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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B23Q
管理番号 1146406
異議申立番号 異議2003-73813  
総通号数 84 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2003-01-21 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-12-26 
確定日 2006-10-13 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3459414号「データム機能付きクランプ装置」の請求項1、2に係る発明についての特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3459414号の請求項1、2に係る発明についての特許を取り消す。 
理由 第1.手続の経緯
本件特許第3459414号の請求項1、2に係る発明についての出願は、平成11年8月3日に出願した特願平11-219504号の一部を平成14年7月2日に新たな特許出願としたものであって、平成15年8月8日にそれらの発明について特許権の設定登録がなされた。
これに対し、平成15年12月26日に、異議申立人パスカルエンジニアリング株式会社より、請求項1、2に係る発明についての特許に対して、特許異議の申立てがなされ、平成17年4月15日付けで取消しの理由が通知され、その指定期間内である平成17年6月23日に意見書の提出及び訂正請求がなされた。

第2.訂正の適否
1.訂正の内容
特許権者の求める訂正の内容は、以下のとおりである。
〈訂正事項a〉
設定登録時の願書に添付した明細書又は図面(以下、「本件特許明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1に記載される、
「基準部材(R)に可動部材(M)を心合わせして上記の基準部材(R)の支持面(S)に上記の可動部材(M)の被支持面(T)を固定するようにしたデータム機能付きクランプ装置であって、
上記の可動部材(M)の上記の被支持面(T)にソケット穴(11)を開口させて、そのソケット穴(11)に位置決め孔(12)と係止孔(13)とを開口端から順に形成し、
上記ソケット穴(11)へ挿入される環状のプラグ部分(21)を上記の基準部材(R)から突設させ、
上記プラグ部分(21)と上記の位置決め孔(12)との間に、直径方向へ拡大および縮小されるシャトル部材(23)を配置し、そのシャトル部材(23)の内周面をストレート面(27)によって構成すると共に同上シャトル部材(23)の外周面をテーパ面(28)によって構成し、上記のストレート面(27)を前記プラグ部分(21)に軸心方向へ移動自在に支持し、上記のテーパ面(28)を、前記の係止孔(13)へ向けてすぼまるように形成すると共に前記の位置決め孔(12)にテーパ係合させ、上記シャトル部材(23)を弾性部材(24)によって上記のテーパ係合を緊密にする方向へ付勢し、
上記のプラグ部分(21)の筒孔(21a)にプルロッド(31)を軸心方向へ移動自在に挿入して、そのプルロッド(31)の外周空間に、半径方向の外方の係合位置(X)と半径方向の内方の係合解除位置(Y)とに移動される係合具(34)を配置し、
上記の基準部材(R)に設けた駆動手段(D)によって上記プルロッド(31)を基端方向へクランプ駆動することにより、そのプルロッド(31)の出力部(36)が上記の係合具(34)を上記の係合位置(X)へ切り換えて前記の係止孔(13)へ係合させて、前記の可動部材(M)を前記の基準部材(R)へ向けて移動させ、
同上の駆動手段(D)によって上記プルロッド(31)を先端方向へアンクランプ駆動することにより、同上の係合具(34)が係合解除位置(Y)へ切り換わるのを許容する、ことを特徴とするデータム機能付きクランプ装置。」を、
「機械のテーブル又はクランプパレットからなる基準部材(R)にワークパレット(3)を固定する複数のクランプ装置のうちの少なくとも一つとして用いられて、上記の基準部材(R)に上記ワークパレット(3)を心合わせして上記の基準部材(R)の支持面(S)に上記ワークパレット(3)の被支持面(T)を固定するようにしたデータム機能付きクランプ装置であって、
上記ワークパレット(3)の上記の被支持面(T)にソケット穴(11)を開口させて、そのソケット穴(11)に位置決め孔(12)と係止孔(13)とを開口端から順に形成し、その係止孔(13)より上記開口端の側だけに上記の位置決め孔(12)を形成し、 上記ソケット穴(11)へ挿入される環状のプラグ部分(21)を上記の基準部材(R)から突設させ、
上記プラグ部分(21)と上記の位置決め孔(12)との間に、直径方向へ拡大および縮小されるシャトル部材(23)を配置し、そのシャトル部材(23)の内周面をストレート面(27)によって構成すると共に同上シャトルシャトル部材(23)の内周面をストレート面(27)によって構成すると共に同上シャトル部材(23)の外周面をテーパ面(28)によって構成し、上記のストレート面(27)を前記プラグ部分(21)に軸心方向へ移動自在に支持し、上記のテーパ面(28)を、前記の係止孔(13)へ向けてすぼまるように形成すると共に前記の位置決め孔(12)にテーパ係合させ、上記シャトル部材(23)を弾性部材(24)によって上記のテーパ係合を緊密にする方向へ付勢し、
上記のプラグ部分(21)の筒孔(21a)にプルロッド(31)を軸心方向へ移動自在に挿入して、そのプルロッド(31)の外周空間に、半径方向の外方の係合位置(X)と半径方向の内方の係合解除位置(Y)とに移動される係合具(34)を配置し、
上記の基準部材(R)に設けた駆動手段(D)によって上記プルロッド(31)を基端方向へクランプ駆動することにより、そのプルロッド(31)の出力部(36)が上記の係合具(34)を上記の係合位置(X)へ切り換えて前記の係止孔(13)へ係合させて、前記ワークパレット(3)を前記の基準部材(R)へ向けて移動させ、
同上の駆動手段(D)によって上記プルロッド(31)を先端方向へアンクランプ駆動することにより、同上の係合具(34)が係合解除位置(Y)へ切り換わるのを許容する、ことを特徴とするデータム機能付きクランプ装置。」と訂正する。
〈訂正事項b〉
本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項2に記載される、
「基準部材(R)に可動部材(M)を心合わせして上記の基準部材(R)の支持面(S)に上記の可動部材(M)の被支持面(T)を固定するようにしたデータム機能付きクランプ装置であって、
上記の可動部材(M)の上記の被支持面(T)にソケット穴(11)を開口させて、そのソケット穴(11)に位置決め孔(12)と係止孔(13)とを開口端から順に形成し、
上記ソケット穴(11)へ挿入される環状のプラグ部分(21)を上記の基準部材(R)から突設させ、
上記プラグ部分(21)と上記の位置決め孔(12)との間に、直径方向へ拡大および縮小されるシャトル部材(23)を配置し、そのシャトル部材(23)の外周面をストレート面(27)によって構成すると共に同上シャトル部材(23)の内周面をテーパ面(28)によって構成し、上記のストレート面(27)を前記の位置決め孔(12)に軸心方向へ移動自在に支持し、上記のテーパ面(28)を、前記の係止孔(13)へ向けてすぼまるように形成すると共に前記プラグ部分(21)にテーパ係合させ、上記シャトル部材(23)を弾性部材(24)によって上記のテーパ係合を緊密にする方向へ付勢し、
上記のプラグ部分(21)の筒孔(21a)にプルロッド(31)を軸心方向へ移動自在に挿入して、そのプルロッド(31)の外周空間に、半径方向の外方の係合位置(X)と半径方向の内方の係合解除位置(Y)とに移動される係合具(34)を配置し、
上記の基準部材(R)に設けた駆動手段(D)によって上記プルロッド(31)を基端方向へクランプ駆動することにより、そのプルロッド(31)の出力部(36)が上記の係合具(34)を上記の係合位置(X)へ切り換えて前記の係止孔(13)へ係合させて、前記の可動部材(M)を前記の基準部材(R)へ向けて移動させ、
同上の駆動手段(D)によって上記プルロッド(31)を先端方向へアンクランプ駆動することにより、同上の係合具(34)が係合解除位置(Y)へ切り換わるのを許容する、ことを特徴とするデータム機能付きクランプ装置。」を、
「機械のテーブル又はクランプパレットからなる基準部材(R)にワークパレット(3)を固定する複数のクランプ装置のうちの少なくとも一つとして用いられて、上記の基準部材(R)に上記ワークパレット(3)を心合わせして上記の基準部材(R)の支持面(S)に上記ワークパレット(3)の被支持面(T)を固定するようにしたデータム機能付きクランプ装置であって、
上記ワークパレット(3)の上記の被支持面(T)にソケット穴(11)を開口させて、そのソケット穴(11)に位置決め孔(12)と係止孔(13)とを開口端から順に形成し、その係止孔(13)より上記開口端の側だけに上記の位置決め孔(12)を形成し、 上記ソケット穴(11)へ挿入される環状のプラグ部分(21)を上記の基準部材(R)から突設させ、
上記プラグ部分(21)と上記の位置決め孔(12)との間に、直径方向へ拡大および縮小されるシャトル部材(23)を配置し、そのシャトル部材(23)の外周面をストレート面(27)によって構成すると共に同上シャトル部材(23)の内周面をテーパ面(28)によって構成し、上記のストレート面(27)を前記の位置決め孔(12)に軸心方向へ移動自在に支持し、上記のテーパ面(28)を、前記の係止孔(13)へ向けてすぼまるように形成すると共に前記プラグ部分(21)にテーパ係合させ、上記シャトル部材(23)を弾性部材(24)によって上記のテーパ係合を緊密にする方向へ付勢し、
上記のプラグ部分(21)の筒孔(21a)にプルロッド(31)を軸心方向へ移動自在に挿入して、そのプルロッド(31)の外周空間に、半径方向の外方の係合位置(X)と半径方向の内方の係合解除位置(Y)とに移動される係合具(34)を配置し、
上記の基準部材(R)に設けた駆動手段(D)によって上記プルロッド(31)を基端方向へクランプ駆動することにより、そのプルロッド(31)の出力部(36)が上記の係合具(34)を上記の係合位置(X)へ切り換えて前記の係止孔(13)へ係合させて、前記ワークパレット(3)を前記の基準部材(R)へ向けて移動させ、
同上の駆動手段(D)によって上記プルロッド(31)を先端方向へアンクランプ駆動することにより、同上の係合具(34)が係合解除位置(Y)へ切り換わるのを許容する、ことを特徴とするデータム機能付きクランプ装置。」と訂正する。
〈訂正事項c〉
本件特許明細書の段落【0001】に記載される「データム機能付きクランプ装置」を「機械のテーブル又はクランプパレットからなる基準部材にワークパレットを固定する複数のクランプ装置のうちの少なくとも一つとして用いられるデータム機能付きクランプ装置」と、「ワークパレット等の可動部材」を「可動部材としてのワークパレット」と、それぞれ訂正する。
〈訂正事項d〉
本件特許明細書の段落【0003】に記載される「基準部材に可動部材」を「基準部材に可動部材としてのワークパレット」と訂正する。
〈訂正事項e〉
本件特許明細書の段落【0004】に記載される、
「・・・基準部材Rに可動部材Mを心合わせして上記の基準部材Rの支持面Sに上記の可動部材Mの被支持面Tを固定するようにしたデータム機能付きクランプ装置であって、上記の可動部材Mの上記の被支持面Tにソケット穴11を開口させて、そのソケット穴11に位置決め孔12と係止孔13とを開口端から順に形成し、・・・前記の可動部材Mを前記の基準部材Rへ向けて移動させ、同上の駆動手段Dによって上記プルロッド31を先端方向へアンクランプ駆動することにより、同上の係合具34が係合解除位置Yへ切り換わるのを許容するものである。」を、
「・・・機械のテーブル又はクランプパレットからなる基準部材Rにワークパレット3を固定する複数のクランプ装置のうちの少なくとも一つとして用いられて、上記の基準部材Rに上記ワークパレット3を心合わせして上記の基準部材Rの支持面Sに上記ワークパレット3の被支持面Tを固定するようにしたデータム機能付きクランプ装置であって、上記ワークパレット3の上記の被支持面Tにソケット穴11を開口させて、そのソケット穴11に位置決め孔12と係止孔13とを開口端から順に形成し、その係止孔13より上記開口端の側だけに上記の位置決め孔12を形成し、・・・前記ワークパレット3を前記の基準部材Rへ向けて移動させ、同上の駆動手段Dによって上記プルロッド31を先端方向へアンクランプ駆動することにより、同上の係合具34が係合解除位置Yへ切り換わるのを許容するものである。」と訂正する。
〈訂正事項f〉
本件特許明細書の段落【0005】に記載される、
「・・・
基準部材に可動部材をクランプするときには、まず、シャトル部材のテーパ面のガイド作用によって上記の可動部材が自動的に調心移動されて、その可動部材の位置決め孔の軸心が上記の基準部材のプラグ部分の軸心に精密に合致する。次いで、上記シャトル部材が弾性部材を圧縮して軸心方向へ移動し、上記の可動部材の被支持面が上記の基準部材の支持面によって受け止められる。このため、上記の可動部材は、上記シャトル部材のテーパ面を介してプラグ部分によって拘束されると共に上記の支持面によっても拘束される。その結果、その可動部材を基準部材に精密かつ強力に位置決め固定できる。本発明によれば、シャトル部材のテーパ面によって可動部材を調心ガイドできるので、その可動部材を基準部材にスムーズに装着できる。また、本発明は、前記の従来例とは異なり、連結される部材間に直径方向の嵌合隙間を無くすことができるので、上記の基準部材と可動部材とを高精度で心合わせできる。・・・しかも、基準部材にシャトル部材を装備したので、1つの基準部材に対して多数の可動部材を着脱する場合では、そのシャトル部材の装備数量が少なくてすみ、クランプシステムを簡素に構成できる。」を、
「・・・
基準部材にワークパレットをクランプするときには、まず、シャトル部材のテーパ面のガイド作用によって上記のワークパレットが自動的に調心移動されて、そのワークパレットの位置決め孔の軸心が上記の基準部材のプラグ部分の軸心に精密に合致する。次いで、上記シャトル部材が弾性部材を圧縮して軸心方向へ移動し、上記のワークパレットの被支持面が上記の基準部材の支持面によって受け止められる。このため、上記のワークパレットは、上記シャトル部材のテーパ面を介してプラグ部分によって拘束されると共に上記の支持面によっても拘束される。その結果、そのワークパレットを基準部材に精密かつ強力に位置決め固定できる。本発明によれば、シャトル部材のテーパ面によってワークパレットを調心ガイドできるので、そのワークパレットを基準部材にスムーズに装着できる。また、本発明は、前記の従来例とは異なり、連結される部材間に直径方向の嵌合隙間を無くすことができるので、上記の基準部材とワークパレットとを高精度で心合わせできる。・・・しかも、基準部材にシャトル部材を装備したので、1つの基準部材に対して多数のワークパレットを着脱する場合では、そのシャトル部材の装備数量が少なくてすみ、クランプシステムを簡素に構成できる。」と訂正する。
〈訂正事項g〉
本件特許明細書の段落【0006】に記載される、
「・・・
即ち、基準部材Rに可動部材Mを心合わせして上記の基準部材Rの支持面Sに上記の可動部材Mの被支持面Tを固定するようにしたデータム機能付きクランプ装置であって、上記の可動部材Mの上記の被支持面Tにソケット穴11を開口させて、そのソケット穴11に位置決め孔12と係止孔13とを開口端から順に形成し、・・・前記の可動部材Mを前記の基準部材Rへ向けて移動させ、同上の駆動手段Dによって上記プルロッド31を先端方向へアンクランプ駆動することにより、同上の係合具34が係合解除位置Yへ切り換わるのを許容するものである。」を、
「・・・
即ち、機械のテーブル又はクランプパレットからなる基準部材Rにワークパレット3を固定する複数のクランプ装置のうちの少なくとも一つとして用いられて、上記の基準部材Rに上記ワークパレット3を心合わせして上記の基準部材Rの支持面Sに上記ワークパレット3の被支持面Tを固定するようにしたデータム機能付きクランプ装置であって、上記ワークパレット3の上記の被支持面Tにソケット穴11を開口させて、そのソケット穴11に位置決め孔12と係止孔13とを開口端から順に形成し、その係止孔13より上記開口端の側だけに上記の位置決め孔12を形成し、・・・前記ワークパレット3を前記の基準部材Rへ向けて移動させ、同上の駆動手段Dによって上記プルロッド31を先端方向へアンクランプ駆動することにより、同上の係合具34が係合解除位置Yへ切り換わるのを許容するものである。」と訂正する。
〈訂正事項h〉
本件特許明細書の段落【0007】に記載される、
「・・・
基準部材に可動部材をクランプするときには、まず、シャトル部材のテーパ面のガイド作用によって上記の可動部材が自動的に調心移動されて、その可動部材の位置決め孔の軸心が上記の基準部材のプラグ部分の軸心に精密に合致する。次いで、上記シャトル部材が弾性部材を圧縮して軸心方向へ移動し、上記の可動部材の被支持面が上記の基準部材の支持面によって受け止められる。このため、上記の可動部材は、上記シャトル部材のテーパ面を介してプラグ部分によって拘束されると共に上記の支持面によっても拘束される。その結果、その可動部材を基準部材に精密かつ強力に位置決め固定できる。本発明によれば、シャトル部材のテーパ面によって可動部材を調心ガイドできるので、その可動部材を基準部材にスムーズに装着できる。また、本発明は、前記の従来例とは異なり、連結される部材間に直径方向の嵌合隙間を無くすことができるので、上記の基準部材と可動部材とを高精度で心合わせできる。・・・」を、
「・・・
基準部材にワークパレットをクランプするときには、まず、シャトル部材のテーパ面のガイド作用によって上記のワークパレットが自動的に調心移動されて、そのワークパレットの位置決め孔の軸心が上記の基準部材のプラグ部分の軸心に精密に合致する。次いで、上記シャトル部材が弾性部材を圧縮して軸心方向へ移動し、上記のワークパレットの被支持面が上記の基準部材の支持面によって受け止められる。このため、上記のワークパレットは、上記シャトル部材のテーパ面を介してプラグ部分によって拘束されると共に上記の支持面によっても拘束される。その結果、そのワークパレットを基準部材に精密かつ強力に位置決め固定できる。本発明によれば、シャトル部材のテーパ面によってワークパレットを調心ガイドできるので、そのワークパレットを基準部材にスムーズに装着できる。また、本発明は、前記の従来例とは異なり、連結される部材間に直径方向の嵌合隙間を無くすことができるので、上記の基準部材とワークパレットとを高精度で心合わせできる。・・・」と訂正する。
〈訂正事項h〉
本件特許明細書の段落【0033】に記載される「前記の可動部材Mは、例示したワークパレット3に代えてワークピースであってもよい。」を削除する。
〈訂正事項i〉
本件特許明細書の段落【0034】に記載される「また、本発明のデータム機能付きクランプ装置は、ワークパレットやワークピースのクランピングの用途に限定されるものではなく、金型やアタッチメント等のクランピングにも利用できることは勿論である。そのデータム機能付きクランプ装置」を「クランプシステムに利用されるデータム機能付きクランプ装置」と訂正する。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
訂正事項a、bは、本件特許明細書の段落【0033】の記載に基づいて、「基準部材(R)」を「機械のテーブル又はクランプパレットからなる」ものに限定し、段落【0011】の記載に基づいて「可動部材(M)」を「ワークパレット(3)」に限定し、段落【0010】、【0011】、【0014】及び【0034】の記載に基づいて、「データム機能付きクランプ装置」を「基準部材(R)にワークパレット(3)を固定する複数のクランプ装置の少なくとも一つとして用いられ」るものに限定し、段落【0016】、【図2】及び【図5】の記載に基づいて、「位置決め孔(12)」を「係止孔(13)より上記開口端の側だけに形成」することに限定するものであるから、いずれも、特許請求の範囲の減縮を目的とする明細書の訂正に該当し、新規事項の追加に該当しない。
また、訂正事項c〜iは、上記訂正事項a、bと整合を図るものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする明細書の訂正に該当し、新規事項の追加に該当しない。
そして、訂正事項a〜iは、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項、並びに、同条第3項において準用する特許法第126条第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

