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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効200680071 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 特36 条4項詳細な説明の記載不備  A01K
審判 全部無効 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  A01K
審判 全部無効 2項進歩性  A01K
管理番号 1146978
審判番号 無効2004-80241  
総通号数 85 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1994-01-18 
種別 無効の審決 
審判請求日 2004-12-01 
確定日 2006-11-14 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第2978025号発明「魚釣用電動リール」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第2978025号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
平成 3年12月27日 実願平3-107922号 原々出願
平成 5年 3月11日 特願平5- 50788号 原出願(変更出願)
平成 5年 3月12日 特願平5- 52385号 本件出願(分割出願)
平成11年 9月10日 特許登録
平成12年 4月 3日 別件無効審判請求(無効2000-35169)
平成13年 5月 9日 審決(訂正を認める 不成立)
平成13年 6月20日 上記審決確定
平成16年12月 1日 本件無効審判請求(無効2004-80241)
平成17年 2月18日 訂正請求書、答弁書
平成17年 7月15日 弁駁書

2.訂正の適否
(2-1)訂正の内容
本件無効審判の「訂正の請求」は、別件無効2000-35169において確定した本件特許明細書を次のとおりに訂正するものである。
(訂正事項a)
【請求項1】に「リール本体に」とあるのを、「リール本体の右側部の前方に」と訂正する。
(訂正事項b)
【請求項1】に「回転可能」とあるのを、「回転操作可能」と訂正する。
(訂正事項c)
【0009】に「リール本体に」とあるのを、「リール本体の右側部の前方に」と訂正する。
(訂正事項d)
【0009】に「回転可能」とあるのを、「回転操作可能」と訂正する。
(訂正事項e)
【0044】に「リール本体に」とあるのを、「リール本体の右側部の前方に」
(訂正事項f)
【0044】に「回転可能」とあるのを、「回転操作可能」と訂正する。

(2-2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記訂正事項aは、特許請求の範囲を減縮することを目的とするものである。
上記訂正事項bは、特許請求の範囲の明瞭でない記載の釈明を目的とした訂正である。
上記訂正事項cないしfは、特許請求の範囲の訂正に伴い、特許請求の範囲と発明の詳細な説明との整合を図るものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とした訂正である。
そして、上記訂正事項aないしfは、本件特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内であり、特許請求の範囲を実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
したがって、上記訂正事項aないしfは、平成6年改正前特許法第134条第2項ただし書きに適合し、特許法第134条の2第5項において準用する平成6年改正前特許法第126条第2項の規定に適合するから、当該訂正を認める。

3.当事者の主張
(3-1)請求人の主張
請求人は、審判請求書において、本件の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の特許を無効とする理由として次のように主張し、甲第1号証ないし甲第13号証を提出した。
(無効理由1:特許法第29条第2項)
本件平成11年6月30日付け手続補正書による補正は、要旨変更であり、平成5年改正前特許法第40条により本件特許出願の出願日は補正日である平成11年6月30日に繰り下がる結果、本件発明は、本件出願の公開公報である甲第11号証に記載された発明及び甲第8号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(無効理由2:特許法36条)
本件出願の明細書は、平成6年改正前特許法第36条第4項、5項に規定する要件を満たしていない。
(無効理由3:特許法第29条第2項)
本件発明は、甲第1号証及び甲第3号証の発明並びに周知技術(甲第7号証、及び、甲第4、9号証等)に基づいて当業者が容易に想到をすることができたものである。
(無効理由4:特許法第29条第2項)
本件発明は、甲第2号証及び甲第3号証の発明並びに周知技術(甲第7号証、及び、甲第5、6、9号証)に基づいて当業者が容易に想到をすることができたものである。

甲第1号証:特開平3-119941号公報
甲第2号証:特開昭50-142387号公報
甲第3号証:フランス特許第1525043号明細書
甲第4号証:実願昭59-40697号(実開昭60-151369号)のマイクロフィルム
甲第5号証:実願昭60-203774号(実開昭62-111371号)のマイクロフィルム
甲第6号証:特開平2-257820号公報
甲第7号証:特開昭60-120932号公報
甲第8号証:特開平5-153888号公報
甲第9号証:日本工業規格JIS Z8907「方向性及び運動方向通則(昭和62年3月1日制定)」
甲第10号証:特開平6-14679号公報(本件出願の原出願の公開公報:本件出願の原出願(特願平5-50788号)の願書に最初に添付された明細書又は図面)
甲第11号証:特開平6-7060号公報(本件出願の公開公報)
甲第12号証:本件出願の平成11年6月30日付け手続補正書
甲第13号証:本件出願の平成11年6月30日付け意見書

また、弁駁書において、参考資料1及び参考資料2を挙げている。

参考資料1:無効2000-35169事件の平成12年7月11日付け答弁書
参考資料2:1990年5月25日、日刊工業新聞社発行「機械用語図解辞典」330、331頁

(3-2)被請求人の主張
被請求人は、答弁書において乙第1号証の1ないし乙第10号証を提出して、請求人の無効理由1?4はいずれも理由がない旨主張する。

乙第1号証:実願昭60-203774号(実開昭62-111371号)のマイクロフィルム
乙第2号証:特開平2-257820号公報
乙第3号証:実願昭62-201320号(実開平1-105466号)のマイクロフィルム
乙第4号証:シマノ工業株式会社カタログ「シマノ新製品ニュースNew Tack1e '87-No.20」
乙第5号証:リョービ株式会社カタログ「FISHING TACKLE FOR 1988」
乙第6号証:株式会社オリムピック、オリムピック釣具販売株式会社カタログ「' 86オリムピック釣具総合カタログ」
乙第7号証:ダイワ精工株式会社カタログ「Fishing Tack1e Catalog '89」
乙第8号証:谷腰欣司著「小型モーターのしくみ」2004年10月15日第1版第1刷発行、発行所:株式会社電波新聞社、17?19頁、55?59頁、65?69頁
乙第9号証:見城尚志、永守重信著「メカトロニクスのためのDCサーボモータ」昭和59年2月25日第4版発行、発行所:総合電子出版社、6?12頁
乙第10号証:無効2000-35169審決

4.特許法第29条第2項(無効理由3)について
(4-1)本件発明
本件発明は、上記訂正の請求が認められることから、平成17年2月18日付け訂正請求書に添付された訂正明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「リール本体の両側板間に配置されて回転可能に支持されたスプールを回転駆動する手動用ハンドルとスプール駆動モータとを備え、該スプール駆動モータのモータ出力を調節するモータ出力調節体を前記リール本体に設けた魚釣用電動リールに於て、上記手動ハンドルが取り付く側の該ハンドルより内方となるよう、リール本体の右側部の前方に上記スプール駆動モータの出力を巻上げ停止状態から最大値まで連続的に増減させるレバー形態のモータ出力調節体を回転操作可能に設けると共に、当該モータ出力調節体のモータ出力増加方向を、手動ハンドルの巻取り回転方向と同方向としたことを特徴とする魚釣用電動リール。」

