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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1148971
審判番号 不服2004-12404  
総通号数 86 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2002-04-16 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-06-17 
確定日 2006-12-07 
事件の表示 特願2000-306723「X線CT装置」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 4月16日出願公開、特開2002-112995〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成12年10月5日の出願であって、平成16年5月11日付で拒絶査定がなされ(発送日:平成16年5月18日)、これに対し、平成16年6月17日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、平成16年7月13日付で手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされたものである。

II.本願発明について
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「少なくともX線管とX線検出器とが搭載された回転フレームと、該回転フレームに固定されて該回転フレームと一体に回転する大径プーリと、回転駆動装置およびブレーキ装置に連結された小径プーリと、これら大径プーリおよび小径プーリとの間にかけわたされたVベルトとが備えられ、通常の回転立ち上げ・安定回転・停止時には回転駆動装置の回転が小径プーリ、Vベルトおよび大径プーリを介して伝達されて回転フレームが回転する程度に小径プーリとVベルトとの間で摩擦が生じ、かつ回転フレームが回転しているときに上記ブレーキ装置が作動した場合にVベルトの動力が小径プーリに伝達されないほどに小径プーリとVベルトとの間で滑り摩擦が生じるように小径プーリの径が定められていることを特徴とするX線CT装置。」
から、
「少なくともX線管とX線検出器とが搭載された回転フレームと、該回転フレームに固定されて該回転フレームと一体に回転する大径プーリと、回転駆動装置およびブレーキ装置に連結された小径プーリと、これら大径プーリおよび小径プーリとの間にかけわたされたVベルトとが備えられ、通常の回転立ち上げ・安定回転・停止時には回転駆動装置の回転が小径プーリ、Vベルトおよび大径プーリを介して伝達されて回転フレームが回転する程度に小径プーリとVベルトとの間で摩擦が生じ、かつ回転フレームが回転しているときに上記ブレーキ装置が作動した場合に小径プーリとVベルトとの間で上記ブレーキ装置の破損が生じない程度に滑り摩擦が生じるように小径プーリの径が定められていることを特徴とするX線CT装置。」
(以下、「本願発明」という。)へと補正された(下線部は補正箇所を示す。)。
上記本件補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である、回転フレームが回転しているときに上記ブレーキ装置が作動した場合に於ける小径プーリとVベルトとの間での滑り摩擦の程度を、「Vベルトの動力が小径プーリに伝達されないほどに」から「ブレーキ装置の破損が生じない程度に」に変更するものであり、これは、拒絶査定の理由3で指摘した事項に対応したものであって、特許法第17条の2第4項第4号に規定する、明りようでない記載の釈明を目的とするものに該当する。

III.進歩性について
1.引用例
ア.原査定の拒絶の理由に引用した特開平5-305075号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに次の記載がある。
(1)従来技術として;
「従来のX線CT装置は、図2(A)の正面図およびその一部断面図である図1(B)に示すように、床面に立設される2本の脚部1a,1bに主枠2を揺動自在に支持し、主枠2にベアリング3を介して回転枠4を支持して、この回転枠4にX線管5とX線検出器6およびデータ収集装置7とを対向した状態で取り付けている。回転枠4にはこの他にもX線管5を冷却するための熱交換器20が設置される。回転枠4の後側は主枠2から突出して大径のプーリー8となり、このプーリー8と、電動モータ9の回転軸に取り付けられた小径のプーリー10との間に伝動ベルト11が架け渡されている。電動モータ9は、回転枠4に取り付けられているX線管5やデータ収集装置7の回転範囲外の位置において主枠2から延長されたベース12に支持されている。」(段落2)
(2)図2には、ベース12に取り付けられた電動モータの小径プーリ10から回転枠4の大径プーリに伝動ベルト11が架け渡されていることが記載されている。また、該図からは、該伝動ベルトの断面は平板状であり、前記各プーリとの接触面に何らかの凹凸があることは示唆されておらず、前記各プーリのベルトとの接触面にも凹凸を示唆する記載はみられない。

