• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  C21D
審判 一部無効 特29条の2  C21D
管理番号 1146971
審判番号 無効2005-80315  
総通号数 85 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1993-12-14 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-11-02 
確定日 2006-10-23 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3511268号発明「含B鋼板の焼鈍方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3511268号の請求項1に記載された発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許2005-80315号についての手続の経緯の概要は、以下のとおりである。

平成 4年 5月29日 特許出願(特願平4-164276号)
平成16年 1月16日 特許権の設定登録(特許第3511268号)
平成17年11月 2日 無効審判請求
平成18年 1月27日 被請求人:答弁書及び訂正審判請求書提出
平成18年 3月 9日 請求人:弁駁書提出

第2 訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
特許請求の範囲の請求項1中の「0.10?0.80重量%のC及び0.0005?0.01重量%のBを含有する」を次のとおり訂正する。
「C:0.10?0.80重量%,Si:0.05?0.50重量%,Mn:0.20?2.00重量%,P:0.20重量%以下,S:0.020重量%以下,Al:0.005?0.10重量%及びN:0.001?0.01重量%の基本組成にB:0.0005?0.01重量%を含有させた」

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
この訂正は、特許明細書の【0011】に記載されていた鋼組成に基づいて、請求項1に係る発明における焼入れ用含B鋼板の鋼組成を、「0.10?0.80重量%のC及び0.0005?0.01重量%のBを含有する」から「C:0.10?0.80重量%,Si:0.05?0.50重量%,Mn:0.20?2.00重量%,P:0.20重量%以下,S:0.020重量%以下,Al:0.005?0.10重量%及びN:0.001?0.01重量%の基本組成にB:0.0005?0.01重量%を含有させた」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当し、願書に添付した明細書又は図面に記載されている事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正の適否についての結論
したがって、上記訂正は、平成6年改正前特許法第134条第2項ただし書に適合し、特許法第134条の2第5項において準用する平成6年改正前第126条第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

第3 本件発明
本件請求項1に係る発明は、訂正明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。(以下、「本件発明」という。)
「【請求項1】 C:0.01?0.80重量%,Si:0.05?0.50重量%,Mn:0.20?2.00重量%,P:0.20重量%以下,S:0.020重量%以下,Al:0.005?0.10重量%及びN:0.001?0.01重量%の基本組成にB:0.0005?0.01重量%を含有させた焼入れ用含B鋼板を、窒素含有量を10体積%以下に抑制した水素雰囲気中で焼鈍することを特徴とする焼入れ用含B鋼板の焼鈍方法。」

第4 請求人の主張
これに対して、請求人は、本件発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由として、以下の無効理由1乃至2を主張し、証拠方法として甲第1号証乃至甲第12号証を提出している。

(1)無効理由1(特許法第29条の2違反)
本件発明は、本件の出願の日前の他の出願であって、その出願後に出願公開された甲第1号証に係る出願の願書に最初に添付した明細書に記載された発明と同一であるから、本件発明についての特許は、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものである。

(2)無効理由2(特許法第29条第2項違反)
本件発明は、甲第2号証乃至甲第10号証に記載された発明に基づいて、あるいは少なくとも甲第2号証乃至甲第12号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

(3)証拠方法
甲第1号証:特開平5-98388号公報
甲第2号証:特開昭58-39730号公報
甲第3号証:特開平1-132739号公報
甲第4号証:特開平1-100244号公報
甲第5号証:特開平3-287726号公報
甲第6号証:「自動車規格 JASO M 106-92」社団法人自動車技術会発 行,第1?33頁
甲第7号証:特開平4-28823号公報
甲第8号証:「第3版 鉄鋼便覧 第III巻(1) 圧延基礎・鋼板」丸善株 式会社発行(昭和56年12月20日),第640?644頁
甲第9号証:「Iron and Steel Engineer」March 1990,第43?50頁
甲第10号証:「JOURNAL OF METALS」March 1987,第28?31頁
甲第11号証:「日新製鋼技報」第45号,日新製鋼株式会社発行(昭和 56年12月25日),第30?36頁
甲第12号証:特開昭48-52610号公報

第5 被請求人の主張
一方、被請求人は、答弁書において参考資料を添付して、本件発明は、甲第1号証に記載された発明と同一ではなく、また、甲第2?12号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもなく、本件発明についての特許は、特許法第29条の2及び第29条第2項の規定に違反してされたものではないから、本件特許無効の審判の請求は成り立たない旨主張している。

第6 甲第1?12号証に記載の記載事項
(1)甲第1号証:特開平5-98388号公報
(1a)「【請求項1】 重量割合にて
C:0.30?0.70%、Si:0.15?0.50%、Mn:0.05?1.00%、P:0.030%以下、Cr:0.50?2.00%、V:0.05?0.50%、Nb:0.005?0.100%、sol.Al:0.08%以下、N:0.0020%超?0.0100%、残部実質的にFeから成る鋼組成を有するバネ性と靱性に優れた高炭素薄鋼板。
【請求項2】 重量割合にて、さらにMo:0.10?0.50%、Cu:0.05?0.50%、およびB:0.0003?0.0025%から成る群から選んだ1種または2種以上を含む、請求項1記載の高炭素薄鋼板。
【請求項3】 (省略)
【請求項4】 請求項1?3のいずれかに記載の鋼組成を有する鋼片を熱間圧延の後、圧下率10?80%の冷間圧延およびAc1-70℃?Ac1+50℃の温度域で4h以上均熱する箱焼鈍を1回以上行うことを特徴とする高炭素薄鋼板の製造方法。
【請求項5】 (省略) 」(特許請求の範囲)
(1b)「以上のようにして製造された薄鋼板は、通常、ユーザにて加工され、次いで焼入れ、焼戻し、あるいはオーステンパ処理等の熱処理が行われて所望の硬さ・性能を備えた製品となる。・・・」(【0043】
(1c)「(n)冷間圧延前焼鈍条件:冷間圧延前の焼鈍は、冷間圧延の効率化を図るために熱延板の硬度が高い場合、必要に応じて実施するものとする。・・・(中略)・・・Ac1以上の温度域にて焼鈍を行う際は、コイル内の温度分布の均一化および冷却速度の均一化を図る目的で雰囲気を100%水素とすることが望ましい。」(【0039】)
(1d)「(p)冷間圧延後焼鈍条件:冷延鋼板の成形性向上を目的として、冷延鋼板にはいずれも箱焼鈍を実施する。・・・(中略)・・・Ac1以上の温度域にて焼鈍を行う際は、コイル内の温度分布の均一化および冷却速度の均一化を図る目的で雰囲気を100%水素とすることが望ましい。」(【0041】)

