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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05B
管理番号 1147715
審判番号 不服2005-19828  
総通号数 85 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2003-11-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-10-13 
確定日 2006-11-24 
事件の表示 特願2002-143189「加熱調理器」拒絶査定不服審判事件〔平成15年11月28日出願公開、特開2003-338362〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成14年5月17日の出願であって、平成17年9月5日付で拒絶査定(発送日:平成17年9月13日)がなされ、これに対し、同年10月13日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年11月11日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成17年11月11日付け手続補正について
平成17年11月11日付け手続補正は、請求項1を削除し、請求項2を独立形式に改め、新たに請求項1とした補正と認められ、該補正は、特許法第17条の2第4項第1号の「特許法第36条第5項に規定する請求項の削除」に該当するので、補正要件を充足する。

3.本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成17年11月11日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「交流電源を脈流に整流する整流器と、
前記整流器から出力された脈流から高周波電力を発生する誘導加熱回路と、
前記整流器から出力された脈流を分圧する複数の抵抗からなる直列回路を有する分圧手段と、
前記分圧手段が出力する分圧電圧のレベルを検出し、A/D変換処理するレベル検出手段と、
前記誘導加熱回路を制御する制御手段と、
を備え、
前記制御手段には、前記レベル検出手段でA/D変換処理されたレベル変換信号が入力され、前記制御手段は、前記レベル検出手段が検出した分圧電圧のレベルと予め設定された前記誘導加熱回路が故障に至る直前の故障に至らない第1の基準レベル及び動作を再開させても故障に至らない第2の基準レベルとを比較し、前記レベル検出手段が検出した分圧電圧のレベルが第1の基準レベルを超えた時に前記誘導加熱回路の出力を停止或いは低下させるよう運転制御し、該第1の基準レベル以下で第2の基準レベル未満となった時に前記誘導加熱回路の出力を再開或いは増大させるよう運転制御することを特徴とする加熱調理器。」

4.引用例
4-1.引用例1(特開昭63-231895号公報)
原査定の拒絶の理由に引用された特開昭63-231895号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに、以下のような記載がある。

・「〔従来技術〕
従来の誘導加熱調理器に於いては、第4図に示す如き構造となっている。即ち、1は商用電源、2は該商用電源1に接続された整流スタック、3は平滑用コンデンサ、4はスイッチング素子5のオン、オフ制御によって通電制御される加熱コイル、6は該加熱コイル4に並列に接続された共振用コンデンサである。
上記共振用コンデンサ6、加熱コイル4及びスイッチング素子5は周知のインバータ回路を構成し、該インバータ回路を発振駆動することによって加熱コイル4に高周波交番電流を流し、この時に生じる磁界によって金属鍋にうず電流を発生させ、これによって上記鍋を加熱するようになっている。
7は制御回路8からの制御信号に基づいて上記スイッチング素子5をオン、オフ制御するドライブ回路であり、スイッチング素子5のオン時間の長、短によって誘導加熱出力は調節される。この加熱出力の調節は調節ボリューム9を可変することで行なわれ、該ボリューム9を可変すると制御回路8から出力される制御信号幅(駆動パルス幅)が可変され、その結果スイッチング素子5のオン時間が制御されることとなる。
10は安定化回路11を介して制御回路8に直流電源を供給するための電源回路、12は瞬時停電を検出するための減電圧検出回路、13は雷サージ等の過電圧を検出するための過電圧検出回路である。
これら減電圧検出回路12及び過電圧検出回路13は瞬時停電や雷サージを受けた時にこれを検出して一時的にインバータ回路の発振を停止するものであり、具体的には第5図に示す構造となっている。
以下第5図について説明すると、過電圧検出回路13は安定化回路11からのVc電圧を分圧抵抗14、15により分圧して比較器16の(+)(○内に+と記載されているが、以下、○内に記載された記号は( )内にその記号を記す。)端子(C)に接続する一方、インバータ回路(+)側電圧(A)を分圧抵抗17、18により分圧して比較器16の(-)端子(B)に接続している。
そして、通常は(B)<(C)であり、比較器16からの出力はHighであるが、雷サージが入ってきた場合には(B)>(C)となり、比較器16からの出力はLowとなってインバータ回路の発振を停止する。因みに、インバータ回路の(+)側電圧(A)は雷サージが入ってきた場合には即座に上昇するが、Vcは安定化回路を経由しているので変動はなく、その結果(B)>(C)となる。」(第2頁左上欄第6行目?左下欄第13行目)

