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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  G03F
管理番号 1143902
審判番号 無効2004-80141  
総通号数 83 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2002-08-09 
種別 無効の審決 
審判請求日 2004-09-03 
確定日 2006-09-29 
事件の表示 上記当事者間の特許第3538387号発明「光硬化性樹脂組成物及びそれを用いて電極形成したプラズマディスプレイパネル」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3538387号の請求項1ないし4に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 本件の経緯の概要
本件特許第2693401号についての手続の経緯の概要は以下のとおりである。
平成13年 1月29日 特許出願
平成16年 3月26日 特許権の設定登録
平成16年 9月 3日 特許の無効の審判の請求
平成16年12月13日 答弁書提出
平成17年 2月28日 被請求人より口頭陳述要領書(1)提出
平成17年 2月28日 請求人より口頭陳述要領書提出
平成17年 3月14日 被請求人より口頭陳述要領書(2)提出
平成17年 3月16日 請求人より口頭陳述要領書(2)提出
平成17年 3月23日 被請求人より上申書提出
平成17年 3月24日 口頭審理
平成17年 3月24日 請求人より上申書提出
平成17年 4月 5日 被請求人より上申書(2)提出
平成17年 4月19日 請求人より上申書(2)提出

第2 請求人の主張
請求人(株式会社ノリタケカンパニーリミテド)は、「特許3538387号の請求項1ないし4に係る特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、その理由として本件の請求項1ないし請求項4に係る発明は、本件出願の前に頒布された刊行物である甲第1号証ないし甲第6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項により特許を受けることができないものであるから、本件の請求項1ないし6に係る特許は、同法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきものである旨を主張し、この主張を立証する証拠方法として以下に示す甲第1号証ないし甲第11号証を提示している。
甲第1号証:特開2000-251744号公報
甲第2号証:特開2001-6435号公報
甲第3号証:特開平11-329257号公報
甲第4号証:特開平4-272634号公報
甲第5号証:特開2000-221671号公報
甲第6号証:「化学大辞典」東京化学同人、1989年10月20日発行、 第871頁及び第880頁
甲第7号証:特開2001-345055号公報
甲第8号証:株式会社ノリタケカンパニーリミテド セラミック・マテリア ル事業本部 本部室 ノリタケ機材株式会社出向 仙田慎嗣が 作成した、2005年3月14日付け実験報告書
甲第9号証:特開平9-222723号公報
甲第10号証:「化学大辞典」東京化学同人、1989年10月20日発行 、第886頁
甲第11号証:株式会社ノリタケカンパニーリミテド セラミック・マテリ アル事業本部 本部室 ノリタケ機材株式会社出向 仙田慎 嗣が作成した、2005年3月22日付け実験報告書

第3 被請求人の主張
これに対し、被請求人(太陽インキ製造株式会社)は、「本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求め、その理由として、請求人の主張する理由及び提示された証拠方法によっては、本件の請求項1ないし請求項4に係る発明の特許を無効とすることはできない旨を主張し、この主張を立証する証拠方法として以下に示す乙第1ないし5号証を提示している。
乙第1号証:特開平9-218509号公報
乙第2号証:太陽インキ製造株式会社 技術開発本部 開発2部 福島和信 が作成した、2004年12月1日付け実験報告書
乙第3号証:太陽インキ製造株式会社 技術開発本部 開発2部 福島和信 が作成した、2004年11月29日付け実験報告書
乙第4号証:太陽インキ製造株式会社 技術開発本部 開発2部 福島和信 が作成した、2005年3月15日付け実験報告書(1)
乙第5号証:太陽インキ製造株式会社 技術開発本部 開発2部 福島和信 が作成した、2005年3月15日付け実験報告書(2)

第4 本件発明
本件の請求項1ないし請求項4に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明4」という。)は、本件明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし請求項4に記載された、以下のとおりのものである。
「【請求項1】白黒二層構造のバス電極に用いる、導電性微粒子を含有しない黒色層用組成物であって、(A)四三酸化コバルト(Co3O4)黒色微粒子、(B)有機バインダー、(C)光重合性モノマー、及び(D)光重合開始剤を含有することを特徴とする光硬化性樹脂組成物。
【請求項2】四三酸化コバルト(Co3O4)黒色微粒子は、比表面積が1.0〜20m2/gの範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の光硬化性樹脂組成物。
【請求項3】さらに(E)無機微粒子(導電性微粒子を除く)を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の光硬化性樹脂組成物。
【請求項4】前記請求項1乃至3の何れか1項に記載の光硬化性樹脂組成物の焼成物からバス電極の黒層が形成されてなるプラズマディスプレイパネル。」