(2)甲第2号証:特開昭58-39730号公報
(2a)「本発明の対象とするボロン処理鋼は特に制限されないが、後述するように球状化焼鈍、および冷間鍛造によってその焼入性が著しく劣化するものとしては、Bを含有する炭素鋼又は低合金鋼或はB添加により焼入性の改善された炭素鋼又は低合金鋼、があり、例えば、C:0.10?0.50%,Si:0.005?0.70%およびMn:0.80?1.80%である中低炭素鋼、あるいは、C:0.10?0.50%,Si:0.005?0.70%,Mn:0.80?1.80,Cr:1.50%以下およびMo:0.60%以下である低合金鋼に5ppm以上のボロンを添加したものが挙げられる。」(第2頁右上欄第2?13行)

(3)甲第3号証:特開平1-132739号公報
(3a)「1.C :0.30?1.20wt%
Si:0.30?2.00wt%
Mn:0.05?1.50wt%
Al:0.001?0.100wt%
N :0.0060wt%以下
P :0.020wt%以下
S :0.015wt%以下及び
B :0.0005?0.0500wt%
を含み残部Feおよび不可避的不純物の組成になり、フェライト相と直径が10μm以下の微細グラファイト粒を主体とする組織を有し、引張り強さ50kgf/mm2以下であって、加工性と焼入性に優れ、かつ焼入-焼戻し処理後の靱性にも優れることを特徴とする熱処理用鋼板。」(特許請求の範囲第1項)
(3b)「このような用途分野において熱処理用鋼板はその熱処理に先立って切削、打抜き、孔明け、曲げなどの各種加工を受けるが、焼入性の高い鋼ほど高強度であって上記のような加工が困難である。これを補うために、予め球状化焼鈍などの軟質化処理を施すのが一般的である」(第2頁左下欄第1?6行)
(3c)「第1?4各発明は素材の材質特性として加工に際しては低炭素鋼並みの軟質で良好な加工性をもたらし、しかも熱処理に際しては通常の高炭素鋼並みに良好な焼入性を有し、熱処理後の材料の靱性耐摩耗性および強度特性に優れた鋼板であって、・・・(中略)・・・、必要によっては熱間圧延時の圧延条件の調整に加えてその後の焼鈍条件の調整を行うのである。
上に列記した何れの熱処理用鋼板も、所定の熱間圧延を行った上で、ミクロ組織をフェライト・グラファイト組織とする焼鈍処理を経た熱延板の形で得ることができるほか、またこのような熱延板を素材として圧延温度範囲500℃以下の条件で温間ないし冷間の圧延を施した上で、やはり上記焼鈍処理を加えた冷延板の形でも得ることができ」(第4頁左上欄第19行?同頁右上欄第19行)
(3d)「Bはとくに重要な役割を持つ元素であるので以下にその作用について詳述する。すなわち、その作用の一つは従来知られているように焼入性の向上を図るために有用な元素であること」(第5頁右下欄第8?11行)

(4)甲第4号証:特開平1-100244号公報
特許請求の範囲の第3?7項には、0.40?0.80%のC及び0.0003?0.0030%のBを含有する鋼を圧延処理し鋼板としてからこれに焼鈍を施すことからなる、熱処理後靭性に優れた高炭素鋼板の製造方法に係る発明が記載されている。

(5)甲第5号証:特開平3-287726号公報
特許請求の範囲には、0.15%以上0.40%未満のC及び0.0005%以上0.0030%未満のBを含有する鋼を熱間圧延又は冷間圧延した後、プレスにて冷間加工し、ついで焼き入れすることからなる、ボロン鋼板の製造方法に係る発明が記載されている。

(6)甲第6号証:「自動車規格 JASO M 106-92」第1?33頁
自動車用鋼材として、0.17?0.47%のC及び0.0005?0.003%のBを含有する焼入れ用含B鋼材が、種々規格化されていたことが記載されている。

(7)甲第7号証:特開平4-28823号公報
(7a)「ベル型タイト焼鈍炉において、炭素含有量0.50?1.1wt%の高炭素鋼帯のコイルを、水素濃度75%以上の高濃度水素ガス雰囲気下、焼鈍温度650?850℃で焼鈍することを特徴とする高炭素鋼帯の焼鈍方法」(特許請求の範囲)
(7b)「実施例1 第5図に示すような円周方向に4個のバーナーが3段に設けられたベル型タイト焼鈍炉において、第1表に示す組成からなる高炭素鋼帯を巻き取った外径2000mm、板幅950mmのコイルを、炉温900℃、コイル温度700℃、均熱時間10時間、インナーカバー内純水素雰囲気下で焼鈍した。」(第2頁右下欄第10?16行)
(7c)「水素濃度75%以上で、残部が窒素からなる高濃度水素ガス雰囲気下で焼鈍することによって、水素の高熱伝導性を利用し、焼鈍雰囲気の熱伝導を促進してバーナーによるインナーカバーの温度差の影響を抑制し、コイルの外周での円周方向の温度差を防止するのである。」(第2頁右上欄第9?15行)

