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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E04B |
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管理番号 | 1146983 |
審判番号 | 不服2004-21211 |
総通号数 | 85 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2002-03-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2004-10-13 |
確定日 | 2006-11-28 |
事件の表示 | 特願2001-136754「鋼構造物の柱梁接合構造」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 3月27日出願公開、特開2002- 88912〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯、本願発明 本願は、平成13年5月7日(優先日:平成12年6月21日)の出願であって、その請求項1ないし3のうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成16年11月12日付の手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認められる。 「柱と梁を接合した鋼構造物の柱梁接合部において、鉛直面をなして柱面に接合されると共に、梁フランジ面に接合される少なくとも1つの補強プレートを有し、補強プレートは柱面から離れた位置に切欠きを有しており、補強プレート断面は、切欠きを除いて柱面に向かって次第に増加している柱梁接合構造。」 2.引用例 これに対して、原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された「特開平11-61994号公報」(以下、「引用例」という。)には、 (あ)「【請求項1】 鉄骨柱と鉄骨梁とを接合して成る鉄骨造の柱梁接合部において、鉄骨梁は、その端部からスパン中央部へ向かって断面積が次第に低減されていることを特徴とする、鉄骨柱梁接合部。 【請求項2】 鉄骨梁はH形鋼梁とされ、梁端部からスパン中央部へ向かって断面積が次第に低減する補強プレートが、前記H形鋼梁のフランジに溶接により接合されていることを特徴とする、請求項1に記載した鉄骨柱梁接合部。 【請求項3】 鉄骨梁はH形鋼梁とされ、梁端部からスパン中央部へ向かって断面積が次第に低減する補強プレートが、前記H形鋼梁のフランジ及びウエブに沿って溶接により接合されていることを特徴とする、請求項1に記載した鉄骨柱梁接合部。 【請求項4】 鉄骨梁はH形鋼梁とされ、同H形鋼梁のフランジ厚が、梁端部からスパン中央部へ向かって次第に低減されていることを特徴とする、請求項1に記載した鉄骨柱梁接合部。 【請求項5】 鉄骨梁はH形鋼梁とされ、同H形鋼梁のフランジ幅が、梁端部からスパン中央部へ向かって次第に低減されていることを特徴とする、請求項1に記載した鉄骨柱梁接合部。 【請求項6】 補強プレートは、鉄骨梁における上フランジの上面及び下フランジの下面に沿って溶接により接合されていることを特徴とする、請求項2に記載した鉄骨柱梁接合部。 【請求項7】 補強プレートは、鉄骨梁におけるフランジの面に垂直に立てて溶接により接合されていることを特徴とする、請求項2に記載した鉄骨柱梁接合部。 【請求項8】 補強プレートは、鉄骨梁における上フランジ及び下フランジの両縁に沿って溶接により接合されていることを特徴とする、請求項2に記載した鉄骨柱梁接合部。 【請求項9】 鉄骨梁の形状は、その端部からスパン中央部へ向かって該鉄骨梁に作用する外力によって生じる応力が最大となる位置まで断面積変化を急激にされ、それより先は断面積変化を緩慢とされていることを特徴とする、請求項1?8のいずれか1に記載した鉄骨柱梁接合部。」(【特許請求の範囲】)、 (い)「図1A?Cは、鉄骨柱2と鉄骨梁1とを接合して成る鉄骨造の柱梁接合部の第1実施例を示している。前記鉄骨梁1にはH形鋼梁1が好適に用いられ、同梁1の上フランジ1aの上面に沿って補強プレート11が一体的に接合され、下フランジ1aの上面に沿って補強プレート21,21が一体的に接合されている。前記補強プレート11,21は、ともに梁端部からスパン中央部へ向かって断面積が次第に低減されている。