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審決分類 審判 判定 同一 属さない(申立て成立) E02D
管理番号 1148126
判定請求番号 判定2006-60047  
総通号数 85 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2001-09-04 
種別 判定 
判定請求日 2006-09-06 
確定日 2006-11-29 
事件の表示 上記当事者間の特許第3449608号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 イ号図面及びその説明書に示す「地下構造物用錠装置」は、特許第3449608号の請求項1に係る発明の技術的範囲に属しない。 
理由 第1 請求の趣旨
本件判定請求は、イ号図面及びその説明書に示す「地下構造物用錠装置」(以下「イ号物件」という。)が、特許第3449608号の請求項1に係る発明(以下「本件特許発明」という。)の技術的範囲に属しない、との判定を求めるものである。

第2 本件特許発明について
本件特許発明は、平成12年2月25日の出願に係り、平成15年7月11日に特許権の設定の登録がなされたものである。

本件特許発明は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載されたところにあるものと認められ、その記載を構成要件毎にA?Eの符号を付して分説すれば、次のとおりである。
「A 地下構造物の枠体(11)の開口を閉じるための蓋体(12)がヒンジ装置(38)によって枠体に開閉可能に繋ぎ止められており、その蓋体(12)を施錠するために設けられた錠装置であって、
B 開口を閉じることにより内外方向へ移動して蓋体(12)を施錠状態とし、外部操作によって施錠状態を解除する状態となる鉤部材(15)を枠体側に設け、
C その鉤部材(15)は上端に、蓋体(12)を閉じる動作に伴う内外方向への動きにより、蓋体(12)の周縁部内側に設けられている、錠止部分(27)と係合可能な鉤部(16)を有する縦長の鉤杆(17)を有し、
D かつ枠体の内側に設けられているガイド部(19)に案内される軸部(21、42)により上下方向へ移動可能に設けられており、
E 解錠のために蓋体(12)が枠体(11)よりも上までガイド部(19)の範囲であげられ、その後蓋体(12)に加えられる内外方向への動きにより鉤部(16)から錠止部分(27)が外れ施錠を解除可能に、枠体側に軸支されていることを特徴とする地下構造物用錠装置。」

第3 イ号物件
請求人は、請求人の提出した判定請求書に添付されたイ号図面及びその説明書に基づき、イ号物件を次のA’?E’に分説したとおりの構成を具備するものとして特定している。
「A’地下構造物の枠体(11)の開口を閉じるための蓋体(12)がヒンジ装置(38)によって枠体に開閉可能に繋ぎ止められており、その蓋体(12)を施錠するために設けられた錠装置であって、
B’開口を閉じることにより内外方向へ移動して蓋体(12)を施錠状態とし、外部操作によって施錠状態を解除する状態となる鉤部材(15)を枠体側に設け、
C’その鉤部材(15)は、上端に蓋体(12)を閉じる動作に伴う内外方向への動きにより、蓋体(12)の周縁部内側に設けられている、錠止部分(27)と係合可能な鉤部(16)を有し、下部に枠体(11)に回動可能に取り付けられている軸部材(20)の軸部(21)を軸承する縦長の軸受け部(18)を形成した縦長の鉤杆(17)を有し、
D’かつ枠体(11)の内側に設けられているガイド部(19)に案内されて上下方向へ移動可能に設けられているとともに、蓋体(12)を施錠状態とする外方へ付勢されており、
E’解錠のために蓋体(12)が枠体(11)よりも上まで軸受け部(18)の範囲で上げられ、その後蓋体(12)に加えられる内外方向への動きにより鉤部(16)から錠止部分(27)が外れ施錠を解除可能に、枠体側に軸支されていることを特徴とする地下構造物用錠装置。」

第4 当事者の主張
1.請求人の主張の概要
請求人は、イ号物件を上記「第3」のとおりに特定し、イ号物件と本件特許発明とを比較し、概略、以下のような主張を行っている。
(1)本件特許発明の構成要件A及びBとイ号物件の構成要件A’及びB’とは、同一である。
(2)本件特許発明の構成要件Cには、イ号物件の構成要件C’における軸受け部(18)が存在せず、更に、枠体(11)には軸部材(20)が取り付けられていない。
(3)本件特許発明の構成要件Dでは、縦長の鉤杆(17)がガイド部(19)に案内される軸部(21、42)により上下方向へ移動可能に設けられているが、イ号物件の構成要件D’では、縦長の鉤杆(17)がガイド部(19)に案内されている。
(4)本件特許発明の構成要件Eでは、解錠のために蓋体(12)が枠体(11)よりも上までガイド部(19)の範囲で上げられるのに対して、イ号物件の構成要件E’では、解錠のために蓋体(12)が枠体(11)よりも上まで軸受け部(18)の範囲で上げられる。
(5)イ号物件の構成C’、D、’E’は本件特許発明の構成要件C、D、Eとは相違し、イ号物件と本件特許発明とは全く異なる発明であり、イ号物件は本件特許発明の技術的範囲に属しない。

