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審決分類 審判 全部申し立て 発明同一  C08G
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08G
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08G
審判 全部申し立て 4項(5項) 請求の範囲の記載不備  C08G
管理番号 1144799
異議申立番号 異議2002-71913  
総通号数 83 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2001-07-17 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-08-01 
確定日 2006-09-27 
異議申立件数
事件の表示 特許第3254449号「生体内分解型高分子重合物」の請求項1ないし6に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3254449号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第3254449号の請求項1〜6に係る発明は、平成3年4月11日に出願した特願平3-79328号の一部を平成12年11月24日に新たな特許出願としたものであって、平成13年11月22日にその発明について特許権の設定登録がなされ、その後、その請求項1〜6に係る特許について、特許異議申立人梅田敏之及び岡幹男より特許異議の申立がなされ、平成14年10月22日付けの取消理由が通知され、その指定期間内である平成14年12月27日に特許異議意見書と共に訂正請求書が提出され、平成17年2月16日付けで訂正拒絶理由が通知され、その指定期間内である平成17年4月25日に特許異議意見書が提出され、平成17年7月20日付けで、「特許第3254449号の請求項1ないし6に係る特許を取り消す。」との特許異議決定がなされた。
この特許異議の決定に対して特許権者は、平成17年9月2日にこの決定の取消しを求める訴え(平成17年(行ケ)第10670号 特許取消決定取消請求事件)を知的財産高等裁判所へ提起し、その後、平成17年10月14日付けで訂正審判(訂正2005-39186号)が請求され、訂正審判について、平成18年6月6日に「特許第3254449号に係る明細書を本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおり訂正することを認める。」との審決がなされ、その後、知的財産高等裁判所から平成18年7月18日付けで、「特許庁が異議2002-71913号事件について平成17年7月20日にした決定を取り消す。」との判決が言い渡されたものである。
II.本件発明
本件特許第3254449号の請求項1〜6に係る発明は、平成17年10月14日付けで提出された、訂正2005-39186号審判事件の訂正審判請求書に添付された訂正明細書の特許請求の範囲に記載された請求項1〜6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】分子量1,000以下の低分子重合物の含有量が3.0(%)未満である生体内分解型脂肪族ポリエステルであって、当該生体内分解型脂肪族ポリエステルは、ポリ乳酸または乳酸とグリコール酸との共重合体であり、その組成比が、乳酸100〜50モル%、残りがグリコール酸である、生体内分解型脂肪族ポリエステル。
【請求項2】分子量1,000以下の低分子重合物を含有する生体内分解性脂肪族ポリエステルを水易溶性有機溶媒に溶解し、これに水を加え高分子物質を析出させて、分子量1,000以下の低分子重合物を除去することにより得られる請求項1記載の生体内分解型脂肪族ポリエステル。
【請求項3】水易溶性有機溶媒100に対して水を50〜150(容量比)加える請求項2記載の生体内分解型脂肪族ポリエステル。
【請求項4】請求項1記載の生体内分解型ポリエステルを放出制御物質とする薬物含有製剤。
【請求項5】薬物が黄体形成ホルモン放出ホルモン、甲状腺ホルモン放出ホルモンもしくはその塩またはその誘導体である請求項4記載の製剤。
【請求項6】薬物が酢酸リュープロレリンである請求項4記載の製剤。」
III.特許異議申立てについて
1.特許異議申立の概要
特許異議申立人 梅田敏之は、甲第1〜3号証を提出して、訂正前の請求項1に係る発明は、甲第1、2号証に記載された発明であるから、訂正前の請求項1に係る発明の特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであるから、また、訂正前の請求項1に係る発明は、甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、訂正前の請求項1に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから取り消されるべき旨、
特許異議申立人 岡幹男は、甲第1〜3号証及び参考資料1、2を提出して、訂正前の請求項1〜6に係る発明は、甲第1、2号証に記載された発明であるから、訂正前の請求項1〜6に係る発明の特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであるから、また、訂正前の請求項1、3に係る発明は、甲第1、2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、訂正前の請求項1、3に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、訂正前の請求項1に係る発明は、甲第3号証(先願明細書)に記載された発明と同一であるから、訂正前の請求項1に係る発明の特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであるから、さらに、請求項1に係る発明の特許は、その明細書の記載が不備であるから、特許法第36条第5項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから取り消されるべき旨、それぞれ主張している。