(4-2)甲号各証及び乙号各証の記載内容
甲第1号証には、次のことが記載されている。
「〔産業上の利用分野〕本発明は、・・・釣用リールの自動シャクリ制御装置に関する。」(1頁右下欄最下行?2頁左上欄6行)、
「先ず、第16図と第17図に基づいて釣用リールの駆動構造を説明する。(1)は釣糸を巻くためのスプールであり、リール本体(2)の左右両側に固着されたリール側枠(3L),(3R)にベアリングを介して回転自在に支持されている。スプール(1)内には、直流モータ(M)が保持部材(4)に保持され、この直流モータ(M)からは、スプール(1)の回転軸芯と同心上に出力軸(Ma)が突出している。・・・更に第19図(第20図の誤記。当審注。)に示すように、リール本体(2)の右側部には直流モータ(M)の回転速度を高・中・低の3速に選択的に切り換える変速用スライドスイッチ(11)が設けられている。」(3頁左下欄下から2行?4頁左上欄4行)、
「かかる構成によって、モータ駆動回路(10)に作動指令が与えられると、直流モータ(M)が駆動されて、スプール(1)が巻上げ方向(第17図では左回りの方向)へ回転駆動されるように、そして巻上げ速度は変速用スライドスイッチ(11)の操作によって3段階に切り換えられるようになっている。又、ハンドル(20)を巻上げ方向(第17図では右周りの方向)へ回転操作すると、スプール(1)が巻上げ方向(第17図では左回りの方向)へ回転駆動されるようになっている。」(4頁右上欄9?19行)、
「図面の簡単な説明・・・第16図は釣用リールの駆動部の横断平面図、第17図は同縦断側面図・・・第20図は釣用リールの平面図である。」(10頁右下欄4行?11頁1行)。
また、第20図(平面図)には、リール本体(2)の右側部のハンドル(20)の内側に、直流モータ(M)の回転速度を高・中・低の3速に選択的に切り換える変速用スライドスイッチ(11)が前方が「高」となるように前後方向に設けられている。
そして、第17図(側面図)では、ハンドルの巻上げ方向が右回りの方向となることから、第20図において、変速用スライドスイッチ(11)の回転速度が「高」となる方向が、ハンドル(20)の巻上げ方向と同方向である。
以上の記載及び図面から、甲第1号証には、以下の発明が記載されていると認められる。
「リール本体2のリール側枠3L,3R間に配置されて回転可能に支持されたスプールを回転駆動するハンドル20と直流モータMとを備え、該直流モータMの回転速度を高・中・低の3速に選択的に切り換える変速用スライドスイッチ11を前記リール本体に設けた釣用リールに於て、
上記手動ハンドルが取り付く側の該ハンドル20より内方となるよう、リール本体の上面の右前方に、上記直流モータMの回転速度を増減させる変速用スライドスイッチ11をスライド操作可能に設けると共に、
当該変速用スライドスイッチ11のモータ回転速度増加方向を、手動ハンドルの巻取り回転方向と同方向とした釣用リール。」(以下、「甲1発明」という。)

甲第2号証には、次のことが記載されている。
「この発明は、モータの駆動回転によりスプールが連動回転して釣糸が自動的に巻き取られる電動リールに係り、・・・」(1頁左下欄11?13行)、
「リール本体(A)は、スプール(1)を左右側板(2)(2)’の間に回転自在に軸承し、そのスプール(1)はハンドル(3)の回動操作により駆動回転するものとする。又、スプール(1)のスプール軸(4)を支承した左右側板(2)(2)間にはモータ(5)を定着支承し、そのモータ(5)の回転軸(6)と前記スプール軸(4)との間にモータ(5)の回転を伝達すると共にリール本体(A)のハンドル(3)の操作により前記の電動伝達が切れ手動式へと切り換わる伝達機構(B)を介在させる。」(1頁右下欄1?10行)、
「又、前記したモータ(5)と電源(図示セズ)との間には可変抵抗器(16)を接続するが、図面では可変抵抗器(16)はモーター(5)の側面に一体的に取付けると共に、可変抵抗器(16)を操作するツマミ(17)を回動自在に取付ける。」(2頁右上欄6?10行)、
「電動の場合:スイッチボタン(18)をONにすることにより、モーター(5)の回転はモーターの回転軸(6)・・・スプール(1)へと伝達され、巻き取り可能となり、且、可変抵抗器(16)の操作によりモーター(5)の回転速度を任に可変して、スプール(1)の回転速度を調節することができる。」(2頁左下欄1?10行)。

甲第3号証には、次のことが記載されている。
「本発明は、いわゆる固定スプールの魚釣用リールに関するものであり、キャスティング時にスプールから釣糸が引き出されていくときにスプールが静止状態にある魚釣用リールに関する。本発明の目的は、キャスティングを行った時の様々な実用上の要請、特に餌或いはルアーの回収操作に関する要請に対し、従来よりも更に好適に対応できるような上記リールを製造することにある。」(翻訳文1頁5?10行)、
「一方、スプール1には釣糸が巻回されており、固定スプールと呼ばれる。これはキャスティング時釣糸が放出されていく時にスプール1が制止状態を保つためである。」(同2頁5?7行)、
「一方、回転ドラム2は固定スプール1と同軸上にあり、ピックアップ3の支持部材としての役割を果たすと同時に、キャスト後に釣糸を巻き上げる時、釣糸Fを固定スプール1に確実に巻回するためのものである。最後に、ハンドル4はステップアップ機構を用いてドラム2を回転駆動させるものである。」(同2頁10?14行)、
「電気モータ16は携帯用電源17(バッテリ又は蓄電池)から電力供給を受け、ステップダウン装置により回転ドラムと接続されている。ここにはフリーホイール等が介在し、モータ16の停止時に手動ハンドル4の操作による回転ドラムの駆動を可能にしている。」(同2頁28?31行)、
「モータ16は好ましくは同じ操作部材21(図1及び図2)によって駆動開始と駆動停止を行うようにするのがよく、この操作部材21をハンドル4の近傍に配置するのが望ましい。そうすることにより釣り人は操作部材を一方向にあるいはそれとは逆の方向にハンドル4から手を離すことなく操作することができる。図2に明瞭に示されているように、この操作部材21をレバー形態とするのが好ましく、操作部材21の端部21aは、ハンドル4の回転面の近傍にある面内に位置している。釣り人は一方の手でハンドル4を正規位置で保持し続け、同じ手の親指で操作部材21の端部21aを操作することができる。図1に示されているように、操作部材21はモータ16の給電回路24に直列に接続されている可変抵抗器23の摺動部22を制御し、操作部材21は待避端部位置からアクティブ端部位置までの範囲に亘って変化させることができ、待避端部位置では摺動部22が絶縁スタッド25上に待避しておりモータ16は停止状態にあり、アクティブ端部位置においては可変抵抗23は(回路から)はずれた状態であってモータ16の速度は最大となっている。操作部材21の中間位置はモータの開始速度と最大速度の間の速度に対応している。設計においては、図2に示されるように、回転ドラム2の電気的制御に寄与する様々な要素を、回転ドラム2の機械的制御に寄与する部材を収容するケースと一体の同一ハウジング26内に纏めることもできる。」(同3頁9?28行)、
「このようなリールでは電気的巻上制御により餌或いはルアー回収を、手動で行うよりも高速で行うことができる。また、回収速度をより迅速に切り替えることができる。これら全ての要素は獲物を狙う魚を狙うのに効果的である。釣りの種類やその時々の状況に応じて、釣り人は回転ドラムの制御方法を一方から他方へ簡単に且つ迅速に行うことが可能である。例えば、魚がかかると電気制御による回収を停止し、魚を疲れさせるために手動制御に切り替えることができる。」(同3頁35行?4頁5行)。
以上の記載及び図面から、甲第3号証には、以下の発明が記載されていると認められる。
「ハンドル4と電気モータ16を備え、電気モータ16の回転速度を待避端部位置からアクティブ端部位置まで連続的に増減させるレバー形態の操作部材21を回転操作可能に設けた固定スプール魚釣用リール」(以下、「甲3発明」という。)