(8)甲第8号証:「第3版鉄鋼便覧 第III巻(1)圧延基礎・鋼板」第641?644頁
(8a)「Al、Si,Nb,Tiなどの窒化物形成元素を含む鋼は、焼鈍雰囲気ガス中のN2と窒化物を形成するため、吸窒が促進される」(第641頁左欄第13?15行)
(8b)図8・360には、焼鈍雰囲気ガス(H2+N2混合ガス)中のH2の割合が、50%から80%へと高くなってN2割合が減少して行くにつれて、焼鈍材の吸窒が著しく抑制されていく傾向が示されている。(第641頁右欄第3?4行、第642頁の図8・360)
(8c)表8・82には、鋼材の焼鈍雰囲気ガスの例として、N2が0.0%の水素ガスが記載されている。(643頁の表8・82)

(9)甲第9号証:「Iron and Steel Engineer」March 1990,第43?50頁
(9a)「HICON/H2ベル型焼鈍炉は、1970年代初期にEbnerによって銅基合金向けに開発され、そして1970年代末頃には鉄鋼業界に導入されて、国際的に受け入れられているものである。」(第43頁第1?4行)
(9b)TABLE1には、従来のベル型焼鈍炉とHICON/H2ベル型焼鈍炉との能力比較データが掲載されており、そこには、HICON/H2ベル型焼鈍炉の操業例について「H2:100%のガスを雰囲気として用いた例」が示されている。(第46頁のTABLE1)
(9c)「露点が低くかつ100%水素雰囲気であることから、下記の仕上がり表面品質もまた優れている:
・Mn,Si及びNb含有量を増したHSLA鋼についてエッジ酸化が生 じない。
・17%Cr含有鋼についてエッジ酸化が生じない。
・敏感な鋼について吸窒が生じない。
・高炭素鋼について脱炭が生じない。
・真鍮やアルミニウムをクラッドした鋼板の表面仕上がりが優れている。」(第48頁左欄第12行?同頁右欄第6行)

(10)甲第10号証:「JOURNAL OF METALS」March 1987,第28?31頁
(10a)「本研究において、ボロン酸化物を含むモールドフラックスを用いて連続鋳造され、通常の乾燥したH2-N2雰囲気で箱焼鈍された鋼をオージェ電子分光(AES)分析した結果、著しいボロンと窒素の表面濃化(おそらくBNとして存在)が観察された。鋼中のボロンの熱化学の調査から、ボロンと窒素の表面濃化は乾燥雰囲気下での焼鈍中の反応によって生じていることを示唆する。」(第28頁左欄第1?21行)
(10b)「BNの生成反応を防ぐためには、計算窒素ポテンシャルが平衡曲線よりも小さくなるように雰囲気中の窒素含有量を低くする必要がある。」(第29頁左欄第29?34行)

(11)甲第11号証:「日新製鋼技報」第45号,第30?36頁
(11a)「B添加したN22CBは浸炭浸窒処理を施すと,図9に示すように表層部の浸窒した部分の硬さが低下する。これは浸窒により表層部はBNを生成し,この部分の焼入性が低下することによる現象であろう。」(第35頁第2?6行)

(12)甲第12号証:特開昭48-52610号公報
(12a)「Al,Ti,Nb,V,Zr,Si,Bなど、窒化物を形成し易い元素が鋼中に存在し、これらの元素の窒化物と平衡する鋼中固溶窒素量が気相N2と平衡する固溶窒素量より低い場合には、気相から鋼中に固溶した窒素は直ちにこれらの元素と結合して窒化物を形成し、これらの元素がすべて窒化物となった後鋼板中の固溶窒素が気相N2と平衡するまで窒素を吸収し続ける。」(第2頁右上欄第2?9行)

第7 当審の判断
(1)無効理由1(特許法第29条の2違反)について
(1-1)甲第1号証に記載の発明
甲第1号証は、本件特許出願の日前の他の出願であって、その出願後に公開された特願平3-258078号(特開平5-98388号)の願書に最初に添付した明細書及び図面について記載したものである。
そして、同号証の摘示事項(1a)の請求項4は引用形式で記載されたものであるが、その請求項2を引用した鋼板は、鋼成分として、元素Bを選択できるものであり、摘示事項(1b)によれば、その鋼板は、通常、ユーザにて加工され、次いで焼入れ、焼戻しすると認められるから、上記鋼板は焼入れ用の鋼板であるといえるし、摘示事項(1c)及び(1d)には、焼鈍を実施する際の雰囲気に関して、Ac1以上の温度域にて焼鈍を行う際は、コイル内の温度分布均一化および冷却速度の均一化を図る目的で、雰囲気を100%水素とすることが望ましいと記載されていることから、甲第1号証には、そのように焼鈍雰囲気を規定した上記鋼板の焼鈍方法が記載されているといえるので、上記摘示事項(1a)?(1d)を総合すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「C:0.30?0.70重量%、Si:0.15?0.50重量%、Mn:0.05?1.00重量%、P:0.030%重量以下、Cr:0.50?2.00重量%、V:0.05?0.50重量%、Nb:0.005?0.100重量%、Al:0.08重量%以下、N:0.0020超?0.0100重量%に、B:0.0003?0.0025重量%を含み、残部実質的にFeから成る高炭素薄鋼板を、100%水素雰囲気中で焼鈍を行うことを特徴とする焼入れ用高炭素鋼板の焼鈍方法」

