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審決分類 審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正しない A61K
審判 訂正 1項3号刊行物記載 訂正しない A61K
審判 訂正 2項進歩性 訂正しない A61K
管理番号 1149425
審判番号 訂正2006-39002  
総通号数 86 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1994-06-28 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2006-01-06 
確定日 2007-01-09 
事件の表示 特許第2769592号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.請求の要旨
本件訂正審判請求の要旨は、特許第2769592号(平成4年12月14日出願、平成10年4月17日特許権設定の登録)の願書に添付した明細書を、本件審判請求書に添付した明細書のとおりに訂正することを求めるものであって、訂正事項は以下のとおりである。

(1)訂正事項a
請求項7の
「塩化ナトリウム粒子の表面に塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム及び酢酸ナトリウムからなる電解質化合物を含むコーティング層を有し、かつ、複数個の塩化ナトリウム粒子が該コーティング層を介して結合した造粒物からなる顆粒状乃至細粒状の重炭酸透析用人工腎臓潅流用剤。」を
「塩化ナトリウム粒子の表面に、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムを取り込んだ酢酸ナトリウムが付着して均一に形成されたコーティング層を有し、かつ、複数個の塩化ナトリウム粒子が該コーティング層を介して結合した造粒物からなる長期に安定なさらさらした顆粒状乃至細粒状の重炭酸透析用人工腎臓潅流用剤。」
と訂正する。

(2)訂正事項b
請求項9の
「塩化ナトリウム粒子の表面に塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム及び酢酸ナトリウムからなる電解質化合物及びブドウ糖を含むコーティング層を有し、かつ、複数個の塩化ナトリウム粒子が該コーティング層を介して結合した造粒物からなる顆粒状乃至細粒状の重炭酸透析用人工腎臓潅流用剤。」を
「塩化ナトリウム粒子の表面に、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムを取り込んだ酢酸ナトリウム及びブドウ糖が付着して均一に形成されたコーティング層を有し、かつ、複数個の塩化ナトリウム粒子が該コーティング層を介して結合した造粒物からなる長期に安定なさらさらした顆粒状乃至細粒状の重炭酸透析用人工腎臓潅流用剤。」と訂正する。

(3)訂正事項c
明細書(特許公報3頁6欄4?8行)の
「塩化ナトリウム粒子の表面に塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム及び酢酸ナトリウムからなる電解質化合物を含むコーティング層を有し、かつ、複数個の塩化ナトリウム粒子が該コーティング層を介して結合した造粒物からなる顆粒状乃至細粒状…」を
「塩化ナトリウム粒子の表面に、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムを取り込んだ酢酸ナトリウムが付着して均一に形成されたコーティング層を有し、かつ、複数個の塩化ナトリウム粒子が該コーティング層を介して結合した造粒物からなる長期に安定なさらさらした顆粒状乃至細粒状…」と訂正する。

(4)訂正事項d
明細書(特許公報3頁6欄10?14行)の
「塩化ナトリウム粒子の表面に塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム及び酢酸ナトリウムからなる電解質化合物及びブドウ糖を含むコーティング層を有し、かつ、複数個の塩化ナトリウム粒子が該コーティング層を介して結合した造粒物からなる顆粒状乃至細粒状…」を
「塩化ナトリウム粒子の表面に、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムを取り込んだ酢酸ナトリウム及びブドウ糖が付着して均一に形成されたコーティング層を有し、かつ、複数個の塩化ナトリウム粒子が該コーティング層を介して結合した造粒物からなる長期に安定なさらさらした顆粒状乃至細粒状…」と訂正する。

(5)訂正事項e
明細書(特許公報12欄47行?14欄1行)の段落【0041】、及び、同段落【0042】(特許公報14欄3行)の【表8】、並びに、括弧内の「表8」(同7頁13欄20行)を削除する。

2.請求人が提出した証拠等

請求人は、以下の証拠等を提出し本件訂正は認められるべきである旨主張している。

甲第1号証 特開平2-311418号公報
甲第2号証 無効2002-35452号の平成16年1月26日審決
甲第3号証 東京高等裁判所平成16年(行ケ)第78号同年12月21日判決
甲第4号証 無効2002-35452号の平成17年9月8日審決
甲第5号証 DVD
[甲第1号証再現品及び本件特許(訂正後)実施品の流動性試験]
甲第6号証 製剤試験報告書

