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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G09B 審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 G09B 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 G09B 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G09B |
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管理番号 | 1144115 |
審判番号 | 不服2004-2130 |
総通号数 | 83 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1998-03-10 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2004-02-05 |
確定日 | 2006-09-19 |
事件の表示 | 平成 8年特許願第226226号「自動走行路および自動走行システム」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 3月10日出願公開、特開平10- 69219〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は平成8年8月28日の出願であって、平成15年12月3日付けで拒絶の査定がされたため、これを不服として平成16年2月5日付けで本件審判請求がされるとともに、同月23日付けで明細書についての手続補正(以下「本件補正」という。)がされたものである。 第2 補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成16年2月23日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1.補正事項 本件補正は次の補正事項を含んでいる。 補正事項1:請求項1記載の「経路地図データおよび車両位置検出手段を有し」を「前記走行誘導マークの情報を含む経路地図データを記憶したマップメモリおよび車両位置検出手段を有し」と補正する。 補正事項2:請求項1記載の「少なくとも前記走行誘導マークの有無情報を含む走行道路状況に応じて、前記走行誘導マークが有る場合は前記マーク追従型自動走行装置を選択し、前記走行誘導マークが無い場合は前記マップ参照型自動走行装置を選択して」を「前記マップメモリに記憶した前記走行誘導マークの情報と前記車両位置検出手段により検出した前記所定経路上での車両位置とに基づいて、前記走行誘導マークが有る経路上では前記マーク追従型自動走行装置を選択し、前記走行誘導マークが無い経路上では前記マップ参照型自動走行装置を選択して」と補正する。 補正事項3:請求項2記載の「前記走行道路状況の前記車両の自動走行を行わせる経路上にマップ参照優先区間が設けられており」を「前記所定経路上にマップ参照優先区間が設けられており」と補正する。 2.補正目的 補正事項1のうち「前記走行誘導マークの情報を含む経路地図データ」については、経路地図データを限定するものと認める。「経路地図データを記憶したマップメモリ」については、「マップ参照型自動走行装置」が有するものは「メモリ」であって「データ」ではないから、誤記の訂正又は明りようでない記載の釈明を目的とするものと認める。 補正事項2については、限定的減縮を目的とするものと認める。 補正事項3については次のとおりである。「所定経路」とは「前記走行道路状況の前記車両の自動走行を行わせる経路」のうち、車両の走行予定経路のことであるから、補正後の記載によれば、走行予定経路のみに「マップ参照優先区間」が設けられておればよいことになる。これに対し、補正前の記載によれば、走行予定経路を含む全経路に「マップ参照優先区間」が設けられていると解すべきであるから、特許請求の範囲の減縮には当たらない。もちろん、請求項削除、誤記の訂正又は明りようでない記載の釈明にも該当しない。 