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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G02B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G02B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  G02B
管理番号 1149834
異議申立番号 異議2003-71296  
総通号数 86 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1997-04-04 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-05-19 
確定日 2006-12-04 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 異議2003-71296号についてした平成17年6月10日付の異議決定に対し、知的財産高等裁判所において、同異議決定のうち「特許第3345234号の請求項1ないし4,6ないし8に係る特許を取り消す。」との部分を取り消す旨の判決(平成17年(行ケ)第10575号、平成18年9月26日判決言渡)があったので、更に審理の結果、特許第3345234号「走査光学系」の請求項1ないし11に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3345234号の請求項1ないし4,6ないし8に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
(1)特許第3345234号に係る発明についての出願は、平成7年9月25日に特許出願され、平成14年8月30日にその発明について特許権の設定登録がなされた(設定登録時の請求項の数11。)。
(2)その後、その特許について、キヤノン株式会社により特許異議の申立てがなされ、取消理由が通知され、その指定期間内である平成17年4月15日に訂正請求がなされ(以下、「本件訂正」という。)、平成17年6月10日に本件訂正を認めるとともに、特許第3345234号の請求項1ないし4,6ないし8に係る特許を取り消す、同請求項5,9に係る特許を維持する旨の異議決定がなされた。
(3)これに対し、特許権者により、同決定中、「特許第3345234号の請求項1ないし4,6ないし8に係る特許を取り消す。」との部分を取り消す旨を請求する訴えが、知的財産高等裁判所になされ、平成18年9月26日に知的財産高等裁判所において、上記請求と同旨の判決がなされたものである。

2.訂正の適否についての判断
本件訂正を認めることについては、平成17年6月10日の異議決定のとおりである。 以下に同異議決定の一部を掲載する。

「ア.訂正の内容
a.特許請求の範囲の請求項9の
『【請求項9】 光源から発する光束を第1の結像光学系により偏向器の近傍で副走査方向に一旦結像させ、前記偏向器により偏向された光束を第2の結像光学系により走査対象面上に結像させる走査光学系において、
前記光源と前記第1の結像光学系との間の光路中に、回折により前記走査対象面側でのビームウエスト位置が変化する程度に小さく絞るアパーチャーが設けられ、
前記第1、第2の結像光学系は、前記走査対象面上に形成される光束のビームウエスト位置をガウス像面に近づけ、かつ、前記ビームウエスト位置前後のビーム径の変化を対称に近づけるよう構成されていることを特徴とする走査光学系。』

『【請求項9】 光源から発する光束を第1の結像光学系により偏向器の近傍で副走査方向に一旦結像させ、前記偏向器により偏向された光束を第2の結像光学系により走査対象面上に結像させる走査光学系において、
前記光源と前記第1の結像光学系との間の光路中に、回折により前記走査対象面側でのビームウエスト位置が変化する程度に小さく絞るアパーチャーが設けられ、
前記第1、第2の結像光学系は、副走査方向において、前記走査対象面上に結像される光束の波面を、前記走査対象面上の近軸像点を中心とした参照球面に対して周辺部で遅らせると共に、前記走査対象面上に形成される光束のビームウエスト位置をガウス像面に近づけ、かつ、前記ビームウエスト位置前後のビーム径の変化を対称に近づけるよう構成されていることを特徴とする走査光学系。』
と訂正する。
b.特許請求の範囲の請求項10、11を削除する。

イ.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正事項aは、特許請求の範囲の請求項9における第1、第2の結像光学系について、請求項10の記載に基づいた限定を付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項を追加するものではなく、また、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
上記訂正事項bは、特許請求の範囲の請求項10、11を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項を追加するものではなく、また、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

ウ.むすび
以上のとおり、上記訂正は、特許法第120条の4第2項の規定及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項から第3項までの規定に適合するので、当該訂正を認める。」

3.本件発明
本件特許第3345234号の請求項1?9に係る発明は、平成17年4月15日付で提出された訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1?9に各々記載されたとおりの次のものである。

「【請求項1】 光源から発する光束を第1の結像光学系により偏向器の近傍で副走査方向に一旦結像させ、前記偏向器により偏向された光束を第2の結像光学系により走査対象面上に結像させる走査光学系において、
前記光源と前記第1の結像光学系との間の光路中に、回折により前記走査対象面側でのビームウエスト位置が変化する程度に小さく絞るアパーチャーが設けられ、
前記第1、第2の結像光学系は、前記走査対象面上に結像される光束の波面を、前記走査対象面上の近軸像点を中心とした参照球面に対して副走査方向の周辺部で遅らせるよう構成されていることを特徴とする走査光学系。
【請求項2】 前記第1の結像光学系は、前記偏向器の近傍に結像される光束の波面を、前記偏向器近傍の近軸像点を中心とした参照球面に対して副走査方向の周辺部で遅らせるよう構成されていることを特徴とする請求項1に記載の走査光学系。
【請求項3】 前記第1の結像光学系は、副走査方向にパワーを有するシリンドリカルレンズであり、円筒面により規定されるベース形状に対し、副走査方向の周辺部でレンズ厚が付加されていることを特徴とする請求項2に記載の走査光学系。
【請求項4】 前記ベース形状に対する付加量が、副走査方向の高さに応じて連続的に増加することを特徴とする請求項3に記載の走査光学系。
【請求項5】 前記ベース形状に対する付加量が、副走査方向の高さに応じて段階的に増加することを特徴とする請求項3に記載の走査光学系。
【請求項6】 前記シリンドリカルレンズのベース形状は、一方のレンズ面が平面、他方のレンズ面が円筒面であり、いずれか一方のレンズ面に、前記ベース形状に対してレンズ厚が付加されていることを特徴とする請求項3に記載の走査光学系。
【請求項7】 前記第1、第2の結像光学系は、副走査方向において光束にオーバーの球面収差を発生させるよう構成されていることを特徴とする請求項1に記載の走査光学系。
【請求項8】 前記第1の結像光学系は、副走査方向にパワーを有するシリンドリカルレンズであり、該シリンドリカルレンズの副走査方向の曲率半径が、副走査方向における中心部より周辺部で大きくなるよう構成されていることを特徴とする請求項1に記載の走査光学系。
【請求項9】 光源から発する光束を第1の結像光学系により偏向器の近傍で副走査方向に一旦結像させ、前記偏向器により偏向された光束を第2の結像光学系により走査対象面上に結像させる走査光学系において、
前記光源と前記第1の結像光学系との間の光路中に、回折により前記走査対象面側でのビームウエスト位置が変化する程度に小さく絞るアパーチャーが設けられ、
前記第1、第2の結像光学系は、副走査方向において、前記走査対象面上に結像される光束の波面を、前記走査対象面上の近軸像点を中心とした参照球面に対して周辺部で遅らせると共に、前記走査対象面上に形成される光束のビームウエスト位置をガウス像面に近づけ、かつ、前記ビームウエスト位置前後のビーム径の変化を対称に近づけるよう構成されていることを特徴とする走査光学系。」(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明9」という)

