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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 G07F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G07F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G07F
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 G07F
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 G07F
審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 G07F
管理番号 1149619
審判番号 不服2005-1774  
総通号数 86 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2000-01-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-02-03 
確定日 2007-01-04 
事件の表示 平成10年特許願第195859号「自動販売機」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 1月28日出願公開、特開2000- 30138〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件審判請求に係る出願は、平成10年7月10日の出願であって、平成16年12月24日付けで拒絶査定(発送日:平成17年1月4日)がなされたところ、平成17年2月3日に拒絶査定不服審判が請求され、特許法第17条の2第1項ただし書第4号の規定に基づき、同年3月7日に手続補正がなされたものである。

第2 平成17年3月7日付けの手続補正について
[結論]
平成17年3月7日付けの手続補正を却下する。

[補正の内容]
平成17年3月7日付手続補正(以下、「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1は、
「断熱筐体としてなるキャビネットの庫内に、各コラムごとにその上端側に商品投入用のトップトレー,下部搬出端側に商品搬出機構を備えて商品を上下一列に積み上げ収納する商品収納ラック、および庫内底部に配した商品の冷却/加熱装置を装備し、販売指令に基づく商品搬出機構の動作で商品収納ラックからコラムの最下位に並ぶ商品を1個ずつ落下搬出して商品取出口に送出するようにした自動販売機において、商品収納ラックの商品収納部を上下段に二分してその下段ラック部を冷却/加熱装置により冷却ないし加温し、かつその上段ラック部と下段ラック部との間に断熱構造のシャッタ装置を介装して上段ラック部の領域と下段ラック部の領域との間を遮熱するとともに、上段ラック部の各コラムごとにその下端部には、販売指令とは別なストック商品の補給指令に基づき動作して上段ラック部のコラムに収納したストック商品を前記シャッタ装置を経て下段ラック部のコラムへ送り込む商品送出機構を備え、各コラムごとにその商品の売れ行き状況を監視しておき、該状況のデータを基に下段ラック部の在庫数を随時決定して随時補給するようにしたことを特徴とする自動販売機。」
と補正された(以下、「本件補正発明」という。)。
本件補正は、願書に最初に添付した明細書の特許請求の範囲の請求項1における「商品の売れ行き状況に応じて上段ラック部から下段ラック部へ商品を随時補給する」を「商品の売れ行き状況を監視しておき、該状況のデータを基に下段ラック部の在庫数を随時決定して随時補給する」と補正する事項を含むものである。

[理由1]
まず、本件補正が、特許法第17条の2第3項の規定に適合するか否か、即ち、本件補正が、願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「当初明細書」という。)に記載した事項の範囲内でなされたものか否か、検討する。
上記補正事項の内の「状況のデータを基に下段ラック部の在庫数を随時決定」との記載によれば、在庫数は「随時決定」されるものである。
なお、「随時決定」について、該記載では、具体的に、在庫数がいつ決定されるのか、明確でない点はあるものの(この点については、[理由2]、[理由3]において述べる。)、[理由1]においては、「決定」に関して「随時」という時間的条件を規定しているものと認定して検討する。
ところで、審判請求人が補正の根拠とする当初明細書の【0029】(審判請求書の手続補正書2頁10?14行参照)には、「あるいは、制御部で商品収納ラック6の各コラムごとにその商品の売れ行き状況を監視(例えば指定した時間当たりの販売本数をカウントする)しておき、このデータを基に下段ラック部6Bに常時貯えておく適正な在庫数を決定し、そのときの下段ラック部6Bにおける商品の在庫実数と適正在庫数を対比して適当なタイミングで商品補給指令を出力する。」と記載されている。
即ち、在庫数の決定に関して、当初明細書又は図面には「(監視データに基づき)常時貯えておく適正な在庫数を決定し、」と記載されているだけであって、「随時決定」なる文言は記載されておらず、又、「在庫数を随時決定」することは、当初明細書又は図面の記載から自明の事項でもない。
以上のとおりであるから、「在庫数を随時決定」することを含む本件補正は、当初明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものではない。
したがって、本件補正は特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