したがって、補正事項3を含む本件補正は特許法17条の2第4項の規定に違反している。 3.新規事項追加 (1)補正事項2によれば、「前記走行誘導マークの情報と前記車両位置検出手段により検出した前記所定経路上での車両位置とに基づいて」走行誘導マークが有る経路上であるか、無い経路上であるかが判断され、その判断結果に従ってマーク追従型自動走行装置とマップ参照型自動走行装置の何れかが選択されることになる。ここで、車両位置検出手段はマップ参照型自動走行するに必要な手段であるから、所定経路上での時々刻々の車両位置を検出する手段と解される。 これに対し、願書に最初に添付した明細書(以下、添付図面を含めて「当初明細書」という。)には、 「車両VHは地図上の経路を参照しながら自動走行させるマップ参照型自動走行も可能となっており、この自動走行のため、走行時の車両のヨーレート(r)を検出するためのジャイロ17と、車輪の回転角度に応じた数の電気パルスを出力する車輪パルサー18と、GPSからの信号を受信するGPS受信器19を有している。」(段落【0017】)、 「ジャイロ17および車輪パルサー18からの検出信号に基づいて、走行軌跡推定ができるので、最初(軌跡推定開始時)の車両の向きおよび位置座標が分かれば、地図上で走行軌跡を推定することができる。なお、この最初の位置座標の検出を、例えば、GPS受信器19からの信号に基づいて行うことができる。」(段落【0020】)及び 「マップ参照型自動走行に移行し、・・・マップ上での経路33(図5参照)に沿った走行軌跡を描くように自動走行制御を行う。この走行制御においては、ジャイロ17と車輪パルサー18からの信号を用いて、上記式(1)〜(3)により走行軌跡を推定し、この走行軌跡が地図上に設定された経路33に重なるように、電動ステアリング11、電動スロットル12、電動ブレーキ13および電動シフト14の作動制御がなされる。」(段落【0030】)との各記載があり、ジャイロ17、車輪パルサー18及びこれらからの信号に基づく演算処理手段が「車両位置検出手段」の具体例と解される。 当初明細書には、マーク追従型自動走行からマップ参照型自動走行への切り換えについて、「マーク追従型自動走行により車両がマーカ31bに到達し経路センサ16がこのマーカ31bを検出すると、コントローラ15はマップメモリ22から次のリンク情報、すなわちマーカ31bからマーカ32aに至るリンク情報を読み出す。この部分は、誘導用白線31から誘導用白線32が分岐する部分で、誘導用白線が設けられていない空白部であり、マーク追従型自動走行を行うことができない。このリンク情報における誘導用白線有無フラグには無フラグが立てられており、これによりコントローラ15はマーク追従型自動走行が不可能と判断して、マップ参照型自動走行に切り換える。」(段落【0029】)と、 及びマップ参照型自動走行からマーク追従型自動走行への切り換えについて、「マップ参照型自動走行により、車両VHがマーカ32aに到達し経路センサ16がこのマーカ32aを検出すると、このマーカ32aを始点マーカとして次のマーカ32bを終点マーカとするリンク情報をマップメモリ22から読み出す。この部分では誘導用白線32が設けられており、リンク情報における誘導白線有無フラグに有フラグが立てられているので、コントローラ15はマーク追従型自動走行制御に戻る。」(段落【0031】)とそれぞれ記載されており、走行経路上のマーカ(のリンク情報における誘導用白線有無フラグ)を検出することにより2つの自動走行の切り換えを行うことが記載されているのであって、マーカの検出を「車両位置検出手段により検出」と同視することはできない。 当初明細書には、2つの自動走行の切り換えについて上記以外にも、「マーク追従型自動走行制御の途中に経路センサ16が白線を見失ってこれを検出できなくなった場合にもマップ参照型自動走行制御に切り換えて自動走行を継続させるようになっている。」(段落【0032】)との記載があるが、これも補正事項2とは関係がない。 結局、補正事項2は当初明細書に記載されていないし、自明の事項でもないから、本件補正は特許法17条の2第3項の規定に違反している。 (2)本件補正後の請求項2には、「前記所定経路上にマップ参照優先区間が設けられており、前記マップ参照優先区間においては前記選択制御手段により前記マップ参照自動走行装置による自動走行が選択される」とあり、これと補正事項2を併せ読めば、走行誘導マークが有る経路上では原則的にマップ参照型自動走行が選択され、走行誘導マークが無い経路上では原則的にマーク追従型自動走行が選択されるが、例外的に「マップ参照優先区間」では走行誘導マークがあってもマーク追従型自動走行が選択されると解される。 しかし、そのようなことは当初明細書に記載されていないし、自明の事項でもない。 (3)以上2つの理由により、本件補正は特許法17条の2第3項の規定に違反している。 4.独立特許要件欠如 補正事項1,2は請求項1の限定的減縮を含んでいるから、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるかどうか検討する。 (1)補正発明の認定 補正発明は、本件補正により補正された明細書の特許請求の範囲【請求項1】に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。 「路面に設けられた走行誘導マークを検出しながら前記走行誘導マークに沿って車両を自動走行させるマーク追従型自動走行装置と、 前記走行誘導マークの情報を含む経路地図データを記憶したマップメモリおよび車両位置検出手段を有し、前記車両位置検出手段により検出した車両位置と前記経路地図データとに基づいて所定経路に沿って前記車両を自動走行させるマップ参照型自動走行装置と、 前記マップメモリに記憶した前記走行誘導マークの情報と前記車両位置検出手段により検出した前記所定経路上での車両位置とに基づいて、前記走行誘導マークが有る経路上では前記マーク追従型自動走行装置を選択し、前記走行誘導マークが無い経路上では前記マップ参照型自動走行装置を選択して前記車両の自動走行を行わせる選択制御手段とを備えて構成されていることを特徴とする自動走行システム。」 (2)引用刊行物の記載事項 本願出願前に頒布された実願平4-12011号(実開平5-75807号)のCD-ROM(以下「引用例1」という。)には、次のア〜キの記載が図示とともにある。 ア.「走行距離を検出して距離信号を出力する距離センサと、操舵角を検出して操舵角信号を出力する操舵角センサと、マークプレートを検出してマークプレート信号を出力するマークプレートセンサと、誘導ラインを検出して車体と誘導ラインとの位置ずれを示す誘導ライン信号を出力する誘導ラインセンサと、前記各信号を受けて前記誘導ラインに沿い車体を走行させ且つマークプレートで示した態様の動作を行わせるように走行用モータ及び操舵用モータの駆動を制御する無人搬送車制御装置と、を備えた無人搬送車に適用する自律走行制御装置であって、 前記無人搬送車制御装置とは別のユニットとして構成されるとともに、前記各センサと前記無人搬送車制御装置との間に介装され、少なくとも前記距離信号及び前記操舵角信号が入力され、あらかじめ記憶している地図データで示すルートに沿い走行し且つあらかじめ記憶しているマークプレートデータに応じた態様の動作を行なわせるように、前記距離信号と信号形態の同じ等価距離信号、前記操舵角信号と信号形態の同じ等価操舵角信号、前記マークプレート信号と信号形態の同じ等価マークプレート信号及び前記誘導ライン信号と信号形態の同じ等価誘導ライン信号を前記無人搬送車制御装置に送ることを特徴とする無人搬送車の自律走行制御装置。」(【請求項1】) イ.「本考案では、誘導方式の無人搬送車に自律走行制御装置を備えると、自律走行制御装置に記憶した走行ルートデータで示すルートに沿い、記憶したマークプレートデータに応じた動作をしながら、無人搬送車が自律走行する。」(段落【0012】) ウ.「自律走行制御装置10は、無人搬送車制御装置1とは別のユニットとして構成されており、各センサ2、3、4、5と無人搬送車制御装置1との間に介装される。この自律走行制御装置10にはあらかじめ、地図データ、マークプレートデータ、本装置を備える無人搬送車のデータが記憶されている。」(段落【0015】) エ.「地図データとしては、走行ルート(位置と方向)、誘導ラインの有無(誘導走行するかどうかも含む)、位置補正用データ(各コースにおける補正ポイントを示すことも含む)がある。」