2.被請求人(特許権者)の主張の概要
被請求人(特許権者)は、イ号物件の特定、本件発明の解釈、及びイ号物件と本件特許発明との対比について、概略、以下のような主張を行っている。

(1)イ号物件の特定
イ号物件の構成要件A’、B’と本件特許発明の構成要件A、Bとは同一であるが、構成要件C1’(C’)、C2’(D’)、C3’(E’)については、
「C1’その鉤部材(15)は上端に、蓋体(12)を閉じる動作に伴う内外方向への動きにより、蓋体(12)の周縁部内側に設けられている、錠止部分(27)と係合可能な鉤部(16)を有する縦長の鉤杆(17)を有し、
C2’かつ枠体の内側に設けられているガイド部(19)に案内されて軸部(21)により上下方向へ移動可能に設けられており、
C3’解錠のために蓋体(12)が枠体(11)よりも上までガイド部(19)の範囲であげられ、その後蓋体(12)に加えられる内外方向への動きにより鉤部(16)から錠止部分(27)が外れ施錠を解除可能に、枠体側に軸支されている・・・」と特定すべきである。

(2)本件特許発明の解釈
本件特許発明の構成要件Dである「かつ枠体の内側に設けられているガイド部(19)に案内される軸部(21、42)により上下方向へ移動可能に設けられており」の構成において、「ガイド部(19)に案内される」は、実質的に、鉤部材(15)が「ガイド部(19)に案内される」との技術的意味で表示されており、即ち、本来「ガイド部(19)に案内されて」と表示されるべきところを誤って「ガイド部(19)に案内される」と表示されてしまった誤記ないし不明りょうな記載に属するものであり、したがって、「軸部(21、42)により上下移動可能に設けられており」の意味するところは、当該構成要件の主語である鉤部材(15)がガイド部(19)に案内されて上下移動するその鉤部材(15)のガイド部(19)に沿った上下移動の範囲を軸部(21、42)により規制するとのことを示している。

(3)イ号物件と本件特許発明との対比
ア 本件特許発明の構成要件Cは、蓋体(12)と鉤部材(15)との結合構造を示したものであり、軸部(21)を有する軸部材(20)と軸受け部(18)は、この結合関係とは無関係であり、イ号物件は、前記蓋体(12)と鉤部材(15)との結合構造をそのまま備えており、本件特許発明の構成要件Cを充足する。
イ 本件特許発明の構成要件Dに関して、上記「(2)本件特許発明の解釈」の解釈に基づけば、イ号物件は、鉤部材(15)がガイド部(19)に案内される点とそのガイド部(19)に沿った鉤部材(15)の上下移動の範囲を軸部(21)により規制(停止)するとの点をそのまま備えており、本件特許発明の構成要件Dを充足する。
ウ 本件特許発明の構成要件Eに関して、本件特許明細書における実施例1では、鉤部材(15)の下端部がガイド部材(19)の上端部に達したときに、軸受け部(18)の下端部が軸部(21)に当接して鉤部材(15)の上昇移動が停止するようになっており、該実施例1と同じイ号物件も鉤部材(15)の上下移動の範囲は軸部(21)によりガイド部(19)の範囲で規制されている。したがって、イ号物件の構成要件C3’は本件特許発明の構成要件Eと同一である。

第5 当審の判断
1.イ号物件の特定
請求人の提出した判定請求書に添付されたイ号図面及びその説明書には、以下の事項が記載されているといえる。
(1)地下構造物の枠体(11)の開口を閉じるための蓋体(12)がヒンジ装置(38)によって枠体に開閉可能に繋ぎ止められており、その蓋体(12)は錠装置により施錠される。
(2)鉤部材(15)は枠体側に設けられており、蓋体(12)が開口を閉じることにより内外方向へ移動して蓋体(12)を施錠状態とし、外部操作によって施錠状態を解除する状態となる。
(3)鉤部材(15)の上端には、蓋体(12)を閉じる動作に伴う内外方向への動きにより、蓋体(12)の周縁部内側に設けられている錠止部分(27)と係合可能な鉤部(16)が設けられ、その下部には、縦長の軸受け部(18)を有する縦長の鉤杆(17)が設けられている。
(4)鉤杆(17)の軸受け部(18)には、一端において枠体(11)に回動可能に軸支された軸部材(20)の軸部(21)が軸承されている。
(5)鉤部材(15)は、鉤杆(17)が枠体(11)の内側に設けられているガイド部(19)に当接して案内されることで上下方向へ移動する。
(6)鉤部材(15)の上下方向への移動に際し、枠体(11)側に取り付けられた軸部材(20)の軸部(21)は上下方向に移動せず、上下移動する鉤部材(15)の縦長の軸受け部(18)の内を摺動する。
(7)解錠のために蓋体(12)が枠体(11)よりも上にあげられ、その後蓋体(12)に加えられる内外方向への動きにより鉤部(16)から錠止部分(27)が外れ施錠を解除可能に、鉤部材(15)は枠体側に軸支されている。
(8)鉤部材(15)の上方向の移動範囲は、縦長の軸受け部(18)の下端部に枠体(11)側の軸部(21)が当接するまでの範囲である。