[理由2]
仮に、「在庫数を随時決定」することが、当初明細書に記載されていた「随時補給する」なる記載から自明な事項であるとすれば、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に適合するものである。
そこで次に、本件補正が、特許法第17条の2第4項各号に規定する事項を目的とするものか否か、検討する。
上記補正事項の「売れ行き状況を監視しておき、該状況のデータを基に下段ラック部の在庫数を随時決定して」は、「売れ行き状況のデータを基に下段ラック部の在庫数を随時決定する」ことと解されるが、「随時決定」なる記載では、決定がいつ行われるか明確ではなく、又、「売れ行き状況データを基に」なる要件も、在庫数が決定される時を、明確にするものではない。
即ち、本件補正により追加された「在庫数を随時決定」するなる事項は、「随時」なる記載が、時間的条件として、いつのことを規定しているか明確でなく(付言すれば、コンピュータの制御部は「随時」なる時点を判断できない。)、「売れ行き状況を監視しておき、該状況のデータを基に」なる要件も「随時決定」する時を明確にするものではないため、本件補正により、請求項1の記載は、明確でないものとなることは明らかである。
してみると、本件補正により請求項1の記載は却って明確でないものとなるから、「随時決定」なる明確でない記載を含む本件補正は、特許請求の範囲の減縮に当たらない。又、当該補正事項が、請求項の削除にも、誤記の訂正にも、明りょうでない記載の釈明にも当たらないことは明らかであるから、本件補正は、特許法第17条の2第4項各号に規定される事項を目的とするものではない。
したがって、本件補正は特許法第17条の2第4項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

[理由3]
仮に、本件補正が、「商品の売れ行き状況に応じて」なる特定事項を「商品の売れ行き状況を監視しておき、該状況のデータを基に下段ラック部の在庫数を随時決定して」と限定したものとすれば、特許法第17条の2第4項の規定に適合するものである。
そこで、本件補正が、特許請求の範囲の減縮を目的とするものとして、本件補正発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か、即ち、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか否か、について検討する。
まず、本件補正による明細書(以下、「補正明細書」という。なお、補正明細書は全文補正されたものである。)の記載が、明細書の記載要件を満足するものか否か(特許法第36条第4項及び第6項に適合するか否か)、検討する。
上記補正事項の「商品の売れ行き状況を監視しておき、該状況のデータを基に下段ラック部の在庫数を随時決定して随時補給する」なる事項について、上記[理由2]に記載したとおり、「随時決定」なる記載では、在庫数の決定がいつ行われるか明確でなく、又、「売れ行き状況のデータを基に」なる要件も、「随時」なる時間的要件を明確にするものではない。
そこで、「随時決定」なる記載が、具体的にどのようなことを意味し、又、「随時決定」に関して、どのような処理が行われるかを認定するために、当該事項に関係する、補正明細書の【0026】(当初明細書の【0029】と同内容である。)の記載を中心に検討する。
補正明細書の【0026】には、「あるいは、制御部で商品収納ラック6の各コラムごとにその商品の売れ行き状況を監視(例えば指定した時間当たりの販売本数をカウントする)しておき、このデータを基に下段ラック部6Bに常時貯えておく適正な在庫数を決定し、そのときの下段ラック部6Bにおける商品の在庫実数と適正在庫数を対比して適当なタイミングで商品補給指令を出力する。」と記載されている。
該記載によれば、(自動販売機の)「制御部」は、例えば「指定した時間当たりの販売本数をカウント」し、カウントした販売本数を基に、「下段ラック部に常時貯えておく適正な在庫数」を「決定」するものである。
即ち、補正明細書【0026】には、制御部が、適正在庫数を決定すると記載されているが、制御部が適正在庫数を決定するための処理が、何をトリガーとしてスタートするのか(いつ決定するのか)については記載がない。 したがって、本件補正発明に係る「在庫数を随時決定」なる事項は明確でない。
さらに、補正明細書【0026】の記載を検討するに、「カウントした販売本数」を基に「適正な在庫数」を決定すると記載されているが、販売本数だけを用いて、どのようにして「適正な在庫数」を判断・決定するのか、記載はないから、補正明細書【0026】の記載によっては、本件補正発明が実施できるとは認められない。
そして、他に、上記の点を明確にする記載はなく、又、制御部が、適正在庫数を決定するための処理フロー図等が記載されているわけでもない。
結局、補正明細書の記載を参酌しても、「随時」の意味するところは明確でなく、又、補正明細書には、本件補正発明の実施をする(「在庫数を随時決定」する)ことができる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められない。
なお、審判請求人は、審判請求書において「(本件補正発明は)販売状況を監視しながら下部ラックの在庫数を随時変更する」と主張する(2頁下から2行)が、補正明細書には、在庫数を随時変更できるようにするための構成は何ら記載されていない。
以上のとおり、本件補正発明は、特許法第36条第4項及び第6項第2号の規定に違反するものであるから、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