参考資料
(1)造粒便覧(昭和50年)抜粋
(2)造粒ハンドブック(平成3年)抜粋
(3)溶解試験報告書
(4)製剤試験報告書
(5)医薬品製造指針(1992年)抜粋
(6)医薬審発第0603001号「安定性試験ガイドラインの改定について」
(7)今後の安定性試験(1991年)抜粋
(8)農藝化学全書第23冊 澱粉化学(昭和28年3月)抜粋
(9)甘味料(昭和41年7月)抜粋
(10)第12改正日本薬局方解説(1991年3月)抜粋
(11)測定結果報告書

3.訂正拒絶の理由の概要

当審が平成18年3月28日付けで通知した拒絶の理由の概要は以下のとおりである。
「請求項7及び9についての訂正は、特許請求の範囲を減縮することを目的とするものであるが、訂正後の請求項7に係る発明は、その出願前に頒布された刊行物である引用例1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、また、訂正後の請求項9に係る発明は、その出願前に頒布された刊行物である引用例2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明である。
訂正後の請求項7及び9に係る発明は、特許出願の際に独立して特許を受けることができないから、特許法第126条第3項(平成6年改正前)の規定に適合しない。」

4.訂正後の請求項7に係る発明(以下、訂正発明1という。)について

(1)引用例及びその記載事項
特開平2-311418号公報(以下、引用例1という)には、以下の事項が記載されている。

ア.「本発明の他の目的は、運搬および保存性に優れかつ粉末製造の均一性の維持ならびに安定性の良好な粉末状透析用製剤およびその製造方法を提供することである。」(3頁左上欄8?11行)

イ.「実施例2
塩化カリウム52.2部、塩化カルシウム[CaCl2・2H2O]77.2部、塩化マグネシウム[MgCl2・6H2O]35.6部および酢酸ナトリウム[CH3COONa・3H2O]357.2部を水1,500部(電解質の約3倍)に溶解させて水溶液を得た。塩化ナトリウム2188.7部を流動層造粒機(富士産業株式会社製STREA-15)内で流動化させ、この流動層中に前記水溶液を噴霧させて増量した。このようにして得られた造粒物をバーチカルグラニュレータに供給し、更に酢酸41.5部を加えて撹拌混合した。」(5頁右上欄。以下、引用実施例1という。)

ウ.「実施例5
実施例2および3で得られた第1および第2の組成物を、それぞれ別々にポリエチレンテレフタレート(12μm)、ポリエチレン(15μm)、アルミニウム箔(7μm)およびポリエチレン(30μm)を積層して得られた積層フィルム製の袋に、乾燥剤としてシリカゲルを収納し、40℃における貯蔵安定性を調べたところ、第2表の結果が得られた。

第2表
時 間
項 目 0個月 1個月後 2個月後
第1の組成物
色差(ΔE) 0.00 0.12 0.12
酢酸イオン
残存率(%) 100.0 101.4 100.5
凝集の有無 凝集せず 凝集せず
第2の組成物
色差(ΔE) 0.00 0.12 0.06
凝集の有無 凝集せず 凝集せず 」
(6頁左上欄?右上欄)

エ.「酢酸が前記酢酸塩を含む固体電解質粒子中に含浸されるので、長期保存安定性が極めて良好であるという利点を有する。」
(6頁左下欄末行?右下欄2行)

オ.「また、本発明による血液透析用製剤は、……粉末製造が均一化でき、また、各成分の比重差のために各成分の均一分布が困難であった問題が前記方法により解決できるものである。」(6頁右下欄7?13行)