2.取消理由通知の概要
訂正前の請求項1〜3に係る発明は、刊行物1(「POLYMER、1979、Vol 20、December、p1459-1464、『Biodegradable polymers for use in surgery-polyglycolic/poly(actic acid) homo-and copolymers:1』」:特許異議申立人 梅田敏之の提出した甲第1号証)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、また、訂正前の請求項1〜6に係る発明は、刊行物1、刊行物2(特開昭62-54760号公報:特許異議申立人 岡幹男の提出した甲第1号証)、刊行物3(特開昭63-254128号公報:特許異議申立人 岡幹男の提出した甲第2号証)に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
また、該取消理由通知では、本件出願時の技術常識を示す資料として、特許異議申立人 岡幹男の提出した参考資料1(Susan Budavari他編「THE MERCK INDEX ELEVENTH EDITION」 1989年 Merck & Co.,Inc.発行 p860)及び同参考資料2(「南山堂 医学大事典 18版」 株式会社南山堂 1998年1月16日18版1刷発行 218頁)を引用している。
IV.特許異議申立て及び取消理由についての判断
1.特許法第29条第1項第3号及び特許法第29条第2項について
(1)各特許異議申立人が提出した甲号証である刊行物、取消理由で引用した刊行物及びこれら刊行物に記載された事項
刊行物1(「POLYMER、1979、Vol 20、December、p1459-1464、『Biodegradable polymers for use in surgery-polyglycolic/poly(actic acid) homo-and copolymers:1』」:特許異議申立人 梅田敏之の提出した甲第1号証、取消理由で引用した刊行物1)には、以下の事項が記載されている。
「Biodegradable polymers for use in surgery-polyglycolic/poly(actic acid) homo-and copolymers:1」(表題)
「過去8年来、PGA(注:ポリグリコール酸)、PLA(注:ポリ乳酸)及びGA/LA(注:グリコール酸/乳酸)共重合体は、…歯科、整形外科及びドラッグデリバリーへの応用における生分解性材料として、多くの関心を持たれている。」(1459頁左下欄20〜24行)
「一群のグリコリドの単独重合は転化率、及び分子量(MW)と分子量分布(MWD)の経時変化を観察することで行われた。グリコリドを、0.03%のオクタン酸スズ及び0.01%のラウリルアルコールを触媒活性化剤及び鎖調整剤として含む、脱気し密栓した管に投入した。重合は、シリコンオイル浴220℃にて5分から4時間の時間幅で行われた。冷蔵庫中のアルミ箔シート上に管を素早く載置して反応を停止した。
残留モノマーは粉砕した重合体混合物を酢酸エチルで還流して除去し、…。
重合体画分はヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)中、ゲル浸透クロマトグラフィー(g.p.c.)にて分子的に同定された。結果を…図2aに示す。」(1460頁左欄下から18行〜右欄4行)
1461頁左欄の図2aには、グリコリドの重合により得られたポリグリコール酸の各種分子量の経時変化が示されており、その中で、少なくとも反応時間3時間以下では、ポリグリコール酸の下限分子量(MWD lower limit)は103、すなわち1,000以上であることが示されている。
刊行物2(特開昭61-111326号公報:特許異議申立人 梅田敏之の提出した甲第2号証)には、以下の記載がされている。
「(1)乳酸及び/又はグリコール酸から成り、重量平均分子量約5,000以上、分散度約1.5〜2である、乳酸若しくはグリコール酸の重合体又はそれらの共重合体。」(特許請求の範囲)
「乳酸及び/又はグリコール酸を無機固体酸触媒の存在下に重縮合反応させることにより、重量平均分子量が約5,000以上と大きく、分散度が約1.5〜2と小さい、且つ重合触媒を全く含有していない、若しくは実質的に含有していない、無色乃至殆ど白色のポリ乳酸類が得られることを見出し、」(2頁左上欄6行〜12行)
「本発明のポリ乳酸類の製造法において、原料として用いられる乳酸及び/又はグリコール酸としては、それらの低分子重合物を用いてもよいし、また、共重合体を得る場合にはそれらの低分子共重合物を用いてもよい。
該低分子重合物としては、例えば乳酸のオリゴマー(例、ダイマー、トリマーなど)、グリコール酸のオリゴマー(例、ダイマー、トリマーなど)などが挙げられる。
また、該低分子重合物或は低分子共重合物としては、乳酸及び/又はグリコール酸を触媒の非存在下に重縮合させて得られたものが挙げられる。・・・
このようにして、分子量約2000〜4000の低分子重合物或は低分子共重合物が容易に得られる。」(2頁右上欄16行〜左下欄16行)
「本発明に係るポリ乳酸類は、乳酸単独の乳酸の重合体若しくは・・・又は乳酸とグリコール酸との任意の割合、好ましくは乳酸約50〜95重量%及びグリコール酸50〜5重量%・・・との共重合体から成る。」(2頁右下欄8行〜16行)
「本発明の重合体或いは共重合体は主に医薬品の製剤基剤として利用できる。例えばステロイドホルモン類、ペプチドホルモン類、・・・を含有させ、埋込み型若しくはマイクロカプセル型徐放性製剤として・・・有利に利用できる。」(3頁右下欄14〜19行)
「実施例 6.