[理由4]
上記[理由3]に記載したとおり、本件補正発明は明確ではなく、又、補正明細書には、本件補正発明が実施できる程度に記載されていないが、仮に、補正明細書【0026】を、当該技術分野の周知技術等に照らして、次のように解釈し得るすれば、本件補正発明は明確なものであり、又、実施可能である、と解する余地がある。
即ち、補正明細書【0026】の「指定した時間当たりの販売本数をカウントする」なる事項に関連して、補正明細書【0012】には「その商品の一日、あるいは時間当たりの販売数量をカウントし、」との記載もあり、又、例えば、特開平8-315227号公報の「各種容器毎の販売状況に応じて、品質劣化前の販売可能性を個々に判断できるようにした自動販売機」(【0007】)、「平均販売数演算部32は、データベース28が記憶した容器の販売数及び販売日のデータに基づいて、所定単位時間である1日あたりの平均販売数を各コラム3毎に算出する。」(【0033】)との記載を参酌すると、上記事項は「単位時間ごとの販売本数をカウントする」ことと解することが可能であり、又、商品補給時期の「随時」についても、販売本数をカウントした単位時間の終了時(次の単位時間のカウント開始時)と解する余地がある。
さらに、[理由3]に記載したとおり、制御部が、適正在庫数を決定することはできないが、補正明細書【0012】の「下段ラック部の各コラムごとに収納する商品の適正在庫数は、…(略)…制御部にあらかじめ入力する」(下線は審決において付す。)との記載からみて、「適正在庫数」そのものは、係員が、諸々の条件を勘案して決定し、自動販売機の制御部に入力していることは明らかである。
以上の点から勘案すれば、適正在庫数は、予め係員によって決定され制御部に入力された数値であり、時間経過に伴い商品が売れても、単位時間当たりの販売数をカウント・記憶しておき、単位時間の終了時(次の単位時間の開始時)に当該単位時間における販売本数を補給することにより、適正在庫数を確保している、と解するのが、技術的にみても妥当である。
即ち、制御部は、「下段ラック部の在庫数を随時決定」などしておらず、予め、係員によって決定入力された「適正な在庫数」は、設定後の商品の補給に関して直接的に関与する数値ではないことは明らかである。
これを具体的に説明すると、例えば、単位時間を2時間とし、係員が、午前9時に適正在庫数を20本と設定したとして、午前11時までに3本販売された場合、制御部は、その3本をカウント・記憶しており、11時になったときに、3本を補給する処理を実行し、又、午後1時までに2本販売されれば、2本をカウント・記憶しておき、午後1時に2本を補給し、以降、2時間毎に、これらの処理を繰り返すもの、と解するのが妥当であり、この限度において、本件補正発明は明確であり、又、実施可能と言える。
なお付言すれば、上記の例示において、制御部は、カウント(販売本数)が3本にも拘わらず、5本補給する、というような処理を実行し得ないことは、制御部が、販売本数以外、何のデータも受信していないことからみても明らかである。
したがって、本件補正発明について、上記補正事項「商品の売れ行き状況を監視しておき、該状況のデータを基に下段ラック部の在庫数を随時決定して随時補給する」は、「制御部は、単位時間当たりの販売本数をカウントし、単位時間の終了時に販売本数を下段ラック部に補給する」と認定し、以下、本件補正発明が、進歩性を有するものであるか否か(特許法第29条第2項の規定に該当するか否か)、検討する。