4.特許異議申立てについて
(1)申立ての理由の概要
特許異議申立人キヤノン株式会社は、甲第1?6号証および添付資料1?5を提出して、
ア.本件訂正前の請求項1?11に係る発明は、甲第1号証刊行物に記載された発明と同一であるか、または甲第1?3,6号証刊行物に各々記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、それらの発明は、特許法第29条第1項第3号の規定に該当するか、または、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるので、取り消されるべきである旨、
イ.本件訂正前の請求項1?11に係る発明は、甲第3?5号証刊行物に各々記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、それらの発明は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるので、取り消されるべきである旨、
ウ.本件訂正前の請求項1,9において不明確な記載があるから、それらの特許は、特許法第36条第6項第2号の規定に違反してされたものであるので、取り消されるべきものである旨、
主張している。

(2)刊行物に記載の事項
特許異議申立人が提出した各刊行物および添付資料、ならびに取消理由通知で引用した刊行物には、それぞれ次の事項が記載されている。
刊行物1:特開平5-164985号公報(申立人提出の甲第1号証)
「【請求項1】 光源からの光ビームを第1結像光学系によって副走査方向にのみ集光させて線像を形成し、その線像上または近傍に偏向面を有する偏向器によって前記光ビームを偏向し、偏向された光ビームを第2結像光学系を介して被走査面上に照射することにより、前記副走査方向に対しほぼ直交する主走査方向に前記被走査面を走査する走査光学系において、
前記第2結像光学系は、前記偏向器側から前記被走査面側へ、前側レンズ群及び後側レンズ群をこの順序で配列してなり、
前記前側レンズ群が、前記偏向器側に凹面を向けて配置されたメニスカスレンズと、アッベ数が相互に異なる硝材によって形成された1組のレンズが接合され、前記偏向器側に凹面を向けて配置されたメニスカス形状の接合レンズとで構成されるとともに、
前記後側レンズ群が、前記前側レンズ群の射出瞳とその前側焦点がほぼ一致して配置された凸レンズと、前記凸レンズと前記被走査面との間に配置されたシリンドリカルレンズとで構成されたことを特徴とするテレセントリック走査光学系。」(特許請求の範囲請求項1)、
「【0035】A-1.第1実施例
図1はこの発明にかかるテレセントリック走査光学系の第1実施例を示す平面図である。また、図2及び図3は図1の部分拡大図である。この走査光学系では、中心波長が780nmのレーザービームを放射する半導体レーザー1を備えており、この半導体レーザー1からのレーザービームが第1結像光学系2を介して回転軸3bまわりに回転するポリゴンミラー3の反射ミラー面3aに入射される。また、ポリゴンミラー3と被走査面5との間に第2結像光学系4が設けられ、ポリゴンミラー3によって偏向されたされたレーザービームが被走査面5に導かれるように構成されている。
【0036】図2及び図3に示すように、第1結像光学系2では、半導体レーザー1側からポリゴンミラー3側へy方向に母線を持つシリンドリカルレンズG11と接合レンズG12とがこの順で配置されている。これらのレンズG11,G12のうち、シリンドリカルレンズG11は方向x(xz平面内)にのみ屈折力を有している。一方、接合レンズG12は、2枚のレンズ121,122を相互に貼り合わせたものである。このように構成された第1結像光学系2を通過したレーザービームは、yz平面でわずかに収束するほぼ平行な光束となり、xz平面でポリゴンミラー3の反射ミラー面3aにおいて集光するように整形される。なお、これらの図への図示は省略されているが、接合レンズG12の直前にx方向の幅0.332mm、y方向の幅24.178mmのアパーチャーが配置されており、レーザービームは半導体レーザー1からの取り込みNAに換算して、
y方向のNA=0.1
x方向のNA=0.08
に規定される。」(段落【0035】?【0036】)、
「【0051】A-2.第2実施例
図10はこの発明にかかる走査光学系の第2実施例を示す斜視図であり、図11は、その平面図である。この走査光学系では、半導体レーザー1からのレーザービーム(中心波長は780nmである)が第1及び第2レンズG11,G12からなる第1結像光学系2を介して偏向器たるポリゴンミラー3に入射される。なお、図10及び図11への図示は省略されているが、この第2実施例では半導体レーザー1からz方向に5mmの位置に、x方向の幅が0.437mmで、またy方向の幅が1.311mmのアパチャーが配置されている。その結果、第1結像光学系2の第1レンズG11に取り込まれるレーザービームは、以下のように規定される。
【0052】y方向のNA=0.13
x方向のNA=0.043
この第1レンズG11はy方向に母線を持つシリンドリカルレンズであり、ポリゴンミラー3側を向いた面は
【0053】
【数8】


【0054】ただし、係数K,Aはそれぞれ
K=-0.868
A=0
であり、
【0055】
【数9】
Cx = 1/rx
【0056】である、で表される形状に仕上げられた非円筒面である。
【0057】一方、第2レンズG12はx方向に母線をもった平凸シリンドリカルレンズである。半導体レーザー1側の面は平面であり、逆の面(ポリゴンミラー3側を向いた面)は数9で表される形状に仕上げられた非円筒面である。
【0058】
【数10】


【0059】ただし、係数K,Aはそれぞれ
K=-0.541
A=0.44*E-7
であり、また
【0060】
【数11】
Cy = 1/ry
【0061】である。
【0062】これら2つのレンズG11,G12によって第1結像光学系2が構成され、半導体レーザー1からのレーザービームは、yz平面内においてわずかに発散するほぼ平行な光束となり、またxz平面内においてはポリゴンミラー3の反射ミラー面3aに集光するように整形される。
【0063】 ポリゴンミラー3の形状と配置、第2結像光学系4の配置される方向は、第1実施例と同じである。さらに、第2結像光学系4の構成も、前側レンズ群FLと後側レンズ群RLの間に長尺の2枚のミラーM1 ,M2が傾角10゜で配置されている点を除いて、第1実施例に類似している。この第2実施例のように、ミラーM1 ,M2 を追加することによって、図10に示すように、走査光学系全体をより小さな空間に納めることができる。」(段落【0051】?【0063】)。
また、図10に第2実施例による光学系が示されている。

刊行物2:特開平2-157809号公報(申立人提出の甲第2号証)
走査光学系において、レーザ光源とコリメート光学系によって形成された平行ビームを副走査方向に屈折力をもつシリンドリカルレンズにより回転多面鏡の偏向反射面上に結像させる光学系が記載されている。特に、このシリンドリカルレンズの形状に関し、「線像結像用シリンドリカルレンズ1は、第2図(a)に示すように1枚構成であり、光出射側の面が平面である。これは製造が容易な為である。このレンズ1の非球面成分を導入したレンズ面Asphの副走査方向断面形状は、上述した如く、中心から周辺に向かうに従って曲率半径の絶対値が大きくなるようなものであるが、これは、非球面成分を導入しない場合に発生する副走査方向のアンダーの球面収差を補正する為にこの面でオーバーの球面収差を発生させる為である。こうして良好な球面収差の補正が可能となる。」(第3頁左下欄5?16行)と記載されている。

刊行物3:特開平3-64722号公報(申立人提出の甲第3号証)
半導体レーザーダイオードからの光束がコリメーターレンズにより平行光束にされ、副走査方向に屈折力をもつレンズにより回転多面鏡の偏向反射面上に集光するようにした光走査装置の光学系について記載されている。特に、このようなレンズとして、第4図(a)に示されるようなスラブレンズのほかに、第4図(b)、(c)に示されるような、副走査方向に屈折力を持つ凹凸レンズを貼り合わせた、あるいは非円筒形のシリンドリカルレンズが用いられ、これらのレンズは正の球面収差を示すことが記載されている(第3頁右下欄10?20行)。