第5 甲号各証に記載された事項
1 甲第1号証
(1a)「【請求項1】前面基板と、前記前面基板の下面に相互交代に並んで形成されたストリップ状の共通電極及び走査電極と、前記共通電極と走査電極との下面に前記共通電極と走査電極との幅より小さな幅を有するように形成されるバス電極と、前記前面基板の下面の、前記一対の共通電極と走査電極とを含む放電空間より構成される放電セルの境界部分と、前記共通電極及び走査電極と前記バス電極との間に同一な絶縁性材料で前記電極と並んで形成されるブラックマトリックス層と、を含むことを特徴とするプラズマディスプレイパネル。」に関し、
従来技術について、
(1b)「図面を参照すれば、前面基板11aの下面にストリップ状の複数の共通電極12a及び走査電極12bが交互に形成される。前記電極12a,12bにはライン抵抗を減らすため、これら電極より小さな幅を有するバス電極13a,13bを各々備える。前記共通及び走査電極12a,12bとバス電極13a,13bは、前面基板11aの下面に塗布された誘電体層14に埋め込まれる。前記誘電体層14の下面には例えば酸化マグネシウム(MgO)膜のような保護膜15が形成される。前記共通及び走査電極12a,12bの間には維持放電が起こるが、この一対の共通及び走査電極12a,12bが一つの放電セルを構成する。隣接する放電セルの間には絶縁体層1が形成される。又、前記各々の電極12a,12bとバス電極13a,13bとの間には導電体層2が形成される。ここで、前記絶縁体層1と導電体層2は一般的に黒色を帯びる。」(段落【0005】〜【0007】)
(1c)「ここで、前記黒色の絶縁体層1と導電体層2は非放電領域での弱い発光現象による色染み現象をなくし、前面基板11aの外光反射率を低め、バックグラウンド放電により発光を遮断することによりコントラストを向上させる。」(段落【0010】)
と記載され、
(1d)発明の目的について、「本発明の目的は、放電セル境界部分と、共通電極及び走査電極とバス電極との間にブラックマトリックス層を同一な材料で一体に形成させることにより製造工程を単純化したプラズマディスプレイパネルを提供することにある。」(段落【0012】)
(1e)発明の構成について、「前記のような目的を達成するための本発明によるプラズマディスプレイパネルは、前面基板と、前記前面基板の下面に相互交代に並んで形成されたストリップ状の共通電極及び走査電極と、前記共通電極と走査電極との下面に前記共通電極と走査電極との幅より小さな幅を有するように形成されるバス電極と、前記前面基板下面の、前記一対の共通電極と走査電極とを含む放電空間より構成される放電セルの境界部分と、前記共通電極及び走査電極と前記バス電極との間に同一な絶縁性材料で前記電極と並んで形成されるブラックマトリックス層とを含むことを特徴とする。」(段落【0013】)
と記載され、
第1実施の形態について、
(1f)「図1は本発明の第1実施の形態によるプラズマディスプレイパネルを示したものである。図面を参照すれば、前面基板21aの下面にはストリップ状の複数の共通電極22aと走査電極22bとが交互に形成される。前記共通及び走査電極22a,22b上にはライン抵抗を減らすため、これらより小さな幅を有する導電性バス電極23が設けられる。」(段落【0019】)
(1g)「本発明の特徴によると、各放電セルの境界、即ち、走査電極22bと隣接する放電セルの共通電極22cの間と、前記走査及び共通電極22b,22cとバス電極23との間にはブラックマトリックス層20が形成される。前記ブラックマトリックス層20はガラス粉末に酸化物と黒色顔料とが混合された絶縁性材料で形成される。」(段落【0022】)
(1h)「前記のような構成を有するプラズマディスプレイパネルの製造方法を具体的に述べると、先ず透明な前面基板21a上にスパッタリングでITO膜を蒸着させて前記共通電極22aと走査電極22bとを形成する。続いて、放電セルの境界、即ち、一走査電極22bと隣接する放電セルの共通電極22cとの間に感光性のブラックマトリックス材料をストリップ状に塗布する。この際、前記ブラックマトリックス材料はバス電極23が形成される共通電極22aと走査電極22bとの上面一部にも塗布され、共通電極22a及び走査電極22bの上面でのブラックマトリックスの塗布厚さは前記放電セル境界領域の塗布厚さに比べて薄い。従って、前記共通及び走査電極22a、22bの下面に塗布されるブラックマトリックスの幅は前記バス電極23の幅と同一なことが望ましい。その後、前記ブラックマトリックス材料を露光及び現像して所望のパターンを得る。ブラックマトリックスパターンが形成された後、これを550℃-620℃の温度範囲内で加熱してブラックマトリックス層20を完成する。この際、前記共通及び走査電極22a,22bの下面に塗布されるブラックマトリックス層20の厚さは薄いので、熱処理中、前記共通及び走査電極22a,22bに含有された導電性粒子が熱拡散により前記ブラックマトリックス層20へ拡散され、前記共通及び走査電極22a,22bと前記バス電極23とは通電が可能になる。続いて、前記共通及び走査電極22a,22bの下面に塗布されたブラックマトリックス層20の下面にライン抵抗を減らすため所謂銀や銀合金より成った導電性ペーストを印刷するか或いはフォトリソグラフィ工程を通じてバス電極23を形成する。」(段落【0023】〜【0025】)
と記載され、
第2実施の形態について、
(1i)「図2には本発明の第2実施の形態によるプラズマディスプレイパネルが示されているが、図面を参照すれば、放電セルの境界、即ち、一走査電極22bと隣接する放電セルの共通電極22cの間にはストリップ状の第1ブラックマトリックス層30が形成され、走査及び共通電極22b,22cとバス電極23との間にはストリップ状の第2ブラックマトリックス層31が形成される。前記第1及び第2ブラックマトリックス層30,31は相互分離されている。前記第2ブラクマトリックス層31の幅は前記バス電極23の幅と同一なことが望ましい。前記第1及び第2ブラックマトリックス層30,31も前述した実施の形態と同一な絶縁性材料で形成され、前記第2ブラックマトリックス層31は前記2枚の電極22a,22bとバス電極23とが通電可能なように薄く形成される。」(段落【0028】〜【0029】)
と記載されている。

