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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効200680102 審決 特許

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審決分類 審判 一部無効 産業上利用性  G01L
審判 一部無効 特36 条4項詳細な説明の記載不備  G01L
審判 一部無効 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  G01L
管理番号 1145817
審判番号 無効2005-80223  
総通号数 84 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1999-04-13 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-07-14 
確定日 2006-10-27 
事件の表示 上記当事者間の特許第3145979号発明「力・加速度・磁気の検出装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件は、平成2年10月12日にされた特許出願(特願平2-274299号)の分割出願として平成10年7月9日に特許出願(特願平10-210320号)がされ、平成13年1月5日に特許権の設定登録がされた特許第3145979号(以下「本件特許」という。)につき、平成17年7月14日にその請求項1及び6に係る特許に対してアナログデバイシーズ、インコーポレイテッドより無効審判の請求がされたものであり、同年10月20日に被請求人株式会社ワコーより答弁書が提出され、同年12月16日に請求人アナログデバイシーズ、インコーポレイテッドより弁駁書が提出され、平成18年4月25日に口頭審理が行われたものである。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1及び6の記載は次のとおりである。(なお、符号「A」から「E」まで、「F1」から「F4」まで、「G1」及び「G2」、「H」、「J」並びに「K」は、請求人が付したものである。)
「【請求項1】
A 互いに直交する第1の軸および第2の軸を定義し、前記第1の軸方向に作用した力および前記第2の軸方向に作用した力をそれぞれ独立して検出する機能をもった力検出装置であって、
B 装置筐体に対して変位が生じないように固定された固定要素と、
C 前記固定要素に可撓性部分を介して接続され、外部から作用した前記第1の軸方向の力もしくは前記第2の軸方向の力に基いて、前記可撓性部分が撓みを生じることにより、前記固定要素に対して前記第1の軸方向もしくは前記第2の軸方向に変位を生じる変位要素と、
D 前記変位要素の変位にかかわらず固定状態を維持するように前記固定要素上に形成された第1の固定電極、第2の固定電極、第3の固定電極、第4の固定電極と、
E 前記変位要素の変位とともに変位するように前記変位要素上に形成された第1の変位電極、第2の変位電極、第3の変位電極、第4の変位電極と、を備え、
F1 前記第1の固定電極と前記第1の変位電極とは互いに対向する位置に配置され、前記第1の固定電極と前記第1の変位電極とによって第1の容量素子が形成され、
F2 前記第2の固定電極と前記第2の変位電極とは互いに対向する位置に配置され、前記第2の固定電極と前記第2の変位電極とによって第2の容量素子が形成され、
F3 前記第3の固定電極と前記第3の変位電極とは互いに対向する位置に配置され、前記第3の固定電極と前記第3の変位電極とによって第3の容量素子が形成され、
F4 前記第4の固定電極と前記第4の変位電極とは互いに対向する位置に配置され、前記第4の固定電極と前記第4の変位電極とによって第4の容量素子が形成され、
G1 かつ、前記変位要素が前記第1の軸の正方向に変位した場合、前記第1の容量素子の電極間距離が減少するとともに前記第2の容量素子の電極間距離が増加し、前記変位要素が前記第1の軸の負方向に変位した場合、前記第1の容量素子の電極間距離が増加するとともに前記第2の容量素子の電極間距離が減少し、