1.本件補正発明
本件補正発明は、上記[補正の内容]に記載したとおりのものであり、特に、本件補正に係る事項については、上記のとおり認定する。

2.引用例に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用された特開平10-91855号公報(以下、「引用例」という。)には、次の事項が図面と共に記載されている。
A.「【発明の属する技術分野】本発明は、缶飲料などの商品を冷却若しくは加温して販売する自動販売機に関するものである。」(【0001】)
B.「本発明は、係る従来の技術的課題を解決するために成されたものであり、商品収納庫内の一部のみを冷却若しくは加温し、効果的な省エネと良好且つ円滑な商品販売を実現することができる自動販売機を提供することを目的とする。」(【0006】)
C.「実施例の自動販売機1は缶飲料を冷却或いは加温販売するものであり、前面に開口した断熱箱体から成る本体2と、この本体2に一側を回動自在に枢支された開閉自在の前面扉3とから構成されている。」(【0015】5?8行)
D.「そして、係る商品収納庫17内には前後に二列の商品ラック22・が吊下される。尚、この場合冷却専用庫17内には商品ラック22を左右に二列、冷却加温庫17B、17C内には商品ラック22を一列ずつ収納している。各商品ラック22内には、外面を構成する側板23と、内部を前後に仕切る仕切板24とにより、上下方向に延在する商品通路26、26が前後にそれぞれ二列ずつ構成されている。また、各商品通路26・・・の上端には商品投入口27・・・がそれぞれ開口形成されており、下端には商品排出口28がそれぞれ開口形成され、各商品排出口28には商品搬出装置29が側板23或いは仕切板24にそれぞれ取り付けられている。」(【0017】)
E.「尚、上記各商品搬出装置29はエジェクタメカニズムと称され、常には商品通路26側に突出して、当該商品通路26内の最下端の商品Gを保持しており、商品販売時に図示しないソレノイドにより側板23或いは仕切板24側に沿うかたちで傾斜駆動され、一個ずつ商品Gを下方に落下させるものである。各商品ラック22の上下方向の中間部には、各庫17A、17B、17C内において、それぞれ同じ高さとなる位置にシャッタ装置31がそれぞれ取り付けられている。このシャッタ装置31は、図4に示す如く一対の断熱性シャッタ32、33と、このシャッタ33の上側の側板23(或いは仕切板24)に取り付けられた商品送込装置34から構成されている。」(【0018】)
F.「この商品送込装置34も前述同様のエジェクタメカニズムであり、常には商品通路26側に突出して、当該商品通路26内の商品Gを保持しており、図示しないソレノイドにより側板23或いは仕切板24側に沿うかたちで傾斜駆動されて、一個ずつ商品Gを下方に落下させるものである。一方、前記シャッタ32、33は所定厚みの断熱材が取り付けられた硬質樹脂などから構成されており、対向する仕切板24及び側板23の面(或いは側板23及び仕切板24の面)に各一端を回動自在に枢支されている。そして、水平状態においてそれらの先端部がラップして閉じ(図4に実線で示す)、商品通路26内を上下に区画して上方に第一の領域26A、下方に第二の領域26Bをそれぞれ構成すると共に、仕切板24或いは側板23に沿う垂直状態に回動されて開放し(図4に破線で示す)、商品通路26内の各領域26A、26Bを連通させるものである。」(【0019】)
G.「そして、各シュート41の下側には冷却器43と送風機44がそれぞれ配設されると共に、各冷却加温室17B、17Cにおいては冷却器43の送風機44側に電気ヒータ46がそれぞれ取り付けられている。他方、本体2の下側には機械室51が構成されており、この機械室51内には前記各冷却器43・・と周知の冷凍サイクルを構成する圧縮機52、凝縮器53及び凝縮器用送風機54が設置されている。」(【0022】)
H.「係る待機状態から選択ボタン14が押されると、前記制御装置は当該選択ボタン14に対応する商品Gが収納されている商品ラック22の商品搬出装置29のソレノイドを駆動し、前述の如く最下部の商品G一個をシュート41上に排出する。商品Gは前述の如く転動して払出口42から販売口16に排出される。更に前記制御装置は、この商品搬出装置29の動作と同時に、或いは、少許遅れて商品送込装置34のソレノイドを駆動し、シャッタ32、33上の第一の領域26A最下部の商品G一個をシャッタ32、33上に落下させる。」(【0026】)

