応用例としては球根設置穴(3)を細口にしてこれに生け花を投入した生け花浮具としての使用も可能であ
る。」との記載は、球根設置穴(3)を細口にした場合に限り、生け花浮具としての使用も可能であることを意味しているのではなく、球根設置穴(
3)を細口にすることは、生け花浮具としての使用を可能にする一形態であることを意味していると解される。なぜならば、花をほぼ立てた状態に拘束されるように生けるのであれば、細口にすることは必要であろうが、ほぼ立てた状態に拘束されなくてもよいのであれば、あえて細口にせず、球根設置穴そのものに花を投入しても生け花浮具として使用可能であることは明らかであるからである。そうすると、上記甲第2号証の記載は、球根栽培水上浮具の応用例として生け花浮具としての使用を教示ないし示唆しているととともに、生け花浮具とする場合の一形態として球根設置穴を細口にすることを示しているといえる。そして、この教示ないし示唆している事項に基づい
て、引用発明1の球根浮環の鍔縁を省略することは、上記のように当業者であれば適宜なし得たものであるということができる。
したがって、甲第1号証の球根浮環の鍔縁を省略するといった考えは、本件発明当時、いかに当業者といえども容易に想到しえたはずがない、旨の上記被請求人の主張は採用できない。

2.本件発明2について
(1)対比
本件発明2は、本件発明1を引用し、本件発明1を全て含むものであるから、本件発明2と引用発明1とを対比すると、上記一致点Aで一致し、上記相違点1に加えて、次の点で相違するといえる。
【相違点2】
本件発明2は、側面に、側方に突出する、先端が細くなって閉じている1個の突起を備えているのに対し、引用発明1はそのような突起を備えていない点。

(2)当審の判断
ア.上記相違点1について
上記1.(2)に記載したのと同じ理由により、相違点1における本件発明2の特定事項とすることは、当業者であれば適宜なし得たものであるといえる。
また、本件発明2の上記相違点1における特定事項とすることによる効果も格別なものとは認められない。
イ.上記相違点2について
甲第2号証には、球根栽培水上「浮具自体の形状は円状、角状、星形状、花弁状をも含み、」と記載されており(上記第5.2.(2)を参照)、第1図及び第2図に記載された球根栽培水上浮具自体の形状を星形状にすれ
ば、浮具の側面は外周5箇所で側方に突出する先端が細くなって閉じている突起を形成したものになる。そして、上記甲第2号証には、球根栽培水上浮具の応用例として生け花浮具としての使用も可能である旨の記載があるから(上記第5.2.(2)を参照)、その結果、側面に外周5箇所で側方に突出する先端が細くなって閉じている突起を備えた生け花浮具が実質的に記載されているといえる。この実質的に記載されている事項は、生け花浮具の外周に突起を形成することを教示ないし示唆しているといえる。そうすると、上記相違点1についての検討で記載した引用発明1の球根浮環の応用例としての生け花浮具において、側面に、側方に突出する、先端が細くなって閉じている突起を備えるようにすることは当業者であれば適宜なし得ることであり、突起の数を所定の数とすることも単なる設計的事項にすぎないから、上記相違点2における本件発明2の特定事項のようにすることは当業者であれば容易に想到し得たものである。
また、甲第3号証には、「多数の栽培用トレイを養液面に浮遊させながら循環移動させ、植物を生育させる平面移動式養液栽培装置」は、「養液面に浮遊させた多数のトレイの移動においては、トレイ同志間、あるいはトレイと養液槽壁間に働く大きい附着力が、トレイの移動に対して障害となりトレイが団子状になり易く、移動停止の原因となり安定した運動が得られない」という問題があるが、この問題を解決するために、「浮遊移動させるトレイの側壁に複数個の突起を設け、トレイの移動(自転、公転 )を容易ならしめる」ようにした平面移動式養液栽培装置の植物栽培用移動トレイが記載されている(上記第5.3を参照)。そして、この植物栽培用移動トレイも上記相違点1についての検討で記載した引用発明1の球根浮環の応用例としての生け花浮具も液面に浮遊する植物支持用具という点では共通しており、ま