G2 前記変位要素が前記第2の軸の正方向に変位した場合、前記第3の容量素子の電極間距離が減少するとともに前記第4の容量素子の電極間距離が増加し、前記変位要素が前記第2の軸の負方向に変位した場合、前記第3の容量素子の電極間距離が増加するとともに前記第4の容量素子の電極間距離が減少するように、前記各固定電極および前記各変位電極が配置されており、
H 前記第1の容量素子の容量値と前記第2の容量素子の容量値との差によって、前記第1の軸方向に作用した力を検出し、前記第3の容量素子の容量値と前記第4の容量素子の容量値との差によって、前記第2の軸方向に作用した力を検出するように構成したこと
J を特徴とする力検出装置。」
「【請求項6】
K 請求項1〜5のいずれかに記載の検出装置において、変位要素に作用する加速度に基いて発生する力を検出することにより、加速度の検出を行い得るようにしたことを特徴とする加速度検出装置。」

第3 請求人の主張
本件特許の請求項1及び6に係る特許を無効とする、との審決を求める。
1 無効理由1
本件特許は、特許法29条1項柱書の規定に違反してされたというべきである。
本件特許掲載公報の図3には、作用点PにX軸方向の力が作用した場合に、変位基板20にZ軸方向の変位が生じる様子が示され、作用点PにX軸方向の力が作用した場合に、変位基板20をZ軸方向に変位させることが固定電極11と変位電極21〜24との電極間距離を増減させる原理であることが明示されている。したがって、作用点PにX軸方向の力が作用した場合に、変位基板20をZ軸方向に変位させることが固定電極11と変位電極21〜24との電極間距離を増減させるために必須である。これに対し、本件特許の請求項1には、変位要素がZ軸方向に変位することが規定されていない。変位要素がZ軸方向に変位することなしに、本件特許の請求項1に係る力検出装置は動作しない。
また、構成要件Eの記載を特許請求の範囲の記載に基づいて解釈すると、構成要件G1及びG2の記載と矛盾する。ここで、「前記変位要素が前記第1の軸の正方向に変位した場合」を考える。この場合には、4つの変位電極はいずれも、4つの固定電極に対して「前記第1の軸の正方向」に変位することとなる。このように、4つの変位電極がいずれも4つの固定電極に対していっせいに同一の方向に変位することから、第1の固定電極と第1の変位電極とによって形成される第1の容量素子の電極間距離が増加する場合には、第2の固定電極と第2の変位電極とによって形成される第2の容量素子の電極間距離も増加し、第1の容量素子の電極間距離が減少する場合には第2の容量素子の電極間距離も減少することとなり、構成要件G1に規定されるように「前記変位要素が前記第1の軸の正方向に変位した場合、前記第1の容量素子の電極間距離が減少するとともに前記第2の容量素子の電極間距離が増加し」とはならない。このように、構成要件Eの記載に基づく増加-増加関係もしくは減少-減少関係と、構成要件G1の記載に基づく増加-減少関係とが矛盾していることは明らかである。そこで、正しい意義を求めて、本件特許明細書及び図面の記載を参酌すると、「第1の変位電極」、「第2の変位電極」、「第3の変位電極」及び「第4の変位電極」は、第1の軸方向(すなわち、X軸方向)及び第2の軸方向(すなわち、Y軸方向)に垂直な軸方向(すなわち、Z軸方向)に変位することが必須である。これに対し、本件特許の請求項1には、「第1の変位電極」、「第2の変位電極」、「第3の変位電極」及び「第4の変位電極」がZ軸方向に変位することも、「変位要素」がZ軸方向に変位することも規定されていない。「第1の変位電極」、「第2の変位電極」、「第3の変位電極」及び「第4の変位電極」がZ軸方向に変位することなく、かつ、「変位要素」がZ軸方向に変位することなしに、本件特許の請求項1に係る力検出装置は動作しない。
よって、本件特許の請求項1に係る発明は、動作不能である未完成発明であるというべきである。同様の理由から、本件特許の請求項6に係る発明も、動作不能である未完成発明であるというべきである。
2 無効理由2
本件特許は、特許法36条3項の規定に違反してされたというべきである。
作用点PにX軸方向の力が作用した場合に、変位基板20にZ軸方向の変位が生じることは、本件特許掲載公報の図3には示されているものの、本件特許明細書の発明の詳細な説明には明示されていない。また、構成要件Eの記載を特許請求の範囲の記載に基づいて解釈すると、構成要件G1及びG2の記載と矛盾する。