2 甲第2号証
(2a)「【請求項1】銀粉末と、ガラス粉末と、有機結合剤と、有機溶剤と、黒色顔料とを含み、黒色を呈する導電厚膜を形成するために用いられる黒色導電ペースト組成物であって、前記黒色顔料はCo3O4(四酸化三コバルト)粉末から成ることを特徴とする黒色導電ペースト組成物。
【請求項2】銀粉末と、ガラス粉末と、有機結合剤と、有機溶剤と、感光性組成物と、黒色顔料とを含んで感光性を有し、露光および現像処理により黒色を呈する導電厚膜をパターン形成するために用いられる黒色導電ペースト組成物であって、前記銀粉末の比表面積は0.4乃至2.5(m2/g) であり、前記黒色顔料はCo3O4粉末から成ることを特徴とする黒色導電ペースト組成物。
・・・
【請求項8】前記黒色顔料の比表面積は、1 乃至20(m2/g)である請求項1乃至7の何れかの黒色導電ペースト組成物。
・・・
【請求項10】所定の基板上に所定パターンで設けられ、銀および黒色顔料がガラスで結合されて成る黒色導電厚膜であって、前記黒色顔料が、Co3O4から成ることを特徴とする黒色導電厚膜。
【請求項11】前記黒色導電厚膜は、所定の一面側から観察される透光性基板の該一面とは反対側の他面上に設けられて前記黒色顔料を含む黒色導電層と、該黒色導電層よりも高い明度および高い導電性を有してその上側に積層して備えられた高明度高導電層とを含むものである請求項10の黒色導電厚膜。」に関し、
(2b)従来技術について、「上記のバス電極30には、透明電極28の導電性を補う目的で補助的に用いられ或いは単独で用いられる何れの場合においても、自身の長手方向における電圧降下を可及的に少なくするために低抵抗であることが求められる一方で、低反射率であることも同時に望まれる。上記のように構成されたPDP8においては、バス電極30が備えられる前面板10の内面36とは反対側の表面38側においてその前面板10を透過した光が観視されることから、その表面38における外光の反射を抑制して表示の高いコントラストを得るためである。そのため、薄膜形成する場合においては、例えば、前面板10上(正確には透明電極28上)に黒色のCr(クロム)層を形成した後、その上にAl(アルミニウム)やCu(銅)等の高導電率の金属層が設けられる。また、厚膜形成する場合には、Ag-Pd(銀-パラジウム)ペースト、Ag-Cu(銀-銅)合金化ペースト、或いはAg(銀)ペースト中に、RuO2(酸化ルテニウム)或いはFe-Cr-Mn(鉄-クロム-マンガン)系顔料やCu-Cr-Mn(銅-クロム-マンガン)系顔料に代表されるパイロクロア型酸化物を黒色顔料として添加した黒色導電ペーストを厚膜スクリーン印刷法等を利用して前面板10上に塗布する。これら薄膜法および厚膜法の何れによってもバス電極30の形成は可能であるが、製造コストの面では厚膜法が有利である。なお、上記の黒色顔料は、厚膜導体の反射率すなわち明度を低下させるために添加されている。ここで、「明度」とは、物体表面の反射率の大小の尺度であって色の明るさを意味し、例えば理想的な黒、白をそれぞれ0、100として数値化されたL値で表示される。」(段落【0004】)
と記載され、従来技術における課題について
(2c)「しかしながら、上記のような黒色顔料は導電性が低いことから、十分に明度が低くなる程度まで添加すると厚膜導体の抵抗値を著しく増大させる。そのため、バス電極30(表示放電電極24)に要求される高い導電性を満足できる程度の少ない量に黒色顔料の添加量が制限されることから、バス電極30の明度が比較的高くなって、PDP8の表示の高いコントラストが得られないという問題があった。このことは、本来的に高抵抗である合金化ペーストにおいて特に問題となる。一方、上記の厚膜導体のうちAgペーストから生成されるものは比較的低抵抗であることから、多量の黒色顔料を添加して比較的高い導電性を維持しながら明度を比較的低くすることができる。しかしながら、この場合においても得られる明度は十分とは言い難く、しかも、例えば図2に示されるように表示放電電極対24a、24bの一方或いは両方(図においては一方)が前面板10上に直接膜形成されたバス電極30だけから構成される場合には、Agがその前面板10内に拡散して黄変させるため、黄色度が高くなってコントラストの低下が生じ得るという問題がある。この黄変は、黒色顔料の添加量が多いほど抑制できることが知られているが、高い導電性を維持しながら明度および黄色度を低くすることが望まれる厚膜導体においては、上記の許容添加量の範囲では十分に黄変を抑制できない。なお、前記の黒色顔料のうちRuO2の微粉[例えば比表面積が35(m2/g)程度のもの]は上記の各特性が比較的優れているが、高価である上に微粉であることから取扱いが困難でもある。」(段落【0005】)
(2d)「上記のような黒色導電ペーストを用いてバス電極30を前面板10上に形成する方法の一つとして、フォト・リソグラフィ法を利用する方法がある。この方法では、例えば、前面板10の内面36上の全面に感光性導電ペーストを塗布して乾燥することにより所定厚みのペースト膜を形成し、所定パターンのマスクを介して露光してペースト膜を選択的に硬化させた後、現像液で未露光部分を洗浄除去し、更に焼成することによって厚膜導体が形成される。そのため、スクリーンの歪みに起因するパターンずれが生じ得る厚膜スクリーン印刷法等のような直接印刷法に比較して、大面積且つ高精細なパターン形成が容易である。しかしながら、この導体形成方法では、上記のようにペースト膜を選択的に感光して硬化等させる必要がある。そのため、厚膜導体の明度を低くする目的でペースト中に黒色顔料を多量に混和すると、露光する際に照射される光がペースト膜の内部に十分に届かなくなって解像性が低下することから、厚膜スクリーン印刷法を用いる場合よりも更に混和可能な黒色顔料の量が少なく制限されて、一層明度の高い厚膜導体しか得られないという問題がある。すなわち、このようにフォト・リソグラフィ法により形成される厚膜導体においても、高い解像性を維持しつつ明度、黄色度、および抵抗値を一層低くすることが望まれていた。ここで、「解像性」とは、相異なる2点を識別し得る最小距離の小ささの程度を表すものである。なお、以上の問題は、導電性が高く且つ低い明度および黄色度を要求される厚膜導体であれば、PDPのバス電極に限られず、PDPにおいて前面板上に備えられる他の電極や、PDP以外のディスプレイの電極や車載用リアガラス熱線等にも同様に生じ得る。」(段落【0006】)
と記載され、
本発明について
(2e)「前記目的を達成するための第2発明の黒色導電ペースト組成物の要旨とするところは、銀粉末と、ガラス粉末と、有機結合剤と、有機溶剤と、感光性組成物と、黒色顔料とを含み、露光および現像処理により黒色を呈する導電厚膜をパターン形成するために用いられる感光性を有する黒色導電ペースト組成物であって、(a) 前記銀粉末の比表面積は0.4 〜2.5(m2/g)であり、(b) 前記黒色顔料はCo3O4粉末から成ることにある。」(段落【0014】)
(2f)「このようにすれば、感光性黒色導電ペーストは、導電性成分として含まれる銀粉末の比表面積が0.4 〜2.5(m2/g)と微細であると共に、黒色顔料がCo3O4粉末であることから、高い感光性延いては高い解像性を有すると共に、その感光性黒色導電ペーストから形成される黒色導電厚膜には銀とCo3O4から成る黒色顔料とがガラスで結合されて構成されるため、導電性が十分に高く且つ明度および黄色度が十分に低い黒色導電厚膜が得られる。すなわち、前述のように感光性導電ペーストに黒色顔料を添加すると、そのペーストから生成される導電厚膜の明度および黄色度が低下させられる一方で、導電厚膜の抵抗値は上昇させられると共に感光性延いては解像性が低下させられる。この場合において、その作用は明らかではないが、本発明者等が種々の顔料についてこれらの特性を評価した結果によれば、Co3O4粉末を黒色顔料として添加すると、他の黒色顔料に比較して明度および黄色度の低下が著しく大きく、しかも、抵抗値の上昇が抑制されることに加えて、感光性ペーストの場合には解像性の低下が抑制される。したがって、導電性が高く且つ明度および黄色度の低い黒色導電厚膜を形成することが可能な感光性黒色導電ペーストを得ることができる。」(段落【0015】)
(2g)「前記第2発明において、好適には、前記の感光性組成物は、光重合性化合物および光重合開始剤から構成される。このようにすれば、感光性黒色導電ペーストは、それから形成されたペースト膜を露光および現像処理してパターン形成するに際して、露光された部分が硬化させられてそれにより黒色導電厚膜のパターンが構成される所謂ネガ型になる。」(段落【0024】)
(2h)「前記第1および第2発明において、好適には、前記黒色顔料の比表面積は、1〜20(m2/g)である。このようにすれば、黒色顔料の比表面積が黒色導電厚膜の導電性が十分に高く保たれ且つ感光性ペーストの場合においては解像性も十分に高く保たれる範囲で十分に大きくされていることから、黒色の発色が良好に得られて明度が十分に低下させられる。なお、1(m2/g)未満では明度の低下が不十分であり、反対に20(m2/g)を越えると抵抗値が上昇すると共に感光性ペーストの場合においては解像性の低下が著しいのである。また、上記比表面積の範囲は、一層好適には、2〜15(m2/g)である。」(段落【0027】)
(2i)「上記の第3発明において、好適には、前記黒色導電厚膜は、所定の一面側から観察される透光性基板のその一面とは反対側の他面上に設けられて前記黒色顔料を含む黒色導電層と、その黒色導電層よりも高い明度および高い導電性を有してその上側に積層して備えられた高明度高導電層とを含むものである。このようにすれば、黒色導電厚膜は、黒色顔料を含む黒色導電層と、それよりも高明度且つ高導電性の高明度高導電層とが積層されて構成されることから、黒色導電厚膜全体の導電性は、高明度高導電層によって十分に高められる。一方、観視側となる透光性基板の一面側においては、それら積層された二種の導電層のうちの黒色導電層がその透光性基板を介して観察されることから、黒色導電厚膜の色調は実質的に黒色導電層によって決定される。このとき、黒色導電厚膜の導電性は高明度高導電層で確保されることから黒色導電層の導電性が比較的低くなっても差し支えないため、それに含まれる黒色顔料の量を十分に多くして黒色導電層延いては黒色導電厚膜の明度および黄色度を十分に低くできる。したがって、導電性が高く且つ明度および黄色度の低い黒色導電厚膜が得られる。なお、黒色導電層もある程度の導電性を有していることから、このような黒色導電膜で前述したPDP8において透明電極28に重ねて用いられるバス電極30を構成する場合にも、それらの間の導電性を確保しつつ上記の一面側から見た場合における明度を十分に低くできる。」(段落【0031】)
(2j)「また、前記の第3発明において、好適には、前記黒色導電厚膜は、光硬化性化合物を含む導電ペーストを用いて露光および現像によりパターン形成されたものである。このようにすれば、露光および現像により所謂フォト・リソグラフィ法で黒色導電厚膜がパターン形成される場合において、黒色顔料がCo3O4から構成されることから、前記第2発明の効果で説明したように、露光および現像時の解像性を大きく低下させることなく、導電性が十分に高く且つ明度および黄色度が十分に低い黒色導電厚膜を得ることができる。」(段落【0032】)
(2k)「本実施例においては、感光性黒色導電ペーストを構成する有機結合剤として、水溶性を有するCMC或いはHPCが用いられている。そのため、黒色導電ペースト膜52を基板42上で形状保持するための有機結合剤が水溶性を有することから、パターン形成するための現像工程S4において、前述のように現像液として水を用いることができる。・・・特にHPCは銀粉末や黒色顔料46との相溶性が大きく、ガラス粉末表面に存在する金属イオンとの反応性が低いことから、前記表1の実施例E4に示されるように銀粉末、ガラス粉末、および黒色顔料46の比表面積が比較的大きい場合にも、黒色導電ペーストの粘性の変化やゲル化が抑制されて保存性が高められる。」(段落【0061】)
(2l)「図6は、前記図1或いは図2に示されるPDP8のバス電極30等を構成し得る他の黒色導電厚膜60の構造を模式的に示す図である。図において、黒色導電厚膜60は、基板42上に直接形成された黒色の黒色導電層62と、その黒色導電層62上に積層形成された薄い黄色の黄色導電層64とから構成されて、幅50(μm)程度、厚さ5〜6(μm)程度の寸法を備えたものであって、抵抗値が6(Ω)程度以下の高い導電性と、図に矢印で示される観視方向すなわち表面66側から基板42を通して観察した状態における黒色度が40程度の低い明度とを有している。そのため、導電性および黒色度を要求されるバス電極30等として、前記表1或いは表2に示されるような黒色導電厚膜40よりも一層好適に用いられる。なお、PDP8等の放電表示装置においては、一般に観視方向が電極30等が設けられて放電空間16内に位置する裏面(内面)68とは反対側において外部空間に露出する表面66側になる。本実施例においては、基板42が透光性基板に、表面66が所定の一面に、裏面68がそれと反対側の他面にそれぞれ相当する。」(段落【0070】)
(2m)「上記の黒色導電厚膜60は、例えば図7に示される工程に従って基板42上に設けられる。・・・先ず、感光性黒色導電ペースト印刷工程S1において、例えば厚膜スクリーン印刷法等を用いて、基板42上(および透明電極28上)の全面に感光性黒色導電ペーストを塗布し、ペースト乾燥工程S2において、例えば、遠赤外線乾燥機を用いて 80(℃) 程度の温度で 15(分間)程度乾燥処理を施す。これにより、基板42上に塗布された感光性黒色導電ペーストから有機溶剤が揮発させられ、図5に示される黒色導電ペースト膜52と同様な黒色導電ペースト膜70が形成される。このとき、感光性黒色導電ペーストの調合組成(種類および量)は、下記の表3の上段に示す材料の調合量を除く他は前記表1に示される実施例E1と同様であり、前記表1、表2に示される場合よりも銀粉末量が少なく、且つガラス粉末量、黒色顔料量、および有機結合剤量が多くされている。また、黒色導電ペースト膜70の乾燥後の膜厚は例えば6(μm)程度である。
[表3]
銀粉末 ガラス粉末 黒色顔料 有機結合剤 黒色ペースト 40 10 5 7
銀ペースト 60 3 0 7 」
(段落【0072】〜【0073】)
(2n)「下記の表4は、本実施例の黒色導電厚膜60の形成過程における解像
性を評価した結果(実施例E11)を、異なる材料から成る黒色顔料を用いた場合(比較例R19、R20)と比較して示すものである。なお、比較例は、黒色顔料の種類および比表面積が異なる他は、全て実施例E11と同様な条件で評価した。すなわち、下記の黒色顔料を含む感光性黒色導電ペーストを塗布して形成した黒色ペースト膜の上に前記銀ペースト膜72を設けて、図8(a) に示されるものと同様な二層構造の導電ペースト膜を形成し、その解像性およびこれを焼成した二層構造の黒色導電厚膜の黒色度および抵抗値を評価した。表から明らかなように、本実施例によれば、300〜500(mJ/cm2) 程度のエネルギ線量の紫外線を照射することによって精細なパターン形成が可能であるのに対し、比較例においては、本実施例と同様な黒色顔料の添加量では、明度が高くなる(すなわち明度が劣る)ばかりでなく、硬化させられたペースト膜が基板42から剥離し、或いはペースト膜が殆ど硬化せず、何れも所定パターンの黒色導電厚膜を得ることができなかった。
[表4]