た、引用発明1の球根浮環の応用例としての生け花浮具の側面に突起を設けことを阻害すべき技術的理由もないから、引用発明1の球根浮環の応用例としての生け花浮具の側面に、側方に突出する、先端が細くなって閉じている突起を備えるようにすることは当業者であれば適宜なし得ることであり、突起の数を所定の数とすることも単なる設計的事項にすぎないから、上記相違点2における本件発明2の特定事項のようにすることは当業者であれば容易に想到し得たものである。
また、本件発明2の上記相違点2における特定事項とすることによる効果も格別なものとは認められない。

したがって、本件発明2は、引用発明1並びに甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであ
る。

なお、被請求人は、平成18年3月20日に訂正の請求がされたとみなされた訂正請求書で、本件発明2は、
(a)花生け用具の突起が容器の内面に当たるときは、ドーナッツ状の形態 の他の側面が当たるときとは異なる、とくに軽やかな響きを立てる、
(b)突起が容器の内面に当たって移動方向が変わるとき、跳ね返る方向の 予想が付かず、意外性がある、
(c)突起が方向性を与えるので、見る者にとって安定感が得られる、
という格別な作用効果を奏する旨主張している。
しかしながら、生け花は、通常、室内に置かれるものであり、本件発明2に係る花生け用具を用いた生け花であっても、通常、室内に置かれるものと解せられるところ、室内には、通常、花生け用具及びそこに生けられた花を移動させるような風は吹いていないので、通常の使用形態においては、突起が容器の内面に当たり、軽やかな響きを立てるものとは認められない。ま
た、窓や戸を開けて室内に風が吹き込む場合や屋外に置かれる場合等の風が吹いている特殊な環境においては、花生け用具及びそこに生けられた花が風を受けて移動し、容器内側面に当たって音を生じることが認められるとしても、花生け用具が浮かぶ、水を張った容器の材質についても何ら限定していないことからすると、突起が容器の内面に当たるとき生じる音も格別なものとはいえない。また、上記(b)の突起が容器の内面に当たって移動方向が変わるとき、多少予想が付かないとしても、格別なものとはいえない。ま
た、上記(c)は、意匠としての効果であるとしても、発明の作用、効果とはいえない。
したがって、上記被請求人の主張は採用できない。

3.本件発明3について
(1)対比
本件発明3は、本件発明1を引用し、本件発明1を全て含むものであるから、本件発明3と引用発明1とを対比すると、上記一致点Aで一致し、上記相違点1に加えて、次の点で相違するといえる。
【相違点3】
本件発明3は、上面に空洞の内部と外部を連通する開口部を備えているのに対し、引用発明1はそのような開口部を備えていない点。
(2)当審の判断
ア.上記相違点1について
上記相違点1における本件発明3の「全体的に中空のドーナッツ状の形態を有する薄肉のガラス製品が、花びらを乗せる上面と、萼を入れ、茎を下に突き抜けさせる中心の穴とを有し、花びらを上面に乗せ、萼を中心の穴に入れ、茎を中心の穴から下に突き抜けさせて容器中の水の中に入れることにより花を生ける花生け用具」の「花びらを乗せる上面と、萼を入れ、茎を下に突き抜けさせる中心の穴とを有し、花びらを上面に乗せ、萼を中心の穴に入れ、茎を中心の穴から下に突き抜けさせて容器中の水の中に入れることにより花を生ける」は、使用方法ないし使用形態を記載したものであって、「全体的に中空のドーナッツ状の形態を有する薄肉のガラス製品」の上面及び中心の穴の形状、構造、材質等を何ら限定するものではない。そうすると、この使用方法ないし使用形態を記載した部分は、花生け用具の特定事項として格別意味のあるものとはいえない。