(2)対比・判断

訂正発明1と、上記引用実施例1の流動層造粒機によって得られた造粒物とを対比すると、
該造粒物は、訂正前の請求項7の構成要件をすべて充足するものであるから(平成16年12月21日の本件特許に対する無効審判事件審決取消訴訟(平成16年(行ケ)78号)判決参照)、両者は、「塩化ナトリウムと塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム及び酢酸ナトリウムからなる電解質化合物を含む造粒物からなる顆粒乃至細粒状の重炭酸透析用人工腎臓潅流用剤」である点で一致し、
前者が、「塩化ナトリウム粒子の表面に、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムを取り込んだ酢酸ナトリウムが付着して均一に形成されたコーティング層を有し、かつ、複数個の塩化ナトリウム粒子が該コーティング層を介して結合した」ものであり、「長期に安定なさらさらした」ものであるのに対し、後者ではかかる点について記載されていない点で相違する。

以下、相違点について検討する。

(2-1)「塩化ナトリウム粒子の表面に、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムを取り込んだ酢酸ナトリウムが付着して均一に形成されたコーティング層」について

引用実施例1において、塩化ナトリウム粒子に噴霧される電解質溶液中の酢酸ナトリウム(CH3COONa.3H2O)の量は357.2部(無水のCH3COONa換算で357.2×(82.03÷136.08)=215.3部)で、52.2部の塩化カリウム、77.2部の塩化カルシウムや35.6部の塩化マグネシウムよりも多くなっているから、引用実施例1で得られる造粒物においては噴霧された電解質溶液が塩化ナトリウム粒子の表面に付着し、水分が蒸発後には量の多い酢酸ナトリウムが量の少ない他の電解質化合物を取り込んだ状態で被覆を形成するものと認められる。
また、引用例1の「組成の均一性の維持」(上記ア、オ)という発明の目的及び効果からみて、引用例1の造粒物は「噴霧された電解質水溶液の全量が、塩化ナトリウム粒子に対してほぼ一定の割合で付着しているもの」と解され、水分の蒸発後には電解質化合物がコーティング層の中に一定かつ特定の比で含まれていると同時に、塩化ナトリウムに対する各電解質の割合が一定かつ特定の割合であると解される。

一方、本件訂正発明1における「均一に形成されたコーティング層」の構造について、本件明細書には具体的な記載はなく、「本発明のA剤の製造方法においては………。水の使用量が少なすぎると酢酸ナトリウムを溶融状態にすることが困難となり均一なコーテイング層を形成させにくくなる。」(段落【0014】)、「本発明のA剤においては、塩化ナトリウム粒子の表面に、他の電解質化合物及び必要に応じて使用されるブドウ糖が付着して均一な組成のコーティングを形成しており、該コーティングの作用によって複数の塩化ナトリウム粒子が結合して造粒物を形成している。本発明のA剤においては、各造粒物を形成する各成分の割合はほぼ一定で特定の値にある。そのため、特定量のA剤を特定量の水に溶解して得られる溶液の各電解質化合物の濃度の割合は常に特定の所望の値になるという特徴がある。……」(段落【0013】)、「本発明のA剤は、重量、容積とも小さい粉末製剤であり且つその組成が均一であるので、本発明のA剤によれば、従来の溶液製剤と同等の品質(電解質化合物含有量の均一性)を保持したままで、……」(段落【0027】)、「……また、その試験結果(表5、表6、表8)から、組成の均一性において極めて良好であることが判った。……」(段落【0042】、ただし「表8」は本件訂正で削除)と記載されているにすぎない。
これらの記載事項からすると、本件訂正発明1における「均一に形成されたコーティング層」とは、特定量のA剤を特定量の水に溶解して得られる溶液の各電解質化合物の濃度の割合が常に特定の所望の値となる程度の均一な組成であるようなコーティング層、すなわち、個々の粒子におけるコーティング層における各電解質化合物の均一な分散や被覆の均一性を意味するものではなく、組成物全体としての組成の均一性が得られる程度にコーティング層の中に各電解質が一定かつ特定の比で含まれていると同時に、塩化ナトリウムに対する各電解質の割合が一定かつ特定の割合であるコーティング層を意味すると解すべきである。

そうすると、引用実施例1において得られた造粒物も「塩化ナトリウム粒子の表面に、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムを取り込んだ酢酸ナトリウムが付着して均一に形成されたコーティング層」を有するということができる。