」(段落【0076】〜【0077】)
(2o)「図9および図10は、上記表5に示される結果をグラフにまとめたものである。図9はL値(明度)とシート抵抗値との関係を、図10はL値とb値(黄色度)との関係をそれぞれ表す。表5および図9、10から明らかなように、何れの黒色顔料を用いる場合においても、その添加量が多くなるほどL値が低くなる。これらL値、b値、シート抵抗値は、バス電極30等に用いられる黒色導電厚膜において、何れも可及的に低いことが望まれる特性値であることから、両図共に左下に向かうほど特性が優れているといえる。したがって、両図から、Co3O4を黒色顔料46として用いる場合(実施例E12〜E19)には、上記3つの特性を兼ね備えた黒色導電厚膜が得られることが判る。特に、比表面積が7(m2/g)と微細なCo3O4を用いた実施例E12〜E15では、同様なL値に対するb値およびシート抵抗値が共に、他の全ての黒色顔料が用いられている場合よりも低い(すなわち、各測定値を結ぶ曲線が最も左下に位置する)ことから、バス電極30等に一層好適であることが明らかである。すなわち、Co3O4は、比表面積が2(m2/g)よりも大きいものを用いることが好ましい。なお、比較例R25〜R28は、比較的良好な特性を示しているが、RuO2は比表面積が35(m2/g)程度と微粉であって取扱いが困難であると共に、高価であるという問題がある。」(段落【0086】)
(2p)溶剤について、「上記の中でも、3-メチル-3-メトキシブタノールは、銀粉末、ガラス粉末等の無機材表面に存在する金属イオンとアルカリ水溶液に可溶な有機結合剤との反応性を低下させることができるため、ペーストの粘度変化やゲル化が抑制されて高い保存安定性が得られる。」(段落【0097】参照)
(2q)膜厚について、「実施例においては、乾燥後において黒色導電ペースト膜52が10(μm)程度、導電ペースト膜74の膜厚が5〜6(μm)程度になるようにそれぞれ形成されていたが、乾燥膜厚は黒色導電厚膜40、60の要求膜厚に応じて、例えば5〜20(μm)程度の範囲で適宜変更される。」(段落【0101】)
と記載されている。