第3.特許異議の申立てについて
1.本件発明
上記第2.で示したように上記訂正が認められるから、本件の請求項1、2に係る発明は、上記訂正に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定される次のとおりである。
【請求項1】機械のテーブル又はクランプパレットからなる基準部材(R)にワークパレット(3)を固定する複数のクランプ装置のうちの少なくとも一つとして用いられて、上記の基準部材(R)に上記ワークパレット(3)を心合わせして上記の基準部材(R)の支持面(S)に上記ワークパレット(3)の被支持面(T)を固定するようにしたデータム機能付きクランプ装置であって、
上記ワークパレット(3)の上記の被支持面(T)にソケット穴(11)を開口させて、そのソケット穴(11)に位置決め孔(12)と係止孔(13)とを開口端から順に形成し、その係止孔(13)より上記開口端の側だけに上記の位置決め孔(12)を形成し、
上記ソケット穴(11)へ挿入される環状のプラグ部分(21)を上記の基準部材(R)から突設させ、
上記プラグ部分(21)と上記の位置決め孔(12)との間に、直径方向へ拡大および縮小されるシャトル部材(23)を配置し、そのシャトル部材(23)の内周面をストレート面(27)によって構成すると共に同上シャトルシャトル部材(23)の内周面をストレート面(27)によって構成すると共に同上シャトル部材(23)の外周面をテーパ面(28)によって構成し、上記のストレート面(27)を前記プラグ部分(21 )に軸心方向へ移動自在に支持し、上記のテーパ面(28)を、前記の係止孔(13)へ向けてすぼまるように形成すると共に前記の位置決め孔(12)にテーパ係合させ、上記シャトル部材(23)を弾性部材(24)によって上記のテーパ係合を緊密にする方向へ付勢し、
上記のプラグ部分(21)の筒孔(21a)にプルロッド(31)を軸心方向へ移動自在に挿入して、そのプルロッド(31)の外周空間に、半径方向の外方の係合位置(X)と半径方向の内方の係合解除位置(Y)とに移動される係合具(34)を配置し、
上記の基準部材(R)に設けた駆動手段(D)によって上記プルロッド(31)を基端方向へクランプ駆動することにより、そのプルロッド(31)の出力部(36)が上記の係合具(34)を上記の係合位置(X)へ切り換えて前記の係止孔(13)へ係合させて、前記ワークパレット(3)を前記の基準部材(R)へ向けて移動させ、
同上の駆動手段(D)によって上記プルロッド(31)を先端方向へアンクランプ駆動することにより、同上の係合具(34)が係合解除位置(Y)へ切り換わるのを許容する、ことを特徴とするデータム機能付きクランプ装置。(以下、「本件発明1」という。)
【請求項2】機械のテーブル又はクランプパレットからなる基準部材(R)にワークパレット(3)を固定する複数のクランプ装置のうちの少なくとも一つとして用いられて、上記の基準部材(R)に上記ワークパレット(3)を心合わせして上記の基準部材(R)の支持面(S)に上記ワークパレット(3)の被支持面(T)を固定するようにしたデータム機能付きクランプ装置であって、
上記ワークパレット(3)の上記の被支持面(T)にソケット穴(11)を開口させて、そのソケット穴(11)に位置決め孔(12)と係止孔(13)とを開口端から順に形成し、その係止孔(13)より上記開口端の側だけに上記の位置決め孔(12)を形成し、
上記ソケット穴(11)へ挿入される環状のプラグ部分(21)を上記の基準部材(R)から突設させ、
上記プラグ部分(21)と上記の位置決め孔(12)との間に、直径方向へ拡大および縮小されるシャトル部材(23)を配置し、そのシャトル部材(23)の外周面をストレート面(27)によって構成すると共に同上シャトル部材(23)の内周面をテーパ面(28)によって構成し、上記のストレート面(27)を前記の位置決め孔(12)に軸心方向へ移動自在に支持し、上記のテーパ面(28)を、前記の係止孔(13)へ向けてすぼまるように形成すると共に前記プラグ部分(21)にテーパ係合させ、上記シャトル部材(23)を弾性部材(24)によって上記のテーパ係合を緊密にする方向へ付勢し、
上記のプラグ部分(21)の筒孔(21a)にプルロッド(31)を軸心方向へ移動自在に挿入して、そのプルロッド(31)の外周空間に、半径方向の外方の係合位置(X)と半径方向の内方の係合解除位置(Y)とに移動される係合具(34)を配置し、
上記の基準部材(R)に設けた駆動手段(D)によって上記プルロッド(31)を基端方向へクランプ駆動することにより、そのプルロッド(31)の出力部(36)が上記の係合具(34)を上記の係合位置(X)へ切り換えて前記の係止孔(13)へ係合させて、前記ワークパレット(3)を前記の基準部材(R)へ向けて移動させ、
同上の駆動手段(D)によって上記プルロッド(31)を先端方向へアンクランプ駆動することにより、同上の係合具(34)が係合解除位置(Y)へ切り換わるのを許容する、ことを特徴とするデータム機能付きクランプ装置。(以下、「本件発明2」という。)