ところで、生花を中央穴に投入し、水面上に浮漂して用いる花器である水上花器は従来周知であると認められる(例えば、甲第2号証(特に、明細書第2ページ第19行〜第3第ページ第1行、第1図、第2図を参照)、甲第5号証を参照)。そして、引用発明1の球根浮環も、水面上に浮漂して用いるものであり、その機能、構造が従来周知の水上花器に似ていることから、引用発明1の球根浮環を水上花器に転用しようとすることは、当業者であれば容易に考え付くことである。その際に、支持するものが球根から花(茎や葉を伴う)に代わることに伴い、花を支持するのに適合するような構造に変更することは当然のことである。そして、引用発明1の球根浮環は、柔軟性の鍔縁の内側で形成する穴に挿入された花(茎や葉を伴う)を支持することも可能であるが、花の種類、大きさ等によって、球根の根もとが押し込ま
れ、これを挟むように支持させる為に設けられた柔軟性の鍔縁(上記第5.1.(1)を参照)が、花を支持するのに適さない場合には、柔軟性の鍔縁を省略した単なる最小径部(中心の穴)とすることにより、挿入された花を支持することも可能であることは引用発明1の形状、構造等から十分予測できることであるから、花を支持するのに適合する構造の一形態として、柔軟性の鍔縁を省略して、単に中空のドーナッツ状の形態を有する薄肉のガラス製品の最小径部(中心の穴)に花を挿入するような水上花器とすることは、当業者であれば適宜なし得たものである。
そして、この柔軟性の鍔縁を省略した水上花器と本件発明3の上記相違点1における花生け用具とは、物の発明としてみると格別差異がないものであり、上述したように本件発明3の使用方法ないし使用形態を記載した部分
は、花生け用具の特定事項として格別意味のあるものとはいえないから、相違点1における本件発明3の特定事項のようにすることは当業者であれば適宜なし得たものであるということができる。
また、本件発明3の上記相違点1における特定事項とすることによる効果も格別なものとは認められない。
イ.上記相違点3について
甲第4号証には、「中空室を適宜設け任意の環状に形成した浮体の中央に底板を設け、該底板に適数個の綿、ガラス繊維等から成る給水繊維を挿通 し、底板に水栽用球根を置いて池水槽等大小様々の水面に浮かべるようにした浮花壇において、浮体の上面に給排水孔を設け、該給排水孔からの給水又は排水により吃水を調整する」技術が記載されている(第5.4を参照)。
ところで、上記相違点1についての検討で記載した引用発明1の球根浮環の転用例としての水上花器も、花を支持しそれ自体が水面に浮くものであるから、その吃水を調整できるのが望ましいことは明らかである。そうだとすると、吃水を調整できるようにするために、花を支持しそれ自体が水面に浮くものである点では同様である浮花壇の、浮体の上面に給排水孔を設け、給排水孔からの給水又は排水により吃水を調整するという技術を、引用発明1の球根浮環の転用例としての水上花器に用いて、硝子の材料を以て形成させた全体を円形の薄肉の中空体の上面に給排水孔、すなわち、開口部を設けるようにして相違点3における本件発明3の特定事項のようにすることは、当業者であれば適宜なし得たものである。
また、本件発明3の上記相違点3における特定事項とすることによる効果も格別なものとは認められない。

したがって、本件発明3は、引用発明1及び甲第4号証に記載された発明並びに従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、被請求人は、平成18年3月20日に訂正の請求がされたとみなされた訂正請求書で、仮に甲第4号証の記載に基づいて甲第1号証のガラス製の中空体の上面に給排水口を設けることを思いついたとしても、甲第4号証の浮花壇と同様に、給排水口からの水の蒸発を防ぐための蓋を設けることになり(甲第4号証第1頁左欄、下から第3行〜末行)、そうすれば中空体の全体をガラス製品とすることができなくなり、全体的にガラス製品である本件発明3の花生け用具は得られないから、いかに当業者といえども、甲第1号証、甲第2号証及び甲第4号証に基づく限り、本件発明3を容易に想到しえない、旨主張している。
しかしながら、給排水口からの水の蒸発を防ぐための蓋を設けるか否か