3 甲第5号証
(3a)「【請求項1】(A)比表面積が20m2/gより大きな黒色導電性微粒子、(B)有機バインダー、(C)光重合性モノマー、及び(D)光重合開始剤を含有することを特徴とする光硬化型導電性組成物。
【請求項2】前記黒色導電性微粒子(A)が、ルテニウム酸化物、ルテニ
ウム化合物、銅-クロム系黒色複合酸化物及び銅-鉄系黒色複合酸化物のいずれか少なくとも1種類であることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項3】さらに(E)無機微粒子を含有することを特徴とする請求項
1又は2に記載の組成物。」に関し、
(3b)「本発明の組成物は、必要に応じて軟化点400〜600℃のガラス粉末、導電性粉末、耐熱性黒色顔料、シリカ粉末等の無機微粒子(E)を配合することができる。」(段落【0044】)
(3c)「ガラス粉末は、焼成後の導体回路の密着性向上のため、導電性微粒子(A)100重量部当り200重量部以下、好ましくは150重量部以下の割合で添加できる。ガラス粉末としては、ガラス転移点(Tg)300〜500℃、ガラス軟化点(Ts)400〜600℃のものが好ましい。また、解像度の点からは、平均粒径20μm以下、好ましくは5μm以下のガラス粉末を用いることが好ましい。上記のような低融点ガラス粉末を光硬化型導電性組成物に添加することにより、露光・現像後の皮膜は600℃以下で容易に焼成可能となり、特にPDPの電極形成に有用である。但し、本発明の組成物では燃焼性の良好な有機バインダーが用いられ、ガラス粉末が溶融する前に脱バインダーが完了するように組成されているものの、ガラス粉末の軟化点が400℃より低いと、これよりも低い温度で溶融が生じて有機バインダーを包み込み易くなり、残存する有機バインダーが分解することによって組成物中にブリスターが生じ易くなるので好ましくない。」(段落【0044】)
(3d)「シリカ粉末としては、特に合成アモルファスシリカ微粉末が望ましく、・・・上記のようなシラノール基を有する合成アモルファスシリカ微粉末を、前記したようなカルボキシル基を有する樹脂と黒色導電性粉末を組み合わせて含有する光硬化型導電性組成物に添加すると、乾燥、露光、現像、焼成の各工程において基板に対して安定した密着性を示すと共に、バス電極作製の焼成工程において、基板と黒層との間及び黒層と白層との間の剥離やカールの発生を抑制できる。このような作用を奏する理由は未だ充分に解明されてはいないが、焼成前においては、合成アモルファスシリカ表面のシラノール基の水素原子と基板として用いられるガラス基板や樹脂のカルボキシル基の酸素原子との水素結合や、シラノール基の電気的に陰性の酸素原子と導電性粉末の電気的に陽性の金属との間のクーロン力により、基板との密着性に優れた緻密な塗膜が形成され、焼成後においては、合成アモルファスシリカ微粒子がガラス基板と導電性粒子との間の隙間及び導電性粒子間の隙間に入り込んでそれらの接着強度を増大させているものと推測される。」(段落【0056】〜【0057】)
と記載されている。

