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審決分類 審判 全部無効 ただし書き2号誤記又は誤訳の訂正  G02B
審判 全部無効 特許請求の範囲の実質的変更  G02B
審判 全部無効 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  G02B
管理番号 1145596
審判番号 無効2004-80133  
総通号数 84 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1993-02-19 
種別 無効の審決 
審判請求日 2004-08-30 
確定日 2006-11-01 
事件の表示 上記当事者間の特許第3138308号「光ファイバケーブル」の特許無効審判事件についてされた平成17年3月28日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の決定(平成17年(行ケ)第10453号 平成17年8月1日決定言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 特許第3138308号の請求項1ないし3に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1.手続の経緯の概要
本件特許第3138308号についての手続きの経緯の概要は以下のとおりである。

平成 3年12月18日 特許出願(優先権主張 平成2年12月18日)
平成12年12月 8日 特許権設定登録(特許第3138308号)
平成16年 5月14日 訂正審判請求(訂正2004-39093)
平成16年 8月30日 本件無効審判請求(無効2004-80133)
平成16年10月14日 訂正審判請求取下(訂正2004-39093)
平成16年11月15日 答弁書提出(被請求人)
平成17年 3月28日 審決(請求項1〜3を無効)
平成17年 5月 2日 被請求人出訴(平成17年(行ケ)第10453号)
平成17年 7月 8日 訂正審判請求(訂正2005-39118)
平成17年 8月 1日 審決取消決定(差戻し)
平成17年 9月 5日 訂正請求(訂正2005-39118はみなし取下げ)
平成17年11月 7日 弁駁書提出(請求人)
平成17年11月28日 訂正拒絶理由通知
平成18年 1月 4日 意見書提出(被請求人)

第2.訂正請求について
1.訂正の内容
無効審判(無効2004-80133)の訂正請求とみなされた平成17年7月8日付け審判請求(訂正2005-39118)は、審判請求書によれば、誤記の訂正および明りょうでない記載の釈明を目的として特許請求の範囲の請求項1および発明の詳細な説明を以下のように訂正しようとするものである。

[訂正事項a]
特許請求の範囲の請求項1において、誤記の訂正を目的として、「λ/1.41よりも大きい」を、「λ/1.4よりも大きい」に訂正する。
[訂正事項b]
発明の詳細な説明の段落【0009】において、明りょうでない記載の釈明を目的として、「λ/1.41」を「λ/1.4」に訂正する。
[訂正事項c]
発明の詳細な説明の段落【0022】において、誤記の訂正を目的として、「曲率0.92」を「曲率0.9」に、「曲率半径は、0.92mと1.1m」を「曲率半径は、1.1mと0.9m」にそれぞれ訂正する。
[訂正事項d]
発明の詳細な説明の段落【0023】において、誤記の訂正を目的として、「【数3】1.3/0.92≒1.41 1.55/1.1≒1.41」を「【数3】1.3/0.9≒1.4 1.55/1.1≒1.4」に訂正する。
[訂正事項e]
発明の詳細な説明の段落【0024】において、誤記の訂正を目的として「λ/1.41」を「λ/1.4」に訂正する。

2.当審の判断
[訂正事項cについて]
訂正事項cにおいて、「曲率0.92」を「曲率0.9」に変更する訂正は、審判請求書の「(4)訂正の原因、マル1訂正事項c、(i)」によれば、「誤記の訂正」を目的として「1/100位を四捨五入して1/10位に統一し、明細書全体の整合性を図った」ことをその理由としている。(なお、上記において「マル1」とあるのは、マル内数字を表記の都合上、書き換えたものである。以下同じ。また、下線は当審にて付与したものである。以下同じ。)

はじめに「誤記の訂正」について考察すると、
「誤記の訂正」とは、本来その意であることが、明細書または図面の記載などから明らかな内容の字句、語句に正すことをいい、訂正前の記載が当然に訂正後の記載と同一の意味を表示するものと客観的に認められるものをいう(注1、注2)。
特許請求の範囲の記載に関する限り、誤記の訂正は、訂正前の記載が当然に訂正後の記載と同一の意味を表示するものと当業者その他一般第三者が理解する場合に限って許され、発明の詳細な説明の項の記載は、この点の判断の資料となる限度においてのみ斟酌されねばならない(注2)。
(注1)青森地弘前支判 昭46(ヨ)2号、(昭47.5.22)、無体行裁例集4巻1号、313頁
(注2)最高裁 昭41(行ツ)1号、(昭47.12.14)(東高判昭44(行ケ)10、(昭48.12.25)、無体行裁例集5巻2号、530頁)

したがって、ある事項Aを誤記であるとして事項A’に訂正する場合には、少なくとも事項A’が明細書または図面の記載などからみて正しい内容であること、および事項Aが当然に事項A’と同一の意味を表示するものであると客観的に認められること、を立証すれば足りるということになる。