・「〔実施例〕
本発明誘導加熱装置の概略については第4図記載のものと略同じであり、同一部分については同一符号を以って説明する。
本発明のものと従来例のものとの相違点は上述記載からも明らかなように瞬時停電や雷サージに対する過、減電圧検出回路にあり、以下本発明の過、減電圧検出回路について第1図を基に説明する。31はツェナーダイオードであり、その一端は電源回路10若しくは安定化回路11の出力端子に接続されて居り、電圧VL若しくは電圧Vcが印加され、その他端は抵抗32を介してアースされている。又、このツェナーダイオード31と抵抗32との中間点は比較器33の(+)端子(G)に接続されている。
(A)はインバータ回路の(+)側の電圧で、分圧抵抗34、35により分圧して上記比較器33の(-)端子(F)に印加されるようになっている。
通常は(F)<(G)であり、比較器33の出力VoはHighとなってインバータ回路は正常運転を行なうが、(F)>(G)となると比較器33の出力VoはLowとなり、インバータ回路は停止する。
第6図は本発明の過減電圧検出回路の各部の波形図であり、t0?t1は正常動作を行なっている時である。
今、t1の時点で雷サージが入ってきたとすると、インバータ回路側の電圧(A)即ち比較器33の(F)側は即座に上昇するが、(G)側の電圧は雷サージのような短い時間幅であること及び電源回路10側に大容量のコンデンサが内蔵されていることから殆んど変動せず、この結果(F)>(G)となり、比較器33の出力VoがLowとなってインバータ回路の発振は停止される。インバータ回路の発振が停止すれば、(F)の電圧は自己放電により徐々に下がって行き、(G)より小さくなった時点で出力V。はHighとなり、再度インバータ回路は発振を開始する。」(第3頁右上欄第1行目?左下欄第17行目)

・「第1図及び第6図では、通常(G)は5Vに設定されていて、雷サージの様な短いパルスノイズの過電圧時にはインバータ回路の発振を停止させることができるが、もつと太いパルス幅の過電圧が入ってきた場合には(G)も上昇することになり、結果的には当回路が動作しないこ々になり、スイッチング素子5が破壊するという危険性がある。
そこで、第2図及び第3図実施例では(G)の上限電圧を決めることで、如何なる太さの過電圧が入ってきた場合でも確実に動作を行なわしめるようにしたものである。」(第3頁右下欄第14行目?第4頁左上欄第4行目)

そして、過電圧検出回路(過、減電圧検出回路)に入力される、安定化回路からの電圧を分圧抵抗で分圧した電圧、また、安定化回路からの電圧をツェナーダイオードと抵抗を接続した回路からの電圧は、過電圧検出回路(過、減電圧検出回路)で使用される被比較用の電圧レベルを形成していると認められる。

これらの記載及び図面を参照すれば、引用例1には以下の発明が記載されている。
「商用電源に接続された整流スタックと、
前記整流スタックからの出力で高周波交番電流を流すインバータ回路と、
前記整流スタックからの出力を分圧する複数の抵抗が直列に接続された直列回路と、
前記直列回路からの出力電圧と、
誘導加熱を制御するための過電圧検出回路と、
過電圧検出回路には、前記前記直列回路からの出力電圧が入力され、過電圧検出回路は、前記直列回路からの出力電圧と被比較用の電圧とを比較し、直列回路からの出力電圧が被比較用の電圧を超えたときに、インバータ回路の出力を停止し、直列回路からの出力電圧が被比較用の電圧を下回ったときにインバータ回路を再動作するようにした誘導加熱調理器。」