鉄骨柱2には、梁フランジ1aの位置にダイアフラム3を設けた鋼管柱2が用いられている。なお、前記鉄骨梁1は、H形鋼梁のほかに組立梁も好適に実施される。前記鉄骨柱2は、鋼管柱のほかにH形鋼柱も好適に実施される。前記補強プレート11,21には鋼製プレートが好適に用いられる。以下の実施例でも同様の思想である。図中の符号6は裏当金、7はスカラップである。」(段落番号【0017】)、 (う)「前記補強プレート11,21は、その端部を前記鋼管柱2の外面に直接当接させるべく、前記ダイアフラム3の突出寸法分突き出して前記フランジ1aに沿って接合されている。前記補強プレート11の形状を平面的に見ると、その端部から前記H形鋼梁1に作用する外力によって生じる応力が最大になる位置Xまでの範囲Hは、幅寸を決める両縁が同等の曲率で幅を狭める断面積変化を急激にされ、それより先のスパン中央寄りの範囲H’は断面積変化を緩慢とされ、所謂ラッパ状に形成されている(図1B)。また、前記補強プレート11の端部の幅は前記フランジ1aの幅よりも若干幅広とされている。一方、前記補強プレート21の形状を平面的に見ると、図2Aに示したように、その端部から前記H形鋼梁1に作用する外力によって生じる応力が最大になる位置Xまでの範囲Hは片縁のみが幅を狭める断面積変化を急激にされ、それより先のスパン中央寄りの範囲H’は断面積変化を緩慢とされ、あたかも前記補強プレート11を2等分割したような形状に形成されている。前記補強プレート11,21の板厚や長さ(H+H’)は、H形鋼梁1のフランジ1aやウエブ1bの大きさに応じて異なるが、梁フランジ1aの端部で大きな塑性化領域を形成するに十分な板厚や長さとされる。なお、補強プレート11,21の断面積変化は曲線状に形成されているが、図2B,Cに示したように、断面積変化を直線状に形成させても良い。以下の実施例でも同様の思想とする。」(段落番号【0018】)、 (え)「図5A,Bは、鉄骨柱梁接合部の第4実施例を示している。前記鉄骨梁1及び鉄骨柱2は、前記第1実施例と同様にH形鋼梁1及び、梁フランジ1aの位置にダイアフラム3を設けた鋼管柱2が用いられる。前記H形鋼梁1の上フランジ1aの上面及び下フランジ1aの上面に前記第1実施例に使用した補強プレート21を垂直に立てて該上下フランジ1a,1aに溶接によりそれぞれ一体的に接合されている。前記補強プレート21は、上フランジ1a及び下フランジ1aに2本ずつ計4本用いられ、平面的に見ると梁ウエブ1bを中心に略等距離に平行にそれぞれ配設されている。前記補強プレート21が、その端部を前記ダイアフラム3の突出寸法分突き出して前記フランジ1aに溶接により接合されているのは前記第1実施例と同様である。前記補強プレート21の板厚や長さ(H+H’)は、第1実施例と同様、H形鋼梁1のフランジ1aやウエブ1bの大きさに応じて異なるが、梁フランジ1aの端部で大きな塑性化領域を形成するに十分な板厚や長さとされる。 【0023】 したがって、上記鉄骨柱梁接合部の接合構法は、H形鋼梁1のフランジ1a,1aを鋼管柱2のダイアフラム3,3と一致するように当接させ、まず、梁ウエブ1bを鋼管柱2のガゼットプレート4と高力ボルト5で接合し、次いで前記のように当接した箇所をそれぞれ溶接により接合する。そして、上フランジ1aの上面及び下フランジ1aの上面に補強プレート21をその端部は鋼管柱2の外面に当接するよう載置し、前記上フランジ1a及び鋼管柱2の当接面にそれぞれ溶接接合して鉄骨柱梁接合構法を完了する。 【0024】 以上のようにして構成された鉄骨柱梁接合部は、H形鋼梁1に作用する外力によって生じる応力σが、図11Aに示したように、第1実施例同様にスカラップ7や裏当金6等が存在する溶接箇所αでは最大とならず、それよりも少しスパン中央へ寄った位置Xで最大となるので、第1実施例で説明した鉄骨柱梁接合部と同様の効果を期待できる。」(段落番号【0022】?【0024】)、 と記載されている。 上記の記載(あ)?(え)及び図面の記載によると、引用例1には、柱と梁を接合した鋼構造物の柱梁接合部において、鉛直面をなして柱面に接合されると共に、梁フランジ面に接合される少なくとも1つの補強プレートを有し、補強プレート断面積は、その端部から梁に作用する外力によって生じる応力が最大になるスパン中央へ寄った位置までの範囲は、断面積を低減する断面積変化を急激にされ、それより先のスパン中央よりの範囲は、断面積変化を緩慢とされ、かつ、梁端部からスパン中央へ向かって次第に低減されている柱梁接合構造、という発明が記載されていると認められる。 3.