上記記載事項(1)?(8)に基づけば、イ号物件は、次のa?eに分説したとおりの構成を具備するものと認められる。
「a 地下構造物の枠体(11)の開口を閉じるための蓋体(12)がヒンジ装置(38)によって枠体に開閉可能に繋ぎ止められており、その蓋体(12)を施錠するために設けられた錠装置であって、
b 開口を閉じることにより内外方向へ移動して蓋体(12)を施錠状態とし、外部操作によって施錠状態を解除する状態となる鉤部材(15)を枠体側に設け、
c その鉤部材(15)は上端に、蓋体(12)を閉じる動作に伴う内外方向への動きにより、蓋体(12)の周縁部内側に設けられている錠止部分(27)と係合可能な鉤部(16)を有するとともに、その下部に、一端において枠体(11)に回動可能に軸支されている軸部材(20)の軸部(21)を軸承する縦長の軸受け部(18)を有する縦長の鉤杆(17)を有し、
d かつ鉤部材(15)は、鉤杆(17)が枠体(11)の内側に設けられているガイド部(19)に案内されて上下方向へ移動可能に設けられ、
e 解錠のために蓋体(12)が枠体(11)よりも上まで縦長軸受け部(18)の下端部と枠体側に軸支された軸部(21)とが当接するまでの範囲であげられ、その後蓋体(12)に加えられる内外方向への動きにより鉤部(16)から錠止部分(27)が外れ施錠を解除可能に、枠体側に軸支されていることを特徴とする地下構造物用錠装置。」

なお、イ号物件の特定に関し、被請求人(特許権者)は、上記「第4 2.(1)」のとおりの主張をしているが、イ号図面及びその説明書の上記記載事項(4)?(8)に示したとおり、ガイド部(19)により案内されて上下方向に移動する部材は鉤部材(15)であること、及び、鉤部材(15)の上方向の移動範囲は、縦長の軸受け部(18)の下端部と枠体側の軸部(21)とが当接するまでの範囲であることは明らかであり、イ号物件の特定に関する被請求人の主張を採用することはできない。

2. イ号物件が本件特許発明の技術的範囲に属するか否かについて
(1)イ号物件と本件特許発明との対比
イ号物件が本件特許発明に係る前記分説した各構成要件A?Eを充足するか否かについて両者を対比すると、上記「第4 当事者の主張」において述べたように、イ号物件が、その構成a、bにおいて本件特許発明の構成要件A、Bを充足することについては、当事者間に争いはなく、充足しているものと認められる。
しかし、イ号物件が本件特許発明のその余の構成要件C?Eを充足しているか否かについては、当事者間に争いがある。

(2)充足性について
ア 構成要件Cについて
イ号物件がその構成cにおいて、本件特許発明の構成要件Cにおける構成である、鉤部材(15)、鉤部(16)、蓋体(12)、錠止部分(27)及び鉤杆(17)に相当する構成を有することは前記のとおりであり、イ号物件は、本件特許発明の構成要件Cを充足しているといえる。