3.引用例に記載された発明
上記各記載及び図面の記載からみて、引用例には、次のような発明が記載されている(以下、「引用例記載の発明」という。)。
断熱箱体からなる商品収納庫内に、商品ラックが吊下され、商品ラックの上下方向の中間部には、ラック内を、上方の第一の領域、下方の第二の領域とに区画する、断熱性シャッタ装置が取り付けられ、
下方の第二の領域は、シュートの下側に設けられた、冷却器或いは電気ヒーターでにより冷却ないし加温され、
商品通路の上端には商品投入口が開口形成され、下端には商品排出口が開口形成され、商品排出口には商品搬出装置が取り付けられ、該商品搬出装置は、商品通路側に突出して、当該商品通路内の最下端の商品Gを保持し、商品販売時に、ソレノイドにより傾斜駆動されて、一個ずつ商品Gを下方に落下させる自動販売機において、
上記断熱シャッタの上側には、商品送込装置が取り付けられ、
該商品送込装置は、商品通路側に突出して、当該商品通路内の商品Gを保持し、ソレノイドにより傾斜駆動されて、一個ずつ商品Gを下方に落下させるものであり、選択ボタンが押されると、制御装置は、該当商品Gが収納されている商品ラックの商品搬出装置のソレノイドを駆動し、最下部の商品G一個をシュート上に排出し、商品搬出装置の動作に、少許遅れて商品送込装置のソレノイドを駆動し、断熱シャッタ上の第一の領域の最下部の商品G一個を、第二の領域に落下させる、自動販売機。