これらの記載を参照すると、引用例1には、次の発明が記載されている(以下、「引用発明1」という。)。

「X線管とX線検出器が取り付けられている回転枠を備え、該回転枠の後側は大径のプーリーとなり、電動モータの回転軸に取り付けられた小径のプーリーと、この大径のプーリーと、小径のプーリーとの間に架け渡された伝動ベルトを備えてなるX線CT装置。」

イ.国際公開第99/19882号パンフレット(特表2001-520434号)(以下、「周知例1」という。)には、図面とともに次の記載がある。
(1)技術分野に関し;
「図1は、X線コンピュータ・トモグラフィ(CT)用の手荷物走査システムの外部コンソール100の斜視図である。・・・コンベア102は、例えば、人間または空港手荷物のような、走査対象の対象物を走査エリアに運ぶ。」(4欄14-19行)
(2)「X線源チューブまたはソース36は、X線ビームを、回転軸37にほぼ垂直な開口部35を横切って、ディスク30の面に沿って伝播させるために、ディスク30の上に設置される。同様に、X線検出器アレー40は、放射されたX線38を検出するために、X線源36に対向するディスク30上に装着される。・・・ディスク30は、ベアリング59で垂直フレーム32に、回転可能に取り付けられる。その詳細については以下に説明する。
モータ46、およびそれに接続している関連駆動プーリ(図6Aおよび図6B参照)が、ベルト64を駆動する。ベルト64は、被駆動プーリとしての働きをするディスクを回転させるために、ガントリディスク30の外周部に接続している。好適には、ベルト64は、低コスト、長寿命およびそれほと正確なの整合を必要としないという利点を含む種々の利点を得るために、例えば、多重VベルトのようなVベルトを備えることが好ましい。・・・。
ディスク30の外縁部65は、多重Vベルト64の縦方向の溝と連動するようにシーブ(sheave)化されている。ベルトの断面がV形をしていて、またディスクの円周が長いので、スリップが最小限度に減り、回転するデバイスの位置および回転速度の精度は最大限度まで向上する。」(4欄31行?5欄19行)
(3)「図4は、ガントリディスク30の外周部上の縦のシーブ50と、多重Vベルト64上の係合用の縦の溝との間のインターフェースを示す。図7は、このインターフェースの拡大斜視図である。多重Vベルトおよびシーブ構成は、インターフェースの表面積を増大し、それによりベルトのスリップを最小限度まで少なくする。」(6欄最下行?7欄4行)
(4)「本発明は、上記従来技術のスキャナ駆動組立体に関連する欠点を、緩和および/または除去するCTスキャナ駆動組立体に関する。本発明の装置は、好適には、環が走査対象の対象物の周囲を回転することができる、被駆動プーリとして動作できるように、その周辺をシーブ化された(sheaved)ディスクの形をしていることが好ましい環を備える。エレクトニクス(電子部品)は、対象物の断層撮影のための走査を行うために、環に装着されている。モータは、同様に、シーブ化された駆動プーリを含む。モータの駆動プーリと環の被駆動プーリとの間に張られたベルトは、走査中の対象物の周囲で環を回転させるために、モータの回転運動を環に伝達する。」(2欄13-22行)

ウ.特開昭62-53638号公報(以下、「周知例2」という。)には、図面とともに次の記載がある。
(1)「従来より、CT装置の架台回転機構部は、第4図に示すように、サーボモータ1、サーボモータ軸と連結された減速機2、電磁ブレーキ3、減速機2の出力軸に取付けられる駆動プーリ4、回転体7とネジ締結等により一体となる回転プーリ6と駆動プーリ4とに巻きつけられるベルト5、それに回転プーリ6、サーボモータ1を制御する制御部8により構成され、急速立上げ、及瞬時逆転はサーボモータ系のパワーのみで行なわれていた。さらに詳しく説明すれば、上記回転機構におけるサーボモータの電流値は第5図に示すものとなり、立上げ、立下げ時のトルク、つまり電流値が、定速回転時に比べ非常に大きく、サーボモータ系の大きさを決める決定的因子となる。」(1頁左下欄最下行?同右下欄13行)
(2)第4図には、小径の駆動プーリが電磁ブレーキ3が附属したサーボモータ1に取り付けられ、該駆動プーリと大径の回転プーリ6とにベルト5が巻き付けられてなるCT装置の構成が記載されている。

