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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F16H
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F16H
管理番号 1144325
審判番号 不服2002-25261  
総通号数 83 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1994-11-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-12-27 
確定日 2006-10-13 
事件の表示 平成 5年特許願第139601号「歯車式無段変速機構」拒絶査定不服審判事件〔平成 6年11月29日出願公開、特開平 6-330993〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.出願の経緯及び本願発明1
本願は、平成5年5月18日の出願であって、その請求項1〜3に係る発明は、平成14年12月27日付け手続補正書(全文訂正明細書)によって補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜3に記載されたとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】太陽歯車系運動体である公転運動体を太陽歯車とこの太陽歯車に噛合う遊星歯車とにより構成し、この公転運動体に回転自在に噛合う内歯歯車系運動体である自転運動体をその内周に遊星歯車と噛合う内側ギヤーを有すると共に、その外周に外側ギヤーを有する内歯歯車により構成し、且つ、太陽歯車と内歯歯車とに回転運動及びトルクを与える可変駆動手段をそれぞれ付設した歯車式変速機構であって、
それぞれの可変駆動手段により公転運動体と自転運動体とを各別に回転させて行なわれる相対回転運動が、(太陽歯車系運動体である公転運動体の公転方向及び公転運動量)+(内歯歯車系運動体である自転運動体の自転方向及び自転運動量)=(出力側に取り出される太陽歯車系運動体である公転運動体の公転方向及び公転運動量)を運動原理とし、
公転運動体と自転運動体とは、(太陽歯車+内歯歯車/太陽歯車)より求められる公転運動体の速度比をi1=Xとし、(内歯歯車/太陽歯車)より求められる自転運動体の内歯歯車の速度比をi2=X2としたときに、公転運動体より取り出される出力トルクがi1(+X1)+i2(-X2)=0またはi1(-X1)+i2(+X2)=0とされて±0値とされ、
この±0値を基準値としつつ公転運動体と自転運動体のそれぞれの回転運動速度を互いに可変的に調整し、公転運動体の前進運動に自転運動体がその前進を阻止する関係を保持しつつ相対回転運動の和として出力側に増減する正転値、増減する逆転値を連続的に取り出すように設定することを特徴とする歯車式無段変速機構。」

2.引用刊行物の記載事項
<刊行物1>
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開昭52-67452号公報(以下、「刊行物1」という。)には、「無段変速装置」に関して、下記の事項が図面とともに記載されている。

(ア)「本発明においては、原動側の動力歯車(2)と駆動側の歯車(3)とに駆動歯車(4)を噛合せしめ、歯車(3)には独自の回転を与え、両歯車(2),(3)の回転差により駆動歯車(4)を回転せしめ、もってこれと直結する駆動軸(10)の無段変速を容易に行ないうるようにしたものである。」(第1頁左下欄第18行〜同頁右下欄第4行)

(イ)「第2図においては、動力歯車(2),駆動歯車(4)を平歯車、歯車(3)を内歯歯車とし、動力歯車(2)と両駆動歯車(4),(4)とを、また、両駆動歯車(4),(4)は内歯歯車である歯車(3)に噛合せしめてあり、駆動歯車(4)はいわゆる遊星歯車となる。
動力歯車(2)の原動軸(1)は歯車(3)の外側(第2図の左側)に設けたウオームホイール(5)を遊嵌してその外側に突出せしめてある。」(第2頁左上欄第5行〜同欄第12行)

(ウ)「なお、歯車(3)を回転させるにあたり、ウオーム機構を利用するのは以下の理由による。
すなわち、平歯車を使用した場合において、歯車(3)を回転させるにはモータ(6)に大きなトルクがかかるからトルクが大であるモータを必要とするが、ウオーム機構を利用した場合には、ウオームとウオームホイールとが互いに直角に噛み合っているから低いトルクのモータで十分であるからである。」(第2頁左上欄第13行〜同頁右上欄第2行)