(段落【0016】) オ.「 自律走行制御装置10は、・・・センサ2、3からの距離センサS1及び操舵角信号S2を受けると、地図データを参照して無人搬送車の現在位置及び方向を判定するとともに、・・・記憶している走行ルートに沿い走行しつつ所要の動作をするように、等価マークプレート信号S13及び等価誘導ライン信号S14を無人搬送車1に送る。」(段落【0019】) カ.「走行路に誘導ラインがある場合には、誘導ライン信号S4の情報をそのままにして等価誘導ライン信号S14として出力する。ただし、誘導ラインがあってもこれを無視したい場合は、自律走行制御装置10に記憶した地図データに、誘導ラインを無視するエリアを設定しておき、誘導ライン信号S4を無視し、地図データから求めた等価誘導ライン信号S14を出力する。」(段落【0021】) キ.「誘導方式の切替え、つまり誘導ラインに沿い走行するか、地図データで決めた走行ルートに沿い走行するかの選択は、自律走行制御装置10の内部で切替えるが、外部からの信号(例えば無人搬送車制御装置の信号)によっても切替えられる。本装置10内で切替える方法は、誘導ライン信号S4を検出して、これと地図データとのマッチングを見て決める。」(段落【0022】) (3)引用例1記載の発明の認定 引用例1の記載オ,カによれば、走行路に誘導ラインがある場合には誘導ライン信号の情報をそのまま用い、走行路に誘導ラインがない場合には、前記自律走行制御装置からの等価誘導ライン信号を用いるものと認められる。 したがって、無人搬送車及びその制御装置(無人搬送車制御装置及び自律走行制御装置)を含めたシステム全体として、引用例1には次のような発明が記載されていると認めることができる。 「走行距離を検出して距離信号を出力する距離センサと、操舵角を検出して操舵角信号を出力する操舵角センサと、誘導ラインを検出して車体と誘導ラインとの位置ずれを示す誘導ライン信号を出力する誘導ラインセンサと、前記各信号を受けて前記誘導ラインに沿い車体を走行させるように走行用モータ及び操舵用モータの駆動を制御する無人搬送車制御装置と、 前記無人搬送車制御装置とは別のユニットとして構成されるとともに、前記各センサと前記無人搬送車制御装置との間に介装され、少なくとも前記距離信号及び前記操舵角信号が入力され、あらかじめ記憶している地図データで示すルートに沿い走行し、前記距離信号と信号形態の同じ等価距離信号、前記操舵角信号と信号形態の同じ等価操舵角信号及び前記誘導ライン信号と信号形態の同じ等価誘導ライン信号を前記無人搬送車制御装置に送る無人搬送車の自律走行制御装置とを備えた自動走行システムであって、 走行路に誘導ラインがある場合には、誘導ライン信号の情報をそのまま用い、走行路に誘導ラインがない場合には、前記自律走行制御装置からの等価誘導ライン信号を用い、 前記地図データは誘導ラインの有無を含んでいる自動走行システム。」(以下「引用発明1」という。) (4)補正発明と引用発明1との一致点及び相違点の認定 引用発明1の「誘導ライン」は補正発明の「走行誘導マーク」に相当するから、引用発明1の「誘導ラインを検出して車体と誘導ラインとの位置ずれを示す誘導ライン信号を出力する誘導ラインセンサと、前記各信号を受けて前記誘導ラインに沿い車体を走行させるように走行用モータ及び操舵用モータの駆動を制御する無人搬送車制御装置」(ただし、誘導ライン信号の情報をそのまま用いる場合)と補正発明の「路面に設けられた走行誘導マークを検出しながら前記走行誘導マークに沿って車両を自動走行させるマーク追従型自動走行装置」に相違はない。 引用発明1の「地図データ」は「誘導ラインの有無を含んでいる」から、補正発明の「走行誘導マークの情報を含む経路地図データ」と相違せず、当然引用発明1は補正発明の「マップメモリ」を有する。 引用例1の記載オのとおり、引用発明1では「前記距離信号及び前記操舵角信号が入力され」ると「無人搬送車の現在位置」を判定するのだから、引用発明1は補正発明の「車両位置検出手段」を有している。 引用例1の記載オ,カによれば、「等価誘導ライン信号」は地図データから求めたものであって、走行経路に沿ったラインと認められるから、等価誘導ライン信号を用いる場合には、補正発明でいうところの「前記車両位置検出手段により検出した車両位置と前記経路地図データとに基づいて所定経路に沿って前記車両を自動走行させる」ことにほかならない。