(1-2)対比
そこで、本件発明と引用発明1とを対比すると、引用発明1の高炭素薄鋼板は、Bを含有するので、本件発明の含B鋼板に相当するから、両者は「C:0.30?0.70重量%、Si:0.15?0.50重量%、Mn:0.20?1.00重量%、P:0.030重量%以下、Al:0.005?0.08重量%及びN:0.0020超?0.0100重量%に、B:0.0005?0.0025重量%を含有させた焼入れ用含B鋼板を、水素雰囲気中で焼鈍することを特徴とする焼入れ用含B鋼板の焼鈍方法」で一致し、次の点で一応の相違がみられる。
(イ)本件発明がCr、V及びNbの含有量を規定していないのに対して、引用発明1はCr:0.50?2.00重量%、V:0.05?0.50重量%、Nb:0.00 5?0.100重量%と規定している点
(ロ)本件発明がS:0.020重量%以下と規定するのに対して、引用発明1はS含有量を規定していない点
(ハ)焼鈍雰囲気について、本件発明が窒素含有量を10体積%以下に抑制した水素雰囲気とするのに対して、引用発明1は100%水素雰囲気としている点

(1-3)相違点の判断
上記相違点について検討する。
相違点(イ)について、
本件明細書には、「また、所定の性質を改善させるため、Ni:0.20?2.0重量%、Cr:0.05?1.0重量%、Mo:0.05?0.5重量%、V:0.01?0.2重量%及びNb:0.01?0.2重量%から選ばれた1種又は2種以上の合金元素を含ませることができる。」(【0011】)と記載されており、これらの含有量は、引用発明1の各合金元素の含有量と一致している。してみると、相違点(イ)は表記の有無の差であって実質的な相違ではない。
相違点(ロ)について、
引用発明1の実施例の鋼板の化学組成を示した表2には、Sを0.002、0.003、0.004重量%含む例が記載されている。そして、このSの含有量は、本件発明のSの含有量と一致している。してみると、相違点(ロ)も表記の有無の差にすぎず実質的な相違ではない。
相違点(ハ)について、
本件明細書の表2には、本件発明の実施例である試験No.4として、H2が100体積%の焼鈍雰囲気を採用したことが記載されている。してみると、相違点(ハ)は実施例レベルにおいて一致しているのであるから、実質的な相違とはいえない。

(1-4)小括
したがって、本件発明は、本件特許出願の日前の他の出願であって、その出願後に出願公開された甲第1号証に係る特願平3-258078号(特開平5-98388号)の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、本件発明の発明者が上記出願の明細書の記載された発明の発明者と同一であるとも、また、本件の出願時に、その出願人が上記出願の出願人と同一であるとも認められないので、本件発明についての特許は、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものである。

(2)無効理由2(特許法第29条第2項違反)について
(2-1)甲第3号証に記載の発明
甲第3号証には、焼入性の高い鋼ほど高強度であって加工が困難であるので、これを補うために予め球状化焼鈍などの軟化処理を施すのが一般的であること(摘示事項(3b))、及び摘示事項(3a)の組成の鋼板は、焼鈍処理を経た熱延板の形で得ることができるほか、冷間圧延を施した上で,焼鈍処理を加えて冷延板の形で得ることができること(摘示事項(3c))が記載されていることから、上記熱処理用鋼板の焼鈍方法が記載されているといえるので、上記摘示事項(3a)?(3d)を総合すると、甲第3号証には次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていることが認められる。
「C:0.30?1.20重量%、Si:0.30?2.00重量%、Mn:0.05?1.50重量%、Al:0.001?0.100重量%、N:0.0060重量%以下、P:0.020重量%以下、S:0.015重量%以下及びB:0.0005?0.0500重量%を含み残部Feおよび不可避的不純物の組成になる熱処理用鋼板に焼鈍処理を施すことからなる、引張り強さ50kgf/mm2以下であって、加工性と焼入性に優れ、かつ焼入-焼戻し処理後の靱性にも優れる熱処理用鋼板の焼鈍方法」

(2-2)対比
そこで、本件発明と引用発明2とを対比すると、引用発明2の熱処理用鋼板は、C、Si,Mn等の基本成分にBを含有させ、焼入性に優れることから、本件発明の焼入れ用含B鋼板相当するので、両者は「C:0.30?0.80重量%、Si:0.30?0.50重量%、Mn:0.20?1.50重量、P:0.020重量%以下、S:0.015重量%以下、Al:0.005?0.10重量%及びN:0.001?0.0060重量%の基本成分にB:0.0005?0.01重量%を含有させた焼入れ用含B鋼板を焼鈍することを特徴とする焼入れ用含B鋼板の焼鈍方法」である点で一致し、次の点で相違する。
本件発明は、窒素含有量を10体積%以下に抑制した水素雰囲気中で焼鈍するとして、焼鈍雰囲気を規定するのに対して、引用発明2では焼鈍雰囲気が不明である点。