対比・判断 本願発明と引用例記載の発明とを対比すると、引用例記載の発明の「断面積」及び「梁端部からスパン中央部へ向かって次第に低減され」は、それぞれ本願発明の「断面」及び「柱面に向かって次第に増加している」に相当する。 また、引用例記載の発明の補強プレート断面は、その端部から梁に作用する外力によって生じる応力が最大になるスパン中央へ寄った位置までの範囲は、断面を低減する断面変化を急激にされ、それより先のスパン中央よりの範囲は、断面変化を緩慢とされたものであり、一方、本願発明の補強プレートは、柱面から離れた位置に切欠きを有したものであり、両者共に柱梁接合部が降伏する前に梁端から離れた部分で降伏ヒンジが先行して生じるようにする点で共通する。 そうすると、両者は、柱と梁を接合した鋼構造物の柱梁接合部において、鉛直面をなして柱面に接合されると共に、梁フランジ面に接合される少なくとも1つの補強プレートを有し、補強プレートは柱面から離れた位置に梁端部に先んじて降伏ヒンジが形成されるようになされており、補強プレート断面は、柱面に向かって次第に増加している柱梁接合構造、の点で一致し、次の点で相違する。 [相違点] 本願発明は、補強プレートが柱面から離れた位置に切欠きを有しており、補強プレート断面が、切欠きを除いて柱面に向かって次第に増加しているものであるのに対し、引用例記載の発明は、補強プレート断面が、その端部から梁に作用する外力によって生じる応力が最大になるスパン中央へ寄った位置までの範囲は、断面を低減する断面変化を急激にされ、それより先のスパン中央よりの範囲は、断面変化を緩慢とされ、かつ、柱面に向かって次第に増加しているものである点。 [相違点の検討] まず、本願発明は、補強プレートが柱面から離れた位置に切欠きを有しているので、切欠きの柱面側の端部が梁端でないことは限定しているが、切欠きの梁中央側の端部について何も限定するものではないから、断面が柱面に向かって次第に増加している補強プレートの、柱面から離れた位置から梁中央側端までを切り欠いたものも含んでいる。これは、梁のフランジに切欠きを設けた場合に生じる、柱面に向かって断面が低減する部分を、上記補強プレートにおいては有さないものを含んでいることを意味し、結局、本願発明は、補強プレートの切欠き部分の断面について格別の限定をしているものではない。 ところで、柱梁接合部が降伏する前に、梁端から離れた部分で先行して降伏ヒンジを生じるようにする手段として、梁フランジ断面を梁端から離れた部分から梁端まで急激に増大させて、断面が大きく変化する箇所を設ける手段(以下、「周知技術1」という。)、及び、梁フランジの梁端から離れた部分に切欠きを設けて断面を減じるようにする手段(以下。「周知技術2」という。)は梁のフランジ自身に適用したものではあるが、共に従来周知である。(たとえば、前者について特開平11-158999号公報、後者について特開平8-4112号公報等参照。) また、上記引用例の(あ)において、請求項9は、鉄骨梁の形状を限定し、鉄骨梁として請求項1?8を引用しているが、請求項1?8における鉄骨梁は、H形鋼梁自身と補強プレートを溶接したH形鋼梁の両方を含む。 したがって、引用例は、梁に作用する外力によって生じる応力が最大になる位置を柱面から離れた位置とする手段、すなわち、柱梁接合部が降伏する前に、梁端から離れた部分で降伏ヒンジが先行して生じるようにする手段を、上記の周知技術1、2のように梁のフランジ自身に適用することと、補強プレートに適用することとを差別しないことを示唆している。 そうすると、相違点に係る本願発明の構成は、引用例記載の発明に、上記の引用例に示唆された点を勘案しながら上記周知技術2を適用して、当業者が容易に想到しえたものというべきである。 そして、本願発明の作用効果も当業者が予測できる範囲のものである。 4.むすび 以上のとおり、本願発明は、引用例記載の発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、本願の他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2005-07-11 |
結審通知日 | 2005-08-02 |
審決日 | 2005-08-18 |
出願番号 | 特願2001-136754(P2001-136754) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(E04B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 齋藤 智也 |
特許庁審判長 |
木原 裕 |
特許庁審判官 |
青山 敏 南澤 弘明 |
発明の名称 | 鋼構造物の柱梁接合構造 |
代理人 | 高田 武志 |