刊行物4:特開平4-212121号公報(申立人提出の甲第4号証)
光走査装置において、ビーム整形用に用いるアパーチュア部材のアパーチュアによる回折が影響すると、光スポットのデフォーカスにより光スポットの形状が複雑に変化して光走査に悪影響を及ぼすことについて記載されている(段落【0004】、図5)。

刊行物5:特開昭64-72117号公報(申立人提出の甲第5号証)
光走査装置において、光ビーム発生手段と偏向手段との間に配置したスリットによりレーザビームのビーム径を制限した場合、回折により複数の光量極大点を持つようにビームが乱れてしまい、感光ドラム上のスポット径が不整なものとなり、解像度の劣化、ドットの飛び散り等が発生するが、スリットでなく、ガウス型の透過率分布を持つような開口遮へい板を用いることにより、感光ドラム面上での乱れが生じないようにスポット径を制御することができることが記載されている(第6頁右下欄12?18行、第7頁左下欄2?6行)。

刊行物6:日置隆一編「光用語事典」(昭和56年11月30日、株式会社オーム社発行:申立人提出の甲第6号証)
第235頁の「フレネルレンズ」についての説明として、レンズの厚みを減らすため、数個または多数の輪帯状レンズに分割したレンズであることが記載され、図フ-23に同レンズの断面形状が示されている。

そして、添付資料1には、刊行物1に第2実施例として記載された諸数値をもとに、絞り径を0.437mm、0.5mmおよび0.8mmとした場合について計算した像面デフォーカスと副走査スポット径アパチャーとの関係が示され、添付資料2には、刊行物1の第2実施例における第1レンズG11の面形状を示す数値をもとに計算したレンズ面の形状と球面収差とが示されており、添付資料3には、刊行物1の第2実施例における第1レンズG11の集光作用による光束波面の状態が示され、添付資料4には、刊行物1の第2実施例における第1レンズG11を含む結像光学系によるデフォーカスと副走査ビーム径との関係が図示され、添付資料5には、添付資料4のために計算した数値が示されている。

刊行物7:特開平7-120691号公報(取消理由において引用)
「【請求項1】LD光源とカップリングレンズ系とを有する光源装置からのレーザー光束をシリンダレンズ系により副走査対応方向へ収束させ、主走査対応方向に長い線像として結像させ、上記線像の結像位置近傍に偏向反射面を有する光偏向器による偏向させ、偏向光束を走査結像光学系により被走査面上に光スポットとして集光させて光走査を行う光走査装置において、
上記走査結像光学系は、副走査対応方向に関する共役横倍率が1より小さく、
上記光源装置と光偏向器の偏向反射面との間に配備され、レーザー光束の光束周辺部の光を遮断するアパーチャを有し、
シリンダレンズ系が、光源装置側から順に、正の屈折力を持つ第1シリンダレンズ、負の屈折力を持つ第2シリンダレンズ、正の屈折力を持つ第3シリンダレンズを配して構成され、
上記アパーチャが上記シリンダレンズ系における第1,第2シリンダレンズ間に配備され、
上記光偏向器による偏向光束の偏向の起点と、基準偏向光束の結像点との間の距離をL、アパーチャ以降の光学系によるアパーチャの共役像と上記結像点との間の距離をΔとするとき、LとΔとが条件
Δ/L>0.32 (1)
を満足するように上記アパーチャの位置を定めたことを特徴とする光走査装置。」(特許請求の範囲請求項1)、
「【0004】アパーチャは本来、光スポット形状や光スポット径の調整や迷光の除去等の目的で配備され、光源装置からのレーザー光束の光束周辺部を遮光する。この光束周辺部の遮光により、アパーチャを通過したレーザー光束の光強度分布は、レーザー光束本来のガウス型の光強度分布の裾野の部分をカットされた形状となり、被走査面上に集光される光スポットの強度分布にはアパーチャの開口による回折の影響が現れる。
【0005】特に上記各公報開示の光走査装置にように、走査結像光学系の「副走査対応方向(光源から被走査面に到る光路を光軸に沿って直線的に展開した仮想的な光路上で、副走査方向と平行的に対応する方向を言う。また上記仮想的な光路上で、主走査方向と平行的に対応する方向を「主走査対応方向」と言う。)」の結像倍率が1より小さい場合には、走査結像光学系を含むアパーチャ以降の光学系によるアパーチャの実像が、アパーチャの位置によっては被走査面近傍にでき、回折の影響により光スポット径が、偏向光束結像位置と被走査面とのずれ、即ち「デフォーカス量」に応じて著しく変動し、安定した光スポット径を得ることができない。」(段落【0004】?【0005】)、
「【0007】
【発明が解決しようとする課題】この発明は上述した事情に鑑みてなされたもので、アパーチャによる回折の影響を有効に軽減し、デフォーカス量に対する光スポット径変動の小さい新規な光走査装置の提供を目的とする。」(段落【0007】)、
「【0009】「シリンダレンズ系」は、光源装置側から順に、正の屈折力を持つ第1シリンダレンズ、負の屈折力を持つ第2シリンダレンズ、正の屈折力を持つ第3シリンダレンズを配して構成する。「アパーチャ」は、シリンダレンズ系における第1,第2シリンダレンズ間に配備される。
【0010】光偏向器による偏向光束の偏向の起点と、基準偏向光束の結像点との間の距離をL、アパーチャ以降の光学系によるアパーチャの共役像と上記結像点との間の距離をΔとするとき、LとΔとが条件
Δ/L>0.32 (1)
を満足するようにアパーチャの位置が定められる。
【0011】上記「基準偏向光束」とは、光偏向器により偏向される偏向光束のうち、偏向角が0であるもの、即ち、その主光線が走査結像光学系の光軸と平行になる光束であり、その結像点は被走査面上にあるのが理想である。また偏向の起点とは、偏向反射面による基準偏向光束の反射位置である。」(段落【0009】?【0011】)、
「【0023】LD光源1から放射された発散性の光束は、LD光源1とともに光源装置をなすカップリングレンズ系2により平行光束化され、アパーチャ3により光束周辺部を遮光され、シリンダレンズ系4により副走査対応方向に収束されて、光偏向器の偏向反射面5の位置に主走査対応方向に長い線像として結像する。偏向反射面5により反射された偏向光束は、レンズ6,7により構成されるアナモフィックな走査結像光学系により被走査面8上に光スポットとして集光する。」(段落【0023】)、
「【0027】図2におけるアパーチュア3以降の光学配置における光学系データの具体的な1例として、以下のものを挙げる。
【0028】Xとあるのは、前述の光源から被走査面に到る光路を光軸に沿って直線的に展開した仮想的な光路上で、アパーチャ3からシリンダレンズ4の光源側レンズ面に到る光路上の距離、Rとあるのは、各光学素子における副走査対応方向の曲率半径、Dとあるのは光学素子の各面の面間隔、Nとあるのは屈折率を表す。」(段落【0027】?【0028】)、
「【0030】上記のXの値を、69mm,119.94mm,129.94mm,139.94mmとしたとき、前記L,Δ,Δ/Lおよび深度の値は以下のようになる。
【0031】
X Δ L Δ/L 深度(mm)
69 22 430 0.05 3.00
119.94 136 430 0.32 6.00
129.94 ∞ 430 ∞ 6.30
139.94 136 430 0.32 6.20。
【0032】被走査面上に形成される光スポットの副走査方向の径は、偏向光束の副走査対応方向の結像位置と被走査面とのずれ(デフォーカス量)により変化する。上記の「深度」は、光スポットの副走査対応方向の径が、設計値:80μm以下となるデフォーカス量の範囲であり、深度の数値(mm)が大きいほど、デフォーカス量の広い範囲で光スポットの副走査対応方向の径は安定していることになる。
【0033】上記の例では、Δ/Lが0.32以上であると、深度は6mm以上と十分に大きく、光スポット径は安定している。しかるに、Δ/Lが0.32より小さくなり、例えば上の例のように、Δ/L=0.05では深度は3mmと小さくなり、安定した径の光スポットで光走査を行うのは困難である。
【0034】図3(a),(b),(c),(d)に、上記Xの値を、69mm,119.94mm,129.94mm,139.94mmとしたときの、副走査対応方向の光スポット径(縦軸)と、デフォーカス量(横軸)との関係を示す。これらの図において、関係曲線が光スポット径:80μm以下になる横軸領域が「深度」である。Δ/L=0.05に相当する図3(a)において、深度:3mmと小さくなっているのは、開口手段であるアパーチャ3によるフレネル回折の影響によるものである。」(段落【0030】?【0034】)。
また、図2に光走査装置における副走査方向の光学配置の一例が示され、図3(a)?(d)に、図2の例について、アパーチャの位置による光スポットの深度の変化が示されている。