そこで、上記訂正が誤記の訂正に該当するかについて以下に検討すると、
被請求人が「曲率0.92」を「曲率0.9」に訂正する理由は、「1/100位を四捨五入して1/10位に統一し、明細書全体の整合性を図った」ことにあるが、これにより、「曲率0.9」が明細書または図面の記載などからみて正しい数値であり、また、「曲率0.92」が「曲率0.9」と客観的に見て同一の意味を表示するものであることを立証したとはいえない。
しかも、当初有効数字が3桁であった「曲率0.92」を有効数字が2桁の「曲率0.9」に変更する上記の操作は、誤記の訂正とは直接関係のない新規な操作というべきであり、その結果捻出された「曲率0.9」なる数値に、誤記の訂正であるとの何らかの合理的理由を見出すことはできない。
さらに、「曲率0.9」が正しい内容であるかについて、願書に最初に添付した明細書または図面の記載を検討すると、明細書の段落【0022】には、
「【0022】従ってこのような事情から、接続しようとする光ファイバどうしが互いに正反対方向に曲りを生じていたとしても、先のような接続損失に対する要件、即ち最大許容接続損失を0.5dB以下に設定するためには、少なくとも各光ファイバの曲り具合が図5から1.55μm帯用のものについては、
点X:曲率0.92以下であり、・・・(ハ)
また、図4から1.3μm帯用のものについては、
点Y:曲率1.1以下であること、・・・(ニ)
が必要となることが判明し、換言すれば、1.55μm帯と1.33μm帯に対して曲率半径は、0.92mと1.1mになり、光ファイバの波長帯λ〔μm〕との間には、それぞれ」
と記載されており、これによれば、「曲率0.92」が図5の点Xから求めたものであることが理解できる。そして、図5を参照しても「曲率0.92」が誤りであり、正しくは「曲率0.9」であると読み取ることは到底できない。

よって、上記訂正は、誤記とはいえない「曲率0.92」を、明細書または図面の記載から明確に読み取ることができない「曲率0.9」に変更するものであるから、当該訂正が誤記の訂正に当たらないことは明らかである。
しかも、当該訂正が明りょうでない記載の釈明にも当たらないことは、これまでの検討結果からみて明らかである。
したがって、上記訂正は、平成6年法律第116号の規定によりなお従前の例によるものとされた改正前の特許法第134条第2項ただし書きの規定に適合しない。

[訂正事項dについて]
訂正事項dにおいて、「【数3】1.3/0.92≒1.41 1.55/1.1≒1.41」を「【数3】1.3/0.9≒1.4 1.55/1.1≒1.4」に変更する訂正は、審判請求書の「(4)訂正の原因、マル2訂正事項d、(i)」によれば、「『1.4』への訂正は、曲率、曲率半径の数値を、1/100位を四捨五入して1/10位に統一したのに伴い、明細書全体の整合性を図った」ことを理由になされている。

しかしながら、「1.4」への訂正において「曲率、曲率半径の数値を、1/100位を四捨五入して1/10位に統一したのに伴い、明細書全体の整合性を図った」との理由については、「曲率、曲率半径の数値を、1/100位を四捨五入して1/10位に統一すること」が誤記の訂正に当たらないことは既に上記[訂正事項cについて]で述べたとおりである。
したがって、上記訂正は、誤記の訂正を目的とした訂正であるとも、また、明りょうでない記載の釈明を目的とした訂正であるともいえないから、平成6年法律第116号の規定によりなお従前の例によるものとされた改正前の特許法第134条第2項ただし書きの規定に適合しない。

[訂正事項eについて]
訂正事項eにおいて、「λ/1.41」を「λ/1.4」に変更する訂正は、審判請求書の「(4)訂正の原因、マル3訂正事項e、(i)」によれば、「訂正事項dに基づくもの」である。

そうすると、上記[訂正事項dについて]で述べたとおり、訂正事項dの訂正が誤記の訂正であるとも、また、明りょうでない記載の釈明であるともいえないのであるから、訂正事項dに基づく上記訂正もまた、誤記の訂正であるとも、また、明りょうでない記載の釈明であるともいえないことは明らかである。
したがって、上記訂正は、平成6年法律第116号の規定によりなお従前の例によるものとされた改正前の特許法第134条第2項ただし書きの規定に適合しない。

[訂正事項aについて]
訂正事項aにおいて、「λ/1.41よりも大きい」を「λ/1.4よりも大きい」に変更する訂正は、審判請求書の「(4)訂正の原因、マル4訂正事項a、(i)」によれば、「訂正事項eに基づくもの」である。

そうすると、上記[訂正事項eについて]で述べたとおり、訂正事項eの訂正が誤記の訂正であるとも、また、明りょうでない記載の釈明であるともいえないのであるから、訂正事項eに基づく上記訂正もまた、誤記の訂正であるとも、また、明りょうでない記載の釈明であるともいえない訂正であることは明らかである。
しかも上記訂正は、特許請求の範囲の記載に関する誤記の訂正であるから、上記注2で説示したように、訂正前の記載が当然に訂正後の記載と同一の意味を表示するものと当業者その他一般第三者が理解する場合に限って許されるものであるところ、「λ/1.41よりも大きい」が「λ/1.4よりも大きい」と同一の意味を表示するものと理解できないことは明らかである。
したがって、上記訂正は、平成6年法律第116号の規定によりなお従前の例によるものとされた改正前の特許法第134条第2項ただし書きの規定に適合しない。