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をできる程度に記載したものではないというべきである。
3 無効理由3
本件特許は、特許法36条4項1号の規定に違反してされたというべきである。
上記1で説明したように、作用点PにX軸方向の力が作用した場合に、変位基板20をZ軸方向に変位させることが固定電極11と変位電極21ないし24との電極間距離を増減させるために必須である。これに対し、本件特許の請求項1には、変位要素がZ軸方向に変位することが規定されていない。また、構成要件Eの記載を特許請求の範囲の記載に基づいて解釈すると、構成要件G1及びG2の記載と矛盾する。
したがって、本件特許の請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではないというべきである。同様の理由から、本件特許の請求項6に係る発明も、発明の詳細な説明に記載したものではないというべきである。
4 無効理由4
本件特許は、特許法36条4項2号の規定に違反してされたというべきである。
(1)上記1で説明したように、作用点PにX軸方向の力が作用した場合に、変位基板20をZ軸方向に変位させることが固定電極11と変位電極21〜24との電極間距離を増減させるために必須である。これに対し、本件特許の請求項1には、変位要素がZ軸方向に変位することが規定されていない。
したがって、本件特許の請求項1に係る発明は、必要な事項を欠くから、明確でないというべきである。同様の理由から、本件特許の請求項6に係る発明も、必要な事項を欠くから、明確でないというべきである。
(2)さらに、本件特許の請求項1は、以下の記載不備があるために明確でない。
ア 本件特許の請求項1の構成要件Dについて、「第1の固定電極」、「第2の固定電極」、「第3の固定電極」、「第4の固定電極」とは、同一のものを指すのか、異なるものを指すのか不明確である。
イ 本件特許の請求項1の構成要件Eについて、「第1の変位電極」、「第2の変位電極」、「第3の変位電極」、「第4の変位電極」とは、同一のものを指すのか、異なるものを指すのか不明確である。
ウ 本件特許の請求項1の構成要件Eについて、「前記変位要素の変位とともに変位するように」とは、「第1の変位電極」、「第2の変位電極」、「第3の変位電極」、「第4の変位電極」がどちらの方向に変位するのか不明確である。この場合、「前記変位要素とともに」とあることから、「第1の変位電極」、「第2の変位電極」、「第3の変位電極」、「第4の変位電極」は、「前記変位電極」と同一の方向(すなわち、第1の軸方向若しくは第2の軸方向)に変位すると解釈することが通常である。しかし、このように通常の解釈をすると、本件特許の請求項1に記載の力検出装置は、構成要件G1、G2に記載するようには動作しなくなる。ゆえに、上述した通常の解釈は誤りである。そこで、正しい解釈を求めて、本件特許明細書を参酌すると、図1に示されるように、「第1の変位電極」、「第2の変位電極」、「第3の変位電極」、「第4の変位電極」は、第1の軸方向(すなわち、X軸方向)及び第2の軸方向(すなわち、Y軸方向)に垂直な軸方向(すなわち、Z軸方向)に変位することが必須である。
したがって、本件特許の請求項1の構成要件Eは、「第1の変位電極」、「第2の変位電極」、「第3の変位電極」、「第4の変位電極」が第1の軸方向および第2の軸方向に垂直な軸方向に変位するという本件発明に必要な事項を欠いているというべきである。
また、構成要件Eの記載を特許請求の範囲の記載に基づいて解釈すると、構成要件G1及びG2の記載と矛盾する。
したがって、本件特許の請求項1に係る発明は、明確でないというべきである。同様の理由から、本件特許の請求項6に係る発明も、明確でないというべきである。

第4 被請求人の主張
本件審判請求は成り立たない、との審決を求める。
1 無効理由1に対して
請求人は、本件特許の請求項1及び6に係る発明が動作不能の未完成発明であり、特許法29条1項柱書の規定に違反している旨の主張を行っている。
しかしながら、当該主張は、「本件特許発明の原理には、Z軸方向の変位が必須である」という誤った認定に基づくものである。