エ.特開平6-11016号公報(以下、「周知例3」という。)には、ベルトによるプーリ間の動力伝達機構に於ける急停止時の破損回避技術に関し、図面とともに次の記載がある。
「従来、複写機、プリンターにおいて冷却ファンは、モータ一体型(ファンと同軸)のものと、前述した画像形成工程等を行なう装置を動力伝達装置を介して駆動するモータから増速して駆動を受け、駆動源を兼用するものとがある。前者に比べて後者は駆動源であるモータを兼用することで安価な構成となるが、反面画像形成工程等はモータ回転速度に対して減速させて利用するが、冷却ファンは逆に約10倍以上に増速させるのが一般的で、例えばモータの起動時及び停止時、更に、ジャム、故障等でモータを急停止させた場合、高速で回転しているファンの慣性に抗して、主として慣性負荷を与えるため、モータとファンを連結している動力伝達装置の歯車の破損、又該動力伝達装置にベルト装置を含む場合はプーリ、プーリ軸、ベルトの破損を発生させる。
このように低速回転である電子写真工程を行なう各装置と、高速回転である冷却用ファンの部分とを同一の駆動源で兼用するために生じる不都合に対し、高速回転部である冷却用ファンの動力伝達部材の強化対策として歯車の歯の破損に対しては歯幅の拡大、プーリの軸破損に対しては、軸径を増やしたり急激な停止時ベルトが滑る様に歯付ベルトから平滑ベルトにした上でテンションプーリを追加する等していた。」(段落7,8)

オ.プーリ径が小さいほど、また、プーリとVベルトとの接触角が小さいほど両者間の滑りが発生しやすくなるという回転駆動力伝達機構に於ける技術常識に関し、以下の周知例4乃至6が挙げられる。
(1)特開平10-30698号公報(段落6,22及び23参照。以下、「周知例4」という。)
(2)特開平6-11022号公報(段落4乃至7参照。以下、「周知例5」という。)
(3)特開平8-254260号公報(段落31及び32参照。以下、「周知例6」という。)

2.対比
本願発明と引用発明1とを対比すると、引用発明1の
(a)「回転枠」、(b)「電動モータ」
は、それぞれ本願発明の
(a)「回転フレーム」、(b)「回転駆動装置」
に相当することが明らかである。また、引用発明1では、「回転枠の後側は大径のプーリーとな」っているのであるから、該大径プーリーが回転枠に固定されて回転フレームと一体に回転するものであることは明らかである。
よって両者は、
(一致点)
「少なくともX線管とX線検出器とが搭載された回転フレームと、該回転フレームに固定されて該回転フレームと一体に回転する大径プーリと、回転駆動装置に連結された小径プーリと、これら大径プーリおよび小径プーリとの間にかけわたされたベルトとが備えられてなるX線CT装置。」
の点で一致し、以下の各点で相違する。
(相違点)
(1)本願発明では、ベルトがVベルトと特定されているのに対し、引用発明1ではベルトの種別が特定されていない点。
(2)本願発明では、回転駆動装置にブレーキ装置が附属しているのに対し、引用発明1では、ブレーキ装置の有無について記載がない点。
(3)本願発明では、通常の回転立ち上げ・安定回転・停止時には回転駆動装置の回転が小径プーリ、Vベルトおよび大径プーリを介して伝達されて回転フレームが回転する程度に小径プーリとベルトとの間で摩擦が生じるように小径プーリの径を定めるとしているのに対し、引用発明1では小径プーリ径についてそのような特定をしていない点。
(4)本願発明では、回転フレームが回転しているときに上記ブレーキ装置が作動した場合に小径プーリとベルトとの間で上記ブレーキ装置の破損が生じない程度に滑り摩擦が生じるように小径プーリの径を定めるとしているのに対し、引用発明1では小径プーリ径についてそのような特定をしていない点。

