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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F16J
管理番号 1149576
審判番号 不服2004-8786  
総通号数 86 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1996-08-20 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-04-28 
確定日 2007-01-04 
事件の表示 平成7年特許願第39447号「機械軸継手用ブーツ」拒絶査定不服審判事件〔平成8年8月20日出願公開、特開平8-210515〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1、手続の経緯・本願発明
本願は、平成7年2月6日の特許出願であって、本願請求項1?3に係る発明は、平成16年4月28日付手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?3に記載されたとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。
「エラストマー組成物より構成され、且つ相対運動する二つの部材に両端がそれぞれ固定されると共に該両端の間に複数の山部が形成された蛇腹構造を有し、前記二つの部材の相対運動により前記山部どうしが接触し得る機械軸継手用ブーツにおいて、前記エラストマー組成物中にシリコーンオイルが配合されており、前記シリコーンオイルが25℃で動粘度6000cSt以上のものであることを特徴とする機械軸継手用ブーツ。」

2、引用例
これに対し、当審が平成18年8月7日付で通知した拒絶理由に引用され、この出願前に頒布された特開平6-280891号公報(以下、「刊行物1」という。)には、例えば、以下に示す(イ)、(ロ)の記載が図面と共に認められる。
(イ)、「【請求項1】 ジョイント、それも大きな交叉角で回転運動するジョイントの、潤滑媒体を充填されたジョイント内室を覆うための弾性材料製のブーツにおいて、ジョイントの大きな交叉角の時に接触し合う折れ目の表面が摩擦を低減する被覆を有していることを特徴とする、ブーツ。」(第2頁第1欄第2行?第7行)
(ロ)「本発明による被覆を施すブーツはエラストマーおよび熱可塑性材料のような弾性材料からなるものである。」(第2頁第2欄第34行?第36行)
ここで、図面を参照しつつ、本願発明の用語を極力用い、その記載手順に倣ってこれを整理すれば、刊行物1には、「エラストマー組成物より構成され、且つ相対運動する二つの部材に両端がそれぞれ固定されると共に該両端の間に複数の山部が形成された蛇腹構造を有し、前記二つの部材の相対運動により前記山部どうしが接触し得る機械軸継手用ブーツにおいて、ジョイント角の大きな交叉角の時に接触し合う折れ目の表面が摩擦を低減する被覆を有している機械軸継手用ブーツ。」なる発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると言うべきである。
同じく引用された特開平4-277378号公報 (以下、「刊行物2」という。)には、以下(ハ)、(ニ)の記載が図面と共に認められる。
(ハ)「【請求項1】 摺動リップ部とシール凸部とを備えた摺動性シール部品において、少なくとも摺動リップ部が、ゴム成分に他の副資材ともに滑剤を配合したゴム配合物で形成されてなる、ことを特徴とする摺動性シール部品。
【請求項2】 請求項1において、ゴム成分が、エチレンプロピレンゴムであり、かつ、前記滑剤の全部または主体が、炭素数12?20の高級脂肪酸アミドであり、該高級脂肪酸アミドの配合量が 0.5?10 phrである、ことを特徴とする摺動性シール部品。
【請求項3】 請求項2において、前記高級脂肪酸アミドと組み合わせる滑剤としてシリコーン系、脂肪酸系・金属石けん系・炭化水素系・エステル系のなかから、1種または2種以上が選定されることを特徴とする摺動性シール部品。
【請求項4】 請求項2において、前記高級脂肪酸アミドがオレイン酸アミドであることを特徴とする摺動性シール部品。
【請求項5】 請求項3において、前記シリコーン系滑剤が、シリコーンオイルであることを特徴とする摺動性シール部品。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、摺動リップ部とシール凸部とを備えた摺動性シール部品に関する。ここで、摺動性シール部品とは、シール性能とともに摺動性能が要求されるシール部品、例えば、ダストブーツ、ピストンカップ、Oリング、プロテクタ等を含む。
【0002】以下の説明で配合単位は、特にことわらない限り、重量単位である。また、「PHR」は、ポリマ成分(ゴム成分)100部に対する副資材の配合量である。」(第2頁第1欄第2行?第33行)
(ニ)「【0020】(3)また、高級脂肪酸アミドは、他の滑剤と組み合わせてもよい。そして、他の滑剤としては、シリコーン系・脂肪酸系・金属石けん系・炭化水素系・エステル系等のなかから、1種または2種以上を選定することができる。他の滑剤の配合量は、0.5?9phrとすし、滑剤合計量で、10phrを超えないものとする。」(第2頁第3欄第27行?第32行)
そして、同じく引用された実願昭56-193947号(実開昭58-99557号)のマイクロフィルム(以下、「刊行物3」という。)には、編組パッキンに分散介在させるシリコンオイルについて、「シリコンオイルは粘度が100000センチストークス以上のものとされ」(第1頁第11行?第12行)と記載されている。

3、対比
ここで、本願発明と引用発明とを対比すると、一致点と相違点とは以下のとおりである。
一致点:「エラストマー組成物より構成され、且つ相対運動する二つの部材に両端がそれぞれ固定されると共に該両端の間に複数の山部が形成された蛇腹構造を有し、前記二つの部材の相対運動により前記山部どうしが接触し得る機械軸継手用ブーツ」である点。
相違点:本願発明は、「前記エラストマー組成物中にシリコーンオイルが配合されており、前記シリコーンオイルが25℃で動粘度6000cSt以上のものである」という構成を有しているのに対して、引用発明は「ジョイント角の大きな交叉角の時に接触し合う折れ目の表面が摩擦を低減する被覆を有している」との構成を有する点。