4.対比・判断
本件補正発明と引用例に記載された発明とを対比する。
引用例記載の発明の「断熱箱体」は、本件補正発明の「断熱筐体」に相当し、同様に、「商品搬出装置」は「商品搬出機構」に、「商品ラック」は「商品収納ラック」に、「冷却器或いは電気ヒーター」は「冷却/加熱装置」に、「商品排出口」は「商品取出口」に、「第二の領域」は「下段ラック部」に、「第一の領域」は「上段ラック部」、「商品送込装置」は「商品送出機構」に、それぞれ相当することは明らかであり、又、引用例記載の発明の自動販売機が、各コラムごとにその上端側に商品投入用のトップトレーを装備していることは、図3から明らかである。
本件補正発明の「販売指令とは別なストック商品の補給指令に基づき動作して…(略)…送り込む商品送出機構」に関連して、引用例記載の発明をみると、引用例には「係る待機状態から選択ボタン14が押されると、前記制御装置は当該選択ボタン14に対応する商品Gが収納されている商品ラック22の商品搬出装置29のソレノイドを駆動し、…(略)…。更に前記制御装置は、この商品搬出装置29の動作と同時に、或いは、少許遅れて商品送込装置34のソレノイドを駆動し、…(略)…。」(摘記事項H)と記載されており、制御装置は、まず、商品搬出装置のソレノイドを駆動し、少許遅れて商品送込装置のソレノイドを駆動しているものである。
即ち、引用例記載の発明の制御装置は、商品搬出装置のソレノイドの駆動(販売指令であることは明らかである。)と商品送込装置のソレノイドの駆動(第一の領域の収納商品の送り出し、即ち、補給指令であることは明らかである。)とを、それぞれ行っているから、引用例記載の発明の「商品送込装置」も「販売指令とは別なストック商品の補給指令に基づき動作して」おり、この点は、本件補正発明と引用例記載の発明との一致点であることは明らかである。
以上の点からみて、本件補正発明と引用例記載の発明とは、次の一致点、相違点を有するものと認められる。
[一致点]
断熱筐体としてなるキャビネットの庫内に、各コラムごとにその上端側に商品投入用のトップトレー,下部搬出端側に商品搬出機構を備えて商品を上下一列に積み上げ収納する商品収納ラック、および庫内底部に配した商品の冷却/加熱装置を装備し、販売指令に基づく商品搬出機構の動作で商品収納ラックからコラムの最下位に並ぶ商品を1個ずつ落下搬出して商品取出口に送出するようにした自動販売機において、商品収納ラックの商品収納部を上下段に二分してその下段ラック部を冷却/加熱装置により冷却ないし加温し、かつその上段ラック部と下段ラック部との間に断熱構造のシャッタ装置を介装して上段ラック部の領域と下段ラック部の領域との間を遮熱するとともに、上段ラック部の各コラムごとにその下端部には、販売指令とは別なストック商品の補給指令に基づき動作して上段ラック部のコラムに収納したストック商品を前記シャッタ装置を経て下段ラック部のコラムへ送り込む商品送出機構を備えるようにしたことを特徴とする自動販売機。
[相違点]
本件補正発明が、各コラムごとにその商品の売れ行き状況を監視しておき、該状況のデータを基に下段ラック部の在庫数を随時決定して随時補給するものであるのに対して、引用例記載の発明は、各コラムごとに、商品を一個販売する度に、上段ラック部から下段ラック部に商品を一個補給するものである点。

上記相違点について検討する。
[理由4]の前段において認定したとおり、本件補正発明の相違点に係る構成は、「単位時間当たりの販売本数をカウントし、単位時間の終了時に販売された本数を下段ラック部に補給する」のことであるから、上記相違点は、次のように言い換えることができる。
上段ラック部から下段ラック部への商品補給について、本件補正発明では、単位時間当たりの販売本数をカウントし、単位時間の終了時に販売本数を補給するのに対して、引用例記載の発明では、商品が一個販売される度に一個補給する点。
当該相違点は、結局、上下2段に構成された自動販売機における、上段ラック部から下段ラック部への商品補給に関して、商品管理を、単時間当たりで行うか、販売毎に行うかの違いであるところ、自動販売機において、商品の売れ行き状況を単位時間当たりで管理することは、例えば、特開平8-315227号公報([理由4]の前段参照)等に記載されるように、周知の技術手段であるから、販売毎の管理を、単時間当たりの管理にすることは、当業者が容易に想到し得ることと認められる。
なお、補正明細書【0007】の記載を参酌すると、請求人は、引用例記載の発明は、商品の販売の都度補給するため、下部領域には商品が常に満杯状態で収納されている、と記載しているが、例えば、特開平6-111114号公報(【0039】、【0041】等参照)に示されるように、自動販売機において、冷却庫(下段ラック部)の収納本数を予め所定数(適正在庫数)に設定しておくことは周知の技術手段であるから、引用例記載の発明においても下部収納部の在庫数を所定数に設定することは普通に行われることであり、「満杯状態になる」との請求人の認定は的を射ておらず、又、補給本数は販売本数であるから、適正在庫数それ自体は、相違点等の認定に際し、直接関与する数値ではない([理由4]の前段参照)。