4-2.引用例2(特開平7-327377号公報)
原査定の拒絶の理由に引用された特開平7-327377号公報(以下、「引用例2」という。)には、図面とともに、以下のような記載がある。

・「【発明が解決しようとする課題】ところで、従来の誘導加熱調理器においては、雷サージが印加されたときにスイッチング素子109等の破壊を防止するためのサージ電圧を検出して、インバータ回路106の動作を停止するようにしたものが供されている。このものでは、図9に示す直流電源回路105の出力電圧VKを検出し、この出力電圧VKが予め定められた基準電圧を超えたとき、これをもってサージ電圧が印加されたことを検出し、インバータ回路106を停止するようにしている。」(段落【0003】)

・「次に、図7および図8は本発明の第3の実施例を示すものであり、次の点が第1の実施例と異なる。すなわち、第1の実施例においては、サージ電圧検出後、所定時間後に、インバータ回路13の動作を再開させるようにしたが、この第3の実施例では、直流電源回路7の出力電圧VDCが正常電圧に戻ってからインバータ回路13の動作を再開させるようにしている。すなわち、運転再開手段として機能する制御回路61には、直流電源回路7の出力電圧VDCを検出する電圧検出回路62が接続されている。また、停止手段たる停止回路63は、サージ電圧検出時点で一時的に出力信号Skをロウレベルとするもので、第1の実施例における停止・再開回路21のような遅延機能はもたない。そして、この停止回路63の出力信号Skは制御回路61にも与えられるようになっている。」(段落【0039】)

・「しかして、サージ電圧が検出されて停止回路63の出力信号Skが一時的にロウレベル(すぐにハイレベルに戻る)に変化すると、IGBT11がオフされる。これと同時に、この出力信号Skが制御回路61に与えられることにより、制御回路61は、このロウレベルの出力信号Skに入力に基づいて図8に示すように、3入力形のアンド回路64への出力信号Ssをロウレベルとすると共に、電圧検出回路62からの検出電圧VDCを読込みを開始し(ステップS1)、この検出電圧VDCが正常電圧に復帰したか否かの判断を開始する(ステップS2)。そして、制御回路61は、電圧検出回路62からの検出電圧VDCが正常電圧に復帰したことを判断すると出力信号Ssをハイレベルに変化させ(ステップS3)、もってインバータ回路13の動作を再開する。」(段落【0040】)

・「第4の手段においては、停止手段によりインバータ回路が停止した後直流電源回路の出力電圧が正常電圧に戻ったときに該インバータ回路の駆動を再開するための信号を出力する運転再開手段を設けているから、インバータ回路が正常に動作できるようになってからインバータ回路を駆動できるようになり、インバータ回路の破壊防止に一層寄与できる。」(段落【0045】)

5.対比
本願発明と引用例1に記載の発明とを対比する。
商用電源は交流電源であり、商用電源を整流スタックにより整流することは脈流を生じさせるものであるので、引用例1に記載の発明の「商用電源に接続された整流スタック」は、本願発明の「交流電源を脈流に整流する整流器」に相当する。
引用例1に記載の発明の「高周波交番電流を流すインバータ回路」は、インバータ回路が共振用コンデンサ、加熱コイル、及びスイッチング素子からなり、加熱コイルに高周波電流が流れるようにしたものであるから、本願発明の「高周波電力を発生する誘導加熱回路」に相当する。
引用例1に記載の発明の「過電圧検出回路」は、インバータ回路を制御するものであるから、本願発明の「誘導加熱回路を制御する制御手段」に相当する。
引用例1に記載の発明の「直列回路」は、整流スタックからの出力を分圧するために複数の抵抗を有するものであり、本願発明の「分圧手段」に相当する。
また、例えば雷サージがあり、整流回路の出力電圧が大きくなる場合に、直列回路の出力電圧と比較される、引用例1に記載の発明の「被比較用の電圧」は、インバータ回路のスイッチング素子を破壊に至る電圧よりも低く、破壊はしない電圧に選ばれていると認められるので、本願発明の「第1の基準レベル」に相当する。