また、「λ/1.4よりも大きい」なる範囲は、「λ/1.41よりも大きい」なる範囲に包含されるものであるから、結果的に当該訂正は、特許請求の範囲を減縮するものということもできるが、このような訂正は、以下に述べる理由で特許法第134条の2第5項において準用する特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるものとされた同法第1条の規定による改正前の特許法第126条第2項の規定に適合しないものである。

すなわち、「λ/1.4よりも大きい」における、「1.4」なる数値は、上記訂正事項dにおいて、「【数3】1.3/0.92≒1.41 1.55/1.1≒1.41」を「【数3】1.3/0.9≒1.4 1.55/1.1≒1.4」に訂正する過程において、曲率、曲率半径の数値を、1/100位を四捨五入して1/10位に統一したのに伴い、明細書全体の整合性を図ったことにより捻出された数値であって、願書に添付した明細書または図面に記載された事項ではない。
しかも、当初有効数字が3桁であった「1.41」を有効数字が2桁の「1.4」に変更する上記の操作は、誤記の訂正とは直接関係のない新規な操作というべきであり、その結果捻出された「1.4」なる数値に、何らかの合理的理由を見出すことはできない。

上記【数3】についてさらに検討すると、1.3/0.9≒1.4 ないしは1.55/1.1≒1.4なる数式は、波長λを曲率半径で除したものであるから、その値は波長λに曲率半径の逆数である曲率を乗じた値に等しいはずである。そして、曲率の値は上記[訂正事項cについて]で述べたように本件特許公報の図5から求めることができ、その値はλ=1.55μmで0.92であり、また、λ=1.3μmでは1.1であるから、それら曲率を代入すると・・・
1.3×1.1=1.43
1.55×0.92=1.426
であり、図5の曲率から求めた計算結果では、「1.4」とは異なる数値が得られる。
したがって、上記計算値とは異なる数値である「1.4」が願書に添付した明細書または図面に記載された数値ではなく、上で述べたように数値を変更する操作が誤記の訂正であるとはいえず、さらには、自明な事項であるともいえないのであるから、かかる数値を採用した当該訂正は、実質上特許請求の範囲を変更するものである。
よって、上記訂正は、特許法第134条の2第5項において準用する平成6年法律第116号の規定によりなお従前の例によるものとされた同法第1条の規定による改正前の特許法第126条第2項の規定の規定に適合しない。

[訂正事項bについて]
訂正事項bにおいて、「λ/1.41」を「λ/1.4」に変更する訂正は、審判請求書の「(4)訂正の原因、マル5訂正事項b、(i)」によれば、「訂正事項aに基づくもの」である。

そうすると、上記[訂正事項aについて]で述べたとおり、訂正事項aの訂正が誤記の訂正であるとも、また、明りょうでない記載の釈明であるともいえないのであるから、訂正事項aに基づく上記訂正もまた、誤記の訂正であるとも、また、明りょうでない記載の釈明であるともいえない訂正であることは明らかである。
したがって、上記訂正は、平成6年法律第116号の規定によりなお従前の例によるものとされた改正前の特許法第134条第2項ただし書きの規定に適合しない。

3.平成18年1月4日付意見書について
被請求人は、平成17年11月28日付の訂正拒絶理由に対し、平成18年1月4日付で意見書を提出しているので、これについて以下に検討する。

被請求人の主張は要するに、「本件特許出願時の技術常識によれば、接続損失値(dB)と曲率(曲率半径)は、測定誤差の観点から、100分の1位の数値に技術的な意味が無く(添付の参考資料1(川西紀行による実験証明書)から明らかである。)、技術的に意味のある数値とするためには、『曲率0.92』ではなく、『曲率0.9』としなければならない、そして、図面からは『曲率0.9』としか読めない」というものである。