引用発明1では、「自律走行制御装置」自体は等価距離信号、等価操舵角信号及び等価誘導ライン信号を送信するだけであるから、補正発明の「マップ参照型自動走行装置」に相当するわけではないが、「無人搬送車制御装置」は等価距離信号、等価操舵角信号及び等価誘導ライン信号を受け取って「前記車両位置検出手段により検出した車両位置と前記経路地図データとに基づいて所定経路に沿って前記車両を自動走行させる」のだから、補正発明の「マップ参照型自動走行装置」は引用発明1にも備わっている。 そして、引用発明1において、マーク追従型自動走行を行うのかマップ参照型自動走行を行うのかは、誘導ライン信号の情報をそのまま用いるのか、走行経路に沿ったラインに該当する等価誘導ライン信号を用いるのかによって定まり、そのことは走行路中の誘導ラインの有無によって定まるから、結局のところ、走行誘導マークが有る経路上ではマーク追従型自動走行を選択し、走行誘導マークが無い経路上ではマップ参照型自動走行を選択する点において補正発明と引用発明1は一致する。 したがって、補正発明と引用発明1とは、 「路面に設けられた走行誘導マークを検出しながら前記走行誘導マークに沿って車両を自動走行させるマーク追従型自動走行装置と、 前記走行誘導マークの情報を含む経路地図データを記憶したマップメモリおよび車両位置検出手段を有し、前記車両位置検出手段により検出した車両位置と前記経路地図データとに基づいて所定経路に沿って前記車両を自動走行させるマップ参照型自動走行装置と、 前記走行誘導マークが有る経路上では前記マーク追従型自動走行を選択し、前記走行誘導マークが無い経路上では前記マップ参照型自動走行を選択して前記車両の自動走行を行わせる選択制御手段とを備えて構成されている自動走行システム。」である点で一致し、以下の各点で相違する。 〈相違点1〉マーク追従型自動走行とマップ参照型自動走行の選択について、補正発明が「前記マップメモリに記憶した前記走行誘導マークの情報と前記車両位置検出手段により検出した前記所定経路上での車両位置とに基づいて」行わせる旨限定しているのに対し、引用発明1には同限定がない点。 〈相違点2〉「選択制御手段」につき、補正発明は「マーク追従型自動走行装置」と「マップ参照型自動走行装置」の選択をしているのに対し、引用発明1では誘導ライン信号の情報をそのまま用いるのか、等価誘導ライン信号を用いるかの選択をする点。 (5)相違点についての判断 〈相違点1について〉 経路上の走行誘導マークの有無を、マーク追従型自動走行とマップ参照型自動走行の選択基準としている点では補正発明と引用発明1に相違はない。そして、引用発明1において、地図データは誘導ライン(走行誘導マーク)の有無を含んでおり、かつ車両位置検出手段を備えているのだから、経路上の走行誘導マークの有無を判断するに当たり、相違点1に係る補正発明の構成を採用することは設計事項というべきである。 また、相違点1に係る補正発明の構成が新規事項に該当することは前示のとおりであるから、これを当初明細書記載の走行経路上のマーカ検出に善解するとしても、誘導ラインの有無を示すマーカを設置し、同マーカの検出により走行誘導マークの有無を判断することはやはり設計事項程度である。 〈相違点2について〉 引用発明1では、「無人搬送車制御装置」は「マーク追従型自動走行装置」だけでなく「マップ参照型自動走行装置」の一部にもなっており、「自律走行制御装置」単独ではマップ参照型自動走行を実現していないのであるが、誘導ライン信号の情報をそのまま用いるのか、等価誘導ライン信号を用いるかを選択すれば、「マーク追従型自動走行装置」として機能するか、それとも「マップ参照型自動走行装置」として機能するかを選択しているということはできる。 そして、補正発明の「マーク追従型自動走行装置」と「マップ参照型自動走行装置」を、完全に独立した別装置であると認定しなければならない理由はない。そうである以上、相違点2は実質的相違点には当たらない。 仮に、補正発明の「マーク追従型自動走行装置」と「マップ参照型自動走行装置」が独立した別装置であるとしても、当業者にとって想到容易である。