は、球根浮環の浮力に対する水の蒸発の影響を考慮して、適宜決め得る技術的事項と認められ、蓋を設けないようにすることは、当業者であれば必要に応じ適宜なし得たものといえるから、上記被請求人の主張は採用できな
い。

4.本件発明4について
(1)対比
本件発明4と引用発明2を対比すると、後者の「金魚鉢」 は、ガラス製の金魚鉢が従来周知であるから、前者の「ガラス製の容器」に相当するとともに、後者の「金魚鉢と、この金魚鉢に満たした水と、その水に浮かべた、金魚鉢の開口部よりも小さい外径を有する」が前者の「ガラス製の容器と、その容器に満たした水と、その水に浮かべた、容器の開口部よりも小さい外径を有する」に相当する。
また、後者の「硝子の材料を以て全体を円形の薄肉の中空体に形成させ、その内径面は曲線の斜面に形成すると共に最小径部には内方に向け柔軟性の鍔縁を設けてなる球根浮環」と前者の「請求項1記載の花生け用具」すなわち「水を張った容器に花を生ける用具であって、花びらを乗せる上面と、萼を入れ、茎を下に突き抜けさせる中心の穴とを有し、全体的に中空のドーナッツ状の形態を有する薄肉のガラス製品であり、水に浮くことができ、花びらを上面に乗せ、萼を中心の穴に入れ、茎を中心の穴から下に突き抜けさせて前記容器中の水の中に入れることにより花を生ける花生け用具」とを検討すると、後者の「硝子の材料を以て全体を円形の薄肉の中空体に形成させ、その内径面は曲線の斜面に形成する」は、前者の「全体的に中空のドーナッツ状の形態を有する薄肉のガラス製品であり、」に相当する。また、後者の「中空体」も当然のことながら上面を有し、前者の「花びらを乗せる上面」と「上面」である点で共通し、後者の「最小径部」は、前者の「萼を入れ、茎を下に突き抜けさせる中心の穴」と「中心の穴」である点で共通し、後者の「球根浮環」は、「用具」といえるから、前者の「花生け用具」と「用
具」である点で共通する。
後者の「装置」は、前者の「花のディスプレー装置」と「装置」である点で共通する。
したがって、両者は、「ガラス製の容器と、その容器に満たした水と、その水に浮かべた、容器の開口部よりも小さい外径を有し、上面と中心の穴とを有する、全体的に中空のドーナッツ状の形態を有する薄肉のガラス製品である用具とからなる装置。」で一致し、次の点で相違する。
【相違点4】
用具について、本件発明4は、全体的に中空のドーナッツ状の形態を有する薄肉のガラス製品が、花びらを乗せる上面と、萼を入れ、茎を下に突き抜けさせる中心の穴とを有し、花びらを上面に乗せ、萼を中心の穴に入れ、茎を中心の穴から下に突き抜けさせて容器中の水の中に入れることにより花を生ける花生け用具であるのに対して、引用発明2は、全体的に中空のドーナッツ状の形態を有する薄肉のガラス製品の中心の穴(最小径部)には内方に向け柔軟性の鍔縁を有する、球根浮環である点 。
【相違点5】
装置が、本件発明4は花のディスプレー装置であるのに対し、引用発明2は、このような限定のない装置である点。

(2)当審の判断
ア.上記相違点4について
相違点4は、実質的に上記1.(1)の相違点1と同じであるから、上記1.(2)に記載したのと同じ理由により、相違点4おける本件発明4の特定事項とすることは、当業者であれば適宜なし得たものであるといえる。
また、本件発明4の上記相違点4における特定事項とすることによる効果も格別なものとは認められない。
イ.上記相違点5について
引用発明2の「装置」は、球根を水栽培する装置であり、また、通常、金魚鉢はガラス製で、その外側から金魚鉢の内部が見えるようになっているから、内部に球根浮環が浮いている場合でも、当然、金魚鉢の外側から、金魚鉢の内部に球根浮環が浮いていることを見ることができるので、球根の水栽培ディスプレー装置ということができる。そして、上記相違点4に記載したように球根浮環を花生け用具にすることが当業者であれば適宜なし得たものであるから、その結果として、球根の水栽培ディスプレー装置は花のディスプレー装置になるものと認められる。
また、本件発明4の上記相違点5における特定事項とすることによる効果も格別なものとは認められない。

したがって、本件発明4は、引用発明2及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第7.むすび