そこで検討するに、
(ア)本件明細書において1.55μm帯用のものの曲率を0.92以下とした点は、上記第2.2.[訂正事項cについて]ですでに述べたように、図5において、接続損失が0.5dBの水平線と曲線A’との交点XからX軸に垂線を下ろして曲率(1/R)の値を読み取ることにより得たものである。
また、本件明細書には図5のデータ(すなわち、曲線A’)に関し、「【0016】次に、この発明者が各種曲率の曲りを強制的におこし、各種の大きさの軸ずれ(δ)を発生させた光ファイバ心線2を用いて光ファイバ心線2どうしの融着接続を行い、接続損失について実験を行い測定したところ、図4及び図5に示すデータが得られた。なお、ここで図4及び図5は夫々光ファイバ心線2として1.3μm及び1.55μm帯用SMタイプのものを使用したものである。」としか記載されていないが、技術常識から見て、曲線A’は、複数の試料について、軸ずれ(δ)を測定することにより曲率を算出するとともに接続損失値を測定し(通常、測定は誤差を少なくするため複数回行われる)、その結果を接続損失値をY軸、曲率をX軸にとったX-Y座標上にプロットして近似的に線引きした曲線であると理解することができる。
そうすると、曲線A’がそもそも近似曲線であり、その近似曲線と接続損失値との交点からX軸に垂線を下ろして読み取られる曲率の値も当然に近似値にすぎないのであるから、当該曲率は、X軸の目盛り(目盛りが100分の1位で有ることは明らか、そうでなければ有効数字3桁の算出値を正確にプロットすることができない)のとおりに読み取ればよいのであって、それをあえて読取り値を10分の1位に丸めて有効数字を2桁にする操作が、測定誤差の観点からみても、誤記の訂正にあたるとはいえないというべきである。
また、曲率の算出値は上記のとおり100分の1位まであって、それをX-Y座標上にプロットしたのであるから、被請求人が主張するような「図面からは10分の1位としか読めない」ということはあり得ず、しかも、当該主張は、訂正審判請求書における「『曲率0.9以下』への訂正は、曲率、曲率半径の数値を、1/100位を四捨五入して1/10位に統一し、明細書全体の整合性を図ったものである。」(平成17年7月8日付訂正審判請求書5頁6〜7行)との記載とも矛盾する(すなわち、「図面からは10分の1位としか読めない」のであれば、1/100位を四捨五入することは意味がない)。

(イ)さらに、上記実験証明書によれば30回測定した曲率の測定値が1.51+0.08,-0.10と大きくばらついていることから、100分の1位の数値に技術的な意味が無い旨主張しているが、本件明細書に記載されたデータ(図5)と同様な測定方法により測定されたのか明らかでないこと、提示された曲率は算出されたデータであって測定値ではないこと、測定値である光ファイバ先端部の回転軌跡の直径のデータが示されておらず、その測定精度も不明であることなどからみて、上記実験証明書の結果と本件明細書に記載されたデータとを関連づけることに合理的理由が見当たらない。

(ウ)また、有効数字の観点から考察しても、有効数字3桁の曲率0.92を有効数字2桁の曲率0.9に変更する訂正は誤記の訂正とはいえない。
すなわち、測定値を読み取るルールによれば、有効数字0.92は0.915〜0.925の間に「真の値」があるという意味であり、また、有効数字0.9は0.85〜0.95の間に「真の値」があるという意味であるから、両者が意味する範囲はまったく異なる。むしろ有効数字0.9の意味する範囲の方が有効数字0.92の範囲より広いのであるから、有効数字3桁の曲率0.92を有効数字2桁の曲率0.9に変更する訂正は数値範囲の拡張であるといえる。

したがって、意見書における被請求人の主張を検討しても、「曲率0.92」を「曲率0.9」に変更する訂正が誤記の訂正であるとはいえないから、上記「2.当審の判断」の結論に変わりはない。

4.むすび
以上のとおり、本件訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるものとされた同法第1条の規定による改正前の特許法第134条第2項ただし書きの規定、または特許法第134条の2第5項において準用する特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるものとされた同法第1条の規定による改正前の特許法第126条第2項の規定に適合しないので、当該訂正は認められない。

第3.本件発明
上記のとおり、平成17年9月5日付の訂正請求は認められないので、本件の請求項1ないし3に係る発明(以下、「本件発明1」、「本件発明2」、「本件発明3」という。)は、特許第3138308号明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された以下のとおりのものである。

「【請求項1】 多数の光ファイバを並列的に配置してテープ状に集合し、端部を一括融着接続する光ファイバケーブル(1)であって、
前記光ファイバの少なくとも接続端部近傍に発生する曲りの曲率半径(R)が、光ファイバの波長帯(λ)においてλ/1.41よりも大きいことを特徴とする光ファイバケーブル。
【請求項2】 1.3μm帯用シングルモード光ファイバにおいて、その光ファイバの接続端部近傍に発生する曲りが、曲率半径0.9m以上であって、かつ、最大許容接続損失値が0.5dB以下であることを特徴とする「請求項1」に記載の光ファイバケーブル。
【請求項3】 1.55μm帯用シングルモード光ファイバにおいて、その光ファイバの接続端部近傍に発生する曲りが、曲率半径1.1m以上であって、かつ最大許容接続損失値が0.5dB以下であることを特徴とする「請求項1」に記載の光ファイバケーブル。


第4.請求人の請求の趣旨及び理由の概要
請求人(日立電線株式会社)は、「特許第3138308号の請求項1ないし3に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、証拠方法として下記の甲第1号証ないし甲第8号証を提示し、以下の理由により、本件発明1ないし3に係る特許は、無効にすべきものであると主張している。