3.判断
上記各相違点について検討する。
(1)相違点(1)について
プーリ間で動力を伝達するベルトとしてVベルトは周知慣用のものに過ぎず、X線CT装置に於いても、回転フレーム回転用の大径・小径プーリからなる動力伝達機構に架け渡すベルトとしてVベルトを使用することは、例えば周知例1に記載されたとおり、周知である。
よって、引用発明1において、ベルトにVベルトを採用することは、該各周知慣用技術に基づき当業者が容易に為し得たことである。

(2)相違点(2)について
X線CT装置の回転フレーム回転機構に於いて、回転駆動装置であるモータにブレーキ機構を附属させることは、周知例2にも記載されたとおり、周知である。
よって、引用発明1において、回転駆動機構にブレーキ装置を設けることは、該周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得た事項である。

(3)相違点(3)について
X線CT装置の回転フレームの通常測定時前後の回転動作が、静止状態からの立ち上げ、測定中の安定回転、そして測定終了後に回転フレームを静止状態に戻すための立ち下げの一連の各動作からなることは周知かつ自明であり(立ち上げ・立ち下げ動作については周知例2参照)、そして、該各動作がプーリとベルトとからなる動力伝達機構を介して行われる際に、回転駆動装置に連結されたプーリの回転が、回転フレームに動力を伝えるベルトに伝えられる必要から、該両者の間に、少なくとも回転駆動装置側のプーリが完全に空回りしてしまわない程度の一定の摩擦力が必要となることも、動作原理からみて自明のことである。
また、ベルトとプーリとの滑り易さ即ち摩擦力が、プーリ径や、該プーリ径の関数であるプーリとベルトとの接触角に依存することが技術常識である(周知例4乃至6参照)。
よって、引用発明1において、通常の回転立ち上げ・安定回転・停止時には回転駆動装置の回転が小径プーリ、ベルトおよび大径プーリを介して伝達されて回転フレームが回転する程度に小径プーリとベルトとの間で摩擦が生じるように小径プーリの径を定めることは、前記周知技術、技術常識及び自明の論理に基づき当業者が容易に想到し得た事項である。

(4)相違点(4)について
回転駆動装置からプーリとベルトとを介して負荷に動力を伝達する動力伝達機構に於いて、モータなどの回転駆動装置が急停止した場合に、ベルトがプーリに対して滑るようにして前記回転駆動装置や動力伝達機構の各構成部材の破損を回避することも、例えば周知例3に記載されたとおり、周知技術に過ぎない。そして、モータなどの回転駆動装置を用いた動力伝達機構一般に於いて、停電その他の原因により前記回転駆動手段が急停止し得る危険性が存在することは技術常識であり、該危険性が、同じくモータからなる回転駆動装置を備えている引用発明1に於いても存在することも自明である。
また、上記(3)と同様に、ベルトとプーリとの滑り易さ即ち摩擦力が、プーリ径や、該プーリ径の関数であるプーリとベルトとの接触角に依存することが技術常識である(周知例4乃至6参照)。
よって、引用発明1において、回転駆動装置の急停止が発生した場合に対処すべく、そのような急停止時に、回転駆動装置の一構成部材であるブレーキ装置の破損が生じない程度に小径プーリとベルトとの間で滑り摩擦が生じるように小径プーリ径を設定することは、当業者が容易に想到し得た事項である。

したがって、本願発明は、引用発明1及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。。

IV.記載不備について
1.原査定の拒絶理由
原査定の、記載不備に係る拒絶の理由の概要は、次のとおりである。

イ.この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。

請求項1における「ブレーキ装置が作動した場合に小径プーリとベルトとの間で滑り摩擦が生じるように小径プーリの径が定められている」点について、小径プーリとベルトが滑るための条件は、回転フレーム及び大径プーリの重さや慣性モーメント、大径プーリの直径・形状・材質、ベルトの形状や材料、小径プーリの形状や材質、ブレーキの強さ等種々のパラメータに影響されるものと推定されるが、それら種々のパラメータについて発明の詳細な説明には何ら記載されておらず、またそのような多岐にわたる複雑な条件をいかにして設定するのか、当業者の技術常識を考慮しても理解できないと解されることなどから、請求項1に係る発明を実施することができない。
よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。