甲第4号証には、以下のことが記載されている。
「考案の目的 本考案は・・・・操作性の良い変速スイッチを有する電動リールを提供するものである。」(明細書2頁6?9行)、
「さて本考案による電動リール1には、図示のようにリールの側部にモータの回転速度を高低二段に切換えるスイッチ8が設けられている。このスイッチ8は操作レバー9を有し、第2図に示すように所定角度を回動させて操作する回転スイッチとして構成されている。そして第3図に電動リール1の内部を示すようにスイッチ8の回転軸10に変速カム11が固定されており、この変速カム11が電動リール1内部のマイクロスイッチ12の可動片12aと接触している。」(同3頁15行?4頁5行)。
そして、第1図?第3図には、操作レバー9を、リールの側枠に設けたことが記載されている。

甲第5号証には、以下のことが記載されている。
「(産業上の利用分野) この考案は魚釣用電動リールに関し、詳しくは電動巻き上げ、電動+手動巻き上げ、更に手動巻き上げの3方式の使用が出来る電動リールに関する。」(明細書2頁2?6行)、
「両軸受タイプの魚釣用電動リールは左右の側枠1、2と、その左右の側枠間に軸承されたスプール3、及びスプール3の胴部3a内に収納設置したモータ4、側枠1内に収納装備した動力伝達機構とで構成されており、スプール3内に収納するモータ4の一側部が側枠2にナット締めによって定着固定され、そのモータ4の外側でスプール3が回転するようになっている。」(同5頁3行?11行)、
「上記移動手段は支軸13に対して回転可能に取付けた操作レバー28、その操作レバー28の軸承部周囲に形成した固定傾斜カム29、固定傾斜カム29と対応する可動傾斜カム30、複数枚の皿バネ31、スリーブ32とで構成され可動傾斜カム30の外周にはスプライン30’が突設されて側枠1の筒部33内面に形成した案内溝34に嵌合され、それによって可動傾斜カム30が回動が規制されて軸線方向にスライドするように支持されている。」(同7頁15行?8頁4行)、
「本考案に係る魚釣用電動リールは以上の如き構成としたものであるから、操作レバーの操作によってスプールを自由回転から強制巻き取り状態の最大トルクまで管制できると共に、強制巻き取り時の係合トルクは魚が掛った場合に作用する逆転トルクに対してドラッグ力(ブレーキ)として作用するものである。しかも、クラッチの係合トルク調整とドラッグ力の強弱調整の両作用を1本の操作レバーにて行うことが出来るため釣り操作を大幅に向上することが出来る。」(同10頁下から3行?11頁8行)。
そして、第1図?第3図には、操作レバー28を、リールの側枠21に設けたことが記載されている。

甲第6号証には、以下のことが記載されている。
「本発明は手動併用電動リールにおけるこれらの欠点を改善して手動巻取り操作中においても円滑容易なドラグ操作が出来ると共に安定したドラグ制動力が得られるようにした魚釣用電動リールを提供することを目的とするものである。」(1頁右下欄下から3行?2頁左上欄2行)、
「次にモーターで釣糸を捲取る場合は、制動歯車がその制動力に応じてピニオンの回り止めを行うので減速装置の遊星歯車保持体は回転せず、スプールを捲取り回転させる。」(2頁左下欄第8?11行)、
「また前記太陽歯車26の内端部に一体的に設けられた歯車28は、制動軸29に嵌合された制動歯車30に噛合し、該制動歯車30は公知の制動機構のように制動摩擦材31を介して制動軸29に螺合されたドラグ調整捕手32で圧接自在に形成され制動歯車30のドラグカを調節できるように構成されている。・・・図中34はハンドル軸19に固着したハンドル、35はモータースイッチ、36は給電コード、37はドラグ調整捕手32の操作レバーである。」(3頁左上欄4?17行)、
「次にモーター7により捲取る場合には、モーター7の回転は減速装置11を介してピニオン18、・・・太陽歯車26から制動歯車30に分かれて伝達される。ところが制動歯車30はその制動力の範囲で回り止め作用を行うので減速装置11の遊星歯車保持体16は回転せず内側歯車10を介してスプ-ル6を捲取り回転させるものである。」(3頁左下欄7?17行)。
また、第1図?第3図には、操作レバー37は、手動ハンドル34が取付く側に位置している。

甲第7号証には、以下のことが記載されている。
「この発明は、ハンドル操作で駆動モーターの回転速度を制御した魚釣用電動リールに関する。」(1頁左下欄10?11行)、
「本発明の目的は、・・・ハンドル操作で駆動モーターの回転速度を制御して獲物の引きに合わせて釣糸の繰り出しと巻き上げ操作が出来て釣り本来の面白味が味わえるようにした魚釣用電動リールを提案することにある。」(1頁右下欄1?5行)、
「以下、図示の実施例で本発明を説明すると、魚釣用電動リールの第1実施例を魚釣用スピニングリールで述べれば第1図から第3図でリール本体1の前面に突出された回転軸部材を構成する回転軸筒2とスプール軸10と、回転軸筒に固定された糸巻き回転部材を構成するローター11と、スプール軸10に取り付けられて前後に往復動するスプール12と、・・・上記ローター11の両腕部に反転自在に取り付けられたベール20・・・とで構成されている。」(1頁右下欄6行?2頁左上欄下から3行)、
「第4図以下は魚釣用電動リールを両軸受型リールに実施した第2実施例で、・・・一方のリール側板32と基板34に固定された軸受37、38に回転自在に軸承された回転部材を構成するスプール軸7に糸巻き回転部材を構成するスプール8が固定され、」(2頁右下欄8?14行)、
「又上記説明では魚釣用リールをスピニングリールと両軸受型リールで述べたが、他の形式のリールに実施してもよい。」(3頁左下欄12?14行)。