以上のとおりであるから、本件発明1〜4についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、請求人の主張する上記理由1を検討するまでもなく、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 す。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
花生け用具
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】水を張った容器に花を生ける用具であって、
花びらを乗せる上面と、萼を入れ、茎を下に突き抜けさせる中心の穴とを有し、全体的に中空のドーナッツ状の形態を有する薄肉のガラス製品であり、水に浮くことができ、
花びらを上面に乗せ、萼を中心の穴に入れ、茎を中心の穴から下に突き抜けさせて前記容器中の水の中に入れることにより花を生ける花生け用具。
【請求項2】側面に、側方に突出する、先端が細くなって閉じている1個の突起を備えている請求項1記載の花生け用具。
【請求項3】上面に空洞の内部と外部を連通する開口部を備えている請求項1記載の花生け用具。
【請求項4】ガラス製の容器と、その容器に満たした水と、その水に浮かべた、容器の開口部よりも小さい外径を有する請求項1記載の花生け用具とからなる花のディスプレー装置。
【請求項5】ガラス製の容器と、その容器に満たした水と、その水に浮かべた、容器の開口部よりも小さい外径を有する花生け用具とからなり、
前記花生け用具が、水を張った容器に花を生ける用具であって、全体的に中空のドーナッツ状の形態を有する薄肉のガラス製品であり、水に浮くことができるものであり、
前記ガラス製の容器の底面が凸湾曲面であり、水がその容器の途中まで満たされている花のディスプレー装置。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は花生け用具およびそれを用いた花のディスプレー装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来の花を生ける用具としては、剣山、オアシス、ガラスなどで形成されるオブジェ的なものなどが知られている。これらはいずれも水を入れた水盤などに沈め、1ないし数本の花の茎を支持させ、花を所望の形態にアレンジして飾るものである。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
前記従来の花を生ける用具は、いずれも花ないし花束を静止状態に保持するものであり、生けられた花は生活空間の固定的な背景となる。本発明はこのような従来の花生け用具の観念を根本的に変革し、花を動きのある、審美的な状態でディスプレーすることができる花生け用具およびそれを用いたディスプレー装置を提供することを技術課題としている。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明の花生け用具は、水を張った容器に花を生ける用具であって、花びらを乗せる上面と、萼を入れ、茎を下に突き抜けさせる中心の穴とを有する、全体的に中空のドーナッツ状の形態を有する薄肉のガラス製品であり、水に浮くことができ、花びらを上面に乗せ、萼を中心の穴に入れ、茎を中心の穴から下に突き抜けさせて前記容器の水の中に入れて花を生ける花生け用具であることを構成上の特徴としている。さらに側面に、側方に突出する、先端が細くなって閉じている1個の突起を備えているもの、あるいは上面に空洞の内部と外部を連通する開口部を備えているものが好ましい。
【0005】
本発明の花のディスプレー装置は、ガラス製の容器と、その容器に満たした水と、その水に浮かべた、容器の開口部よりも小さい外径を有する前述のガラス製の花生け用具とから構成されている。