ロ.この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

1)請求項1における「小径プーリの径」に関する記載では、どこまでの径であれば滑り摩擦が生じるのかその境界が一意的に決定できず、発明の範囲が不明確である。(すなわち、回転フレームの重量などにより境界となるべき径は変化するものと推認され、それら請求項に記載されていない他の条件により変わるものは明確とはいえない)
2)請求項1に記載の「滑り摩擦が生じる」とはどの程度滑った状態を指すのか不明瞭で、その結果発明の構成が不明確である。(例えば、従来のX線CT装置でも微視的に見れば小径プーリとベルトの間に僅かながら滑りが生じていることは明らかである)


2.当審の判断
イ.拒絶の理由イ.について
本件補正により、請求項1における「ブレーキ装置が作動した場合にVベルトの動力が小径プーリに伝達されないほどに小径プーリとVベルトとの間で滑り摩擦が生じるように小径プーリの径が定められている」なる記載は、「ブレーキ装置が作動した場合に小径プーリとVベルトとの間で上記ブレーキ装置の破損が生じない程度に滑り摩擦が生じるように小径プーリの径が定められている」へと補正された(下線部は補正箇所を示す。)。この補正は、回転フレームが回転しているときに上記ブレーキ装置が作動した場合に於ける小径プーリとVベルトとの間での滑り摩擦の程度を、「Vベルトの動力が小径プーリに伝達されないほどに」から「ブレーキ装置の破損が生じない程度に」へと変更するものであるが、拒絶の理由イ.で指摘された「ブレーキ装置が作動した場合に小径プーリとベルトとの間で滑り摩擦が生じるように小径プーリの径が定められている」との記載内容については、該補正によっては変更されていない。
該拒絶の理由に対し請求人は意見書に於いて、「小径プーリの径を、カット・アンド・トライで少しずつ小さくしていって、最適の径を求める」と説明しているが、そのような手順については出願当初明細書に記載がない。 また、たとえ前記手順が出願当初明細書の記載事項から自明であるとしても、請求人も平成16年3月8日付け意見書(以下、単に「意見書」という。)で認めるとおり、従来のX線CT装置でも微視的に見れば小径プーリとベルトとの間に僅かながら滑りが生じているのであり、本願発明に於いて、カット・アンド・トライで小径プーリの径を縮小していった場合に、どの時点で、請求人が無視すべきとする前記微視的な滑りの状態から、本願発明にいう「滑り摩擦が生じる」という条件に合致した状態になったと見なすのかについて、発明の詳細な説明に於いて何らの説明も為されていない。
よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分な記載が為されていない。

ロ.拒絶の理由ロ.について
2)について:
請求人も意見書に於いて認めるとおり、従来のX線CT装置でも微視的に見れば小径プーリとベルトとの間に僅かながら滑りが生じているのであり、この状態下で生じる摩擦も「滑り摩擦」のひとつに外ならない。しかし、前記意見書で出願人は、このような滑り摩擦は無視すべきである旨主張しており、そうすると、本願発明に於ける「滑り摩擦」の定義と、該「滑り摩擦」及び前記微視的な「滑り摩擦」との境界は不明確であり、また客観性を欠く。また、前記のとおり本願発明に於ける「滑り摩擦」の定義が不明確である。
1)について:
また、上記のとおり、本願発明に於ける「滑り摩擦」の定義が不明確であるから、本願発明の「滑り摩擦が生じるように」定められた「小径プーリの径」の範囲も不明確である。

よって、請求項1に係る発明は明確でない。

3.むすび
したがって、本願は、特許法36条第4項及び第6項に規定する要件を満たしていない。

V.まとめ
以上、III.、IV.のとおりであるから、よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2006-10-04 
結審通知日 2006-10-10 
審決日 2006-10-26 
出願番号 特願2000-306723(P2000-306723)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61B)
P 1 8・ 537- Z (A61B)
P 1 8・ 536- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小田倉 直人  
特許庁審判長 高橋 泰史
特許庁審判官 菊井 広行
樋口 宗彦
発明の名称 X線CT装置  
代理人 喜多 俊文  
代理人 江口 裕之  

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