この点について、請求人は本件実施例を再現した製剤と引用実施例1を追試した製剤を比較する資料(甲第6号証)を提出し、本件訂正発明1の「均一に形成されたコーティング層」は「均一に形成された酢酸ナトリウムのコーティング層が核粒子表面に形成されている(コーティング層中に塩化ナトリウムの成分がコーティング層成分として実質的に存在しない)」ものであるのに対し、引用実施例1を追試して得られた造粒物は表面に塩化ナトリウムが検出されていることから均一なコーティング層を有するものではなく、本件訂正発明1は引用例1に記載された発明ではない旨主張している。

しかし、甲第6号証における本件訂正発明1の実施品とされるものは、酢酸ナトリウムを溶融させるという特定の方法で製造されたものであって本件訂正発明の一態様にすぎず、また、わずか5個の粒子について粒子1個あたり3点しか測定されていないから、甲第6号証の結果から直ちに本件訂正発明のコーティング層が酢酸ナトリウムが連続性をもって粒子の表面に付着し均一に形成されているということはできない。
そして、本件明細書には、本件訂正発明1におけるコーティング層が酢酸ナトリウムが連続性をもって粒子の表面に付着し均一に形成されたコーティング層であると解すべき根拠となる記載は見あたらない。
したがって、請求人の上記主張を採用することはできない。

(2-2)「長期に安定なさらさらした」について

「さらさら」とは、「油気、粘り気、湿気がなく乾いているさま」を意味するから、流動層造粒機によって製造された引用実施例1の造粒物は乾いていて「さらさら」したものであることは自明である。
また、引用例1には、引用実施例1で得られた組成物について40℃で2か月間の貯蔵安定性試験の結果として酢酸イオンの残留率がほぼ100%であり凝集しないことが記載されている(上記ウ)。この40℃で2か月という条件は1年の保存を目安とした加速試験に相当し(資料7)、長期保存安定性が極めて良好であると記載されている(上記エ)から、引用実施例1で得られた組成物は「長期に安定なさらさらした」ものであるというべきである。

一方、本件明細書には、「実施例1?3で得られたA剤(製品)は、いずれも長期に安定なさらさらした顆粒状乃至細粒状の粉体であった。……」(段落【0042】)と記載されているにすぎず、その具体的な試験条件は何ら記載されていない。上記記載が、比較例のものが室温保存において1週間で固結した(段落【0043】)との記載事項に対応するものであることからすると、本件訂正発明1の「長期に安定なさらさらした」とは、比較例の条件で少なくとも1週間以上凝集しないということを意味するものと解される。

そうすると、引用実施例1のものも本件訂正発明の一週間以上凝集しないという性質を有するものであるから、「長期に安定なさらさらした」点についても実質的な相違点とはならない。

この点について、請求人は、本件実施例を再現した製剤と引用実施例1を追試した製剤を比較する資料(甲第5、6号証)を提出して、本件訂正発明1の「長期に安定なさらさらした」とは、乾燥剤なしで凝集しないことを意味するから、本件訂正発明1は引用例1に記載された発明ではない旨主張している。

しかし、甲第5、6号証において本件訂正発明の実施品が乾燥剤なしで凝集しないものであったとしても、それは酢酸ナトリウムを溶融させることによって製造されたものにおける一実施例としての効果を示すにすぎないし、本件訂正発明1の安定性とは乾燥剤なしで凝集しないものであると解される事項は本件明細書に何ら記載されていないから、請求人の上記主張を採用することはできない。

(3)小括

上記のとおり、引用実施例1で得られる造粒物は、訂正発明1の構成要件をすべて充足するものであるから、訂正発明1は、引用例1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができない発明である。

5.訂正後の請求項9に係る発明(以下、訂正発明2という。)について

(1)引用例及びその記載事項
特開平2-311419号公報(以下、引用例2という。)には、血液透析用製剤として使用される透析用固体電解質、ブドウ糖及び液体酸よりなる粉末状の第1の組成物を流動層法により製造する方法について、以下の事項が記載されている。

ア.「本発明の他の目的は…均一性の維持ならびに安定性の良好な粉末状透析用製剤およびその製造方法を提供することである。」
(2頁右下欄下4?末行)