なお、上記刊行物1?7は、本件発明1?9についての出願前に頒布された刊行物である。

(3)当審の判断
(3-1)特許法第29条の申立理由について
[本件発明1について]
本件発明1と刊行物1に記載のものとを対比する。
ア.刊行物1に記載された走査光学系において、半導体レーザー1からのレーザービームは、半導体レーザー1からz方向に5mmの位置に配置されたアパーチャー(x方向幅:0.437mm、y方向幅:1.311mm)によりビーム整形され、シリンドリカルレンズG11と接合レンズG12とからなる第1結像光学系2を介してxz平面(副走査方向)においてポリゴンミラー3の反射ミラー面3aの位置で一旦結像し、反射ミラー面3aで反射した後、第2結像光学系4を介して被走査面上に結像するものである。
ここで、刊行物1に記載のものの「半導体レーザー1」、「レーザービーム」、「ポリゴンミラー3」、「第1結像光学系2」、「第2結像光学系4」、「反射ミラー面3aで反射し」、および「被走査面」は、それぞれ本件発明1の「光源」、「光束」、「偏向器」、「第1の結像光学系」、「第2の結像光学系」、「偏向器により偏向され」、および「走査対象面」に相当するので、刊行物1に記載のものは、「光源から発する光束を第1の結像光学系により偏向器の近傍で副走査方向に一旦結像させ、前記偏向器により偏向された光束を第2の結像光学系により走査対象面上に結像させる走査光学系」であるといえる。
イ.刊行物1に記載のものにおけるアパーチャーの副走査方向の幅は0.437mmであるが、これは、本件発明1の実施例として例示された副走査方向の幅のうち最小であるもの(0.8mm)よりも狭い幅であることが分かる。
そして、アパーチャーの幅が狭いほど回折の影響が強くなることが技術常識であること、および添付資料1に示された計算結果などからみて、刊行物1に記載のもののアパーチャーは、回折により走査対象面側でのビームウエスト位置が変化する程度に(ビームを)小さく絞るものであるといえる。
ウ.刊行物1の実施例2における第1レンズG11の面形状についての数値をもとに計算したレンズ面の形状と、球面収差とを示す添付資料2によれば、第1レンズ11のレンズ面の形状は、副走査方向の曲率半径が光軸からのレンズ高さxとともに増大する非円筒面形状であり、このレンズ面の形状は球面レンズ(シリンドリカルレンズとしては円筒面)の場合よりも副走査方向の周辺部で負の球面収差の絶対値を小さくするものであるから、副走査方向の周辺部側の光線をより前方に集光させる傾向、すなわち光束の波面としては遅れるようにする傾向を持たせるものである。
それゆえ、刊行物1に記載のものにおける第1、第2結像光学系は、被走査面上に結像される光束の波面を、副走査方向の周辺部で遅らせるように構成されているものであるといえる。

上記ア?ウの考察によれば、本件発明1と刊行物1に記載された発明とは、
「光源から発する光束を第1の結像光学系により偏向器の近傍で副走査方向に一旦結像させ、前記偏向器により偏向された光束を第2の結像光学系により走査対象面上に結像させる走査光学系において、前記光源と前記第1の結像光学系との間の光路中に、回折により前記走査対象面側でのビームウエスト位置が変化する程度に小さく絞るアパーチャーが設けられ、前記第1、第2の結像光学系は、前記走査対象面上に結像される光束の波面を、副走査方向の周辺部で遅らせるよう構成されている走査光学系。」
である点で一致し、次の点で相違する。

相違点:
本件発明1において、「第1、第2結像光学系は、前記走査対象面上に結像される光束の波面を、前記走査対象面上の近軸像点を中心とした参照球面に対して副走査方向の周辺部で遅らせるよう構成されている」のに対して、刊行物1に記載された発明では、「第1、第2結像光学系は、前記走査対象面上に結像される光束の波面を、副走査方向の周辺部で遅らせるよう構成されている」ものの、「前記走査対象面上の近軸像点を中心とした参照球面に対して副走査方向の周辺部で遅らせるよう構成されている」かどうかが明らかではない点。

上記相違点について検討する。
上記請求項1の記載によれば、「光源から発する光束」は、「アパーチャー」、「第1の結像光学系」を経て、「偏向器の近傍で副走査方向に一旦結像」され、更に「偏向器により偏向」された後、「第2の結像光学系」を経て、「走査対象面上に結像」されるものであり、その光束の波面は、「光源」、「アパーチャー」、「第1の結像光学系」、「偏向器」、「第2の結像光学系」、「走査対象面」間の光路を、「光源」から「走査対象面」に向かって順次進行することを理解することができる。
また、請求項1の「前記走査対象面上の近軸像点を中心とした参照球面」が、この「第2の結像光学系」と「走査対象面」の光路の間に位置することは、当業者にとって自明である。
さらに、請求項1の「前記走査対象面上に結像される光束の波面を・・・参照球面に対して副走査方向の周辺部で遅らせる」とは、第2の結像光学系を経て走査対象面に向かって進行する光束の波面を(副走査方向の周辺部で)それぞれの位置において想定される対比すべき「参照球面」に到達しないようにすること、すなわち、当該「参照球面」よりも手前側に位置させるようにすることを意味するものと解される。
このことに関連して、訂正明細書には、「シリンドリカルレンズ2は、図2に示されるように、一方のレンズ面が平面、他方のレンズ面が副走査方向にのみパワーを持つ曲面として構成されている。シリンドリカルレンズ2の曲面は、図中破線で示したベース形状である円筒面に対し、周辺部に向けてベース形状に対する付加量が連続的に大きくなる非円筒面として形成されている。すなわち、この曲面の副走査方向の曲率半径は、副走査方向における光軸からの高さが大きくなるにつれて大きくなる。」(段落【0021】)、「このような形状により、シリンドリカルレンズ2に入射した平面波は、射出後には実線で示されるように、近軸像点を中心とする参照球面(破線)に対して周辺部で遅れた形状となる。」(段落【0022】)との記載があり、図2には、近軸像点を中心とする参照球面(破線)を基準として遅れた波面が実線で図示されていることによれば、訂正明細書において、「参照球面に対して遅らせる」とは、参照球面より遅らせる意味で用いられていることは明らかであり、請求項1の上記認定と何ら矛盾せず、これを裏付けるものであるといえる。
これに対し、刊行物1には、上記ウで認定したように、刊行物1の実施例2における第1レンズG11のレンズ面の形状が、「非円筒面形状であり、このレンズ面の形状は球面レンズ(シリンドリカルレンズとしては円筒面)の場合よりも副走査方向の周辺部で負の球面収差の絶対値を小さくするものであるから、副走査方向の周辺部側の光線をより前方に集光させる傾向、すなわち光束の波面としては遅れるようにする傾向を持たせるものである。」としても、同時に、「副走査方向の周辺部で負の球面収差の絶対値を小さくするもの」にとどまるものである以上、刊行物1に記載された発明における第1、第2の結像光学系が、副走査方向の周辺部において(参照球面より遅れた)正の球面収差を発生させるものではないことは明らかである。
そうすると、刊行物1に記載された発明が、上記相違点の事項を有さないことは明らかであるから、本件発明1と刊行物1に記載された発明とが同一であるとはいえず、本件発明1は特許法第29条第1項第3号の規定に該当しない。