本発明のディスプレー装置の他の態様は、ガラス製の容器と、その容器に満たした水と、その水に浮かべた、容器の開口部よりも小さい外径を有する花生け用具とからなり、前記花生け用具が、水を張った容器に花を生ける用具であって、全体的に中空のドーナッツ状の形態を有する薄肉のガラス製品であり、水に浮くことができるものであり、前記ガラス製の容器の底面が凸湾曲面であり、水がその容器の途中まで満たされていることを特徴としている。
【0006】
【作用】
本発明の花生け用具は、花生け用具の中央の穴に大きい花を1輪または小さい花の群を差し込み、花びらを上面に乗せ、萼を中心の穴に入れ、茎を中心の穴から下に突き抜けさせて容器中の水の中に入れるようにして、水を張った容器の水面に浮かべて使用する。水面に浮かんだ花は、水面上に浮く睡蓮の様相あるいはブーケ状の花束を水面に浮かせた外観を呈し、周囲の風に吹かれて揺れ、あるいは同じ位置で回転し、さらに水面上を緩やかに移動する。そのためいわば動的なディスプレー効果が得られる。花生け用具をガラス製としているので、容器の縁に接触するときに涼やかな響きを立て、風鈴のように音を伴ったディスプレー効果が楽しめる。
【0007】
側面に側方に突出する、先端が細くなって閉じている1個の突起を備えた花生け用具では、その突起が容器の側壁に触れたときにとくに軽やかな響きが得られると共に、容器の側壁に当たって方向が変わるときに意外性を与える。さらにその突起が花生け用具に方向性を与えるので、見るものにとって安定感が得られる。
【0008】
また上面に開口部を備えているものでは、開口部を上方にしても、あるいは下方にしても水面に浮かばせることができる。また場合によっては開口部から水を入れて、空洞部4を水で満たして重量を得ることにより、容器の底に沈めて花の固定具として使用することができる。
【0009】
本発明の花のディスプレー装置は、上記の花生け用具の作用をすべて奏し、ガラス同士の接触音が軽やかな響きを立てる。凸湾曲面の底面を有するガラス容器を用いる場合は、花生け用具が水面上を移動する他、容器自体がゆっくりと揺れるので、動的なディスプレー効果が一層高くなる。
【0010】
【発明の実施の形態】
つぎに図面を参照しながら本発明の花生け用具および花のディスプレー装置の好ましい実施の形態を説明する。図1は本発明の花生け用具の一実施形態を示す一部切り欠き斜視図、図2はその縦断面図、図3および図4はその製造方法を示す概略工程図、図5はその使用方法を示す斜視図、図6は他の使用方法を示す断面図、図7はさらに他の使用方法を示す斜視図、図8は本発明の花生け用具の他の実施形態を示す斜視図、図9はその断面図である。
【0011】
図1の花生け用具1は全体的に中空のドーナツ状、あるいは浮輪状の形態を有するガラス製品であり、その側壁から1個の突起2が突出している。ここで中空というのは、ドーナツの中心の穴3を意味するのではなく、環状体自身が空洞部4を有することを意味する。この実施形態では花生け用具1は、図2に示すように、たとえば厚さ0.3〜0.5mm程度のガラス壁5からなるシェル構造を有し、空洞部4は環状に連続している。ただし途中に隔壁を備えていてもよく、またC字状に構成してもよい。なお図2の符号6は後述する製造時のガラス壁の合わせ目である。
【0012】
図2に示すように、花生け用具1の断面形状は通常は幾何学的に正確な円形でない。また全体の形状も正確なドーナツ状ではなく、たとえばこの実施形態では上面7と下面8は平行でない。そのためいわば手作りの温かみを有する。しかしもちろん幾何学的に正確な形状に形成してもよい。また花生け用具1は無色透明のガラス製とするのが好ましいが、色付きの透明であってもよく、また不透明であってもよい。花生け用具1の大きさにはとくに限定はないが、たとえば外径D1を4〜5cmとする場合であれば、高さHは1.5〜2cm、穴の内径D2は2cm前後とするのが望ましい。
【0013】
前記突起2は後述するように、ガラス管(管ガラス)から製造するときのガラス管の根元部をそのまま使うことができる。しかし複数個の突起を設けてもよい。たとえば1本のガラス管の両側(図3参照)の根元部12、15を利用することにより2個の突起を設けることができ、またガラスが硬化する前に挟み具で表面を引っ張るなどにより、さらに多くの突起を成型することができる。