第6 当審の判断
1 本件発明1について
(1) 対比
ア 前項に記載した摘記事項(特に、摘記事項(1g)、(1h))からみて、甲第1号証には、「共通電極及び走査電極と、バス電極との間に、絶縁性材料からなるブラックマトリックス層を有するプラズマディスプレイパネルにおいて、該絶縁性ブラックマトリックス層の材料として、ガラス粉末に酸化物と黒色顔料とが混合された絶縁性材料で、且つ感光性である材料を用いること。」が記載されているといえる。
そこで、以下、本件発明1と甲第1号証記載の発明とを対比する。
甲第1号証の【0024】には、「ブラックマトリックス層20の厚さは薄いので、熱処理中、前記共通及び走査電極22a,22bに含有された導電性粒子が熱拡散により前記ブラックマトリックス層20へ拡散され、前記共通及び走査電極22a,22bと前記バス電極23とは通電が可能になる。」と記載されている。このため、ブラックマトリックス層20のうち共通及び走査電極22a,22bとバス電極23との間に位置する部分は、導電性を有するものとなって、通電経路の一部を構成していると考えられる。したがって、この構成において、共通及び走査電極22a,22bの導電性を補うためのバス電極は、実質的に、ブラックマトリックス層20の上記部分とこれに積層されたバス電極23とから構成されている。すなわち、ブラックマトリックス層20のうち共通及び走査電極22a,22bとバス電極23との間に位置する部分は、実質的に二層構造のバス電極のうちの黒層を構成しているといえる。
特に、【0028】および【図2】に記載された態様では、ブラックマトリックス層が走査電極22bと共通電極22cとの間の部分(30)と、走査電極22bおよび共通電極22c上の部分(31)とに分割して備えられることにより、第2ブラックマトリックス層31がバス電極23と走査及び共通電極22b,22cとの間のみに備えられている。この態様によれば、それらバス電極23と走査及び共通電極22b,22cが第2ブラックマトリックス層31を介して導通させられることから、本件発明1の光硬化性樹脂組成物で黒層を構成する白黒二層構造のバス電極と同一構成である。
したがって、甲第1号証記載の発明において、走査および共通電極とバス電極との間に設けられる黒層が「ブラックマトリックス層」であるか、「二層構造のバス電極の黒層」であるかは、単に表現上の相違にすぎず、機能上の相違は無いから、甲第1号証記載のブラックマトリックス材料は、実質的に、二層構造のバス電極に用いる、導電性微粒子を含有しない黒色層組成物である。
また、甲第1号証には、該「ブラックマトリックス層」の下面に形成される「バス電極23」について、【0025】には、「銀や銀合金より成った導電性ペースト」から形成する旨の記載があるが、バス電極23が如何なる色調を呈するものであるかについての記載がない。しかしながら、甲第1号証記載の発明では、コントラストを向上させる目的でバス電極23とブラックマトリックス層20とを積層した構造とするものであることから(段落【0010】、【0040】等参照)、バス電極23の明度がブラックマトリックス層20のそれよりも高いことは明らかである。
一方、本件明細書には、白黒二層構造の白層について、「導電性の銀ペーストの白層」(段落【0005】)、「白色系導電性上層」(【0041】)等の記載があるにすぎず、本件発明1における「白黒二層構造」の白層が如何なる色調のものであるのかは不明であるが、少なくとも、銀ペーストからなる層が、完全な白色を呈するものでないことは当業者における技術常識である。
したがって、本件発明1においても、白黒二層構造とする目的が甲第1号証と同様に「画面のコントラストを向上させる」(【0005】)点にあることを考慮すると、本件発明1における「白黒二層」の「白層」には、「黒層よりも明度が高い」以上の技術的意味はないと言えるから、甲第1号証記載の発明における「ブラックマトリックス層20」及び「バス電極23」が、本件発明1における「白黒二層構造のバス電極」に相当するものである。

上記の認定を踏まえて、本件発明1と刊行物1記載の発明とを対比すると、両者は、
「白黒二層構造のバス電極に用いる、導電性微粒子を含有しない黒色層用組成物であって、(A)黒色顔料を含有する感光性組成物。」
である点で一致し、以下の点で相違している。
相違点a:
黒色顔料について、本件発明1では、「四三酸化コバルト(Co3O4)黒色微粒子」であると特定しているのに対し、甲第1号証記載の発明では、単に「黒色顔料」としているだけで、特定されていない点。
相違点b:
「感光性」について、本件発明1では、「(B)有機バインダー、(C)光重合性モノマー、及び(D)光重合開始剤を含有する光硬化性」であるとしているのに対して、甲第1号証記載の発明では、単に「感光性」としているにすぎない点。

(2) 相違点について
ア 相違点aについて
(ア) 甲第2号証に記載された発明
摘記事項からみて、甲第2号証には、黒色導電性厚膜を形成するために用いられる感光性黒色導電ペースト組成物に関し、
・該組成物は、銀粉末と、ガラス粉末と、有機結合剤と、有機溶剤と、光重 合性化合物と、光重合開始剤と、黒色顔料としてのCo3O4(四酸化三コ バルト)粉末を含むこと(請求項2、及び摘記事項(2g)等参照)、
・「黒色導電性厚膜」は、PDPのバス電極等を構成しうるものであって、 黒色顔料を含む黒色導電層と、該黒色導電層よりも高い明度および高い導 電性を有してその上側に積層して備えられた高明度高導電層とからなるこ と(請求項11、12及び摘記事項(2i)、(2j)、(2l)等)、
・Co3O4粉末を黒色顔料として添加すると、他の黒色顔料であるRuO
2(酸化ルテニウム)、Cu-Cr-Mn(銅-クロム-マンガン)系、
Fe-Cr-Mn(鉄-クロム-マンガン)系に比較して、明度および黄 色度の低下が著しく大きく、しかも、抵抗値の上昇が抑制されることに加 えて、感光性ペーストの場合には解像性の低下が抑制されること(摘記事 項(2f)、(2n)、(2o)等)、
が記載されている。
そして、前項「(1) 対比」で述べたと同様の理由により、甲第2号証記載の発明における「黒色顔料を含む黒色導電層」と「該黒色導電層よりも高い明度および高い導電性を有してその上側に積層して備えられた高明度高導電層」とからなる二層構造の電極は、本件発明1における「白黒二層構造のバス電極」に相当するものである。
よって、甲第2号証には、「白黒二層構造のバス電極に用いる、銀粉末を含有する黒色層用感光性組成物において、黒色顔料として、四三酸化コバルト(Co3O4)黒色微粉末を用いること」が記載されているといえる。

(イ) 想到容易性について
ここで、甲第2号証記載された黒色層用感光性組成物は、導電性微粒子である「銀粉末」を必須の成分とするのに対して、甲第1号証記載の黒色層用感光性組成物は、絶縁性材料であって、銀粉末のような導電性微粒子を含有しないものである点で、両者は相違している。
しかしながら、摘記事項(1h)から明らかなように、甲第1号証には、「黒色層」に相当するブラックマトリックス層20は、薄く形成されれば、絶縁性であっても、すなわち導電性微粒子を含有せずとも、共通電極22a及び走査電極22bと通電が可能であることが記載されている。
してみれば、甲第2号証記載の発明における黒色層用感光性組成物において、その必須成分であるところの「銀粉末」を用いることなく、黒色度(L値)及び抵抗値の点で他の黒色顔料に比較して優れていることが明記されている「四三酸化コバルト(Co3O4)黒色微粉末」のみを、甲第1号証記載の発明における黒色顔料として用いることは、当業者であれば容易に想到しうるものと認められる。

