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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効200580227 審決 特許

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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  C08B
管理番号 1147143
審判番号 無効2005-80274  
総通号数 85 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1995-07-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-09-15 
確定日 2006-11-06 
事件の表示 上記当事者間の特許第3404435号発明「包接化合物、噛砕き-または発泡錠剤の製造方法、および顆粒、および噛砕き-または発泡錠剤」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3404435号の請求項1,2,5に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯・本件発明
本件特許3404435号に係る発明は,平成6年11月9日出願(パリ条約による優先権主張平成5年11月11日ドイツ),平成15年2月28日に特許権の設定の登録がされたものであって,その請求項1,2,5に係る発明は,その特許請求の範囲1,2,5に記載された次のとおりのものである。

【請求項1】(R)-チオクト酸およびシクロデキストリンまたは次のグル-プ:メチル-シクロデキストリン,エチル-シクロデキストリン,カルボキシメチル-シクロデキストリン,ヒドロキシアルキル-シクロデキストリン,ジアルキルアミノエチル-シクロデキストリン,スルホアルキル-シクロデキストリン,部分的にメチル化されたカルボキシアルキル-シクロデキストリン,二量化されたまたは分枝鎖のシクロデキストリンからなる1種以上のシクロデキストリンからなる包接化合物。
【請求項2】(S)-チオクト酸およびシクロデキストリンまたは次のグル-プ:メチル-シクロデキストリン,エチル-シクロデキストリン,カルボキシメチル-シクロデキストリン,ヒドロキシアルキル-シクロデキストリン,ジアルキルアミノエチル-シクロデキストリン,スルホアルキル-シクロデキストリン,部分的にメチル化されたカルボキシアルキル-シクロデキストリン,二量化されたまたは分枝鎖のシクロデキストリンからなる1種以上のシクロデキストリンからなる包接化合物。
【請求項5】シクロデキストリンとしてβ-シクロデキストリンを使用する請求項1から4までのいずれか1項記載の包接化合物。

2.請求人の主張
これに対して,請求人は,甲第1?5号証を提出し,以下A,Bの理由により,請求項1,2,5に係る発明についての特許は無効とすべきものである旨の主張をしている。

無効理由A
本件の請求項1,2,5に係る発明は,甲第1号証に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであり,本件特許は同法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきものである。

無効理由B
本件の請求項1,2,5に係る発明は,甲第1,3,4号証に記載された発明に基づいて,出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから,同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,本件特許は同法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきものである。

なお,請求人は,本件特許は同法第123条第1項第3号に該当し,無効とすべきものである(7.請求の理由(1)請求の理由の要約),あるいは,同法第123条第1項第1号に該当し,無効とすべきものである(7.請求の理由(6)むすび)としているが,いずれも第2号の誤記であると認める。無効理由Bについても同じである。

甲第1号証:特公昭37-7970号公報,昭和37年7月11日発行
甲第2号証:鑑定書(摂南大学薬学部教授 中西邦夫作成)
甲第3号証:特開平3-169813号公報,平成3年7月23日発行
甲第4号証:特開平5-202029号公報,平成5年8月10日発行
甲第5号証:平成16年9月 8 日,東京高裁判決,平成12年(行ケ)295号

3.被請求人の主張
被請求人は,特許法134条第1項の規定による答弁書を指定された期間内に提出しなかった。

4.当審の判断
<無効理由Bについて>
1)請求人の提出した証拠の記載事項
請求人の提出した甲第1,3,4号証は本件優先日前に頒布された以下の刊行物であって,それぞれ,以下の事項が記載されている。

甲第1号証:特公昭37-7970号公報
(1-1)「チオクト酸は生体の代謝促進ビタミン様物質として近時頓に繁用されているが,その分子内にジスルフィド結合を有する関係上種々の物理的,化学的影響によって重合体を生成し易く,且つ特異の味と臭気を有する等の好ましからざる性質を有する。本発明者等はかかる欠点を改良せんが為鋭意研究を重ねた結果チオクト酸に炭水化物を反応せしめることによりその目的が達せられることを見出し本発明を完成した。」(第1頁左欄第5行?第12行)
(1-2)「本発明に使用される炭水化物としてはチオクト酸と付加物を形成するものであれば何れでもよいが最も好ましいものとしてシクロデキストリン,アミロ-ズを挙げることができる。シクロデキストリンにはα,β及びγシクロデキストリンの3種が知られているが本発明にはその何れを用いてもよく,またそれらの混合物であってもよい。」(第1頁左欄第13行?第18行)
(1-3)「本発明方法により得られた物質は稍々甘味があり無臭且つ安定である。」(第1頁右欄第7行?第8行)
(1-4)「実施例 β-シクロデキストリン1.8gを50%エタノ-ル水溶液16ccに加熱溶解し,これを45乃至40℃に冷却後チオクト酸300mgをエタノ-ル2ccに溶解せしめた液を一度に注入する。更に水2ccを加え同温度で45分間振盪し,一夜室温で放置した後氷室にて冷却し透析した結晶を分取する。これをエタノ-ル5ccで洗浄し未反応のチオクト酸を除き乾燥するとチオクト酸含量8.54%を示す淡黄色粉末状結晶のβ-シクロデキストリン-チオクト酸付加化合物を得る。」(第1頁右欄第16行?第25行))