無効理由1:
本件発明1ないし3は、明瞭ではないので、本件明細書の特許請求の範囲には特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみが記載されているものとはいえない。したがって、本件発明1ないし3に係る特許は、平成6年法律第116号附則第6条でなお従前の例によるとされる旧特許法第36条第5項第2号の規定に違反して特許されたものであるから、平成5年法律第26号により改正された特許法第123条第1項第4号の規定により無効にすべきである。

無効理由2:
本件明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて当業者が本件発明1ないし3に係る特許を容易に実施することができないので、本件明細書の発明の詳細な説明は、その発明の技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、その発明の目的、構成及び効果を記載したものとはいえない。したがって、本件発明1ないし3に係る特許は、平成6年法律第116号附則第6条でなお従前の例によるとされる旧特許法第36条第4項の規定に違反して特許されたものであるから、平成5年法律第26号により改正された特許法第123条第1項第4号の規定により無効にすべきである。

無効理由3:
本件発明1ないし3は、本件出願の日前に頒布された刊行物である甲第1号証ないし甲第3号証、甲第5号証及び甲第6号証のいずれかに記載された発明と同一であり、少なくとも甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明と周知技術の組み合せに基づき、もしくは 甲第5号証又は甲第6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、平成11年法律第41号附則第2条でなお従前の例によるとされる旧特許法第29条第1項第3号又は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は平成5年法律第26号により改正された特許法第123条第1項第2号の規定により無効にすべきである。


甲第1号証:「住友電気」、1989年3月、第134号、35〜40頁
甲第2号証:「住友電気」、1989年9月、第135号、36〜42頁
甲第3号証:特開昭64-6909号公報
甲第4号証:特開昭63-182618号公報
甲第5号証:「1989年 電子情報通信学会春季全国大会 講演論文集」、1989年3月、[分冊4]通信・エレクトロニクス、B-654「8心テープ心線の特性」、30頁
甲第6号証:「昭和63年 電子情報通信学会秋季全国大会 講演論文集」、昭和63年9月、[分冊B-1]通信、B-8.光通信システムA、B-356「分散シフトファイバテープ心線の一括融着接続特性」、140頁
甲第7号証:特開昭64-9406号公報
甲第8号証:特開昭61-113007号公報

第5.被請求人の反論の概要
被請求人は、平成16年11月15日付答弁書において、概ね、以下のように反論している。
なお、下記の主張は、特許請求の範囲が訂正されたとの被請求人の認識に基づく主張であるが、後に「第6.当審の判断」で述べるように、実際には答弁書提出時に訂正請求はなされていない。とりあえず、被請求人の主張を以下に記載する。

1.被請求人は、本書(答弁書)と同時に訂正請求書を提出し、特許請求の範囲を含む明細書について訂正請求をした。以下の主張は、訂正請求書及びこれに添付した全文訂正明細書の記載に基づくものである。
(i)本件特許発明は、特許請求の範囲に記載のように、
「【請求項1】多数の光ファイバを並列的に配置してテープ状に集合し、端部を一括融着接続する光ファイバケーブル(1)であって、前記光ファイバの少なくとも接続端部近傍に発生する曲りの曲率半径(R)が、光ファイバの波長帯(λ)においてλ/1.4よりも大きいことを特徴とする光ファイバケーブル。
【請求項2】1.3μm帯用シングルモード光ファイバにおいて、その光ファイバの接続端部近傍に発生する曲りが、曲率半径0.91m以上であって、かつ、最大許容接続損失値が0.5dB以下であることを特徴とする「請求項1」に記載の光ファイバケーブル。
【請求項3】1.55μm帯用シングルモード光ファイバにおいて、その光ファイバの接続端部近傍に発生する曲りが、曲率半径1.1m以上であって、かつ最大許容接続損失値が0.5dB以下であることを特徴とする「請求項1」に記載の光ファイバケーブル。」
である。
(ii)本件発明者は、光ファイバの曲がり具合と接続損失との関係に初めて着目し、光ファイバの曲り具合と接続損失との定量的な相関関係に基づき、最大許容接続損失に対応する曲率半径を定量的に導出し、光ファイバの曲りをその導出した所定の曲率半径より大きくなるように形成したものである。これによって、たとえSM光ファイバの多心一括融着接続であっても、互いに突合せた光ファイバどうしが大きく軸ずれをおこすおそれがなくなり、換言すれば大きな接続損失を発生するといったトラブルを招くことを有効に防止できることとなった。

2.無効理由1(第36条第5項第2号)について
(i)請求項1の「1.41なる数値が不明りょう」について
本件明細書中、【0022】〜【0024】を、全文訂正明細書に記載のとおり訂正した。かかる訂正は、訂正請求書の6.(4)マル1〜マル3から明らかなように、第134条第2項ただし書き、同条第5項において準用する第126条第2項から第4項までの規定(以下、「訂正要件」ということがある)を充足するものである。
そして、かかる訂正に基づき、請求項1を、上記したとおりに訂正した。かかる訂正は、訂正請求書の6.(4)マル4から明らかなように、訂正要件を充足するものである。
上記訂正に基づけば、最大許容損失値を満足させるためには、光ファイバの曲率半径をλ/1.4よりも大きくすればよいということが理解できるから、請求項1の記載は明確である。