93%乳酸水溶液148g及びグリコール酸38gを用い、202℃で6時間の加熱反応を行ない、重量平均分子量2,700、共重合組成 乳酸:グリコール酸=75mol%:25mol%の共重合物を得た。
実施例1.と同じ重合装置に、得られた共重合物100gと酸性白土10gをとり、内圧を5mmHgとし、内温 180℃で50時間加熱を行なった。反応液を室温まで冷却し、塩化メチレン500mlを加えて、撹拌溶解後、酸性白土を濾過(東洋濾紙No.131を使用)して除き、濾液を濃縮乾固して、殆ど白色の重合体 82gを得た。この重合体の重量平均分子量及び分散度は、それぞれ23,700及び1.73であり、更に、乳酸とグリコール酸との共重合組成は75mol%:25mol%(78.8重量%:21.2重量%)であった。
尚、得られた共重合体中への残存触媒については、実施例1.と同様に残存触媒の検出を行なった結果、触媒の混入は認められなかった。」(7頁右上欄1〜19行)
刊行物3(Fred W.ビルマイヤー著 田島守隆訳「高分子科学教科書」 東京電機大学出版局 昭和53年4月25日 p266〜269:特許異議申立人 梅田敏之の提出した甲第3号証)には、「線状逐次反応重合の統計論」として、反応度pと重合度xの分子の重量分布Wx及び重量平均重合度Xwの関係式が記載され、種々の反応度pにおける線状逐次反応重合体の鎖状分子の重量分率分布について図8-5が記載されており、x量体(x個の反復単位を含む)とその重量分率Wxの関係がグラフで示されている。
刊行物4(特開昭62-54760号公報:特許異議申立人 岡幹男の提出した甲第1号証、取消理由で引用した刊行物2)には、以下の記載がされている。
「(1)水可溶の低分子化合物の含有量が1塩基酸として高分子重合物100gに対し0.01モル未満である生体内分解型高分子重合物。
(5)水可溶の低分子化合物の含有量が高分子重合物100gに対して1塩基酸として0.01モル以上の生体内分解型高分子重合反応物から、該低分子化合物を水又は水と水易溶性有機溶媒との混液で除去することを特徴とする水可溶の低分子化合物の含有量が1塩基酸として該高分子重合物100gに対して0.01モル未満の生体内分解型高分子重合物の製造法。
(6)水易溶性有機溶媒が、アセトン、メタノール、エタノール、テトラヒドロフラン、アセトニトリルおよび酢酸エチルからなる群の1つである特許請求の範囲第5項記載の製造法。
(7)水易溶性有機溶媒が、エタノールである特許請求の範囲第6項記載の製造法。
(8)水と水易溶性有機溶媒との混液の比率(V/V)が、約100/0〜100/100である特許請求の範囲第5項記載の製造法。
(9)水易溶性低分子化合物含有生体内分解型高分子重合反応物をあらかじめ有機溶媒に溶解させる特許請求の範囲第5項記載の製造法。
(10)水易溶性低分子化合物の除去を攪拌下行う特許請求の範囲第5項記載の製造法。
(11)水易溶性低分子化合物の除去を約0°〜90℃で行う特許請求の範囲第5項記載の製造法。
(12)水易溶性低分子化合物含有生体内分解型高分子重合反応物を3〜20倍型(W/V)の有機溶媒に溶解し、その後該溶液を約20°〜70℃で攪拌下水に注入して生体内分解型高分子重合反応物から水易溶性低分子化合物を除去する特許請求の範囲第9項記載の製造法。
(13)有効量の薬物と基剤としての水可溶の低分子化合物の含有量が1塩基酸として高分子重合物100gに対し0.01モル未満である生体内分解型高分子重合物を含有する注射用徐放性マイクロカプセル。」(特許請求の範囲第1項、第5項〜13項)
「今まで行なわれていた方法によると、得られた生体内分解型高分子重合物中には、未反応の単量体、重合度の低い重合体等の低分子化合物が含まれているため、マイクロカプセルなどを製造する時、含有する薬物のマイクロカプセル中への取込み率が低下したり、投与後の初期バーストといわれる薬物のマイクロカプセルからの初期放出が異常に増大する傾向にある。」(2頁右上欄17行〜左下欄4行)
「本発明の高分子重合物の好ましい例としては、ポリ乳酸、乳酸とグリコール酸との共重合物が挙げられる。乳酸とグリコール酸との共重合物としては、その組成比が乳酸約100〜50モル%、残りがグリコール酸であるものが挙げられる。
さらに、乳酸とグリコール酸との共重合物であって、重量平均分子量が約2000〜50000であるものが好ましい。」(3頁左上欄19行〜右上欄6行)
「本発明方法は、原料物質である生体内分解型高分子重合反応物を、水または水と水易溶性有機溶媒との混液中に攪拌しながら注入することにより、水可溶の低分子化合物が水または該混液中に溶解する。この時、目的とする生体内分解型高分子重合物は水または該混液には溶解しないので、該低分子化合物を、目的とする高分子重合物から分離することができる。
本発明方法で用いられる水または水と水易溶性有機溶媒との混液と、高分子重合反応物との量比は、特に制限はないが、水又は混液の量は、大過剰である方が望ましい。又、適当な捕集装置を備えた、連続通水洗浄式でも良い。
上記水または混液の攪拌は、通常の攪拌機や振盪機、ブレンダーの類のいずれでも良いが、該高分子重合物中の未反応物や水に可溶の低分子化合物を充分除去できる協力な混合性能を備えたものが望ましい。
目的とする高分子重合物は、水または該混液には溶解せずに、析出又は、分離するので、析出物又は液滴、固型分を、たとえばろ別、分取などを行なうことにより分離し、次いで乾燥することにより、得ることができる。
本発明方法を行なうことにより、原料物質である高分子重合反応物中の水可溶の低分子化合物が効率良く除去される。」(3頁左下欄20行〜4頁左上欄5行)