2.刊行物記載の発明(事項)
当審における取消しの理由に引用され、本願の出願前に国内又は米国において頒布された刊行物である特開平7-314270号公報(以下、「刊行物1」という。)、特開昭64-11743号公報(以下、「刊行物2」という。)、特許第2784150号公報(以下、「刊行物3」という。)及び米国特許第4747735号明細書(以下、「刊行物4」という。)には、以下の事項が記載されている。

(1)刊行物1(特開平7-314270号公報:発明の名称「パレットのクランプ装置」、平成7年12月5日公開)
(イ)段落【0019】〜【0020】
「【0019】 マシニングセンタ等では、1台のテーブル1に対して通常複数個(例えば12個)のパレット20が使用されており、テーブル1に対してパレット20をAPCにより順次交換して、パレット20上に載置されたワーク21を加工するようになっている。
したがって、各パレット20相互の互換性、即ち全てのパレット20が常にテーブル1に対して例えば水平,垂直両方向に関して高精度にクランプされることが要求されている。
パレット20は、パレットのクランプ装置22によりテーブル1に着脱可能にクランプされており、上述のようにテーブル1を割出すことによりワーク21は所定の位置及び方向に位置決めされる。
【0020】 図1及び図2に示すように、クランプ装置22は、少なくとも4組のクランプ機構30,31を備えている。クランプ機構30,31は、パレット20の裏面23側に設けられたパレット側装着部24のメス側テーパ穴25及び端面26に、テーブル1に設けられたオス側テーパ面27及び端面28をそれぞれ密着させて、パレット20をテーブル1に着脱可能に装着している。これにより、パレット側装着部24はテーブル1に対してテーパ面部と端面部との二面拘束によりクランプされる。」
(ロ)段落【0024】〜【0026】
「【0024】 凹部32は、パレット裏面23に設けられた突出部36に形成されており、凹部32内に装着されたメス側テーパブッシュ34は、複数の締付けボルト37により突出部36に締結固定されている。
テーパブッシュ34のフランジ部38と突出部36との間には厚みの微調節が可能なスペーサ39が介装されており、これにより、テーパブッシュ34をパレット20に対して縦方向(例えば、上下垂直方向即ちY軸方向)に関して精密に位置決め固定している。
【0025】 オス側テーパ面27及び端面28を有するオス側テーパピン40が、複数の締付けボルト41によりテーブル1に位置決め固定されている。テーパピン40の下方には円筒状突出部42が一体的に形成されており、この突出部42が、テーブル1に形成された大径シリンダ43に嵌合することにより、テーパピン40は水平方向について精密に位置決めされている。
また、テーパピン40のフランジ部44とテーブル1の上面46との間に、厚みの微調節が可能なスペーサ45を介装することにより垂直方向についても精密に位置決めしている。
【0026】 テーパブッシュ34及びテーパピン40は、テーパ穴25にテーパ面27が密着し、且つ平面状のメス側端面26に平面状のオス側端面28が密着して二面拘束状態になるように高精度に形成されている。」
(ハ)段落【0029】〜【0030】
「【0029】 テーブル1には、大径シリンダ43に連通し且つこれと同心の小径シリンダ50が形成されている。Y軸方向に往復動するピストン51が小径シリンダ50及びテーパピン40の内周面40aに摺動自在に嵌合している。ピストン51の下側のシリンダ室52及び上側のシリンダ室53には、それぞれ圧力油を供給してピストン51を押し上げるための流路54及びピストン51を押し下げるための流路55がそれぞれ連通している(図1参照)。
小径シリンダ50の下方には、これに連通し且つ同心で小径の有底凹部56が形成されている。有底凹部56とピストン51の凹部51aとの間にはばね(例えばコイルばね)57が介装されてピストン51を常にクランプ動作側すなわち上方に付勢している。
【0030】 テーパピン40に放射状に形成された複数(例えば3個)の貫通孔65内にはそれぞれボール58が遊嵌されている。各ボール58は、テーパピン40の半径方向に移動可能になっており、またテーパブッシュ34に形成された環状溝59内に移動できるようになっている。ピストン51の上部には、ボール58に接触してこれを半径方向に進退移動させるためのテーパ面61が形成されている。
テーパピン40の上端開口部は、ごみ等の侵入防止のためのキャップ47により密閉されており、キャップ47にはエアーブロー用の小孔48が穿設されている。」
(ニ)段落【0033】
「【0033】 また、本実施例ではクランプ動作中にボール58がテーパブッシュ34のテーパ状底面60を押圧する押圧点Sが、互いに密着する両端面26,28の近傍に位置するようになっている。また、各押圧点Sはクランプ機構30,31の中心位置から半径方向外方にかなり離れた位置にある。従って、テーパピン40に対してテーパブッシュ34が傾くことなく安定した姿勢で装着されることとなり、位置決め精度が向上する。」
(ホ)段落【0034】〜【0038】
「【0034】 次に、クランプ装置22の動作について説明する。
上述のようにパレット中心Cを基準にして各クランプ機構30,31が予め正確に位置決めされたパレット20が図示しないAPCによりテーブル1に運ばれ、パレット側装着部24をテーブル1のテーパピン40に嵌合させる。
【0035】 次いで、油圧装置を動作させて流路54を介して圧油を下側シリンダ室52に供給すると、ピストン51は油圧とばね57のばね力により押し上げられる。すると、ピストン上部のテーパ面61に押圧されたボール58が、テーパピン40の半径方向外方に押されて、環状溝59側に移動する。ボール58は、テーパピン40の貫通孔65内に遊嵌されているので、貫通孔65の上部内周面66に当接した状態でテーパブッシュ34のテーパ状底面60を矢印Pに示すように略下方に押圧する。これにより、テーパブッシュ34はテーパピン40側に強く引っ張られる。
こうしてピストン51が十分に上昇すると、ボール58の押圧力を介してテーパブッシュ34とテーパピン40とはテーパ面部と端面部とが二面拘束状態で強い圧力で密着してクランプ状態となる。その後、ワーク21を加工する作業工程に移行する。
【0036】 次に、アンクランプ動作の際には、流路54を開放し流路55から圧油を上側シリンダ53に供給する。すると、ピストン51はばね57のばね力に抗して下方に押し下げられるので、ボール58は開放されてピストン51側に移動し、これによりクランプ装置22はアンクランプ状態になり、パレット20はAPCによりテーブル1から離脱する。
【0037】 従って、本実施例によれば、テーパ面部と端面部との二面拘束によりパレット20をテーブル1に装着しているので、横方向(水平方向)と縦方向(上下方向)双方の繰り返し位置決め精度が高精度になる。また、テーパ面部に加えて端面部も密着するので、パレット20をテーブル1に強いクランプ力でクランプすることができる。
【0038】 このように、クランプ装置22は、テーブル1に対して各パレット20を常に正確な位置に繰り返し位置決めする機能と、ワーク21の加工作業中にパレット20に加わる反力に対してパレット20を強固にクランプする機能とを具備することとなる。よって、ワーク21を常に高精度で加工することができる。」
これらの摘記事項及び図2、3の記載からみて、刊行物1には、次の発明(以下、「刊行物1記載の発明」という。)が記載されていると認められる。
『マシニングセンタ等のテーブル1にメス側テーパブッシュ34を一体化したパレット20を固定する4組のクランプ機構30,30,31,31のうちの2つとして用いられて、上記のテーブル1に上記パレット20を心合わせして上記のテーブル1の端面28に上記のパレット20の端面26を固定するようにしたクランプ機構30,30であって、
上記のパレット20の上記の端面28に凹部を開口させて、その凹部にメス側テーパ穴25の下部部分と環状溝59とメス側テーパ穴25の上部部分とを開口端から順に形成し、
上記凹部へ挿入される環状のオス側テーパピン40を上記のテーブル1から突設させ、
上記のオス側テーパピン40の筒孔21aにピストン51を軸心方向へ移動自在に挿入して、そのピストン51の外周空間に、半径方向の外方の係合位置と半径方向の内方の係合解除位置とに移動されるボール58を配置し、
上記のテーブル1に設けた圧力油流路54、55の圧力油及びコイルばね57によって上記ピストン51を先端方向へクランプ駆動することにより、そのピストン51のテーパ面61が上記のボール58を上記の係合位置へ切り換えて前記の環状溝59へ係合させて、前記のパレット20を前記のテーブル1へ向けて移動させ、
同上の圧力油流路54、55の圧力油及びコイルばね57によって上記ピストン51を基端方向へアンクランプ駆動することにより、同上のボール58が係合解除位置へ切り換わるのを許容するように構成した、
クランプ機構30,30』