イ.塩化ナトリウム及びブドウ糖の混合粉末を流動層造粒機内で流動させ、その流動層内に塩化ナトリウム以外の透析用固体電解質の水溶液を噴霧しながら造粒すること、(4頁左上欄)

ウ.「実施例2
塩化カリウム52.2部、塩化カルシウム[CaCl2・2H2O]77.2部、塩化マグネシウム[MgCl2・6H2O]35.6部および酢酸ナトリウム[CH3COONa・3H2O]357.2部を5倍量の水に溶解させて水溶液を得た。一方、塩化ナトリウム2188.7部およびブドウ糖525部をバーチカルグラニュレータに供給して攪拌混合して得られた粒状物を流動層造粒機(富士産業株式会社製STREA-15)内で流動させ、この流動層中に前記水溶液を噴霧させて増量した。このようにして得られた造粒物をバーチカルグラニュレータに供給し、更に酢酸41.5部を加えて攪拌混合した。」(5頁左上欄)

エ.「酢酸が該固体電解質粒子中酢酸ナトリウムに特異的に吸着されるので、長期保存安定性が極めて良好であるという利点を有する。」(6頁左上欄下3行?末行)

オ.「また、本発明による血液透析用製剤は、……粉末製造が均一化でき、また、各成分の比重差のために各成分の均一分布が困難であった問題が前記方法により解決できるものである。」(6頁右上欄5?11行)

(2)対比・判断

引用例2の実施例2(以下、引用実施例2という。)は、引用例1の実施例2と同じ流動層造粒機(富士産業株式会社製STREA-15)を用いて同様な操作によって造粒を行っているのであるから、引用実施例1と同様に、噴霧された電解質水溶液は流動している塩化ナトリウム及びブドウ糖の粒子の表面に付着し、少なくともその相当部分が被覆された造粒物が得られ、その被覆を介した粒子同士の結合が生ずるものと解される。
また、引用実施例2においても、酢酸ナトリウムの量は他の電解質である塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムに比して大量に配合されているから、塩化ナトリウム及びブドウ糖を含む粒子の表面に付着した電解質水溶液は水分の蒸発に伴って、その表面上に塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムを酢酸ナトリウムが取り込んだ被覆を形成するものと認められる。
そして、訂正発明2における「均一に形成されたコーティング層」とは、本件発明の目的からみて、塩化ナトリウム粒子に対する被覆層であって、成分組成が均一な粉末状(顆粒状乃至細流状)の透析用剤のA剤を提供できるよう、当該被覆層の中において各電解質化合物が被覆層の中に一定かつ特定の比で含まれていると同時に、塩化ナトリウムに対する各電解質の割合が一定かつ特定の割合であることを意味すると解される。
引用例2の発明の目的及び効果(上記ア、オ)からみて、造粒操作において噴霧された電解質のほぼ全量が塩化ナトリウム及びブドウ糖に対してほぼ一定の割合で付着し、塩化ナトリウム及びブドウ糖に対する各電解質化合物の割合も一定かつ特定の割合となっているものと解される。

そうすると、訂正発明2と引用実施例2で得られた造粒物とは「塩化ナトリウムの表面に、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムを取り込んだ酢酸ナトリウム及びブドウ糖を含む造粒物であって、塩化ナトリウムが電解質化合物を含む均一に形成されたコーティング層を有し、コーティング層を介して結合した顆粒状乃至細粒状の重炭酸透析用人工腎臓潅流用剤」である点で一致し、前者ではブドウ糖がコーティング層中に含まれるのに対して、後者では塩化ナトリウムとブドウ糖との粒状物が他の電解質溶液で被覆されたものである点、及び、後者には「長期に安定なさらさらした」ことが記載されていない点で相違すると認められるので、上記相違点について検討する。

(2-1)「塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムを取り込んだ酢酸ナトリウム及びブドウ糖が付着して均一に形成されたコーティング層」について