(2-3)相違点の判断
上記相違点について検討する。
甲第7号証には、水素の高熱伝導性を利用して、コイルを均一に加熱するために、純水素などの水素濃度75%以上の高濃度水素雰囲気下で焼鈍することが記載されている(摘示事項(7a)?(7c))。また、甲第8号証の表8・82は、焼なまし処理に適用される雰囲気ガスの種類とその組成を紹介したものであるが、代表的な焼鈍ガスの例として、H2:100%からなる焼鈍雰囲気ガスが紹介されている(摘示事項(8c))。さらに、甲第9号証は、HICON/H2ベル型焼鈍炉に関する技術報告であるが、そこには、当該炉が、1970年代末頃に鉄鋼業界に導入され、国際的に受け入れられていることや、この炉が焼鈍雰囲気としてH2:100%の雰囲気ガスを採用していることが記載されている(摘示事項(9a)(9b))。
このように、純水素雰囲気などの窒素含有量を抑制した高濃度水素雰囲気中で焼鈍することは、本件出願前に周知の技術事項であったということができる。
してみると、引用発明2において、熱処理用鋼板の焼鈍を実施するにあたり、窒素含有量を抑えた高濃度水素雰囲気中で焼鈍するという周知の焼鈍方法を用いてみることになんらの困難はなく、その際に、高濃度水素の適切範囲として、窒素含有量を10体積%以下に抑制した水素雰囲気を規定する程度のことは当業者が容易に想到することができたものといえる。
そして、例えば、甲第8号証?甲第12号証に記載されるとおり、B等の窒化物形成元素を含む鋼は、焼鈍雰囲気中に窒素が含まれると窒化物を形成するため、吸窒が促進されること(摘示事項(8a)(10a)(12a))、焼鈍雰囲気中のN2割合が減少するにつれて、吸窒が抑制されること(摘示事項(8b)、(9c)、(10b))、さらに、窒素が吸収されると表層部の硬さが低下するが、これは表層部にBNを生成し、この部分の焼入性が低下することによること(摘示事項(11a))等は、よく知られた技術事項であるから、雰囲気ガスから鋼板への窒素吸収を抑制し、鋼中にある固溶状態のBが窒化物として析出することを防止して、焼入性等に優れた鋼板が得られるという本件発明の効果は容易に予測できたことである。

(2-4)小括
したがって、本件発明は、引用発明2及び上記周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