(ii)請求項2の「曲率半径0.9m以上が不明りょう」について
上記(i)で詳述した通り、本件明細書中、【0022】〜【0024】を全文訂正明細書のとおり訂正し、かかる訂正に基づき、請求項2を、上記したとおりに訂正した。かかる訂正は、訂正請求書の6.(4)マル5から明らかなように、訂正要件を充足するものである。
上記訂正に基づけば、光ファイバの曲率半径を0.91m以上とすることの意味は明確であるから、請求項2の記載は明確である。

(iii)請求項3の「曲率半径1.1m以上」と本件発明の作用・効果との関係が不明りょうについて
本発明者らは、【0013】に記載のように、δがRとSの関数であることを認識していながら、Sがほぼ一定であるがゆえにδがRのみの関数となるという前提で、【0014】以降の議論を行ったのであるから、記載に不明りょうな点は全くない。

3.無効理由2(第36条第4項)について
上記で詳述したように、請求項1ないし3に係る発明は明りょうであり、全文訂正明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することにより、本件特許発明を明瞭に解釈することができる。したがって、発明の詳細な説明は、当業者が容易に実施をすることができる程度にその発明の目的、構成、効果が記載されているから、旧特許法第36条第4項に規定する要件を充足するものである。

4.無効理由3(第29条第1項第3号及び同条第2項)について
(i)本件特許発明の特徴
本件発明者らは、「光ファイバ自身にはもともと軸線方向からずれた形状的な曲がり、或は曲がりぐせが多かれ少なかれ生じており、これが特にSM光ファイバでは突合せたときの軸ずれをおこす主要因となっていた。また、実際にこの曲がりが原因となり、1dB以上の接続損失をもたらすことが、この発明者により確認されている。」ことを見出したのである(【0008】)。
光ファイバの裸線のうち、基台のV溝とクランプに挟まれた部分を除いた部分(S)は、上記したように、通常3mm程度であるが、多心光ファイバを一括接続する際に、かかる短い長さしか有しない部分の曲がり(曲率)が、接続損失に大きな影響を及ぼすことは、本件特許発明において初めて見出されたことであり、当業者が予測し得なかったことである。

(ii)本件請求項1に係る発明と各甲号証との対比
[甲第1号証]
(a)光ファイバの融着一括接続の際に、Sの曲がり(曲率)が、接続損失に大きな影響を及ぼすことについては、甲第1号証には全く記載がないのである。実際、同号証38頁右欄で、マル1放電による端面の清掃、マル3端面状態の検査、軸ずれ量の測定を行う旨が記載されているが、Sの曲率の測定については、何の記載も示唆もないのである。
(b)これについて、請求人は、「本件特許公報の【0024】には、以下の記載がある。「すなわち曲率半径がλ/1.41以上であれば最大許容損失値を満足できることが判明した。」・・・かかる記載によれば、曲率半径がλ/1.41未満では、最大許容損失値を満足しないことになるので、「最大許容損失値が0.5dB以下」を実現している甲第1号証に記載の発明において「曲率半径がλ/1.41以上」を満たしていることは明らかである。」(22頁7〜15行)と主張する。
しかしながら、「曲率半径がλ/1.4(今回の訂正請求に基づく)以上」→「最大許容損失値が0.5dB以下」とはいえるが、「最大許容損失値が0.5dB以下」→「曲率半径がλ/1.4」が成立するとは限らないことは理の当然である。
接続損失量は、曲率半径が同じであっても、例えば接続する2つの裸線が同相(同方向に曲がっている場合)か逆相(逆方向にまがっている場合:本件特許公報図4のA又は図5のA’が該当する。)かによっても異なる。これは、本件特許公報の図4のA、B、図5のA’、B’を比較しても理解できる。図4のB、図5のB’は一方が直線状であるが、このように、一方が直線状である場合は、両者が曲率を有する場合よりも、はるかに接続損失は小さいのである。甲第1号証の図11〜図15には、各図の見出しに「同一ファイバ」と記載されているが、これは2つの裸線が同相であることを意味するものと推定される。同相接続であれば、光ファイバの曲がりが同じ方向に生じ、光ファイバ先端では同じ軸ずれを起こしている。したがって、甲第1号証の場合、本件特許公報の図4のA、図5のA’と比較して、接続損失量が小さくなるのは当然であり、接続損失量が小さいからといって、曲率半径がλ/1.4以上であることの証明にはならないのである。

[甲第2号証]
甲第2号証には、接続損失が0.5dB以下となる旨の記載があるだけであり、曲率半径と接続損失との関係については記載も示唆もされていない。

[甲第3号証]
(a)甲第3号証の記載8は、平均損失値が記載されているだけであり、甲第3号証には、曲率半径と接続損失との関係が何ら記載されていない。
(b)なお、甲第3号証の記載7は、V溝の幅に余裕があり、V溝の中心と光ファイバ心線の中心との間にズレがある状態で押し込まれたときに生じる軸ずれのことを記載しているにすぎず、曲率半径と接続損失との関係が記載されているわけではない。