「本発明方法で得られた生体内分解型高分子重合物は、たとえば、マイクロカプセルの基剤として用いることができる。たとえば、水溶性薬物(黄体形成ホルモン放出ホルモン,甲状腺ホルモン等のペプチドなど)を含む溶液を内水層とし、・・・水溶性薬物の徐放性マイクロカプセルを製造することができる。」(4頁右上欄10行〜左下欄5行)
「実施例4
実施例1で用いたのと同一の高分子重合物を、50℃の水:エタノール=1:1の混液中で洗浄し、実施例1と同様に処理した。得られた高分子重合物の遊離酸含有量は高分子重合物100g中に0.0028モルであった。」(6頁右下欄末行〜7頁左上欄5行)
刊行物5(特開昭63-254128号公報:特許異議申立人 岡幹男の提出した甲第2号証、取消理由で引用した刊行物3)には、以下の記載がされている。
「(1)ポリマー、特に吸収し得るポリエステルを溶媒に溶かし、該ポリマー溶液をその後沈澱したポリマーが微粒子に分割されるように乱流せん断場内において高せん断力の影響下に沈澱剤とよく接触にもたらすことを特徴とするポリマーの精製方法。
(2)吸収し得るポリマーはL-ラクタイド、D-ラクタイド、DL-ラクタイド、メソ-ラクタイド、グリコライドおよび/またはカプロラクトン系のポリマーまたはコポリマーである第1項の方法。
(5)沈澱剤が有機溶媒か、水か、有機溶媒の混合物か、または水と有機溶媒の混合物である第1項ないし第4項のいずれかの方法。」(特許請求の範囲第1項、第2項、第5項)
「これらの吸収し得るポリエステルは特にヒトまたは動物の体内で使用される事実のため、刺激をおこす可能性のあるどんな不純物も含まないポリエステルだけを使用するこが必須または最低望ましい。そのような不純物は、例えば残存未反応モノマー、分子量調節剤および重合触媒を含む。」(3頁左上欄5行〜10行)
「このように得られるポリエステルは残存モノマー、オリゴマー、分子量を調節するために使用した添加剤、および重合反応から発生した他の不純物を除去するために精製しなければならない。」(3頁右上欄8〜12行)
「今や驚くべきことに、これらの方法によってその溶液からつくった結晶性の、部分的に結晶性または非晶質のポリエステル、特に吸収し得るポリエステルは、触媒、残留モノマー等の不純物を実質的に含まないことが発見された。」(3頁右下欄9〜13行)
「本発明に従って精製したポリエステルは、ヒトまたは動物の体内で吸収されることができる物体の製造に特に適している。
これらは特に、骨合成および薬剤活性物質の担体に使用するための物品を含む。後者は、例えば錠剤またはカプセルの形でよいが、内植し得るまたは注射し得る徐放形の形を取ることができる。」(6頁右上欄10行〜16行)
そして、実施例3においては、残留モノマーとしてDL-ラクタイド0.1重量、グリコライド0.03重量%以下であることが記載され、実施例4においては、DL-ラクタイド0.15%、グリコライド0.15%、実施例5においては、残留モノマー0.5重量%であること、実施例8、9においては残留モノマーは検出できなかったことが記載されている。
刊行物6(Susan Budavari他編「THE MERCK INDEX ELEVENTH EDITION」 1989年 Merck & Co.,Inc.発行 p860:特許異議申立人 梅田敏之の提出した参考資料1)には、リュープロライドについて記載されている。
刊行物7(「南山堂 医学大事典 18版」 株式会社南山堂 1998年1月16日18版1刷発行 218頁:特許異議申立人 梅田敏之の提出した参考資料2)には、LH RH《黄体形成(化)ホルモン放出ホルモン》について記載されている。
(2)対比・判断
【1】訂正された請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)について
本件発明は、「分子量1,000以下の低分子重合物の含有量が3.0(%)未満である生体内分解型脂肪族ポリエステル」を発明の構成(以下、「構成要件1」という。)とするとともに、「当該生体内分解型脂肪族ポリエステルは、ポリ乳酸または乳酸とグリコール酸との共重合体であり、その組成比が、乳酸100〜50モル%、残りがグリコール酸である、生体内分解型脂肪族ポリエステル」を構成(以下、「構成要件2」という。)とするものである。
刊行物1には、乳酸又はグリコリドから成る単独重合体及び共重合体について記載されている。そして、グリコリドの単独重合体について、分子量と分子量分布の経時変化を観察したことが記載され、ポリグリコール酸の各種分子量の経時変化が示されており、その中で、少なくとも反応時間が3時間以下では、ポリグリコール酸の下限分子量(MWD lower limit)は103、すなわち1000以上であることが示されている。
しかしながら、刊行物1には、ポリグリコール酸についての下限分子量は記載がされているものの、乳酸からなる単独重合体、グリコールと乳酸とを共重合した場合の共重合体については、得られた単独重合体及び共重合体の下限分子量については何ら記載がされていないし、得られた単独重合体及び共重合体が1,000以下の低分子重合物を含有しないものであることまでは記載がされていない。そして、ポリグリコール酸についての下限分子量の記載から、乳酸からなる単独重合体、グリコールと乳酸とを共重合した場合の共重合体がポリグリコール酸と同様の下限分子量を有するものであるとする記載も見いだせない。さらに、乳酸からなる単独重合体、グリコールと乳酸との共重合体が1,000以下の低分子重合物の含有量が3%未満であるような単独重合体及び共重合体が得られることを示唆する記載はされていない。