本件特許に図示されている実施例の構造を採れば、図の右方向への加速度が加わると、作用点Pが右方向へ変位するとともに、変位基板20の各部が上下若しくは斜め上下方向へ変位することになるが、これは、当該実施例の構造がもつ固有の性質であり、本件特許発明は、もちろん、この実施例の構造に限定されるものではない。請求項1に、変位要素のZ軸方向の変位に関する記述がないのは、請求項1に係る発明は、変位要素がZ軸方向に変位することを必須要件としていないからである。請求項1に係る発明は、作用した力のX軸方向成分及びY軸方向成分を検出することが目的であり、変位要素がX軸方向及びY軸方向に変位することは必須であるが、このX軸方向及びY軸方向への変位が、Z軸方向への変位を伴っているか否かは不問である。変位要素がX軸方向に変位し、その結果、第1の容量素子の電極間隔が減少し、第2の容量素子の電極間隔が増加すれば、両容量素子の静電容量値の差によって、X軸方向への変位量を求めることができ、作用した力のX軸方向成分を検出することができる。このような検出動作において、変位要素が、必ずしもZ軸方向への変位を伴う必要はない。
請求人は、本件特許の請求項1及び6に係る発明は、構成要件Eの記載と、構成要件G1及びG2の記載が矛盾するので、動作不能な未完成発明である、との主張を行っている。
構成要件Eには、第1の変位電極〜第4の変位電極について、「前記変位要素の変位とともに変位するように前記変位要素上に形成された」と記述されているのであって、「変位要素の変位とともに変位する」とは、「変位要素が変位すると、これに伴って、変位電極も変位する」という意味である。したがって、構成要件G1及びG2において、変位要素が所定方向に変位した場合に、一対の容量素子の電極間距離が増加-減少関係もしくは減少-増加関係となる旨の記載がなされていることは、構成要件Eの記載と何ら矛盾することはない。既に述べたとおり、実施例に開示されている装置の場合は「各変位電極がZ軸方向に変位する」こととなるが.これは当該実施例の構造がもつ固有の性質であり、本件特許発明の原理は、「各変位電極がZ軸方向に変位すること」を必須としていない。
よって、請求項1及び6に係る発明のセンサが動作不能であるとの請求人の主張は、全く根拠のないものである。
2 無効理由2に対して
請求人は、本件特許の発明の詳細な説明が、当業者が容易に実施できる程度に記載されていない旨の主張を行っている。
しかしながら、当該主張は、「本件特許発明の原理には、Z軸方向の変位が必須である」という誤った認定に基づくものである。
請求人の主張する理由は、「作用点PにX軸方向の力が作用した場合に、変位基板20にZ軸方向の変位が生じることが、図3には示されているが、発明の詳細な説明に明示されていない」というものである。しかしながら、上述したとおり、本件特許発明において、「X軸方向の力を検出する際に、変位要素にZ軸方向の変位が生じること」は必須ではなく、この点を発明の詳細な説明中で詳細に述べる必要はない。もちろん、図1ないし図4に示す実施例に係るセンサの場合、変位基板20は捻れるような変形を生じることになるが、そのような変形を生じることは、図3に明示されており、当業者であれば、本件特許の発明の詳細な説明の記載により、本件特許発明を十分に理解し実施することが可能である。
よって、本件特許の発明の詳細な説明が、当業者が容易に実施できる程度に記載されていない、との請求人の主張は、全く根拠のないものである。
3 無効理由3に対して
請求人は、本件特許の請求項1及び6に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない旨の主張を行っている。
しかしながら、当該主張は、「本件特許発明の原理には、Z軸方向の変位が必須である」という誤った認定に基づくものである。
請求人の主張する理由は、「作用点PにX軸方向の力が作用した場合に、変位基板20をZ軸方向に変位させることが固定電極11と変位電極21〜24との電極間距離を増減させるために必須であるところ、本件特許請求項1には、変位要素がZ軸方向に変位することが規定されていないので、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない」というものである。しかしながら、発明の詳細な説明に記載された本件特許発明において、「X軸方向の力を検出する際に、変位要素にZ軸方向の変位が生じること」は必須ではないので、請求項1に係る発明と発明の詳細な説明に記載された発明との間には、何ら齟齬は生じていない。