(2)刊行物2(特開昭64-11743号公報:発明の名称「2つの物体を相互に取外し可能にかつ繰返し可能にクランプするための装置」、昭和64年1月17日公開)の第2頁右下欄14行〜第3頁右上欄15行
「[実施例」
・・・図面において、1は装置テーブルを示し、2は工作テーブルまたは固定台を示す。工作テーブル1(「装置テーブル1」の誤記と認められる。)には・・・円筒形ハウジング3が固定される。・・・
ハウジング3にはさらに上部外周部に切頭円錐面15・・・が設けられる。
工作テーブル(固定台)2は・・・その縁部には環状の肩材19が設けられる。・・・この環状肩材19のフランジ部19’にはリング22が固定される。この環状肩材19,19’は・・・工作テーブル2に固定される。リング22の内面にはハウジング3の円錐面15と協働するための円錐面25が形成される。リング22はその外周部に2つの半径方向のスプリング26を有し、これらのスプリングによりリング22が肩材19,19’内に固定支持される。これらのスプリング26の配置により、リング22従ってその円錐面25がZ方向すなわち前述の軸16と平行な方向に弾発動作可能となる。」
上記の摘記事項及び図1の記載からみて、刊行物2には、次の事項(以下、「刊行物2記載の事項」という。)が記載されていると認められる。
『装置テーブル1に工作テーブル2を心合わせして上記の装置テーブル1に上記工作テーブル2を固定するようにした心合わせ機能付きクランプ装置において、
装置テーブル1に固定した円筒形ハウジング3の上部外周部に設けた切頭円錐面15と工作テーブル2に固定した環状肩材19に固定支持されるリング22内面の円錐面25とが協働して心合わせを行うこと。』

(3)刊行物3(特許第2784150号公報:発明の名称「工具ホルダー」、平成10年8月6日発行)
(イ)段落【0017】〜【0021】
「【0017】【実施例】 以下、本発明の実施例を図面に基づき説明する。
図1において、本発明の工具ホルダーは、工作機械の主軸1 のテーパ孔2 に嵌合するスリーブ3 と、該スリーブ3 に軸方向相対移動を許容されて挿通されたシャンク部4 と、該シャンク部4 と一体的に設けられて前記主軸の端面に当接するフランジ部5 と、該フランジ部5 と前記スリーブ3 との間に設けられた弾性部材6 とを有する。
・・・
【0019】 前記スリーブ3 は、内外周面を有するリング状体で、その外周面がテーパ面に形成され、その内周面はストレート面に形成されている。このテーパ面のテーパ角度は、前記主軸1 のテーパ孔2 のテーパ角度と同じとされている。このテーパは、一般的な傾きとして採用される7/24(約16°)、好ましくは12°より緩傾斜で行われるようにしてある。本実施例では1/10の傾き(約6°)を採用した。
・・・
【0021】 前記フランジ部5 のシャンク部側の端面は、前記工作機械の主軸1 の端面に面接当する平坦面に形成されている。そして、このフランジ部5 の平坦面の内周部側に、弾性部材取付座11が形成されている。この取付座11は、前記平坦面に凹設された環状凹部からなる。
図2に示すように、前記弾性部材6 は、環状に形成され、前記取付座11の凹部に収納され、そして、前記スリーブ3 の端面に当接している。そして、環状弾性部材6 の内周面は、前記シャンク部外周面に密着状に接触し、その外周面は、取付座11の凹部内周面と所定の間隙を有している。」
(ロ)段落【0031】
「【0031】 このとき、スリーブ3 は弾性部材6 の圧縮による反発力により軸方向に押圧され、該押圧力により、スリーブ3 のテーパ面と主軸1 のテーパ孔2 とのテーパ接触結合が得られる。そして、このテーパ接触による締め付けによりスリーブ3 の内径は縮径し、シャンク部4 を強固に把持する。・・・」
これらの摘記事項及び図1の記載からみて、刊行物3には、次の事項(以下、「刊行物3記載の事項」という。)が記載されていると認められる。
『主軸1に工具ホルダー本体8を心合わせして上記の主軸1に上記工具ホルダー本体8を固定するようにした心合わせ機能付きクランプ装置において、
工具ホルダー本体8と主軸1のテーパ孔2との間に、直径方向に拡大及び縮小されるスリーブ3を配置し、そのスリーブ3の内周面をストレート面によって構成すると共に同上スリーブ3の外周面をテーパ面によって構成し、上記ストレート面を工具ホルダー本体8のシャンク部4に軸心方向へ移動自在に支持し、上記テーパ面をその先端へ向けてすぼまるように形成すると共に前記のテーパ孔2にテーパ係合させ、上記スリーブ3を弾性部材6によって上記テーパ係合を緊密に付勢すること。』

(4)刊行物4(米国特許第4747735号明細書:発明の名称「ツールホルダ及び解除可能な搭載方法」、1988年3月31日発行)の第3欄55行〜第5欄20行
「図2を参照すると、ツールホルダ10は、ツール支持部材34にロック部材36を介して弾性的に搭載(すなわちロックアップ)されている。・・・上記のロック部材36とロックロッド38と本体42との組み合わせによりロック機構が構成されている。
・・・ロックロッド38の前端には2つの円筒凹部状の当接傾斜路44が形成され、ロックロッド38が引っ張られて図2に示す後退位置に保持される時、上記の当接傾斜路44が、本体42の開口部24を通して球体36を外側へ移動させる。ツールホルダを取り外す為にロックロッド38が前側へ押動されたとき、球体36は凹部46に受容され、ツールホルダを取り外し可能になる。
ロック状態では、ロックボール(36)は傾斜路44により外側へ移動しているため、ロックボールは、開口部24における前向き凹状当接面26と、本体42の開口部48における後向き凹面50に当接する状態に駆動される。こうして、ツール支持部材34の穴51に挿入されているツールホルダ10のシャンク14に対して、後向き成分と径方向外向き成分のある力が作用する。
この力の後向き成分が、X-X軸回りの、第1回転面20を穴の前向き回転面52に嵌合させる。この前向き回転面52は、半径方向内側に面しており、後方側に向かって小径化するようにテーパになっており、図示のように好ましくは円錐状であり、シャンク14の第1回転面20と同じ角度でテーパ化している。シャンク14の第1回転面20と穴の前向き回転面52は、弾性的に密着し、ツールホルダ6の後向き面16がツール支持部材34の前向き面54に当接する。シャンク14に作用する前記の力の径方向外向き成分は、第2回転面22の少なくとも一部・・・を弾性的に拡大させて、X-X軸回りの後向き回転面56に密着させる。穴の内周面56は、シャンク14の円周面22に完全に密着させるために、好ましくは凹状円周面に形成される。
・・・図2に示すように、本体42はツール支持部材34の穴に係合され、それをツール支持部材34に連結する4つのボルト58により固定されている。ロックロッド38とロック部材36は、ロック状態では自己調心するように、本体の通路40と半径方向開口48に夫々緩く係合している。
ツールホルダのシャンクがない状態では、ロック部材はロックロッド38と穴51により、夫々の開口に緩く保持されている。開口48がある所の本体42の外径に関して、それと本体42の穴直径との間の間隔は、開口48から突き出したロック部材36が、シャンク48の端部が挿入された際に開口側へ押し戻されるように、十分小さくなるように設定されている。ロックロッド38は、ロックロッドに固定した長円形ラグ60を本体42に形成した長円形リセス62に収容してなるキーとキー溝との係合により回転しないように通路40に保持されている。
ロックロッド38の後端には、ロックロッド38を一般的な手段により往復運動させる為のネジ部材64が設けられ、ロックロッド38をツール支持部材34に対して後退位置に保持してシャンクをロックし、また、ロックロッドを前進位置に移動させてシャンクをアンロックしてから、ロックロッドの前端の当接面66を、シャンク14の円筒部の内側のシャンク押出し面68に当接させることにより、シャンクをツール支持部材34から前方へ離脱させる。
図2に示す一般的な往復運動手段は、ロックロッド38のネジ部材64に螺合されたトルクナット69であって、本体42の後端部分の内部に回転自在に収容されてスラストニードルローラベアリング71付きの上下のスラストワッシャ70間に支持されたトルクナット69からなるトルクナットユニットである。このトルクナットユニットの全体は、環状肩部72と係止リング74との間に軸方向には移動しないように保持されている。トルクナット69の後端部75は、回転駆動される一般的な回転部材(図示略)に連動連結されてトルクナット69を回転させ、これによりロックロット38を前進させたり後退させたりする。」
上記の摘記事項及び図2の記載からみて、刊行物4には、次の事項(以下、「刊行物4記載の事項」という。)が記載されていると認められる。
『ツール支持部材34にツールホルダ10のシャンク14を固定するようにしたクランプ装置において、
ロックロッド38を基端方向へクランプ駆動することによってシャンク14をツール支持部材へ向けて移動させるものであり、また、ロックロッド38を先端方向へアンクランプ駆動するものであること。』

3.対比
(1)本件発明1について
本件発明1と刊行物1記載の発明とを対比すると、後者の「マシニングセンタ等のテーブル1」が前者の「機械のテーブル又はクランプパレットからなる基準部材R」に、後者の「メス側テーパブッシュ34を一体化したパレット20」が前者の「ワークパレット3」に、後者の「テーブル1の端面28」が前者の「基準部材Rの支持面S」に、後者の「パレット20の端面26」が前者の「ワークパレット3の被支持面T」に、後者の「4組のクランプ機構30,30,31,31」が前者の「複数のクランプ装置」に、後者の「凹部」が前者の「ソケット穴11」に、後者の「環状溝59」が前者の「係止孔13」に、後者の「環状のオス側テーパピン40」が前者の「環状のプラグ部分21」に、後者の「ピストン51」が前者の「プルロッド31」に、後者の「ボール58」が前者の「係合具34」に、後者の「圧力油流路54、55の圧力油及びコイルばね57」が前者の「駆動手段D」に、後者の「ピストン51のテーパ面61」が前者の「プルロッド31の出力部36」に、後者の「環状溝59」が前者の「係止孔13」に、それぞれ相当することは、各部材の構造、機能から明らかである。また、後者の「クランプ装置30,30」は、心合わせ機能すなわちデータム機能を有することは、その機能から明らかであるから、前者の「データム機能付きクランプ装置」と言いうるものである。
そして、後者の「メス側テーパ穴25の下部部分」は、「メス側テーパ穴25の上部部分」とともに、前者の「位置決め孔12」に相当する。
刊行物1記載の発明における「メス側テーパ穴25の下部部分」について、特許権者は、
(イ)刊行物1の図3、4には、オス側テーパピンの根本部分は厚肉状で、かつ、フランジ部と一体形成され、弾性変形し難い形状として示されていること、
(ロ)メス側テーパ穴25の下部テーパ面には、クランプ用ボールの応力により、半径方向内方への膨出部が形成されることから、
刊行物1記載の発明で実質的な位置決め孔としての機能はメス側テーパ穴の上部部分が発揮し、「メス側テーパ穴25の下部部分」は単なるガイド穴程度の機能しか奏しないと解され、本件発明1の「位置決め孔12」に相当するものではないと主張する(意見書第8頁21行〜第11頁17行)。
そこで、上記主張について検討するに、刊行物1には、「テーパブッシュ34及びテーパピン40は、テーパ穴25にテーパ面27が密着し、・・・二面拘束状態になるように高精度に形成されている。」と明記されており(段落【0026】)、テーパ穴25の上部分部分のみが位置決めに関与し、下部部分は位置決めに関与しないことを窺わせる記載はないことからすれば、刊行物1記載の発明において、テーパ穴25の上部分部分のみならず下部部分も位置決めに関与しているとするのが相当である。そして、特許図面は、本件発明の構成を説明する便宜のために描かれるものであって、明細書にはオス側テーパピンの肉厚形状について何ら記載されていないことから、特許権者が上記(イ)の主張の前提とする、オス側テーパピンの根本部分が厚肉状であることが、刊行物1に記載されているとは認め得ない。また、クランプ状態において、特許権者の主張するように、テーパ穴の下部部分に膨出部が発生するとしても、当該膨出部の大きさはクランプ用ボールに対する加圧力等に影響されることを勘案すると、刊行物1記載の発明における「メス側テーパ穴25の下部部分」に、オス側テーパピンの根本部分のテーパ面とのテーパ係合を妨げる程大きな膨出部が必ず発生すると認めるに足る根拠は見出せない。したがって、刊行物1記載の「メス側テーパ穴25の下部部分」が本件発明1の「位置決め孔12」に相当するものではないとする特許権者の主張は採用できない。