(ウ) 本件発明1の効果の予測性について
a 本件発明1では、黒色顔料として、四三酸化コバルト(Co3O4)黒色微粉末を用いることにより、以下の効果を奏するものである。
効果1:
組成物を長期保存してもゲル化が発生せず、保存安定性に優れている。
効果2:
充分な黒色度を有するため、薄い膜厚で充分なコントラストを達成でき、焼成皮膜が導電性微粒子を含有していなくても、充分な層間導電性(透明電極とバス電極白層との層間導通)と黒さを同時に達成できる。
そこで、これらの効果の予測性について検討する。

b 効果1について
(a) 甲第2号証の段落【0097】の「上記の中でも、3-メチル-3-メトキシブタノールは、銀粉末、ガラス粉末等の無機材表面に存在する金属イオンとアルカリ水溶液に可溶な有機結合剤との反応性を低下させることができるため、ペーストの粘度変化やゲル化が抑制されて高い保存安定性が得られる。」(摘記事項)という記載、甲第9号証の段落【0011】の「前記カルボキシル基を有する有機化合物を含有することで、感光性ペースト組成物中の塩基性無機粉末の表面に存在する金属イオンがアルカリ可溶性高分子バインダー中のカルボキシル基と反応するのが防止され、粘度変化やゲル化の発生がなく長期保存安定性が達成される。」という記載、あるいは、被請求人が提出した乙第1号証の段落【0006】の「用いる無機微粒子の種類によっては有機成分と反応することによって、ゲル化が進行し、ペーストが増粘によって使用できなくなる場合がある。」という記載によれば、本件出願前において、感光性組成物中の無機微粒子により、増粘又はゲル化するという問題が生じることが、既に当業者に知られており、このような問題の解決策が望まれていたことが認められる。
してみれば、甲第1号証記載の黒色顔料として、甲第2号証記載の四三酸化コバルト微粉末を用いる場合においても、増粘又はゲル化の問題を検討することは、当業者が当然に行うことであって、その増粘及びゲル化の有無の確認についても格別な困難性を伴うものであるとは認められないから、上記効果1につては、当業者が容易に確認しうるものである。

(b) この点について、被請求人は、乙第2号証及び乙第4号証を提出して、酸化ルテニウムを用いた場合に比較して、四三酸化コバルトを用いた場合のほうが、保存安定性に優れていると主張している。
しかしながら、甲第2号証の段落【0061】には、「特にHPCは銀粉末や黒色顔料46との相溶性が大きく、ガラス粉末表面に存在する金属イオンとの反応性が低いことから、前記表1の実施例E4に示されるように銀粉末、ガラス粉末、および黒色顔料46の比表面積が比較的大きい場合にも、黒色導電ペーストの粘性の変化やゲル化が抑制されて保存性が高められる。」(摘記事項(2k)参照)と記載されており、該記載は、比表面積が大きい場合ほどゲル化が発生しやすいことを示唆するものであるから、同甲第2号証において、比較的良好な特性を有するものの比表面積が35(m2/g)程度と大きい(摘記事項(2c)、(2o)参照)とされている酸化ルテニウム(RuO2)に比べて、比表面積の小さい四三酸化コバルト(Co3O4)のほうがゲル化が発生しにくく、保存安定性に優れていることは、当業者であれば充分に予想しうることである。

c 効果2について
(a) 黒色顔料として四三酸化コバルト微粉末を用いた場合には、他の黒色顔料に比較してより優れた黒色度(L値)及び抵抗値が得られることは、甲第2号証に記載されているところである。
例えば、甲第2号証の表4(摘記事項(2n)参照)には、組成物中に銀粉末を含有するものではあるが、四三酸化コバルト(比表面積7m2/g)、酸化ルテニウム(比表面積30m2/g)、及びCu-Cr-Mn系(比表面積6m2/g)のそれぞれの黒色度(L値)が「40」、「45」及び「55」であったことが示されている。
また、甲第2号証には、「図9および図10は、上記表5に示される結果をグラフにまとめたものである。図9はL値(明度)とシート抵抗値との関係を、図10はL値とb値(黄色度)との関係をそれぞれ表す。表5および図9、10から明らかなように、何れの黒色顔料を用いる場合においても、その添加量が多くなるほどL値が低くなる。これらL値、b値、シート抵抗値は、バス電極30等に用いられる黒色導電厚膜において、何れも可及的に低いことが望まれる特性値であることから、両図共に左下に向かうほど特性が優れているといえる。したがって、両図から、Co3O4を黒色顔料46として用いる場合(実施例E12〜E19)には、上記3つの特性を兼ね備えた黒色導電厚膜が得られることが判る。」(摘記事項(2o)参照)と記載されている。
してみれば、当業者であれば、導電性微粒子を含有しない甲第1号証記載の発明における黒色顔料として四三酸化コバルトを適用した場合にも、充分な黒色度を有するであろうことは、甲第2号証の記載から当然に予期しうるものである。

(b) この点について、被請求人は、乙第3号証及び乙第5号証を提出して、「銀粉末が無い場合には、四三酸化コバルトを用いた場合よりも酸化ルテニウムを用いた場合の方がL値が小さいから、甲第2号証には、四三酸化コバルトを選択する動機付けがない」と主張している。
そこで、乙第5号証を検討するに、被請求人が補充したデータによれば、該号証において使用した黒色顔料の比表面積は、四三酸化コバルトが「6.4m2/g」、酸化ルテニウムが「42.8m2/g」である。
しかしながら、甲第2号証の表2に示す実施例E6と実施例E9では、比表面積がそれぞれ「7m2/g」及び「25m2/g」である点でのみ異なるものであって、L値がそれぞれ「55」及び「45」であること、或いは、同じく表5に示す比表面積が「7m2/g」である実施例E11〜15と比表面積が「2m2/g」である実施例E16〜19との比較では、実施例E11〜15のL値が小さくなっていること等から明らかなように、黒色顔料の添加量が同じであれば、その比表面積が大きいほどL値は小さくなることは技術常識である。
また、甲第2号証の表4では、比表面積が「7m2/g」の四三酸化コバルトを用いたE11と比表面積が「30m2/g」の酸化ルテニウムを用いたR19とでは、L値がそれぞれ「40」と「45」となっており、四三酸化コバルトの方が黒色度が優れているといえるが、表5では、比表面積が「7m2/g」の四三酸化コバルトを用いたE12と比表面積が「35m2/g」の酸化ルテニウムを用いたR26とでは、L値がそれぞれ「50」と「45」となっており、酸化ルテニウムの方が黒色度が優れているといえる。
すなわち、黒色顔料の黒色度は、その比表面積によって大きく影響を受けるものであることが明らかであるところ、比表面積がそれぞれ「6.4m2/g 」及び「42.8m2/g」と、甲第2号証に記載されたものより更に大きな差がある1例だけで示された黒色度の比較からでは、被請求人が主張するような、銀粉末が無い場合における四三酸化コバルトの黒色度についての効果の主張を認めることは到底できない。
さらに、上記の表5の結果について、甲第2号証には、「比較例R25〜R28は、比較的良好な特性を示しているが、RuO2は比表面積が35(m2/g)程度と微粉であって取扱いが困難であると共に、高価であるという問題がある。」(摘記事項(2o)参照)と記載されており、当業者であれば、乙第5号証に用いられた、42.8m2/gという大きな比表面積積を有する酸化ルテニウムを黒色顔料として選択することはあり得ないものである。