また、刊行物2?6、および取消理由で引用した刊行物7に記載された事項については上記4.(2)のとおりであるが、それらの記載事項も上記相違点の本件発明1に係る事項(「第1、第2結像光学系は、前記走査対象面上に結像される光束の波面を、前記走査対象面上の近軸像点を中心とした参照球面に対して副走査方向の周辺部で遅らせるよう構成されている」)を含まないことは明らかである。
したがって、それら刊行物1?7の記載事項をすべて合わせたところで、本件発明1が有する上記相違点の事項を導出し得ないことは明らかである。
よって、本件発明1は、刊行物1?7に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものでもない。

[本件発明2?4,6?8について]
本件発明2?4,6?8は、本件発明1を直接または間接に引用することにより本件発明1を特定する事項をすべて含む発明である。
それゆえ、上記[本件発明1について]に述べたのと同様の理由で、本件発明2?4,6?8と刊行物1に記載された発明とが同一であるとも、また、刊行物1?7に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものとも、いえないから、本件発明2?4,6?8は特許法第29条第1項第3号の規定に該当しない、のみならず、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものでもない。

[本件発明5,9について]
本件発明5および9が、特許法第29条第1項第3号の規定に該当せず、また、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものでもないことは、平成17年6月10日の異議決定のとおりである。

以下に同異議決定の一部を掲載する。
「次に、本件発明5は、本件発明3を特定する事項に加えて、『前記ベース形状に対する付加量が、副走査方向の高さに応じて段階的に増加する』との事項を有するものであるが、副走査方向の高さに応じてベース形状に対する付加量が段階的に増加する形状のシリンドリカルレンズにより、走査対象面上で結像される光束の波面を、走査対象面上の近軸像点を中心とした参照球面に対して副走査方向の周辺部で遅らせるようにすることは、刊行物1?7、添付資料1?5のいずれにも記載されておらず、また、示唆するところもない。
・・・・
次に、本件発明9と刊行物7に記載のものとを対比すると、本件発明9における『前記第1、第2の結像光学系は、副走査方向において、前記走査対象面上に結像される光束の波面を、前記走査対象面上の近軸像点を中心とした参照球面に対して周辺部で遅らせる』点は、刊行物7に記載されていない。
ところで、この点は添付資料2を勘案すれば、刊行物1に記載されているとは言える。
しかしながら、刊行物7に記載のものは、『アパーチャ以降の光学系によるアパーチャの共役像の位置が特定の条件(Δ/L>0.32)を満たすようにアパーチャの位置を定めることにより、深度を大きくして、アパーチャによる回折の影響を軽減し、光スポットの径を安定させる』ものである。
一方、刊行物1に記載のものは、『面倒れを補正でき、Fナンバーを小さくするテレセントリック走査光学系』における光源-ポリゴンミラー間のシリンドリカルレンズ及びアパーチャーの形態として、アパーチャーが『回折により走査対象面側でのビームウエスト位置が変化する程度に小さく絞る』ものであり、シリンドリカルレンズが『被走査面上に結像される光束の波面を、被走査面上の近軸像点を中心とした参照球面に対して副走査方向の周辺部で遅らせるように構成され』ているという条件を満たしているとは言えるものの、このシリンドリカルレンズの形状は、特に、刊行物7に記載のような、『深度を大きくし、アパーチャーによる回折の影響を軽減する』という意図で設定されているものではないので、刊行物7に記載のものにおいて、刊行物1記載のシリンドリカルレンズを単純に適用できるものではない。
さらに、この点については、刊行物2?6においても記載されておらず、示唆するところもない。
しかるに、本件発明は、この事項を含む構成とすることにより明細書に記載の格別な効果を奏するものである。
したがって、本件発明9は、刊行物7に記載された発明ではなく、また、刊行物1?7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。」

なお、前掲において、「ところで、この点は添付資料2を勘案すれば、刊行物1に記載されているとは言える。」、および「シリンドリカルレンズが『被走査面上に結像される光束の波面を、被走査面上の近軸像点を中心とした参照球面に対して副走査方向の周辺部で遅らせるように構成され』ているという条件を満たしているとは言えるものの、」については、上記(4-1)で詳述したように刊行物1に記載されているとはいえず、したがって上記条件を満たしてもいないが、そうであっても前掲の結論に変わりがないことは明らかである。

(3-2)特許法第36条の申立理由について
特許法第36条の申立理由に関する判断についても、平成17年6月10日の異議決定のとおりである。

以下に同異議決定の一部を掲載する。
「 カ.36条の理由について
明細書の記載が不明確であるとする特許異議申立ての理由は、訂正前の特許請求の範囲の請求項1において、アパーチャーの定義として『回折により前記走査対象面側でのビームウエスト位置が変化する程度に小さく絞る』とあるが、この定義が曖昧であること、また、請求項9においても同様にアパーチャーの定義が曖昧であり、さらに、『ビームウエスト位置をガウス像面に近づけ』と、『ビームウエスト前後のビーム径の変化を対称に近づける』とあるのは、何と比べて『近づけ』るのか、何をもって「対称に近づ』いたと言えるのか、ビームウエスト前後のどの位置(範囲)が『対称に近づ』くのかきわめて曖昧である、というものである。
そこで、まず、アパーチャーの定義について考える。
本件発明1及び9におけるアパーチャーは、ビームを副走査方向にある程度以上絞った場合に回折により前記走査対象面側でのビームウエスト位置が変化するものとした上で、ビームウエスト位置の変化が生ずる程度に絞るものと規定したものであり、『小さく絞る』程度というのは、『ビームウエスト位置が変化する』程度ということになる。どの程度の変化が生じたらビームウエスト位置が変化したと言えるかは、個々の状況に応じて規定すべき事項であり、このようなビームウエストの位置の変化の量自体を規定することは発明を特定する上で不可欠な要素ではない。それゆえ、本件発明1及び9におけるアパーチャーの定義が発明を特定する上で曖昧であるとは言えない。
次に、『ビームウエスト位置をガウス像面に近づけ』と、『ビームウエスト前後のビーム径の変化を対称に近づける』という場合の『近づけ』ることの意義について考える。
本件発明9は、訂正前の請求項9に記載の事項に、『副走査方向において、前記走査対象面上に結像される光束の波面を、前記走査対象面上の近軸像点を中心とした参照球面に対して周辺部で遅らせると共に、』の事項が付加されており、『ビームウエスト位置をガウス像面に近づけ』ることと、『ビームウエスト前後のビーム径の変化を対称に近づける』こととは、『副走査方向において、走査対象面上に結像される光束の波面を、走査対象面上の近軸像点を中心とした参照球面に対して周辺部で遅らせる』ことによる作用を規定している。ここで、明細書、図2、図6に示されるように、本件発明9においては、ベース形状である参照球面(副走査方向のみの屈折力の場合、『円筒面』)との比較で、波面を遅れるようにし、ビームウエストの位置をガウス像面に近づけ、ビームウエスト前後のビーム系の変化を対称に近づける、としており、そのことから、『ガウス像面に近づけ』と、『対称に近づける』ということは、参照球面の場合より近い状態にする、という比較の意味で把握すべきであるのは明らかである。それゆえ、この『近づける』ことの意義についても、特に不明確な点はない。」