そうすると、両者の一致点及び相違点は、以下のとおりである。
〈一致点1〉
機械のテーブル又はクランプパレットからなる基準部材にワークパレットを固定する複数のクランプ装置のうちの少なくとも一つとして用いられて、上記の基準部材に上記ワークパレットを心合わせして上記の基準部材の支持面に上記ワークパレットの被支持面を固定するようにしたデータム機能付きクランプ装置であって、
上記ワークパレットの上記の被支持面にソケット穴を開口させて、そのソケット穴に位置決め孔と係止孔とを開口端から順に形成し、
上記ソケット穴へ挿入される環状のプラグ部分を上記の基準部材から突設させ、
上記のプラグ部分の筒孔にプルロッドを軸心方向へ移動自在に挿入して、そのプルロッドの外周空間に、半径方向の外方の係合位置と半径方向の内方の係合解除位置とに移動される係合具を配置し、
上記の基準部材に設けた駆動手段によって上記プルロッドをクランプ駆動することにより、そのプルロッドの出力部が上記の係合具を上記の係合位置へ切り換えて前記の係止孔へ係合させて、前記ワークパレットを前記の基準部材へ向けて移動させ、
同上の駆動手段によって上記プルロッドをアンクランプ駆動することにより、同上の係合具が係合解除位置へ切り換わるのを許容するように構成した、データム機能付きクランプ装置。
〈相違点1〉
前者は、係止孔より開口端の側だけに位置決め孔を形成しているのに対して、後者は、係止孔より開口端の側に加えて、頂壁側にも位置決め孔を形成している点。
〈相違点2〉
前者は、プルロッドを基端方向へクランプ駆動し、それによりワークパレットを基準部材へ向けて移動させ、また、プルロッドを先端方向へアンクランプ駆動するものであるのに対して、後者は、プルロッドを先端方向へクランプ駆動し、また、プルロッドを基端方向へアンクランプ駆動するものである点。
〈相違点3〉
前者は、プラグ部分と位置決め孔との間に、直径方向へ拡大および縮小されるシャトル部材を配置し、そのシャトル部材の内周面をストレート面によって構成すると共に同上シャトル部材の外周面をテーパ面によって構成し、上記ストレート面を前記プラグ部分に軸心方向へ移動自在に支持し、上記テーパ面を、前記の係止孔へ向けてすぼまるように形成すると共に前記の位置決め孔にテーパ係合させ、上記シャトル部材を弾性部材によって上記テーパ係合を緊密にする方向へ付勢するものであるのに対して、後者は、シャトル部材を備えてなく、そのシャトル部材と位置決め孔とのテーパ係合を緊密にする方向へ付勢する弾性部材も備えてない点。

(2)本件発明2について
本件発明2と刊行物1記載の発明とを対比すると、両者は、上記一致点1で相違し、上記相違点1、2及び下記の相違点4で相違する。
〈相違点4〉
前者は、プラグ部分と位置決め孔との間に、直径方向へ拡大および縮小されるシャトル部材を配置し、そのシャトル部材の外周面をストレート面によって構成すると共に同上シャトル部材の内周面をテーパ面によって構成し、上記ストレート面を前記の位置決め孔に軸心方向へ移動自在に支持し、上記テーパ面を、前記の係止孔へ向けてすぼまるように形成すると共に前記プラグ部分にテーパ係合させ、上記シャトル部材を弾性部材によって上記テーパ係合を緊密にする方向へ付勢するものであるのに対して、後者は、シャトル部材を備えてなく、そのシャトル部材と位置決め孔とのテーパ係合を緊密にする方向へ付勢する弾性部材も備えてない点。

4.当審の判断
上記相違点1〜4等について、以下検討する。
(1)相違点1について
刊行物1記載の発明は、係止孔より開口端の側に加えて、係止孔より頂壁側にも位置決め孔を形成しているが、仮に、刊行物1記載の発明において、係止孔よりも頂壁側に位置決め孔が形成されていない、すなわち、刊行物1記載のメス側テーパブッシュの内面が環状溝59の頂壁側ではテーパ面でないとしても、係止孔より開口端の側の位置決め孔が存在することから、基準部材にワークパレットを心合わせすることができるものと認められる。
そして、刊行物2記載の心合わせ機能付きクランプ措置では、工作テーブル2側で心合わせに寄与する円錐面25が、工作テーブル2と装置テーブル1との係止に寄与する、工作テーブル2側の環状肩材19及び装置テーブル1側の締付け手段9の鼻部12よりも下方側にしか存在しないこと、また、マシニングセンタの主軸のテーパ穴へツールホルダのテーパ軸を係合させる目的の7/24テーパに関するJIS B6340、B6339の規定によると、テーパ穴はマイナス公差に、テーパ軸はプラス公差に定められていることから、テーパ穴にテーパ軸を嵌め合わせる場合、大径側のテーパ面同士を当接させることが重要であることを勘案すると、刊行物1記載の発明において、位置決め孔を係止孔より開口端の側だけに形成するように変更することは、当業者が容易になし得ることである。

この点について、特許権者は、
(イ)刊行物1記載の発明は、刊行物1の段落【0033】の記載からみて、押圧点が両端面の近傍に位置し、クランプ機構の中心位置から半径方向外方にかなり離れた位置にあることで位置決め精度の向上を図るものであるから、位置決め孔を係止孔より開口端の側にだけ配置するように変更することは、係止孔に相当する環状溝59を上側に位置させる必要があり、このことは上記段落【0033】の記載と整合しないから、当該変更には阻害要因があり、
(ロ)JIS B6340、B6339にテーパ穴はマイナス公差に、テーパ軸はプラス公差に定められていることから、テーパ穴にテーパ軸を嵌め合わせる場合に大径側のテーパ面同士を当接させることが重要であるとしても、当該JISの規定は二面拘束構造のものを対象としていないから、二面拘束構造の刊行物1記載の発明に上記JISの規定に基づく考えを適用することはできない、
と主張する(意見書第13頁8行〜第16頁8行)。
そこで、当該特許権者の主張について検討するに、(イ)については3.(1)で述べたとおりであり、また、(ロ)については下記(3)で示すとおりであり、したがって、特許権者の上記主張は採用できない。

(2)相違点2について
刊行物4記載の「ツール支持部材34」、「ツールホルダ10」、「ロックロッド38」及び「シャンク14の円筒部の内側のシャンク押出し面68」は、その構造及び機能からみて、それぞれ本件発明1、2の「基準部材」、「可動部材」、「プルロッド」及び「ソケット穴の頂壁」というべきものであり、そうすると、刊行物4には、基準部材に可動部材を固定するクランプ装置において、「プルロッドを基端方向へクランプ駆動することによって可動部材を基準部材へ向けて移動させるものであり、また、プルロッドを先端方向へアンクランプ駆動するものであって、そのアンクランプ駆動により、プルロッドがソケット穴の頂壁を押し上げ、そのアンクランプ状態では、前記の可動部材を上記プルロッドを介して前記の基準部材に受け止めるものである」との事項が示されていると認められる。 そして、刊行物1記載の発明と当該刊行物4記載の事項とは、「基準部材に可動部材を固定するクランプ装置」という同一の技術分野に属するものであるから、刊行物1記載の発明に刊行物4記載の事項を組み合わせ、刊行物1記載の発明の相違点2に係る構成を本件発明1、2のそれとすることは、当業者が容易になし得ることである。

特許権者は、・刊行物1記載の発明と刊行物4記載の事項を組み合わせる点について、
(イ)前者が、機械のテーブル又はクランプパレットにワークパレットを固定するものであるのに対して、後者は、工作機械の主軸に工具ホルダー本体を固定するものである、言い換えれば、前者は、基準部材が静止固定側の部材であるのに対して、後者は、基準部材が回転する部材であり、
(ロ)前者の被固定物は、大重量で偏平形状であるのに対して、後者の被固定物は、細長くて小型かつ小重量のものであり、
(ハ)前者のクランプ装置は複数のクランプ装置のうちの少なくとも一つとして用いられるものであるのに対して、後者のクランプ装置は単独で使用されるものであるから、
互いに技術分野を異にし、したがって両者を組み合わせることができない、と主張する(意見書第6頁16行〜第7頁12行)。
しかし、当該特許権者の主張は、下記(3)で示す理由から採用できない。

(3)相違点3について
刊行物3記載の「主軸1」、「工具ホルダー8」、「スリーブ3」及び「テーパ孔2」は、その構造及び機能からみて、それぞれ本件発明1の「基準部材」、「可動部材」、「シャトル部材」及び「位置決め孔」に相当するものであり、そうすると、刊行物3には、基準部材に可動部材を固定するクランプ装置において、「プラグ部分と位置決め孔との間に、直径方向へ拡大および縮小されるシャトル部材を配置し、そのシャトル部材の内周面をストレート面によって構成すると共に同上シャトル部材の外周面をテーパ面によって構成し、上記ストレート面を前記プラグ部分に軸心方向へ移動自在に支持し、上記テーパ面を、その先端へ向けてすぼまるように形成すると共に前記の位置決め孔にテーパ係合させ、上記シャトル部材を弾性部材によって上記テーパ係合を緊密にする方向へ付勢するものである」との事項が示されていると認められる。
そして、刊行物1記載の発明と当該刊行物3記載の事項とは、「基準部材に可動部材を固定するクランプ装置」という同一の技術分野に属するものであるから、刊行物1記載の発明に刊行物3記載の事項を組み合わせ、刊行物1記載の発明の相違点3に係る構成を本件発明1のそれとすることは、当業者が容易になし得ることである。