そうすると、本願補正発明と引用例1に記載の発明とは、
「交流電源を脈流に整流する整流器と、
前記整流器から出力された脈流から高周波電力を発生する誘導加熱回路と、
前記整流器から出力された脈流を分圧する複数の抵抗からなる直列回路を有する分圧手段と、
前記分圧手段が出力する分圧電圧と、
前記誘導加熱回路を制御する制御手段と、
を備え、
前記制御手段には、前記分圧手段が出力する分圧電圧が入力され、前記制御手段は、分圧電圧のレベルと予め設定された前記誘導加熱回路が故障に至る直前の故障に至らない第1の基準レベルを比較し、分圧電圧のレベルが第1の基準レベルを超えた時に前記誘導加熱回路の出力を停止させるように運転制御し、分圧電圧が所定の基準レベルで誘導加熱回路の出力を再開させるよう運転制御することを特徴とする加熱調理器。」
で一致し、下記の点で相違する。

相違点1:本願発明が「分圧手段が出力する分圧電圧のレベルを検出し、A/D変換処理するレベル検出手段」を有し、制御手段に入力された「A/D変換処理されたレベル変換信号」と、「基準レベル」との比較が行われているのに対し、引用例1に記載の発明では、直列回路からの出力電圧は、A/D変換されることなく、アナログ信号のままで、過電圧検出回路に入力され、被比較用電圧と比較が行われている点。

相違点2:誘導加熱回路の出力を再開させる場合に、本願発明が、「A/D変換処理されたレベル変換信号」と「動作を再開させても故障に至らない第2の基準レベルとを比較し」、「該第1の基準レベル以下で第2の基準レベル未満となった時に前記誘導加熱回路の出力を再開」させるよう運転制御しているのに対し、引用例1に記載の発明では、そのような事項が示されていない点。

6.判断
6-1.相違点1について
アナログ信号をA/D変換し、デジタル処理(演算、比較等)することは、周知慣用手段にすぎず、「分圧手段が出力する分圧電圧のレベルを検出し、A/D変換処理するレベル検出手段」を有し、制御手段に入力された「A/D変換処理されたレベル変換信号」と、「基準レベル」とを比較することは、当業者が適宜なし得たことと認められる。

6-2.相違点2について
引用例2には、誘導加熱調理器が基準電圧を超えたサージ電圧が印加され、インバータ回路を停止し、インバータの運転再開する際に、「直流電源回路7の出力電圧VDCが正常電圧に戻ってからインバータ回路13の動作を再開させる」ようにした事項が記載され、その効果として「停止手段によりインバータ回路が停止した後直流電源回路の出力電圧が正常電圧に戻ったときに該インバータ回路の駆動を再開するための信号を出力する運転再開手段を設けているから、インバータ回路が正常に動作できるようになってからインバータ回路を駆動できるようになり、インバータ回路の破壊防止に一層寄与できる。」ことが記載されている。「正常電圧」とは、「再開させても故障に至らない」ものであり、本願発明でいう「第2の基準レベル」に相当するから、引用例1に記載の発明に、引用例2に記載事項を適用して、「正常電圧」未満になったときに誘導加熱回路の出力を再開させるようすること、即ち、上記相違点に係る本願発明の構成を採用することは、当業者が適宜なし得たことである。

そして、本願発明の作用効果も、引用例1、2に記載の事項及び周知慣用手段から、当業者が予測し得る程度のものであって、格別なものとは認められない。

7.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1、2に記載の発明及び周知慣用手段に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-09-20 
結審通知日 2006-09-26 
審決日 2006-10-11 
出願番号 特願2002-143189(P2002-143189)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 結城 健太郎  
特許庁審判長 新海 岳
特許庁審判官 長浜 義憲
今井 義男
発明の名称 加熱調理器  
代理人 小林 久夫  
代理人 小林 久夫  
代理人 木村 三朗  
代理人 大村 昇  
代理人 佐々木 宗治  
代理人 佐々木 宗治  
代理人 木村 三朗  
代理人 大村 昇  

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