[作用効果]について
本件補正発明の奏する作用効果も、引用例記載の発明及び周知の技術手段の奏する作用効果から、当業者が予測できる範囲のものである。

以上のとおり、本件補正発明は、引用例記載の発明及び周知の技術手段に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5.むすび
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
上記のとおり、平成17年3月7日付手続補正は却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、当初明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(以下、「本願発明」という。)。
「断熱筐体としてなるキャビネットの庫内に、各コラムごとにその上端側に商品投入用のトップトレー,下部搬出端側に商品搬出機構を備えて商品を上下一列に積み上げ収納する商品収納ラック、および庫内底部に配した商品の冷却/加熱装置を装備し、販売指令に基づく商品搬出機構の動作で商品収納ラックからコラムの最下位に並ぶ商品を1個ずつ落下搬出して商品取出口に送出するようにした自動販売機において、商品収納ラックの商品収納部を上下段に二分してその下段ラック部を冷却/加熱装置により冷却ないし加温し、かつその上段ラック部と下段ラック部との間に断熱構造のシャッタ装置を介装して上段ラック部の領域と下段ラック部の領域との間を遮熱するとともに、上段ラック部の各コラムごとにその下端部には、販売指令とは別なストック商品の補給指令に基づき動作して上段ラック部のコラムに収納したストック商品を前記シャッタ装置を経て下段ラック部のコラムへ送り込む商品送出機構を備え、各コラムごとにその商品の売れ行き状況に応じて上段ラック部から下段ラック部へ商品を随時補給するようにしたことを特徴とする自動販売機。」

2.引用例に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用例及びその記載事項は、上記「[理由4]2.」に記載したとおりである。

3.引用例に記載された発明
引用例に記載された発明は、上記「[理由4]3.」に記載したとおりである。

4.対比・判断
本願発明と引用例記載の発明とを対比すると、両者は、「本願発明が、各コラムごとにその商品の売れ行き状況に応じて上段ラック部から下段ラック部へ商品を随時補給するのに対して、引用例記載の発明は、各コラムごとに商品を一個販売する度に、上段ラック部から下段ラック部に商品を一個補給する点。」で相違し、その余の点は一致する([理由4]4.参照)。
そこで、検討する。
引用例記載の発明は、商品販売の度に商品を補給するものであるから、売れ行き状況を、商品販売時という瞬間で把握しているものである。
他方、本願発明は、売れ行き状況に応じて随時補給するものであるところ、ここに言う「売れ行き状況に応じて」とは、売れ行き状況を、ある幅をもった時間帯で把握することであると解される(当初明細書【0012】、【0029】参照)。
しかしながら、自動販売機において、商品の売れ行き状況を(売れた瞬間で把握するのではなく)ある幅をもった時間帯で把握することは、例えば、特開平8-315227号公報([理由4]の前段参照)等に記載されるように、周知の技術手段であるから、売れ行き状況を時間帯で把握するようにすることは、当業者が容易に想到し得ることと認められる。
したがって、本願発明は、引用例記載の発明及び周知の技術手段に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-11-01 
結審通知日 2006-11-07 
審決日 2006-11-20 
出願番号 特願平10-195859
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G07F)
P 1 8・ 57- Z (G07F)
P 1 8・ 575- Z (G07F)
P 1 8・ 537- Z (G07F)
P 1 8・ 561- Z (G07F)
P 1 8・ 536- Z (G07F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岩田 洋一  
特許庁審判長 岡 千代子
特許庁審判官 新海 岳
佐野 遵
発明の名称 自動販売機  
代理人 山本 浩  

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