この点に関連して、特許権者は、
(イ)刊行物1記載の発明と刊行物3、4記載の事項とは、前者が、機械のテーブル又はクランプパレットにワークパレットを固定するものであるのに対して、後者は、工作機械の主軸に工具ホルダー本体を固定するものである、言い換えれば、前者は、基準部材が静止固定側の部材であるのに対して、後者は、基準部材が回転する部材であり、前者の被固定物は、大重量で偏平形状であるのに対して、後者の被固定物は、細長くて小型かつ小重量のものであり、前者のクランプ装置は複数のクランプ装置のうちの少なくとも一つとして用いられるものであるのに対して、後者のクランプ装置は単独で使用されるものであるから、互いに技術分野を異にするから、両者を組み合わせることができない(意見書第6頁16行〜第7頁12行)、また、
(ロ)刊行物1記載の発明は、位置決め精度向上のために、環状溝よりも下側のテーパ穴の背丈を小さくする必要があり、一方、刊行物3記載のスリーブは軸方向に大きな背丈を必要とすること、また、刊行物1記載の発明では、クランプ用ボールの集中応力により環状溝の下側のテーパ穴の周方向複数箇所が膨出し、該膨出で歪みが発生する下側テーパ穴を精密な位置決め孔として利用することが不可能であることから、刊行物1記載の環状溝よりも下側のテーパ穴に刊行物3記載のスリーブを適合させることは極めて困難である(意見書第18頁8行〜第19頁24行)、と主張する。
当該特許権者の主張のうち、(ロ)については3.(1)で述べたとおりである。そこで、上記(イ)の主張について検討するに、機械のテーブル又はクランプパレットにワークパレットを固定する刊行物1記載のクランプ装置と、工作機械の主軸に工具ホルダー本体を固定する刊行物3、4記載のクランプ装置とは、ともに工作機械に使用されるクランプ装置であること、2つの部材をテーパ係合によって心合わせするデータム機能付きのクランプ装置であることから、技術分野及び課題を共通にするものと云える。したがって、特許権者の上記主張は採用できない。

(4)相違点4について
刊行物3記載の「スリーブ3」は、その内周面がストレート面で外周面がテーパ面で構成され、また、上記テーパ面をテーパ孔2の内周面にテーパ係合する点で、外周面がストレート面で内周面がテーパ面であり、上記テーパ面をテーパ孔でない側のプラグ部分の外周テーパ面とテーパ係合する点で本件発明2の「シャトル部材」とは相違する。しかしながら、テーパ孔でない側の外周テーパ面と内周テーパ面を有する部材の内周面とをテーパ係合させて心あわせを行うことは、刊行物2に示されている。
そして、当該刊行物2記載の事項は刊行物1記載の発明及び刊行物3記載の事項と同じく、「データム機能付きクランプ装置」という技術分野に属するものである。
そうすると、刊行物1記載の発明に刊行物3記載の事項を組み合わせるに際して、刊行物2記載の事項を勘案して、刊行物1記載の発明の相違点4に係る構成を本件発明2のそれとすることは、当業者が容易になし得ることである。

(4)作用効果について
本件発明1、2の作用効果について、特許権者は、
(イ)本件発明1、2は、係止孔より開口端の側だけに位置決め孔を形成しているので、位置決め孔に加わる水平力によるプラグ部分へのモーメントを小さくでき、プラグ部分の軸心の撓みの防止、高精度な位置決めという作用効果を奏し(意見書第12頁3行〜第13頁7行)、また、
(ロ)本件発明1、2は、複数のクランプ装置の一つとして用いられるクランプ装置であるとの構成と、シャトル部材のテーパ面をワークパレットに形成された係止孔へ向けてすぼまるように形成するとの構成が有機的に結合して、シャトル部材のコジレの防止及びメンテナンス作業の簡素化という、刊行物1〜4の何れにも記載されていない顕著な効果を奏する(意見書第21頁17行〜21行)、と主張する。
しかしながら、本件発明1、2の作用効果は、刊行物1記載の発明、及び、刊行物2〜4記載の事項から当業者が予測可能な範囲内のものであって、格別のものではない。