よって、本件特許の請求項1及び6に係る発明が、発明の詳細な説明に記載されたものではない、との請求人の主張は、全く根拠のないものである。
4 無効理由4に対して
請求人は、本件特許の請求項1及び6の記載が不明確である旨の主張を行っている。
しかしながら、当該主張は、「本件特許発明の原理には、Z軸方向の変位が必須である」という誤った認定に基づくものである。
(1)請求人の主張する理由は、「作用点PにX軸方向の力が作用した場合に、変位基板20をZ軸方向に変位させることが固定電極11と変位電極21〜24との電極間距離を増減させるために必須であるところ、本件特許の請求項1には、変位要素がZ軸方向に変位することが規定されていないので、請求項1に係る発明は、必要な事項を欠いており、不明確である」というものである。
しかしながら、本件特許発明において、「X軸方向の力を検出する際に、変位要素にZ軸方向の変位が生じること」は必須ではなく、必要な事項ではない。
したがって、請求項1及び6の記載は十分明確であり、不備はない。
(2)請求人は、本件特許の請求項1の記載に関して、構成要件Dについて、「第1の固定電極」、「第2の固定電極」、「第3の固定電極」、「第4の固定電極」とは、同一のものを指すのか、異なるものを指すのか不明確であり、構成要件Eについて、「第1の変位電極」、「第2の変位電極」、「第3の変位電極」、「第4の変位電極」とは、同一のものを指すのか、異なるものを指すのか不明確であり、構成要件Eについて、「前記変位要素の変位とともに変位するように」とは、「第1の変位電極」、「第2の変位電極」、「第3の変位電極」、「第4の変位電極」がどちらの方向に変位するのか不明確であるとの主張を行っている。
この請求人の主張は、請求項1に記載されている「第1の固定電極」、「第2の固定電極」、「第3の固定電極」、「第4の固定電極」、「第1の変位電極」、「第2の変位電極」、「第3の変位電極」、「第4の変位電極」なる8枚の電極と、実施例に示されている物理的な電極とが、1対1の対応関係にない、との主張のように見受けられる。
しかしながら、請求項1には、「自然法則を利用した技術的思想の創作」としての発明の構成要素が記載されているのであり、上記8枚の電極は、発明の原理的な構成要素に相当するものである。これに対して、実施例には、物理的なセンサの構造が描かれており、各電極は具体的な物体から構成されている。したがって、両者が1対1の対応関係にないからといって、請求項の記載が不明確になるわけではない。
本件特許権者は、本件特許明細書の段落【0035】に、「電極の形成パターンを変えた実施形態」を開示しており、しかも、請求項5として、「請求項1〜4のいずれかに記載の力検出装置において、複数の変位電極または複数の固定電極のいずれか一方を、物理的に単一の共通電極によって形成したことを特徴とする力検出装置。」なる請求項を置き、このような「物理的な電極構成」をもったセンサも、本件特許発明の範疇であることを明確にしている。
また、請求人は、請求項1における「前記変位要素の変位とともに変位するように」とは、「第1の変位電極」、「第2の変位電極」、「第3の変位電極」、「第4の変位電極」がどちらの方向に変位するのか不明確である、と主張しているが、請求項1に記載された発明の基本原理では、「変位要素がX軸正方向に変位した場合には、第1の容量素子の電極間距離が減少し、第2の容量素子の電極間距離が増加し、」という事項が実現できれば足りるのであり、個々の変位電極がどの方向に変位するかは不問である。請求人は、一実施例の固有の動作のみに拘泥して、「各変位電極がZ軸方向に変位することが必須である」と結論づけているが、既に述べたとおり、本件特許発明において、「X軸方向の力を検出する際に、変位要素にZ軸方向の変位が生じること」は必須ではなく、請求人の主張は失当である。

第5 当審の判断
1 無効理由1について
請求人は、本件特許の請求項1には変位要素がZ軸方向に変位することが規定されておらず、本件特許の請求項1の記載は矛盾があり、本件特許の請求項1に係る発明は、動作不能である未完成発明であり、本件特許の請求項1に係る特許は、特許法29条1項柱書の規定に違反してされたというべきであり、同様の理由から、本件特許の請求項6に係る特許も、同法29条1項柱書の規定に違反してされたというべきであると主張する。