なぜなら、一般に異なる機能を有する2つの装置であれば別装置とするのが通常であり、実際、マーク追従型自動走行とマップ参照型自動走行を選択可能としたものが、引用例1のほか特開昭62-138774号公報、特開平1-195512号公報及び特開平1-241604号公報にも記載されているが、これら文献には「等価誘導ライン信号」に類する記載が皆無であり、それぞれ独立した制御装置によって制御されると解されるからである。 したがって、相違点2は実質的相違点でないか、仮にそうだとしても同相違点に係る補正発明の構成を採用することは当業者にとって想到容易である。 (6)補正発明の独立特許要件の判断 相違点1,2は、実質的相違でないか、設計事項であるか、それとも当業者にとって想到容易であり、これら相違点に係る補正発明の構成を採用したことにより格別の作用効果を認めることもできない。 したがって、補正発明は引用発明1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。 すなわち、本件補正は特許法17条の2第5項で準用する同法126条5項の規定に違反している。 [補正の却下の決定のむすび] 本件補正は、特許法17条の2第3項及び4項の規定並びに同条5項で準用する同法126条5項の規定に違反しているから、同法159条1項で読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下されなければならない。 よって、補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本件審判請求についての判断 1.本願発明の認定 本件補正が却下されたから、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成15年10月2日付けで補正された明細書の特許請求の範囲【請求項1】に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。 「路面に設けられた走行誘導マークを検出しながら前記走行誘導マークに沿って車両を自動走行させるマーク追従型自動走行装置と、 経路地図データおよび車両位置検出手段を有し、前記車両位置検出手段により検出した車両位置と前記経路地図データとに基づいて所定経路に沿って前記車両を自動走行させるマップ参照型自動走行装置と、 少なくとも前記走行誘導マークの有無情報を含む走行道路状況に応じて、前記走行誘導マークが有る場合は前記マーク追従型自動走行装置を選択し、前記走行誘導マークが無い場合は前記マップ参照型自動走行装置を選択して前記車両の自動走行を行わせる選択制御手段とを備えて構成されていることを特徴とする自動走行システム。」 2.引用刊行物の記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された特開平4-182709号公報(以下「引用例2」という。)には、以下のク〜セの記載が図示とともにある。なお、引用例2では丸数字が使用されているが、例えば丸数字の1は「マル1」のように表記する。 ク.「第1図に示すように、荷搬送用の移動車(A)の走行経路に沿って誘導ライン(L)がループ状に設けられ、移動車(A)が停止して荷物の積卸し等の作業を行うための複数のステーション(ST)が誘導ライン(L)に沿って設けられ、もって、複数の移動車(A)を各ステーション(ST)間に亘って自動走行させながら荷搬送作業を行う搬送設備を構成している。」(3頁左上欄16行〜右上欄3行) ケ.「誘導ライン(L)は特定箇所としての分岐点(D)、合流点(J)、及びコーナ(K)を有し、これらの特定箇所においては図中に破線で示す如く、誘導ラインが分断されている。」(3頁右上欄5〜8行) コ.「移動車(A)は後述するように、磁気センサー(5)がこの誘導ライン(L)を検出する情報に基づいて自動操向制御しながら、誘導ライン(L)に沿って走行する。前記特定箇所にはこの誘導ライン(L)が埋設されていないので、移動車(A)は上手側の誘導ライン(L)から下手側の誘導ライン(L)に自律走行して乗り換えることになる。」(3頁右上欄16行〜左下欄3行) サ.「自律走行のための走行制御情報は、夫々の特定箇所(K),(D),(J)の手前箇所に埋設されたIDタグとよばれる記憶媒体(T)に記憶されている。