4、当審の判断
そこで、かかる相違点につき検討する。
刊行物2には、摺動抵抗の低減を図るために「ダストブーツにおいて、ゴム成分にシリコーンオイルを配合する」なる技術的事項が開示されていると見るべきである。
そうすると、刊行物1に記載されてもいるが、ダストブーツの山部同士の接触に際して摺動低減の要望がある以上、引用発明のダストブーツの摺動抵抗低減手段に換えて、刊行物2に記載される「シリコーンオイル」の配合という具体的手段の適用で臨む程度のことは、当業者が容易になし得る技術的事項であるとするのが相当である。
勿論、刊行物2にシリコーンオイルの粘度に関する記述を見いだすことはできないが、本願発明に示されるかかる粘度である25°Cで6000cSt以上なる数値限定について見ても、刊行物3に、編組パッキンに分散介在させるシリコンオイルについて、「シリコンオイルは粘度が100000センチストークス以上のものとされ」(第1頁第11行?第12行)と限定した例があると共に、例えば、特開平5-194969号公報、特開平6-228417号公報にも開示されているが、潤滑作用を得るためのシリコーンオイルにあって、25°Cで10?10万センチストークスの粘度或いは、700000cSt以上の粘度を有するものも良く知られているから、かかる数値限定が技術的に見て格別の数値限定であるとは認められようもない。
したがって、本願発明は、引用発明の摺動抵抗低減手段の具体的構成を刊行物2に記載される具体的手段により置換したものに相当し、その際のシリコーンオイル粘度の限定も当業者が適宜なし得る範疇を出るものではない。
よって、本願発明は引用発明の一部を刊行物2、3に記載される技術的事項で置換したに過ぎず、その置換に特段の困難性が伴ったとすることはできない。
また、本願発明の奏する作用効果についてみても、刊行物1?3に夫々記載されるものが夫々個有に奏する作用効果の総和を上回るものであると認めることができない。
なお、請求人は当審拒絶理由通知に対して、平成18年10月10日付意見書において、概要次の如く主張する。
「(1)以上を勘案しますと、刊行物2においては、長期の表面潤滑性が得られないという本願発明における問題点が認識されているとは認められません。したがいまして、刊行物2の発明は、単に摺動リップ部の摺動面に対する粘着現象を発生し難くするために「摺動状態を改善すること」を目的としてなされたものに過ぎません。
(2)つまり、刊行物2では、本願発明においてエラストマー組成物に配合した際に長期の表面潤滑性が得られないことから問題となっているパラフィンワックスが、シリコーンオイルと同列で記載されていると共に、シリコーンオイルをエラストマー組成物に配合することによる本願発明の特有の作用効果である「長期間にわたり優れた耐摩耗性を有する」ことについて明示あるいは暗示する記載が全く見当たらない以上、刊行物2が本発明の進歩性を否定する根拠には成り得り得ないものと思料いたします。
(3)つまり、「動粘度6000cSt以上」とすることの技術的意義が、本発明と刊行物3とで、全く異なっています。「ブーツに配合するシリコーンオイルを、25℃で動粘度6000cSt以上とする」ことで奏される本発明に係る技術的効果は、シリコーンオイルを使う目的が全く異なる刊行物3の記載から到底予測できるものではありません。よって、刊行物3は本発明の進歩性を否定する根拠には成り得ないものと思料いたします。」
しかし、(1)に関してみれば、既述のとおり刊行物2には「ダストブーツにおいて、ゴム成分にシリコーンオイルを配合する」という技術的事項が開示されている以上、「摺動状態を改善する」ことのみならず、程度の問題はさておき、請求人が主張する「長期の表面潤滑性」も得られるものと推認せざるを得ない。(2)に関してみると、刊行物2において、パラフィンワックスが仮令シリコーンオイルと同列に扱われていたからと言って、「ダストブーツにおいて、ゴム成分にシリコーンオイルを配合する」という技術思想が開示されている以上、本願発明の進歩性を論ずるにあたって刊行物2を引用することに何らの差し障りもない。(3)に関してみると、「ブーツに配合するシリコーンオイルを、25℃で動粘度6000cSt以上とする」数値限定に伴う技術的効果の主張と思われるが、「ダストブーツにおいて、ゴム成分にシリコーンオイルを配合する」ことが技術的に意義のあることであれば、シリコーンオイルと一口に言ってもその粘度や用途が刊行物3の記載のみに限定されるものでないことは、上記「4、当審の判断」でも述べたとおりであって、そうだとすれば、当然のこととして実験を行うであろうし、実験を行えば試行錯誤もあり得る訳であり、その中で本願発明のものが格別の臨界的範囲を見つけ出したものとも到底認められないから、かかる数値限定程度のことは当業者が通常範囲の実験、試行錯誤を行うことにより、容易に想到し得たものとするのが相当である。
以上、上記請求人のいずれの主張にも首肯することができない。

5、むすび
したがって、本願発明、即ち請求項1に係る発明は、刊行物1?3に記載されるものに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、請求項1に係る発明が特許を受けることができないものであるから、請求項2及び3に係る発明につき審究するまでもなく、本願は拒絶されるべきである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-10-27 
結審通知日 2006-11-01 
審決日 2006-11-15 
出願番号 特願平7-39447
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F16J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 熊倉 強  
特許庁審判長 亀丸 広司
特許庁審判官 大町 真義
町田 隆志
発明の名称 機械軸継手用ブーツ  
代理人 村瀬 一美  

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