第8 むすび
以上のとおりであるから,本件発明についての特許は、特許法第29条の2及び特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、特許法第123条第1項第2号に該当する。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
含B鋼板の焼鈍方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】C:0.10?0.80重量%,Si:0.05?0.50重量%,Mn:0.20?2.00重量%,P:0.20重量%以下,S:0.020重量%以下,Al:0.005?0.10重量%及びN:0.001?0.01重量%の基本組成にB:0.0005?0.01重量%を含有させた焼入れ用含B鋼板を、窒素含有量を10体積%以下に抑制した水素雰囲気中で焼鈍することを特徴とする焼入れ用含B鋼板の焼鈍方法。
【請求項2】0.10?0.80重量%のC及び0.0005?0.01重量%のBを含有する焼入れ用含B鋼板を、窒素含有量を10体積%以下に抑制し、還元性ガスを混合したAr雰囲気中で焼鈍することを特徴とする焼入れ用含B鋼板の焼鈍方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、焼入れ性、組織改質等のためにBが添加された鋼板を焼鈍する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
焼入れ焼戻し等の調質熱処理が施される鋼,熱間加工後に直接焼入れが施される鋼では、焼入れ性を改善するためにBを添加した鋼種が使用されるようになっている。Bは、ごく少量の添加であっても、著しく焼入れ性を向上させる。そのため、他の合金元素に比べて比較的安価に焼入れ性の向上が図られ、工業的に有利な鋼が得られる。また、B添加によって焼戻し脆性の抑制を図り、機械特性を向上させる場合もある。
【0003】
B添加の対象となる鋼種は、条鋼や厚板に分類されるものが多く、薄板の場合でも比較的板厚が大きな熱延鋼板が対象とされていた。この種の材料は、通常熱間圧延のまま、或いは酸洗等によってデスケールした状態で使用されるものがほとんどであった。
【0004】
しかし、最近では、自動車等の機械部品用材料として比較的薄いものや、従来の熱延鋼板と同等な板厚であっても良好な成形加工性を要するものに含B鋼板の適用が考えられている。このような用途においては、従来の熱延鋼板を使用することは困難であり、熱延鋼板に焼鈍を施した焼鈍熱延材,更には引き続いて冷間圧延を施した冷延材等が必要とされる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
鋼板のバッチ焼鈍としては、コイル状に巻かれた鋼板をベル型焼鈍炉等に装入し、箱焼鈍する方法が通常である。箱焼鈍の雰囲気には、DXガス,HNガス,HNXガス等の非酸化性ガスが使用されている。これら非酸化性ガスは、鋼板の酸化を防止するために一酸化炭素,水素等の還元性ガスを50体積%程度まで含有しており、その他の主な組成は窒素等の不活性ガスである。合金元素の含有量が少ない機械構造用鋼の場合、易酸化性合金元素であるCrを多量に含むステンレス鋼と異なり、このようなガス組成の焼鈍雰囲気によって酸化を十分防止することができ、実用上問題のない光輝度の鋼板が得られる。
【0006】
含B鋼板を同様な焼鈍雰囲気で焼鈍すると、雰囲気ガス中の窒素が鋼板に吸収される問題がある。鋼板に吸収された窒素は、鋼中のBと結合して鋼板内部にBNを形成する。そのため、B添加の作用が損なわれる。
【0007】
含B鋼は、BとNとの親和力が強いことから、BNが形成されないような成分調整が本来必要とされる鋼種である。たとえば、焼入れ性の向上に寄与するBの作用は、焼入れ時のオーステナイト粒界に固溶状態のBが偏析することによって発揮されるものである。他方、化合物状態のBは、鋼中に含まれていても、焼入れ性を向上させる作用を呈さない。そのため、焼入れ性向上に有効な固溶状態のBを確保するため、製鋼段階においてAl,Ti等の含有量を調整し、これら元素によって鋼中の窒素を固定している。
【0008】
しかし、製鋼段階で化合物状態のBが生成しないように成分調整を行っても、焼鈍工程で雰囲気ガスから吸収された窒素が鋼中のBと反応してBNが形成されると、有効な固溶状態のBが確保できない。その結果、後続する焼入れ等の熱処理においてBの焼入れ性向上作用が全く発揮されないことになる。また、他の性質改善を狙ってBを含有させた鋼種でも、同様なBの消費によって所期の特性が得られない。
【0009】
本発明は、このような問題を解消すべく案出されたものであり、焼鈍時の雰囲気ガスの窒素含有量を低下させることにより、雰囲気ガスから鋼板への窒素吸収を抑制し、所期の作用を呈する有効Bの確保を図ることを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明の焼鈍方法は、その目的を達成するため、0.10?0.80重量%のC及び0.0005?0.01重量%のBを含有する焼入れ用含B鋼板を、窒素含有量を10体積%以下に抑制した水素雰囲気中で焼鈍することを特徴とする。雰囲気ガスとしては、同じく窒素含有量を10体積%以下に抑制し、還元性ガスを混合したArを主成分とするものを使用することもできる。
【0011】
本発明によって焼鈍される鋼としては、C:0.10?0.80重量%,Si:0.05?0.50重量%,Mn:0.20?2.00重量%,P:0.20重量%以下,S:0.020重量%以下,Al:0.005?0.10重量%及びN:0.001?0.01重量%の基本組成にB:0.0005?0.01重量%を含有させたものである。基本組成は、0.01?0.10重量%のTiを含むこともできる。また、所定の性質を改善させるため、Ni:0.20?2.0重量%,Cr:0.05?1.0重量%,Mo:0.05?0.5重量%,V:0.01?0.2重量%及びNb:0.01?0.2重量%から選ばれた1種又は2種以上の合金元素を含ませることもできる。これらの合金元素は、Tiと併用添加することも可能である。
【0012】
【作用】
通常の箱焼鈍に使用される雰囲気ガスは、不活性ガスとして窒素を主成分としたものである。また、還元性を付与するため、一酸化炭素や水素等を窒素に混合する場合もある。この窒素を主成分とする雰囲気ガスでは、焼鈍時に雰囲気ガスから鋼板への窒素吸収が生じ、鋼中の有効BがBNとして消費される。
【0013】
この点、本発明においては、窒素含有量を10体積%以下に抑えた雰囲気ガスを使用する。雰囲気ガスの主成分としては、水素及びArがある。窒素含有量を規制した雰囲気ガスは、鋼板の連続焼鈍においても有効な作用を呈するが、以下では箱焼鈍を例にとって説明する。
【0014】
水素を主成分とする雰囲気ガスを使用するとき、水素が爆発性の強いガスであることから、焼鈍炉の密閉性を高める等のように焼鈍設備を特殊なものにする必要がある。しかし、雰囲気ガスが窒素を含まないことから、雰囲気ガスから鋼板への窒素吸収がないことは勿論、還元性が高いため焼鈍後の光輝性に優れた焼鈍材が得られる。また、冷却能が高いことから、焼鈍後の冷却時間を短くすることができ、1バッチ当りの焼鈍時間の短縮が図られる。なお、水素を主成分とする雰囲気ガスは、必ずしも水素100体積%である必要はなく、酸化促進等の有害な作用を及ぼすガスでない限り、一酸化炭素,Ar等を含んでも良い。
【0015】