移動車(A)は後述のようにしてその記憶情報を読み出し、適宜必要な走行制御情報を得る。特定箇所(K),(D),(J)には自律走行に移行するための基準地点を示すマーク(M)も設置されている。マーク(M)は磁石片を表側がS極、裏側がN極になるように走行路面に埋設したものである。移動車(A)は特定箇所(K),(D),(J)に接近するに伴い、IDタグ(T)の記憶情報を読み出した後にマーク(M)を検出することになる。」(3頁左下欄4〜16行) シ.「走行輪(3)の前側に誘導ライン(L)を検出して操向制御用の情報を得るための磁気センサ(5)が走行輪(3)と一体に向き変更されるように設けられている。走行輪(3)には、その回転に伴ってパルスを発生するロータリーエンコーダ(RE)が設けられ、そのパルス出力は計測手段(12)に入力されてパルス数かカウントされ、走行距離に変換される。 車体右側前方部には前述のマーク(M)及び規制ライン(LR)を検出するマークセンサ(6)か設けられている。マークセンサ(6)はS極の磁気を感知する磁気センサーであって、マーク(M)又は規制ライン(LR)に接近してそれを検出する。 車体左側前方部には前述のIDタグ(T)の記憶情報を読み出すためのタグリーダ(7)が設けられている。タグリーダ(7)は後述するように、IDタグ(T)に接近するに伴って、電磁誘導による近接無線通信を行い、その記憶情報を読み出す。」(4頁左上欄1〜19行) ス.「特定箇所(K),(D),(J)の手前箇所に埋設されたIDタグ(T)に記憶させる走行制御情報は、前述のように、自律走行のための走行制御情報を含む。分岐点(D)の手前箇所に埋設されたIDタグ(T)を例にとれば、下記のような走行制御情報か記憶されている。 マル1 分岐点であること及びそのアドレス。 マル2 直進ラインと右分岐ラインに分かれること。 マル3 マーク(M)から分岐開始(自律走行開始)までの距離。 マル4 右旋回の旋回半径。 マル5 右旋回の走行速度。 マル6 分岐後(下手側誘導ラインに乗り換えた後)の走行速度。 マル7 分岐後のアドレス。」(5頁左上欄18行〜右上欄13行) セ.「右分岐する場合は、マークセンサ(6)かマーク(M)を検出した地点から上記マル3の情報で指示される距離だけ走行した後に自律走行に移行する。即ち、上記マル4の情報に基づいて決められる操向角度だけ操向制御し、上記マル5の情報で指示される速度で右旋回する。やがて、磁気センサ(5)が下手側誘導ライン(L2)を検出するに伴って、自律走行から下手側誘導ライン(L2)に沿う追従走行に移行し、上記マル6の情報で指示される走行速度で走行を続けることになる。」(5頁11〜20行) 3.引用例2記載の発明の認定 記載ク〜セを含む引用例2の全記載及び図示によれば、引用例2には次のような発明が記載されていると認めることができる。 「路面には特定箇所としての分岐点、合流点及びコーナを有する誘導ラインを埋設し、特定箇所においては誘導ラインが分断されており、 それぞれの特定箇所の手前箇所にはIDタグとよばれる記憶媒体及びマークを設置し、各IDタグには走行制御情報を記憶させ、 誘導ラインが埋設されている区間では、移動車は誘導ラインを検出する情報に基づいて自動操向制御し、 誘導ラインが埋設されていない区間では、前記IDタグの走行制御情報を読み出し、その走行制御情報に従って自律走行し、 誘導ラインを検出する情報に基づく自動操向制御から自律走行への移行は、前記マークの検出に従って行い、自律走行から誘導ラインを検出する情報に基づく自動操向制御への移行は誘導ラインを検出することによる行う自動走行システムであり、 例えば、分岐点の手前箇所に埋設されたIDタグには、分岐点であること及びそのアドレス、直進ラインと右分岐ラインに分かれること、マークから分岐開始までの距離、旋回半径、旋回の走行速度、分岐後の走行速度並びに分岐後のアドレスが記憶されている自動走行システム。」(以下「引用発明2」という。) 4.本願発明と引用発明2との一致点及び相違点の認定 引用発明2の「誘導ライン」は本願発明の「走行誘導マーク」に相当するから、引用発明2の「移動車は誘導ラインを検出する情報に基づいて自動操向制御」と本願発明の「路面に設けられた走行誘導マークを検出しながら前記走行誘導マークに沿って車両を自動走行」に相違はなく、引用発明2は「マーク追従型自動走行装置」を備えるといえる。 