(エ)「B 第2図,第3図の場合について説明する。
この場合において、動力歯車(2)と歯車(3)の歯数比を1:10と仮定する。
(1)[1](原文は○の中に1;以下同様) このとき、歯車(3)の回転が動力歯車(2)1回転に対して1/10(原文は分数表記;以下同様)となるようにモータ(6)を設定すると、両駆動歯車(4),(4)は第3図矢印方向に自転するが、公転はしないから、駆動軸(10)は回動しない。
[2] 歯車(3)の回転が動力歯車(2)1回転に対して1/10以下となるようにモータ(6)を設定すると、両駆動歯車(4),(4)は第3図矢印方向に自転しながら同図反時計方向に公転するから、駆動軸(10)は第2図矢印方向に回動する。
歯車(3)の回転を動力歯車(2)1回転に対して1/10から順次それ以下にすると、駆動軸(10)はそれに従って速く回動し、歯車(3)の回転数が零に近づけば近づくほど駆動軸(10)の回動速度は最大に近づく。
[3] 逆に、歯車(3)の回転が動力歯車(2)1回転に対して1/10以上となるようにモータ(6)を設定すると、両駆動歯車(4),(4)は第3図矢印方向に自転しながら同図時計方向に公転するので、駆動軸(10)は第2図矢印方向と逆方向に回動し、しかも歯車(3)の回転を動力歯車(2)の1回転に対して1/10から順次増大させると、駆動軸(10)はそれに従って速く回動する。
(2)[1] 動力歯車(2)の回転を歯車(3)1/10回転に対して1となるようにすれば、前記B(1)[1]と同じく駆動軸(10)は回動しない。
[2] 動力歯車(2)の回転を歯車(3)1/10回転に対して1以上とすると駆動軸(10)は、B(1)[2]と同様に駆動する。
すなわち、駆動軸(10)は第2図矢印方向に回動し、動力歯車(2)の回転を順次大きくしていくと、それに従って速く回動する。
[3] 動力歯車(2)の回転を歯車(3)1/10回転に対して1以下とすると駆動軸(10)は前記、B(1)[3]と同様に駆動する。
すなわち、駆動軸(10)は前記、B(2)[3]の場合とは逆方向(第2図矢印方向と逆方向)に回動する。
以上のように、本発明においては原動側の動力歯車(2)と駆動側の歯車(3)との回転差により駆動歯車(4)の回転数を自由に変化させることができるので、無段変速を容易に行なうことができる効果がある。」(第2頁右下欄第12行〜第3頁左下欄第2行)

3.対比・判断
【本願発明1について】
刊行物1に記載された上記記載事項(ア)〜(エ)からみて、刊行物1に記載された発明(第2図、第3図の無段変速装置)の無段変速装置は、本願発明1に歯車式変速機構の構成に倣って記載すると、以下の通りの構成を有するものと認める。
「太陽歯車系運動体である公転運動体を動力歯車2とこの動力歯車2に噛合う両駆動歯車4,4とにより構成し、この公転運動体に回転自在に噛合う内歯歯車系運動体である自転運動体をその内周に両駆動歯車4,4と噛合う内歯を有すると共に、その外周にウオームホイール5の噛合部を設けたウオームホイール5と一体の内歯歯車3により構成し、且つ、動力歯車2と内歯歯車3とに回転運動及びトルクを与える原動(動力源)とモータ6をそれぞれ付設した無段変速装置。」
ここで、刊行物1に記載された発明の「動力歯車2」は、本願発明1の「太陽歯車」に相当し、以下同様に、「両駆動歯車4,4」は「遊星歯車」に、「内歯」は「内側ギヤー」に、「外周にウオームホイール5の噛合部を設けたウオームホイール5と一体の内歯歯車3」は「外周に外側ギヤーを有する内歯歯車」に、「原動(動力源)とモータ6」は「可変駆動手段」に、「無段変速装置」は「歯車式無段変速機構」に、それぞれ相当する。
そして、刊行物1に記載された上記記載事項(エ)からも理解できるように、原動(動力源)とモータ6(それぞれの可変駆動手段)により、動力歯車2及び両駆動歯車4(公転運動体)と内歯歯車3(自転運動体)とを各別に回転させて行なわれる相対回転運動により、入力側の公転運動体の動力歯車2と自転運動体の内歯歯車3との回転差(註:原動側の動力歯車2の回転方向は反時計回りを基準に、駆動側の内歯歯車3の回転方向は時計回りを基準に考えられており、これらの回転は互いに反対方向になっている。この場合の回転差は絶対値としての回転(原動側の動力歯車2の回転と、駆動側の内歯歯車3の回転は、ともに正の値)同士の差となり、各回転に方向を加味した回転(原動側の動力歯車2の回転を負の値とすると、駆動側の内歯歯車3の回転は正の値)同士の和に等しい。)から、両駆動歯車(遊星歯車)4,4を自転はするが公転しない状態(出力トルク値が±0値)を基準値とし、出力側の両駆動歯車4,4の公転、すなわち駆動軸10の回転数を正逆自由に変化させることができるものであって、本願発明1でいうところの「それぞれの可変駆動手段により公転運動体と自転運動体とを各別に回転させて行なわれる相対回転運動が、(太陽歯車系運動体である公転運動体の公転方向及び公転運動量)+(内歯歯車系運動体である自転運動体の自転方向及び自転運動量)=(出力側に取り出される太陽歯車系運動体である公転運動体の公転方向及び公転運動量)を運動原理とし、公転運動体と自転運動体とは、(太陽歯車+内歯歯車/太陽歯車)より求められる公転運動体の速度比をi1=Xとし、(内歯歯車/太陽歯車)より求められる自転運動体の内歯歯車の速度比をi2=X2としたときに、公転運動体より取り出される出力トルクがi1(+X1)+i2(-X2)=0またはi1(-X1)+i2(+X2)=0とされて±0値とされ、この±0値を基準値としつつ公転運動体と自転運動体のそれぞれの回転運動速度を互いに可変的に調整し、公転運動体の前進運動に自転運動体がその前進を阻止する関係を保持しつつ相対回転運動の和として出力側に増減する正転値、増減する逆転値を連続的に取り出すように設定すること」と同様の機能を有する無段変速歯車機構として構成されているものである。なお、「i1=X」は「i1=X1」の誤記と解される。
そうすると、本願発明1と刊行物1に記載された発明とを対比しても実質的な構成上の相違点を認めることができないものである。
したがって、本願発明1は、刊行物1に記載された発明である。