したがって、本件発明1、2は、刊行物1記載の発明、及び、刊行物2〜4記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
以上のとおりであるから、本件発明1、2についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。
したがって、本件発明1、2についての特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
データム機能付きクランプ装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】機械のテーブル又はクランプパレットからなる基準部材(R)にワークパレット(3)を固定する複数のクランプ装置のうちの少なくとも一つとして用いられて、上記の基準部材(R)に上記ワークパレット(3)を心合わせして上記の基準部材(R)の支持面(S)に上記ワークパレット(3)の被支持面(T)を固定するようにしたデータム機能付きクランプ装置であって、
上記ワークパレット(3)の上記の被支持面(T)にソケット穴(11)を開口させて、そのソケット穴(11)に位置決め孔(12)と係止孔(13)とを開口端から順に形成し、その係止孔(13)より上記開口端の側だけに上記の位置決め孔(12)を形成し、
上記ソケット穴(11)へ挿入される環状のプラグ部分(21)を上記の基準部材(R)から突設させ、
上記プラグ部分(21)と上記の位置決め孔(12)との間に、直径方向へ拡大および縮小されるシャトル部材(23)を配置し、そのシャトル部材(23)の内周面をストレート面(27)によって構成すると共に同上シャトル部材(23)の外周面をテーパ面(28)によって構成し、上記のストレート面(27)を前記プラグ部分(21)に軸心方向へ移動自在に支持し、上記のテーパ面(28)を、前記の係止孔(13)へ向けてすぼまるように形成すると共に前記の位置決め孔(12)にテーパ係合させ、上記シャトル部材(23)を弾性部材(24)によって上記のテーパ係合を緊密にする方向へ付勢し、
上記のプラグ部分(21)の筒孔(21a)にプルロッド(31)を軸心方向へ移動自在に挿入して、そのプルロッド(31)の外周空間に、半径方向の外方の係合位置(X)と半径方向の内方の係合解除位置(Y)とに移動される係合具(34)を配置し、
上記の基準部材(R)に設けた駆動手段(D)によって上記プルロッド(31)を基端方向へクランプ駆動することにより、そのプルロッド(31)の出力部(36)が上記の係合具(34)を上記の係合位置(X)へ切り換えて前記の係止孔(13)へ係合させて、前記ワークパレット(3)を前記の基準部材(R)へ向けて移動させ、
同上の駆動手段(D)によって上記プルロッド(31)を先端方向へアンクランプ駆動することにより、同上の係合具(34)が係合解除位置(Y)へ切り換わるのを許容する、ことを特徴とするデータム機能付きクランプ装置。
【請求項2】機械のテーブル又はクランプパレットからなる基準部材(R)にワークパレット(3)を固定する複数のクランプ装置のうちの少なくとも一つとして用いられて、上記の基準部材(R)に上記ワークパレット(3)を心合わせして上記の基準部材(R)の支持面(S)に上記ワークパレット(3)の被支持面(T)を固定するようにしたデータム機能付きクランプ装置であって、
上記ワークパレット(3)の上記の被支持面(T)にソケット穴(11)を開口させて、そのソケット穴(11)に位置決め孔(12)と係止孔(13)とを開口端から順に形成し、その係止孔(13)より上記開口端の側だけに上記の位置決め孔(12)を形成し、
上記ソケット穴(11)へ挿入される環状のプラグ部分(21)を上記の基準部材(R)から突設させ、
上記プラグ部分(21)と上記の位置決め孔(12)との間に、直径方向へ拡大および縮小されるシャトル部材(23)を配置し、そのシャトル部材(23)の外周面をストレート面(27)によって構成すると共に同上シャトル部材(23)の内周面をテーパ面(28)によって構成し、上記のストレート面(27)を前記の位置決め孔(12)に軸心方向へ移動自在に支持し、上記のテーパ面(28)を、前記の係止孔(13)へ向けてすぼまるように形成すると共に前記プラグ部分(21)にテーパ係合させ、上記シャトル部材(23)を弾性部材(24)によって上記のテーパ係合を緊密にする方向へ付勢し、
上記のプラグ部分(21)の筒孔(21a)にプルロッド(31)を軸心方向へ移動自在に挿入して、そのプルロッド(31)の外周空間に、半径方向の外方の係合位置(X)と半径方向の内方の係合解除位置(Y)とに移動される係合具(34)を配置し、
上記の基準部材(R)に設けた駆動手段(D)によって上記プルロッド(31)を基端方向へクランプ駆動することにより、そのプルロッド(31)の出力部(36)が上記の係合具(34)を上記の係合位置(X)へ切り換えて前記の係止孔(13)へ係合させて、前記ワークパレット(3)を前記の基準部材(R)へ向けて移動させ、
同上の駆動手段(D)によって上記プルロッド(31)を先端方向へアンクランプ駆動することにより、同上の係合具(34)が係合解除位置(Y)へ切り換わるのを許容する、ことを特徴とするデータム機能付きクランプ装置。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、機械のテーブル又はクランプパレットからなる基準部材にワークパレットを固定する複数のクランプ装置のうちの少なくとも一つとして用いられるデータム機能付きクランプ装置に関し、より詳しくいえば、マシニングセンタのテーブル等の基準部材に可動部材としてのワークパレットを精密に心合わせした状態で固定する装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
この種のクランプ装置には、従来では、特開平11-10468号公報に記載されたものがある。その従来技術は次のように構成されている。即ち、基準部材の支持面に形成した嵌合用ストレート穴に、可動部材に固定した引き込みニップルのフランジを嵌入して、これにより、上記ストレート穴の軸心と上記の引き込みニップルの軸心とを合致させ、その後、上記の引き込みニップルを引っ張って上記の基準部材に可動部材を固定するようになっている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記の従来技術では次の問題があった。即ち、前記の基準部材に前記の可動部材をスムーズに装着するには、前記の嵌合用ストレート穴と前記のフランジとの間に直径方向の嵌合隙間が要求されるので、その嵌合隙間の存在によって上記の両部材の心合わせの精度が低くなるのである。本発明の目的は、基準部材に可動部材としてのワークパレットをスムーズに装着できると共にこれら両部材の心合わせを精密に行えるようにすることにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するため、請求項1の発明は、例えば、図1から図4に示すように、データム機能付きクランプ装置を次のように構成した。
即ち、機械のテーブル又はクランプパレットからなる基準部材Rにワークパレット3を固定する複数のクランプ装置のうちの少なくとも一つとして用いられて、上記の基準部材Rに上記ワークパレット3を心合わせして上記の基準部材Rの支持面Sに上記ワークパレット3の被支持面Tを固定するようにしたデータム機能付きクランプ装置であって、上記ワークパレット3の上記の被支持面Tにソケット穴11を開口させて、そのソケット穴11に位置決め孔12と係止孔13とを開口端から順に形成し、その係止孔13より上記開口端の側だけに上記の位置決め穴12を形成し、上記ソケット穴11へ挿入される環状のプラグ部分21を上記の基準部材Rから突設させ、上記プラグ部分21と上記の位置決め穴12との間に、直径方向へ拡大および縮小されるシャトル部材23を配置し、そのシャトル部材23の内周面をストレート面27によって構成すると共に同上シャトル部材23の外周面をテーパ面28によって構成し、上記のストレート面27を前記プラグ部分21に軸心方向へ移動自在に支持し、上記のテーパ面28を、前記の係止孔13へ向けてすぼまるように形成すると共に前記の位置決め孔12にテーパ係合させ、上記シャトル部材23を弾性部材24によって上記のテーパ係合を緊密にする方向へ付勢し、上記のプラグ部分21の筒孔21aにプルロッド31を軸心方向へ移動自在に挿入して、そのプルロッド31の外周空間に、半径方向の外方の係合位置Xと半径方向の内方の係合解除位置Yとに移動される係合具34を配置し、上記の基準部材Rに設けた駆動手段Dによって上記プルロッド31を基端方向へクランプ駆動することにより、そのプルロッド31の出力部36が上記の係合具34を上記の係合位置Xへ切り換えて前記の係止孔13へ係合させて、前記ワークパレット3を前記の基準部材Rへ向けて移動させ、同上の駆動手段Dによって上記プルロッド31を先端方向へアンクランプ駆動することにより、同上の係合具34が係合解除位置Yへ切り換わるのを許容するものである。
【0005】
上記の請求項1の発明は次の作用効果を奏する。
基準部材にワークパレットをクランプするときには、まず、シャトル部材のテーパ面のガイド作用によって上記のワークパレットが自動的に調心移動されて、そのワークパレットの位置決め孔の軸心が上記の基準部材のプラグ部分の軸心に精密に合致する。次いで、上記シャトル部材が弾性部材を圧縮して軸心方向へ移動し、上記のワークパレットの被支持面が上記の基準部材の支持面によって受け止められる。このため、上記のワークパレットは、上記シャトル部材のテーパ面を介してプラグ部分によって拘束されると共に上記の支持面によっても拘束される。その結果、そのワークパレットを基準部材に精密かつ強力に位置決め固定できる。本発明によれば、シャトル部材のテーパ面によってワークパレットを調心ガイドできるので、そのワークパレットを基準部材にスムーズに装着できる。また、本発明は、前記の従来例とは異なり、連結される部材間に直径方向の嵌合隙間を無くすことができるので、上記の基準部材とワークパレットとを高精度で心合わせできる。そのうえ、駆動手段を設けた基準部材にプラグ部分を設けたので、その基準部材にソケット穴を設けた場合と比べると、上記の駆動手段に切り屑等の異物が侵入するのを防止できる。このため、クランプ装置を長期間にわたって良好に使用できる。しかも、基準部材にシャトル部材を装備したので、1つの基準部材に対して多数のワークパレットを着脱する場合では、そのシャトル部材の装備数量が少なくてすみ、クランプシステムを簡素に構成できる。
【0006】
また、前記の目的を達成するため、請求項2の発明は、例えば、図5に示すように、データム機能付きクランプ装置を次のように構成した。
即ち、機械のテーブル又はクランプパレットからなる基準部材Rにワークパレット3を固定する複数のクランプ装置のうちの少なくとも一つとして用いられて、上記の基準部材Rに上記ワークパレット3を心合わせして上記の基準部材Rの支持面Sに上記ワークパレット3の被支持面Tを固定するようにしたデータム機能付きクランプ装置であって、上記ワークパレット3の上記の被支持面Tにソケット穴11を開口させて、そのソケット穴11に位置決め孔12と係止孔13とを開口端から順に形成し、その係止孔13より上記開口端の側だけに上記の位置決め孔12を形成し、上記ソケット穴11へ挿入される環状のプラグ部分21を上記の基準部材Rから突設させ、上記プラグ部分21と上記の位置決め孔12との間に、直径方向へ拡大および縮小されるシャトル部材23を配置し、そのシャトル部材23の外周面をストレート面27によって構成すると共に同上シャトル部材23の内周面をテーパ面28によって構成し、上記のストレート面27を前記の位置決め孔12に軸心方向へ移動自在に支持し、上記のテーパ面28を、前記の係止孔13へ向けてすぼまるように形成すると共に前記プラグ部分21にテーパ係合させ、上記シャトル部材23を弾性部材24によって上記のテーパ係合を緊密にする方向へ付勢し、上記のプラグ部分21の筒孔21aにプルロッド31を軸心方向へ移動自在に挿入して、そのプルロッド31の外周空間に、半径方向の外方の係合位置Xと半径方向の内方の係合解除位置Yとに移動される係合具34を配置し、上記の基準部材Rに設けた駆動手段Dによって上記プルロッド31を基端方向へクランプ駆動することにより、そのプルロッド31の出力部36が上記の係合具34を上記の係合位置Xへ切り換えて前記の係止孔13へ係合させて、前記ワークパレット3を前記の基準部材Rへ向けて移動させ、同上の駆動手段Dによって上記プルロッド31を先端方向へアンクランプ駆動することにより、同上の係合具34が係合解除位置Yへ切り換わるのを許容するものである。
【0007】
上記の請求項2の発明は、前記の請求項1の発明と同様に、次の作用効果を奏する。
基準部材にワークパレットをクランプするときには、まず、シャトル部材のテーパ面のガイド作用によって上記のワークパレットが自動的に調心移動されて、そのワークパレットの位置決め孔の軸心が上記の基準部材のプラグ部分の軸心に精密に合致する。次いで、上記シャトル部材が弾性部材を圧縮して軸心方向へ移動し、上記のワークパレットの被支持面が上記の基準部材の支持面によって受け止められる。このため、上記のワークパレットは、上記シャトル部材のテーパ面を介してプラグ部分によって拘束されると共に上記の支持面によっても拘束される。その結果、そのワークパレットを基準部材に精密かつ強力に位置決め固定できる。本発明によれば、シャトル部材のテーパ面によってワークパレットを調心ガイドできるので、そのワークパレットを基準部材にスムーズに装着できる。また、本発明は、前記の従来例とは異なり、連結される部材間に直径方向の嵌合隙間を無くすことができるので、上記の基準部材とワークパレットとを高精度で心合わせできる。そのうえ、駆動手段を設けた基準部材にプラグ部分を設けたので、その基準部材にソケット穴を設けた場合と比べると、上記の駆動手段に切り屑等の異物が侵入するのを防止できる。このため、クランプ装置を長期間にわたって良好に使用できる。
【0008】
【0009】
【0010】
【発明の実施の形態】
図1から図4は、本発明の第1実施形態を示している。まず、図1Aから図1Dと図2とによって、本発明のデータム機能付きクランプ装置を利用したクランプシステムを説明する。図1Aは、そのクランプシステムの立面視模式図である。図1Bは、上記の図1A中の1B-1B線矢視図である。図1Cは、同上の図1A中の1C-1C線矢視図である。図1Dは、上記の図1B中の矢印1D部分の要部拡大図である。図2は、上記データム機能付きクランプ装置の立面視の断面図である。
【0011】
マシニングセンタのテーブル1の上面に、基準部材Rであるクランプパレット2が固設される。そのクランプパレット2には、可動部材Mであるワークパレット3が、データム機能付きの第1クランプ装置4および第2クランプ装置5とデータム機能無しの第3クランプ装置6・6とによって固定されるようになっている。なお、図示してないが、上記ワークパレット3の上面には複数のワークピースが別のクランプ装置によって着脱可能になっている。
【0012】
上記の第1クランプ装置4は、上記クランプパレット2に複数のボルト8によって固定した第1データムクランプ4aと、上記ワークパレット3に複数のボルト9によって固定した第1データムリング4bとを備える。そして、主として図2に示すように、上記の第1データムクランプ4aのプラグ部分21に外嵌したシャトル部材23のテーパ面28に対して上記の第1データムリング4bのテーパ位置決め孔12を基準軸心G(図1Bを参照)上で精密に嵌合できるようになっている。
【0013】