イ 構成要件Dについて
本件特許発明の構成要件Dは、「かつ(鉤部材(15)は)枠体の内側に設けられているガイド部(19)に案内される軸部(21、42)により上下方向へ移動可能に設けられて」いる構成であるが、該構成をその記載に基づいて解釈すると、軸部がガイド部に案内されて上下方向へ移動可能であり、その軸部の移動により鉤部材が上下方向に移動可能とされているといえる。
そして、本件特許明細書及び図面を参照すると、軸部がガイド部に案内されて上下方向へ移動可能とされる実施例として、【0021】及び図7?図9の記載があり、該記載の実施例では、鉤部材(15)に設けられた軸部(42)がガイド部(19)に設けられたガイド溝(43)に沿って上下方向に案内されて移動し、それによって鉤部材(15)が上下方向へ移動可能となっており、上記構成要件Dは、この実施例に対応するものであると認められる。
これに対して、イ号物件では、前記のとおり、鉤部材(15)は、鉤杆(17)がガイド部(19)に当接して案内されることで、上下方向に移動するものであり、軸部(21)は枠体(11)に軸支(固定)されていて上下方向には移動しない。
そうすると、イ号物件と本件特許発明とは、鉤部材(15)が「枠体(11)の内側に設けられているガイド部(19)により上下方向に移動可能に設けられる」点では一致するものの、イ号物件にはガイド部(19)に案内されて上下方向に移動する軸部は存在しない。
したがって、イ号物件は、本件特許発明の構成要件Dを充足していない。

なお、被請求人(特許権者)は、構成要件Dに関して、上記「第4 2.(2)」のとおりの主張を行っている。
しかし、本件特許発明に係る請求項1の記載を見ても、誤記または不明りょうであると認められる点は見あたらず、特許発明の技術的範囲は、原則として、願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいて定められるものであるところ、本件特許発明に係る請求項1の記載に基づき本件特許発明の技術的範囲を解釈すると、本件特許発明は本件特許明細書中の【0021】及び図7?図9に記載された実施例に対応するものであると解することができ、上記請求項1の記載に基づく解釈が本件特許明細書の記載と矛盾するものでもない。
したがって、被請求人の上記主張を採用することはできない。
また、このような被請求人が主張する本件特許発明の構成要件Dの解釈を採用できないのであるから、当然に、それを前提とした上記「第4 2.(3)イ」のにおける被請求人の主張も採用できない。

ウ 構成要件Eについて
本件特許発明の構成要件Eは、「(鉤部材(15)は、)解錠のために蓋体(12)が枠体(11)よりも上までガイド部(19)の範囲であげられ、その後蓋体(12)に加えられる内外方向への動きにより鉤部(16)から錠止部分(27)が外れ施錠を解除可能に、枠体側に軸支されていることを特徴とする地下構造物用錠装置。」である。
そして、本件特許発明に係る請求項1の記載に基づけば、この構成要件Eにおける「(鉤部材(15)は)ガイド部(19)の範囲であげられ」ることが、鉤部材(15)は、ガイド部(19)により規制される軸部(42)の上下方向の移動範囲であげられると解するのが妥当である。
一方、イ号物件では、前記のとおり、鉤部材(15)は、上下方向へ移動する縦長の軸受け部(18)の下端部と枠体(11)に軸支(固定)された軸部材(20)の軸部(21)とが当接するまでの範囲であげられるものであり、ガイド部(19)は鉤部材(15)の上下方向の移動の範囲に対して何らの関与もないので、鉤部材(15)がガイド部(19)の範囲で上下方向に移動するとはいえない。
そうすると、イ号物件は、「(鉤部材(15)は、)解錠のために蓋体(12)が枠体(11)よりも上まであげられ、その後蓋体(12)に加えられる内外方向への動きにより鉤部(16)から錠止部分(27)が外れ施錠を解除可能に、枠体側に軸支されている地下構造物用錠装置」との構成は有しているが、「(鉤部材(15)が)ガイド部(19)の範囲であげられ」るものではないので、イ号物件が本件特許発明の構成要件Eを充足しているとはいえない。

なお、被請求人(特許権者)は、構成要件Eについて、上記「第4 2.(3)ウ」のとおりの主張をするが、イ号物件では、鉤部材(15)の移動範囲である縦長の軸受け部(18)の下端部と枠体(11)側の軸部(21)とが当接するまでの範囲とガイド部(19)の上端部との関係は、明りょうでないので、その主張を採用することはできない。

第6 むすび
以上のとおり、イ号物件は、本件特許発明に係る前記分説した構成要件D及び構成要件Eを充足するものであるとはいえない。
したがって、イ号物件は、本件特許発明の技術的範囲に属しないものである。
よって、結論のとおり判定する
 
別掲
 
判定日 2006-11-17 
出願番号 特願2000-49847(P2000-49847)
審決分類 P 1 2・ 1- ZA (E02D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 深田 高義  
特許庁審判長 田中 秀夫
特許庁審判官 高橋 学
高木 進
登録日 2003-07-11 
登録番号 特許第3449608号(P3449608)
発明の名称 地下構造物用錠装置  
代理人 鈴木 秀雄  
代理人 加藤 恭介  
代理人 福田 賢三  
代理人 福田 伸一  
代理人 福田 武通  

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