【0014】
上記の花生け用具1は、たとえば図3および図4に示すようにして製造する。すなわちまず、ガラス管(管ガラス)9の中央部10を溶融温度まで加熱し(工程S1)、開放端11から空気を送り込んで中央部10を膨らます(工程S2)。さらに膨らんだ中央部10を加熱しながら開放端11から空気を吹き込み、球状に膨らます(工程S3)。ついでガラス管9の一方をその根元部12で火切りし(工程S4)、上下の面13、14を軽く押して平坦にする(工程S5)。
【0015】
さらに図4に示すように、残っているガラス管9を水平に維持し、必要に応じて部分的に加熱しながら開放端11から空気を吸引し、上面13をへこませ(工程S6)、ついで上下を逆にして、同じように反対側の面14をへこませる(工程S7)。さらに二重に合わさっている壁面13、14を加熱溶融して取り除き、合わせ目6のガラスを溶着する(工程S8)。そして最後に残っているガラス管9をその根元部15からいくらか離れた部位で溶断し、開口部を溶着する(工程S9)。そのときガラス管9を引っ張りながら溶断することにより、残ったガラス管9aの先端が細くなって閉じ、その部分が前述の突起2となる。なお、以上の製造方法の他、たとえばガラス管9をC字状に曲げることにより花生け用具1を製造することもでき、さらにそれらの両端を接合してリング状にすることによっても花生け用具1を製造しうる。
【0016】
上記のごとく製造される花生け用具1は、たとえば図5に示すように、中心の穴3に1本の花16を挿し込み、容器に入れた水に浮かべて使用する。図5の場合は、大き目のガラスボウル17に水18を半分程度入れ、その水18に浮かせている。この実施形態ではガラスボウル17の底面19は凸湾曲面となっている。このように花生け用具1を水面に浮かべると、花の重量などにより変わるが、花生け用具1のたとえば1/5〜1/3程度は水面上に表れた状態で浮かぶ。そのとき花16の花びら16aは花生け用具1の上面に軽く乗り、蕚16bは花生け用具1の穴3に入り、穴3から下に突き抜けている茎16cだけが水中に入っている。この状態では花16は水面上に浮く睡蓮の様相を醸し出している。
【0017】
また図6に示すように、複数の花16の茎16cを花生け用具1の中心の穴3に挿し込んで使用することもできる。その場合、花生け用具1が複数の花の茎16cを束ねることになるから、いわゆるブーケ状の花束を水面に浮かせた外観が得られる。上記のいずれの場合でも、茎16cは穴3に挿入し、花びら16aおよび蕚16cは水面より上に位置するので、花びら16aおよび蕚16bは水に直接触れることがない。そのため水による腐り、あるいはぬめりなどが防止されるので、花16を長持ちさせることができる。
【0017】
上記のガラスボウル17、それに入れた水18および花生け用具1は本発明の花のディスプレー装置の実施形態でもある。たとえば図6のディスプレー装置22では、花生け用具1が水面上を矢印Aのように自由に動くことができる。また自軸の廻りに矢印Bのように自由に回転する。そのため周囲の風によりゆっくりと花16が動き、見た目に涼やかである。さらにガラスボウル17の底面が湾曲しているので、平らなテーブル23に置いたとき、矢印Cのように揺れることができる。したがって風を受けて揺れたり、あるいは見ている者が手で揺らすことにより、優雅な趣を楽しむことができる。またガラスボウル17の揺れに応じて、花生け用具1も揺れたり、移動したりする。
【0018】
さらにガラス製の花生け用具1がガラスボウル17の内面に当たると、涼しい音が出る。とくに突起2の部分が当たると、軽い(高い)響きの余韻のある音が出るので、見た目だけでなく、音によっても涼しさを演出することができる。なお突起2がガラスボウル17の内面に当たるときは、花16が思いがけない方向に跳ね返るので、興趣が増す。
【0019】