したがって、本件発明は、刊行物1に記載された発明であるということはできないし、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということもできない。
刊行物2には、乳酸約50〜95重量%及びグリコール酸50〜5重量%からなる共重合体が記載されている。そして、重合体或いは共重合体は主に医薬品の製剤基剤として利用できること、ステロイドホルモン類、ペプチドホルモン類を含有させ、埋込み型若しくはマイクロカプセル型徐放性製剤として有利に利用できることが記載され、分散度が約1.5〜2と小さい、且つ重合触媒を全く含有していない、若しくは実質的に含有していない、無色乃至殆ど白色のポリ乳酸類が得られることが記載されている。
そして、刊行物2に記載されたポリ乳酸の単独重合体又はグリコール酸との共重合体の製造について、ポリ乳酸類の製造法において、原料として用いられる乳酸及び/又はグリコール酸としては、それらの低分子重合物を用いてもよいし、また、共重合体を得る場合にはそれらの低分子共重合物を用いてもよいことが記載され、分子量約2000〜4000の低分子重合物或は低分子共重合物を原料として採用すればよいことが記載されている。
しかしながら、刊行物2には、得られた重合体(共重合体)については、残渣触媒の検討のみがされているだけであり、低分子重合物の残存については何ら記載がされていないのであるから、刊行物2で得られた重合体(共重合体)が、本件発明の「分子量1,000以下の低分子重合物の含有量が3.0(%)未満である生体内分解型脂肪族ポリエステル」と同等の性状を有するものであるとすることはできない。
したがって、本件発明は、刊行物2に記載された発明であるということはできないし、刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということもできない。
刊行物3には、縮合系樹脂において、反応度pと重合度xの分子の重量分率Wx及び重量平均重合度Xwの関係式、種々の反応度pにおける線状逐次反応重合体の鎖状分子の重量分率分布のグラフが、一般的な重合反応論として記載されているだけであって、「分子量1,000以下の低分子重合物の含有量が3.0(%)未満である生体内分解型脂肪族ポリエステル」、「当該生体内分解型脂肪族ポリエステルは、ポリ乳酸または乳酸とグリコール酸との共重合体であり、その組成比が、乳酸100〜50モル%、残りがグリコール酸である、生体内分解型脂肪族ポリエステル。」という本件発明の構成要件1、2については何ら記載されていない。
したがって、本件発明は、刊行物3に記載された発明であるということはできないし、刊行物3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということもできない。
刊行物4には、「生体内分解型脂肪族ポリエステルであって、当該生体内分解型脂肪族ポリエステルは、ポリ乳酸または乳酸とグリコール酸との共重合体であり、その組成比が、乳酸100〜50モル%、残りがグリコール酸である、生体内分解型脂肪族ポリエステル」について記載され、生体内分解型高分子重合物をマイクロカプセルの基剤として用い、徐放性マイクロカプセルを製造することが記載され、リュープロライドを含むマイクロカプセルの製造について記載され、また、有効量の薬物と基剤としての水可溶の低分子化合物の含有量が1塩基酸として高分子重合物100gに対し0.01モル未満である生体内分解型高分子重合物を含有する注射用徐放性マイクロカプセルについても記載がされている。
さらに、刊行物4には、得られた生体内分解型高分子重合物中には、未反応の単量体、重合度の低い重合体等の低分子化合物が含まれているため、マイクロカプセルなどを製造する時、含有する薬物のマイクロカプセル中への取込み率が低下したり、投与後の初期バーストといわれる薬物のマイクロカプセルからの初期放出が異常に増大する傾向にあることや、原料物質である生体内分解型高分子重合反応物を、水または水と水易溶性有機溶媒との混液中に攪拌しながら注入することにより、水可溶の低分子化合物が水または該混液中に溶解し、この時、目的とする生体内分解型高分子重合物は水または該混液には溶解しないので、該低分子化合物を、目的とする高分子重合物から分離することができること、さらに、水または混液の攪拌は、通常の攪拌機や振盪機、ブレンダーの類のいずれでも良いが、該高分子重合物中の未反応物や水に可溶の低分子化合物を充分除去できる協力な混合性能を備えたものが望ましいこと、目的とする高分子重合物は、水または該混液には溶解せずに、析出又は、分離するので、析出物又は液滴、固型分を、たとえばろ別、分取などを行なうことにより分離し、次いで乾燥することにより得ることができることが記載され、原料物質である高分子重合反応物中の水可溶の低分子化合物が効率良く除去されることも記載されている。
そうすると、刊行物4には、乳酸とグリコール酸との生体内分解型高分子重合物に薬物を含有する徐放性マイクロカプセルについて、生体内分解型脂肪族ポリエステルについては、高分子重合物中の未反応物や水に可溶の低分子化合物を充分除去された生体内分解型脂肪族ポリエステルが記載されているといえる。
しかしながら、刊行物4には、生体内分解型脂肪族ポリエステルについて未反応物や水に可溶の低分子化合物が充分に除去されたものが記載さているとしても、水に可溶の低分子化合物がどの程度の分子量であるのか明確に記載がなく分子量が定かではない。
また、刊行物4に記載の実施例4において示されている「遊離酸含量は高分子重合物100g中に0.0028モルであった」との記載が、「分子量1,000以下の低分子重合物の含有量が3.0(%)未満である」ことを直ちに示すものともいえない(この遊離酸が、乳酸または乳酸とグリコール酸とのオリゴマーであるとまではいえない。)。