乙第1号証?乙7号証には、魚釣用電動リールの技術分野において、モータ駆動と手動ハンドル駆動とを併用して、追い巻き操作のような複合操作をすることが記載されている。

(4-3)対比
本件発明と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「リール側枠3L,3R」は、本件発明の「両側板」に相当し、以下、「ハンドル20」は、「手動用ハンドル」に、「直流モータM」は、「スプール駆動モータ」に、「釣用リール」は、「魚釣用電動リール」に、それぞれ、相当し、甲1発明の「変速用スライドスイッチ11」は、本件発明の「モータ出力調節体」と、モータの特定の値を調節する「モータ調節体」である点で共通するから、両者は、
「リール本体の両側板間に配置されて回転可能に支持されたスプールを回転駆動する手動用ハンドルとスプール駆動モータとを備え、該スプール駆動モータの特定の値を調節するモータ調節体を前記リール本体に設けた魚釣用電動リールに於て、
上記手動ハンドルが取り付く側の該ハンドルより内方となるよう、上記スプール駆動モータの特定の値を増減させるモータ調節体を操作可能に設けると共に、
当該モータ調節体の特定の値の増加方向を、手動ハンドルの巻取り回転方向と同方向とした魚釣用電動リール。」の点で一致し、次の各点で相違する。

(相違点1)
モータ調節体の配置位置に関し、本件発明が、リール本体の右側部の前方に設けたのに対し、甲1発明は、リール本体の上面の右前方に設けた点。
(相違点2)
モータ調節体の形態及び調節態様に関し、本件発明が、スプール駆動モータの出力を巻上げ停止状態から最大値まで連続的に増減させるレバー形態のモータ出力調節体を回転操作可能に設けたのに対し、甲1発明は、モータの回転速度を高・中・低の3速に選択的に切り換える変速用スライドスイッチ11をスライド操作可能に設けた点。

(4-4)当審の判断
(相違点1について)
相違点1を検討すると、乙第1号証から乙第7号証に記載され被請求人も自認するとおり、手動ハンドルの回転操作による手動巻取りと自動巻取りとの交互使用や、モータ駆動中の手動ハンドルによる追い巻き操作等の複合操作が行えるようにしたものは周知慣用である。
ここで、甲第1号証をみると、本件発明と同様に、モータ調節体(変速用スライドスイッチ11)は、手動ハンドルが取り付く側の該ハンドルより内方となるよう設けており、さらに、被請求人が主張するような、リール本体の右側部(右側の側面)ではないが、モータ調節体(変速用スライドスイッチ11)は、手動ハンドルの近傍の「リール本体の上面の右前方」に設けられており、甲第1号証記載のものも、本件発明と同様に、「・・・手を大きくずらすことなく一連の動きで、手動ハンドルの回転操作による手動巻取りと・・・自動巻取りとの交互使用や、モータ駆動中の手動ハンドルによる追い巻き操作等の複合操作が行えるように・・・」(本件特許明細書【0044】)参照)なることは明らかである。
そして、本件発明のような両軸受け型電動リールにおいて、甲第2号証には、手動ハンドルの存するリール本体の右側の側面にモータ調節体(ツマミ17)を設けたことが記載され、同甲第4号証には、手動ハンドルを設けてはいないが、モータ調節体をリール本体の右側の側面に構成することが記載され、また、同甲第5号証及び甲第6号証には、モータ調節体ではないが、手動ハンドルの存するリール本体の右側の側面に調節体(操作レバー)を設けたものが記載されている。
上記のように、甲1号証に手動ハンドルの近傍にモータ調節体を設けたことが記載されており、また、モータ調節体又は各操作レバーをリール本体の右側の側面に構成することが周知慣用であることから、甲1発明において、相違点1の本件発明に係る構成とすることは、当業者であれば容易になし得ることである。

なお、甲第1号証には、第20図記載の「変速用スライドスイッチ11」をリール本体の上面の右前方に設けたことを、リール本体の右側部に設けた(甲第1号証3頁右下欄最下行?4頁左上欄4行参照)と記載していることから、相違点1は実質的に甲第1号証に記載されているともいえる。

(相違点2について)
上記相違点2を検討すると、本件発明(両軸受け型リール)とは形式が異なるが、甲3発明は、駆動モータ(「電気モータ16」、以下、括弧内は甲3発明)の回転速度を巻上げ停止状態(待避端部位置)から最大値(アクティブ端部位置)まで連続的に増減させるレバー形態のモータ調節体(操作部材21)を回転操作可能に設けている。
ここで、本件発明のモータ出力調節体はモータの出力を増減するのに対し、甲1発明及び甲3発明は、モータの回転速度を増減するものであるが、本件特許明細書にその態様としてモータの回転を制御するとの記載(【0026】参照)があること、及び、被請求人が自認するように(モータ出力)=(定数)×(モータ軸の回転数:N)×(モータ軸のトルク:T)は技術常識であって(答弁書13?14頁(マル2)「(4-4-1)特許請求の範囲の記載要件違反(マル2)の項参照)、結局のところ、モータ出力は、外部の負荷に影響されるものの略モータ軸の回転数により決まるものであるから、甲1発明の回転数の増減に代えて本件発明のモータ出力の増減とすることは、その実態において異ならないものである。
さらに、魚釣用電動リールに関する技術を、両軸受型リール及びスピニングリール双方に適用することは、従来より一般的に行われていること(例えば、甲第7号証参照)であるから、このような技術背景がある以上、甲3発明(スピニングリール)を甲1発明のような両軸受け型リールに適用してみようとすることは、当業者であれば容易に思い付くことである。また、このような適用を阻害する事情も見いだし得ない。
したがって、相違点2の本件発明に係る構成とすることは、当業者であれば容易になし得ることである。

5.被請求人の主張について
(5-1)被請求人の「エ.動機づけの欠如による進歩性の判断の誤り」について
被請求人は、「特に、本件訂正発明は、「リール本体の側部を握持し乍らモータ出力の変速操作が可能で、而も、ハンドルによる巻取りとの複合操作が可能な操作性に優れた魚釣用電動リールを提供する」との課題を解決すべく、いわゆる両軸受タイプの魚釣用電動リールの全体配置構造に特徴があるものである。これに対して、甲第1号証は、上記のとおり、本件訂正発明の明細書において、まさに欠点のある従来例として記載されているものであり、当然に本件訂正発明の課題に対する認識は何ら存在していない。」(答弁書28頁8?16行)と主張し、さらに、甲第3号証、甲第7号証、甲第9号証及び甲第4号証にも、本件訂正発明の上記課題に対する認識がないから、「したがって、5件もの甲各号証において、課題の共通性はまったくないことから、それら5件もの甲各号証を用いて行う論理付けにおいて、それぞれを組み合わせる動機付けとなるものは何ら存在しないこととなり、請求人の進歩性の欠如の主張は、理由がない。」(同29頁7?10行)と主張している。