本件特許の請求項1に係る発明は、上記請求項1に記載した事項を発明の構成に欠くことができない事項とするものであり、この請求項1に記載のない事項は発明の構成に欠くことができない事項ではない。上記請求項1には変位要素がZ軸方向に変位するとの記載はされていないが、変位要素がZ軸方向に変位しないとの記載もされていない。そうすると、本件特許の請求項1に係る発明は、変位要素がZ軸方向に変位することを排除するものではない。そして、変位要素がZ軸方向に変位する場合の例については発明の詳細な説明及び図面に記載されているところであるから、本件特許の請求項1に係る発明が動作不能であるということはできない。
請求人は、また、構成要件Eの記載を特許請求の範囲の記載に基づいて解釈すると、構成要件G1及びG2の記載と矛盾するとも主張する。
本件特許の請求項1には構成要件Eとして「前記変位要素の変位とともに変位するように前記変位要素上に形成された第1の変位電極、第2の変位電極、第3の変位電極、第4の変位電極と、を備え」との記載がされており、第1の変位電極から第4の変位電極までが変位要素の変位とともに変位することが規定されているが、この構成要件Eは第1の軸方向、第2の軸方向、その他の軸方向への変位、固定電極と変位電極の位置関係等について規定するものではなく、この構成要件Eからは、変位要素が変位した場合に第1から第4までの容量素子の電極間距離の増減を決定することはできない。そして上記請求項1の構成要件G1及びG2は、この変位要素が変位した場合の第1から第4までの容量素子の電極間距離の増減について規定をするものであり、構成要件Eの記載と構成要件G1及びG2の記載とが矛盾するということはできない。そうすると、本件特許の請求項1に係る発明が動作不能の未完成発明であるということはできない。本件特許の請求項6に係る発明についても同様である。
したがって、本件特許の請求項1及び6に係る特許が特許法29条1項柱書の規定に違反してされたものであるということはできない。
2 無効理由2について
請求人は、変位基板にZ軸方向の変位が生じることは、本件特許掲載公報の図3には示されているものの、本件特許明細書の発明の詳細な説明には明示されておらず、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をできる程度に記載したものではなく、本件特許は、特許法36条3項の規定に違反してされたというべきであると主張する。
しかしながら、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「【0019】・・・図1に示すように、作用点Pに力が作用していない状態では、各容量素子の電極間隔はいずれも同一の寸法に保たれており、静電容量はいずれも標準値C0をとる。すなわち、C1=C2=C3=C4=C0である。ところが、図3あるいは図4に示すように、作用点Pに力が作用し、変位基板20に撓みが生じると、各容量素子の電極間隔は変化し、その静電容量も標準値C0とは異なった値となる。・・・【0020】たとえば、図3に示すように、作用点PにX軸方向の力Fxが作用すると、変位電極21と固定電極11との間隔は遠ざかるため、C1<C0となるが、変位電極23と固定電極11との間隔は接近するため、C3>C0となる。このとき、変位電極22および24と、固定電極11との間隔は、部分的に接近し、部分的に遠ざかるという状態になるため、両部分が相殺し・・・、C2=C4=C0と静電容量に変化は生じない。一方、図4に示すように、作用点PにZ軸方向の力Fzが作用すると、変位電極21〜24と固定電極11との間隔はいずれも接近し、(C1〜C4)>C0となる。このように、作用する力の方向によって、4グループの容量素子の静電容量の変化のパターンは異なる。」等の記載がされており、変位基板にZ軸方向の変位が生じることを示す図3、図4についての言及があり、力が作用することにより変位基板に撓みが生じることも記載されているところであり、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、変位基板にZ軸方向の変位が生じることが記載されているということができる。
請求人は、また、構成要件Eの記載を特許請求の範囲の記載に基づいて解釈すると、構成要件G1及びG2の記載と矛盾するとも主張するが、これについては無効理由1の項で示したとおりであり、構成要件Eの記載と構成要件G1及びG2の記載とが矛盾するということはできない。