窒素を含まない他の雰囲気ガスとして、還元性ガスを混合したArを使用することができる。Arは、不活性ガスの代表的なものであり、純粋なArガスでも焼鈍がある程度可能である。しかし、焼鈍炉内の脱気を完全にすることは困難であり、大気が炉内に混入することが避けられない。混入した大気に含まれている酸素は、鋼板表面に酸化膜を形成する原因となる。そのため、Arを主成分とする雰囲気ガスを使用する場合には、混入大気による酸化を防止するため、還元性ガスを混合することが必要である。この場合の還元性ガスには、通常の雰囲気ガスとして使用されている一酸化炭素,水素等がある。還元性ガスの含有量は、鋼の組成等に起因する酸化の難易性,製品に要求される表面品質等を考慮し、数%?数十%の範囲で適宜定められる。
【0016】
雰囲気ガスに窒素が含まれていると、窒素の吸収によって焼鈍材中の窒素含有量が増加し、焼入れ性に対するBの効果が減少する傾向にある。しかし、雰囲気ガスの窒素含有量が10体積%以下になると、窒素吸収量が微量となり、Bによる焼入れ性向上作用が確保される。そこで、本発明においては、目標とするBの効果を得るため、雰囲気ガスの窒素含有量を10体積%以下に規定した。
【0017】
次いで、本発明に従って熱処理される鋼板の合金成分について説明する。
C:調質処理後の鋼板の強度を得るために必要な元素である。0.10重量%未満のC含有量では、機械構造用鋼板として要求される強度が得られず、また焼入れ性も低下して熱処理性が失われる。しかし、0.80重量%を超える多量のCが含有されると、BとCとの化合物が生成し易くなり、却って焼入れ性を低下させるだけでなく、熱処理後における靭性等の機械的性質が劣化する。したがって、0.10?0.80重量%の範囲にC含有量を定めた。
【0018】
Si:鋼の脱酸剤として使用される元素であり、焼入れ性を高める上でも有効である。この作用を得るためには、0.05重量%以上のSiを含有させることが必要である。しかし、Si含有量の増加に伴って、熱間圧延時のスケール疵等に起因して表面性状の劣化を招くと共に、溶接部の健全性も低下する。そこで、Si含有量は、上限を0.50重量%に設定した。
【0019】
Mn:鋼の焼入れ性を高め、強靭化を図る上で有効な元素である。しかし、過剰にMnを含有させると、Mn系の非金属介在物が増加し、且つ凝固時のミクロ偏析による縞状組織を発達させる。そのため、Mn含有量は、0.20?2.00重量%の範囲に規定した。
【0020】
P:本発明が対象とする機械構造用鋼板は、焼入れ焼戻し処理を施されることから、焼戻し脆性等によって靭性の劣化を招く元素であるPを低減させる必要がある。そこで、P含有量の上限を0.020重量%とした。
【0021】
S:鋼中に非金属介在物の生成を促進させ、成形加工性や熱処理後の靭性等を劣化させる有害な元素である。そこで、S含有量を、0.020重量%以下に規制した。
【0022】
Al:溶鋼に対する脱酸剤として働くと共に、AlNの形成によって鋼中Nを固定し、焼入れ性の改善に有効な作用をもつ固溶状態のBを確保する上で有効な元素である。この作用を得るためには、0.005重量%以上のAlが必要である。しかし、0.10重量%を超える多量のAlを含有させるとき、鋼の清浄度が損なわれると共に、表面疵が発生し易くなる。したがって、0.005?0.10重量%の範囲にAl含有量を定めた。
【0023】
N:Bと結合して窒化物を生成し、Bの焼入れ性向上作用を無効にする。この点から、N含有量は低いほど好ましい。しかし、0.001重量%未満にN含有量を低減することは、工業的に多大のコストが必要になる。他方、N含有量が0.01重量%を超えるとき、Nを固定する元素としてAlやTiを添加しても、十分なNの固定が困難になると共に、生成したAlN,TiN等の窒化物が非金属介在物として鋼中に分散し、靭性等の機械的性質を劣化させる。したがって、N含有量を0.001?0.01重量%の範囲に定めた。
【0024】
B:鋼の焼入れ性は、Bの添加により大きく向上する。Bを0.0005重量%とごく微量のBを添加した場合でも、B添加の作用がみられる。しかし、0.01重量%を超える多量のBを含有させると、鋼中にB系の化合物が生成され、逆に焼入れ性の低下を招くばかりでなく、靭性にも悪影響を及ぼす。したがって、0.0005?0.01重量%の範囲にB含有量を定めた。
【0025】
また、選択成分として添加されるTi,Ni,Cr,Mo,V,Nb等は、それぞれ次の作用を呈する。
Ti:熱処理時に固溶しにくい炭窒化物を形成し、焼入れ時に結晶粒の粗大化を防止する作用を呈する。また、鋼中に固溶しているNを窒化物として固定する。そのため、固溶NによるBの消費が抑制され、Bによる焼入れ性改善作用が効率よく発揮される。これらの作用は、0.01重量%以上のTiを含有させるとき顕著にみられる。しかし、0.10重量%を超える多量のTiを含有させると、粗大な窒化物が形成され、靭性の劣化を招く。したがって、Tiを含有させる場合には、その含有量を0.01?0.10重量%の範囲に定める。
【0026】
Ni:鋼の焼入れ性を向上させ、靭性の劣化を抑えながら高強度化を図る上で有効な元素である。この作用を得るためには、0.20重量%以上のNiを含有させることが必要である。しかし、2.00重量%を超えてNiを含有させても、性質改善効果が飽和し、鋼材のコスト上昇を招く。したがって、Niを含有させる場合には、その含有量を0.20?2.00重量%の範囲に定める。
【0027】
Cr:鋼の焼入れ性を向上させる有効な元素であり、0.05重量%以上の含有によってCrの効果が顕著になる。しかし、1.00重量%を超えるCr含有量では、Crの増量に見合った効果が得られず、鋼のコストを上昇させることになる。そこで、Crを含有させる場合には、その含有量を0.05?1.00重量%の範囲に定める。
【0028】
Mo:鋼の焼入れ性を向上させる有効な元素であり、0.05重量%以上の含有によってMoの効果が顕著になる。しかし、Moは、高価な合金元素であり、0.5重量%を超えて含有させても、それに見合った性質改善効果がみられず、経済的に不利になる。そこで、Moを含有させる場合には、その含有量を0.05?0.5重量%の範囲に定める。
【0029】
V:安定な炭窒化物を形成し、焼入れ時に結晶粒の粗大化を抑制すると共に、靭性の劣化を防止する等の有効な作用を呈する。このような作用は、0.01重量%以上のVを含有させるとき顕著に現れる。しかし、V含有量が0.20重量%を超えると、ごく短時間で鋼材が焼入れ温度までに加熱される高周波焼入れでは炭化物の固溶不足に起因してマトリックスのC濃度が低下する。その結果、必要な強度が得られない。そこで、Vを含有させる場合には、その含有量を0.01?0.20重量%の範囲に定める。
【0030】
Nb:Vと同様に結晶粒の粗大化を抑制する有効な元素である。しかし、マトリックスに対する炭化物の固溶を減少させ、強度低下を招く欠点をもっている。したがって、Nbを含有させる場合、Vと同様にNb含有量を0.01?0.20重量%の範囲に定める。
【0031】
【実施例】
実施例1:
表1に示した各種組成の鋼板を使用し、種々の焼鈍雰囲気の下で箱焼鈍のテストを行った。焼鈍後の鋼板について、化学分析すると共に、焼入れ処理後の硬さを測定した。表1における鋼種A及びCは、転炉で溶製した溶鋼から連鋳スラブを得、連鋳スラブをホットストリップミルで熱間圧延し、酸洗によってデスケールした厚さ2.3mmの鋼板である。鋼種B,D,E及びFは、高周波溶解炉で製造した鋼塊に熱間鍛造及び熱間圧延を施した後、表面を研削して得た厚さ3.0mmの鋼板である。
【0032】
【表1】