そして、訂正2005-39186号審判事件の審理段階において、特許権者が平成18年4月28日付け及び平成18年5月9日付け上申書とともに提出した実験成績証明書によれば、水可溶の低分子化合物が除去された後の生体内分解型脂肪族ポリエステルであっても、水可溶の低分子化合物以外の分子量1,000以下の低分子重合物が含有されていると、これを薬剤含有製剤として用いた際の薬剤の徐放性に悪影響を及ぼすことから、水可溶の低分子化合物が除去された後の生体内分解型脂肪族ポリエステルからさらに水可溶の低分子化合物以外の分子量1,000以下の低分子重合物を除去した(含有量が3.0(%)未満の)生体内分解型脂肪族ポリエステルを用いて、薬剤の放出性の実験を行い、その結果、水可溶の低分子化合物以外の分子量1,000以下の低分子重合物を除去した(含有量が3.0(%)未満の)生体内分解型脂肪族ポリエステルを薬剤含有製剤として用いれば、薬剤徐放性の効果が顕著に奏されることが確認されている。
そうであれば、刊行物4には、本件発明の構成要件1である「分子量1,000以下の低分子重合物の含有量が3.0(%)未満である生体内分解型脂肪族ポリエステル」については記載がされているとはいえないし、刊行物4に記載の「水に可溶の低分子化合物を充分除去できる」との技術から「分子量1,000以下の低分子重合物の含有量が3.0(%)未満である生体内分解型脂肪族ポリエステル」を得ることが容易に想到し得たものということもできない。
したがって、本件発明は、刊行物4に記載された発明であるということはできないし、刊行物4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということもできない。
刊行物5には、ポリ乳酸または乳酸とグリコール酸との共重合体からなる、吸収し得るポリエステルについて記載され、ポリエステルは残存モノマー、オリゴマー、分子量を調節するために使用した添加剤、および重合反応から発生した他の不純物を除去するために精製しなければならないこと、該ポリエステルは、触媒、残留モノマー等の不純物を実質的に含まないことが発見されたこと、該ポリエステルはカプセルの型で徐放形の形を取ることができることが記載されている。
しかしながら、刊行物5に記載の吸収し得るポリエステルについては、触媒、残留モノマー等の不純物を実質的に含まないことが記載されているとしても、本件発明の「分子量1,000以下の低分子重合物の含有量が3.0(%)未満である」生体内分解型脂肪族ポリエステルについては記載がされているということはできない。また、「このように得られるポリエステルは残存モノマー、オリゴマー、分子量を調節するために使用した添加剤、および重合反応から発生した他の不純物を除去するために精製しなければならない」との記載がされているとしても、実施例をみても、残留モノマーについて記載されているものであり、その他の不純物については記載がされていないから、分子量1,000以下の低分子重合物の含有量が3.0(%)未満であるものについて記載がされているとはいえないし、この実施例についての残留モノマーについての記載が分子量1,000以下の低分子重合物の含有量が皆無であること(残留モノマー以外の不純物が皆無であること)を意味しているともいえない。
したがって、本件発明は、刊行物5に記載された発明であるということはできないし、刊行物5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということもできない。
刊行物6には、リュープロライドについて記載されているものであって、本件発明の構成要件1、2に関しては何ら記載がされていない。
刊行物7には、LH RH《黄体形成(化)ホルモン放出ホルモン》について記載されているものの、本件発明の構成要件1、2に関しては一切記載がされていない。
次に、刊行物1〜7に記載された技術を組み合わせて、本件発明が容易に導き出せるか否かについて検討する。
前記記載のとおり、刊行物2には、触媒残渣を全く含まないか若しくは実質的に含有しない生体内分解型高分子重合物について記載されているもので、残存低分子重合物については記載されていないし、また、刊行物3には、一般的な重合反応論についての記載がされているだけで生体内分解型高分子重合物については一切記載されていないのであるから、これらの技術を組み合わせても本件発明の「分子量1,000以下の低分子重合物の含有量が3.0(%)未満である生体内分解型脂肪族ポリエステル」とすることまではできないというべきである。
そうであれば、刊行物2、3に記載された事項を組合せ検討しても、本件発明の「分子量1,000以下の低分子重合物の含有量が3.0(%)未満である」生体内分解型脂肪族ポリエステルとすることが容易に想到し得たものであるということはできない。
また、刊行物4には、乳酸とグリコール酸との生体内分解型高分子重合物に薬物を含有する徐放性マイクロカプセルについて、生体内分解型脂肪族ポリエステルについては、高分子重合物中の未反応物や水に可溶の低分子化合物を充分除去された生体内分解型脂肪族ポリエステルが記載され、生体内分解型脂肪族ポリエステルにおける未反応物や水に可溶の低分子化合物が充分に除去されたものが記載され、同様に刊行物5においても、吸収し得るポリエステルは残存モノマー、オリゴマー、分子量を調節するために使用した添加剤、および重合反応から発生した他の不純物を除去するために精製しなければならないことが記載され、両者は同様の技術について記載されてはいるものの、「分子量1,000以下の低分子重合物の含有量が3.0(%)未満である」点については記載も示唆もされていないから、これらの技術を組み合わせても、本件発明の「分子量1,000以下の低分子重合物の含有量が3.0(%)未満である生体内分解型脂肪族ポリエステル」とすることまではできないというべきである。