そこで、上記の点を検討すると、甲第9号証はJIS規格なので魚釣用電動リールではなく上記課題は記載されていない(当審の判断では採用せず。)。
甲第1号証には、確かに、上記課題は記載されていないものの、甲第1号証に明示がなくとも、例えば、被請求人の提出した乙第1号証(甲第5号証)「・・・釣り操作を大幅に向上することが出来る」(同明細書11頁7?8行)、乙第2号証(甲第6号証)「・・・ドラグ操作を迅速かつ容易に行うことができる」(3頁右下欄13?15行)、乙第4号証「・・・巻き上げるパワーが違います。操作性が違います。」(左上「電動丸」の欄)等に記載されていることからも分かるように、「操作性に優れ、釣糸の巻上げ性能の向上を図った魚釣用電動リールを提供する」旨の課題は、本件発明と同一技術分野の魚釣用電動リールにおいて、従来より周知のありふれた課題にすぎない。
また、甲第3号証には「本発明の目的は、・・・特に餌或いはルアーの回収操作に関する要請に対し、従来よりも更に好適に対応できるような上記リールを製造することにある。」(翻訳文1頁8?10行)、甲第7号証には「本発明の目的は、・・・ハンドル操作で駆動モーターの回転速度を制御して獲物の引きに合わせて釣糸の繰り出しと巻き上げ操作が出来て釣り本来の面白味が味わえるようにした魚釣用電動リールを提案することにある。」(1頁右下欄1?5行)、甲第4号証には「考案の目的 本考案は・・・・操作性の良い変速スイッチを有する電動リールを提供するものである。」(明細書2頁6?9行)と記載され、上記「操作性に優れた魚釣用電動リールを提供すること」は、甲第3号証、甲第7号証及び甲第4号証に明示されている。
特に、甲第3号証には、スピニングリールではあるものの、「この操作部材21をハンドル4の近傍に配置するのが望ましい。そうすることにより釣り人は操作部材を一方向にあるいはそれとは逆の方向にハンドル4から手を離すことなく操作することができる。」(翻訳文3頁10?13行)、「釣り人は一方の手でハンドル4を正規位置で保持し続け、同じ手の親指で操作部材21の端部21aを操作することができる。」(同3頁17?18行)と記載されていることから、本件発明の「ハンドルによる巻取りとの複合操作が可能な操作性に優れた魚釣用電動リールを提供する」という課題が示されているといえる。
したがって、甲第1号証、甲第3号証、甲第7号証及び甲第4号証には、操作性に優れた魚釣用電動リールを提供するという共通の課題が記載されているといえるから、それぞれを組み合わせる動機付けが存在しないという被請求人の主張は理由がない。

(5-2)被請求人の「オ.顕著な作用効果の誤認、看過による進歩性の判断の誤り」について
被請求人は、「本件発明は、・・・・その構成により、その訂正明細書に記載された【作用】(【0011】、【0012】)を有し、そして【発明の効果】(【0043】、【0044】)に記載された格別顕著な効果を奏するものである。このような効果は、請求人が引用した5件もの従来例においては、何ら記載されてなく、その示唆すらもされていないものであり、請求人の主張は、このような格別顕著な作用効果を誤認、看過した結果、進歩性の判断を誤ったものであり、理由がない。」(答弁書29頁12?23行)と主張する。

そこで上記の点を検討すると、被請求人の主張する格別の作用効果は次のとおりである。
(1)「リール本体に設けられたレバー形態のモータ出力調節体の容易な回転操作によってモータ出力を増減調節できるので、無理のないリール本体の保持状態で釣場の状況に応じた最適なモータ速度での巻上げ操作が可能となる。」(【0043】)
(2)「ハンドルの回転操作中やハンドル部分を保持しているとき、あるいはモータ出力調節体を回転操作しているときに、手を大きくずらすことなく一連の動きで、手動ハンドルの回転操作による手動巻取りとレバー形態のモータ出力調節体による自動巻取りとの交互使用や、モータ駆動中の手動ハンドルによる追い巻き操作等の複合操作が行えるようになり」(【0044】)
(3)「モータ出力調節体は、モータ出力を停止状態から最大値まで連続的に増減させることができることから、より実釣時の状況に応じた幅広い変速操作を、上記した一連の動きと共に容易に行えるようになる。」(【0044】)
(4)「レバー形態のモータ出力調節体は、モータ出力増加方向を手動ハンドルの巻取り回転方向と同方向としていることから、上記したような複合操作が実釣時の状況に応じてより容易に行えるようになる。」(【0044】)。
しかしながら、上記(1)?(3)は、甲1発明に甲3発明を採用することにより、特に上記(5-1)にて述べた甲3発明の効果に関する記載から、予測できる効果であり、上記(4)は、甲1発明から容易に予測できる効果であって、格別顕著な効果ということはできない。

なお、本件の出願経過するため、原出願の当初明細書(甲第10号証)を参照すると、被請求人の主張する格別顕著な効果のキーワードとなる「交互使用」、「複合操作」、「追い巻き」は、見あたらない。次いで、本件の当初明細書(甲第11号証)おいて、「複合操作」が【0007】、【0008】、【0012】、【0038】、【0040】、【0044】に新たに追加され、本件の平成11年6月30日付け手続補正書(甲第12号証)には、「交互使用」及び「追い巻き操作」が【0044】に新たに追加されている。
上記新規な事項を追加したことに関し、被請求人は「そして、このような複合操作の一つとしての追い巻き操作は、本件発明におけるような電動リール技術分野においては、モータ駆動と手動ハンドル駆動を併用することで、広く行われている技術手段であり、そのための具体的構成も、本件発明の出願時、広く知られている周知慣用の技術手段である(乙第1号証?乙第7号証を参照)。したがって、当業者であれば、モータ出力調節体と手動ハンドルを備えた電動リールにおける、そのような追い巻き機構は技術常識として認識しているものである。」(答弁書9頁4?10行)とし、追い巻き等の複合操作は、当初明細書に記載されているに等しい技術事項である旨の主張をしている。
そうだとすると、被請求人が格別と主張する追い巻き等の複合操作等の効果等は、本件出願前広く知られている作用効果であり、格別顕著な作用効果でないことは、明らかである。