ところで、本願発明1では、自転運動体としての内歯歯車の外周に外側ギヤーを設けているのに対して、刊行物1に記載された発明では、内歯歯車3と一体のウオームホイール5(ウオーム機構)外周にウオームホイール5(ウオーム機構)の噛合部を設けている点で、外側ギヤーはウオームホイール(ウオーム機構)の噛合部を含むものではあるが、本願発明1の発明の詳細な説明及び図面の記載から外側ギヤーが平歯車を意味するものと解釈すると、厳密には相違していることになる。
しかしながら、刊行物1に記載された上記記載事項(イ)からも理解できるように、刊行物1に記載された発明では、本願発明1のように内歯歯車を回転させるにあたり平歯車(外側ギヤー)を使用した場合には、トルクの大きなモータが必要となるために、ウオームとウオームホイールとよりなるウオーム機構を採用したにすぎないものである。
してみると、本願発明1のように内歯歯車3の外周に外側ギヤーを設けて平歯車とすることは、当業者であれば適宜採用することができる程度の設計的事項にすぎないものである。
また、本願発明1の効果について検討しても、刊行物1に記載された事項から当業者であれば予測することができる程度のものであって、格別のものとはいえない。
したがって、上記解釈によっても、本願発明1は、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、平成17年7月27日付けの意見書にて審判請求人が主張している「引用刊行物1の差」と、「本願発明の和」については、上記に述べたとおり「引用刊行物1の差」が原動側の動力歯車2の回転方向と駆動側の内歯歯車3の回転方向は互いに反対方向になっており、この場合の回転差は絶対値としての回転(原動側の動力歯車2の回転と、駆動側の内歯歯車3の回転は、ともに正の値)同士の差を表しているので、「本願発明の和」である回転方向を加味した回転(原動側の動力歯車2の回転を負の値とすると、駆動側の内歯歯車3の回転は正の値)同士の和に等しい。また、刊行物1に記載された発明は、駆動軸10を可変速とし(特許請求の範囲参照)、本願発明1の公転運動量を取り出すものである。さらに、刊行物1に記載された発明は与えられる2つの動力の差により駆動力を得るものではなく、2つの動力が生じる回転同士の差により回転させられる駆動軸10から駆動力を得るものである。
ゆえに、刊行物1に記載された発明の内歯歯車3の回転はモータ6により与えられ、動力歯車2と内歯歯車3の歯数比を1:10とすると、動力歯車2を反時計方向に1回転したときに、駆動軸10は、内歯歯車3を固定した場合の反時計方向への最大値1/10回転から(数式では、0-1/10=-1/10)、内歯歯車3を時計方向に1/10回転させた場合の回動しない状態を経由し(数式では、1/10-1/10=0)、内歯歯車3を時計方向に回転させればさせるほど時計方向に大きくなる回転(数式では、∞-1/10=∞)を行うものである。なお、この動きを差の数式に当てはめるときは、動力歯車2と同方向に回転する駆動軸10と内歯歯車3との回転を比較し、各回転は絶対値としての回転(正の値)を代入すべきであり、回転方向は被減数としての一方の回転を基準として求めた差の符号からその相対回転として把握すべきである。
これらにより、審判請求人の意見は失当であり、採用できない。

4.むすび
本願発明1は、上記のとおり原審において引用された刊行物1に記載された発明であるか又は、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。
したがって、本件出願の請求項1に係る発明(本願発明1)は、その出願前日本国内または外国において頒布された刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
あるいは、本件出願の請求項1に係る発明(本願発明1)は、その出願前日本国内または外国において頒布された刊行物1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本件出願の請求項1に係る発明が特許を受けることができないものである以上、本件出願の請求項2及び3に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-12-05 
結審通知日 2005-12-13 
審決日 2005-12-27 
出願番号 特願平5-139601
審決分類 P 1 8・ 113- WZ (F16H)
P 1 8・ 121- WZ (F16H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 栗林 敏彦  
特許庁審判長 村本 佳史
特許庁審判官 藤村 泰智
亀丸 広司
発明の名称 歯車式無段変速機構  

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