【0033】
各鋼板から切り出した試験片をステンレス鋼製の反応管中にセットし、各種のガスを反応管内に供給しながら700℃まで昇温し5時間保持した後で炉冷することにより、箱焼鈍のテストを行った。焼鈍後の各試験片は、ソルトバス中で780?850℃の温度に加熱した後、油中に焼入れした。次いで、各試験片を切断し、表面から50μmの深さ位置における硬さを測定し、また表層の組織を観察した。各試験片表層部の硬さ及び組織を表2に示す。また、試験No.6の表層部の組織を図1に示す。
【0034】
【表2】

【0035】
C含有量が0.1重量%未満の鋼種Aを使用した試験No.1では、焼入れ後の表層は、焼鈍雰囲気に拘らずフェライト組織となっており、焼入れ処理の目標とするマルテンサイト組織が得られていない。そのため、硬さが低くなっている。また、C含有量及びB含有量に関し本発明の規定を満足する鋼種B?Eであっても、窒素含有量が10体積%を超える雰囲気ガス中で焼鈍したとき、試験No.2,3,5,6,7,9,11及び13では、図1に試験No.6の試験片を代表例として示すように、表層部にベーナイトやフェライトが部分的に生成され。目標とするマルテンサイト単一の組織が得られていない。その結果、比較的低い硬度をもったものとなる。
【0036】
これに対し、本発明に従った試験No.4,8,10,12,14及び15の各試験片では、焼鈍中に窒素の吸収がなく固溶状態のBが有効に機能し、正常な焼入れ組織であるマルテンサイト単相組織をもつ表層部が形成された。その結果、表層部の硬さは、試験No.2,3,5,6,7,9,11及び13に比較して格段に高くなっている。このことから、焼鈍雰囲気の窒素含有量を規制することにより、固溶状態のBが焼鈍後においても有効に確保されることが判る。
【0037】
実施例2:
実施例1で使用した鋼種のうち、鋼種Cの鋼板を用いて窒素含有量が異なるアルゴン-水素混合ガスの雰囲気下で焼鈍テストを行い、鋼中に吸収される窒素量に与える雰囲気中の窒素量の影響を調査した。使用した混合ガスの組成は、水素含有量を10体積%とし、窒素含有量を0,4,8,15,30及び50体積%に変化させたものである。なお、残部は、アルゴンとした。
【0038】
焼鈍後の鋼板表層部における窒素含有量を調査したところ、焼鈍雰囲気ガスの窒素含有量との間に図2に示す関係があることが判った。図2から明らかなように、雰囲気ガスの窒素含有量が0の場合、鋼板表層部の窒素含有量は、焼鈍前の試料と焼鈍後の試料とでほぼ同じ値になっている。鋼板表層部の窒素含有量は、雰囲気ガスの窒素含有量に従って増加する傾向にある。雰囲気ガスの窒素含有量が10体積%以下であると、焼鈍後の鋼板表層部の窒素含有量は、0.01重量%以下に保たれており、それほど顕著な増加がみられない。ところが、雰囲気ガスの窒素含有量が10体積%を超えると、吸窒現象が激しくなり、鋼板表層部の窒素含有量が急激に増加している。
【0039】
このことから、B添加の作用を発揮させるために、雰囲気ガスの窒素含有量を10体積%以下に抑えることが必要である。これにより、吸収された窒素によって鋼中のBが消費されることなく、所期のB添加の効果が得られた。
【0040】
以上の例においては、箱焼鈍を例に説明した。しかし、本発明は箱焼鈍に特定されるものではなく、焼鈍雰囲気を本発明に従って制御する限り、連続焼鈍に対しても同様に適用されることはもちろんである。この場合にも、雰囲気ガスからの窒素吸収が抑えられ、焼入れ性向上,組織微細化等に有効な固溶状態のBが連続焼鈍された鋼板中に確保される。
【0041】
【発明の効果】
以上に説明したように、本発明においては、性質改善のためにBが添加された鋼板を焼鈍するとき、焼鈍雰囲気を制御することによって、雰囲気ガスから鋼板への窒素吸収を抑制し、鋼中にある固溶状態のBが窒化物として析出することを防止している。これにより、有効Bが確保され、焼入れ性等に優れた鋼板が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】50体積%H2-50体積%N2の雰囲気ガスの下で熱処理した試験片の表面層
【図2】雰囲気ガスの窒素含有量が表層部の組織に与える影響を示したグラフ
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2006-08-29 
結審通知日 2006-08-31 
審決日 2006-09-12 
出願番号 特願平4-164276
審決分類 P 1 123・ 121- ZA (C21D)
P 1 123・ 16- ZA (C21D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 井上 猛  
特許庁審判長 吉水 純子
特許庁審判官 長者 義久
平塚 義三
登録日 2004-01-16 
登録番号 特許第3511268号(P3511268)
発明の名称 含B鋼板の焼鈍方法  
代理人 小倉 亘  
代理人 小倉 亘  
代理人 今井 毅  
代理人 岡田 萬里  
代理人 岡田 萬里  
  • この表をプリントする

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