したがって、本件発明のように構成したことによる格別の作用効果も認められない。

6.むすび
以上のとおり、本件発明は、甲1発明、甲3発明および本件特許出願前に周知の技術から、当業者が容易に発明できたものであるから、本件発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、他の無効理由について検討するまでもなく、特許法第123条第1項第2号により、無効とすべきである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
魚釣用電動リール
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リール本体の両側板間に配置されて回転可能に支持されたスプールを回転駆動する手動用ハンドルとスプール駆動モータとを備え、該スプール駆動モータのモータ出力を調節するモータ出力調節体を前記リール本体に設けた魚釣用電動リールに於て、上記手動ハンドルが取り付く側の該ハンドルより内方となるよう、リール本体の右側部の前方に上記スプール駆動モータの出力を巻上げ停止状態から最大値まで連続的に増減させるレバー形態のモータ出力調節体を回転操作可能に設けると共に、当該モータ出力調節体のモータ出力増加方向を、手動ハンドルの巻取り回転方向と同方向としたことを特徴とする魚釣用電動リール。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、スプール駆動モータのモータ出力を調節可能とした魚釣用電動リールの改良に関する。
【0002】
【従来の技術】
昨今、スプール駆動モータのモータ出力を変えて、釣糸の巻上げ速度を高・中・低の3段階に変速可能とした魚釣用電動リールが、特開平3-119941号公報に開示されている。
【0003】
この魚釣用電動リールは、図7に示すように、スプール駆動モータの回転速度を高・中・低の3段階に選択的に切り換える変速用スライドスイッチaを、リール本体b上面の操作パネルcに設け、スライドスイッチaの前後方向へのスライド操作で、釣糸の巻上げ速度を3段階に切り換えるようにしたものである。
【0004】
尚、図中、dはスプール、eはスプールdを回転駆動させる手動ハンドルを示す。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
而して、上記魚釣用電動リールを用いる釣人は、左手でリール本体bの左側部を握持し、そして、右手で手動ハンドルeによる釣糸の巻取り操作を行ったり、スライドスイッチaを操作してスプール駆動モータの変速操作を行い、又、リール本体bの右側部を握持することとなる。
【0006】
然し、上述したようにこの魚釣用電動リールは、スライドスイッチaがリール本体b上面のハンドル側に前後方向へスライド操作に設けられているため、リール本体bの左右両側部を握持した状態で変速操作を行おうとすると、右側側部を保持する親指が離れたり、指の動きがぎこちなくなったりする等の不具合が生じ、そのため、従来、変速操作を行うには右手をずらしてスライドスイッチaの操作を行うこととなり、リール本体bを良好に保持し乍ら変速操作を容易に行うことができない欠点があった。
【0007】
而も、斯様に手動ハンドルeを装着したリール本体bの側部から右手をずらしてスライドスイッチaの操作を行わざるを得ないため、実釣時に於ける複合操作(手動ハンドルeによる手動巻取りとスライドスイッチaの交互使用や、モータ駆動中の手動ハンドルeによる追い巻き等)を容易に違和感なく行えず、操作性が悪く実用性に欠けるといった指摘がなされていた。
【0008】
本発明は斯かる実情に鑑み案出されたもので、リール本体の側部を握持し乍らモータ出力の変速操作が可能で、而も、ハンドルによる巻取りとの複合操作が可能な操作性に優れた魚釣用電動リールを提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
斯かる目的を達成するため、請求項1に係る発明は、リール本体の両側板間に配置されて回転可能に支持されたスプールを回転駆動する手動用ハンドルとスプール駆動モータとを備え、該スプール駆動モータのモータ出力を調節するモータ出力調節体を前記リール本体に設けた魚釣用電動リールに於て、上記手動ハンドルが取り付く側の該ハンドルより内方となるよう、リール本体の右側部の前方に上記スプール駆動モータの出力を巻上げ停止状態から最大値まで連続的に増減させるレバー形態のモータ出力調節体を回転操作可能に設けると共に、当該モータ出力調節体のモータ出力増加方向を、手動ハンドルの巻取り回転方向と同方向としたものである。
【0010】
【0011】
【作用】
請求項1に係る発明によれば、スプール駆動モータによる巻上げ操作を行う場合には、リール本体を保持する手を大きくずらすことなくレバー形態のモータ出力調節体を回転操作すると、その操作量に応じてスプール駆動モータのモータ出力が停止状態から最大値まで連続的に増減し、スプールの巻上げ速度が増減変更することとなる。
【0012】
そして、モータ出力調節体を用いず、手動ハンドルの巻取り操作によって釣糸がスプールに巻き取られることは勿論、手動ハンドルの巻取り操作とモータ出力調節体による変速操作との複合操作によっても、釣糸がスプールに巻き取られることとなる。
【0013】
【実施例】
以下、本発明の実施例を図面に基づき詳細に説明する。図1は本発明の一実施例に係る魚釣用電動リールの一部切欠き平面図を示し、図に於て、1はリール本体、3,5はリール本体1の左右両側に固着した側板、7は釣糸9を巻回したスプールで、当該スプール7は、その一端が図示しないブラケットを介してリール本体1に回転可能に支持され、又、他端はこれに固定したブラケット11と、リール本体1に取り付けたセットプレート13の軸受15によって回転可能に支持されている。
【0014】
そして、スプール7内には、当該スプール7と軸線を一致させてスプール駆動モータ(以下「スプールモータ」という)17が配置されており、スプールモータ17の回転軸17aとスプール7間は減速歯車機構19により互いに連結されて、スプールモータ17の回転をスプール7に伝達できるようになっている。
【0015】
尚、減速歯車機構19を構成するギヤキャリィ21のボス部21aは、ブラケット11内に相対回転可能に嵌合されている。23はスプール巻上げ用の手動ハンドルで、当該手動ハンドル23は、セットプレート13に回転可能に取り付けたハンドル軸25の側板5外突出端に連結されている。そして、ハンドル軸25には、図2の如きスプール逆転止め用の爪車27が側板5内で固着され、更にドライブギヤ29が回転可能に取り付けられており、ドライブギヤ29とハンドル軸25間は、ハンドル軸25にセットしたドラグ装置31により摩擦結合されて、手動ハンドル23の回転がドライブギヤ29に伝達できるようになっている。又、図2に示すように爪車27の爪27aには、ばね(図示せず)によって付勢された係止爪33が当接されており、当該係止爪33はピン35によって側板5に軸着されている。
【0016】