[甲第4号証]
甲第4号証には、曲率半径と接続損失との関係が何ら記載されていない。すなわち、甲第4号証の記載10は、光ファイバ心線が余長シートに長時間放置されると曲がりぐせがつき、その結果、V溝底部の所定の位置に光ファイバを納められなかったり、光ファイバの設定に時間を要したり、2本の光ファイバのセットができても両者の軸がずれることがある、旨が記載されているだけであり、曲率半径と接続損失との関係については記載も示唆もされていない。
また、特許請求の範囲(1)は、曲がりぐせが残留した光ファイバ心線の曲がりぐせ修正方法に関するものであり、その方法は、心線被覆材料のガラス転位点以上でかつ加熱収縮による残留歪みが伝送特性に影響を与えない温度以下で光ファイバ心線を加熱する、というものである。光ファイバ心線を接続する際の損失を低くするために曲率半径を一定値より大きくするという技術思想は存在しない。

[甲第5号証]
甲第5号証には、接続損失が0.5dB以下である光ファイバの記載があるだけであり、曲率半径と接続損失との関係については記載も示唆もされていない。

[甲第6号証]
甲第6号証には、接続損失が0.5dB以下である光ファイバ(甲第6号証の記載15)とこれを達成するために融着前の軸ずれ量が5ミクロン以内のもののみを接続した旨(甲第6号証の記載14)の記載があるだけであり、曲率半径と接続損失との関係については記載も示唆もされていない。

以上説述したように、曲率半径と接続損失との関係については、甲第1号証〜甲第6号証のいずれにも、記載も示唆もない。したがって、仮に甲第1号証〜甲第6号証を組み合わせたとしても、本件請求項1に係る発明の構成を導出することはできない。
したがって、本件請求項1に係る発明は、新規性進歩性を有するものである。

(iii)本件請求項2に係る発明と各甲号証との対比
[甲第7号証]
甲第7号証は、1.55μmにおける長距離小容量光ファイバ通信用の光ファイバに関するものであり(記載16)、本願請求項2に係る発明とは何の関係もない文献である。

[甲第8号証]
甲第8号証の図2は、曲率半径が2cmの場合の曲げ損失と実効遮断波長との関係が記載されているだけであり、曲率半径と接続損失との関係については記載も示唆もされていない。

以上説述したように、曲率半径と接続損失との関係については、甲第1号証〜甲第8号証のいずれにも、記載も示唆もない。したがって、仮に甲第1号証〜甲第8号証を組み合わせたとしても、本件請求項2に係る発明の構成を導出することはできない。
したがって、本件請求項2に係る発明は、新規性進歩性を有するものである。

(iv)本件請求項3に係る発明と各甲号証との対比
[甲第7号証]
甲第7号証は、接続損失が0.05dB/接続点である光ファイバが記載されているだけであり(3頁右上欄下から3行〜下から2行)、曲率半径と接続損失との関係については記載も示唆もされていない。

[甲第8号証]
甲第8号証の図2は、曲率半径が2cmの場合の曲げ損失と実効遮断波長との関係が記載されているだけであり、曲率半径と接続損失との関係については記載も示唆もされていない。

以上説述したように、曲率半径と接続損失との関係については、甲第1号証〜甲第8号証のいずれにも、記載も示唆もない。したがって、仮に甲第1号証〜甲第8号証を組み合わせたとしても、本件請求項3に係る発明の構成を導出することはできない。
したがって、本件請求項3に係る発明は、新規性進歩性を有するものである。

第6.当審の判断
以下、無効理由について検討する。
上記「第4.被請求人の反論の概要」の1.にあるように、被請求人は答弁書において、答弁書と同時に訂正請求書を提出したとの前提に立ち、訂正請求書及びこれに添付した全文訂正明細書の記載に基づくものとして反論を展開している。
しかしながら、実際には応答期間内に訂正請求手続きはなされていない。その結果、被請求人の反論は、その前提において誤っていることから、特許請求の範囲及び明細書の記載内容と齟齬をきたしている点が多々みられるが、その趣旨を汲み取り判断に供することとした。
それゆえ、以下の判断は、上記「第3.本件発明」に記載したように、特許第3138308号の明細書及び図面に基づくものである。