甲第3号証:特開平3-169813号公報
(3-1)「更に,α-リポ酸-ラセミ体は,消炎,抗痛覚(鎮痛)並びに細胞保護特性を有する。さて,α-リポ酸の純粋な光学異性体(R-及びS-形,即ちR-α-リポ酸及びS-a-リポ酸)では,ラセミ体とは反対に,意外にもR-光学的対掌体は主として消炎作用を有し,S-光学的対掌体は主として抗痛覚作用を有しその際,同様に意外にもR-光学的対掌体の消炎作用はラセミ体の作用の10倍強いことが判明した。S-光学的対掌体の抗痛覚(鎮痛)作用は例えば,ラセミ体の作用の5?6倍強力である。従って,光学的対掌体は,ラセミ体に比べてはるかに特異的で強力な作用を有する作用物質である」(第2頁左下欄下から第2行?第3頁左上欄第12行)

甲第4号証:特開平5-202029号公報,平成5年8月10日発行
(4-1)「α-リポ酸(R-およびS-形,例えばR-α-リポ酸およびS-α-リポ酸)の純粋な光学的異性体の場合,ラセミ体とは反対に,R-鏡像体は有利に抗炎症に有効であり,S-鏡像体は有利にアンチシノセプトに有効である」(第2頁〔0007〕段落第4行?第8行)

2)各請求項に係る発明についての判断
甲第1号証には,β-シクロデキストリン-チオクト酸付加化合物が記載されている(上記摘示事項(1-4)。以下単に(1-4)のように記載する。)。上記付加化合物は単にβ-シクロデキストリンとチオクト酸を溶媒中で加温振盪した後,結晶として得られるものである(1-4)ところからみて,付加化合物と表現されていても通常の化学反応における付加反応が生じているものではなく,チオクト酸とβ-シクロデキストリンの包接化合物であると認められる。
そこで,本件の請求項1に係る発明と甲第1号証記載の化合物を対比すると,β-シクロデキストリンはシクロデキストリンの一種であるから,両者はチオクト酸とβ-シクロデキストリンからなる包接化合物である点で一致し,前者が,(R)-チオクト酸であるのに対し,後者はこの点の特定がなく,通常ラセミ体と解される点で相違する。
ところで,チオクト酸ラセミ体は消炎,抗痛覚並びに細胞保護作用を有するものであるが,特に,R-光学対掌体は主として消炎作用,S-光学対掌体は主として抗痛覚作用を有すること,R-光学対掌体,S-光学対掌体の作用はラセミ体に比べ強力であることが知られている(3-1,4-1)。
甲第1号証におけるチオクト酸とβ-シクロデキストリンの包接化合物は,生体の代謝促進ビタミンとして利用されるものである(1-1)が,チオクト酸の消炎,抗痛覚作用を利用しようとする場合は,R-体又はS-体が有利であることは当業者が容易に想到するところである。
そして,甲第1号証にはシクロデキストリンで包接することによりチオクト酸の味や臭気という製剤上の問題点が解決されることが示されている(1-1)のであるから,消炎の用途を意図し(R)-チオクト酸をβ-シクロデキストリンとの包接化合物として利用することは当業者が容易に行い得ることである。
請求項2に係る発明と甲第1号証に記載された発明との相違は,(S)-チオクト酸がβ-シクロデキストリンと包接されている点であるが,上記で述べたとおりS-光学活性体に強い抗痛覚作用があることはすでに公知である。そうするとチオクト酸の抗痛覚剤としての利用を意図する場合には,これをβ-シクロデキストリン包接体として使用することも格別の創意を要するものではない。
請求項5に係る発明は,請求項1,2に係る発明においてシクロデキストリントをβ-シクロデキストリンに特定したものであるが,β-シクロデキストリンを利用することは甲第1号証(1-2)(1-4)にすでに開示されている。
そして,請求項1,2,5に係る発明により奏される味改善の効果にしても甲第1号証の記載から当業者が予測し得る範囲のものである。

5.むすび
以上のとおり,本件請求項1,2,5に係る発明は,本願優先日前に頒布された甲第1,3,4号証刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明し得たものであるから,本件請求項1,2,5に係る発明についての特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり,同法第123条第1項第2号に該当する。
したがって,請求人が主張するその余の無効理由について検討するまでもなく,本件請求項1,2,5に係る発明についての特許は,無効とすべきものである。
審判に関する費用については,特許法169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により,被請求人が負担するものとする。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-05-31 
結審通知日 2006-06-02 
審決日 2006-06-27 
出願番号 特願平6-275065
審決分類 P 1 123・ 121- Z (C08B)
最終処分 成立  
特許庁審判長 塚中 哲雄
特許庁審判官 森田 ひとみ
横尾 俊一
登録日 2003-02-28 
登録番号 特許第3404435号(P3404435)
発明の名称 包接化合物、噛砕き-または発泡錠剤の製造方法、および顆粒、および噛砕き-または発泡錠剤  
代理人 後藤 さなえ  
復代理人 社本 一夫  
代理人 藤野 清規  
代理人 株式会社シールドラボ  
代理人 石井 良夫  
代理人 吉見 京子  
代理人 藤野 清也  
復代理人 中田 隆  

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