図2はクラッチ機構の側面図を示し、図中、37は後述するクラッチプレート39を作動させるクラッチ作動プレートで、当該クラッチ作動プレート37は、リール本体1の上部後方から下部前方に亘って長尺に形成されている。そして、クラッチ作動プレート37の中央には上記ハンドル軸25等が挿通する長孔41が形成され、更に、この長孔41を挟んで2つのカム43が設けられている。尚、図中、45はクラッチ作動プレート37のガイド部材である。
【0017】
又、図2及び図3に示すように、クラッチ作動用モータ(以下「クラッチモータ」という)47がリール本体1の下部前方に内蔵されており、当該クラッチスプールモータ47の駆動でクラッチ作動プレート37を矢印A,B方向へ移動させて、クラッチをON/OFFさせるようになっている。
【0018】
即ち、図4に示すように上記クラッチモータ47には減速機49が装着されており、当該減速機49のレバー51に取り付くピン53が、クラッチ作動プレート37の後端側に設けた長孔55に係合している。そして、クラッチモータ47は、図1の如く操作パネル57上に配設したモータ駆動スイッチ59の操作で駆動するようになっており、モータ駆動スイッチ59の操作でクラッチモータ47が回転してレバー51が矢印C方向へ移動すると、図5の実線で示すようにクラッチ作動プレート37が矢印A方向へ移動してクラッチがOFFとなるようになっている。
【0019】
又、クラッチ作動プレート37の上方の一側縁部にはマグネット61が装着されており、このマグネット61でON/OFFされるリードスイッチ63,65が、クラッチのON/OFFに対応してガイド部材45に配置されている。
【0020】
そして、図2に示すように、モータ駆動スイッチ59の操作によるクラッチモータ47の矢印D方向への回転でクラッチ作動プレート37が矢印B方向へ移動すると、クラッチがONとなり、そして、リードスイッチ63がマグネット61によりONとなって、その信号を入力した後述する制御装置67からの指令でクラッチモータ47が停止するようになっている。同様に、図5に示すように、クラッチモータ47が矢印C方向へ移動してクラッチ作動プレート37が実線で示す位置まで戻されてクラッチがOFFとなると、リードスイッチ65がマグネット61でONとされて、クラッチモータ47が制御装置67の指令で停止するようになっている。
【0021】
一方、図1に於て、69は上記ドライブギヤ29に噛合するピニオンギヤで、当該ピニオンギヤ69はスプール7の軸線上に於て、ギヤキャリイ21のボス部21aの中心と側板5間に横架状態に支持したピニオン軸71に回転可能且つその軸方向へ移動可能に支持されており、ピニオンギヤ69とこれに対向するギヤキャリィ21のボス部21a間には、両者を係脱するクラッチプレート39が装着されている。
【0022】
クラッチプレート39はスプールモータ17からの巻取り動力をスプール7に伝達又はこれを遮断させるもので、図2に示すようにコイルバネ73によってクラッチ作動プレート37方向へ付勢されている。従って、上述したようにクラッチモータ47の回転でクラッチ作動プレート37が矢印A,B方向へ移動すると、ピニオンギヤ69がピニオン軸71の軸線方向に移動してクラッチプレート39がOFF,ON、即ち、スプールモータ17からスプール7への巻取り動力を遮断又は伝達させることとなる。
【0023】
又、図1に於て、75はスプール7の側面に埋設されたマグネット、77はマグネット75に対向して配置されたリードスイッチで、マグネット75とリードスイッチ77は、スプール7の回転を電気信号に変換してスプール7の回転速度に比例したパルスを発生するエンコーダ79を構成するもので、このパルス信号が制御装置67に入力,演算されて、その演算結果が釣糸9の繰出し量や巻取り量として、操作パネル57上のデジタル表示部81に表示されるようになっている。
【0024】
而して、本実施例に係る魚釣用電動リールは、図1に示すように上記構造に加え、手動ハンドル23が装着されたリール本体1の右側部の前方に、スプールモータ17の回転速度を可変させるモータ出力調節体としての調節レバー83が、約120°の範囲に亘って回転可能に取り付けられており、当該調節レバー83は、図2に示すようにモータ出力増加方向(図中、矢印E方向)が手動ハンドル23の巻取り方向(図中、矢印F方向)と同方向となるように設定されている。
【0025】
そして、調節レバー83は、リール本体1に内蔵された回転形のポテンショメータ85に連結されている。周知のように、ポテンショメータ85は与えられた機械的変位でブラシを動かし、固定した抵抗体の上を摺動させ、その抵抗値を変化させることによってブラシの位置に対応する電圧を取り出すものである。
【0026】
そこで、本実施例は調節レバー83をポテンショメータ85に連結し、調節レバー83の操作によってポテンショメータ85内のブラシの位置を変化させることで、図6に示すように調節レバー83の作動によるポテンショメータ85の抵抗値の変化を制御装置67に入力し、調節レバー83の作動量(変位量)に応じたパルス信号のデューテー比としてスプールモータ17への駆動電源通電時間率を当該制御装置67で可変制御して、スプールモータ17の回転をゼロから最大値(0?100%)まで多段階に制御できるようにしたものである。
【0027】
そして、上記デジタル表示部81には、調節レバー83の操作によるモータ出力を表示する表示器87が設けられており、モータ出力の調節に応じて当該表示器87のバー表示量の目盛りが、“0”から“100”まで逐次変化するようになっている。
【0028】
尚、本実施例に係る魚釣用電動リールは、図1に示すようにコネクタ89を介してリール本体1に電源コード91を接続することでスプールモータ17や制御装置65が起動するが、安全対策上、調節レバー83を一度モータ出力0%の位置まで戻さなければ、スプールモータ17が駆動しないようになっている。
【0029】
上記制御装置67は制御ユニット内に収納されており、制御ユニットは、図1に示すように側板3,5と一体構造の水密収納部93内に装着されてリール本体1に組み付けられている。
【0030】
そして、図6に示すように制御装置67には、既述したモータ駆動スイッチ59やリードスイッチ63,65,エンコーダ79,ポテンショメータ85を始め、操作パネル57上に配設した魚釣用電動リールのメインスイッチ95等が入力側に接続されている。又、出力側には上記デジタル表示部81を始め、各モータ17,47の駆動回路97,99が夫々接続されている。又、図3中、101は周知のレベルワインダ機構である。
【0031】
本実施例はこのように構成されているから、魚釣を行うには、コネクタ89を介してリール本体1に電源コード91を接続した後、メインスイッチ95を操作してスプールモータ17やクラッチモータ47,制御装置67等を起動させる。
【0032】
そして、図2の如くクラッチONの状態でモータ駆動スイッチ59をプッシュ操作すれば、図5に示すようにクラッチモータ47が矢印C方向へ移動してクラッチ作動プレート37が実線で示す位置へ移動してクラッチがOFFとなり、リードスイッチ65がマグネット61でONとされて、その信号を入力した制御装置67の指令でクラッチモータ47が停止する。
【0033】