なお、前掲において、「ベース形状である参照球面(副走査方向のみの屈折力の場合、『円筒面』)との比較で、波面を遅れるようにし、」、および「参照球面の場合より近い状態にする」は、参照球面が理論上の波面であること、および図2にはベース形状が円筒面であると明記されていることからみて、各々「ベース形状である円筒面との比較で、波面を参照球面より遅れるようにし、」および「少なくとも円筒面の場合より近い状態にする」の誤りであると解するのが相当であるが、それにより特許請求の範囲の請求項1および9の記載が不明確になるともいえないから、前掲の結論に変わりはない。

(4)むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1?9についての特許を取り消すことはできない。また、他に本件発明1?9についての特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
走査光学系
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】光源から発する光束を第1の結像光学系により偏向器の近傍で副走査方向に一旦結像させ、前記偏向器により偏向された光束を第2の結像光学系により走査対象面上に結像させる走査光学系において、
前記光源と前記第1の結像光学系との間の光路中に、回折により前記走査対象面側でのビームウエスト位置が変化する程度に小さく絞るアパーチャーが設けられ、
前記第1、第2の結像光学系は、前記走査対象面上に結像される光束の波面を、前記走査対象面上の近軸像点を中心とした参照球面に対して副走査方向の周辺部で遅らせるよう構成されていることを特徴とする走査光学系。
【請求項2】前記第1の結像光学系は、前記偏向器の近傍に結像される光束の波面を、前記偏向器近傍の近軸像点を中心とした参照球面に対して副走査方向の周辺部で遅らせるよう構成されていることを特徴とする請求項1に記載の走査光学系。
【請求項3】前記第1の結像光学系は、副走査方向にパワーを有するシリンドリカルレンズであり、円筒面により規定されるベース形状に対し、副走査方向の周辺部でレンズ厚が付加されていることを特徴とする請求項2に記載の走査光学系。
【請求項4】前記ベース形状に対する付加量が、副走査方向の高さに応じて連続的に増加することを特徴とする請求項3に記載の走査光学系。
【請求項5】前記ベース形状に対する付加量が、副走査方向の高さに応じて段階的に増加することを特徴とする請求項3に記載の走査光学系。
【請求項6】前記シリンドリカルレンズのベース形状は、一方のレンズ面が平面、他方のレンズ面が円筒面であり、いずれか一方のレンズ面に、前記ベース形状に対してレンズ厚が付加されていることを特徴とする請求項3に記載の走査光学系。
【請求項7】前記第1、第2の結像光学系は、副走査方向において光束にオーバーの球面収差を発生させるよう構成されていることを特徴とする請求項1に記載の走査光学系。
【請求項8】前記第1の結像光学系は、副走査方向にパワーを有するシリンドリカルレンズであり、該シリンドリカルレンズの副走査方向の曲率半径が、副走査方向における中心部より周辺部で大きくなるよう構成されていることを特徴とする請求項1に記載の走査光学系。
【請求項9】光源から発する光束を第1の結像光学系により偏向器の近傍で副走査方向に一旦結像させ、前記偏向器により偏向された光束を第2の結像光学系により走査対象面上に結像させる走査光学系において、
前記光源と前記第1の結像光学系との間の光路中に、回折により前記走査対象面側でのビームウエスト位置が変化する程度に小さく絞るアパーチャーが設けられ、
前記第1、第2の結像光学系は、副走査方向において、前記走査対象面上に結像される光束の波面を、前記走査対象面上の近軸像点を中心とした参照球面に対して周辺部で遅らせると共に、前記走査対象面上に形成される光束のビームウエスト位置をガウス像面に近づけ、かつ、前記ビームウエスト位置前後のビーム径の変化を対称に近づけるよう構成されていることを特徴とする走査光学系。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、レーザープリンタ等の光走査ユニットに用いられる走査光学系に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来の走査光学系は、一般に、レーザー光源から発した光束を副走査方向にパワーを有するシリンドリカルレンズにより線状に結像させ、この結像位置の近傍に設けたポリゴンミラーにより反射偏向させ、fθレンズを介して走査対象面上に結像させる。この種の走査光学系は、例えば特開昭61-120112号公報に開示される。
【0003】
この公報に開示されるように、fθレンズをポリゴンミラーに近接して配置された2枚のレンズと、像面の近傍に配置された主として副走査方向にパワーを有する長尺レンズとから構成すると、fθレンズの副走査方向の結像倍率が低くなる傾向がある。このような結像倍率の低いfθレンズを用いる場合、fθレンズに入射する光束の副走査方向の広がり角が大きいと副走査方向のスポット径が過剰に小さく絞られるため、スポット径を所定の大きさに保つためにシリンドリカルレンズのFナンバーを大きく設定してfθレンズに入射する光束の副走査方向の広がり角を小さくする必要がある。
【0004】
シリンドリカルレンズのFナンバーを大きくするためには、光束径を小さくするか、あるいは、シリンドリカルレンズの副走査方向の焦点距離を大きくする必要がある。ただし、焦点距離を長くするとシリンドリカルレンズとfθレンズとの間隔が大きくなって光学系が大型化するため、大型化を避けてFナンバーを大きくするためにはシリンドリカルレンズを透過する光束の径をアパーチャーを介して小さく絞る必要がある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
一般に、レーザービームをレンズにより集束させる場合、アパーチャーの径が所定の値より小さくなると、回折の影響によりビームウエスト位置がガウス像面から離れると共に、デフォーカスに対するビーム径の変化がビームウエスト位置の前後で非対称になることが知られている。
【0006】
このような現象は走査光学系においても同様に現れる。すなわち、シリンドリカルレンズを透過する光束の径が所定の値より小さくなると、fθレンズを介して形成される走査対象面側でのビームウエストの位置がガウス像面から離れてfθレンズ側に近づき、かつ、デフォーカスによるビーム径の変化がビームウエスト位置に関して非対称となる。
【0007】
したがって、上記の構成では、副走査方向の像面湾曲や、プラスチックレンズを利用する場合の温度変化による焦点距離の変化によってデフォーカスが生じた場合に、走査対象面上の副走査方向のスポット径の変化が大きくなり、描画性能が劣化するという問題がある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
この発明は、上述した従来技術の課題に鑑みてなされたものであり、光源から発する光束を第1の結像光学系により偏向器の近傍で副走査方向に一旦結像させ、偏向器により偏向された光束を第2の結像光学系により走査対象面上に結像させる走査光学系において、走査対象面上に結像される光束の波面を走査対象面上の近軸像点を中心とした参照球面に対して副走査方向の周辺部で遅らせるよう第1、第2の結像光学系を構成したことを特徴とする。波面の遅れは、参照球面上では位相の遅れとして捉えられる。
【0009】
光束の波面を副走査方向の周辺部において参照球面より遅らせることにより、副走査方向の周辺部の光束の結像点が第2の結像光学系から離れる方向に移動するため、波面収差が最小となる結像点も同様に移動する。これにより、回折の影響によって第2の結像光学系に近づく方向にシフトしていたビームウエストをガウス像面に近づけるよう移動させることができる。
【0010】
波面の遅れは、第1の結像光学系により発生させることができる。この場合には、第1の結像光学系は、偏向器の近傍に結像される光束の波面を、偏向器近傍の像点を中心とした参照球面に対して副走査方向の周辺部で遅らせるよう構成される。
【0011】
第1の結像光学系には、副走査方向にパワーを有するシリンドリカルレンズを用いることができる。そして、上記のような波面は、シリンドリカルレンズの形状により、あるいは屈折率の変化により与えることができる。
【0012】
波面の遅れをシリンドリカルレンズの形状により発生させる場合には、シリンドリカルレンズを、円筒面により規定されるベース形状に対し、副走査方向の周辺部でレンズ厚を付加すればよい。ベース形状に対するレンズ厚の付加量は、副走査方向の高さに応じて連続的に、あるいは段階的に増加するように設定することができる。
【0013】
付加量を連続的に変化させる場合には、副走査方向の高さに応じて曲率半径が徐々に大きくなるようなレンズ面を形成すればよい。この場合には、副走査方向の高さに応じてパワーが変化するため、副走査方向の周辺部において、波面が参照球面に対して遅れる。また、付加量を段階的に変える場合には、副走査方向の高さが一定の値となるラインに段差をつけ、この段差より周辺側の領域でベース形状に対してレンズ厚を一定量付加すればよい。この場合には、段差より周辺側を透過した光束の波面が、段差より中心側を透過した光束の波面より遅れることとなる。
【0014】