引用例2には、ブドウ糖を塩化ナトリウムとの混合粉末として流動層造粒機内で造粒することも記載されており(4頁左上欄?右上欄)、ブドウ糖を塩化ナトリウム及び他の電解質と均一に混合、粉砕したものを乾式造粒装置によって造粒する方法(実施例1)も記載されていることからみて、引用例2における造粒物においてブドウ糖は必ずしもコーティングされた粒子の内部に存在していなくてもよいものであることは明らかである。
そして、透析用人工腎臓潅流用剤において、ブドウ糖を電解質と別の包装とする場合や、ブドウ糖を電解質と均一に混合する場合など各種の態様があることも周知であるから、ブドウ糖を含む顆粒状乃至細粒状の重炭酸透析剤を製造するにあたり、引用実施例2においてブドウ糖と塩化ナトリウムとの粒状物を流動させる方法に代えて、塩化ナトリウムとは別にブドウ糖を適宜な形態で流動層造粒機に導入して造粒し、コーティング層中にブドウ糖を含む造粒物を得ることは当業者が容易に行いうることであるといえる。

請求人は意見書において、引用例2では塩化ナトリウム及びブドウ糖を核粒子としてこれに電解質溶液を噴霧する流動層造粒法を用いているが、流動層中では比重の大きい塩化ナトリウムを核とする造粒物と比重の小さいブドウ糖を核とする粒子とが一次凝集粒子として別に生成するために十分な均一性が得られないのに対し、本件訂正発明では電解質化合物とブドウ糖をコーティング層の成分として用いているので、均一性において顕著な効果がある旨主張している。
しかし、引用例2において「各成分の比重差のために各成分の均一分布が困難であった問題が前記方法により解決できるものである。」(上記オ)と記載されているように均一性の問題は解決されており、本件明細書の記載からみて本件訂正発明2が顕著な効果を奏するものと認めることはできない。

また、請求人は、ブドウ糖が高温のアルカリ水溶液に不安定であり、希アルカリでは常温でも異性化が生ずるから(参考資料8?10)、アルカリ性の電解質溶液(参考資料11によればpH8.53)中にブドウ糖を溶解することには阻害要因がある旨主張している。
しかし、引用例2にはブドウ糖の異性化が生ずることを窺わせる事項は記載されていないところからみて、引用実施例2において、噴霧された電解質溶液が塩化ナトリウムとブドウ糖からなる造粒物の表面に付着し、水分が蒸発して造粒が行われる間にブドウ糖の異性化が生ずるものとは解されない。
また、希アルカリとは一般にアルカリの薄い溶液をいい(例えば、水酸化ナトリウムの0.1M水溶液でそのpHは約13である。)、一方、pH8.53という値は水道法における水質基準(pH5.8?8.6)で許容される範囲の極めて弱いアルカリ性であるから、ブドウ糖が希アルカリの条件で異性化するとしても引用実施例2の電解質溶液の条件で異性化するおそれがあるということはできない。
さらに、ブドウ糖を含むコーティング層を得る方法が、電解質溶液にブドウ糖を溶解して噴霧する方法に限られるものでもないから、請求人の上記主張を採用することはできない。

(2-2)「長期に安定なさらさらした」について

訂正後の請求項7に係る発明について上記したのと同様の理由で、引用例2のものとの実質的な相違点とはならない。

(3)小括

上記のとおり、本件訂正発明2は、その出願前に頒布された刊行物である引用例2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明である。

6.むすび

以上のとおりであるから、訂正後の請求項7及び9に係る発明は、特許出願の際に独立して特許を受けることができない。
したがって、本件審判の請求は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、改正前の特許法第126条第3項の規定に適合しないので、訂正を認めることができない。

よって結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-06-23 
結審通知日 2006-06-27 
審決日 2006-07-12 
出願番号 特願平4-353965
審決分類 P 1 41・ 121- Z (A61K)
P 1 41・ 856- Z (A61K)
P 1 41・ 113- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石井 淑久松本 貢  
特許庁審判長 塚中 哲雄
特許庁審判官 内田 俊生
吉住 和之
横尾 俊一
森田 ひとみ
登録日 1998-04-17 
登録番号 特許第2769592号(P2769592)
発明の名称 重炭酸透析用人工腎臓灌流用剤の製造方法及び人工腎臓灌流用剤  
代理人 岩坪 哲  
代理人 藤井 淳  
代理人 三枝 英二  

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