以上のとおり、乙第5号証に基づく、「銀粉末が無い場合に、四三酸化コバルトを選択する動機付けがない」とする請求人の主張は、採用しえないものである。

(エ) まとめ
以上のとおり、相違点aに係る構成については、甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、これらの構成を採用したことにより、当業者が予期し得ない格別な効果を奏しているとすることはできない。

イ 相違点bについて
甲第2号証及び甲第5号証にも記載されているように、白黒二層電極における黒色層を形成する感光性組成物として、有機バインダ、光重合性モノマー、及び光重合開始剤を含有する光硬化性組成物を用いることは、本件の出願前に既に周知である。
したがって、甲第1号証記載の発明における「感光性組成物」を、「(B)有機バインダー、(C)光重合性モノマー、及び(D)光重合開始剤を含有する光硬化性」とする点に格別な創意を要するものではない。

(3) まとめ
以上のとおり、相違点a及び相違点bに係る構成を採用することはいずれも当業者が容易になし得ることであり、しかも、これらの相違点を組み合わせたことにより、予期し得ない格別な効果を奏しているとすることはできない。
よって、本件発明1は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

2 本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の特定事項に、「四三酸化コバルト(Co3O4)黒色微粒子は、比表面積が1.0〜20m2/gの範囲にある」という特定事項を追加するものである。
そこで、本件発明2と甲第1号証記載の発明とを対比すると、上記相違点a及び相違点bに加えて、甲第1号証記載の発明では、黒色顔料の比表面積については言及されていない点でも相違している。(「相違点c」とする。)
相違点a及び相違点bについては既に述べたとおりであるので、相違点cについて検討する。
甲第2号証には、前記黒色顔料であるCo3O4(四酸化三コバルト)粉末の比表面積を、1〜20(m2/g)とすることが記載されている(請求項【8】及び摘記事項(2h)参照)。
よって、本件発明2も、前項「1 本件発明1について」に記載したと同様の理由により、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

3 本件発明3について
本件発明3は、本件発明1又は本件発明2の特定事項に、「さらに(E)無機微粒子(導電性微粒子を除く)を含有する」という特定事項を追加するものである。
そこで、本件発明3と甲第1号証記載の発明とを比較する。
本件明細書段落【0030】には、「本発明の組成物は、必要に応じて軟化点400〜600℃のガラス粉末、導電性粉末、耐熱性黒色顔料、シリカ粉末等の無機微粒子(E)を、本発明の光硬化性樹脂組成物の特性を損なわない量的割合で配合することができる。」と記載されており、該記載からみて、本件発明3における「無機微粒子(導電性微粒子を除く)」とは、軟化点400〜600℃のガラス粉末、耐熱性黒色顔料、シリカ粉末が含まれることは明らかである。
これに対し、摘記事項(1f)から明らかなように、甲第1号証には、ブラックマトリックス層には「ガラス粉末」が混合されることが記載されているものの、その軟化点についてまでは記載がなく、また、「耐熱性黒色顔料」や「シリカ粉末」についても記載がない。(「相違点d」とする。)
相違点aないし相違点cについては既に述べたとおりであるので、相違点dについて検討する。
甲第5号証には、プラズマディスプレイパネルのバス電極形成用の黒色導電性ペーストとして用いられる「黒色導電性微粒子、有機バインダー、光重合性モノマー、及び光重合開始剤を含有する光硬化型導電性組成物」に関し、「本発明の組成物は、必要に応じて軟化点400〜600℃のガラス粉末、導電性粉末、耐熱性黒色顔料、シリカ粉末等の無機微粒子(E)を配合することができる。」と記載されている。
したがって、当業者であれば、甲第1号証記載の発明において混合されるガラス粉末について、「軟化点400〜600℃のガラス粉末」とすること、或いは、更に、「耐熱性黒色顔料」及び/又は「シリカ粉末」を配合することは、甲第5号証の記載に基づいて容易になしうることにすぎない。
よって、本件発明3は、甲第1号証、甲第2号証及び甲第5号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 本件発明4について
本件発明4は、「前記請求項1乃至3の何れか1項に記載の光硬化性樹脂組成物の焼成物からバス電極の黒層が形成されてなるプラズマディスプレイパネル。」というものであるが、甲第1号証には、550℃-620℃の温度範囲内で加熱してブラックマトリックス層を形成したプラズマディススプレイパネルが記載されている(摘記事項(1h)参照)。
そこで、本件発明4と甲第1号証記載の発明とを比較すると、両者の相違点は、上記相違点aないし相違点dだけであって、これらの相違点については既に述べたとおりである。
よって、本件発明4は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、あるいは甲第1号証、甲第2号証及び甲第5号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第7 結び
以上のとおり、本件発明1及び本件発明2は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明3は、甲第1号証、甲第2号証及び甲第5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明4は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、あるいは甲第1号証、甲第2号証及び甲第5号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本件の請求項1ないし請求項4に係る特許は、特許法第29条第2項に規定に違反してなされたものであるから、特許法第123条第1項第2号の規定により無効にすべきものである。
審判における費用については、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人の負担とすべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-05-10 
結審通知日 2005-05-13 
審決日 2005-05-24 
出願番号 特願2001-19510(P2001-19510)
審決分類 P 1 113・ 121- Z (G03F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 倉持 俊輔  
特許庁審判長 江藤 保子
特許庁審判官 秋月 美紀子
山口 由木
登録日 2004-03-26 
登録番号 特許第3538387号(P3538387)
発明の名称 光硬化性樹脂組成物及びそれを用いて電極形成したプラズマディスプレイパネル  
代理人 鈴江 武彦  
代理人 河野 哲  
代理人 池田 治幸  
代理人 中村 誠  

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