他方、図7に示すように、ガラスや陶磁器の大きい水盤25に水を張り、それぞれ花16を差し込んだ多数の花生け用具1を浮かべるようにしてもよい。その場合は種々の方向に動く花生け用具1同士が互いに当たり、音を響かせながら跳ね返るので、前述の場合とは別個の、華やかな演出ができる。
【0020】
図8および図9は本発明の花生け用具の他の実施形態を示している。この花生け用具30は前述の突起2に代えて、上面側に空洞部4と外部を連通する開口部31を備えている。その開口部31は図4の最終工程でガラス管11を根元部15から切り取ったときの残りの穴を利用して形成することができる。この穴の周縁部はガラスを加熱して丸くしておく。なお図3および図4の途中の工程では、ガラス管11を球状に膨れた中央部10に対して横向きに配置し、開口部31が花生け用具30の上面側に来るようにする。
【0021】
この花生け用具30は図1などの花生け用具1と同じように使用することができ、突起による効果を除いて同じ作用効果を奏する。なお開口部31を上向きにした場合でも水に浮かべることができるが、下向きにした場合は空洞部4の空気が逃げないので、より安定して浮かべることができる。さらにこの花生け用具30の場合、開口部31から空洞部4に水を入れて重量のある花生け用具にすることができ、たとえば花器や花瓶の底に沈めて、花の固定具として使用することができる。この場合、茎を開口部31に挿入し、花および蕚を水面より上に位置して使用すれば、花および蕚は水に直接触れることはない。そのため水による腐りあるいはぬめりなどが防止され、花を長持ちさせることができる。
【0022】
【発明の効果】
本発明の花生け用具は、水面上に浮く睡蓮の様相あるいはブーケ状の花束を水面に浮かせた外観で、花を水面上に自由に移動・回転できる状態で生けることができる。またガラス製であるので、とくに突起を有するものは、花器の水面上をゆっくりと移動しながら、花器の内面と接触して涼やかな響きを立てる。また突起が接触すると意外な方向に方向転換する。開口部を有するものにおいても、水面に浮かばせて、花を水面上に自由に移動・回転できる状態で生けることができる。したがって従来の剣山などでは得られない演出効果が得られる。
【0023】
本発明の花のディスプレー装置は、前述のガラス製の花生け用具の作用効果を奏することができる。湾曲している底面を備えた容器を用いる場合は、さらに容器自体が揺れるので、一層好ましい視覚効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の花生け用具の一実施形態を示す一部切り欠き斜視図である。
【図2】その花生け用具の縦断面図である。
【図3】その花生け用具の製造方法を示す概略部分工程図である。
【図4】図3の製造方法の後工程を示す概略部分工程図である。
【図5】その花生け用具の使用方法を示す斜視図である。
【図6】その花生け用具の他の使用方法を示す断面図である。
【図7】その花生け用具のさらに他の使用方法を示す斜視図である。
【図8】本発明の花生け用具の他の実施形態を示す斜視図である。
【図9】その花生け用具の断面図である。
【符号の説明】
1 花生け用具
2 突起
4 空洞部
16 花
17 ガラスボウル
18 水
19 底面
22 花のディスプレー装置
25 水盤
30 花生け用具
31 開口部
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2005-10-04 
結審通知日 2006-05-19 
審決日 2006-06-19 
出願番号 特願平7-227525
審決分類 P 1 123・ 113- ZA (A47G)
P 1 123・ 121- ZA (A47G)
最終処分 成立  
前審関与審査官 豊原 邦雄安井 寿儀  
特許庁審判長 阿部 寛
特許庁審判官 柳 五三
北川 清伸
登録日 1999-02-26 
登録番号 特許第2892976号(P2892976)
発明の名称 花生け用具  
代理人 秋山 重夫  
代理人 盛田 昌宏  
代理人 秋山 重夫  

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