したがって、本件特許の請求項1及び6に係る特許が特許法36条3項の規定に違反してされたということはできない。
3 無効理由3について
請求人は、変位基板をZ軸方向に変位させることが必須であるのに対し、本件特許の請求項1には変位要素がZ軸方向に変位することが規定されておらず、本件特許の請求項1に係る発明は発明の詳細な説明に記載したものではなく、同様の理由から、本件特許の請求項6に係る発明も発明の詳細な説明に記載したものではなく、本件特許は特許法36条4項1号の規定に違反してされたというべきであると主張する。
しかしながら、実施例として記載された特定の事項が請求項に記載されていないことをもって、この請求項に係る発明が発明の詳細な説明に記載したものではないということはできない。変位基板をZ軸方向に変位させることは一つの実施例であって、本件特許の請求項1に係る発明の構成要件ではなく、本件特許の請求項1に係る発明が発明の詳細な説明に記載したものではないということはできない。本件特許の請求項6に係る発明についても同様である。
請求人は、また、構成要件Eの記載を特許請求の範囲の記載に基づいて解釈すると、構成要件G1及びG2の記載と矛盾するとも主張するが、これについては無効理由1の項で示したとおりであり、構成要件Eの記載と構成要件G1及びG2の記載とが矛盾するということはできない。
したがって、本件特許の請求項1及び6に係る特許が特許法36条4項1号の規定に違反してされたものであるということはできない。
4 無効理由4について
(1)請求人は、変位基板をZ軸方向に変位させることが必須であるのに対し、本件特許の請求項1には変位要素がZ軸方向に変位することが規定されておらず、本件特許の請求項1に係る発明は必要な事項を欠くから、明確でなく、同様の理由から、本件特許の請求項6に係る発明も、必要な事項を欠くから、明確でなく、本件特許は特許法36条4項2号の規定に違反してされたというべきであると主張する。
しかしながら、実施例として変位基板をZ軸方向に変位させることが記載されているとしても、このような記載により変位基板をZ軸方向に変位させることが発明の必須要件となるということはできない。本件特許の請求項1には「前記変位要素が前記第1の軸の正方向に変位した場合、前記第1の容量素子の電極間距離が減少するとともに前記第2の容量素子の電極間距離が増加し、前記変位要素が前記第1の軸の負方向に変位した場合、前記第1の容量素子の電極間距離が増加するとともに前記第2の容量素子の電極間距離が減少し、前記変位要素が前記第2の軸の正方向に変位した場合、前記第3の容量素子の電極間距離が減少するとともに前記第4の容量素子の電極間距離が増加し、前記変位要素が前記第2の軸の負方向に変位した場合、前記第3の容量素子の電極間距離が増加するとともに前記第4の容量素子の電極間距離が減少するように、前記各固定電極および前記各変位電極が配置されており」等の記載がされ、本件特許の請求項1に係る発明は、このような事項によって発明の目的、効果を達成するものである。そうすると、実施例として記載された変位基板をZ軸方向に変位させることが本件特許の請求項1に係る発明の構成に欠くことができない事項であるということはできない。本件特許の請求項6についても同様である。
したがって、本件特許の請求項1及び6には発明の構成に欠くことができない事項が記載されていないということはできず、本件特許の請求項1及び6に係る特許が特許法36条4項2号の規定に違反してされたということはできない。
(2)請求人は、本件特許の請求項1について、構成要件Dの「第1の固定電極」、「第2の固定電極」、「第3の固定電極」、「第4の固定電極」とは、同一のものを指すのか、異なるものを指すのか不明確であり、構成要件Eの「第1の変位電極」、「第2の変位電極」、「第3の変位電極」、「第4の変位電極」とは、同一のものを指すのか、異なるものを指すのか不明確であり、構成要件Eの「前記変位要素の変位とともに変位するように」とは、「第1の変位電極」、「第2の変位電極」、「第3の変位電極」、「第4の変位電極」がどちらの方向に変位するのか不明確であって構成要件Eは、「第1の変位電極」、「第2の変位電極」、「第3の変位電極」、「第4の変位電極」が第1の軸方向および第2の軸方向に垂直な軸方向に変位するという本件特許発明に必要な事項を欠いており、本件特許は、特許法36条4項2号の規定に違反してされたというべきであると主張する。