そうであれば、刊行物4、5に記載された事項を組合せ検討しても、本件発明の「分子量1,000以下の低分子重合物の含有量が3.0(%)未満である」生体内分解型脂肪族ポリエステルとすることが容易に想到し得たものであるということはできない。
さらに、刊行物1には、ポリグリコール酸の下限分子量については記載されているものの、乳酸100〜50モル%、残りがグリコール酸である生体内分解型脂肪族ポリエステルについての下限分子量は何ら記載されていないのであり、また、前記記載のとおり刊行物4、5には、生体内分解型脂肪族ポリエステルから水に可溶な低分子化合物やオリゴマー等を除去することについては記載されているが、「分子量1,000以下の低分子重合物の含有量が3.0(%)未満である」点については記載も示唆もされていないのであり、刊行物6〜7には、乳酸100〜50モル%、残りがグリコール酸である生体内分解型脂肪族ポリエステルについても、分子量1,000以下の低分子重合物の含有量が3.0(%)未満である生体内分解型脂肪族ポリエステルについても、一切記載されていないのであるから、これら技術を組み合わせても、本件発明の「分子量1,000以下の低分子重合物の含有量が3.0(%)未満である生体内分解型脂肪族ポリエステル」とすることはできないというべきである。
そうであれば、刊行物1、4〜5、6〜7に記載された事項を組合せ検討しても、本件発明の「分子量1,000以下の低分子重合物の含有量が3.0(%)未満である」生体内分解型脂肪族ポリエステルとすることが容易に想到し得たものであるということはできない。
そして、本件発明は、請求項1に記載の構成要件1、2を採用することにより、明細書記載の格別の効果を奏するものといえる。
したがって、刊行物1〜7に記載の技術を併せ検討しても、本件発明は、これらの技術から容易に想到し得たとすることはできないから、本件発明は、刊行物1〜7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということはできない。
【2】訂正された請求項2〜6に係る発明について
訂正された請求項2〜6に係る発明は、本件発明を引用するものであるか、本件発明を間接的に引用するものであるから、本件発明と同様、訂正された請求項2〜6に係る発明は、刊行物1〜7に記載された発明であるということはできないし、刊行物1〜7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということもできない。
(3)したがって、訂正された請求項1〜6に係る発明が、特許法第29条第1項第3号に該当し又は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとすることはできない。
2.特許第29条の2の規定について
本件発明が先願明細書に記載された発明と同一であるか否かについて検討する。
(1)特願平1-263092号に最初に添付した明細書(特開平3-14829号公報参照、以下、「先願明細書」という。)には、以下の事項が記載されている。
「1)グリコリドおよび/またはラクチドの反応により、一般式(I)
[化学構造式省略](I)
(式中、R1およびR2は、水素またはメチル基を示す)で表される繰り返し構造単位を有する生体吸収性ポリエステルを製造するに際して、重合反応後半ないし反応終了後において、該重合体を溶融状態に保ちながら反応系内の圧力を減圧して処理することを特徴とする生体吸収性ポリエステルの製造方法。
6)請求項1記載の方法において、生体吸収性ポリエステルが、一般式(I)で表される繰り返し構造単位において、R1およびR2が水素である比率が0〜80%、メチル基である比率が20〜100%である乳酸系重合体であることを特徴とする方法。」(特許請求の範囲1、6項)
「一般に、これらの方法で生体吸収性ポリエステルを製造した場合、原料として使用したラクチドおよび/またはグリコリドが未反応のモノマーとして、重合体中に2〜数%残存するのを避けることができない。また、重合中に副反応により生じた比較的低沸点の不純物、鎖状や環状のオリゴマー等の低分子量揮発物が重合体中に残存することも知られている。」(3頁左上欄10行〜18行)
「また、乳酸系重合体の場合、重合体中に残存する未反応グリコリドやラクチドおよび低分子量揮発物は、重合体の保存安定性や加工性劣化の原因となるばかりか、この重合体を徐放性薬剤のマトリックスとして用いると、体内における薬物放出が非連続的になり、特に初期に多量の薬物を放出してしまう初期バースト現象が起こりやすい。」(3頁右上欄9行〜15行)
「また、長期間にわたり連続的に薬物を放出すべき徐放性薬剤マトリックスとして用いる重合体は多分散性であることが望まれている(前記特開昭62-64824号公報)。しかし、再沈澱法による精製を行った場合、比較的分子量の低い重合体が溶媒に溶解して除かれてしまうので、不溶解物として得られる重合体は分子量分布が狭くなり多分散性が損なわれるため、前記マトリックス用としては好ましくないことになる。」(3頁右下欄16行〜4頁左上欄4行)
「また、乳酸系重合体の場合、重合体中に残存する未反応グリコリドやラクチドおよび低分子量揮発物は、重合体の保存安定性や加工性劣化の原因となるばかりか、この重合体を徐放性薬剤のマトリックスとして用いると、体内における薬物放出が非連続的になり、特に初期に多量の薬物を放出してしまう初期バースト現象が起こりやすい。」(3頁右上欄9〜15行)