本願発明の「マップ参照型自動走行」は自律走行の一種である(引用発明2は「自律走行装置」を備える。)。引用発明2では、自律走行に移行するための基準地点であるマークを検出することにより、誘導ラインを検出する情報に基づく自動操向制御から自律走行へ移行しており、マークを検出することは走行経路における「走行誘導マークの有無情報」の検出に該当する。また、引用発明2では、誘導ラインを検出することにより自律走行から誘導ラインを検出する情報に基づく自動操向制御へ移行しており、誘導ラインを検出することは「走行誘導マークの有無情報」の検出に該当する。 そうすると、引用発明2は「少なくとも前記走行誘導マークの有無情報を含む走行道路状況に応じて、前記走行誘導マークが有る場合は前記マーク追従型自動走行装置を選択し、前記走行誘導マークが無い場合は前記マップ参照型自動走行装置を選択して前記車両の自動走行を行わせる選択制御手段」を備えると認めることができる。 したがって、本願発明と引用発明2とは、 「路面に設けられた走行誘導マークを検出しながら前記走行誘導マークに沿って車両を自動走行させるマーク追従型自動走行装置と、 前記車両を自動走行させる自律走行装置と、 少なくとも前記走行誘導マークの有無情報を含む走行道路状況に応じて、前記走行誘導マークが有る経路上では前記マーク追従型自動走行装置を選択し、前記走行誘導マークが無い経路上では前記自律走行装置を選択して前記車両の自動走行を行わせる選択制御手段とを備えて構成されている自動走行システム。」である点で一致し、以下の各点で相違する。 〈相違点〉本願発明の「自律走行装置」は「経路地図データおよび車両位置検出手段を有し、前記車両位置検出手段により検出した車両位置と前記経路地図データとに基づいて所定経路に沿って前記車両を自動走行させるマップ参照型自動走行装置」であるのに対し、引用発明2のそれは「IDタグの走行制御情報を読み出し、その走行制御情報に従って自律走行」する装置である点。 5.相違点についての判断及び本願発明の進歩性の判断 本願出願当時、自律走行装置として「経路地図データおよび車両位置検出手段を有し、前記車両位置検出手段により検出した車両位置と前記経路地図データとに基づいて所定経路に沿って前記車両を自動走行させるマップ参照型自動走行装置」は周知である(例えば、「第2」であげた引用例1、特開昭62-138774号公報、特開平1-195512号公報及び特開平1-241604号公報並びに特開平5-297942号公報、特開平7-110710号公報、特開平7-83673号公報及び実願平4-87283号(実開平6-48008号)のCD-ROMに記載されている。)。 そして、引用発明2の自律走行装置として上記周知技術を用いれば、所定の走行コースに従って自律走行できることは明らかであるから、上記周知技術を採用して、相違点に係る本願発明の構成に至ることは当業者にとって想到容易というべきである。 また、相違点に係る本願発明の構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。 したがって、本願発明は引用発明2及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 第4 むすび 本件補正は却下されなければならず、本願発明が特許を受けることができない以上、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2006-07-24 |
結審通知日 | 2006-07-28 |
審決日 | 2006-08-08 |
出願番号 | 特願平8-226226 |
審決分類 |
P
1
8・
561-
Z
(G09B)
P 1 8・ 121- Z (G09B) P 1 8・ 57- Z (G09B) P 1 8・ 575- Z (G09B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 松川 直樹 |
特許庁審判長 |
津田 俊明 |
特許庁審判官 |
國田 正久 島▲崎▼ 純一 |
発明の名称 | 自動走行路および自動走行システム |
代理人 | 大西 正悟 |