しかしながら、本件特許の請求項1には「前記変位要素の変位にかかわらず固定状態を維持するように前記固定要素上に形成された第1の固定電極、第2の固定電極、第3の固定電極、第4の固定電極と、前記変位要素の変位とともに変位するように前記変位要素上に形成された第1の変位電極、第2の変位電極、第3の変位電極、第4の変位電極と、を備え」と記載されると共に、「前記第1の固定電極と前記第1の変位電極とは互いに対向する位置に配置され、前記第1の固定電極と前記第1の変位電極とによって第1の容量素子が形成され、前記第2の固定電極と前記第2の変位電極とは互いに対向する位置に配置され、前記第2の固定電極と前記第2の変位電極とによって第2の容量素子が形成され、前記第3の固定電極と前記第3の変位電極とは互いに対向する位置に配置され、前記第3の固定電極と前記第3の変位電極とによって第3の容量素子が形成され、前記第4の固定電極と前記第4の変位電極とは互いに対向する位置に配置され、前記第4の固定電極と前記第4の変位電極とによって第4の容量素子が形成され」との記載がされており、「第1の固定電極」から「第4の固定電極」までと「第1の変位電極」から「第4の変位電極」までがそれぞれ対向して「第1の容量素子」から「第4の容量素子」までを形成することが示されている。「第1の固定電極」から「第4の固定電極」までが同一のものを指すのか否か、「第1の変位電極」から「第4の変位電極」までが同一のものを指すのか否か、「第1の変位電極」から「第4の変位電極」までがどちらの方向に変位するのかについては規定されていないが、発明の目的、効果を達成するためには「第1の固定電極」から「第4の固定電極」までと「第1の変位電極」から「第4の変位電極」までによって「第1の容量素子」から「第4の容量素子」までが形成され、「第1の変位電極」から「第4の変位電極」までが「変位要素の変位とともに変位」すればよいのであり、「第1の固定電極」から「第4の固定電極」までが同一のものを指すのか否か、「第1の変位電極」から「第4の変位電極」までが同一のものを指すのか否か、「第1の変位電極」から「第4の変位電極」までがどちらの方向に変位するのかについて規定しなければならないということはできない。そうすると、本件特許の請求項1に発明の構成に欠くことができない事項が記載されていないということはできない。本件特許の請求項6についても同様である。
請求人は、構成要件Eの記載を特許請求の範囲の記載に基づいて解釈すると、構成要件G1及びG2の記載と矛盾するとも主張するが、これについては無効理由1の項で示したとおりであり、構成要件Eの記載と構成要件G1及びG2の記載とが矛盾するということはできない。
したがって、本件特許の請求項1及び6には発明の構成に欠くことができない事項が記載されていないということはできず、本件特許の請求項1及び6に係る特許が特許法36条4項2号の規定に違反してされたということはできない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、請求人が主張する理由によっては、本件特許の請求項1及び6に係る特許を無効にすることはできない。
審判に関する費用については、特許法169条2項で準用する民事訴訟法61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-06-01 
結審通知日 2006-06-06 
審決日 2006-06-19 
出願番号 特願平10-210320
審決分類 P 1 123・ 534- Y (G01L)
P 1 123・ 531- Y (G01L)
P 1 123・ 14- Y (G01L)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 瀧 廣往
特許庁審判官 山川 雅也
杉野 裕幸
登録日 2001-01-05 
登録番号 特許第3145979号(P3145979)
発明の名称 力・加速度・磁気の検出装置  
代理人 大塩 竹志  
代理人 山本 秀策  
代理人 中原 敏雄  
代理人 志村 浩  
代理人 鮫島 正洋  

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