「このような方法により、未反応モノマーおよび低分子量揮発物の残存量が2%以下である生体吸収性ポリエステルを製造することができる。」(4頁左下欄末行〜右下欄2行)
「また、本発明の方法によれば、生成重合体中の未反応モノマーおよび揮発性低沸点不純物は効果的に除去される。しかしながら、分子量の低い鎖状オリゴマーは除去されないので、生或重合体の分子量分布を狭めることはない。」(7頁右上欄7行〜11行)
「実施例7
l-ラクチド232g(1.6モル)と、グリコリド45g(0.4モル)とを、攪拌機を備えた肉厚の円筒型ステンレス製重合容器へ装入し、オクタン酸第一スズ0.015重量%を容器中へ添加し、真空で2時間脱気した後窒素ガスで置換した。
・・・モノマーや低分子量揮発物の留出がなくなったので、容器内を窒素置換し、容器下部からポリマーを紐状に抜出してペレット化した。
得られた共重合体は白色の固体で、固有粘度は2.08であり、分子量分布は3.84であった。共重合体中のグリコール酸構造と乳酸構造のモル比は21/79であった。また、残存グリコリド量及び残存ラクチド量はそれぞれ0.0%および0.9%であった。」(10頁右上欄8行〜左下欄8行)
(2)対比・判断
先願明細書には、生体内吸収性ポリエステルであって、当該生体内吸収性ポリエステルは、ポリ乳酸または乳酸とグリコール酸との共重合体であり、その組成比が、乳酸100〜50モル%、残りがグリコール酸である、生体内吸収性ポリエステルについて記載されている。
そして、前記生体内吸収性ポリエステルは、重合体を徐放性薬剤のマトリックスとして用いること、この重合体を徐放性薬剤のマトリックスとして用いると、重合体中に残存する未反応グリコリドやラクチドおよび低分子量揮発物が、重合体の保存安定性や加工性劣化の原因となるばかりか、体内における薬物放出が非連続的になり、特に初期に多量の薬物を放出してしまう初期バースト現象が起こりやすいことも記載されている。さらに、生成重合体中の未反応モノマーおよび揮発性低沸点不純物は効果的に除去されることも記載されている。
しかしながら、分子量の低い鎖状オリゴマーは除去されないので、生成重合体の分子量分布を狭めることはないことや、実施例において残存グリコリド量並びにラクチド量についてのみしか示されていないことを勘案すると、先願明細書には、生体内吸収性ポリエステルにおいて、分子量の低い鎖状オリゴマーを除去した共重合体については記載されているとはいえない。
そうであれば、先願明細書の生体内吸収性ポリエステルにおいて、未反応モノマーおよび低分子量揮発物の残存量が2%以下である生体吸収性ポリエステルを製造することができることが記載されているとしても、本件発明の「分子量1,000以下の低分子重合物の含有量が3.0(%)未満である生体内分解型脂肪族ポリエステル」についてまで記載されているとはいえない。
したがって、本件発明は、先願明細書に記載された発明と同一であるとはいえない。
また、訂正された請求項2〜6に係る発明は、本件発明を引用するものであるか、本件発明を間接的に引用するものであるから、本件発明と同様、訂正された請求項2〜6に係る発明は、先願明細書に記載された発明と同一であるとはいえない。
(3)したがって、訂正された請求項1〜6に係る発明が、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないとすることはできない。
3.明細書の記載不備について
特許出願の際に、明細書中発明の詳細な説明には、特許請求の範囲に記載された発明の実施の形態及び効果を、当業者が容易に実施できる程度に記載すればよいのであるから、当該発明を実施するにあたって代表的な実施の形態が効果とともに具体的に示されていれば足りるのであって、すべての実施の形態及びそれによる効果を記載することまでは要求されるものではない。
そうすると、本件発明について、発明の詳細な説明にはその代表的な実施の形態及び効果が当業者が容易に実施できる程度に記載されているものと認められるから、特許請求の範囲請求項1の記載は特許法第36条第5項に規定する要件を満たさないということはできない。
V.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠並びに取消理由によっては、本件発明1〜6の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1〜6の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2006-09-07 
出願番号 特願2000-362683(P2000-362683)
審決分類 P 1 651・ 113- Y (C08G)
P 1 651・ 121- Y (C08G)
P 1 651・ 532- Y (C08G)
P 1 651・ 161- Y (C08G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 森川 聡  
特許庁審判長 宮坂 初男
特許庁審判官 石井 あき子
船岡 嘉彦
登録日 2001-11-22 
登録番号 特許第3254449号(P3254449)
権利者 武田薬品工業株式会社
発明の名称 生体内分解型高分子重合物  
代理人 高島 一  
代理人 高橋 秀一  
代理人 内山 務  

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