また、前記の第2クランプ装置5は、上記クランプパレット2に固定した第2データムクランプ5aと上記ワークパレット3に固定した第2データムリング5bとを備える。上記の第2データムクランプ5aは前記の第1データムクランプ4aと同一に構成されている。上記の第2データムリング5bは、図1Bおよび図1Dに示すように、前記のテーパ位置決め孔12に一対の逃がし面14・14を凹入形成した点で前記の第1データムリング4bとは異なる。そして、上記の第2データムクランプ5aのプラグ部分21に外嵌したシャトル部材23のテーパ面28に対して上記の第2データムリング5bのテーパ位置決め孔12の残り部分12b・12bを嵌合することにより、上記ワークパレット3を前記の基準軸心Gに対して周方向へ正確に位置決めすると共に、前記の逃がし面14・14の存在によって、上記の基準軸心Gに対する半径方向の誤差を吸収できるようになっている。
【0014】
前記の第3クランプ装置6は、クランピング機能だけを備え、データム機能無しのクランプ6aとガイドリング6bとからなる。より詳しくいえば、上記クランプ6aは、前記の第1データムクランプ4aから前記シャトル部材23(及び後述の皿バネ24と止め輪25)を省略したものである。また、上記ガイドリング6bは、前記の第1データムリング4bのソケット穴11からテーパ位置決め孔12を省略したものである。なお、上記の第3クランプ装置6は、ここでは2セット設けてあるが、1セットであってもよく、さらには3セット以上であってもよい。
【0015】
以下、上記のデータム機能付き第1クランプ装置4の具体的な構造を前記の図2および図3と図4によって説明する。その図2は、前記のクランプパレット2に前記ワークパレット3を装着し始めた状態を示している。図3は、上記クランプパレット2に上記ワークパレット3を装着した状態を示している。また、図4は、上記クランプパレット2に上記ワークパレット3を固定した状態を示している。
【0016】
上記ワークパレット3の下面には水平断面視で円形のソケット穴11が下向きに開口される。そのソケット穴11は、前記の第1データムリング4bに前記テーパ位置決め孔12とテーパ係止孔13とを下側から順に形成してなる。上記テーパ位置決め孔12は上向きにすぼまるように形成され、上記テーパ係止孔13は下向きにすぼまるように形成されている。上記の第1データムリング4bの外周部が下向きに突設され、その環状突設部の下面によって被支持面Tが構成されている。
【0017】
前記の第1データムクランプ4aは、前記の複数のボルト8によって前記クランプパレット2に固定したカバーブロック16と、そのカバーブロック16と上記クランプパレット2との間に保密状に挿入したピストン17と、そのピストン17の下側に形成した油圧室18と、上記ピストン17と上記のカバーブロック16との間に装着したクランプバネ19とを備える。そのクランプバネ19は、ここでは、上下方向に積層させた複数枚の皿バネによって構成しているが、圧縮コイルバネであってもよい。上記ピストン17と油圧室18とクランプバネ19によって駆動手段Dを構成してある。
【0018】
上記カバーブロック16の外周寄り部が上向きに突設され、その環状突設部の上面によって支持面Sが構成されている。また、そのカバーブロック16の中央部から環状のプラグ部分21が上向きに突設され、そのプラグ部分21が前記ソケット穴11へ挿入されるようになっている。上記プラグ部分21の下部に環状のシャトル部材23が外嵌され、そのシャトル部材23が、1枚の皿バネ(弾性部材)24によって上向きに付勢されるともに止め輪25によって受け止められている。
【0019】
より詳しくいえば、上記の環状のシャトル部材23は、その内周面をストレート面27によって構成すると共に外周面をテーパ面28によって構成してあり、その環状壁にスリットを設けたり又は内周面に溝を設けたりすることにより(いずれも図示せず)、上記のテーパ面28及びストレート面27が直径方向へ拡大および縮小可能になっている。また、上記ストレート面27を上記プラグ部分21の外周面に軸心方向へ移動自在に支持してある。上記テーパ面28は、前記のテーパ位置決め孔12にテーパ係合するように上向きにすぼまるように形成してある。そのテーパ面28のテーパ角度は、約4度から約20度の範囲が好ましく、さらに好ましいのは約6度から約15度の範囲であり、ここでは、約10度に設定してある。
【0020】
また、前記プラグ部分21の筒孔21aにプルロッド31が軸心方向へ移動自在に挿入される。上記プラグ部材21の途中高さ部に周方向へ所定間隔をあけて複数の貫通孔33が形成され、各貫通孔33に係合ボール(係合具)34が半径方向の外方の係合位置X(図4参照)と半径方向の内方の係合解除位置Y(図2参照)とに移動可能に支持される。なお、そのボール34の飛び出しは、上記の貫通孔33の外端の縮径部33aによって阻止される。上記プルロッド31の外周面の上部には、上記の各ボール34に対応させて、押圧面(出力部)36と退避溝37とを上下に連ねて形成してある。また、上記のプルロッド31の下部を締結ボルト39によって前記ピストン17に固定してある。
【0021】
さらに、上記の第1クランプ装置4の嵌合面同士をクリーニングする手段が設けられる。即ち、前記クランプパレット2に圧縮空気(クリーニング流体)の供給口41が設けられると共に前記プルロッド31の上端部分に噴出口42が斜め上向きに設けられる。上記の供給口41と上記の噴出口42とが、前記カバーブロック16内の横流路43と上記のプルロッド31内の縦流路44によって連通されている。その縦流路44は上下のOリング45・46によってシールされている。上記の噴出口42は、1箇所だけでも差し支えないが、周方向に所定の間隔をあけて複数箇所設けることが好ましい。なお、上記クリーニング手段は、上記の第1クランプ装置4と同様に、前記の第2クランプ装置5と第3クランプ装置6・6とにも設けられている。
【0022】
上記の第1クランプ装置4は、図2から図4に示すように、次のように作動する。図2の状態では、圧油給排路48を経て前記の油圧室18へ圧油を供給してある。これにより、その油圧室18の油圧力によって上記ピストン17が前記クランプバネ19に抗して前記プルロッド31を上昇させ、前記の各ボール34が退避溝37に対面して図示の係合解除位置Yへ移動可能になっている。また、前記シャトル部材23が前記の皿バネ24によって上昇位置に保持されている。そして、上記の図2に示すように、前記クランプパレット2に対して前記ワークパレット3が下降したときには、前記ソケット穴11のテーパガイド孔11bが前記プラグ部分21のテーパガイド面21bによって案内されるので、上記ソケット穴11の軸心が前記プラグ部分21の軸心とほぼ一致する。
【0023】
上記の図2の状態で前記の供給口41へクリーニング用の圧縮空気を供給すると、その圧縮空気が前記の噴出口42から勢い良く吐出される。その吐出された圧縮空気が、前記ソケット穴11の頂面および周面をクリーニングして、その後、下向きに排出される。前記のワークパレット3がさらに下降すると、前記のテーパ位置決め孔12が前記シャトル部材23のテーパ面28によって案内されていき、引き続いて、図3に示すように、前記ソケット穴11の頂壁11aが前記プルロッド31の上面に接当して、そのプルロッド31によって上記ワークパレット3が受け止められる。
【0024】
上記の図3の状態では、噴出口42から吐出された圧縮空気は、前記の係止孔13の表面と、前記シャトル部材23のテーパ面28と前記のテーパ位置決め孔12との間の係合隙間αと、前記の支持面Sと前記の被支持面Tとの間の接当隙間βとを順にクリーニングして、その後、外部へ排出される。なお、上記のテーパ位置決め孔12には、周方向へ所定の間隔をあけて複数のブロー溝12aを形成することが好ましい。
【0025】
上記の図3の状態で前記の油圧室18の圧油を前記の給排路48から排出すると、前記クランプバネ19がピストン17を介してプルロッド31を強力に下降させていく。すると、まず、上記プルロッド31の下降に追従して前記ワークパレット3が自重で下降していき、前記のテーパ位置決め孔12が前記シャトル部材23のテーパ面28に接当する。これにより、上記ワークパレット3が上記シャトル部材23を介して前記の皿バネ24を僅かに圧縮すると共に、上記テーパ位置決め孔12が調心移動されて、その軸心が前記プラグ部分21の軸心に合致する。
【0026】
これとほぼ同時に、図4に示すように、上記プルロッド31の各押圧面36が前記の各ボール34を半径方向の外方の係合位置Xへ押圧し、その半径方向の押圧力が前記のテーパ係止孔13を介して下向きの力へ変換され、その下向き力によって上記ワークパレット3を強力に下降させる。すると、前記のテーパ位置決め孔12が前記シャトル部材23のテーパ面28に強力にテーパ係合して調心移動されて、そのテーパ位置決め孔12の軸心が前記プラグ部分21の軸心に精密に合致すると共に、前記の皿バネ24に抗して上記シャトル部材23がさらに下降され、前記の被支持面Tが前記の支持面Sによって受け止められる。これにより、上記ワークパレット3は、上記シャトル部材23のテーパ面28を介してプラグ部分21によって水平方向へ拘束されると共に上記の支持面Sによって上下方向へ拘束されることになり、その結果、上記のワークパレット3を上記クランプパレット2に精密かつ強力に位置決め固定できる。
【0027】
上記の図4で示すクランプ完了後には、前記の図3中の接当隙間βが無くなって上記の支持面Sと被支持面Tとの間が気密状に封止されるので、前記のクリーニング用の圧縮空気の逃げ道がなくなり、前記の供給口41の圧力が上昇する。その圧力上昇を圧力スイッチ(図示せず)によって検出することにより、上記のクランプ完了を自動的に確認できる。なお、上記のクランプ完了を確認するときには、圧縮空気の圧力を前記のクリーニング用の圧力よりも低い圧力へ低下させて、その低圧の圧縮空気の上昇圧力を検出することが好ましい。
【0028】
上記の図4のクランプ状態から図3のアンクランプ状態へ切換えるときには、その図4の状態で前記の油圧室18へ圧油を供給すればよい。すると、図3に示すように、その油圧室18の油圧力によって前記ピストン17が前記プルロッド31を上昇させ、前記の各ボール34が前記の退避溝37に対面して係合解除位置Yへ切換わることが許容されると共に(この図3では既に切換わった状態を示してある)、上記プルロッド31が前記ソケット穴11の頂壁11aに接当してワークパレット3を押し上げる。このため、その図3に示すように、前記シャトル部材23の上側に前記の係合隙間αが形成されると共に前記の支持面Sの上側に接当隙間βが形成される。これにより、上記ワークパレット3を上記クランプパレット2から容易に取り外すことができる。
【0029】
上記の第1実施形態では、下側のクランプパレット2にプラグ部分21を設けると共に上側のワークパレット3にソケット穴11を設けたので、マシニングセンタの加工時の切り屑等の異物がクランプ装置に侵入することを防止できる。また、前記シャトル部材23の下側空間を前記の皿バネ24によって覆ったので、その下側空間への異物の侵入を防止して、そのシャトル部材23をスムーズに昇降できる。なお、上記の皿バネ24は、例示した1枚に代えて、複数枚を積層させたものであってもよく、さらには、圧縮コイルバネ等の他の種類のバネによって代替可能である。
【0030】
なお、前記クランプバネ19の収容空間は、呼吸路49を介して外部へ連通されている。その呼吸路49には、図示してないが、逆止弁座と逆止弁室とを内側から順に設けて、その逆止弁室に挿入した逆止部材を弱いバネによって上記の逆止弁座に付勢することが好ましい。これにより、雰囲気中の塵埃や切削油などの異物がクランプ装置内へ侵入するのを防止できる。
【0031】
図5は、本発明の第2実施形態を示し、前記の図4に相当する図である。この第2実施形態においては、上記の第1実施形態と同じ構成の部材には原則として同一の符号を付けてあり、その第1実施形態とは異なる構成についてだけ説明する。
【0032】
前記クランプパレット2の上面にクランプブロック51が複数の押圧具52およびボルト53によって固定される。上記クランプブロック51内に前記ピストン17が保密状に挿入される。また、前記ワークパレット3に形成した前記ソケット穴11の位置決め孔12はストレートに形成されている。そのストレート位置決め孔12に、前記シャトル部材23の外周のストレート面27が上下移動自在に支持される。上記シャトル部材23がゴム製の弾性部材24によって下向きに付勢され、そのシャトル部材23の下降は、上記の位置決め孔12の下部に嵌着した止め輪25によって阻止されている。上記シャトル部材23の内面に形成したテーパ面28が前記プラグ部分21の外周面にテーパ係合している。上記テーパ面28は、上向きにすぼまるように形成されている。
【0033】
上記の各実施形態は次のように変更可能である。前記の基準部材Rは、例示したクランプパレット2に代えてマシニングセンタや各種機械のテーブルであってもよい。また、上記の基準部材Rと可動部材Mとは、上下逆に配置したものであってもよく、例示した上下方向へ連結することに代えて、水平方向または斜め方向へ連結するものであってもよい。
【0034】
クランプシステムに利用されるデータム機能付きクランプ装置は、複数セットに限定されるものではなく、1セットだけでも利用可能である。さらには、上記クランプ装置の前記シャトル部材23は、例示した環状体に限定されるものではなく、複数の分割体を環状に並べたものであってもよい。また、上記クランプ装置の係合具34は、例示のテーパ係止孔に対して係合するボールに代えて、ストレート係止孔に対して摩擦力や塑性変形力によって係合するコレットであってもよい。また、そのクランプ装置は、バネ力によってクランプ駆動することに代えて、油圧力や空圧力などの流体圧力によってクランプ駆動することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明を利用したクランプシステムの模式図を示している。図1Aは、そのクランプシステムの立面図である。図1Bは、上記の図1A中の1B-1B線矢視図である。図1Cは、同上の図1A中の1C-1C線矢視図である。図1Dは、上記の図1B中の矢印1D部分の要部拡大図である。
【図2】上記クランプシステムに設けたクランプ装置の第1実施形態を示し、基準部材に可動部材を装着し始めた状態の立面視の断面図である。
【図3】上記の基準部材に上記の可動部材を装着した状態を示し、上記の図2に相当する図である。
【図4】上記の基準部材に上記の可動部材を固定した状態を示し、同上の図2に相当する図である。
【図5】上記クランプ装置の第2実施形態を示し、上記の図4に相当する図である。
【符号の説明】
11…ソケット穴、11a…頂壁、12…位置決め孔、13…係止孔、21…プラグ部分、23…シャトル部材、24…弾性部材(皿バネ)、27…ストレート面、28…テーパ面、31…プルロッド、34…係合具(係合ボール)、36…出力部(押圧面)、41…クリーニング流体(圧縮空気)の供給口、42…クリーニング流体(圧縮空気)の噴出口、44…流路(縦流路)、α…係合隙間、β…接当隙間、D…駆動手段、M…可動部材(ワークパレット3)、R…基準部材(クランプパレット2)、S…基準部材Rの支持面、T…可動部材Mの被支持面、X…係合位置、Y…係合解除位置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-07-14 
出願番号 特願2002-192816(P2002-192816)
審決分類 P 1 651・ 121- ZA (B23Q)
最終処分 取消  
前審関与審査官 岡野 卓也  
特許庁審判長 西川 恵雄
特許庁審判官 菅澤 洋二
佐々木 正章
登録日 2003-08-08 
登録番号 特許第3459414号(P3459414)
権利者 株式会社コスメック
発明の名称 データム機能付きクランプ装置  
代理人 岡村 俊雄  
代理人 桂川 直己  
代理人 須原 誠  
代理人 梶 良之  
代理人 梶 良之  
代理人 須原 誠  
代理人 桂川 直己  

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