なお、シリンドリカルレンズの両レンズ面のベース形状が、平面と円筒面とにより形成される場合、ベース形状に対する付加量はいずれの側のレンズ面に与えてもよい。
【0015】
波面の遅れをシリンドリカルレンズの形状を保ちつつ屈折率の変化で与える場合には、副走査方向の周辺部の屈折率が中心部より高くなるよう設定すればよい。また、シリンドリカルレンズを両レンズ面が平面である分布屈折率レンズとすることもできる。副走査方向に正のパワーを持つ分布屈折率レンズは、副走査方向の屈折率分布が中心から周辺に向けて連続的に小さくなるよう設定することにより得られ、波面の遅れは、無収差の場合と比較して副走査方向の中心部と周辺部との屈折率差を小さく設定することにより得られる。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、この発明にかかる走査光学系の実施形態を説明する。図1は、この発明の実施態様を示す走査光学系の主走査方向の平面図である。
【0017】
光源部1から発した平行なレーザー光は、第1の結像光学系であるシリンドリカルレンズ2を介して偏向器としてのポリゴンミラー3の近傍で副走査方向において一旦結像する。ポリゴンミラー3で反射、偏向されたレーザー光は、3枚のレンズ4a,4b,4cから構成される第2の結像光学系であるfθレンズ4により走査対象面5上に結像し、主走査方向に走査するスポットが形成される。
【0018】
光源部1は、例えば発散光を発する半導体レーザーと、発散光を平行光にするコリメートレンズとから構成される。
【0019】
fθレンズ4のポリゴンミラー3側の第1、第2レンズ4a,4bは、回転対称レンズであり、走査対象面5側の第3レンズ4cは主として副走査方向にパワーを有するトーリックレンズである。
【0020】
この例では、第1の結像光学系であるシリンドリカルレンズ2が、ポリゴンミラー3の近傍に結像される光束の波面を、近軸像点を中心とした参照球面に対して副走査方向の周辺部で遅らせるよう構成されている。これにより、第2の結像光学系であるfθレンズ4を介して走査対象面5上に結像される光束の波面を、走査対象面5上の近軸像点を中心とした参照球面に対して副走査方向の周辺部で遅らせることができる。
【0021】
シリンドリカルレンズ2は、図2に示されるように、一方のレンズ面が平面、他方のレンズ面が副走査方向にのみパワーを持つ曲面として構成されている。シリンドリカルレンズ2の曲面は、図中破線で示したベース形状である円筒面に対し、周辺部に向けてベース形状に対する付加量が連続的に大きくなる非円筒面として形成されている。すなわち、この曲面の副走査方向の曲率半径は、副走査方向における光軸からの高さが大きくなるにつれて大きくなる。
【0022】
このような形状により、シリンドリカルレンズ2に入射した平面波は、射出後には実線で示されるように、近軸像点を中心とする参照球面(破線)に対して周辺部で遅れた形状となる。
【0023】
また、シリンドリカルレンズ2は、図3に示されるように、ベース形状である円筒面に対して副走査方向の高さに応じてレンズ厚が段階的に大きくなる非連続面を持つよう構成されてもよい。図3の例では、副走査方向の高さが一定の値となる位置に段差を1段設け、段差より周辺側でベース形状に対して一定の付加量を与えている。このような構成によれば、シリンドリカルレンズ2を射出した後の波面は、参照球面に対して周辺部で遅れた形状となる。
【0024】
図4(A)(B)は、図1の走査光学系を光軸に沿って展開した図であり、(A)が主走査方向、(B)が副走査方向を示す。レーザービームは、主走査方向においては図4(A)に示されるように平行な状態でfθレンズ4に入射し、ここで集束されて走査対象面に達する。一方、副走査方向においては、図4(B)に示されるようにシリンドリカルレンズ2によりポリゴンミラー3の近傍に一旦結像し、fθレンズ4には発散光として入射する。fθレンズ4は、副走査方向におけるパワーが主走査方向におけるより強く設定されており、副走査方向に発散するレーザービームを走査対象面5上に再結像させる。
【0025】
前述のようにシリンドリカルレンズ2を、光束の波面を副走査方向の周辺部において参照球面より遅らせるような形状とすることにより、副走査方向の周辺部の光束の結像点がシリンドリカルレンズ2から離れる方向に移動するため、波面収差が最小となる結像点も同様に移動する。これにより、回折の影響によってfθレンズ4に近づく方向にシフトしていた走査対象面5側でのビームウエストの位置をガウス像面に近づけると共に、デフォーカスに対するビーム径の変化をビームウエストに対して対称に近づけることができる。
【0026】
【実施例】
次に、実施態様の走査光学系につき、具体的な数値を用いて説明する。図4に示されるように、シリンドリカルレンズ2に向かうレーザービームは、主走査方向に5.6mm、副走査方向に2.0mmの径を持つガウスビームであり、シリンドリカルレンズ2の手前に設けられたアパーチャーApにより主走査方向に2.5mm、副走査方向にa(mm)に絞られる。
【0027】
また、光源部1の発光波長は780nmであり、シリンドリカルレンズ2のベース形状による副走査方向の焦点距離(近軸部分による焦点距離)は120mm、fθレンズ4の第1、第2レンズ4a,4bの合成焦点距離は180mm、第3レンズ4cの副走査方向の焦点距離は57mmである。焦点距離120mmのシリンドリカルレンズのベース形状は、屈折率1.5072の材料を用いると、副走査方向の曲率半径Rz=61.286mmとなる。
【0028】
続いて、シリンドリカルレンズ2をベース形状で構成した場合に、副走査方向のアパーチャー径aの変化により走査対象面5側での軸上のビーム径がどのように変化するのかについて説明する。副走査方向のビーム径aを1.8mm,1.2mm,0.8mmとした場合のデフォーカスに対するビーム径の変化の度合いを図5のグラフに示す。デフォーカスは、ガウス像面からの光軸方向の距離に対応し、符号はマイナスがポリゴンミラー3側に近づく方向を示す。
【0029】
図5に示されるように、アパーチャーが十分に大きい場合(a=1.8mm)には、ビームウエストはデフォーカス0mmで示されるガウス像面にほぼ一致し、かつ、デフォーカスに対するビーム径の変化もビームウエストに対してほぼ対称になる。これに対して、アパーチャーが相対的に狭くなると(a=1.2,0.8)、回折の影響によりビームウエスト位置がガウス像面より手前側に離れ、かつ、デフォーカスに対するビーム径の変化がビームウエストに対して非対称となる。
【0030】
走査対象面5の位置はガウス像面を基準に設定されるため、デフォーカスによるスポット径の変化を小さくするためには、ガウス像面近傍でのビーム径の変化が小さいことが望ましい。ビームウエストがガウス像面にほぼ一致していれば、デフォーカスがプラス側、マイナス側のいずれの方向に発生してもビーム径は大きくなる方向にのみ変化するため、例えば±4mmのデフォーカスの範囲内でのビーム径の変動幅は比較的小さい。
【0031】
しかしながら、ビームウエスト位置が図5の破線、あるいは一点鎖線で示すようにガウス像面からマイナス側に離れると、デフォーカスがマイナス側に発生した際にはビーム径が小さくなり、逆にプラス側に発生した際にはビーム径が大きくなるため、例えば±4mmのデフォーカスの範囲内でのビーム径の変化が単調になり、結果的に変動幅が実線の場合より大きくなる。
【0032】
次に、シリンドリカルレンズ2に副走査方向の周辺部で波面が参照球面に対して遅れるような形状を導入した場合のデフォーカスに対するビーム径の変化について説明する。図6は、a=1.2mmに設定した場合を例として、シリンドリカルレンズにより与えられる波面の遅れ量(参照球面上での位相差量)によってビーム径がどのように変化するかを示したグラフである。図6R>6中の実線で示されるベース形状のグラフは、図5に点線で示されたa=1.2のグラフと同一である。
【0033】
図6中のピッチの短い破線、一点鎖線、ピッチの長い破線は、図2に示したようにベース形状に対するレンズ厚の付加量を連続的に変化させた場合で、それぞれ副走査方向の周辺部で軸上に対して波長λの1/16、2/16、3/16の遅れ(位相差)を与えた場合の特性を示す。二点鎖線は、図3に示したタイプの形状で副走査方向の高さ0.45mmの部分に光軸方向に0.19μmの段差を設けた場合の特性を示す。
【0034】
いずれの場合にも、実線で示されるベース形状の特性と比較すると、ビームウエストがよりガウス像面に近接し、かつ、ビーム径の変化もビームウエストに関して対称に近くなる。
【0035】
例えば、±4mmのデフォーカスに対するビーム径の変動範囲は、ベース形状の場合には81μm?104μmで変動幅は23μmとなるのに対し、3λ/16の波面の遅れを与えた場合には96μm?104μmで変動幅は8μmとなり、変動幅を1/3程度に抑えることができる。
【0036】
上記のような位相差を与えた場合のシリンドリカルレンズの副走査方向の形状は、以下の式(1)で表される。式中Xzは光軸からの高さZにおけるSAG量(接平面からレンズ面までの光軸方向の距離)、Kは円錐係数、B4は4次の非球面係数である。副走査方向のビーム径1.2mmの周辺部にそれぞれλ/16,2λ/16,3λ/16の位相差を与えるためには、非球面係数をそれぞれ以下の式(2)に示される値とすればよい。副走査方向のベースカーブの曲率半径(頂点曲率半径)Rzは前述のように61.286mmである。
【0037】
【数1】