而して、クラッチOFFによってスプール7はフリーの状態であるから、釣糸9は仕掛けの重量でスプール7から繰り出され、スプール7の回転はエンコーダ79により釣糸9の繰出し長さに応じたパルスに変換されて制御装置67に入力,演算され、その演算結果に基づく繰出し糸長がデジタル表示部81に表示される。従って、釣人はその表示を見乍ら予定の水深(例えば「120メートル」)でモータ駆動スイッチ59を再びプッシュ操作すればよい。
【0034】
斯様にモータ駆動スイッチ59を操作すると、制御装置67からの指令でクラッチモータ47が図2の如く矢印D方向へ回転するので、クラッチ作動プレート37が矢印B方向へ移動しクラッチがONとなってスプール7が釣糸巻取り状態に切り換わる。そして、リードスイッチ63がマグネット61でONとされて、その信号を入力した制御装置67からの指令でクラッチモータ47が停止することとなる。
【0035】
この状態で魚の当たりを待つ。そして、魚の当たりがあった場合に、両手でリール本体1の両側部を握持し乍ら、図1の二点鎖線で示すように右手の親指と人指し指で調節レバー83を一度モータ出力0%の位置まで戻した後、当該調節レバー83をモータ出力増加方向(図2中、矢印E方向)へ操作すれば、その変位量に応じたモータ出力でスプール7が回転して釣糸9が巻き上げられることとなる。
【0036】
そして、釣人は表示器87を確認し乍ら、釣糸9をゆっくり巻き上げたい場合には、例えば表示器87のバー表示量の目盛りが“20”となるように調節レバー83を操作し、魚の引きが強くてハリスが強い場合には、バー表示量の目盛りが“80”となるように調節レバー83を操作する等、巻上げの状況に応じて調節レバー83を操作し乍らモータ17の出力を制御すれば、釣糸9は巻上げに最適なモータ速度で巻き上げられることとなる。そして、巻上げを停止する場合には、バー表示量の目盛りが“0”となるように調節レバー83を戻せばよい。
【0037】
更に魚釣を続けるならば、再びモータ駆動スイッチ59をプッシュ操作してクラッチをOFFに切り換え、釣糸9を繰り出して以下同様な手順を繰り返していけばよい。
【0038】
又、調節レバー83を用いず、手動ハンドル23を巻取り方向(図2中、矢印F方向)へ回転させれば、従来と同様、手動ハンドル23の回転がドライブギヤ29を介してスプール7に伝達され、釣糸9がスプール7に巻き取られることとなる。更に又、手動ハンドル23と調節レバー83との複合操作、即ち、手動ハンドル23による手動巻取りと調節レバー83の交互使用や、モータ駆動中の手動ハンドル23による追い巻き等によっても、釣糸9がスプール7に巻き取られることとなる。
【0039】
このように、本実施例によれば、調節レバー83によってスプールモータ17の回転速度の微調整が可能なため、海の状況に応じて仕掛けを最適なモータ速度で巻き上げることが可能である。而も、本実施例は、手動ハンドル23を装着したリール本体1の右側部に調節レバー83を配置して、そのモータ出力増加方向と手動ハンドル23の巻取り回転方向を同方向に設定したので、リール本体1を握持する右手をずらすことなくこれを良好に保持した状態で調節レバー83によるモータ出力の調整が可能となると共に、手動ハンドル23による巻取り操作と調節レバー83による変速操作との複合操作が容易に行え、この結果、従来に比し巻取り操作性が飛躍的に向上することとなった。
【0040】
【0041】
尚、上記実施例ではポテンショメータ85を用いてモータ出力を調節したが、斯かるポテンショメータ85に代えてリードスイッチやボリュームスイッチ,ホール素子等を用いてもよく、これらの部品によってもスプール7の巻上げ速度を可変とすることが可能である。
【0042】
そして、釣糸9の繰出しや巻取り糸長を計測する糸長測定方法についても、上記エンコーダ79に代えて、釣糸9の繰出しに伴い回転する回転体(スプール連動ギヤ,釣糸巻着面圧接ローラ等)の回転を検出する糸長測定手段を利用できることは勿論である。
【0043】
【発明の効果】
以上述べたように、請求項1に記載の発明によれば、スプール駆動モータによる巻上げ操作を行う場合には、リール本体に設けられたレバー形態のモータ出力調節体の容易な回転操作によってモータ出力を増減調節できるので、無理のないリール本体の保持状態で釣場の状況に応じた最適なモータ速度での巻上げ操作が可能となる。
【0044】
特に、本発明は、手動ハンドルより内方となるよう、リール本体の右側部の前方にレバー形態のモータ出力調節体を回転操作可能に設けているため、ハンドルの回転操作中やハンドル部分を保持しているとき、あるいはモータ出力調節体を回転操作しているときに、手を大きくずらすことなく一連の動きで、手動ハンドルの回転操作による手動巻取りとレバー形態のモータ出力調節体による自動巻取りとの交互使用や、モータ駆動中の手動ハンドルによる追い巻き操作等の複合操作が行えるようになり、しかも、モータ出力調節体は、モータ出力を停止状態から最大値まで連続的に増減させることができることから、より実釣時の状況に応じた幅広い変速操作を、上記した一連の動きと共に容易に行えるようになる。さらに、レバー形態のモータ出力調節体は、モータ出力増加方向を手動ハンドルの巻取り回転方向と同方向としていることから、上記したような複合操作が実釣時の状況に応じてより容易に行えるようになる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例に係る魚釣用電動リールの一部切欠き平面図である。
【図2】図1の魚釣用電動リールに於けるクラッチ機構のクラッチON状態の側面図である。
【図3】図1の魚釣用電動リールの正面図である。
【図4】図2のIV-IV線断面図である。
【図5】図1の魚釣用電動リールに於けるクラッチ機構のクラッチOFF状態の側面図である。
【図6】図1の魚釣用電動リールに於ける制御手段の概略構成図である。
【図7】従来の魚釣用電動リールの平面図である。
【符号の説明】
1 リール本体
7 スプール
9 釣糸
17 スプールモータ
23 手動ハンドル
37 クラッチ作動プレート
39 クラッチプレート
47 クラッチモータ
57 操作パネル
67 制御装置
81 デジタル表示部
83 調節レバー
85 ポテンショメータ
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2006-01-04 
結審通知日 2006-01-13 
審決日 2006-01-24 
出願番号 特願平5-52385
審決分類 P 1 113・ 121- ZA (A01K)
P 1 113・ 534- ZA (A01K)
P 1 113・ 531- ZA (A01K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 星野 浩一  
特許庁審判長 木原 裕
特許庁審判官 柴田 和雄
大元 修二
登録日 1999-09-10 
登録番号 特許第2978025号(P2978025)
発明の名称 魚釣用電動リール  
代理人 小林 茂雄  
代理人 鎌田 邦彦  
代理人 鈴江 武彦  
代理人 河野 哲  
代理人 中村 誠  
代理人 中村 誠  
代理人 鈴江 武彦  
代理人 幸長 保次郎  
代理人 小野 由己男  
代理人 幸長 保次郎  
代理人 河野 哲  

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