無効理由1について:
(i)本件発明1について
本件発明1には、「前記光ファイバの少なくとも接続端部近傍に発生する曲りの曲率半径(R)が、光ファイバの波長帯(λ)においてλ/1.41よりも大きいことを特徴とする光ファイバケーブル」なる構成要件が記載されている。
これについては、本件明細書の段落【0022】〜【0024】に次のように説明されている。
「【0022】従ってこのような事情から、接続しようとする光ファイバどうしが互いに正反対方向に曲りを生じていたとしても、先のような接続損失に対する要件、即ち最大許容接続損失を0.5dB以下に設定するためには、少なくとも各光ファイバの曲り具合が図5から1.55μm帯用のものについては、
点X:曲率0.92以下であり、・・・(ハ)
また、図4から1.3μm帯用のものについては、
点Y:曲率1.1以下であること、・・・(ニ)
が必要となることが判明し、換言すれば、1.55μm帯と1.33μm帯に対して曲率半径は、0.92mと1.1mになり、光ファイバの波長帯λ〔μm〕との間には、それぞれ
【0023】【数3】
1.3/0.92≒1.41
1.55/1.1≒1.41
【0024】の関係が成立する。すなわち曲率半径がλ/1.41以上であれば最大許容損失値を満足できることが判明した。」

しかしながら、上記の段落【0022】における(ハ)、(ニ)のとおりであるとすれば、曲率半径(R)は、
1.3μm帯用:1/1.1≒0.909
1.55μm帯用:1/0.92≒1.087
となり、光ファイバの波長帯λ〔μm〕との間には、それぞれ
1.3μm帯用:1.3/0.909≒1.430
1.55μm帯用:1.55/1.087≒1.426
の関係が成立する。

してみると、上記段落【0022】〜【0024】において導出されたλ/1.41は明らかに誤りであるから、これを用いた本件発明1の「曲率半径(R)が、光ファイバの波長帯(λ)においてλ/1.41よりも大きいこと」がいかなる技術的意義を有するのか不明であり、発明の構成が明確に把握できない。
それゆえ、本件明細書の特許請求の範囲には、特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみが記載されているものとはいえず、平成6年改正前特許法第36条第5項第2号に規定する要件を満たしていない。

(ii)本件発明2について
本件発明2には、「その光ファイバの接続端部近傍に発生する曲りが、曲率半径0.9m以上であって」なる構成要件が記載されている。
そこで、上記「曲率半径0.9m以上」の技術的意味について検討すると、
上記の本件明細書の段落【0022】〜【0024】によれば、1.3μm帯用シングルモード光ファイバにおいて、最大許容接続損失値が0.5dB以下を満たすためには、曲率半径は、
λ(1.3)/1.41≒0.922
以上でなければならないところ、本件発明2では「曲率半径0.9m以上」としており、両者の関係が明らかでない。
さらには、上記(i)で述べたように、そもそも λ(1.3)/1.41なる関係式が誤りなのであるから、これを前提とした「曲率半径0.9m以上」がいかなる技術的意義を有するのか不明であり、かかる構成は不明りょうであるから、本件明細書の特許請求の範囲には、特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみが記載されているものとはいえず、平成6年改正前特許法第36条第5項第2号に規定する要件を満たしていない。

(iii)本件発明3について
本件発明3には、「その光ファイバの接続端部近傍に発生する曲りが、曲率半径1.1m以上であって」なる構成要件が記載されている。
そこで、上記「曲率半径1.1m以上」の技術的意味について検討すると、
上記の本件明細書の段落【0022】〜【0024】によれば、1.55μm帯用シングルモード光ファイバにおいて、最大許容接続損失値が0.5dB以下を満たすためには、曲率半径は、
λ(1.55)/1.41≒1.099
以上となり、一方、本件発明3では「曲率半径1.1m以上」としているから、大凡一致している。
ところが、本件発明3は本件発明1を引用する発明であって、本件発明1は上記(i)で述べたように、そもそも λ(1.55)/1.41なる関係式が誤りなのであるから、これを前提とした「曲率半径1.1m以上」がいかなる技術的意義を有するのか不明であり、したがって、かかる構成は不明りょうであるから、本件明細書の特許請求の範囲には、特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみが記載されているものとはいえず、平成6年改正前特許法第36条第5項第2号に規定する要件を満たしていない。

以上のとおり、本件発明1ないし3についての特許は、無効理由2および3について検討するまでもなく、無効理由1により無効にすべきものである。

第7.むすび
以上のとおり、本件発明1ないし3には、特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみが記載されているとはいえず、平成6年改正前特許法第36条第5項第2号に規定する要件を満たしていない。
したがって、本件発明1ないし3についての特許は、平成6年改正前特許法第36条第5項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、平成5年法律第26号により改正された特許法第123条第1項第4号の規定により、無効にすべきものである。
また、審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-03-09 
結審通知日 2005-03-14 
審決日 2005-03-28 
出願番号 特願平3-353715
審決分類 P 1 113・ 534- ZB (G02B)
P 1 113・ 855- ZB (G02B)
P 1 113・ 852- ZB (G02B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 小橋 立昌  
特許庁審判長 向後 晋一
特許庁審判官 鈴木 俊光
樋口 信宏
瀧本 十良三
吉田 禎治
登録日 2000-12-08 
登録番号 特許第3138308号(P3138308)
発明の名称 光ファイバケーブル  
代理人 志賀 正武  
代理人 青山 正和  
代理人 渡邊 隆  
代理人 平田 忠雄  
代理人 岩永 勇二  
代理人 高橋 詔男  

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