【0038】
図7は、波面を遅らせるためにベース形状に対して付加されるレンズ厚を示すグラフであり、実線が図2に示したようにベース形状に対する付加量を連続的に変化させて3λ/16の波面の遅れを与える場合、破線が図3に示したように付加量を段階的に変化させる場合を示す。なお、これらの付加量は、曲面側、平面側のいずれに付すこともできる。
【0039】
【発明の効果】
以上説明したように、この発明によれば、入射光束の副走査方向のビーム径が回折の影響を受ける程度に小さい場合にも、ビームウエストをガウス像面に近づけることができ、デフォーカスによるビーム径の変化を小さく抑え、描画性能の劣化を小さく抑えることができる。したがって、副走査方向の結像倍率が低いfθレンズを利用する場合にも、副走査方向の光束径を小さく絞ることによりfθレンズに入射する光束のFナンバーを大きくすることができ、光学系を大型化することなく所望のスポット径を保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明が適用される走査光学系の主走査方向の平面図である。
【図2】この発明にかかる走査光学系に使用されるシリンドリカルレンズの一例を示す副走査方向の側面図である。
【図3】この発明にかかる走査光学系に使用されるシリンドリカルレンズの他の例を示す副走査方向の側面図である。
【図4】図1の走査光学系における各レンズの作用を示す説明図であり、(A)が主走査方向、(B)が副走査方向を示す。
【図5】シリンドリカルレンズに入射するビームの副走査方向のビーム径と、走査対象面側でのデフォーカスに対するスポット径の変化との関係を示すグラフである。
【図6】シリンドリカルレンズにより与えられる波面の遅れ量と、走査対象面側でのデフォーカスに対するスポット径の変化との関係を示すグラフである。
【図7】波面を遅らせるためにベース形状に対して付加されるレンズ厚を示すグラフである。
【符号の説明】
1 光源部
2 シリンドリカルレンズ
3 ポリゴンミラー
4 fθレンズ
4a 第1レンズ
4b 第2レンズ
4c 第3レンズ
5 走査対象面
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2006-11-09 
出願番号 特願平7-270529
審決分類 P 1 651・ 537- YA (G02B)
P 1 651・ 121- YA (G02B)
P 1 651・ 113- YA (G02B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 田部 元史  
特許庁審判長 向後 晋一
特許庁審判官 井上 博之
稲積 義登
鈴木 俊光
吉田 禎治
登録日 2002-08-30 
登録番号 特許第3345234号(P3345234)
権利者 ペンタックス株式会社
発明の名称 走査光学系  
代理人 松岡 修平  
代理人 岸田 正行  
代理人 小花 弘路  
代理人 水本 敦也  
代理人 松岡 修平  

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